薄暗い風景。
私の周りを通り過ぎてゆく、わずかな風の音。
凍りつくように冷たい風と空気に、手足の指の感覚は失い、帽子をかぶっているのに、耳まで冷たくなって、さらにはこめかみまで、痛くなる。
ホッペタは、氷のように冷たくなり、口から吐く息も真っ白だった。
今の私を支えているのは、「何としても、原石の洞窟に着くんだ!」という強い思い。
それが、ギリギリの状態の私を支えている唯一の物であり、私を動かしている原動力だった。
サンガと別れてから、既に4時間が経とうとしていた。
私は、腕時計に目をやる。
11時をさしていた。
予定時刻よりも、1時間もオーバーしているのに・・・一向に着く気配はない。
ヨレヨレになりながら、一歩一歩必死に進むけど、真っ直ぐに歩いているのかも、かなり怪しくなってきたこの状況。
方角を確認するにも、コンパスはサンガにあげてしまったし・・・成すすべがなかった。
ただ、この方角であっているのだと信じて前に進むしかなかった。
だけど、不安は私を容赦なく襲う。
必死で歩く事だけを考えて進んでいるはずなのに、一歩一歩進むごとに、私は考える。
「こっちの方角であっているのかな?」って。
それが、進むに連れてどんどんどんどん・・・大きくなってくる。
ついに私は、足をとめてしまう。
一向に着かない事実と、極限にまで疲れ果てた体。
前かがみになって、両手を両膝に置き、肩で息をする。
虹のかけらどころか、洞窟にさえも、辿り着けない自分に、絶望よりも情けなさでいっぱいになる。
「何やってんのよ!私は・・・。」
言葉にして自分を責める。
そう口にした瞬間、私の右手の甲に、「ポタポタ」と2滴の水滴が落ちた。
これは悔し涙。
だけど、どんな涙でも流してしまう弱い自分が、また許せなくなってしまう。
涙が落ちた右手を「グッ。」と握る。
こんな所で、泣いてる場合じゃない!!
とにかく・・・洞窟がどこにあるか探さなきゃ!
きっと、側までは来てるはずだもん!
私は、そう前向きに思おうと頑張った。
その時だった。
「ん?」
私は動きを止める。
今、何かが聞こえたような・・・。
私は、息を殺して、今度は耳を澄ませて、その音を待ってみる。
「・・・ポチャ。」
今度は、ハッキリと聞こえた。
その音は、水たまりに水滴が落ちたような音に似ていた。
こんな音、さっきまで聞こえなかった。
この音がもしかしたら、洞窟に関係があるのかもしれない。
今、すがれる物はこれしかないんだもん!
かけてみるしかない!
まずは、この音がどこから聞こえているかを、突き止めないとっ!
私は、目をつぶり、聞こえてくる音の正しい方角を必死で探った。
同じ間隔で聞こえる「ポチャ。」って音。
何回か聞いているうちに、場所が特定できた。
私は、目を開けて、その方角に目をやる。
「こっち??」
私の中で、また迷いが生まれた。
さっき聞こえた音は、私がいる場所から右寄り・・・つまり西の方角から聞こえていた。
だけど、私が目指していた洞窟の場所は、南で音の方へ行くと・・・ズレてしまう。
私が知らず知らずのうちに、ズレて歩いていたのか?
それとも、この音の場所は、洞窟とは全く関係がないのだろうか?
私の心は葛藤する。
どうしたらいいのだろう・・・。
しばらく考えた。
そして、私が決めたのは、音の方へ進む。
吉と出るか凶と出るか・・・わからないけど、音もあまりないこの世界で、こんなにハッキリと聞こえた音。
何か意味があるような気がしたから・・・。
私は、寒さでかじかむ体を暖めるため、今まで使わなかった『火の玉』を、右ポケットから出した。
玉を握り、『体を暖めて』と念じると、サンガの時のように、玉はピンク色に光った。
私は、玉をしばらく握り締めていた。
そして、私は納得した。
実は、さっき凍死寸前だったサンガが、わずかな時間で、あんなに回復したのが不思議だったの。
だけど、自分が体験してわかった。
この玉からもれる光は、体を暖めるのではなく、命そのものを暖めてくれるのだ。
だから、みるみるうちに体全体に暖かさが戻り、寒さを感じなくなった。
もちろん、手足のかじかみや、ホッペタの冷たさもなくなっていた。
体のだるさ、足の疲れは、もちろん回復はしてなかったけど、寒さを感じなくなった私の体は、「まだまだやれる!」と思えた。
「よ〜し!」
自分自身に気合を入れて、私は握りしめていた火の玉をみつめる。
そして、効力をなくしたうえで、右ポケットに直した。
シッカリとリュックを肩にかけると、私は音がした右方向に向かって歩き出した。
15分ほど歩いたら、私の視野に大きな岩が見えた。
私は、洞窟である事を祈りながら、だるくて重くなった自分の足を必死で前に進ませた。
だんだん、それに近付くに連れて、私の顔に自然と笑みがこぼれた。
そして、その岩の正面に着くと、待ちに待った言葉をいう。
「着いたぁ〜!!」
思わずバンザ〜イ。
私の目の前に広がる大きな岩。
それは、私がずっとずっと探し求めていた洞窟だった。
さっき、聞こえていた水の音は、その洞窟の外壁に出来た、幾つもののツララの水滴がポタポタと地面に落ちていた。
そして、それが日の当たらないこの地では、その水滴が蓄積されて、水たまりができた。
そこに、新たな水滴が落ちて、音を立てていたのだ。
そのおかげで、無事に辿り着けたんだから、感謝しなきゃっ!
しかし・・・落ち着いて今の状況を分析すると・・・ここは、本当に不思議な空間だった。
さっきの森とは、全然違う。
温度は、ぐっと下がり、零下はもちろん、空気が痛いと感じるような場所。
この地は、日本の最も南に位置する場所なのに、北よりも寒い。
だって・・・ツララが出来るくらいだもんね。
だけど、もっとおもしろいのが、こんな所に平気で立っている自分!
そう、全然平気なの!
たぶん、さっき火の玉を使ったでしょ。
きっとあれのおかげなんだと思う。
あれを使ってから、私は寒さを全く感じない体になっていた。
この空間に入る前に、火の玉を使っておいてよかった。と心底ホッとする私。
あのままだったら、完璧、凍死してたよ。
タカさんも、ちゃんと言ってくれたらいいのに。
タカさんのイジワル〜。とブツブツ文句を言う私。
だけど、そんな事はもういいや!
気を取り直して、待ちに待った洞窟へ入らなきゃっ!
私は、早速、その洞窟の中に入ってみる事にした。
果たして、扉は開くのだろうか?
不安はあるけど、ここまできたら躊躇してる場合じゃない。
先に進むしかないもの!
私は、タカさんに渡されたメモ書きを、リュックのポケットから出した。
馬車に乗っている間にも読んだけど、タカさんの言っていた通り・・・ややこしくて、覚えられなかった。
私は、その紙をみながら、先に進む事にした。
だけど、紙をひらいて改めて気付く。
・・・暗くて・・・読めない。
仕方なく、右ポケットから火の玉を出す。
またまた、これに力を借りてしまう私。
心の中で、『照らして』と唱える。
すると、火の玉は、さっきとは違った光り方をして、紙を見えるように照らしてくれた。
私は、その紙の右端から読んでいく。
『扉のノブの横に、手を差し込む穴がある。
そこに、右手を入れて、開け!と念じる。
扉は2つある。
2つとも、そうやって開けるのじゃ。』
私は、そこに記された通り、まず目の前にあるドアに近付いた。
ドアノブ辺りをじっくり見る。
「あっ!あった!」
手を入れる穴を発見!!
早速、右手をその穴につっこみ、『開け』と念じた。
すると、タカさんが地下室の扉を開けた時と同じように、かかっていた扉の鍵が、鈍い音をたてて開いた。
「開いた・・・。」
ほっとして、自然とその言葉が出た。
開くと信じてここまできたけど、誰に何と言われようと私は、混血人間ではない。
だから、もちろん豹の血だって、受け継いでいるわけがない。
この扉が、開いた事自体・・・おかしいと思わないといけないのかもしれない。
だけど今は・・・開いた事がうれしい。
だから、深く考えないでおこうと思った。
何はともあれ、1つ目の扉は開いた。
まずは、第一関門突破って所か。
私は、「フゥー。」と息を吐くと、その先に待ち構えている、もう1つの扉に向かって進む。
2つ目の扉に手を伸ばしかけた頃、最初の扉が「パタン」と音をたてて閉まった。
その音を背中で聞きながら、私は2つ目の扉を見る。
そこにも同じように穴がついていたので、また右手を入れて念じた。
もちろん、さっきと同じように扉の鍵は鈍い音をたてて解除された。
私は、ノブに手をかけ、2つ目の扉を開けた。
開けた瞬間、自然と出てしまう。
「うわぁ〜!!す、すご〜い!」
見渡す限りが原石だった。
原石は、透明で大きさはマチマチだったけど、だいたいの大きさは、高さ20センチくらいの六角形の形をしていた。
それが、辺り一面に所狭しと置かれていた。
置かれていたというよりは、原石が勝手にそこで生まれて、大きくなっているのだろうけど、重なって積まれているのではなく、横並びに行儀よく存在していた。
私は、左手で持っていた紙をまた火の玉で照らし、原石の詰め方を確認する。
「えーっと・・・まず、なんだっけ?」
真剣なまなざしで、タカさんがくれたメモを見る私。
タカさんの説明によると、この原石はこの部屋から出せば、空気と融合してしまい、ほとんど重さを感じなくなるらしい。
そして、大きさも、もとの原石の大きさにもよるけど、直径5センチくらいの六角形の姿に縮んでしまうらしい。
それを、緑豹国で代々受け継がれている水に浸し、元の大きさに戻し、加工するのだそう。
でも・・・これだけ、小さくなって重さも感じないなら持ち運びは便利だよね。
だけど、空気に触れたらって事は・・・。
外に出すまでは、大きさも重さもこのままだから・・・。
ちょっと・・・嫌な予感。
私は、恐る恐る原石に近付く。
そして、試しに原石を抱えてみた。
「重っ!!」
予想通り。
仕方なく、私は今抱えた原石を一旦元に戻す。
そして、まずは、2番目の扉を開けに行く。
開いた扉を、お尻で押さえながら私は中腰になる。
そして、近くにあった普通より少し小さめの原石を持ち上げると、扉を開けておく為のドアストッパーとして利用する。
原石をこんな使い方して、ごめんなさい。
と心の中で謝りつつも、私は手際よく作業を続けた。
原石をはさんで、開けっ放しにしている扉の向こう側に、リュックを開いた状態で置いた。
そして、重い原石を一生懸命、扉まで運び、わずかに開いた隙間から、原石を握った状態で手を向こう側に出す。
すると、この部屋から出た原石は、見る見るうちに、軽くなり直径5センチくらいの大きさに変化した。
それを、開いて置いていたリュックに向かって離す。
小さくなった原石は、うまくリュックの中に入った。
それを、ひたすら繰り返した私。
何十回と繰り返し、いい加減バテバテになった頃、リュックは8分目ほどが原石で埋め尽くされた。
あとは・・・虹のかけらを入れるスペースだ。
だけど、さっきから気になっていたんだけど・・・。
この洞窟の中には、原石以外何もない。
一体、虹のかけらはどこにあるの?
私は、腕時計を見て、さらにあせる。
実は、タカさんに言われていた時刻よりも大幅にオーバーしている。
タカさんには、0時には洞窟を出るように言われていたんだけど・・・今は、1時前。
原石をいっぱいほしかったから、必死になって入れていたら、時間の事をスッカリ忘れていた。
とにかく、今は一刻も早く洞窟を出発しないといけない!というのはわかってる。
だけど・・・虹のかけらが、まだ手に入っていない。
どうしよう。
困った私は、タカさんから渡されたメモの最後の文章を見る。
『虹のかけらについては、満月の夜に手に入るとしか、わかっておらん。
もし、みつからなければ、無理はするな。
満月の夜は、また訪れる。
また、出直せばよい。
原石を手に入れたら、とりあえず戻ってくるのじゃ。
よいか!お前さんが無事でいる事が、何よりも大事な事じゃからな。』
「だけど・・・。」
タカさんのくれたメモに向かって話しかける。
ここまできて、虹のかけらを諦めるなんて。
私には、できないよ!
虹のかけらがないと、蒼輝を豹の姿に戻せないんだから。
私は・・・彼を戻したくて、ここへ来たのに。
だけど、虹のかけらがどこにあるかもわからないのに、ここにいても時間の無駄・・・よね。
ハンターに襲われる危険が、大きくなるだけ。
私は、悩んだ末、タカさんのいう通り、今回は虹のかけらは諦める事にした。
不本意ながら、私は洞窟を出発する事を決め、準備を始めた。
私は、原石をストッパー代わりにして開いているわずかな隙間から、向こう側に出た。
原石でいっぱいのリュックを、閉めてそれを背負う。
そして、2つ目の扉を足でおさえながら、前かがみになると、ストッパー役をしてくれていた原石を「扉をおさえる役」から開放してあげる。
それを、部屋に戻すと、私は2つ目の扉から足を離す。
すると、扉は重力でユックリと勝手に閉まってゆく。
私は、そのまま最初の1番目の扉に手をかけ、外に続く扉を開けた。
「!!」
思わず目を細めてしまう。
洞窟に着いた時には、こんな眩しい光はなかったのに、今は外からキラキラと眩しい光が私の方に注がれていた。
思わず、横によろけてしまう私。
だけど、それで気付いた。
その光は、私に向かって注がれていた訳でもなければ、漠然と光が注いでいた訳でもない。
この光は、まるで外から中にある何かを照らしてるスポットライトのようだった。
その光の筋は、真っ直ぐに奥の部屋。
つまり、原石のある部屋まで続いていた。
その光を、私の目が追う。
その光は、閉まりかかっている2番目の扉のわずかに開いている隙間を通って、原石の部屋へと流れ込んだ。
その光が注がれた一部が、七色にキラキラと光った。
「えっ!!」
驚いたのも束の間。
私が目を疑っているうちに、2番目の扉は自然と閉まった。
私は、手にかけていた1番目の扉を離し、猛ダッシュで原石の部屋へと乗り込む。
手を穴に突っ込んで念じ、ロック解除して勢いよく原石の部屋へと入る。
さっき七色に光輝いていた場所に近付き、目を凝らして見つめてみた。
その辺りにある原石も隅々まで見た。
だけど・・・元の何も変わらない原石。
あの七色に光っていたのは?
「どういうこと?」
私は、その場で腕を組んで、冷静になって考えてみる。
確かに、さっき、七色に光る原石があった。
だけど・・・今はないのよね。
さっきの状況と、今の状況で違う事は・・・。
必死になって、さっきの事を隅々まで思い出す。
「この部屋の扉と、最初の1番目の扉が・・・あ〜で、こ〜で・・・。」
とブツブツ言ったりしてみた。
「ん?」
私の動きが止まる。
私は、原石の扉を開けて、外に続く1番目の扉を見る。
そして、原石の部屋に目を移し、今度は、さっき七色に光っていた辺りを見る。
首を何度も左右に動かし、交互に目を移す。
「あっ!!」
気付いた私は、またストッパー原石くんを持ち出し、原石の部屋の扉・・・つまり2番目の扉にはさんだ。
これで、2番目の扉は開いたままだ。
そして、今度は、玄関とも言おうか、この洞窟の入り口である1番目の扉!
これを自分の手で開けて・・・。
私は、そのままの状態で、原石の部屋に向かって振り返った。
「・・・やっぱり!」
七色に光る原石が現れた。
だけど、外から入ってくるスポットライトみたいなこの光は一体何なの?
背負っていたリュックを肩から降ろし、今度はこれが1番目の扉を開けておく為の、ストッパーくんに変身!
これを一番目の扉に、はさませる。
そして、私は洞窟の外に出てみた。
スポットライトを辿って私の顔は・・・空へと向かう。
「月?」
もちろん、この色のない世界で、月が輝いているわけではない。
当たり前ながら、空に浮かんでいる月は、グレーの色をしていた。
だけど、その月からグレーの光の筋が出ていて、それが洞窟に向かっていた。
そして、そのグレーの光が洞窟に近づくに連れて、本来の月の光の黄色になっていた。
これで、わかった!
虹のかけらは、月の光がないとできないんだ。
だから、満月でないと手に入らない。
なぜなら、月の光が洞窟に注がれる為には、かなりの力がいる。
月が最も強く力を発揮する時。
それは・・・満月だから。
「なるほど〜・・・そういう事だったんだ。」
改めて、納得してしまう私。
だけど、驚いた!
まさか、虹のかけらが、こんな条件のうえで、出来るものだったなんて・・・。
ホントにホントに、驚いたよ。
だけど、これで、虹のかけらを手に入れる事ができる!
私は軽快な足取りで、原石の部屋へと向かう。
2番目の扉を開ける為に、はさんであるストッパー原石くんをまたいで、私は原石の部屋の中に入った。
原石に混じって、キラキラと七色に光っている物!
私は、しゃがんでそれをじっと見る。
そして、気付いた。
「埋まってる?」
そう・・・キラキラ光っている物は、原石がある下の土の中にあった。
私は、原石をどかしてみる。
そして、土を手で何回か排除し、掘り起こす。
すると、直径5センチくらいの五角形の形をした、石の塊が現れた。
それは、キラキラと七色に光っていて、形もまさに『かけら』のようだった。
この石の正体は、たぶん・・・原石の露(ツユ)じゃないかと思う。
この異常な程に寒い洞窟の中にある原石が出した露(ツユ)が、土の中で蓄積され、それが結晶となったものがコレ。
そして、それに月の光が混ざる事によって、七色に光り、虹のかけらとなる。
今、外の満月から注がれているスポットライト状の月明かりがあるから、この五角形の塊は七色に光っているけど、こうやって、スポットライトから離すと・・・。
私は、光から横にそれた。
すると、手に持っていた虹のかけらは、光を失いただの石になった。
という事は、月の光がないとダメなんだよね。
この洞窟から出しても大丈夫なのかな?
と頭によぎるけど、すぐに大丈夫だと気付く。
だって、緑豹国には、月はある。
もし、普通の月の威力で足りないなら、また満月が来るのを待てばいい。
満月の光を浴びたら、きっと虹のかけらになるよ・・・ね?
とりあえず、これを持って帰る事にして私は、虹のかけらを幾つか掘り起こしリュックに入れた。
「もうダメ・・・疲れたぁ〜〜。」
虹のかけらも採り終えた私は、達成感で満たされて思わず、原石の部屋で「ペタン。」と座り込んでしまった。
そして・・・ある声で、我に返る。
「翠っ!」
声がした方を振り向くと、見た事もない男の人が立っていた。
その人は、緑の髪をして、蒼輝と同じ青い目をしていた。
だけど、背格好や落ち着いた雰囲気は、ヒビキさんに似ていた。
「誰・・・ですか?」
私の言葉に、彼は優しく笑う。
「虹のかけらを、よく自分の力で手に入れたね。
よく頑張った。
そんな翠に、ご褒美をあげる!
このままの状態で、外に出て、洞窟に付いていたツララを見てごらん!
七色に光っているツララを採って、「雫(シズク)よ、出て来い。」と念じる。
出てきた雫(シズク)を飲めば、体は回復して、きっと5時間もかからずに、緑豹国に戻れるはずだ!
急げば、ジギルたちに逢う前に、緑豹国まで戻れる!
それから、この雫(シズク)は『虹の雫(シズク)』と言って、命さえ途絶えなければ、どんな傷もどんな病も、あっという間に治せる万能薬だ!
満月の夜にしか採れないけど、玉に入れて保存もできるから、今度永遠(トワ)に連れてきてもらうといいよ。
これからの戦いで、この雫(シズク)は必要になるだろうからね。」
彼は、そういうと私の目の前に歩んできた。
私の前に、座り込むと私をジッと見る。
彼の青い目に、吸い込まれそうになってしまう。
彼は急に、自分の右手を私の左頬に「ピタ。」と当てた。
「えっ?えっ?」
思いっきり戸惑う私に、彼は優しく笑いながら、
「彼女によく似てる。」
とつぶやいた。
「か・・・のじょ?」
聞き返す私を、彼はまるで私がその彼女かと勘違いしてるんじゃないかと思うくらい・・・私を、とても愛おしい瞳でみつめていた。
どうしたらいいのかと困る私に、彼は私から手を離すと立ち上がった。
「翠っ!逢えてよかった。
君が蒼輝たちと一緒に、この世界を元に戻すんだ。
いいね。」
彼は、そういって私の頭を優しく撫でてくれた。
「だけど・・・あんまり無理はするな。
君は僕の・・・。」
言いかけて止めた彼の言葉が気になって私は、勢いよく顔を上げ彼をみつめる。
「君は僕の・・・・何?」
私の問いに彼はただ笑うだけ。
「じゃ、気をつけて帰るんだよ。」
彼はそう告げると私に背を向け、ドンドン先に歩いていく。
見る見るうちに彼の姿が見えなくなった。
「待って!!」
私は、自分の叫び声で、我に返る。
・・・夢だ。
知らない間に、私・・・寝てた。
だけど、夢にしては・・・。
私は、彼が触れた左頬を、自分の左手で触れてみた。
感触が・・・ある。
本当にあれは、夢だったのかな?
それとも、誰かが来た?
だけど、この部屋には、女豹しか入れないんだよね?
一体あの人は・・・誰だったんだろう?
考え込む私の脳裏に、彼が言っていた言葉が蘇る。
そうだっ!
『虹の雫(シズク)』が、どうのこうのって言ってなかったっけ??
私は、とりあえず、言われた通り、扉を開けっ放しの状態で、外に出た。
そして、洞窟に張り付いているツララを見てみる。
確かに、何本かは、七色に光っている。
それを、背伸びをして、頑張って採ってみた。
そして、念じてみる。
すると、七色に光る液が、3滴出てきた。
私は、口を大きく開けて、その雫を3滴口の中に入れた。
ゴクっと飲み込む。
すると、不思議な事に、今まで疲れきっていた体が、みるみるうちに元気になった。
元気どころか、もとよりも体力が付いた感じ!
ホントにこれなら、早く帰れそう。
うれしくなる私だったけど、今自分が置かれている立場を思い出す。
すでに、時間は午前3時くらい。
早急にココを出発しないと、ジギルたちに逢ってしまう!
私は、リュックを背負うと、急いで2番目の扉と、1番目の扉を閉めた。
外に出た私は、洞窟に向かって一礼する。
さっきの夢の主は、結局誰かわからなかったけど、彼のおかげで私が元気になったのは事実。
「ありがとうございましたっ!」
そう声をかけると、私は洞窟に背を向け、今度は北を目指して、来た道を歩き始めた。
☆☆☆END☆☆☆
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