俺たちは、今、裁きの門に居る。
自称、神だと言い張る、見るからに怪しい目の前の男!
特に怪しいと思わせるのが、この独特の話し方だけど・・・。
まー、それは、あえて、深く追求しないでおこう・・・。
今、俺たちにとっての、最大の問題は、このシャールンが出したお題を、クリアーしないと、いけないという現実だった。
失敗は許されない。
とはいえ、真音(マナト)がシャールンと話をしているのを聞く限り、シャールンが俺たちの味方である事に、間違いはなさそうだ。
俺と翠(スイ)との愛を深くするために、このお題を出しただけで、万が一、クリアー出来なくても、なんだかんだと理由をこじつけて、別のお題を俺たちに与え、チャンスをくれるだろう。
だけど、それじゃ、困るんだ。
チナリとの約束があるのもそうだけど、それだけじゃない。
俺たちは、一刻も早く、ワンダーランドへ行き、ヒビキを救わないといけない。
だから、ここで、長い時間足止めをくって、シャールンが出すお題を、何度も何度もやっている場合じゃないんだ。
真音(マナト)が言ったように、ヒビキが本当にラウオの元で生きているなら、アイツはラウオの血液を拒絶してるはずだ。
アイツが生き返ってから、ざっと、1ケ月の月日が経っている。
慎重なアイツの性格上、きっと、飲まず食わずでいるだろう。
衰弱している体で、無事でいるのかと、心配ではあるけど、それより、一番の気がかりは、アイツが『ヒビキだ』って事だ!
当たり前だろう?って・・・いや、そうじゃなくて。
じゃ、どういう意味かって?
考えてもみろよ。
アイツは、ラウオすらも、一目置いてるくらいの頭脳を、持っているんだぞ。
俺たちが、響厘(コウリ)の誕生を祝う祝宴をあげていると、ラウオから聞かされたら、アイツの事だ、疑問を抱くだろう。
なぜ、そんな事をする?
目的は?・・・と。
パズルみたいに、疑問のピースが、ドンドン増えていって、やがて、アイツは真音(マナト)の存在に、辿り着くだろう。
そしたら、今度はバラバラのピースが、信じられないくらいのスピードで、くっつきだす。
そして、アッという間に、パズルは一枚の絵になるんだ。
俺たちが、神界(シンカイ)を目指しているという絵(エ)にな。
そこでアイツは、思うだろう。
ここで、じっと救出を待ってるだけじゃダメだ。
蒼(アオイ)さまを連れて、脱出しなくては!と・・・。
だが、今のヒビキの体で、蒼(アオイ)さまを連れて脱出なんて、自殺行為だ。
何があっても、アイツにそんな事をさせるわけにはいかない。
一刻も早く・・・。
ヒビキが、事を起こすよりも早く・・・。
俺たちは、ワンダーランドに、侵入しなくてはいけないんだ。
だから、このお題が、翠(スイ)にとって、過酷な事でも、たった1人で、クリアーしてもらうしかない。
心身ともに、強くなってきている翠(スイ)に託す事。
それとあとは、記憶を失った俺が、なるべく翠(スイ)を傷付けないでくれ。と願う事。
俺に出来る事といえば、情けないがその程度だった。
だから、俺は、感謝した。
真音(マナト)のナイスな提案に。
アイツは、サンガをうまく、こちらに呼ぶ事に成功した。
サンガは、俺と翠(スイ)の恋が成就する事を、誰よりも願ってくれている人物だ。
つまり、翠(スイ)の味方だ。
本来なら、シャールンが作った世界に、一緒に入る事は出来ないけど、そこは、真音(マナト)の頭脳が勝(マサ)った。
神であるシャールンを、うまく丸め込み、サンガも一緒に入れる事になった。
今、シャールンが、一生懸命、能力を使って、緑豹国(リョクホウコク)にいるサンガを、ココ、裁きの門に呼び寄せている所だ。
そんなシーンを、俺は眺めながら、「フッ。」とある事に気付いた。
それで、急に不安になった俺は、真音(マナト)の方に振り返る。
真音(マナト)も、シャールンの行動を見ていたけど、振り向いた俺の姿が視界に入ったのか、俺に焦点を合わした。
そして、自分を見ている俺に対して、「ん?」って顔をしたものだから、俺は、翠(スイ)から離れると、真音(マナト)の元へと近付いた。
なるべくならシャールンには、聞かれたくないので、俺は、シャールンから、一番遠い位置にいる真音(マナト)の場所まで急いだ。
それを感じたのか、真音(マナト)は一歩も動かずに、ただ、俺の到着をその場で待っていた。
真音(マナト)の側に辿り着いた俺は、わざと、真音(マナト)を見ずに、シャールンに目を向けた。
もちろん、真音(マナト)を見て、話したかったよ。
だけど、じっと見つめ合って、真音(マナト)と話していると、シャールンにどんな重要な話をしているんだ?と、勘(カン)ぐられるだろ?
だから、視線はあくまで、シャールンを見たまま。
そして、真音(マナト)もまた、俺と同じ考えなのか、俺の方には、一切視線を送る事無く、シャールンを見たままだった。
「何か、気になる事でもあるのか?」
先に口を開いたのは、真音(マナト)だった。
それに対して俺は、「ああ。」と答えると、すぐに真音(マナト)に引っかかっていた事を言った。
「ラウオが蒼(アオイ)さまに乗り移らせようとしているのは、サンガか、トーワなんだろ?
もし、サンガにしようとした時、サンガが緑豹国(リョクホウコク)にいなければ、乗り移れない。
そうなった時、疑われないか?
『どうして、緑豹国(リョクホウコク)にいるはずのサンガに乗り移れないんだ。』と・・・。」
だけど、真音(マナト)は、「それは、心配いらない。」と、キッパリ言うと、少しだけ笑った。
「出発前にも、言っただろ?
蒼(アオイ)さまの能力は、たぶん、豹の血が流れている者でないと乗り移れない。
もちろん、そんな事、蒼(アオイ)さまが言っているはずないから、ラウオも断定はしてないだろうけど、ヤツの事だ。
たぶん、薄々は、それに気付いているだろう。
そして、もう1つ。
ラウオが、気付いている事がある。」
そう言って黙った真音(マナト)の言葉の続きが、すごく気になって、俺は、思わず真音(マナト)の方に顔を向けて言ってしまう。
「なんだよ!もう1つって・・・。」
切羽詰ったような声を上げた俺に対して、真音(マナト)は、俺を一瞬みたけど、すぐに視線をシャールンに戻した。
一瞬の目の動きだったけど、それは、まるで、俺に、『こっちを見るな。』と言っているように感じて、俺は、素直に「悪い。」と小声で反省すると、目をシャールンに向け直した。
それを、横目で見えたのか、俺の視線が戻った頃、真音(マナト)は再び口を開いた。
「サンガが、緑豹国(リョクホウコク)に入れたのはなぜか・・・って事。」
「えっ?」
と驚きの声を上げた俺は、真音(マナト)を見たかったよ。
でも、なんとか、それは堪えて、顔は正面を向いたままだったけど、本気で驚いていた。
だって、それって、つまり、トーワの黄色い玉(ギョク)の存在がバレたって事だろ?
1人、頭の中で焦りまくる俺に、
「最後まで、話を聞けよ。」
と少し笑いながら言った真音(マナト)は、パニックの俺に、ちゃんと聞こえるように、少しだけ口を俺の方に近付けた。
それも、極自然な感じで・・・。
「きっと、ヒビキさんにも聞いているはずだ。
もちろん、そんな事、ヒビキさんが正直に答えるはずもない。
それなりに、もっともらしい理由をつけて、ごまかしてくれるだろう。
けど、玉(ギョク)の存在にまで、辿り着かないにしても、サンガの体内の血が、豹の血になるように、なんらかの方法が行われたとは考えているはず。
つまり、サンガも、今は、豹の血が流れている人物となっているわけで、蒼(アオイ)さまが、乗り移る事が可能である。と理解しているはずだ。」
って・・・・オイ!
その説明だったら、なおさら、サンガに乗り移られる可能性が、50/50(ヒフティー・ヒフティー)じゃねぇーか。
何が、『心配いらない。』だよ・・・。
大問題だろが!!
と俺が、反論しようとした時、真音(マナト)は、俺の心の中がわかったのか、俺にその言葉を言わせず、さっさと、自分の胸のうちを話し出した。
「一見、トーワくんとサンガ。
乗り移る確率は、五分と五分に思えるだろう?
だけど、ラウオは100%の確率で、トーワくんを狙う。」
あまりにもハッキリ言う真音(マナト)に俺は、言葉が出なかった。
思わず、真音(マナト)に目を向ける俺に、真音(マナト)もゆっくりと俺に顔を向けた。
不安そうな瞳をしている俺と違って、真音(マナト)の瞳は、余裕たっぷりの光を放っていた。
「じゃ、なぜ、『2人のどちらかが狙われている。』と、仲間に言ったか。って事だけど・・・。
それは、気付かれたくなかったからだよ。」
「気付かれたくないって・・・何を?誰に?」
キョトンとした目で聞く俺に、真音(マナト)は少し緊張した面持(オモモ)ちで、こう言った。
「『サンガが、俺たちの仲間になる事が、実はラウオの狙いだった』という事を、俺が気付いていると、『サンガ』に知られない為だ。」
「えっ?」
と驚く俺に、真音(マナト)は、今ついたばかりのサンガに目を向けた。
「俺は、ずっとひっかかっていた。
なぜ、ラウオは、サンガを生かしているのだろうって。
サンガは、とても優秀なジギルの部下だったはずだ。
そして、何よりすごいのは、彼の作り出す技術。
お前も、知ってるだろ?
サンガが、この1年で、いろんなアイテムを作り上げた事を。
俺も、見せてもらったんだよ。
彼の研究室へ招待されてね。
それを見て思ったんだ。
サンガが居れば、先進国であるワンダーランドと肩を並べて戦えるだけの武器が、緑豹国(リョクホウコク)でも作れる。
つまり、サンガを生かすということは、ラウオにとって、戦いが苦戦するのは、目に見えてる。
なのに、どうして、ラウオは、前回の戦いで、崖の上まで、蒼輝(ソウキ)とサンガとヒビキさんを追い詰めておきながら、みすみすサンガを見逃したのか。
蒼輝(ソウキ)やヒビキさんは殺せないにしても、サンガはただの人間だ。
卑怯な手を使ってでも、本気を出せば殺せたはずなんだ。
なぜ、しなかったのか・・・その答えは・・・・。」
って、そこで、止められると気になってしかたないって。
俺は、もちろん、せかすように真音(マナト)に聞いていた。
「答えは?」
すると、真音(マナト)は、少しだけ悲しい顔をした。
「サンガは、俺たちに何かを隠してる。
その何かは、たぶん、裏切り行為に近いことじゃないかと・・・。」
「えっ?」
と言ったあと、『裏切りって何?』と俺が聞く前に真音(マナト)は、軽く首を振った。
「残念だが、そこまではわからない。
でも、ラウオは知ってるんだ。
それが、何かを・・・。
サンガが、すでに俺たちに何かをしているのか?
それとも、サンガのせいで、これから先、俺たちに不利な何かが、起こってしまうのか・・・。
おそらく、このどちらかだとは、思うんだけどな。
それを、ラウオはいつか、俺たちにバラすだろう。
それも、絶妙のタイミングでな。
俺たちの一番の武器は、絆だろ?
指令塔のヒビキさんを奪い、頼りになるサンガも奪う。
こんな感じで、ラウオは初めから、蒼輝(ソウキ)や翠(スイ)ちゃんを固めている周りから、崩していくのが狙いだったんだ。
まるで、俺たちの身包みを、はがしていくかのようにね。」
俺は、愕然とした。
サンガが、俺たちに何かを隠してる??
そんなまさかっ!って・・・。
だけど、俺は、その気持ちと同じくらい、『きっと、大した事じゃないさ。』とも思えたんだ。
サンガが、過去に俺たちに何をしてようと。
これから俺たちに、何かを仕掛けるんだとしても。
俺たちの仲間である事に、偽りはない。
それを知ったからと言って、俺はサンガへの態度を変えるつもりはない。
まして、これから、翠(スイ)を託そうとしている事をやめようとも思わない。
それくらい、俺はサンガを信頼してるんだ。
だから、俺は自信を持って真音(マナト)に言ったんだ。
「何があっても、サンガが仲間であることに変わりはない。
サンガを、手放すつもりはないよ。」
と。でも、真音(マナト)は、ゆっくりと首をふる。
それは、まるで、俺の意志は意味が無いといわれているようで、俺は嫌な予感がしたんだ。
ラウオが俺たちに、本当のサンガの姿を暴露した時、何が起こるのか。
ラウオが、俺たちから、『サンガを奪う』という本当の意味を・・・。
俺は、真音(マナト)の口から知らされ、正直・・・寒気がした。
真音(マナト)が言った、ラウオの狙いは・・・こうだった・・・。
「ラウオの狙いは、俺たちに動揺を与え、平常心を失わせる事だ。
サンガの秘密を知った動揺と、サンガの死を目の前で見せられた2つの動揺。
ついでに付け加えておくと、サンガの死は、俺たちにショックを与えるだけでなく、戦力を低下させる狙いもある。
アイテムがなくなるという事は、俺たちの勝機も薄れること間違いないからな。
つまり、ラウオが、サンガの秘密を、俺たちに暴露した時、間違いなく、サンガの命はなくなる。」
とハッキリ言った真音(マナト)は、何もいえない俺に向かって、さっきよりも、険しい顔つきで、さらにあることを口にした。
その声や風貌(フウボウ)から、明らかに、今言った事よりも、重要と言うか、厄介ごとというか・・・。
今の事でも、重要ですごい内容だったのに、その上を行く、さらにすごい話なんだと、感じれた。
今のよりもすごい事って・・・一体何だ?
俺は、内心ビビリまくっていた。
戸惑う瞳で、チラっと真音(マナト)を見る俺に、真音(マナト)は正面を向いたまま、口を開く。
「ラウオは、サンガを生かしておきたい。
もちろんのことながら、体力の消耗も、避けたいはず。
それを考えれば、十中八九、乗り移るのは、サンガではなく、トーワくんを選ぶだろう。
だけど、俺たちが一番気にしないといけないのは、『蒼(アオイ)さまが誰に乗り移るか』でも、『サンガが何を隠しているか』でもないんだ。」
「じゃ・・・なんだよ。」
戸惑った声で言った俺に真音(マナト)は、さっき険しい顔つきになった、最大の理由である、驚く事実を口にしたんだ。
「サンガが、ラウオの狙いに、気付いている事だ。
それも、殺される事までな・・・。」
「それ・・・本当なのか?」
思わず真音(マナト)の腕をつかむ俺に、恐いくらいハッキリと、「ああ。」と答えた真音(マナト)は、サンガから俺に目を移動させる。
動揺している俺の目とは違って、真音(マナト)の瞳は、全く揺らいでなかった。
凛とした真音(マナト)の瞳が、反対に恐いと思えるくらいだった。
「だから、アイツは、寝る間も惜しんで、アイテムを作り続けているんだ。
自分に残された時間は少ない。
サンガを失った俺たちが、ラウオと有利に戦えるようにと、サンガは必死でいろんな物を作ってくれてる。
サンガは、覚悟してるんだ。
その時が来たら、ラウオが、仕掛けてくる前に、自らの意志で俺たちの前から消える事を・・・。
そして、ラウオが仕掛けてこなくても、別の場面で、もし、俺たちに危険が及べば、迷わず俺たちの盾になって、俺たちを守ろうとな・・・。」
「それって、つまり・・・。」
「ああ。死だ。」
とキッパリ言った真音(マナト)は、さらに言葉を続けた。
「そこで、一番厄介なのは、サンガの覚悟だ。
サンガは、俺たちのために命を捨てる事など、何とも思っていない。
むしろ、それが、本望だと思っているだろう。
正直、今のサンガは、いつ、何をしでかすかわからない。
考えたくもないが、今のサンガを見る限り、それが現状だ・・・。」
と言った真音(マナト)は、「でも。」というと、すごく強い声をあげた。
「そんな事は、絶対にさせない。
だからこそ、サンガから目を離すわけにはいかないんだ。
とはいえ、ここに最初から連れてくるとなると、サンガの抱えてる闇に、俺が気付いた事がバレてしまう。
だから、仕方なく緑豹国(リョクホウコク)に置いてきたんだけど、いいいキッカケが出来て、ホント助かったよ。」
それを聞いてわかったよ。
真音(マナト)が、響厘(コウリ)の祝宴を開いた本当の狙いが。
つまり・・・こういう事だ。
「俺たちがラウオの行動に、何1つ気付いていなければ、ラウオは戦法を変える必要がない。
という事は、現状維持になるわけで、サンガが追い込まれる事はない。
サンガを緑豹国(リョクホウコク)に置いてくる以上、サンガに危険が及ばないように環境を整えた。
さしずめ、そういう所か・・・。」
俺の理解に、「ご名答。」と笑顔で言った真音(マナト)は、少しだけ安心した笑いをした。
その笑いが気になって俺は、「何?」と真音(マナト)に聞いた。
それに対して真音(マナト)は、「すごいなーと思ってね。」というと、俺の肩をポンと軽く叩いた。
「サンガの闇を聞いて、ちょっとは、動揺するのかと思ったけど、全く動じなかったからさ。
サンガを疑っていた・・・わけじゃないんだろ?」
それには、「ああ。全くな。」と答えた俺は、さらに笑う。
俺のその姿に、
「すごい信頼だな。」
と半ば呆れた口調で言った真音(マナト)だったけど、すぐに、「そうだ。」と言うと、俺に言い忘れを伝えてきた。
「一応言っておく。
この事は、蒼輝(ソウキ)以外だと、長老が知ってる。
まー、これから、異空間に入るわけで、ラウオも手出し出来ないから、サンガが追い込まれる事はないだろうけど、なかなか蒼輝(ソウキ)と2人になれる機会がないからさ。
ほら、蒼輝(ソウキ)の側には、いつも、翠(スイ)ちゃんがくっついてるだろ?
だから、今のうちに言わせてもらった。
頭の片隅にでも、置いておいてくれ。」
真音(マナト)はそう言って、俺の肩から手を離した。
俺はと言うと、真音(マナト)の言葉に素直に、「ああ。」と答えてた。
俺たちが話し込んでいる一方で、シャールンに呼び出されたサンガが、裁きの門に足を踏み入れた。
シャールンの目の前に、立っているサンガ。
突然、こんな所に連れてこられて、困惑しているのかと思いきや、サンガの顔は、特に驚いている風もなければ、顔もキョロキョロと動かす事もなく、反対に不思議なくらい堂々としていた。
そのサンガの様子に俺は、疑問を感じた。
「アイツ・・・なんで、あんなに落ち着いてるんだ?
普通、いきなり、体が瞬間移動したら、驚くだろ!」
とついつい、独り言でサンガにダメだしをした俺。
その独り言は本当に大きかったようで、隣にいた真音(マナト)にも、普通に聞こえていた。
普通に聞こえ過ぎて、真音(マナト)は自分が受けた質問だと勘違いしたのか、俺に返事を返してくれた。
「説明を受けた上で、ココに来たんじゃないかな?」
その言葉に、「えっ?」と驚いた俺は、真音(マナト)を見た。
俺の独り言に返事をくれた事と、『説明って、いつの間に?』という疑問とが重なった俺は、『えっ?』しか言えなかった。
次の言葉も出ないで、真音(マナト)をただ見る俺に、真音(マナト)は俺に、「クス。」と声を出して笑った。
「よく考えても見ろよ。
突然、サンガが目の前で消えたら、思わないか?
『蒼(アオイ)さまの仕業じゃないのか?』『ラウオの指図か?』って・・・。
そうなれば、みんなが混乱してしまうし、その直後に、本当に蒼(アオイ)さまがトーワくんに乗り移ったりしたら?
想像しただけでも、緑豹国(リョクホウコク)は大パニックだ。
そんな事、シャールンさんがするわけないだろ?
彼は、俺たちの味方なんだからさ。
俺たちには、ただ、祈っていただけにしか見えなかったけど、ちゃんと、会話を成立させてたんじゃないかな?
テレパシーか何かで。」
と真音(マナト)が言い終わった時、今までただボーっと立っていたサンガが、ユックリと顔を動かし、周りをぐるっと見た。
そして、一言・・・。
「ここが、裁きの門か・・・。」
と口にした。
それを聞いて、思ったね。
ホント、真音(マナト)って、この世にわからないことってないんじゃないのか?って。
「お前って、ホント・・・すごいよ。」
と俺は、呆れた顔で真音(マナト)を見るけど、俺が尊敬を通り越して呆れているのがわからない真音(マナト)は、「ん?」とキョトンとしてる。
俺は、さらに、何も言えなくなって、ただ首を軽くふって、それ以上いうのを拒否した。
俺も真音(マナト)も、ハッキリ言って、この時、油断してしまってたんだ。
シャールンは、ラウオが嫌いだ。
そして、俺たちはラウオを倒したい。
いえば、目的は一緒だ。
だから、俺たちは、どこかで、シャールンに対して、甘さがあったのかもしれない。
そう改めて感じたのは、それから、数分後に起きた出来事でだった。
急に、シャールンは、サンガの目の前に、シュンと瞬間移動した。
近くで見ると、本当にデカイんだよな・・・シャールンって。
まるで、岩みたいにさ。
そして、サンガもそう感じたんだろうな。
突然、目の前に来たシャールンに、怖気づいたのと、驚いたのとで、何もいえず、逃げ出すことも出来ず、ただ、ハッとした顔でシャールンを見ていた。
そんなサンガにシャールンは、優しい微笑みをした。
「へぇー、じぶんが、サンガっちゅーんやな!
蒼輝(ソウキ)の恋敵(コイガタキ)だけあって、なかなかのイケメンくんやなー。」
と言ったシャールンは、おもむろに、「ほな、よろしくやで。」と言いながら、右手を差し出した。
その動作を見た瞬間、俺も真音(マナト)も咄嗟(トッサ)に、
「出すな!」
と口にしたけど、もちろん、サンガにまでは聞こえていないし、言った所で、間に合わない。
シャールンのこの笑顔。
そして、この敵意を感じない言葉に、優しい口調。
そんな態度で、手をさしのべられたら、安心しきってしまって、ついつい条件反射で、手を出してしまうだろう。
俺や真音(マナト)やヒビキはさておき・・・トーワ。
アイツなら、間違いなく、手を出してたな。
そして、俺は、サンガも、出すかと思ったんだ。
サンガは、シャールンの力を知らない。
手なんて捕まれたら、心を読まれる。
そうなったら、サンガが、俺や翠(スイ)に抱いている気持ちを読まれてしまう。
翠(スイ)の味方になるとバレたら、サンガは異空間に入れなくなる。
もう、ダメかと思った。
本気で、俺も真音(マナト)も焦ったんだ。
だけど、なんと、サンガは予想外の行動を取った。
まるで、それは、ハンターで培(ツチカ)った勘が働いたと思わせるくらい、意外な行動。
サンガのやつ、手を・・・・出さなかったんだ。
それだけでも、俺はよくやった!と褒めたのに、サンガはそれだけでは終わらなかった。
シャールンと近づくのは危険と感じたのか、サンガは、数歩後ろに下がり、シャールンが手を伸ばしても、自分に触れられないくらいの距離を保った。
そのサンガの動作に、
「どないしたんや、じぶん。」
とあくまでとぼけて、少し驚き顔を見せたシャールンに、サンガも負けずに言葉を投げる。
「あんたさ・・・神様だよな。
神が、気安く、下界の人間なんかに、握手なんてしちゃマズイだろ?
それとも、俺と握手して、何かを得たいとか?」
と反対に、シャールンの目的を見破り、指摘したサンガ。
さらには、「まさかね。」といって、笑ってるしさ。
ホント、コイツも、恐いやつだよ・・・。
と俺は改めて思った。
そして、そう思ったのは俺だけではなかった。
シャールンも、サンガを見て感じたんだろう。
笑っているサンガの笑顔には、『触れさせるか。』という、敵意ともいえる強い思いが込められているのを。
その証拠に、シャールンは、
「じぶんも、なかなか、あなどれんやっちゃなー。」
と苦笑いすると、サンガを見たまま後退し、さっきのソファーまで戻ると、またドッカリと腰を下ろし足を組んだ。
そして、しばらく、まっすぐにサンガを見ていた。
目をそらさず、瞬きもせず・・・。
ただ、サンガを見てただけ。
その時間は、1分くらいあったかもしれない。
見続けられる事に、何か気持ち悪さを感じたサンガは、たまらず目をそらす。
そして、目をそらしたまま、サンガは、
「何なんだ・・・今の・・・。」
と不思議な声を上げた。
正直、俺たちには、サンガの言っている言葉の意味はわからなかった。
でも、1つわかる事があった。
それは、気丈に振舞ってはいるけど、明らかに、サンガの様子がおかしい事だ。
見るからに、息だって上がってるし、何か足も・・・ふらついてないか?
ただ、立ってるだけなのに・・・。
俺の心が、ザワザワと騒ぎ出した。
その時、俺の側で、真音(マナト)が、「おかしいな。」と口にした。
俺は、真音(マナト)に顔だけを向けた。
そこで俺が見た真音(マナト)の目は、何かを見抜く、鋭い眼差しだった。
そのあまりの迫力に、つい、ひるんでしまう俺に真音(マナト)は続ける。
「どうして、シャールンの目を見ない・・・。」
と独り言のように言った真音(マナト)の疑問。
それが気になって俺は、サンガを見た。
言われて気付いた。
確かに・・・。
目をそらしたサンガは、今もなお、シャールンから、視線をそらしてる。
シャールンの目に何かあるのか?
一瞬そんな考えが頭をよぎった。
だけど、俺たちもシャールンと目を合わせたが、何も起こらなかった事に気付き、俺は、疑問を掻き消した。
そして、改めて浮上する疑問。
一体・・・どうしたんだ?と・・・。
気になった俺も、真音(マナト)も、止めていた足を動かして、サンガの元にいこうとした。
でも丁度、その時、さっきまで、全く動かなかったシャールンが、急に動き出したんだ。
瞬きをしたり、足を組み替えたりと、体を動かし始めた。
さっきまで、瞬きすらしてなくて、全く動かなかったシャールンが動いた事に、俺も真音(マナト)も気を取られて、動き出すはずだった足も止まってしまった。
シャールンの不可解な行動は、何なんだ?
一体、サンガに何を?
そう思った時、意外にも、シャールン自ら、俺たちに暴露したんだ。
もちろん、話しかけたのは、俺たちにじゃない。
サンガにだった。
その内容とは・・・驚くべき事だった。
「なるほどなー。
じぶん、なんか、蒼輝(ソウキ)らと、においが、ちごてる(=違ってる)と思たら、純血人間やったんかいな。
さっきの勘が鋭い芸当は、ハンターの時の腕前やったんやな。
それにしても、驚いたで!
黄色い豹の下僕(ゲボク)くんが作る黄色の玉(ギョク)を飲んで、緑豹国(リョクホウコク)の人間になりよるとは・・・。
じぶんの覚悟には、恐れいったで。
かっこえーやないか、にいちゃん!」
と淡々とした口調でいうシャールン。
サンガも翠(スイ)も、キョトン!としていたが、俺も真音(マナト)もハッキリ言ってギョッ!とした。
心臓がつかまれた気がしたよ。
「あのバカっ!」
と俺は叫び、そして、真音(マナト)は、
「チッ!」
と舌打ちをして、それぞれが、同時に走り出した。
俺たちは、どっちがどっちに回るだなんて、言い合ったわけでもなかった。
でも、不思議と重なることなく、まるで、話し合ったかのように、瞬時にお互いが行くべき場所へと向かっていた。
俺は、サンガの元に向かい、真音(マナト)は、まるでサンガの盾になるように、サンガとシャールンとの間に割って入った。
だが、俺たちの行動を見て、シャールンは、
「今更、無駄やでー。」
と右手をパタパタしながら、余裕の笑みをこぼすと、真音(マナト)に勝ち誇った笑いをした。
そして、ヒラヒラしていた右手を、自分の目に当てた。
「サンガの今までの記憶は、視覚から覗かせてもろたで。
これまでの事は、全部見せてもろたさかいにな。
青鳥国(セイチョウコク)で、蒼輝(ソウキ)と2人で語り合った恋の話もな。」
その言葉に、真音(マナト)は、「えっ?」と言うと、俺たちの方に振り返った。
「恋の話って・・・まさか!!」
と言葉を失う真音(マナト)に、俺は苦笑いをした。
真音(マナト)の察しの通りだ。
シャールンが見た、青鳥国(セイチョウコク)でサンガとした話。
あの時の話の内容は、簡単にいうと、サンガが俺と翠(スイ)との仲を祝福してくれるという話。
つまり、サンガが、俺から翠(スイ)を奪おうと思っていないという事がわかる会話ってわけだ。
全て、シャールンにバレてしまった。
これでは、サンガを中に入れてもらえない。
それを理解した真音(マナト)は、
「くそ・・・油断した。」
と唇をかんで悔しがった。
そして、俺はというと、側でぐったりしているサンガに肩をかしながら、目の前にいる間抜けなサンガに怒りが込み上げてきた。
「お前な・・・。」
と呆れた声をサンガに向けた。
サンガは、なぜか、とても、グッタリしててさ。
俺も真音(マナト)も、何をそんなに焦り、そして、悔しがっているのか、全然わかっていない。
というより、自分が、シャールンに記憶を読まれた事にも、今のサンガには理解できていないのか、顔を下に向け、肩で息をしながら、「何だよ・・・。」と途切れた呼吸でいうと、苦しそうな顔を横に向けて俺を見た。
その姿を見たら、本気でサンガが心配になった。
「お前・・・なんで、そんなにダメージ受けてんだよ。」
いくら、シャールンに記憶を読まれたからって、そんなに体力奪われるか?
だけど、その答えはシャールンがくれた。
「正直、そうやって、立っとるのも、すごいことやで。」
と言ったシャールンは、側近に向かって右手をあげた。
それだけの動作で理解したのか、側近が俺たちの元に、一瞬で来た。
何をされるのかと構える俺に、
「心配しぃーなや。
危害は与えへんさかいにな。
それより、そのにーちゃんの体力をはよ戻さな、死んでまうで。」
と言ったシャールンの言葉に、側近は、「失礼いたします。」というと、俺からサンガを離し、サンガを床に座らせた。
「目をつぶって、呼吸を整えて下さいね。」
と言われたサンガは、言われるがまま、瞳を閉じると、苦しいながらも必死で呼吸を整える。
そんなサンガの両肩に触れた側近は、ブツブツと何かを言ったかと思ったら、急に強い風をサンガに向かって送った。
「どうですか?まだ、苦しいですか?」
側近の言葉に、サンガはゆっくりと目を開けると、大きく深呼吸をし、そいつを見て答えた。
「すげぇー、治ったよ。
って言うか、元々の体よりも、元気になった感じ。」
と嬉しそうな声を上げると、立ち上がり腕をブンブン動かし、元気さをアピールしてた。
「よかったです。」
と言って一礼すると、そいつは、またシャールンの側に戻っていった。
その一部始終を見ていた真音(マナト)は、シャールンに問いただす。
「一体、あなたは、サンガに何をしたのですか?」
それに対してシャールンは、「そう、怒りーなや。」というと、まずは、
「堪忍(カンニン)やで(=ごめんな)。」
と言って軽くサンガに謝った。
「時間がもったいないさかいにな、サンガの記憶を読み取りながら、お題の説明も兼ねて、サンガにちょっと、映像を見せたんや。
せやけど、記憶を覗かれ、さらに、新しいことを記憶するっちゅーんは、考えただけでも、尋常ちゃうやろ?
せやから、純血人間には耐えられん技やさかいに、禁じられとるんや。
正直、そのサンガが、純血人間やて、知らなんだからな。
途中で気付いて、『こりゃあかん。』思たけど、遅かったな。
サンガが、身の危険を感じて、自ら顔を背けてくれたから、助かったんやで。
普通なら、そんなんする体力すらも、のうなっとるっちゅーのにな。
ホンマに、すごいやっちゃ。
せやけど、おかげで、助かったで。
危うく、死なせてしまうとこやったわ。」
と言って、バカ笑いするシャールンに、「笑いごとかよ。」と複雑な笑いをしたサンガ。
確かに、こんなやつに誤って殺されたくないよな。
俺も、サンガの気持ちがわかる気がして、少し同情してしまう。
だが、今はそんな事に心を揺さぶられている場合じゃなかった。
それに気付いたのは、真音(マナト)の声を聞いてからだった。
「サンガの事はわかりました。
それより・・・。」
と言って言葉を詰まらす真音(マナト)。
それを聞いて、俺は思い出した。
俺たちのうっかりのせいで、サンガの事がバレてしまったんだった。
もう・・・絶望だと・・・。
だけど、シャールンは、なぜか笑顔。
その笑いがちょっと・・・気持ち悪かった。
疑いの目でシャールンを見る俺と違って、真音(マナト)は素直にこう聞いた。
「なぜ・・・笑顔を?」
その言葉に、シャールンは立ち上がると、真音(マナト)の目の前に移動してきた。
そして、さらに真音(マナト)をじっと見て、一言。
「油断しよったな。」
その言葉に、真音(マナト)は素直に、
「悔しいです。」
と言って肩を落とした。
その姿に、俺は正直いたたまれなくなった。
真音(マナト)1人のせいじゃない。
俺だって、もっと、注意すべきだったんだ。
俺は、真音(マナト)にその旨を伝えようと、一歩真音(マナト)の方に歩みかけた。
とその時、側でこんな声がした。
「何?一体、どうしたんだ?真音(マナト)のやつ。」
って・・・。
サンガのヤロー、すっとぼけた口調で、ムカつく発言をしやがって!
これには、「はぁ?」と呆れた声をあげながら、俺は横にいたサンガに目を向けた。
完璧に見下した視線でサンガを見る俺に、サンガは反対に俺に、「へっ?」と聞いてくる。
そのお間抜けな顔を見たら、ムッカー!!
俺の感情は、大噴火を起こした。
サンガに対して、怒りをとめる事ができなかった。
「この・・・能天気バカがっ!!」
と言い捨てた俺に、ムッ!と来たサンガは、俺の腕をつかむと、俺を強引に自分の方に向けさせた。
俺が、サンガの方を向くと同時に、サンガは言葉を俺にぶつけてきた。
「バカって、誰が!」
とくってかかってくるサンガの腕を、俺は力いっぱい振り払うと、もちろん、言葉を続ける。
「お前に決まってるだろが!」
「はぁ?」
と言ってキョトンと俺を見るその姿に、イラ!と来た俺は、感情が暴走した。
「はぁ?じゃねぇーよ!
何かを感じて、シャールンとの握手を、避けたんだろが!
だったら、目なんて、じーっと見てんなよ!
警戒心が薄いバカだな・・・。
テメーなんか、足手(アシデ)まといだ!
そんなバカは、さっきので、とっとと死んどけ!
この役立たずが!」
と感情的に言い放ったあと、最後は軽蔑の視線。
それには、サンガも、プチっと切れた。
いきなり俺の肩をドンと突いてきた。
その鋭い突きに、俺は不覚にも、数歩後退してしまう。
ホント、サンガは、バカ力なんだよ。
ヒビキと同じくらい・・・。
押された肩を抑えながら、
「いってーな、このバカ!」
とぼやく俺に、「フン。」と鼻で返事をすると、サンガは俺に反撃を開始する。
「バカは、どっちだ!
お前だって、偉そうに言えんのかよ!」
その言葉に、「はぁ?」と今度は俺が、ふざけた返事をする。
それに対して、サンガは俺を小バカにしたような笑いつきで、こう責める。
「大体、お前が不甲斐(フガイ)ないから、俺が呼ばれたんだろが!
人のこと責める前に、テメーが、反省しろ!
この、ノロマがっ!」
それには、怒り爆発。
「コイツ!!」
とさらに緊迫した雰囲気が漂い始めた時、俺やサンガではない別の声が入り込んできた。
「もう!サンガも、蒼輝(ソウキ)も、いい加減にしてよ!」
いつもより、ちょっとハスキーな声になっている翠(スイ)の声。
だけど、そんな愛しい人の声すらも、耳に入らないくらい俺は、興奮していた。
簡単にいうなら、いつものアレが鳴ったんだよ。
そう・・・俺とサンガのゴングがね・・・。
コレが鳴ってしまったら、そう簡単には止まらないのが俺とサンガの言い合い。
そして、こんな時なのに、それは始まってしまったんだ・・・。
「ノロマって・・・誰がだ!!」
「テメーだよ、テメー!」
と言って、俺を指差すサンガの手を、俺はムカついて思いっきりはたくが、サンガは俺をバカにしたツラのままで、暴言を吐く。
「神の能力を、さっさと、暴いておかなかったお前が悪いんだろが!
お前らが、緑豹国(リョクホウコク)を出てから、もう数時間経ってんだぞ。
神界(シンカイ)どころか、こんな所にいることだけでも、ビックリなのに。
トロトロし過ぎなんだよ!」
「トロトロだと?
こっちの大変さを知りもしねぇーで、好き勝手言ってんじゃねぇーよ!!」
「知るかそんなもん!
多かれ少なかれ、大変なのはみんな同じなんだよ!
自分だけ、特別に言うな!
このノロマ!!」
「偉そうに!研究ばっかしてるお前に言われたくねぇーよ!
この・・・オタク!!」
そして、俺もサンガも、お互いがむなぐらをつかみあって、この上なく接近する。
ツバがかかるくらい近くに顔があるけど、そんなの気にならないくらい、お互い気持ちが高ぶっていたし、歯止めが利かなくなっていた。
お互い見つめ合って、ガルルルルーと牙を向き合う俺たちを止めたのは、もちろん、ヒビキと同じくらいの迫力と権力を持つアイツだった。
俺とサンガの頭が、バシバシと激しく叩かれた。
「いって・・・。」
と2人の声がダブるなか、
「2人共が、バカだ!」
とハッキリ、キッパリ言われたら・・・言葉失うよな。
力なく、俺たちはお互いつかみ合っている胸ぐらを離す。
そんな俺たちの姿を、タメ息を吐きながら、呆れた目で見た真音(マナト)は、
「ヒビキさんの苦労がわかったよ。」
と言われた。
真音(マナト)のこの冷ややかな目を見ると、俺たちのガキ加減をヒシヒシと感じてさ・・・。
俺もサンガも、情けない笑いをした。
その笑いを見た真音(マナト)は、『付き合ってられない。』と言わんばかりに首を振りながら、俺たちから目をそらすと、シャールンを見る。
でも、すぐに、真音(マナト)はこう言った。
「何が、そんなにおかしいのですか?」
と。その言葉に、「えっ?」と俺とサンガは口にしながら、真音(マナト)が見る先を俺たちも見た。
そこには、しゃがんで、腹を抱えて大笑いしてるシャールンの姿があった。
それも、笑っているのはシャールンだけじゃない。
側近のやつも、口に手を当てて、「ククク。」と笑っている。
挙句の果てには、チナリまでも笑っている。
もちろん、翠(スイ)も・・・笑ってた。
何で、笑ってんだ?
サッパリわからない俺は、たまらず、翠(スイ)に聞く。
「何、笑ってんだよ。」
って。でも、翠(スイ)は、「だって・・・。」と言いながら、その先は笑いの方が勝って言えなかった。
楽しそうに笑う、こいつらに、だんだんイラ!っとしてきた俺は、「おい!」と叫んで、文句を言おうとした時、シャールンが、しゃがんだままで、俺の方に向かって顔を上げた。
俺を見る瞳は・・・涙で濡れていた。
そんなにおかしかったのか?と俺は、反対に驚いてしまって、反論できなくて、素直にシャールンの言葉を聞いた。
「まー、そー、怒りぃーなや!
いやな、この切羽詰った時に、楽しそうに喧嘩しよるなー、思てな。」
と言ったシャールンは、「よいしょ。」と言って立ち上がると、俺ではなく今度は真音(マナト)を見た。
「何百年かぶりに、『仲間』いうもんを見せてもろたで!
そのお礼やないけど、ワテが見たもんは、忘れたるわ。」
シャールンからいきなり出た、その突然の言葉。
俺には、その意味が、咄嗟(トッサ)に理解できなかった。
キョトンとする俺とは違って、真音(マナト)はすぐに、シャールンの言葉に食いつく。
「じゃ、サンガを一緒に・・・。」
という真音(マナト)に、
「そーいうこっちゃな(=そういうことやな)。」
と言って笑顔になったシャールンは、真音(マナト)の肩をポンと叩いた。
「もともと、そのサンガを呼んだんは、ねぇーちゃんへのハンデやさかいにな。
まっ・・・ええやろ。」
そう言って、シャールンは、真音(マナト)に軽く笑顔を向けると、手を離し、部屋の一番奥にある真っ白のドアに向かって歩き出した。
その姿を見た側近が、俺たちに、
「あちらの白いドアから、架空の世界へ入っていただきます。
シャールンさまのあとについて、お進み下さい。」
と促した。
その言葉に、まず、俺たち2人を改めて見た真音(マナト)は、
「おまえらのバカも、たまには、役に立つんだな。」
と言ってニッコリ笑うと、スタスタと先に歩いて行った。
「何を偉そうに!!」
と文句をいうサンガだったけど、俺は、そんな気分になれなくてさ。
だって、この時の俺は、こう思っていたんだ。
もしかして、俺とサンガとの喧嘩は、真音(マナト)の狙いだったんじゃないかって・・・。
目的がなければ、こんな時にあんな喧嘩、真音(マナト)が知らん顔で、放置するだろうか?
結果的に、俺たちの喧嘩がなければ、間違いなくサンガは、中に入れなかっただろう。
シャールンの心を動かす何かがないかと、瞬時に真音(マナト)は探した。
そして、仲間の絆を見せ付けた・・・。
あの真音(マナト)の笑顔が、全て、計算ずくだったと言っているように、俺には見えた。
「ホント、真音(マナト)って・・・最強だな・・・。」
俺はたまらず、そう口にした。
だけど、俺の言葉は本当に小さくて、側にいるサンガにも聞き取れなかった。
「ん?なんだよ。」
と聞き返してくるサンガに、「いや。」と笑ってごまかした俺は、
「ほら、行くぞ。」
とサンガの背中を軽く叩いて、一歩お先に、シャールンたちのもとへと進んだ。
「おい、なんだよ!言えよ、気になるだろ?」
と後ろで叫んでいるサンガの声を背中で聞きながら、俺は、改めてこう思ったんだ。
“真音(マナト)を失いたくない”と・・・。
実現しないのはわかってる。
でも、見てみたいと思ったんだ。
真音(マナト)とヒビキが揃って、俺たちの指令塔となっている姿を。
じじいが、言っていた。
昔から戦いとは、より優れた軍師(グンシ)がいる方が勝つと・・・。
真音(マナト)だけでも、十分。
ヒビキだけでも、十分。
でも、2人がいたら無敵だ。
そんな見ることの無い絵図(エズ)を描いて、俺は胸がときめくのを感じた。
それと同時に俺は、知らないうちに心の中で、ヒビキに話しかけていた。
“ヒビキ・・・、お前にも見せてやりたかったよ・・・。
真音(マナト)の素晴らしい軍師(グンシ)ぶりを・・・。”
ってさ・・・。
聞こえるはずもないのに、俺は、ヒビキにそう・・・話していたんだ。
真っ白い扉の前に、みんなで立つ。
先頭には、シャールンさん。
そのシャールンさんが、こちらに向かってゆっくりと振り返った。
「ほな、まず、ちーこいにーちゃんから行こか!」
と言ったかと思ったら、側近の人が、黄玉(オウギョク)を持って、真音(マナト)さんの前に立った。
「覚悟が出来たら、その玉(ギョク)に両手をついてや。
したら、中にすーっと入り込むさかいにな。」
きっと、シャールンさんは、真音(マナト)さんが私たちに、たくさんアドバイスをしてから、中に入ると思ったと思うの。
ううん。
シャールンさんがっていうより、私がそう思った。
でも、真音(マナト)さんは、全く動じず、戸惑わず、真っ直ぐに両手を黄玉(オウギョク)に差し出そうとした。
その彼を、止めたのは、他でもない、シャールンさんだった。
「じぶん、えーんかいな!
そないに、さっさと中に入ってもーて。
もっと、何かアドバイスとかしたらんでえーんか?」
意外だった。
まさか、シャールンさんが、そんな事言ってくれるなんて。
でも、真音(マナト)さんは、1回、目を閉じるものの、すぐに開き、シャールンさんを真っ直ぐに見た。
「不要です。」
と口にした彼は、さらに口元を緩めた。
それが、余裕の笑みのように取れて、シャールンさんは、ちょっと面食らったような顔をした。
でも、堂々としている真音(マナト)さんに、シャールンさんも、理解したのか、
「仲間を信用しとるっちゅーことやな。」
と言いながら、「こりゃ、一本とられたわ。」といいながら、おでこをペチと軽く叩いて、「アハハ。」と嬉しそうに高笑いをしてた。
そんなシャールンさんを尻目に、
「じゃ、置きますね。」
と側近の方に一言断ると、真音(マナト)さんは私たちに言葉どころか、一度も目を注ぐこともなく、両手を黄玉(オウギョク)の上に置いた。
置いた瞬間、シャールンさんが言った通り、真音(マナト)さんはまるで、掃除機に吸われるように、シューっと、あっという間に黄玉(オウギョク)の中に入ってしまった。
外からは、真音(マナト)さんの姿は見えなかった。
だって、黄色い光が邪魔してさ。
ちゃんと、生きてるのかな?と心配する私の心を読んだのか、シャールンさんは、目の前の白い扉に手をかけると、
「心配いらんで。
ちゃんと中で生きとるさかいにな。」
と答えをくれた。
それで、私は気付いたの。
自分が、しでかした事に!!
またしても、やってしまったぁ−!!
って・・・。
蒼輝(ソウキ)に言われていたのに、また、心で思ってしまった。
もう、隠し事は無いにしても、今後のために、ちゃんと、コントロールできるようになっといた方がいいもんね。
反省しなきゃ。
私はそんな事を思って、自分を責める。
それすらも、聞き取られてしまったのか、「プッ。」とシャールンさんに笑われてしまって。
「あーもう・・・ダメだ・・・。」
と自己嫌悪に陥る私に、蒼輝(ソウキ)がそっと触れた。
私の髪に優しく触れる蒼輝(ソウキ)に、自然と目が移動する私。
そんな私に、ただ蒼輝(ソウキ)は優しく笑うだけ。
その笑顔を見ただけで私、わかっちゃった。
蒼輝(ソウキ)は、こう思ってるんだよね。
今、優しい言葉をかけても、私を抱きしめても、数分後にはそれを覚えていない蒼輝(ソウキ)が私に冷たくする。
今、私に愛情を注ぐ事は、私の悲しみを余計強くする行為だとわかってるんだね。
だから、私に何も言わない。
抱きしめようとも、してこない。
蒼輝(ソウキ)が気持ちを抑えてるのが、触れ合っている彼の手から伝わってきて、私は少しでもこの蒼輝(ソウキ)の気持ちを軽くしてあげたくなった。
だから、私の髪に触れている蒼輝(ソウキ)の手に、そっと触れた。
そして、強く思ったの。
『私は大丈夫よ。
心配しないで!』
って。すると、蒼輝(ソウキ)は、「プッ。」と笑い、緊張がほぐれた笑顔を私に向けると、
「やっぱ翠(スイ)は・・・最高だな。」
と言ってくれた。
その言葉は、私に何よりも強い力を与えてくれたし、この上ない褒め言葉だった。
「ほな、この扉から、チナリ、蒼輝(ソウキ)、ねーちゃん、サンガの順で入りぃーや。
あっ、それと1つ言うとくわ!」
と言ったシャールンさんの言葉に、一斉にみんなが彼を見た。
注目を浴びたシャールンさんは、ニッコリ笑うと、私とサンガを見た。
「蒼輝(ソウキ)に、失った記憶の部分を話そうとしたら、自動的に声が出なくなるさかいにな。
つまり、絶対に、蒼輝(ソウキ)には、ねぇーちゃんとの事を説明できへんようになっとるっちゅーことや!
ほな、きばりぃーや!」
シャールンさんは一方的にそういうと、真っ白い扉をユックリと開けた。
霧がかかってて、先が見えなかった。
一瞬戸惑う私と違って、チナリさんはひるむことなく中に入って行った。
続いて、蒼輝(ソウキ)も中に入り、私は、サンガに軽く背中を押されて、何とか中に入った。
こんな風に、入るところから、サンガに助けられてしまった。
これじゃ、この先、思いやられると反省するけど・・・どうしても勇気が出なかったんだもん!
と開き直っちゃう・・・情けない私。
そんないろんな葛藤を抱えながら、私は、シャールンさんが用意した架空の緑豹国(リョクホウコク)へと旅立っていったの。
霧で周りが見えなかったのに、急にパーッと晴れて、周りが見えるようになった。
目の前に飛び込んできた景色を見て、私は思わずこう声を漏らした。
「そのまんまだ・・・。」
って。今、私たちは、緑豹国(リョクホウコク)のお城の中の、私の部屋にいた。
つまり、客間って事。
側には、サンガもちゃんといる。
でも、蒼輝(ソウキ)とチナリさんは、ここにはいなかった。
一体、2人はどこにいったのだろう?
不安に思う私の気持ちは、私の表情でわかったのか、私の頭を優しく撫でながら、サンガは私に向かって口を開く。
「まだ、ゲームは始まったばかりなんだから、そう気負いしないでさ。
とりあえず、2人を探そう。」
その言葉に、「うん。」と頷いた私だったけど、頷いてから、「ん?」って思ったの。
だって、疑問に思うでしょ。
なんで、サンガが、このゲームの事を知ってるの?って。
シャールンさんを初め、誰も説明してなかったじゃない。
どうして?と疑問に思って聞くと・・・。
「あー、それは、教えてもらったんだよ。
あの神様・・・うーんと、シャールンだっけ?
アイツにさ。
アイツも言ってただろ?
俺の目から、記憶を読み取りながら、俺に情報を送ってたって!
翠(スイ)たちが、裁きの門に来て、シャールンと色々話した事で、直接俺に関係してくる部分だけを走馬灯のようにね。
おかげで、理解しようと瞬きも忘れて必死で見ていたせいで、気持ち悪くなってさ。
シャールンの目はもうみたくないと思って、目をそらしたから、話の途中だったかもしれないけど。」
それを聞いて、思い出した。
そんな事・・・言ってた!
想像出来なさ過ぎて理解できず、スルーしちゃってたけど・・・言ってた、言ってた。
なるほど!だから、サンガは、力の消費がすごいのに、目を離さずにシャールンさんを見てたんだ。
実は、ちょっと、疑問だったの。
だって、勘のいいサンガだよ。
力がものすごい速さで減っていくのを感じたら、絶対に目を離すでしょ。
それをしなかった答え。
コレだったんだ。
すごく納得して、ウンウン頷いてる私の姿に、「変な翠(スイ)。」とボソっと言ったサンガは、
「とりあえず、司令塔室にでも行ってみるか。」
といいつつ、すでに部屋のドアを開けていた。
私は、置いていかれる危機を感じて、
「ち、ちょっと、待ってよ!!」
と言いながら大急ぎで、サンガの元に向かって走った。
私は司令塔室に向かいながら、ちょっと心配になった事があった。
それは、今いる架空の緑豹国(リョクホウコク)ではなくて、実在する緑豹国(リョクホウコク)の事。
サンガがこちらに来たという事は、蒼(アオイ)さまに乗り移られるのは、トーワくんに決定だよね。
あの駿足(シュンソク)のトーワくん相手に、雅(ミヤビ)さん1人で大丈夫なのかな?って。
ちゃんと阻止できるんだろうかと、不安に思っちゃって。
サンガを呼び寄せておいて、今更そんな事言っても仕方ないんだけど・・・。
私はたまらず、サンガに愚痴っちゃって。
すると、サンガは、「心配いらないよ。」といって笑うと、私がホッとする言葉をくれた。
「トーワ対策のアイテムは、ちゃんと、じーさんに預けてきたから。
それと、真音(マナト)さんの指示通りに作った、響厘(コウリ)くんの力を助けるアイテムもね。
雅(ミヤビ)さんだって、青の王で頭はそこそこキレるわけだし、うまく対処してくれるだろう。
あっちは、心配ないよ。」
といってさらに、ブイサインをするサンガ。
その言葉に、「よかった。」と声をあげるものの、そのアイテムというのが気になった私は、さらにサンガに聞いたのね。
そしたら、簡単に教えてくれて・・・。
トーワくんの速さ対策には、自分のスピードの10倍は出せるシューズを。
そして、響厘(コウリ)くんの力を助けるアイテムというのは、響厘(コウリ)くんは念力を扱うから、何かを玉(ギョク)に閉じ込めたあと、それを外部に漏れないように、さらに念力を注ぐことで完璧に隔離できるような不思議な玉(ギョク)を作ったとか。
それにしても、響厘(コウリ)くんの能力を見てから、サンガがここへ来るまで、そんなに時間は経ってないのに。
ホント、器用なんだなー。と尊敬のまなざしで彼を見る私に、サンガは、「ん?」といいつつ優しい笑顔をくれた。
このサンガの笑顔は、心からホッとするんだよね。
私も、つられて笑顔になる。
肩に入っていた力が抜けて、気持ちにゆとりがもてたら、フッと疑問に思ったの。
何を?って・・・。
さっきのアイテムだよ。
響厘(コウリ)くんの力の玉(ギョク)はわかるじゃない。
緑豹国(リョクホウコク)に残される豹は、響厘(コウリ)くんだけなんだし、彼の力を強くする玉(ギョク)を作るのは、考え付いて当たり前だと思うの。
でも、もう1つのトーワくん対策シューズ。
あれは、どうして?って思わない?
だって、真音(マナト)さん言ってたじゃない。
狙われているのは、トーワくんかサンガだって。
トーワくんになる確率は50パーセントなのに。
そのために、わざわざ作ったの?
って、不思議に思っちゃったら、気になってしかたなくて・・・。
我慢できず、私は、サンガに聞いちゃった。
「ねぇー、サンガ、1つ聞いていい?」
私の問いかけに、「何?」と言ってくれたサンガに、私は胸に抱いた疑問を口にした。
すると、サンガは、
「あ・・・・。」
と一瞬声をあげ、そのあと、困った顔をした・・・ように見えた。
でもすぐに、いつもの顔に戻ったから、私は、気のせいかと特に気にも留めなかった。
「勘だよ。トーワを狙うかな?って。
ただ、それだけ。」
とサンガはいうけど、それじゃ、納得できないよね?
もっと、何かがあるような気がして、私にしては珍しくサンガに、しつこく聞く。
「ホントに・・・それだけ?
他に何か・・・。」
とまだ、私が言葉を言ってるのに、急にサンガは私から目をそらすと、
「あっ、見えてきたぞ!
司令塔室が!!」
と声を上げながら、少しだけ見えてきた司令塔室を指差した。
司令塔室はまだ、あんなに遠いんだよ。
私の話の腰を折ってまで、今、言わなきゃいけない事じゃないでしょ!
つまり・・・これ以上は、触れないでほしいって・・・そういう事?
だから、無理に、話題を変えた?
特に何もないから、もういい。という事で、サンガは私に話を終わらせようとした。と考えられなくもない。
でも、そうじゃない・・・よね?
私だって、サンガの事、ある程度知ってるんだから。
こういう風に、はぐらかすのは、サンガは何かを隠してる。
私はそう確信したから・・・それ以上は何も言わなかった。
確信したなら、どうして、問いたださなかったの?って・・・思うよね?
それはね、これ以上、サンガを苦しめたくないと思ったからなんだ。
サンガが、本当に私たちに何かを隠してるとしたら、彼は私たちといる間、ずっと何かを抱えて苦しんでた。って事なんだよね。
今、こうして私の側にいる間も・・・。
そんな彼を問いただすと言う事は、また、さらに彼に苦しみを与える事にならない?
彼が隠したいのなら、触れないでおこう。
彼がしたいように、させてあげたい。
それが、彼の苦しみを少しでも軽くしてくれそうな気がして、私はとぼけることで、彼を守る事しか出来なかった。
だけど、そんな寛大な心境でいられたのは、ほんの数分の事だった。
司令塔室の扉が、ハッキリと私の視界に入ってきた途端、私の心も頭も、自分の事でいっぱいになった。
言いようもない不安が、ドバーっとすごい速さで、込み上げてきたの。
蒼輝(ソウキ)に逢いたい。
あの扉の向こうにいてほしいと思う。
思うけど、その一方で、居てほしくない。逢うのが恐い。
と叫んでる自分の想いが、あったりするの。
不安過ぎて、足を止めてたたずむ私の手を、サンガが優しく握ってくれる。
蒼輝(ソウキ)とは違う温度。
蒼輝(ソウキ)とは違う強さ。
そして、蒼輝(ソウキ)とは違う手の感触。
でも、なぜだろう?
蒼輝(ソウキ)に触れてもらっている時と、そんなに変わらないくらいの安心がある。
泣き出しそうなくらい恐かった気持ちが、ちょっとずつラクになっていくのを感じた私は、ゆっくりとサンガの方に顔を向ける。
やがて、私とサンガの目が重なる。
不安そうな瞳で見ている私に、サンガはいつものお日様みたいな暖かい瞳をくれる。
私は、触れ合っているサンガの手を強く握ると、自分から一歩足を進ませた。
私について、サンガも私の歩幅に合わせて、足を出してくれて、私たちは一歩ずつ焦ることなくゆっくりと、司令塔室の扉に向かって進んだ。
扉についた私は、ドアを叩く勇気が持てず、サンガに願いをこめて、握り合っている手を強く握った。
サンガは、蒼輝(ソウキ)やヒビキさんみたいに、私の心が読めるわけじゃない。
だから、こんなことしても伝わらないのが普通。
でも、私は、わかってくれるような気がしたの。
サンガなら、きっとわかってくれるって・・・。
そういう信頼があった。
それは、決して、うぬぼれじゃない。
だって、証明されたんだもん。
私が手を握った数秒後に・・・。
サンガは、「じゃ、叩くよ。」と当たり前のように私にいうと、私と握り合っていない方の手を、ドアに向かってコンコンと2回打ち付けた。
でも、反応はなくて、もう1度サンガがドアを叩こうと手を構えた時、
「今、開けます。」
という聞き覚えのある声が。
すぐにわかった。
チナリさんだ!!
という事は、そこに蒼輝(ソウキ)もいる?
また、心がざわめいた。
その胸の内をサンガに言う前に、扉はカチャと音を立てて開いた。
中から、さっき出逢ったチナリさんが、姿を現した。
私とサンガの姿を見て、チナリさんはニッコリ笑うと、
「お待ちしてました。
どうぞ、中へ。」
というと、扉を思いっきり開け、ドアを開けっ放し状態に固定すると、さっさとチナリさんは先に中に入って行った。
私は、恐くて、下を向いたまま中に入ると、そのまますぐに後ろに振り返った。
そこには、サンガがいた。
サンガは先に私を入れると、自分は、開いているドアを閉めるため、私のあとに続いて入り、今はドアを閉めていた。
扉をちゃんと閉めたあと、正面を見た彼の目に私の姿が映った。
完全にチナリさんに背を向けてる私の姿に、サンガは私の手をまた握ってくれる。
「大丈夫だから。」
私の耳元でそうささやきながら、つないでいる私の手をゆっくりと回転させて、私の体をチナリさんの方に向けた。
顔は・・・伏せたまま。
でも、このままではいけないと思って、無理に上げようとしたんだけど、
「辛かったら、そのままでいいよ。」
とサンガが言ってくれて。
私は、前を向かずにサンガを見るため、横に顔を向けた。
サンガはただ笑って私の不安に答えてくれて、私の手を握ったまま、前へと進んだ。
何十歩、私は下を向いたまま歩いていたかな?
チナリさんと蒼輝(ソウキ)が、私とどれくらいの近さに居るかもわからない状態のまま私は進み、そして・・・止まった。
4人が面と向かう。
最初に、誰が、何を口にするか。
きっとここにいた誰もが、ドキドキしていたと思う。
いや・・・違うか・・・。
ここにいるたった1人だけは、何も感じてなかったんだった。
だから、彼だけが平気な顔して、この緊迫した空気の中、口を開くことができたんだから。
私が一番聞きたくない言葉を蒼輝(ソウキ)は容赦なく、私たちに浴びせた。
「チナリ、こいつら誰?」
わかってはいたけど・・・。
覚悟はしてたけど・・・。
でも、実際、好きな人に言われると、想像してたよりキツイよ・・・コレ。
私は、顔を上げることができなかった。
だって、きっと、顔を見たら、私、蒼輝(ソウキ)を責めそうだったから。
私だよ。翠(スイ)だよ。どうしてわからないの?って。
彼を責めちゃうから・・・。
私は、必死で気持ちを落ち着かせようと頑張っていた。
それをつないでる手から感じたサンガは、蒼輝(ソウキ)が私の無愛想な態度を指摘してくる前に、アレコレ積極的に話しかけてくれた。
「俺たちのこと、わかりませんか?
緑の王、蒼輝(ソウキ)さん。」
いつも、蒼輝(ソウキ)さんなんて言わないのに。
あくまで、丁寧な言葉を口にするサンガに、私はちょっと笑っちゃう。
でも、蒼輝(ソウキ)が不愉快に思わないように、そりゃ、バレないよう、手で口を隠して、くしゃみをするフリをして、笑ったんだけどね・・・。
そして、一方の蒼輝(ソウキ)はというと、
「さぁ・・・。」
と考える時間もなく、アッサリと答えると、チナリさんに向かって、
「チナリ、お前の知り合いか?
誰だよ、こいつら。」
と答えを求めるんだよ。
完全にサイを投げてるさまが、ムカッ!
って・・・いやいや。
蒼輝(ソウキ)は、記憶を失ってるんだもん。
見知らぬ人が目の前に急に現れたら、困惑するよね。
こんな愛想の無い態度をとっても、しかたないよ。
私は、必死にそう思って、怒りを鎮めようとしたのに。
蒼輝(ソウキ)の地は、ドンドン暴走していく・・・。
「さっきも言ったでしょ。
長老の知り合いで、サンガさんと翠(スイ)さんだって。
蒼輝(ソウキ)、忘れちゃったの?」
とチナリさんは、私たちの素性を隠しつつそういうけど、蒼輝(ソウキ)ったら、首をグルーとまわし、首体操をしながら、
「わかんねぇーや。」
と言ったかと思ったら、いきなり座っていたイスから立ち上がると、バサと音を立てた。
音から察するに、たぶん彼が着ているマントだと思うんだけど、それを今まで座っていたイスにかけた感じだった。
蒼輝(ソウキ)のその態度に、
「蒼輝(ソウキ)、どこいくのよ。」
と慌てた声を上げるチナリさんに、蒼輝(ソウキ)は、面倒くさそうに、こう言った。
「ジギルたちが動き出す兆(キザ)しもみられないし、ここにいても仕方ねぇーだろ。
俺、部屋に戻るわ。
こいつらの相手は、お前にまかす。」
というと、私たちに一言もなく、蒼輝(ソウキ)は私の横を通り過ぎていくと、そのまま真っ直ぐに、ドアへと向かっていった。
そのあまりにも冷たい蒼輝(ソウキ)の態度に、
「おい、蒼輝(ソウキ)!」
と彼を止めようと、声を上げたサンガ・・・・よりも、私の方が先に声をあげてた。
それも、
「待ちなさいよ!!」
という喧嘩をふっかけるような言葉を・・・。
さらには、とんでもなく大きな声で叫んでた。
さっきまで、蒼輝(ソウキ)の顔を見るのも恐かったのに、もう、そんな恐怖どこかへ飛んでいったよ。
それより、ムカついて、はらわた煮えくり返って・・・。
そっちの方が、勝ってしまった。
蒼輝(ソウキ)の方に振り返り、彼に叫んだ私は、そのまま彼の目の前に向かって進む。
蒼輝(ソウキ)はというと、突然背後から怒鳴られて、驚いた。
というよりは、気分を害した。と言った方が合ってると思うけど。
動かしていた足を止めた。
でも、振り返ることは無かった。
だから、私は、彼のすぐ側までいくものの、彼の背中に向かって言うハメに・・・。
「人が訪ねて来てるのに、その態度は何?
記憶がないからって、その態度が許されると思ってるの!」
と怒鳴ってみるけれど、蒼輝(ソウキ)は一向にこっちを向こうとしない。
というか、うっとおしそうに、耳の穴を掻いて、さらには片目も閉じてない?
何なの、そのなめた態度は!!
コレが、私と出会う前の蒼輝(ソウキ)なの?
冗談じゃないわよ!
こんなヤツが、緑豹国(リョクホウコク)のトップだ?
あのヒビキさんや、タカさんすらが尊敬しなきゃいけない王だぁ?
ふざけんな!
そんな事・・・・許せるかー!!
私の中で、何かが、ドッカーン!!と噴火した。
それはもう・・・大噴火だった。
私は、そっぽを向いている蒼輝(ソウキ)の腕をつかむと、強引にこっちに向かせた。
その態度に、
「いってーな。なんだよ、お前!」
と明らかに怒りを込めて私に発言し、私を見る蒼輝(ソウキ)に、私はひるんでしまった。
って・・・そんなわけなくて、攻撃しちゃった。
ほら!今、大噴火中でしょ。
私の体から飛び散った無数の言葉の火の粉が、蒼輝(ソウキ)めがけて攻撃を始めたの!
「お前じゃないわよ!翠(スイ)!!」
と大きな声で叫ぶ私に、
「お前の名前なんか、興味ねぇーんだよ。」
と悪態をつく蒼輝(ソウキ)に、「バカじゃないの?」と言ったあと、
「翠(スイ)って言ってんでしょ!
王のくせに、1回で覚えなさいよ!
この・・・俺様バカ!」
と言って、アッカンベーをする私に、本気でムカついたのか、つかんでいる私の手を振り払うと、蒼輝(ソウキ)は私の方に体ごと向いた。
そして、何を言い出すのかと思ったら、
「お前、俺が誰かわかって言ってんだろうな!」
だって。そんなのわかってるに決まってるじゃない。
私は、「何を言うかと思えば・・・。」と笑いながらいうと、
「緑豹国(リョクホウコク)の3人の王の1人で、蒼輝(ソウキ)でしょ。
わかってるわよ。」
とハッキリと答えてあげて。
でも、その答えに蒼輝(ソウキ)は、すぐに言い返してきた。
「だったら、お前のその態度、処罰物だってわかってるよな?」
って、凄み利かせて言われても、全然恐くないわよ。
私は、「バカらし。」といって、鼻で笑う。
その態度が本気で腹が立ったのか、今度は、蒼輝(ソウキ)が私の腕をつかみとる。
そして、私の目を鋭い目で見た。
この冷たい目・・・。
前に一度見たことがある。
青鳥国(セイチョウコク)で、蒼輝(ソウキ)が大暴れして、雅(ミヤビ)さんたちと戦っていた時。
そういえば、あの時、ヒビキさんが言ってたっけ。
感情がない機械的な姿が、本来の蒼輝(ソウキ)だと。
ホントだね。
目の前にいる蒼輝(ソウキ)は、ヒビキさんの言うとおり。
でも、私は、そんな蒼輝(ソウキ)、認めない。
私自身が冷たい蒼輝(ソウキ)を好きじゃないからって、事じゃないの。
認めない理由。
それは・・・。
私は、私を真っ直ぐに、にらみつけている蒼輝(ソウキ)の目から、逃げずに挑みながら、彼に言った。
こんな彼を認めない、理由を・・・。
「人の上に立つ人間が、そんなんでどうするのよ。
人のずるさや、うわべだけのツラとか、そんなのばっかり見てきて、心が凍りついてしまったのもわかるよ。
人間不信になったり、誰も寄せ付けないように、王として生きてきたのもわかる。
ジギルたちから、民を守ってきたのは、確かに立派かもしれない。
でも、私から言わせれば、あなたは逃げてるだけだよ。
本当の自分を失ったまま、民の幸せを守れるなんて、そんなの自分の思い込み。
そんな事、できるわけないでしょ。
まずは、自分が笑顔にならなきゃ。
自分が幸せを感じなきゃ、誰かに幸せなんて与えられないよ。
本当の自分と向き合う事から逃げて、粋(イキ)がってるちっぽけな王なんかに、偽りなく生きてる私を、処罰できるわけないでしょ。
あなたなんかに、私は裁けない。
あなたみたいな男が、王だなんて、私は絶対に認めない。」
そう言って彼を見る私に、蒼輝(ソウキ)の目が一瞬揺らめいた気がした。
少しの時間が、私たちの間で流れた。
お互い何も言わず、ただ見合ってる。
その姿に、チナリさんは何かを感じたのか、蒼輝(ソウキ)の元へくると、彼の空いている方の手にからみついてきた。
急に重さを感じた彼は、チナリさんがしがみついている腕に目を移動させる。
そして、そこにいるチナリさんは、蒼輝(ソウキ)を見上げるような形のままで、彼に訴えた。
「彼女の言う事は、気にしないで・・・。」
私を無視している時はよかったけど、こうして、蒼輝(ソウキ)が私に何かを示した事が、チナリさんにとって、おもしろくなかったようで、早速私たちの邪魔をしてきた。
今の蒼輝(ソウキ)は、私よりもチナリさんを信用してるでしょ?
だから、チナリさんを選ぶと思った。
それが、必然的な事だと思ったし・・・。
だけど、蒼輝(ソウキ)は、チナリさんとからみあっている腕をゆっくり離すと、
「黙ってろ。」
とだけ言い、彼女から目を離し私を見た。
チナリさんに冷たい言葉を吐いたんだから、私にもきっと冷たい言葉がくると、覚悟してた。
きっと、さっきの私の暴言の仕返しだと・・・。
でも、蒼輝(ソウキ)は、私にこんなことを言ってきた。
「いるのかよ。」
って。突然言われた私は、「えっ?」と彼に聞く。
そんな私から、手を放した彼は、急に側にあったイスを引くと、それに座り、私をさっきよりも優しい瞳で見上げた。
その目が、私の知ってる蒼輝(ソウキ)に少し似てる気がした。
その目に気を取られて言葉を失っている私に、蒼輝(ソウキ)は、「クス。」と笑うと、
「どうなんだよ。」
と言ったあと、
「お前が・・・・いや、翠(スイ)・・・だったよな。
翠(スイ)が認める王って、この世にいるのかよ。」
って言われた。
それには、もちろん、笑っちゃう私。
だって、その王って・・・ねぇ?
でも、彼はわからないんだもんね。
現に、私の笑いに、少しムッとしてるし。
私は、笑いを堪えながら彼に教えてあげたの。
「いるわよ。」
その言葉に対して、蒼輝(ソウキ)はすごく興味深げな瞳をすると、
「そいつ、どんなやつだよ。」
って聞いてきたの。
その姿が、ちょっと、かわいくて。
私は軽く笑いながら、彼の前にかがんだ。
すると、今度は彼が私を見下げる形になった。
でも、この方が、なんか、落ち着く。と思いながら、私は彼に続きを教えてあげたの。
私が、この世で尊敬するたった一人の王であり、たった一人の男であるカレの事を・・・。
「彼は、偽りじゃなくて、いつも心からの言葉と態度で、私に接してくれる、とても暖かい人なの。
その人の周りにはね、わがままな自分も、情けない自分も出せる仲間がいる。
そして、そんな彼を、私も仲間も、心から信頼して、頼りにしてる。
とても素敵な人よ。」
と言ったあと、私は、「ねっ?」と言って蒼輝(ソウキ)に笑顔を向けた。
私の笑顔の意味がわからない蒼輝(ソウキ)は、「ん?」と驚いた目を私に向けて・・・。
だから、私は、笑顔のままで、教えてあげたんだ。
『ねっ?』の意味を・・・。
「今のあなたよりも、数段立派な王だと思わない?」
って。
私ね、本当に心から思ってるんだー。
蒼輝(ソウキ)は、とても立派な王だって。
だから、記憶を失った今の蒼輝(ソウキ)も、彼を認めてほしいの。
現実を生きてる蒼輝(ソウキ)の生き様を、認めてほしいって・・・。
でも、半分は無理かな?って諦めていたんだよね・・・実は。
だって、ここにいる蒼輝(ソウキ)は、現実の蒼輝(ソウキ)の考えになるまでに、長い年月がかかったんだもん。
きっと、現実の蒼輝(ソウキ)の良さも考えも、今の彼には理解できないだろう。
全否定するだろう。
そう・・・私は思ってた。
だけど、意外にも蒼輝(ソウキ)は、
「確かにな・・・。」
って言ったの。
もちろん私は、「へっ?」と間抜けな顔で彼を見ちゃって。
チナリさんも、
「蒼輝(ソウキ)?」
と驚きの声を上げていた。
一方の蒼輝(ソウキ)はというと、自分が何気なく口にした言葉で、私とチナリさんに、すごい衝撃を与えた事に全く気付いてなくて、心なしかさっきよりも目が穏やかに・・・いや、キラキラと輝いているように思えた。
「翠(スイ)の認める王は、俺の理想としていた王の姿・・・だったような気がする。」
と驚き発言をした彼は、イスから立ち上がると、私の目の前に、片膝(カタヒザ)をついて、しゃがみこんだ。
「翠(スイ)は、その王の事が、好きなのか?」
いきなりそんな事!!
「えっ?」
としか言えないって!!
何を言い出すのよ!!
っていうか、さっきまでの、冷たい俺さま蒼輝(ソウキ)はいずこ??
蒼輝(ソウキ)のクルクル変わる態度についていけない私は、1人アタフタしちゃって。
で、そんな私の耳に入り込んできたのは、こんな声だった。
「プッ。」
という噴出し声。
この声は・・・。
私は、正気に戻って、その人物の方に顔を向けた。
もちろん、この声の主は、カレよカレ!!
サンガ!!
蒼輝(ソウキ)の質問にウケちゃって、さらに、「アハハハハ。」と声を出して笑ってる。
一方の蒼輝(ソウキ)はもちろん、キョトン!
私は、慌てて立ち上がると、サンガの元へと猛ダッシュした。
「何、笑ってるのよ!」
サンガの耳元で、小声だけど怒った声を上げる私に、サンガは目を向けてきたから、私とサンガの目が合った。
その目を見た瞬間にわかったよ。
サンガが、大笑いした理由が・・・。
私が好きなのは蒼輝(ソウキ)。
そして、その蒼輝(ソウキ)の名前を知りたがっているのも蒼輝(ソウキ)・・・。
コレは・・・笑えるわ。
って事で、今度は、2人して大笑いしちゃったの。
その姿を、見ていた蒼輝(ソウキ)は、
「もしかして、そいつなのか?
翠(スイ)が認めてる王って・・・。」
と言ってサンガを指さした。
それにはもちろん、「えっ?」と私とサンガは、同時に声を上げた。
つまり、それって、私がサンガを好き。って事よね?
違うよー!!
って事で、私は、慌てて否定する。
「違うよ、彼は・・・。」
と言いかけた私の口に、サンガが、慌てて手を当ててきた。
私はその手に驚いて、言葉をとめてしまって、さらにビックリまなこでサンガを見る。
そんな私に、「俺にまかせろ。」とサンガは、蒼輝(ソウキ)に聞こえない小声でそういうと、私の口から手を離すと、蒼輝(ソウキ)の方を見てこういった。
「そう。翠(スイ)が認める王ってのは、俺だ。
俺たちは、わけあって、異国からこの緑豹国(リョクホウコク)に来た。
異国民がこの国に入れる方法は、あんたも知ってるだろ?」
といったサンガは、いつの間にか話しながら蒼輝(ソウキ)の側に歩み寄っていて、丁度話が終わる頃、蒼輝(ソウキ)の隣に立っていた。
そして、口を閉じると同時に、蒼輝(ソウキ)の肩にポンと手を乗せると、蒼輝(ソウキ)を見下げるような目で見た。
「王としても男としても、俺より下のあんたを、俺は、王扱いする気ねぇーから。
敬(ウヤマ)う言葉は使わない。
よろしくな、蒼輝(ソウキ)。」
そして、ニッコリ笑顔を送って、蒼輝(ソウキ)から手を離したサンガ。
そのサンガに、もちろん蒼輝(ソウキ)は、
「なんだと?」
と怒りに任せた声を上げていたけど、サンガは知らん顔で私の元へ来た。
そして今度は、なんと!!
いきなり、私の肩を抱きしめたかと思ったら、口を開く。
「俺さ、結婚は、愛の制約だと思うんだ。」
いきなり始まったサンガの言葉に、蒼輝(ソウキ)は黙って聞いていた。
「それを、『国のため』だと言って、愛してない女と結婚するのって、なんかおかしいよな。」
サンガは、それだけいうと、蒼輝(ソウキ)の返事も聞かずに、今度は、チナリさんに話しかける。
「俺たちは、城を散策してくるんで、コレで失礼します。」
と言って軽く一礼すると、私の肩を抱いて、この部屋を出て行こうとした。
「ちょっと、サンガ!何考えてるのよ!」
と歩きながら、小声で彼に訴えるけど、
「これくらい印象つけてた方がいいんだって!
いいから、俺にくっついてろ!」
というサンガに、私は呆れたタメ息を吐き、ドアを開けたサンガについて部屋を出て行こうとした時だった。
「待て、翠(スイ)!」
突然呼ばれて、私はピタと足を止めた。
やっぱり、蒼輝(ソウキ)の声だと体が瞬時に反応してしまう。
急に止まったせいで、サンガは後ろに引っ張られ、少しふらついた。
そんな彼をほって、私は蒼輝(ソウキ)の方に振り返ろうとしたけど、その時すでに、蒼輝(ソウキ)は私の側にいた。
そして、サンガが触っていない方の腕を、蒼輝(ソウキ)がつかんでいた。
でも、ただ、何もいわずに握ってるだけなの。
なんだろ?と思って、
「どうかした?」
と彼に聞く私に、「なんで?」と蒼輝(ソウキ)は不思議そうに口にすると、私にゆっくりと目を映し、少し動揺した目で聞いてきたの。
「なんで、俺・・・・お前の声が聞こえるんだ?」
その言葉に、「えっ?」と驚く私に、蒼輝(ソウキ)は複雑な顔をした。
「さっき、翠(スイ)が俺の腕に触れた時、聞こえたんだよ。
お前の心の声が。
セイチョウコクって言う所で、冷徹な俺が戦い、ヒビキがどうとか・・・。
俺には、身に覚えのない事だ。
でも、なんか、心がざわつくんだ。
その事が気になるとかじゃなくて、しいていうなら、身に覚えがあるというか・・・。」
その言葉に、「えっ?」と驚く私。
私の心の声が、聞こえていたんだという驚きもあったけど、一番の驚きは、蒼輝(ソウキ)が失った記憶を気にしてる事。
すごい進展だよ!
私は、素直に嬉しかった。
でも、喜んでる私と違って、蒼輝(ソウキ)は、切羽詰ってる感じだった。
「教えてくれよ。
なんで、翠(スイ)の心の声が聞こえるんだ?」
そして、さっきと比べられないくらいの強い力で、私の腕をつかむ蒼輝(ソウキ)。
その腕を振り払おうにも、私の力ではどうしようもなかった。
だから、私は強く思ってしまった。
『サンガ・・・助けて。』
その時、急に蒼輝(ソウキ)の腕が緩まった。
その緩みを、私は不思議に思い、蒼輝(ソウキ)に目をやった。
蒼輝(ソウキ)の体には、チナリさんがしがみついていた。
私は、チナリさんが止めたから、彼が手を離したのかと思ったの。
でも、蒼輝(ソウキ)は私ではなく、サンガを見てこう言った。
「お前に助けてほしいってさ。」
そう言った蒼輝(ソウキ)は、自分の体からチナリさんを離すと、緑豹国(リョクホウコク)が見渡せる窓際に移動しようと歩き出した。
その時ね、私、思い出したの。
現実の蒼輝(ソウキ)が言った言葉を。
『これが、俺たちの武器になるかもしれない。』
そうよ。コレを武器にしなきゃ。
私はそう思い直して、ある賭けをする事にしたの。
歩き出した蒼輝(ソウキ)を追いかけ、彼の左腕に両手でしがみつき、強く念じた。
私は、蒼輝(ソウキ)との会話に必死で、気付いていなかった。
ゲーム開始から30分足らずで、私に心が傾きだした蒼輝(ソウキ)を見て、チナリさんもある賭けを考えていた事を!
あんな恐ろしい手段に出てくるなんて!
この時、私もサンガも、そして蒼輝(ソウキ)も、全く想像してなかった・・・。
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