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独裁者ヒンケルに支配されているトメニア国(ドイツを暗示)。
瓜二(うりふた)つのユダヤ人の床屋(チャップリンの二役)は、
独裁者と間違われ、占領国での演説の舞台に立たされる・・・
「申し訳ない。私は皇帝になりたくない。支配はしたくない。できれば
援助したい。ユダヤ人も黒人も白人も、人類はお互に助け合う
べきである。他人の幸福を念願として、お互に憎み合ったりしては
ならない。世界には全人類を養う富がある。人生は自由で楽しい
はずであるのに、貪欲(どんよく)が人類を毒し、憎悪をもたらし、
悲劇と流血を招(まね)いた。スピードも意思を通じさせず、
機械は貧富の差を作り、知識をえて人類は懐疑的(かいぎてき)に
なった。思想だけがあって感情がなく、人間性が失われた。知識より
思いやりが必要である。思いやりがないと、暴力だけが残る。
航空機とラジオは我々を接近させ、人類の良心に呼びかけて、
世界をひとつにする力がある。私の声は全世界に伝わり、失意の
人々にも届いている。これらの人々は、罪なくして苦しんでいる。
人々よ、失望してはならない。貪欲はやがて姿を消し、恐怖もやがて
消え去り、独裁者は死に絶える。大衆は再び権力を取り戻し、
自由は決して失われぬ! 兵士諸君、犠牲(ぎせい)になるな。
独裁者の奴隷になるな! 彼らは諸君を欺(あざむ)き、犠牲を強
(し)いて家畜の様に追い回している! 彼らは人間ではない!
心も頭も機械に等しい! 諸君は機械ではない! 人間だ!
心に愛を抱(いだ)いている。愛を知らぬ者だけが憎み合うのだ!
独裁を排(はい)し、自由の為に戦え! “神の王国は人間の中に
ある” すべての人間の中に! 諸君の中に! 諸君は幸福を生み
出す力を持っている。人生は美しく自由であり、すばらしいものだ!
諸君の力を民主主義の為に集結しよう! よき世界の為に戦おう!
青年に希望を与え、老人に保障を与えよう。独裁者も同じ約束を
した。だが彼らは約束を守らない! 彼らの野心を満たし、大衆を
奴隷にした! 戦おう。約束を果たす為に! 世界に自由をもたらし、
国境を取り除き、貪欲と憎悪を追放しよう! 良識の為に戦おう。
文化の進歩が全人類を幸福に導くように。兵士諸君、民主主義の
為に団結しよう!」 (大歓声)
イラスト/「ハンナ、聞えるかい。元気をお出し。ご覧、暗い雲が消え
去った。太陽が輝いてる。明るい光がさし始めた。新しい世界が
開けてきた。人類は貪欲と憎悪と暴力を克服したのだ。人間の魂は
翼を与えられていた。やっと飛び始めた。虹の中に飛び始めた。
希望に輝く未来に向かって。輝かしい未来が、君にも私にもやって
来る。我々すべてに! ハンナ、元気をお出し!」
ハンナは、その声の主が総統ではなく床屋だと分かると、にっこりと
微笑(ほほえ)んだ。 −THE END−
〜ビデオ『チャップリンの独裁者』 日本語字幕:清水俊二〜
1940年作。アメリカ映画。モノクロ。
喜劇王チャールズ・チャップリンが、リアル・タイムでナチス・ドイツの
狂気とユダヤ人迫害を批判した渾身(こんしん)の傑作。独裁者とは、
アドルフ・ヒトラーのことだ。それにしても、いくらコメディがお家芸
(いえげい)とはいえ、「よくぞここまで茶化(ちゃか)したものだ」と
感心してしまう。撮影中、監督で主役をこなすチャップリンのもとには、
アメリカ国内のドイツ系市民から脅迫状や暗殺予告が連日舞い込み、
本国ドイツからも様々な圧力をかけられたとか。
それだけではない。この映画、最後が演説の形を借りたメッセージに
なっているのです。上にあるのがその全文で、6分間という長いもの。
残念ながら、人類愛を訴えたこのメッセージは為政者(いせいしゃ)
たちには伝わらず、第二次世界大戦でたくさんの尊(とうと)い命が
失(うしな)われたのでした。
この映画が製作、発表された1940年、ヨーロッパでは既(すで)に
第二次世界大戦が始まっていた。9月にドイツ、イタリアと
「日独伊三国同盟」を締結(ていけつ)していた日本は、翌年12月、
真珠湾(しんじゅわん。パールハーバーの訳語)を攻撃してアメリカと
戦争状態に入ることになり、当時はこの映画の上映許可が出るはず
もなかった。日本で漸(ようや)く公開されたのは1960年。終戦から
実に15年もたっていたのだが、“60年安保(あんぽ)”という
時代背景も手伝ってか、興行記録を塗(ぬ)りかえる圧倒的な好評で
迎えられたのであった。〜『週刊・20世紀シネマ館』第20号より〜
ところで、恋人ハンナを演じたポーレット・ゴダードとチャップリンは、
実生活ではすでに結婚していた。1936年に中国で式を挙げたとき、
ポーレット25歳、チャップリン47歳。彼には3度目の結婚だったが、
6年目に破局(はきょく)を迎えることになる。
チャップリンは、生涯(しょうがい)4回も結婚するのであるが、
4人目の妻ウーナの場合、8人の子宝(こだから)に恵(めぐ)まれ
終世の伴侶(はんりょ)となった。それにしても4度目の結婚の時、
チャップリン54歳、ウーナ18歳で、36歳も年が離れていたとか。
「ほんと、羨(うらや)ましいのだ」 (コラム製作’05.4/7)
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