前回お話した、肝臓病の肝障害機序を[1]原因自体による障害、[2]宿主側(患者側)による障害に大きく分けることは肝臓病の治療を考えるうえで重要なポイントになります。つまり、原因自体に肝障害性がある場合(ほとんど肝炎以外)は原因を早く除去してしまえばよいわけです。[2]の場合(ほとんど肝炎)も宿主側の障害を誘発している誘因の排除が大切ですが、それが簡単にできない場合は宿主側の免疫反応を調整する(強める場合も弱める場合もありますが)ことが治療上必要となります。
この考え方に基づいてなぜウイルス性肝炎が急性肝炎、慢性肝炎、劇症肝炎に分かれるのか考えてみましょう。肝炎とは細胞障害性Tリンパ球が感染を受けている肝細胞を壊して、なかに巣食っているウイルスを排除しようとするメカニズムであることを説明しました。肝臓は再生のよい臓器ですから壊れても別に困らないのです。トカゲのしっぽ切りのようにあとから生えてくるわけです。ですから、このような治し方は肝臓にとって合理的な方法といえましょう。この場合、ウイルス感染を受けた肝細胞の量と宿主側の免疫反応の強さで肝炎の形がきめられてしまうといわれています。
もし感染を受けている肝細胞の量が一定範囲以内で宿主の免疫応答が正常であれば、その肝細胞は破壊されますが、ウイルスが排除されて肝炎は鎮静化し肝細胞の再生が起こり、肝臓は元どおりに回復します。これが急性肝炎です。もし宿主の免疫応答が弱いと肝細胞の破壊が不徹底となり、ウイルスが排除されずに残ってしまいます。肝細胞は破壊に応じて再生しますが、その再生肝細胞にふたたび感染が起こり、感染を受けた肝細胞はふたたび破壊されます。このように再生と破壊が持続していくのが慢性肝炎です。劇症肝炎は、@広範囲の肝細胞が感染を受けている、A免疫応答が強くて急激に肝細胞が破壊される、この2つの条件が成立すると広範囲の肝細胞が一挙に破壊されてしまい、下手をすると全部の肝臓が壊されることになります。
【 シリーズ ウイルス以外を原因とする肝臓病B 自己免疫性肝炎 】
中年女性に多い病気です。ウイルス性の病気の多いわが国にあって珍しくウイルス性でない肝臓病です。生体は外界から侵入してくるウイルスや細菌など自分でないもの“非自己”に対して免疫反応を起こしこれを排除しようとします。自己免疫病とは自己に対して免疫反応をおこしてしまう病気で、いわば自己に対する内なる反逆といった現象です。これが細血管に起こったものがSLE、関節に起こるとリウマチ様関節炎になります。自己免疫性肝炎とは、おそらく肝細胞膜の構成成分という自己に対して免疫反応を起こしてしまう病気と考えられます。通常、発見されたときは慢性肝炎になってしまっていることが多く、しかも肝炎は活動的に急激に肝硬変になってしまうこともあります。診断は抗核抗体の陽性とIgG(免疫グロブリンの一種)値の高値(2,000mg以上)で確定します。そのほか血沈が促進していたり、リウマチ因子陽性なども参考になります。また自己免疫性疾患の1つなどで、他の自己免疫病(リウマチなど)を合併していることもあります。
女性の肝障害でウイルス性であることが否定されたら、つぎにこの病気を考える必要があります。治療としては副腎皮質ホルモン剤を使用します。基本的に一生治る病気ではないので長期に服用する必要があります。副腎皮質ホルモン剤がきわめてよく効きますが、この薬は胃潰瘍、糖尿病、骨粗鬆症などの副作用を起こすので、なるべく少量で効くようにする工夫が必要です。
与芝 真 : 肝臓病の生活ガイド, 医歯薬出版, 東京, 1998 より改変
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