目覚まし時計を見る。
「まだ・・・10時かぁ〜。」
そういいながら、私は少し起こしていた体を、そのままバタンとベットに倒して横たわる。
元の世界に戻ってからと言うもの、私は何もやる気が起きず、ただボーっとして、この3週間とちょっとの長い期間を過ごしていた。
今日で、夏休みは終わる。
明日から新学期が始まるというのに、私の心はあの日のまま、完全に止まったままだった。
私は、あれからずっと自分の心に問いかけていた。
『なぜ、戻ってきてしまったのだろう。』って。
確かに私は、限られた時間しか向こうに居る事はできない。
それは、ヒビキさんを含め、私だってわかっていた。
だけど、向こうに居たのはたったの3日間。
ここでは・・・15日間だった。
まだ、私には向こうに5日は余裕で入れたはずなのに!!
それに、私にはやるべき事がまだ、あったはず。
なのに、どうして帰ってきてしまったのだろう。
やっぱり、私は向こうの世界にとって、必要のないいらない人間だ!という事なのだろうか・・・。
また、答えが出ない事を考えて・・・同じようにため息をついてしまう。
もう、考えるのは・・・よそう。
もう少し寝ようかな。
私はそう思って、寝返りをうった時だった。
枕元に置いていた携帯が、ブルブルと音を立てて揺れる。
メール??
私は、携帯を手に取る。
予想通りメールで、送り主は・・・。
「渚?」
こんな時間に渚からなんて・・・ちょっと驚く。
あの日から、渚とも逢っていない。
私が、何も語る気がしなくて、彼女を避けていた。
それは、彼女も感じていたようで、何も聞いてこなかった。
そして、彼女も実家の仕事がら、夏休み後半は家の手伝いで、忙しくしていて逢う時間なんてなかった。
メールはいつもくれていたけど、それはだいたい夜の10時以降だった。
この時間は忙しいはずなのに・・・どうかしたのかな。
私は気になって、体を起こすと、彼女のメールを開いてみる。
『窓から下を見て☆』
彼女にしては、シンプルなメール。
だけど、『下』って・・・。
気になって私は、ベットから飛び降りると、2階の自分の部屋の窓のカーテンを開け、さらに窓を開けて顔をのぞかせる。
すると、仲良く並んでこちらに手を振っている2人の姿が!!
「渚に・・・真音(マナト)さん!」
驚く私に、渚は手を振りながら、
「降りてきてよぉ〜。」
と笑顔で言ってる。
「どうかしたの?」
そう叫ぶ私に、今度は真音(マナト)さんが答える。
「向こうの川原(カワラ)で待ってるから!」
そういって2人は私に背を向けると、川原の方に向かって歩いていった。
「真音(マナト)さん・・・。
答えになってないって!」
と、突っ込みながら、私は急いで着替えて身支度をすると、2人が待つ川原へと急いだ。
10分後くらいに私は2人が待つ川原へ辿り着く。
そこには、渚の姿しかなかった。
「あれぇ〜?真音(マナト)さんは?」
渚に近付きながら口を開く私。
川の流れをジッと見ていた渚は、私の声に驚いてこちらを見る。
私の姿を確認すると、右手をフリフリしながら、
「飲み物買いに行った。」
と言ってる。
「そっかー。」
と言いながら私は渚の隣に腰をかける。
しばらくして、コーヒーとお茶を持った真音(マナト)さんが戻ってくる。
「はい、翠ちゃん!」
そう言って私に冷たく冷えたお茶をくれる。
「ありがとう。」と言って受け取る私。
真音(マナト)さんは「い〜え。」と言いながら、渚の方へ行くと、彼女にお茶を渡しながら、彼女の横に腰を降ろす。
「なんで、真音(マナト)はコーヒーなの?」
という渚に、「眠いから。」と即答の真音(マナト)さん。
「なんか自分だけズルイ。」
と文句をいう渚に、
「どれ買っていいか、わかんないんだから仕方ないだろ!
なら、これ飲む?」
と自分のコーヒーを渚の前に出す真音(マナト)さん。
「う〜ん・・・。」
悩む渚に、
「1本は無理だろ?
余ったら、あとは俺が飲むから飲みたいだけ飲んだらいいよ。」
と付け足す。
その言葉に、渚はニッコリ。
「じゃ、も〜らう!!」
右手でコーヒーを受け取り、左手でお茶を真音(マナト)さんに渡す渚。
渚はコーヒーが苦手で、飲みたいけど絶対に全部は飲めない。
でも、たまに少し飲みたくなるみたいで、私と出かけた時は、「もったいないけど・・・ごめん。」とコーヒーに謝って捨ててる。
私と半分に出来たらいいんだけど、私は全くコーヒーが飲めないから、いつもゴメンと心の中で思っていた。
真音(マナト)さんは、渚が全部飲めない事ちゃんと知っていたんだ〜。
恋人同士なんだから、当たり前なんだけど・・・ちょっとうらやましく思えた。
好きな人がこうやって、側に居る渚が・・・いいな〜って心からそう思ったら、ちょっと気持ちが沈んでしまう。
思わず黙り込んでしまう私に、渚は何かを感じたのか、「ごめん。」と謝る。
「ううん。」と言いながら首を振る私に、真音(マナト)さんが口を開く。
「ホントはさ、今、翠ちゃんに逢うのはやめてほしい。って、渚に何度も頼まれたんだけど・・・俺、どうしても気になってる事があってさ。」
真音(マナト)さんの言葉に私は、飲んでいたお茶を口から離すと、真音(マナト)さんを見る。
「気になる事って・・・何ですか?」
私の言葉に真音(マナト)さんは、「ちょっと、移動!」と言いながら、渚の隣から私の隣に移動する。
「翠ちゃんの言葉がシッカリ聞けるように、俺と渚で翠ちゃんをはさんでっと。」
冗談っぽくそういって、私の隣に腰を降ろすと、また私を見る。
「単刀直入に聞くよ!
今回翠ちゃんが戻って来たのって、翠ちゃんも向こうの世界の人たちも、誰1人として、翠ちゃんがあの時戻ってしまう。って思っていなかったんじゃないの?
つまり、戻って来たのはいきなりの事で、戻るなんて心積もりは、全く出来てなかった。
違う?」
核心をついた真音(マナト)さんの言葉に、私は何も言えなかった。
だけど、真音(マナト)さんの言葉に、納得がいかない渚は反論する。
「そんなわけないじゃない!
だって、翠が戻って来るって、ちゃんと『あの本』に出てきたんだもん!」
「確かに・・・。」真音(マナト)さんは、そう答えながら、「でも。」と添えると、右手で2という数字を作る。
「さっき言った俺の気になる事っていうのが、あの本に出てきた事なんだけど、2つあってね。
その1つは、『翠ちゃんが戻って来る』と文字が出たのは、帰ってきた10分前だったって事。」
「10分前??」
驚く私に真音(マナト)さんは、「なっ!おかしいだろ?」と言うと続ける。
「もともと決まっていた事なら、翠ちゃんが向こうに行った時みたいに、前もって本に載ると思うんだ。
それにさ・・・。」
「それに・・・何?」
と真音(マナト)さんの言葉を、渚が突っ込む。
「翠ちゃんの戻ってきた様子がおかしかったからさ。」
「様子??」
首をひねりながら真音(マナト)さんに聞く渚。
「『戻って来た事を信じたくない!』って顔してたろ?
渚はさ、向こうで何か嫌な事があって、翠ちゃんが何も話したがらないんだろうから、何も聞かないし、俺にも聞くな!って言ったけど・・・。
俺はね、知りたいんだ。
翠ちゃんが、どうして戻ってきてしまったのか。
それと、あともう1つの気になる事。
これは、翠ちゃんが向こうで体験した事を聞けば、わかるような気がするんだ。
だから、頼む。
話してくれないか?」
真音(マナト)さんは、そう言って私に軽く頭を下げた。
その行動に、渚は激怒。
「ちょっと!!真音(マナト)!!
約束が違うじゃない!!」
「約束??」
渚を見て聞く私に渚は「そうよ!」と怒ってる。
「翠に、無理やり話を聞かない。って約束で、真音(マナト)を連れて来たのに!!
これじゃ、無理やりもいい所じゃない!!
翠っ!!答えなくていいからね。
もう、行こう!!」
渚はそう言って、立ち上がると私の左腕をつかんで私に立つように促す。
「でも・・・。」
と躊躇する私に、真音(マナト)さんの言葉が耳に飛び込んできた。
「本当は、翠ちゃんだって、ひっかかってるんだろ?
どうして、自分がこんなに早く戻ってきてしまったのか。
自分が元の世界に戻ってしまう事を、本ではなくて、一体何が決めたのか・・・。」
立ちかけた私の体が硬直する。
確かに・・・。
それは、ここに戻ってきて私がずっと、自分に問いかけていた事だった。
そして、それがわからない限り私は、きっと今の自分から動けない。
私は真音(マナト)さんを真っ直ぐ見る。
「全部話せば、真音(マナト)さんには、理由がわかる?」
私の言葉に、真音(マナト)さんは、
「絶対とは言い切れない。
でも、もしわからなくても、糸口はつかめると思う。
少なくとも、こうやって自分の中に閉じ込めているよりは、道は開けると思うよ。」
そういって優しく笑う真音(マナト)さんを見ていると、あの人を思い出してしまった。
「やっぱり・・・似てる。」
そうつぶやいた私の言葉に、渚が興味を示す。
「誰に?」
立っていた渚も、私の隣にまた腰を降ろす。
「向こうの世界に居たヒビキさんって人。」
私はハッキリ答えると、真音(マナト)さんを見る。
「かなり話長くなるけど、覚悟して下さいね!」
その言葉に真音(マナト)さんは、「了解っ!」と笑顔で答えた。
私は、向こうであった事をゆっくりと渚と真音(マナト)さんに話していった。
だけど、最後はやっぱり涙してしまった。
結局、私が向こうへ行った事は、蒼輝を傷つけ、さらに向こうの世界をかき回してしまっただけ。
あげくの果てに、蒼輝を傷つけるだけ傷つけて、さっさと帰って来てしまった。
そんな自分が情けなくて、許せなくて・・・思わず涙が出てしまった。
話し終えても、涙が止まらない私を、渚は優しく頭をなでてくれた。
その優しさが、心地良くて私は心が満たされていくようだった。
私の涙が止まる頃、私の話を聞いて、ずっと黙って考え込んでいた真音(マナト)さんが急に「なるほどなぁ〜。」と言いながら頷き出した。
そして、今度は、私たちに視線を移すと、ハッキリとこう言った。
「わかったよ。」
って。
「えっ!!
何がわかったの?」
私と渚の言葉がダブル。
キョトンとする私たちに、真音(マナト)さんは普通に言う。
「何が?って決まってるだろ!
『翠ちゃんが戻ってきた理由』と『引力の玉に入れるもう1つの力』。
あとは・・・。」
そして、私の顔を見る。
「翠ちゃんが向こうの世界に呼ばれた理由!」
「ホントに??」
さらに、驚く私と渚。
だけど、真音(マナト)さんは平然と「うん。」と答えると、
「まずは・・・そうだなぁ〜。
翠ちゃんが戻ってきた理由から話そっか。」
そういって、持っていたお茶を一口飲むと話し始めた。
「翠ちゃんの話によると、その『緑豹国』は『念』を主流(シュリュウ)としてる国みたいだから、今回翠ちゃんが戻ってきてしまったのは、翠ちゃんが蒼輝くんの事で、心から『私はここに居ちゃいけないんだ。』って強く思ってしまったせいで、それが『念』となり、それを聞き入れられてしまった。
だから、まだやるべき事はあるけど、こっちに戻されてしまった。
翠ちゃんが戻ってきた事が予定外だった。って事は、10分前に本に文章が書かれた事で、明白だしね。」
真音(マナト)さんの話を素直に「そうなんだ。」と聞いている私のオデコに向かって、渚が、「このオマヌケ!」と言って、デコピンをする。
「いったぁ〜!!」
とオデコを抑える私に、渚は「うるさいっ!」と怒る。
「自分から帰ってきてどうするのよ!
い〜い?今度向こうに行ったら、絶対に自分を否定しない事!
わかった?」
「そんな事言ったって・・・。」とブツブツ言う私に、さらに真音(マナト)さんがくぎをさす。
「そうだよ!
渚のいう通り、絶対に自分を否定しない事!
じゃなきゃ、また、戻って来ちゃうからね。」
真音(マナト)さんの言葉に、「は・・・い。」と返事。
その自信のない返事を聞いて真音(マナト)さんは、ちょっと笑う。
「ねぇー、真音(マナト)。」
私に笑いかけていた真音(マナト)さんは、渚の呼びかけに、「何?」と言いながら、彼女の方を向く。
「その・・・なんだっけ。
何かの玉に入れる力が、どうのこうのって言ってたやつ・・・。」
「あー、引力の玉に入れる力だろ?」
「そうそう、それっ!」
真音(マナト)さんを指さしながら、頷いている渚の横で、彼女の言葉の続きを私が口にする。
「ホントに・・・わかったんですか?」
真音(マナト)さんは、「うん。」と言ってうなずく。
「たぶん、そのヒビキさんって人も気付いたと思うよ。
だから、翠ちゃんに『試してみたいから、力を貸してほしい』って言ったんだろうからね。」
その言葉に、またもや私と渚は首をかしげる。
「力の話をする前に・・・。」
真音(マナト)さんは、そう言うと「渚。」と彼女を呼ぶ。
「お前さー、翠ちゃんが戻ってくる時に出た文章、今でも覚えてる?」
「うん。」と渚はうなずくと、
「『緑(ミドリ)の光(ヒカリ)が、金色(コンジキ)の光(ヒカリ)の中より現(アラ)われる。』だったよね?」
「そう。それで・・・気が付かないか?」
さらに、渚に問う真音(マナト)さん。
ちょっと考えた渚は、突然「あっ!!」と叫んで、何かに気付く。
「緑っ!」
その言葉に、真音(マナト)さんは「ビンゴ!」と言いながら笑顔。
さっぱり意味がわからない私は・・・おいてけぼり。
ボーっとしている私に、真音(マナト)さんは説明してくれる。
「本には『翠』ではなくて、普段使う色彩のみどり。
つまり、こっちの『緑』が使われていたんだ。」
そういって、その辺に落ちていた棒で、土に『緑』と書いてくれた。
「これが、俺が気になっていた、もう1つの事。
翠ちゃんの事を表すのなら、こっちのミドリでいいだろう?」
と言って『緑』の横に、今度は『翠』と棒で書く。
確かに・・・。
ちょっとひっかかるよね。
うなずく私に、真音(マナト)さんは、さらに続ける。
「本に書かれていた『緑』が翠ちゃんを意味する以外に何を意味するのか、さっぱりわからなかったんだけど、狙い通り翠ちゃんの話を聞いたら、わかったよ!
『緑』に隠された、もう一つの重要な意味がね。」
「重要な・・・意味?」
そう聞いた私に渚が私に質問してくる。
「緑豹国で、緑といえば何を意味するの?」
「それは、緑の豹で、王である事だけど・・・。」
そう即答して私は止まる。
ちょっと、待ってよ!
緑豹国では緑は王様なんだよね。
で、私が緑の光と表現されてて・・・。
えぇ〜!!何??
パニック寸前の私に、天の声。
「やっぱり、翠には考えられないよ!
真音(マナト)、早く回答を聞かせてあげて!」
と渚。
その言い方はちょっとムカ!!だけど・・・確かに私には理解できません。
「お願いします。」と真音(マナト)さんにお願いする私。
それには、真音(マナト)さんも「よしよし。」と言ってうなずく。
「まず、結果だけ言うと、翠ちゃんは緑の豹なんだよ!」
「はぁ?」
おもいっきりデッカイ声で言う私。
何をいきなり言い出すの?
ポッカ〜ンと口を開けている私に、真音(マナト)さんは「まぁ〜、無理もないな。」と言いながら笑うと「順をおって説明するよ。」と優しく笑う。
「なんで、翠ちゃんに豹の血が流れているかは、悪いけど俺にもわからない。
ただ、向こうでの数々の出来事から、翠ちゃんに豹の血が流れている。
さらには、変身出来るくらいに濃い力が流れているってのは、立証されているから、間違いないだろう。
そして、翠ちゃんが緑の豹だっていうのは、さっきも言ったように、『緑の光』って表現されていた事もそうだけど、蒼輝くんが豹でなくなっていた事で俺は、確信したんだ。」
真音(マナト)さんの言葉に、「そっかー、なるほどね。」と渚は納得するけど、またもや私はおいてけぼり。
私の様子を見ていた真音(マナト)さんは、
「初代の蒼さまが、国を設立した時に作った制約を言ってみて!」
と突然私に課題を出す。
突然そんな事を言われて、戸惑いながらも私は思い出す。
「王座が空かないようにする?」
ちょっと、真音(マナト)さんに聞いてしまう私。
だけど、どうやら正解だったみたいで、真音(マナト)さんは頷きながら「そう。」と言ってくれた。
「つまり、こういう事。
蒼輝くんが豹の姿を失った時点で、ヒビキさんって人と、トーワくんって人が居ても、3人で1人の王なんだから、王座は空いてしまってる。
王座が空いた時点で、次に緑の豹の子があわられるはず。
それが、制約だったんだからね。
そして、その次期王が翠ちゃんなんだ。
だから、蒼輝くんが豹の姿をなくしてしまったこの時期に、翠ちゃんは向こうの世界に辿り着いた。
だけど、なぜか翠ちゃんは豹の姿になる事ができない。
だから、王座にはつけない。
そんな翠ちゃんが、向こうの世界から呼ばれた理由はただ1つ。
蒼輝くんを元の姿に戻すために使う引力の玉に使う力を翠ちゃんから抜く為なんだ。」
「ち・・から??」
首をかしげる私に、真音(マナト)さんは、「そう。」と答える。
「引力の玉に、1つは蒼さまが置いていった青い力を入れる。
そして、もう1つの玉には王の象徴である『緑の力』を入れるのは、わかるよね?」
私はうなずく。
「もう1つの玉は『力を引き出して玉に閉じ込める性質を持つ』と言っていた。
つまり、翠ちゃんの体の中にある緑の豹の力を引き出し、玉に閉じ込める。
それに、ヒビキさんって人は気付いたんだ。
だから、玉が出来たら翠ちゃんに力を貸してほしい。と言っていた。」
頭の中では、「なるほど〜。」って言葉が、グルングルンしていた。
だけど、気持ちが追いつかない!
私が緑の豹で、蒼輝の次に緑豹国を継ぐべき人材である事。
蒼輝を元に戻す為に、必要な引力の玉に入れる力が、私の持っている力だったなんて・・・。
黙ってただ考え込む私を見ていた渚が、私の変わりに真音(マナト)さんに聞いてくれる。
「ねぇー・・・翠はまた向こうにいけるの?」
その言葉に、私も真音(マナト)さんを見る。
私の目を真っ直ぐに見た真音(マナト)さんは、
「翠ちゃんは、どうしたいの?
また、向こうに行きたい?」
と聞いてくる。
私は、自分の心にちょっと聞いてみた。
そして、出た結論は・・・。
「行きたい。
行って、蒼輝を豹の姿に戻したいし、それに、何で自分に豹の血が流れているのかも知りたいし、どうして豹の姿になれないのかも知りたい。
まだまだ、知りたいことは山のようにあるんだもん!
行きたいよ!!」
ハッキリそういった私に真音(マナト)さんは、「そっか。」と言うと、
「でも、向こうへ行く方法は、あの本が空間を開いてくれなきゃ行けないだろ〜な。」
と答える。
「えぇ〜!!何とかならないの?」
と言ったのは渚。
その渚の言葉に、真音(マナト)さんは「ま〜ま〜。」と私たちをなだめる。
「あせっても仕方ないし、今行っても困るだろ?
明日から新学期なんだから。
ここで、もし翠ちゃんが向こうに行ってみろ。
両親や担任から、捜索願いが出て、大騒ぎになるよ。」
「そりゃ・・・そうよね。」
と私と渚。
だけど・・・行きたい。
一体どうしたらいいの?
私も渚も、意気消沈。
それを見ていた真音(マナト)さんは、「仕方ないな〜。」と呆れたため息を吐く。
「翠ちゃんの話を聞いて、俺は今回翠ちゃんが戻って来た事は、よかった事だと思ったけどな〜。」
その言葉に、私も渚も呆気にとられる。
だって、私はまだ向こうでするべき事が、たくさんあった。
なのに、戻って来た事がよかったって・・・どういう事?
真音(マナト)さんに、質問しようとしたけど、口にする前に真音(マナト)さんが、口を開く。
「2人が俺に言いたい言葉はわかってる。
まだ、やるべき事があったのに、戻ってきてしまって、それが何でよかったのよ!って言いたいんだろ?」
それには、私だけでなくて、渚も「うんうん」と頷いてるし。
それを見て、彼女も同じ事を考えていたんだと、知る。
そんな2人の様子に、真音(マナト)さんは、「落ち着いて俺の話を聞いてくれ。」と言いながら、両手で「まー、まー。」とジェスチャーする。
「あのまま翠ちゃんがギリギリまで、向こうにいたら、きっと蒼輝くんも翠ちゃんもボロボロになってたと思うよ。
あっ!姿じゃないよ!
精神的な面というか・・・心がね。」
真音(マナト)さんは、そういうと自分の胸をトントンと指差した。
「俺さ・・・同じ男として、蒼輝くんの気持ちなんとなくだけどわかる気がするんだ。」
黙る私たちに、真音(マナト)さんは語りだす。
「俺さ、小さい頃に母親なくしてるだろ。
大切な人を失う悲しさも知ってるし、その上で生きていかないといけない過酷さ。
そういうのも身をもって体験してるから、彼が抱いた矛盾な気持ちっていうのも、わかるんだ。
自分は『生きる』っていう特急列車に乗っちまってて、止まることができなければ、途中下車する事もできない。
どんな事があっても、立ち止まる事が許されない。
それが、人生であり、『生きる』という事。
さらに、彼の場合は、妹さんの死に自分が大きく関わっている。
生きる事を放棄したくなる気持ちもわからなくもない。
そんな自分を、救ってくれた翠ちゃんの存在は、彼にとって大きかったと思う。
だけど、今の彼の気持ちは揺れてる。
自分がどう生きるべきかが、あやふやで定まっていないのに、翠ちゃんとどう接していいかを、考えようとしても、そりゃ答えは出ない。
だけど、ゆっくり考えている暇もない。
時間は動き、翠ちゃんは敵につかまりそうになるし、自分も危なくなる。
そして、自分の心は、翠ちゃんを求めてる。
頭と心が分裂して、彼自身どうしていいかわからなくなるのは、当たり前だよ。
だから、丁度よかったと思うよ。
翠ちゃんが安全なところへ戻って、翠ちゃんの身の心配をしなくてよくなった今、彼が自分の事。
そして、翠ちゃんの事を、ゆっくり落ち着いてジックリ考える事が出来たんだから。
それに、翠ちゃんだって、そうだよ!」
「わ・・・た・・・し?」
自分の指で自分をさして、真音(マナト)さんに確認する。
「そうっ!翠ちゃんの事。」
と言いながら、真音(マナト)さんはうなずく。
「翠ちゃんも、ちょっと力が入り過ぎてる。
『蒼輝くんの為に何かしなきゃっ!』って、やっきになってる。
そして、迷惑をかけたくないから、誰の力も借りないように行動したよね。
でも、結果的にみんなに迷惑をかけてしまった。って、わかってる?」
真音(マナト)さんの言葉が、私の胸を貫く。
鋭い言葉に、何も言えない私を見ていた渚が慌ててホローする。
「ち、ちょっと真音(マナト)!
そんな言い方ないでしょ!
翠だって必死だったんだから。」
それに対して真音(マナト)さんは、「必死なのはわかってる。」と即答する。
そして、私に「よく聞いてほしいんだけど・・・。」とまるで言い聞かせるように話し出した。
「その原石を取りに行くのも、一人でいかずにトーワくんって人と一緒に行けば、蒼輝くんが翠ちゃんを追ってくる事もなかったし、蒼輝くんを危険な目に合わせなくて済んだ。
今回は、蒼輝くんも翠ちゃんも無事だったからよかったけど、命を失ってもおかしくない状況だったって事は・・・わかってるよね?」
私は、深くうなずいた。
「蒼輝くんもそうだけど、翠ちゃんもがんじがらめになってしまってて、先が見えてない。
今をどうにかしよう!とばっかり思ってる。
それじゃ、ダメだ。
先を見て進まなきゃ。
でないと、今度ハンターに出会ったら間違いなく殺されるよ。
先々を考えて、生きていく事を考えなきゃ。
自分が犠牲になって相手を助けるなんて、思っているようじゃ・・・ダメだよ。」
真音(マナト)さんは、そういうと「ねっ!」と言って私に同意を求める。
真音(マナト)さんの言葉は、素直に私の心に入ってきた。
「そうだね。」
心からそう思えた。
真音(マナト)さんのいう通り、私には余裕がなかった。
蒼輝を豹に戻さなきゃ!ってそればっかり考えていた気がする。
もっと、大事な事があったはず。
私は心から反省する。
私の姿に、真音(マナト)さんは「それでいいんだよ。」と優しく言う。
「戻ってきてしまった事も、自分を責めたり後悔しなくていいんだ。
このおかげで、自分を見直す事ができた。って思えばいい。
本当に、翠ちゃんが向こうに必要なら、絶対に戻って来たりはしなかったはずだから。
今は、精神的にも強くなる事。
そして、蒼輝くんの事やいろんな事を、ゆっくり考える事。
翠ちゃんを必要としたら、ちゃんと本が導いてくれるから。
大丈夫だよ!」
真音(マナト)さんは、そういうと私にブイサインを作る。
そうだよね。
最初の時みたいに、私が必要の時には、本が導いてくれる。
その時がくるまで、私はこの世界での人生を生きていよう。
右手で真音(マナト)さんに。
左手で渚に、それぞれ同時にブイサインを作る私。
それにつられて、渚も私にブイサインをしてくれた。
「それにしてもさ〜。」
と渚が口を開く。
「真音(マナト)、なんで数々の疑問がわかったの?」
それは、私も同感。
実際に行っていた私ですら、サッパリだった事を立て続けに理解していた真音(マナト)さん。
ホント不思議だよね。
もしかして、真音(マナト)さんもかかわりがあるとか??
ドキドキしながら、真音(マナト)さんの答えをまつ私たちに向かって真音(マナト)さんが言った言葉は・・・。
「俺、推理系が得意だから。
こんなの大好きなのっ!」
とニッコリ・・・。
ただ、それだけか・・・。
落ち込む私たちを見て、真音(マナト)さんはおかしそうにお腹を抱えて笑ってる。
笑いながら、
「な〜、腹減ったから、昼飯でも食いにいかねぇ?」
なんて、言ってる。
それには、渚も賛成。
「そうよ!
夏休み最後なんだし、ぱ〜っと食べに行こう!!
もちろん、真音(マナト)のおごりでねっ!」
それには、さすがの真音(マナト)さんも「勘弁してくれ。」と情けない声。
その2人の様子を見ていて私は心から、こう思った。
『しばらく、ここで大切な人たちに囲まれて生きていよう!
それまで、向こうで生きる大切な人たちが無事でいますように!」
って。
その時、一瞬強い風が私の周りで吹いた。
「あっ・・・。」
思わず声を上げてしまう。
すでに、ご飯を食べに行こうとして、渚と真音(マナト)さんは立ち上がり、お尻についた土をはらっていた。
「翠?
どうかした?」
渚の言葉に、私は「ううん。何でもない。」と笑顔で答えると、立ち上がる。
「じゃ、いこうっか。」
真音(マナト)さんの言葉に、私と渚は「は〜い。」と返事をして、真音(マナト)さんの後ろを歩く。
さっき、確かに聞こえたんだ。
風に乗って、私の元へ辿り着いた言葉。
私は、それを忘れないように瞬時にインプットする。
これから、恋しくなった時は、これをリプレイしなきゃいけないから・・・。
私の聞きたかった声じゃなかったけど、それは・・・我慢しなきゃねっ!
改めて心の中で思う。
ヒビキさん・・・ありがとう。って。
ヒビキさんがくれた言葉・・・。
『翠ちゃんも、元気でいるんだよ。
また、逢おうね。』
人の記憶は薄れてしまうもの!
この言葉が、薄れちゃう頃には・・・向こうにいけるといいな〜。
また、向こうでさまざまな戦いや、謎が私を待ち受けているだろう。
それに、期待と不安はあるけれど、ドキドキしながら、私はこの世界でその時を待つ。
目の前にいる大切な人たちと共に。
☆☆☆最終章 END☆☆☆
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