肝臓病教室

肝細胞が壊れるメカニズム(後編)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2006年06月15日
前回の[2]の話です。
自分で自分の肝臓を傷つける免疫反応
 [2]の『原因に直接肝毒性がない場合』の肝障害とは何によって起こるのでしょうか。たとえば、ウイルス肝炎の場合は肝細胞にとりついたウイルスを排除するため、自分で自分の肝細胞を破壊する反応といわれています。ヒトは異物が体内に入ってくると抗体をつくってこれを排除しようとします。しかし、ウイルスがいったん肝細胞に入ると抗体は大きくて細胞内に入れないので、どうしても肝細胞から血中へとウイルスを叩き出さなければなりません。このために、自分のリンパ球のうち細胞障害性Tリンパ球とよばれるリンパ球が、肝細胞表面に呈示されているウイルス関連抗原を標的にしてその表示のある、つまり感染を受けている肝細胞を破壊します。破壊された肝細胞内に巣食っていたウイルスは血中へと排除され、抗体の処理を受け、最終的に体外に排除されます。
 しばしばウイルス肝炎とか自己免疫性肝炎という病名がつけられますが、肝炎とはなんでしょうか? 肝炎の定義は、代表的な病理学者で日本大学・故内田俊和先生によれば、たんなる肝細胞壊死のみでは肝炎とよばないそうで、それとともに血液のなかを流れているリンパ球が肝臓に浸潤するなど宿主の反応をみたときに肝炎とよぶのだそうです。このリンパ球のなかに前述の細胞障害性Tリンパ球が混じっています。
 あまりに単純化することには反論もあるかと思いますが、肝炎と端的にいえばこの細胞障害性Tリンパ球を中心とする免疫反応によって肝細胞が壊される過程と言い換えることができます。つまりウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、薬剤性肝炎などいろいろな肝炎がありますが、肝炎とつけば原因のほうでなく、自分が肝臓を壊していると大ざっぱに考えてよいということです。
 自己免疫性肝炎は自分自身の肝細胞膜の構成成分が抗原となって免疫応答を惹起するという厄介な病気です。この場合も病理学的には肝炎反応が起こっており、自分のリンパ球が自分の肝細胞を壊しているわけですが、ウイルス肝炎とは薬の効き方も違うので、壊し方の細かいメカニズムはウイルス肝炎とは異なると考えられます。
 
アレルギーによる薬剤性肝炎
 薬剤性肝炎は前回でお話した中毒性肝障害とは肝細胞の破壊機序がまったく異なります。中毒性肝障害の場合は肝毒性のある特殊な薬剤によって肝細胞が壊されるわけで、わが国ではパラセタモール中毒が少ないこともあって(風邪薬で死ぬことはあまり知られていないし、1錠には少量しか含まれていないので、死ぬほどの量を服用するのがたいへんなのです)、一般にはほとんどみることはありません。ですから、わが国でみる薬剤性肝障害の大半はこの薬剤性肝炎です。薬剤性肝炎はおそらく個人の特異体質に基づくアレルギー反応によって起こると考えられます。肝毒性のない薬でもその個人がアレルギーを起こすと、その反応の表現として自分が自分の肝臓を壊すことになるわけです。
 
 与芝 真 : 肝臓病の生活ガイド, 医歯薬出版, 東京, 1998 より改変

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