岡田英弘著「歴史とはなにか」(文春新書155)を参考とし、普段あまり問題とされない部分に焦点をあて、歴史について検討を加える。
1)歴史の定義
簡単に言えば、歴史は物語であり、文学であり、科学ではない。
やや詳しく言えば、歴史は人間の住む世界の説明であり、時間と空間に沿い、一個人
の体験を超えて把握し、解釈し、理解し、説明し、叙述する営みである。
しかし人間は時間を直接認識できないという問題を抱えている。従って歴史が成立す
る為の前提条件は、1.直進する時間の観念、2.暦など時間を管理する技術、 3.
文字で記録を作る技術、4.因果律の観念、の四つが揃うことである。
以上のように歴史は文化であり、人間の集団によって文化は違うので、集団ごとに歴
史は異なるということがあり得る。又神話が古代の史実の反映と考えるのは危険である。
「良い歴史」を書くのは「普遍的な個人」であり、史料のあらゆる情報を一貫した論理
で解釈できるもので、「良い歴史」が他人に歓迎されるとは限らない。更にマルクス主
義の史的唯物論のように世界が一定の方向に向かって進んでいるという保証はどこにも
ない。現実は無数の偶発事件の積み重ねである。
以下最初に「歴史のない文明」について例示する。
2)インド文明
古来インドには仏教、ジャイナ教、ヒンドゥー教があり、いずれも輪廻・転生という
思想を持っている。この思想からは人間界だけに範囲を絞った歴史は成立しない。13
〜19世紀にイスラム教が歴史を持ち込んだが、本格的にインド人が歴史を意識するよ
うになったのは、1858年イギリスのヴィクトリア女王がインド皇帝になってからのこ
とである。
3)イスラム文明
イスラム文明も神の意志が第一義なので、基本的には歴史のない文明である。つまり一瞬一瞬が神の創造にかかっているというので因果関係がなく歴史ではなくなる。しかし歴史は自分の立場を正当化する武器となり、外交交渉で必要となる。そこで歴史のないイスラム文明も歴史を持った。但しイスラムの歴史学は地理学の補助分野という位置づけである。もともとイスラム文明は地中海文明の対抗文明である。
4)アメリカ文明
アメリカは過去と断絶し憲法だけで作られた国であり、現在と未来にしか関心がない
歴史のない文明である。西欧文明の対抗文明ではあるが、移民の国であり、アメリカ文
明には、アメリカ自身が主張するような普遍性が殆どない。アメリカのアイデンティテ
ィの基礎は1776年のアメリカ独立宣言、1787年のアメリカ合衆国憲法の前文のみであ
る。又憲法だけで作られた国家はアメリカ合衆国が世界で最初であり且つ唯一である。
歴史のないアメリカ文明の人間関係は、みんなゼロから出発するという建前で、自分よ
り前の世代から一切お世話にならないという生き方が建前になっている。
尚岡田氏の「歴史のある文明、歴史のない文明」は昔からの持論であり、一面もっと
もらしい点もあるが、「大国の興亡」のポール・ケネディ、「歴史の終わり」のフラン
シス・フクヤマ、「文明の衝突」のサミュェル・ハンチントンと面白い歴史観を提出し
ているのが皆アメリカ人であるという現実も重く見なければいけないと思う。つまり現
代最初の国民国家であり、世界の頂点に立つと共に国民国家そのものがそろそろ終焉に
近づいたということで、アメリカ人も歴史に目覚めてきたのではないかと思はれる。
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