9       8 章  TOPIC〜お題〜
案内された場所につき、私たちはシャールンさんの向かい合わせで座った。
さすが、神!
こんなに座り心地のいいソファーなんて、初めてだった。
蒼輝(ソウキ)は、落ち着かないのか、座ってまもなくして、
 
「床に座るわ。」
 
といって、床に座っちゃった。
確かに、緑豹国(リョクホウコク)には、こんなものないもんね。
そして、シャールンさんはというと、なんとお酒を片手に、話を始めた。
私たちには、ただの水なのに・・・。
なんて、神様!と思いながらも、機嫌がよさそうなので、そっとしておこうと思って、グッと堪えた。
 
「じぶんら、神界(シンカイ)に行きたいんよな?」
 
「ああ。」
 
と答えた蒼輝(ソウキ)に、
 
「せやけど、今のじぶんらでは、神界(シンカイ)には行けへんで。」
 
とアッサリ、キッパリ断定されちゃって。
それには、「はぁ?」と少し怒り気味で言った蒼輝(ソウキ)の腕を、押さえたのは真音(マナト)さん。
 
「俺がシャールンさんと話す。
お前じゃ、言葉もわかり辛いし、理解を謝って、バトルになりかねないからな。」
 
と耳打ちした。
それは・・・正解かも。
私は、真音(マナト)さんの提案に、大賛成で、うんうんと頷く。
その頷きに、蒼輝(ソウキ)も立場がなくなり、仕方なくシャールンさんとやりあう主導権を、真音(マナト)さんに譲渡した。
 
「でも、どうしても行きたいんです。
方法を教えてくれませんか?」
 
身を乗り出して、そう申し出た真音(マナト)さんに、
 
「おっ!出てきよったな。
ちーこいの!」
 
と笑ったシャールンさんは、
 
「選手交代っちゅーわけやな。」
 
と言ったかと思ったら、持っていたグラスのお酒を一気に飲み干すと、カラになったグラスをテーブルに置いた。
そして、自分は、ドッカリと偉そうな格好で、ソファーに腰かけた。
 
「神界(シンカイ)に行くには、3国の王が必要なんや。」
 
「3国の王・・・。
それって、つまり、緑豹国(リョクホウコク)、青鳥国(セイチョウコク)、赤龍国(セキリュウコク)の王って事ですか?」
 
「そうそう!」
 
と頷いたシャールンさんは、「せやけど。」というと、いきなり右手を上げ、スッと指差した。
その先は・・・蒼輝(ソウキ)だった。
 
「俺が何?」
 
指をさされたものだから、ムッとしちゃった蒼輝(ソウキ)は、イライラが前面に現れちゃった顔で、シャールンさんをにらんだ。
でも、シャールンさんは、そんな些細な事は、気にしないみたいで、すました顔で話を続けた。
 
「じぶん、豹の姿になれへんやろ?
そのせいで、全てが狂ってしもてるって、じぶんら、気付いてへんやろ!」
 
「それって、どういう意味ですか?」
 
「今、3国の王が、誰か!っちゅー事や!」
 
と言ったシャールンさんは、詳しく教えてくれたの。
今、3国の王がどうなってるか・・・。
それは、私たちが思っていた答えと、全然違っていた・・・。
 
「サッパリにーちゃんが、豹の姿を失ったせいで、残りの2人が居てても、意味がのーなってて、無効となっとるんや。
つまり、緑豹国(リョクホウコク)の王は、いないも同然なんや。
せやったら、代わりの王が誕生するはずやろ?
それが、緑豹国(リョクホウコク)の制約やったんやさかいにな。
せやけど、いてへん。
それは、なんでや?っちゅう話なんやけどな。
そこにいる、ねぇーちゃんがおるからや。
そのねぇーちゃんが、緑の豹であるさかいに、緑豹国(リョクホウコク)の王と認識されとんねん。
つまりや、現段階では、緑豹国(リョクホウコク)がそのねぇーちゃん。
ほんでもって、青鳥国(セイチョウコク)が、ミューラになれるにーちゃん。
となっとる。
そやさかいに、赤龍国(セキリュウコク)の王が、今はおらんちゅーことで、3国の王が存在しとらへんから、じぶんらは、神界(シンカイ)へは行けんちゅーことになるんや。」
 
その説明に、私も蒼輝(ソウキ)も、答えが見つからなかった。
だってさ、そんなこと言われても、じゃあ、どうすればいいの?って事でしょ?
決まってしまってる王を、どう変えろ!っていうの?
でも、それを聞く元気もなく、しょげてた私。
だけど、真音(マナト)さんは、動じることなく、「でも。」というと、話を聞く前となんら変わらない元気な瞳で、シャールンさんを見た。
 
「現段階の王を、正常な王の配列に戻す方法があるんですよね?
そうでなければ、翠怜(スイレン)さんが俺たちを、ここへ来(コ)さすわけがない。
それに、あなただって、不可能なら俺たちを迎え入れるわけがありませんよね?
『裁きの門』に俺たちが招(マネ)かれた理由を、そろそろ教えていただけませんか?」
 
真音(マナト)さんの言葉を聞いて、私は思い出した!
そうだ、ここは、『裁きの門』。
つまり、何かを裁くって事で・・・。
普通に考えたら、私たちが裁かれるって事だよね。
えぇー!!何されるの??
たまらず、怖くなって、私は、「ズル。」っと、ソファーからズレ落ちた。
そして、床に座っている蒼輝(ソウキ)の横に降り立つと、そのまま、彼の側に寄り添って、彼の左腕に私の右腕を絡ませた。
さらに、左手も、彼の左腕に添えて、腕に引っ付く私。
そんな私のひざに、彼は私の手がぶらさがっている左手を乗っけると、優しくトントンとユックリな速さで叩いた。
それが、蒼輝(ソウキ)の鼓動と同じ速さで、すごく落ち着いた。
 
「ちーこいの・・・ホンマ、ええ目をしよるな。
それに、じぶんの頭脳も、たいしたもんや。
知性か・・・あなどれんな。」
 
といった彼は、「ええやろ!」といったかと思ったら、長い足を組み、真音(マナト)さんの方に身を乗り出してきた。
 
「『王の配列を正常に戻す』には、サッパリにーちゃんを、豹の姿に戻せばええんや!」
 
その突拍子もない発言に、私たち3人は、「へっ?」と間抜けな声を出した。
さすがの真音(マナト)さんも、呆気に取られていた。
そんな、私たちに少し笑いつつも、シャールンさんは続ける。
 
「サッパリにーちゃんが、豹になれたら、緑豹国(リョクホウコク)の王は、もともと治めとった、サッパリにーちゃんと2人の下僕に戻りよるやろ?
ほんなら、そっちのねぇーちゃんは、フリーになるわけやから、昔に抜き取った緑と赤の力を戻し、翠怜(スイレン)が持っとる外見を伝授してもろたら、赤龍国(セキリュウコク)の王になれるっちゅーことや!
どや!これで、元の配列に戻ったやろ!!」
 
と自信満々に言われたけどさ・・・。
確かに、その通りだよ!
理屈は合ってる。
でもさ、それって・・・夢物語(ユメモノガタリ)じゃん!
私は、思わず、「はぁー。」とタメ息をついちゃった。
それに、気付いたシャールンさんは、
 
「なんや!人の提案にケチつけようってか?」
 
と鋭い目で言われた。
ひゃぁー!!と慌てふためく私だけど、それを守ってくれたのは、真音(マナト)さんだった。
 
「ケチではなく、不可能ではないかと思っただけです。」
 
真音(マナト)さんのオブラートに包んだ言い方に、
 
「不可能って・・・何がや?」
 
とさっきよりも、落ち着いた口調で聞いてきたシャールンさん。
それをみて、私は、思った。
シャールンさんの相手は、真音(マナト)さんしか無理だ!
私は、もう、何も言わないようにしなきゃ!と心に決めて、またタメ息が漏れちゃったら大変だから、私は蒼輝(ソウキ)から片手を離すと、左手を口にあてて、息をこらしながら、2人のやりとりを見ていた。
 
「蒼輝(ソウキ)を、豹の姿に戻す事です。
一度、神に捧(ササ)げた力を、取り戻す事など、出来るのですか?」
 
その真音(マナト)さんの質問に、私は心の中で答えてた。
『出来ないに決まってるじゃん!制約だもん。』って。
知らない間に強く思っちゃってたみたいで、私とくっついていた蒼輝(ソウキ)が急に、「プッ。」と噴出して笑った。
 
「ん?どうしたの?」
 
この深刻な時に、何を笑ってるのよ!
不謹慎な!!と、少し呆れちゃう私に、蒼輝(ソウキ)は私を見ると、開口一番にこう言った。
 
「不謹慎なのは、お前だろ!
真音(マナト)が必死でシャールンと話してるっていうのに、何が『出来ないに決まってるじゃん!』だよ。
簡単に諦めてんじゃねぇーよ。」
 
と言いつつも、「しかし・・・笑える・・。」と言って、声を押し殺して笑ってる蒼輝(ソウキ)。
肩が震えてるってば!!
けど、今の蒼輝(ソウキ)のセリフ・・・何?
どういう事?私が心で思っていた事が、伝わってる?
ビックリまなこで蒼輝(ソウキ)を見てる私に、蒼輝(ソウキ)は穏やかな目で私を見た。
 
「引力の中にある2つの力が、強くなっているせいだと思うんだけど・・・。
翠(スイ)の思っている事が、何となくわかるっていうのは、今まであったけど、こうして触れ合っていると、翠(スイ)が強く思った事は声として聞こえるみたい。
今さっきのは、相当強く思ったんだな。
ハッキリと、聞こえたよ。」
 
「ホントに?!」
 
ビックリ発言に、思わず蒼輝(ソウキ)の腕をさらに強くつかんで、彼に迫って確認する私に、「ああ。」と答えた蒼輝(ソウキ)は、
 
「新しい発見だな。
これが、俺たちの武器になるかもしれない。
誰にも秘密だぞ。」
 
といって、あいてる右手で、私の唇にそっと触れた。
それは、まるで、シーっとしているみたいで、ドキドキした。
思わぬ発見をし、さらに蒼輝(ソウキ)と触れ合って、嬉しくて舞い上がってる私に、今まさに、深刻な話をおっぱじめようとしている2人の姿が飛び込んできた。
そうだった!
蒼輝(ソウキ)を、豹の姿に戻せるのか!っていう、話だったよね。
でも、相変わらず、私は、出来るわけない!って、思ってて・・・。
完全に諦めモードで、2人の話に挑んだ私だったんだけど・・・。
状況は、意外な方向へと進んだの。
 
「もちろんや!可能やから、言うとんやで!」
 
と言ったシャールンさんは、驚いてる私たちに向かって、「せやけど。」と口にしたかと思ったら、意地悪な笑いをして、続きを口にする。
 
「ちゃんと、『裁き』をクリアー出来たらの、話やで!」
 
と言った。
 
「裁きをクリアーって・・・何?」
 
黙っていると誓ったはずなのに、つい口にしてしまった私。
知らないうちに、声に出していた事に気付き、ハッ!として、私は慌てて口を押さえた。
でも、それは、すでに遅く、私の声は、シャールンさんに届いていて。
だけど、今の発言は、無礼に値(アタイ)しなかったらしく、なんと、シャールンさんは答えてくれたの!
 
「よーは、ワテが決めた『お題』をクリアーすれば、しまい(オワリ)っちゅー事や!!」
 
「その『お題』というのは・・・何ですか?」
 
無理難題を言われるのを、覚悟で聞いているのが、悟れるくらいの真音(マナト)さんの声。
躊躇した物言いに、少し腰が引けているような感じの声質というか・・・。
発せられた声には、真音(マナト)さんの気持ちが、すごく現れていた。
きっと、シャールンさんも、それには、気づいていただろうけど、彼はさっきまでの笑いを消すと、とても真剣な顔つきになった。
シャールンさんのその顔つきは、まるで、私たちの心理を追い込むかのように、私たちに恐怖を与えた。
完全に蛇ににらまれた蛙状態になってしまった私たちは、誰一人動けず、そして、シャールンさんから目を離すことが出来なかった。
 
「『愛』を証明するんや!」
 
と言ったシャールンさんは、そのあと、『お題』の内容を事細かに説明し始めた。
 
「ワテが用意した空間に、サッパリにーちゃんと、そのねぇーちゃんに行ってもろて、24時間過ごしてもらう。
当たり前やけどな、ただたんに、過ごせっちゅーわけやないで!
サッパリにーちゃんには、ねぇーちゃんの記憶を、全て消した状態で行ってもろてな。
ほんで、ねぇーちゃんが、サッパリにーちゃんの記憶を、24時間以内に戻せたらクリアーっちゅーんが、大まかな事や!」
 
それを聞いた蒼輝(ソウキ)は、余裕の笑みを浮かべると、
 
「なんだよそれ。そんなの楽勝じゃねぇーか。
もちろん、そのお題、うけ・・・」
 
・・・る。
と蒼輝(ソウキ)は、言おうとしたんだと思う。
だけど、最後の言葉を言う前に、真音(マナト)さんの手が、蒼輝(ソウキ)の口元に伸びて、待ったをかけた。
突然飛び出してきた真音(マナト)さんの手に驚いた蒼輝(ソウキ)は、最後の言葉を言い切ることが出来なかった。
驚いた顔で真音(マナト)さんを見る蒼輝(ソウキ)に、蒼輝(ソウキ)と違ってすごく険しい顔をしている真音(マナト)さんが、先に口を開いた。
 
「この話には、裏がある。」
 
その言葉に、「えっ?」と私と蒼輝(ソウキ)が揃って驚く中、真音(マナト)さんは、鋭い瞳でシャールンさんを見た。
にらみつけるように、シャールンさんを見る真音(マナト)さんに、
 
「おー恐っ!!」
 
とわざとらしく身震いをするシャールンさん。
そんな彼のリアクションを完全に無視して、真音(マナト)さんは急に立ち上がると、シャールンさんに向かって近づき、そして、彼の目の前の床に座った。
シャールンさんのわずかな変化すらも、見落としたくない。という真音(マナト)さんの信念がうかがえるその行動に、
 
「真っ直ぐな、やっちゃなー。」
 
と口にしつつも、側に座った真音(マナト)さんを受け入れたシャールンさんは、前かがみの体を背もたれに倒すと、ずっと真音(マナト)さんと目が合える位置に、顔と視線を固定し、腕を組んだ状態で、真音(マナト)さんを見た。
 
「翠(スイ)ちゃんと蒼輝(ソウキ)が2人きりで、用意された空間にいく。
そして、そこで、翠(スイ)ちゃんが蒼輝(ソウキ)の記憶を取り戻させる。
たった、それだけの事で、神に捧(ササ)げた豹の力を、蒼輝(ソウキ)の体に戻す事ができる?
神様って、そんなに簡単な物じゃないでしょ。
それに、あなた言いましたよね?
『お題』は、あなたが決めると。
あなたは、フェアーじゃない。
俺の力量は、高みの見物で、ここから覗き見したし、蒼輝(ソウキ)の力量を測るのには、不意打ちで見届けた。
そんなズル賢いあなたが、翠(スイ)ちゃんの力量を測るのに、そんな生易(ナマヤサ)しいお題を出すわけがない。
あなたは、翠(スイ)ちゃんにどんな過酷な状況で、蒼輝(ソウキ)の記憶を甦(ヨミガエ)らせるつもりですか?
包み隠さず、説明していただきたい。」
 
言い回しは、丁寧に聞こえるけど、単語が結構ズバズバで、私はシャールンさんが怒り出さないか、途中からハラハラしてたの。
でも、言い終わったあとのシャールンさんったら・・・。
 
「アハハハハ!!」
 
と高笑いすると、涙がにじむ目じりを指で触りながら、
 
「さすが、女豹(メヒョウ)の知性を、持っとるだけあんなー。
ほんま、ちーこいのに、感心なやっちゃやで!!」
 
と嬉しそうに言って、褒めまくってたシャールンさんは、
 
「ほな、包み隠さず言うたるわ!」
 
と言ったかと思ったら、シャールンさんの斜め後ろに立っている側近に向かって、急に顔を向けた。
そして、少し偉そうな物言いで、
 
「おい、黄玉(オウギョク)、持ってきてーや。」
 
と言った。
黄玉(オウギョク)って・・・何?
と疑問に思った私が、考えようとした時には、すでに側近の方が、テーブルの上にそれを置いた時だった。
神の側近だけあって、特殊な力があるのか・・・。
信じられないくらい・・・すばやかった。
正直、それにも驚いたんだけど、目の前に置かれている黄玉(オウギョく)を見たら、さっきの疑問なんて、遥か彼方(カナタ)まで、すっ飛んでいったよ!
だって、黄玉(オウギョク)と呼ばれてた事から、『玉(ギョク)』っていうのは、想像つくじゃない?
そしたらさ、緑豹国(リョクホウコク)にある玉(ギョク)を、連想するでしょ?
だから、驚いたのよ!
だって、ここにある玉(ギョク)さ・・・とんでもなく大きいの!
色は、初めて見る黄色の輝く光を持つ色で、私が光る樹木を突き抜けてこっちにくるじゃない?
その光にそっくりで、確かに、それにも、驚いた。
関係があるのかな?って。
でも、やっぱり、それより何より・・・この大きさに驚いたかな?
だって、この玉(ギョク)、直径30センチはありそうなんだもん!
ねっ!ホント、驚くくらい大きいでしょ。
でも、その大きさを目の当たりにして、私はそのまま、シャールンさんの後ろに相変わらずスタンバっている側近の方に、目をスライドさせたよ。
玉(ギョク)なわけだから、あんなに大きかったら、とんでもなく重いはず。
それを、悠々と持ってくるなんて・・・。
細身なのに、どんな怪力なの?と思ってしまった。
ホント、あの人・・・不思議な人だわ!
とまあ、こんな風に、私は、思いっきり、シャールンさんの側近に気を取られていたんだけど。
そんな私をよそに、『包み隠さず語る』と約束したシャールンさんは、着々と準備を始めていた。
まず、目の前にある黄玉(オウギョク)に両手で触れ、その手を左右に大きく動かした。
はたから見たら、黄玉(オウギョク)をなでてるように見えた。
しばらく経つと、まるで、静電気でひっぱられてるかのように、玉(ギョク)の中の黄色の光が、シャールンさんの手のひらに引き寄せられるように移動してきた。
もちろん、シャールンさんの手は、玉(ギョク)越しだったけど、シャールンさんの手の位置にくると、光はパーンと粉々に弾けて、黄色い光は粒子と姿を変えた。
その現象が何度も何度も行われ、ただ光る黄色の玉(ギョク)だった物が、いつしか、輝く黄色の細かい粒子が、玉(ギョク)いっぱいに入っている物へと変わっていた。
まだ完全ではないのか、粒子に変わる現象は止まらず、続いていた。
その行動にも、ある程度のメドがついてきたのか、手は離さず、粒子状にする作業もやめはしなかったけど、急にシャールンさんは、私に向かって顔を上げた。
急に、バチと目があった私は、「えっ?」と思わず飛び上がって驚く。
その驚きように、ニヒルな笑いをしたシャールンさんは、
 
「じぶん、翠怜(スイレン)から鍵をもろてるやろ?
あれ、出してみぃー。」
 
と言ってきた。
 
「えっ!あっ・・・はい・・・。」
 
戸惑いながら、私は答えると、衣類のポケットから、鍵を取り出した。
それを、テーブルに置くべきか、シャールンさんの側までいって渡すべきか、悩んでしまった私は、鍵を持ってオタオタ。
その姿に、シャールンさんはまた、自分の斜め後ろにいる人物に少しだけ顔を傾けた。
姿を見ることはできないような、浅い角度だったけど、頭を動かしたのは、その人を見たかったわけじゃなくて、『行け』という合図に過ぎなかったんだと思う。
だって、シャールンさんが、何も言わなくても、わずかなあの動きで、全てを察知したのか、シャールンさんの側近の人は、私の側にスッと音も立てずに来ると、私の前に両手を差し出してきた。
私は、素直に、その手に、鍵を乗せた。
 
「お預かりします。」
 
と頭を下げながら、その人は受け取ると、鍵を自分の額の位置くらいに掲(カカ)げたままで、クルっと方向転換すると、数歩歩いて、シャールンさんのもとへと辿り着く。
そして、跪(ヒザマズ)くと、シャールンさんの取りやすい位置に、鍵を差し出した。
 
「よっしゃ!こっちも、準備でけたでー。」
 
と言ったシャールンさんは、今度は急に、目をつぶったかと思ったら、さっき水を飛ばした時みたいに、瞑想を始めた。
そして、やがて、ブツブツと何かを言ってるかと思ったら、急にオレンジの光に包まれた。
その光は、さっきと同じように、一瞬にして消えたんだけど、光が消えた時、なんと驚く現象が起きていた!!それは!!
 
「えっ?なっ、なんで??
どうして、玉(ギョク)が2つになってるの??」
 
そうなの!1つしかなかったはずの黄玉(オウギョク)が、なんと、2つになっていた。
黄色い粒子が飛び交っているのも全く同じで・・・。
ホント、マジックだ!!
ビックリして、顔を近づけて玉(ギョク)を見る私に、
 
「ねぇーちゃん、えー反応しよるな。」
 
と「ククク」と笑いながら言ったシャールンさんは、さっきから、ずっと取りやすい位置で、鍵をスタンバイしている側近の人の手から、やっと鍵を取り上げた。
無理な体勢でいた側近の人に、
 
「ご苦労さんやったな。」
 
と優しい言葉をかけつつも、顔は見ない。
それよりも、話!と思っているのか、シャールンさんは、今、手に取ったばかりの鍵から、一時たりとも目を離さなかった。
私は内心、ビクビクしていた。
まさか、こんなところで、鍵が必要とされると思ってなかったし、一体、何に使われるのかっていう点でもドキドキだった。
でも、一番の不安は、鍵にちゃんと愛の力が、たまっているかが心配だった。
だって、見た目は、1年前に翠怜(スイレン)さんにもらった時と、何も変わらないんだもん。
だから、ホントに不安だったの。
でも、何の変哲(ヘンテツ)のない鍵だけど、シャールンさんには、その鍵の本質がわかるみたいで、鍵をマジマジと見つめながら、
 
「へぇー・・・これは、意外やったわー。」
 
というと、その鍵を空に向かって掲げた。
すると、不思議な事に、その鍵はどんどん透けていって、中に赤い液体が入っているのが私たちの目にも見えた。
 
「赤いの・・・何?」
 
思わず叫んでしまう私に、シャールンさんは優しい笑いをした。
 
「これは、自分がためよった愛や!
期間はたった1年で、しかも、お互い離れとったっちゅーのに、これだけ、ためよったんは、ホンマにすごいで事やで!
サッパリにーちゃんの事、よほど、好(ス)いとんやなー。」
 
と言ったあと、シャールンさんは、その鍵を、右側にある玉(ギョク)にグサっとさした。
すると、鍵は、どんどん沈んでいって、やがて、完全に玉(ギョク)の中に入り込んだかと思ったら、玉(ギョク)の中央まで移動した。
 
「じぶんらの目にも見えるように、ワテが液体に姿を変えてやったんや。
そやさかいに、気付いたやろうけど・・・。
あの赤い液体・・・つまり、愛の力は、残念やけど、鍵の全てを満たしとらへん。
よーためたと褒めたい所やけど、実際、あの鍵に宿っとるのは、せいぜい80%くらいや。
ほんで、これが、じぶんらの『スタミナ』となるんや!」
 
と言ったシャールンさんは、今度はもう一方の玉(ギョク)を、真音(マナト)さんの前にズイと押し出した。
そして、さっき言った『スタミナ』と、それから、この差し出した玉(ギョク)についてを、私たちが聞き出す前に、ちゃんと答えてくれた。
 
「ちーこいのが言うてた通り、ねぇーちゃんには『過酷な状況』で、サッパリにーちゃんの記憶を取り戻してほしいんや。
その状況とは、コレや!」
 
と言ったかと思ったら、シャールンさんは、おもむろに両手を叩いた。
その音が合図となり、奥にある扉が開いた。
もちろん、私たちは当然のように、その扉に目を向けた。
そこに、信じられない人物がいるとも知らずに・・・。
やがて、開いた扉から、1人の女性が現れた。
ユックリと、こちらに近づいてきた人の顔が、ハッキリと見えた時、
 
「っ!!」
 
私は、空気を勢いよく吸い込んだ。
口に両手を押さえて、ビックリして、胸の鼓動がドキドキと、物凄い速さで動いてた。
でも、ビックリという感情は、やがて、恐怖へと変わった私は、恐ろしくなって、口に添えていた両手を、蒼輝(ソウキ)の左手に、勢いよく置いた。
そして、戸惑いながら彼の顔を見る。
目の前にいる、この女性を、彼はどんな瞳で見ているのか・・・。
私に向けるような愛しい瞳で見ていたら、どうしよう・・・。
そんな不安があったけど、私は彼の瞳をみずには、いられなかった。
何をそんなに、怯(オビ)えてるか。って?
目の前にいるこの人・・・藍瑠(アイル)さんにそっくりなの。
でも、藍瑠(アイル)さんではないのは、確か。
だって、髪の色が違う。
深いピンク色をしてる・・・。
つまり、この人は・・・。
 
「チナリ・・・さん・・・なの?」
 
必死の思いで、蒼輝(ソウキ)に聞いた私の声は、すごく震えていた。
でも、蒼輝(ソウキ)は、「ああ。」と答えると、チナリさんにくぎづけになるんじゃなくて、私を見てくれたの。
私を見る彼の瞳。
前に、藍瑠(アイル)さんを見た時、あんなに動揺していた蒼輝(ソウキ)だったのに、今、本物のチナリさんを目にしても、全く瞳の動きは乱れてなかった。
それが、彼の心の強さを表しているようで、私は心からホッとした。
顔が引きつり、今にも泣き出しそうな顔をしていた私の顔が、緩んだ事を悟った蒼輝(ソウキ)は、あからさまに安心した顔をすると、彼の手に乗せている私の手を強く握ってくれた。
そして、少しだけ顔を傾け、私の耳に口を近づけると、すごく小声で言ってくれた。
 
「俺は、もう、平気だから。」
 
って。その言葉が、本当に嬉しくて、私は思わず笑顔になってしまった。
そんな私たちの心の通いを何となく感じた真音(マナト)さんは、話を進めても、大丈夫と判断したのか、シャールンさんが話すのを待ちきれず、自分から彼に話をふっかけた。
 
「蒼輝(ソウキ)の亡くなった妹さんが、なぜ、ここに?
一体、翠(スイ)ちゃんに、どんな『過酷な状況』を与えるつもりですか?」
 
真音(マナト)さんの声と言葉は、少し怒りを帯びている気がした。
そして、それは、シャールンさんも感じたようで、核心を突いた真音(マナト)さんの質問に、
 
「まー、そう、熱くなりなや。」
 
と余裕の笑みを、浮かべて言ったかと思ったら、
 
「チナリも、そこに、座りー。」
 
と言い、シャールンさんの隣に座らせた。
向かいには・・・蒼輝(ソウキ)だった。
チナリさんは、蒼輝(ソウキ)を熱い視線で、真っ直ぐ見ていた。
でも、蒼輝(ソウキ)は、全く気にする様子もなく、シャールンさんから、目を離さなかった。
 
「チナリに聞いたんやけど、サッパリにーちゃんは、ねぇーちゃんが現れる前は、チナリとの結婚を考えとったそうやないか!
ねぇーちゃんが現れたからゆうて、あっさりチナリをフってしもたらしいけどな、チナリはまだ、自分の事、好(ス)いとってな、そのねぇーちゃんから、取り戻したいんやて!
そやから、協力してもらおう思て、チナリを呼んだんや。
サッパリにーちゃんから、ねぇーちゃんの記憶を抜くと、チナリを愛してた状態に、戻ってまう。
そないな状態の自分の隣に、チナリがお(イ)るっちゅー事は、ねぇーちゃんにとっては、相当不利な事やしな!
チナリには、思う存分かき回してもらうんが、狙いや!
ねぇーちゃんも、苦労するやろな。可愛そになー。」
 
と笑いながら言ったシャールンさんに、蒼輝(ソウキ)の怒りは頂点に達した。
 
「お前っ!!」
 
蒼輝(ソウキ)は怒りのあまり、シャールンさんに襲い掛かろうと、立ち上がり、数歩歩んだ。
だけど、シャールンさんに到達する前に、そこには真音(マナト)さんが座っていて邪魔された。
何か言いたそうな蒼輝(ソウキ)の右腕を、瞬時につかんだ真音(マナト)さんは、
 
「抑(オサ)えろ!」
 
と忠告し、立っている蒼輝(ソウキ)を、強引にまた床に座らせた。
そして、真音(マナト)さんは、熱くなってる蒼輝(ソウキ)を蚊帳の外状態にすると、シャールンさんに1人で挑んでいった。
 
「それだけじゃないですよね?」
 
真音(マナト)さんの言葉に、
 
「ん?なんやて?」
 
と聞き返すシャールンさんに、
 
「あなたが、翠(スイ)ちゃんに与えようとしてる試練は、この程度のものじゃないはず。
もったいぶらずに、さっさと言ってくれませんか!」
 
私は、思わず首をすくめた。
言葉は丁寧だけど、すごく怒ってるのが、声の荒々しさと、鋭い目つきでわかったんだもん。
こんなに、怒ってる真音(マナト)さん・・・初めて見たかも・・・。
ホント・・・恐い。
近くに戻ってきてくれた蒼輝(ソウキ)の腕に急いで触れた私は、その腕に隠れる。
そして、その隙間から、真音(マナト)さんをチラ見する私と違って、蒼輝(ソウキ)は怒りを抑えながら、黙って2人のやり取りを見守っていた。
私はそんな蒼輝(ソウキ)の横顔を、視界に感じながらも、彼を見ないようにした。
だって、こうして、触れているとわかるの。
蒼輝(ソウキ)の体温が、どんどん上昇してるのが・・・。
フツフツと沸きあがってくる怒りを、必死で抑えているんだとわかったから、私は変に蒼輝(ソウキ)を刺激しないほうがいいと思ったの。
ここで、私がさっきの『お題』について、何かを言ったら、蒼輝(ソウキ)の怒りに拍車をかけそうだし、彼だって今、自分の気持ちを抑えるのに手がいっぱいなのに、私がすがっちゃったら、私の方を気にかけてくれるでしょ。
彼の負担には、なるべくなりたくないから。
私も、確かに、あの『お題』については、驚いたし、冗談じゃない!って気持ちはあるけど、それは、今は心の奥底に沈めてさ。
真音(マナト)さんに、任せようと思ったの。
蒼輝(ソウキ)がそうしたように、私も真音(マナト)さんに・・・ね。
 
「そない、怒りなや。
ちゃんと、言うて!」
 
さすがに、真音(マナト)さんの怒りを感じたのか、少し焦ってるような素振りを見せるシャールンさん。
でも、それは、演技だとすぐにわかった。
だって、慌ててるように見せかけて、シャールンさんったら、笑ってるし、さらには、足をテーブルにドンと置くんだよ。
まるで、『俺はお前らより偉いんだ。俺が全ての主導権を握っているんだ』と、言わんばかりの偉そうな態度。
なんか、この人、神さまなのに、尊敬できないな・・・。
と、私は本気で思ってしまった・・・。
 
「サッパリにーちゃんと、ねぇーちゃんと、チナリに行ってもらう、ワテが作った『架空の世界』っちゅーんは、チナリが死ぬ前の、緑豹国(リョクホウコク)の世界なんや!
村人とか、その頃にいたもんは、ちゃんとそのまま、お(イ)るさかいに、3人だけの世界やないから、安心しー。
せやけど、じぶんらの仲間は、いてへんで。
サッパリにーちゃんの2人の下僕も、その他の仲間もな。
ねぇーちゃんの味方になりよる可能性があるさかいに、全て排除させてもろた。
ライバルのチナリがいてて、さらに自分の味方は誰もおらん。
たった1人の過酷な状態で、24時間以内に、チナリを愛しとるサッパリにーちゃんの記憶を、甦らせる。
それが、ワテが出す、『裁きのお題』や。」
 
と言ったシャールンさんは、「あっ、せやせや(ソウヤソウヤ)。」と言って何かを思い出したのか、慌てて付け足しをした。
 
「言い忘れとったけどな。
ちーこいのは、この玉(ギョク)に入ってもらうさかいにな。」
 
と言いながら、さっき、真音(マナト)さんの方に差し出した、あいてる黄玉(オウギョク)をペチペチ叩いたシャールンさんは、驚いている真音(マナト)さんに言葉を続けた。
 
「いえば、人質みたいなもんやな。
別に人質は、じぶんやのーてもえーんやけど、じぶんは、ねぇーちゃんの最強の味方になりよるからな。
知恵を与えんように、自分はここに入っとってな。
こん中に入ったら、会話は聞こえるけど、自分はしゃべられへんよって、それは堪忍やで。
ほんで、2人がもし、愛を証明できんかったら、この玉(ギョク)も、鍵入れた方の玉(ギョク)も破裂しよるからな。
鍵も、のーなって(ナクナッテ)、龍翠(リュウスイ)を倒す方法も、完全に消えてまう。
それと、同時に、ちーこいのの命も、のー(ナク)なるさかいにな。」
 
「なんだと!!」
 
と叫んだの蒼輝(ソウキ)。
一方の真音(マナト)さんはというと・・・黙って、目を閉じてた。
何かを考えているようにも見えた。
そんな真音(マナト)さんを見つつ、シャールンさんは、今度は、さっき鍵を入れた方の玉(ギョク)を軽くポンポンと叩く。
その音で、私たちの目はそこに注目された。
でも、真音(マナト)さんは、目を開けることはなかった。
 
「さっき、この鍵が、『スタミナや。』て言うたやろ?
これは、ねぇーちゃんが、サッパリにーちゃんへの愛に疑いを持ったら、どんどん減っていくんや。
コレが尽きたら、ゲームオーバー。
つまり、24時間のーなってなくても、じぶんらの負けで、ちーこいのが入っとる玉(ギョク)は、こっぱ微塵や。」
 
そして、シャールンさんは、
 
「これが、『裁き』の全てや。
どうや、やるか?」
 
と言ってきた。
やるか?って・・・。
やらなきゃいけないのは、わかってる。
でも、いくらなんでも、この内容・・・。
すんなり、「うん。」とは言えない。
私も蒼輝(ソウキ)も、返事に困ってしまって、シャールンさんの問いかけに、黙ってしまった。
すると、さっきまで目を閉じていた真音(マナト)さんが、急に、パチと目を開けたかと思ったら、シャールンさんに向かって、こんな事を言い出した。
 
「1つ・・・お伺いしたい。」
 
「なんや?」
 
意外とすんなり答えたシャールンさんに、真音(マナト)さんはこんな質問をした。
 
「こんなことをして、あなたは、翠(スイ)ちゃんのどんな力量がみたいのですか?」
 
その質問に対して、シャールンさんは、「そんなもん、決まっとるやろ!」と笑顔で答えると、
 
「サッパリにーちゃんを、どれだけ愛しとるかを知りたいんや。」
 
「なぜ、そんなことを知る必要があるんですか!」
 
間髪を入れずに突っかかる真音(マナト)さんに、余裕の笑顔を見せていたシャールンさんの顔から、笑顔が消えた。
行儀が悪かった座り方も、いつの間にか、足を下ろし、礼儀正しくなっていた。
こんな態度や、こんな顔も出来る人なんだと思ってしまうくらい、シャールンさんの装(ヨソオ)いは、私が描いていた『神様』そのものだった。
 
「龍翠(リュウスイ)との戦いで、唯一、最後まで残るんが、2人の愛なんや。
悲しいけどな、恐らく、それしか、残らんやろう。
せやけど、その愛が、不安定やったら、途中で消えてもーて、のーなって、何も残らん!
ちゅー事は、自分らの勝利がなくなるんやで!
最後まで、何かを残した方が、この戦いの勝者となりよる!
龍翠(リュウスイ)に辿りつくまでに、まだまだ、これから、過酷な現実が、しこたま(タクサン)起きよる!
そんなんにも、びくともせんくらいの、2人の愛が、今の時点で必要なんや!
せやから、これくらいのお題で、足止め、くうとるようじゃ、この先、話にならんで!
ぶっちぎりの余裕で、クリアーしてもらわん事には、龍翠(リュウスイ)とやり合おうなんて、バカげとる!
本気で、龍翠(リュウスイ)を倒す気があるなら、ワテが出した、『二人の愛が真実かを裁くお題』を、クリアーしてみぃー。
見事、証明、でけ(デキ)たら、サッパリにーちゃんに、豹の力を戻してやるし、ねぇーちゃんの龍の力の封印も解いたる。」
 
この裁きの門に来て、私たちは、シャールンさんと沢山の会話をした。
でも、今、この数分間の間が、本当のシャールンさんに逢えた気がしたの。
茶化さず、悪ぶらず、いばらず・・・。
ラウオを倒そうと必死になっている私たちの、実は力になろうとしてくれてるんだというのが、さっきのシャールンさんの言葉の全てから感じれた。
シャールンさんの熱心さが伝わってきて、すごく嬉しかった。
だから、私、頑張ろう!って思ったの。
私の頑張りで、真音(マナト)さんの命が左右される事は、正直怖い。
たった1人で、頑張れるかも、すごく不安。
でも、そうも言ってられない。
ラウオを倒すために頑張らなきゃいけないってのもあるけど、私、思ったんだよね。
『決着』をつけなきゃ!って。
何かというと、それは・・・。
私は、さっきから、強い視線を感じていた、ある人へと焦点を合わした。
蒼輝(ソウキ)の隣に寄り添う私を、凍りつかせてしまいそうな冷徹な瞳で、ずっと見ていたチナリさん。
でも、その気持ちわかるの。
彼女は、本当に蒼輝(ソウキ)が好きだった。
私さえ、ここに来なければ、彼女は蒼輝(ソウキ)と結婚できたんだよね?
蒼輝(ソウキ)は、私に、チナリさんの話をしてくれた時、
 
「結婚する意志はなかった。」
 
と言っていたけど、それは、本当は違うって気付いてた。
だって、蒼輝(ソウキ)がそんな優柔不断な事する人じゃないのは、好きになった私が一番よくわかってるもの。
確かに、妹という目でしか見れなかったのかもしれないけど、彼女の愛を知って、緑豹国(リョクホウコク)の後継者の事を考えて、蒼輝(ソウキ)は結婚を決意したんだと思う。
だから、チナリさんが、私を嫌うのはわかるし、こうして彼の側にいる私の場所が、『自分の場所なのに!!』て思う目で見るのもわかる。
でも、だからと言って、私は、彼女にこの場所を譲るつもりも、まして、シャールンさんから出された『お題』に降参するつもりもない。
私は、絶対に、蒼輝(ソウキ)の愛を取り戻してみせる!
チナリさんには、絶対に負けないんだから!
彼女に、『蒼輝(ソウキ)の相手が、あなたでよかった。』と言われるように・・・。
私は、正々堂々と戦いたいと思ったの。
と、心では強く意気込んでみても、やっぱり、あの目には・・・うぅ・・・。
腰が引けちゃう。
迫力負けしそうになって、思わず目をそらしそうになる私の耳に、蒼輝(ソウキ)の髪がフワっと触れた。
これって、蒼輝(ソウキ)が近づいてきた。って事よね?
なんだろ?
そう思った私は、チナリさんから目を離して、蒼輝(ソウキ)を見ようとしたんだけど、顔を向ける前に蒼輝(ソウキ)が、私の耳に向かって、こう囁いた。
 
「愛してるよ。」
 
って。それには、「なっ!」と驚きの悲鳴をあげながら蒼輝(ソウキ)を見て、そして、優しく笑ってる蒼輝(ソウキ)を見たら私、思わず、
 
「プッ・・・ヤダー!こんな時にー!」
 
と言って、大笑いしちゃったの。
だって、私を見てる蒼輝(ソウキ)の目を見たら、蒼輝(ソウキ)がなんでそんな事、急に言ったのかわかったから。
蒼輝(ソウキ)、わかっちゃったんだよね。
私が、チナリさんの想いに負けないように意気込んだせいで、強く思い込んじゃったから、読まれちゃったんだ。
私のチナリさんへの想いと、そして、腰が引けちゃってるのを・・・。
だから、私に、笑顔を取り戻させるために、あんな事言ってくれたんだ。
でも、今の言葉・・・すっごく嬉しかった。
私は、蒼輝(ソウキ)に言葉でいうのは、照れくさいので、2人にしか使えない方法で伝える事にしたの。
蒼輝(ソウキ)の腕に、自分の腕をからませて、彼にくっついて強く思った。
 
『蒼輝(ソウキ)ありがとう。私も愛してるからね。』
 
って。でも、ちょっと不安になった私は、『どうだろ?届いたのかな?』と思ったのよね。
そしたら、急に、蒼輝(ソウキ)の頭が私の頭にコツンと倒れてきて、『何だろう?』と思った瞬間、蒼輝(ソウキ)の声が聞こえた。
 
「改まって言われると・・・照れるな・・・。」
 
だって。ちゃんと、届いてたんだ。
それを実感したら、すごく嬉しくて、私は、「フフフ。」とちょっとバカっぽい笑いをしちゃった。
でも、バカと思われてもいいの。
幸せだから。
今のこの幸せがあれば、これからの過酷な24時間、私は戦える気がしてきたから。
そのパワーをくれた蒼輝(ソウキ)に私は、心から感謝してた。
 
「じぶんら・・・何か、怪しいなー。」
 
今まで黙っていたシュールンさんが、突然そう言った。
その言葉に、私はギクっとして、シャールンさんを見る。
もちろん、蒼輝(ソウキ)もチナリさんも、シャールンさんを見た。
真音(マナト)さんは、シャールンさんではなくて、私たちを見ていた。
シャールンさんは、私と蒼輝(ソウキ)の行動を観察していたのか、体を前かがみにすると、さらに私と蒼輝(ソウキ)を疑いの目で見る。
その視線が痛くて、私は耐え切れずに目をそらしてしまう。
でも、全く動じない蒼輝(ソウキ)に、シャールンさんは、「フッ。」と気の抜けた笑いをすると、
 
「まーえーは。ワテの気のせいっちゅーことに、しといたろ!」
 
と、誰にも聞こえないような小さな声で囁くと、シャールンさんはソファーに深く座り、体をゆだねた。
何とかバレなかった事に、私はホッとし、「ハァー。」と声をあげながら、蒼輝(ソウキ)の肩に体をもたれさせた。
そんな私の髪に、蒼輝(ソウキ)は優しく触れ、数回髪を撫でてくれたけど、しばらくして、私から手を離すと、シャールンさんの方に顔を向けた。
そして、真音(マナト)さんについで、今度は蒼輝(ソウキ)が、シャールンさんに物申した。
 
「アンタ、俺と『賭け』しないか?」
 
いきなりの蒼輝(ソウキ)の言葉に、シャールンさん以外は、「えっ?」と耳を疑った。
でも、シャールンさんは、「賭け?」というと、『善良(ゼンリョウ)の神』の姿ではなく、『嫌な神』の姿になると、あいてるグラスを持ち、それを側近の方に差し出しながら、
 
「ワテは、勝負事(ショウブゴト)は、大好きや!
そやから、内容によっては、乗ってやってもかまへんで。言うてみ?」
 
と言ったシャールンさん。
内容によっては、乗らない。という返答に一瞬聞こえるけど、全然!!
シャールンさんは、すでに、やる気満々だよ!
だって、目が・・・。
目の輝きがさっきと、全然違うもん!
真音(マナト)さんが、謎解きをこなしちゃってるのを、見届けていた時のあの目に似てる。
面白いおもちゃを見つけた子供のように、輝いてる瞳に・・・。
そして、そのシャールンさんのくいつきに、蒼輝(ソウキ)も感じたのか、承諾してもらえるだろうか?という不安は微塵もないだろうな!って思えるくらいの、自信満々の態度で賭けの内容を口にした。
 
「チナリは、俺を取り戻したいから、アンタの『お題』に協力するんだから、それを叶えてやろうっていう神の心が、アンタにもあるだろ?
そこで、提案だ。
翠(スイ)がクリアー出来なかったら、俺が、チナリの願いを叶えてやる。
チナリを愛し、チナリと共に生きてやるよ。
だから、あんたは、褒美として、チナリを生き返らせろ。
これが、俺との賭けだ。」
 
「なるほどなー。」
 
と言いながら、グラスの中に注がれたお酒を、チョビチョビ、口にするシャールンさん。
その一方で、蒼輝(ソウキ)の提案を聞いた、チナリさんは、私を見ていたあの冷徹な目はどこへやら?
かわいらしい瞳で蒼輝(ソウキ)を見ると、蒼輝(ソウキ)の側に駆け寄ってきて、蒼輝(ソウキ)のひざに触れた。
 
「嬉しい!蒼輝(ソウキ)!
やっと、私と生きる決意をしてくれたんだね。
彼女は結局、赤龍国(セキリュウコク)の王だったんでしょ?
蒼輝(ソウキ)とは一緒になれないんだから、私と一緒に生きよう。
私は、ずっと、蒼輝(ソウキ)と一緒にいられるんだから。」
 
チナリさんの声。
チナリさんの話すしぐさ。
最初に感じた印象と、全然違ってた。
すごく、かわいくて、フワフワってしてて、蒼輝(ソウキ)が守ってあげたい。と思っていたの、わかるなー。って思ったの。
私は、蒼輝(ソウキ)にすぐ泣いたり弱音吐いたりしちゃうけど、こんな風に、真っ直ぐに相手に想いを言えないから。
だから、こんなにスラスラと自分の思ってる事を口に出来るチナリさんが、ホントにすごいって・・・そう思ったの。
蒼輝(ソウキ)に触れている私の腕が、力なく離れてしまった。
それに蒼輝(ソウキ)は気付いていただろうけど、私に話しかけずに、チナリさんとの会話を始めた。
 
「じゃ、チナリ、俺の条件を飲んでくるか?」
 
蒼輝(ソウキ)の言葉に、「もちろんよ!」と両手を叩いて喜んでオーケーを出したチナリさんだけど、
 
「自分も、姑息(コソク)な手をつかいよるな。」
 
とシャールンさんはいうと、グラスのお酒を一気に喉(ノド)に流し込み、カラになったグラスをテーブルに滑らせた。
 
「姑息(コソク)って・・・何ですか?」
 
驚いた顔でシャールンさんを見るチナリさんに、シャールンさんは、「教えたるわ!」というと、チナリさんに『あるルール』を語ったの。
 
「ええか。にーちゃんは、チナリがワテに協力し成功した後の、『報酬』をワテに交渉したんとちゃうんやで!
にーちゃんは、最初に、言うたやろ?
『賭けをせーへんか』とな。
つまり、にーちゃんがさっき言った事は、『ねぇーちゃんが失敗した場合』、にーちゃんがチナリに行う代償や。
ということは、自然と、その逆の話もあるっちゅーことや!
『ねぇーちゃんが成功した場合』の代償がな。
ほんで、それを行うんは、チナリや。」
 
「えっ?私が?なんで?」
 
「この2つで、どっちに賭けるか。
そんなもん、改めて決めんでも、すでに決まっとるやろ?
チナリは、『ねぇーちゃんが失敗した場合』に。
そして、にーちゃんは、その逆に賭ける。
いうなら、ワテは賭けには関係あらへん。
そやけど、にーちゃんがワテを賭けに誘ってきたんは、ワテはチナリの代理人や。」
 
「代理人?」
 
「せや(ソウヤ)。にーちゃんが賭けに勝った時、にーちゃんが望むもの。
それは、チナリでは、叶えられへん事なんやろな。
せやから、ワテを巻き込んだ。」
 
と言ったあと、シャールンさんは蒼輝(ソウキ)を見ると、
 
「自分が、ワテに望むものはなんや?
ゆうてみ?」
 
といった。
でも、その眼は少し悲しく見えた。
それを見たとき、思ったの。
シャールンさんは、気付いてるって。
蒼輝(ソウキ)が望む事を。
一体・・・何?
全く想像が付かない私は、必死に考えてみるけど答えはみつからず、やがて、シャールンさんが、口を開いた事で、話は私を待たずに、走り始めてしまった。
 
「もし、自分が、今ここで、言う覚悟があるんやったら、ハンデをやるわ。」
 
「ハンデ?」
 
「せや。いくらなんでも、ねぇーちゃんが窮地に追い込まれ過ぎて、かわいそうやもんな。
自分が、今から口走る事は、間違いなくさらに、ねぇーちゃんを追い込むだけや。
そうやろ?」
 
シャールンさんの言葉に、蒼輝(ソウキ)は何も言わなかった。
その態度に、シャールンさんは、「図星かいな・・・。」とタメ息を吐くと、
 
「ホンマ自分、ひどい男やなー。」
 
と軽蔑まなざしで蒼輝(ソウキ)を見た。
えっ?何?何なの??
全然わかんない私は、1人、蒼輝(ソウキ)を見て、シャールンさんを見てと、大忙し。
でも、チナリさんは、何を言われるのかとビクついて、とても静かだったし、真音(マナト)さんも黙ったまま、じっと、蒼輝(ソウキ)とシャールンさんとのやりとりを見ていた。
一方、シャールンさんに軽蔑されてる蒼輝(ソウキ)は、全く気にせずに、
 
「ハンデって、何してくれるの?」
 
とそっちを気にするくらいのマイペース。
でも、シャールンさんは、蒼輝(ソウキ)にベーと舌を出すと、
 
「先に教えるわけないやろ!バーカ。」
 
と低レベルな反発をした。
 
「くっ!あのヤロー。」
 
シャールンさんから顔を背け、見えない位置に顔を持ってくると、蒼輝(ソウキ)は悔しい顔をした。
あー・・・きっと、この相手がトーワくんなら、間違いなく蹴り入れられてるだろうな・・・。
と私は、確信した。
それくらい、蒼輝(ソウキ)は、かなり、ムカついていた・・・と思う。
でも、何とか、顔を崩すくらいで、抑えた蒼輝(ソウキ)は、深呼吸を1度して、気分を落ち着かせると、シャールンさんを見る。
 
「さっき、あんたに、『姑息(コソク)』と言われて気付いた。
確かに、勝負はフェアーでないと後味悪い。
だから、先にチナリに言っておくよ。
チナリに支払ってもらう、代償を。」
 
ハッキリとそう言った蒼輝(ソウキ)。
でも、その後ろめたさが全くない蒼輝(ソウキ)の目に、反対にシャールンさんが、不安を覚えた。
 
「けど、ワテは思うで。
『姑息(コソク)』もひどいけど、『融通が利かん』のも同じくらい残酷やとな・・・。
自分のその態度と、発言は、間違いなく火に油を注ぐようなもんやで。
だから、ワテは・・・。」
 
「グダグダうるせぇーよ!」
 
って・・・・きゃぁー!蒼輝(ソウキ)!!
とうとう、神様に・・・・怒鳴っちゃった!!
しかも、まだ、シャールンさんがしゃべってるのに・・・。
もう・・・知らないから!!
シャールンさんが怒り出すんじゃないかと、怖くなって目をつぶる私だったけど、聞こえたのは、怒りとは程遠いくらいのシャールンさんの優しい声だった。
 
「ホンマにえぇーんか?」
 
蒼輝(ソウキ)の真っ直ぐさを知って、これ以上言ってもムダだと思ったのか、シャールンさんは最後の決断を迫る言葉を口にした。
それに、対して蒼輝(ソウキ)は、「ああ。」と答えると、目の前にいるチナリさんを見た。
急に、自分を見られて、驚いたのか、「な・・・に?」と途切れながら蒼輝(ソウキ)に問いたチナリさんに蒼輝(ソウキ)は、戸惑うことなく・・・言ってしまったの。
私が『お題』をクリアーした時、蒼輝(ソウキ)がシャールンさんに頼む願い事を・・・。
それは、驚くべき事だった!!
 
「翠(スイ)がクリアーしたら、俺はシャールンにこう頼む。
『チナリの中から、俺の記憶を消してくれ』ってな。」
 
「えっ!!」
 
この驚きの声は、私の声!!
チナリさんよりも、誰よりも大きかった。
チナリさんは、驚き過ぎて、言葉を失っていた。
そりゃ、驚くよね。
蒼輝(ソウキ)は、何を言ってるの?
こんな、非常識な行為、許されるわけないじゃない!!
私は、蒼輝(ソウキ)の発想にも呆れたけど、それより、これを知っててシャールンさんは、受理しようとしてるって事に、危機感を感じた。
シャールンさんには、蒼輝(ソウキ)を止められなかった。
だったら、蒼輝(ソウキ)を止められるのは、彼しかいない。
私は、真音(マナト)さんに、蒼輝(ソウキ)の暴走を止めてもらおうと、真音(マナト)さんをパッと見た。
でも、真音(マナト)さんは、私と目があうなり、ゆっくりと首を振った。
それって、どうしようもないって事?
蒼輝(ソウキ)の言うとおりにしろ!って事?
っていうか、真音(マナト)さんの落ち着きよう・・・。
真音(マナト)さんも気付いてたんだ。
蒼輝(ソウキ)が何を望むか。
なんで?どうして、そんなこと望むの?
ひどいよ・・・。
チナリさんが、かわいそう過ぎるよ。
そんな事を思ったら、私は胸が熱くなって、やがて張り裂けそうになって、私は思わず泣いてしまった。
両目からあふれる涙を、左右交互に手で拭う私の姿に、シャールンさんは、
 
「なんで、ねぇーちゃんが、泣くんや?
普通やったら、喜ぶところやろ?」
 
と言われるけど、私は何も答えられず、ただ必死で涙を拭っていた。
そんな私に、蒼輝(ソウキ)はもちろん、かまってはくれないし、真音(マナト)さんも、助けには来てくれない。
この緊迫した状況に、誰も動けなくなっていたのかもしれない・・・。
やがて、蒼輝(ソウキ)の微動だにしない目を見続けていたチナリさんが、蒼輝(ソウキ)の意志の強さを感じ、彼の申し出に前向きになれる気持ちの余裕ができたのか、一度目をつぶったあと、ゆっくりと目を開くと、蒼輝(ソウキ)に自分の思いの全てをぶちまけた。
 
「なぜ、そんな事を望むの?
2人の愛が証明されれば、私たちは、こうやって逢う事も、もうないのよ。
それに、2人の愛の邪魔だってもう、しないんだから、私から、記憶を奪う必要ないでしょ?」
 
口調は、とても淡々としてた。
蒼輝(ソウキ)に、記憶を奪われる事は、大した事ではない。と思わせるような態度だった。
でも、同じ、蒼輝(ソウキ)を愛してるからこそわかるの。
言葉の1つ1つに、願いがこもってるって。
蒼輝(ソウキ)の気持ちを、変えさせようと必死だって。
記憶を取らないで!と、心の底から訴えているのが、ヒシヒシと感じた。
それが、また、私をせつなくさせ、私の涙をあおった。
 
「必要あるんだ。」
 
と言った蒼輝(ソウキ)は、この話を始めてから、初めて・・・私をかまってくれた。
側で下を向いて泣いている私の頬に触れると、私の顔を自分の方に向けさせ、そして、私の涙を両手で、手際よく拭うと、そのまま、自分の胸に抱き寄せた。
私の顔は完全に、蒼輝(ソウキ)の胸にくっつき、息苦しいほどだった。
その行動があまりにも早くて・・・。
あれよあれよ、という間だったから、私は抵抗も出来ず、彼の胸にくっついた今でも、状況を把握する為に、自分の世界に没頭しちゃって、会話に入ることもスッカリ忘れていたの・・・。
 
「翠(スイ)が、泣くんだ。
チナリが絡んでくると・・・。
チナリが、俺たちに『逢う』か『逢わない』か・・・そんな事、関係ないんだよ。
重要なのは、『チナリが俺を愛している』って事。
それが、翠(スイ)を苦しめてる。
だから、排除させてくれ。」
 
だけど、そんな申し出、チナリさんがすんなりオーケー、するはずないよね?
さっきとは、比べられないくらい、チナリさんは、取り乱した口調になった。
まさに、理性を失った・・・。
そんな感じに見えた。
 
「冗談じゃないわよ!
私が、蒼輝(ソウキ)を愛すのは勝手でしょ。
今までの思い出も、この想いも、私の物よ!
彼女が泣くからって、それを奪っていい権利、蒼輝(ソウキ)にも神であるシャールンさまにも、ないわ!!
それに、大体、何よ!
彼女が泣くから、私の記憶を奪いたい?
そんなの彼女が、弱いせいでしょ!
なのに、私が悪いみたいに・・・。
矛先を私に、向けてほしくないわ!
それに、蒼輝(ソウキ)も蒼輝(ソウキ)よ!
彼女の為に、蒼輝(ソウキ)を想ってる感情を、取り除いて彼女を守る!っていうなら、蒼輝(ソウキ)を好きだった女、全ての記憶を消さないと意味ないでしょ?
そんなことできるの?
できないでしょ?
だったら、私のだけ奪っても意味ないわ。
そんな無駄なことしないで!」
 
蒼輝(ソウキ)の申し出を全否定し、決して受け入れない!を、アピールする彼女に、シャールンさんは、テーブルのグラスをまたかかげ、ワインを注がせ、それを飲みながら、蒼輝(ソウキ)とチナリさんのやり取りを観戦することにした。
そして、蒼輝(ソウキ)は、私の髪を優しくなでながら、「お前、全然わかってない。」とタメ息交じりにいうと、チナリさんを見た。
蒼輝(ソウキ)のタメ息の意味がわからなくて、気味が悪かったのか、「何よ・・・。」と口走ったチナリさんの声は、少し戸惑っていて、元気がないように感じた。
 
「翠(スイ)が泣くのは、『チナリが俺を愛す想い』に嫉妬してるわけでも、俺が奪われそうで悲しんでるからでもない。
翠(スイ)が泣くのは、『チナリの想いがわかる』から泣くんだ。」
 
「どういう・・・事?」
 
「自分を愛してくれない相手に、ひたすら一途に愛を送るチナリの苦しさが、翠(スイ)にはわかるんだ。
お前と同じくらい、翠(スイ)も俺を愛してくれてるからな。
だから、いたたまれなくなるんだよ。
苦しさがわかるだけに、チナリの想いを軽くしてやりたい。
だけど、自分にはそれができない。
その葛藤が、翠(スイ)を苦しめる。
そして、翠(スイ)が、そうやって、苦しむのは、たぶん、相手がお前だから。」
 
「どうして?逢ったのだって、今が初めてなのに・・・。なぜ?」
 
「それは、お前の俺への愛の強さを認めてるからだよ。
お前は、俺を守るため、1人で、ジギルたちの元に行った。
そして、最後は、命をかけてまで、豹の姿を俺に与えようとした。
翠(スイ)も、女豹だ。
お前がした全ての事が、どれだけすごいことが、わかってるんだ。
だから、翠(スイ)は、チナリの事を、まるで自分の事のように思って心を痛めてしまうんだ。
それは、きっと、これからも続くことだと思う。
何かの時に、フッとチナリの事を思い出す。
後ろめたさを感じる事もあるかもしれない。
この2年、翠(スイ)は、ずっと苦しんできた。
だから、俺は解放してやりたいんだ。」
 
蒼輝(ソウキ)はそういったあと、泣き止んだ私を自分の胸から離すと、私を横に座らせた。
そして、蒼輝(ソウキ)は、チナリさんに向かって、深々と頭を下げた。
 
「俺の要求を、のんでほしい。」
 
それに対して、チナリさんは、少し考えているのか、頭を下げている蒼輝(ソウキ)をただじっと、見ていた。
そして、シャールンさんは、ゆっくり飲んでいたワインがカラになると、グラスをテーブルに置き、そのまま、重心を前に持ってくると、チナリさんの背中をチョイチョイとつついた。
それに、チナリさんも反応して、シャールンさんの方に振り返る。
見られたシャールンさんは、優しく笑うと、
 
「降参したりぃーや。」
 
というと、チナリさんの頭のてっぺんに手を置き、優しく頭をなでた。
 
「チナリだって、わかるんちゃうん?
今から、あのねぇーちゃんが、どれだけ過酷な世界に行くか。
それを、あのねぇーちゃんは、覚悟したんやで!
これくらいのご褒美がないと、かわいそーとちゃうか?」
 
といいながら、チナリさんに承諾させようと、シャールンさんも説得してくれるけど、チナリさんは、それでも、首をブンブンと振る。
そりゃ、そうよね。
蒼輝(ソウキ)との記憶を全て消すなんて・・・。
綺麗ごとだけで納得なんてできないよね。
私も、彼女の立場なら、ダダこねるもん。
ただ、私と違うのは、彼女は1滴も涙を流さなかった事。
そこが、すごいなーって素直に思った。
だって、私なら、絶対に泣いてると思うから。
私も、もっと、強くならなきゃ!
って、そう思ったの。
だって、蒼輝(ソウキ)にこの選択をさせてるのは、もとはといえば、私の弱さから来てるんだもんね。
だから、私は、チナリさんにすごく申し訳なく思った。
だけど、私がそう思った時、いきなり私の耳にシャールンさんの声が聞こえた。
 
『ねぇーちゃんのせいやないで。』
 
「えっ?」
 
と言いながら、私はシャールンさんを見たんだけど・・・。
あれ?
私は、変なことに気付いた。
だって、周りは誰も、シャールンさんを見ていない。
見ていないどころか、蒼輝(ソウキ)はチナリさんに頭を下げたままだし、チナリさんは首振りをしてるままで・・・。
真音(マナト)さんは、その2人を見てる。
どういうこと?みんな、シャールンさんの声が聞こえてないの?
私がそう強く思った時だった。
 
『せやで。今、ねぇーちゃんの心の中に話かけとんねん!
ちょっと、ねぇーちゃんにだけ、教えたいことあってな。』
 
といったシャールンさんは、『あっ、せやせや!』というと、
 
『言うとくけど、サッパリにーちゃんには、くっつきなや(クッツクナヤ)!
話聞かれてしまうさかいにな。』
 
って言われての!
 
「えっ?」
 
とついつい口に出してしまった私は、慌てて口を閉じた。
いけない、いけない。
念じなきゃ!!
と思いながら、私は強く心で念じた。
 
『シャールンさん・・・知ってたんですか?』
 
それに対してシャールンさんは、『当然や!ワテは神やで!』と自慢げに言って、
 
『せやけどまー、それは、二人の愛で得たものやさかいにな。
多めに見たるから、安心しー。
それよりや。
にーちゃんが、チナリに出した願いはな、ねぇーちゃんを泣かせないためだけやないんや!』
 
『えっ?』
 
『考えてもみーや。
ホンマに、それだけが目的やったら、ねぇーちゃんの記憶を消したらええことやろ?
悲しい事やけど、ねぇーちゃんは、あのにーちゃんとはずっとおられへん。
限られてる時間やねんから、チナリよりも、ねぇーちゃんの中から、チナリの存在を消した方が、誰も傷つかんですむやろ?』
 
確かに・・・そう言われたらそうだ・・・。
 
『じゃ、どうして、蒼輝(ソウキ)は、あんなにも、チナリさんの記憶を消すことに、執着するんですか?』
 
『それが、にーちゃんの優しいところやな。』
 
と言ったシャールンさんは、少し声が優しくなる。
 
『ねぇーちゃんと、にーちゃんの愛が勝ったら、チナリはもっと傷つく。
そして、もっともっと、にーちゃんが忘れられんようになる。
チナリはな、もう、別の世界で生きとんや。
せやけど、にーちゃんの事が、忘れられんで、今も新しい恋の1つも出来てへん。
にーちゃんは、これ以上、チナリを自分の亡霊が支配するのが嫌なんや。
チナリを、開放させてやりたいんやろうな。
せやから、こんな事を言い出したんや。
ほんで、もう1つ、ねぇーちゃんに言うとく事がある。』
 
『何ですか?』
 
『これを知ったねぇーちゃんが、にーちゃんがチナリを気にかけている事に、苦しまんように、にーちゃんはチナリに、この申し出を先に言ったんや。』
 
『えっ?』
 
『これを言われたら、チナリは、全力で2人の中を引き裂こうとするやろ。
ねぇーちゃんにしたら、不利になるのは目に見えとる。
せやけど、にーちゃんがあえてそれを選んだんは、そんな過酷な状況でも、自分は、ねぇーちゃんを思い出す!っていうのを見せたかったんやと思うで。
チナリの行く末を気にした事なんて、気にもならんくらいに、自分は愛されてると、ねぇーちゃんに実感させたかったんやろな。』
 
『そうだったんだ・・・。』
 
『ワテからしたら、自殺行為にしか思えんけど・・・。
せやけど、にーちゃんの、男気溢れる行動は、好っきゃなー。
ちょっと、うらやましいなるわ・・・。』
 
その言葉を最後に、シャールンさんの声は聞こえなくなった。
“うらやましい”とシャールンさんは、言った。
なんで?どういう事?
そんな疑問が出た私は、慌てて、シャールンさんを見たけど、私と心で話していたのは、秘密でしょ。
だから、シャールンさんは、私にめもくれず、普通に蒼輝(ソウキ)とチナリさんの空間に割って入った。
 
「観念したりーや、チナリ。
なんぼ(ドレダケ)嫌がっても、にーちゃんは、てこでも譲らんで!
にーちゃんの事、忘れとうなかったら、奪ってきたらええんや!
どれだけ、ねーちゃんとの愛に自信があってもやな、にーちゃんは記憶を失うんや。
どう考えてもチナリが、有利なんやで!
24時間守り通せたら、チナリの勝ちなんや!」
 
シャールンさんの言い分に、落ち着きを取り戻したチナリさんは、「そうよね。」というと、自信に満ちた顔で蒼輝(ソウキ)を見た。
 
「いいわ。蒼輝(ソウキ)のいう賭けに乗ってあげる。
あとで、後悔するのは、蒼輝(ソウキ)なんだから!」
 
と言い切る彼女に、
 
「後悔なんて、しねぇーよ。
だって、勝つのは俺たちだからな。」
 
と言い切った蒼輝(ソウキ)。
唇をかむチナリさんに、「ピューピュー!」と口笛を吹きながら、ちゃかすシャールンさん。
そんな2人には知らん顔で、蒼輝(ソウキ)はさらに、こんな事を言ってのけた。
 
「俺は、翠(スイ)のことを思い出そうなんて、はなっから思ってねぇーから。
俺は、24時間以内に、もう1度翠(スイ)を愛す。」
 
「何・・・言ってるのよ。」
 
と呆れた声を上げるチナリさん。
 
「待てよ、蒼輝(ソウキ)。
たとえそうなったとしても、クリアーしたことにはならないぞ!」
 
と今まで黙っていた真音(マナト)さんも参加して、蒼輝(ソウキ)の考えを否定するけど、「なるさ。」と言って笑った蒼輝(ソウキ)は、真音(マナト)さんを見た。
 
「翠(スイ)を愛すという事は、俺を愛してくれてる翠(スイ)の愛の深さがわかるって事だ。
翠(スイ)の愛は、何よりも深い。
その愛を知れば、間違いなく俺は、翠(スイ)との記憶を思い出す。」
 
真音(マナト)さんに、そう言い切った蒼輝(ソウキ)は、今度はシャールンさんにこう言い切る。
 
「24時間もいらねぇー。
こんな『お題』余裕でクリアーしてやるよ。
楽しみに待ってろ!」
 
そう言って自信に満ちた笑いをした蒼輝(ソウキ)に、つられるように、シャールンさんも、嬉しそうに笑った。
そして、立ち上がると、蒼輝(ソウキ)の目の前に、手を出した。
 
「おまえらの愛っちゅーんを、とくと見せてもらうで!蒼輝(ソウキ)。」
 
そして、蒼輝(ソウキ)はというと、「偉そうに・・・。」と文句を言いつつも、立ち上がると、差し出されているシャールンさんの手に自分の右手を合わせた。
 
「ここにきて、やっと、蒼輝(ソウキ)って言いやがったな。」
 
と苦笑いの蒼輝(ソウキ)に、シャールンさんは、いらずらっこみたいな笑いをした。
その2人の姿に、私もホッとして笑っちゃった。
でも、真音(マナト)さんだけは、笑顔にはならず、ほんわかムードのシャールンさんに容赦なくて言葉を投げる。
 
「シャールンさん!教えてくれませんか?」
 
突然の言葉に、「ん?なんや?」と言いながら、蒼輝(ソウキ)の手を離し、真音(マナト)さんを見るシャールンさんに、真音(マナト)さんは言葉を続けた。
 
「あなた言いましたよね?
蒼輝(ソウキ)がチナリさんに、望みを告げれば、翠(スイ)ちゃんにハンデを与えてあげると。
一体、どんなハンデをくれるんですか?」
 
そうだ!そういえば、そう言ってた!
えっ?何々??
期待いっぱいの目で、シャールンさんを見る私に、
 
「ホンマ、ちーこいのは、せっかち君やのぉー。」
 
と文句を言いつつ、さっさとソファーに戻っちゃって、そこにパサっと音を立てて座る。
そして、足を組んで、真音(マナト)さんをじっと見て、口を開いた。
その言葉は・・・。
 
「考えとらへん!」
 
それには、「はぁ?」と私も蒼輝(ソウキ)も、大声で叫んだ。
何をバカな事いっちゃってんのよ!!
ホント、信じらんない!!
その思いは蒼輝(ソウキ)も同じで、
 
「お前、神だからって、ふざけたこと言ってんじゃねぇーぞ!!」
 
とこぶしを作った。
それには、チナリさんも、シャールンさんの隣に座ってチョット、アドバイス。
 
「余計なことだと思いますが、蒼輝(ソウキ)を怒らせない方が、いいと思いますが・・・。」
 
と耳打ちするけど、
 
「そないゆうても、急にパッ!と思いついた事やもん!
すぐに、内容が浮かぶわけないやないか!
無茶ゆーたらあかんで!」
 
と言われても・・・。
無茶なお題を出したのは、そっちが先でしょ!
もう!なんなのよ〜!!
腹が立って、思わず太ももをバンバン叩いちゃう私に、「まー、そう怒らずに。」と言いながら、私の隣に腰を下ろした真音(マナト)さんは、私に優しく笑ってくれた。
その笑いについ、つられて笑っちゃった私は、自然と心の荒波もおさまり出した事に、気付いたりした。
 
「今から考えるのでしたら、俺の意見を聞いてはもらえないですかね?」
 
真音(マナト)さんのビックリ発言に、私も含めてみんなが彼を見た。
 
「なんや、ちーこいの!言うてみ?」
 
その言葉を待っていたかのように、真音(マナト)さんは、「それでは。」というと、すごい提案をした。
 
「緑豹国(リョクホウコク)にいる仲間を、1人ここに呼んでいただき、その人物も一緒に、あなたが作った世界に入れていただきたい。」
 
でも、それは、ダメでしょ。
って私が思ったと同時くらいに、「そりゃ、あかんわ。」という事がダブった。
ほらね!やっぱり。と私は納得した。
 
「言うたはずやで!
仲間は、一切入れんと!
それは、曲げられん。
ルールやさかいにな。」
 
と真音(マナト)さんの提案をサクっと否定しちゃったシャールンさんだけど、真音(マナト)さんも簡単には引き下がらない。
というより、こういわれるのは、わかっていたみたいで、全く物怖(モノオ)じせず、当たり前のように、シャールンさんの言葉に受け答えしてた。
 
「あなたは、こう言った。
翠(スイ)ちゃんの力になる者は、ダメだと。
連れてくる人物は、蒼輝(ソウキ)と翠(スイ)ちゃんの仲を引き裂こうとしてる人物です。
いうなれば、蒼輝(ソウキ)の恋敵ですね。
翠(スイ)ちゃんの味方どころか、チナリさんとあなたの味方になりうる人物です。
ルール違反にはならないと、思いますが・・・。」
 
それって、もしかして・・・。
“カレ”の事?
でも、“カレ”は・・・。
と考えた時、急に蒼輝(ソウキ)が私の腕をつかんだ。
その強さに、私は今思っていた事が、パンと弾けて、何も考えられなくなった。
というか・・・『蒼輝(ソウキ)はどうしたんだろう?』と考えてしまった。
そして、彼を見る私に、蒼輝(ソウキ)は心の声で話してきた。
 
『深く想うな。
シャールンに、波長を合わせられると、また、お前の心を読まれる。
サンガの事は、真音(マナト)の作戦だ。
俺たちの勝利を、確実にする為と、アイツの身の安全の為にな。』
 
『身の安全って・・・どういう意味?』
 
『その辺は、真音(マナト)が今から語る。
それより翠(スイ)!
俺が触れている時は、俺の波長が邪魔して、シャールンは心の声は聞こえない。
だから、今はいいけど、俺から離れたら、絶対に、余計なことは思うな。
シャールンが作った世界に入るまでは、無(ム)でいるんだ。
いいな!絶対に、サンガの事は悟られるな!!』
 
その言葉に、『わかった。』と返事をした私は、なるべく、別の事を考えよう!と心に決めた。
でも、気になっちゃのよね・・・。
なんで、蒼輝(ソウキ)はシャールンさんと話していた事に気付いたんだろう?って。
 
『そりゃ、気付くだろ?
あれだけ、声が出たり、顔色が変わったらさ。
お前は、素直過ぎるからなー。』
 
と心で回答をくれた蒼輝(ソウキ)。
私は、『ありゃま。』と言いつつも、反省したの。
だってまた・・・強く思っちゃったから。
あちゃー・・・だよ。
抑えて、抑えてと、私は自分に必死で言い聞かせた。
 
「けど、なんかおかしいなー。
自分らにとって余計不利になる人物を、なんで、わざわざ呼ぶんや?
ねぇーちゃんへのハンデやのに、お荷物になってまうやないか!」
 
どうやら、私の心は間一髪の所で、読まれなかったみたいで、シャールンさんは、真音(マナト)さんの言った言葉に疑問を持っただけだった。
よかったー。
私は、かるーく、安心したの。
息を吐く程度に、よかった!みたいなね・・・。
今は蒼輝(ソウキ)と触れているから、大丈夫だけど、今から練習しといた方がいいからね。
だから、私は、細心の注意を払ったの。
それにしても、一安心!
だって、あとは、真音(マナト)さんがうまく話をしてくれるからね。
と思ったのは、大正解で、真音(マナト)さんは、なんと神をうまく誘導していっちゃったのよね・・・。
 
「その人物は、ラウオ・・・つまり、龍翠(リュウスイ)に狙われてるんです。
俺たちが、まる1日向こうに帰られないのであれば、余計に心配です。
だから、安全な場所に、隔離したい。
お願い聞いてくれますよね?」
 
「なんで、ワテが聞くって、いいきるんや?」
 
真音(マナト)さんの言い方が気になったのか、シャールンさんは、そんな疑問をした。
確かに今の・・・。
断りませんよね?
って、言ってるみたいだったもんね。
さっき、ダメだ!って言われたばっかなのに、なんで、そんなに自信があるの?
と私も、不思議に思った。
だから、私は、真音(マナト)さんから目が離せなくなった。
 
「あなたは、龍翠(リュウスイ)が嫌いだ。
それも、相当ね。
だから、龍翠(リュウスイ)が俺たちの仲間を消すという事は、俺たちが不利になる。
そういうこと、あなたは、阻止したいはずですよね?
あなたは、俺の提案に乗ってくれます。
いや、すでにもう、心は決まってますよね?」
 
「ホンマに、自分、恐いわ。」
 
と少し顔をこわばらせながら言ったシャールンさんは、「降参や。」と言いながら、両腕を天井に向けると背伸びをして、体に乗っかってるいろんなものを、吹き飛ばすようなそぶりをした。
スッキリしたのか、体を元に戻すと、こちらを見た。
とはいえ、もちろん視線は真音(マナト)さんね。
 
「自分の言う通りや。
ワテは、フェアーでないと、気がすまんのや!
あっ、言うとくけーど、じぶんら2人の場合は、別物やで。
力を見たかってんから、フェアーじゃ意味あらへんさかいに、ズルさせてもろたけどな・・・。
せやのに、龍翠(リュウスイ)はあかん。
勝負事やのに、アンフェアーなやり口ばっかりしよってからに!!
ホンマ、見てて、むなくそわるぅーて、かなわんのや!
せやから・・・ええで。
じぶんらが言うてる、人物をここに呼んだる。
せやけどや、ちーこいの!
1つ白状しーや。」
 
「なんですか?」
 
「なんで、ワテが、龍翠(リュウスイ)嫌いやて、わかったんや?」
 
「だって、龍翠(リュウスイ)に勝つように、さっきから、けしかけてるでしょ?
誰でも気付きますよ。
あと、あなたが、『愛』にこだわる理由もね・・・。」
 
と言った真音(マナト)さんは、意味深な笑いをした。
その笑いの意味がわからなかった、私も蒼輝(ソウキ)も、「何?」とお互い言いながら、真音(マナト)さんを見るけど、
 
「静かにしとるなー思てたら、そないな、観察までしよったとはな。
恐れいったで。」
 
と言ったシャールンさんは、
 
「ほんで、そいつは、なんて言うんや?
そいつの名前言うてみ?」
 
と本題に入ったもので、私も蒼輝(ソウキ)もそれ以上は、真音(マナト)さんに聞けなかった。
そして、真音(マナト)さんは、シャールンさんとの会話をこなしていく。
 
「サンガ。」
 
「サンガやな。ちょっと、待っとれや。」
 
というと、またシャールンさんは、ブツブツ言い出した。
その時、急に蒼輝(ソウキ)が私の耳元に顔を近づけてくると、言葉を囁いた。
 
「翠(スイ)に、言っておくことがある。」
 
それには、「何?」といいながら、私は蒼輝(ソウキ)のほうに顔を向ける。
私を見る蒼輝(ソウキ)の顔がいつになく真剣だったから、私も少し緊張気味で蒼輝(ソウキ)の言葉に耳を傾けた。
 
「翠(スイ)、俺を信じろ。
絶対に、お前を思い出してやるから。
チナリと俺が、どんなことしてようと、俺がお前に冷たい態度を取ろうと、今の俺にはお前が全てだ。
この言葉・・・忘れるなよ。」
 
私は、「うん。」としか言えなかった。
嬉しくて・・・。
だって、こういう事、誰にも聞かれないほうがいいでしょ?
だったら、心で言えばいいのに、蒼輝(ソウキ)はわざわざ声に出してくれた。
それが、嬉しかったの。
蒼輝(ソウキ)の声。
蒼輝(ソウキ)が口にした時の顔つき。
心での会話じゃわからない事がわかる、当たり前の事だけど、それの全てが、宝物みたいに思えて、私は大切に、自分の中に、インプットした。
これから始まる過酷な戦いの前に、強い味方が増えて、私は心から笑顔になった。
 
 
 
更新日時:
2008/04/18
prev. index next

HOME


Last updated: 2008/5/12