11    10章TEAR     〜涙〜
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H17年8月22日(月)
閉めてあるカーテンのわずかな隙間から漏れている光が、部屋に注がれていた。
私は体を起こし、窓まで歩むと、両手でカーテンを一気に開けた。
強い朝日が眩しくて、思わず目を細めてしまう。
司令塔室から見える眺めほど、よくはないけど、蒼輝が選んでくれた部屋だけあって、緑豹国の町並みがそこそこ見えた。
その景色が、昨日の彼との再会での出来事を思い返すと沈んでしまう私の心を、勇気づけてくれた。
村は、まだ7時前だというのに、活動を始めていた。
畑仕事をする人や、家事をする人たちの姿を見る事ができ、すでに村は活気に満ち溢れていた。
それを見て、私は自分の両頬を、「パシパシ」と叩き気合をいれる。
今から、この人たちの生活を守るために、私は『原石』を取りに行かなくてはいけない。
それと、もう一つ。
タカさんと私の2人だけの秘密の話。
蒼輝を豹の姿に戻す為に必要な、幻の原石と言われている『虹のかけら』を、なんとしても手に入れなくては!
この時代に来て宙ぶらりんだった私に、やっとするべき事がみつかったのだ。
絶対に、手に入れてみせる!!
私は、心からそう誓った。
 
 
「あっ!おはようございます!」
 
着替えて部屋からリビングに行くと、すでに朝食の準備をしてくれていたランさんが、私に笑顔で話しかけてくる。
 
「おはようございます・・・朝食の準備までごめんなさい。」
 
謝る私に、「いいえ。」と優しく笑う彼女。
 
「でも、こんな朝早くから村を探検だなんて・・・どうかしたんですか?」
 
と首をかしげる。
昨日、タカさんと別れてから、私は司令塔室へ戻った。
そして、みんなで夕食を食べた時に、明日は一人で村の探検をするので、早起きする事をランさんに伝えた。
時間が早いので、みんなで食べるよりは部屋で食べた方がいい。とランさんが提案してくれて、ここでの食事となった。
『村を探検』だなんて、ランさんに嘘をつくのは、すごく気がひけたけど・・・仕方ない!
だって、本当の事をいえば、絶対にトーワくんは「ついてくる!」って言うだろうし、ランさんだって私を行かしてはくれないだろう。
だから、原石の洞窟まで行く事は、みんなには秘密。
絶対に言っちゃいけないんだ。と自分に言い聞かせて、私は必死で本当の事をいう事に耐えた。
 
「翠さん!そんな所に立ってないで、どうぞ座って下さい。
すぐに、ティーをいれますから。」
 
彼女はそういいながら、テーブルのイスを後ろに引き、私に座るよう勧めてくれる。
私は、「ありがとう」と彼女にお礼をいうと、そのイスに腰を降ろした。
座った私の目をくぎ付けにしたのは、テーブルに置かれたカゴに、あふれんばかりに盛られた色とりどりのパンたち。
その色彩に、私は思わず見とれてしまう。
そんな私の姿を、ティーを入れながら見ていたランさんは、「クス。」と笑う。
その声に、彼女に視線を移す私だったけど、行きついた視線の先は、今入れられたばかりのティーが入ったカップだった。
それが、丁度私と彼女の間をさえぎるようにして、置かれた。
食事の準備が整い、彼女は私に「どうぞ。」という。
一人で食べるのも寂しいので、
 
「ねぇー、ランさんもよかったら、一緒に食べましょうよ!」
 
と彼女を誘ってみる。
もしかしたら、断られるかも?と半信半疑の私をよそに、彼女は意外にもアッサリと「では。」と答えると、食器棚からマグカップを一つ手に取る。
そして、そのまま私の向かいの席に座ると、今度は側に置いてあったポットに入っている液体を、さっきのマグカップに注いだ。
それを、見ていた私は、
 
「じゃ、いただきま〜す。」
 
と彼女に言うと手を合わす。
彼女もまた、私の後に続き同じ言葉を口にする。
 
さっ!この色とりどりのパンを食〜べよっと!
どれから食べようかな〜。
 
ウキウキの私は、目の前にあるパンを、身を乗り出してみる。
形は普通の真ん丸で、直径5センチくらいの小さめの手ごろな大きさのパン。
こんがり焼かれている、表面には卵の黄身を塗っているような光沢があった。
珍しいのは、さっきも言ったように、色。
グリーン、レッド、オレンジ、パープル、イエローの5色。
一体、どれがどんな味なのか、わからない私は、うかつに手に取る事もできずに、ただパンとにらめっこ。
そんな私の姿がおもしろかったのか、彼女は声を出して笑う。
 
「そんなに、不思議ですか?」
 
笑いながらいう彼女に、
 
「何味なの?」
 
と質問する私。
すると、彼女はパンがいっぱい入っているカゴを持ち上げると、私の目の前に差し出した。
 
「グリーンは、森で採れたヨモギやハーブを合わせた物。
レッドはトマトで、オレンジは人参。
パープルはラベンダーで、イエローは畑で採れたサツマイモです。」
 
なるほどな〜。
私は、心から感心する。
ますます、このパンが早く食べたくてウズウズする私。
そんな私が、差し出された中から取ったパンは、もちろんラベンダーパン。
やっぱり、ここでは『貴重』と言われているラベンダーを食べなきゃっ!
私は、一口「パク。」とかぶりつく。
 
「どうですか?」
 
彼女は心配そうに私を見る。
何も言わずに、ただ黙って口に入れたパンをかみしめる。
噛めば噛むほどラベンダーの香りが口に充満して・・・なんだか、気分が落ち着いてくる感じ。
ラベンダーの香りは、しっかりするのに、味が濃いわけでもないし、それが、しつこいわけでもない。
とても・・・不思議な感覚だった。
だけど・・・。
 
「すごくアッサリしてておいしい!」
 
その言葉よりも、あっという間にたいらげてしまった私の姿が、おいしさを物語っていた。
私の様子に、「よかったです。」とニコやかな彼女。
彼女のその笑顔を見ながら私は、パンがなくなった口の中で、今もなお残っているラベンダーの心安らぐ香りに浸っていた。
 
「あ〜、これ、渚にも食べさせてあげたいな〜。」
 
私のポロっと出た言葉に、彼女は不思議そうな顔をして、
 
「渚さんって?」
 
と私に聞き返す。
 
「私の世界にいる親友です。
こういう凝ったパンが大好きな子だから、きっと喜ぶだろうな〜って思って。
あっ!その子なんですよ!
ヒビキさんと同じ本を持っていた子って!」
 
「そうなんですか〜。」
 
私の話を、彼女は楽しそうにニコニコしながら聞いていた。そして、
 
「渚さんも、こっちに来たらいいのにねっ。」
 
と言いながら、「フフフ。」と上品に笑う。
その提案に、私ものって、
 
「そうよね〜。今度、渚も連れてこようかな。」
 
なんて、冗談を言い合い二人で大笑い。
笑いながら彼女は、
 
「翠さん、次は何にします?」
 
と私に次のパンをすすめる。
私は、言われるままパンを選ぼうと、ランさんの手元に目をやる。
すると、前かがみになっていた彼女の胸元の奥で、また紫紺色の玉がキラリと光った。
私は、パンを取りながら、やっぱりその玉が気になった。
もしかしたら、私は、このあと『光のない世界』で、ジギルやトロイたちに殺されるか、捕まえられるかして、もうここには戻ってこられないかもしれない。
いや、もしそうじゃなかったとしても、タイムリミットが来て、私は元の世界に戻されてしまうかもしれない。
私には、先の未来はわからないのだ。
今、聞いておかないと・・・きっと後悔する。
そんな思いが、弱気だった私の心を強くする。
私は、思い切って彼女に、聞いてみる事にした。
 
「ランさん!
そのネックレスに付いている玉は、ヒビキさんの指輪の玉と同じ物よね?
2人はその・・・恋人同士だったりするの?」
 
突然そんな事を、しかもごまかさずにストレートに私が言うものだから、さすがのランさんも、焦ってしまう。
 
「えっと・・・。」
 
と言って慌てふためく。
何て言ってごまかそうか、オロオロしている彼女の言葉を、私は黙って待つ。
そんな私に彼女は、口を開く。
 
「これは、偶然ですよ。
私とヒビキさまが恋人同士だなんてそんな・・・。」
 
そこまで言うと急に、ランさんは口をつぐんだ。
その姿が、あまりにも悲しそうで私は思わず彼女を心配そうにみつめてしまう。
 
「どうか・・・した?」
 
まるで、私の言葉が合図だったかのように、突然彼女は私を見る。
 
「やっぱり・・・私、翠さんには嘘はつけません!
ちょっと、待ってもらえますか?」
 
何かを決意したような彼女の瞳に私は、
 
「う、うん。」
 
と少し戸惑いながら返事をしてしまう。
私の返事を聞いた彼女は、私から目線を離すと、今度は顔を下に向け、目をつむりめいそうを始めた。
訳が分からない私は、彼女のその態度に驚いてしまう。
 
もしかして、私絶対に聞いちゃいけない事を聞いちゃったのかも。
ランさんは、考え込んじゃうし・・・。
どうしたらいいの〜。
 
聞いた事を後悔して、ひどく落ち込む私。
そんな私の側で、さっきまで下を向いていた彼女が今度は、急に顔を上げ、私を真剣なまなざしで見た。
 
「お待たせしてすみませんでした。
お許しが出たので、全てお話します。」
 
彼女の言った言葉の中で、一つ気になった事が・・・。
 
「お許しって・・・誰の?」
 
「もちろん、ヒビキさまのです。」
 
ハッキリそう彼女は答えると、自分の胸元よりも下に隠すように、しまっていた玉をネックレスごと上に引き上げた。
そして、それをテーブルの上に置いた。
じっと見る私。
ヒビキさんのは、ホンの一瞬しか見えなかったし、ランさんのも遠くからチラっとしか見てなかったんで、全然わからなかったけど、こうして間近で見ると言葉を失ってしまう。
それくらいこの玉は、すっごく綺麗だった。
透明感があって綺麗。
だけど、心を動かすような強さもある・・・そんな玉だった。
その玉に見とれている私に、彼女は、
 
「この玉の話をする前に、私とヒビキさまとの関係をお話してもいいですか?」
 
と私にうかがう。私は、
 
「もちろん!聞かせて、聞かせて。」
 
と身を乗り出して彼女におねだりする。
その姿に、彼女は「プッ。」と噴出し笑いをしながら、「じゃ、話させてもらいます!」と言うと話始めた。
 
「ヒビキさま、トーワさま、蒼輝さまが、王になられる前は、昨日翠さまが行かれた『村』にいました。
そこで、生まれ育ったのです。
そして、私ももちろんあの村で育ちました。
ヒビキさまとは同じ年という事もあって、幼い頃からいつも一緒でした。
気付けばいつも、ヒビキさまが側に居て、それが当たり前というか・・・。
私とヒビキさまは、一人一人別の人間なんですが、別の人って気がしなくて、彼がいる事で、やっと本当の自分になれるというか・・・。
まるで、彼は私の一部で、なくてはならない存在・・・。
そんな感じになってました。」
 
そういって彼女はとても穏やかに笑った。私は、その話を聞いて素直に、
 
「いいな〜。」
 
と言ってしまう。
うわごとみたいに出た私の言葉に、彼女は「何がですか?」と聞いてくる。
 
「だって、他人が自分の一部になるなんて・・・すごい事でしょ?
一緒に居てホッとするとか、居心地がいいとかは、聞いたりするけど、自分の一部っていうのは初めて聞いた。
でも、それって具体的にいうと、どういう感じなの?」
 
興味深々で、さらにつっこんで聞く私に、彼女は「そうですねぇ・・・。」と言って少し考える。
 
「具体的にこう!って言うのはないんですけど・・・。
ずっと一緒にいたせいだと思うんですが、彼の姿を見るだけで、心が落ち着くのと、あとは、彼と一緒にいると『ここが私の居場所なんだ。』って思うんですよね〜。
って、答えになってないですね。
ごめんなさい。」
 
頭を下げて謝る彼女を、そっちのけで私はうっとりしてしまう。
 
「ここが私の居場所かぁ〜。
そういう人に、逢いたいな〜。」
 
天井を見上げて、思いっきりうかれている私に、ランさんは呆気に取られるものの、すぐにこういう。
 
「翠さんの相手はもういるじゃないですか。」
 
その言葉に、浮かれていた意識がハッキリする。
 
「はぁ?」
 
と言いながらランさんを見る私に彼女は、意味ありげに笑っている。
その笑いで・・・わかった!
 
「それって、蒼輝の事?」
 
さらに彼女は笑ってる。
どうやら、正解みたい。
確かに・・・。
昨日見た彼の記憶をたどると・・・。
顔は芸能人なみに整っててかっこよかったし・・・。
身長はヒビキさんより少し低めの170センチくらいで、前にヒビキさんが言っていたように、『強化された体』だけあって、バランスの取れた体つきをしていた・・・かな。
性格も意地悪で素直じゃなかったりするけど、平均的に見てそんなに悪くなさそうだし、申し分はないのかもしれない。
だけど、それは、私の気持ちであって、彼の方は・・・。
 
「蒼輝には、そんな気持ちみじんもないから、ありえない!」
 
といって、両手で大きくバッテンをしてみせる。
その姿に、さらにランさんは笑ってる。
 
「両思いでも贅沢な事なのに、ランさんが言ったように感じれる人なんて・・・そうそう出会えないよね〜。」
 
またグチっぽくなる私。
それに、対してランさんは、
 
「でも、そう思っているのは私だけで、実際ヒビキさまは、どう思っておられるかはわかりませんから。」
 
と言う。彼女の言葉に、
 
「きっとヒビキさんも、同じ気持ちだよ。」
 
と言いかけた私の言葉とかぶるように、他の言葉が重なる。
 
「俺も同じ気持ちだけど〜。」
 
突然の予期せぬ声に、私もランさんも、声がした扉の方に一斉に目を移す。
そこには、笑ってこちらを見ているヒビキさんの姿があった。
私もランさんも、驚いて声が出ない。
まさか、ここへ来るとはランさんも思っていなかったようで、心から驚いているようだった。
さっきの事には触れずに、ヒビキさんは私たちの方に歩み寄ってきながら、
 
「俺も、ここで朝食食べていいかな?
翠ちゃんに、話したい事があるんだ。」
 
と言ってる。
話って、ランさんとの事かな?と思った私は、
 
「はい。どうぞ。」
 
とヒビキさんに返事をする。
だけど、テーブルには私が座っているイスを含めて2脚しかない。
どうしようかと考えている私に、ランさんが素早く席を立つ。
 
「どうぞ、こちらに。
私は、倉庫からイスを取ってきますので。
正面の方が、翠さんとお話しやすいでしょうから。」
 
ランさんの提案に、ヒビキさんも「悪いな。」と謝ると、ランさんが座っていた席に腰をおろした。
 
「ヒビキさまのお飲み物を、すぐに用意しますので、お待ち下さい。」
 
彼女はそういうと、キッチンに向かっていこうとする。
そんな彼女の右腕を、ヒビキさんがつかみ彼女は、その場に立ち止まる。
彼女がその場に踏みとどまるのを見て彼は、腕を放すと、今度はテーブルに置いてあった紫紺色の玉の付いたネックレスを手に取ると、彼女の首にさげた。
 
「大事な忘れ物。」
 
ヒビキさんから優しく発せられたその言葉に、ランさんは素直に、
 
「ありがとう。」
 
と答えると、紫紺色の玉を洋服の中にしまった。
キッチンに向かったランさんを、ボーっと見ていた私に、ヒビキさんは突然話しかけてくる。
 
「さっきの話だけど。」
 
彼の言葉に、私は「ん?」と思う。
さっきの話って・・・なんだっけ?
必死で考える私の様子で、私がスッカリ忘れている事に気付いたヒビキさん。
「おいおい。」といいながら、私をちょっと呆れた顔でみる。
 
あっ!思い出したっ!
 
思わず、手をポンと打つ。
 
「ランさんの事を、ヒビキさんがどう思ってるかって事よね!」
 
自信満々に言う私に、ヒビキさんは冷たく、
 
「それは、さっき言った。」
 
というと、
 
「俺が言いたいのは、翠ちゃんと蒼輝の事!」
 
あ〜・・・そっちか。
私は、小さなため息をつく。
実は、ヒビキさんの口から『蒼輝』って言葉が出るとドキっとする。
何か聞かれるんじゃないかって。
なぜなら、昨日蒼輝の実家であった事は、全く誰にも話していない。
私が彼の実家から飛び出した事を、みんなは知っているから、あえて聞こうとしないのかもしれない。
それに、私も言いたくないから、昨日の夕食でも何も言わなかった。
きっと、ヒビキさんは、誰よりも昨日の事を知りたかったはず。
そして、今、こんな朝早くにヒビキさんが、ここに来たのは、ランさんの話かと思ったけど・・・昨日の事を聞きに来たのか。
でも、今はまだ蒼輝の名前を聞くだけでも、悲しくなっちゃうから・・・言えないよ。
よ〜っし!話題を変えよっと!
 
「ねぇ〜、ヒビキさん!」
 
私の呼びかけに、ヒビキさんは「ん?」と私に軽く返事をする。
私は、ヒビキさんの左手に付けられている指輪の紫紺色の玉を指差す。
 
「それと、ランさんの持っている玉って、何か役割があるの?」
 
私の質問に、ヒビキさんは指輪をはずすと、それを私の目の前に置いた。
 
「これの意味、ランから聞いてない?」
 
私は、「まだ。」と言いながら首を振った。
私の態度に、ヒビキさんは、
 
「じゃ、俺が説明するよ。」
 
と言うと、今置いた指輪を手に取ると、その玉をみつめた。
 
「俺は、豹に変身できる者としか、心での会話ができない。
でも、一つ例外があって、それがこの玉。
これを持っていれば、豹になれなくても、心での会話が出来る。
つまり、俺とランはこれがあれば心での会話が出来るんだ。
それが、この玉のカラクリ。」
 
な〜るほどな〜。
心から納得した私は、「うんうん。」とうなずいてしまう。
昨日、ここでランさんに緑豹国の話をしてもらっていた時に、急に『ヒビキさまが呼んでる。』と言ったり、さっきも『お許しがでた』とか言ったりしてた謎。
これは、ヒビキさんと心で会話をしてたからだったんだ〜。
ずっと不思議だった疑問が、解けて思わずニコやかになってしまう私。
そんな私に、ヒビキさんは話を続ける。
 
「この玉は、何個も作れる物じゃないし、誰が持ってもいいわけじゃない。」
 
彼のその言葉に私は、チョット顔をしぶる。
 
「もしかして・・・また制約?」
 
ここは、何でも制約がつきまとう。
結局これで、しばりつけている感じがして私はこれが嫌い。
だんだん制約の存在に嫌気がさしてきていた私は、うんざり顔でヒビキさんを見る。
私の顔で、私の気持ちがわかったのか、彼は少し笑いながら、
 
「制約は制約でも、きっと翠ちゃんは喜ぶと思うけどな。」
 
と言う。
意味がわからない私は、さらに顔が険しくなる。
そんな私に、ヒビキさんの飲み物を入れて戻ってきたランさんが口を開く。
 
「きっと、『ロマンティック〜。』って言われると思いますよ。」
 
と言って笑うと、
 
「イスを取ってきますので、続きはヒビキさまに聞いて下さいね。」
 
と言って、部屋から出て行った。
ランさんの残していった言葉が・・・気になる。
 
「ロマンティックな話・・・聞きたい!」
 
ボソっという私に、ヒビキさんは口に付けていたカップを急いで離し、噴出し笑いをする。
笑いながら、「一口飲ませて。」と言うと、笑いを堪えながらティーを飲む。
そして、少し落ち着きを戻した彼は、
 
「じゃ、ロマンティックな話するね。」
 
と言って笑う。
 
「もともと俺の『心で会話ができる能力』は、自分の大切な人。
つまり、愛する人を、どんな状況でも守れるようにと、天より授かった力だと言われている。
世の中がこんな風にならなければ、豹の血が濃い混血人間もたくさん生まれていたはずだから、俺の愛する人も豹に変身できる人である確率は高かったと思う。
だけど、豹になれない人を愛した場合、この力は使えない。
だから、そういう時の為に、翠ちゃんの嫌いな制約が作られた。
それが、『愛する女性が豹になれない場合は、玉を持つ事により会話ができるようになる』というもの。
この玉は、2人の愛が消えない限り、どんな事をしても、割れないし、この玉を他の者が持っても、心の会話はできず、それは何の力も持たない、ただの紫紺の玉に過ぎない。」
 
「そうなんだ〜。」
 
確かに、ちょっとだけ・・・ロマンティック。
でも・・・制約を許せるほどではないよ!
やっぱり・・・制約はキライかも。
と私が思った時、おもむろにヒビキさんは、自分が持っていた指輪を、私に差し出した。
私は、訳が分からないまま、その指輪を受け取る。
 
「な・・・に?」
 
不思議がる私に、彼は問題を出す。
 
「この紫紺色の玉は何で出来てると思う?」
 
何って・・・。
そんなの決まっているじゃない!
 
「洞窟にある原石でしょ?」
 
即答する私に、ヒビキさんは首を振りながら、
 
「ロマンティックといえば?」
 
と言い出す。
 
えっ?ここからが、ロマンティックな話だったの?
だけど・・・何?
もしかして、さっきヒビキさんが言った「ロマンティックといえば?」って・・・ヒント??
そんなんでわかるわけないじゃない!
全然、わかんないよ〜。
完全に、ギブアップの私。
 
「わかんない。」
 
早々に、白旗をあげる私に、ヒビキさんはサラっと正解を言う。
 
「これねー、俺の涙。」
 
あまりに「サラ。」っというもんだから、私も何とも思わずに、
 
「そうなんだ〜。」
 
と聞き流してしまう。
だけど、すぐに聞き流した言葉が、もう一度頭に戻ってくる。
今、彼なんて言った?
確か、涙って言ってなかった?
・・・涙??
 
「えぇ〜!!なみだぁ〜〜!!」
 
すっとんきょうな声を上げる私。
ワンテンポずれての私の驚きに、ヒビキさんはかなり驚いたのか、食べようとしていたパンを、「ボト。」っとテーブルに落としてしまう。
そんな彼は、どうでもいい!
不思議なのは、これっ!この玉よ!
だって、どっからどう見たって『石』だよ!
それが、涙なんて・・・。
いったい、どういうこと?
不思議でならない私は、頭の中で『なんで?どうして?』ばっかりが飛び交う。
困惑する私に、ヒビキさんは落ちたパンを拾いながら説明する。
 
「俺が心から愛した女性と、相思相愛になった時、この玉は出来る。
俺が、その人の事を思って、流した涙の一粒が紫紺の玉になる。
右目の涙を俺が。
左目の涙を愛する人・・・つまり、ランが持つ。」
 
何も言えない私。
だって、ホントに・・・ロマンティックなんだも〜ん。
うっとりしちゃう私に、ヒビキさんはパンをかじりながら私を眺めていた。
 
「この玉が、ヒビキさんからの愛の証なんだよねぇ〜。
ランさん・・・うらやましいな〜。
おとぎ話に出てくる、主人公みた〜い。」
 
また、ボソっと独り言を言ってしまう私。
それを聞いたヒビキさんは、
 
「蒼輝にも、あるんだよ。
相思相愛の相手・・・つまり、『愛する者にだけ与えれる愛の証』ってやつがさ。
それを、翠ちゃんがもらえばいいんだよ。
そして、翠ちゃんもランと一緒で、主人公になれる。
ねっ!」
 
と言って・・・バクバク、パンを食べてるヒビキさん。
いい話をしてるのに、そんなにパンを食べないでよ。と言いたいけど、あきれて何も言い返せない。
あきれたのは、彼の姿にもだけど、彼のした話にも。
ランさんもそうだけど・・・二人揃って同じ事言わないでくれる?
彼が、私を愛するわけないじゃない!
住んでる世界だって違うんだし。
それに、昨日理由はどうあれ、帰れと言われたばっかりだっていうのに・・・。
人の気も知らないで!!
私は、好き勝手言うヒビキさんに、少し腹を立てる。
 
「昨日、蒼輝と何があったかは知らないし、翠ちゃんが話したくないなら聞かないけどさ、そう怒らずに!」
 
とヒビキさんは言いながら、「おさえておさえて」と笑顔。
そう言われて気付いた。
しまったっ!!
またしても、心を読まれてしまった!
感情的になり過ぎて、心の調整をするのを忘れていた。
「はぁ〜。」と落ち込む私に、ヒビキさんは、
 
「翠ちゃんに、うまくかわされたけど・・・。
俺が朝っぱらから、ここへ来たのは、昨日蒼輝の家であった事を、翠ちゃんに聞く為に来たんじゃないんだよ。」
 
「えっ?」
 
彼の言葉に、心底驚く私。
 
「そう・・・なの?」
 
確認する私の言葉に、「うん。」とヒビキさんは、ハッキリ答えと、こう言った。
 
「昨日、蒼輝が、司令塔室に来たんだ。」
 
と。
その言葉の深さが、私にはわからなくて、何も答えられなかった。
だけど、イスを持って戻って来ていたランさんが、持っていたイスの手を思わず離してしまうくらい、驚く事だったのだと知った。
 
「大丈夫か?」
 
ランさんを心配するヒビキさんに、ランさんは、
 
「申し訳ありません。」
 
と謝ると、すぐにイスを拾い起こすし、ヒビキさんと私の間に、イスをセッティングして、そこに腰を降ろした。
 
「さっきの話しは本当なんですか?
蒼輝さまが、昨日司令塔室に来られた。って・・・。」
 
改めてヒビキさんに、確認するランさんに、ヒビキさんは「うん。」とシッカリとうなずいた。
そして、ヒビキさんは私を見る。
 
「翠ちゃんには、わからないだろ?
どうして、ランがこんなに驚いたのか。」
 
私は、「う・・・ん。」と言ってうなずく。
その返事に、ヒビキさんではなくてランさんが答えた。
 
「だって、昨日蒼輝さまに逢われたんですよね?
そしたら、蒼輝さまの状態をみられたのでは?」
 
状態・・・。
ランさんに言われて、私は蒼輝に逢う前に、ヒビキさんに言われた言葉を、思い出した。
『目も合わさなければ、話もしない』って言ってたっけ。
全然普通に話してたから・・・そんな事スッカリ忘れてたよ。
だけど、蒼輝は普通に話してましたよ。と言っていいものか・・・悩む私はランさんに答える事が出来ず黙ってしまった。
 
「蒼輝はね・・・翠ちゃんには、普通に話してたんだって!なっ!」
 
ヒビキさんは、そういって私に同意を求める。
うなずく私だけど、なぜヒビキさんがそれを知っているのか、不思議に思う。
また、心を読んだのかな?と疑う私。
 
「心は読んでないよ。
昨日、翠ちゃんが飛び出して行ったって、蒼輝のオフクロさんが来た時に教えてくれたんだ。
蒼輝が、翠ちゃんと普通に話をしてたってね。
いや・・・元の時よりもよく話してたって。
アイツ、翠ちゃんには、心を開いてるんだな。」
 
そういって、ヒビキさんは笑うけど・・・私は笑えない!
「心を読んでない」って・・・今、読んでるじゃん!
ホント、勘弁してよ!と心から、ヒビキさんに聞こえるように叫ぶ私。
そんな私を無視して、ヒビキさんは話を元に戻した。
 
「それで・・・昨日、蒼輝が司令塔室にきて、俺に話した話を、翠ちゃんには、キッチリ話しておこうと思って。
翠ちゃんのおかげで、蒼輝の心が少しずつ変わり出したからさ。」
 
ヒビキさんは、そういうとティーを何口か飲むと、昨日の事を語ってくれた。
 
☆☆☆END☆☆☆



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