7    7章 SEAL    〜封印〜
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H17年7月6日(水)
今の私の心は、二つの思いで支配されていた。
それは、やっと蒼輝の事が聞けると言う喜び。
その一方で、初めて聞いた『チナリ』という人と蒼輝との関係。
名前から察するに、女性っぽい。
となると・・・彼女は蒼輝の恋人なんだろうか?
どんどん、想像を膨らましていくに連れて、私はどんどん・・・不安になってくる。
すると、急にヒビキさんの話を聞くのが恐くなる私。
そんな私の声は、たぶんヒビキさんには聞こえているとは思うけど・・・彼は、話始めた。
 
「さっき、話したチナリの事なんだけど、彼女は・・・。」
 
次の言葉を聞くのに、力の入った私は、思わず目を「キュッ!」と閉じてしまう。
そんな私に、次に続く事が届けられた。
 
「蒼輝の妹なんだ。」
 
「い・も・う・と?」
 
その予想外の答えに、張り詰めていた緊張が一気にとけた。
 
そっか〜。蒼輝の妹だったんだー。
よかった。
 
私は、心から「ホッ」として、思わず顔がにやけてしまう。
ホント一瞬の事だったんだけど、彼は見逃さなかった。
 
「翠ちゅぁ〜ん、どうしたの?」
 
焦る私に、事情がわかっているヒビキさんは、
 
「お前には、きっとわからない事だから、いいの!
それより、お前っ!
心配してるフリして、翠ちゃんに近付いてないか?」
 
とうまく話題を、変えてくれた。
そんな事には、全く気付かないトーワくんは、
 
「えっ?バレちゃったぁ〜?
いいアイディアだと、思ったのになぁ〜。
チェッ、チェッ、チェーだっ!」
 
そして、また下を「ベー。」と出してるし。
 
「さっ、こんなヤツは、ほっておいて、話を続けるね。」
 
と、ヒビキさんは笑いながら、そういうと話を続けた。
 
「女豹が生まれにくいのは、ランに聞いたと思うけど、現に今、この緑豹国には女豹はいない。
唯一居たのが、チナリだった。
彼女は、蒼輝が生まれてから、2年後に誕生したんだ。」
 
そこまで、聞いて私はある事を思い出した。
それは、夢で・・・いや、実際体験してたんだから、夢じゃないか。
私の命を狙った、あの2人組みの男たちが言ってた言葉。
「『GREEN LAND』特有の能力の香りがする。」と言った事と、「しとめそこねたやつも女だった。」という2つの言葉。
特有の能力と言うのは、豹になる力の事。
しとめそこねた女。ってのは、チナリさんの事だったんだー。
私は、一人で納得して、腕組をしながら、「ウンウン。」と頷く。
それを、みんなは、不思議そうに見ていた。
みんなの視線に気付き、私は慌てて、ショットガンを持っていた2人組みの男たちの話をした。
 
「チナリさんが、亡くなったのは、その男たちに殺されたの?」
 
私の質問に、トーワくんもランさんも言葉をなくす。
私は、つらさのあまり言葉が出ないのかと思った。
だけど、そうではなくて、チナリさんの死には、もっと深い秘密があるのだと、ヒビキさんの謎めいたこの言葉・・・。
 
「彼らがきっかけだった事は確かだけどね・・・。」
 
それで、私は察知した。
だけど、私は一つ不思議に思った事があったので、ヒビキさんに単刀直入に聞いてみる事にした。
 
「チナリさんが、王のメンバーに選ばれていない所からすると、チナリさんには、蒼輝たちみたいに、豹に変身できる事以外の特殊な力はなかったのは、想像はつきます。
だけど、特別な能力がなくても、豹に変身できたら、ショットガンを持っててもヘッチャラなんじゃないの?」
 
私の言葉に、ヒビキさんは「無理だな。」と、つぶやきながら首を左右に振る。
 
「俺たちは、彼らの事をハンターと呼んでいるが、彼らは全部で10人から20人くらいはいる。
どれも、体力にも銃の腕にも自信があるものばかり。
いえば、選び抜かれたエリート中のエリートと言った所かな。
その中でも、飛びぬけて凄腕なのが、翠ちゃんが出会ったあの2人。
アニキと呼ばれていた体のデッカイやつ。
アイツは、『ジギル』と言ってね、格闘のセンスは異常!
どこを攻撃しても、絶対に倒れない。
唯一攻撃が出来るのは、どんなものよりも硬くなっている蒼輝の体。
それでなら、ジギルに攻撃を与える事が出来るんだ。
それだけじゃなくて、ジギルは頭も良い。
その時々に、臨機応変に対応し、どんな状況でも冷静に判断するんだ。
こっちが、冷静さを失えば、間違いなく囲まれてしまう。
それくらい、ヤツは人間的にもやっかいなヤツなんだ。」
 
確かに・・・納得かも。
だって、私を見ても、アニキ・・・いや、ジギル。
彼は、冷静に判断してたもんなー。
できるなら、彼には二度と逢いたくないな〜。と心から思ってしまう私。
どっちかといえば・・・もう一人のナヨナヨしたやつなら、何とかなるかも。
 
「あれでも、彼はジギルの右腕と言われているんだよ!」
 
ヒビキさんの言葉に、私はビックリする。
心を聞かれたからじゃない!
あの、ナヨナヨしていたヤツが、ジギルの右腕って事に驚いた。
ホントに驚いた私は、口を開けてヒビキさんを見上げる。
 
「アイツは、見かけ通り名前も『トロイ』と言って、弱くて全然たいした事ないんだ。
ある事を除いてはね。」
 
「ある・・・こと?」
 
聞き返す私に、ヒビキさんは右腕を水平に上げる。
そして、右手の親指と人差し指を使って、指鉄砲を作り、それを私に向けて、「バン!」と口で音を付ける。
 
「銃?」
 
私の答えに、ヒビキさんは「わかった?」と少し笑う。
 
「トロイは狙撃手の名手なんだ。
ライフルで、狙うような距離でも、ショットガンもしくは、ただの銃でも狙いを定めて撃てる。
信じられないけど、本当なんだ。
だから、間近でトロイに狙われたら、絶対に逃げられない。
俺も、何度もアイツの鉛の弾、この体で受けてきたからね。」
 
ヒビキさんは、苦笑いをする。
 
「ヒビキさんでも、逃げれないの?」
 
「俺は、戦闘に関しては、チナリと対して変わらないくらい役に立たないんだ。
トロイと渡りあるけるのは、何も受け付けない体の蒼輝と、銃口から弾が出る前に、他の場所へ移動が出来るトーワ。
コイツラだけ。」
 
そうなんだー。
それにしても、ビックリした!
あのナヨナヨした男が、トロイって名前もピッタリ過ぎてビックリしたけど・・・銃の名手だったなんて!
そんな2人に狙われてた私って!!
 
そう考えて、「ゾー。」としてしまう。
よく、無事でいられたよ。と改めて思ってしまう。
そう思った私に、さらなる疑問が出てくる。
 
「ジギルとトロイが言ってた話からすると、チナリさんは彼らに、狙われていたんだから、何度も襲われてたんじゃないんですか?
ジギルはさておき、トロイに狙われたら、無傷では済みませんよね?
彼女は危険だとわかっていたのに、どうして、緑豹国から出たんですか?」
 
「それは、アイツらが、チナリの命を執拗に狙った理由と同じ理由なんだ。」
 
ヒビキさんは、そういうと私にクイズを出してくる。
 
「緑豹国の生活の糧となっている玉の事は、ランから聞いたと思うけど、その玉にあった2つの制約のうち、1つは何か覚えてる?」
 
そういえば、ランさんが言っていた。
なんだっけ?
私は、必死で記憶を辿る。
あっ!!
思い出した!
 
「『緑豹国の人間以外は、使う事ができない。』ですよね?」
 
私の答えに、ヒビキさんは、「そう!」と軽くあいづちを打つと、
 
「もう1つは聞いた?」
 
と聞いてくる。
私は、「まだ。」と首を振る。
 
「玉は、ある原石を加工した物なんだ。
その原石は、まだ俺たちが混血人間として誕生して間もない頃・・・。
そんな昔からここにあった。
だけど、国が二分して、緑豹国にバリアーを張ったせいで、その原石をこの地で育てる事が出来なくなってしまった。
その原石に、必要な温度やわずかな空気の流れといった、人間が調節できないような自然の調節が、バリアーの張られたこの地では、できなくなってしまったんだ。
それで、仕方なくバリアーが張られていない『光のない国』に、洞窟を作り、この原石を作るようにした。
緑豹国は北にある為、夜はすごく冷え込み異常なまでの寒さになる。
その環境に似た土地を探さなければならなかったんだけど、日本が滅んだおかげで、苦労せずにその地は見つける事ができたよ。」
 
ヒビキさんは、そういうと、あの謎の本を手に取り、後ろを向けると、1回めくる。
すると、そこに、はさんでいた一枚の紙が姿を現す。
彼は、それだけを抜き取ると、本は元の位置に戻した。
そして、2つ折にされた紙を開いて、私の前に置く。
 
「緑豹国が、ココ。」
 
「トントン」と指を指す。
確かに、紙のかなり上に載っていた。
 
「それで、洞窟が作られたのは、ココ。」
 
彼が指差す先は、緑豹国よりも・・・遥か南。
 
「南って・・・えっ?」
 
さっぱり意味がわからない私。
南に進めば、ココよりも暖かくなってしまう。
首をかしげる私に、ヒビキさんは教えてくれた。
 
「『光のない国』では、誰も生きていない。
そんなさびれた所に、『暖かい。』という言葉があるわけないよ。
日だって照らない。
緑豹国と、Wonder Landから遠のけば遠のく程、気温は下がる。
だから、この洞窟付近は、想像を絶する程の寒さなんだ。
そこへは、ただの人間はいけない。
豹との混血人間でなければ、その寒さは耐えられないんだ。
だから、Wondrer Landの人間には辿り付けないから、洞窟を破壊される恐れはない。
そして、その洞窟に入れる者が決まっていた。
それが、2つ目の制約。
『女豹である事。』
俺たち男の豹は、どうしても戦闘に出るから早死にしてしまう。
だから、生まれる確率は、低いが長生きをする面では、女豹がいい。と蒼さまは考えられたのだと思う。
そして、その女豹が洞窟に行く際には、彼女を守るために、能力を持っている王が護衛として付く事になっていた。
俺たちの場合は、分裂されてるから、俺をのけた蒼輝かトーワかが、護衛する事になっていたんだ。」
 
なるほどねぇ〜。
緑豹国の民の中で、玉の原石を取りにいけるのは、チナリさんだけだったんだ。
だから、チナリさんは、民の為に命の危険を覚悟で、『光のない国』へ行った。
きっと、チナリさんも恐かっただろうに・・・。
それでも、危険の中へ飛び込んでいった、チナリさんの力強さと、心強さに私は、脱帽感でいっぱいになった。
だけど・・・よくよく、落ち着いて考えると、チナリさんの死により、とても重大な事件が発生している事に気付き私は、思わず立ち上がってしまう。
 
「そしたら、原石は、いったい誰が取ってくるんですか?
女豹は、もういないんですよね!」
 
そうよ!
チナリさんが、亡くなった今、緑豹国の生活の糧である、玉の原石をいったい、誰が取ってこれるの?
私の鋭い問いかけに、ランさんもトーワくんも下を向き私から視線をそむける。
2人の態度をみて、ヒビキさんの答えを聞くまでもなかった。
 
「じゃあ、どうするんですか?」
 
その問いかけに、ヒビキさんはアッサリと、
 
「どうしようもないよ。」
 
と答えると、席を立ち、緑豹国が見渡せる大きな窓の前へ行くと、ただ黙って緑豹国を見ていた。
私たちの方を向いているヒビキさんの背中が、少し小さく見えた。
彼の背中から、手のうちようがなく、どうしようもないのだ。という事が伝わってきた。
その背中があまりにも、悲しげだったので、私は何か方法はないものか?と考えてみる。
 
「今、使っている玉を、何度も使う事は、出来ないんですか?」
 
私は、向かいにいるランさんに聞いてみる。
 
「玉に入っている物が、底を尽きたら、玉は割れて蒸発してしまって、跡形なく消えてしまうのです。
だから、再度、使う事はできないのです。」
 
「そっかー。」
 
1回くらいは再利用出来るんじゃないかと、期待していただけに、「ガクッ。」と肩を落としてしまう。
だけど、そんな事でめげている場合じゃない!
私は、他に何かないか?と頭を巡らす。
 
「ヒビキさん!」
 
私の声に、背を向けていた彼が、振り返る。
 
「今、緑豹国に残っている玉の原石は、どれくらいなんですか?」
 
私の問いにヒビキさんは、なぜか驚き、何も言わず、その場で止まる。
不思議に思った私は、ランさんとトーワくんを見るが・・・彼らもまた、驚いた表情で私を見ていた。
 
「・・・あの〜。」
 
私、変な事言ったかな?
恐る恐る彼らに声を掛ける。
すると、ヒビキさんは、驚きの顔から一変して、今度は少し笑いを浮かべる。
その笑いにつられるかのように、今度は順番にトーワくんに、ランさんに・・・みんな笑い出してしまった。
これは、一体?
真剣に聞いたはずなのに、笑われてしまった私。
 
「ねえー、何なの?」
 
チョット、腹が立ってみんなに聞いてみる。
 
「いや・・・実はね・・・。」
 
ヒビキさんは、そこまで言ったけど、急に笑いが込み上げて来たみたいで、言葉がそこで断たれてしまう。
そして、ただ三人の笑い声だけが、部屋中に響きわたる。
 
もう!なんなのよ!
完全に、怒ったぞ!
人が一生懸命考えて言ってるのに、みんなったらっ!
 
私の顔が、あからさまに「ムッ!」としてしまう。
その表情に気付き、ランさんとトーワくんは笑うのをやめる。
だけど、一人まだ笑っている人がいた。
 
「もうぉ〜、ヒビキ、笑い過ぎだってぇー。
翠ちゅぁんが、怒ってるでしょー。」
 
そう言われても、まだ「ククク。」と笑うヒビキさんに、トーワくんはさらに叱り付ける。
必死に笑いをこらえながら、ヒビキさんが口を開く。
 
「ごめん、ごめん。」
 
と言いつつ・・・まだ、笑ってるし・・・。
本当に、悪いと思っているの?と、疑いの眼差しを送る私。
ホントによく笑う。
普段は、クールなのに、ツボにハマると弱いタイプなんだろうな〜。
笑い上戸なんじゃないの?と思ってしまう。
しかし・・・彼をこんなに笑わせた物って?
 
「あの〜・・・。」
 
やっぱり、気になって聞いてしまう私。
笑いが、やっとおさまったヒビキさんは、開口一番に、
 
「ホント、悪かった。」
 
と、軽く頭を下げてわびる。
 
「さっき、翠ちゃんが言った事と、同じ事をチナリが死んだ日に言った人がいてね。」
 
「同じ事を?」
 
ヒビキさんは、私の言葉を聞きながら、また自分の席まで戻ると、謎の本を手に取る。
 
「さっきも言ったけど、この本の事を教えてくれた緑豹国の『長老』。
彼が、同じ事を言ったんだ。
彼は、この緑豹国の事や、この世界の事をなんでも、知っている偉大なお方だ。
その方と同じ事を、今さっき緑豹国に来たばかりの翠ちゃんが、言ったから驚きさとおかしさで、つい笑ってしまった。
ホントにすまなかった。」
 
ヒビキさんは、また軽く頭を下げる。
なるほどねぇ〜。
そういう事なら・・・仕方ない。
許してあげるか!
それにしても、その『長老』という人。
緑豹国や、この世界の事を何でも知ってるなんて・・・そんなすごい人がいるんだ。
どんな人なんだろう?
ヒビキさんが、一目置いてるひとなんだから、品があって頭がよくて、人間的にも器が大きい人なんだろうな〜。
チナリさんの死を悲しむ所か、冷静に緑豹国のゆくすえを、考えるあたり、相当頭のキレる人なのかもしれない!
私の中で、その『長老』のイメージがどんどん膨らんでいった。
それは、彼に逢いたい。と強く私を思わせた。
 
「それで、さっきの翠ちゃんの質問だけど・・・。」
 
長老の事を考えていた私は、我に返る。
 
そうだった!
今は、長老の事を考えてる場合じゃなかったんだ!
玉の原石が、いつまで持つのかを知りたかったんだ。
 
私は、浮ついていた気持ちを、入れ替えてヒビキさんに向き直る。
 
「すでに、玉に加工されているものと、原石そのものとを合わせても、もって3年くらいだと思う。」
 
「3年・・・ですか・・・。」
 
あまりの短さに、私はそれしか言えなかった。
3年なんて、あっという間だ。
水が貴重な緑豹国にとって、玉で水を保管する事は、本当に重要な事なんだと思う。
これが無くなってしまえば、緑豹国は崩壊してしまう。
・・・ほうかい??
 
私の頭の中で、また何かがひっかかる。
そういえば、ヒビキさんが言っていた。
『チナリさんを狙ったのは、同じ理由』だと。
チナリさんは、緑豹国を救う為に、原石を取りに行った。
彼女を狙っていた彼らが同じ目的だとすると・・・?
私は、モヤモヤする頭を、スッキリさせようと必死で考える。
そして、ある一つの答えが浮かぶ。
 
「ハンターがチナリさんを襲ったのは、チナリさんが死ねば、新しい玉は作れなくなる。
そしたら、今ある玉がなくなれば、緑豹国は自然と崩壊していく。
力では、蒼輝たちに勝てない。と思ったハンターは、玉に目をつけたという事ですか?」
 
核心をついた私の発言に、またもや驚きのヒビキさんは何も言わない。
それに、変わって拍手が聞こえてきた。
 
「翠ちゅぁ〜ん!すごい、すごぉ〜い!」
 
そういって、トーワくんははしゃいでる。
 
「翠さんって、不思議な人ですね。」
 
ランさんは、優しくわらいながらそういう。
私は、「えっ?」と目で彼女に問う。
 
「突然、こんな世界にきたのに、ものおじする所か、落ち着いて判断して、先を考えてる。
普通、そんな事はできませんよ。
それに・・・。」
 
彼女はそういうと、私の側まで歩み寄ってきて、私の両手を取る。
 
「翠さんには、不思議な力を感じます。
あなたになら、閉ざされた蒼輝さまの心を、取り戻す事ができるかもしれません。
いえ、それだけでなく、蒼輝さまを元の姿に戻す事ができるかもしれません。」
 
言い終わると、彼女は深々と私に頭を下げる。
心を取り戻すとか、元の姿に戻すとか・・・私には、意味がサッパリわからなくて、キョトンとしてしまう。
 
「ラン!いきなりそんな事言ったら、翠ちゃんが困ってしまうだろ?」
 
ヒビキさんはそういいながら、私に「ねぇ?」と言ってる。
苦笑いの私。
 
「順を追って話すから、翠ちゃんもランも座ろっか。」
 
ヒビキさんは、そういうとさっきまで座っていた席へ自分も戻り腰を降ろした。
 
「さっきのチナリの話しに戻るけど、翠ちゃんが魂だけ来た次の日に、アイツは一人で原石のある洞窟まで行ったんだ。」
 
ヒビキさんの言葉に思わず、
 
「一人で?」
 
と私は大声を上げてしまう。
それに対して、ヒビキさんはただうなずいて言葉を続ける。
 
「護衛はさっきも言ったけど、蒼輝とトーワが順番に付いていた。
で、今回は蒼輝の番だった。
だけど、ジギルとトロイがかまえている中にチナリは、蒼輝を連れて行きたくなかったんだろうな。
出発する予定だった時間よりも、4時間も早くアイツはこの村を出発したんだ。」
 
私は、何も言えなかった。
ただ、黙ってヒビキさんのいう言葉だけを聞いていた。
 
「緑豹国に住んでいる者は、みんな豹の血が混じってる。
だから、誰もが耳は動物なみによかった。
光のない国から聞こえてきた異様なまでの銃声の数に、国中が驚いたよ。
それで、イチ早くチナリが居ない事に気付いた蒼輝が、森へと急いだ。
それから、少しして蒼輝はチナリを連れて戻ってきたよ。」
 
「それで・・・チナリさんは?」
 
いつの間にか、私はヒビキさんの方に、身を乗り出して必死に話を聞いていた。
 
「外傷がひどく、かすかに息をしている程度だった。
緑豹国には、医者はいない。
代々伝わっている薬草で、直すしか方法はないんだ。
どんなに重傷でも、たいていの傷は直るんだけど・・・チナリの傷はもう成すすべがなかった。」
 
「それじゃあ・・・チナリさんはそれで亡くなったんですか?」
 
私の質問に答えたのは、今までずっと黙っていたトーワくん。
 
「チナリを殺したのは、蒼輝だよ!」
 
そうキッパリ言うと、
 
「あの時の事を思い出すと・・・僕、涙が出てきちゃうのぉ〜。」
 
といつものトーワくんに戻って、テーブルに顔を伏せて「おいおい。」泣いていた。
私は、トーワくんを慰めるどころか、彼の言った言葉が気になって、ヒビキさんに目をやる。
彼は、私が何も言わなくても、軽く頷いて話を続けてくれる。
 
「そんなチナリを見て、俺たちはもうダメだと覚悟を決めたんだ。
だけど、蒼輝は諦めずにある手段に出た。」
 
「ある・・・しゅだん?」
 
何か・・・胸騒ぎがする・・・。
一体、彼は何を?
 
鼓動が早くなるのを、ヒビキさんに悟られないように私は、必死で気持ちを落ち着かせた。
 
「俺たちみたいに豹に変身出来る者は、命が2つあるんだ。
つまり、俺たちには、ランみたいに変身ができない人間と、豹に変身出来る人間との命が宿ってる。
だから、国にとって大事な人・・・つまり、女豹が命を召される時、豹に変身出来るものが、豹に変身出来る人間の命を与え、助けなければならない。
そうして、女豹が途絶えないようにしていたんだ。
その命を与えるのは、神に願えば、簡単に命を移行する事が出来た。
それは、蒼さまが神とされた制約の一つだったんだ。
だけど、一つ掟があってね。」
 
彼は、そういうと、私を真っ直ぐにみつめた。
 
「王である緑の豹は、それをしてはいけない。
なぜなら、それをしてしまえは、豹の力がなくなりただの混血人間になってしまうから。
この国が守れなくなってしまう。
だろ?」
 
「う・・・ん。」
 
確かに・・・。
王が作れる緑豹国を守るバリアーも、作れなくなっちゃうもんね。
それは、わかるんだけど・・・。
 
「ヒビキさん・・・話が見えないよ!
ハッキリ言って下さい。
一体それは、どういう・・・。」
 
早く蒼輝の事が聞きたくて、私は思わずヒビキさんにイライラをぶつけてしまう。
だけど、それに対してヒビキさんも、私に落ち着くように言ったりしないで、核心を突いて話してくれるようになった。
 
「蒼輝自身が、豹に変身出来る人間の命をチナリに与えたんだ。」
 
「・・・・。」
 
驚きで言葉がでなかった。
彼が・・・・。
それで、私はランさんのある言葉を思い出した。
『豹になれない私は、決して緑豹国から出ないように言われているんです。』
つまり、彼が私を迎えに来なかったのは・・・。
 
「豹に・・・なれないから?」
 
まるで搾り出すように出た私の言葉。
私は心の中で、ヒビキさんが否定してくれる事を強く願った。
だけど、彼はシッカリと頷く。
 
「うそ・・・なんで?」
 
呆然とする私は、自分でも気付かないうちに、その言葉を発していた。
そりゃ、妹が目の前で死にそうだったら、どうにかしたいと思うのはわかるよ。
だけど、蒼輝が豹になれなくなったら・・・。
色んな思いが込み上げてくる。
そんな私に、ある言葉が届く。
 
「蒼輝は、チナリに負い目があったからさ、つぐないのつもりで、命をあげたんでしょ!
僕知ってるんだから!」
 
口をとんがらせていうトーワくん。
 
「負い目って?」
 
隣にいるトーワくんに、私は問う。
 
「蒼輝がチナリの思いに答えてあげたらさ、チナリは絶対に一人で洞窟に行かなかったはずだよ。
それに、蒼輝が命を与えなくてもさ、チナリを元に戻す方法だってあったのに〜!
蒼輝がさ・・・。」
 
「トーワ!」
 
トーワくんの言葉を、ヒビキさんがさえぎる。
今まで見た事がないくらい・・・ヒビキさんの厳しい顔。
 
「余計な事は言わなくていい!
その事は、関係ないだろ?」
 
ヒビキさんの言葉に、トーワくんもシュンとしながらも、
 
「ごめんなさい。」
 
といつになく素直に謝る。
一体・・・何なの??
気になる私。
きっと、私がその事を、すごく知りたがっているのは、ヒビキさんは心を読んでわかっていたはず。
だけど、彼はその事には一切触れずに、話を元に戻す。
 
「蒼輝は、一つの可能性にかけたんだと思う。
自分が、豹になれなくなれば、王は俺とトーワだけになる。
でも、それじゃあ、王は成り立たなくなる。
蒼さまが『王座が空かないように』と制約を交わしているため、きっと近いうちに・・・バリアーがとけるまでに、緑の豹が生まれてくるってね。
だけど、女豹はチナリを失えば、いつ生まれてくるか保障はない。
それに、緑の豹が命を移行する事は禁止されているから、成功するかも不安だったはずだ。
だけど、アイツはいちかばちかにかけたんだよ。
この国を守るために、豹の命をチナリにささげた。」
 
彼は、そういうとまた席を立ち、窓の前に歩いていく。
 
「ホント・・・アイツは、すごいよ。
俺には、そんな決断力はないな。」
 
ヒビキさんは、そういうと苦笑いを浮かべた。
 
「だけど・・・。」
 
私の言葉に、ヒビキさんは少し私の方を向く。
 
「チナリさんは、亡くなったんですよね?
どうして?失敗したって事なんですか?」
 
ヒビキさんは、緑豹国の村に目線を戻す。
私に背を向けたまま口を開いた。
 
「蒼輝の命は、無事チナリに移行された。
チナリはみるみるうちに、よくなったよ。」
 
「そう・・・。」
 
とりあえず、ホッとする私。
だって、蒼輝が豹の姿をかけたのに、失敗に終わったなんて聞きたくなかったから。
私が胸をなでおろすのを、ヒビキさんは背中で聞きながら、
 
「だけど・・・。」
 
と続けた。
 
「ちなりは、蒼輝の体の異変にすぐに気付いた。
自分が助かる為に、蒼輝が背負った代償は大きいと自分を責めた。
さらに、王がいなくなった事で、村の民を危険な目に合わす事になったと、さらに自分を責めて・・・。」
 
ヒビキさんは、そこまでいうと、顔を上に向け目をつむった。
 
「チナリは自ら命を絶ったんだ。」
 
「えっ!」
 
思わず、自分の口を手で押さえてしまう。
嘘・・・嘘・・・。
その言葉しか頭に浮かんでこない!
そんな・・・だって、蒼輝は?
命まで与えた蒼輝はなんだったのよ!
少しずつそんな思いが込み上げてきた。
 
「チナリさんが、亡くなったんなら蒼輝は元の姿に戻ったの?」
 
「一度与えた物は、もう元には戻らないのです。
ですから、蒼輝さまはそのままです。」
 
黙っていたヒビキさんに代わって答えたのはランさん。
私の視線の先は、今度はランさんに代わる。
 
「それじゃあ、蒼輝が与えた命は無駄だったって事?
チナリさんだって、蒼輝がどうして自分を救ったのかわかっていたんでしょ?
それなのに、どうして自ら命を絶つなんてそんな、ひどい事できたのよ!」
 
思わずランさんに怒ってしまう私。
それに対して、ランさんは落ち着いて答える。
 
「先ほども言ったように、豹の命を他人に移行する事が出来ます。
チナリさまは、蒼輝さまに自分の豹の命を与えようとしたのです。
そうすれば、蒼輝さまは豹の姿・・・。
つまり変身できる元の姿に戻れるからです。」
 
「そんな事が!」
 
驚く私にランさんは、「ですが・・・。」と続ける。
 
「チナリさまには、それは出来ません。
なぜなら、自分は本当は死んでしまっていたのを、他人の命で生きているからです。
『移行された命を、他のものに移行する事は己の死を意味する。』と掟があります。
つまり、与えられた命を、他人に譲渡するという事は、自分は生きる事を放棄した。とみなされてしまうのです。
ですので、チナリさまはめされてしまった。」
 
「そんな・・・。」
 
その言葉を口にしたと同時に、私の目からは一筋の涙がこぼれた。
だって、ひどいじゃない。
命を懸けて、チナリさんが頼んだのに、命を奪うなんて!
そんな掟ってある?
私は、くやしさで胸をいっぱいにする。
 
「だけど、それは昔から決まってる事なんだよ。」
 
ヒビキさんは、振り返り私にそう告げた。
 
「昔から?」
 
思わず聞き返してしまう。
だって、チナリさんは知らなかったのかと思ったから。
って、事は・・・・。
 
「チナリさんは、蒼輝に移行できない上に、自分も死んでしまうと知っていて、神に願ったって事?」
 
「そう!
1%も満たない可能性にかけたのか、蒼輝から奪った物の大きさに耐え切れなくなって、死に場所を探していただけなのか・・・。
今となっては、俺たちにはわからない。
まっ、そんな事を考えてる余裕は俺たちにはなかった。
俺たちには、残されたアイツの事で、手がいっぱいだったからね。」
 
「アイツって・・・蒼輝ですか?」
 
「チナリが死んで、二、三日はいつもと変わらず、王室で仕事をしたりしてたんだ。
俺たちも、安心してたんだけど・・・。」
 
そして、ヒビキさんは、右手を真っ直ぐあげて、村の丁度真ん中辺りにある家を指差す。
 
「チナリが死んで4日後、蒼輝はこの城を出て行った。
今は、あそこにいる。」
 
私は、席を立ち、ヒビキさんの側まで歩み寄る。
そして、彼が指す先を見る。
 
「あそこは?」
 
「蒼輝の実家だ。」
 
「実家?」
 
ヒビキさんに視線を移した私に、彼の目が重なる。
 
「今のアイツは、誰とも口を聞かない上に、目も合わさない。
ただ、椅子に座ってボーっとしてるだけ。
今日も、翠ちゃんを迎えに行く前に、蒼輝に逢いに行ったんだけど、反応はなかった。
だけど、翠ちゃんの姿を見れば、何かしら反応をするかもしれない!
俺は、チナリが死ぬ前でなくて、死んで蒼輝があんな状態になってから、翠ちゃんが来た。という事が、何か意味を持ってる気がしてならないんだ。
それが一体何なのかは今は、まだわからないけどね。
翠ちゃん!」
 
ヒビキさんは、私に呼びかけると、頭を下げた。
 
「翠ちゃんにとって、辛い再会になるかもしれない。
だけど、今の蒼輝に逢ってくれないか?
アイツ、チナリが死んで本当に辛かったはずなんだ。
言いたい事がいっぱいあったはずなんだ。
だけど、俺たちには一言も弱音を吐かなかった。
今のアイツの本当の姿・・・。
アイツの心にある闇を、聞いてやってほしいんだ。
翠ちゃんには、それが出来ると思うんだ。
頼む。」
 
ヒビキさんは、そういうとさらに深く頭を下げた。
それを見て、トーワくんも席を立つと、
 
「お願いしまっす。」
 
と言って頭を下げた。
それに、戸惑う私。
 
「2人ともやめて下さい!
私にそんな力があるとは思えないけど・・・。」
 
私の言葉に、下げていた頭をあげるヒビキさん。
そんな彼に私はハッキリと言った。
 
「話を聞いた今も、私は蒼輝に逢いたい。という思いは変わりません。
彼を救いたい。というより、今は『逢いたい』。
ただ、その思いだけです。
それでも、私を彼に逢わせてくれますか?」
 
私の依頼に、ヒビキさんは優しく笑う。
 
「それで、充分。
案内するよ。」
 
ヒビキさんはそういうと、2人で蒼輝の元へ行くので、トーワくんは城に残るよう告げた。
 
「えぇ〜!!
僕も行くぅー、行くぅー。
絶対行くもぉ〜ん。」
 
と叫んでヒビキさんの後ろを歩く私の後ろに、ピタっと張り付いてくる。
その時だった。
心から、ある声が聞こえた。
 
『トーワをおだてて。じゃないと、付いてくるよ!』
 
私は、ビックリして足を止める。
今の声・・・。
そして、目の前にいる人を見る。
ヒビキさんは、顔色一つ変えずに、扉に手をかけていた。
 
「ねぇー、ねぇー。翠ちゅぁ〜ん!
止まってどうしたのぉ?
後ろ詰まってますよぉ〜。
進んでくださぁ〜い!!」
 
そう叫ぶトーワくんの方に振り向く私。
よしっ!
気合いを入れた私は、トーワくんを追っ払う作戦に出た。
 
「ねぇー、トーワくん!
ここで、緑豹国を見張っててよ!
トーワくんは、すっごい早く走れるんだよね。
何かあったら、すぐにみんなを助けられる救世主じゃない!
ねっ!お願い。
頼りにしてるからね。」
 
両手を重ねて、拝んでお願いをしてみる。
一方、トーワくんは・・・・。
 
「救世主・・・僕がぁ〜〜!!」
 
と・・・ジャンプして「ワァ〜イ、ワァ〜イ!」と喜んでるし・・・。
 
「わっかりましたぁ〜。
僕、ここでみんなを守っててあげるぅ〜!!
まかせて、まかせてぇ〜。」
 
トーワくんは、うれしそうにそういうと、窓までスキップで進む。
 
「じゃ、安心して2人は行ってらっしゃぁ〜い!」
 
と両手を大きく振ってるし。
 
「じゃ、お願いね〜。」
 
笑顔で私は手を振る。
ヒビキさんが廊下に続く扉を開けて待ってくれていたので、そこまでダッシュして部屋から出た。
扉を閉めたヒビキさんは、速攻こう言った。
 
「翠ちゃん、おみごと!」
 
私は、ヒビキさんに思わずブイサイン!
 
「でも、ヒビキさんのアドバイスのおかげです。」
 
ヒビキさんは、「クス。」と笑う。
 
「これで、邪魔者はいない。
ユックリ、蒼輝と再会できるね。」
 
彼の言葉に、私は心から笑顔になる。
彼が、どんな姿でも、どんな状態でもいい。
・・・やっと、逢える。
ずっと、ずっと逢いたかった・・・蒼輝に。
 
             ☆☆☆END☆☆☆
 
 



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