ランさんが扉を開ける。
彼女は、先に私に中に入るようにすすめた。
私は、戸惑いながらも、彼女に従い、先に中へと入る。
私の次に彼女が入り、その後、重い扉が閉まった。
私は、その部屋を見渡す。
広いフロアーの中央には、長いテーブルが縦に置かれていて、その左右には、4脚ずつの椅子・・・つまり計8脚の椅子が置いてあった。
部屋の隅には、多くの本が入れられた本棚が設置されていた。
ここの家具は、私の案内された部屋にある、洋風の家具とは違って、純和風の家具ばかりだった。
頑丈な樹木で造られたその家具を見ていると、自分の世界に舞い戻ったような錯覚を感じた。
縦に置かれたテーブルの向こうには、彼女が言った通り、緑豹国が見渡せる大きな窓があった。
窓は、全部で10面あり、180度パノラマ状態だった。
緑が多い為、ここから見える眺めは心が和んだ。
田舎に行って、「ホッ。」とする感覚に似ていた。
この窓から見える景色がまるで、一枚の絵のように思える程、眺めは本当に素晴らしかった。
その見渡せる窓の中央に、腕を組みながら、私に背中を向けて、景色をじっと見つめて立っている一人の男性がいた。
やがて、その人がゆっくりとこちらに振り返る。
身長は、180センチは、ありそうな長身で、目は切れ長で男性にしては整った顔をしていた。
まさに、「かっこいい」というよりは、「綺麗」という言葉が似合う程の美形。
その美しさに、驚かされる。
だけど、それに輪をかけて、もっと驚かされたのが、その人の服装!
動きやすそうなパンツに、上着もブラウスみたいな形をした物を、1枚着ているだけという、王族とは思えない程の、ラフな格好。
王族といえば、何枚も重ね着をしていて、最後はマントみたいなのを羽織っているのをイメージしていたので、拍子抜け。
その彼が、私に向かって一歩一歩近づいてくる。
目の前まで来た彼は、私に右手を差し出す。
「初めまして。」
そう言って笑う彼。
私は、彼を見た時から、ずっと思っていた。
「この人って、もしかして?」って。
でも、自信がない私は、それを口にする事を躊躇してしまう。
だけど、目の前にいるこの人が、私に笑いかけた瞬間、「やっぱり、そうだっ!」と確信する。
だって、不思議な事に、目の前にいる彼の笑みは、豹の姿の時の笑みと一緒だったから。
私も、彼に向かって笑みを浮かべながら、差し出された右手に、自分の右手を合わせて握手する。
そして、こう口にする。
「初めてじゃないですよ!」
ってね。
目の前の彼は、さらに優しい眼差しで私を見る。
「俺が誰かわかった?」
握っていた手を離しながら、彼は私にそう言う。
さっきのランさんの話からすると、人間の時と、豹の時とでは、姿は違うけど、1つだけ共通している事があるとわかった。
それは、髪の色=豹という事。
目の前にいる彼のサラサラのロングの髪の色は、紫紺色。
つまり・・・。
「ヒビキさんよね?」
自信はあったけど、それでもやっぱり少し不安の私は、そう口にして、すぐに後ろにいるランさんの方に振り返り、彼女に目で確認をとる。
彼女は、うなずき微笑んでいた。
「すごいな〜。」
彼の言葉に、私は振り返る。
「なにが??」
聞き返す私に、
「ちゃんと、ランの言った事を理解してるんだな〜って思ってさ。
普通だったら、こんな現実離れした話、理解に苦しむだろうに。
翠ちゃんは、ホント不思議な子だよな〜。
心配してたんだけど・・・。」
彼はそう言い、「余計な事だったな。」と口にする。
「私がこうやって、落ち着いて理解できたのも、ランさんのおかげです。
事細かに教えてくれたし。」
「そっか・・・。」
私はランさんを褒めたのに、なぜかヒビキさんが喜んで照れてるし・・・。
さらに、これは彼の癖なのかもしれないけど、彼は照れ笑いをする時、顔を少し下に向け、さらに左側に顔を少し傾けて笑う。
だから、その後、顔を上げる時、顔を覆うように流れてきている右側の髪を左手でかき上げるのだ。
その時、ホント一瞬だったけど、彼の綺麗な長い指先がキラリと光った。
私は、気になって、下に降ろされた彼の左手を「じっ。」とみつめる。
それは、指輪だった。
彼の左手の中指にハメられていた指輪には、直径1センチくらいの小さな紫紺色の水晶が付いていた。
それが、さっき光に反射して光ったのだ。
あれ??
私は一瞬止まる。
さっき、あれと似た物見たよね?
ん??どこで見たんだっけ・・・。
そう考えて、私はすぐにさっきの事を思い出し、「ハッ!」とする。
そう!ランさんが付けていたネックレスの水晶!
ランさんのもヒビキさんのも、一瞬しか見てないけど、あれは絶対に同じ物だ。
あの小ささに、あの色。
見間違えるはずがない。
けど、なぜ二人が同じ物を持っているの?
ただの偶然なんだろうか?
不思議に思う私をよそに、ヒビキさんは早速本題に入る。
「ラン、あれを持ってきてくれ。」
そう言われると、ランさんは部屋の奥にある本棚に向かって歩いていく。
何かを取りに行ったランさんを、目で追う私に、ヒビキさんは、
「翠ちゃん、どうぞ座って!」
と右側の一番奥の席の椅子をひいて、そこに座るよういう。
そして、彼は、その真向かいに位置する、テーブルを挟んだ左側の椅子を引いて腰をかける。
それを見て、私も席についた。
「そういえば、翠ちゃん、俺を見て最初なんか驚いてなかった?
何に驚いてたの?」
ヒビキさんの言葉にちょっといいにくかったけど・・・言ってみる。
「王族って聞いてたから、てっきり、いっぱい服を重ね着したり、マントをはおってたりしているのかと想像してたの。
なのに、ヒビキさんったら、想像と全然違うんだもん!
不意をつかれて一瞬見とれちゃった。」
それに対して彼は、
「アハハ。」
と声を出して笑う。
そんなに笑わなくても・・・と突っ込みたいけど、バカな事を言い出したのは、私なんだし仕方ないかと諦めモード。
「そんなに笑っては、翠さんに悪いですよ。」
とランさんがヒビキさんに頼まれた物を彼に差し出しながら注意してくれる。
それを、左手で受け取りながら、まだ少し笑っている口元でこういう。
「もちろん、緑豹国にも王に代々受け継がれている『マント』はあるよ。
緑のマントで、それには王の象徴である花。
『ブルーキング』と呼ばれる花の刺繍が施されている。」
「ブルー・・・キング??」
また聞いた事がない花の名前。
でも、名前から察するに・・・。
「それって、青い王って事?」
私の言葉に、ヒビキさんは「そう。」と返事をする。
「本当は、『緑の王』というべきなんだけど、初代王の蒼さまは瞳が青かったから、『青い王』と呼ばれていた。
その時に作られたマントだから、蒼さまの象徴として「青い花」が施されたんだ。
歴代の王には、青い瞳は受け継がれなかったけどね・・・。
それで、この花だけど、もちろん実際には存在しない花。
『青い花』を作るのは難しいからね。
空想の花なんだ。
そして、そのマントを付けるのは、緑豹国の王だから、今は蒼輝が付けている。
・・・いや、付けていたというべきかな?」
そう言ったヒビキさんの顔が一瞬曇る。
それが、どうしても気になる私。
「付けていた。って・・・どういう意味ですか?」
踏み込んで聞く私にヒビキさんは、
「その前に、これを見てくれ。」
そういって、さっきランさんから受け取った一冊の本を私の目の前に差し出した。
「これに、見覚えないかい?」
ヒビキさんの顔を見ていた私は、彼の差し出した物に視線を変える。
「!!」
私の目に映っている物が、信じられなくて、私は目を疑う。
だって、出されたそれは、渚の蔵にあった、真っ白の布が表紙で、見たことのない華の刺繍がほどこされている、あの本と全く同じものだったんだから!
だけど、なぜ、これがここに?
だって、私は渚に渡してきたはずなのに。
答えない私だけど、眉間にしわをよせて、考えこんでいる私の姿に、ヒビキさんは理解する。
「これと同じものが翠ちゃんの世界にもあったんだね?」
私は、声にならずただ、首を2回縦に振った。
「やっぱり・・・。」
ヒビキさんは、ため息混じりにそういった。
それが、何か深い意味を持ってそうで、私は気になってしまう。
「この本には、何か秘密があるんですか?」
思わず身を乗り出して、聞いてしまう私に、
「ちょっと、待って!」
とヒビキさんは口にしながら、私に手をかざし、ストップとジェスチャーする。
「その前に、翠ちゃんに聞きたい事があるんだ。
翠ちゃんの時代にあったこの本は、どうやって発見されて、どんな事が書いてあった?」
私は、本は渚の蔵にあった事。
その本は昔から、彼女の蔵にあって、偶然発見された事。
この世界とをつなぐ、不思議な樹木の話もした。
一つ一つ漏らす事なく、ヒビキさんに伝えた。
時には、つまってしまったり、しどろもどろになったりもしたけど、急がす事無く、ただ黙ってヒビキさんは私の話を聞いてくれていた。
私の話が終わる頃、ランさんが私の目の前にマグカップを置いた。
そこからは、気持ちが安らぐような優しい香りがした。
さっきのハーブティーとは、また違った香りだった。
「これは、何?」と言いたげな瞳でランさんを見つめる私。
「ラベンダーティーです。どうぞ。」
と彼女は答える。
話さなくてもわかっちゃうランさんに、思わずすごいと関心してしまった私。
そんな私をよそに、彼女はヒビキさんの前にも同じマグカップを置いた。
そして、彼女はヒビキさんに一礼すると、出口に向かって歩き出す。
えっ!ランさん行っちゃうの?
思わず強くそう心で叫びながら、ランさんの後ろ姿を目で追う私。
声をかけようにも、躊躇してしまって彼女を呼び止めれない私に代わって彼が彼女の動きを止めてくれる。
「ラン!」
ヒビキさんのその言葉に、扉に手をかけていた彼女は、すぐに振り返る。
その彼女に向かって、ヒビキさんはこう言う。
「ランもそこに座ってくれないか?
翠ちゃんも、その方がいいだろう?」
そういって、私を見て意味ありげに笑うヒビキさん。
その笑いで気付いた!!
「あ〜!ヒビキさん、また私の心読んだでしょ!」
その言葉に、ヒビキさんは「アハハ。」と笑う。
「ずるいよ!ここへくる道中でも、何回か私の心読んでたし。
勝手に読んでばっかで!」
とブーたれる私に、ヒビキさんは「仕方ないよ。」という。
「けど、これでも、翠ちゃんの声はまだ聞き取りにくい方なんだよ。
まだ、翠ちゃんの波長に慣れてないからだと思うんだけど。
強く思ってくれないと聞こえない。
だからさ、聞かれたくない事は、あまり強く思わない事だね。」
そういって、また「ククク。」と笑う。
ホント、見た目よりよく笑う人だな〜。とヒビキさんを見て呆れ返ってしまう私。
「いや、俺は普段、こんなに笑わないんだけど・・・。
翠ちゃんって、ホントおもしろい!」
と言って、さらに笑ってる。
「だぁ〜から〜・・・心を読まないでって言ってるでしょ!!」
もうツッコムのも疲れるよ。
無駄な体力を使ってしまって、変にグッタリしている私を見かねて、ランさんも助け舟を出してくれる。
「ヒビキさま、いい加減になさって下さい。
翠さんに、失礼じゃないですか。」
そういって、私の横に座るランさん。
その様子を見ながら、ヒビキさんは私に「悪い悪い。」と軽く言って謝る。
絶対、悪いと思ってないぞ!と疑いの眼差しで見る私をよそに、ヒビキさんは気分を変える為に、ランさんが持ってきてくれていたラベンダーティーを口に運ぶ。
何回か口に運んでいるうちに、ヒビキさんからはさっきの笑いは消え、また深刻な顔に戻る。
彼は、カップをテーブルに戻すと、その手を私の目の前に置いていた本へと移す。
本を手に取ると、今度はパラパラとページをめくり、今度はあるページを開いた状態で、もとの場所に本を戻す。
再び目の前に置かれた本に、私は目を通す。
だけど、開かれたページは白紙だった。
なぜ、彼がこのページを私に見せたのか、彼に聞こうと口を開ける。
だけど、数秒違いで私の声よりも早く、ある声が発せられた。
「どうして白紙なのですか?」
その声の主は、私の横で立ち上がり、物凄く驚いていた。
彼女のこんなに、取り乱した姿をみたのは、初めてだったので、私は彼女の態度に驚いてしまう。
口をポカーンとあけて、立っている彼女を見上げている私に、ランさんは気付く。
「ごめんなさい。大きな声をあげてしまって・・・。」
と謝ると急いで腰掛ける。
何が何だかわからない私は、謝るランさんにも何て言っていいかわからずに、ただ黙って彼女を見ているだけ。
そんな私に彼女は、説明してくれる。
「翠さんが、来られる直前までは、このページに文字が書いてあったんです。」
なるほどね〜、納得。
そりゃぁ、驚くよ!
って・・・へっ?
さらに、間抜け顔の私。
文字が・・・き、え、た??
わけがわかんなくて、私はヒビキさんに助けを求める。
たぶん、また私の心は彼に読まれたのだろう。
何も言わなくても、ヒビキさんはこの本の事を話し始めてくれた。
「こちらの世界にあったこの本は、蒼さまの持ち物だった。
どうして俺が持っているかというと、ある日みた夢に、写真でしか見た事がなかった蒼さまが出てきて、この本を見るように俺に言った。
緑豹国には、何でも知っている『長老』と呼ばれているおじいさんがいるんだが、その人にこの本のありかを聞いて持ち出したんだ。
それを、最初に開いた時には、1ページにだけ、まるで今文字が書かれたように、鮮明に文字が記されていた。」
「それは、何て書いてあったんですか?」
「『みなの誕生の時、時空より魂来たる。』」
部屋の入り口より声がして、私は振り返る。
さっきまで、誰もそこには居なかったはずなのに、今見ると、そこには、入り口のドアにもたれて立っている一人の男性の姿があった。
ヒビキさんよりも、かなり背の低い165センチくらいの背丈に、パッチリ二重の大きな瞳。
私と目が合うなり、「ニコ。」と笑った口元には左右にエクボが出来ていた。
外見も笑顔も、アイドル顔負けの彼ではあったが、かっこいいというよりは、見ているだけでこっちまで、ニター。としてしまうくらいの「かわいい癒し系」と呼ぶのにふさわしい人だった。
そんな彼の髪の色は黄色。
全体的に短くカットされていたが、前髪はすこし長いみたいで、その前髪をツンツンにして、全部上に向けてあげていた。
おでこを出しているから、余計に幼げに見えたのかもしれないけど・・・やっぱり、22歳には見えなかった。
彼が誰かだなんて、100%わかっちゃうよ!
私は、椅子から立ち上がり、彼に軽く手を振って呼びかける。
「トーワくん!」
って。
私が一目で彼だとわかった事が本当にうれしかったのか、彼は猛ダッシュで私の元まで駆けてきて、私に正面から抱きついてきた。
「すごぉーい、すごーぉーい!
翠ちゃん、僕がわかるの?
やっぱり、相思相愛はすごいよねぇ〜。」
異性に抱きつかれた事なんてない私は、ただされるがまま、放心状態で突っ立っていた。
そんなウブな私に襲う狼を・・・いや豹か!
それを撃退してくれたのは、向かいに座っていたヒビキさんだった。
ヒビキさんは、素早く立ち上がると、トーワくんの背後に短時間で姿を現した。
背が高く足の長いヒビキさんにとって、この距離はわずか数秒の事だった。
やがて、トーワくんの頭から、鈍くて軽い音がした。
「いたぁ〜〜〜い!!」
と叫びながら、首だけを後ろに向けるトーワくん。
「痛いじゃないかっ!
ヒビキの乱暴者!!」
と口をとがらせているトーワくんに、
「今、大事な話をしてるんだよ!
いいから、こっちに来い!」
ヒビキさんはそう乱暴な口調で言うと、私にいつまでも抱きついているトーワくんの首根っこをつかむと、強引に「ベリ。」と私から彼をひっぺがす。
そして、軽々と彼を片手で持ち、自分が元いた私の向かいの席まで戻ると、トーワくんを強制的に彼の隣の席に座らせた。
「え〜!!僕、ここヤダヤダ!!
翠ちゃんが遠いよぉ〜ん!!」
とヒビキさんに抗議するトーワくん。
もちろん、そんなのは無視して、ヒビキさんも椅子に腰を降ろす。
無視されても、めげる所か、さらにトーワくんは頑張る。
隣に座ったヒビキさんに顔を近づけ、さらに抗議を続ける。
「僕と翠ちゃんの、恋の邪魔をするなんて、ヒビキのバカバカ!!」
耳元で何度も何度もそういうトーワくんに、さすがのヒビキさんも降参。
頭を抱えて、深いため息。
「どう考えたら、お前と翠ちゃんの間で恋が成立するんだよ!
ほんっとに、お前、状況わかってないよな〜。」
ボソっと言ったヒビキさんの言葉が聞き取れなくて、トーワくんは、
「えっ?なになに、なぁ〜に??」
とまたヒビキさんに顔を近付けうるさくする。
「こんなバカは、ほっといて、本題に入ろうか。」
立っている私をみて、ヒビキさんはそういう。
「はい。」と私は軽く返事をして、腰を降ろす。
「待ってよ、待ってよぉ〜!
僕、ここ、ヤダってば〜!!
ここじゃ、話聞けなぁ〜い!」
なんて言って、また話を蒸し返してくるトーワくんに、
「聞けないなら、お前は聞かなくていい。」
とサラっと口にして、少し冷めたティーを口にしてるヒビキさん。
「うっ・・・・。」
彼の言葉に、やられたトーワくん。
さっ!どうする。
と思ったら・・・・。
「そんな事いうなら、僕邪魔しちゃうぞ!
大声で歌を歌ってさ、ヒビキの話なんて聞こえなくしちゃうんだからっ!」
わけわかんない。
ヒビキさんだけじゃなくて、私まで頭抱えて深いため息吐きそうだよ。
トーワくんに対して、どうしたらいいのかわからない私もヒビキさんも、困り果てて黙りこくる。
そんな私たちにかわって、1人だけ優しくトーワくんに接する人がいた。
「トーワさま。そう言わずに、ヒビキさまのお話を一緒に聞きましょうよ!ねっ。」
その言葉で、ランさんの存在を再確認したトーワくん。
彼の頭の中で、一つの名案が浮かぶ。
「ねぇー!!ランちゃん、かわってよぉー。
そしたら、僕おりこうさんにしてるから。
ねぇー、ねぇー。」
と足をバタつかせて、今度はランさんにお願い。
「私は、別にかまいませんが・・・。」
とランさんは言いながら「チラっ。」とヒビキさんを見る。
ランさんの視線を目で追っていたトーワくんは、やっぱり、ヒビキさんの許可を得ないといけないのだと再確認する。
そこで、彼の取った行動は・・・。
「ヒビキ殿、頼むでごじゃる。」
と頭を下げて・・・テーブルにぶつける。
早く話を進めたいヒビキさんは、もうウンザリみたいで、
「わかった、わかった。」
と白旗を上げた。
「ランとかわってもらえ。
その代わり、静かにしろよ!
それから、翠ちゃんに、顔を近づけたり、抱きついたりするな!
いいな!」
ねんをおすヒビキさんに、
「はぁ〜〜〜い。」
と両手をあげて、かわいいお返事で答える。
ヒビキさんの気が変わらないうちに、急がないと!とトーワくんは、またしても猛ダッシュで、私の側に駆け寄ってくる。
豹にならなくても、彼は充分『超高速スピード』だと、私は本気でそう思ってしまうくらい彼は・・・速かった。
席を立ちながら、トーワくんに、
「どうぞ。」
とすすめるランさんにトーワくんはニコニコ。
「ありがとう!
ランちゃんは、こわぁ〜いヒビキの隣に座ってね。」
と言い、さらに「ベー。」と舌を出して、ヒビキさんにアッカンベーをしてるし。
「ったく・・・お前はいくつだよ!」
ため息混じりにそう言われても、ちっとも気にならないトーワくんには、別の物が気になった。
それは、私とヒビキさんが飲んでいる物。
「ランちゃ〜ん。
僕もコレ飲みたぁーい。」
そして、私のカップを指差す。
「はい、わかりました。」
彼女は笑顔で答え、
「お2人のも、温かい物に入れ替えてきますね。」
と言いながら、すでに手は私のカップに触れていた。
行動が早くて、よく気が付くランさん。
彼女にみとれている私に、トーワくんの声が耳に届く。
「あれれ?
なんで、これ、真っ白なの〜?」
文字が消えている本をみて、トーワくんもビックリ。
「だから・・・その話をさっきしてたんだよ。
それを、お前が邪魔したんだろ?」
ヒビキさんから、いやみタラタラに発せられた言葉は、トーワくんを覆う、変なオーラに丸め込まれて、彼の元へは、やっぱり普通の言葉として辿り着いた。
「じゃーさ、じゃーさ、早く続き話してよっ!
聞きたい、聞きたい。
早く、は〜や〜くぅぅぅ〜〜〜。」
と、また騒々しくなる。
そんな彼の前に、カップが置かれる。
「どうぞ。」
と笑顔で差し出すランさん。
「わ〜い、おいしそー。」
さっきの事は忘れて、今度は飲み物にくぎつけのトーワくん。
ヒビキさんは、自分の隣にきて腰を降ろそうとしているランさんに、小声でこういう。
「サンキュ、助かったよ。」
その言葉に、ランさんは何も言わずに、「クス。」と笑う。
この2人・・・ただの雇い主と使用人って感じがしないのよね・・・。
心が通じ合っていると言うか・・・あの水晶も気になるし・・・。
そう思って、「あっ、ヤバイ。あまり考えたらヒビキさんに読まれる。」と急いで違う事を強く思った私。
「トーワも静かになった事だし、本題に入ろうか。」
ヒビキさんは、そう口にした。
どうやら、さっきの心の声は聞かれなかったみたい。
「ホッ。」と胸をなでおろす。
「さっきの、トーワの言った言葉だけど。」
ヒビキさんのその言葉に、「は〜い!」と手をあげて反応したのは・・・やっぱり彼。
「『みなの誕生の時、時空より魂来たる。』で〜っす!」
自慢気に「エッヘン。」と胸を張っていうトーワくんに、ヒビキさんは、
「こいつ、こう見えて記憶力だけはいいんだよ。」
といって、「アハハ。」と声を出して笑う。
「・・・あの〜・・・。」
言おうか言うまいか悩んだんだけど・・・。
私は意を決して口にする。
「さっきから言ってる『みなの・・・。』ってやつ・・・意味を教えてもらえますか?
こういうの、私苦手で・・・。」
そうなのよね。
こういう古文的な事は私は、からっきしダメなんだ。
だから、渚の家にあった本にも書かれていた文面。
サッパリで渚の説明なしでは、理解できなかったんだもん!
私に頼られたのだと勘違いしてハリキリだしたのは、やっぱり・・・トーワくん。
「は〜いは〜い!
僕が教えちゃいま〜っす。」
なんて言いながら、片手でなくて、両手をあげちゃってるし・・・。
ホントに、大丈夫なのかな?
と心配の私をよそに、彼はノリノリ。
「えっとね、この『みな』ってのはね・・・。」
そこまでいうと、ピタっと急に黙りこくる彼。
「トーワ・・・くん??」
心配して彼を覗き込む私。
・・・本を見たまま固まっているトーワくん。
その姿を見て、思わず私は心の中でこう思ってしまった。
「トーワくんも、わからないの〜?」
心の声が・・・今言葉になった?
驚いて、思わず口をふさぐ私。
私の言葉に、トーワくんは私に目線を向ける。
うそ〜!何で、声になっちゃたのよ〜。
わけがわからなくて、あたふたしている私に、
「アハハハ。」
と笑い声が聞こえてきた。
私の目は、その声の主へと注がれる。
彼は、おなかを抱えて笑っている。
一瞬意味がわからなくて、私は彼の隣にいるランさんに目をやる。
ランさんは、ちょっと呆れた顔でその彼を見ながら、右手人差し指で横の彼を指差してる。
まるで、「この人よ!」と言わんばかりに。
そのジェスチャーとこの笑いで、ピーンと来た。
「もう!!また、ヒビキさん、心の声聞いたでしょ!
いい加減にして下さい!」
席を立って怒り爆発の私。
もっと、彼に文句を言ってやろうと、次の言葉を口にした瞬間。
「わぁ〜〜〜〜!!」
という叫び声に、私の口から出た言葉は、かき消された。
さらに、驚いている私は、次の言葉を飲み込んでしまった。
その叫びの主とは・・・トーワくん。
あれから、ずーっと意味を考えていた彼は、どうやらパニックを起こしたみたい。
そんな彼が次に取った行動は。
自分の斜め前に座っているヒビキさんを、真っ直ぐ見つめて・・・両手を合わせる。
そして、名セリフ。
「ヒビキ殿。頼むでごりゃる。」
またかっ!
と呆れる私とは、うってかわって頼まれたヒビキさんは、優しく笑いながら、
「わかったでごじゃる。」
と答えた。
チョット予想外の答えに驚いたけど、その時のヒビキさんの笑いを見て私は思い出していた。
ヒビキさんが、私に蒼輝の話をした時に、兄貴のような顔をしていた時の事を。
トーワくんもヒビキさんにとって大事な弟なんだな〜って思った。
トーワくんに、頼まれたヒビキさんは、温かくなったティーを口に運び、気分転換する。
そして、カップをテーブルに置いた彼は、まず立ち上がっている私に、座る事をすすめた。
私が再び席についた事を確認したうえで、説明を始めた。
「『みな』とは、『みんな』。
つまりここでは、この国・・・緑豹国の事を指している。
だから、『みなの誕生の時。』って事は、『緑豹国が誕生した日』となり、後半の『時空より魂来たる。』をくっつけると、『緑豹国の建国記念日に、時を越えて、翠ちゃんの魂が来る。』という解釈になる。」
「たましい?」
なんかシックリこない。
だって、『魂』っていったら、体は付いてないよね?
でも、私はここに、ちゃんと体と一緒にきたよね。
だから、余計・・・気になる。
私は、口をへの字にして、「う〜ん。」と考え込み黙りこくる。
そんな私を見ていたトーワくんが、黙っているわけがない!
「翠ちゃん!ど〜したの??
お腹痛いのぉ〜??ねぇー、ねぇー。」
と騒ぎ立てる。
私の顔まで覗き込んできたトーワくんに、向かいのテーブルにいるヒビキさんの右手が伸びてくる。
そして、トーワくんの頭を「ガシ。」とつかむと、今度は力強く上から圧力をかけた。
トーワくんのおでこが、勢いよくテーブルに「ゴン。」と、打ち付けられた事は言うまでもない。
「いたたたたぁ〜〜。」
と情け無い声を出すトーワくんに、
「翠ちゃんに近づくな!って言っただろ?
今度、近づいたら部屋から追い出すからな!」
ヒビキさんからの警告に、トーワくんは「はぁ・・・・い。」と嫌々お返事。
ショボンとする彼をほって、ヒビキさんは話を続ける。
「翠ちゃんが不思議に思っている『魂』の話からしよっか。」
私は勢いよくヒビキさんを見る。
そんな私に、彼は優しく「ねっ!」と微笑んでる。
私は、ただ黙って「コクン。」と頷いた。
「翠ちゃんが、ショットガンの男に襲われたり、それを蒼輝が助けたり、俺が「落ち着いて。」って翠ちゃんの心に話しかけたりした事って、翠ちゃんは確か『夢』だと思ってるって前に言ってたよね?」
ヒビキさんの質問に、さらにうなずく私。
「じゃあさー、おかしいと思わない?」
「おか・・・しい?」
何が?
サッパリわからない私は首をかしげる。
「普通、見る夢って予知夢じゃない?
つまり、翠ちゃんが『夢だ』と思っていた事が本当に夢なら、翠ちゃんが実際この世界に踏み込んだ時点で、全く同じ事が起るはずだろう?
けど、全く違っていた。
それだけじゃない!
翠ちゃんがその夢で、俺と心で会話をした事を俺が知っていたってのは・・・おかしいだろ?
自分が見た夢を他人が知ってるなんて、ありえない事だと思わない?」
・・・。
確かにそうだ。
ここへ来て、私も実はずっと、気になっていた事があった。
それは、夢で見た続きを私は、今ここで体験している。
それって・・・やっぱり変よね?
「ってことは・・・どういう事なんですか?」
ダメだ。頭が混乱してきた。
爆発する前に、サッサとヒビキさんに降参する私。
「ゴチャゴチャ言っても、余計わからなくなるだろうから、単刀直入にいうね。
翠ちゃんが夢だと思っている事は、全て翠ちゃんが『魂』だけ、こっちに来て体験した事なんだ。
ここでは、ちゃんと人体もあったんだよ。」
さすがに、言葉は出ないし、頷く事もできない。
まるで、時が止まったようだった。
あれが、実際に体験した事だったなんて・・・信じられるわけがない!
だけど、彼の言うとおり、実際体験した事なんだと思えば、つじつまが合う事は確かに多かった。
でも、ホントに体験した事だとすると、1つだけ謎が残る。
それは・・・。
「私は、その夢を100回見たんですよ。
ここに・・・100回来たんですか?」
ヒビキさんは、「いや。」と首を振る。
「その話をする前に、コレの謎を先に解き明かしてもいいかな?」
ヒビキさんは、そういうと開かれていた本を手に取る。
「本の・・・謎?」
そう聞く私には答えずに、ヒビキさんはランさんを見る。
「ランもこの本に書かれていた文字を見たよな!
それは、トーワが言った文章と同じだったか?」
ランさんは、ユックリと首を左右に振る。
左右にって事は・・・違うって事?
けど、この本には、このページにしか文字は書いてなくて・・・でも、トーワくんとは違う文字をみたわけで・・・。
だめだ・・・また頭が爆発寸前。
わけがわかんない私は思わず、横をチラっと見る。
すると、意外に落ち着いて、トーワくんは話を聞いていた。
ティーを飲みながら、「うん、うん。」と頷いてる。
「トーワくん!どういう事かわかったの?」
今度は私がトーワくんに向かって身を乗り出して聞いてみる。
さっきまでのオチャラケタ顔ではなくて、真剣な眼差し。
その姿は、まさに緑豹国の王である風格をかもしだしていた。
いつになく、勇ましくてかっこいいトーワくん。
やがて、私を真剣な眼差しで見る。
そして、ハッキリ、キッパリこういう。
「じぇ〜んじぇん、わかんないっ!」
さらには、「エヘッ。」とかわいく笑ってるし・・・。
その姿を見て思わず・・・めまいをしてしまう私。
トーワくんに頼った私が、バカだった。
無駄な体力を使ってしまったと後悔。
やっぱり、頼れるのはヒビキさんよね。
私の目線は再びヒビキさんへと向けられた。
「つまり・・・これがこの本の謎でありカラクリなんだ。」
ヒビキさんは、そういって本を自分の目の前に開いて置いた。
「俺は、この本が発見されてから、毎日欠かさずに見ていた。
そして、わかった事がある。
それは、この本は、『1ページにだけ、文字が書かれている』のではなくて、『1ページにだけ、そのつど文字があらわれてくる』って事。」
「あらわれてくる?」
三人の声が重なる。
「そう。元々は白紙。
だけど、必要な時にだけ文字が出てくる。
トーワが見て知っていた『みなの誕生の時、時空より魂来たる』は、初めてこの本を開けた時に、あらわれた文章。
この文章通りに翠ちゃんの魂だけが来た。」
ヒビキさんの話についていくのが、やっとの私たち三人は、何も言葉を発さない。
ただ、必死でその話を理解しようとしていた。
ヒビキさんの話は、まだまだ続いた。
「それで、翠ちゃんが蒼輝に連れられて、緑豹国に入った時、降ろされた森で、アイツが「時間がない。」と言ったよね?」
私は、必死に頭を動かしてうなずく。
カクカクと動く私の頭は、まるでロボットのようだった。
それが、精一杯だった。
「あの時、俺はここで、この本を見ていた。
翠ちゃんが、ショットガンの男に襲われていた頃、この本に載っていた『みなの・・・。』という文章は消えたんだ。
そして、かわりに今度は2つの文章があわられた。
1つは、『一刻後、魂は去る』。
これは、『一時間後、翠ちゃんは帰ってしまう』という意味。
この文章は、翠ちゃんが帰ってしまったら、消えたよ。
もう1つは、『百の月が見えた時、時空より訪問者が再来されよう』。
これは、翠ちゃんが帰った後も、ずっと残っていた。
ランが見たのは、この文章だよな?」
さすがのランさんも声には出ずに、ただ首を縦に1回振った。
一方で一人元気なのは、やっぱりこの人!
「それ、僕知らないよぉ〜。
僕もみぃ〜たかった!みぃたかった!」
とまたまた騒々しくなる彼。
だけど、一緒に居ればこんなの日常茶飯事なんだろうな〜。
これを無視して話を進めるなど、ヒビキさんにとってはお手の物!
トーワくんを無視して話は進む。
「『百の月が見えた時、時空より訪問者が再来されよう』。
この解釈は、『百回目の夜が来た時、もう一度翠ちゃんがくる」となる。
さらに、『魂』ではなく、『訪問者』となっているあたりから、今度は体ごと、この世界にくると予測された。
だから、この世界の事で、翠ちゃんの命に関わる最低限度の事は、伝えておかないと!と思って、あの時、翠ちゃんが来てすでに40分は経過していて、時間がなかったんだけど、蒼輝に緑豹国についての事を簡単に説明させたんだ。
それで、その文章だけど、翠ちゃんをこの城に連れてきてから、見たらもうすでに消えていた。
きっと、翠ちゃんがこの世界に来た理由や、翠ちゃん自身に隠された秘密。
そういった事を、この本に出てくる文字が導いてくれるはずだ。」
ヒビキさんの話を聞いて、1つ納得がいった事があった。
それは、あの時・・・。
元の世界で、真音(マナト)さんがこれと同じ本を見た時に、異常なまでに驚いていた謎。
こういう事だったんだ!
つまり、彼が小学校の頃に、かくれんぼをしていて蔵の中で、見た時には、文字は書かれておらず白紙の本だった。
なのに、あの時、部屋で見たら文字が書かれていた。
そりゃあ、驚くよね。
だけど、それならそうと、言ってくれたらよかったのに・・・。
そしたら、こんなに困惑しないで済んだのに・・・。
ちょっと、真音(マナト)さんを怒りたくなる私。
知らぬ間に右手でこぶしを作っていた私に、ヒビキさんは、
「あっ、そうそう。」
と何かを思い出したかのように、私をみる。
「さっき、翠ちゃんが言っていた『100回ここに来たの?』って話だけど。
来たのは最初の1回だけ。
翠ちゃんが100回見たのは、100日後にここへ来るのを暗示させる為に、繰り返されただけだと思う。
それと、もう一つ。
俺がずーっと不思議に思っていた事があってさ。」
「不思議な事?」
少し頭が回転してきだした私はやっと言葉が発せられるようになってきた。
「この本に『百の月が見えた時』となっているが、翠ちゃんがここへ来たのは翠ちゃんが魂だけ来た日から20日しか経ってないんだよ。」
「はつか?」
すっとんきょうな声で言う私に、ヒビキさんはチョット笑う。
「それで、なんで翠ちゃんがこんなに早く来たんだろうと思っていたんだけど、翠ちゃんの話を聞いてわかったよ。」
私は・・・わかりません。
口にするのも面倒で・・・心で強く思ってみた。
すると、狙った通りヒビキさんは、
「それはね・・・。」
と答えてくれた。
意外に心での会話って・・・ラクかも!
なんて思ってしまって、急いで掻き消す。
ヤバイ、こんなの読まれたら怒られる!
なんとか、これはバレなかったみたいで、ヒビキさんは知らん顔で話をしてる。
「翠ちゃんは、ちゃんと100日間夢を見ていたわけで、それでこっちでは20日だった。
つまり、翠ちゃんの世界での5日間がこっちでは1日に相当するって事なんだよ。」
な〜る程!
かなり、納得してしまう私。
だけど、次の瞬間気付く。
「それ、困るよ!」
急に焦り出す私に、
「どぉ〜してぇ〜?」
と目をまん丸にして聞くのはトーワくん。
「今ね、夏休みで学校が休みなの。
休みは40日しかなくて、ギリギリまでこっちに居たとしても、8日間しか居られない。」
私の言葉に、
「え〜〜〜〜!」
と絶叫のトーワくん。
ランさんも寂しげに、「そうなんですか。」と言ってる。
そんな2人とは違って、ヒビキさんは特にショックを受ける風でもなかった。
「たぶん、翠ちゃんが向こうの世界に戻るのは、この本が決める。
そして、その夏休みってのが終わる頃には向こうに戻れるよ。
だから、決められた時間だけしか居られないけど、一緒に頑張っていこう。」
前向きなヒビキさんの言葉に、私は「はい。」と元気に返事をする。
和やかな空気が流れた。
そこに、ある言葉がつきささる。
「でもねー、でもねぇー。
翠ちゃんが、もうちょっと早く来てくれていたらさぁー、蒼輝もあんな姿にならなくて済んだだろうしー、チナリだって死なずに済んだかもしれないよねぇー。」
トーワくんは、そういうと両腕をテーブルの上に「グテー」と伸ばして、胸や顔をテーブルにくっつけて、うつぶせ状態になる。
チナリ?
ここへ来て初めて耳にする名前。
しかも、その人は死んだ?
その人の死が、蒼輝にも関係があって、さらに、蒼輝が『あんな姿』って・・・。
私ははやる気持ちを、必死で抑えて、ヒビキさんを見る。
彼の目を見た瞬間、言いたい事が滝のように口からこぼれそうになって私は慌ててブレーキをかける。
こういう時こそ、落ち着いて聞かなきゃ。
そう自分に言い聞かせる。
私の心の葛藤を、予想したのか心を読んだのかはわからないが、ヒビキさんは私が今一番聞きたがっている事を口に出してくれた。
「今、蒼輝が置かれている状況は、チナリに関係してる。
だから、まずは、チナリの事から話すね。」
ヒビキさんの言葉に、私は「はい」とシッカリと返事をして答えた。
☆☆☆END☆☆☆
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