2003年のアメリカの出版界を席巻した小説「ダ・ヴィンチ・コード」の作者がその前に発表した作品で、やはり宗教と科学の対立を種とした息詰まるようなスリラー小説であると共に、知的で難解なテーマを分かりやすく解説する情報小説としての側面を備えた「面白くて為になる」小説である。
世界的に有名な宗教象徴学専門のハーバード大学教授ロバート・ラングドンは、スイスのセルン(欧州原子核研究機構)のコーラー所長から電話を受け、ある紋章について説明を求められる。それは男の全裸死体に押された焼き印で、ファクシミリで送られた写真を見ると、はるか昔に消滅した筈の秘密結社イルミナティの紋章であった。驚いたラングドンは超高速航空機に乗せられてセルンへ急行する。
殺されたのはセルンの科学者ヴェトラで、つい最近極秘裏に世界初の大量の反物質の生成に成功していた。ラングドンらがヴェトラの研究室を調べると、反物質のサンプルが安全装置から外されて盗まれているのが分かった。このままでは夜の12時に大爆発が起こり、そのエネルギーは核爆発以上で一つの都市を丸ごと吹き飛ばす程だという。反物質がヴァチカン市国にあるという情報を得るや、ラングドンはヴェトラと共同で研究していた娘のヴィットリアと共に、奪還を目指して出発する。
折しも、ヴァチカンでは教皇の死に伴い新たなローマ教皇選出の選挙会が開かれる所であったが、次期教皇の有力候補4人の枢機卿が揃って失踪していた。ラングドンとヴィットリアはスイス衛兵隊と行動を共にしようとするが、そこえイルミナティの使者を名乗る男から電話で、かつて自分たちを迫害し続けたカトリック教会に復讐のため、これから4人の枢機卿を一時間に一人づつ殺して公共の場所に死体をさらすことを仄めかす。
その場所は一体どこなのか。どうやらそれを知る鍵は17世紀に書かれたある四行詩に隠されているらしい。美術・宗教の専門家であるラングドンと科学の専門家ヴィットリアは、知力と体力の限りを尽くして姿なき敵のあとを逐う。枢機卿を救出できるのか、反物質の爆発は防げるのか、ヴァチカンとローマ市内を舞台に、息もつかせぬタイムリミット・サスペンスが繰り広げられたあと、とてつもない、あまりにも独創的な、文字通り、驚天動地の結末が用意されている。
上下巻合わせて700頁近い長編であるにも拘わらず、物語の冒頭から終盤まで一日足らずしか経過していない。しかし途中に多くの山場があり、緊迫感が途切れることがない。最後になってやっと分かった結末から逆に説明すると、物語の推移は次のようであった。
イルミナティのヤヌスを自称したのは、実は教皇の侍従カメルレンゴで、4人の枢機卿やスイス衛兵隊のオリヴェッティ隊長を殺したのは、イルミナティのために仕事を請け負ったと思いこんだ異教徒ハサシンであった。カメルレンゴは実は前教皇の人工授精による落とし子で、本人はそれを知らなかったが、教皇がヴェトラの反物質の発見を手放しで喜んだことに反発して、教皇とヴェトラを殺し、反物質をヴァチカンの地下に隠した。
ラングドンは4人の枢機卿をあと一歩の所で救えなかったが、反物質を遂に発見した。これをみてカメルレンゴはラングドン共々用意してあったヘリコプターに乗って上空高く舞い上がり、ヴァチカン上空で爆発させた。二人はそれぞれ飛び降り、それぞれ奇跡的に助かるが、カメルレンゴはヴァチカンの大聖堂の上で着衣に油をかけて焼身自殺した。ラングドンとヴィットリアは命からがら生きのびた。そして選挙会を担当していた79才のモルターティ枢機卿が次期ローマ教皇に満場一致で選出され、一巻の終わりとなった。
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