2003/01/28
★★★ 理由 宮部みゆき |
宮部みゆきの本に最初に出会ったのは『龍は眠る』で超能力を題材に、こういう描き方があるのかと面白く思い、それ以前に刊行された文庫・新書を立て続けに読みました。宮部作品には時代物を含めて超能力(幻しさ)をモチーフとして、それに係わる哀しみを描き、独特の宮部ワールドを作り上げている。
直木賞受賞作の本書は、超高層マンションで起きた殺人事件の被害者は誰か、なぜ事件が起ったのかを、ルポルタージュの手法(インタビューを核として構成)で無人称で語っている。バブルの崩壊とともに崩れていった社会を象徴する出来事として。
待てよ、宮部がこんな小説を書いていいのか。作者の意図は窺い知れないが宮部ワールトのフアンとしては納得が出来ない。同じような社会現象を描いた『火車』で見せた哀しみや優しさが感じられないのは何故なのだろうか。『模倣犯』が文庫化されたら答えを見つけるつもりだ。
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2003/02/03
★★★★ 陰の季節・動機 横山秀夫 |
直木賞の選考委員が『半落ち』はミステリーではないとコメント残し受賞を逃した。横山秀夫の本を探したが『半おち』以外見当たらずやっと、上野駅の明正堂書店の書籍検索システム(これは便利、目的の本の場所がすぐわかる)でこの2冊を見つけた。『半おち』が受賞していればこんなに苦労して探さなくても良かったのに。『陰の季節』は新しい警察小説として松本清張賞を受賞した、横山秀夫の処女作である。
この短編集は表題のほか「地の声」「黒い線」「鞄」の四篇が収録されている。〔事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きているだ!〕という有名な台詞のあるヒット映画とは対照的に〔事件は警察内部で起きている〕のである。舞台はD県警察本部の警務部に所属する、警務課(天下り先のポストの退職拒否・・・人事担当、二渡警視)、監察課(内部告発文書・・・監察官、新堂警視)、鑑識課(婦警失踪・・・警務課婦警担当七尾係長)、秘書課(議会爆弾質問・・・議会対策担当、柘植警部)、であり、主人公は二渡警視を始めとする、捜査畑ではない管理部門の人間である。犯人を見つけて逮捕するという従来の警察小説ではなく、事件を表沙汰ににしないで警察内部が納得できるように解決するという心理サスペンスでもある。
『動機』には表題作のほか「逆転の夏」「ネタ元」「密室の人」が収録されている。「動機」は陰の季節の連作で警察手帳紛失事件を扱い、他の3編は今までの警察小説とは異なり、元殺人犯への復讐劇、女事件記者の特ダネをめぐる葛藤、公判中に居眠りをした判事の悲劇を取り上げて、それぞれ読ませる短編集である。
横山秀夫にはもう少し二渡警視を中心にして警察内部の犯罪を取り上げてほしい、まだまだネタ切れではない筈だ。『半落ち』は文庫になってから読むつもりだ。
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2003/02/10
★★★ 不知火海 内田康夫 |
「浅見光彦が母親にあまり知られたくない相手と会う時には、この気のおけない団子屋をつかう」と文中にある平塚亭は、京浜東北線の上中里駅から5分ほどの平塚神社の境内で実際に営業している。内田康夫は全128冊のうち、浅見光彦を主人公とした作品を86冊執筆しているが『不知火海』はその83冊目の登場である。
髑髏の入った桐の箱を残して消えた男、熊本・八代海に見えるという「不知火」を見に行くといって姿を消したモデルの女を追って九州へ向かった浅見光彦は、数億という隠匿された「未知なる火モナザイト」をめぐる事件に巻き込まれる。
「浅見光彦はフリーライター、収入に見合わない愛車(ソアラ)、警察庁刑事部長の兄と鬼より怖い母(今回は出番なし)、お坊ちゃまと呼ぶお手伝の須美子」とお馴染みのキャラクターを配し、安定した物語に仕上がっている。肩がこらず、文章も読みやすいので今まで刊行した内田康夫は新書になってから必ず読んでいる。今回はまあ平均点の出来かな。
2年ほど前、放射性物質を含む鉱物モナザイト40kを財団法人日本母性文化協会の理事長が大量に保管していた事件があったがヒントになったようだ。
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2003/02/14
★ 日本以外全部沈没 筒井康隆 |
久しぶりに筒井康隆を読んでみた。
『家族八景』『七瀬ふたたび』等、長編は読んだがパロディ短編集は初めてだ。この年齢になって読むと疲れる、面白くない。
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2003/02/18
★★★★ T.R.Y 井上尚登 |
1911年、上海。服役中の刑務所で暗殺者に命を狙われた日本人詐欺師伊沢修は、同房の中国人、関に命を助けられる。伊沢は革命家である関から革命のための武器の調達を要請され、暗殺者から命を守る交換条件としてこの企てに加担する。さあ、日本陸軍参謀次長東正信を騙して日本陸軍の武器を奪い取れるか。
日本では珍しいコン・ゲームを取り上げたサスペンス。出だしは快調、暗殺者キム、裏社会のボス黄警部、仲間の陳、パクなど魅力的な脇役が活躍する。若き蒋介石が仲間に加わり清国の皇族に化けて東中将を騙すくだりはちょっと無理ががあるがまーいいか。
コーン・ゲームの傑作はジェフリー・アーチャーの『百万ドルを取り返せ』、真保裕一の『奪取』ぐらいの出来はある。お勧め。
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2003/02/27
★★☆ 十津川警部 姫路・千姫殺人事件 西村京太郎 |
TV番組の鑑定団に、大阪落城の際、炎を避けるために、千姫が頭からかぶったものだという打ちかけが出品された。持ち主は、千姫の末裔と名乗る美女。番組で注目を浴びた彼女に接近する者たちは次々に殺されていく。
お馴染み十津川警部シリーズの×××作目(あまり多くて数えたくない)で、初登場の赤い帆船(73年)から始まり殆どの作品は読んでいるつもりだ。
デビューの時は警部補で30歳それから30年経つが年齢は40歳(10年経ても警部では出世が遅い)から年をとらない。今回の事件も名コンビ亀井刑事(45)と姫路・京都と大活躍(警視庁の警部にしては出張が多すぎる)とまあ瑣末なことは抜きにして、父親を殺した三人の犯人への復讐劇をサラリと軽快に解決してゆく。
今回は★★☆、それでも西村京太郎の本はついつい読んでしまう。
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2003/03/03
★★★★☆ 沙中の回廊 宮城谷昌光 |
文公( 重耳)に見出され、襄公、 零公、成公、景公に仕え、天才的な戦略家として名を馳せ最後は宰相にまで登りつめた士会の生涯を描いた作品。没落寸前の家に生まれ、晋においてはなかなか頭角を現すことが出来なかったが、王位継承をめぐる晋の混迷から、士会は秦に亡命し、秦の康公の厚遇をうけ軍師として晋を破りにそこで戦略家としての名声を高める。その才能を再認識した晋は謀計をもって士会を連れ戻す。卿に抜擢された士会は晋の存亡を賭けて、大国・楚の荘王に挑む。宰相になり整備した「范武子の法」が晋の国法になり70歳で引退する。
人は引くべきときに引くことの難しく勇気のいることか、文公は引き続けて晋の国王になり、覇者になった。士会も引くことの見事な体現者でありその清冽な生涯を宮城谷昌光は見事に描ききった、彼の作品の中でも良質な一冊、読んでいて、爽やかな印象が残っている。★★★★★の評価だかもっといい物語を読みたくて、ここは★★★★☆に引いておこう。
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2003/03/04
追悼 生島治郎 |
生島治郎が、2日午後11時44分、肺炎のた死去した。70歳。中国・上海生まれ雑誌「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」の編集長などを経て、「傷痕の街」で作家デビュー。「追いつめる」で直木賞。日本のハードボイルド小説の草分けとして活躍する一方、恋愛小説「片翼だけの天使」などでも人気を集めた。大沢在昌と宮部みゆきと一緒に撮った写真とともに新聞の訃報欄で生島治郎の死亡を知った。
64年の「傷痕の街」から01年「上海カサブランカ」まで111冊のうち数えてみたら未読の本は「片翼だけの天使」シリーズ(一冊目の半分で読むのをやめた)など13冊だけだ。初めて読んだのは57回直木賞受賞作「追いつめる」だ、志田司郎は暴力団浜内組幹部を追跡中、同僚刑事を誤射して刑事を辞める。妻側からもらった離婚慰謝料をもとでに、志田前刑事の浜内組追及は続けられた。浜内組と孤独な退職刑事との凄まじい闘い!、ハードボイルドを日本で初めての定着させた一冊だ。
志田司郎ものは9冊に及ぶが最初の印象が強い。作品としては「黄土の奔流」が面白かった。中国に渡った青年・紅真吾の貿易会社が日本の商社に押されて破産した。最後の豪遊をきめこんだ真吾は、料亭で、高価な豚の毛(本当かな)集めの話に誘われる。揚子江三千キロの旅に同行するのは、大陸浪人など素姓の知れぬ猛者ばかり九人だった。中国人の親友・葉宗明との活躍は続編の「夢なきものの掟」他4冊に及び、痛快冒険小説に仕上がっていた。生島治郎の新作はもう読めなくなった。黙祷
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2003/03/10
★★★ 十津川警部 ダブル誘拐 西村京太郎 |
ひな祭りの日に、東京と小樽で七歳の少女の誘拐事件が発生した。二人の少女の名前は同じ「ミカ」で、犯人が要求する身代金も、一億五百万円と一致していた。二つの事件には、関連があるとみた十津川警部は捜査に乗りだす。そして第三、第四の誘拐事件が発生、またしても被害者は同名同年齢の少女だった。
今回は前作の「姫路・千姫殺人事件」よりちょつと出来がいい、連続誘拐事件の犯人が人質を一人づづ開放して(常に人質を確保)公開捜査をさせないというアイデアは、現実にはどうかと思うがこういうこともあり得ると思わせる西村京太郎節は快調。最近、三上本部長(刑事部長)が捜査会議に出席したり、十津川警部を指揮したりと、直接事件に係ってくることが多い、その分本多捜査一課長の出番が少ない。警視庁の組織などには関心がなく事件をスピーディに展開させるストーリーテラーの西村京太郎ならではか。この本も読みやすく二日(四時間)あれば簡単に読める。
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2003/03/13
★★★★ 黒猫の三角 森博嗣 |
1年に一度決まったルールで起こる連続殺人。今年のターゲットなのか、6月6日で44歳になる小田原静子に脅迫めいた手紙が届く。探偵・保呂草潤平は「阿漕荘」に住む小鳥遊練無(タカシナ レンム)、香具山紫子達と小田原静子が住む「桜鳴六角邸」を監視するが衆人環視の密室で静子は殺されてしまう。「桜鳴六角邸」の元の持ち主で敷地内の「無言亭」に居候している瀬在丸紅子(これが魅力的、執事の根来機千瑛ともども正体不明)が連続殺人の謎を解く。
犯人(お楽しみ)の密室殺人のトリックは比較的簡単だが動機が難しい、告白の場面はもう一度読み返さないと理解できない(理解したかなー)、天才、森博嗣の新境地を拓く作品でちょっと難解であるが楽しませてくれる。瀬在丸紅子、保呂草(?)、小鳥遊、香具山のカルテットは次回からも(Xシリーズ)も活躍するという、楽しみだ。
森博嗣は理工系ミステリー小説と言われる『すべてがFになる』を始めとするシリーズ(文庫で10冊)で犀川助教授、西之園萌絵という異色の探偵コンビを登場させている、これがちょっとハマルので未読の人はぜひ読んでください、面白いですよ。
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2003/03/16
★★★★☆ 心では重すぎる 大沢在昌 |
佐久間公、若者の失踪調査を専門に優れた手腕を発揮する私立探偵。妻(人気絶頂の歌手)をヘリコブターの墜落事故で亡くし、現在は静岡にある親友・沢辺が理事長を努める薬物依存者の相互更生補助施設「セイル・オフ」で働くかたわら失踪人調査の仕事をしている。
筆を折った漫画家「まのままる」の調査から犯罪と暴力団の影が浮かび上がる。一方「セイル・オフ」のメンバー雅宗の心を支配して壊そうとする『飼い主』錦織令の邪悪な意志と強烈な憎悪に遭遇する。渋谷を舞台に若者たちの危なげな生き方を佐久間公の目を通して描いたハードボイルドの傑作。
佐久間公シリーズは80年の『標的走路』を皮切りに短編集2冊。長編四冊と新宿鮫シリーズに匹敵する大沢在昌のヒット作である。1200枚の大作を一気に読んだ、面白い。
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2003/03/20
★★★★ 水中眼鏡の女 逢坂剛 |
水中眼鏡の女 奇数章では、突然目が開かなくなってしまったという黒い水中眼鏡(ゴーグル)をかけた女と、精神科医との物語。偶数章では、その女のミステリアスな挙動が描かれる。二つの物語が結びつく思いもかけない結末。ちょっと理解が出来なくもう一度、読み返してみた。
ベンテジレアの叫び 精神を病んで声がでなくなり、車椅子で生活している大学教授の妻の介護人として雇われた主婦が、歪んだ夫婦関係に巻き込まれ殺人計画に利用されていく。
悪魔の耳 殺人を犯したが精神鑑定により責任能力がないと無罪を言い渡された男が精神病院から退院する。男は逮捕される時、弟を射殺した二人の刑事への復讐を明言。退院した男は精神病が完治しているのか二人の刑事への復讐は行われるのか。
精神分析を題材に、凝りに凝った趣向と思わぬ結末、逢坂ミステリーのの傑作短編、面白かった。
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2003/03/25
★★★ 愛と殺意の津軽三味線 西村京太郎 |
東京で2ヶ月の間に四件の連続殺人事件が起きる。犯行時の現場からは誰かが演奏する津軽三味線の調べが聴こえていた。被害者の年齢、職業、趣味、出身地などの共通点は見いだせず、捜査は難航する。十津川警部と亀井刑事は「津軽三味線の謎」を解くため、青森へ向かう。
西村京太郎が東北へ取材旅行をした時。津軽の小さな旅館で、外は、木枯らしが吹いている。その風景に負けない力強い津軽三味線を聴いてこのストーリーを思いついたと言う。犯人はすぐに判明するし、殺人の動機、事件の解決、結末もイマイチだがこれが西村京太郎、楽しく読んだ。西村京太郎の執筆スピートになかなか追いつけない、3冊の未読の本が棚に並んでいる。
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2003/03/31
★★★ 熱き血の誇り 逢坂剛 |
「医療ミス? まさか・・・」製薬会社の秘書・寺町麻矢が預かった写真に写っていたのは、白濁した内臓だった。友人のカメラマン・秋野のぶ代と人工血液『フロロゾル』の秘密を探るうちに麻矢が何者かに拉致される。スペインのギタリスト「ヒラソル」、フラメンコの歌手「ブロンセ」、ブロンセを狙う殺し屋、新興宗教、北朝鮮の工作員、暴力団、等、が静岡を舞台に(静岡新聞連載の為のサービス)複雑に絡み合う仕掛けの大きなサスペンス。
逢坂剛の今までの作風との違和感は何故だろうか。登場人物に魅力がないせいか、謎解きや、伏線を張ったエンディングがイマイチなせいか、ちょつと物足りなかった。
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2003/04/09
★★☆ 小説 消費者金融 高杉良 |
代議士秘書から一転、サラ金業界に身を投じた玉崎英太郎は京橋クレジットを設立して急成長を遂げるが、厳しい取立てで「鬼玉」と恐れられ、マスコミに袋叩きにあい国会喚問の可能性も出てきた。騒動を避けるため、消費者金融の先進国アメリカへ視察旅行へ旅立つ。帰国後、債権回収組織「CCS」を立ち上げるが弁護士会との紛争が持ち上がる。闇の世界「サラ金」から表の世界「消費者金融」への転換の歴史を貸し手側から書いているが、このテーマではもうすこし借り手側の悲劇に触れて貰いたかった。
高杉良は経済小説の第一人者と言われている。「金融腐蝕列島」シリーズは社会への問題提起も充分で傑作のひとつだが、実在の人物を取材して書いたいわゆる伝記ものには愚作が多い。この小説もその部類かな。
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2003/04/13
★★★☆ 鯨の哭く海 内田康夫 |
展示された漁師の人形に突き刺された銛、それを凝視する不審な女。捕鯨発祥地・大地の「くじらの博物館」で浅見光彦は奇妙な場面に遭遇した。大地では、6年前、旧家の娘と「鯨が哭いている」のキャンペーンをしていた新聞記者の心中事件があり、その後、現場近くで人形と同じように男が銛で刺殺されていた。心中の遺書と判断された「黒枠の招待状」に疑惑を抱いた浅見は、記者の出身地・秩父を訪ね、もうひとつの殺人事件の存在を知る。捕鯨問題を絡めて浅見光彦の何時もながらの勘が働き事件解決に向け大活躍。内田康夫はどうも捕鯨反対らしい。
捕鯨問題 15年ほど前まで、スーパーの食品売場では鯨カツが当たり前のように売られていた。鯨肉の缶詰もどの店でも見かけた。今は鯨カツや鯨缶を売っている店はなく、時々鮪のトロより高いベーコンを見かけるくらいだ。IWC(国際捕鯨委員会・加盟49ケ国)が商業捕鯨を禁止し、日本も88年にこれを受け入れている。日本は商業捕鯨再開に向けて運動を続け、前回のIWC下関総会では水産庁の小松正之・資源管理部参事官が日本の官僚には珍しくタフなネゴシェター振りを発揮したが再開には至らなかった。(賛成20、反対21、棄権3、 4分の3で可決)。捕鯨は食文化であり、水産資源の確保にも必要という捕鯨国(7ヶ国)に対し、鯨の保護(種の絶滅、可哀相)を掲げる反捕鯨国との感情的な対立は当分続くことであろう。
私見 充分な数量管理のもとでの商業捕鯨の再開には賛成である。このままで行くと、野生種に対する捕獲禁止(特に大型の魚類)の方向にいく恐れがあり、鮪、鰹の将来についても同じことが起こることを危惧する。
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2003/04/22
★★★★☆ ダック・コール 稲見一良 |
河原で不思議な男に出会う。その男が石に描いた鳥の絵は,稚拙ながらも,生き生きとし,鳥に対する深い愛情が感じられ。その石の鳥に魅された若者が次々とみる鳥にまつわる6つの夢。
望遠 3年がかりの記録映画の最後のショットを任された若者は、目の前に舞い降りた珍鳥シベリヤ・オオハシシギに心を奪われ仕事を放擲しまう。 「パッセンジャー リョコウバトの大量虐殺の場に居合わせた若者が見たリョコウバトの絶滅の歴史の1ページ。
密猟志願 パチンコ名人の少年と中年男の友情、男爵の森での鴨の密猟と洒落たクリスマスパーティ。
ホイッパーウィル 脱獄囚を追っての山中のマンハント ハモニカの音色に集まるホイッパーウィル。
波の枕 船の火事で,大海に投げ出された男が流木と大亀、グンカンドリに助けられる。
デコイとブンタ 捨てられた鴨猟に使われるおとりの模型(デコイ)と少年(ブンタ)の友情。少年の陥る危機とそこからの脱出劇。
ダック・コール(鴨をおびき寄せる木の笛)に登場する6篇はそれぞれ趣きが違う短編だが、登場する野鳥は生き生きと飛翔している。鴨を除いて知っている鳥はいないが作者の思いは通じてくる。
南海の住人さんのお勧めで、この本を買いに書店に行くと、94年の初版にも係らず第4版が店頭に平積みにしてあった。今を時めく流行作家達(小池真理子、宮城谷昌光、中島らも)等、を凌いで「山本周五郎賞」を取った時の選考委員の慧眼に拍手。南海の住人さんに勧められなければ出会うことはなかった有難う、面白かったですよ。
稲見一良(イナミ イツラ)は発病してから10年。13回もの入退院を繰り返し、その間に58歳で「ダブルオー・バック」で作家デビューして長編2冊、短編集4冊、随筆2冊を残し、92年(63歳)でガンのため逝く。残りの本も全部読んでみるつもりだ。
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2003/04/28
★★★ 祭ジャック・京都祇園祭 西村京太郎 |
京都祇園祭で騒動を起こすという十津川警部への挑戦状が警視庁に送られてきた。本多捜査一課長(今回は三上本部長に代わっての登場)の指示で休暇扱いで亀井刑事と一緒に京都へ向かう。
祇園祭の山鉾に爆弾を仕掛けたり、お稚児さんを誘拐したりして、合計1億5千万円の身代金を強奪して十津川を翻弄する。
犯人の異常なまでの怨恨の原因が掴めないまま、妻、直子まで誘拐されて十津川警部は窮地に陥る。性同一性障害に悩む男とその恋人の男が(ややこしい)些細な事から十津川警部を逆恨みしての犯行を西村京太郎流にテンポよく展開するエンターティメント。
性同一性障害(DID) 米国では80年頃から精神病の疾患のひとつと認められ、日本でも「体と心の性が一致せず、体の性が間違っていると確信している症状」と医学的にも認められている。98年10月から、埼玉医大で正式な治療行為として性別適合手術が始まった。話題を呼んだTVドラマ「3年B組金八先生」での 鶴本直(上戸彩)。先日の統一地方選で世田谷区議に当選した上川あや氏。女子競艇選手が安藤大将(ひろまさ)として男子選手の登録をする等、徐々にではあるが世間の認知が進んでいる。しかし日本では戸籍上の変更はまだ認められていない。
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2003/05/01
★★★★ わたしのグランパ 筒井康隆 |
父の日記を盗み読みした珠子は「父は囹圄(レイゴ、正しくはレイギョ)のひとであり」という難しい文字を見つけ気になって仕方がなかった。両親と祖母と一緒に暮らしている中学生・珠子の家に、祖父が刑務所から15年ぶり帰ってくる、13歳の珠子は祖父のことをまったく知らない。祖父のことを話したがらない父や、露骨に嫌がる祖母を見ながら、珠子は祖父に対する想像を巡らせる。事前に逃げ出した祖母や、家に迎えて困惑する両親、珠子は「グランパ」に興味を持つ。祖父の行動は珠子を大騒動に巻き込むことになる。
刑務所から戻ってきた祖父・五代謙三は、得体のしれないところがありながらも、怖い感じはしなかった。侠気(オトコギ)、溢れるグランパは「ゴダケン」という愛称で、町の人たちに慕われ、沢山の友人がいる。やがてグランパは、珠子の学校で起きている「校内暴力」や珠子が受けている「いじめ」のことを知り、解決にのりだす。かなり乱暴な解決法ではあるが、それはそれなりに効果を及ぼし、珠子の周囲は少しずつ変わっていく。 珠子の家に起こる地上げをめぐる暴力団とのいざこざ、それとはまた別のグランパをしつこくつけ狙う男たち。帰ってきたグランパをめぐるトラブルは止むこともなく、珠子や珠子の両親をやきもきさせる。
文庫本で150ページにも満たない中篇。珠子に2億円を残し「いい死に方をしたい」と思っているグランパに菅原文太を重ね合わせて気持ちよく一気に読んだ。本が面白かったのでガッカリしないよう映画は観ないつもりだ。筒井康隆は得体の知れない作家だな。
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2003/05/13
★★★★ 慟哭 貫井徳郎 |
赤羽にある「ブックストア談」という大型書店の一番目立つ正面に店長のお勧めと書いて貫井徳郎の本が数冊置いてあった。初めて目にする作家だが、帯に「タイトルは慟哭、書き振りは練達、読み終えてみれば仰天--北村薫」と書いてあるこの本を買う。
痛ましい幼女誘拐事件の続発、難航する捜査。異例の昇進をした若手キャリアの捜査一課長をめぐる警察内部の不協和音、マスコミによる私生活追及。この緊迫した状況下で新しい展開が始まった。サイドストーリーに黒魔術を狂信する怪しげな新興宗教にのめり込んでいく男が描かれていく。これから読む人のためにこれ以上ネタバレは控えます。
作者が93年、25歳の時に「鮎川哲也賞」に応募、最終候補に残りながら受賞を(該当作なし)逃したデビュー作。99年の初版(文庫本)から30版を重ねている面白い本です是非一読を。
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2003/05/19
★★☆ ユーローマフィア ブライアン・フリーマントル |
国境がなくなった「ひとつのヨーロッパ」。そこを我が物顔でで闊歩するマフィア、彼らが牛耳る犯罪は、麻薬、売春、武器密輸に始まり、子供の臓器売買、テロリズムまで拡大し、その不法な収益は激増している。また、マフィアの背後で見え隠れするフリーメーソンという秘密組織の驚くべき正体とは。
フリーマントルは英国の情報員「チャーリー・マフィン」シリーズ、ユーロポールの心理分析官「クローディーン・カーター」シリーズと読み応えのある作品がある。一方「CIA」、「KGB」と本書のようなノンフィクションの系列がある。一度、読んで見ようと思い読み始めたが、なかなか溶け込めず(すぐ飽きる)他の本を5冊読みながら今日やっと読み終えた。昔なら一気に読めたのに、疲れた。
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2003/05/26
★★★☆ ファンタズム 西澤保彦 |
作者 曰く、本格ミステリィーの意匠を借用しているけれど、「本格」でもなければ「ミステリィー」でもなく、幻想ホラー小説とも違う作品。
日米にまたがる理由なき連続女性殺人事件が始まる、遺体の口には必ずある紙片が、現場には犯人の指紋がべったりと残される。殺ったのは"ファントム"、まるで実体のない幻のような奴だ。有銘継哉はテレポート(瞬間移動)の能力をもつ超能力者。誰にも気が付かれないように目立たない生活をしていたが、ある夜、霧の中に浮かぶ風力発電用の風車に触発されて「この世界のルールを理解しよう」なんて無駄な努力は諦め、彼の世界からの解放を感じる。 オイオイ、こんな小説はアリかと思うが「西澤保彦」じゃあしょうがないか。と言いながら彼の本は全部読んでいる。
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2003/06/02
★ 十津川警部の休日 西村京太郎 |
十津川警部たちが休暇中に係った4つの事件を集めた短編集。
友の消えた熱海温泉 熱海温泉で待ち合わせをした友人の画家が突然の失踪。一度スケッチのモデルになっただけで画家を愛するようになった女の異常な執念が起こす殺人。
河津七滝に消えた女 河津七滝を旅行中の十津川夫妻が偶然にOLが行方不明になった現場に遭遇。OLの身辺を調査すると、アルバイトをしていた銀座のクラブに金遣いの荒い客が浮かぶ。
神話の国の殺人 友人が殺人容疑で逮捕され拘留。無実を証明しようと奔走する十津川警部は意外な真犯人にたどり着くが彼にはアリバイが。
信濃の死 休暇中の亀井刑事が泊まった旅館で知り合った芸能プロダクションの社長とモデルが殺害される。犯人逮捕の決め手は野沢温泉のお土産の「鳩くるま」だった。
今回の4編はそれぞれ面白いが全て以前に読んだ記憶がある。前に出した短編集から休暇にまつわる話を抜き出して再編集して、あたかも新刊のように出版するのは如何なものか。少なくとも帯にその情報を載せない徳間書房に「840円の損害をどうしてくれるのか」と強く抗議。本来なら★★★☆のところだが、ガッカリで★ひとつ。
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2003/06/10
★★★★ 人形式モナリザ 森博嗣 |
蓼科に建つ私設博物館「人形の館」に常設されたステージで衆人監視の中、「乙女文楽」の演者が謎の死を遂げた。2年前に不可解な死に方をした悪魔崇拝者。その未亡人が語る「神の白い手」。美しい避暑地で起こった白昼夢のような事件に瀬在丸紅子、保呂草潤平ら阿漕荘の面々が対峙する。「黒猫の三角」に続くVシリーズ第2作。
殺人事件の犯人探し、著名な彫刻家が最後に作っモナリザの行方、悪魔と神、保呂草潤平の新たなる謎。その上、先夫と愛人の出現でヤキモチを妬いたりと瀬在丸紅子は大忙し。こんなに謎を詰め込まないで、ミステリィーだから殺人事件の犯人を捜すだけにして貰いたい。それに、人形に関する薀蓄が多すぎる。それでも森博嗣は面白い。
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2003/06/17
★★★★☆ あやし 宮部みゆき |
「どうしたんだよ 震えているじゃないか」と書いてある帯の言葉が妙にぴったりの、居眠り心中、影牢、布団部屋、梅の雨降る、安達家の鬼、女の首、時雨鬼、灰神楽、蜆塚の9編からなる江戸にまつわる怪談の数々を描いた江戸ふしぎ噺の傑作。
彼女がこれまで江戸時代を舞台にして書いた茂七親分が活躍する「初ものがたり」やシリーズになった霊験お初捕物控などの時代ミステリー小説とは一味違い、古典的な怨念、もののけ、不老不死、鬼などの怪談噺のみで構成される宮部みゆき初めての江戸ホラー短編集。
「理由」を読んでガッカリしたが、この短編集では江戸に生きている人たちが『あやし』に慄きながらも『あやし』の存在を素直に受け入れていく様が優しく語られ、宮部みゆきワールドが充分堪能できた。単行本は高いから文庫になるまで3、4年待たなければならない「ぼんくら」、「模倣犯」、「あかんべえ」など早く読みたい。
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2003/06/23
★★★★ 牙をむく都会 逢坂剛 |
現代調査研究所の岡坂神策は、ひとりでイベント企画からライターまでこなす、いわば便利屋だ。そんな彼のもとに大手広告代理店からハリウッド・クラッシック映画祭の企画と新聞社の友人からスペイン内戦シンボジウムへの協力依頼が同時にあった。この二つの企画内容は得意分野だけに力が入る岡坂だった。ある日、阿久津と名乗る老人と出会い、思わぬトラブルに巻き込まれる。それは半世紀も昔、ソ連強制収容所にまつわる密約だった。
岡坂神策は神保町に事務所を開き。広告業界に身をおき、スペイン内戦に詳しく、映画(特に西部劇)が大好きという。かって博報堂に勤務していた逢坂剛の等身大の設定。今回は著者の趣味と含蓄が余すところなく披露していて楽しめたがミステリィーとしてはイマイチかな。岡坂神策は87年の短編集「クリヴィツキー症候群」で初登場して、長編3冊、短編集3冊を数え、百舌シリーズと並ぶ逢坂剛の代表作。
蛇足。21日に西武池袋線、江古田駅ホームのベンチに読みかけの本「天国の階段 白川道 上」を忘れた。駅員に落し物の問合せをしたところ「ありません」とそっけない返事が返ってきた。そりゃ700円くらいの忘れ物だが、上等の皮のブックカバーがついているのにと、つれない返事に憤慨。
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2003/07/01
★★★★ ストロボ 真保裕一 |
ひたすらに走り続け、いつしか写真家としてのキャリアと名声を手に入れた喜多川は情熱あふれた時代の記憶のフィルムをゆっくり巻き戻す。
一組の夫婦のそれぞれの最後の写真をプロとして撮った50代の今(第5章 遺影)。愛し合った女性カメラマンを失った40代(第4章 暗室)。先輩たちと腕を競い合った30代(第3章 ストロボ)。病床の少女の撮影で成長を遂げた20代(第2章 一瞬)。そして、学生時代と決別しカメラマンを目指したあの日(第1章 卒業写真)。夢を追いかけた季節が胸を焦がす思いとともにストロボの中に浮かび上がる。そこには常に生涯の伴侶である妻の存在があった。
真保裕一の今までの作風とちょっと違った作品である。あえて第5章から始まるそれぞれの年代での転機になった5つのシーンの中に込められた不可解にみえた人の行動にもそれなりの理由がある。そのチョツトした謎がこの本をミステリーとしても成立させていて面白い。
98年に文庫で出版された「ホワイトアウト」が面白く、既刊の「連鎖」、「取引」、「震源」の小役人(?)シリーズを読んで大ファンになってから文庫になった作品はすべて読んでいる。友人が何か面白い本がないかと言うので勧めると彼もファンに。私があげた「連鎖」から「奇跡の人」までの8冊を読み終わってからは、待ちきれず単行本を読んでいると言う。私より3冊も先行しているはずだ。
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2003/07/08
★★★☆ 新・寝台特急殺人事件 西村京太郎 |
東京・幡ヶ谷の路上で起きた喧嘩で、暴走族上がりSS会のメンバーを刺し殺した仁科芳男は海外協力隊員としてカンボジアへ行く予定だった。ブルートレイン(さくら)で長崎に逃げる仁科を、復讐に燃えるSS会と十津川警部たちが追う。名古屋、京都、大阪と走る寝台特急という動く密室の中でもうひとつの殺人が起こる。姿を見せない仁科の行方は、十津川は仁科をSS会から守れるのか。
「寝台特急殺人事件」でトラベルミステリーという新しいジャンルを確立した西村京太郎は、25年周年を記念して実際にブルートレイン「さくら」に長崎まで19時間も乗車して精力的に取材してこの本を書いた。25年前の作品は読んでいる筈だが内容は全然思い出せない。「さくら」がまだ走っているというのも驚きだ。
蛇足。山陽新幹線が開通する前、広島へ出張する時は飛行機を利用していたが、広島の怖い先輩に飛行機は贅沢だと言われブルートレインで出張することにした。東京から直接乗車すると18時台の列車しかなく車内で退屈なので時刻表を調べると、名古屋22時始発(時間は不確か)の「金星」(電車寝台という進行方向に頭を向けて寝れる列車)を発見。名古屋まで新幹線で行き、名古屋の友人と一杯やってからぐっすり寝て広島に朝6時前に到着。駅ビルの中にあるへ温泉(まだあるかな)でひと風呂浴びてから出社した、いい時代のいい思い出だ。
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2003/07/11
追悼 谷恒生 |
昨日の夕刊に訃報記事が載っていた。
谷恒生(57歳)9日、食道がんのため死去。鳥羽商船高卒業後、貨物船乗組員、1等航海士を経て、77年「喜望峰」でデビュー。海洋冒険小説、SF伝奇小説などの分野で活躍した。他の著書に「北の怒涛」「安倍晴明」など多数。77回(喜望峰)79回(ホーン岬)で直木賞候補になるがいづれも受賞を逃した。
32歳の時、「喜望峰」、「マラッカ海峡」の2冊でデビューを飾ったあと、立て続けに発表した、一等航海士としての経験を元にして書いた海洋冒険小説は81年の「フンボルト海流」まで13冊。とにかく面白かった。どういうわけか82年に「魍魎伝説」という伝奇小説を書いた後、「伝奇ロマン」「歴史物」「仮想戦史」と作風が変わってきてからは、87年「飛騨一等航海士」以外の谷恒生の本は読んでいない。彼の2、3年後から出てきた、大沢在昌、船戸与一、北方謙三、志水辰夫ら新しい冒険小説の書き手は自分のジャンルを確立してきたのにと思うと谷恒生の変節は許せない。彼には海洋冒険小説の第一人者としてもっと活躍して欲しかったな。
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2003/07/19
★★★★ マジシャン 松岡圭祐 |
目の前で金が倍にになる。参考人らが口を揃えて証言する奇妙な詐欺事件が多発。事件を追う警視庁捜査2課の枡城警部補の前に、マジシャンを志す一人の少女が現れる。その少女が語ったカネが2倍になるトリックとは。マジックを手段として起きる詐欺事件を捜査2課の刑事とマジシャン里見沙希が協力して追いつめる。そこにはXEウィルスというコンビューターウィルスが巨大銀行に侵入してシステムを破壊するという詐欺師の存在が浮かび上がる。
捜査2課(詐欺・横領・汚職・知能犯等に当たる)の強面の警部補、新人のエリート刑事、科捜研の女刑事のトリオと天才マジシャンがマジックの種明かしを交え詐欺師の野望を砕く変わった警察小説になっている。
松岡圭祐の本は「催眠」、「千里眼」と読んだが、その後の千里眼シリーズは荒唐無稽さがエスカレートしてちょっと食傷気味になり敬遠していた。何気なく読んだこの本は面白かった。すでに続編が刊行されていて「千里眼」の岬美由紀とマジシャン里見沙希、枡城警部補らが政府要人らを人質にしたゲリラ勢力と対決するという話らしい。また荒唐無稽にならなければいいな。
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2003/07/27
★★★ 対決 高杉良 |
中央化学工業、島崎社長が急逝した。会社を牛耳り「天皇」と畏れられる労組委員長・久保田は自身の勢力確保のためにメインバンクからの出向人事をゴリ押しする。社の前途を憂う前社長は久保田に対抗するために通産省OBの三田を次期社長に据え、若手のホープ小津を三田の懐刀に迎えた。
セントラル硝子がモデルと言われる企業小説。今でこそ労働組合の力が低下してストライキを打つのは勿論、労使交渉の場でスト権の確立が武器になるような時代でなくなっているが、高度成長期の装置産業では労働争議は社会的信用の失墜を招くため経営側は極度にストライキを恐れていた。この本のようになダラ幹と呼ばれる労働貴族はこの会社以外にも実際にいたと思う。
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2003/08/06
★★★☆ 陰陽師・生なり姫 夢枕獏 |
12年前、月の明るい晩。堀川の橋の袂に立ち、笛を吹く源博雅と一人の姫。すべては二人の出逢いから始まり、淡い恋に思い悩む友を静かに見守る安倍清明。しかし、姫が心の奥底に棲む鬼に触まれてしまった。
今までに夢枕獏は陰陽師の短編集を4冊出版しているが今回は朝日新聞の夕刊に連載した長編で、物語は短編集にも収録された「鉄輪(かなわ)」をもとに書き直したもので、作者は短編では書ききれなかった鬼に生りかけ姫の悲しさを書いたと言うがこのシリーズのゆったりとした平安京の様が薄れていたのは残念だ。
短編では安倍清明が『博雅は本当にいい漢だなあ』と笛の名手・源博雅とほろほろと酒を酌み交わしながら物語が始まり、平安京の鬼や妖しの悪戯を陰陽の術と式神を使って解決していく様が源博雅の優しさと相まって楽しい話に出来上がっている。短編集はいずれも★★★★の評価なので未読の方はぜひお読み下さい。
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2003/08/13
★★★☆ 夢の島 大沢在昌 |
絹田信一は駆け出しで仕事がないフリーのカメラマン。絵描きだったという父親は蒸発して以来24年間も連絡がとれなかったが、あるとき父親が亡くなったという連絡を受け父親が住んでいたという静岡県沼津へ行き同居していた女性から形見に島の絵をもらう。それ以来、信一の家へ空き巣が入ったり、父親の友人が突然現れたり、形見の絵を5000万円で買いたい言われたり、有名プロダクションから好条件の仕事がはいったりと思いがけない出来事が次々と起きる。 信一と美加と鯉丸との妖しい関係、ヤクザに怪しい紳士、女社長、麻薬捜査官とが絡んで、騙しあい、傷つけあい、そして殺しあう。はたして信一は絵に描かれた夢の島の正体と在処を突き止めるのか。
ごく普通の青年が理不尽な事件に巻き込まれて四苦八苦する様子を快調なテンポで一気に読ませる。大沢在昌のハードボイルドは佐久間公や鮫島刑事のような正統派ばかりでなくこんな主人公も楽しい。
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2003/08/22
★★★☆ 明日香・幻想の殺人 西村京太郎 |
憧れの明日香で死にたいと思うことがある。東京でイタリア料理店を経営する資産家・小池恵之助が失踪した。古希を記念して出版した彼の自伝には、明日香への思いが書かれていた。一週間後、小池は奈良県明日香村の高松塚古墳の傍で、古代貴人の衣装を身にまとい絞殺死体となって発見された。しかも個人資産のうち、30億円が引き出されていたことが判明。警視庁捜査一課の十津川警部と亀井刑事は、秘書兼愛人の早川亜矢子に会うが、彼女は小池の失踪について関与を否定する。だが数日後、彼女も行方不明になる。
今回はミステリーと言うより蘇我氏の三代にわたる栄枯盛衰の物語。いつもの西村京太郎と言うより内田康夫バリだがこれはこれで面白かった。明日香へ行ってみようかな。 約150年続いた飛鳥京は大化の改新で蘇我氏が滅亡した後に難波京へ移され高松塚古墳・キトラ古墳が発掘されるまで1300年間、歴史の闇に眠っていた。明日香村は8月21日橿原市なと周辺六市町と進めていた合併協議から離脱することを決めた。合併すると「明日香」の村名が消えるだけでなく、将来の歴史遺産の保全に支障をきたすという住民らの不安と全国的な反対署名1万8千人が集まったことを受けて判断。
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2003/09/07
★★★★☆ 天国への階段 白川道 |
家業の牧場を騙し取られ非業の死を遂げた父。最愛の女性にも裏切られ、孤独と絶望だけを抱え19歳の夏上京した柏木圭一は、26年の歳月を経て、政財界注目の若き実業家となった。罪を犯して手に入れた金から財を成した柏木が描く復讐のシナリオは着実に進んでいた。そんな中、元強盗殺人犯・及川広美が刺殺される。彼の更生を信じていた定年間近の桑田警部は弔いを誓い志願して捜査にを開始する。愛する女との再会によってかつて歩むことを拒絶された天国への階段を昇り始めた時、運命の歯車が狂い、ひとりひとりの人生が軋みだす。
圭一の復讐計画と桑田警部の捜査を交互に配し、徐々に事件の全貌が姿を現していくという手堅い古典的スタイルだが、この作品の面白さはそうした骨組みよりも肉付けの厚みにある。多彩なキャラクターの一人一人が血の通った人間として描かれているために、ドラマに奥行きと意外性が生じ、それが圧倒的な求心力となっている。しかし登場人物がすべて善人に思えるのは何故だろうか。
角川書店の編集部長を経て93年幻冬舎設立。石原慎太郎「弟」、唐沢寿明「ふたり」、郷ひろみ「ダディ」、五木寛之「大河の一滴」、天童荒太「永遠の仔」など数多くのミリオンセラーを送り出した名編集者・見城徹が東京新聞に連載された作品に大幅な加筆訂正を依頼して2000枚を超える長編ミステリーに仕上げた。見城徹は私が読んだミステリーのベスト3と豪語して宣伝に努め見事に55万部を売上げた。恐るべし名編集者。佐藤浩市、古手川祐子でテレビドラマ化されたらしいが未見。
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2003/09/15
★★★☆ 姫椿 浅田次郎 |
凍てついた心を抱えながら日々を暮らす人々に、冬の日溜りににも似た微かなぬくもりが舞い降りる。魂を揺さぶる8篇の短編集。
シエ (けもの扁に解と書く) 人の不幸を5千年も食べ続けて生きてきた神の獣「シエ」は最後に会った女の不幸の涙を舐めつくして幸せに変えてあげて天国へ旅立。
姫椿 自殺しようとヤケ酒を飲んでいた男は偶然に昔よく通った銭湯を見つける。酔狂に入ってみると20何年まえと変わらぬ番台の親父と坪庭に咲く紅の姫椿に出会う。貧しかったが幸せだった頃、妻の濡れた髪に挿した思い出がよみがえり、再出発を決意する。
再会 幸福を願って別れた女の幸せそうな姿を新幹線の中で目撃する。その数日後にまた新幹線の中で同じ女がこんどは犯罪者として警察に護送されているところに出会う。あるきっかけで一人の人間が二つに分かれて幸せな人生と不幸な人生を別々に歩き始める。
マダムの咽仏 マダムと呼ばれる70歳になる有名なゲイバーの経営者が亡くなった。彼女は家族にその秘密を隠し通し男としての最後を飾る。
トラブル・メーカー 窓際に飛ばされた男と同じく飛ばされたトラブル・メーカーと呼ばれる男との確執。些細なことから恨まれて妻と娘を寝取られた情けない男の話。
オリンポスの聖女 遠い昔に別れた女の面影を忘れられない男が、シドニーの街角で女神の姿でパフォーマンスをしている昔の恋人に再会する。一度も愛していると言ってくれなかった女が示す愛情。
零下の災厄 突然に酔っ払って迷い込んできた女。迎えに来た男が置いて行った500万円の大金はトラブルの匂いがする。
永遠の緑 競馬を愛する退官間近の大学助教授の娘が突然馬券を買い始めた。競馬場で意気投合した若者を家に連れて行くとその男は娘の恋人だった。
ちょっといい話の短編集。浅田次郎は何故か敬遠していたので初めて読んだ。結構、面白かったのでまた読んでみよう。
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2003/09/23
★★ 歴史に消された18人のミステリー 中津文彦 |
源平争乱のミステリー
平清盛、源義朝、源義経、
藤原清衡、藤原泰衡、源頼家
戦国乱世のミステリー
上杉謙信、武田勝頼、織田信長、
千利休、徳川家康、伊達政宗
幕末動乱のミステリー
徳川斉昭、藤田東湖、河田小龍、
坂本龍馬、三野村利左衛門、小栗上野介
乱の時代に登場した18人の人物評伝とともに謎として残された部分に焦点を当てて、様々な人たちの「選択」によって歴史が作られてきたことと、彼等の「謎」がなぜ残されたか、という点に関心を持ってほしい。
と序文に紹介された作者の意図が充分に読者に伝わるような出来ではなかった。手垢のついた歴史上の人物像は類型的で提示している「謎」も不十分。唯一、三井銀行の初代頭取「三野村利左衛門」だけは目新しかった。
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2003/09/29
★★★★ 蝉しぐれ 藤沢周平 |
東北の小藩、牧文四郎は隣家の娘・ふくと淡い恋を育み、生涯の友・小和田逸平、島崎与之助と友情を誓っていた。城下を洪水が襲ったとき義父の助左衛門が農民の為に働く姿を見て、文四郎は父のようになりたいと思う。だが、助左衛門は世継ぎ争いに加担した罪で捕らえられ切腹、家禄を3分の1に減俸される。貧しい暮らしの中で剣術を磨き、師から無敵の剣・秘剣村雨を伝授される。一方、藩主の側室になったふくは国元へ帰り密かに藩主の子を生むが、敵対する里村家老がふく母子の命を狙っていることを知った文四郎は里村の刺客と対決してふく母子を救出する。そして歳月が流れ、郡奉行となった文四郎と藩主の没後に出家を控えたふくが生涯でただ一度の逢瀬の時、二人は青春の思い出を語りあい「今生の未練を残したくない」と言うふくの愛に応える。帰り道に黒松林の蝉しぐれが耳を聾するばかりには文四郎を包み、蝉の声は子供の頃におふくと聞いた雑木林を思い出した。
NHKの金曜時代劇で放送している『蝉しぐれ』が面白く、原作の藤沢周平の本を書店で買い一日で一気に読んだ。ドラマは原作に忠実に作られ特に主演の内野聖陽は初めて見る役者だが抑えた演技で文四郎の清朗さと颯爽とした行動を演じていた。今週の金曜日が最終回なので必ず観るつもりだ。
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2003/10/09
★★★☆ 熱海・湯河原殺人事件 西村京太郎 |
あの男―小早川が熱海に帰ってきた。小早川は、殺人の罪で六年の刑期を務め出所したのだ。熱海と湯河原でクラブを経営していた美人ママが絞殺され、遺体がその隣り合う二つの町の境を流れる川で発見された、という事件であった。小早川の出現により、平穏な温泉町に得体の知れない緊張が走る。そして二週間後、湯河原に住む公認会計士が、熱海のホテルで何者かに射殺された。そんな折、警視庁の十津川警部が、一月前に東京の成城で起きた幼女誘拐事件の容疑者として小早川に接近するが、さらに連続殺人が…。十津川は六年前の殺人事件から、細い糸をたぐり寄せる。
京都の清水寺二寧坂近くにかつて親密な交際を伝えられた山村美紗と隣同士に住んでいたが、山村美紗が亡くなったのを期に取材で訪れて気に入った湯河原に居を構えた西村京太郎が隣接する熱海との間を流れる藤木川が神奈川県と静岡県との県境と気づきこの物語を書いたのだろう。01年10月に西村京太郎記念館をオープンするほど湯河原が気に入っている。
蛇足 山村紅葉という女優は母親の美紗と西村京太郎の原作のテレビドラマには必ず出演しているが他のドラマでは見たことがない。
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2003/10/18
★★★★☆ 鉄道員(ぽっぽや) 浅田次郎 |
あなたに起こる やさしい奇蹟。というキャッチ・コピーで150万部を売上げたベストセラー作品集。この本で117回直木賞を受賞した浅田次郎は作家としての地位を確立した。
鉄道員(ぽっぽや) 律儀で融通が利かないが皆んなに愛された寂れた幌舞駅の駅長・乙松の定年で最後の勤務の日に、生まれて2ヶ月で死んだ娘・雪子が乙松がたったひとつ買い与えたセルロイドのキューピー人形を抱いて現れる。ランドセルを背負った少女、次はもうちょっと大きくなった姿、最後は美寄高校の制服を着た17歳に成長した娘が母親譲りの味噌汁を作ってくれた。段々に成長していく娘の姿を見て安心して死んだ妻と娘のいる天国へ旅立。久しぶりに本を読んで号泣した。DVDを借りて高倉健の映画を観ようかな。
ラブ・レター 裏ビデオの雇われ店長の吾郎は戸籍を貸していた、顔も見たことがない出稼中国人・白蘭が死んだことを知らされ遺体を引き取りに行くことになった。百蘭が死ぬ前に書いた2通のラブ・レター(遺書)を読んだ吾郎は百蘭のやさしさと健気さを知り、お骨を本当の妻として故郷の墓に埋めてやろうと決心する。続いて号泣。西田敏行が主演したテレビ番組が本を読んだ日に再放送されていたが、「角筈にて」と一緒にした脚本に無理があり哀しさが伝わってこなかった。
悪魔 裕福な家庭の少年の家に家庭教師として陰山がやってきた。厳格な指導で成績が飛躍的に上がるが少年には陰山の姿が悪魔のように見え始め、やがて悲劇が起こり始める。ちょつと不出来。
角筈にて 商社マンで出世頭の貫井はあるプロジェクトの失敗で海外へ左遷される壮行会の夜、新宿のコールデン街で子供の頃に角筈で自分を捨てた父親の幻に出会う。作者の忌まわしい幼児体験をもとにしているこの小説を書くことで父親を許したという。少し泣けた。
伽藍 伽羅というブテックを経営する素人の女店主をアパレルメーカーの社員が過剰な仕入れを強いて破滅させる話が興味深い。作者が若い頃に身を置いたファッション業界の裏話だという。
うらぼんえ ちえ子は子供を作らないで医師の夫に薬剤師として尽くしてきたが夫は看護婦と浮気をして外に子供を作った。跡継ぎの欲しい夫の親戚たちは新盆で夫の実家へ来たちえ子によってたかって離婚話を進める。困惑するちえ子の前に亡くなったちえ子の祖父が「うらぼんえ」の客として現れ、ちえ子を応援して精霊流しの船に乗って帰っていく。離婚を決意したちえ子は突然子供を生みたいと思った。これもいい話だな。
ろくでなしのサンタ クリスマスの日に柏木三太はポン引きで留置されていた警察署から放免される。街中を流れるクリスマスソングを聞いて雑居房で出会った男がクリスマスを楽しみにしている小学生の二人の娘の話したのを思い出して柄にもなくクリスマスブレゼントを届けたいと思った。スヌーピーの縫いぐるみとシクラメンの花と饅頭をそっとアパートのドアの前に置いて帰えろうとする背後から「サンタさん ありがとう」と女の子の甲高い声が聞こえ思わず「メリークリスマス」と大声で叫んで幸せな気持ちになった。これは作者そのものだという。
オリオン座からの招待状 夫の浮気で別居をしている幼馴染の夫婦に京都の西陣にある映画館の閉館の知らせと最後の上映会の招待状が届いた。思い出深い映画館へ嫌がる夫を誘って出かける。子供の頃の特等席である映写室の小窓から二人並んで映画を観ているうちに仲が良かった頃を二人して懐かしみ、もう一度やり直す気持ちになっていく。作者が最も私らしい作品と言う。
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2003/10/23
★★★★ 華栄の丘 宮城谷昌光 |
争いを好まず、あえて負けを選ぶことで真の勝ちを得る。乱世にあたって自らの信念を曲げることなく、詐術とは無縁のままに生き抜いた小国・宋の名宰相、華元。名君・文公を助け、ついには大国・晋と楚の和睦を実現させた男の生涯を、さわやかに描き司馬遼太郎賞を受賞した作品。
司馬遼太郎が宮城谷昌光の『重耳』、『晏子』を読んで絶賛をして、漢文的世界を描くのは自分が最後の作者だと思っていたが宮城谷さんの登場と、さらにはその旺盛な創作活動をみると安心をしたと編集者に葉書を出した。これを受けてその編集者は二人を引き合わせ食事会を開くことにしたのは司馬遼太郎が亡くなる40日前だった。坐骨神経痛が悪化していたにも係らず、司馬遼太郎は深夜まで楽しそうに過ごしたという。
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2003/10/31
★★★☆ 薔薇盗人 浅田次郎 |
三島由紀夫の死を探求するために陸上自衛隊へ入隊したという経歴を持つ浅田次郎が三島由紀夫の傑作『午後の曳航』を意識して書いた薔薇盗人を初めとする6篇の短編集。
あじさい心中 出版社をリストラされた中年のカメラマンが東北の温泉地の年増のストリッパーから心中をもちかけられるが、突然のアクシデントで未遂に終わる。
死に賃 『死ぬ時の苦痛からいっさい免れるとしたらいくら払うかね』と言っていた親友の死をきっかけに怪しげな団体の秘法に興味を持った男の最後は。
奈落 高層ビルのエレベーターで転落死をした男は事故か自殺か。昇進を拒否して社長の不興を買ったばかりに落ちこぼれ社員の人生を歩んでいった男に対する周囲の眼は。
佳人 一流大学卒の商社マン。長身で明朗闊達、語学堪能で出世街道驀進中のハンサムボーイは実は『ババコン』だった。
ひなまつり 父親の居ない少女に優しくしてくれる母親の恋人がひな祭りの夜に少女に別れを告げた来た帰りに交通事故に会う。”ひなまつり”に寄せる少女の想いと、そこにひそむ孤独感が巧みに表現された「泣かせの浅田次郎」の傑作。
薔薇盗人 世界一周の航海に出ている父親に綴った少年の日常のさりげないスケッチのなかに、薔薇の優雅な美しさに包まれた母の背徳の匂いを漂わせる。
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2003/11/08
★★★★ 縮尻鏡三郎 佐藤雅美 |
拝郷鏡三郎は、もと勘定方御留役で将来を嘱望され、勘定奉行も夢ではない出世コースを歩んでいたが、いささかの仔細があってクビになりしくじり鏡三郎と呼ばれている。かっての上司の勘定奉行・三枝能登守の尽力で大番屋の元締として再就職を果たす。仮牢兼調所でもある大番屋では、町方の怪事件から老中の心配事まで持ち込まれるが、鮮やかに解決する鏡三郎の評判があがり、遂には将軍から、長崎での交易が不振になり、赤字が続くようになった原因を調査するように依頼される。
時代小説は「藤沢周平」、「司馬遼太郎」、「山本周五郎」は欠かさず読んでいたが最近は「宮部みゆき」くらいしか読まなくなっていた。中村雅俊が軽妙に演じていたNHK金曜時代劇が結構、面白かったので゛原作本を探して読んでみた。これが大当り、他の時代小説も験してみようかな。
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2003/11/14
★★★☆ 十津川警部「家族」 西村京太郎 |
刑事にも「家族」がある。その家族の一人が、刑事事件を起こしたら、当の刑事はどうするのだろうか。冷静に、その家族のことは第三者に任せて、自分では動かず、上司の指示を仰ぐのが賢明だが、人間は理屈では動かず、情で動いてしまうものである。
警視庁の田中刑事が突然、辞表を残して姿を消した。飲酒運転で人をはね、死体を奥多摩に埋めた弟を守るためだった。部下の苦境をつかんだ十津川警部が対処に苦悩する一方、田中は追い詰められていた。兄弟の実家を監視する謎の男が出現、さらに埋めたはずの死体が消失していたのだ。単純な交通事故と思われた事件は政界と製薬会社をまたにかけた、スキャンダルに発展していく。上層部からの田中刑事逮捕の圧力がかかる中、部下を信じる十津川は田中刑事を救うことが出来るのか。罠に嵌められたとはいえ、死体を轢いた「死体損傷」と隠匿しようとして山中に死体を埋めた「死体遺棄」など田中刑事の弟の犯した罪は起訴の対象となりえると思われる。この場合田中刑事の復職は現実問題として可能だろうか。「家族」の犯罪は警察官の身分に影響がでるのか知りたいと思う。
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2003/11/22
★★★★☆ 子産 宮城谷昌光 |
春秋時代半ば、鄭という小国は中華のほぼ中央に位置して、北の晋と南の楚という超大国の間で味方になったり敵になったりを繰り返し揺れ動いていた。乱世の戦場に名将・子国の嫡子として生まれ、孔子が尊敬したこの時代最高の知識人・子産は、大国に挟まれた小国の難しい外交、内政に取り組み、信義なき自国の悲哀を見つめながら、礼をもとにした自らの理念を貫き鄭の名宰相として後世に名を残す。吉川英治文学賞受賞作品。
紀元前770年から476年までのおよそ300年間が作者が好んで取り上げる群雄割拠の春秋時代である。作者は『春秋左氏伝』など、資料の多い子産を直接に取り上げるのではなく、全編の7割を割いて戦乱の鄭で鮮やかな武徳をしめす名将・子国に独自の焦点をあてることにより父親の眼を通した子産の異能ぶりを描いている。
子産が亡くなった年は紀元前522年。尊敬する鄭の賢相の死を知った孔子は『古(いにしえ)の遺愛なり』と涙を流したと、いった。その時孔子は30歳で、まさに『三十にして立つ』という、独立して儒家を立てた特別な年であった。
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2003/12/01
★★★ 三毛猫ホームズの卒業論文 赤川次郎 |
杵谷淳子と水原悠一は共同で卒業論文に取り組んでいたが、完成と同時に悠一が何者かに刺されてしまう。一方の淳子も友達の結婚式で、新婦をかばって刺される。意識を取り戻した淳子は、悠一が刺されたのは自分達の書いた卒論のせいではないかともらす。その内容というのは、ある殺人事件についてで、「犯人は別にいる」という結論に達したという物だった。妹・晴美の親友の結婚式に出席中にまたもや事件に巻き込まれた片山義太郎とホームズ、今回画家として活躍の栗原警視や石津刑事たちお馴染みのメンバーが登場する「三毛猫ホームズ」シリーズ、第40弾。
ユーモア推理と言う独特のジャンルを定着させて「大貫警部」、「三姉妹探偵団」、「杉原爽香」などのシリーズを含め450冊を刊行している大ベストテラー作家。78年に発売された第1作「三毛猫ホームズの推理」から欠かさず読んでいるが、他の作品はあまり読んでいない。
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2003/12/08
★★★☆ 見知らぬ妻へ 浅田次郎 |
愛しているから、別れるあなたへ。浅田次郎が魂を込めて贈る8つの涙の物語。「鉄道員(ぽっぽや)」ほど泣けなかった。
踊子 遠い昔、新宿の歌舞伎町の踊子ナオミとのひと夏の思い出。僕はあの夏、美しい踊子に恋をした。こんな青春の思い出は羨ましい。
スターダスト・レヴュー 赤坂のクラブで働く挫折したチェロリストに成功した指揮者の友人が訪ねて来る。戻れない過去に決別して今の仲間たちと生きていくことを決意する。軽い食事と生演奏、昔はこんなクラブがたくさんあったな。
かくれんぼ 35年前、不器用な混血のジョージをかくれんぼの鬼にして置き去りにしたことが忘れられない幼馴染の3人が現場のかえで山で「もういいよー」と声を揃えて叫ぶ。子供の頃、武志みたいなガキ大将がいた。今頃は反省しているかな。
うたかた 新築の団地に移り住んだ喜び。希望に満ち溢れたあの頃は遠い過去になった。巣立った子供を見送り夫に先立たれ、孤独死を選ぶ老婦人。昔、住んでいた団地も今は高齢者のひとり暮らしが増えていると聞いているが、こんなことが起こらないようにと思う。
迷惑な死体 アパートに見知らぬ死体を置いていかれ男のドタバタ劇。
金の鎖 思う相手と結ばれないまま不本意な独身生活を続ける女が、昔、愛していた男のそっくりな息子に出逢い、男から貰った金のブレスレットを返すことで新しい人生をスタートする。ボタンの掛け違いはよくあること。
ファイナル・ラック 会社の金を競馬につぎ込んで自殺した友人を思い、最後の競馬を40回有馬記念のマヤノトップガンとタイキブリザードの2-10(47.7倍)を50万買うことにした男。14回有馬記念が忘れられない。8歳馬スピードシンボリが1番人気アカネテンリュウをクビ差振りきってグランプリを連覇した。枠連5-6(7.5倍)を1点で的中。
見知らぬ妻へ 新宿・歌舞伎町で客引きとして生きる男が偽造結婚した中国人女性を愛しはじめる。中国・フィリッビン女性が働くクラブへは時々行っていた。日本人と結婚している女性が何人かいた。戸籍を貸すということはよくある話だ。
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2003/12/14
★★★☆ JR周遊殺人事件 西村京太郎 |
JR北海道からJR九州まで6ブロックの鉄道を舞台に警視庁捜査1課・十津川警部が活躍するミステリー。
JR北海道 北の果ての殺意 根室発、釧路行きの一両編成の快速「ノサップ」が脱線事故を起こした。事故から1ヶ月後の同じ日に再び事故が起こり、取り込みサギを追いかけていたルポライターが死亡。なおも鉄道を狙うと脅迫状が届くがJRに恨みをもつ人間の犯行なのか。釧路へは何度か行ったことがあるが根室までは行けなかった。花咲蟹は根室の花咲港でお獲れることでこの名前がついがタラバや毛蟹より味は落ちる。
JR東日本 北への列車は殺意を乗せて 仙台に単身赴任をしていた男が時限爆弾の爆発で死亡した。男の愛人に容疑がかかるが彼女にはアリバイがある。新幹線の棚に荷物だけを乗せて爆弾を運ぶアイデアは秀逸。昔、大阪に行く友人に書類を頼み名古屋で受取った事があるが停車時間が短く大変だった事を思い出した。
JR東海 イベント列車を狙え 結婚詐欺に合い多額の金を騙し取られて人生が狂った男に見知らぬ女から逃げた女が伊勢詣へお座敷列車「江戸」でいくイベント列車に乗ると電話がある。女の言うままに列車に乗った男は罠にかけられ殺人事件の犯人にされる。
国鉄からJRに変わってから季節限定でトロッコ列車、バーベキュー列車、ミステリートレインなど多くのイベント列車が運行され収益をあげている。道路公団もJRに習い民活で赤字を解消して欲しい。
JR西日本 日曜日には走らない 兵庫駅と和田岬を結ぶ全長2.7kの山陰本線の支線で殺人事件が起こり、フリーカメラマンが雑誌編集長の罠にかかり殺人事件の容疑者にされる。朝5本、夕方6本だけ運行して工場地帯へ通勤する人だけを運ぶ支線。こんな不採算な路線を作らしたのは誰なのだろうか。
JR四国 恋と復讐の徳島線 廃館になった旅館に好意で泊めた4人の男女の火の不始末で帰省中の息子夫婦が焼死した。復讐を誓う父親は十津川が立ち寄る本屋の親父なのか。旨い魚が食べれると淡路島から徳島へ行く話があったがお流れになり、とうとう徳島へは行く機会がなかった、残念。
JR九州 神話の国の殺人 十津川警部の友人が妻を殺した容疑で逮捕される。助けるために犯人のアリバイ崩しが始まる。
九州の長崎、佐賀、大分、宮崎と徳島、沖縄には行ったことがない。いつか、これらを巡り全国制覇を果たしたいと思っている。
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2003/12/22
★★★ 龍神の女 内田康夫 |
内田康夫と5人の名探偵と謳った短編集。作者の好みで短編はあまり書いていない、この本で6冊目の短編集。
龍神の女 91年 南紀の龍神温泉で奇妙な女の子守唄が聞こえる。我が子に麻薬を飲ませて死亡させてしまった母親が精神に障害を起こし次々に殺人を犯しながら麻薬入りの人形を持って逃亡する。探偵役は熟年の大学教授夫妻。
鏡の女 86年 初恋の女性から突然に姫鏡台が送られてきた。その鏡台に暗号で記されたHELPの文字を見つけたときにはすでにその女性は死亡していた。ご存知、浅見光彦の登場。
少女像は泣かなかった 88年 涙を流す不思議なブロンズの少女像がある家の社長夫人が首を吊って死んでいた。殺人事件の謎を解くのは車椅子の少女。
優しい殺人者 83年 もぐりの金融業をしていたスナックの美人ママが絞殺された。捜査主任はキレ者と言われる警視庁・捜査一課の警部。この捜査主任が面白い。河豚のように太っった異様な風体で、居眠りしながら座ったままで事件を解決する。
ルノアールの男 83年 腕力だけが取柄の男が探偵社を始めるにあたり、高校時代の級友たちがスーパーパソコン「ゼニガタ」を作りプレゼントをする。その能力で次々と事件を解決していく連作集「パソコン探偵の名推理」の第一作目。この名探偵は警視庁の科捜研とオンラインで接続され、ボイス・アイセンサーなどで音声、写真、指紋を分析する人工知能だが、カタコトいう音とカナ文字での出力なのは時代を感じさせる。
龍神の女以外は他の短編集で読んだ記憶がある。短編は嫌いと言わずに浅見光彦以外の名探偵(特に車椅子の少女)を主人公にして連作短編集を書いたら如何てすか。内田康夫殿。
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2003/12/30
★★★☆ 天国までの百マイル 浅田次郎 |
浅田次郎の本にはとびっきりの善人たちが登場する。バブル崩壊で会社も金も失い、妻子とも別れたろくでしの中年男が、兄弟たちが見捨てた心臓病を患う母の命を救うために立ち上がる。失業した男を雇う高校時代の同級生の心からの支援、大学病院の担当医の良心、ヤクザまがいの金貸しの男気、別れた妻が母にかける優しさ、極めつけは男に底抜けの無償の愛情をそそぐ新宿のキャバレーに勤める女。彼等の協力に支えながら、母親の心臓手術をするためにオンボロ車に乗せて天才的な心臓外科医がいるという千葉の病院をめざし百マイルをひたすらに駆けぬけて、男は奇跡を見る。またまた、泣かせの浅田次郎の術中に嵌まる。
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