■ 肝臓病でも“脱亜入欧”へ
肝臓病は種類が多く、医師国家試験でも受験生を悩ませています。私はわが国と外国の肝臓病の教科書をいくつかもっていますが、いちばん大冊のものはイギリスから1991年に第1刊が刊行された「Oxford Text of Clinical Hepatology」という本です。上・下巻に分かれ、全部で1,500ページ以上もあります。私もしばしばこの本を参考にしますが、学生の試験用などに参考にする場合はともかく、一般臨床の参考のために読む部分は限られています。ほんの一部しか必要ないのです。アメリカなどは多民族国家ですから、いろいろな人種が混血しています。その結果、各民族が人種的に受け継いでいる多種類の遺伝病がみられますが、わが国は単民族国家ですから病気も限られています。
表(下段)に教科書に基づいてつくった主な肝臓の病気を羅列的に書いておきましたが、下線の引いていないものはわが国ではきわめてまれと考えていただいてよいと思います。わが国では従来多かった急性肝炎が減少しています。感染源としてのHBキャリアの減少やワクチン接種などにより積極的予防策でB型急性肝炎例が減少し、また、供血者のHCV抗体検査により輸血後C型肝炎が激減したのがその主な原因です。ですから、相対的にA型急性肝炎が増加しています。
わが国の公衆衛生レベルの向上や栄養状態の改善もウイルス性の急性肝炎の向上に寄与していると思われます。わが国は東南アジア諸国の一員ですから、元来ウイルス肝炎が蔓延していたのですが、医学の進歩により減少しつつあるのです。日本は明治維新後“脱亜入欧”を国是とした時期もありましたが、肝臓病の世界ではやっとそのことが実現しつつあります。今後はアルコール性や薬剤性など欧米型の肝臓病へと疾患構造が変化していくと思われます。
■こわい輸入肝炎
わが国でウイルス肝炎が減少しているため若い人たちのほとんどはA型肝炎やB型肝炎に対する抗体をもっていません。この方たちが東南アジアなどに旅行すると現地でA型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスに感染し、帰国して発病することもあります。これを輸入肝炎といいます。先日も新婚旅行先のモルジブの、汚い排水の流れ込んでいる海岸でアクアラングをやり、夫が重症なA型劇症肝炎を発病してしまったカップルがいました。やっとの思いで助けましたが、楽しいはずの新婚旅行も台なしです。A型肝炎は主として生水や新鮮な魚介類を介して感染するので同情されますが、B型はセックスで感染することが多いので、同情も得にくく、場合によっては家庭争議の種となります。海外に出かけたときは行いを慎みたいものです。
与芝 真 : 肝臓病の生活ガイド, 医歯薬出版, 東京, 1998 より
与芝の略歴はコラム1を御参照下さい。

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