コラム

消化器内科の医師によるコラムです。
11    B型慢性肝炎の治療 (改訂版)      教授 与芝 真彰 2005年06月24日
 
B型慢性肝炎の治療
- 欧米で開発された薬剤を使った薬漬け医療から患者を守る -
 
消化器内科教授 与芝 真彰
 
 
 
 2年前から我が国でもB型慢性肝炎の治療薬としてラミブジン(ゼフィックス グラクソ・ウェルカル社)が登場しました。この薬は元来AIDS(HIV感染症)の治療薬と開発されましたが、(その場合の売薬名はエピビル)、HBVに対しても増殖抑制効果が認められ、欧米では数年前から使用されていました。現在世界的にはこの薬の長期投与が標準治療となっています。この薬は比較的安価で(と言っても我が国では1錠 100mg 667円)、副作用も少ないという利点がありますが、中断すれば再発しますし、6ヶ月を過ぎる頃から耐性株が出現し、3年も服用すれば50%以上の患者さんにおいて耐性株が出現し、有効性を失うことが知られています。
 
 耐性株が出現した場合は、耐性株にも効果を示すアデフォビル(へプセラ、グラクソ・ウェルカル社)という別の経口剤に切り換えることになります。アデフォビルはラミブジンより高価であり(1錠 1334円)、腎毒性の副作用があります。我が国では僅か35例の治験で行っただけで、効かなくなったラミブジンと併用との条件下で健康保険での使用が認可されています。米国、カナダ、ドイツ、フランスの共同研究ではラミブジンとアデフォビルの併用とアデフォビル単独との間に効果の上で差は認められていません。もっともヘプセラの効きが鈍いので急に切り換えると一時的にウイルスが増加して肝炎が悪化するので併用した方が良いとの意見もありますが、この意見に賛成しているのは中国だけです。一方、併用すると2剤同時に耐性株が出るという点で反対意見もあります。また一時的に併用しても2ヶ月位でラミブジンを切っても良いとの意見もあります。このように賛否両論がある現在、我が国の拙速な認可は両者の抱き合わせ販売を容認し、業者の利益を擁護していると言われても仕方がない気もします。
 
 一方、エンテカビル(ブリストル・マイヤーズ社)という経口抗ウイルス剤も米国で認可されました。ラミブジン、アデフォビルよりB型肝炎治療薬として強力とされています。耐性株も出現しにくいとされていますが、長期使用における副作用の問題は未だ明確になっていません。この薬も我が国では少数例の治験で厚労省に対して健康保険での使用の申請が行われています。早晩認可されるでしょう。
 C型慢性肝炎で許可されたPEGインターフェロンの48週投与も試みられていますが、費用が掛かるほどには有効ではないようです。
 
 現在、米国で認可されたB型肝炎の治療薬の他に表1にあるように多数の薬剤が治験中であったり開発中で、言わば開発競争といったところでしょうか。 HIV感染治療薬の開発の過程で抗ウイルス剤の開発ノウハウの確立した欧米では、抗ウイルス剤の開発ラッシュとなっています。一時、我が国は薬の認可手続きが面倒で欧米で開発された新薬がすぐには使用できないとの非難がありましたが、現在は「優先対面品目」との名のもとに、他に代替治療が無い場合は煩雑な治験手続きを省略して健康保険の適用薬として使用ができるようになっています。更に混合診療が認められるようになると、患者さんが費用さえ支払えば欧米の新薬がどんどん輸入されるようになるでしょう。これは毎年行われている日本構造協議における米国の圧力によるものなのです。
 
 我が国ではHIVの患者数が少ないためHIV治療薬の研究の歴史がないのです。このためHIV研究の結果生まれたHBV用の核酸アナログの開発力がなく輸入に頼らざるを得ません。この輸入薬と共に治療法としても欧米の標準治療法が入ってきます。その内容とは経口剤を長期投与し、それが効かなくなると次々と新薬に代えるのですから一生続くいわゆる「薬漬け治療」になってしまいます。確かに病気は悪くならないでしょうが、薬代を払い続けるためのコストは馬鹿になりませんし、そのコストは全て外国の製薬企業に流れてしまいます。これは欧米の国際戦略の一環なのです。
 
 そのような事態を避けるのにはどうすれば良いのでしょうか。それには薬の力でウイルス増殖を抑え続けるという発想を転換する必要があります。我が国や東南アジア諸国では、HBVキャリアにせよB型慢性肝炎患者にせよ、HBVを排除することは極めて困難であることが知られています。我が国ではB型慢性肝炎患者の85%が自然治癒することが知られていますが、この治癒の意味はウイルス排除を意味するものではなく、宿主(患者さん)の免疫の力によってウイルスの増殖を永続的に抑制することと考えられています。このためにはウイルスの感染している肝細胞を認識して攻撃するCD4、CD8などの細胞障害性Tリンパ球(CTL)が重要な働きをしていると考えられています。
 
 問題は、どのような方法でこの宿主の免疫圧力を動員できるかにあります。この宿主の免疫力を高める方法としてThymosin-α1、インターフェロンγ等の投与を考えられ、それらとインターフェロン-αとの併用などが試みられましたがあまり良い成績は得られていません。更に副腎皮質ステロイド(プレドニソロン)のような免疫抑制剤を服用させ、それを中断することにより相対的に免疫賦活状態にし、その後インターフェロン投与する治療(CS中断IFN療法)が我が国や東南アジアで普及しました。確かにプレドニンを中断するとリバウンドと言って大きなGOT,GPTのピークが見られ、その後にインターフェロンを投与すると急激にHBe抗原系のゼロコンバージョンが見られる例がありました。
 
 但し、この治療は欧米では無効とされ、また、プレドニソロンがHBVの増殖を過度に促進し、重症化する例も存在したため、現在ではあまり行われていません。当院でもまずラミブミンを使ってウイルス量を減少させ、その後にプレドニソロンを使い中断させる方法を行っていました。この際解ったことはプレドニンを投与すると急激に高度にHBVが増加することで、大半の症例で激しいリバウンドを起こし、ウイルス量が過剰になると(≧108.6コピー/ml)重症化することでした。つまり、プレドニソロンを切ることで確かに相対的に免疫力が高まる可能性もあるかもしれませんが、むしろウイルスが急激に増加することが刺激になって免疫応答を刺激して自ら肝細胞を破壊している可能性の方が大きいと考えられます。
 
 私達のDNAチップを使用した宿主遺伝子の解析によればウイルスが増加する時に内因性のインターフェロン系の遺伝子の発現が増加することが明らかになっています。これがCTLを誘導している可能性があります。この反応によりウイルス増殖が抑えられれば自然治癒に至るのでしょうが、一部の症例ではそれだけでは足りないのです。という理由で私達はプレトニソロンは使用せず、ラミブジンを切っただけで起こるリバウンドの後に再びラミブジンと外因性にインターフェロンを2ヶ月位投与しています。
 
 どういう訳か若い女性はほとんど1回の治療で治癒します。この時HBe抗原が陰性化し、Hbe抗体が陽性化します。ラミブジンとインターフェロンを投与してもHBe抗原の低下とHBe抗体の上昇が頭打ちになった場合、それ以上治療続行しても無意味ですので治療を中断します。この時ウイルス量が低下していますので、中断により再びウイルスが増加しますので再びリバウンドが起こります。そして、ピークの後に再びラミブジンとインターフェロンを投与します。これを繰り返す事により現在のところ60%以上の症例で治癒に持ち込めます。GOT、GPTが急速に上昇する場合はウイルスが急激に増加しているので早めにラミブジンを再投与しますので重症化の心配はありません。
 
 対象としてはあらゆる慢性肝炎例が含まれます。但し肝機能が正常に近い方はリバウンドが起こりません。つまりウイルスを排除するだけの免疫力がないので治療しても効きません。その代わり悪化もしないので必要がないのです。しばしばB型慢性肝炎に強力ミノファーゲンが投与されていますが本人が治ろうとしている反応も抑える事になり、返って病気を長引かせる可能性があります。また、肝硬変の方は残念ながら保険適用はありません。但し、初期であれば自己負担でこの治療は可能ですが、進行するとリバウンドにより肝不全を起こす危険があるのでこの治療は困難です。この場合は残念ながらお薬を続ける事になりますが、この場合も1日おきにするなど工夫して耐性株が出にくいようにします。
 
 この治療は神奈川方式として確立すべく当院、大船中央病院、北里東病院、聖マリアンナ医大で共同治験を行う予定です。治癒に持ち込められれば、一生薬を必要としない状態となります。他院の治療でいつまで経っても治らない方はこの治療をお勧めします。
 
 
(表1) B型慢性肝炎治療薬
 
 既承認薬剤(米国で)
 
・  Lamivudine
・  Adefovir
・  Interferon (alfa 2a & 2b)
・  Entecavir (最近承認)
 
 新規開発中
 
・  LB80380: LB80317 prodrug
・  Pradefovir: PME prodrug
・  Valtorcitabine; LdC prodrug
 
 治験中
 
・  Tenofovir
・  Clevudine
・  Telbivudine (LdT)
・  Emtricitabine
・  Pegylated interferons
 
 併用療法
 
・  Interferon + lamivudine
・  PEG-interferon + lamivudine
 
 
略歴 与芝真彰の略歴はコラム1を御参照下さい。
 
 
 

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更新日:2007/11/11

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