■ 肝臓の体の“生化学工場”
あまり細かいことを知っても仕方がありませんから、患者さんとして知っておく必要があることを簡略に述べます。肝臓は身体の“生化学工場”といわれるほどの複雑な代謝を営んでいます。蛋白質、炭水化物、脂肪、ビリルビン、胆汁酸など、多くの物質が肝臓を中心に代謝されています。したがって、肝臓の機能が失われるとたいへんなことになります。
肝臓の機能が急激に失われる病気の代表が劇症肝炎ですから、この病気の病状をみると肝臓の大切さがよくわかります。この病気の病状も多彩なのですが、2つに大きくまとめることができます。それは出血と昏睡です。肝臓は血漿蛋白の大部分をつくっています。そのうちいちばん重要なものが凝固因子です。肝臓は13ある凝固因子の大半をつくっていますから、肝臓の機能がなくなると凝固因子が欠乏して出血しやすくなります。また、肝臓はアンモニアをはじめ、いろいろな毒性物質を代謝して無害化しています。肝臓の機能が失われると、血液のなかに有害物質がたまって、それが脳内に移行して昏睡を起こすのです。アンモニアは原因物質として確定していますが、いまだ未知の物質もありそうです。
■ 肝臓は再生する。
このような劇症肝炎の例からわかるように、肝臓は身体にとって大切な物質をつくり、同時に不要な物、有害な物を除去する作用をしていることがわかります。ただし、肝臓は天賦の大きな予備力と再生力があるので、肝臓の力が足りなくなって急に出血や昏睡を起こすことはめったにありません。手術で肝臓の70%を切除しても通常はなんの症状もみられませんし、残った肝臓に病気がなければ、比較的短時間に元どおりとはいきませんが、元の大きさに近い大きさまで再生します。このような強大な再生力をもっている細胞は、ほかには皮膚の細胞と骨髄の幹細胞ぐらいです。肝臓はたしかに重要な働きをしていますから、このような大きな予備力と再生力が与えられるのでしょうが、他の臓器も重要さにおいては差はないはずなのに、なぜ肝臓など少数の臓器だけこのような力をもっているかは謎です。
この反対が神経細胞で、一度壊れると再生しません。よく脳卒中などで倒れて一度半身不随になってもリハビリテーションで奇跡の回復をしたなどという話を聞きますが、これは神経細胞が再生したのではなく、壊れた以外の部分の配線を利用して機能を修復させたわけです。
与芝 真 : 肝臓病の生活ガイド, 医歯薬出版, 東京, 1998 より
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