5       4 章  IN TURN〜入れ替わり〜
ここは、水に溢れている青鳥国(セイチョウコク)。
そして、私たちがいる場所は、その青鳥国(セイチョウコク)の中で、一番高い塔の最上階。
 
「なんで、ここなんだよ。」
 
高いため、少し肌寒い。
両手を組むような体制で、さすっているサンガは、そんな愚痴をポロと言い出して。
トーワくんは、緑豹国においてきた。
危険があるあそこに、長老とランさんと響厘(コウリ)くんだけにしておくのは、心配だと蒼輝がいって、トーワくんを置いてきた。
 
「あれでも、一応王の1人だからな。
少しは、役に立つだろう。」
 
なんて悪態をついてね。
本当は、頼りにしてるくせに、ホント素直じゃないんだから。と思ってしまう。
ここ、青鳥国(セイチョウコク)へは、蒼輝と私とサンガと雅さんが来た。
もちろん、藍瑠(アイル)さんの瞬間移動に甘えて、彼女にいっきに、ここまで連れて来てもらった。
なぜ、ここに来たかと言うと、それは、蒼輝が涙してから、数時間後・・・。
つまり、今から、30分前に、話は遡(サカノボ)る・・・。
 
 
 
気分が落ち着いた蒼輝は、みんなを司令塔室に呼んだ。
そして、そこで、長老の指示の元、翠怜(スイレン)さんに今後の指示を仰ごうと連絡を取った。
蒼輝の話だと、私がココを去りもとの世界に戻った後、翠怜(スイレン)さんとは連絡が一切取れなくなり、向こうにもいけなくなったと聞いた。
だから、これから、どこへ向かうのか正直わからないため、彼女に聞いてみようという事になったの。
心から念じ、翠怜(スイレン)さんに呼びかけると、意外とすぐに応答はあった。
 
『翠、よくぞご無事で。
みなも、無事でしたか?』
 
翠怜(スイレン)さんのその言葉に、私は躊躇してしまった。
答えに悩む私に、翠怜(スイレン)さんは、不思議そうな声を上げた。
 
『翠・・・どうかしましたか?』
 
そういえば、前に翠怜(スイレン)さんが言ってたっけ?
下界での事をわからなくする為に、赤龍国(セキリュウコク)は天上界に上げたんだって。
つまり、天上界に居る翠怜(スイレン)さんは、私を通して下界の事を知っていただけで、私が居なかった、この1年の事は、全く知らないんだ。
つまり、ヒビキさんが、亡くなった事も知らされていない??
そこで、私は、困ってしまって、蒼輝に目をやる。
何となく事情が読めた蒼輝は、私の左手をつかむと、翠怜(スイレン)さんに話しかけた。
 
『蒼輝です。俺の声が聞こえますか?』
 
蒼輝の言葉に、翠怜(スイレン)さんは、特に戸惑う風もなく、『ええ。聞こえますよ。』と優しい声で答えた。
 
『あなたに報告があります。』
 
蒼輝はそう切り出し、そして、緑豹国で起った、信じられない出来事を翠怜(スイレン)さんに伝えた。
蒼輝の話を聞いてる間、翠怜(スイレン)さんは一言も話さなかった。
最後・・・蒼輝が話し終えたあと、彼女はこう言った。
 
『なんて事でしょう・・・。』
 
って。その声は、とても弱々しかった。
確かに、ヒビキさんを失った今、私たちはどこをどう進んでいいか本当にわからなかった。
それどころか、謎だって何一つ解明されていない。
今回の旅で、私たちは、ラウオと戦わないといけないんだよ。
これで、全てを終わらせないといけないのに・・・。
なのに、私たちは、どう動いていいか途方にくれてる。
勝負を挑む前から、負けがわかってるみたいな、この状況。
ヒビキさんを失って、ヒビキさんの偉大さをさらに痛感させられた。
 
『そこで、翠怜(スイレン)さんには、ヒビキの代わりと言ってはなんだけど、俺たちの道しるべになってほしい。
ヒビキが居ない今、俺たちには進む方角すらわからない。
アンタが、進む方角を教えてくれ。』
 
私は、翠怜(スイレン)さんが、承諾してくれると思ってた。
ううん。きっと、私だけじゃなかったと思う。
ここにいるみんながそう思って疑わなかった。
だけど、翠怜(スイレン)さんから返って来た言葉は、悲しい物だった。
 
『それは、できません。』
 
と。
 
「でき・・・ない?」
 
力無くそう口にした私の言葉に、この人が素早く反応した。
 
「なんでだよ!!」
 
怒鳴り、さらに殴りかかる勢いで暴れ出すサンガを、後ろからつかみ押さえ込んでくれたのは雅さんだった。
 
「落ち着いてください。」
 
「落ち着けるか!!」
 
そんなやり取りをして騒いでいる2人とは対照的で、蒼輝は落ち着いた顔をしていた。
きっと、蒼輝も驚いただろうに。
でも、アタフタと取り乱した様子は、微塵(ミジン)も感じられなかった。
 
『どうして、協力してくれない?』
 
すると、翠怜(スイレン)さんは、初めて彼女自身の事を話してくれたの。
 
『翠をこの世界から生かすため、翠が今生きている時代に魂を送りました。
送ったのは、私の力です。
でも、生まれて人体となっている翠を、肉体から魂を抜き取り、その魂だけを送るなど、もちろんの事ながら私にはできません。』
 
『じゃ、それを、やったのは誰?』
 
『神界にいる神の一人です。』
 
翠怜(スイレン)さんはそういうと、こんな話を始めた。
 
『神界には、いろんな神がいます。
子供専属の神や、願いを叶えてくれる神。
不幸だけを与える神や、過去を変える事の出来る神など・・・。
その神の中で、『姿を変える事のできる神』がいます。』
 
『そいつの名前は?』
 
『シャールンさまといいます。
彼に頼んで、翠の肉体から、魂を取り除いてもらったのです。』
 
翠怜(スイレン)さんはそこまでいうと、少し悲しい顔をした・・・んじゃないかな?
見えないけど、わかるの。
見えないから余計に、声でいろんな事が伝わってくるから。
彼女のその声で、彼女の苦しみがわかった気がした。
私たちの力に、誰よりもなりたいのになれない。
その悔しさが、胸が痛くなるくらい、強く伝わってきたの。
 
『神に頼み事をすると、その代償を支払わなくてはなりません。
シャールンへの代償は、“娘を助けるのは、求められた事のみ”という物でした。』
 
『それ、どういう事ですか?』
 
と聞いた私に、答えたのは蒼輝だった。
 
『つまり、俺たちが理解し、こうしたいから、力を貸してくれといえば、貸してくれる。
でも、今みたいに、わからないから、教えてくれといった、俺たちの行動を左右するような事は、出来ないって事だろ?』
 
『ええ。そうです。』
 
と答えた翠怜(スイレン)さんは、さっきよりも少し暖か味のある、いつもの声に戻ってた。
 
『あなたたちの力で、ここまで来て下さい。
ですが、一つだけ、導きを・・・。
このままでは、何も始まりません。
ヒビキを失ったのなら、ヒビキと変わらない程の能力を持つ者を加えなさい。
今、私があなた達の力になれる事は、ここまでです。
頑張るのです。』
 
『あっ、待ってくれ!』
 
翠怜(スイレン)さんとの会話が終わりそうになって、急に何かを思い出したのか、蒼輝が慌てて彼女を引き止めた。
 
『雅がミューラになれない。
これは、俺たちが、天上界に行く資格が持てたら、変身出来るようになるのか?』
 
それに対して翠怜(スイレン)さんは、
 
『ええ。心配はいりません。』
 
というと、蒼輝の回答に、さらにわかりやすいように加えてくれた。
 
『ミューラへの変身は、天上界にくる条件を満たした時でないと、できないようになっています。
むやみに天上界に来れないようにするため、そのような制約を作りました。
あなたたちが何かを得た時、ミューラの姿が、天上界へくる時を教えてくれます。』
 
その言葉を最後に、翠怜(スイレン)さんの声は聞こえなくなった。
蒼輝は私から手を離すと、タカさんの元へと向かう。
 
「じじい。ヒビキの代わりを得なきゃならなくなった。
そいつは、誰だ?」
 
タカさんは、翠怜(スイレン)さんとの会話を知らないんだよ。
聞こえてないんだから。
なのに、蒼輝のいきなりのこの言葉に、全然驚かないの。
まるで、翠怜(スイレン)さんとの会話が聞こえていたみたい・・・。
いや、違うか。
もしかしたら、タカさんには、初めからわかっていたのかも。
ヒビキさんが亡くなった時点で、こうなる事を予測し、そして、翠怜(スイレン)さんがこう言い出す事も、もしかしたら、わかっていたのかもしれない。
そして、もう一つ、きっとタカさんには、わかっている事。
それは、ヒビキさんの代わりとなる人物が誰か?という事。
だけど、それが、わかっていたのは、タカさんだけじゃなかったみたい。
だって、タカさんったら・・・こんな事を言い出したの。
自分を見る蒼輝に、ニッコリ笑うと、
 
「ワシに聞かずとも、お主ならわかっておるじゃろ?」
 
って。
 
「えっ?」
 
そりゃ、驚くって。
お主ってつまり、蒼輝だよ。
蒼輝にそんな事、わかるわけないじゃない!!
でも、私はさすがに、恐れ多くて声に出して言えなかった。
だけど、カレは別だよね。
恐いもの知らずのカレは、大声でバカ正直に反応しちゃった!
 
「無理無理、むーり!!
じいさん、相手は蒼輝だぞ。
ヒビキみたいに、頭よくないんだからさ。
蒼輝に、わかるわけないってー。」
 
とサンガは蒼輝をバカにする。
ゴングが鳴らないか、ハラハラドキドキしたけど、蒼輝は何も言わなかった。
あれ?って正直思ったけど、蒼輝にどうして相手にしないのか、聞く前に、タカさんがまた意外な言葉を言ったのよ。
 
「さて、本当にそうかのー?」
 
って、意味ありげな笑いつきで。
そんな事言われたら、ゴングが鳴らなかったなんて、もうどうでもよくなって。
タカさんのさっきからの態度の方が、メチャクチャ気になったの。
それは、私だけではなく、ここにいるみんなもそうだったみたいで。
私が、どう聞こうか、言葉を選んでいるうちに、雅さんが聞きだしてくれた。
 
「長老、今の言葉はどういう意味ですか?」
 
みんなが、タカさんを見つめる。
その熱い視線に根負けしたタカさんは、「やれやれ。」というと、軽くタメ息をついた。
 
「確かに緑豹国の王は、蒼輝とヒビキとトーワじゃ。
じゃが、3人おるのは、あくまで、念を扱う能力と、速く走れる能力と、無敵の能力が、それぞれ個々の人物に分かれてしまったというだけであって、その能力以外のものは、1人が全ての物を生まれながらに備え持っておった。」
 
タカさんの話に、私は聞くのがやっとで、あいづちなんて打てなかった。
トーワくんはいつもの事ながら、床に寝転がって、うたた寝してるし、ランさんも響厘(コウリ)くんをあやしながらだから、質問も出来ない。
サンガは、私と同等の頭だから、一緒になって聞くのに必死になってる。
ってことで、タカさんの相手は、自然と青の王に託された。
 
「その1人と言うのは、一体誰なのですか?」
 
雅さんの言葉に、タカさんは名前を言わず、ある人物を指さした。
 
「えっ!!コイツ??」
 
なんていいながら、サンガは、両手で蒼輝を指さして。
それには、蒼輝も、明らかにムスっとした顔をして、素早くサンガの元に行くと、さされている両手を払いのけた。
 
「確かに、蒼輝さんは、歴代の王と同じで、緑の髪である外見と、無敵の体を持っていた。
彼が、王としての知能を持っていると言われても、おかしくはないでしょうが・・・。
しかし、私たちが知る限り、多彩な知識や頭脳を持っていらしたのは、ヒビキさんだと思いますが・・・。」
 
ホント、そうだよ!
蒼輝には悪いけど、それだけじゃない。
品や冷静さや・・・王として大切であり必要なものは、蒼輝よりもヒビキさんが持っていたと思う。
だから、タカさんの言葉に、どうしても納得が出来なかった。
だけど、タカさんは、「それは、しょうがないことじゃな。」と笑うと、暖かいお茶を一口飲み、口の中を整える。
 
「ヒビキは、特別じゃ。
あやつの先を読む力は、王としての知識よりも、遥かに上じゃった。
あれは、ヒビキの特性じゃろう。
いえば個性じゃな。
そして、きつい事をいえば、ヒビキの価値はそこしかない。
王は、それでは困るのじゃ。
人には五感というものがあるように、王にも五性(ゴセイ)という物があってな。」
 
「ご・・・せい?」
 
同時にみんなの声が重なった。
そのタイミングの良さに、タカさんは軽く笑うと、その五性について語った。
 
「知性(チセイ)、力性(リョクセイ)、感性(カンセイ)、耐性(タイセイ)、転性(テンセイ)の五つじゃ。」
 
聞きなれない言葉もあって、ちょっと、理解不能。
首をかしてげしまう私に、助け舟を出してくれたのは、青の王である雅さんだった。
 
「つまり、簡単に言うと・・・。
知性(チセイ)は、さまざまな知識や考えが持てる事。
力性(リョクセイ)は、どんな力にも負けない体力と強さの事。
感性(カンセイ)は、自分や人の感情を受け止める心を持つ事。
耐性(タイセイ)は、状況で我慢するときは我慢する。
冷静さを持つというのと、同じ事ですね。
そして、最後の転性(テンセイ)は、臨機応変に行う事。
何かにしばられすぎず、その時の波に乗っていくのも、時には必要ですからね。」
 
雅さんはそういうと、タカさんを見る。
 
「確かに、私たちが知る中で、雅さんには、力性(リョクセイ)はありません。
ということは、長老が言われている通り、この王としての気質である五性を持っているのが、蒼輝さんだと・・・。
そういう事ですか?」
 
みんながまた、タカさんを見つめる中、タカさんは口を開いた。
 
「この際じゃから、ちゃんと説明しておくのもいいじゃろう。」
 
タカさんのそんな言葉をかわきりに、彼は、蒼輝と言う人物を分析し始めた。
 
「まずは、力性(リョクセイ)から話そうか。
蒼輝の体は、豹の力を失った、ただの混血状態でも、ジギルほどのたけた者が相手でなければ、蒼輝は負けはしない。
それは、サンガ!
お主が、身を持って体験しておるはずじゃろ?」
 
「それは・・・。」
 
とうなずくサンガの姿を見ながら、タカさんはさらに進める。
 
「それから、知性(チセイ)じゃが、ヒビキには及ばなくても、お主たちよりは、断然上をいく頭があったはずじゃが・・・。
それは、翠!」
 
いきなり名前を呼ばれた私は、「はいっ!!」と飛び上がりながら返事をする。
 
「そんなに驚かなくてもいいだろ。」
 
と蒼輝はいうけど、驚くよ。
だって、難しい事を必死で考えてるのに、急に呼ばれたら・・・。
まるで、学校の授業で当てられたのかと、錯覚してしまったんだから。
と心で蒼輝にヤツ当たりの私。
そのヤツ当たりは、タカさんが口を開いたら、治まったんだけどね・・・。
だって、タカさんに言われてることを聞くのに必死で・・・それどころじゃなかったんだもん。
 
「お主になら、ワシの言っている意味がわかるじゃろ?
ずっと蒼輝の側におったんじゃ。
蒼輝が、本来どれだけの人物であるか。
そして、ヒビキがどれだけ蒼輝を頼りにしていたか。
お主になら、わかると思うがのー。」
 
「うん・・・。」
 
私は素直にそう言って、頷いてた。
私もね、思い出してたの。
タカさんの話の途中から、いろんな事をね・・・思い出してた。
雫を私が1人で取りに行って、サンガたちに見つかった時、蒼輝は助けに来てくれた。
あの時、蒼輝はただの混血人間だったのに、サンガや他のハンターなんて、彼の足元にも及ばないくらい、蒼輝は強かった事。
1年前、私と別れる少し前に、私たちは翠怜(スイレン)さんと逢った。
あの時、翠怜(スイレン)さんとの話を進めたのは、蒼輝だった。
鋭い指摘をし、彼女と会話を成立させてた。
私は、あの時、蒼輝がこんなに理解がある人だったっけ?って思ったんだもん。
そして、最後に・・・ヒビキさんとの事。
ヒビキさんは、緑豹国内にラウオの手先が居るかもしれないという事を、蒼輝にだけに話したんだよね。
そして、死ぬ間際に、蒼輝に謎めいた言葉を託した。
それは、タカさんが言ったように、ヒビキさんが蒼輝を頼りにしてたからじゃないかな?
だって、よくよく思い出したら、ヒビキさんはいつだって、蒼輝をたててた。
蒼輝の命を守り、そして、事を左右する場面に遭遇すれば、いつだって、蒼輝の意見を聞いてた気がする。
蒼輝がヒビキさんの知性を認めていたように、ヒビキさんも蒼輝を尊敬してたんだよね。
蒼輝が主となる王で、自分とトーワくんは、あくまで、蒼輝の力添えをする者であると・・・。
ちゃんと、わかってたんだと。
私の中で答えが、出た。
 
「私も、タカさんの言う通り、蒼輝が王としての全てを持ってると思う。
そして、それは、ヒビキさんも認めてた。
そうですよね?」
 
私の問いかけに、タカさんはニッコリ満足そうに笑った。
 
「お主たちも知っての通り、蒼輝は人にはこびんし、自分の意志や考えをシッカリ持っており少々頑固なところはある。
じゃが、時と場合によっては、人の意見に耳を傾け、自分のスタイルに取り入れる事が出来る感受性も持っておる。
それは、今まで、ヒビキとうまくやっていた事が、その証拠じゃ。
そして、それが、五性の残りの3つである、感性(カンセイ)、耐性(タイセイ)、転性(テンセイ)に該当する。
そして、何より、蒼輝のそういう力があったから、ヒビキの知性は、あれだけの力が発揮されたのじゃ。
蒼輝がうまく、ヒビキをコントロールし、導いておったからな。
そして、それは、ヒビキもわかっておったはずじゃ。
だから、あのヒビキが、蒼輝には一目置いておった。
翠のいったとおり、ワシも思うのー。
ヒビキは、蒼輝を誰よりも緑豹国の王と認めておったと。」
 
どうして、タカさんが、こんな事を急に言い出したのか。
そして、どうして、こんな事をいう、タカさんを蒼輝は黙ってみていたのか。
蒼輝は、自分の事を、あーだ、こーだと言われるのが嫌いじゃない。
まして、自分の事を、これだけ褒められて、みんなに認められるというか、注目を浴びるというか・・・。
そういうのは、大っ嫌いな彼じゃない?
俺は、誰にも認めていらん。
って考えの蒼輝なのに・・・。
どうして、黙って、言われるがままだったのか・・・。
その時の私には、わからなかったの。
タカさんの本当の狙いも。
そして、それをちゃんと理解していた蒼輝の思いも・・・。
そんな事を考えずに私ったら、別の事を考えちゃってて。
いや、考えてたというよりも・・・言いたくなったって言った方が、合ってるかな?
だって、ちょっと、しゃくだったんだもん。
蒼輝がこんなにタカさんに褒められてるのが。
あの、タカさんにだよ。
私は、いつもダメだしされてるというのに・・・。
悔しいぃー!!
という事で、私は蒼輝に反論しちゃった。
 
「だけど、知性の他に、ヒビキさんが蒼輝に勝ってる物、もう1つあるよ!」
 
そして、目を輝かせて言った私。
その姿を見た蒼輝は、私のよからぬ企みを察知したようで・・・。
 
「翠!その先は言わなくていい。」
 
と念を押すけど、ごめんねぇー、蒼輝!
私、我慢できなぁーい!!
って事で、その先を大発表しちゃいまぁーす!!
 
「王としての品は、ヒビキさんの方が、絶対あるよ!!」
 
それには、みんなはいっせいに大笑い。
そして、蒼輝はと言うと・・・。
 
「言わなくていい!って言っただろ!!」
 
と少し怒った口調で言いながら、私の髪を乱暴に乱した。
 
「セットが乱れるぅー。
やめてぇー!!」
 
と叫びながら、蒼輝の手から離れて、私は藍瑠(アイル)さんの背中に隠れた。
その姿に、さらにみんなはケタケタと笑い、蒼輝は、
 
「ホントに!!」
 
とタメ息をついてた。
だけど、そんな和やかムードを、いつまでも続けているわけもいかず、蒼輝は軽く咳払いをして、気持ちを切り替えると、タカさんの目の前の席に腰を降ろした。
 
「それで、じじい。
さっきの話だけどな・・・。」
 
と口にしたかと思ったら、いきなり蒼輝にしては珍しいくらいの、真剣な顔つきになった。
 
「ヒビキの代わりっていうのは、“アイツ”しかいないだろ?
“アイツ”をこっちに呼ぶ方法は、“あの場所”で“向こうの本”を使う。
それしか、ないよな?」
 
それは、まるで、暗号みたいだった。
蒼輝が誰をさし、何を言っているのか、サッパリわからなかった。
私は、またもや、ポカーンとしてしまい、みんなも唖然。
だけど、タカさんにとっては、その暗号文が、普通の文章だったようで、
 
「そうじゃな。それしかないじゃろうな。」
 
と・・・2人の間で、会話が成立してしまってた。
 
「おいおい、ちょっと待てよ!!
さっぱり、意味がわかんねぇー。
俺たちにも、わかるように説明してくれよ。
ヒビキの代わりって、誰だよ!
それに、“あの場所”に“向こうの本”って?
ちゃんと、言ってくれ!!」
 
私たちを代表してサンガが蒼輝に言ってくれるけど、蒼輝はいきなりイスから立ち上がる。
そして、私たちの方に来た。
 
「藍瑠(アイル)さん。
あなたに、頼みがある。
俺たちを、ある場所に連れて行ってくれないか?」
 
私の真ん前に居る藍瑠(アイル)さんに、蒼輝はいきなりそう言って・・・。
藍瑠(アイル)さんは、もちろん、キョトン。
そして、サンガは、
 
「無視すんなー!!」
 
と足を床にダンダンとたたきつけて、怒りをぶつけてた。
だけど、蒼輝は無視。
そして、雅さんも、サンガには触れず、藍瑠(アイル)さんの代わりに、蒼輝に答えをするのに手がいっぱいだった。
 
「今からですか?」
 
それに対して蒼輝は、
 
「ああ。とにかく、少しでも早いほうがいい。
なにぶん、翠がここにいる時間は限られてる。
ヒビキが死んだせいで、とんでもないペナルティーがついた上に、すでに出遅れてるからな。
このままじゃ、ラウオと対面する前に、翠のタイムリミットが来ちまう。」
 
確かに・・・蒼輝の言っている事は、大げさじゃないよね。
だって、さっきの、翠怜(スイレン)さんの話を聞く限り、私たちがヒビキさんの代わりになる人を見つけ、何かを解かないと、翠怜(スイレン)さんの元にはいけないんだよ。
1年前に言われた神界へ、行かなきゃ話は始まらないのに、そこに辿り着くまでに、やらなきゃいけないことが増えちゃったんだもん。
スタートラインにすら、まだ、私たちは立っていない。
とにかく、急がなきゃ!!
蒼輝の一言で、私・・・。
いや、ここにいるみんなが、今私たちが置かれている状況を改めて実感させられたんじゃないかな?
緩んでいた気持ちが、締まってくるようだった。
私は思い出してた。
いつも、ここで生きている時は、時間に追われて頭だって体だって、フル回転だった事を。
1年ぶりにここに戻ってきて、蒼輝が無事で、気持ちが知らないうちに緩んでいたのかもと、私は反省した。
それは、みんなも、同じだったみたいで、急にみんなの瞳が変わった。
 
「わかりました。それで、どこへお連れしたらいいんですか?」
 
藍瑠(アイル)さんのその言葉に、蒼輝はある場所を答え・・・。
それが・・・、今居る“ココ”なんです!!
 
「蒼輝さん、そろそろ、教えてくれませんか?
なぜ、今更、ミューラの封印されていたこの場所なんですか?」
 
雅さんの質問に対して、蒼輝は何も答えずに、雅さんに右手を差し出した。
 
「お前の持ってるその青の剣と、青の本を貸してくれ。」
 
「なぜ?」
 
「いいから、貸せ!!」
 
乱暴なところっていうか、自己中というか・・・。
そういう所は、ヒビキさんとは正反対の蒼輝。
これがヒビキさんなら、チャチャっと簡単にそれも、わかりやすく説明してくれて、そして、違和感なく雅さんが剣と本を渡す・・・ってなるのにね。
蒼輝だと、こんなにも、険悪ムードが漂ってしまう。
これって・・・まずくない?
と思った矢先、この人が、蒼輝に抗議!
 
「ちょーっと待った!!」
 
サンガはいきなりそう叫ぶと、雅さんと蒼輝の間に割って入った。
 
「さっき、じーさんが言っていた事だけどな・・・。
お前を王だとか、ヒビキより偉いとか・・・。
じーさんや翠が言った事は、確かにそうだな。って思う。
お前のすごさだって、認めてる。
けど、ヒビキみたいに、すべてを尊敬することは、どうしてもできないんだ。
お前のそういう、自己中な所は、王としての何だっけ?
なんとか性なのかもしれないけど、それでも、やっぱり好きになれない。
俺の中で、王としての気質があったのは、悪いがヒビキの方がお前より上なんだよ。
きっと、そう思ってるのは、俺だけじゃない。
みんなも思ってるはずだ。
だから、お前に、ヒビキがしてたみたいに、あーだこーだと言われても、納得いかねぇーし、比べてしまうんだよ。
ヒビキは、こんな偉そうにしなかった。
こんな強引な態度をとらなかったって・・・。
そう思われるの、おまえだって嫌だろ?
俺たちだって、そう思うのは嫌なんだ。
だから、もう少し、言葉と態度を選んでくれ。
俺たちの気持ちも、考えてくれよ。」
 
サンガの言っている事は、正しいのかもしれない。
でも・・・サンガ。
たぶん、それは、蒼輝には無理だと思うよ。
私は、とっても、自信があった。
だって、アノ蒼輝が、そんな事言われて、「そうだよな。」って言うと思う?
蒼輝は、いつだって、群れるのが嫌いだったでしょ?
そんな、突き放すような事言って。
誰も、ついて来ないぞ!みたいなこと言ったら、蒼輝なら絶対・・・。
と思った矢先、蒼輝は行動を起した。
雅さんに向かって出していた手を下げると、タメ息をつきながら、目の前にいるサンガに視線を合わした。
そして、彼は・・・こう言った。
 
「ハッキリ言っとく。」
 
蒼輝はそういうと、私たちの方にも、ぐるっと顔を向け、
 
「雅も藍瑠(アイル)さんも、そして翠も聞いてくれ。」
 
というと、また、サンガの方に顔を戻した。
 
「ジジイが言った事は忘れろ。」
 
「えっ?」
 
みんなの声が重なった。
驚く私たちに止まる事無く、蒼輝は言葉を続けた。
 
「俺は、自分が3人の王の中の中心だなんて思ってないし、ヒビキを越そうとも思ってない。
俺は、アイツにかなわないことは、わかってるし、だいたい、勝とうなんて思ったこともないな。
だから、俺の態度が気にくわないなら、無理に従う事もないし、俺よりもヒビキを認めてるなら、それはそれでいいと思う。
それは、人それぞれだ。
無理に俺を認めようとしなくていい。
ただ、俺たちは、ヒビキの代わりを得なければならない。
その為に、俺は、自分が出来ることをする。
それが、みんなに命令する行為でも、みんなが気に入らない事でもだ。
ヒビキの代わりであるやつが、来るまではな。
その命令や指示を、もっと優しくしろっていうのも、無理な事だ。
俺は俺だ。
俺は、ヒビキじゃない。
アイツのようにできないし、まして、アイツになろうとも思わない。
アイツはもう、いないんだ。
ヒビキはヒビキ。蒼輝は蒼輝。
そうやって、気持ちを切り替える事が出来ないのであれば、ヒビキの代わりのヤツが来ても、そいつの指示を聞くことだって、できないんじゃないか?
俺は、そいつにも、ヒビキの面影を求めるつもりはない。
そいつなりのやり方で、俺たちを導いてくれたらいいと思ってる。
だから、みんなにも、そうであってほしい。
でも、その考えができないというなら、一緒に旅はできない。
この瞬間から、旅は終わりだ。
今後一切、ラウオに関する事には、関与しないでほしい。」
 
蒼輝はそこまでいうと、サンガから今度は私に目を向けた。
 
「コレが俺の気持ちだ。
俺の考えについてこれないというなら、翠も無理しなくていいからな。
俺抜きで、サンガや雅たちとラウオを目指して進めばいい。
ただ、俺もこの戦いをやめるわけにはいかないから。
チナリを殺され、ヒビキを殺された恨みは、どうしてもはらしたい。
だから、ここからは、別行動になるけど・・・。
俺は俺で、ラウオとの戦いを試みるから。
翠は、お前が進みたい道を選べ。」
 
って・・・。
 
「バカじゃないの?」
 
まだ、何かを言いたげだった蒼輝に、そう言葉をかけた。
もう、これ以上、蒼輝の言葉を聞いてられなかったの。
怒るより、ショックを受けるより、ハッキリ言ってあほらしぃー。
こんな事言ってる時間が無駄、無駄。
ちょー、無駄ってーの!!
私は、蒼輝の胸を両手でドンと後方に押しのけた。
私の力で、蒼輝は後ろに数歩後退し、少しよろける。
 
「何をくらだないことを言ってるわけ?」
 
すると、私のあとに続いて彼が口を開いた。
 
「ホントですよ。
この時間のない時に、とんだ時間の無駄です。」
 
雅さんはそういうと、蒼輝の元に歩み寄り、彼に剣と本を差し出した。
 
「私もあなたにハッキリ言っておきます。
私も藍瑠(アイル)さまも、あなたを尊敬してますし、頼りにしてます。
長老がおっしゃった事は、最もだと納得してますが、あなたが忘れろとおっしゃるなら、忘れましょう。
それでも、私たちはあなたを認め、あなたが好きです。
それは、あなたが、こういう人だからです。
真っ直ぐで、飾らないあなただから、疑わなくてすむ。
いえば、気楽なんですね・・・あなたといると。
だから、あなたのぶっきら棒な態度も、乱暴な所も、今更驚いたり卑下したりしませんよ。
ただ、一言言わせてもらえるなら・・・。」
 
雅さんはそういうと、少しクスと笑う。
 
「たまに、こうして、自分の胸のうちを暴露して下さい。
翠さんだけにではなく、私たちにも。
今まで、ヒビキさんに言われていた事を、私たちにもぶちまけてください。
ヒビキさんはもう、いないのですから。
私たちとの調和をとってくれる人物がいないのなら、私たちで取っていくしかないと思いませんか?
そうでないと、また“カレ”が悪役をしなければ、いけなくなるので・・・。
ちょっと、かわいそうですから。」
 
そう言い終わると、さらにサンガを見て、雅さんはプププと笑う。
 
「おい!雅笑い過ぎ!!」
 
と突っ込むサンガに、
 
「ホントに、サンガさんは、優しいですね。」
 
と微笑む藍瑠(アイル)さんに、少しデレーとなったサンガにこんな人からこの一言。
 
「下手な演技に、疲れがどっと出た。」
 
って・・・。
もう、蒼輝ったら、余計な事をー!!
と私が呆れた瞬間、
 
「疲れたのはこっちだバカ!
俺が課題を振る前に、不調和音に気付け!!」
 
と言い返しちゃったもんだから、久しぶりのゴングは鳴る・・・。
 
「ヒビキじゃあるまいし、そんなもんに、俺が気付くわけねぇーだろ?
っていうか、お前さっきの俺の話を聞いてたのか?」
 
「聞いてたよ!」
 
「嘘付け!聞いてたら、ヒビキを見習えみたいなこと言わねぇーだろ!」
 
「言ってねぇーよ。」
 
「言ってんだろ!」
 
「それは、お前がそう勝手に思ってるだけだろ?
俺のせいにするなよ!」
 
「んだとー!!」
 
「なんだよ!!」
 
そして、2人がむなぐらをつかみあったその時、
 
「はい、そこまでです!」
 
と落ち着いた声が、2人の間に割って入った。
その声に、2人の喧嘩も体の動きもピタと静止した。
 
「いい加減にしてください。
何度言わせればわかるんですか?
さっきから、言ってるじゃないですか。」
 
と雅さんが言ったあと、私と藍瑠(アイル)さんは顔を見合わせて、クスと笑うと、声を合わせて、蒼輝とサンガに向かって言ったの。
 
「時間の無駄ぁー!!」
 
って。
 
「そう。無駄です。」
 
とさらに念を押した雅さんの言葉に、サンガと蒼輝は笑い出し、お互いのつかんでいた胸ぐらを離す。
 
「3人に言われちゃ仕方ないな。」
 
「そうだな。一時休戦するか。
俺が有利と言う事で。」
 
と言ったサンガに、「バカ、有利は俺だ。」と笑いながら答えた蒼輝は、いつもの無邪気な蒼輝の笑顔に戻ってた。
さっきみたいに、ピリピリしてる蒼輝じゃなくて、私は心からホッとしたの。
と同時に、みんなに感謝した。
だって、私1人じゃ、今の蒼輝にはできなかったから。
肩の力が抜けて、いつもの・・・。
ヒビキさんがいた時のような、穏やかな蒼輝にしてあげることはできなかったと思うから。
みんなの優しさを実感し、そして、蒼輝のこんな顔を見て、私は心から安心した。
 
「雅さん、ありがとね。」
 
たまらず、側に居た雅さんにお礼を言った私に、雅さんはユックリと私を見る。
そして、小声でこんな事を教えくれた。
 
「これは、すべて、長老の指示です。」
 
「えっ?」
 
驚いた私に、雅さんは私と蒼輝が知らない事実を暴露した。
 
「蒼輝さんと翠さん。
この順番で、藍瑠(アイル)さまに、ここに瞬間移動でつれてきてもらったでしょ?
その間、向こうに居た私とサンガに、長老はおっしゃいました。
長老がなぜ、蒼輝さんの立場の事を、話したのか。
そして、仲間が増える前に、私たちがしないといけない事は何か。」
 
「どういう・・・事?」
 
「長老が時間がない中、蒼輝さんの事を話したのには、ねらいがあったんです。
それは、私たちの・・・つまり、翠さん以外の者が、蒼輝さんのすごさを知ることです。」
 
「私以外が?」
 
「ええ。あなたは、蒼輝さんを恋人として、そして緑の王として認めてますよね?
いえば、彼に絶大なる信頼があります。
でも、私たちには、翠さんほど、蒼輝さんに信頼は持っていないのです。
それは、ずっと、私たちの頼りは、ヒビキさんだったからです。
私たちの中で、蒼輝さんは、ヒビキさんの次になってしまった。
緑の王で、一番に私たちの心のよりどころにならないといけなかった蒼輝さんが、二番目なんです。
それは、これからの戦いに大きく左右すると、長老は思われたんですね。
だから、ここで、私たちの信頼度を、二番目から、一番目に変えようと、蒼輝さんの話をした。」
 
「左右するって、例えば?」
 
「そうですね・・・。」
 
と言った彼は、こんな話をした。
 
「さっきのサンガの言葉の通りですね。
ヒビキさんと比べてしまい、心のどこかで、二番目のヤツの指示は聞けるか。と反抗してしまう。
そして、自分の思うがまま行動を起してしまう。
そうなると、みんなが、バラバラになってしまい・・・。
そこに、ラウオが容赦なく、攻撃してくるでしょう。」
 
「そんなにタイミングよく?」
 
「だって、彼はそれを狙って、ヒビキさんを殺したんですから。
ヒビキさんと蒼輝さんとサンガと、WONDER LANDで、逢った時、二人がヒビキさんを頼りにしている姿を見て、ラウオはその信頼度を理解したはずです。
それで、ヒビキさんを失った私たちの未来が見えた。
だから、彼は、蒼輝さんではなく、先にヒビキさんの命を奪う事を選んだのだと思います。」
 
雅さんはそういうと、さらにもう1つの目的を教えてくれた。
 
「長老の目的は、もう1つありました。」
 
「もう、1つ?」
 
「ええ。さっきのは、いえば、私たちが蒼輝さんに対する信頼度を1番にするものでした。
そして、もう1つは、その逆。
つまり、蒼輝さんが、私たちを信頼するという事です。」
 
「蒼輝が、みんなを信頼・・・。
でも、それは、今までだってしてるでしょ?」
 
「それも、私たちと一緒です。
ヒビキさんのあとでしたよね。
そうじゃなくて、私たちは彼の一番にならなければならない。
それは、これからの戦いが、命に関わってくるほど重要になるからです。
あなたと蒼輝さんが、お互いの命を平気で委(ユダ)ねられるくらい信頼しあっているように、私たちもそうならなければいけない。
長老はそうおっしゃいました。
そして、こうも・・・。」
 
雅さんはそういうと、私から蒼輝へと目を向けた。
まだ、蒼輝とサンガは、軽くじゃれあってた。
 
「蒼輝さんは、それをちゃんとわかってる。
わかっているけど、自分からそれが言えない。
ヒビキさんを忘れ、自分を頼りにしてほしい。
そして、俺もみんなを頼りにしていきたいと、わかっているけど、言えないだろうって。」
 
「そりゃ、無理でしょうね。
彼、天邪鬼な上に、プライド高いから。」
 
と笑う私に、「いや、そうじゃなくて。」と苦笑いの雅さん。
 
「ん?」
 
と聞く私に彼は、優しく笑う。
 
「そう言えば、私たちは自分の意志なく、無理に蒼輝さんを認めようとします。
ヒビキさんを無理に忘れようとします。
そんな辛い想いを、私たちに彼はさせたくなかったんだと思います。
長老がおっしゃってたじゃないですか。
彼には、感性があると。
人の気持ちを受け入れようとする、心があると。
彼は、本当になんでも、1人で抱えようとしますね。
見てて、危なっかしいです。」
 
と言った雅さんの穏やかな瞳を見てると、すごいなーって思えたの。
だって、雅さんだって、この青鳥国(セイチョウコク)の王で、一番偉い人なんだよ。
国は違えど、王なのに・・・。
なのに、蒼輝の事を。
他の国の王を、こんなにも認めれるなんて、彼もまた、王であるがゆえに持つ五性の持ち主だと実感させられた。
 
しばらくじゃれ合っていた蒼輝は、サンガを遠くに突き飛ばすと、こちらに来た。
そして、雅さんが持っていた剣と本に手を添えた。
 
「それで、蒼輝さん。
教えてもらえますか?
コレを使って、一体、誰を呼び出すんですか?」
 
言葉をあびながら、本と剣を受け取った蒼輝は、それを持ったまま床に座り込む。
そして、本をパラパラとめくる。
最初のページからめくり出したけど、パラパラは止まることなく続き、やがてパタンと音を立てて、本は閉じた。
何をしてるのだろう?と思った矢先、蒼輝は、その本をまた初めからあける。
そして、雅さんを見た。
 
「お前と翠が、向こうの世界に行った事あっただろ?
あの時に出た文字のページって、どこか、わかるか?」
 
「そんなの、わかるわけないじゃない!!」
 
って答えたのは私。
たまらず、言っちゃった。
だって、もう、文字は消えちゃって、真っ白なんだよ。
今は、新しい文字も出ていなくて、全ページ白紙なんだから。
あれから、1年も経ってるんだよ。
わかるわけないじゃない!!
私は、自信満々で否定してたんだけど・・・。
雅さんは、動じず、
 
「あの時のページですか・・・。」
 
と口にしながら、蒼輝に向かって手を出した。
その手に、蒼輝は期待を込めて本を置く。
雅さんはというと、本を受け取るとすぐに、慎重にページをパラパラとめくりだした。
ユックリ、丁寧にめくる。
すると、丁度真ん中くらいに来た時、雅さんは手を止めた。
 
「このぺージは、他のページと違う感じがします。
文字が消えている為、確信はありませんが、他と違う強い力を感じるのは、確かです。」
 
それに対して、蒼輝は疑う風もなく、「サンキュ。」と答えると、そのページを開けたまま、受け取りそれを床に置いた。
そして、今度は、雅さんが渡したもう一つのもの。
そう、青の剣。
それを、鞘(サヤ)に入れたまま、本の上に置いた。
 
「蒼輝、そろそろ、教えろよ。
お前は、一体誰を呼ぼうとしてるんだ?」
 
だけど、またもや蒼輝はスルーする。
 
「翠!こっちこい!!」
 
藍瑠(アイル)さんと少し離れた所に居た私に、蒼輝は手招きする。
私は、小走りになりながら、素直に蒼輝の元へと向かった。
 
「どうしたの?」
 
つくなりそう聞いた私の両手を蒼輝はつかむと、それを本と鞘(サヤ)の上に置いた。
 
「翠。強く念じてくれ。
お前が、雅と向こうから、自分の意志で帰って来た時の様に、強く強く念じてほしい。」
 
って言われても、肝心の目的がわからないから、念じれないって。
というわけで、私は彼に聞いたの。
 
「なんて、念じるの?」
 
したら、彼は、こう言った。
それは、雅さんとサンガが、さっきから、蒼輝に質問し、ことごとく無視され続けた事に対しての答えだった。
 
「向こうに居る真音(マナト)を、こちらに呼んでほしい。」
 
「えぇー!!」
 
と叫ぶ私。
 
「なんで、真音(マナト)を??」
 
これは、サンガ。そして、
 
「雅が出会った真音(マナト)さんにお逢いできるなんて、うれしいわ。」
 
とウキウキになる藍瑠(アイル)さんに、
 
「そうですね。私も逢えるのは、大変嬉しいです。」
 
とこちらもそろって、ウキウキモードになる雅さん。
私は、驚きすぎて気の利いた言葉もう浮かばずに、やっといえた言葉は、
 
「ホントに?」
 
とバカな答えだった。
それにたいして、蒼輝は、「そう。ホント。」と答えると、簡潔にその理由を口にした。
 
「真音(マナト)はヒビキと同等。
いや、ヒビキ以上の頭を持ってる。
彼なら、俺たちを充分、導いてくれるはずだ。
そして、なぜ、この場所。
この本。この剣。
が必要かというと、翠が向こうから、こっちに自分の意志で早く戻ってきただろ?
それが、ヒントになった。」
 
「それ、どういう意味?」
 
たまらず、彼の腕をつかんで聞いた私に、彼は少し笑いながら答えてくれた。
 
「翠が、向こうの世界から、こちらに戻ってくるには、豹の血がいるんだ。」
 
「豹の血?」
 
「そう。豹の血は共鳴し合う。
つまり、翠をこちらにいる豹の血がひっぱり、翠はこちらの世界に引き寄せられ来れるんだ。
この論理は、ヒビキが解明した。
まだ、ヒビキの想像段階だけど、まず、合っていると思っていいだろう。」
 
「でも、それと、今回の真音(マナト)さんを呼び出すのと、どう関係が?
彼は、豹の血が流れていないんですよ。
いくら、呼んでも、彼は来れないのでは?」
 
と聞いた雅さんに、蒼輝は、右手を私の頭の上に乗せると、「コイツがいる。」と口にすると、今回の作戦をやっと言ってくれた。
 
「俺が思うに、向こうの世界とこっちの世界とをつなぐのは、翠の強い念の力と、血だと思うんだ。」
 
「念と血?」
 
みんなの声が重なる。蒼輝は、うなずくと、さらに続けた。
 
「つまり、本の文字には、なんの効力もない。
あれは、キッカケに過ぎないんだ。」
 
「キッカケって・・・なんの?」
 
蒼輝を見上げて聞いた私に蒼輝は、私の頭に乗せていた手を離した。
 
「それは、お前が、集中するキッカケだ。」
 
それでも意味がわからない私に、蒼輝は、「つまり・・・。」というと、かみくだいて説明を始めた。
 
「何時に何かが起こる。と言われると、お前の気持ちはそっちに集中する。
それが、高まりやがて、光となって、それが姿を現す。
だから、反対に、翠が拒否をすれば、何も起らない。
たとえ文字が出ても、何も起らないと思う。」
 
蒼輝はそういうと、「それで、本題だけどな。」と添えて、話を元に戻した。
 
「翠の念が道を作り、翠の豹の血が、トーワやヒビキ。
今は、響厘(コウリ)の血だな。
あれに引き寄せられて、こっちの世界に来た。
つまり、今度はその逆をするんだ。
翠が念で道を作るのは一緒。
ただ、翠の血が引き寄せられるんじゃなくて、引き寄せる側に立つ。」
 
「引き寄せる側って・・・私が?」
 
「そうだ。」
 
「それで、引き寄せられるのは・・・真音(マナト)さんですか?」
 
そう聞いたのは、雅さん。
それに対して、否定したのは、サンが。
 
「待てよ!だから、真音(マナト)は、豹じゃないって!!」
 
「そう・・・だよね・・・。」
 
私と藍瑠(アイル)さんとが、一緒にそう力なく言って。
だけど、蒼輝は、「ホント、お前、バカだな。」と侮辱開始。
それには、サンガも黙っちゃいない。
 
「バカバカ言うな!」
 
そう言い返し、またしても、牙が向きかけた・・・その時。
 
「あっ!わかりました!!」
 
と大叫びの雅さんに、サンガの牙は、スーッと消えていった。
何がわかったの?と私と藍瑠(アイル)さんが聞くよりも先に、雅さんは、蒼輝に答えを向けた。
 
「真音(マナト)さんを引き寄せるのに使うのは、翠さんのもう一つの血ですよね?」
 
その回答に、蒼輝は、ニッコリ笑うと、「正解!」とうれしそうに答えた。
ちょっと、待って。
もう1つの血って・・・何?
焦る私に、蒼輝は優しく触れてきた。
 
「お前の向こうでの血だ。
つまり、純粋な人間の血。
理屈的に言えば、俺たち混血人間と変わらないお前は、純粋な血は体内の半分だろう。
だけど、その半分は、100%純粋な人間の血となんら変わらない程、濃いものだと思う。
なぜなら、向こうでは、お前の血は、100%純粋な血で通ってるんだからな。
つまりだ。俺たちが呼ぶよりも、お前の血で真音(マナト)を呼んだ方が、来る可能性は高い。
いや、ほぼ、100%に近いだろう。」
 
蒼輝はそういうと、少し前かがみになると、私に目線を合わせた。
そして、真剣な瞳でこう言ってきた。
 
「真音(マナト)を、こっちへ呼んでくれ。」
 
正直恐かった。
何が?って、真音(マナト)さんの命が。
だって、今から、どんどんここは危険になっていくんだよ。
そこに、彼を呼ぶなんて・・・。
渚になんていえばいいの?
返事に困った。
少し黙る私に、雅さんは、「翠さん。」と言って近付いてくると、ただうなずいた。
優しい言葉や、安心する言葉を言ってくれるわけじゃない。
ただ、何もかもを受け入れてくれるような安心できる頷きだけ。
でも、それで、充分だった。
みんながいる。
大丈夫。
私はそう、思えたの。
私は、蒼輝から離れると、両手を本と剣の上に置いた。
そして、気持ちを集中させた。
 
「蒼輝さん。1つ、聞きたい事があるんですけど。」
 
雅さんの言葉に、「ん?」と言いながら、蒼輝は彼を見る。
 
「どうして、真音(マナト)くんを呼ぶのに、ココなんですか?
それに、青の本に、青の剣が必要なのも・・・どうして?」
 
それに対して蒼輝は、「あー、それか。」というと、疑問を解明し始めた。
 
「翠が能力を使うとき、文字を出すのは、翠の力を高めるためと言っただろ?
翠はまだ、力の使い方になれていない。
文字なんて関係なく、自分の力だけで全てが行えると知れば、緊張もするし、気負いもする。
そしたら、力が上手く集まらない。
それに、集まっても時間がかかるだろう。
そうならない為に、あの文字があった。
数時間前から、あの文字が出ていたのは、翠にその力を蓄えさせる為。
初め時間が長かったのは、翠が力に慣れていなかったのを示してる。
時間がなくなったり、短かったりは、翠怜(スイレン)さんの予想外の時もあっただろうけど、だいたいは、もういらなくなったから。
だけど、この事実を知った今の翠が、すぐに力をマックスに出来るとは思えない。
だから、ココを選んだ。」
 
「ココを?」
 
「そう。ここは、たくさんの力に溢れてるからな。」
 
「たくさんの・・・力・・・。」
 
「ああ。青い女力(ジョリョク)の力に、緑の女力(ジョリョク)の力。
それに、ミューラを封印していた力もまだ、この空間には満ちたりてるからな。」
 
蒼輝はそういうと、今度は剣と本を指さした。
 
「そして、あの本と剣には、お前の力が宿ってる。
その全ての力が、翠の力の助けになってくれる。
アイツの未熟な力にプラスされ、あっと言う間にマックスまで、達せるだろう。」
 
そう言ったとき、急に本が、金色に光りだした。
それも、今までにないくらいの光と、あとは炎みたいに、その光は大きく膨らみ揺らめいた。
私はその光に飲み込まれるかと思ったの。
手を離そうにも本から手が離れなくて。
ダメだ。飲み込まれる。
飲み込まれたらどうなっちゃうの?
もしかして、向こうの世界に戻っちゃうの?
そんな事を思った時、私の体は温かい腕にさらわれた。
そして、気付けば、本から遠く離れた場所にみんなと一緒にいた。
 
「翠さん、大丈夫ですか?」
 
そう言いながら、藍瑠(アイル)さんは心配そうに私を見た。
蒼輝は、ユックリと私の腰から自分の腕を離すと、少し呆れ声でこういう。
 
「お前が向こうに戻ってどうすんだ。」
 
わかってるよそんな事。
でも、恐くて手が離れなかったんだから、仕方ないでしょ。
もっと、優しい言葉くれたっていいじゃない。
恐かっただろうとかいって、抱いてくれてもいいじゃない。
と思ったけど・・・無理だよね。
だって、今の蒼輝は、全然いつもと違うから。
ヒビキさんがいないから、彼は常に王の顔なんだもん。
きっと、2人きりの時以外は、もう、甘い蒼輝はみれないんだね。
少し寂しくなったりした。
そして、気になる本はというと、徐々に光は消え、そこから、人影が現れた。
光が完全に消えたとき、彼は、軽くむせながら私たちの前に登場した。
 
「このすさまじい光には、さすがにむせるな。」
 
彼はそう言いながら、細めにしていた瞳を開けて、伏せていた顔を上げた。
彼の顔を見た途端、私は感情のまま彼の元に走りだしてた。
 
「真音(マナト)さーん!!」
 
私の声に、真音(マナト)さんも私の存在に気付く。
 
「まさか、こんなに早く、翠ちゃんと再会するなんてね。」
 
と言って笑った真音(マナト)さんに、私はニッコリ笑う。
 
「お久しぶりです、真音(マナト)さん。」
 
次にそう言ったのは、雅さん。
だけど、
 
「・・・。」
 
一瞬、真音(マナト)さんは言葉がいえず、呆然。
そりゃそうだよね。
だって、真音(マナト)さんが知ってる雅さんは、ターバンを巻いて髪を隠していた姿に、目は閉じてて見えなかったんだから。
でも、今は、オレンジの瞳に、青いロングの髪ときたら・・・そりゃ、誰?って思うよね。
まだ、言葉がでない真音(マナト)さんに、
 
「雅ですよ。
ミューラの復活があなたの言った通り成功し、こうして元の姿を手に入れることができたんです。」
 
と軽く説明を受けた真音(マナト)さんは、やっと頭が動き出す。
 
「言われて見れば、声が一緒だな。
雅が、こんなにかっこいいとは、正直ビックリした。」
 
と笑う彼に、サンガが今度は挨拶をしようと近付き、
 
「真音(マナト)、俺が、サン・・・。」
 
「邪魔だ、どけ!」
 
そして、サンガは自己紹介の途中で、遠くに飛ばされた。
 
「何すんだ、蒼輝!!」
 
と怒鳴るサンガを無視して、蒼輝は真音(マナト)さんに自己紹介。
 
「蒼輝だ。
アンタには、ヒビキの役割をしてもらう。」
 
とまー、愛想もクソもあったもんじゃない。
 
「ちょっと蒼輝もっと、ソフトに言えないの?」
 
思わず蒼輝の腕を引っ張る私に、真音(マナト)さんは、クククと笑う。
 
「翠ちゃんに聞いてた通り、ワイルドでクールな男だな。」
 
なんていったかと思ったら、真音(マナト)さんは蒼輝に右手を出した。
 
「俺は、そのためにココに来たんだ。
ヒビキさん以上の役に立てるよう頑張るよ。」
 
それには、「ああ。頼む。」と笑顔で答えた蒼輝は、真音(マナト)さんの右手を取った。
2人の握手を見て、ホッとする私。
真音(マナト)さんが大人で、ホントよかった。
彼がサンガなみだったら、間違いなくバトルだったもんね。
蒼輝の無鉄砲さにまたしても、焦った私だったの。
こうして、ヒビキさんの抜けた穴は、真音(マナト)さんという強い味方がついた。
だけど、これで、終わりじゃない。
いえば、ここからが、大変なのかもしれない。
だって、解かなきゃいけない謎があるんだもん。
それをクリアーしなきゃ、天上界にはいけないんだから。
覚悟はしてた。
それなりの驚きの結果もこの先色々あるとは思ってた。
でも、まさか・・・。
“カレ”がこんな事になってるなんて・・・。
誰も想像してなかった。
真音(マナト)さん以外は、誰も知らなかった。
その事を聞かされるのは、真音(マナト)さんと再会して、しばらくしてからだった・・・。
真音(マナト)さんのすごさを、目の当たりにした瞬間・・・だったかもしれない。
 
 
更新日時:
2007/05/06
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Last updated: 2008/5/12