部屋を飛び出した私は、すごいスピードで階段をくだり、玉のエレベーターに乗り込んだ。
まだ、玉に慣れていない私は、人一倍慎重にならないといけなかったのに、既に遅刻してあせっていた私は、そんな事スッカリ忘れて・・・。
玉に手を置いて、こう思ってしまったのだ。
『下まで急いで』って・・・。
その思いに、忠実に玉は答える。
エレベーターが動いたかと思ったら、想像を絶する程の早さで、下に落下した。
立っていた私は、浮力で足が浮いてしまい、思わず玉を置いてある台に、しがみついてしゃがむ。
もちろん「死ぬ〜!!」と叫んだのは・・・言うまでもない。
そして、10秒後・・・エレベーターは止まった。
つ・・・ついた。
心から「ホッ。」とした私だったけど、さすがに足に力が入らず、はい出るようにエレベーターから外に出た。
側にある大きな岩まで、ズルズルとはって進み、私は岩にもたれた状態で、気持ちを落ち着かせる為に、ちょっと休憩をする。
大きく深呼吸をしながら、そこから少し見える村の景色から、タカさんのいう大きな木が植えてある家を探す。
「あれか!」
ここから西に少し進んだ所に、その木はあった。
「よしっ!いくか!」
脱力状態だった足腰に、力を入れる。
なんとか、感覚が戻ってきた。
私は、気合いを入れて、立ち上がると、すぐにタカさんの家の庭にある大きな木に向かって、猛ダッシュで走った。
「遅〜い!!」
着くや否や、いきなり責められる私。
すでに、タカさんは、玄関前で、仁王立ちして待っていた。
「・・・すみ・・・ません。」
その場に、しゃがんで「ゼーゼー」いいながら、私はタカさんに頭を下げて謝る。
すでに、疲れきっている私を見て、タカさんは呆れ顔。
「まっ、よい。
とにかく中に入りなさい。
お前さんに、言うとく事が山ほどあるからの〜。」
そういって、タカさんは、家の中に入って行った。
私も疲れきった体を、頑張って起こして、ヨボヨボしながら、建物の中に入った。
「ほら。」
タカさんは、私にお茶が入った湯飲みを渡す。
「それでも飲んで、体力を回復させなさい。」
そういって、座布団を床に「ポン」と投げた。
「イスよりは、地べたに座って、足を伸ばした方が、ラクじゃろう。」
そして、タカさんは、テーブルに置いてあった数々の品を、一気に抱えると、私の目の前に、腰を降ろした。
私も、タカさんに言われた通り、置かれた座布団に腰をおろし、疲れた足を伸ばして、マッサージをする。
その姿をみながら、タカさんは、私に抱えた数々の品を、順番に説明していった。
「まずは、これじゃが・・・。」
そういって、出されたのは、グレー色の上下のウエアーと、同じグレーの色をした、毛糸の帽子だった。
私は手にとって見る。
ウエアーは、マラソンをする時に、着るような物に、材質は似ていた。
通気性は良いが、外部からの風をシャットアウトしてくれそうな服。
きっと、ここでは、貴重な物なんだと思う。
それを、私に?
これが、何を意味するのか、わからない私をさっしてか、タカさんは説明してくれる。
「これには、2つの役割がある。
まず、1つは、ハンターにみつからないように、する為じゃ。
『光のない国』では、お前さんの洋服はあまりにも目立ってしまう。
そんな格好でいけば、ハンターに見つけてくれ!と、言っとるようなもんじゃ。
これを着て、帽子をかぶれば、ハンターが現れても木々の間に、隠れておけば、紛れて発見されにくいじゃろう。」
なるほどな〜。と感心する私。
確かに、私が『光のない国』に居た時って、自分だけ色がついていて、目立ってたもんな〜。
これなら、景色と一体化して、ハンターもわかりずらいかもしれない。
「それと、もう1つじゃが・・・。」
あっ!そうだ。
2つあるって言ってたもんね。
時間がないので、既に服に袖を通して、着始めていた私は、タカさんに目をやる。
「お前さんには、過酷かもしれんが、『虹のかけら』を手に入れたら、すぐにこちらに戻ってきてほしいのじゃ。」
「すぐに?」
タカさんは、「そう、すぐに!」と念をおす。
「『虹のかけら』が手に入るのは、『満月の夜』としか、わからん。
実際、月が出始めた頃から採れるのか、完全に日が暮れ月の光のみにならねば、採れないのか・・・ワシにもわからん。
『虹のかけら』が採れた時間にもよるが、遅くても日が変わる夜中の0時には、洞窟を出発してほしい。」
「なんで?
『虹のかけら』を、採ったらすぐに、加工しないとダメとかあるの?」
「そうじゃない。」とタカさんは首を振る。
「昨日もいったが、お前さんの足だと、半日はかかる距離じゃ。
できるなら、ハンターと遭遇するのは避けたい。
じゃから、ハンターが出る確率の低い深夜に、お前さんにはこの距離を歩いてもらう。
『光のない国』には、知っての通り生き物はおらん。
じゃから、野生動物に襲われる心配もないから、深夜に森を歩いても、なんら問題はない。
ただ、すさまじく温度がさがる。
歩いていても、寒さのあまり足が、かじかむだろう。
じゃから、この暖かいウエアーを着て行ってもらうのじゃ。」
「・・・わかった。」
私は、大きくうなずく。
半日歩いて、休憩も少しで、またすぐ半日歩くのか・・・。
思った以上に過酷な旅になりそう。
でも、やるしかない!
私は、新たに気持ちに気合を入れる。
と同時に、すでに疲れてしまっている足を、マッサージする手にも力が入った。
「あと、渡す物は・・・。」
そういって、タカさんは、一気に色んな物を出した。
「この玉は、『水の玉』じゃ。
直径5センチくらいの小さな玉じゃが、なくなるまでは1カ月はかかるくらいの量の水が入っとる。
のどが、渇いたら、コレを飲むとよい。
お前さんのその黒いリュックに、ブラ下げて持って行ったらよいじゃろう。」
そういって、タカさんは、その水の玉を小さな巾着袋に入れると、私の持ってきたリュックのポケットのフックに強く結んだ。
「それから、こっちは『火の玉』じゃ。
これも、同じくらい小さな玉じゃが、かなりの威力はある。
玉を持って念じれば、暖かくなるじゃろう。
あまりに、寒い時は、それを湯たんぽ代わりに使うのじゃ。
これは、『水の玉』と一緒には、入れれないから、お前さんが持っておけ!」
タカさんは、「ほれ。」と私に『火の玉』を差し出す。
私は、それを受け取り、さっきの履いたばかりのウエアーのズボンの右ポケットにコロンと入れた。
「あと、これが渡す物の最後じゃ。」
そういって、渡されたのは、コンパスだった。
「洞窟は、森をずっと南に南下した所にあるから、迷わないとは思うが、もしハンターに襲われ逃げた時に、方向がわからなくなり、森で迷子になったら困るじゃろう。
じゃから、これも持っておくとよいじゃろう。」
そのコンパスは、ズボンの左ポケットに入れた。
落ちないよう、奥の方に、「グッ。」と押し込んだ。
「渡す物は、これで終わりじゃ。
あとは、原石の持ってくる方法じゃが・・・。」
タカさんの言葉に、私は「ゴク。」とつばを飲み込む。
ここから、重要な事だ!しっかり聞かなきゃ!
私は体を前に乗り出し、聞く気マンマン!
しかし、タカさんは、
「詳しくは、この紙に書いておる。
行く道中にでも読んでおけ!」
と私の目の前に、紙をかかげ、それを「ピラピラ」と揺らす。
「ガク。」と肩を落とす私。
「話してくれたっていいじゃない。」と、ブツブツ文句言う私に、タカさんは、
「一回言っても、お前さんは理解できんじゃろう。
いうだけ時間の無駄じゃ。
お前さんには、1分でも早く、出発してもらわねば、ならんのじゃからな!」
というと、「よっこらしょ。」と、腰を上げ立ち上がる。
壁に掛けてある時計に目を移し、
「そろそろ、迎えが来る頃じゃ。
なんとか、間に合ったな。」
そういって、外へ歩いていった。
私も、タカさんに付いて急いで外に出る。
外に出ると、りっぱな馬が一頭いた。
その馬は、荷物を乗せて、引っ張る為の馬で、馬の後ろには、人間が一人乗れるスペースと、その後ろにはたくさんの荷物が乗せれるような荷台が連なっていた。
その馬を操作するおじさんが、タカさんとしゃべっていた。
「このお嬢さんを、南の森に連れて行けばいいのですね?」
そのおじさんは、タカさんに確認する。
「そうじゃ、その森でキノコを、採ってきてもらいたくての〜。」
「キノコォ〜??」
意味がわからなくて、バカ面をしてしまう私をよそに、そのおじさんは、
「じゃ、出発しますよ!
荷台で申し訳ないが、どうぞ乗って下さい。」
そういって、さっさと馬の方へと行ってしまった。
私は、荷台に乗らずに、タカさんの元へ、猛ダッシュ。
「キノコって・・・何?聞いてないよっ!!
それも、採ってくるの?」
真剣に聞く私に、タカさんは「ボカ。」と私の頭を殴る。
「このバカ娘がっ!
嘘に決まっておるじゃろう!」
バカ娘って・・・。
そんな言い方ないじゃないっ!
と言い返したいけど、もちろん言えるわけがなくて、私は「グッ。」と口をつぐんで耐えた。
「よいかっ!念をおしておくが・・・。」
タカさんの言葉に、すねていた私はタカさんに目を移す。
いつになく真剣な眼差しで、タカさんは私をみて、こう言った。
「お前さんの正体は、王である3人とランとワシ・・・それに、蒼輝の母親しか知らん。
町の者がお前さんの事を知れば、いらぬ期待などを持ち、生活が乱れてしまう恐れがあるからのう。
だから、誰にも言ってはならぬぞ。
もちろん、ハンターであるジギルやトロイにもじゃ。
よいな。」
私は、「はい。」と返事をした。
「お〜い!行くよ!」
と、さっきのおじさんが、馬のたずなを握りながら、こちらを振り向き叫んでいた。
私は、おじさんの声に、急いで荷台へとよじ登る。
よじ登る私の姿を見ながら、タカさんはもう一つ言い忘れていた事をいう。
「あと、もう1つ!
『光のない国』に、行く事も悟られてはいかん。
こやつは、お前さんを降ろしたら、すぐに立ち去るだろうが、こやつの姿が見えなくなるまで、絶対に緑豹国を出るな!
時間はおしいが、森の中で時間を潰しておくのじゃ。
わかったな。」
丁度、話が終わる頃、荷台に腰を降ろし、落ち着いた私。
そして、気付いた。
タカさんの家で、ユックリしたおかげで、あんなにクタクタだった足が、完全に元気を取り戻していた。
もしかしたら、タカさんが入れてくれたあのお茶は、緑豹国に代々伝わる薬草だったのかもしれない。
だって、信じられないくらい体は軽く、足の疲れも癒されているもの。
「ありがとう。」
全てを込めてタカさんにお礼。
それには、さすがのタカさんも、少しテレた顔になり、私から少し目線をそらす。
「じゃ!行くよ!」
おじさんが、馬にムチを1回打ち付けた。
私は、振り落とされないように、荷台に打ち付けられている板に、シッカリとしがみつく。
その時、タカさんがリュックにつけてくれた、水の玉が入った巾着が目に止まる。
それを見た瞬間、ランさんの胸元に光っていた紫紺の玉を思い出し、ランさんの存在が私の頭をよぎる。
彼女は、一瞬疑っていたけど、ヒビキさんの機転で、結局私がタカさんと村の散策に出掛けたと思い込んでいるはず。
という事は、今夜戻らない私を、きっと誰よりも心配するに違いない。
ヒビキさんの事を隠す為の嘘を、私には付きたくない!と本当の事を話してくれた彼女。
そんな彼女に嘘をついた私。
せめて彼女に心配はかけたくなかった。
それは、私にできる彼女への償いのような気がした。
「タカさん!
ヒビキさんは知ってるけど、ランさんは私がタカさんと村を散策してると思ってる。
だから、今日戻れない事を、タカさんから上手くごまかしておいて!」
ゆっくり馬が動き出したせいで、私とタカさんとの距離が少しずつあいて来る。
「まかせておけ!」
タカさんのその言葉がまるで、合図だったかのように、急に馬のスピードが上がってくる。
そして、見る見るうちに、タカさんとの距離が広がっていく。
タカさんの姿が、小さくなるに連れて、私はまた考えてしまう。
このまま、もう二度とタカさんに、逢えなくなるかもしれない。と・・・。
私は、タカさんに言いたい事はないか?
自分に問いかける。
昨日、タカさんに逢うまでの私は、自分がここに居る事を否定する事しか頭に浮かばなかった。
だけど、タカさんに出逢えて、私にも出来る事があるかもしれないと知って、私はここに居る事を否定しなくなった。
自分にも出来る事があるかもしれない。という事が、こんなに人に生きる力を与える物だと、改めて知った。
そんな気持ちにさせてくれたタカさんを、私は心の底から感謝してる。
この気持ちを伝えなきゃ!
私は、小さくなっていくタカさんに向かって、大声で叫ぶ。
「タカさ〜ん!!ありがとぉ〜。
りっぱなキノコ、採ってくるからねぇ〜!!」
その時、すでにタカさんの姿は、豆粒になっていた。
タカさんの声なんてもちろん、聞こえるわけがなかった。
だけど、何となく・・・。
「フン!採れるまで帰ってくるなよ!」
と偉そうにいうタカさんの声が・・・聞こえたような気がした。
私は、空を仰ぐ。
綺麗な海を、思い出すかのような晴天。
もう時期、この色のある世界とは、しばらくお別れしなくちゃいけない。
今のうち、しっかり見ておこう!
蒼輝がいるこの世界を。
私は、この澄んだ空気と、心地よい風を、体全体で感じながら、今ここで生きている自分を『幸せだな。』と実感していた。
☆☆☆12章 END☆☆☆
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