深夜零時。
俺は、自分の部屋をあとにすると、薄明かりの中、階段を降りた。
やがて、行き止まりになると、その壁に手をかざし、『開け』と念じた。
目の前の邪魔な壁は、横にズレる。
そして、目の前には、この城の正式な廊下が現れた。
俺の部屋である王の部屋は、外部からの攻撃を避けるため、豹との混血人間にしか使えない念じる事で、扉を開けるしか方法がない。
安全といえば、安全だけど、普段の生活では、面倒くさいっていうのが、現状。
現に、一番近い司令塔室へ向かうにも、俺の部屋を出てから、5分はかかる。
こんな長い階段と、手間な扉がなければ、1分もかからない距離なのにな・・・。
そんな事を思いながら、俺は司令塔室へとひたすら歩いた。
司令塔室に着いた俺は、足をとめる。
そして、ドアをノックしようと拳をかかげるが、
「入れ。」
と中から声がして、かかげていた拳は居場所をなくす。
俺の足音でわかったのか。
さすがは、ヒビキだな。
俺は、「フッ。」と気が緩んだ笑いをしながら、腕をおろすと、その手でドアノブにふれた。
勢いよく、ドアを開けた。
司令塔室には、もちろん、ヒビキしかいなかった。
そして、アイツはいつのもスタイルで、両腕を組んで、パノラマ状態の緑豹国の夜の街を見ていた。
俺は、扉を閉めると、ヒビキの元へと一歩一歩近付く。
俺の足音で、俺がかなり近付いてきていることを理解したヒビキは、俺の方にユックリと振り返った。
「悪いな、こんな時間に呼び出して。」
俺の顔を見るなりそう言ったヒビキは、イスを引くと、そこに腰掛けた。
「悪いなんて、思ってねぇーだろ。」
お約束の悪態をついて、俺もヒビキの近くのイスに腰掛けた。
とはいっても、かなり行儀が悪い座り方だけど・・・。
今は、王としてここにいるわけじゃないから、多めにみてもらおう。
そんな事を勝手に思いながら、俺は両足をテーブルにドンと乗せると、メチャクチャ楽なスタイルで、くつろいだ。
俺の行儀の悪さに、いつものヒビキなら叱るけど、アイツも今は、王のスイッチは切ってるみたいで、何も言わなかった。
「お前に、どうしても、話しておきたい事があるんだ。」
いつになく真面目な顔で言ったヒビキに、俺はちょっと気がひけてさ。
テーブルに乗せていた足を、下に降ろすと、ヒビキの方に顔を少し近づけた。
「なんだよ、深刻な顔しやがって。」
「んー・・・。」
ちょっと言いにくそうにそう言ったヒビキは、すぐには口を開かなかった。
少し、沈黙になる。
でも、俺はせかさなかった。
ヒビキに付き合ってやったんだ。
どれくらい時間が流れたかな?
いい加減、なげぇーよ。と突っ込みそうになった時、ヒビキが口を開いた。
「ランにさ・・・ガキが出来た。」
「ガタン!!」
ものすごい音と、ものすごい衝撃が俺を襲ってきた。
俺の姿に、ヒビキは・・・。
「お前・・・何やってんだよ!!ブッ・・・アハハハハ!!」
と大笑いしやがった。
けど、まー・・・笑うのは、わからないでもないけどな。
だって俺、あまりの驚きに、イスから落っこちたから。
ドスンと落っこちたから、腰をモロに打った。
メチャクチャ痛くて・・・こっちは、笑えねぇーって!!
「笑いごとじゃねぇーよ。」
俺は、腰をなでながら、倒れたイスを起こすと、椅子によじ登った。
「それで?」
腰をなでながらそう言った俺に、まだ、笑っているヒビキは、「ん?」と涙目で俺に聞いてきた。
そんなアイツの顔を、俺はジッと見た。
「そんな、めでたい話なら、こんな人気がなくなる深夜まで待って、言う必要ねぇーだろ。
それを、こんなコソコソ言うって事は、なんかあるんだろ?
さっさと続きを言えよ。」
なぜ、俺がそんなに焦っているかと言うと・・・。
マジで、腰が痛いんだよ。
だからさ、早く薬草を飲みたい。
そんな心境だから、とっとと話を終わらせたかったんだけど・・・。
ヒビキの話は、そんな単純なものではなかったんだ。
俺の言葉に、ヒビキは、クスと笑った。
「さすがは、緑の王だな。
お前は、単純なようで、単純でない。
大ざっぱな様で、ちゃんと細かい変化にまで気にかける繊細さを持つ。
お前は、ホント、理解しにくい男だな。」
そう言って笑ったヒビキは、前かがみだった体を、背もたれにゆだねた。
そして、「んー!!」と言って、背伸びをした。
「俺は、お前の言葉が理解できねぇーよ。
難しい言い回し、してんじゃねぇー。」
その言葉のあとに、アイツのイスの足を、ガンと軽く蹴った。
ヒビキの体が少し揺れた。
それに対して、ヒビキは軽く笑うと、顔を天井に向けたまま口を開いた。
「俺、思うんだよ・・・。」
「何を?」
俺の言葉に、ヒビキは上げていた顔を今度は俺の方に向けた。
その目は、なんか、寂しい目に見えたんだ。
俺は、ヒビキの言葉を聞く前に口を開いてた。
「ヒビキ?」
恐かったんだ。
なんで、コイツが、こんな目をしてるのか?って・・・。
何か、嫌な事が起こりそうな、そんな気がした。
背筋が寒くなった気がした。
でも、俺はどこかで、思っていたんだ。
ヒビキの瞳に寂しさを感じたのも、背筋が寒くなったような気がしたのも、全部気のせい。
俺の思い過ごしだと、そう思いたかったのに・・・。
ヒビキがそうさせては、くれなかった。
「俺な、蒼輝・・・。」
ヒビキはそう言ったあと、俺にとんでもない言葉を言った。
「もう時期、死ぬような気がするんだ。」
笑えなかった。
「何言ってんだよ、お前バカか?」
とか、
「そんな事言ってたら、死神も逃げていく。心配すんな。」
とか・・・いつもの俺たちなら言えたかもしれない。
でも、言えねぇーよ。
だって、ヒビキの目は物語っていたから。
ヒビキが、冗談で言ったんじゃないって。
かといって、何らかの不安から、たまらず言ってしまった衝動的な言葉でもないって・・・。
何らかの意図があって・・・、確信があって、ヒビキがそう言っているんだと。
アイツの性格と、アイツの顔を見れば、一目瞭然だった。
俺は、笑い飛ばすどころじゃなくて、真剣も真剣。
眉一つ動かせないくらいゆとりもなく、深刻な顔でヒビキを見た。
「何でそう思う?
もしかして、最近、ジギルたちに、狙われているのか?」
だけど、ヒビキは、「いや。」と言いながら首を振ると立ち上がり、また窓の方へと寄る。
そして、緑豹国の街に目を移した。
「ランに子供が出来たと言われた時に、俺思ったんだよ。
彼女のお腹にいる子供は、“ただの子供”じゃないって。
俺の身代わり・・・。
いや、正確には、俺の能力を受け継ぐ者で、俺が欠けても、その子が蒼輝とトーワの中に混ざる事で、緑豹国の3人の王の関係は崩れない。
そのために、この子は生まれてくるんじゃないかって。」
ヒビキはそう言ったあと、俺の方に目を動かした。
「お前だけにはいうけど、俺、ちゃんと避妊してたんだよ。
今の時期に、生まれてくる子供はかわいそうだと思ってな。
翠ちゃんが戻って来たら、最後の戦いが始まる。
その戦いが終わってから、ランとの事もちゃんとして、家庭を持った上でって・・・そう考えてた。
なのに、子供ができた。
正直、納得できないんだよ。
なんで、できるんだって!!」
ヒビキはそういうと、俺から目を離しまた、街を見る。
アイツの横顔を見ていると、アイツ自身も、なるはずもないランの妊娠に戸惑っているのが、わかった。
「じゃ、もし。お前の言う通り、ランの妊娠が、“制約”のせいで、なった事だとしたら・・・。
お前が死ぬせいで、王座が空かないように、お前の代わりの人物を誕生させなきゃいけない。
それで、ランが妊娠した。
けど、もし、そうだとしても、喜ぶべきじゃないのか?」
俺の言葉に、ヒビキは驚いた目で俺を見た。
確かに、驚くだろうな。
だって、言えば、自分が死ぬとわかっているのに。
自分の身代わりに生まれてくる子供だとわかっているのに、そいつの誕生を喜べと俺は言ってるんだ。
なんて、ひどくて、無神経な事を言っているんだって・・・。
そんな事、百も承知だ。
俺だって、そんな事、心の底から言ってるわけねぇーだろ?
俺の本当の気持ちは、そんなガキはいらないから、ヒビキを生かせてくれ。
そう思ってるに決まってるだろ?
だけど、現実、それができない。
人の死をつなぎ止める事なんて、俺たち人間に出来るわけないんだ。
俺は、その無力さを、嫌ってほどわかってる。
だから、俺は、そうじゃない視点でいたいんだ。
裏を返せば、ヒビキが王であったから、だから事前に自分の死を悟る事が出来た。
自分に残された時間が、短いとわかるんだ。
それは、自分にとって、受け入れたくない現実であり、知りたくもない事実かもしれないけど、でも、残されるものにとっては、嬉しい事なんじゃないか?
やりたい事。言いたい事。それが、前もってある程度消化できるんだ。
少なくとも、心残りを小さくする事だって出来る。
だから俺は、あえて、ヒビキにそう言った。
だけどな、コレを言ったのは、誰でもよかったわけじゃないんだ。
“ヒビキ”だから、言ったんだ。
お前なら俺が言わなくてもすでに、そういう考えをしているはずだから・・・。
だから、俺は、アイツに少し笑った顔で言ったんだ。
「っていうより、お前は俺がそんな事言わなくても、喜んでるんだろ?
自分の未来を教えてくれた“制約”にさ。
そして、お前の頭には、“未来”が見えてんだろ?」
そういいながら、俺は、ヒビキの頭に向かって、指をさして。
その姿にヒビキは、俺から目をそらしながら、「フッ。」と気の抜けた笑いをすると、はずしていた瞳をまた俺に合わせた。
その目は、いつものヒビキだった。
俺たちを導いてくれる、頼れるアイツの・・・目だった。
「お前、翠ちゃんが来る前より、成長したな。
ずいぶん、頭がキレるようになった。
たのもしいな・・・。」
ヒビキは小声でそういうと、床にぺたんとしりもちをついた。
そして、窓から、景色を眺める。
俺たちは、幼い頃からこの窓から景色を見ていたせいで、この目線で下を見ると、ホッとするんだ。
幼い頃に・・・。
まだ、親たちに守られていた名ばかりの王だった頃に戻れた気がしてさ。
何も縛れない。
ただ、自分たちの思いのままに生きれて、俺たちも話せて。
自由奔放に生きていた時代に、タイムスリップした気になる。
俺たちは、たまに、ただのヒビキや蒼輝に戻り、語り合う時にこのスタイルをとる。
だから、今、ヒビキがどんな気持ちなのか、痛いほどわかった。
俺は、イスから立ち上がると、ヒビキの側に近付き、俺も床にしりもちをついた。
俺の姿を、ガラス越しで見たヒビキは、顔はそのままで口を開いた。
「翠ちゃんが向こうに戻ってから、俺たちで話し合ったよな?
ラウオは必ず、蒼輝を狙ってくる。
だから、蒼輝は何があっても、緑豹国を出ない。」
「ああ。そうだ。」
俺は頷きながら答えた。
翠が戻ったあと、緑豹国に戻った俺たちは、全ての話をジジイにした。
そして、その時、ヒビキが俺に、言った。
「蒼輝は、今は緑の力がない。
ただの混血人間だ。
絶対に、緑豹国を出るな。」
だけど、それに付け加えジジイがこう提案した。
「それも賛成じゃが、ヒビキ。
お主も、決して、緑豹国を出るな。」
「へっ?」
正直、こんなマヌケな顔のヒビキをみたのは、初めてだったと思う。
まさか、自分が止められると思っていなかったヒビキは、呆然とジジイを見てた。
そのヒビキの姿に、ジジイは軽くタメ息をついた。
「やれやれ。自分の事となると、うといのぉー。」
情けない声でそう言ったジジイは、熱いお茶をズルズルと音を立てて、うまそうに飲むと、ゆのみを置いて、ヒビキを見た。
「お前たちの話を聞く限り、ラウオは蒼輝よりも、お主を狙っておる。」
ジジイはそういうと、さらに続けた。
「お前は自分で自覚してないかもしれんが、お前はこいつらにとって“指令塔”なんじゃ。
つまり、お主がこいつらに指示を出し、導き、まとめておる。
それだけではない。
お主の存在自体が、こいつらの強さの源じゃ。
『ヒビキなら何とかしてくれる。』っていう、その思いがこいつらの強さであり、心の支えになっておる。
そのお前に、もしもの事があれば、こいつらは、見る見るうちに、崩れるだろう。
今のこいつらの力が、半減する話ではいかないくらいの大打撃を受ける。」
「そんな、大げさな。」
とヒビキは笑っているが、俺たちはただ、黙ってうなずいてた。
ジジイの言葉を、全員が認めた。
それを見届けたジジイは、ヒビキのリアクションにも惑わされる事なく、ヒビキにこう言った。
「お主も蒼輝同様、翠が戻るまで、緑豹国から出る事を禁ずる。」
だけど、ジジイの命令はそれだけでは終わらなかった。
今度は、全員を見る。
その中でも特に、コイツ。
半分、コクリコクリと居眠りこいてるコイツにも、ジジイはこう言った。
「緑豹国の民は、決して出る事はないだろうが、一応再度、提示した方がよいじゃろう。
『王が許可するまで、緑豹国から出ることを禁じる』と。
そして・・・コラ、トーワ!
お主もよいな。お主も、決して緑豹国から出るでないぞ!」
いきなり怒られたトーワは・・・。
「ふぁーい!!」
とあくびまみれの返事をしてた。
これが、翠が戻って直後の、出来事だ。
つまり・・・。
俺は、ヒビキを見た。
「お前も同じだろ?
お前も、緑豹国から出ちゃいけないって、ジジイに言われて・・・。」
と口にした俺は、ある事に気付き、途中で止めた。
そして、驚いた目でヒビキを見ると、俺はたまらずコイツに聞いた。
「どうやって、お前・・・死ぬんだ?」
そうだよ!コイツは、緑豹国から出ないはずだ。
そして、緑豹国には、混血人間しか入れない。
ラウオの息がかかった人間は、入って来れないんだ。
だから、ジジイも緑豹国から出るなと言った。
なのに、ヒビキは死ぬ。
という事は・・・。
「ラウオたちは関係ないのか?
病気か、寿命って・・・事なのか?」
だけど、ヒビキの曇った顔を見る限り、そうはヒビキも思っていないのだと知る。
「お前・・・何を考えてる?」
疑いの目で見ている俺に気付いたヒビキは、軽く笑う。
「勘違いするなよ。俺は長老がおっしゃった通り、緑豹国を出るつもりはない。
絶対に・・・。
だけど、それでも、俺は間違いなく死ぬ。
ラウオたちに殺される・・・。」
ヒビキはハッキリそういうと、俺の方に体ごと向いた。
「だから、蒼輝!お前をここに呼んだんだ。
お前に、俺の考えを伝える。
コレが全て、俺の妄想であってくれればいいと願うがな・・・。
どうも最近、夢をみるんだ。」
「夢?」
「ああ。自分が殺される夢だ。」
ヒビキはそう言って、苦笑いをすると、俺に予言し始めた。
「夢で俺は、森で殺されるんだ。
何らかの方法で、俺は森におびき出されるんだろうな。
そこに、待ち構えていたジギルとトロイの銃撃に俺は、なぶり殺しにされてる夢だ。」
「やけに・・・リアルだな。」
そうとしか答えられない俺に、「まーな。かなり痛そうだったよ。」と当の本人は、おかしそうに笑ってた。
だけど、その笑いもすぐに消える。
「あのなー、蒼輝。」
ヒビキはそういうと、俺に言ってきた。
「ラウオが俺を狙ったのは、長老が言った事も一理(イチリ)あると思う。
だけど、最大の目的は、やはり、バリアの崩壊もあったと思うんだ。
俺が死ねば、3人の王の力が無くなる。
バリアは俺が、死んだ直後に消えるだろう。
だけど、ランが無事子供を出産してくれたら、その心配もなくなる。
でも、もし、子供の存在を知れば、どうなる?
俺たちが想像もしないような方法で、きっと俺は、おびきだされ殺されるだろう。
その方法を、ランにも使うかもしれない。
ランを殺したうえで、俺を殺す。
ラウオなら、そうしかねないだろ。
ランだけは守りたいんだ。
アイツに、人並みの幸せを味わわせてやれなかった。
王とお手伝いという関係で、アイツに辛い思いもたくさんさせた。
今回だって、俺の行く末をアイツは、自分の妊娠でわかったはずだ。
誰よりも、俺の子供をほしくないと思ったはずなのに・・・。
だけど、アイツは言ってくれたんだ。
『ありがとう』って。
俺が死ぬ為に、その子ができたのに、アイツはそう言って笑った。
そんなアイツを、俺は守りたいんだ。
王としては、あるまじき行為かもしれないが、俺は自分の命を愛する者を守る為にかけたい。
だから、蒼輝、ランの妊娠は誰にも言わないでくれ。
誰がラウオとつながっているかも、正直わからない。
そういう人物がいないのかもしれないし、いるかもしれない。
それすらもわからない状態で、頼れるのはお前しかいない。」
「ヒビキ・・・。」
あまりの展開に戸惑う俺の腕を、ヒビキはつかんだ。
「子供が生まれても、出来るだけ隠し通してくれ。
俺の生まれ変わりだという事は、翠ちゃんがくるまでは、何としても隠してほしい。
きっと、俺と同じ紫紺色の髪をして、生まれてくるだろう。
それも、隠して・・・くれよな。」
ヒビキの声は・・・震えてた。
こんなに悲しみに打ち震えているヒビキを見たのは、初めてだ。
そりゃ、そうだよな。
自分の子供を隠さなきゃいけない。
それは、まるで誰も祝福してくれない子供みたいじゃないか。
確かに、その子ができるのは、制約のおかげかもしれない。
でも、例え制約と言っても、交わりがないものの間に、子供をもうける事なんてできるわけない。
交わりがある中に、ちょっとしたきっかけを宿したに過ぎないはずだから。
だから、紛れも無く、生まれてくる子は、ヒビキとランの愛の上で出来た子供だ。
俺は、ヒビキの手をつかみ返した。
「心配するな。俺が、命に代えても、そいつを守ってやる。
そして、愛してやるよ。
『お前の父親は、有能な男だった。
お前も王の1人になるんだから、父親を超えろ!』って。
ハッパかけながら、立派に育ててやるよ。」
ヒビキは強く唇を噛んでた。
涙を必死で堪える唇が震えてた。
俺はたまらず、ヒビキの頭をつかむと、自分の肩に乗せた。
「こうやれば、俺には見えねぇーんだからさ・・・。
好きなだけ泣けよ。」
俺の言葉に、我慢していたヒビキの涙が一気に溢れだした。
「ガラにもないこと・・・・言うなよ・・・・。」
途切れ途切れに言ったヒビキは、そのまま俺の肩に顔をうずめたまましばらく泣いてた。
俺は、そんなヒビキの頭をポンポンなでながら、ヒビキがいつも見ている夜の緑豹国の街を見てたんだ。
ひとしきり泣いたヒビキは、俺の肩からユックリと顔を起こした。
「恥ずかしいとこ・・・見せちまったな・・・。」
照れた口調でそう言ったヒビキに、
「安心しろ。俺は物忘れが激しい。
今の事だって、5分も経てば忘れてるよ。」
そして、少し赤くなってるヒビキの瞳に向かって、クスと笑う。
俺の笑いと冗談に、ヒビキも少し力の抜けた笑いをした。
「便利な頭だな。」
そう言って、俺の頭をツーンと後ろに軽く押した。
俺は声を出して笑いながら、立ち上がる。
「ちょい、待ってろ。」
俺はヒビキにそういうと、この司令塔室の一番奥にあるキッチンに向かうと、ある物を出してきた。
そして、俺はヒビキの目の前に立つと、
「ほら。」
とグラスをアイツに差し出した。
「ん?」と言いつつ、ヒビキは差し出されたグラスをわけがわからないまま、受け取る。
俺はというと、またヒビキの横に腰をおろし、あぐらをかくと、自分のグラスを床に置く。
そして、手に持っていた紫の液体が入ったビンのフタを開けた。
ビンの口を、ヒビキの持っているグラスに、コツンと当てる。
そして、俺はユックリとヒビキのグラスに、紫の液体を注いだ。
「何の・・・マネ?」
俺の行動が読めないヒビキは不思議そうにそういって、俺の返事をせかす。
「まー、待てよ!」
俺はヒビキの言葉を軽くあしらいながら、今度は液体を自分のグラスに注ぐと、ビンのフタをしめた。
そして、液体の入ったグラスを手に持つと、ヒビキのグラスの前にかかげる。
「緑豹国でめでたい事があれば、ラワンデルで祝うのが、しきたりだろ?
だから、祝おうぜ!」
俺はそういうと、そのままグラスを少しヒビキの方に傾けた。
ガラスが、軽くこすれる音が聞こえた。
「お前もとうとう、オヤジになったな。」
いたずらっぽく言って笑った俺に、ヒビキの顔がドンドン緩やかになっていった。
そして、最後は、「プッ。」と笑い出すと、俺にいつものヒビキの顔になって言ったんだ。
「ありがと!」
って。そして、ヒビキの方から力を込めて、俺のグラスを押し返してきてさ。
その姿に、お互いの目が重なり合って、同時にこう言ってた。
「乾杯っ!」
と・・・。
嬉しい事じゃない。
でも、だからこそ、お前と喜び合いたいんだ。
きっと、コレが最後になると思うから・・・。
お前と笑顔で笑えるのが、コレが最後に・・・。
俺は、そんな事を思いながら、ヒビキの笑顔を見てた。
自然と笑っていた顔が、薄れていって、やがて俺の顔から笑顔が消えてしまった。
ヒビキの顔を見ているのにも、ちょっと悲しみが出てきた俺は、グラスを口に運びながら、緑豹国の景色へと目を移した。
俺の行動に、俺の心境が何となくわかったヒビキは、笑いをやめると、グラスを床に置く。
そして、両手を後ろにつくと、「なー、蒼輝。」といつものアイツの口調で話しかけてきた。
「なんだよ。」と答えつつも、俺は顔をガラスから動かさなかった。
今は、ヒビキの顔を見るのも、キツイからな。
少し落ち着かせる為に、俺はそのままで話を聞くことにしたんだ。
ヒビキは、俺に、こっち向けよとか迫らず、俺の横顔を見ながら、話しはじめた。
「もう1つ、お前に言っておきたいことがある。
それは、翠ちゃんの事だ。」
「すい?」
俺は、反射的に、ヒビキの方を向いてた。
あれだけ、ヒビキの顔を見ることに抵抗があったのに、いとも簡単にヒビキを見た俺に、ヒビキが呆れる。
「翠ちゃんの事になると、反応いいねぇー。」
そう言って笑うヒビキだけど、俺は笑えなかった。
「翠がなんだよ!」
今にもヒビキを襲いそうな勢いで突っかかる俺に、「まー、落ち着けって!」と笑いながらいったヒビキは、両手を後ろについたままのスタイルで、口を開いた。
「翠ちゃんが向こうの世界に戻った直後の事、お前、鮮明に覚えてるよな?」
そういわれた俺は、「バカか?」とヒビキに悪態を付いたあと、すぐにこういう。
「当たり前だろ!アイツが戻ってまだ、1ケ月も経ってねぇーんだぞ!!
覚えてるに決まってるだろ。
それに、俺はまだ、『アレ』に納得してねぇーんだからな!」
「やっぱりな・・・。」
そう言って笑ったヒビキは、俺の顔を見てさらに笑う。
「みんなは騙せても、お前は騙せない・・・・か。」
ひとり言のようにそう言ったヒビキは、今度は俺にもハッキリ聞こえる声で言う。
「お前に教えてやるよ。
『ウソ』じゃない、『本当』の事を・・・。」
「本当の事・・・だと?」
驚き顔で言った俺を、冷静な目で見ていたヒビキは、「ああ。」と口にすると、これまた、落ち着いた口調で言った。
「どうして、翠ちゃんが戻ったあと、俺たちが赤龍国(セキリュウコク)から、“追い出されてしまった”のか・・・。」
そう言って、ヒビキは少し意味ありげな笑いをした。
今の聞いて、「ん?」って思っただろ?
そうなんだ。
翠が、向こうの世界に戻った瞬間。
なんと、俺たちは、“赤龍国(セキリュウコク)から追い出されて、緑豹国に戻され”ちまったんだ。
どういう事かというと・・・。
翠が元の世界に戻ったあと、俺たちの意志とは無関係に、俺たちは、翠怜(スイレン)さんのいるRED LAND。
・・・つまり、天上界にある赤龍国(セキリュウコク)から、“追い出され”ちまったんだ。
気が付けば、緑豹国の城の真後ろにある絶壁の崖で、全員倒れていた。
それから、なんど、雅がミューラに変身しようとしても、雅はミューラになれなかった。
かといって、アイツの能力は、アイツの体にちゃんと宿ってはいるんだ。
だって、青い髪に、オレンジの瞳はそのままだったんだから。
アイツの目だって見えるしな・・・。
もちろん、雅がダメなら、藍瑠(アイル)さんの瞬間移動で!っていうのも考えたよ。
言い出したのは、もちろん、ヒビキだったけど・・・。
けど、藍瑠(アイル)さんの瞬間移動も、太刀打ちできなかった。
それだけじゃないんだ。
不思議な事に、翠怜(スイレン)さんとの連絡も、途絶えてしまったんだ。
いくら、ヒビキが念じても、心での会話は成り立たなかった。
「一体、どうなってるんだ?」
もちろん、そう聞ける相手は、この世界には、たった一人しかいない。
聞いたのは俺だ。
でも、誰もが、ヤツにそう聞きたかったはず。
俺が、代表して聞く形になった。
絶対にわかるはずないんだ。
こんな、わけわかんねぇー展開!
“普通の人間”ならな・・・。
でも、ヤツは別物だ!
「どうもこうも、こうなる事が、“当たり前”といえば、当たり前だな。」
ヒビキはそういい出すと、まるで、マニュアルがあるかのような口調でスラスラと俺たちに説明を始めたんだ・・・。
「翠怜(スイレン)さんが言っていただろ?
『赤龍国(セキリュウコク)に住む人は、あなたたちの国と同じく、人間と動物との混血の者。』と。
裏を返せば、国にある制約も、俺たちと同じだという事。
つまり、『混血の人間しか入れない』となっているはずだ。
でも、たぶん、100%俺たちと一緒ってわけじゃないと思う。
恐らく、赤龍国(セキリュウコク)の制約はこうだ。
『“龍の”混血の人間しか入れない』ってね。
だから、俺たちは、追い出された。」
ヒビキの言葉に誰もが驚いた。
それも、声もでないほどに。
だけど、俺はその辺の声は、スラっと出るんだよな。
もちろん、この時も、バカでっかい声で叫んでたよ。
「待てよ!それだったら、おかしいだろ?
じゃ、なんで、翠がいた時、俺たちは入れたんだ?」
かなり意気込んで言ったのに、ヒビキは眉一つ動かさずに、サラと答えた。
「それは、彼女がいたからだ。
全員を、翠怜(スイレン)さんの元へ連れて行きたい。と彼女が願ったから。
だから、俺たちは入れた。
彼女がいなくなり、その能力が消えたせいで、俺たちは追い出された。
そして、翠怜(スイレン)さんとの連絡が取れないのも、そもそも、天上界にいる彼女が、下界にいる俺たちと会話が出来る事自体おかしいんだ。
天上界と下界を結ばない為に、赤龍国(セキリュウコク)には、制約があるんだからな。
会話が出来たのも、翠ちゃんの念じる力があっての事。
彼女がいない今、俺たちは何もできない。
これから、1年どうするか、長老と話し合って決めよう。」
1ケ月前。
ヒビキは俺たちにそう言った。
ヒビキの言葉に、みんなは納得した。
でも、俺は・・・納得できなかったんだ。
翠が念じたから。
翠が望んだから、俺たちが、赤龍国(セキリュウコク)に入れた?
確かに、翠の能力は強くなってる。
だけど、あの時、翠はボロボロだったんだ。
ジジイに念じる力を使う事も止められていたし、何よりアイツにそんな事ができたかな?って。
だって、翠は、俺と離れる事を、とにかく嫌がっていたんだ。
戻らなきゃいけない現実と、俺と離れたくない気持ちとの葛藤で、アイツは戻るギリギリまで、心が揺れていた。
そんなアイツに、念じる事なんてできたのか?
俺たち全員を、入れない領域に入れるくらいの念を、アイツが送っていたようには、到底思えなかったから。
俺たちが、入れた本当の理由がある・・・。
俺は、そんな気がずっとしてた。
でも、どうしても、ヒビキに聞けなかったんだ。
どうしてか、わからないけど・・・。
自信がなかったのかもしれない。
嫌な予感がしてたから。
とんでもない事を言われるような・・・。
そんな気がしたから・・・。
そして、今も・・・恐い。
恐くて、黙っている俺を、ヒビキは、チラっと見るけど、いう事をやめなかった。
いつものアイツなら、「今はやめておくか。」と俺の心境を尊重してくれる。
でも、今のアイツには時間がない。
だから、待ってはくれないんだ。
床に置いたグラスを持つと、口に運ぶ。
少し口を湿らせたヒビキは、またグラスを床に置くと、今度は床に仰向けになって寝転がる。
そして、天井を見上げながら、俺に言ってきたんだ。
「これから、話す事は、俺の推測だ。
でもな、自信はある。
だから、蒼輝・・・誰にもいうなよ。
特に、翠ちゃんにはな。」
その言葉が、今からヒビキが言おうとしている『本当の事』の重要性を物語っていて、俺は本気でビビッてた。
「翠はさておき、どうしてみんなにも秘密なんだ?」
そう聞いた俺に、ヒビキは、少し言いにくそうに答えた。
「さっきも言っただろ?
誰が敵で、誰が味方かわからないって。
今から言う事実は、きっとラウオは知らない。
いや・・・知られたら困るんだ。
だから、翠怜(スイレン)さんも、あの時・・・。
翠ちゃんと再会した時、あえて言わなかったんだと思う。
それと、あと、翠ちゃんがショックを受けるのを、避けたかったのかもしれないけどな・・・。」
ヒビキはそういうと、顔を俺の方に向けてきた。
俺とヒビキの瞳が、重なった。
俺は、ヒビキの目から・・・離せなかった。
「念で翠ちゃんが俺たちを、赤龍国(セキリュウコク)に招き入れたって話。
お前も気付いていると思うが、ありえない。
でも、入れない場所に、俺たちが入れたのも事実。
念でないとすると、理由は1つしかない・・・。」
「なんだ?」
俺の問いかけに、ヒビキはこう言った。
「血だよ。」
「血?」
首をかしげる俺から目を離したヒビキは、また天井を見つめたまま、語り始めた。
「あの時も、言っただろ?
赤龍国(セキリュウコク)は、龍の血が混ざるものしか入れないって。
つまり、混ざらない俺たちすらも、一緒に招き入れてしまうって事は、それくらい濃い血が必要になる。
そう考えると、答えは一つだ。」
そう言ったヒビキは、また俺を見ると、ハッキリとこう言った。
「翠ちゃんは、“龍族”だ。
それも、王位につくくらいの、強い血を受け継いでる。」
「りゅうぞく??」
俺は、驚きのあまり、手に持っていたグラスを落としてしまった。
ラワンデルが、足にかかった。
でも、そんな事・・・気にならなかった。
だって、今、それどころじゃ・・・。
もちろん、俺の頭は、混乱してた。
そんなの、当たり前だろ?
翠が、『龍族』だと?
龍族って事は、つまり、龍に変身出来る程の、濃い血が流れているという事だ。
だけど、翠は、緑の豹なんだ!
今は、ラウオのせいで変身はできないが、翠は間違いなく女豹だ。
だって、原石の洞窟の扉が、開けれたんだからな。
なのに、翠が・・・龍族?
そんな事信じるわけねぇーだろ?
俺の気持ちは、今すぐヒビキに喰ってかかりたかったよ。
「どういう事だ。もっと、ちゃんと説明しろよ!!」
ってな・・・。
けど、俺はヒビキみたいに頭がよくないからさ。
そんなすぐに、頭が回らないんだよ。
聞きたいけど、聞こうにも口が動かない。
頭も・・・上手く回らない。
ただ、呆然として一点を見つめている俺に、ヒビキは優しい手を差し伸べて来る事もなかった。
ショックを受けてろ!って感じなのか・・・。
ヒビキは、俺を見ながら、言葉を続けた。
「俺はなー、蒼輝。
ずっと疑問だったんだよ。」
ヒビキの言葉に俺の目が、ユックリとヒビキに向かって移動する。
ヒビキの目で止まった俺の瞳に、ヒビキは優しく笑うと、そのまま口を開く。
「なんで、翠怜(スイレン)さんと蒼さまは、翠ちゃんを異世界へ送ったんだろうって。」
ヒビキの言葉に、俺は力なく答えてた。
「それは・・・自分の子供を逃がしたかったからだろ?」
この答えに自信はあった。
ラウオが、この世を滅ぼしていくのを悟った2人が、大事な子供を生かしてやりたい。
そう思って、異世界へ送った。
別に変じゃないし、そう考えるのが当たり前だと俺は思ったのに。
だけど、ヒビキは、「だろ?」と同意はしてくれるものの、すぐに別の答えをしてきた。
「俺も最初はそう思ったよ。
だけど、翠ちゃんがきて、この2年で、色々知ってさ。
違うとわかったんだ。」
「違う?」
「ああ。いろんな事を知れば知るほど、お前、感じなかったか?」
反対にヒビキに聞かれて、俺は驚いてしまう。
「えっ?」と、聞く俺にヒビキは優しく笑った。
「“翠ちゃんが、戻って来る事を基準”に、全てが作られてるって。」
ヒビキの言っている意味がわからなかった。
「それって、つまり・・・。」
困惑する俺に、ヒビキはハッキリと言ったんだ。
「お前の考えている通りだ。
翠ちゃんは、一時的に逃がされただけだったんだよ。」
そう言ったヒビキは、さらに付け加えてくる。
「蒼さまも翠怜(スイレン)さんも、当時の青鳥国(セイチョウコク)の王であった朱雷(シュライ)さまも、初めからわかっていたんだ。
ラウオを倒すのは、翠ちゃんしかいないってね。
だから、まだ、幼い彼女を安全な場所に逃がした。
そして、彼女の力が高まる、18歳に呼び戻せるように、環境を作ったんだ。」
ヒビキはそう言ったあと、「論より証拠かな?」と、いつものヒビキの口癖をいうと、体を起こし、床に座った。
そして、グラスに残っているラワンデルを一気に飲みほすと、立ち上がり、窓の方に向かい緑豹国を見て、ホッとした顔になった。
未だに、頭がついてきてない俺にもわかるように、これまでの事実を交えながら、ヒビキは説明し始めた。
「俺さ・・・、ずっと引っかかってたんだ。」
「引っかかってって・・・・何が?」
「それは、緑豹国、青鳥国(セイチョウコク)、赤龍国(セキリュウコク)の場所だ。」
「場所?」
すっとんきょうな声を上げた俺に、ヒビキはうなずきながら、少し笑うと続ける。
「ラウオが、WONDER LANDを作った時、3つの国で、協力して守らないといけなかった事は、ただ1つ。
ラウオみたいな人間。
つまり、“龍族の力”または、“龍の血が混ざる混血人間”を、これ以上、WONDER LANDに行かせない事だったはず。
だから、赤龍国(セキリュウコク)を作り、制約で縛り付けたんだ。
でも、ラウオみたいに、何かを犠牲にして、龍の力を宿したままWONDER LANDへ行くものも出てくるかもしれない。
そこで、考えたのが、天上界に赤龍国(セキリュウコク)を追いやる事だった。
天上界だと、下界のことはわかりにくい。
龍族の人間が、下界に降りて、力をそのまま持って悪さをしているなど、天上界まで届かないだろう?
誰も、協力しないように・・・。
いや、出来ないようにするのが、天上界に赤龍国(セキリュウコク)を設けた理由のような気がする。」
ヒビキはそういうと、俺の方を見た。
「ここからが、さっきの話だ。
ちょっとは、頭、回ってきたか?」
笑いながら、俺の頭を指さすヒビキに、
「あまり、自信ねぇーけどな・・・。
続けてくれ。」
と苦笑いの俺。
さっきのは、俺の頭の回復を待つための時間稼ぎだったのか?
そのつもりだったのなら、ヒビキ。
お前は、俺を理解しなさすぎるよ!
あんなの聞いて、余計こんがらがってるに決まってるだろ!
わけわかんねぇーよ。
けどまー・・・いいや。
真剣に考えたところで、俺には対して理解できないのはわかってるから。
ヒビキが言う言葉を素直に聞いて、わかるように努力する。
俺には、それしかないからさ。
だから、俺は、そんなに気負いもしてなかった。
気負ったところで、余計わけわかんなくなるのは、今までの経験で学んでる。
今は、ヒビキのいう事に、耳をかすんだと・・・俺は自分に言い聞かせてた。
俺の素直な反応に、「わかった。」とだけ答えたヒビキは、また目を景色に移すと、言葉を口にする。
「龍族でいて、しかも王座につくくらいの高い能力を持っていたラウオを倒せるのは、豹の混血である蒼さまでも、龍の混血である翠怜(スイレン)さんでもなかった。
ラウオに太刀打ちできるのは、たった一人。
豹と龍の混血で、それも、両方の変身が出来るくらいの、濃い血を持つ翠ちゃんだった。
だから、彼らは、翠ちゃんを逃がしたんだ。
生まれたばかりの翠ちゃんでは、さすがに太刀打ちできない。
彼女の能力が高まる18歳の誕生日に、全てをかけようとしたんだ。
その日まで、ラウオから、翠ちゃんの本当の力と、彼女の命を守る。
そして、18歳になるとき、彼女を呼び戻すってな。
だけど、ここで、1つ問題があった。」
「問題?」
「そう。」と言ったヒビキは、少しおかしそうに笑った。
「翠ちゃんを向こうの世界に送ったのは、翠怜(スイレン)さんの力だろう。
だけど、翠ちゃんは、向こうで成長し、そこそこ知らないうちに力は目覚めていたはずだ。
だから、翠怜(スイレン)さんが、いくらこちらに戻そうと思っても、翠ちゃんは戻ってこなかった。」
「なんで?」
「忘れたのか?翠ちゃんは、念じる力が強い。
何かを念じればそれは叶うけど、何も念じなければ、その力は分散して、色んな力の助けをする。」
「・・・。」
わけわかんなくて、黙る俺に、ヒビキは、「例えば・・・。」と言うと、こんなたとえ話を始めた。
「翠ちゃんの親友の渚ちゃんだっけ?
彼女と遊びたい!と強く思う。
そして、遊んでいる時に、アレも食べたい!とか、コレもっとおいしかったらよかったのに。とか。
そう色々思うだろ?
その思いが、彼女の念となって、少しずつその物に吸収されていく。
そして、彼女の空間にそれが、大きくなって邪魔するんだ。
翠怜(スイレン)さんの呼び寄せの力も、消してしまうくらいにね。
けど、まー、それも、翠怜(スイレン)さん・・・いや。
これは、蒼さまかもしれないけどね。
予想していた事だと思う。
だから、彼らは、地表に残す国を、緑豹国にしたんだ。」
「ちょっと、待てよ!」
俺は、慌ててヒビキを止めた。
「緑豹国が地表に残ったのは、何もないからじゃないのか?
赤龍国(セキリュウコク)は、龍の力を守る為に、天上界に上げた。
その天上界へのルートを守る為に、ミューラがいる青鳥国(セイチョウコク)を、地底に埋めた。
それぞれ、理由がある。
でも、緑豹国には守るものがない。
だから、地表に残したって・・・そうじゃないのか?」
俺の答えに、「だいぶ、頭が回るようになったな。」とうれしそうに笑ったヒビキは、近くのイスへ向かうと、イスに腰掛け、床に座っている俺を見下ろした。
「緑豹国にだって、守るものがあったんだ。
一番、大事なものがね。」
「大事な・・・物?」
「そう。それは、翠ちゃんが戻って来るルートだ。」
「ルート・・・。」
ただ、ヒビキの言った言葉を口にするだけの俺に、ヒビキは何も言わず、続ける。
「豹の血の特徴を覚えているか?
俺たちの血は、遠くても共鳴し合える。
相手を引き寄せる性質を持つ。
俺は、ずっと、緑の本に映る文字が、翠怜(スイレン)さんの力で、翠ちゃんをこちらに引き戻しているのかと思ったんだ。
だけど、今回の事でわかった。」
「今回って・・・翠が、自分の意志で帰って来た事か?」
ヒビキはうなずいた。
「あの時、翠ちゃんは、こっちへ戻りたいと願った。
彼女の念が、彼女の血を、これまで以上に高めた。
それによって、彼女の豹の血が、こっちにいる俺とトーワと蒼輝の豹の血に共鳴したんだ。
一番、共鳴したのは、お前の血だろうけどな。
その力で、彼女は、こっちの世界に舞い戻ってきたんだと思う。
だから、緑豹国・・・つまり、豹の血がないと、翠ちゃんは戻ってこれないんだ。
そこで、緑豹国の制約がある。」
「制約?」
「そう。王座が空かないように。ってなってるだろ?
あれは、バリアの事だけを心配してるわけじゃない。
翠ちゃんが戻って来る時に、豹に変身出来る程の濃い血がなくなっていれば、彼女は戻って来れないからな。
そして、彼女が戻る時期に、王が俺たち3人になっていたのは、コレが理由だ。
1人の血よりも、3人の血の方が呼びやすい。
だから、今回も、彼女が来る前に俺が死んだら、王自体が変わるんじゃなくて、俺の変わりが入る。
3人体制を変える事はできない・・・・って事だろうな。」
ヒビキはそういうと、イスに深く腰掛けた。
「これだけでも、翠ちゃんが戻って来る事を仮定に、3国の制約が作られ、位置が決められたんだとわかるだろ?
言い出したらきりがないが、他にも色々ある。
例えば、ミューラの事にしてもそうだ。
あんな回りくどい封印をしなくても、完全に復活できないようにすればよかったんだ。
その方が、ラウオがなにかを仕掛けてくる。って心配は、なくなるんだから。
だけど、それはできなかった。
なぜなら、ミューラの力を使わなきゃいけない時がくるから。とか・・・。
なっ?色々、思い出すと、翠ちゃんが、こっちに戻ってきて、ラウオと戦う事を予測していたかのような段取りだろ?」
確かに、ヒビキの言っている通りかもな。
言われて見れば、何もかも・・・そうだ。
全て、翠が戻って来る事を仮定して、作られてる。
だから、何でもかんでも、都合がいいように作られていたのかもしれないな。
ミューラの封印を解く女力(ジョリョク)の鍵を、翠の親友が持っていたとか。
あと、翠の中にあった知性を、真音(マナト)ってやつが受け継いでいたのも。
翠がこっちに戻ってこないのであれば、そんな力、使い道なんてなかったんだから。
わざわざ真音(マナト)ってやつに、植え付ける事もなかったはず。
考えれば考えるほど、ヒビキの言っている事は、合っていると、俺は思った。
「確かに・・・ヒビキの言う通りかもしれねぇーな。」
そう言った俺に、「そこでだ、蒼輝!」とヒビキはいきなり偉そうな口調で俺にそういうと、俺の目の前にくると、また床にドッカリ座った。
「なんだよ、偉そうに。」
迷惑そうな顔をしてヒビキを見た俺に、アイツは、いつになく真剣な顔をしてきた。
「さっきも言ったけど、翠ちゃんが、龍族だという事は、今は絶対に彼女に言うなよ。」
そういえば、さっきも、そんな事言ってたっけ?
けど、翠は、龍の血が混ざってる事は知ってるだろ。
別に、龍族と呼ばれるほど、血が濃いと知っても対して驚かないんじゃないか?
と安易に思った俺は、「なんで?」とヒビキに聞いてしまってさ。
そんな俺の回答に、ヒビキはマジギレしやがって・・・。
「バカか、お前は!!」
と叫びながら、頭をはたかれた。
「いっ・・・てぇーな!!」
頭を抑えながらヒビキに叫び返す俺に、
「ホント、お前は思いやりがない!!」
と呆れられてさ。
一体、何だっていうんだ!!
ブツブツ文句を言いながら、頭をなでている俺に、軽くタメ息を吐きながら、ヒビキは説明してきた。
「お前さ、今まで豹になれてたのに、急に豹になれなくなって、どう思った?」
いきなりそんな事聞かれても・・・。
「えっ?」
と聞いた俺に、ヒビキは答えを言ってきた。
「自分が自分じゃなくなるみたいで、恐くなかったか?
だから、翠ちゃんの力で豹になれた時、命の危険が隣り合わせにあるとわかってても、お前は変身を恐がらなかった。
むしろ、自らすすんでしてたよな?
国を守る為ってのもあったかもしれないけど、安心できたんじゃないのか?
今までの自分になれて、心からホッとしたんだろ?」
ヒビキの言う通りだ。
俺は、いつも、恐かった。
豹の姿を失って、国がどうなる?
王座はどうなる?
バリアはどうなる?
そんな心配もあった。
でも、それよりも、一番大きかった不安は、『俺は一体どうなるんだ?』っていう不安だった。
俺の体なのに、俺じゃない。
髪もどんどん黒くなっていく。
目だって、青い目が消えて、黒くなってさ。
恐くて恐くて、たまらなかった。
翠の力のおかげで、そんな苦しみ忘れていたけど、確かにあの時の俺は、そんな想像を絶するくらいの大きな物に、脅(オビヤ)かされていたんだ。
って事は・・・。
俺は、それを、翠に置き換えてみた。
翠は、今まで、普通の人間だと思っていた。
でも、急に豹に変身出来ると言われてみたら?
いえば、俺と同じような感覚だよな?
自分が自分じゃないみたいで・・・恐い?
そう思った時、俺は、ヒビキに自然と聞いていた。
「翠も、ずっと恐かったのか?」
アイツは、ただの一度もそんな顔見せなかった。
むしろ、俺の力になれて嬉しいと、いつも笑顔でさ。
だけど、よく考えたら、恐かっただろうな。
緑の力だ。女豹だ。って言われて・・・。
挙句の果てには、変身はできるけど、今はラウオの力で出来ないといわれ。
もしかしたら、心のどこかで、ホッとしていたのかも。
変身できない自分に。
でも、変身できなきゃ、国を守れない事もアイツはわかってるはず。
ホッとする反面、そんな弱い自分じゃダメだと・・・アイツ、俺の知らない所で、苦しんでいたのかもしれない。
翠の気持ちを考えたら、胸がキリキリと痛くなった。
たまらず、俺は胸を抑えた。
俺の様子を見ていた、ヒビキは俺の頭をポンポンと軽く叩く。
「わかったな。時期がくるまで、彼女が龍族だという事は、伏せておくんだ。」
俺は何も言えなかったけど、ただシッカリとうなずいた。
絶対に、言わないと・・・痛む胸に誓った。
「蒼輝。その痛み、忘れるなよ。」
ヒビキにそういわれた俺は、ユックリと顔を上げる。
目で、「何?」と訴えた俺。
すると、ヒビキは、俺から手を離すと、俺の方に体を向けて座る。
「翠ちゃんに、翠怜(スイレン)さんが渡した鍵あるよな?」
「ああ。愛の力ってやつだろ?」
そう。翠は、鍵を翠怜(スイレン)さんに持たされ、元の世界に戻って行った。
その鍵は、翠が俺に対して発する愛を吸い取る鍵。
その鍵が、『緑の女力(ジョリョク)の鍵』となった時、力を発揮すると彼女は言っていた。
「その鍵がどうかしたのか?」
そう聞いた俺にヒビキは、「俺が思うに・・・。」と少しいいにくそうに言うと、俺にこう言った。
「たぶん、あの鍵は、『緑の女力(ジョリョク)の鍵』じゃないと思う。」
「それ・・・どういう意味だ?」
「あれは、『赤の女力(ジョリョク)の鍵』じゃないかな?」
「赤??」
そう口にした俺は、しばらくして、ハッとした。
赤って、つまり・・・。
答えを言おうとした俺だったけど、口がパクパクして、声が出ない。
そんな俺の姿に、ヒビキは少し笑いながら、
「お前が今思っているのが、たぶん正解だ。」
というと、グラスに、ラワンデルを注ぎ、何口か、口にした。
そんなヒビキの行動を、ただ見ていた俺に、ヒビキも目を合わし、口を開く。
「緑の女力(ジョリョク)の鍵は、渚ちゃんが持っていたものだと思うんだ。
現に、翠ちゃんにしか反応しなかったんだから。
彼女が持って、こっちへ運んできている時間の間に、あの鍵に、緑の力が注がれた。
知らない間に、あの鍵は、緑の女力(ジョリョク)の鍵へと変わっていたんだと思う。
そして、今度渡された鍵。
アレは、赤龍国(セキリュウコク)で使用する鍵なんだから。
赤の女力(ジョリョク)の鍵と言った方が、しっくりくる。
それに、わざわざ、愛が力になると、翠怜(スイレン)さんが言ったのもおかしいだろ?
今まで、女力(ジョリョク)の鍵には、何かを与えるって事はなかったんだから。
持っているだけで、その力を吸い取る。
翠ちゃんが、意識して、その鍵に愛を注がないといけないのは、力に慣れていないからだ。
自分で、龍族の認識がないから、何を注いでいいかわからない。
だから、翠怜(スイレン)さんは、あえて、翠ちゃんに言ったんだと思う。
あの鍵に、何をやどすのかを・・・。」
ヒビキはそう言ったあと、俺の肩をつかんだ。
「蒼輝。お前に、忠告しておく。」
ヒビキの真剣な顔に、俺は正直ビビッてた。
「なん・・・だよ。」
オドオドしながら言った俺に、ヒビキは笑いもしないで、俺に訴えた。
「お前も翠ちゃんを愛すんだ!」
「へっ?」
ビビっていたのも、ふっとんでしまうくらいの驚き。
間の抜けた顔で見た俺に対しても、ヒビキは顔を崩さなかった。
そのまま、俺に真剣に言ってくる。
「彼女に負けないくらい、お前も彼女を愛せ。
彼女の全てを・・・。」
「全て?」
「そうだ。
お前を愛している彼女ごと、愛せ。」
「それ・・・どういう意味だよ。」
バカな俺にはわからない。
真剣にヒビキに聞いた俺の顔に、ヒビキの真剣な顔が少し緩んだ。
「彼女がお前に対して、何をのぞみ、どう生きてほしがってるか、お前ならわかるだろ?
それを、しろっていってんだよ。
そうする事が、『彼女の愛ごと』愛してる事になる。
彼女の気持ちを受け入れ、彼女の気持ちを尊重する。
そして、お前の愛で、彼女を満たしてやる。
安心を与えてやる。
そういう愛し方をするんだ。
そうしないと、たぶん、彼女の鍵は、反応をみせないだろう。」
「どういう意味だよ。」
「これは、あくまで俺の考えだけど・・・。
あの鍵は、翠ちゃんの愛をためてる。
それも、お前への愛限定だ。
つまり、その愛に答えてくれる『愛』が必要になる。
神界(シンカイ)への扉を開ける時に、あの鍵は使うと言っていたよな?
その時、きっとお前の力がいると思う。
翠ちゃんを愛すお前の力が・・・。
だから、蒼輝。今から、そういう愛し方をするんだ。」
「けど、なんで、そんな愛し方を?」
「彼女の気持ちを考えて、お前が行動し、彼女を愛する事は、少なくとも彼女は悲しまないだろ?
彼女の悲しみは、彼女の愛を減らす。
たぶん、神界(シンカイ)には、お前と翠ちゃんの愛を壊す何かがあるはずだ。」
「愛を壊す?」
「そんな気がする。
だから、そんな事にも揺るがないくらいの強い愛を、翠ちゃんに注いでおけ。
彼女が戻ってきたら、そこから、ずっとだ。
いいな。」
俺は、「わかった。」と答えながらうなずいてた。
「それとな、蒼輝。」
ヒビキはそういうと、俺を見る。
「翠ちゃんと離れたくないとか、一緒に行きたいとか、そう思ったら、思いのまま貫け。」
「えっ?」
意味がわからない俺は、ヒビキにもう一度聞いてた。
そんな俺に、ヒビキは、「だから。」というと、今度は少しわかりやすく言ってくれる。
「前みたいに、翠ちゃんが鍵を取る為に異世界に戻るとか。
そういう展開になった時、お前が向こうへ行く事が表れていなくても、お前が行きたいと思えば、強引にいけばいい。
翠ちゃんが、一人で寝るのも、どうしても離れたくないと思えば、一緒に寝たらいい。
お前のやりたいようにやれ。」
そんな事、急に言われたら、そりゃ、こう言っちゃうよ・・・。
「急に、どうしたんだ?」
俺のコメントに、ヒビキはプッと噴出して笑う。
「それが、いい気がしたんだよ。」
そして、さらにこう言った。
「俺が、許してやるから、好きなだけ翠ちゃんに愛をぶつけろよ!」
すっげぇー笑顔で言われてもさ・・・。
俺は、少し意地悪を言ってしまった。
「許すって言っても、お前、翠が戻って来る頃、もう、いねぇーんだろ?
翠に、暑苦しい、よって来ないで!とか言われたら、誰が弁解すんだよ。
あの世から、助けにこいよ。」
と言いながら、ヒビキにパンチした俺に、ヒビキはアハハと大笑いすると、俺に言った。
「念は、送ってやるけどな。」
って。
「何言ってんだ?お前。」
笑いながらいった俺に、ヒビキは少し真剣な顔になる。
「向こうに居る翠ちゃんには、念が夢になるからね。
何かあれば、彼女の夢に念を送るよ。」
何気なくそう言ったヒビキの言葉・・・。
俺には、意味が理解できなかった。
ただの冗談かと、その時の俺は思っていた。
だけど、コレが、すごく重要な言葉だったなんて・・・。
翠と再会するまで、夢にも思わなかったんだ・・・。
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