ランさんに渡されたワンピースに着替えた私は、リビングに続く扉を開ける。
一歩リビングに踏み込んだ瞬間、さっきのお香とは違うおいしい匂いが私の元に届く。
廊下で、ただずんでいる私に、キッチンからポットを持って出てきたランさんは気付く。
「あっ、翠さん!着替えが終わりましたか?」
そういいながら、私を上から下までジロジロと見る彼女。
「な・・・に?」
私、何かやっちゃった?
不安にかられながらも、彼女に聞いてみる。
すると、彼女はさっきの表情とは一変して、今度はニッコリ笑う。
「すごく似合ってるな〜。って思って。
色も翠さんにピッタリだし、スカートの丈の短さも、丁度よくて、かわいい。」
そう言われて、私も思わずニッコリ。
高校の制服でスカートをはくくらいで、普段着はパンツが主流の私には、ちょっとワンピースは抵抗があったんだけど・・・よかった。
私とすれ違ったランさんは、手に持っていたポットを、リビングの真ん中に置いてあるテーブルの上に置くと、椅子を手前に引く。
「翠さん、どうぞ。」
私は彼女にすすめられるがまま、そこに歩みよると、彼女がひいてくれている椅子に腰をかける。
目の前のお洒落なテーブルには、彼女が用意してくれたお菓子が、綺麗なお皿に飾られていた。
彼女は、私の目の前に伏せて置いてある、ティーカップを開けると、丁寧に注ぐ。
注がれる液体からは、気分が落ち着くような、とてもいい香りがしていた。
カップがお皿に戻されるや否や、すぐさま私はそのカップを手に取り、匂いをかぐ。
「ねぇー、ランさん。これは何?」
結局わからなくて、またしてもランさんに聞いてしまう私。
彼女は、私の目の前に置いてあるもう一つのカップにも、それを注ぐ。
「これは、ハーブティーです。」
「これが??」
納得がいかないのは当然。
だって、私が普段飲むのとは何か違う。
匂いがキツイというか、すごく緑っぽいというか・・・。
「これは、畑で育った物を、摘んできて、手を加えずに、そのまま使っているんです。
ですから、翠さんの知っている物とは、匂いも強かったりして、抵抗があるかもしれません。
でも、コクがあって、本当においしいんですよ。」
それで、ちょっと違うのかー。と納得する私。
確かに・・・匂いは強い。
飲めるかな・・・とちょっと不安。
でも、心配そうに見つめるランさんの手前飲まないわけにはいかない。
私は覚悟を決めて、カップを口元に運ぶ。
口に含もうとした時点で、強い香りに驚いたけど、口に含んでしまえば、香りは半減した。
味も、匂いとは正反対で思ったよりも濃くなく、そしてしつこくもなかった。
私が普段飲んでいるものより、コクがあるというか、深みがあるというか・・・。
でも、後味は少しの苦味とサッパリ感がまざりあっていて、飲みやすかった。
最初の抵抗はどこへいったのか・・・。
私は、スッカリこのハーブティーのとりこになってしまった!
一気に飲み干してしまった私の姿に、彼女は満足そうな笑みを浮かべる。
そして、手にしていたポットを傾けて、カラになった私のカップをまた満たしてくれた。
「ありがとう。」
お礼を言う私に彼女は、
「どういたしまして。」
と軽く会釈をする。
その時・・・彼女が少しかがんだ、ほんの一瞬だったけど、彼女の胸元に光る不思議な物をみつけた。
それは、直径1センチ程の紫紺色の水晶。たぶん付けているネックレスのチェーンが通常の物より長いから、普通にしていたら見えなかったんだと思う。
だけど、前かがみとかになると、服がたるんでしまい、わずかな隙間ができてしまって、見えてしまったのだろう。
その水晶は、まるで誰にも見つかってはいけないように、ヒッソリと付けられている。
そんな気がした。
「ねぇー、ランさん!!」
思わず彼女を呼び止める。
私はどうしても気になった。
あの水晶の色が。
そう、ヒビキさんの体と一緒の紫紺色。
何か意味があるのだろうか?
聞きたい事が色々あった。
だけど、何も知らずに、私の向かいの席につき、
「何ですか?」
と優しく微笑みながら聞いてくる彼女を見ると、私は出かかった言葉を飲み込んだ。
小さくても、キラキラと光、輝いていた水晶を、まるで隠すように身につけていたのだから、きっと誰にも知られたくないのだろう。
それを、私が問いただしていいものなんだろうか?
このまま、気付かなかった事にしておいた方がいいのかもしれない。
私の心の中でそう答えが出た頃、何も言わない私の顔を、ランさんは不思議そうに見つめていた。
「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもないの。
それより、そろそろ聞かせてもらえますか?
この世界の事を・・・。」
何とかうまく話題を変えられたみたいで、特に不審に思わなかった彼女は、
「そうですね。
では、お話します。」
というと、この世界の事を語り始めた。
私が元々いた時代・・・つまり、生まれた時代から、約200年後の日本に、ある学者が誕生した。
彼は、従来ペットとして飼われている動物ではなく、今まで不可能とされていた動物。
つまり、ライオン、クマといった肉食動物をペットとして飼う事を提案した。
なぜなら、その頃には、自然破壊を続けていた人間のせいで、動物たちの居場所はなくなってしまっていたから。
しかし、当たり前ながら、凶暴な肉食動物を、ペットとして飼う事など不可能。
そこで、学者は発想を変えた。
『人間が飼う』のではなく、『人間と一体化する』・・・つまり、共生する事を考えた。
そうして、学者は研究に研究を重ね、そこからわずか20年余りで、一つの命を誕生させる事に成功する。
それは、人間の遺伝子と豹の遺伝子とを併せ持った人間。
つまり、両方の血が混じった混血人間の誕生だった。
だが、実際は、誕生してもすぐに、死んでしまったり、もともと疾患を持って生まれてしまったりと、なかなか難しかった。
混血人間の第一子が誕生してから、さらに100年の歳月が流れた。
技術の進歩や、時代の移り変わりで、さらに研究が重ねられ、その学者の意思を継ぐものが、とうとう健康な混血人間を作り上げた。
生まれたのは、男児で政府と学者たちに手をかけられ、大切に育てられた。
外見も、知識も、全てが人間と何ら変わりはなかった。
しかし、年を重ねていく毎に、気性が乱れ始めた。
成人を迎えた年、彼に大きな変化が現れる。
それは、泣く、怒る、悲しむ、落ち込むといった、気持ちが大きく変わる時、なんと彼は豹の姿に変身してしまったのだ。
さらには、その時の記憶がない上に、自分をコントロールする事ができなくて、暴れだしてしまった。
しかし、それを知った時には、すでに手遅れだった。
なぜなら、最初に生まれたその子が1歳になった時に、なんら問題がないと判断された為、学者たちは次から次へと、混血人間をこの世に送り出していたのだ。
その時、すでに1万人は越えていたという。
さらに、この頃、混血人間について、別の問題が出ていた。
それは、女児が確率的に生まれにくいという事実。
5人に1人の割合での誕生。
この偏った数字も、学者の頭を悩ませた。
異変が現れ始めた混血人間ではあったが、二十歳を過ぎるまでは正常に生きている為、殺す事も出来ず、考えた結論は・・・混血人間を隔離する事だった。
混血人間を隔離する事によって、世界の崩壊を防ごうと考えたのも事実だが、本当の狙いは、混血人間の撲滅だった。
隔離してしまえば、否応なしに、混血人間同士の結婚しかない。
そうなれば、遺伝子的にみれば、混血人間の『人間』の部分だけを受け継いだ者であれば、純粋な人間として誕生する。
もしくは、そうならなくても、女児が生まれにくいので、最終的には混血人間同士の結婚は成立しなくなり、子孫が途絶えてしまう。
何十年、何百年かかってもいいから、自然と混血人間の血が絶える事を政府は望んだ。
実際、世代をこえていく毎に、混血人間に変化が現れ始めた。
女児の生まれてくる確率が、高くなったのだ。
それは、豹の血が薄れてきている事を意味していた。
だけど、それでも、まだ4人に1人は豹に変身する者もいた。
だが、不思議な事に、その豹への変身は、人間の血が多くなったせいだろうか?
自分の意思で、豹に変身できるようになっていた。
その為、変身は成人を迎えなくても、自我が目覚め始める生後3ケ月くらいから可能となった。
もちろん変身後の凶暴さもなくなっていた。
ランさんは、ここまで話すと、少し冷めかけたハーブティ―を一口飲んだ。
「これが、未来の人類に起きたことです。」
彼女の話してくれた事を、私は一つ一つ理解しようと頑張った。
だけど、途中から話は耳に入らなくなってしまった。
なぜなら、一つの事が私の頭で立ち止まり、他をシャットアウトしてしまっていたから。
私は、ランさんに確認する。
「って事はつまり、豹の姿であるヒビキさん、トーワくん、そして蒼輝は・・・人間との混血って事?」
「はい。」
彼女はハッキリとそう答えた。
その答えにうれしくて、私は思わず両手で口をおおってしまう。
だって、彼女の話からすると、彼らは豹にもなれるが、人間の血も入っていて人間の姿にもなれるって事よね?
という事は・・・つまり・・・。
蒼輝は人間にもなれるという事よね?
それは、私が、ずっと望んでいた事。
『蒼輝が、豹ではなくて人間だったらいいのに。』
って、何度も何度も思った事。
それが、現実になったんだもん!
私は、あまりの喜びに、今度は顔がにやけてしまった。
だけど、浮かれている場合ではなかった。
なぜなら、ランさんはクールに、
「では、今度は日本に起った事を話しますね。」
と次の話を始めちゃったから。
私は、ニヤけた顔を必死で、元に戻しながら彼女の話を聞いた。
混血人間のバランスが取れてから、数年が経った頃、今度は日本全体に異変が起きた。
何かにつけて、時代の先端を走り、常に限界ギリギリの進化を求め続けてきた日本が滅び始めた。
気が付けば、大きく膨らんだ金銭不足に、自然破壊をした為に、本国で取れる作物がなくなってしまい、国民の生活も危うくなった。
この時、日本をおさめていたのは、日本で一番財力も権力もあった者だった。
この頃には、すでに皇族などおらず、力がある者に従う。
権力が全ての時代となっていた。
しかし、彼は、日本が滅びると知った時、今の蓄積を小規模におさえれば、自分は今までと変わらずに、不自由のない生活ができるのだ。と考えあっさり国民を裏切った。
そして、自分が住む城付近を囲い、そこを『新たな日本』と称した。
もちろん、自分の周りにおく部下は、お金や力があるものだけ。
それが、『Wonder Land』の設立時の話。
そして、国民や混血人間をあっさり裏切った王を許せなかった混血人間たちは、混血人間たちだけで、新たな国を作り、国王に宣戦布告した。
それが、『緑豹国(Green Land)』の誕生である。
混血人間は、残された国民たちに一緒に戦おう。と話をもちかけた。
だが、豹の血が流れている者を『人間』とは認めない。
そんな者と一緒に住む気にもなれない。と反発した。
それから、何十年後か先の話となるが、日本は私が見た『色のない世界』の姿となった。
あれは、滅んだ日本の姿。
贅沢な生活が当たり前。
自分たちで作物を作る方法など知らずに贅沢に生きていた国民に、生きる方法などわかるはずもなく、滅ぶのは当たり前の事だった。
隔離されていたせいで、生きるすべを知っていた混血人間たちと、一緒に生きる事を選ばなかった国民の未来は、『緑豹国』への移住を断った時点ですでに決まっていた。
あの時・・・滅んでいく日本がある一方で、2つの国が誕生した、あの時。
『Wonder Land』の頂点にいたのは、財力と権力にたけた者だった。
『緑豹国(Green Land)』の頂点にたった者は、緑の髪の人間で、緑の豹に変身し、さらには多様な能力にたけた者だった。
「その方が、先ほど使った『玉(ギョク)』を作られた『蒼(アオイ)』さまです。」
ランさんはそういうと息つく暇なしに、今度は、
「蒼(アオイ)さまのお話をします。」
と話し続けた。
『緑豹国』を治める人は、国民みんなで決めた。
初代王となった蒼(アオイ)さまは、全員一致で決まった。
なぜなら、まず混血人間よりは、さらに豹に変身できる者の方がプラスされる面が多かったので、豹に変身できる者から選ぶ事になった。
その当時、豹に変身できた混血人間は、30人はいたという。
その中で、変身以外の能力を持っていたのが蒼(アオイ)さまだった。
彼は、豹の姿になると、『念動力』『強化された体』『高速スピード』。
この3つの能力を生まれながらに兼ね備えていたからだ。
彼は、『緑豹国』の設立を宣言した時、
『この国は、神にて守られる。
全ては、神との制約で成り立つ。』
と天に向かって念じた。
その儀式により、緑豹国にとって、『神』の存在は偉大なものとなった。
実際、蒼さまが、こう神に言った。
「王座が空かぬよう、王の命が尽きる時、王座に付くべき命を誕生させよ。」
そして、蒼さまが王になられて、20年が過ぎた頃、村のある家で生まれた子供が、緑の髪に、緑の豹。
もちろん、念動力、強化された体、高速スピードの3つの能力も兼ね備えていた。
このようにして、蒼さまが神に言った通り、時期がくると、ちゃんと次に王座に付くべき者が生まれてきた。
緑豹国の設立以来、決して王座が空くことはなかったという。
しかし、何百年と経つに連れて、豹に変身する者自体が生まれにくくなってしまった。
ましてや、生まれにくい女児の豹は、3世代に1人生まれれば、いいくらいの人数にまで減っていた。
ここまで、ひたすら黙って話を聞いていた私は、口を開く。
「じゃあ、緑豹国にいる人たち・・・つまり、村の人や、ランさんや・・・み〜んな変身はできないにしても、混血人間って事?」
彼女はうなずき、答える。
「混血と言っても翠さんと変わらないただの人間です。
だから、色のない世界へは決して行ってはならない。と言われています。
あそこには、ハンターがいます。
彼らとやりあえるのは、豹の姿になれるものだけ。
蒼輝さま、ヒビキさま、トーワさま。
この3人だけなんです。」
なるほどね〜、納得した!
だって、ショットガンを持った人間が、ウロウロしている世界に、ただの人間がいけるわけがない。
豹だから、太刀打ちできるんだよね。
・・・・ん??
豹といえば・・・。
私は、さっき彼女が話してくれた、初代王の蒼さまの話を思い出す。
「ねぇー、蒼さまって、確か緑の髪に、緑の豹って言ってなかった??」
「はい、そうですが・・・。」
どうして、そんな事を聞くのかと不思議そうに答える彼女とは、裏腹に慌てる私。
「ち、ちょっと待ってよ!!
って事はさ・・・今の王様って、まさか!!」
その後の言葉は、ランさんが笑顔で発表!
「はい!蒼輝さまですよ!」
って。
「やっぱり・・・。」
私は喜びよりも・・・ガックリ。
だって、まさか蒼輝がこの国の王様だったなんて!!
人間だったと喜んだのも束の間。
また、手の届かない人になってしまった・・・。
意気消沈の私は、半分放心状態でポツンと口にする。
「でもさ・・・蒼輝より、ヒビキさんの方が、王にふさわしい気がするけどな〜。
冷静沈着だし、蒼輝と違ってあまり感情を表に出さなさそうだし。」
その言葉に、「プッ。」とランさんは笑う。
突然笑われて驚く私に彼女は、
「ごめんなさい。つい・・・。」
と謝り、
「実は、王は蒼輝さまだけでは、ないんです。」
と口にする。
意味がわからなくて、返事に困る私に彼女はハッキリとこう言った。
「王は、3人います。」
と。
「さ・・ん・・にん??」
それって、まさか!
と思ったのも束の間。
彼女は私が予想した人の名前を順番に口にした。
「蒼輝さまと、ヒビキさまと、トーワさまです。」
やっぱり!!
でも、なんで3人?
それより何より・・・一人場違いな人がエントリーされていない?
ちょっと悪いけど・・・トーワくんは、王には向いてないでしょ!
って、いうか・・・いらないだろう。
と心の中で一人突っ込みをしている私に、もちろん気付くわけもなく、彼女は25年前に起きた王にまつわる話を聞かせてくれた。
25年前・・・つまり、私が来た時代から言うと、475年後。
緑豹国にある男児が生まれた。
紫紺色の髪に、紫紺色の豹。
彼は、響(ヒビキ)と名付けられた。
彼は、蒼さまと容姿は違っていたものの、彼には念動力の能力があった。
代々、『念動力』に関しては、人それぞれ違う物であった。
蒼さまみたいに、強く念じる事により、物を操れる力。
他は、強く念じれば不可能を可能にしたり、動かない物を念じれば動かす事ができたり・・・言い出したらキリが無い程、種類は多かった。
その中でも、ヒビキさんが使える『念動力』は、今までにない新しい物だった。
彼は、豹の姿になれる者であれば、心で会話ができた。
さらに、水晶に念をこめれば、豹の姿になれる者だけだが、水晶にその姿を映し出す事ができた。
彼の能力を民は認め、彼こそが時期王であるとたたえた。
しかし、その時王座に付いていた王は、蒼さまと容姿が違う上に、念動力のみの能力しか持たないヒビキさんに王座を譲る事は、制約に反すると拒んだ。
だが、この時、豹になれるのは、王とヒビキさんしかいなかった。
だから、王も心のどこかでは、自分の命が尽きる時は、ヒビキさんに託そうと思っていたのかもしれない。
しかし、ヒビキさんが誕生して3年後、今度は黄色の髪に、黄色の豹。
トーワくんが誕生した。
彼ももちろん容姿は、蒼さまとは違うし、何より高速スピードだけの能力しかなかった。
豹が生まれにくくなってしまったこの時代に、2人も生まれたのだから、ありがたい事だと民は感謝した。
しかし、王は諦めきれずに、緑の豹が生まれる事を毎日祈り続けた。
そして、トーワくんが生まれてから2年後、待ちに待った緑の豹が誕生する。
緑の髪に、緑の豹。
まさに、蒼さまと同じ容姿を持つ子供だった。
でも、一つ違ったのは、彼には強化された体以外の能力を持ち合わせていなかった事だった。
その時、王はやっと気付いた。
蒼さまが備え持っていた能力が、3人に分散されている事に。
そして、王は、3人をこの国の新しい王と決めた。
しかし、王座は1人と決まっている。
王が決めたのは、蒼輝だった。
人間性からいうなら、ヒビキさんが適任であるが、蒼輝にしたのには、理由があった。
それは、彼の『目』にある。
彼の美しいまでにブルーな瞳は、初代王であった蒼さまと同じ物だった。
蒼さま以外にこの青い瞳をした者など、生まれてこなかった為、何か意味があるのかもしれないと王は思ったのかもしれない。
だからこそ、王は蒼輝に、蒼さまと同じ『蒼』の字を入れた名前を付けたのだ。
だから、この国は王である蒼輝と、影の王であるヒビキさんとトーワくん。
この3人の王で成り立っている。
王である彼らは、昔から建てられていた歴史あるこのお城に住んでいるのだという。
「だけどさ・・・。」
彼女の話を聞いていて思ったことがあった。
それは・・・。
「別に3つの能力がないとダメとか、緑の豹でないとダメとか、そういうので決めなくても、性格とか人望とか、もっと王にふさわしい人がいたんじゃないですか?
よく、民は反対しなかったですね。」
私の言葉にランさんは、
「それは、無理です。」
というと、首を振る。
「あの姿とあの能力にこだわるのには、もう一つの理由があるのです。」
「理由??」
聞き返す私に彼女は、この国にあるもう一つの秘密を語ってくれた。
「王になるには、ある儀式が行われます。
それを、クリアーしなくては、王になる事はできません。
それは、最初にそれをされた蒼さまと、全く同じ条件を満たした者でないとできないのです。
ですから、緑の豹であり、3つの能力を持ったものでないとできない。
ヒビキさまも蒼輝さまもお一人ではできなかったのです。
トーワさまも入れた、3人で力を合わせば、出来たのです。
ですから、必然的に3人がこの国に必要な人となるのです。」
「その儀式って?」
「緑豹国を守るバリアーを作る事です。」
「バリアー?」
イメージがわかない私は、ただ彼女の言葉を繰り返すだけ。
そんな私に彼女は、また質問をしてくる。
「どうして、緑豹国にWonder Landの人間が入って来れないかわかりますか?」
「そういわれたら・・・。」
改めて言われて、おかしい事に気付いた。
確かに柵とか、そういう目に見える進入を防ぐ物は見当たらなかった。
「それが・・・バリアーのせいなの?」
「緑豹国には、人間と豹の血が混じった混血でなければ、入る事ができないように、神と制約を交わしています。
ですので、地上からの進入は決してできません。
ですが、上空までは制約ができなかった為、上空からの進入や、攻撃は受けてしまうのです。
それを防ぐために、緑豹国全体を包み込むようにバリアーを張ってます。
それが、できるのは、先ほども言った、蒼さまと外見も能力も同じものでしかできないのです。
そして、それができないと王座につけないのは、王の命が尽きた時、そのバリアーは消えてしまうからです。」
「・・・なるほどね〜。
それで、3人必要なのか・・・。」
私は、納得してウンウンと頷いた。
彼女から、この世界の話を聞いてたくさん驚かされた。
蒼輝が、人間との混血であるとか、王であるとか・・・。
だけど、その中で一番の驚きは、やっぱり・・・トーワくんでしょう。
だって、彼が・・・22歳だったなんて!!
何より、蒼輝よりも年上で、私よりも6歳も年上だったなんて・・・誰が信じられる??
「トーワくぅ〜んって呼んでね!」って・・・呼べるわけないっちゅーの!!
ホント、彼には驚かされたわ!
思わず、クスと笑ってしまう私。
笑いながら、私は目の前にいるランさんに目をやる。
さっきまで話をしていた彼女は、今は下を向いて黙っていた。
その姿は、まるで何かを考え込んでいるようだった。
「ランさん!」
呼びかけてみるが、彼女は顔を上げる所か、体制はそのままで黙りこんでいる。
「ランさんってば!」
そういって今度は彼女の肩に手を伸ばし、叩いてみる。
すると、彼女は急に顔をあげ、
「翠さん!ヒビキさまがお呼びです。
司令塔室へ案内します。」
そう告げると、席を立ち、出口の方に向かって行くと、扉を開けた。
あまりの急な彼女の態度に、戸惑いながらも言われた通り、私は席を立ち彼女の元へと急いだ。
部屋を出て、また長い廊下を歩き出す。
「ねぇー。」
私の声に、彼女は振り返る。
「さっき、ランさん、何か考え事してたの?」
私の問いかけに彼女は少しあせり顔になる。
だけど、それはホンの一瞬の事で、すぐにいつもの顔になる。
「いえ、何も。」
彼女はそれだけいうと、また目線を正面に移してただ黙って歩く。
私は、どうしても納得がいかなかった。
彼女はああ言ったけど、確かにあの時、彼女は何かを考え込んでいたというか・・・自分の世界に入っていたというか・・・。
それに、もっと気になるのが、彼女がさっき言った言葉。
「ヒビキさんが呼んでる」と私に言った。
彼女はずっと私と話をしていて、ヒビキさんと連絡を取った素振りは全く無かったし、何よりあの部屋には電話や内線など、もちろんだがない。
それなのに、ヒビキさんの声が聞こえた。って事はつまり・・・。
「ランさん!」
彼女に呼びかけ私は単刀直入に聞いてみる。
「ランさんは、ヒビキさんと心で会話ができるの?」
「!!」
突然の言葉に、彼女は目をまん丸にして黙る。
だけど、次の瞬間、「クス。」と彼女の笑い声が聞こえた。
「どうしたんですか?急に。
そんな事、あるはずないじゃないですか!」
と言うと、さらに付け加える。
「先ほども言ったように、ヒビキさまの『心で会話が出来る能力』は、豹の姿に変われる者としかできないのです。
つまり、この世界では、『蒼輝さま』『トーワさま』そして・・・。」
彼女は一旦口を閉じ、私をしっかりとみつめると、続きの言葉を口にする。
「あとお一人は、翠さんです。」
「わたし??」
予想外の回答に、目を大きく見開き、指で自分を指し、「私?」とさらに彼女に確認する。
だって、信じられないよ。
彼女がいうように、ヒビキさんの能力に条件があるなら、私は豹との混血ではないし、当たり前ながら豹に変身できない。
その私が、彼と話せるわけないよ!
絶対納得いかない!
歩く事も忘れて、私はその場で立ち止まり心の中で全否定する。
私の横を歩いていた彼女も足を止めるものの、私の腕をつかみ、私に優しく歩く事をうながす。
彼女につられて、止まっていた私の体は、また一歩一歩ユックリと動き出す。
「困惑されるのは、無理もありません。
正直いって、私たちも謎なんですから。」
彼女はそういって、優しく私に微笑みかける。
「翠さんは、絶対に混血人間であるはずがないのです。
なぜなら、翠さんのいた時代には、まだ混血人間は存在していないのですから。」
「う・・・ん。」
彼女の言葉を、困惑している頭で、ゆっくりと理解しながら、冷静になろうと、呼吸をしている私にとって、あいづちを打つのが精一杯だった。
「だけど、翠さんは、混血でなければできない事が、次々とできてしまう。
どうしてなのか、私たちも不思議でなりません。」
「それって・・・玉が使えた事?」
「それも、そうですが、他にもあります。
たとえば、今翠さまがココに居る事!
それ自体が不思議です。」
『ココ』って・・・緑豹国って事?
そう考えて私は、ある事を思い出す。
そういえば、緑豹国には混血でなければ入れないんだった!
混血であるはずがない私が、緑豹国にいる。
・・・確かに、不思議。
だけど、それは私が異世界の住人だから、『特別』に緑豹国に入れたり、玉が使えるのかもしれないじゃない!
豹に変身しないと会話ができないのなら、いくら特別でもそれは、無理でしょう。
「なぜ、ココに入れたのかは、わからないけど、心での会話は、絶対無理!
私にはできないって。」
そうキッパリ言う私に、ランさんは不思議な顔をする。
「無理じゃないですよ!
だって、実際、ヒビキさまと会話されてたじゃないですかっ!」
「えっ!?」
耳を疑う私。
今、ランさん・・・確かに、『会話をした。』と言ったよね?
えっ?いつした?
必死で記憶を巡らす。
そういえば、一度会話をしたっけ。
夢で、彼が私の心に『落ち着いて』と言ってくれた時。
けど、あれは・・・。
「あれは、『夢』だし・・・。」
と答える私に、ランさんは
「夢では、ありません!」
とハッキリと答えた。
その言葉の意味が、全くわからない私は、また考え込んでしまう。
私が、また混乱してしまうのを恐れたランさんはすぐに、
「詳しくは、ヒビキさまが教えて下さいます。
ですので、今はその事は忘れてください。」
と告げると、ランさんは話題を変える。
「夢の話はさておき、ヒビキさまに『心の声』を聞かれたりしませんでしたか?」
彼女にそう言われて・・・思い出したっ!
そういえば、何回か心で思ったことの返事をヒビキさんはしてきてた!
じゃあ、やっぱり、ランさんの言った通り、私はヒビキさんと心で会話ができるの?
私がそう思った時、歩いていたランさんの足が止まる。
「着きました。ここが『司令塔室』です。
ここは、お城の最上階ですので、部屋からは緑豹国が一望できます。
中で、ヒビキさまがお待ちです。」
彼女は、そういうと目の前にある、見るからに丈夫そうな扉に、軽く握ったこぶしを、2回打ちつけた。
「はい。」
中から声がする。
ヒビキさんの声だとすぐにわかった。
「翠さまを、お連れ致しました。」
そういうランさんに、
「どうぞ。」
と促す返事が返ってきた。
「失礼いたします。」
彼女はそう答えると、私の背中を「ポン。」と優しく軽く叩いた。
私は彼女をみる。
彼女の目が、「いきましょう!」と言ってるようだった。
私は頷き、彼女が開けた扉の先に、広がる新たな世界に足を踏み入れた。
☆☆5章 END☆☆
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