歴史道楽

 
 

54    精神分析から見た歴史・・・史的唯幻論
更新日時:
2004/10/29 
 
 フロイドの精神分析は、人間の心を動かす幻想のメカニズムを解明する理論であるが、幻想に動かされる人間が動かす歴史は、当然のことながら幻想に動かされているので、これを史的唯幻論と言うが、精神分析の諸概念は歴史の理解に大いに役立つとされている。 世界が幻想の世界と現実の世界の二つに分裂するように、自我も幻想の世界に住む幻想我と現実の世界に住む現実我に分裂する。自我が二つに分裂した当初は、全知全能の誇大妄想的自我と無力で劣等な自我という正反対の両極端の自我が対立しているが、個人の精神発達、人格発達により、誇大妄想的自我はそれほど荒唐無稽ではない幻想我へと変容し、プライド、誇り、自尊心となる。他方無力で劣等な自我も現実的能力を身につけることによってそれほど無力でも劣等でもない現実我へと変容してゆく。
 
 以上のことは個人であるが、民族や国家などの集団についても同じである。創世神話、起源神話、建国神話はどこも現実離れしていて、その民族や国家の誇りとなるような好都合なものであるのが普通である。
 
 日本の天孫降臨の神話も、日本民族が雑種であること、大和朝廷は戦に負けて半島から追っ払われた敗北者の連中が作ったことなど好ましくない事実を隠蔽するために作られたと考えられる。普通なら戦に負けた敗北者は滅ぼされてしまうが、日本列島という恰好の逃げ場があって生存できたという極めて幸運な歴史を背負っているのが日本民族である。 このことが、判官贔屓というか、源義経、楠木正成、豊臣秀吉、西郷隆盛などの敗北した英雄を好み、「甘えの構造」という性格の特徴も日本列島という恰好の逃げ場に守られた敗北者の性格特徴ではないかと思われる。又神功皇后の三韓征伐という話や、秀吉の文禄の役、慶長の役、近代の朝鮮の植民地化と中国侵攻も日本民族の一種の失地回復願望ではないかと思われる。又朝鮮人が日本人を恨むのは、劣等視していた連中に支配されたことでプライドが傷つけられたと思っているからであろう。
 
 アメリカも1620年にメイフラワー号で北米プリマスに上陸した清教徒たちが自由と民主主義の国、アメリカの礎を築いたという建国神話を大急ぎで作ったが、彼等は、新しい地に慣れない彼等をいろいろ助けてくれた先住民を虐殺した人殺したちであったことも事実で、人殺しを聖人に祭り上げた欺瞞がアメリカの建国神話の弱点であり、恥部でもある。 現在の日米関係がまともでないことは誰の目にも明らかであるが、それはペリーが戦艦4隻で脅迫的に開国を強制した時以来である。無理矢理に股を開かされた女みたいなもので、日本にとってはアメリカの脅迫に屈した屈辱的な事件であり、アメリカの見方では野蛮な日本に先進文明を教え、広い世界に目を開かせてやったので大いに感謝されてしかるべきであるということであり、認識の違いは大きかった。
 
 開国の結果、日本は欧米を崇拝する卑屈な外的自己と欧米を憎悪する誇大妄想的な内的自己に分裂した。というより建国の頃すでに支那(当時の隋、唐)との関係でも同様なことがあり、ペリー・ショックは既にあった分裂を激化させたに過ぎないともいえる。
 
 日米間のパーセプション・ギャップはいずれ喧嘩することが不可避であった。日露戦争でも、アメリカは日本が自分一人の力で勝ったつもりになって大きな顔をするのは怪しからぬ、これまでの友好的な態度は我々を誑かすための偽りの仮面で、恩を仇で返す日本は信用出来ず叩きつぶしたくなった。しかしこのような日本観はインディアン虐殺の正当化によって歪められた見方でもある。アメリカは日本人をインディアンと同一視しており、アメリカが日本をアメリカの世界に引き入れることに成功すれば、インディアンがその野蛮な文化に執着し、優れたアメリカ文化を拒否したので已むを得ず虐殺したのであって、悪いのはインディアンであり、アメリカでないことが証明されると思ったからである。もっともアメリカはこのインディアン・コンプレックスをまだ自覚していないようである。 日米戦争は、ペリー来航以来燻って陰に籠もっていた日米対立がついに爆発したものと考えられるが、この戦争がアメリカの圧倒的勝利に終わった現在も、日米関係にかかわる困難な問題は少しも解決されず、そのまま続いている。即ちアメリカは相変わらずインディアン・コンプレックスに支配されて日本に対しており、日本も相変わらず、外的自己と内的自己との分裂を抱え、つねづねは内的自己を押し隠し、外的自己でアメリカに対している。内的自己の反米気分を新聞等で発散させているが、対米従属の現在の日本の状態を少しでも改める具体策の検討に至らず、逆にわざわざアメリカの軽蔑と不信を買うようなことばかりしてきた。
 
 他方、ペリーから現在に至るまでのアメリカの対日態度も、インディアン・コンプレックスのため狂っている。ペリーの脅迫、排日移民法、ハル・ノート、本土空襲、原爆投下、占領、東京裁判などの一連の対日行動には、アメリカが信じている現実的根拠のほかに、アメリカとしてあまり認めたくない無意識的動機がなかったか、精神分析の発達した国として自己分析してみる必要がある。
 
 インディアン・コンプレックスを克服する方法は、幼児期のトラウマのために神経症になっている患者の治療方法と同じで、インディアンに関する総ての事実の隠蔽と歪曲と正当化をやめ、総ての事実を明るみに出し、それに直面し、それとアメリカの歴史、現在のアメリカの行動との関連を理解することである。
 アメリカが強く無意識へと抑圧しているインディアン・コンプレックスを意識化し、分析し、克服し、そして日本に謝罪し、日本が内的自己と外的自己との分裂を克服し、アメリカに謝罪したとき、真の意味で友好的な日米関係が始まるであろう。それまでは、アメリカは日本人にインディアンの亡霊を見て、過敏な反応と的はずれな言動を繰り返し、日本は隠された内的自己でアメリカを恨みながら、外的自己で愛想笑いをしてアメリカに屈従し続けるであろう。真の友好的な日米関係をどう築くかの問題は、この関係の基本的な構造の問題である。
 
 尚インディアン・コンプレックスを克服することができれば、アメリカは対日関係だけでなく、日本以外の国々との関係もよい方向に改めることができ、アメリカ人が国際的にテロの対象となることも少なくなり、それと同時に、国内犯罪、特に銃に関する犯罪も減るであろう。  
 
参考文献:「日本がアメリカを赦す日」岸田秀著 毎日新聞社
 


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