私は、大きな扉の前で、1人で立っている。
この扉を、今まで、何度も開けて、その先の部屋へと入った事がある。
何を今更、躊躇する事があるの??
そう自分に問いかけ、扉を開けるのよ!と、言い聞かせてみるけど・・・ダメだ。
どうしても、取っ手に触れる手が、数センチの所で止まってしまう。
だって、この扉の先には、今までにない世界が待っている・・・かもしれないんだよ。
私が、信じられない事実を聞かされたのは、今から1時間前の事。
1年ぶりにここに戻ってきて、ラウオたちに捕まっているかもしれないと気をもんだ蒼輝が無事にいて、最高の再会を果たした。
みんなとも逢えた。
何も疑わなかった。
無事に、1年みんな過ごせていたんだと・・・。
でも、ここには、1人いなくて・・・。
いつも私の心の支えでいてくれた、強い強い私の味方だった人が、消えていた。
誰よりも賢く、誰よりも未来を読むことが出来た策士と言える程の彼が、なぜ殺されたのか。
納得がいかなかった。
私は、情けない事に、ヒビキさんの死を知らされた後、蒼輝に抱きとめられながら、意識を失ってしまって。
さっきまで、蒼輝の部屋にいたの。
私の部屋に運ばなかったのは、蒼輝の優しさだと感じた。
私の部屋からは、ヒビキさんの眠っているお墓は、死角になって見えないの。
でも、この緑豹国を一望できる司令塔室の真上にあたる蒼輝の部屋からは、ヒビキさんの眠る場所がハッキリと見えるから。
目を覚ました私が、窓を覗けば、ヒビキさんを見ることができる。
自分に出来るせめてもの事だと・・・蒼輝は思ったのかもしれない。
「蒼輝さまは、一度も涙を流しませんでした。
ヒビキさまと何を話され、何を約束されたのかはわかりませんが・・・。
私は妊娠してから、響厘(コウリ)を産んだ後も、ずっと地下に隠れていました。
響厘(コウリ)と2人で。
表向きは、私は感染病にかかってしまい、地下室に隔離したと言われ、響厘(コウリ)の存在も、翠さんが戻ってこられる直前まで、誰にも伝えられなかったのです。
緑豹国で一番物知りな長老にも、秘密だったんですよ。」
眠っていた私の側に、ずっとついてくれていたのは、ランさんだった。
そして、目を覚ました私に、そう笑顔で言ってくれたの。
ランさんは、きっと、ヒビキさんが亡くなったいきさつを、私に話すように蒼輝に言われていたのかもしれない。
だって、そのまま、色々と話し出すような勢いだったから。
だけど、私は、「行かなきゃ!」って思ったの。
どこに?って・・・。
もちろん、蒼輝のもとに!!
さっきの、ランさんの言葉を聞いて、私どうしても蒼輝に逢いたくなったの。
だって、私、蒼輝に言いたかったから。
少しでも早くあって、彼に、“謝りたかった”から・・・。
それで、ランさんに、「行って来る。」と言って、ココに猛ダッシュで来たんだけど・・・ダメだ。
直前になって、少し弱気になってきた。
だって、どう切り出したらいいの?
うまく、言えるかな・・・。
そんな事を、ちょっと考えちゃうと、解決するどころか、どんどん増してくるんだよね・・・。
こーいう事って!!
おかげで、余計ワケがわからなくなっちゃって・・・。
頭の中は大パニック。
イライラしてきた私は、たまらず自分の頭をブンブン振る。
「あー!!もう、グダグダ考えるな!
当たって砕けろだ!!」
私はそう口にして、目をつぶると、一気に扉を押した。
もう、勢いで前に突き進む・・・。
それしか、ないって思った私は、力任せに突き進んだ所まではよかったんだけど、扉は、「バタン。」とすっごい大きな音が立つくらい、壁にぶち当ててしまったし、部屋を見て気付いた。
私・・・ノックもしてなかったって・・・。
「あっ・・・・ごめん・・・。」
焦りながら弱々しく謝った私。
絶対、蒼輝に、怒られると思ったの。
「扉壊す気?
もっと、おしとやかにできねーのか。」
って。絶対蒼輝なら、イヤミを交えて言うと思ったんだけど・・・。
「プッ・・・アハハハハ!!」
って・・・。聞こえたのは・・・コレ、笑い声だよね?
私は、恐る恐る声のした方に顔を向ける。
蒼輝は、窓際の床にペタンと座って、あぐらをかいてた。
そして、こっちを見て、楽しそうに大笑いしてた。
「なんで、そんなに笑うのよー。」
と少し口をとがらしていう私に、
「だって、お前、気合い入れすぎなんだもん。」
なんて言ってる側から、また大笑いを始めた蒼輝。
そんなに笑いたいなら、どうぞ、お好きなだけ笑って下さい。
もう、諦めた私は、タメ息をつきながら、扉を閉める。
そして、振り返ると・・・。
「!!」
何もいえなかった。
だって、蒼輝ったら、さっきの大笑いはやめて、私をすっごく優しい瞳で見てるんだもん。
その真っ直ぐでいて、優しい瞳が、私の胸を熱くさせた。
「そんな目で・・・見ないでよ。」
ドキドキしちゃうから、目が合わせられないでしょ!
私はそう想いながら、彼から目を少しそらす。
すると、急に、「翠。」と私を呼ぶ声がして。
呼ばれたらやっぱり反応しちゃうじゃない。
蒼輝がかっこよくて、今すぐ抱きつきたいって想いを、私は必死で堪えてたのに。
今は、私の気持ちだけを押し付けちゃいけない。
そうする為に私は、ここに急いできたわけじゃないの。
だから、必死で抑えていたのに。
だけど、それは、私が蒼輝に目を戻した時に終わりを告げた。
私にとびっきりの笑顔を向けて、私に向かって、両手を広げる。
そして、蒼輝のお得意の言葉。
「おいで。」
ダメだよ、蒼輝。
その言葉、私、弱いんだって。
せっかく、蒼輝を抱きしめにきたのに。
これじゃ、逆になっちゃうよ。
今は、走り出しちゃダメってわかってるのに、ダメだね。
蒼輝を愛する気持ちに私は、負けちゃった。
蒼輝を愛おしいと思う気持ちに、走らされちゃった。
私は、「もう・・・だいなし。」と口にしながら、蒼輝に向かって走り出すと、彼の胸に向かって、思いっきりダイブした。
彼は、私を力強い腕で、抱き止めてくれた。
私は、猫みたいに、頬を蒼輝の顎辺りに、スリスリとすりよせる。
そんな私のしぐさを、少しこそばく思ったのか、蒼輝は、ちょっと照れた笑いをしながら、私の髪を優しくなでた。
「ねぇー、蒼輝。」
すぐ側にある蒼輝の顔。
ただ、触れ合って、抱かれているだけじゃ、満足できないよ。
1年離れていた分、甘えていいよね?
こうして、抱き合っていられる間、愛に溺れていいよね?
知らない間に、私はそんな想いを込めた瞳で、蒼輝を見ていたのかもしれない。
私の想いが、何でもわかる蒼輝は、私の顔を見て、クスと笑うと、
「お目覚めのキス。」
と、とってつけたような理由を述べて、私にキスをしてくれた。
蒼輝は、本当に優しい。
私が、蒼輝にキスをねだろうとしてたの、わかってたんだよね。
ねだりたいけど、でも恥ずかしくて言い出せなくて、目で訴えた私に蒼輝は答えてくれた。
でもね・・・少しそれが、ひっかかったの。
恐いとは違うけど、違和感っていうのかな?
それが、ヒビキさんの死を受けた、彼の心の変化なのか?
それとも、無理をしているのか・・・。
私は、気になって仕方がなかった。
なかったんだけど、私って、ホント体細胞でしょ!
1つの事が、気になっちゃうと、前までの事が、スコーンと姿形なくなっちゃって、塗りかえられちゃうのよね。
やっぱり、今も・・・そうなってしまった。
私の疑問をすりかえたモノっていうのはね・・・。
私は、唇を離した途端、すぐに蒼輝に聞いてしまった。
「ねぇー、この甘い香り・・・何?」
蒼輝と交じり合った口から、すごく甘くて心地よい香りがしたの。
果物でも、香水でもない。
しいていうなら・・・。
「花の香り??」
首を軽くかしげる私に、「すごいな。」と感心した蒼輝は、床に置いてあるグラスに手を伸ばした。
そして、それを私の目の前に持ってくる。
ウイスキーを飲む時に使うような角型のグラス。
その中に、透き通るような紫色の液体が入っていた。
「匂い、かいでみろよ。」
そういいつつ、私の鼻あたりに近づけてきた蒼輝に、私は「う・・・ん。」と戸惑いながらも鼻をクンクンとすすってみた。
それをかいで、「あっ!」と思わず言っちゃって。
そして、蒼輝を見て、「これだ。」と断言。
「ねぇー、これ、何なの?
一体、なんの香り?」
気になった。
さっき、私が花の香りだといったら、すごいなと蒼輝はいったんだもん。
なら、これ、花の液体って事?
でも、こんなに綺麗な紫色って出るものなの?
なんて、色々考えていると、蒼輝が答えをくれて・・・。
「コレは、ラワンデルといって、ラベンダーの色素と蜜をつかって作った物だ。」
「ラワンデル・・・。」
響きもいいし、においもいい。
それでいて、見た目の色もいい。と来たら・・・。
「ねぇー、私も飲みたい。
ちょうだい!!」
とそのグラスを奪おうと両手を差し出すけど、あともうちょいの所で、グラスをヒョイと上に上げられた。
蒼輝より背がかなり低い私は・・・当たり前の事ながら届かなかった。
「ずるーい。自分ばっかりおいしいもの飲んで!!」
と口を膨らまして大げさにすねる私の口を、左手の指を使って、ふくらみを潰す蒼輝。
「ぶふっ。」とブサイクな音を立てて、私の口は、元に戻った。
「お前まだ、ガキだからダメ。」
「何よそれー。理由になってないぃー!!」
とさらに突き詰めると、やっと教えてくれたよ。
ラワンデルの正体と、そして、彼が飲ませてくれない訳を・・・・。
「ラワンデルは、別名ラベンダー酒(シュ)って言うんだ。」
「ラベンダー・・・シュ??」
そう口にして・・・気付きました!!
「それ、お酒なの??」
すっとんきょうな声を出した私に、「そんなに驚く事かよ。」と呆れられた。
でも、驚くって。
だって、お酒だなんて思わないよ。
さっき、かいだ時もお酒のにおいしなかったし、それに、ほら。
蒼輝とキスをした時も、蒼輝の口からこの香りはしたけど、アルコールの味はしなかったもん。
普通、するでしょ?
だから、てっきり、お酒じゃないと思ったから、驚いた。
驚いたけど・・・やっぱり、疑わしい。
これが、お酒だなんて・・・絶対、嘘だ!!
そう思ったら、蒼輝が私を騙そうとしてる。とかんぐっちゃって。
私は、蒼輝の言葉を信じなかったんだよねー。
「嘘ばっかり!
そんな嘘に、私が騙されるもんですか!!」
そして、素早く立ち上がると、油断してる蒼輝の手から、グラスをぶんどる。
「あっ!」
と声を上げる蒼輝と同時くらいに、私はグラスに口をつけ、ラワンデルを数滴口に入れた。
ほら、こんなに液体が近付いても、全然アルコールの香りしないもん。
まんまと、蒼輝の嘘に騙される所だったよ!!
と思って、笑いながら、口半分くらいにラワンデルを含み、グラスから口を離した。
その途端。
「!!!」
私の顔はとんでもない顔に変わった。
眉間にしわをよせ、立っていた足からは力が抜け、蒼輝の膝の上に座り込む。
そして、両手はバタバタと、はばたかせる。
蒼輝を見る目は、少し涙目になり、最後は、
「んーん・・んーん・・・。」
とうなり声を上げて、蒼輝に助けを求めた。
どうしたかって?
違うのよ。これ・・・蒼輝の言った通りアルコールだった。
それも、とぉーっても、アルコール度が高いんじゃないかな?
だって、口に含んでるだけで、口の中が焼けそうに熱い。
早く、早く、吐き出したいけど・・・。
でも、ここに吐き出せないでしょ。
だから、蒼輝に必死で助けを求めたんだけど・・・。
私のバタバタぶりに、蒼輝はグラスを床に置きながら、「ククク。」と意地悪な笑いをしてさ。
私は、はばたかせていた手で、今度は蒼輝をバシバシ叩いた。
笑ってないで、助けてよ!!
その想いは蒼輝に届いたようで、
「わかった、わかった。
殴るなよ。」
と笑いながらそして、少し面倒くさそうにいった蒼輝は、私の両頬に手を添える。
「だから、言っただろ?酒だって。
こいつは、色や香りから想像がつかないくらい、キツイ酒なんだよ。
その力は、唾液と交じり合うと効力を発揮するという特殊な酒で、普通の酒と違って、アルコールの香りはしない。
酒好きのヒビキですら、祝い事以外では飲まない酒なんだよ。
それを、あんなにすごい量を一気に口にするとは・・・。
普通、初めての物には、慎重になるだろ?
なんで、あんなに飲むかなー。」
って、ノンキに首なんてかしげないでくれる?
こっちは、もう、とんでもない事になってるんだから!!
というわけで、さらに蒼輝をビシバシ殴る私に、「はいはい。」と蒼輝は笑いながら答えると、またしても、こんな事を言い出した。
「これからは、これにこりて、俺のいう事はちゃんと聞けよ。
わかったか?」
本当に意地悪なんだから。
こんな時に、そんな条件、ずるいよ!!
『うん』としか言えないじゃない。
私は、しぶしぶ首を縦に振った。
それを見た彼は、
「よしよし。素直素直。」
と嬉しそうに笑うと、私の唇に自分の唇をくっつけてきた。
てっきり、どこかに吐き出すのかと思っていたから、ビックリしちゃって。
驚き顔で見る私と、蒼輝の目が重なった。
『待って・・・液体が入ってるんだよ。
口、開けれないよ。』
『いいから、ユックリ開けてみろ。
俺が、全部吸い取ってあげるから。』
そんな会話が交わされた・・・。
と錯覚してしまうくらい、私の耳に、蒼輝の声が聞こえた気がしたの。
ううん。それだけじゃない。
安心も与えてくれたんじゃないかな?
だって、私、こんな事初めてだったのに、蒼輝との会話を感じてから、安心しちゃって。
唇を少しだけ開いたの。
すると、蒼輝が私の唇をこじ開けるかのようにして、中に入り込んできて、あっという間に、綺麗にラワンデルを吸い取ってくれた。
全部吸い取った蒼輝は、私から口を離すと、そのまま顔を天井に向けるようにかかげ、口の中にあるラワンデルとゴクンと、ひと飲みした。
「一口で飲んじゃって・・・平気なの?」
とんでもないものに満たされていた私の口が、開放されて最初に言った言葉は、これだった。
だってだって、アレをひと飲みするなんて・・・ありえないって。
ひと飲みどころか、一口でも勘弁だよ。
どれだけすごいかって・・・。
えっとね、ラワンデルのせいで、のどがすごく痛くて、ちょっと声が変になっちゃったー。
それから、一番の問題は・・・。
私は、舌をベーと出して、両手でパタパタと仰いだ。
舌が焼けるように熱いの。
なんていうのかなー。
唐辛子を食べた時とか、激辛スープを飲んだ時とか・・・。
そんな時に味わうような、舌の熱さと痛さっていうの?
あれに、似てるかな。
とにかく、あの色と香りからは、予想もつかないような、とんでもない物だった。
「熱い、痛いぃー!!」
を連発して、さらに手でパタパタと仰ぐ私の姿を、蒼輝は笑いながら見てて。
おもいっきり焦ってる私と違って、余裕というかノンキというか。
そういう蒼輝の姿に、ついついヤツ当たりしてしまった。
蒼輝は全然悪くないのにね。
「一人だけ、涼しい顔しないでよ!
お願い・・・助けてぇー!!」
止まっていた涙が、また徐々に出てくる。
ホントにホントに助けてぇー。
必死で訴える私の姿に、蒼輝は笑いながら私の顔に、自分の顔を近づけてきて。
「ホント、翠って、手がかかるよなー。」
と冷たい言葉を言われたけど、でも、顔は全然冷たくなくて。
すごく優しい瞳を向けてくれてたから、私は蒼輝の悪態すらも愛おしく思ったりした。
私の嘆きで響き渡っていた司令塔室も、しばらくの間は、私と蒼輝のキスの音が響いてた。
蒼輝の唾液が、私の舌を冷やして潤してくれる。
蒼輝の舌が、私の舌にある熱と痛さを吸収してくれた。
「どう?おさまってきた?」
唇を離してすぐにそう言った蒼輝。
まだ、私の顔と蒼輝の顔は近くて、蒼輝の長い前髪が、私の顔に優しく触れる。
それが、お互いの距離が近いことを知らせているようで、ちょっとくすぐったかった。
こんなに交わるようなキスを、蒼輝としたのは初めてだけど。
でも、何でかな?
恥ずかしいっていうよりも、嬉しいが勝っちゃうのよね。
私は、嬉しさのあまり、顔を緩ませてしまう。
嬉しさに浸っちゃって、蒼輝の質問が聞こえてなくてさ。
もちろん、そういうのって、蒼輝は許してくれないから。
「聞いてる?」
って言って、私の頬をビヨーンとひっぱった。
それで、一気に目が覚めたよ!!
せっかく、蒼輝のキスに酔いしれてたというのに・・・。
もう!ムードぶち壊しじゃない!!
ちょっと、ムスとする私。
「何、怒ってんの?」
なーんにも、わかってない蒼輝は、不思議そうに私を見てさ。
ホント、全然女心をわかってないんだから!
呆れちゃう・・・。
・・・でも、それが、蒼輝らしいっていえば、蒼輝らしいんだよね。
だから、やっぱり、許してしまう。
「なんでもない。」
私はそう言って、蒼輝に抱きついた。
「変なやつだな。」
と笑ってる蒼輝に、私は聞いたんだ。
「ねぇー、さっき、何を言ってたの?」
「ん?」と言って、私の方に顔を少し動かした彼は、「ああ。」というと、もう一度私に質問を投げかけてくれた。
「もう、舌は治ったか?」
そう言われて、私は口の中で舌を動かす。
ちゃんと確認して・・・。
「すごい!!熱いのも痛いのも無くなったー!!」
とすっごく感動してしまった。
それだけで、終わっておけばよかったんだけど、私は暴走しちゃって。
だって、あまりに感動しちゃってさ。
余計なことまで口にしてしまった。
「蒼輝って、なんでも出来るんだねぇー。
ヒビキさんいなくても、何でも自分で出来るんじゃない?」
そう口にして、私は慌てて口を覆う。
違う・・・そんな事を言う為に、私はここに来たわけじゃないのに。
蒼輝をせめてどうするのよ!
私は、慌てて首を振る。
「違うの。今のはそういう意味じゃなくて、えっと・・・・。」
必死で言い訳を考える私の姿に、蒼輝は怒るでも呆れるでも無視するでもなくて・・・。
それは、とても意外な行動だった。
「そう・・・き?」
戸惑いながら私は、彼を見てそう聞いた。
だって、蒼輝ったらどんな行動を取ったと思う?
蒼輝は、信じられない行動を取った。
私を優しく抱きしめて、私の髪を優しくなでた。
まるで、私の本当の心・・・。
蒼輝を頼りにしてるっていう、私の本当の心に対しての答えをくれるみたいに・・・。
そうされて、私は、思い出したの。
この部屋に来て、蒼輝に思った事を・・・。
ううん。この部屋だけじゃない。
今回、ここに戻ってきてから、ずっとずっとひっかかってた事。
それは、蒼輝の態度がおかしい事!
最初、私と再会した時、蒼輝言ってたよね。
『お前を救うなら、俺も自分の命を守る。
2人共に危険が及ばないように・・・救えるように、俺も考える』
って。
今まで、そんな風に蒼輝が考えるなんて事なかったでしょ?
あれは、私を安心させる為だけに言った、でまかせというか、とっさに出た言葉と思ってたの。
でも、よく考えたら、変なのはそれだけじゃないよね?。
蒼輝が捕まってるような夢を見て、蒼輝の安否を気にしていた私は、いつもの私じゃなくて焦ってて。
それを蒼輝はちゃんと気付いてくれたんだけど、それを素直に言えない私に、しつこく聞いてくるんじゃなくて、上手く聞きだすようにしてくれたり。
あと、さっきの『お目覚めのキス』だってそう。
ほりさげて考えると全部、まるで私の心を読んでたみたいな行動で・・・。
そう思った私は、はっ!とする。
そうだ!!心を読むだ!
蒼輝は、私が心に抱いたり、望んだりしてるそのままを、行動に起してくれてない?
でも、どうして?
なんで、そんな事を?
それに、そもそも、ヒビキさんみたいに心を読むことなんてできないのに、こんなにドンピシャに出来るものなのかな?
どうして、蒼輝がそうなってしまったのか。
それが、どうしても・・・ひっかかったの。
「蒼輝・・・一つ聞いていい?」
彼が答えてくれるか、不安はあった。
触れていいのか、戸惑いはあった。
でも、知りたかったの。
蒼輝の心を、知りたいと思った。
少し遠慮気味でいった私の声に、「ん?」と口にした蒼輝は動かしていた手を止め、私をのぞきこむ。
少し、不安そうな顔をしている私の顔に、止めていた手を動かしてくると、私の頬を軽くプニプニとちょっかいだしてきた。
「改まって、なんだよ。
スリーサイズは、いわねぇーぞ。」
もしこれが、サンガなら、無視しちゃうかもしれない。
でも、相手は蒼輝だよ!
あの蒼輝が、こんなボケ・・・。
ありえないでしょ!
当然ながら、無視なんてできないよ!!
私は、くっつけていた顔を勢いよく起すと、蒼輝を見つめる。
そして、たまらず、こう言ってしまった。
「どうしたの?」
って。それには、蒼輝が噴出し笑い。
「どうしたの?はないだろ?」
だけど、しょうがないじゃない。
どんな言葉よりも、そう思っちゃったんだから!!
でも、確かに、それだけじゃ、私の気持ちも疑問も彼に伝わらないと自覚。
私は、目を合わせたまま言うのは、緊張して上手く話せるか心配だったから、起していた顔をまた彼の首辺りにめがけて倒した。
「再会した時から思ってたんだけど・・・。
今の蒼輝、1年前の蒼輝と全然違うよ。
どうしちゃったの?」
恐かった。
何が?って聞かれると困るけど・・・なんだろう。
考えれば、考えるほど、目の前の蒼輝が別人に思えた。
こうして、こんなに触れ合って、体温や吐息を感じても、不安は消えなかった。
蒼輝はすぐには答えてくれなくて。
その沈黙が、私を不安にした。
たまらず、顔を上げた時。
ちょうど、タイミングよく蒼輝も口を開いた。
「よく見抜いたな。
俺は、蒼輝じゃない。」
「えっ!」
耳を疑った。
今・・・何言った?
完全に頭の動きが停止した。
血が逆流するかと思った。
どこかで、声が聞こえた気がした。
目の前にいる蒼輝が、ニセ者なら、ここにいるのは危険。
早く逃げなきゃ。
離れなきゃ!!
でもね、ダメ。
体が動かない。
抱きついている彼から離れる為に、腕を動かしたい。
でも、腕を動かすのって、どうやるんだっけ?
彼が何者か、聞かなきゃ。
でも、言葉って、どうやったら出るんだっけ?
こんな感じ。
何もかもが、わからなくなってしまった私。
ただ、彼を凝視してた。
そんな私に彼は、冷たい笑いをしながら口を開いた。
「いいの?俺から逃げなくて。
捕まえるよ。」
彼のいう言葉に、私は反応できなかった。
彼の言葉が、私の頭に残る事はなかった。
右から左にただ、すり抜けていっただけ。
行動を起さない私を、彼は笑いの消えた冷たい瞳で見ると、自分の右手を私の頬にくっつけた。
彼の行動に、私は条件反射で、ビクと飛び上がる。
その姿に、彼の瞳は全く動じず、低く感情が通っていないような冷ややかな声でこう言った。
「チェックメイトだ・・・翠。」
そして、頬に触れていた彼の手が、私の首に下りてくる。
硬直していた私の頭が、その瞬間正気に戻った。
『殺される。』
私の脳裏にその言葉が、浮かんだ。
でも、逃げようにも逃げられなくて・・・。
私は、目をつぶり、死を覚悟した。
だけど、次の瞬間・・・。
「んっ・・・。」
私はそんな声をあげながら、閉じた目を開ける。
目の前には蒼輝の顔。
そして、私の唇には、何度も触れた蒼輝の唇。
なんで?私を殺すんじゃなかったの?
っていうか、この人、蒼輝じゃないのに。
嫌・・・なんで、キスなんか!!
私は、必死で抵抗する。
彼の顔を押しのけようとするけど、素早く両手をつかまれて、逃げられなかった。
顔を動かして彼の唇を振りほどこうとするけど、彼の力強さに負けた。
彼の舌がからむ。
彼の熱を感じる。
蒼輝じゃない人で、嫌なはずなのに。
なのに、なんでだろう。
こうして触れていると、安心する。
蒼輝じゃないんだけど・・・蒼輝?
会話や行動は、蒼輝じゃない気がしたの。
でもね、このキスと、この熱さは、蒼輝じゃないってどうしても思えなかった。
1年前に、別れ際にキスしてくれた蒼輝と重なるの。
彼の手を振りほどこうと、必死で力を入れていた私の腕がフッと弱くなる。
力がなくなったのに気付いた蒼輝は、つかんでいた私の腕を離した。
開放された私は、両腕を蒼輝の肩に添えて、彼に抱きついた。
重なり合っている唇が、もっともっと深く強く交じり合った。
交じり合えば交じり合うほど、感じる。
確信する。
目の前にいる蒼輝は、紛れもなく私の愛してる蒼輝だって。
私が強くそう思った時、まるでタイミングを図ったように、蒼輝が私からユックリと唇を離した。
お互いの唾液で濡れている唇が、風に当たって少し冷たく感じた。
あなたは蒼輝よ。
私は、彼にそういおうとした。
言おうとして、口を開いた時、彼が先にこう言ってきた。
「俺は、誰?」
そう言ってる彼の瞳は、さっきと変わらなかった。
冷たくて、愛を感じない瞳。
さっきのキスの熱い情熱とは雲泥の差。
天と地ほど違う瞳。
だけど、もう、私は迷わなかった。
揺るがなかった。
だって、わかったから。
彼がどんな演技をしようと、彼が蒼輝に間違いないと。
私には、ちゃんとわかったから。
私は、彼の頬に軽いキスをすると、彼に教えてあげたの。
「緑豹国の緑の王、蒼輝。
ニセ者なんて嘘。
あなたは本物よ。」
ハッキリと答えた私の言葉。
戸惑いが消えた私の瞳。
それを見た蒼輝の瞳が、みるみる温かいいつもの蒼輝の瞳に代わった。
そして、ご褒美だったのか、私の口に軽い口づけをくれる。
「お前・・・、気付くのが遅い!!」
とちょっと、怒ったフリをした蒼輝は、そういいながらも、私を強く抱きしめてくれて。
その腕の優しさに、蒼輝が怒ってないのは、充分わかっていた。
それにしても、謎が増えた。
だって、そうでしょ?
なぜ、わざわざニセ者を演じたの?
正直、ホンキで焦ったんだから!!
「ねぇー、なんで、こんな嘘ついたのよ!
疑ったじゃない。」
たまらず、そう言った私に、蒼輝は、「これからの為。」と言って少し苦笑いをした。
「これからの・・・為?」
首をかしげる私に、蒼輝は、「ああ。」と口にすると、こんな話を始めた。
「お前には本当の事をいう。
ヒビキに言われたんだ。
緑豹国にいる者で、誰が敵で、誰が味方かわからないって。」
ちょっと、待ってよ。
それって、つまり・・・。
「裏切り者がいるって・・・そういう事なの?」
私はそう口にして、ある事に気付いた。
それは、ランさんと響厘(コウリ)くんの事。
ずっと、気になっていたの。
さっき、ランさんが言ってたよね?
ランさんと響厘(コウリ)くんは、地下室にずっといたって。
そして、響厘(コウリ)くんの存在は、私がこっちにくる直前にみんなに伝えられたって。
その理由が・・・もしかして、コレだったの?
でも、そうだと、納得がいく。
私は、自分の中でだけ答えを解明していくのが、じれったくて、つい蒼輝に聞いてしまう。
「じゃあ、響厘(コウリ)くんの存在をみんなに隠してたのも、裏切り者がラウオに伝えないようにする為だったの?」
私の言葉に蒼輝は、一瞬驚きの顔になるけど、すぐに優しい微笑みにかわった。
「お前・・・やけに勘がいいな。」
と彼にしては珍しく私を褒めると、「これなら、話しやすい。」と言い出し、話を続けた。
「実際、本当に裏切り者がいるのか、それすらも、わからない。
でも、たぶん、いると思うんだ。
そうでないと、説明がつかない!」
また、気になる言葉を言ったよ。
私は、すぐさま、彼に聞き返す。
「説明がつかないって、どういう事?」
すると、彼は言ったの。
「ヒビキの死だ!」
って。「えっ!」と驚きの声を上げたとき、私の心臓も大きく波打った。
ヒビキさんの死。
まだ、心のどこかで嘘だと信じてたこと。
だけど、こうも、ハッキリ言われると・・・本当なのだと知った。
ちゃんと聞かなきゃいけない。
受け入れないといけないとわかっているけど、やっぱり恐い。
だから、私はたまらず、蒼輝の首に絡めていた腕を離すと、彼の背中に抱きついた。
頬を彼の胸にくっつける。
彼の心臓の音を聞く。
こうして、愛する人が生きているのだと感じながらだと、落ち着いて聞ける。
そんな気がした。
その想いは、蒼輝にも伝わったみたいで、彼は私を強引に自分から離すこともなく、そのまま話を続けた。
「俺たちは、お前が元の世界に戻った後、じじいから、絶対に緑豹国から出ないように言われた。
それは、俺もヒビキも、ちゃんと守ってた。
ヒビキは、自分の死を予知してた。」
「予知?」
「ああ。夢で、自分が死ぬシーンを何度も見せられたと言っていた。
森で、銃で撃たれて死ぬと・・・。」
それを聞いて、私は少しガッカリした。
っていうのは、もしかしたら、ヒビキさんが死んだのは、私が見た夢と関係するのかな?ってちょっと思ったから。
捕まって、拷問されてそして、死んだのなら、私が見た夢が正夢じゃないけど、関連があったと。
あれは、ヒビキさんで、自分が死んだシーンを私に見せたかったのかと・・・。
説明できると思ったの。
でも、違った。
ヒビキさんは、銃で殺された。
そういえば・・・。
私は、蒼輝が、数時間前、ココで私に言ったセリフを思い出した。
「蒼輝、言ってたよね?
ヒビキさんは、蒼輝の目の前で、銃で撃たれて死んだって。
それ、ホントなの?」
さっきみたいに、嘘だといってくれることを少し願ってた。
実は・・・って、別の死に方を口にしてくれると・・・。
だけど、蒼輝は、「ああ。」と私のいった言葉をすんなり認めた。
「明け方、チナリの時と同じように、銃声が森から聞こえた。
急いで、司令塔室に向かったけど、いるはずのヒビキがいなくて、俺はトーワに心でヒビキに呼びかけるように言った。
だけど、いくら呼びかけてもアイツは、トーワの声に答えなかった。
それで、森でマトになっているのは、ヒビキだと俺は確信した。
じじいが止めるのも聞かず、俺はトーワの背中に乗って、森に急いだ。
森の狭間で、ヒビキはトロイやジギルたちを前に立ち尽くしてた。
その時はもう、豹になる力も残って無くて、人型に戻ってた。
アイツは体中から血を流してた。
アイツの立っている場所は、すでに血の海だった。
一目見て思ったよ。
もう、アイツは助からないって・・・。」
蒼輝が言ったヒビキさんの死に際の映像は、私がさっき、彼の死を聞いて想像した映像と一致した。
ぞっとした。
あのヒビキさんの死が、現実と化した今、恐くて恐くてたまらなかった。
私は、たまらず、蒼輝にしがみつく。
彼の背中を抱きしめる私の手が、信じられないくらい震えてた。
その震えに蒼輝も気付いていたはずだけど、彼はそれについて何も言わなかった。
ただ、私に安心を与える為、私を抱きしめている腕をさらに、きつくし私をキューっと抱きしめてくれた。
「俺たちは、ヒビキの元に行こうとしたんだ。
だけど、ヒビキは振り向かないままだったけど、叫んだんだ。
『来るな!!』って。
俺たちは、ヒビキの言葉の力強さに、思わず立ち止まってしまった。
あんなに重症だったヒビキに、出せるはずもない強くて大きな声がさ、俺たちを止めたんだ。
アイツの俺たちを巻き込みたくない!っていう強い意志がさ・・・。
立ち尽くしてた俺たちの方に、ヒビキは最後に一度だけ振り返ったんだ。
そして、俺にこう言った。」
そこで、止めた蒼輝の先の言葉が気になった私は、伏せていた顔を上げる。
たまらず、彼に訴える。
「なんて言ったの?」って。
私の瞳に答えるように、彼は私を見つめてこう言った。
「騙されるな。ラウオをみくびるな。」
そして、口を閉じた蒼輝。
「それ・・・だけ?」
だって、そうでしょ?
私は、てっきり、種明かしをしてくれるのかと思ったの。
だって、謎じゃない!
緑豹国から出るなと言われていたヒビキさんが、出た理由。
殺されるとわかっていたのに、何で出て行ったの?
それを、教えてくれずに、いった言葉があれって・・・。
もしかして・・・。
「それが、答えなの?」
私の質問に蒼輝は何も答えなかった。
だから、私はさらに聞いたの。
「ヒビキさんがどうして森に行ったのか。
その理由、蒼輝にもわからないんでしょ?
その理由が、ヒビキさんが言った言葉なの?
『騙されるな。ラウオをみくびるな』。
それが・・・理由?」
それに対して、蒼輝は何も言わず、私をまた、自分の胸に引き寄せ、抱きしめた。
「たぶんな。
なんらかの理由で、ヒビキは森におびき出されたんだと思う。
それが、アイツが残した言葉に関係するんだろうけど、わからないんだ。
ずっと、ずっと考えているんだけど、アイツが、俺に何を言いたかったのか。
なぜ、禁じられた森に行ったのか。
全然わからないんだ。」
蒼輝はそういうと、私の髪を優しくなでた。
「だから、今は、とりあえず、ヒビキが死ぬ前に言っていた、『誰が敵かわからない。』っていうのを信じてる。
そうすることで、疑いを持って生活をするから、対策にはなりそうだろ?」
「そりゃ、そうだけど・・・。」
と答えた私に、蒼輝はさっきの演技のねらいを口にした。
「だから、翠にもそのつもりでいてほしいんだ。
誰が敵かわからない。っていう心つもりでいてほしい。
さっきみたいに、外見だけで判断するな。
俺を見破ったのは、俺の体温だったよな?
言葉や外見は、なんとでもなる。
でも、変わらない何かが、その人にとって色々あるだろ?
それをキーワードに、相手を見抜いてほしい。
さっきの俺が、もし、本当に敵なら・・・。
翠は、間違いなく死んでた。
それに、ラウオが狙うのも、きっと、俺か翠のはずだから。
いいな。常に、警戒しておいてくれよ。」
「うん・・・わかった。」
本当は、納得が言ってるわけじゃない。
だって、仲間を疑うんだよ。
蒼輝以外の人みんなを・・・・。
そんなのイヤに決まってるじゃない。
でも、それは、蒼輝も一緒だってわかってるから。
それでも、蒼輝は疑わなきゃいけないっていうんだもん。
なら、私もそれに従う。
ヒビキさんがいない今、頼れるのは、蒼輝しかいない。
彼の王としての第六感を、頼りにするしかない。
でも、ちょっと、待ってよ!
確かにこれで、蒼輝が演技してたのは、納得がいったよ。
身を持って、私に恐怖を味わわせたかったっていうのはね。
でも、その前の事は?
蒼輝が、蒼輝でないってやつ。
あれは・・・結局、なんだったの?
蒼輝は、ニセ者じゃなかった。
でも、別人みたいに、変わっちゃった理由は??
これを、謎のままにしておきたくなかった私は、彼に聞いたの。
変わってしまった訳を・・・。
すると・・・。
「それは、ヒビキの予言があったから。」
と言われたの。
「予言って?」
と聞くと・・・やっと、話してくれた。
「翠が俺を愛す想いごと、愛してやれと言われた。
だから、翠が俺に望む事。
命を大事にしてほしいとか、二人が生きれるように頑張る事とか・・・。
翠は、いつも俺にそれを求めてきただろ?
だから、俺もそういう生き方をしようと思った。
それと、あとヒビキに言われたのが、お前を思い通りに愛せって。
だから、翠への気持ちを開放したんだ。
お前に、甘い言葉を言いたい。
お前に、安心を与えたい。
お前を、いじめたい。
そんな気持ちを隠さず、翠にぶつけた。
正直、俺って、こんなにガキだったんだって、思ったよ。
でも、そうしたかったんだ。
翠を・・・好きな女をそういう風にいじりたかった。
俺の本来の姿・・・かもしれないな。」
だけど、蒼輝。
蒼輝の本来の姿は、それだけじゃなかったよ。
もう一つ、忘れてる。
私は彼の耳に口を近づけて、付け加えた。
「蒼輝の素直な姿。
もう1つあるよ。」
私の言葉に、「えっ?」と驚いた顔を見せた蒼輝に私は、教えてあげたの。
彼の素敵なもう一つの姿を・・・。
「私の心をわかろうとしてくれる優しさと、深い愛。
ヒビキさんに言われたからってだけじゃなくて、根っから蒼輝はそういう優しさがあるんだと思う。
そうじゃなかったら、私が望む事を、私が口にする前に、自然にこなすなんて難しくて出来ないよ。
目覚めのキスも、ラワンデルを飲んで騒いでた私に付き合ってくれたのも。
それに、気絶した私を蒼輝の部屋に運んだのは、ヒビキさんが眠る場所が見える所に、私をいさせたかったからでしょ?
そういう深い愛・・・すごく幸せだった。」
って、言ったら、ちょっと恥ずかしくなった私。
「あー・・・恥ずかしい。」
と言いながら、蒼輝にくっついて、彼に顔を見せないようにする私。
だって、絶対顔、真っ赤に決まってるもん!!
こういう甘い言葉っていうの?
慣れないよ。
だって、蒼輝は私にとって、初めての恋人だし、しかも1年ぶりに逢った訳で・・・。
日ごろ言い慣れない言葉は、さすがにもう、ギブアップ。
「勘弁して・・・。」
とリタイアした私に、蒼輝は大ウケ。
「もうっ!」
と怒って彼の背中を叩く私に、蒼輝はただうれしそうに笑うだけ。
でも、その笑いを聞いたら、ホッとした。
ホッとして・・・私は、また思い出したの。
ランさんの説明も聞かず、私がここに一目散に来たのは、なんだったのか。
意気込んできたのに、ラワンデルに負け、蒼輝の愛に負け・・・。
私は、スッカリ、ここに来た理由を忘れてた。
でも、一つ一つ疑問を解決していったら、最後に復活してくれた!
思い出したら、・・・また胸が熱くなって、蒼輝が愛おしくなってきた。
奥からフツフツと湧き上がってくるこの想いは、蒼輝への純粋な想いだけなのか、それとも、少し体内に入り込んでいたラワンデルが、今頃力を発揮してきたのか・・・。
正直、どっちかわからないけど、どっちでもいいや。
今は、この想いを蒼輝にぶつけたいから。
私は、蒼輝にしがみつくと、強く強く彼を抱きしめた。
急な私の行動に、蒼輝は、
「どうした?何か恐い事でもあるのか?」
と心配そうな声を上げる。
私は、それに対して、首を振ると、彼にこう言ったの。
「ごめんね。」
って。突然そんな事言われて、伝わるわけないよね?
案の定、蒼輝は別の解釈をしちゃって。
「なんで、ごめん?
あっ、あれか?
俺の演技に騙されそうになった事?」
「違う。」
「じゃ、なんだ?
あっ、もしかして、ラワンデルか?
俺が、酒だっていったのに、信じなかった事?」
「そうじゃなくて・・・。」
蒼輝のマヌケさに、ちょっとおもしろくなっちゃった私は、少し笑っちゃう。
すると、蒼輝は、ちょっとおもしろくなかったのか、私の顔に手を伸ばしてくると、私を強引に自分の方に向け、私は彼を見上げる形になった。
「じゃ、何にごめん?」
そう聞いてきた蒼輝に、私は目を覚ました時からずっとずっと言いたかった言葉を彼に言ったの。
「今度も側にいてあげられなくて、ごめんね。」
それを聞いた瞬間、蒼輝の眉がピクと動いた。
私は、彼からユックリと離れると、膝立ちをする。
そして、そのまま、蒼輝の顔に向かって進んだ。
私の胸に蒼輝の顔をうずめ、私は蒼輝の髪を優しくなでた。
「私、蒼輝に言ったのにね。
『私が側にいるよ』って。
チナリさんを失った蒼輝に、私はそういったのに。
大切な人を亡くした時の、蒼輝の涙、また拭いてあげられなかった。
許してね・・・。」
ランさんから、蒼輝がチナリさんの時と同様で、涙を流さなかったと聞いて、蒼輝の心の悲鳴を聞いた気がした。
ヒビキさんが亡くなって、泣いてる暇なんて蒼輝にはなかったのよね。
ランさんと響厘(コウリ)くんを守らなきゃいけなくて。
また、あなたは、あの時と同じように無理をした。
あなたの涙をぬぐってあげれなかった自分が、悔しくてたまらないよ。
たまらず、私は蒼輝の髪に触れている手に力を入れてしまう。
だけど、力を入れたのは、私だけじゃなかった。
ブランと下げられていた蒼輝の両腕が、私の背中に回される。
その腕は、やがて、私を力強く自分の方に引きよせ、強く強く抱きしめた。
その時、蒼輝は、私の胸に顔をうずめながら、一言こう言った。
「バカ・・・。」
って。『ありがとう。』とか、『俺は平気だった。』とか、そういう言葉じゃなくて・・・バカ。
でもね、その言葉の意味は、わかるから。
『ありがとう』って意味なんだよね。
それっきり、蒼輝は何も言わなかった。
ただ、聞こえたのは、苦しみと悲しみが入り混じったような彼の泣き声。
そして、せきを切ったように流れ出した、彼の熱く透明な涙が床にポタポタと落ちる音。
あと、感じたのは・・・背中から伝わる、彼の手がこきざみに震えていた事。
私は、両手で彼を抱きしめる。
そして、彼の頭部に私の顔をくっつけた。
蒼輝の心の声と、蒼輝の泣き声。
蒼輝の全てを聞きたかったから。
私は蒼輝と強く強く絡み合っていた。
ヒビキさんの死を知って、私が受けたショックと心の傷は大きい。
でも、その何十倍も、何百倍もの傷を負ったのは、蒼輝だ。
死ぬ事がわかっていたのに。
どこで死ぬかもわかっていたのに、守れなかった自分を彼は責めたに決まってる。
チナリさんの時よりも、彼は傷つき苦しんだよね?
もう、耐えなくていいから。
我慢しなくていいから。
私が、受け止めてあげる。
さっき、蒼輝が私を包み込んでくれたみたい。
今度は私が、蒼輝を包み込んであげるから。
そんな想いを抱きながら、私は蒼輝を強く大切に抱きしめてたの・・・。
|