■ 知識過剰より自分を守る心構えを
前回まで肝臓病のうち、とくにウイルス肝炎の場合の患者さんはけっして自分の主治医になれないことをいいました。その点では専門医なみの知識を身につけても仕方がないように思います。家庭の医学のような百科事典的な本のなかには、かえって知ってしまうと読んだ患者さんが心配のあまりノイローゼになってしまうような内容が遠慮なく書かれている場合もあります。これは執筆者が専門書をたんに字句だけやさしく書き直しているからです。患者の視点で書かれていないのです。ですから、患者さんが自分の病気を考えるうえでぜひ知ってほしいことを中心に今後掲載しようと思います。
本来、主治医が立派であれば患者さんはその立派な先生にすべてを任せてなにも心配なく生活を楽しんでいられるというのが、ある意味での理想でもあります。その代わり、すべてを委託された主治医は大変です。患者さんに代わって自分が悩まなければなりません。軽い肝臓病ならまだよいのですが、病気が重かったり、今後悪化する可能性がある場合はなんとかそれを救う努力をしなければなりません。よい医師であれば患者さんの病気が治せないということは悩みであるはずで、患者さんにはなにもいわなくとも心中苦しんでいるはずです。
最近は患者さんが知る権利が尊重され、“インフォームド・コンセント”や“癌告知”がやかましくいわれています。若い医師のなかにはこれを“すべてをあからさまにぶちまけること”とはき違えている人もいます。患者さんにすべてを話してしまうのです。話をしてしまえば医師自身は悩む必要がないわけで、すべてを知らされた患者さんが悩むことになります。アメリカにはボランティアを含め、それを支える人たちがいて助けてくれますが、わが国には多忙な医者と看護婦それと素人の家族しかいません。わが国でも“癌告知”が常識のようになってきましたが、心のケアやサポート体制が充実する事が望まれます。
このことでわかるように専門書まで読んで病気の物知り博士になっても、かえって心配することが増えてしまうこともあります。それでも、どうしても知っておかなければならない知識もあります。それは自分を守るためです。現在かかっている医師がすべて患者の全面的負托に耐えられる医師ならよいのですが、そういうわけにもいきません。またたとえ立派な先生でも多忙さに負けてついうっかり検査がもれることもあります。私の患者さんのなかには、受診記録をつけていて「先生、そろそろ超音波検査しなくてよいでしょうか?」などと遠慮がちに催促されることもあります。当方がついウッカリしていたわけですから快く応じるようにしています。
ウイルス肝炎では自分が自分の主治医になることはできませんが、すくなくとも自分の身体は自分で守る、この心がまえで以降の肝臓病についての説明をお読みいただきたいと思います。
与芝 真 : 肝臓病の生活ガイド, 医歯薬出版, 東京, 1998 より

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