そこには、雪ともう一人、初めて見るかわいい男の人がいた。
「さっさと、桜から手を離せ!
じゃ、ねぇーと、テメーの頭に、コレ当てんぞ!」
なんて言って、その男に向かって投げようとしているものは・・・鉄で出来た置物?
雪はそれを、この人に向かって、投げようとしてたの?
呆気に取られる私と違って彼は、
「まー、そう熱くなるなよ。」
と、笑いながら言うと、私をつかんでいた右手を離す。
彼の指のあとが付いてしまった手首を、私はなでる。
そんな私の側に走ってきた雪は、私を迷わず抱きしめる。
「ゆき?」
驚く私に雪は、「ホントに、悪かった。」と謝った。
「なんで、雪が謝るのよ。」
っていいながらも、私は雪の腕の中にいることに、心からホッとしていた。
雪の胸に耳をおしあてると、雪の心臓が、すっごいドキドキしているのが、わかる。
私を心配してくれて、心拍数が上がっているのかな?って、思って嬉しくなりたい所だけど・・・違うと悟る。
この心拍数の上がりは・・・この人に向かって怒っているからだと・・・思う。
案の定、雪は、私の頭をギューって抱きしめて、「悪いのは、俺なんだ。」というと、目の前の人を鋭い目でにらみつける。
「コイツが居たのに、お前を一人にした、俺のミスだ。」
その言葉に、目の前の男は、「何だよ、その言い方。」といって笑ってる。
「久しぶりに逢った、弟に向かって、その言いぐさはないんじゃないのか?」
それには、私が叫んじゃう。
「弟ぉ〜!!」
って。
すると、今度は、雪と一緒にいたかわいい男の人が、私を襲った雪の弟に、近付くと、迷わず彼の頭をポカっと殴る。
「いってぇーな。」
と頭をなでる弟に、「うるさいっ!」と怒鳴った人は、
「本当に、すみませんでした。」
といって、私に頭を下げてくれる。
何がなんだかわからない私は、ポカーンだよ。
呆気に取られている私の代わりに、雪が対応してくれる。
「春人(ハルト)、お前が謝る事ないって!」
と優しく声をかける。
だけど、その後は・・・比べられないくらい冷たい声に変身する雪。
「おいっ!波夜人(ハヤト)!
さっさと、桜に謝れよ!」
と迫る雪に、「バカじゃねぇーか?」と、鼻で笑いながら答える弟。
彼は、「ホントくだらねぇー。」と言いながら、玄関に向かって歩き出す。
「おいっ!待てっ!」
と彼を止めた雪の声に、波夜人(ハヤト)と呼ばれた彼は足を止める。
「そういえば、言い忘れてたよ。」
彼はそう言って振り返ると雪を見る。
「あんたにしちゃー、レベルの低い女を選んだものだな。
テクニックのある女には、体が付いていかなくなったか、そういう女を楽しませるだけの力量が、あんたにないのかは知らねーけど・・・。
そんな女で満足しているようじゃー、所詮あんたも俺の目指す男じゃなかったって事だな。
正直、ガッカリだよ。」
そういって笑う波夜人(ハヤト)くんに雪は、「言ってる意味が、わかんねぇーんだけど。」と苛立ちながら答えた。
「そんなキスも満足に出来ない女と、よく結婚できるな。
あんたの神経をうたがうよ。」
それを聞いた雪の顔つきが変わった。
そりゃそうよね。
だって、波夜人(ハヤト)くんが言った事で、彼と私がキスした事がバレたんだから。
「ねぇー、雪、落ち着いてよ。」
と雪を落ち着かせる私。そして、
「波夜人(ハヤト)!お前!」
と波夜人(ハヤト)くんを責める春人(ハルト)くん。
「うっせぇーな。春人(ハルト)には、関係ねぇーだろう。」と言って、波夜人(ハヤト)くんと春人(ハルト)くんは言い合いを始めた。
その波夜人(ハヤト)くんに向かって雪が声をかける。
「おい、波夜人(ハヤト)!」
その声で、二人は言い合いを止めて、波夜人(ハヤト)くんは雪に向かって、「あ?」と言いながら目を向ける。
「桜が、キスも満足に出来ない女だって?」
そういいながら、雪は本気で笑ってる。
それには、私もだけど、春人(ハルト)くんもビックリ。
だって、絶対この流れだったら、雪がキレて、波夜人(ハヤト)くんを殴りにいっててもおかしくないんだから。
きっと、春人(ハルト)くんもそう思ったと思う。
だけど、雪は、いつもの怖い笑いでもない。
本当に、おかしそうに笑ってるの。
なんで?
不思議に思う私たちとは違って、まるで自分がバカにされたみたいで、おもしろくない波夜人(ハヤト)くんは、「何がいいたい。」と雪に突っかかってくる。
雪は、まだ笑いながら口を開く。
「桜の体には、俺を満足させるだけのテクニックを、うえつけてる。
キスだって、セックスだって、全て俺が俺好みに、教え込んで、しつけたんだ。
俺みたいに100%コイツを引き出せなくても、充分楽しめる最高の女に、仕上げたはずだけど。」
雪はそういうと、「て、ことはさー。」と言って、波夜人(ハヤト)くんを見る。
「お前が、下手だって事じゃないのか?」
そしてまた笑う。
「なんだと!!」
と、こちらに歩いてくる波夜人(ハヤト)くんに、私は思わず雪の腕をつかんでしまう。
側に来られると・・・やっぱり、恐いよ。
さっきの事を思い出したら・・・体が自然に震えてきた。
それを、感じた雪は、私をまた優しく強く抱きしめて、耳元で「大丈夫だから。」と囁いた。
そして、私を体から少し離すと、波夜人(ハヤト)くんを見る。
「ま、テクニックも大事だけど、それにも限界がある。
結局は、『愛』が無いと、『それ以上』の快感を味わう事ができねぇー。
俺も桜を愛して、それを知った。
お前に見せてやるよ!
『愛があるキス』がどういう物か。
テクニックでは補えない、すごさをね。」
雪はそう言って笑うと、私を見る。
「桜・・・。」
と呼ばれて私は素直に、「ん?」と返事をする。
だけど、雪は何かを言おうとして、私を呼んだんじゃない。
言葉の代わりに、彼の唇が私に向かってくる。
一瞬触れて、私から唇を離してしまう。
だって・・・波夜人(ハヤト)くんにキスされた唇なんだもん!
困った顔をする私に雪は、
「大丈夫。気持ちがこもってないキスなんて、俺のキスが飲み込むから。」
というと、「いつもの、お前でこい。」なんて言って私の唇を塞ぐ。
波夜人(ハヤト)くんや、春人(ハルト)くんがいることも、ここが雪の実家だということも、全て忘れちゃうくらい・・・私は、今雪を感じたかった。
私の方から、雪に迫る。
舌をからめて、それでもおさまらなくて、もっと奥へとつっこむ。
唇をこれでもか。って、くらい交じり合わせる。
それでも、足りなければ、顎を使って、お互いの全てを感じ取るように、動かす。
顔だけじゃ物足りなくなって、体ごと動かして、雪を求める。
私独りが彼を、がむしゃらに求めて、乱れた熱いキスをする。
だけど、時期に私の思いを感じて、我慢できなくなった雪が、傍観者から一変して、キスの主役に変わる。
私の頭部を右手で支えて、思いっきり私の中へ、舌を押し込み、暴れまくる。
雪の攻めは、私の体全体が、動いて反応してしまうくらい、私を敏感に感じさせ、私を虜(トリコ)にした。
雪が私にしてるキスは、まるで彼の魂が流れ込んでくるかのようだった。
熱い物が流れ込んできて、それが私の胸をズキンズキンと痛ませる。
それだけじゃない。
今、キスだけをしているこの状況で、雪を感じるはずもない所が、熱くなってドクンドクンと脈を打っていた。
まるで、彼に抱かれているような錯覚さえ感じた私。
だからかな?
私は、ドンドン気持ちよくなってしまって、頭も心も真っ白になってしまった。
彼の髪に触れている私の手が、感覚を失って、彼の髪からズルズルと力なく落ちてくる。
その手は、彼の肩辺りで、無造作に置かれてしまう。
雪の手が私の腰を抑えてくれて、支えてくれているから、私は立っていられるけど、彼が手を離したら、私は間違いなく崩れて、座り込んでしまう。
足の感覚も麻痺しちゃうくらい、私は雪にハマっていた。
私に自分の思いを流し込んだ雪は、私からユックリ唇を離すと、まだ名残おしそうに、私の唇に何度も何度も、深くてやらしいキスを、繰り返す。
「今日は、またいつになく、感じ過ぎだな。」
って、雪は笑いながらそう口にして、またキスをくれる。
「だって・・・。」
という私に雪は、私をまた自分の胸に押し当てて、力強く抱きしめた。
そして、波夜人(ハヤト)くんを見る。
「お前と交わしたキスの時と、今の俺の時と、桜はどっちに感じてた?」
それには、波夜人(ハヤト)くんは答えない。
私は、気になって雪の胸の中から、そっと彼を覗き見する。
すると、悔しそうに唇を噛んで下を向いていた。
「まっ、聞くまでもないけどな。」
雪は笑いながらそういうと、さらに続ける。
「これが『愛』のあるキスだ。
それを、まだ知らない15のガキに、俺は越えられないよ。
俺を越えたかったら、まず『人を愛する事』を学べ。」
「俺に、説教してんじゃねぇーよ。」
と言い返して歩き出した波夜人(ハヤト)くんの背中に向かって、雪は叫ぶ。
「桜をほしくなったら、いつでもこい。」
って。
それには、「えー!」と私が叫ぶ。
「何、言ってんだよ。」
と波夜人(ハヤト)くんも、振り返って聞く。
すると、雪は笑いながら、
「お前は、初め桜を俺の女と知らなかったはずだ。
それでも、こんなにチョッカイ出したのは、何か気になったからなんだろ?
俺も、昔はお前みたいだったからな。
その俺が、コイツに一目惚れしたんだ。
お前がコイツに何かを感じて、心が揺れたのも、わからなくはない。
さらに、自分では出来なかった、コイツのこんな乱れた姿を見たら、自分の手でやってみたくなったんじゃないのか?」
それには、波夜人(ハヤト)くんは、笑い返す。
「よく、わかってんじゃん!
だったら、その女貸してくれよ。」
だけど、雪は、「断る。」と即答。
「なんだよ、それ。」と突っ込む波夜人(ハヤト)くんに雪は、
「誰も、あげるとは言ってないだろ。
桜は絶対に渡さないよ。
つまり、俺がお前と戦う。って事!
お前が、オヤジの次に、この梅澤グループを支配してる、権力のある男だったとしても。
俺は、どんな事をしても、桜を守ってみせる。
『愛』ってどういうものか、俺を見て知れ。」
それを聞いた波夜人(ハヤト)くんは、「まいったな。」と言って笑う。
その笑いは、心の底から笑っているのが、わかるくらい明るい声だった。
「今まで愛なんてほしいなんて、思わなかった。
だけど、さっきの彼女の乱れた姿を見てたら、俺も、この手で、女をそれだけ感じさせたくなったよ。
なんか・・・俺もほしくなったな〜。」
彼はそういうと、「愛がね。」と添え、「幸せに。」と叫んで手を振ると、玄関を出て行った。
雪の胸の中から、波夜人(ハヤト)くんが出て行く姿を見ていた私の耳に、雪と一緒にきたかわいい男の人・・・春人(ハルト)くんって言ったっけ?
その人の、声が聞こえた。
彼は、「それにしても・・・。」と雪に話しかけてきた。
「さっきの、雪兄(ユキニイ)には、ビックリしたよ!」
それには、もしかして、キスの事?と、ドキドキしちゃう私だけど、雪は「ん?」とボケーっとした顔で、春人(ハルト)くんを見る。
「波夜人(ハヤト)が、桜さんにキスをした。って、知った時だよ。
殴りかかるかと、思ったのに、笑ってたから。
平気でいられるなんて、やっぱり大人だな〜。」
それを聞いて私は、「そっちかー。」と言いながら安心する。
よかった〜、雪と交わしたキスの事、触れられなくて・・・。
でも、そうよね!
春人(ハルト)くんのいう通り、私もあの時の雪の態度は意外だったんだ。
大人になったって事なんだろうなー。
なんて、ノンキに思っていた私なんだけど・・・
「冗談!平気なわけないだろ!」
と言うと、胸から私を離し、私を見る。
その顔は、優しい雪の顔じゃなかった。
恐いとも、怒っているとも違う・・・。
なんだろう?
しいていうなら・・・悲しんでる?
こんな顔みたのなんて初めてだから、どうしていいかわからずに、私はただ雪の頬に右手を合わせて、「雪。」と彼の名を呼ぶ。
「波夜人(ハヤト)の事、殴りたかったに決まってんだろ!
ボコボコにしても足りないよ。」
そういう雪の瞳が、さらに哀しい色に変わっていく。
いつもの強い力を放っている彼の瞳とは、全然違った。
「あんなキスじゃ、おさまらない。
桜をもっともっと感じたい。
波夜人(ハヤト)に触られた所の全てを、今すぐ俺の愛で塗り替えたい。
桜の体にも心にも、他の男なんていさせない。
どんなわずかな思い出も記憶も・・・許さない。
誰かがいると思っただけでも、気が狂いそうになる。」
こんなに束縛される言葉なんて、今まで言われた事がない私は、一瞬戸惑う。
だけど、目の前で、雪が嫉妬に狂っている姿を見ると、「恐い」っていうより、嬉しくなった。
だって、今まで私はいつも思ってたんだ。
雪より、私のほうが絶対に、雪を想ってるって。
私が彼を愛しているほど、雪は私を愛してないのかもしれない。って感じた事もあったから。
だから、今目の前にいる雪を見て・・・私は、本当に幸せに感じた。
弱い雪を、私はたまらず両手で抱きしめる。
本当は彼を私の胸で、ギューって抱きしめたかったけど、立っているからそうもいかない。
だけど、雪もそうしたかったのかもしれない。
彼から、膝を床につけて、ひざまづく。
そしたら、丁度私の胸あたりに彼の顔がくる。
彼は自ら私の胸に顔をうずめ、両腕を私の背中に回して、きつく強く抱きしめる。
そんな弱い雪を見ていた春人(ハルト)くんは私に、「桜さん。」と小声で声をかけてくる。
私は、顔だけを彼に向ける。
「俺はこれで失礼します。
後で、雪兄(ユキニイ)に、『秋兄(アキニイ)と海兄(カイニイ)にも、よろしく言っといて。』 と伝言しておいて下さい。では。」
というと、私に一礼をして、その場から立ち去る。
それから、15分くらいして、辰川さんがロビーに戻って来た。
その時は、もう雪も復活していて、立ち上がった雪は、また私を抱きしめて、支える側になってくれていた。
私の胸で、弱くなっていた雪は、
「俺が、しょげてる場合じゃないよな。」
と言って笑い出したの。
だけど、私は、「いいじゃない。二人でしょげようよ。」と笑って言い返したんだ。
それには、雪は大ウケしたみたいで、
「お前って、ホントおもしろい。」
と大笑いして、私にキスをくれた。
そして、お互いの体がこれ以上くっつかないくらい、くっつきあったら、いつもの雪に戻った。
「今すぐ桜を抱きたい。
このまま、ふけたいな。」
って。
その時に、ちょうど、辰川さんが戻って来たの。
私たちが、強く抱き合っている姿をみて、少し変だと思ったのかな?
辰川さんは、「どうかされましたか?」と心配する。
照れて、急いで離れる私の肩を雪が、抱きしめる。
「波夜人(ハヤト)に、桜がイタズラされてさ。
今、なぐさめてたところ。
コイツ、俺しか男、知らないからさ。」
と辰川さんに言ってる雪。
な・・・なに言ってるのよ!
たまらず、雪の足を蹴っちゃう。
「そんな事、言わないでよ!」
焦る私だけど、雪は「アハハ。」と笑ってる。
で、言われた辰川さんも、「そうでしたか。でも、よろしい事ではないですか。」と笑ってる。
普通に話が聞ける辰川さんを、偉いと尊敬してしまった私。
私たちは、辰川さんに案内されるがまま、長い廊下を歩き出した。
「ねぇー、さっきの波夜人(ハヤト)くんと、春人(ハルト)くんと、雪との関係だけど。
兄弟って・・・ホント?」
雪に聞く私に彼は、「うん、ホント。」と答える。
って事は・・・。
「雪って、何人兄弟よ!」
それには、「5人?」と言って聞く。
誰に?って・・・もちろん、辰川さんよ。
したら、辰川さんが、「いえ、6人ですね。」と訂正する。
「あっ!そっか。チビを入れるの忘れてた。」
と言ってるし。
チビ・・・誰?
と思った時、さっきの果帆に似た子を思い出した。
「もしかして、茜(アカネ)ちゃんの事?」
という私に、もちろん雪も辰川さんも驚く。
「なんで、知ってんの?」と、「なぜ、知っておられるのですか?」が重なる。
「だって、さっき、逢ったから。」
と答える私に「なるほどな〜。」と雪は答える。
「あの子、4歳くらいでしょ?
雪が果帆に初めて逢った時の年くらいだよね。」
と言ってみるけど、
「俺、アイツに逢った事ないんだよ。
生まれた時に、年賀状で見たくらいかな。」
って、冷たいコメント。
「だったら、帰り逢って帰ったら?
せっかくなんだし。」
と言ってみるけど、「いや、いいや。」と雪は首を振る。
「なんでよ。」と聞く私に、
「悪いけど興味ねぇーんだ。」
と口にした。
「どうして?」とさらに聞いちゃう私に、「あー、面倒くせーなー。」と言いながら、髪をかきあげると、本当面倒くさそうに口を開いた。
「波夜人(ハヤト)も、春人(ハルト)も、茜(アカネ)も、後妻に入ったあの人の子供なんだよ。
俺は、あの人を認めちゃいないし、親父がオフクロにした事も・・・許せない。
だから、あの女との間に出来た子供なんて、どうでもいいんだよ。
っていうか・・・関わりたくない。」
そういったあとで、「でも、海は別だな。」っていう。
「なんで、ここで海さんが、出てくるの?」
首をかしげる私に、辰川さんが、「それはですね。」と教えてくれる。
「ご主人様の今の奥様は、海人(カイト)さまのお母さまだからです。」
「えぇー!!」
って・・・そりゃ、驚くよ!
という事は、海さんにとっては、波夜人(ハヤト)くんも、春人(ハルト)くんも、茜(アカネ)ちゃんも、実の兄弟って事だよね。
でも・・・。
「確か、海さんも、お父さんの事、嫌ってるって言ってなかった?」
それには、雪は「うん。」と軽く答える。
「海のやつ、オヤジも嫌いだし、妻がいるのに、そういう関係を持った自分の母親も許せないんだと。
だから、未だに、オヤジとも自分のオフクロさんとも、絶縁状態みたい。
まっ、海は一人でもしっかりしてるし、俺たちがついてるから、大丈夫だろうけど。」
そう言って笑う雪をみていると、雪が嫌っている女性が産んだ海さんを、好きな雪の気持ちがわかった気がした。
結局、二人とも、『愛』を一番に考える人なんだ。
雪も海さんも許せないのは、愛して愛される人がいたのに、他の人を愛したという事実。
そんな親が・・・許せなかった。
そういう事なんだ。
誰よりも冷たく冷徹に思えた雪が、こんなに人間染みた人だったと知れて、ホント・・・うれしく思っちゃう。
知らないうちに笑っていた私。
それを見た雪が、「何?」と言ってくるけど、「ううん。なんでもな〜い。」とごまかす。
それには、ちょっと面白くなかったみたいで、「言えよ!」と私の腰をつついてくるけど・・・笑ってごまかした。
だって・・・そんな事、言えないじゃない。
その時、グットタイミングで、辰川さんが声をかけてくれる。
「着きました。」
そして、目の前にある閉ざされた扉をノックして、「失礼いたします。」と声をかけると、扉を開けた。
雪は私の手を握ると、「行くか。」と声をかけ、中に入っていく。
私は、ドキドキしながら、雪に引っ張られた状態で、部屋の中に入った。
部屋に入って・・・私は、またもや、呆然としてしまう。
だって・・・わかってはいたけど・・・広いよ!
これ、何畳あるのよ!
さっきのロビーと変わらないくらいあるよ。
呆気に取られる私に雪は、「座るか。」というと、目の前にあったソファーに勝手に座る。
「いいの?」
と小声で雪に聞くけど、
「どうぞ。」
と答えてくれたのは、部屋の端っこから、こちらに歩いて来ていた雪のお父さんだった。
「すみません。」と頭を下げる私に、
「緊張しないで。」
と笑顔で言ってくれる。
イメージだと、すっごく冷たくて恐いイメージだったけど・・・意外に優しいかも?と思ってしまった。
顔は確かにキリっとしていて、日本の頂点や世界で生きているだけあって、強さを感じた。
緊張しないでといわれても、やっぱり緊張しちゃう。
座っても、落ちつかない私の手を、雪がつないでくれる。
それで、雪の方に目を向ける。
雪の姿を見て、さすがだと思ってしまった。
実の父親とはいえ、こんな大物相手なら、やっぱり構えてしまったり、しそうだけど、全然。
ソファーにドッカリ座って、足までくんでるし。
そして、辰川さんが持ってきてくれた、コーヒーを「サンキュ。」と言って、片手でカップをつかむと、コーヒーを飲む。
そして、「うまいっ!」と言ってるし。
私は、それ所じゃない!
目の前に座られると・・・ダメ。
硬直しちゃって、コーヒーにも手が届かないよ。
雪に、つないでもらっている手すらも、緊張して震えてるんだから。
心臓だってバクバク言ってるし・・・。
「桜さんって、言ったかな?」
雪のお父さんに突然そう言われて、「は、はい!」と返事をしちゃって・・・声が裏返っちゃった。
それには、雪はケラケラと笑いながら、コーヒーカップをお皿に戻す。
「笑わないでよ!」
と肘で雪のわき腹をつつくけど、雪は「コーヒーこぼしそうになっただろ。」と言って、さらに笑ってるし。
たまらず、「はぁー。」ってため息をつく私に雪は、
「とって喰ったりしねぇーから。」
といって、私のコーヒーを手に取ると、
「これ、飲んで、落ち着けよ。
なんなら、飲ましてやろっか?」
と言って、カップを自分の唇に当てようとする。
そんなの、もちろん、止めるわよ!
「もう〜、変な事言わないでよ!」
って言って彼から、カップを取り上げてお皿に戻す。
その二人のやり取りを見ていた、雪のお父さんは、口元に手をあてて、笑ってる。
「ホント・・・すみません。」
と頭を下げる私に、「いや、かまわないよ。」と笑って、お父さんもコーヒーに手を伸ばす。
その時、雪の携帯が鳴った。
「ったく、なんだよ、こんな時に。」
と言って雪は座っていた腰を少しあげて、携帯を取ると通話ボタンを押す。
「海、なんだよ!あ?
その件は、昨日説明しただろ。
だから、オペは1週間後だって言ってんだろ。
はぁ?だからぁ〜。」
イライラしてきた雪はたまらず、私の方を見る。
その目で彼が言いたい事はわかった。
「いいよ。」と小声で言ってうなずく私に雪は、優しく笑うと私を一瞬ギュッと、抱きしめて耳元で「悪い。」と囁いて、席を立ち、部屋から出て行った。
雪が部屋から出て行く事をためらったのは、私のせい。
私がお父さんに、ひどくびびっちゃってるから。
二人っきりにしたら、私が泣いちゃうとでも思ったのかもしれない。
頑張らなきゃっ!って気合いを入れた私に、雪のお父さんから話しかけてくれる。
「あんな、雪を見たのは、初めてだよ。」
そういって笑ったお父さんの顔は、本当に優しい顔をしていた。
雪が嫌っているお父さんとは思えないくらい・・・穏やかな顔をしてる。
この顔をみたら、自分の利益だけじゃなくて、雪の事を本当に愛していていたんだとわかった。
でも、接し方を間違えてしまったのかもしれない。
ただ、それだけの事で、ここまですれ違ってしまった二人の思い。
見ているこっちが胸が痛くなる。
黙ってしまう私にお父さんは、立ち上がると、さっきまで座って仕事をしていた、机に向かう。
そして、そこに立てかけてあった、写真を持ってきて、私の前に差し出す。
私はそれに、目を向ける。
写真に映っていたのは、お父さんと、女性が二人。
一人は、とても雪や秋さんに似てる。
って事は・・・。
「この白い服を着ている方って、雪のお母さんですか?」
それには、「よく、似てるだろう。」と言って微笑む。
でも、不思議な写真。
だって、きっと、もう一人の女性は・・・海さんのお母さんなんだと思う。
何となく海さんに似てるから。
って事はよ、いえば本妻と愛人が一緒に映ってる写真なんだよ。
「あの・・・こちらは、海さんのお母さんですよね。」
と確認する私にお父さんは、「不思議な写真だろ。」というと笑う。
「私の家はね、代々医者の家系だった。
生まれた時から、医者になるようにレールがしいてあった。
だけど、私が物心がついた頃から興味があったのは、医者じゃなくて、日本経済だった。
しかし、もちろん父親に反対されてね。
私は、仕方なく医大まで通ったよ。
だけど、一方で自分の夢を捨て切れなくてね。
独学で寝る時間も惜しんで、経済の勉強に明け暮れた。
そんな時、大学で知り合ったのが、雪の母親で。
彼女もまた家が医者の家系で、彼女も嫌々医大に通っていたんだ。
よくよく聞いたら、彼女の家には弟がいて、彼が医者になって跡を継ぐから、彼女がどうしても継ぐ必要もないし、彼女が婿養子を取る事もないという事を知った。
彼女自身にも惹かれたし、彼女の家柄にも惹かれた。
彼女の家は、この辺じゃ、名の知れた名家でね。
私が、自分の父親の反対を押し切って、家を出て、経済の世界で成功するためには、力強い権力と財力が必要だった。
それを、雪の母親の父親は、持っていた。
彼女の父親も私の可能性を買ってくれてね。
そして、私は彼女と結婚し、昔からの夢だった経済の世界に進出したんだ。
だけど、その一方で、高校時代から付き合っていた、海の母親とも切れなくてね。
関係は続いていた。
だけど、不思議な事に、海の母親も雪の母親もお互い気があったんだろうな。
よく、二人で出かけたり、子育ての相談をしたりしていたよ。
そうこうしているうちに、もともと体が弱かった雪の母親が、雪が5歳の時に、亡くなってしまった。
その時、彼女は、海の母親に、後妻に入ってほしい。という事と、雪と秋を頼むと言っていた。
彼女との約束通り、海の母親は、この家に入ってくれてたんだが・・・。
雪が彼女に、なつかなかったのと、後妻に入ったせいで、自分の息子である海とも、疎遠にさせてしまった。
でも、仕方のないことだと、ずっと思っていた。」
お父さんはそういうと、「だけど・・・。」と続ける。
「今の雪を見ていると、あの時の私の選択は、間違っていたんだと実感したよ。」
そういって笑ったお父さんの笑顔はちょっと、寂しそうだった。
そんな顔を見たら、「間違いって?」と聞いてしまう。
「君だけを心から愛している雪には、君に対しての接し方に、全く迷いがない。
そして、君もね。
私みたいに、どっちつかずだと、不安や迷いが生まれる。
それは、相手を・・・結果的には愛している二人共を、不幸にしてしまった。
そんなわかりきった事に、今頃気付かされたよ。
しかも、愛を知らずに育った雪に、教えられるなんてね。」
お父さんはそういうと、「桜さん。」と私の名前を呼ぶと、私を真っ直ぐに見る。
そして、頭を下げて、「これからも、雪の事、頼むよ。」と言った。
「そんな・・・頭、上げてください。」
ビックリして立ち上がっちゃう私にお父さんは、笑いながら頭を上げる。
「明日は、結婚式に行けなくて、本当にすまない。」
というお父さんに私は、「いいんです。」と首を振る。
「そんな、たいした物じゃないんで。
私の母親もどうしても仕事で来れないっていうし、梅澤病院のドクターが、三人病院を出てくる事になるんで、きっと呼び出しがかかるだろうから、式だけにしよう。って話になったんで。
気にしないで下さい。」
私はそう言って笑う。
「本当にそれでいいの?」
「えっ!」と聞く私にお父さんは、
「一生に、一度の事なのに、もっと時間やお金をかけなくていいの?」
って言ってくれた。
だけど、私は、「はい。いいんです。」と答えた。
「私たちを支えてくれた人たちが、祝福してくれたら、それが最高の結婚式ですから。」
私はそう言って笑う。
それには、お父さんも「そう。」と言って、私と同じように笑ってくれた。
部屋に、私たちの笑い声が響き渡った。
その時、扉が開く。
私とお父さんの穏やかな姿を見て、もちろん雪は「なんだ?」といって、固まってる。
「へんな顔〜。」
という私に、「うるせぇー。」といって雪は私の元へくると、私を急に抱きしめた。
「な・・・に?」
ビックリしちゃう私に、雪は何も答えない。
雪のその姿に、お父さんが「やれやれ。」といって、ソファーに腰かける。
そのお父さんの声に雪は、お父さんに顔を向けると、「なんだよ。」とけんか腰。
ちょっと、待った!!ってあせるけど、
「私と笑っていたぐらいで、嫉妬するなんて・・・こんなんじゃ、桜さんも大変だなー。」
と言うお父さんの言い方は穏やかで、言い合いには発展しなさそうで、ホッとする私。
だけど、指摘された雪は、「チッ。」と舌打ちすると、「仕方ねぇーだろ。」と口にする。
「あんたと違って、俺はコイツにしか惚れてないんだから。」
その言葉には、私は慌てて突っ込む。
「余計な事、言わないでよ!」
って。
だけど、雪は私とお父さんが話していた内容なんて知らないから、「はぁ?」と言ってる。
悪気はないんだろうけど・・・今のお父さんに、それは言っちゃいけないよね。
だけど、お父さんは、足を組むと、
「一人の女で満足しているような男に、偉そうに言われたくないな。」
と高飛車な答え。
それを聞いて、驚くどこから笑っちゃう。
だって、相手に弱みをみせないのは・・・雪ソックリなんだもん!
この二人・・・永遠にこのままの関係かもって思っちゃう。
だけど、それが、お互いにとっていい関係なのかもしれないって、この二人を見ていて思った。
だって、二人共、喧嘩腰のわりには、すごく楽しそうに話してるし。
「俺がいない間に、桜と話したみたいだし・・・。
俺ら、もう行くわ。」
それには、「待ってよ!」と私が雪に、たんまする。
「何?」って目で聞いてくる雪に、
「雪は、お父さんに話しないの?
久しぶりに逢ったんでしょ?」
だけど、雪は、「話す事はない。」というと、「アンタも無いだろ?」とお父さんを見る。
「ああ。お前にはない。」
お父さんまで・・・そんな事言ってるし。
たまらず、二人に「もう〜、素直じゃないんだから。」と愚痴る私に、雪もお父さんも笑ってる。
「桜さん。」
お父さんは私を呼ぶと、
「何かあったら、いつでも言ってきなさい。
どんな事でも力になるからね。」
そういって、手を差し伸べてくれる。
これで、お父さんと握手して、また雪が怒ったら困るので、一応雪の顔を見て確認する。
何も言わないで、ただ雪の顔を見上げる私に雪は、「やれば?」と余裕の笑い。
さっきまで、すねてた雪はどっかに消えちゃって、いつもの自信たっぷりの雪に早代わり。
安心した私は、雪の体から抜けると、お父さんに向き直り、右手を差し出す。
「今度、逢う時は、家族が一人増えているかな?」
と微笑むお父さんに私が答えようとしたのに、雪が登場。
「アンタには、絶対に負けないからな!」
という。
サッパリ意味がわからないお父さんは、「何?」と私に聞いてくる。
仕方なく・・・。
「10人子供がほしいみたいです。」
って答えた。
それには、大笑い。
そして、一言。
「まっ、頑張って。」
その言葉・・・すっごい重いんだけど・・・。
自然とため息が出ちゃう。
「じゃ、帰ろう。
果帆が帰ってくる前に戻らないとな。」
雪はそういって、荷物を手に取ると、私の手を握る。
「カホって?」
とお父さんに聞かれて、
「私の妹です。
この4月から2年生になります。
雪が自分の子供のように、育ててくれて。」
と添える私に、「へぇー。」と言いながら雪を見るお父さん。
その視線が、嫌だったみたいで、「なんだよ!」とイライラしながら怒鳴る雪にお父さんは、最高の笑顔で言う。
「お前、今良い顔してるな。」
それには、雪も「何言ってんだよ。」とテレながらいうと、
「まっ、今度日本に帰って来る事があれば、家(ウチ)来いよ!
その・・・オヤジとオフクロくらいなら、泊めてやっから。」
雪は一気にそういうと、「先に出てる。」といって、部屋から飛び出していく。
「照れちゃって・・・かわいい。」
と笑う私にお父さんは、「初めてだよ。」と言った。
「はい?」と聞く私に、
「アイツがオヤジとオフクロって言ったのが。」
とうわ言のように口にすると、呆然としていた。
「よかったですね。」
と笑う私に、お父さんはユックリと私を見る。
「いつまでも、幸せに。」
最高の笑顔でそう言ってもらえて私も最高の笑顔で答える。
「ありがとうございます。」
って。
すると、廊下から聞こえて来た。
「早く、出て来いっ!」
って雪の声が。
「はいはい。」と叫んだ私は、最後お父さんに挨拶した。
「お父さんも、どうか気をつけて。」
そして、礼をして扉を開ける。
「おせぇーよ。」
と雪は愚痴ると、私の腕をつかんで廊下を歩き出す。
「ねぇー、お父さんに挨拶いいの?」
と聞く私に、「いいよ。そんなの。」と答える雪。
「でも・・・。」と添える私に、「桜のおかげ。」と雪は言って足を止める。
おかげって・・・私、何もしてないけど。
キョトンとする私に雪は、私の顔に触れると、軽いキスをする。
「あんな、穏やかにオヤジと話したのって、今までなかったよ。
どんなにたくさん会話をした時よりも、今日が一番、オヤジと分かり合えたって、そう思えた。
桜に出逢ってなきゃ、今の俺はいないし、今日桜が来なければ、こんな気持ちの俺もいない。
マジ・・・ありがとう。」
そして、またキスをくれて、私は本当に幸せな気分になった。
だけど、私も雪に言いたい事があったの。
私は雪から唇を離す。
「ん?」と聞く雪に、私は言いたかった言葉を言った。
「ここへ連れてきてくれてありがとう。」
って。
キョトンとしている雪にさらにいう。
「雪の心の中に入れた気がして・・・うれしかった。」
そんな私を彼は強く抱きしめて「ああ。」と優しく答えてくれた。
いつもはそんなに冷たいと感じないシーツが、熱くほてった私の胸に密着すると、冷たくて気持ちいい。と感じてしまう。
乱れた呼吸も、熱い吐息も、短い悲鳴も、全然いいの。
だけど、ひどく感じてしまった時に出る声は、耐えなきゃいけない。
だって、廊下を挟んだ向かいの部屋には、果帆がいるんだもん。
私は、耐えられなくて声をあげそうになったら、側にある雪の枕に、自分の顔をうずめて、声を上げた。
雪の枕を使うのは、私のと違って、雪の枕はクッションぽいのね。
だから、声を吸収してくれる。
でも、本当は彼の枕を使うのは嫌なんだー。
だって、彼の匂いを感じるでしょ?
耐えなきゃいけないのに、余計に感じちゃって、思った以上の声を出してしまいそうになる。
それを、必死に耐えて声を押し殺す物だから、さっきから、腹筋が・・・痛い。
だからと言って、声を上げるわけにもいかないし、彼にやめてとも・・・言えない。
私は耐えながら、彼を感じる快感に打ち震えていた。
少し穏やかになった彼の動きに、私はクッションから顔をあげる。
そんな私の目に飛び込んできたのは、昨日みんなで撮った写真。
それを見たら、私は実感する。
やっと、雪のお嫁さんになったんだって。
昨日私たちは、予定通り結婚式を行った。
秋さんと優歌さんと、海さんと果帆と、すみれとありささん。
招待客はこれだけ。
だけど、教会で式を挙げ、幸せだった。
外に出た私たちは、ご飯でも食べに行こうと盛り上がっていたんだけど、雪の読み通り、医師3人の携帯が同時に鳴った。
近くの高速度道路で、玉突き事故があったらしく、重傷患者が4名搬送されてくるとの事だった。
「今病院いるやつと、俺ら入れても、外科医、4,5人しかいねぇーのに、4人も送られてきて・・・大丈夫なのかよ!」
と海さんは、秋さんに弱気だけど、
「他の病院では、手に負えないから、うちに来るんだろう。
文句をいうな!」
と秋さんは冷たい。
冷静でクールな秋さんは・・・最近、ホントに恐い時がある。
昔は雪がこうだったんだけど、今は雪の方が穏やかかも。
「まっ!俺とお前でかかれば、何とかなるって。」
雪は笑いながら、海さんの肩をポンと叩く。
「俺は先に戻って、準備や診断をしておくよ。
だから、海、車のキーかせよ!」
秋さんはそう言って、海さんに右手を差し出す。
イマイチ状況を把握してない海さんは、「へっ?」とバカ面。
そんな海さんのズボンのポケットに手を突っ込んで、鍵を取った雪は、「じゃ、これな。」と言いながら、秋さんにキーを渡す。
「俺らも、急いで戻るから。」
雪のその言葉を背中で聞きながら、秋さんは優歌さんの元へと行く。
そして、自分の車のキーを、優歌さんに渡した。
「安全運転で、帰れよ。」
そう告げると、駐車場に向かって、走っていった。
「で・・・なんで、俺の車が取られたの?」
それには、「お前、まだわかんねぇーのかよ。」と、雪はため息をつく。
「俺らがそれぞれ車で、病院に行ったら、桜たちが置き去りになるだろ。
だから、俺らの車で運転ができる秋の車を、置いていく必要があったの。
そしたら、秋が行く方法がなくなるだろ?
で、お前の車を借りて行ったんだ。」
「だったら、フェラーリでもよかったんじゃねぇーの?」
と突っ込む海さんに、
「俺たちは、秋よりあとにここを出るんだぞ!
スピードが出る車に、俺たちが乗ったほうがいいに決まってんだろ!」
そこまで言われて、「なるほどな〜。」と手を打つ海さん。
「海くんって・・・バカ?」
果帆のその言葉にみんなは、大笑い。
「ち、ちょっと果帆!なんて事いうのよ!」
と果帆を叱る私に、雪は果帆の頭を優しくなでて、「ナイスだ、果帆!」と褒める。
ホント、果帆には甘い雪。
「あのねぇー!」と今度は雪を叱ろうとした私だけど、雪は無視して海さんにフェラーリのキーを投げる。
「車、こっちまで持ってきて!
3分後に、お前が来るところに俺も出てるから。」
雪の言葉に、「うん、わかった。」と言うと海さんは、「じゃ。」とみんなに挨拶して、走って駐車場へと行く。
そして、雪は私の側に戻ってくると、私の頬に触れる。
「ごめんな。こんな時に。」
雪はそう言って謝るけど、「覚悟はしてたから。」と私は笑顔。
「なるべく、早く帰るからな。」
そう言って、私にキスをする。
少しして離すけど、また雪は唇を重ねる。
行かなきゃ!って思うけど、心が私を求めていて、どうしても唇を離しても、また戻ってきちゃうみたい。
何度も何度も繰り返す雪を見ていると、私から離してあげなきゃ!って思った。
私は彼から唇を離すと、
「もう、行って。」
と彼を送る。
そんな私に雪は、とても悲しい顔をした。
こんな彼を見たのは、初めてだった。
どんな時でも、呼び出しがあれば、私をほって、彼は迷わず病院に行った。
時折、私が嫉妬しちゃうくらい、私には省みず彼は、真っ直ぐに前を向いて走っていたのに。
私は自分から彼に抱きついた。
そして、彼を力いっぱい抱きしめて、「いってらっしゃい。」と見送る。
それを聞いた彼も、「ああ。」と答えると、自分から私を離し、私を見る。
その顔をみて、私は自然と笑顔になった。
だって、いつもの雪の顔に戻ってたから。
雪は、最後に私の頬に軽いキスをすると、「じゃーな。」と言って走り出す。
すれ違いざまに果帆と、ハイタッチをして、「頑張れ〜!」とエールをもらって、彼は海さんがスタンバっている愛車へと走って行った。
「何、考えてんだよ。」
写真を見て、昨日の事を思い出していた私に、雪は背後から声をかける。
「秘密。」
と答える私に雪は、自分の唇を私の耳に近付け、舌で私の耳をなめまわす。
そして、甘い声で囁く。
「俺に抱かれながら、他の事考えてるなんて・・・余裕だな。」
それには、もちろん答える。
「余裕・・・なわけ・・・ないじゃない。」
って。
息を切らしながら答える私に雪は、笑ってる。
「昨日の事・・・思い出してたの・・・。」
そんな私に雪は、「今を集中して楽しめよ。」なんていって、自分の腰を思いっきり上に上げる。
彼とつながってる私の腰だって、彼につられて、上に上がる。
完全に四つんばい状態になった私は、顔だけを枕にあてて、声を上げる。
そんな私の腰に、後ろから左腕を回して支え、さらに私の足をひらけさせ、とても恥ずかしい姿にする彼。
恥ずかしいのと、彼が激しく突っ込んでくるから、それだけでも私は激しい声を上げそうになって、必死で耐えて、我慢が出来ない声を枕に吸収させてた。
それなのに、雪ったら、おかまいなしに、ドンドン私を攻める。
耳に近づけていた唇を離すと、体を少しひねって、私の胸をしゃぶる。
もう・・・ダメだって!!
完全に我慢できなくなった私は、両手で枕を握り締めて、必死で耐えた。
感じまくっている私に雪は笑いながら、触れていた胸から口を離す。
「他の事、考えてたバツだ。」
それには、「ひどいよ・・・。」とつぶやく私。
「なんだよ。」
ていいながら、今度は私の頬に顔をこすりあわせてくる。
私は、適度にくる彼からの振動を、感じながら、途切れ途切れに話す。
「違う事考えてないと・・・我慢できない・・・もん。」
それには、雪は答えない。
ただ、優しい眼差しで私を見てる。
「それで、なんだよ。」って目で言ってる。
私は、枕から手を離して、雪の頭に手を伸ばす。
そして、唇が触れるか触れないかくらいまで近づける。
「雪の・・・マンションで・・・抱かれたかった。」
それを言ったあと、自分から口づけをする。
だけど、雪はすぐに私から、離すと優しく笑う。
「いいじゃん、ここでも。
声、上げろよ。」
もちろん、「無理だよ。」と即答。
「今、何時だと思ってんだよ。
夜中の3時だぞ!果帆、爆睡だって。」
そういって、私の顎、首、胸と愛撫しまくる。
彼の舌の動きに反応してしまって、体を動かしてしまう。
すると、彼と交わってる所にまで力が入っちゃって、また違った快感が注がれ、あっちもこっちも感じてしまう私。
だから・・・なんとか、してよ!
って、行き場をなくした私の思いが込み上げてきて、私は思わず涙ぐんじゃう。
私の呼吸の変化で気付いた雪は、胸辺りにキスしてたけど、離して私を見る。
困り果てている私に雪は、「わかった、わかった。」って言うと、少し流れた私の涙をペロっとなめる。
驚いて彼を見る私に雪は、「何も考えられないようにしてやる。」と言って笑う。
何も答えない私に、雪は急に腰を力強く動かす。
もちろん、私の腰も動くし、彼の体もどんどん私の中に入ってくる。
「だめ・・・だって・・雪。」
とつぶやいて、また枕を口に当てようとした私の手を雪がつかむ。
「俺が、中途半端に攻めるから、余計な事を考えさせたんだよな。
何も考えられないくらいに、激しく攻めてやるよ。
俺の愛を受け止めるだけで、精一杯にしてやる。」
雪は、両手を私の腰に当てると、この上なく私に攻撃してくる。
体が激しく揺れているせいで、私の出す声も激しく揺れる。
彼の言った通り・・・もう、我慢しなきゃ。って、思いはどこかに消えてた。
だって、そんな事考えてる暇ないもん。
彼がどんどん入って来るし、どんどんかきみだすから、それだけを感じて、素直に声がでちゃう。
心も頭も、彼一色に塗り替えられてしまった。
「結局、昨日も抱けなかったんだからな。
俺を、もっとほしがれ。」
雪のその強気な言葉。
私を挑発する言葉。
全てが、私を熱くさせる。
そうなんだよね。
結局、昨日の重症の患者さんは、手術は成功したんだけど、経過がよくなくて、なにが起こるかわからないから。って事で、雪は昨日は病院に泊まった。
そして、今日も5時まで勤務をして、帰ってくる予定だったんだけど、急患などがあって、結局戻ってきたのは、夜中の2時過ぎだった。
それでも、うれしかったの。
雪が帰ってきてくれた事が。
本当は、フラフラで、眠くてしかたないだろうに、こんなに激しく私を抱いてくれている彼を、心から愛おしく思ってしまう。
私は、果帆の事をすっかり忘れて、自分の気持ちのまま彼にいう。
「雪・・・もっと、攻めてきて。」
って。
でも、雪はかなり眠いのかもしれない。
「う・・ん。」と答えるだけで、他は何も言わない。
もちろん、私を楽しませてくれてる。
激しくて力強くて、私が感じるツボを攻めまくってくれるから、声をあげ、この上なく乱れまくれた。
だけど、雪は、私の名前ももう呼ばない。
まるで、本能のまま、私を求めてる・・・そんな感じ。
私を感じる以外の余計な物には、力を注がない。
そんな余裕はない。
私を求める自分の体と、睡魔が襲う自分の体力の限界ギリギリの所で、雪は私を抱いていた。
私も、彼も・・・お互いの思いを、容赦なくぶつけ合った。
うつぶせになったまま、私はベッドに倒れこむ。
肩で息をしながら、異常なほどあがった自分の体温をシーツで冷やす。
そんな私の顔に、雪は自分の頬をくっつける。
「すっげぇー、熱いな。」
なんて言ってるけど・・・あたりまえじゃない。
どれだけ、すごい運動したと思ってるのよ!
さっきまで、必死だった雪とは大違いで・・・今は、いつもの余裕の彼。
だって、グッタリの私と違って、雪は起き上がって、パンツを履いて、しかもズボンまで履いてる。
「窓、少し開けてやるよ。」
と言って、小窓を少し開けてくれる。
そこから、流れてくる優しい風が、私の背中をなでてくれる。
「気持ち・・・いい。」
と目をつぶりながら、うっとりしてつぶやく私に雪は、「風邪、引くかもな。」と言って、お布団を私の背中に優しくかけてくれる。
そして、額にキスをすると、どこかへ行こうとする。
「どこ、行くの?」と顔を起こして聞く私に雪は、「トイレ。」といって笑うと部屋を出て行く。
でも、彼が本当は、どこに行ったのかは、私はわかっていた。
だから、少し戻って来る時間が遅かった彼にも、私は何も言わなかった。
「おかえり。」
とだけいう私に彼は優しく笑うと、私の髪に触れる。
「果帆、ちゃんと寝てた?」
私の言葉に、動いていた彼の手が止まる。
そして、「なんで・・・。」と、驚いていう。
私は笑いながら、
「あー、言ったものの、私の声で、果帆が起きてないか心配になったんでしょ。
そんなの、わかるって。」
それには、雪は「まいった。」と言うと、ベッドのすぐ際のフロアーに腰をおろして、ベッドに顎を置く。
私と彼との距離が、数センチと近付く。
「そうだ、水飲むか?」
そういって雪は足元においていた、ペットボトルを取ると私の目の前に持ち上げて見せる。
水滴がついている水。
すっごい・・・おいしそう。
「ほしぃ〜。」
とねだる私に、「その声で、その言葉は止めてくれよ。」と苦笑い。
「へっ?」っていうけど、よく考えたら・・・呆れた。
「もう!何でもかんでも、そっちに結び付けないでよね!
ホント、エッチなんだから。」
と呆れる私に雪は笑いながら、ペットボトルの口を開けると、「ほら!」と言って私の前に差し出す。
「ありがとう。」
と言って、体を起こそうとした私だけど、いきなり激痛が襲って、私は横になったままその場でうずくまる。
まるくなっている私に雪は、「大丈夫か?」というものの、あくまで冷静なんだけど・・・。
私は、こんなの初めてなんで、驚いちゃう。
そして、痛みがあった所へ手を移動させる。
さっき雪が暴れた所・・・すごく熱くなってる。
それに、そういえば、今は雪がいないはずなのに、まだ脈打ってるというか、彼がまだそこにいる感じ。
こんな感覚初めてで、私は驚きと戸惑いにパニック。
恐くなって、たまらず雪を見る私に、彼は優しく笑うと、「大丈夫だよ。」と言って、私の髪に優しく触れて、優しくキスをしまくる。
「ちょっと、激しくやりすぎたな。」
雪は笑いながらそういうと、「ほら。」と言って、自分が水を含み、私の唇を通して、私に飲ませてくれる。
それが、本当においしくて、私は何度も何度もせがんだ。
彼は、面倒くさがる事なく、何度も何度も私に口づけをし、私に水を与えてくれた。
「ありがとう。」
と満足した私がそういう口にすると、雪は私の体を抱き上げ、ベッドの中央に私を移動させる。
そして、自分は私の右横に寝る。
「側で、抱きしめててやるから。
安心して寝ろ。」
私を、優しく包み込むように抱きしめた雪は、さらに私の耳元で囁く。
「寝たら、その痛みも、治ってるから。」
雪の言葉を信じて、私は頷くと、彼からのとびっきり優しいキスをもらって、眠りについた。
雪の車から荷物を持って、エレベーターで上に上がる。
「道込んでたから、遅くなっちまったな。
果帆帰ってきてんじゃねぇーか。」
とエレベーターに乗っていても、じれったいみたいで、体を動かす雪。
「ち、ちょっと!!恐いから、揺らさないでよ!」
と両手が塞がっているから、仕方ない。
雪に足蹴りする。
結婚して、2週間が過ぎた。
新居ができるまで、私の家に住むことになったんだけど、雪がどうしても自分の家から持ってきたい医学書があるから。と言われてつきあわされた。
確かに彼の部屋から持って来たのは医学書だけなんだけど、帰りにデパートに寄ったのね。
そしたら、果帆にコレも、アレもとか言い出して、服や玩具や、何かいっぱい買ってたよ。
これでも止めたんだけど・・・いう事聞いてくれないんだよね。
これが、子供10人になったらと思うと・・・ゾッ!とした。
「そういえばさ、おふくろさん、いつ帰ってくるんだっけ?」
「う〜んと・・・来月くらいだったかな?」
と答える私。
本当は、結婚式に母も出席する為に、それまでに仕事を終えて、パリから帰ってくる予定だったの。
それで、今後は日本で仕事をして、果帆と二人で暮らすって。
だけど、仕事が忙しくてそれも、すべて無理になっちゃって、1ケ月伸びちゃったんだよね。
私は妹だからいいんだけど、雪は新婚生活楽しみたいかな?とか思うんだけど、見る感じ私が果帆に愛を注ぐよりも、雪の方が果帆に愛を注いでいるんで、「まっ、いっかー。」と思ってる。
玄関の前に辿り着いた私たち。
手が塞がっている私に気を使って雪が、「俺があけるよ。」と言って鍵をさしこむ。
なんだけど、回そうとして「あれ?」という。
「何?」と聞く私に、「開いてんぞ!」と言った雪は、ドアを開けるなり、「果帆―!!」と叫ぶ。
大声で叫んだ雪の声は、家中に響き渡る。
「あっー、おかえりぃー!」
と叫びながら、リビングから姿を現した果帆が、こっちに走ってくる。
廊下に荷物を置いて、両手が空いた雪は、近付いてきた果帆の頭に、左手をポンと乗せると、「こら!」と叱る。
「何よぉ〜!!」
とすねる果帆に、「一人の時は鍵閉めとけ!って、いってんだろう!」と説教。
だけど、果帆は、「だってぇー、一人じゃないもん!」と口をとんがらす。
その言葉に、私も雪も、「えっ!」と驚く。
驚いて玄関に目を向けると、確かにみかけないヒールが置いてある。
「ありささんか、優歌さんが来てるの?」
と果帆に聞いてみる。
こんなヒールは、すみれは履かないからね。
だけど、果帆は、「ううん。違う。」と首を振ると、リビングに向かって、「ねぇー、ねぇー!」と呼ぶ。
その声で、リビングから顔を出した人の顔を見て、私は叫んじゃう。
「お母さん!!」
って。
果帆に引っ張られながら、リビングに辿り着く私と雪。
「突然、お邪魔してごめんなさいね。」
と謝るお母さんに、
「何、言ってるんですか。
ここに、居候させてもらっているのは、俺と桜なんですから。」
といって、さらに雪は、「なー。」と私にいう。
「そうそう。ごめんね、まだ新居出来なくて。」
と告げる私に、「家を建ててるの?」と聞いてくる。
「そうなのよ。それがさ・・・。」
そこまで言って私は、雪に目を向ける。
「なんだよ。」と文句をいう雪に、「どうしたの?」とお母さんも聞いてくる。
「病院の近くに、建ててるんだけどね・・・。」
また、黙る私に、「ん?」とお母さんは聞いてくる。
「このマンションの建物が10コは入っちゃうくらい、広いのよ。」
それには、「はぁ?」とお母さんも口を開く。
そうなのよ!
うちのマンションは、8階建ての1フロアーに10世帯が住めるようになってるから、80世帯が住んでる結構、大きいマンションなのね。
それが・・・10コ入るんだよ。
雪の実家と比べたら10分の1もないけど・・・でも、異常でしょ!
「それはまた・・・すごいわね。」
と呆れるお母さんに雪は、
「それは、敷地の広さで、家はそんなに広くないですよ。」
とか言ってる。
あれのどこが広くないのよ!
外見的なものと、だいたいの構造はもう、出来てるのね。
たまに、様子を見に行ってるんだけど・・・。
ホント、半端じゃないくらい広いのよ。
毎日掃除するだけで、半日かかりそう。
なんで、そんなに広いの?って聞いたら笑顔で言われちゃった。
「13人家族には、これくらいいるだろう。」
って。
一人増えてんじゃん!って思ったけど、どうやら果帆みたい。
果帆がいつでも、家に来れるように、果帆の部屋もあるからね。
しかも、一番条件が良い所だし。
どれだけ、果帆をかわいがってるのよ!って思っちゃうくらい。
「でも、そんな豪邸・・・よく買えたわね。」
と笑うお母さんに、
「オヤジが、新築祝いで、少しくれたんで。」
と雪は言うと、「果帆、ケーキ買ってきたから、手を洗いにいくか!」と言って、果帆を連れて洗面所へと行った。
雪がいなくなったすきに、お母さんは私の腕を取って、「ねぇー。」と聞いてくる。
「何?」と聞く私に、「一体いくらだったの?」と聞いてくる。
その熱心さが面白くて、私は笑ってしまう。
「なんで、笑うのよ。」
というお母さんに、「雪に聞けばいいじゃん。」と言う。
でも、「貧乏人みたいで聞けないじゃない。」とか言ってる。
私は笑いながら、「次元が違い過ぎて越し抜かすよ。」と言うと、
「お父さんの新築祝いが、3億。
で、家がハッキリ言わないけど、たぶん土地も全部いれて、7億はいってんじゃない?」
それには、お母さんは、口をポカーン。
「ねっ、次元が違うでしょ。」
と言って笑う私。
「それ・・・借金?」
それには、「まさか。」と私は笑う。
「そうだったら、反対するわよ。
でもね・・・全額払ったんだって。」
「医者って、そんなに儲かるの?」
私は、「さぁー。」と首をかしげる。
「まっ、雪の場合は、芸能人とか著名人とか、ばっかりくるからね。
お金とかも結構入って来るのかも。
それでなんじゃない?
あんまり、聞かないようにしてる。
次元が違いすぎて、金銭感覚くるいそうだから。」
そういう私にお母さんも、「確かにね。それが賢いかも。」と笑ってる。
「あー!!まだ、用意してない!
もう!桜ちゃん、早く、ケーキ、ケーキ!!」
と駄々をこねる果帆に、「はいはい。」と言って、私はキッチンへと向かう。
お母さんの前に、正座をして座った雪なんだけど、果帆が雪の背中にまとわりついてくる。
「おい、果帆。そこ、座れって!」
というけど、聞くわけがない。
「ゆっくん、いつもみたいにしてよー。」
と言って雪の肩を揺らす果帆。
「ダメ!」と冷たくいう雪に、お母さんが笑って雪にいう。
「いつもみたいにしてください。」
それには、「すみません。」と言うと、雪は正座の足を崩してあぐらをかく。
その雪の膝の上に、果帆が乗っかる。
まるで、自分のソファーみたいになってる雪の胸に向かって、頭をゴンゴンあてる。
「いてぇーよ!」
と愚痴る雪に、「帰ってくるの遅かったバツー!」と言って容赦ない。
「ケーキ買ってきたんだから、いいだろ?」と言った時、私がちょうどケーキをお皿に入れて、テーブルに運んだ。
「果帆、好きなケーキ選んでいいよ。
お母さんは、アッサリがよかったよね?
これ、レモンのケーキだから、これにしたら?」
そういって、お母さんの前に出す私に、「いいの?」とお母さんはいう。
「だって、桜も甘いもの苦手でしょ?
いつも、ロールケーキとかアッサリなもの食べてたし。
これ、あなたのじゃなかったの?」
だけど、私は「いいの、いいの。」と答えただけで、慌ててキッチンに戻る。
紅茶が出すぎちゃうから急いじゃった。
お母さんの事、軽くあしらっちゃったけど、それは雪がホローしてくれる。
「ちゃんと、自分用にクッキー買ってましたよ。
だから、大丈夫です。」
そういって笑う雪に、「そう?」とお母さんは笑うと、「じゃ、いただくわね。」とケーキに手を伸ばす。
「はい、紅茶ね。」
とみんなの前に運ぶんだけど・・・果帆ったら、ケーキとにらめっこしてる。
「何してんの?早く決めなさい!」
という私に、「う〜ん・・・。」とうなっている果帆。
「果帆が好きそうなの選んだのに、どっちも嫌だったか?」
と心配そうに果帆をみる雪だけど、「ゆっくんのバカー!」と果帆は叫ぶ。
「は?」と驚く雪に、果帆は涙目で雪を見上げる。
「どっちも食べたくて、選べないじゃんかー!!」
って。
それには、雪は大笑い。
「笑いごとじゃ、ないやい!」
と言って、雪の上でジャンプする。
だから、その言葉遣いは・・・何?
といいたくなるけど、私は紅茶に入れるある物を思い出して、慌ててお母さんに、「紅茶は飲まないでね。」とストップをかけると、キッチンへと戻る。
「じゃーさ、2コ喰えばいいじゃん。」
それには、果帆は、「わーい、わーい!」と両手を上げる。
だけど、もちろん、「ダメよ!」と私が止める。
「堅い事いうなよ。
たまになんだから、いいだろ?」
と反論する雪に、「晩御飯、食べれなくなっちゃうでしょ!」と叱る。
それには、雪も果帆もため息をつく。
それを見たらなんか・・・かわいそうで・・・もう!しょうがないなー。
「今日だけ、特別ね。
そのかわり、2コはダメよ。
半分ずつね。
残りは、雪が責任を持って食べてよ!いい?」
それには、果帆も元気よくお返事。
それで、早速ウキウキしながら、ケーキを食べだす果帆。
「やっぱ、桜は話がわかるねぇー。」
とおだてる雪に、「あっ、そうだ。」と自分が持ってきたものを思い出す。
「これね、ハチミツに生姜をきざんで、つけた物なんだけど、砂糖代わりに入れると、本当においしいのよ。
のどにもいいしね。どう?」
とお母さんに勧める私。
こういうの大好きなお母さんは、「いいわね。」と言って、紅茶に入れる。
だけど、それを見た果帆は、「げぇー!!」と言ってる。
「何よ!」
と怒る私に、「果帆はいらない。」という。
もちろん雪も、「俺もいらねぇー。」という。
そんなの、許すわけないじゃない!
「ダメよ!果帆のクラスで、風邪がはやってるんでしょ?
予防よ、予防!」
そして、少しだけハチミツをたらす。
「えー!!嫌だ!!」
と叫んで、素早く雪の紅茶とすりかえた。
「バカ!何、すんだよ!」
と果帆の頭を軽く叩く雪に、「痛いなー。」と果帆も叫ぶ。
だけど、二人の喧嘩なんて、相手にしてられないわ。
いつもの事だし。
喧嘩してくれてるほうがいいかも。
なぜなら・・・。
「うわぁー!なんで、コレにまで入れるんだよ!!」
二人が騒いでいるうちに、まだ入ってないカップにも入れちゃった。
「マジかよ・・・。」
と嘆く二人に、「何?何か文句ある?」と偉そうに言っちゃう。
恐い果帆は、雪の腕をつかんで、「ゆっくん、言ってよ。」というけど、それは無理な話。
「ダメだ・・・ここは、従おう。」
と頷いて、目をつぶって紅茶を飲む雪。
「えぇー!!なんでぇー!!」
と叫ぶ果帆に、「桜を怒らせたら恐いだろ?」と耳元で囁く。
それには、果帆も頷いて、目をつぶって飲んだ。
「よしよし。」と頷いた私は、自分の紅茶を入れに、キッチンへと向かう。
席についた私は、買っていたクッキーを取り出すと、みんなにも少しだけ分けてあげて、自分も口にする。
「いつも、こんな感じなの?」
と笑いながら聞くお母さんに、「えっ?」と聞く私。
「ホント・・・家族みたいで。果帆は幸せね。」
それには、果帆は「うーん。」と適当に答えてケーキを食べてる。
「それで、お母さん、帰ってくるの来月だったでしょ?
どうしたの?早く済んだの?」
だけど、お母さんは、動かしていた手を止めると、私と雪を真剣な目で見た。
「果帆を、引き取りにきたのよ。」
それには、意味がわからなくて、「何?」と聞いてしまう。
「それって・・・パリに永住って事ですか?」
そういった雪の言葉に驚いて、「えっ!そうなの?」とお母さんに聞いてしまう。
「向こうで永住するように、正式な辞令が降りたの。
丁度、4月から、向こうで生活を始めるには、いいと思って急いできたのよ。」
それには、果帆が反論する。
「やだっ!果帆は、行かない!」
それには、雪が、「どうして?」と聞く。
「お友達もいるし、ゆっくんとも、桜ちゃんとも離れたくないよ。
果帆がお邪魔むしなのはわかってるよ。
でも、嫌だー!!」
そういって雪の胸でおいおい泣く果帆をなぐさめながら、雪は「桜はどうしたい?」と私に聞く。
「私も・・・果帆にはいてほしいよ。
3人でいる時間が長すぎて、そう思ってしまうのかもしれないけど・・・。」
その答えに雪は、私の頭を優しくなでてくれる。
そして、お母さんを見た。
「俺も、今桜が言った言葉と同じ気持ちです。
本来なら、果帆を母親である、あなたに返すべきなのかもしれない。
でも、俺と桜って、始めた時から、果帆がいたし、果帆がいたから、終わりかけた俺たちの恋も、ここまで続いた。っていうのもあるし・・・。
果帆がいない生活は、考えられません。
果帆がここにいたい。って言うなら、果帆の意見を尊重してやりたい。
俺と桜に、果帆を預けてくれませんか?」
雪はそういうと、お母さんに頭をさげて、「お願いします。」と言った。
それには、お母さんは、「本当にあなたは、損な性格ね。」と言って笑う。
その意味がわからなくて、雪は頭を上げてお母さんをみる。
「桜を選んだ時から、そうだったけど・・・あなたは、苦労を背負うタイプかしら?」
笑うお母さんに、「そうですか?」と雪はキョトンとしながら聞く。
「でも、こう言われると思ったわ。
今のあなたたちを見ていれば、私には壊せない。って思ったもの。」
お母さんは、そういうと、崩していた足を正座に戻すと、雪に頭をさげる。
「桜もそうだけど、果帆の事もお願いします。」
って。それには、雪は、「はい。」とシッカリと答えた。
「でも・・・。」とお母さんは言いながら頭を上げて雪をみる。
「実際、暮らしてみて・・・自分たちに子供が出来たら、気持ちは変わるかもしれない。
その時は、遠慮なく言ってね。」
「それは、ないとは思いますけど、覚えておきます。」
と雪は笑って答えた。
「ゆっくーん!」とさっきまで泣いていた果帆が、雪の顔をのぞく。
「何?」と声をかけた雪の首に、果帆は抱きつく。
「ゆっくん、だぁーい好き。」
って。
それには、本当にうれしそうに、雪ったら笑って、「俺も大好きだよ。」って答えてた。
そんな雪の顔を見たら、心から幸せになれた。
その時ちょっと思ったんだよね。
雪のいう通り、10コの季節が生まれたら・・・。
雪は、一体、どんな素敵な笑顔をしてくれるんだろう?って。
ちょっと、見てみたい気がしてきた私。
・・・頑張っちゃおうかな?なんて、本気で思った瞬間だった。
私はソファーに座る。
だけど、たまらず、そのままバタンと体を倒して横になる。
クッションを頭にしくのも、気持ち悪くて、クッションをフロアーに向かって投げ捨てる。
そんな私の姿を、支度をした果帆が部屋から出てきて心配そうに見てる。
「桜ちゃん・・・大丈夫?」
と声をかける果帆に、「うん。」と言いながら、「お弁当はキッチンにあるから。」と指をさす。
「うん。わかった。」
と果帆は返事をすると、持ってきたリュックにお弁当と水筒を入れた。
今日は、遠足だから、お弁当がいる。
必死で作ったよ。
でも、もうだめ・・・起き上がることもできない。
私がグッタリしていると、インターホンが鳴った。
「はーい。」と言って果帆が玄関へと行く。
誰かと話してるみたい。
だけど、体も起こす事も出来ないから、私はそのままでいた。
すると、その訪ねた人が私の目の前に姿を現す。
「やっほ!」
それには、ビックリしちゃう。
「ありささん!こんな朝早くどうしたの?」
と驚きながら、体を起こそうとした私に、「あっ、いいよ。そのままで。」という。
私は、「うん。」といいながら、とりあえず体を起こして、ソファーに座った。
「これ、持ってきただけだから。」
そう言ったありささんの顔が、果帆を見る。
私は果帆に目を移すと、大きな紙袋を抱えていた。
「なに?」
といいながら、私は果帆に「こっちにきて」と手招きする。
側に来た果帆の手に持っている紙袋をのぞいて、ビックリ。
たくさんのフルーツが入ってる。
「どうしたの、これ。」
とビックリする私に、「つわりには、いいっていうから。」と笑って答えてくれる。
そうなんだよねぇー。
実は、できちゃたのよ。
しかも、結婚して・・・また、3ケ月経ってないって。
これじゃあ、雪の計画通りだよね。
ホント恐いよ。
だけど、つわりがひどくて何も食べれなかったから、これはうれしいかも。
「ホントに、ありがとう。」
という私に、「あっ、でもね。」とありささんは付け加える。
「人にもよるだろうけど、男の子の時は、柑橘類はダメらしいって聞いたから、りんごを多めに買ってきたよ。」
それには、ちょっと首をかしげてしまう。
だって、今の話だったら、男の子っぽいよね。
でも、もちろんまだわかんないし、柑橘類はまだ食べてないから、どうかわかんないし・・。
と戸惑う私に、「前に言ってたじゃない。」とありささんは、笑う。
「『雪が望みすぎるから、絶対男だ!』って言ってたでしょ。」
そういわれたら・・・そうだったかな?
「けど、ごめんね。こんなにたくさん。」
という私に、「いいのよ。それより、何かあったらいつでもいってね。」といってくれるありささん。
「ねぇー、そういえば、雪にはもう話したの?」
だけど、私は「まだ。」と答えた。
「先週から出張行ってるのよ。
なんか、いろんな所で、発表しなきゃいけない事があるらしくてね。
10日逢ってないのよ。
たぶん、もう病院には、いると思う。
そのまま勤務して、夜の定時には帰ってくるはずだけど。」
という私に、「そりゃ・・・大変だ。頑張って。」とありささんは、首を振る。
「えっ?・・・何を頑張るのよ!」
とキョトンとして聞く私に、
「10日やってないんだよね。
雪・・・襲ってくるかもよ。」
それを聞いて、「まさか・・・。」って言うけど、すぐに、「どうしよう!」とありささんに助けを求める。
それには、ありささんも大爆笑!
「子供のために、頑張って!!」
ありささんはそういうと、
「果帆ちゃん、途中まで乗せて行ってあげるよ!いこうっか。」
というと、二人で部屋を出て行く。
「果帆もありささんも、気をつけて。」
と叫ぶ私に、二人は仲良く、「いってきまーす。」と言って出て行った。
果帆が外から鍵をかけてくれる。
ホッとした私は、少し眠ろうと思った。
だけど、やっぱりソファーは落ち着かないから、ベッドで眠ろうと立ち上がった。
そして、部屋まで行ったとき、玄関の鍵穴に鍵が刺さる音。
えっ?
と驚くけど、そのまま鍵は回され、解除される。
果帆かな?
と思った私はドアが開くや否や、声をかける。
「果帆?忘れ物?」
って。でも、現れたのは・・・。
「えー!!雪!!」
すぐ側に私が居たものだから、雪だって驚く。
「うわっ!ビックリした。
お前、なんでこんな所にいんだよ!!」
って・・・驚くのは私だって。
「ねぇー、仕事じゃなかったの?」
だけど、雪はドアを閉めて鍵をかけると、靴を脱いで私の目の前までくる。
そして、私を抱きしめて、もちろんキスをする。
最初はよかったの。
だけど、舌をからめてってしていると、気持ち悪くなってきた。
私は、強引に彼の唇から離れると、その場でしゃがみこむ。
「さくら・・・。」
とつぶやく彼に、私は気付いた。
そうだ!彼は、知らないんだった。
理由を言わなきゃ!って思って、「あの・・・。」と口を開きかけたんだけど、それ以上言えなくなった。
とにかく・・・気持ち悪い。
私は、口を抑えて、その場でムカムカがおさまるまで、ジッとする事にした。
そんな私を雪は、膝をついてしゃがみ、私を抱きしめてフロアーに座る。
彼のぬくもりを感じていると、不思議とムカムカがおさまってきた。
落ち着いた私は、雪の顔を見上げる。
「雪、あのね。」
と言いかけた私に雪は、ニッコリ笑う。
そして、私の顔にいつものように、自分の顔をくっつけて囁く。
「季節・・・出来たんだな。」
って。
それには普通に「なんで?」と言ってしまう。
「えっ?」という雪に、「なんでわかったの?」とさらに聞く私に、雪は笑って答えてくれない。
「ねぇー。」と迫る私に、
「俺がなんで、こんな時間に帰ってきたかわかる?」
って言ってきた。
「う・・・ん。」と首をかしげる私に、雪はまた私をギューって抱きしめた。
「桜の体温が最近高かったからさ、もしかして?って思ってたんだよ。」
それには、もちろん驚くよ。
「そんな些細な事に・・・気付いてたの?」
「桜の事なら、何でもわかるって。」
雪はそういうと、「ホントは出張いくのも、嫌だったんだよ。」って囁くと、
「向こうでも気が気じゃなかった。」
なんて言って、かわいらしい笑いを浮かべてる。
それを聞いてわかったよ!
「それじゃあ、今帰ってきたのって・・・。」
「そう、季節が出来てるか、確かめたかったから。」
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