14    13章ENCOUNTER〜出会い〜
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H17年7月31日(日)
 
馬で、30分くらい揺られた頃、目的の『南の森』に到着した。
『南の森』がどういう所か、タカさんからは何も聞かされていなかったけど、ここに来てみればわかった。
ここは、夢を通してこの時代に来ていた私が、蒼輝に降ろされ話をした場所。
私は、リュックを両腕に通し、しっかりと背負うと、足を引っ掛けて荷台から降りた。
運動神経のない私にとって、降りる瞬間は何よりもドキドキしてしまう。
こけないように、慎重にゆっくりと降りた私は、急いでおじさんの場所までかけていく。
 
「ありがとうございました。」
 
頭を下げてお礼をいう私に、そのおじさんは、優しく笑い、
 
「いいキノコが採れるといいな〜。」
 
と言うとその場を去っていった。
おじさんは、特に私を気にする風もなく、そそくさと馬を走らせ、その場を立ち去ったけど、タカさんに言われた通り、念には念を。の意味を込めて、しばらくの間は、その辺りの森を、いかにもキノコを探しているフリをして、グルグル周った。
5分くらい周っていたけど、おじさんは戻ってくる様子はなかった。
他に、周りに人がいないかも見てみるが・・・誰もいなかった。
 
「よしっ!行くか!」
 
私の声だけが、むなしく森で響く。
一歩踏み込めば、そこにはハンターがいる。
常に気を張っていないといけない世界。
私は大きく、深呼吸する。
目をつぶり、気持ちを落ち着かせる。
高鳴る胸の音が、だんだんと小さくなっていく。
鼓動が聞こえなくなると、反対に聞こえてくる違う音。
鳥の鳴き声や、風の音。
それが、とても大きく聞こえた時、私は自分が冷静さを取り戻した事を実感する。
私の心は、自分でも信じられないくらい、穏やかになっていた。
私は、「パチ。」と目を開ける。
覚悟を決めて、前に進んだ。
『光のない国』に入ると、わずかな風の音はするものの、すごく静かな世界だった。
生物がいないせいか、どことなく寂しさがあった。
でも、反対にいえば、ここにはハンターしか存在しない。
動くものや、気配を感じたなら、それは100%ハンターなのだ。
迷うことなく、身を隠せばいい。
私は、わずかな音や気配を、見落とさないよう、神経を集中させユックリと、確実に前に進んだ。
2回ほど休憩を取りながら、歩き始めて5時間が経った頃、私は方角が気になって、左ポケットから、コンパスを取り出し確認する。
ちゃんと、コンパスは南を指していた。
ここまでは、ハンターの気配はしていない。
だけど、時間も時間なので、そろそろハンターが出てきてもおかしくはない。
私は気持ちを、さらに引き締めて、先へと急ぐ。
しばらく歩いた頃、まだかなり遠くだけど、光を感じた。
方角は東から。
いったい、あの光はなんだろう?
そう思いながら、あまり良い感じはしなかったので、私はその光から少し遠くになるように、南西に向かって進んだ。
だんだん、その光が近づいて来た時、複数の人影が見えた。
私は、歩くのを止めて、その場に静かにしゃがむ。
そして、木々の間から、「ソッ。」と覗く。
その光の付近で、男性が5人くらい居た。
彼らたちの格好を見て、一目でわかった。
ハンターだっ!
だって、ジギルたちと同じ格好をしてるんだもん!
彼らは、何かを探しているのか、誰もがクタクタの様子。
地面に座り込んでいる者や、仰向けになって寝転がっている者。
立っているものの、前かがみになって息が上がっている者・・・。
そこにいる誰もが、体の限界なのに、それを無理しているのがうかがえた。
 
一体、彼らは何を探しているのだろう?
 
私がその理由を知りたいと思った時、光の方からさしこむ人影が、だんだんと大きくなった。
 
「サンガの奴は・・・まだ、見つからないのか?」
 
その声を聞いて、私の鼓動は速くなる。
この声は!!
そして、光が反射して見えにくい人影を、私は目を凝らしてみすえる。
 
やっぱり!!
ジギルだっ!!
 
私は、思わず唇を噛む。
チナリさんに、瀕死の重傷を負わせ、そして、蒼輝が豹の姿を失ってしまったキッカケを作った男。
彼の姿を見るまでは、そんなに憎しみや怒りはなかった。
だけど、彼の姿を見た瞬間、私の中で信じられないくらいの彼に対する憎悪が溢れていた。
そして、私はこう思ってしまった。
『ジギルを倒したら、蒼輝だって気持ちが楽になるかもしれないし、チナリさんだって浮かばれるかもしれない。
何より、今後のGREEN LANDとWONDER LANDとの戦いが楽になるかもしれない。』って・・・。
私は、右ポケットに手をやる。
タカさんから渡された『火の玉』を握り締める。
『この辺一体を燃やして。』と念じて、これを、ジギルに向かって投げつければ、この辺一体は、あっという間に火の海になるだろう。
 
だけど・・・それは、できない。
私は、『火の玉』を握り締めていた手を緩めた。
 
「ごめんね。」
 
心からチナリさんに謝る。
今の私には、チナリさんのカタキを討つことよりも、やらなきゃいけない事がある。
緑豹国の未来の為に、原石を持って帰らなければならないし、蒼輝を豹の姿に戻して一刻も早くバリアーを、もう一度はってもらわないといけない。
そして、タカさんにも念をおされた事。
『必ず、生きて帰ってこい。』と・・・。
今ここで、私が彼らのまきぞえになって、死ぬわけにはいかない。
私は目をつむり、もう一度心から、チナリさんに謝る。
「ごめんね。」と・・・。
そして、誓う。
必ず、いつかカタキを取るからね!
 
その時だった。
今度は、西の方から、トロイが数人のハンターを引き連れて、ジギルのもとへと向かってきた。
 
「アニキ!
やっぱり・・・いませんよ。」
 
走りながらそう叫ぶトロイに、ジギルはガッカリ顔。
そして、自分の腕につけられた時計を見る。
 
「4時過ぎか・・・。」
 
ジギルは、しばらく考えると、
 
「仕方ない。今日はここまでにしよう。」
 
と口にする。
その言葉に、座り込んでいた隊員たちは、立ち上がるやいなや、口々に言う。
 
「このまま夜になれば、サンガの奴、二度目の夜を迎えるんですよ。
こんな寒い中、飲まず喰わずで、2日間もなんて・・・アイツ死じゃいますよ!!」
 
「そうですよ!
今、サンガを失うと、国にとって大きな痛手となります。
何としても探さないと!」
 
「まだ、日没まで、30分もあるじゃないですか!
諦めないで、頑張りましょうよ!!」
 
しかし、そんなみんなの声に耳を傾ける事無く、ジギルは平然と、
 
「戻るぞ!」
 
とだけ言うと、光の方に向かって歩き始めた。
 
「アニキ!!」
 
みんなが、口々にそう言い、彼を呼び止める。
その声に、ジギルは立ち止まると振り返り、隊員の顔を順番に見ていく。
 
「じゃあ、聞くがあと30分で何が出来るんだ?
この辺り一帯は、全て探した。
あとは、もっと南か、もしくはGREEN LANDのある北かどちらかだ。
これ以上、深く進めば、日没までには戻ってこれない。
日が沈めば、俺たちでは、この寒さは耐え切れない。
俺たちも、遭難してしまう。
これ以上、被害を大きくするわけにはいかない。
だから、今日はもう、サンガの事は諦めよう。
アイツだって、ハンターのはしくれだ。
身を守る場所を見つけて、アイツなりに生きるために頑張っているだろう。
また、明日、早朝から探したらいい。」
 
ジギルは、そう言って彼らに背を向け、みんなより一足早く光の中に消えていった。
彼らも仕方なしに、ジギルのあとを、トボトボと重い足取りでついていった。
やがて、ハンターが完全に光の中へと消えていった。
 
「はぁー。」
 
息をこらして、一部始終をみていた私は、疲れてその場で、「パタン。」と大の字になって倒れた。
とにかく、もうハンターはいない。
それだけで、張り詰めていた気持ちが緩んだ。
少し落ち着いた私は、彼らの話を思い出す。
彼らの話から察するに、彼らの仲間・・・サンガという人が、行方不明になったという事は、わかった。
だけど、私が気になったのは、『彼を失うと痛手だ。』と言ったトロイの言葉。
そんなに彼は、凄腕の人なんだろうか?
ちょっと、興味があったが、すぐに我に返る。
ハンターがいなくなった今がチャンス!
動けなかった分の遅れを、取り戻さなきゃ!
私は、倒していた体を起こして立ち上がる。
そして、彼らが消えた光をじっと見る。
きっと、この先が・・・WONDER LANDなんだ。
いつか・・・ここに来る事になるのかもしれない。
そんな思いが、私の脳裏をかすめた。
そして、私は先に進む事に決めて、泥の付いたお尻を「パンパン」とはらい、一応ハンターたちが本当にいないかどうかを、再確認したうえで、前に進んだ。
 
それから、さらに3時間が過ぎた。
持ってきた時計を見ると、7時半を示していた。
タカさんは、半日かかるといったから、たぶん10時には着くはず。
というと・・・まだ、2時間半ほどは歩かないといけないのか・・・。
かなり疲れが、ピークに達してきた私にとって、それは「もう少し頑張ろう!」って気持ちよりも、「無理・・・絶対もう無理!」と思う気持ちの方が強かった。
足もだるく、息もあがってるのは確かだけど、もっと耐え難いのは・・・この寒さ。
タカさんや、ジギルが言っていた通り、この寒さは予想以上だった。
冷たい空気に、強い風。
足の指の感覚は、もちろん徐々にだけどなくなってきていた。
手は、ポケットに入れているけど、指先も冷たく冷えていた。
だけど、私はギリギリまで、『火の玉』は使わないでおこう!と決めていた。
深夜になれば、もっともっと冷え込むはず。
今の時点で使えば、もっと冷え込んだ時に、『火の玉』をかなり強く念じなくては、いけなくなる。
まだ、玉になれていない私が、あまり強く念じると・・・あのエレベーターのようになってしまうから・・・。
あの時の事を思い出して、私はまたゾッとしてしまう。
あれは、まだ下に降りるだけだったから、命には関わりはあまりないけど、今度は『火』だからね。
もし念じ方を間違えてしまったら、私も燃えてしまうかもしれない!
だから、極限まで火の玉の力を借りないでおこう。と私は決めていた。
だけど・・・。
 
「あぁ〜〜・・・もう、限界かも。」
 
私が、そう弱音を吐いた時、遠くで人が息づく声が、本当にわずかだけど、聞こえた気がした。
私は、かじかんだ足を止め、その場にしゃがむ。
足の指の感覚が、麻痺しているせいか、急にしゃがんだ事に足がついていかずに、思わずその場に、「ドン。」と尻もちをついてしまった。
強く地面にお尻を打ちつけてしまったので、痛かったはずなのに、今はそんなのに気を取られている場合じゃなかった。
私は暗くなって見えにくくなっている闇をジッとみた。
移動している雲が、月明かりをさえぎる。
今は雲が、月の前を通っているので、光がシャットアウトされていて、先が見えない。
少しだけ、雲が通り過ぎるのを待ってみる。
 
「あっ・・・。」
 
数秒後、雲が横に流れ、月明かりが私の前方を照らしてくれた。
まだ、遥か先の方だけど、大きな木があって、その幹が大きくえぐりとられていて、まるでほら穴のようになっていた。
小動物はもちろん、大人でも何とか1人くらいなら入れそうな穴。
その中に、存在する人影。
顔までは見えないが、どうやら男性のようだった。
私は、木々に隠れながら、ゆっくりとその人に近付いていく。
すぐ側まで近寄るが、その人は相当弱っているのか、私に全く気付かない。
ただ、うずくまったまま体は動かさずに、ただひたすら必死に呼吸をしていた。
その人の格好を見て、私はピンときた。
 
この人が、ジギルたちが言っていたサンガという人だ!!
 
どうしよう・・・。
私は迷う。
彼は、敵。
私の姿を見たら、襲ってくるかもしれない。
いや、この人が襲ってこなくても、仲間に伝えて、私が原石を取って緑豹国に戻るまでに、仲間を連れて、待ち伏せするかもしれない。
どっちにしても、彼と関わる事は、私にとっても緑豹国にとってもマイナスでしかないはず。
このまま、そっと通り過ぎた方がいい。
 
私は、彼に声をかけずに、黙ってそのまま彼の横を静かに通り過ぎる。
もちろん、人の気配を感じる余裕がない彼は、私が横を通っているなど、全く気付かない。
簡単に私は、彼の奥に続く洞窟への道まで渡れた。
私は、そのまま足を止めずに、先に進む。
何歩か進んだけど・・・たまらずに、足を止めてしまった。
自分に言い聞かせる。
私は、原石を持って帰らないといけない。
蒼輝を、豹の姿に戻したいんじゃなかったの?
この人を助けたら、危険だってわかってる。
わかってるんだけど・・・でも、やっぱりダメ!
 
私は振り返り、今歩いた道を戻り、苦しんでいる彼の元へ向かった。
側に行っても彼は、全く気付かない。
ただ、下を向いているだけ。
確か、トロイたちが言ってたっけ。
彼は2日間くらい、飲まず喰わずだって。
私は、背負っていたリュックを降ろすと、まず巾着に入れていた『水の玉』を袋から出す。
私も、ここまで来る道中、かなりの水を飲んだ。
だけど、まだまだ水はあった。
私は、玉に人差し指を当てて、「大きく開け」と念じた。
小さな玉いっぱいいっぱいに、穴が開いた。
コップなどはないから・・・・仕方ない。
直接、飲んでもらおう!
 
「ねー!!」
 
と声をかけ、私は彼の肩を「トントン。」と叩く。
すぐには、反応はなかったけど、しばらくして彼は倒していた頭を、ゆっくりとあげた。
 
「・・・?
ひ・・・と?
それとも・・・てんし?」
 
意識がモウロウとしている彼は、ボーっとした目で私を見ながらそう言う。
私は、強引に彼の顔を、空に向け上に上げる。
その彼の顔の上に、穴の開いた玉をかぶせると、「水よ、たっぷり出ろ!」と念じた。
玉を強く握らなくても、水はその玉から、すさまじい勢いで出た。
突然の水に驚いていた彼だったけど、次第に待ちに待った水だと知ると、口を大きく開けて、玉から出てくる水を「ガブガブ」と飲みだした。
長時間飲んでいた彼は、もう充分になったのか、右手をあげた。
私は、玉に「止まれ」と命じる。
さっきまで、水の水圧におされていた彼が、負けまいと空に向かって力を入れていたせいで、急に水が止まると、勢いよく顔が前に突き出された。
水分を得て、少し元気を取り戻した彼。
だけど、この寒さの中、玉の水のせいで、体中水浸しになってしまった彼は、今度は「ガタガタ」と震え出した。
私は、急いで水の玉の穴を塞いで、無くさないように巾着に直すと、今度は火の玉を右ポケットから取り出した。
そして、念じる方法を間違えないように、慎重に言葉を探す。
考えた結果・・・「体を暖めて!」と念じてみた。
すると、玉がボワ〜ンとピンク色に染まり、心地よい暖かさになった。
 
よしよし!どうやら成功したな!
 
ホッとする私の耳に、震えてる彼から、歯が「ガチガチ」擦れる音が聞こえてくる。
 
そうだっ!急がなきゃ!
 
私は、彼の事を思い出し、慌てて彼に火の玉を渡した。
彼には、使うことはできないけど、私が念じて渡した物なら使えるのか、彼の手に渡っても玉は、暖かな光を放っていた。
彼は、その玉を大事そうに両手で抱きしめると、また体を折りたたむように小さくうずくまる。
そうやって、体全体を暖めているかのようだった。
その姿を見ていた私は、ランさんが包んでくれたパンの事を思い出す。
リュックからそれを出すと、そのまま彼に差し出した。
 
「2日、何も食べてないんでしょ?
これ、よかったら食べて。」
 
縮こまったまま動かない彼の側に、私はその包みを「ソッ。」と置いた。
彼は、少し顔を上げて、横に置かれた包みを「チラッ。」と見た。
 
「アンタ・・・GREEN LANDの人間だよな?」
 
今度は、目だけを私に向けて彼はそう言う。
私は、過去から来たんだ。と言いかけて、タカさんに言われた事を思い出す。
そうだっ!誰にも私の正体がバレないように、しないといけなかったんだ!
私は、本当の事は伏せて、
 
「そうよ!」
 
とだけ答えた。
それっきり、彼は私から目線もそらし、何も言わずに、ただ時間だけが過ぎて行った。
20分くらい過ぎた頃、彼はずっと握っていた玉を、私に差し出した。
 
「ありがとう。
冷えてた体が、暖かくなった。」
 
彼は、そう言いながら指を動かす。
感覚が戻り始めて、心からホッとしたのか、小さなため息を吐いた。
だけど、私は差し出された玉を、彼に突き返す。
 
「さっきまで、死にかけてた人が、急に元気になるわけないでしょ!
この寒さじゃ、また辛くなるよ。
これは、サンガが持っていきなよ。」
 
私の言葉に彼は驚いたように私を見上げる。
 
「な・・・に?」
 
そんな目で見ないでよ!
言葉遣いが悪くて・・・怒ったの?
 
急にビクつく私に、彼は、
 
「なんで、俺の名前を知ってる?」
 
と聞く。
あっ!その事だったのか。
私は、安心する。
そうだよね。確かに、見ず知らずで、さらに敵の私が自分の名前知っていたら、そりゃ驚くよね。
 
「ここへ来る途中に、ジギルとトロイたちがあなたを必死に探してたのよ。
それで、名前を知ったの。」
 
私の話を黙って聞いていた彼は、「そっか。」と小声で答える。
 
「彼らも、あなたの無事を知ったら、きっと喜ぶんじゃないかな?
ホントにクタクタになるまで、探していたみたいだから。」
 
私は、そういいながら、リュックを背負う。
彼に、色々聞かれる前にここを去った方がいいと思ったし、何より私には時間がない。
私は、「よいしょ。」と声をかけて、立ち上がる。
 
「それじゃ、私急ぐから。」
 
そして、彼に背を向けてその場を去ろうとする私。
 
「心配よりも、ホッとしてんだろ。」
 
彼の意味ありげな言葉に、私は思わず足を止めてしまう。
 
「どういう・・・事?」
 
気付けば、彼の方に振り返り、彼にそう言葉を投げかけていた。
その言葉に、彼の顔から一瞬あせりが見えた。
敵である私に、「ポロッ。」と本音を言ってしまって、「しまった!」って顔。
 
「ジギルは、俺を必要としてないって事!」
 
彼は、簡単にそういって、本当の事を瞬時に隠した。
でも、彼を失うと、痛手になると彼らは言っていた。
そんなに大切な彼を、リーダーであるジギルが、不要に思うだろうか?
私は、どうしても知りたくて、突っ込んで聞こうとする。
だけど、彼がそれを阻止する。
 
「それより、・・・アンタ、名前は?」
 
「うっ・・・・。」
 
私は、黙る。
答えていいものか本気で悩んでしまう。
顔をしかめっ面にして、考え込む私を見て、彼はおかしそうに笑う。
 
「言いたくないならいいや!
それより、ホント・・・アンタ変わってるよな。」
 
彼はそういうと、腰につけていた銃を素早く手に取ると、私の目の前に銃を突き付けた。
それは、ホント数秒の出来事。
彼と私との距離は、そこそこあったのだ。
それなのに、あっという間に彼は私の目の前に来て、こうして銃を突き付けてる。
これが・・・ハンターの力。
彼が、引き金をひけば、私は殺される。
だけど、自業自得だよね。
敵とわかっていながら、助けた私が悪い。
私は、彼を助けた後悔よりも、彼がこうして元気になった事が、実はうれしかった。
チナリさんが亡くなって、蒼輝が自分を失ってしまったように、この人にも彼の死を嘆く人がいるだろう。
その人が、泣かなくて良くなったという事が、本当にうれしかった。
そう思った時、私はこの状況で信じられない事をしてしまった。
 
「!!」
 
サンガは、驚いて言葉を失う。
だけど、しばらくしてこう言う。
 
「・・・なんで、笑ってる?」
 
そう、私は笑っていた。
彼に聞かれても、答えようがない私は何も言わなかった。
そんな私に、
 
「アンタには、参ったよ。」
 
と彼は苦笑いをすると、構えていた銃をおろすと腰に戻した。
 
「いいの?私を撃たなくて。」
 
私の言葉に彼は、「よく言うよ。」と言って笑う。
 
「そんな優しい目をして俺を見ている奴を、俺が撃てるわけないだろ?
それに、アンタは俺の命の恩人だしな。」
 
そういうと彼は、その場に座った。
そして、彼に渡したままになっていた火の玉を、彼は月明かりに照らしてマジマジと見る。
 
「これが、GREEN LANDの宝の『玉』か。
話には聞いてたけど、ホントにすごいタマだよな。」
 
そう言った彼の瞳は、キラキラしていた。
玉を見れて本当にうれしいのだと、その姿を見れば一目瞭然だった。
しばらくして、彼はその玉をまた私に差し出した。
受け取らない私に、彼は私の右手を取ると、手のひらに火の玉を「はい。」と言って置いて、私に玉を握らせた。
 
「アンタさ・・・。
ここまで、この玉を使わないで来たんだろ?」
 
私はうなずく。
彼は、それを見て「やっぱ、すごいな。」と言いながら優しく笑う。
 
「この寒さは、普通の人間には、耐えられない寒さなんだよ。
俺が、体調万全でも、どんなに暖かい服を着込んでいても、今の君みたいに元気でいられない。
この寒さに耐えられるのは、豹の血が混ざった混血人間だけなんだよ。
だから、君たちは、原石の洞窟を日本一南の地へしたんだ。
俺たちみたいなただの人間では、到底行けそうにない地へね。」
 
彼は、そういって私に優しく笑うと立ち上がる。
 
「だけど、ここから先は、もっと寒さが強くなる。
洞窟間近になると、想像を絶する過酷な環境になると聞く。
きっと、君でも玉を使わないと近づけないと思う。
だから、これは君が持っていくんだ。」
 
彼は、そういうと「あっ、忘れてた。」と自分の側にあった、包みを手に取る。
そして、中を開け、5つあるパンの中から2つ取り、それを自分の腰につけている食料を入れる袋に押し込んだ。
そして、残りの包みを私に渡す。
受け取る私に彼は、
 
「パンはありがたくもらっていく。
じゃ、世話になったな。ありがとう。」
 
と告げると、私の前を通り過ぎ、私が今来た道を進んでいく。
だけど、少し歩いて、何かを思い出したのか「あっ!」と叫ぶと私の方に振り返る。
 
「原石を採ったら、すぐに洞窟を立つんだ。
ジギルたちがいつも7時くらいには、光のない国に出始めるからな。
いいな!忘れるなよ。」
 
彼は、そういうとまた私に優しい笑顔を向ける。
その笑顔は・・・ちょっと、蒼輝に似ていた。
 
「ねぇー。」
 
私の呼びかけに彼は、「ん?」と答える。
 
「なんで、私が原石を採りに来たってわかったの?」
 
私の素朴な質問。
私は、彼に一言もそんな事言ってないのに・・・何故?
だけど、その質問に驚いたのは彼の方。
 
「なんでいまさらそんな事!」
 
と彼は、チョット呆れてる。
 
「こんな所に一人で来てるなんて、原石採る以外ないだろ?
悪いけど、俺たちはGREEN LANDの事は、ちゃんと調べてる。
もちろん、あのチナリって女豹が死んで、もうGREEN LANDには女豹がいなくて、原石を採る事が出来なくなった!って事もね。」
 
最後に意味ありげな笑いをする彼。
それって・・・私が、とても怪しい人物ってわかってるって事よね。
しまったっ!!
彼を引き止めずに、さっさと送り出しておけばよかった。
私の事を色々聞かれたら・・・。
焦る私に彼は、「大丈夫だよ。」と笑いながらいう。
 
「アンタの事を知ること。
いや、アンタを捕まえる事は、確かに今のGREEN LANDの状況を知るのに、うってつけなんかもしれない。
だけど、さっきも言ったろ?
命の恩人にそんな事はしない。
安心しろ。」
 
彼は、そういって私に背を向け、そのまま歩きながら私に右手をあげた。
その姿を見ながら、私はやっぱり彼が気になった。
笑顔も、サバサバした話し方も、それに・・・乱暴な言葉使いだけど、優しい所も、思えば蒼輝にすごく似てる。
だから、余計なのかもしれないけど、私はどうしても・・・彼がほっとけなかった。
彼が、無事に戻れるように・・・。
そう考えた時、私は左ポケットにある、ある物を思い出し、乱暴に左手をポケットに突っ込む。
そして、それを握り締めると、ポケットから手を出し、
 
「これ、持って行って!」
 
と私に背を向けて歩いている彼に向かって投げた。
もちろんハンターの彼にとって、振り返ってそれをキャッチする事は、たやすい事だった。
彼は、受け取った物を手を開いて見てみる。
 
「これっ!」
 
「私は、このまま南に進めばいいだけだから、それはサンガが持って行って。ねっ!」
 
私の言葉に、彼は手の中にあるコンパスを見つめながら、小さく「ありがとう」とつぶやいた。
そして、私を真っ直ぐに見つめた。
 
「もし、この先、アンタが俺の力を必要とする事があったら、いつでも逢いに来い。
WONDER LANDに入ったらすぐに、小屋がある。
そこにいる隊員・・・俺みたいな格好をしている奴に、俺の名前を言えば怪しまれる事なく俺に逢えるから。
俺の専門は機械関係だけど、見ての通り腕も立つからさ。
女である君を、ジギルやトロイがいる森に、たった一人で行かせるようなGREEN LANDの男より、俺の方がよっぽど頼りになると思うから・・・忘れんなよ!
じゃ、またな。」
 
彼は、そういい残すと、WONDER LANDに向かって歩いていった。
 
敵でありながらも、なかなか素敵な人だったサンガ・・・。
私に、危害を加えなかったし。
だけど、彼が国に戻って、ジギルたちに私の事を言わないとは、いいきれない。
彼の言った様に、ジギルたちが動き出す前に、緑豹国に戻る事にこしたことはない!
早く原石と、虹のかけらを手に入れなきゃ!
そうと決めたら、ロスした時間を頑張って埋めなきゃ!!
 
私は、急いで『火の玉」の効力をなくし、右ポケットにしまいこんだ。
そして、背負っていたリュックを前に持ってきて、受け取ったパンの残りを入れると、またリュックを背中に戻す。
そして、大急ぎで真っ直ぐ南・・・。
サンガが向かった方角とは逆に、私は進み出した。
 
 
       ☆☆☆13章 END☆☆☆
 
 



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