普通であれば、ここで三号の話になるのが定石であろうが、登場の仕方のおかしさでは立正時代の「M太郎君」のことが思い出されるので書いておこう。
M太郎君は「背後霊」ではない。でも、背後霊複数制が敷かれていたら、間違いなく当確の学生である。彼はゼミ生であったことが一度もない。それは他の「背後霊」の学生がゼミ生であり、長い学生は四年間も担当したことと対照的である。
ある暑い夏の日であった。夏休み前の試験期間中であったと記憶している。一人で研究室で仕事をしていると、ノックする者がある。
出てみると見知らぬ男の子であった。「あなた誰?」「暑いんです、先生。」「えっ?」「暑いんです。先生。少し涼ませてくれませんか。僕は死にそうです。」
確かに熊谷の夏は暑く、ヒートアイランド現象で39度にもなる。42度という経験もある。
「暑いのはよく分かるけど、図書館に行けばよくない?」「あと1時間で英語の試験なんです。図書館まで十分かかかったら、残り時間が少なくなるではありませんか。それにあそこに行くまでに僕は死んでしまいます。涼しくて近い勉強場所が必要なんです。」
立正大学の熊谷校舎のキャンバスは確かに広い。39度という気温では図書館に行くまでに死んでしまうという彼の発言には一定の合理性はある。しかし、知らない男子学生だし。
「あんた、誰なの?」「あ、ごめんなさい。僕はM太郎といいます。先生の総論の授業を取っています。」道理で相手は知っていても私は知らないわけだ。あまりに変な奴だから、呆れたのを通り越して面白くなってしまった。私にはあまりに呆れた学生がいると面白くなってしまう癖がある。
「変な奴だね。本当に変な奴だ。自分が変だってこと、分かってる?」「どこが変なんですか?僕は普通です。」ほらほら、変な奴に限って絶対こういう風にいう。変な奴で「僕は変わってますよ。」といった学生は一人もいない。
「じゃ、いいから、黙って私の前で英語の勉強して、時間になったら黙って出て行って。」「よろしくお願いします。」ところが彼、座ったら勉強はそっちのけでしゃべるの、しゃべるの。自分は誰でどんな人間で、何を感じて大学にいるなど。何でも三浪していて、相当年を食っているのだった。
「うるさいね。黙って勉強してっていったでしょう」「ごめんなさい」それでも止まらない。
時間になったら帰っていったが、次には女子学生の友人を二人も連れてやってきた。「また、来ちゃいました。」だって。
暑い日になると、M太郎君のことを今でも時々思い出す。おかしな人間も居たものだなあと。
M太郎君は実は、結構明学の側に住んでいる。こんなこと書いたらきっと、近々に現れるに違いない。
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