肝臓病教室

肝癌(前編)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2006年06月22日
ワースト3の癌
 現在、男性では全部の癌のうち3位を占めています。2004年をピークにやや減少に転じています。肝臓病の原因となって亡くなる場合は、肝癌、食道静脈瘤からの出血、肝不全が3大死因なのですが、後者2つの対策が立つようになって以来肝癌による死亡が増加しており、比率としては7:2:1といったところでしょうか。また、他のアジア諸国ではHBV感染を原因とする肝癌が多いのですが、わが国ではHCV感染を原因とする肝癌が圧倒的に多いのです。これはわが国で過去に盛んに輸血や血液製剤を投与したことと関係がありそうです。
 ウイルス以外でもトロトラストなどの薬物による肝障害、ヘモクロマトーシスなどの重金属による肝硬変などが素地になって肝癌が発生することも知られていますが、頻度的にはまれで、わが国の肝癌はほとんど肝炎ウイルスが関連していると考えられます。一時、アルコールだけでも発癌するといわれましたが、HCVの存在が明らかになるとアルコール性肝癌といわれていたものの大半はHCV陽性であることがわかり、アルコール単独で発癌することはまれと考えられています。B型のマーカーとC型のマーカーのいずれも陰性の肝癌も少数ありますが、おそらくB型かC型かどちらかのマーカーが消失した原因による肝癌と考えられています。
 なぜウイルス肝炎から発癌するかという問題はいまだ十分理解されていません。大半は肝硬変を素地に発癌することから、肝硬変という状態が発癌の原因となると考えられた時代もありました。しかし、分子医学が進歩すると、B型肝炎ではウイルス感染が長期化するとウイルスの核酸の配列の一部(ゲノム)が宿主側の配列のなかに組み込まれることがわかってきました。一般に発癌のための重要な前提条件として遺伝子構造の改変があるので、この組み込みがB型肝炎の発癌と密接に関連すると考えられています。またウイルス増殖が発癌と関係する事も解明され、ウイルス増殖の抑制が発癌抑制につながる事も解ってきました。
 一方、C型の場合はRNAウイルスであり、このままでは宿主の遺伝子(DNA)に組み込まれることはありません。組み込むためにはcDNAという相補的なDNAに転写される必要があり、事実エイズウイルスはこの機構により宿主のDNAに組み込まれます(レトロウイルスとよばれます)。ところが、HCVにはこの機構がないので組み込みが起こらず、発癌のメカニズムはB型とC型では違うと考えられています。
 そのためか、B型とC型では発癌の様子が異なります。ともに肝硬変になると発癌しやすいのは同じなのですが、B型では初期の慢性肝炎からでもウイルス量が多いと発癌します。一方、C型では血小板が減るとその数に応じて発癌確率が上がるという話がありました。血小板の数は肝線維化の進行を大ざっぱに把握する検査ですから、このあたりの事情をいったものです。もっとも、これまで述べたように肝炎の進行はいろいろな指標を総合判定して決めるもので、血小板だけでわかるものではないことは理解していただけると思います。
 
続きは次回の後編にて。
 
 
 与芝 真 : 肝臓病の生活ガイド, 医歯薬出版, 東京, 1998 より改変
 

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