海 外 特 集

西方見聞録

お父さんの 西方見聞録
ほんの少しの勇気
アメフトの国

’96年7月20日(土)
 台風6号の余波の中、高速船は沖の州マリンターミナルを出発した。待合室はちょうど、アトランタ・オリンピックの開会式の真っ最中。昨晩熱を出した娘は微熱気味。お腹も不調で、旅の先行きが少し不安になる。時差が酷いし、日程もハードなのだ。
 
 関空を飛び立った飛行機の中で、家族3人ひたすら眠る。去年のイングランド・ツアーの経験から学んだものだ。娘も良く眠った。
 
 ロスアンゼルス、デトロイトと乗り継いでマイアミに向かう。この間も積極的に睡眠を補給。現地時間の真夜中にホテルに到着した時には、娘はすっかり元気になっていた。
 
 久しぶりのベッドで浅い睡眠を取った後、早朝にトラブルが起こった。テラスの戸が閉まらないのだ。身の危険に係る事なので、すぐに処置してもらう。そのため慌しい朝食となった。お馴染みのバイキング形式。しかし野菜が少ない。
 
’96年7月21日(日)
 マイアミ、オレンジボウル、日本vsブラジル。心の準備ができていない内に、キックオフのホイッスルが鳴った。ジュニーニョのドリブル突破、ロベルト・カルロスのフリーキック。素早いサイドチェンジ。
 
 しかし冷静に見ていると、ディフェンスはきっちり身体を寄せて、シュートコースを限定している。カバーリングの対応も良好だ。意外といけるかもしれない。無得点のまま前半が終った。
 
 ハーフタイムでザガロに発破を掛けられたブラジルが、後半開始と共に波状攻撃を掛ける。しかし意外に効果がない。ブラジルが焦っている。サイドチェンジに速さがない。引分られるかもしれない。
 
 そんな状態の中で左サイドの路木が、ディフェンスラインの裏へ中途半端なロブを上げる。ダフったミスキックに見えた。そのボールに城が絡む。アウダイールとGKジーダが縺れる。こぼれ球に反応したのが伊東だった。冷静にプッシュゴール!。
 
 タイムアップの笛がついに鳴った。1−0、あのブラジルに。アメリカンは強い者がお好きだ。ゲーム前は日本のサポーターと見ると攻撃的だった。しかしこの奮戦の結果、心から日本の勝利を祝福してくれた。
 
 真のブラジルサポーターは、この敗戦を受け入れられなかった。前の席で騒ぎまくったおじさんは、別人となって茫然として帰路に着いた。
 
 来た甲斐があった。この勝利のお蔭で旅が豊かなものになった。アメリカンは手の平を返すように友好的になった。
 
’96年7月22日(月)
 オーランド、シトラスボウル、スペインvsフランス。フランスにはマケレレ、スペインにはラウルがいた。前半はスペインのペースだった。しかし意外にもフランスが先制した。
 
 後半フランスが盛り返し、逃げ切るかと思われた終了寸前、スペインが劇的な同点ゴールを挙げて、スタジアムは一気に盛り上がった。
 
 スペイン応援団は欣喜雀躍のドンドン太鼓。スペインのTシャツを着た我々も喜びを分かち合った。
 
 するとエスパーニャと思われるおじさんが、家族3人の写真を撮ってやろうと手を出す。笑顔につられてカメラを渡した。カメラを構え、もっと後ろに下がれと指示を出す。
 
 この状況、カメラ泥棒の手口ではないか。顔が引き攣る。カメラの中にはブラジル戦の歴史的勝利の記録が、と思った瞬間フラッシュが焚かれ、カメラは無事戻ってきたのでありました。
 
’96年7月23日(火)
 シトラスボウル、日本vsナイジェリア。ブラジル戦の勝利が、ある意味で仇となっていた。調子が良くないのに勘違いしている。マンマークに付いている者と、ゾーンをカバーしているプレーヤーの関連がバラバラだった。攻撃と守備のプレーヤーの、意識の差も大きい。
 
 カヌーを始め相手の切れも良くないため、前半を0−0で終る。このゲームは引分の勝点1で御の字だ。
 
 ブラジルとの最終戦を残しているナイジェリアは、引分では決勝トーナメント進出が危ない。当然勝点3を狙って来る。そこが付け目。耐えて耐えて耐え抜けば、意外な結果もある。
 
 だがナイジェリアはマイペースだった。徐々にゲームを支配して、日本に不幸な失点が生まれる。GKの出遅れ、相手の身体的能力の高さ、そしてDFの胸に当たるという不幸なオウンゴールだった。だがゲームの流れからすれば、妥当な結果とも言えた。
 
 そして最後の最後に、残念でまたこのゲームを象徴するプレーが出てしまう。自陣ペナルティエリア内で足を引っ掛けられた鈴木が、体勢を崩して思わずボールを抱え込んでしまった。
 
 本人にすれば当然ファウルの積もりだろう。しかし笛は鳴っていなかった。PKの判定に文句は言えない。そしてこの1点が、結果的にグループリーグでの敗退の原因になった。
 
’96年7月24日(水)
 シトラスボウル、スペインvsオーストラリア。観戦は尾崎さんとS家一家とツアコンの大原さんの5人だけだった。
 
 ゲームは身体の強さとスピードを活かしたオーストラリアが、早々に2点をリードした。勝たねば残れないスペインが必死で攻める。だが攻撃の起点を高い位置から潰されて苦戦となった。
 
 諦めムードが漂って来たその時、奇跡が起きた。残り5分、勝ちを意識したオーストラリアが守りに入る。それまで機能しなかったスペインのボランチがフリーになった。スペインの攻撃に活力が生まれる。
 
 突然形勢が逆転した。1点、そして同点。観衆は総立ちになる。ほとんどがスペインのサポーター。前々夜に続く同点劇。だがまだ足りない。スペインには勝利が必要なのだ。
 
 時計が0を表示した。右サイドを切り込む。戻す。突っ込む。ゴォーーールーー!!。
 
’96年7月25日(木)
 シトラスボウル、日本vsハンガリー。観戦のバスの中でも、今夜の戦いの皮算用が話題となる。曰く、4点差を付けた勝利が必要だ。
 
 同時刻に勝ち残りを賭けた2つのゲームが始まる。オレンジボウルではブラジルvsナイジェリア。ここでのゲームでは、重要なのは先取点だ。早々とリードを奪えば、2敗しているハンガリーはモチベーションが落ちる。そうなれば大量得点も夢ではない。
 
 前半でできれば2−0が欲しい。そうすればオレンジボウルでの戦いにプレッシャーを与える事ができる。彼等も必死にならざるを得ないのだ。
 
 ところが目算は外れた。立ち上がりのコーナーから、あっけなくハンガリーのシュートが決まる。勇気付くハンガリー。寝た子を起こした形になって、日本は攻め倦む。PKでなんとか同点にして前半を終了した。
 
 ハーフタイムの電光掲示板にオレンジボウルの途中経過が表示される。ブラジル1−0ナイジェリア。勝つしかなくなった。それも得点差を付けて。
 
 そして迎えた後半開始直後、攻め上がったディフェンスラインをハンガリーのスルーパスが切り裂く。時間はまだあるものの、致命的な失点だ。
 
 残りは1分。GK川口が相手ゴール前に上がる。ラストコーナーかもしれない。前園のキックに、代わったばかりの上村が合わせる。どんぴしゃのヘッドで同点だ。
 
 その直後、右サイドを伊東が切り込む。昨夜の記憶が甦る。クロスが上がる。広長が頭から突っ込む。前園が飛び込む。城が詰める。押し込んだ、逆転だあ〜。
 
 勝利は得た。しかしグループリーグ敗退の悲しい勝利だった。その時一家3人は、慢性の野菜不足でビタミン不足のためか、目は真っ赤になっていた。
更新日時:
2004/12/30

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Last updated: 2006/7/10