しばらくぶりに、日本人の起源論争はその後どうなったのかな、と思って参考文献が発行されたのを知り、大田図書館から借りて読んでみて驚いた。今まで読んだ本が、殆ど断定的に書いてあったように思ったこともあり、この本のように、何から何まで、具体的な証拠が見つかるまでは仮説として扱い、次々に出てくる仮説を論争として扱うと、実は人類の起源も、日本人の起源も何一つ確定しておらず、「人類史とは謎を巡る論争史である」との印象を得た。
戦後岩宿遺跡で相沢忠洋が旧石器を発見したというニュースは覚えているが、それが縄文時代以前に日本列島に人がいたということとは知らなかった。明石原人も名前は聞いていたが、どうやら幻か?と言われているらしく、前期旧石器論争も藤村新一の捏造事件で一気に振り出しに戻ってしまったらしい。
そもそも人類の起源も又はっきりしていない。ネアンデルタール人には未だに多くの謎があり、ラマピテクスとか言う名前も人類の祖先かと思っていたら、いつの間にか類人猿の祖先になったりしているらしい。人類揺籃の地はどうやらアフリカらしいが、進化の道筋はまだすっきりしていない。更にアフリカからユーラシアへと移動し、旧人から新人への進化の過程で、すべてアフリカから新人がでたという説と、アフリカ、アジア、ヨーロッパそれぞれの地域で旧人から進化したという多地域進化説とが対立している。
人類がアフリカからアジアへ、そして日本へと渡ってきたのは確かであるが、後期旧石器時代に日本列島に南方ルート、北方ルートで渡ってきたというがまだ定かでない。更に縄文人にもいろいろと地域差があるが、これまでの所東アジアのどこを探しても縄文人に似た集団がまだ見つかっていないという縄文人のルーツの問題がある。
日本人の起源に関連して、日本で人類学が始まったのはシーボルトやモースなどの外国人研究者の活躍が始まりである。その後鳥居龍蔵の「固有日本人説」、清野謙次の混血説、長谷部言人の変形説などが出、戦後には金関丈夫の「渡来説」、鈴木尚の「小進化説」が出ており、日本人の地域差−生体計測−耳垢と腋臭・指紋、血液型、蛋白分析から遺伝子分析へと調査し、日本列島人の重層性が浮かび上がっている。
弥生時代の始まりが数百年早まったが、北部九州・山口地方の弥生人がどこからきたか、韓国や中国で発掘調査が続けられている。特に稲作文化の源郷として中国江南に人骨を求めているが、まだ発見されていない。又渡来人が大量か少量か、どうして急速に渡来系弥生人の人口が増加したか、など未だ必ずしも明確ではない。
最後に倭国大乱の跡は、福岡県築紫野市の隈・西小田遺跡で戦傷人骨等が発掘され裏付けられた。更に渡来系弥生人は九州から東へ拡散したが、北のアイヌと南の琉球列島人(といっても宮古島以南の先島諸島は又少し違う)はいろいろな面で共通点があり、本土や縄文人との関連は未だに明らかではない。更に中世以降、日本人の身長や頭頂幅指数などの身体的特性がかなり大幅に変化していることも見られる。
このように、人類の起源は未だに明確ではなく、日本人も縄文以前は不明確であり、縄文人もどこから来たかよく分からず、渡来系弥生人が稲作と共に入ってきて、急速に拡散したが、アイヌ・琉球人は未だに昔の属性のままである、ということらしい。
参考文献:日本人の起源・古人骨からルーツを探る:中橋孝博著 講談社選書メチエ318 2005年1月10日第1刷発行、定価1,700円(税別)、大田図書館 469ナ
目 次 詳 細
はじめに
第一章 太古の狩人たち−−−−−旧石器時代の日本列島人
1 岩宿遺跡での旧石器発見(相沢忠洋、赤土への執念、)
2 幻?の「明石原人」(ニッポナントロプス・アカシエンシス、直良信夫、
「明石原人」の発見、鳥居竜蔵の批判、明石の再発掘、「明石原人」は現代人?)、
3 最初の日本列島人(「前期旧石器」論争、捏造の発覚、日本列島の原人類)
第二章 人類の起源と進化
1 ネアンデルタール人の謎(進化論の渦、ネアンデルタール人の発見、迷走 するネアンデルタール人像、)
2 人類への道 (人類とは?、世紀のペテン−−ピルとダウン人、直立二足 歩行への道−−ラマピテクス問題、分子進化学の台頭、)
3 人類揺籃の地−−−−アフリカ (最古の二足歩行者、ルーシーの発見、 タウングベイビーの発見、ブルームの魔術、オルドバイ峡谷−−ジンジの 発見、ホモ・ハビリス−−器用なヒト、進化の道筋)
4 アフリカからユーラシアへ (原人−−ホモ・エレクトの登場、ジャワ原 人の発見、北京原人の発見、失われた北京原人化石、古代型サピエンス)
5 新人の起源を巡る論争 (ネアンデルタール人、多地域進化かイブの子孫 による置換か?、多地域進化説−−ウォルボフの反論、迷走する現代人起 源論争、残された疑問、)
第三章 アジアへ、そして日本列島へ
1 東アジアの更新世人類 (アジアへ、そして日本列島へ、後期旧石器時代 の日本列島人、港川人−−南方ルート、北方ルート、)
2 縄文時代の日本列島人 (氷河時代の終焉−−縄文人の誕生、縄文人骨の 特徴、縄文人の時代変化、縄文人の食生活、安定同位体分析法、縄文農耕、 定住縄文人の身体、縄文人の虫歯、ストレスマーカー、東高西低の縄文人 口、縄文人の地域差、縄文人のルーツ問題、)
第四章 日本人起源論−−−その論争史
1 人類学の曙 (神話の時代、シーボルトとモース−−外国人研究者の活躍、 アイヌ・コロボックル論争、)
2 人種交代説から原日本人説へ (鳥居竜蔵の「固有日本人説」、原日本人説、 清野謙次の混血説、長谷部言人の変形説、)
3 戦後の日本人起源論争 (金関丈夫の「渡来説」、鈴木尚の「小進化説」、)
4 アジアの中の日本−−−日本人の地域性とその由来 (日本人の地域差− −生体計測、耳垢と腋臭・指紋、血液型、タンパク分析から遺伝子分析へ、 日本列島人の重層性、)
第五章 縄文人から弥生人へ
1 弥生人の地域差 (水稲農耕民の登場、高顔・高身長の弥生人、西北九州 と南九州の弥生人、)
2 北部九州・山口地方の弥生人 (時代変化と地域差、扁平顔、頭蓋小変異 と歯、抜歯風習、)
3 渡来人の源郷 (韓国・礼安里遺跡、中国に渡来人のルーツを求めて、江南 地方、高床式の住居・絹織物・漆製品、稲作文化の源郷、水稲農耕の日本 への伝播、江南に人骨を求めて、)
4 北部九州のミッシング・リング (謎の空白期、支石墓の謎、朝鮮半島の 古人骨、変革の担い手は縄文人?それとも渡来人?、大量渡来か少数渡来 か、弥生中期の北部九州の住民、渡来系弥生人の人口増加率、弥生人の寿 命、人口変化のシミュレーション、単純増加モデル、混血モデル、)
第六章 倭国大乱から「日本」人の形成へ
1 倭国乱る (戦傷人骨、犠牲者の数−−福岡県築紫野市の隈・西小田遺跡、 男女数の偏り−−女児の間引き?、エスカレートする紛争−−青谷上寺地 遺跡、戦いの拡散)
2 渡来系弥生人の拡散 (九州、東への拡散、)
3 アイヌと琉球人 (アイヌ、琉球列島人、グスク時代)
4 現代人への道 (中世人、日本人の行方、)
参考文献
あとがき
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