16    15章GAME 〜かけひき〜
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H17年8月7日(日)
下がっていた気温が、少しずつ上がり出し、色がない世界だけど、それなりに日が昇り出したような感じがしてきた。
洞窟を出てから私は、一度も休むことなく走り続けていた。
虹の雫(シズク)のおかげで、全くしんどさを感じなくなった私は、ずーっと全力疾走で森を駆け抜けていた。
 
とにかく、急がなきゃっ!
ハンターに逢っちゃうよ!
 
私は、走りながら腕時計に目をやる。
 
「もう・・・6時半か。」
 
これだけ頑張っても、まだまだ、緑豹国までは距離がある。
それでも、諦めずにとにかく進まなきゃ。
私は、必死に走る。
そんな私の視界に、東の方角から強い光が差し込んでくる。
やっと、WONDER LANDの入り口だ。
私は、走っていた足を止めて、木の影に隠れた。
サンガが言っていた事が本当だとしたら、ジギルたちが森に出てくる時間よりまだ、少し早い。
だけど、万が一って事もある。
ここは、慎重になった方がいい。
私は、息をひそめて、東側はもちろん、辺り一体にハンターがいないかどうかを確認する。
 
「よしっ!誰もいない。」
 
私は、確認した上で、そこから飛び出して、また北に向かって走りだした。
30分くらい程走った時だった。
私の来た方向から・・・何かが聞こえた。
私は、走っていた足を止めて、後ろを振り返る。
誰もいないけど・・・何かの音が、確かに聞こえた。
その時、私は「フッ」と思った。
私はこの世界に来て、よく耳に頼るようになった・・・というか、情報が目よりも先に、耳から入ってくるようになった。
前に、チナリさんが亡くなった時の話をヒビキさんがしてくれた時に、確か言ってたよね。
「混血人間は、耳がよく聞こえる。」って。
今の私は、なぜだかわからないけど、確かに豹の血が混ざっている。
だから、普通の人間に比べて、耳が異常にいいのかもしれない。
という事は、今は姿がないけど・・・誰かがこちらに近付いてきているのかもしれない!
私は、高鳴る胸の鼓動を必死で抑えながら、耳を澄ませて後方から聞こえてくる音に耳を傾けた。
草が乱暴に踏まれるような「ザッザッ。」って音。
そして、信じられないのが、わずかにしか聞こえない音なのに、音の種類を聞き分ける事ができた事!
その聞こえた音は、少しずつ質が違っていて、何種類も聞こえた。
つまり、こちらに向かって来ているのは、1人や2人じゃないって事。
 
「え〜・・・勘弁してよ〜。」
 
泣きたい気分とは、まさにこれっ!
こんな所に、この人数ときたら誰かは見なくてもわかる。
ハンターだ!
どうしよう!とあせる私。
だけど、たぶん彼らとの距離は、まだまだあるはず。
このまま必死でとにかく走れば、もしかしたらギリギリで緑豹国へ滑り込みできるかもしれない。
身を隠していた所で、彼らにみつからないとは限らないわけだし。
よしっ!いける所まで行こう!
 
私は、覚悟を決めてとにかく、北に向かって今までで一番早いスピードで走った。
途中、北西に方向をズラしたりしながら走って、彼らとなるべく逢わないように工夫してみたりした。
だけど、私の読みは甘かった。
なぜかわからないけど、私が走り出したと同時に、彼らも全速力で走ってきた。
そしてさらに、私が方向を北西にズラして走っていたのに、彼らも方向を修正して、真っ直ぐ私の方に向かって走ってくる。
彼らの足音が、ドンドンドンドン大きくなる。
 
ダメだっ!このままじゃ、追いつかれる!
 
私は、走ることを止めて、とにかく身を隠す事を選んだ。
どこかいい所がないかな?と探す私の目に、最高の場所が現れた。
私はそこに向かって走る。
そこは、森からかなり西の方角みたいで、そこら一体は砂地になっていた。
そして、あたりにはたくさんの大きな岩が無造作に幾つも置いてあった。
こんだけあれば、私がどこに隠れてるか絶対にわからないはず。
ここに隠れて、彼らが諦めるのを待とう。
私は、隠れる岩山を決めて、そこに身を隠した。
息をひそめて、ハンターが来るのを、ジッと待った。
 
しばらくすると、200メートル先の方から、ハンターが4人走ってくるのが見えた。
その中にはもちろん、ジギルとトロイがいた。
だけど、私は彼らの人数に驚く。
 
何回数えても・・・4人だよね。
だけど、あの時聞こえた足音は、もっといた様な・・・。
 
気のせいだったのかな?と思いながらも、ちょっと、ひっかかる私。
 
「どこにいるかわかるか?」
 
ジギルの言葉で、考え込んでいた私は、「ハッ!」としてジギルを見る。
ジギルに聞かれたトロイは、左手に何か四角い箱を持っていた。
それを四方八方に向ける。
 
何、やってるんだろう?
 
と思う私の対角線状に、その箱が向いた時、その箱から音が鳴った。
 
何?あの・・・音!
ちょっと、嫌な予感がするんだけど・・・。
 
予感は的中!
 
「アニキ!あの岩の後ろにいます。」
 
トロイがそう断言する!
 
嘘っ!!
なんで、わかったのよ!
 
こんなにある岩山の中から、いとも簡単に私の居場所を当てたトロイ。
たぶん、トロイが持っているあの箱に何か秘密があるのかな?
その時、また蘇る記憶。
別れ際にサンガが言っていた一言。
「機械関係は得意。」と言っていた事。
という事は・・・彼があの装置を作ったのだろうか?
彼が、私の存在をジギルたちに言った?
そう思った瞬間・・・気持ちが沈んでいくのがわかった。
もちろん頭のどこかでは、覚悟はしていた。
サンガはいい人だったけど、敵だ。
彼が、WONDER LANDに戻ってジギルたちに、森であった事を報告する。と考えるのは当たり前の事。
だけど・・・正直、裏切られた。と思ってしまった。
彼なら黙っていてくれるかも・・・と思っていたから。
一瞬、頭が真っ白になって、何も考えられなくなってしまった。
だけど、彼らが一歩一歩近付いてくる重い足音が、私を正気に戻してくれた。
 
そうだっ!今はしょげてる場合じゃない!
彼は敵であり、さらに危険とわかっていて、私は彼を助けたのだ。
こうなったのは、誰のせいでもない。
私の責任。
だったら、何が何でもここを脱出して緑豹国に戻らなきゃっ!
 
私は、中腰になって、その岩山の影に隠れて、その場を去ろうと、一歩下がった時だった。
トロイが持っていた箱が、今度は違う音をたてる。
 
「アニキ!」
 
トロイはそういって、箱をジギルの前に差し出す。
それを見たジギルは、私が身を隠している岩山に銃口を向けた。
 
「今度、動いたら岩ごと破壊するぞ!」
 
破壊??
銃、1つでこの巨大な岩を破壊できるわけないじゃない!
そんなハッタリに騙されないぞ!と強気の私は、岩山の影から「ソッ。」とジギルたちを覗き見する。
そして・・・尻もちをついてしまった。
彼の言葉と同時に、トロイも含めた残りのハンター3人が、ジギルと同じように、この岩に向かって銃口を向けていた。
 
一体・・・いつの間に・・・。
 
彼らの素早さと、戦いなれたその行動力に・・・私は降参。
一歩動いただけで、わかってしまうし、さらにはこの腕の人たちでしょ・・・。
もう無理・・・逃げられないよぉ〜。
途方にくれる私に、ジギルは追い討ちをかける。
 
「姿を見せろ!」
 
少し私は考えて・・・。
「こうなったら、しかたないか。」と覚悟を決めた。
もう逃げる事はできそうにない。
このまま隠れていたら、岩ごと破壊されてしまう。
そしたら、原石や虹のかけらまで、なくなってしまう。
この岩山に隠しておけば、私が彼らに殺されたり、つかまってしまっても、勘のいいヒビキさんなら、きっとみつけて緑豹国に持って帰ってくれるはず。
私は、背負っていたリュックを肩から降ろすと、岩山と砂地の間にちょうど出来ていた隙間に押し込んだ。
完全には入らなかったけど・・・ま〜、いいや。
そして、私はその場に立って、ジギルたちに姿を見せようと中腰になったその時、後ろから右腕を力強くひっぱられた。
その力に、私はまたしても尻もちをついてしまう。
 
「いったいなぁ〜。何よっ!」
 
この状況をスッカリ忘れて、思わず声を上げてしまった私。
怒りながら振り返る私の口に向かって、その主は右手を当てて「静かにっ!」と小声で言う。
 
「!!」
 
彼の姿を見て、私はただ目を見開くだけ。
声なんて・・・もう出ない。
 
なんで?どうして?
これは・・・夢??
 
頭の中には、そんな言葉しか浮かんでこない。
だって、私の目の前にいるこの人は、絶対に絶対に、ここに来れる人じゃないんだもん!
ハンターに狙われているなんて・・・もうどうでもよかった。
ただ目の前にいるこの人が、本物かどうか。
私はそれだけが知りたかった。
 
「ほん・・・もの?」
 
やっとの思いでそう口にした私の目からは、知らないうちに涙がこぼれていた。
私のその言葉に「えっ?」と言って彼は、ジギルたちの様子にくぎつけだった視線を、私に移す。
そして、私の涙を見て驚く。
 
「!!
おいっ!何、泣いてんだよ!」
 
「答えになってないぃ〜〜!!」
 
泣きながら反論。
だけど、この声にこの姿・・・。
彼以外この世に絶対に存在しないっ!
そんな事はわかっていた。
だけど、さっきの洞窟で見た夢みたいに、これもリアルな夢かもしれないじゃない?
私の頭はまだ彼を疑っていた。
すると、急に私の体が「フワッ」と浮いた。
かと思ったら、暖かい場所に顔がうずくまる。
私の耳に、ある音が聞こえた。
「トクントクントクン」と均等に打つ音。
目の前にいる彼が本物であるという、これ以上にない証(アカシ)。
彼が本物だと実感した私の顔が、自然と笑顔になる。
私は、自分の両腕を、彼の背中に回して、彼に抱きついた。
 
「蒼輝っ!」
 
思わず叫ぶ私を、彼は自分の胸から少し離して、私の口元に左手の人差し指を当てた。
 
あ〜・・静かにしなきゃいけなかったんだった。
 
私は、黙ってうなずく。
すると、今度は私の頭を彼が右腕で包み込み、私は彼の右肩に顔を当てる状態になる。
そして、彼は自分の口元を私の右耳に近づけた。
吐息を感じるくらいに彼の口は近付く。
私の耳が、急に敏感になってしまう。
彼の口から出る言葉を待つ私に、彼がくれた言葉は・・・。
 
「無事で・・・よかった。」
 
とため息混じりに出た言葉。
私の事を心配して来てくれたのがわかる一言。
それだけで、私は心が満たされた。
また自然と私の腕が、彼の背中に回される。
彼の感触を腕と体と心で感じて、私は幸せな気持ちになった。
本当なら、昨日、こういう再会を期待していたのに、昨日は悲しい再会だった。
だから、余計・・・私は信じられなかった。
今、こうして逢いたかった蒼輝に逢えて、抱きしめてもらえている事が・・・。
だけど、冷静に昨日の事を思い出した時、私は急にあせってしまう。
 
「ねぇ〜、蒼輝・・・。」
 
私の呼びかけに彼は「ん?」と耳元でささやく。
 
「怒ってる?」
 
その言葉に、彼は意味がわからないようで首をかしげる。
 
「なんで?」
 
反対に聞き返されてしまった。
 
「だって、昨日蒼輝に『もとの世界に帰れ。』って言われたでしょ。
なのに・・・こんな所にいるから。
それに・・・。」
 
口を閉じる私に、彼は私の耳元から口を離して、顔を私の顔に近づけてくる。
彼との距離が縮まる。
 
「それに・・・?」
 
途中で止めた私に、彼が続きを求めてくる。
だけど、彼が近くに居過ぎて一瞬頭が真っ白になってしまう私。
 
「翠?」
 
彼の呼びかけに、硬直していた私の頭が動き出す。
 
「それに・・・蒼輝だって今は豹になれなくて、危険でしょ。
なのに、巻き込んでしまったし。」
 
それに対して彼は、ちょっと笑う。
 
「俺、翠に昨日言ったろ?
翠が夜に来たなら、森に迎えに行ってやったって!」
 
確かに・・・言ってた。
だけど、あれは冗談でしょ?
いくら夜にハンターは出にくいからといっても、100%出ないとは限らない。
豹の時と違って危険があるのは変わらないじゃない。
 
何も答えない私に彼は続ける。
 
「確かに豹にはなれないけど、この森は日が昇っている時間でも、あたりは薄暗い。
その条件なら、俺の方が有利だからな。
ジギルやトロイくらいなんとかなるよ!
俺たちには、動物の感覚がある。
暗闇でもある程度、見る事ができる。
翠だって、昨日夜中森を歩いて、体験したからわかるだろう?」
 
そういわれて初めて私は、気付いた。
確かに・・・私は昨日平気で森の中を歩いていた。
月明かりもないような場所を、明かりもつけないで。
耳も異常に聞こえるのも、目が暗闇に強いのも、豹の血。
って事は・・・やっぱり、私には豹の血が流れているって事よね。
なぁんでぇ〜〜。
最後には、そこに行きついてしまう。
そして、いつも答えがみつからない。
ちょっと、しょげてしまう私に、蒼輝は私の髪に優しく触れる。
 
「いずれわかるって。
今は、気にするな!」
 
彼のその言葉と、微笑みに私は素直にうなずいた。
彼はヒビキさんみたいに、心が読めるわけじゃない。
だけど、今私の心をまるで、読んだみたいだった。
心が通じ合ってると、実感できて私は素直にうれしかった。
さらに、笑顔になる私に、彼は「あっ!そうだ。」と思い出したように言葉を続ける。
 
「だから、翠を、森に迎えにいけなかったのは、昼間は眠いから。
なんで、俺が眠くなる前に、さっさと帰るぞ!」
 
彼はそういって笑うと、自分の額と私の額を「ゴツン。」とあてる。
こんなに蒼輝と接近できるなんて・・・恥ずかしいけど、ホッとする。
さっきまで、ハンターに追い詰められて恐かった恐怖が、1つずつかき消されて行くようだった。
 
「あっ!でも、蒼輝っ!
どうして、私がここに居るってわかったの?」
 
その言葉で、彼は私から顔を離す。
離れた彼を見て、ちょっと驚く。
なんか・・・顔が渋ってるけど・・・。
不思議に思う私に、彼は重い口を開く。
 
「一人いるだろ?
おせっかいな奴が。」
 
私が、ここへ来る事を知っていて、なおかつおせっかいな人って・・・すぐに浮かんだよ!
 
「ヒビキさん?」
 
ヒビキさんの名前を出した途端、さらに彼の顔がひきつる。
そして、声まで・・・ちょっと曇る。
 
「アイツの名前は出すな。
聞いただけで・・・腹が立つ。」
 
何・・・今の言い方。
思いっきり・・・トゲがあるんですけど。
 
「何か・・・あったの?」
 
「ま〜な。」
 
彼は、それだけ言うと黙ってしまった。
なんか、ヒビキさんの話をした途端・・・ちょっと機嫌悪くなってない?
もしかして・・・。
 
「蒼輝とヒビキさんって・・・仲が悪いの?」
 
それには答えない。
だけど、彼のそっぽ向いた態度を見たらわかるよ!
 
えぇ〜!!ホントに?
あの二人が仲が悪かったなんて・・・。
意外かも・・・。
 
「ねぇー、何で仲が悪いの?」
 
さらに突っ込んで聞く私に、彼は苦笑いをする。
 
「続きは、戻ってからな。
とにかく今はここを、抜け出そう。」
 
あっ!そうだった!
蒼輝の姿を見たら、安心しちゃって、スッカリこの状況を忘れてたよ。
私は、慌てて今の自分のおかれている状況を、再確認する。
と同時に、ジギルの声が聞こえてきた。
 
「よしっ!こっちから近付くぞ!」
 
その声に、ジギルとトロイと他2人が一斉に、こちらにむかって近付いてきた。
 
「ねぇ〜。姿、見せた方がいいんじゃないの?」
 
と彼にささやく私に、彼は小声だけど「冗談じゃないっ!」と怒鳴る。
そして、抱きしめている私の体を自分から離すと、私の左手を握り、私に立つ事をうながす。
彼に引っ張られるように立ち上がる私。
 
「ちょっと、体勢をひくくして待ってろ。」
 
と彼は言うと、私がさっき埋めたリュックを引っこ抜き、自分の背に背負った。
 
「今から岩の間を通って、北東に抜けるぞ!
最短の道を進めば、緑豹国まですぐだから。」
 
彼の言葉に、私は戸惑う。
だって、向こうには狙撃手のトロイがいる。
この距離で、彼に狙われたら・・・絶対にあたってしまう!
不安で何もいえない私の左頬に、彼の右手が触れる。
驚いて彼を見る私に、彼は「大丈夫。」と言って笑う。
 
「翠は、俺の左側を走れ。
岩と俺が背負ってるリュックが、お前の正確な位置を隠してくれる。
トロイは、お前に狙いをつける事は諦めるだろう。
だから、安心して走ればいい。」
 
だけど、それって・・・。
 
「蒼輝が狙われるんじゃないの?」
 
すると彼は、私に触れていた右手で、今度は私のホッペタをつまみ、「ビロ〜ン。」と引っ張った。
 
「何すんのよぉ〜!!」
 
思わず蒼輝の手をはたいてしまう私。
両手で左頬をナデナデ。
痛かった。
ちょっと、涙ぐむ私に彼は・・・笑ってる。
 
「相変わらず人の心配して・・・。
今は、自分の心配をしろよ!
忘れたのか?俺は、無敵だって!」
 
彼は笑顔でそういうと、
 
「よしっ!走るぞっ!」
 
と言って私の手をひっぱって走り出す。
無造作に置かれた岩をたてにして、北東に向かって走った。
だけど、私の位置がトロイが持っている箱のせいで、正確にわかってしまう為、銃弾は容赦なく打ち込まれてくる。
そして、その銃弾は、私ではなくて蒼輝に向かっていた。
彼の読みはあたった。
そして、その無数の銃弾を、豹でもないくせに蒼輝は、すべて紙一重で交わしていった。
 
もう少しで、また森の地形に入る!
 
と私が思った時だった。
私の横を走っていた彼の体勢が崩れた。
「えっ!」と驚く私の耳に、彼の苦痛な「うっ!」という声が聞こえた。
気付けば、彼はその場で倒れこんでいた。
 
「蒼輝っ!」
 
私は、倒れこむ彼の前にひざまづき、彼に何度も呼びかける。
心配そうにする私に彼は、
 
「かすり傷だ。
心配するな!」
 
と言ってすぐに、立ち上がる。
彼が立った事によって、足の傷口が私の目の前に現れた。
私は息を飲む。
左足の太ももから、かなり出血していた。
見るからに・・・かすり傷ではなかった。
 
とりあえず、止血しなきゃっ!
 
とっさに、そう思った私は、上に着ていたウエアーを上に引っ張りあげると、下に来ている服の布を、歯でかみちぎった。
そして、それを傷口よりも何センチか上の所で、きつく結んで噛み切った。
余ったぬので、今度は傷口を結んだ。
この色のない世界にいるから余計に思ってしまうのかもしれないけど、彼から流れてくる血は、眩しいくらい鮮血だった。
縛っていても、ドクドクと流れる流血を見て私は思う。
 
もう、これ以上走れないっ!
 
その時、「カチャ。」と嫌な音が、4回聞こえた。
音のした方を見ると、20メートル先の方から、四方に分かれて私たちを狙っている、彼らの姿があった。
 
ここまでか・・・。
 
と諦めた私の右腕を、彼が「グイ。」と力強く引き寄せ、座っていた私は彼の左側に立たされる。
 
「どう・・するの?」
 
引き寄せられた力強さから、彼が何かを考えているのだと感じた私は、彼に聞く。
一方の彼は、私とは視線を合わさず、ジギルだけを見ていた。
 
「まだ、あきらめるな。
敵に囲まれたわけじゃない!
隙を突いて、後ろから逃げる。」
 
「でも、この状況でどうやって・・・。」
 
トロイは相変わらず、蒼輝に狙いをさだめているし、蒼輝だって走れないくらいの大怪我を負っている。
取り乱す私に、彼は「落ち着けって。」と言う。
 
「ジギルをうまく心理戦で丸め込めば、道は開ける。
俺にまかせろ!」
 
彼は、そういって自信ありげな笑みを浮かべた。
この絶体絶命の場面で、強がりでもなんでもいい。
笑っていられる彼を、心から「すごい!」と思った。
ヒビキさんが、蒼輝に「いろんな意味でお前は強い。」と言っていた意味が、この時わかったような気がした。
 
「アニキ・・・どっちも、人間ですよっ!
だけど、コレが反応したって事は・・・どっちかが豹に変身出来るって事ですかね?
どっちでしょう?」
 
そういうトロイを無視して、ジギルは私たちに視線を移す。
私とジギルの目が重なる。
 
うわっ!目が合ってしまった!!
 
急いで目をそらす私に、「おいっ!」とジギルが声をかける。
恐る恐る目を、ジギルに戻す。
 
そんなに・・・見ないでぇ〜!!
 
と心の中で叫んでいる私。
嘆いている私とは違って、ジギルは私を見て、ひどく驚いた。
 
「お前・・・前に森で逢った女かっ!」
 
そう言われて・・・実感してしまった!
やっぱりあれは、夢じゃなくて、ここで実際に体験した事だったんだと。
ジギルは、あの森で逢った時と同じように、やっぱり私が気になるようで、トロイには蒼輝が抵抗したら、撃てるように、銃口を向けさせた。
そして、残りの2人のハンターに、「いけっ!」と顎で指図する。
私を捕まえろなんて一言もジギルは言っていないのに、ハンターは迷わず私の方に近付いてくる。
向かってくる2人の姿を見て、すくみあがってしまった私は声も出ず、ただ黙ったまま蒼輝の腕にしがみついた。
視線はジギルから離さない蒼輝だったけど、私がビビッているのを、感触で感じたのか、彼をつかんでいる私の腕を、彼が反対につかみ返してくる。
そして、私を自分の真後ろに腕をひっぱって移動させた。
すると、今度は背負っていたリュックを降ろすと、私と彼との間に置いた。
 
「ここから絶対に動くな。
いいな!」
 
一瞬だけ私の方を向き、彼はそう言うと、2、3歩程前に進み、私からホンの少しだけ離れた。
彼が動いた事で、トロイは引き金をひきそうになったけど、なぜか撃つのをやめた。
どうしてかは、わからなかったけど・・・とにかくよかったと「ホッ。」とする私。
だけど、「ホッ。」としたのも束の間。
私を捕まえる為に、こちらに送り込まれていた2人のハンターが蒼輝の目の前まで近付いていた。
そして、彼らは、「チェッ。」となぜか舌打ちをすると、近付きながら構えていた銃を腰に直した。
てっきり、蒼輝を銃でねらうと思っていたのに・・・。
なんでだろう?
ちょっと、ハンターの予期せぬ行動を、私は不思議に思ってしまう。
 
「どけっ!」
 
一人のハンターが、蒼輝に向かって口を開く。
 
「どかない!と言ったら?」
 
あくまで挑戦的な蒼輝!
 
「なら、仕方ないっ!」
 
そういって、一人のハンターが蒼輝に襲いかかってくる。
素早いコブシが、何度も炸裂し、器用に足も使っての攻撃。
運動神経のない私だったら、一撃でノックアウト間違いなしのすごいパンチ。
だって、風を切る音が・・・聞いてるだけで「ひよぇ〜!!」って感じなんだもん!
だけど、それをすべて蒼輝は、さっきの位置から全く動かずにかわした。
汗一つかかずに涼しげにかわす蒼輝に対して、一向にあたらない攻撃をしていたハンターは疲れが出てきた様子。
ちょっと、攻撃と攻撃との間隔が空き出した。
 
「どうした?あたんねぇーぞ!」
 
ハンターをバカにしたような笑いに、この言葉を投げる蒼輝に、頭に血が上るハンター。
 
「くっっそー。なんであたんねぇーんだ!」
 
と気持ちが乱れる。
冷静さを失ったハンターの負け。
攻撃が感情的になり、さらに荒っぽくなったハンターの攻撃に、蒼輝は「してやったり。」といった笑いをする。
 
「俺が、当たるパンチってのを、教えてやるよっ!」
 
蒼輝のその言葉と共に出された蒼輝の右ストレートが、ハンターの腹部にヒット。
ハンターは、その場で倒れこむ。
それを、側で見ていたもう一人のハンターが口を開く。
 
「へぇ〜・・・なかなかやるじゃん!」
 
「えっ!!」
 
その声に・・・私は耳を疑う。
目の前にいる彼を、じっと見る。
 
「う・・・そ・・・。」
 
それが私の第一声!
帽子をかなり深くかぶっていたし、彼を暗闇でしかみてなかったから、気付かなかった・・・。
私のリアクションに、不審に思う蒼輝。
 
「翠・・・コイツを知ってるのか?」
 
目の前のハンターを見たまま、蒼輝は私に聞く。
まさか、森でハンターを助けて、その彼に今襲われてます・・・とは、さすがに言えない。
何も言えない私に、蒼輝は、「おいっ!」と答えをせかす。
戸惑う私の耳に、今度はジギルの声が届く。
 
「サンガッ!お前、この女、知ってるのか?」
 
私たちの声は、ジギルには聞こえていないはず。
だけど、戦わないで話をしている私たちに、ジギルは変に思ったみたい。
ジギルの質問に答えるのに、サンガの口が開く。
 
あ〜あ・・・全てバレてしまうっ!!
 
思わず目をつぶる私。
だけど、予想とは違う展開に進む。
 
「いえっ!全く知らない女性です!
この男が、結構強いのでちょっと躊躇してただけです。
今、捕まえますから。」
 
サンガはジギルにそう叫びながら、目は蒼輝を通り越して私を帽子の奥から「ジッ。」と見ていた。
彼の目が何かを訴えているように見えたけど・・・私にはわからなかった。
 
「お前に彼女は守れない。
悪いけど、彼女は俺がもらっていく。」
 
サンガは蒼輝に目をやると強気な発言をする。
売られた喧嘩は、喜んで買っちゃう蒼輝!
案の定、サンガに負けないくらい強気発言!
 
「お前みたいなただの人間に、俺が負けるわけないだろ!」
 
その言葉にサンガは、首を振り「負けるのは俺にじゃない!」とため息まじりに言う。
 
「ジギルに、その怪我で勝てると本気で思っているのか?
俺が彼女を捕まえたフリをして守る。
だから、彼女をおとなしく渡せ。」
 
サンガの申し出に、蒼輝はドンドン・・・わからなくなってきた様子。
 
「お前・・・さっきから何言ってんの?」
 
それには、今度はサンガがキレた。
 
「危険だとわかっている森に、彼女をたった一人で行かすようなGREEN LANDの連中に彼女を任せられない。って言ってるんだ!
お前たちには、彼女はそれほど必要でもないようだし・・・俺がもらってもいいだろ。」
 
「ち、ちょっと待ってよ!」
 
思わず横入りしてしまう私。
 
「サンガ!あなた勘違いしてる。
森には私が自分の意思で一人で来たの。
彼らは関係ない!」
 
「だけどっ!!」
 
反論しようとするサンガに、蒼輝が口を開く。
 
「どういういきさつで、テメーが翠を知ってるかはこの際、どーてもいい。
ただ、これだけは言っとく!」
 
蒼輝は、そういうと、もう1歩サンガに近付いて彼の胸ぐらをつかんだ。
 
「翠は、俺にとって必要なんだよっ!
だから、絶対テメーには渡さないっ!」
 
蒼輝のその言葉に、私は胸が熱くなった。
だって、昨日蒼輝は、「私はいらない」と言った。
でも、今は必要だと言ってくれた。
もしかしたら、その場しのぎの嘘なのかもしれない。
でも、それでもよかった。
彼のその言葉が聞けただけで、私は信じられないくらい幸せな気持ちになれたから。
 
「フッ!」
 
サンガのバカにしたような笑いが、幸せな気分の私を現実に戻す。
その笑いに怒るわけでもなく、さらに冷静な様子で答える蒼輝。
 
「頭でもイカれたか?」
 
蒼輝の言葉に、サンガの目つきが鋭くなる。
 
「ホント、お前ってムカつくな!
その自信たっぷりな態度が・・・ムカムカするんだよ!」
 
その言葉と同時に、サンガは胸ぐらを蒼輝につかまれたままで、右ストレートを蒼輝の左頬に向かって繰り出す。
だけど、蒼輝は瞬時に、サンガの胸ぐらをつかんでいた手を離した。
そして、サンガが繰り出したコブシを、頭を低くして紙一重の所でかわすと、右足で思いっきりサンガの腹部に蹴りをくらわす。
まさか、そんな体勢でこんなに強い蹴りが来ると思っていなかったサンガは、もろにくらってしまい・・・ノックアウト。
その場で、うずくまる。
倒れたままピクリとも動かないサンガを、私は心配してしまう。
 
「サンガッ!」
 
そして、彼の元へ駆け寄ろうと一歩踏み出した私に、
 
「来るなっ!」
 
と蒼輝が叫ぶ。
その声に、私の足はピタリと止まった。
蒼輝は私の方に、顔を向ける。
 
「お前が、コイツの所へ駆けつけたら、お前とコイツが面識あったとジギルにバレちまう。
コイツは、ジギルにお前は知らない。と言ってるんだ。
俺の言いたい事・・・わかるな?」
 
そうだ!
サンガが、ジギルに色々問い詰められてしまう。
ひどいめにだって、あうかもしれない。
私は、彼の元へ行く事を諦めた。
踏みとどまる私に、蒼輝は、
 
「大丈夫!気を失ってるだけだから、1日もすれば、意識は戻る。」
 
そういって、私を安心させる。
あれだけ、サンガに暴言を吐いていたのに、ちゃんとサンガの身の安全まで考えていた蒼輝。
やっぱり、彼は・・・素敵っ!
思わず、ニヤけてしまう私。
そんな私から、蒼輝は目をそらすと、左足をひきずりながら、うずくまっている2人のハンターのもとへと、近付いて行く。
さっき、右足を使ってサンガに蹴りを入れた時、怪我している左足に体重を乗せたので、左足からはまた血が流れ出していた。
だけど、そんな事、蒼輝は全く気にしないで、まずは、すぐ目の前に倒れているサンガの横を横切る。
 
「翠がほしかったら、強くなってこい!」
 
蒼輝はそういうと、サンガの前を過ぎて行った。
ほとんど意識がない状態のサンガに、今の言葉が聞こえたかは疑問だったけど、そう投げかけた蒼輝の言葉は、サンガをライバルと認めた・・・そんな気がした。
蒼輝は、足を止める事なく、今度は、もう一人のハンターのもとへと進む。
その間、トロイは蒼輝を撃とうと狙うけど、やっぱり引き金がひけないでいた。
その時、私は気付いた。
彼らが、銃を使えないのは、蒼輝と私の立ち位置にあるのだと。
蒼輝がいる位置は、常に私の真ん前。
つまり、直線状にいる。
だから、蒼輝を狙っても、ちょっとズレてしまったら、真後ろにいる私にあたってしまう。
それを、恐れて彼らは撃てないんだ。
「ここから動くな。」と蒼輝が言ったのは、そういう事だったんだ。
蒼輝の格闘のセンスと、頭の良さに心から感心して脱帽してしまう私。
 
そして、うつぶせになって苦しんでいるハンターの真ん前まで来た蒼輝は、苦しんでいるハンターの腹部を、今度は右足で思いっきり蹴り上げた。
飛ばされたハンターは、ジギルの目の前に飛んでいった。
飛んできた仲間を、ジギルは避ける事も、眉ひとつ動かす事もなく、平然として銃を持っていない左手で、ズボンのベルトをつかんで、うまくキャッチした。
蒼輝は、怪我をしている足をまた重心にしたので、今度はさすがに痛かったようで、顔をしかめながら、一瞬ヨロけた。
だけど、前かがみになりながらも、顔はまっすぐジギルに向けて、鋭い目つきで彼を見る。
 
「ジギルっ!
こいつをつかまえたいなら、ザコは使わずに、自分できたらどうだっ!
俺が相手してやるよっ!」
 
彼はそういうと、ジギルを馬鹿にしたような笑いを浮かべた。
 
「きさまっ〜!!」
 
と腹を立てたのは、言われたジギルじゃなくてトロイ!
慕っているアニキを馬鹿にされたトロイは、思わず蒼輝に銃口を向けて、引き金を引きそうになる。
それを、慌ててジギルが止める。
 
「アニキっ!なんで止めるんっすか!
あんな人間にバカにされて、腹が立たないんっすか!」
 
と、くってかかるトロイに、アニキは「まー、待て!」と冷静に答えると、トロイが構えている銃口を下にさげさせた。
そして、目の前にいる蒼輝に目をやると、彼もまた蒼輝に負けないくらいの挑発的な笑みを浮かべた。
 
「俺と戦いたいなら、お前も本来の姿になったらどうだ?蒼輝っ!」
 
その言葉に、「えっ?」と驚いたのは、私とトロイ。
蒼輝の人間の姿をジギルはもちろん、WONDER LANDの人間は知らないはず。
どうして、ジギルにはわかったのだろう?
だけど、私の目の前には、ジギルの言葉を私以上に理解できていない人がいた。
 
「アニキ・・・アイツが蒼輝って・・・ホントっすか?」
 
目を大きく見開いて、ボーゼンとした状態で、ジギルにそう聞くトロイ。
確かに、いつも豹の姿を見ていたんだから、驚くよね?
トロイのその言葉に、ジギルは「まぁ、無理もないか。」と言うと、蒼輝をジッと見る。
 
「確かに、青い目も失われているし、外見も人間だから、俺も最初はわからなかったよ。
だけど・・・。」
 
ジギルは今度は、トロイに、「アイツを見てみろ。」と蒼輝を指差す。
それに従って、トロイの目が蒼輝に移される。
 
「あの挑戦的な目!
どんなに追い込まれても、物怖じせず冷静に次の手を考えてるあの目。
自分の勝利しか信じていない自信に満ち溢れた目・・・。
アイツと何度も戦ってきた俺が、間違うはずがない!
あんな目をする奴は、この世でたった一人しかいないっ!」
 
そして、ジギルは、蒼輝に向かって叫ぶ。
 
「豹になれよっ!」
 
って。
だけど・・・なれないんだって!!
と心の中でつっこむ私。
蒼輝・・・どうするの?
また、ソワソワしてしまう私とは違って、蒼輝は特にあせるふうでもなく・・・またジギルに「ニヤ。」と意味ありげな笑みを浮かべる。
 
「まー、そう熱くなるなよっ!
テメーのレベルに合わせてやってんだからさ!」
 
蒼輝の言葉に、さすがのジギルも「何だと?」と少し「ムッ。」とする。
さっきまで冷静だったジギルの気持ちが揺れだした。
それを感じた瞬間、蒼輝の目元がちょと緩んだ。
それで、私はサンガの前にやっつけたハンターの事を思い出した。
あのハンターも蒼輝の巧みな誘導発言で、心を乱して蒼輝にやられたのだ。
もしかして、ハンターを蹴り飛ばしたのも、こうやってジギルを怒らすような事を言っているのも、ジギルから平常心を奪う為?
そういえば・・・。
ヒビキさんが、言っていたっけ。
『ジギルは、臨機応変にたちまわる。
平常心を先に失った方がやられる。』
って。
という事は、ジギルの平常心を失えば、こっちにも勝機があるって事だよね。
だから、蒼輝も『心理戦で持ち込んでうまく丸め込む。』と言っていたんだ。
という事は、もうちょっとでジギルを丸め込める?
もちろん蒼輝も、そう感じたんだと思う。
さらに、追い討ちをかけるようにジギルに暴言を吐く。
 
「豹の俺とじゃ、お前は役不足なんだよ!
いっつも俺の勝ちだからな。
お前には、コレで充分だよっ!
そうは・・・思わねぇーか?」
 
だけど・・・狙いはハズれた。
ヒートアップして理性を失ったのは・・・なんとトロイ!
 
「きさま〜!!
アニキに向かって何て事をっ!!」
 
下げていた銃口を、蒼輝に向かってかかげた。
 
ダメだっ!撃たれる!!
 
とっさに身をすくめる私に聞こえたのは、何とジギルの笑い声。
 
「わははは。」
 
と何とも豪快な笑い声。
ヒートアップしていたトロイが、引き金を引くのも忘れて、ビックリしてジギルをみる。
 
「!!
どう・・・したんっすか?
アニ・・・キ?」
 
頭がおかしくなったのか?と、さらに心配気に見るトロイをよそに、ジギルはまだ笑っている。
そして、笑いながら、下げていた銃口を真ん前に素早くあげると、蒼輝の足元から1センチ手前の土に向かって、1発放った。
銃声を聞いて、一瞬私は、蒼輝が撃たれたんじゃないかと思って目をそらす。
恐る恐る目を開けてみる私の目に、彼の足元の1センチ先から、煙が上がっているのが確認できた。
弾がそれた事を知り、ホッとする。
 
だけど、手元がくるった・・・って事はないよね?
じゃあ・・・わざと?
なんでこんな所に?
 
不思議に思って私は、ジギルを見る。
私と同じ気持ちで、トロイもジギルをみつめる。
 
「どこ狙ってるんっすか、アニキ!」
 
それには答えずに、ジギルは蒼輝にまた銃口を向けた。
 
「いつものお前だったら、俺が銃を構えて、引き金を引くわずかな時間の間に、突っ込んできて、俺に攻撃をしかけていただろう。
なのに、今のお前は、すでに弾をくらって、今のですら反応する事もできなかった。
そんな立ってるのもやっとのお前に、勝ち目があるとは思えんが。
どっちが、レベルを下げてやっているか、もう1発鉛の弾をその体に入れてやれば、気付くか?」
 
今度は、ジギルが蒼輝に向かって勝ち誇った笑みを向ける。
それに、反発しようと蒼輝が体に力を入れた時だった。
バランスを崩した蒼輝は、その場に両ひざをついて、座ってしまった。
私は、彼に「動くな。」と言われていた事を、振り切って彼の元へと走り寄った。
 
「蒼輝っ!・・・大丈夫?」
 
彼の顔をのぞき込んだ私は、思わず息を飲む。
顔からは、異常なほどの汗が出ている上に、血の気が失せたような青白い顔。
唇も紫色に変色していた。
 
こんなになる程、左足から出血してたの?
 
私は驚いて、彼の左足に目を移そうとした。
だけど、私の目は彼の左足の傷に届く前に、彼の座り込んだ付近の土で目が止まる。
そこには、考えられない程の血液が流れていた。
水たまりというならば、まるで・・・血の海。
ジギルとトロイの行動にばっかり目がいっていて、蒼輝の体の事を完全に見落としてた私。
 
こんなに、出血してたなんて!!
 
「どうしよう・・・蒼輝・・・。」
 
取り乱す私に彼は、血で染まった左手で、私の右腕をつかんだ。
 
「うしろ・・・から・・・逃げるぞ。」
 
意識がモウロウとなりはじめたのか、蒼輝は途切れ途切れにそういうと、立ち上がろうとして後ろに振り返る。
だけど、私たちが見た道は・・・その先にはなかった。
あるのは・・・人の姿。
ジギルと同じように、20メートル先から銃を構えているハンターの姿。
軽く・・・10人はいた。
 
いつの間に後ろに・・・。
しかも、こんなに居たなんて!!
 
その時、私はピンと来た。
一番最初・・・。
ジギルやトロイの足音を、はるか遠くで聞いた時、たくさんの足音を聞いた。
4人の姿を見た時に私は、「おかしい。」と思ったんだ。
あの時、ジギルは後ろから私たちを追い詰めるように、部下を分けたんだ。
それに、気付かなかったなんて・・・。
自分のおろかさに、ホトホト嫌気がさす私。
でも、後悔しても・・・もう遅い。
完全に、ハンターに囲まれてしまった。
もう・・・私たちには道は・・・なかった。
 
「くっそ!」
 
悔しそうに、そうつぶやいた蒼輝に、ジギルはやっとホッとした様子。
 
「やっと、お前を追い詰めたな・・・蒼輝!
お前が俺の平常心を失わせように、わざと挑戦的な言葉を投げかけてきていたのは、わかっていたよ。
それには、乗らないぞ。とは思っていたけど、さすがにお前の言い方はうまいな。
敵ながら拍手を贈りたいね。」
 
それには、蒼輝は「ケッ!」とつばを吐く。
 
「自分が勝利したからって、ここぞとばかりに褒めんなよ!
気持ち悪いっ!」
 
ジギルは笑いながら、「嘘じゃない。」と言う。
 
「俺の怒りは、すべてトロイが代弁してくれたからな。
だから、俺は冷静でいられた。
勝因は、一人で、乗り込んできたお前の浅はかさと、普段は受けないから実感がなかったかもしれんが、鉛の重み。
想像以上に堪えるだろう?
銃のすごさを、なめたお前の甘さだ。」
 
そして、ジギルは笑いをやめて、真剣な眼差しになる。
 
「蒼輝っ!
お前に、チャンスをやる。
豹になって、俺と戦え!
そのひどい怪我も、豹になれば今よりはダメージは半減するだろ!
俺とも、まだまだ戦えるはずだ!
今のお前を殺しても、国王にすら自慢できないからな。
お前も、本来の力を出さずにして、殺されるのは悔しいだろ?
今まで戦ってきた、お前への最後の情けだ。
このまま俺に殺されるか、豹になって最後のあがきをしてみるか・・・。
1分待ってやる!
どちらか選べっ!」
 
そういうと、ジギルは、トロイに「数えろ!」と命令した。
 
「アニキはホントに、義理堅い人なんだから・・・。
さっさと、殺せばいいのに・・・。」
 
とブツブツ愚痴りながら、トロイは「イ〜チ・・・ニ〜イ・・・。」と数え始めた。
すると、蒼輝はなぜか、その場にお尻を「ペタン。」と地面につけて座り込んでしまった。
確かに、ここまで完璧に囲まれたら逃げようがないのは、私だってわかってる。
豹になれと言われてなれない事だって。
だけど、どんなに窮地になっても、蒼輝が諦めるなんて・・・考えられなかったから、私は座り込んだ彼に身を乗り出して聞いてみた。
 
「蒼輝、どうして・・・。
キャッ!」
 
思わず声をあげてしまう。
近付いた私を、彼は強引に自分の胸に抱き寄せた。
私の顔は完全に、彼の胸に押し付けられ、抱きしめるというよりは・・・守られてるようなそんな感じに似ていた。
スッポリ彼にくるまれたような状態の私の頭に、彼の頭がぶつかる。
 
「翠・・・俺の声が・・・聞こえるな?」
 
その声に私はただ2回しっかりとうなずいた。
それが、精一杯だった。
声を出して答えるなんて・・・できなかった。
だって、彼の声はホントに、かぼそくて力がなかった。
ジギルたちに声が聞こえないように小声で話してるとかじゃなくて、今の彼に出せる精一杯の声が・・・これ。
注意深く耳を傾けないと聞こえないような・・・そんな声だった。
彼の危険な状態を感じながらも、どうする事もできない私はただ彼のいう事を必死に聞くしかなかった。
 
「お前・・・ジジイから・・・何の玉(ギョク)渡された?」
 
ジジイ??
 
一瞬何の事がわからなかったけど、すぐにタカさんの事だとわかった。
 
「水の玉(ギョク)と火の玉(ギョク)だけど・・・。」
 
私の答えに、蒼輝は少し考える。
そして、急に抱きしめていた腕を緩めて、私を自分の胸から離す。
 
「な・・・に?」
 
驚いて彼を見る私の瞳に、何かを決意した強い光を宿した蒼輝の目が飛び込んでくる。
その目を見た瞬間、私の胸は高鳴る。
胸騒ぎがした。
 
「何する気?」
 
答える代わりに彼は、私の前に右手を差し出した。
 
「『火の玉』を俺にくれ。」
 
「えっ?」
 
戸惑う私に彼は続ける。
 
「そして、お前は、『水の玉』を持つんだ。
ここから緑豹国までなら、水がお前を守ってくれる。
火の中も、無傷でいけるはずだから。」
 
本当は、息だって切れて話すのも辛いはずなのに、彼は必死で耐えながら一気に私にそう言った。
彼の言葉で、彼がしようとしている事はわかった。
だって、それは私が洞窟に向かう時に、ジギルを見て考えた事だったから。
 
「二人で一緒に『水の玉』を使おうよ!」
 
私はすがる気持ちで彼にそういう。
だけど、彼は「無理だ。」と言いながら首を横に振る。
 
「たぶんお前が持ってる火の玉は、玉(ギョク)の中でも一番小さい玉(ギョク)だと思う。
だけど、あれに入っている火薬をフルに使ったら、この森なんて一瞬で、火の海になっちまう。
それくらい威力があるんだ。
それを跳ねのける『水』を二人で使っちまったら、緑豹国までもたねぇーよ。
だから、お前だけが使え!」
 
そういって、「ほらっ、よこせよ!」と、さらに私の目の前に右手を出してくる。
私は、彼の胸を押して、彼の元から飛び出る。
そして、大きく首を振る。
 
「翠・・・。」
 
私の名前を呼んだ彼の声から、困っているのがわかった。
だけど、彼がどれだけ言っても・・・私が火の玉を渡せるわけないじゃないっ!
私は、何度も何度も首を振って、彼に抵抗した。
そのうちに、言葉にできない気持ちが、私の頬を濡らす。
涙を流すのを、唇を震わせながら、必死で耐えてたつもりだったけど完全には耐えられなかったみたい。
だけど、ここで「イヤだ。」と、彼に口を開いて言ってしまったら、必死で耐えている涙が一気に流れてしまうのがわかっていたので、私は何も言えないまま、ただ必死に首を振っていた。
そんな私の頭に彼の右手が触れて、私は振っている頭を止める。
すると彼は、私の頭に伸びていた手を手間に引き寄せ、私の顔と彼の顔が近付く。
そして、彼の唇が私の頬を濡らす水滴を拭う。
私の頬から感じる彼の体温。
うれしいはずなのに・・・涙は余計に溢れてくる。
だって・・・彼が触れた唇は、信じられないくらい冷たかったから。
 
「蒼輝・・・。」
 
何もいえない私に彼は優しく笑う。
 
「俺の命が尽きる前に、俺の手でお前を救いたい。
わかってくれるな・・・翠!」
 
「・・・ヤダ。」
 
やっと言えた言葉。
だけど、小声で彼の耳には届かない。
 
「翠?」
 
聞き返す彼に私はハッキリという。
 
「嫌っ!」
 
って。
それが放たれたと同時に、私の涙は制御不能となった。
だけど、もう涙なんてどうでもよかった。
今、私の頭にあるのは、火の玉を渡す事は彼の死を意味するという事。
だから、絶対に渡せない。
ただ、それだけだった。
 
「翠・・・頼むよ。」
 
彼の困り果てたような声。
近付いていた私の顔をまた、自分の胸に押し当てる。
 
「昨日言った、お前は必要ないってやつ・・・忘れて。」
 
突然の彼の言葉に私の涙は止まる。
 
「急に・・・何?」
 
顔を上げて彼を見上げる。
私を見る彼の瞳は、とてもやさしかった。
まるで、それは愛おしい人を見る目。
洞窟でみた夢に出てきたあの人が、私を見つめた時の瞳と・・・だぶって見えた。
 
「お前は、俺が再び生きる為に、必要な人だった。
それに、俺は気付かずにお前を拒否した。」
 
そして、彼は呼吸を整えて続ける。
 
「出口のない闇から、俺を救ってくれたのは翠っ!お前だ。
そして、俺はお前の為に生きようと思った。
だから、ここへ来たんだ。
国のみんなも、国自体も・・・何も守れなくなった俺でも守れるもの。
それが、お前だ。
最後に、俺にお前を守らせてくれ。」
 
そこまで言った蒼輝は、「あ〜・・・息がしづらい。」と言いながら少し咳き込んだ。
そんな彼を見て、私は成すすべを失う。
 
『どうしよう〜。蒼輝が死んじゃう。
お願い!誰か・・・誰か、蒼輝を助けてっ!
助けてっ!!』
 
私は必死で心の中でそう叫ぶ。
 
『翠ちゃん?』
 
聞き覚えのある声が聞こえた。
 
『ひびきさん?』
 
わらにもすがる気持ちで、その声に問いかけてみる。
 
『やっと・・・話が出来た。』
 
ヒビキさんは、心から「ホッ。」としたような声を出す。
だけど、私はそれ所ではない。
 
『ヒビキさん、お願い助けてっ!
蒼輝が死んじゃうよ〜!!』
 
すごい剣幕で、ヒビキさんに訴える私にヒビキさんは、
 
『わかった。大丈夫だから落ち着いて。』
 
と私をなだめる。
 
『でも・・・。』
 
反発する私に、
 
『トーワもそっちに向かってるから安心して。
それより、翠ちゃん!
そこの正確な位置がわかる?』
 
『えっ?・・・位置?』
 
そう言われても・・・。
私は答えに悩む。
 
「コンパス渡しちゃったしな〜。
こんな木ばっかりじゃ、位置なんてわからないよ。」
 
と愚痴り、さらには心の中で、ヒビキさんに、「バカバカ!」と責める。
私の愚痴りを聞いていた蒼輝が、急に口を開く。
 
「N20、W16と言え。」
 
「・・・何、それ?」
 
聞き返す私に、
 
「いいから、さっさとヒビキに言えっ!」
 
そんなに怒鳴らなくても!!
さっきまでの優しい蒼輝は、どこいっちゃったのよっ!
つんけんしながら、私はヒビキさんに伝えた。
 
「あれ・・・なんだったの?」
 
改めて聞く私に、蒼輝は、
 
「方角。
俺たちはコンパスがなくてもわかる。」
 
なるほど〜。
そりゃ、そうよね。
庭みたいなもんだもんね。
納得する私に、蒼輝は「おいっ!」と声をかける。
 
「ヒビキに、トーワがあとどれくらいで着くかきけっ!」
 
「なんで、そんな事・・・。」
 
意味がわからない私は、また蒼輝につんけんしちゃう。
 
「お前、俺を死なせたくないんだろ?」
 
その言葉に私はうなずきながら、彼を見る。
彼を見て・・・ちょっとホッとした。
今の彼には、ジギルとやりとりをして戦っていた時と同じ、闘争心が瞳に戻っていたから。
その目からは、「生きてやる。」って強い彼の意思が感じれた。
 
「トーワとヒビキのおかげて、俺たち助かるかもしれない。
それには、お前とヒビキとの心のやりとりが、重要になる。
俺の指示通りにヒビキと会話しろ!
いいな。」
 
蒼輝の言葉に私は、「うん。」と返事をした。
まずは・・・トーワくんの到着を聞かなきゃ。
私は急いでヒビキさんに聞いてみる。
 
「あと、15秒ぐらいだって。」
 
「よしっ!俺が時間稼ぎをする。
お前は、ヒビキと一緒にトーワが、ここに着くまでの時間をカウントしてくれ。
それと、悪いけど、リュックはお前が持ってくれ。」
 
そういうと、彼は立ち上がった。
私も彼に続いて立ち上がり、言われた通りリュックを背負った。
そして、ヒビキさんと一緒にカウントを取る。
 
「13・・12・・・。」
 
蒼輝は、それを背中で聞きながら、ジギルの方を真っ直ぐ見る。
丁度、トロイのカウントが終わったのも、その時だった。
 
「どっちにするか、決めたか?」
 
ジギルの言葉に、蒼輝の口元が緩む。
 
「俺には、テメーと戦うよりも、もっと大事なものがある。
悪いが、今回は、それを優先させてもらう。」
 
彼は、そう言い切ると私の腰に左腕を回した。
 
「しっかりつかまってろよ!」
 
彼の言葉に、私は両腕を彼の首にからませた。
 
「じゃ、またな。ジギル!」
 
その言葉と、私の「ゼロ!」の声が重なった。
と同時に、彼は私を抱き上げた状態で、真上にかなり高く飛び上がった。
豹の血が混ざっているだけあって、人間とは思えないくらい、かなり高くまで舞い上がった。
トロイや他のハンターも、あまりのすごさに見とれてしまうほど。
だけど、ジギルは違った。
「しまった!」と舌打ちをすると、すぐさま、
 
「撃てっ!」
 
と叫ぶ。
その声に、トロイもハンターも一気に引き金を引く。
かなりの銃弾が一気に、空に向かって放たれた。
だけど、その頃私たちは、すでにジギルたちのいる場所から1キロ北に進んだ地を走っていた。
 
「翠ちゅぁ〜ん!
平気?怪我してなぁ〜い??」
 
走りながら、何度も何度も振り向いて確認してくれるトーワくん。
 
「怪我してんのは俺っ!
いいから、早く走れよっ!」
 
とトーワくんの行動に、苛立ちをみせる蒼輝。
カウントを取り終えて、私を抱いたまま空高くに、飛び上がった私たちを、空でうまくトーワくんがキャッチしてくれた。
そして、銃弾が打ち込まれる、わずか数秒の間に、この地までダッシュしてきたのだ。
さすが、高速スピードが出せるトーワくんの神業ともいえるワープに、脱帽する私。
今は、トーワくんの背中に、私がうつぶせに乗って、私を守るように蒼輝が上に、覆いかぶさっていた。
 
「ねぇ〜ねぇ〜。
ここまで来たら、もうハンターは大丈夫だと思うのねぇ〜。
だぁーかぁーらぁ〜・・・。」
 
トーワくんは、そういうとまた後ろを振り返る。
そして、かわいい顔でニッコリ笑う。
 
「そぉ〜き!
重いから降りてぇ〜。
ねっ!!」
 
とおねだり。
 
「バカ言ってねぇーで、とっとと走れよっ!」
 
冷たく蒼輝に言われるトーワくん。
 
「ちぇ〜!
僕さぁ〜、翠ちゃんをやっと乗せれるから、うれしくって、うれしくって、ウキウキして来たんだよぉ〜。
なのにぃ〜・・・お邪魔虫がいるなんてぇ〜!!
あ〜ぁ・・・僕ってかわいそうぉ〜。」
 
そんな事をブツブツいいながら、トーワくんはみんなが待つ緑豹国へと走った。
 
      ☆☆☆15章 END☆☆☆



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