末尾に示す日本工業倶楽部木曜講演会の講演要旨を読んで、大いに共感する面があったので、日本の外交戦略と問題点について基本的な考え方を纏めてみる。
まず国際情勢全般の見方として、国際政治の基盤を変えた最大規模の地滑りとして、日本は「冷戦の終わり」の受け止め方を誤り、路線の切り替えを怠ってしまった。問題は政治家の能力不足、官僚の気力不足、マスコミ(テレビを含む)の責任感の不足で、引き続く地滑りの時代に、日本はずるずると没落していくしかないと思われる。
個別の外交問題として、まず第一にイラク問題でアメリカの限界が露呈したといえる。アメリカは建国以来の伝統として特殊な自己過信、アメリカの価値観が普遍的という固定観念を持ち続けている。それがイラクにアメリカ式の民主主義を確立できるという誤った考え方を生んだ。国連の傘の下に一致協力すれば、少しはましであるが、それでも日本や欧米のような成熟した民主主義が生まれる国ではない。
しかし日本の外交政策の選択肢としては、アメリカとの協力以外はない。国連自体の実体はゼロであり、アジアに重点を置く外交も非現実的である。中国との間では信頼関係を築くことはできず、中国、ASEAN、インドなどとの関係を深め、安定させるにはどうしたら良いかは不断に考えていかなければならない状態である。
中東という地域は今後少なくとも20年、長ければ30年以上混乱が続くと思われる。しかも自爆テロが拡大すると考えてつき合う必要がある。又パキスタンのカーン博士が大量破壊兵器である核兵器について、ほぼ10年に亘ってリビアとイランと北朝鮮に、ノウハウと機材を提供し、大変な見返りを得ていたことは、日本としても許せない事である。このうちリビアは転向し、イランも将来的には国際的圧力で屈服が予想されている。北朝鮮も立場が弱くなった。しかしアメリカはカーン問題を不問に付したのは、今のムシャラフ政権が倒れたら、アメリカのテロとの戦いや中東政策を進める事が困難になるからである。
イラク情勢は混迷を深めているが、単にナショナリズムによる反米英戦争ではなく、イラクの中の権力闘争の要素もあると見るべきである。又中東全般についていえば、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの指導者ヤシン師殺害作戦はイスラエルの失敗であったといえる。又サウジアラビアにせよ、エジプトにせよ、現在の最高指導者が急死した場合、深刻な後継者問題が起こりかねず、中東は基本的に不安定爆弾を抱えていると考えなければならない。
長期的な内部不安定化要因は人口圧力問題で、例えばサウジでは1970年代初め800万人だったのが、今では2000万人に増え、2050年には7000万人前後になると推計されている。国土の大部分は砂漠で農業も殆どできず、産業も7000万人を養う見通しが立たない。失業者の増大、社会不安から、それらの不平不満が王室に向けられるという暗い筋書きになる。
アラブ連盟加盟国は22ヶ国あるが、各国ごとにきめ細かい対応を重ね、日本の善意を示すことにより、日本と日本人への信用と信頼を高めて行くことが日本の中東政策の要諦である。
北朝鮮の六ヶ国協議で成果は期待できないであろう。アメリカはイラク問題で頭が一杯であり、中国には北朝鮮の核廃絶の信念はなく、ロシアは今やローカルパワーでいてもいなくても変わりない。韓国も今は反日左傾化している。尚中国や韓国の靖国問題に対しては情緒的ではなく、理屈で内政干渉を拒否すべきである。
参考文献:日本工業倶楽部第1217回木曜講演会講演要旨
「我が国外交の戦略と課題」 元駐米国大使 村田良平氏述
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