3    3章 START   〜出発〜
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H18年1月20日(金)
私は渚や真音(マナト)さんが見守る中、金色に光り輝く時空の木に飲み込まれた。
飲み込まれる瞬間、あまりの眩しい光に私は一瞬目をつぶった。
だけど、すぐにそのまばゆさはなくなり、私はすぐに目を開ける。
広がるのは、真っ白な世界。
耳に入る音といえば、風が通り過ぎていくような音だけ。
時代を渡っているような重い音ではなく、反対に気持ちが和んでくるような優しい音だった。
私の今居るここが、よくいう『異空間』という所なのだろうか?と、私は頭の片隅で考えてしまう。
まるで、人事のようにそう考えている自分に気付き、「プッ。」と笑ってしまう。
私は今から夢で見た未来へ行くのだ。
あの強くて優しい、私を助けてくれた蒼輝という豹がいる世界へ・・・。
 
しばらくすると、あたり一面に広がっていた真っ白い世界に一筋の光がさした。
最初はホンの一筋の弱い光だったが、その光がだんだん大きく強いものになってくる。
その光が私に向かってきているのか、私が光に向かって進んでいるのか、それはよくわからなかった。
だけど、その光は徐々に強さを増してくる。
そして、とうとう目を開けているのも限界になるくらいに、光が近づいた時、私はその光にスッポリと包まれた。
またしても、私は目をつぶってしまう。
だけど、眩しかったのは、さっきと同じで一瞬だけ。
眩しさがおさまった私はまたさっきと同じように目を開ける。
目を開けた先は、さっきと全く変わらない、真っ白な世界が広がっていただけだった。
 
さっきの眩しさは一体なんだったんだろう?
不思議に思う私に、ある神経からの知らせが届く。
 
ん?なんか・・・暖かい??
 
腕に鈍い熱さを感じる。
私は、変に思って自分の腕に目をやる。
 
「何これっ!」
 
黄色とオレンジ色が混じりあったような色。
見ているだけでも、暖かさを感じさせるような色をしたその光が、私の腕を覆っていた。
腕を動かしてみる。
上下に激しく振ってみる。
光は消えることなく、何事もなかったように、そのまま私の腕にくっついている。
落ち着いてよく見てみると、腕だけではなかった。
足や肩・・・私の体全てに、その光はくっついていた。
まるで、私を守るバリアーのようだった。
その光が何なのかはわからない。
だけど、なんだか心が満たされてくるようだった。
 
この異空間に入ってからずっと感じていた事があった。
それは、希望や期待で埋め尽くしている私の心に、わずかな空洞が出来ていること。
それは、私に言いようのない寂しさと孤独を感じさせていた。
だけど、この光が現れてからは、その空洞に何かが埋まった気がした。
それが、何なのか真実はわからないが、私はこう思った。
私の心に空いてしまった空洞は、きっと『現在を生きる私の心』。
なくなったのは、未来へ行く私にとっては不要なものだから。
そして、この謎の光は『未来を生きる私の心』なんじゃないかって。
そう思った時、私にくっついていた不思議な光は、今度は私の体内に吸い込まれていく。
最初は指先の光が中に取り込まれていった。
あとは、腕、肩、頭と順番に浸透していき、最後に足の先。
その光が完全に私の体内に吸収された時、しっかりと地に着いていた私の足が、ゆっくりと地より離れた。
やがて、私の体は完全に宙に浮いた。
一瞬、「ドキ。」としたけど、それだけ。
正直、そんな落ち着いている自分に驚いてしまう。
だって、自分の体が宙に浮いてるんだよ。
普通だったら、信じられなくて、降りようとして両手両足をバタバタ動かしてしまったり、取り乱してしまうと思うの。
まっさきにこうなるタイプの私なんだけど、今の私は信じられない程、心は穏やかだった。
なぜなら、私は、「夢で逢った蒼輝に逢いたい。」という事と、「どうして何度も同じ夢をみるのかが知りたい。」という理由で、未来へ行く事を決めた。
このまま身をまかせていれば、「未来につく。」という事が明らかになった今、私にとって宙に浮く事などたいした事ではなかった。
この時の私は、未来へ行く事をこんな風に簡単に考えていたのだ。
未来で何が起っているのかも知らずに・・・。
そうこう言っている今も、私はまだ浮いていた。
景色は真っ白だから、どっちの方角に動いているかもわからない。
振動はないし、さっきまで聞こえていた風を切る音も、今は全く聞こえなくなっていた。だから、実際動いているのか、ただ浮いているだけなのかもわからなかった。
そんな状態がどれくらい続いていただろう。
なんの前触れもなく突然、浮いていたはずの私の足の裏に、何かが何度も触れる。
それは、地面だった。
降りるのだと悟った私は、両足に「グッ。」と力を入れた。
すると、バランスを崩すことなく、うまく降り立つ事ができた。
きっと、離れていたのは、ほんの一瞬だっただろう。
だけど、私はものすごく長い間離れていた気がして、足を「トントン。」と地に打ち付ける。
地上に戻った事を再確認し、やっぱりちょっとだけ、「ホッ。」とする。
やっぱり浮いているなんてありえない事だけに、不安はあったから。
そんな私の耳に今度は今まで聞こえなかった音が訪れる。
それは、葉たちが気持ちよさそうに揺れている音。
その音がした方へ顔を向ける。
 
「あれ〜?ここは・・・。」
 
いつの間にか、そこは、森だった。
今度は一点だけでなく、辺り全体を見渡す。
薄暗い緑色の森に、空はグレーで・・・。
私は、「ハッ。」とする。
この景色に見覚えがあった。
 
「来たちゃったよ。」
 
私は嬉しいはずなのに苦笑い。
だって、いくら未来と言われても・・・なんか夢の中に居るみたいで気分は複雑。
 
ホントに、ここは未来なんだろうか?
もしかしたら、また夢なんじゃないの?
 
私は疑心暗鬼になる。
 
そうだ!こういう時は!
 
現実か夢(空想)かを見分ける簡単な方法。
それは・・・。
 
「ギューーーー。」
 
私は自分の頬を力いっぱいつねる。
 
「いったぁ〜〜〜!」
 
私の悲鳴が響き渡る。
本気でつねってしまったので、指を離した今も、頬はヒリヒリしていた。
だけど、そんな痛さをいつまでも、気にしてる場合じゃなかった。
だって、これは夢(空想)じゃないんだと立証されたんだもの。
ってことは・・・本当に来てしまったのだ。
一瞬、ボーとしてしまう私だったが、すぐに我に変える。
 
そう、浮かれている場合じゃないのよ!
 
私は出発前に、渚に言われた事を思い出す。
急いで荷造りをして、渚と一緒に真音(マナト)さんの待つ場所へ向かっている時だった。
渚は、私に最後のアドバイスをする。
 
「いい?翠!
無事に未来に着いても、喜んでちゃダメだからね。
翠が降り立つ所は、翠が見た夢の場所か、もしくは違う場所か、それはわからない。
だけど、蒼輝くんの話から推測するに、どっちにしても降り立つのは、安全な『緑豹国(リョクホウコク)』じゃないんだから、早くその場から発つ事を考えるんだよ。」
 
「なんで、そんな事がわかるの?」
 
深刻な表情の彼女とは一変して、私は訳がわからなくて間抜けな顔をして彼女に質問。
その言葉と態度に彼女は、
 
「なぜ、わからないのよ!」
 
と呆れ顔。
その顔が、なんか私をバカにしてるようで、ちょっと「ムカー!」としてしまう。
だってさ、私は渚みたいに、頭がよくないんだもん!
わかんない事だってあるよ!
そう心の中で叫ぶ。
口には出さないものの、私がほっぺたを膨らませてスネてるもんだから渚にはバレバレ。
 
「わかった、わかった。」
 
と渚は、私の頭を優しくなでる。
 
「なんで、そういうかというと、翠と蒼輝くんが話す時間はわずかしかなかったじゃない?
そのわずかな間に、彼はどうしても伝えなくてはいけない事がある。と言い、『Wonder Land』と『光を持たない世界』には敵がいると言った。
もし、翠が安全な『緑豹国』に着くなら、わざわざ話す必要はないでしょ?
それを話したって事は、翠は敵が居る方に着いてしまうおそれがある。って事なんじゃないかと思ってね。」
 
説得力のある渚の説明に、私は「なるほどー。」と納得してしまう。
だけど、それがもし本当なら・・・。
私は、夢でみた『ある出来事』を思い出す。
脳裏にその二人組みの顔が鮮明に蘇った時、私は取り乱してしまう。
 
「ち、ちょっと待って!
という事は、またアイツらに命狙われるの?
今度は現実なんだよ!
私、死んじゃうよ〜!!」
 
言いながら彼女に抱きつく私。
そんな私を渚は「よしよし。」といいながら抱きしめてくれる。
 
「その事なんだけど、一つだけ方法があるのよ!」
 
「ほ・・・ん・・・と?」
 
私は、彼女から離れる。
そこで、目にしたのは、深刻な瞳で私をみつめている渚の姿だった。
それは、私の命に関わる事なんだと、再確認させられるくらい真剣な姿だった。
私もさらに真剣な眼差しで彼女の案に耳を傾けた。
 
「翠!とにかく全速力で緑豹国に向かって走るの。
ショットガンの男たちが現れるよりも先に、緑豹国へ辿り着く!
それっきゃないよ!」
 
「そんな事簡単に言うけど・・・。
無事に緑豹国に着くのかな・・・。」
 
急に不安になった私は、思わず「ボソ。」っと弱音を吐いてしまう。
元気のない私に彼女は笑顔で言う。
 
「大丈夫だって!
蒼輝くんが『緑豹国』が安全だと強調してるんだから、頑張ればショットガンの男達に逢う前に、『緑豹国』に着くかもしんないよ!
それに、蒼輝くんだって、きっと翠の元へ向かって来てくれてるはずなんだから、彼を信じて。ねっ!」
 
「う〜ん・・・。」
 
それでも不安いっぱいの私は、気のない返事。
そんな私に彼女は信じら得ない言葉を投げる。
 
「なによ!気のない返事しちゃって!
ホントは、蒼輝くんを信じてるんでしょ?
だって、翠、彼に一目惚れしちゃったんだもんねー。」
 
突然の発言に、私は勢いよく彼女をみる。
彼女はというと・・・さっきとは、うって変わって、ニヤニヤしながら、私を見ていた。
 
「あのね〜。何を言い出すかと思えば・・・。」
 
呆れた風に装いながらそう言ったものの、なぜが私の心臓はバクバク波打っていた。
 
「隠さない、隠さない!」
 
さらに、笑う彼女。
まるで、あせっている私がわかっているかのような彼女の態度に、さらに動揺する私。
 
「蒼輝は、人間じゃないんだから、惚れるわけないじゃない!
豹なんだよ、豹!!」
 
やたらとむきになって反論する私に、渚は「はいはい。」とまるで子供をあやすお母さんのような返事をして相手にしてくれない。
 
「な〜ぎ〜さ〜。」
 
完全に墓穴を掘ってしまった私。
これ以上言ってもさらに立場は悪くなるだけ。
私は、「はあー。」とため息をつく。
その様子にさらに渚は「アハハハハ。」と声を出して笑う。
この切羽詰まった状況で、すっかり渚に遊ばれている私は、いいかげん腹が立って彼女をにらむ。
そんな私の様子に、彼女は笑いを堪えながら、「ごめーん。」と軽く謝る。
だけど、謝りながらまだ彼女は続ける。
 
「けど、人間だったら惚れちゃうでしょ?
翠を守ってくれた命の恩人なんだしね。」
 
「はいはい。人間ならね。」
 
ホントにしつこい渚に、私は軽く聞き流しながら答える。
私のいい加減な答えを渚は真剣に受け取ったのだろうか?
 
「そうだよねー。蒼輝くん・・・人間だといいね。」
 
つぶやくようにそう言った彼女の言葉が、また私の鼓動を速くした。
確かに渚の言った通り、私は夢であった未来に生きる蒼輝に恋をしたのかもしれない。
ただ、彼は豹。
恋愛は成り立たない。
私は心のどこかで自分にそう言いきかせて自分の気持ちにブレーキをかけていたのかもしれない。
だから、渚の言った「蒼輝が人間なら」って言葉。
私の中で、わずかな期待が生まれた瞬間だった。
 
 
私は、緑豹国に向かって歩む事を決めた。
まずは、ここが本当に夢に見た森なのかを確認しようと、私は辺りをジックリと見渡す。
やっぱり、ここは夢にみた森に間違いなさそうだ。
それじゃあ、『緑豹国』の場所なんだけど、一目でわかる目印なんて、もちろんあるわけではない。
いつもの私なら、ここで「わかんない。」と泣き寝入りする所だけど、今回は違う!
なぜなら、事前に渚に緑豹国への場所の見分け方を教わっていたから。
 
「う〜んと、なんだっけ・・・。」
 
私は渚に言われた事を、一つずつ思い出す。
 
「あっ!そうだ。まずは、目をつぶり・・・。」
 
目をつぶり、神経を鼻に集中させる。
緑の香りの中から、一つだけ「何かが燃えるような匂い」がした方角を探す。
私は鼻を「クンクン。」ならし、シッカリと匂いを嗅ぎ分けながら、その場で回り始めた。
ゆっくりゆっくりと慎重に。
わずかな隙間も無い程に、ゆっくりと。
スタートから130度くらい動いた時だった。
 
「あっ!これだ!」
 
匂いを感じ「パチ!」と目を開ける。
目でその方角を見ても、まだ黒煙は昇っていないので、確認する事はできなかった。
でも、確かにこっちの方角からハッキリと匂いがしていた。
 
よし!方角はわかった。
次は、あの2人組みが来た方角を考えなきゃ。
匂いがした方向からヤツらは来たんだから、この匂いと同じ方角だよね。
それで、蒼輝が私の目の前に現れて、こう言った。
『後ろから続いている深い森の奥にある光に向かって走れ。』と。
って事はこの後ろに深い森がある??
私は、勢いよく振り返る。
 
「あった!」
 
振り返った私の目の前には、私が探し求めていた深く生い茂った森があった。
見覚えのある深い森に、「ホッ。」とする私。
そして、目をこらして森の遥か奥をみつめる。
あの時と同じように、ホンのわずかな穴から、こぼれ出すように、まばゆい光が惜し気もなく溢れていた。
 
よしっ!あの光の向こうが『緑豹国』だ!
 
確信を持った私は、目の前の光に向かって全速力で走り出した。
 
走る前は、絶対に夢の時の様にバテたりしないで、最後まで光に向かって走ろう!って決めていた。
なんてったって、今度は自分の命がかかっているんだもの!
のんびりしたり、力尽きたらそこで終わり。
私の命は消えてしまう。
だから、そう決めていたのに・・・。
 
「もう・・・ダメ・・・。」
 
夢と同じように、またしても私は弱音を吐いてしまう。
もう走る力は私には残っていなかった。
だけど、足を止めるわけにはいかない。
重い足を必死で動かし、ユックリだけど前に向かって一歩一歩進んだ。
 
「うわっ!すっげー!
もう、こんな所まで来てる!」
 
突然、頭上からそんな声がした。
あの2人組みかと思い、心臓が止まりそうになる。
だけど、声は後ろからではなく、右側の遥か上の方から聞こえた。
まるで、木の上から声がかけられたような感じだった。
私は、足を止め声のした右側をみた。
範囲的に、ちょうど私の頭がある位置から上を中心に、遥か上の方まで頭を上げて見上げる。
首がだるくなる程、長い間上を向き、注意深く見てみる。
だけど、当たり前だけど・・・誰もいない。
山びこじゃないけど、木々のせいで、こだまして声が上から聞こえたように思えただけなのかもしれない。と思い、私は上げていた頭を一旦さげる。
そして、周りにいるのかも?と視線を前方に向けたその時だった。
さっき声が聞こえた右方向から、今度は大量の木の枝に何かがこすれるような「ザザザ。」という大きな音が聞こえた。
その音は私に近づいているようで、どんどん大きくなり、その『何か』は私の前に降り立つ。
 
「!!」
 
驚きに言葉が出ない。
突然何かが訪れた事よりも、その物体に驚く。
だって、それは人ではなくて動物。
それも見覚えのある動物。
私は、心の中でちょっと期待していたのだ。
豹の姿は、私の夢だけの話で、実際未来であるこの世界には、豹なんていないんじゃないかと。
だって、未来にしゃべる豹がいるなんて、やっぱりおかしいじゃない!
だけど、私の目の前にいるのは、夢に出てきたのと同じでやっぱり豹だった。
だけど、夢と違う所がある。
今度はその事にショックを受け、私は声も出ずに、だたそこに立ち尽くす。
完全に固まっている私に気付かない程、彼は鈍感なのか。
なぜか、満面の笑みを浮かべて私を見ていた。
その笑顔は、豹には似つかわしくない程の優しくて爽やかな笑顔。
心から喜んでいるような、無邪気な笑顔だった。
 
「でもさ、でもさ!
こんな所まで、よく1人で来れたねー。
翠ちゃん、えら〜い。」
 
と彼は体を揺らしながら嬉しそうに私にそう話す。
そして、私の目の前に「よいしょっ!」と言いながら腰を降ろして座った。
座った彼が、私を見上げる。
その目からは、「私に逢えて本当にうれしい!」って気持ちがにじみ出ていた。
そんな彼の言葉は止まらない。
 
「けどね、僕だって、すっごい急いで来たんだよー。
木と木の間を、こう『ポーンポーン』って飛び越えてさ。」
 
そういいながら、彼は前足を使ってジェスチャーする。
そんな彼を何も言わず、ただ「ボー。」と見ている私。
 
「翠ちゃんをハンターの手から守る為に、僕頑張ったんだから、褒めてよねっ!」
 
そして「ニコ。」と彼は最高の笑顔をする。
思わずつられて私もニコ。
だけど、笑った瞬間「そうじゃない!」と、もう一人の私が言う。
 
そうよ!彼は私の事を知っていて、どうやら敵ではないみたい。
だけど、彼は・・・。
 
私は、彼が現れてから、ずっと言いたかった事をやっと口にする。
 
「あなた、誰なの?」
 
目の前にいる彼は、確かに夢に出てきた『しゃべる豹』だ。
だけど・・・蒼輝じゃない!
なぜ、同じ豹なのにわかるかって?
だって、色が違うから。
目の前の彼は、黄色い体に黒い斑点がある豹だもの。
だけど、姿だけじゃない。
声だって、顔立ちだって、しぐさだって全然違う。
蒼輝の声は、ちょっと低めだったけど、恐い感じじゃなくて深みのある声だった。
言葉は乱暴だったけど、彼の言葉には優しさが詰まっていた。
そして、何より彼の存在そのものが、私を安心させてくれるくらい、頼れる人だった。
だけど、目の前にいる彼は蒼輝とは似ても似つかない所か、正反対の豹。
目の前の彼は、鋭い目とは程遠いくらいの真ん丸で大きくてかわいい瞳をしていた。
声も高くて大きくて、まさに近所にいる子供みたい。
やんちゃでかわいい弟って感じの豹だった。
 
と言う事は・・・未来には、蒼輝の他にもう一匹、豹がいたのだろうか?
それとも、GREEN LANDそのものが、豹の国なんだろうか?
いろんな事が頭に浮かぶ。
だけど、そんな事よりも私の頭を支配している大きな疑問。
どうして、蒼輝じゃないの??
気になる私は、黄色い豹に聞いてみる。
 
「ねぇー、ちょっと聞きたいんだけど・・・。」
 
だけど、彼は私の声よりも、光の方から向かってくるある気配に気付き座っていた体を起こす。
 
「あっ!やっと来たよ。
こっち、こっちー。」
 
やがて私の目にも、向かってくる一つの影が見えた。
それに、向かって黄色い豹は、その人にわかるよう、一生懸命その場でジャンプを繰り返した。
影の形で、近づいてきている人物も豹だとわかった。
 
今度は、蒼輝なんだろうか?
でも、もし違ったら・・・。
 
そんな思いが交差し、私は新たに現れようとする人を見る事ができない。
思わず、目線を下に向けてしまう。
やがて、その人は黄色い豹に近づきながら口を開く。
 
「お前、声がでかい!
ハンターに聞こえたらどうするんだ!」
 
その声に、私は思わずため息をついてしまう。
見なくてもわかる。
この声も私の聞きたかった声じゃない。
私の心が乱れ始めた。
 
なぜ蒼輝はこないの?
彼が、言ったんじゃない!
「また、逢おう。」って。
だから、私はここまで来た。
なのに、どうして彼が来なくて知らない豹ばっかりくるのよ!
 
知らない世界で知らない人。
後ろからは2人組みの男が近づいていて命の危険もある。
私は、何が何だかわからなくなって、思わず涙ぐんでしまう。
そんな私に、黄色い豹は気付くわけもなく、今来た豹に向かって勢いよく話まくる。
 
「こんな所まで、翠ちゃん来てたんだよ!
すっごいよねー。
僕、急いで来たのにさ。」
 
だけど、今来た人は、私の異変にすぐ気付く。
黄色い豹が話しかけているのに、完全に無視して足を止める事なく、真っ直ぐに私の方へ歩み寄ってくる。
下を向いている私の目に、今来た人の足が映る。
その足の色を見て、私の考えが正解だと立証され、私はさらにうちのめされる。
 
「翠ちゃん。」
 
その人の呼びかけに、私はユックリと顔をあげる。
私の目の前に立っているその人は、蒼輝とも黄色い豹とも違っていた。
彼は、紫紺(シコン)色の体に黒い斑点。
体つきも、蒼輝より大きかった。
そんな彼は何も言わない私に、まずこう言った。
 
「蒼輝じゃなくて、ごめんね。」
 
と。
彼のその言葉は、乱れていた私の心を落ち着かせた。
蒼輝はいない。
だけど、目の前にいる彼らが、「蒼輝を知っている」とわかった事は、私に少しの安堵を与えた。
涙が出そうだった私の瞳は、なんとか留まる。
その様子にひとまず安心した紫紺色の豹は、今度は振り返り黄色の豹をにらむ。
 
「おまえっ!事情を説明してないだろ!」
 
その怒鳴り声に私は思わず首をすくめてしまう。
だけど、怒鳴られている本人は、ひるむ所か全然平気顔。
さらには、自信満々に、
 
「僕に説明なんて出来るわけないじゃん!
ねー。」
 
と私に振ってくる。
そんな、今逢ったばかりの私に振られても・・・。
対処に戸惑う私に、聞こえてくる「ハァー。」と深いため息。
もちろん出したのは私でも黄色い豹でもない。
その主は、黙ったまま黄色い豹に向かって歩み寄る。
何も言わずに近寄ってくる彼に、さすがの黄色い豹もちょっとビビリぎみ。
 
「ごめんなさーい。」
 
素顔に謝り、「チラ。」と紫紺色の豹を見てみる。
・・・まだ、怒っている彼。
今度は、その場に座り込んで謝る。
 
「だってさ・・・翠ちゃんに逢えて嬉しかったんだもん!
そしたらさ、言う事なんて、スパーンって忘れちゃってさ・・・。」
 
そこまで言うと、黄色い豹は私を見る。
 
「ごめんね。」
 
かわいい・・・・。
思わず、そう思ってしまうくらい、私に向けられた黄色い豹の瞳やしぐさは、かわいかった。
だけど、そう思ったのはもちろん私だけ。
黄色い豹の弁解に、紫紺色の豹は呆れ返る。
 
「お前は子供かっ!」
 
その怒鳴り声に、黄色い豹は耳をふさいで、地面にうつぶせになり、縮こまってしまった。
そんな彼の姿に、またため息を付いてしまう紫紺色の豹。
だけど、すぐに黄色い豹の彼から私へと目線を変える。
「説明が遅くなって、ホントごめんね。」
 
紫紺色の豹の彼は、そう私に謝ると頭を下げた。
そして、顔を上げると話を始める。
 
「俺は、蒼輝の幼なじみのヒビキ。
で、このバカがトワ。
蒼輝の代わりに、君を迎えに来たんだ。」
 
「代わり??」
 
聞き返す私にヒビキと名乗った彼はうなずく。
 
「本当はここには蒼輝が来る予定だったんだけど、ちょっと状況が変わってしまってね。
ここには来れなくなってしまったんだ。
でも、『緑豹国』で君が来るのを待ってるから一緒に行こう。」
 
彼の言葉に素直に「うん。」とうなずく私。
その姿を見たヒビキさんは、優しく笑うと、横に寝転んでいるトワくんの体を「立て!」と言わんばかりに足蹴りした。
そんなヒビキさんを見ていて私はある人を思い出した。
しっかりしていて、頭がきれそうで、そしてこの落ち着いた雰囲気・・・。
渚の彼氏の真音(マナト)さんに似てるな〜って。
もしヒビキさんが人間になったら・・・渚が恋しちゃったりして。
そんな事を一瞬考えて、思わず顔が緩んでしまう。
それを見ていたヒビキさんが、
 
「どうかした?」
 
と私を不思議そうな眼差しでみる。
私はあせって、
 
「いえ、なんでもないです!」
 
と慌てて両手を振って何もない事をアピール。
そうしながら、私は彼らに自己紹介をしてなかった事に気付く。
 
「あの〜、ごめんなさい。
挨拶もしないで。
はじめまして、私は・・・。」
 
「速水翠(ハヤミ スイ)ちゃんでしょ!
知ってるよ〜ん。」
 
と言葉を途中で取ってしまったのは、私の様子をニコニコ顔で見ていたトワくんだった。
 
「トーワ、ちゃかすな!」
 
また、怒られるトワくん。
そのやりとりに笑ってしまう私だけど、変な事に気付く。
それは、
 
「トーワって??」
 
私はヒビキさんに問いかける。
だって、彼はさっきトワくんだと私に教えてくれた。
でも、今トーワって・・・。
 
「それはね。」
 
そこまで言ったヒビキさんの言葉の続きは、予想通りまたしても彼が奪ってしまう。
 
「あのねー、あのねー。
僕ね、本当はえいえんって書いてトワなんだ。
けどね、伸ばした方がかわいいからって、親が『トーワ』って呼ぶようになっちゃって。
それから、みんなトーワって呼ぶんだよ!だから、翠ちゃんもかわいく『トーワく〜ん。』って呼んでね。」
 
そして、眩しいばかりのスマイル。
それにつられて私も笑って答えてしまう。
ホントにトーワくんは、豹のくせに笑顔が似合うな〜。
私でもあんな笑顔できないよ!と呆れるよりも感心してしまう。
そんな和やかな雰囲気の私たちに、ヒビキさんは意味ありげな言葉を言う。
 
「悪いけど、俺と翠ちゃんは『はじめまして。』じゃないんだよ!
覚えてないかな〜。」
 
「えっ!」
 
私は驚きに目がてんになる。
ちょっと、待ってよ!
私、ヒビキさんとどこかで逢ってたの?
 
私は必死で頭を巡らす。
夢で逢った人物を一人一人思い出してみる。
今度は、夢で見た場所のどこかにいなかったかを思い出してみる。
だけど、いくら考えても、ヒビキさんを探し出す事はできなかった。
それどころか、ヒビキさんとを結びつけるものすら、何一つなかった。
 
どうしよう・・・。
ヒビキさんはわかっているのに、私がわからないって・・・かなり、気まずいよね。
どうしたら、いいのよ〜!!
 
私は、知らないうちに、そうとう取り乱していたのかもしれない。
だって、私の姿を見て、ヒビキさんは、「くくく。」と笑ってるし。
だけど、私には、「笑わないで下さい!」とは言えない。
だって、本当に思い出せないんだから。
 
ホントにどこで逢ったのよ!
 
自分自身に腹が立って、私は心の中で強くそう思った。
その時、ある言葉が聞こえた。
 
「落ち着いて。」
 
そうよね、落ち着かなきゃ!
そう思った私は、気付く。
こんな事、前にもあった。
夢で取り乱した時に、心に誰かが呼びかけてくれた言葉だった。
私はこの言葉に救われたんだった。
あの時のことを思い出す。
と同時に、一つ重大な事を思い出す。
今言ったのは、目の前にいるヒビキさん。
そして、夢で聞いた言葉。
その声とを合わせてみる・・・
 
「あ〜〜〜〜!!!」
 
私は、思いっきりヒビキさんを指差した。
あまりに大きな私の叫び声に、トーワくんは両耳をふさぐ。
 
そうだよ!あの声の人だったんだ〜。
 
思い出せて、ホッとする私。
そして、改めてヒビキさんに、夢で救ってもらったお礼をする。
 
「あの時は、ありがとうございました。」
 
私は深々と頭をさげる。
途方に暮れていた私を救ってくれたのは、まぎれもないあの言葉だったから。
私は、その声の主に出会えたら、心からお礼を言おう。と決めてたの。
だから、すっごくうれしくて。
そんな私にヒビキさんは優しく微笑む。
 
「どういたしまして。
目が開かない!ってかなりパニックになってたもんね。」
 
と返してくる。
その言葉が、ひっかかる。
 
「まるであの状況を見てたみたい。
でも、ヒビキさんはあそこには居なかったですよね?
どうして??」
 
私の質問には答えずに、ただ意味ありげな笑いをするヒビキさん。
 
「まっ!詳しい話は『緑豹国』に着いてからにしよう。
あまり、のんびりしていると、2人組みに追いつかれてしまうからね。
そろそろ行こうか。」
 
ヒビキさんはそういって、私の前までくると、座って体勢を崩す。
 
「翠ちゃんは、俺の背中に乗って。
蒼輝ほど乗り心地は、よくないとは思うけど、少しの間だけだから我慢してね。」
 
私は素直に「はーい。」と返事をしながら、ヒビキさんの背中に乗る。
うつぶせになって、両腕をヒビキさんの首に回しながら私は言う。
 
「ヒビキさんは蒼輝と違って乱暴じゃなさそうだから安心!」
 
その言葉にヒビキさんは最初は驚いていたけど、すぐに笑い顔に変わる。
 
「蒼輝のヤツ、翠ちゃんに何か意地悪したの?」
 
その問いかけに、もちろん即答!
 
「したよ〜!半泣きになったもん。
それに、言葉は乱暴だし。」
 
それを聞いて、「ハハハ。」と声を上げて笑うヒビキさん。
 
「笑い事じゃないですよ〜。」
 
と抗議する私に、ヒビキさんは「ごめん、ごめん。」と謝る。
 
「けど、俺も見たかったな〜。」
 
「何が?」
 
意味がわからなくてキョトンとする私に、ヒビキさんは振り返って私を見る。
 
「あの蒼輝が意地悪したり、俺たち以外の人と話したりしている所。」
 
そういって、今までにない最高の笑顔を私にくれた。
その笑顔は、まるで自分の弟の事をうれしそうに話している優しい兄のまなざしに似ていた。
ヒビキさんは、蒼輝の事を本当に大切に思っているんだ。と、かいま見れた瞬間だった。
でも、、そんな頼れる兄っぽいヒビキさんだけど、立ち上がりながら、こんな事をいう。
 
「そうそう!俺は性格も言葉づかいも優しいから安心してね!」
 
って。
しっかりと蒼輝よりも自分は有能だという事をアピールしてるし・・・。
私は思わず笑ってしまう。
 
「よし、じゃ、そろそろ行くか!
トーワも、行くぞ!」
 
ヒビキさんのその声で、二匹は一斉に走り出した。
道中、ヒビキさんは私に話しかけて来る事はなかった。
走りながら、周りに気を使い、敵がいないかをさぐっていたのかもしれない。
その反対で、トーワくんは出発してから、ずっと私に話しかけていた。
それも、同じ事ばっかり!
えっ?何かって??
 
「翠ちゃ〜ん、僕の背中に乗ってよぉ〜。
僕はヒビキや蒼輝よりも速いんだよ!」
 
ってね。
 
 



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