肝臓病教室

肝臓病の患者さんのもつべき基本的な心がまえ(後編)・・2006年06月09日
結核は薬で治るが…
 感染症にはいろいろの種類がありますが、主要臓器を侵し、慢性化し、難治性の経過を示すといえば、ウイルスと細菌の差はあるとしても、肝臓病に似た病気は結核でしょう。肺結核は戦前わが国の国民病ともよばれ、たくさんの人の生命を落としました。とくに、思春期から青年期の若い人が結核に侵されて長期療養をやむなくされ、その挙句に亡くなりましたから、たくさんの悲劇を生みました。しかし、結核の治療を一変させたのは戦後のストレプトマイシンやPASの発見でした。このようなきわめて有効な薬が治療に応用されるようになってから、もはや結核は不治の病ではなくなり、また療養態度も大きく変わりました。高原やサナトリウムなどへ行く人はいなくなり、最近では排菌がないかぎり入院も必要がないとされるようになりました。症状がなかったり、軽ければ普通に働きながら治してしまう人もたくさんいます。
 このことは感染症の場合は有効な薬剤さえ見つかり、それが十分施されれば特別に安静や栄養がなくとも治ってしまうことを意味しています。もちろん、病気一般に対する心構えとして休養とか栄養は無意味とはいいませんが、感染症の場合はそればかり気にしていてもそれだけで治る保証はないのです。
 
ウイルス肝炎は主治医の腕が大切
 結核菌は発見されてからすでに1世紀を経過しているのに対し、ウイルス肝炎はもっとも早くみつかったB型肝炎ウイルス(HBV)でも発見後30年余しかたっていませんし、現在わが国でもっとも多くの人を苦しめているC型肝炎ウイルス(HCV)に至っては、17年しかたっていません。そのため、ウイルス肝炎の治療はまだ確立されない未熟な段階なのです。結核の場合は治療法が確立されているので病院間の治療レベルの差は少ないのですが、肝臓病の場合は治療開発の歴史が浅いために進歩が速く、病院間の格差が大きいのです。とくに私の専門とする劇症肝炎では著しく、患者さんの生死は実にどの病院に入院したかによって決まってしまいます。慢性肝炎、肝硬変、肝癌ではこの格差はより小さいのですが、それでも熱意をもって治療にあたる病院とそうでない病院の間には治療成績に大きな差がでます。
 生活習慣病と違い感染症が主体のわが国の難治性肝臓病では、どうしても自分は自分の主治医に絶対になれない部分があります。端的にいえば、主治医の腕に生命をあずけざるをえないのです。そして肝臓の病気が重いほど、進行的なほど、あずける部分が大きくなっていることを知っていなければなりません。
 この場合の患者さんのとるべき療養態度は、肝臓病に対して広く正しい知識と確かな医療技術をもった優れた肝臓専門医をみつけて、その管理下で生活態度や根本的治療方針をたててもらうことです。もちろん、家庭医や一般の内科医の価値を否定するわけではなく、私自身もその先生の協力のもとに治療を進めています。しかし、私自身も肝臓専門医となって20年以上何千人という多種類の肝臓病患者を診察し、劇症肝炎という修羅場を経験していますが、それでもまだ未知な部分が多く、肝臓病学は奥が深いことを実感します。ですから、軽い肝臓病はともかく本当に重くなる肝臓病の管理や治療は限られた専門医の仕事です。一度優れた肝臓病学の門をたたくべきです。軽ければそのアドバイスによって、ふだんは家庭医にみてもらうのがよいと思います。
 
 与芝 真 : 肝臓病の生活ガイド, 医歯薬出版, 東京

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