コラム


54    長期不況の考察
更新日時:
2002/11/20 
 
 2000年3月以来の平均株価は長期低落傾向にあり、20,000円から8,000円台に下降している。2001年の4,5月や、2002年の3,4,5月にはやや持ち直しているが、やがて再び低落し、このままでは一体どこまで株価が下がるのか予想がつかない。新聞情報では現在の不況をデフレ不況と称し、与党は補正予算で公共事業の拡大を狙っており、反面小泉首相は「改革なくして成長なし」と称し、国債発行額30兆円に拘り、道路や郵便の民営化に血道を挙げているが、いずれも不況克服の見通しはない。
 
 ここで一寸頭を冷やして考えてみると、やはり一つは世界経済との関係を吟味する必要があり、も一つは過去の歴史との関連を調べる必要があることに気が付く。金子勝教授の「長期停滞」はこれらの点を考察しているが、最終的にどうすればこの不況から脱却できるのかについてはあまり明確な提言はない。しかし現状の認識の面では参考になる。
 
 簡単に要約すれば、1990年代にはバブル発生とその崩壊の波が世界中を襲い、最後に資金が流れ着いたのが ITに沸くアメリカだった。グローバリゼーションの進展により、各国のアメリカへの輸出依存度が極限まで高まった矢先、アメリカのナスダック・バブルが遂にはじけ、世界は一転して同時不況に突入した。デフレ型の世界同時不況は、大恐慌期以来の70年ぶりの事態である。ということになる。
 
 シュンペーターの景気循環論では、長期、中期、短期の三つの波動が重なったために大恐慌が起きたと説明しているが、長期の波動を産業交替の波、中期の波動をバブル経済とその破綻による設備投資の波、短期の波動を4年周期のシリコン・サイクルに置き換えると、今日の状況は不思議な位シュンペーターの指摘と似てきている。
 
 そこで問題となるのが主導産業が交替して行く長期の波動で、コンドラチェフ循環として有名な長期波動である。歴史的には、19世紀後半における綿工業から鉄鋼業への転換期、1920年代から30年代にかけての重化学工業への転換期などで、こうした循環を観察できる。これらの時期は経済的には長期停滞局面に当たり、政治的にはナショナリズムと戦争の時代を招いている。
 
 現在は重化学工業が成熟する一方で、ITゃバイオなどの新しい技術は出てきているが、それが一般消費者の需要を本格的に掘り起こすまでに至っていない。ただこうした時期には、覇権国が短期資金移動に依存するため、国際的な資金循環構造が不安定化し、国際金融市場は著しく浮動性が高まってくる。
 
 世界同時不況は70年ぶりということで、1920年代と1990年代を比較すると次のようになる。
 
1920年 大戦景気の崩壊     | 1991年バブルの崩壊始まる
1922〜23年 銀行取り付け騒動 | 1994〜95年 信組の連鎖破綻と住専問題
1923年 関東大震災        | 1995年 阪神淡路大震災
1927年 金融恐慌         | 1997年 金融システム不安(山一、拓銀の破綻)
1928〜29年 米国バブル    |1999〜2000年 米国バブル
1929年 NY株式市場暴落     | 2000年 ナスダック・バブル崩壊
1930年 金再輸出解禁      | 2001〜02年 金融・会計ビッグバンの実施
 
大恐慌直前の日本では、田中義一政友会内閣から浜口雄幸民政党内閣へ交替した。政友会内閣の日銀総裁・大蔵大臣として不良債権に対する救済融資を続けてきた井上準之助は、一転して浜口内閣の蔵相に就任した。その政策は小泉内閣と極めて類似していて、まず第一に、不良債権処理のために企業整理の必要性を主張した。第二に財政引き締め政策を行い、財政再建方針を打ち出した。第三に当時のグローバル・スタンダードであった金本位制復帰を目指した。そして世界同時不況に突入し、金再輸出解禁を実施して昭和恐慌を引き起こしたのである。歴史は正に繰り返している。
 
 更に著者は、市場原理主義やグローバル・スタンダードは論理破綻していると言っている。確かに郵貯を民営化して銀行を国有化してもあまり意味はない。経済政策は誤ったポリシー・ミックスにより迷走していると批判している。更に日本国の債務残高の対GDP比は、先進諸国では群を抜いて膨張しており、このような巨額な政府債務残高は、ハイパーインフレか革命でもない限り返済した歴史的事例はないと指摘している。
 
 ということで現在は完全に市場原理主義に振り回されており、、ここから脱却するには、社会哲学に裏付けられた、市場原理主義の暴走を食い止める新たな政策体系と対抗思想であるとしているが、何とも分かり難い。小手先ではどうにもならないことは明らかであるが、市場原理主義の暴走を食い止める政策体系とは何かがキーポイントであるが、現段階では残念ながら具体性に欠けているようである。
 
参考文献:「長期停滞」 金子勝著 ちくま新書358 
 
 


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