最終更新日:2008/6/6





3    3 章  恋のマジック
更新日時:
2006/06/25 
春来(ハルキ)が言った通り、電話を切ってからジャスト20分で、スタジオに着いた。
バイクから降りた私は、ヘルメットを脱ぐ。
私の手から、ヘルメットを受け取った春来(ハルキ)は、
 
「お前、先にスタジオ行ってろ。
俺は、これ置いてから行くから。」
 
というけど、
 
「いいよ。一緒に中に行こうよ!」
 
と春来(ハルキ)にすがる私。
そんな私の髪を、また彼はクシャーとする。
 
「今から撮る撮影は全てが、お前の指示だ。
つまり、今は全く何も用意されていないって事。
今から作り出すのに、モデルも一緒に行ってどうすんだよ。
先にお前が行かなきゃダメだろ?」
 
「でも・・・。」
 
やっぱり、不安だったの。
だって、今まで作り出す事ってした事なかったから、頭の中の構造がうまく表現できるのかな?って。
春来(ハルキ)とこうしていると、安心するの。
春来(ハルキ)が自信に満ち溢れている人だからなのかもしれない。
何とかしてくれるんじゃないか?という錯覚を起こしてしまう。
だから、春来(ハルキ)の側を離れる事が・・・ちょっと恐かった。
でも、春来(ハルキ)に言われて改めたよ。
私がしっかりしなきゃ!
新しい春来(ハルキ)を・・・。
違う。本当の春来(ハルキ)を、みんなにも、そして彼自身にも見てもらう為に、私は頑張んなきゃ!!
気合いを入れた私は、大きく深呼吸をして、気分を改めた。
 
「わかった。先に行ってるね。」
 
きっとさっきまで私は不安の顔をしていたのかもしれない。
だって、今の私の顔を見て春来(ハルキ)は、とても優しい顔をしてこう言ったの。
 
「よしっ!いい顔だ。」
 
って。
そして、私の背中を押したの。
 
「行ってこい。」
 
って。自分も後からくるじゃない!って思ったけど・・・素直に聞けた。
私は、「うん。」と答えて、みんなが待つスタジオに先に入って行ったの。
 
 
入ってから、とにかく大変だった。
まずは、月の場所に真琴さんが連れて行ってくれた。
そこは、このビルの屋上だった。
運よく、方角も大きさも、バッチリで、私の想像通りのバックだった。
屋上に上がると、すでにライトのセッティングとか光の調整とかスタッフがしてくれていた。
写真も何枚かテスト撮りしてくれていて、カメラマンが私の元へと来た。
 
「こんな感じで月が写るけど、いい?」
 
光の感じに納得がいかない私は、あーでもない、こーでもないとカメラマンと照明さんとで話をした。
光の調合が決まれば、あとは髪の色と、私のメイクが決まる。
 
「それじゃ、ここの状態は、これでお願いします。」
 
私は、そう言って屋上から春来(ハルキ)の待つ楽屋へと急いだ。
ノックをして中に入ると、衣装合わせをしていた春来(ハルキ)。
 
「ねぇー、未来ちゃんが言った青のブラウスなんだけど、どれがいい?」
 
そう言われて衣装が掛かっているクローゼットを開けると・・・。
 
「すごい数ね・・・。」
 
とまずはため息を吐いてしまった。
一言で青といえば、簡単だけど、奥深い。
薄い、濃い、淡い、光沢がある、ない・・・。
私は、衣装が掛かっているパイプを引っ張り出し、クローゼットから衣装をズラズラズラーと引きずりだした。
下にコマが付いているので、移動は簡単。
それを、もっとも明るいライトの下まで連れ出すと、コマを固定して動けないようにした。
そして、手当たり次第、衣装をかぎ分けていく。
とりあえず、気になったものをドンドン抜き取っていって、最後まで見終えた私は、今度は床に散らばっている衣装に目をやった。
私が抜粋した衣装は、5着。
それを、見やすいように、衣装の人が、横並びに並べてくれていた。
 
「ねぇー、春来(ハルキ)は、どれがいい?」
 
なんて聞いてもきっと、答えないとは思っていたよ。
 
「お前が決めろ!」
 
って言うかと思った。
でも・・・それに、似てるけど、ちょっと違う答えをくれた。
 
「お前がテーマとする物が、お前にしかわかんねぇーからな。
俺には、何とも言えねぇーよ。」
 
それが、すごいヒントになったの。
 
「それよ、それ!!」
 
と大声を上げる私に、「なんだよ。」と迷惑そうな顔をした春来(ハルキ)。
テーマは、新しい春来(ハルキ)だよね。
って、ことはよ?
 
「この中で、春来(ハルキ)が今まで着た事がないタイプの物ってある。
形でもいいし、色とかでもいいし。
何でもいいから。」
 
すると、春来(ハルキ)は近付いてきて、ブラウスをジックリ見た。
そして、1つに向かって指をさした。
 
「この渋みがある青は、今までないな。
色もそうだし、ボタンも内側にあるタイプで見えないだろ?
これ、新作じゃねぇーの?」
 
それには、衣装さんも、「そうなの。先週入ったばっかりだよ。」と添えた。
 
「なら、これに決定ね。」
 
私はそう言って、衣装さんにそれを渡した。
衣装が決まって、ホッとしたのも束の間、扉がノックされ、今度は真琴さんが入ってきた。
 
「未来ちゃん!ヘアメイクの相談したいんだけど、今いい?」
 
彼女の言葉に、私は、「うん。」と答えると、衣装さんに「春来(ハルキ)を頼みます。」と託して部屋を出て行こうとした。
その時だった。
 
「未来(ミク)!!」
 
急に名前を呼ばれて私は、ビックリしてその場で立ち止まった。
動けなかった。
呼んだのは後ろから。
そして、その声は・・・。
 
「はる・・・き?」
 
私はそう言いながら、ユックリと振り返った。
今・・・未来って呼んだよね?
いつも、アンタとかお前なのに、今・・・未来って・・・。
あまりの驚きに何も言えない私。
それに対して、春来(ハルキ)はニッコリ笑う。
 
「今のお前、すっげぇー輝いてるよ。」
 
もっと酔いしれたかったの。
春来(ハルキ)のその甘くて優しい言葉に・・・。
そして、優しい笑顔に・・・。
だけど、現実はそう甘くない。
強引に腕をひっぱられた。
 
「未来ちゃん、急いで!!」
 
そして、私は真琴さんにまるで引きずられるかのようにして、その場を退場させらて、ヘアメイク室へと・・・拉致された。
 
 
 
 
「よし、それじゃ、撮影しよっか。」
 
監督のその声と共に、所定の位置に居る春来(ハルキ)に向かってライトが灯され、カメラも春来(ハルキ)を追う。
 
「あっ!ちょっと、待って下さい!!」
 
私は、みんなに声をかけたあと、監督の元へと走る。
 
「春来(ハルキ)の所に行ってもいいですか?」
 
私の言葉に、監督は、「いいよ。」とオッケーをくれて、私は春来(ハルキ)の元へと猛ダッシュした。
 
「今更、なんだよ。」
 
と迷惑な顔をする春来(ハルキ)に、私は忘れていたある物を渡した。
 
「これ、渡し忘れてたから。」
 
彼の右手を取ると、絢ちゃんのくれた大事なピンクの鶴を彼の手に乗せた。
自分の手を見つめた彼は、そのままでこう言った。
 
「それで?」
 
って。「ん?」と聞いた私に、今度は鶴から目を動かすと、彼はとても穏やかな瞳で私を見た。
 
「お前の性格上、カメラマンの横で、あーだこーだと俺に注文出すのは無理だろ?
だから、今、直接俺に注文出せよ。
お前の期待通りに、こなしてやるからさ。」
 
「その自信がちょっと、ムカつく。」
 
なんていいながら、私は笑っちゃった。
私の笑いにつられて彼も、声を出して笑った。
 
「注文は、たった1つ。
さっき、私に見せたようにして。」
 
「さっき?って・・・どれ?」
 
首をかしげた彼の右手を私は取ると、それを月に向かってかかげた。
 
「この鶴が、自分の愛おしい人だと思って。
絢ちゃんでもいいから。
その人は、月に住む住人であなたに、一羽の鶴を置いて行ってしまったの。
その悲痛な感情を表してほしいの。
そして、愛おしい人を見つめる、切なくて熱いまなざしもほしい。」
 
「熱いまなざしね・・・。」
 
「そう。この、鶴をそんな瞳で見つめてほしいの。」
 
私の言葉に春来(ハルキ)は、しばらく鶴を見て考えていたけど、
 
「わかった。まかせろ!」
 
といつもの彼の高飛車な答えをくれた。
 
「メイクは光の強さを考えてしてあるから、どんな角度になっても大丈夫よ。
気にしないで、好きなようにして。」
 
私は、そういって彼に笑いかけると、彼の元から離れた。
 
「すいません。おまたせしました。」
 
と監督に謝る私に、監督は「いいよ。」と言ってくれた。
 
「それで?春来(ハルキ)の動きとかの指示は?」
 
とカメラマンに聞かれたので、
 
「春来(ハルキ)に任せてます。
スタートの声で、勝手に動き出すと思いますから、気に入ったショットを撮って下さい。」
 
と添える私。
 
「なるほどね・・・。春来(ハルキ)のモデルとしての腕も利用しつつ、新しい彼を引き出すって事か。」
 
なんていいながら、カメラマンはとぉーっても楽しそうに笑った。
 
「監督、お願いします。」
 
私の声に、監督はうなずくと、こう言った。
 
「よし、始めるぞ。スタート!!」
 
 
 
監督のスタートの声が掛かってから、5分が過ぎた頃。
撮影が行われているここでは、こんな声しか聞こえなかった。
 
「すごぉーい!!
 
「きれぇー!!」
 
「かっこいぃー!!」
 
「鳥肌立っちゃったよぉー。」
 
確かに・・・ホントに春来(ハルキ)はすごい。
私が言ったあの一言で、彼は完璧に私の頭の中で出来た世界を実現してくれた。
月をバックに鶴をかざし、本当に悲しい表情をした。
かと思えば、月に背を向けて、鶴を自分の目線にまで持ってきて、その鶴にとぉーっても優しいキスをした。
まるで、愛する人にキスをするように、優しいキスを・・・。
月と鶴をモチーフに彼の世界はドンドン膨らみ、カメラマンも相当気に入ったのか、載せるのは3枚なのに、もうすでに50枚以上は撮ってる。
それくらい、春来(ハルキ)の表情の全てが魅力的だった。
ちょっと目線を動かしただけでも、表情がガラっと変わる。
こんな彼・・・今まで見たことがなかった。
 
「新しい彼なんじゃないの?」
 
監督の声に私は、「えっ?」と言いながら、監督を見た。
監督は、とても優しい笑顔を私にくれた。
 
「あんなに表情が変わる春来(ハルキ)は、初めてみたよ。
僕や、カメラマンがいくら導いても、ここまで自然で心を揺るがすような、表情をする彼を引き出すことはできなかった。
これが、本来の彼の姿なんじゃないの?」
 
確かに、今の春来(ハルキ)は、絢ちゃんに見せた笑顔の春来(ハルキ)だった。
本当の、春来(ハルキ)の笑顔がそこにあった。
 
「でも、これ、私が引き出したんじゃないんですよね。」
 
と苦笑いの私に、監督は「どういう事?」と興味深々。
 
「彼の持っているピンクの折鶴は、彼の事を慕っている、絢ちゃんっていう女の子が彼に贈ったものなんです。
彼に、あの鶴が愛おしい人。
つまり、絢ちゃんだと思って接してほしいと言ったんです。
だから、彼は絢ちゃんに見せた本当の自分の姿を見せてる。
私の力じゃないです。
絢ちゃんの力です。」
 
そう。これは私が春来(ハルキ)との約束を果たした結果じゃない。
私は、自分の力で、新しい彼を引き出すと言ったのに。
私は、結局何もできなかった。
 
「監督すみません・・・。
私は春来(ハルキ)との約束を守れませんでした。
きっと彼は、今日で『春来(ハルキ)』を辞めてしまうと思います。」
 
と頭を下げた私に監督は、「僕はそうは思わないけどね。」と口を開いた。
その言葉に、私は頭を上げて監督を見た。
 
「ちょっと、君!今撮った写真のデーターを持ってきてくれないか?」
 
側にいたスタッフに監督はそういうと、今も春来(ハルキ)を撮っているカメラマンの側に行かせた。
監督からの指示を聞いた、カメラマンのアシスタントが、データーを持って、こちらに来た。
それをパソコンにつないで、監督に見せる。
もちろん、私も一緒になってそれをみた。
監督はマウスをクリックしながら、数枚のショットを一気に私に見せた。
 
「これも、これも、これも・・・。
すべて、春来(ハルキ)の顔が、とても魅力的に映ってる。
私もね、この世界に長い間いるからわかるんだけど、月明かりほど、撮りにくいものはないんだよ。
レンズを通して撮った自然の光っていうのは、衰えてしまうからね。
それを、裸眼で見た時のような強さを出そうと思えば、膨大な光の強さがいるんだ。
でも、それを作ってしまうと、今度は側にいる人間の光が奪われてしまう。
だから、撮影に困ってしまうのが現状。
だけど、これは違う。
春来(ハルキ)の顔が、光にも負けないくらいにちゃんと映ってる。
それは、未来ちゃんの腕があっての事。
光の強さと、春来(ハルキ)の自然の顔色。
そして、春来(ハルキ)の動きのパターンをこの4日間で自然と理解したんだろうね。
それを全部計算に入れた上で、未来ちゃんはメイクをした。
だから、春来(ハルキ)の表情にも、春来(ハルキ)が作る世界勘にも邪魔をしてない。
春来(ハルキ)は、それを一番よくわかってると思うよ。
あれだけ、モデルなれしてるんだ。
いろんな撮りを、今までしたはずだからね。
この撮影が、本来どれだけ難しいものか、彼が一番わかってると思うよ。
だからこそ、こんなに楽しそうに撮ってるんじゃないのかな?
誰も、こんなにのびのびとして撮れない場面で、自分は好きなように撮ってる。
その楽しさが、彼の表情からあふれ出してるけどね。」
 
監督はそう言ったあと、私の背中を軽くたたいた。
 
「未来ちゃんと仕事が出来て、本当によかったよ。
君の腕は、本当にすごいな。」
 
「そんなに褒めないで下さいよ・・・。
図に乗りますよ。」
 
とテレながら言った私に、監督は楽しそうに笑った。
 
「よし、かなりのショットが撮れたな。
この辺で終わるか。」
 
監督がそういって、撮影終了を告げようとした時だった。
今まで、立っていた春来(ハルキ)が、急に地面に座った。
 
「何?どうしたの?」
 
心配になった私は、春来(ハルキ)の元へ行こうとして・・・。
 
「かん・・・とく?」
 
そう。監督に腕をつかまれたの。
だから、私は監督にどうしたのか聞こうとしたのに・・・。
監督は、何も言わないまま、目は春来(ハルキ)にくぎづけだった。
周りのスタッフも、春来(ハルキ)にくぎづけだった。
 
「う・・・そ・・・・。」
 
私は、そういって、両手で口元を押さえた。
周りの人たちも、「うそぉー、なんでぇー。」と悲しい声をあげる。
そりゃそうだよ。
だって、あの春来(ハルキ)が・・・。
いつも、強くて悪態ついてる春来(ハルキ)が・・・泣いてる。
小さくうずくまり、頭をかかえて、その手の先にはちゃんと鶴を持ってて・・・。
そして、泣いてる。
愛しい人を想って、たまらず涙した・・・そういう状況だとすぐに感じ取れた。
彼の見せた涙は、本当に心にドキーンと来た。
切なくて、儚くて、とてもやるせない気持ち・・・。
予想外の春来(ハルキ)のハマリ具合に、カメラマンも飲み込まれて行った。
春来(ハルキ)を収めるシャッターの音が、しばらく鳴り止まなかった。
 
「いいのが、撮れました!」
 
と監督に報告したカメラマンの声で、撮影は終了を告げた。
 
「よし、春来(ハルキ)、お疲れ!!」
 
監督の言葉に、春来(ハルキ)は少し口元を緩ませて笑うと、立ち上がった。
そして、まだ瞳から溢れる涙を、指でぬぐってた。
私は、動けなかったの。
春来(ハルキ)の元に、タオルを持っていってあげたかった。
涙をぬぐってあげたかった。
でも、できなかった。
だって・・・ショックで・・・。
監督はああ言ってくれたけど、こんなに違う彼を見せてくれたのは、やっぱり私の力じゃない。
絢ちゃんの鶴のおかげ。
そして、彼が心から愛してる、誰かのおかげ。
よく考えたら、彼が女嫌いだと勝手に私たちが思っているだけで、本当の所はわからない。
っていうか、あんなにかっこよくて、素敵な人に、彼女が居ないわけないよね?
きっと、いるんだよ。
もしくは、想いをはせている人がいる。
彼は、その人の事を想って、これだけの表情ができたの。
涙だって、流せたんだと思うから・・・。
私じゃない女性に対して彼が向けた、心の叫びを突きつけられて、ショックを受けないわけがないじゃない。
私は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
一方で、春来(ハルキ)のその姿に、たくさんの女性スタッフは、骨抜きにされた。
たくさんの人が彼の元にかけよる。
 
「春来(ハルキ)くん、よかったわよぉー。」
 
「ねぇー、このタオル使って!!」
 
口々に彼女たちはそう言って、タオルやハンカチを差し出すけど、春来(ハルキ)は「いいよ。ありがとう。」と軽くあしらいつつ、私の元へとやってきた。
それでも、何も言えないで立ち尽くしている私の腕を彼は乱暴につかむと、私を屋上から連れ出した。
階段を降りて、すぐの角の隅に隠れた。
屋上からは、たくさんのスタッフが降りてくる。
 
「あれ?春来(ハルキ)くんどこにいった?」
 
「ねぇー、絶対、今日ご飯に誘おうよ!」
 
なんて言ってる集団の女性が、手分けして春来(ハルキ)を探し始めた。
 
「これだから、人気者は困るよ。」
 
なんて春来(ハルキ)は笑いながらいうけど、私がいつもの調子で彼にからまないから、彼も変に思う。
 
「お前・・・どうしたの?」
 
そう言って私の顔をのぞいてくる彼だけど、私は視線をそらした。
顔なんて、合わせられないよ。
誰かを想って泣いてる春来(ハルキ)を、どうやって見ろっていうのよ。
私だって、こんなに春来(ハルキ)が好きなのに。
失恋したなんて、そんなの・・・信じたくないよ。
そんな想いから、自然と涙ぐんでた私。
私の涙に、彼はちょっとあせる。
 
「なんで、お前が泣いてんだよ。」
 
と呆れながらも、自分の衣装で、私の涙をぬぐう。
 
「衣装が・・・汚れるでしょ。」
 
と指摘するけど、「いいよ。俺のじゃねぇーし。」とホント自己中な答え。
でも、そんな言葉も・・・今は笑えない。
 
「俺の演技が、気にくわなかったのか?」
 
私は、首を振った。
私の答えに、彼はため息を付いた。
 
「じゃー、何?
俺を避けるし、泣くし・・・。
他に、理由なんてないだろ?
何なんだよ。」
 
イライラした口調で答えた彼に・・・私は、キレちゃった。
だって、そうでしょ。
自分の愛おしい人なら、涙流しちゃうくらい、想うのに。
あんな優しい眼差しだってするのに・・・。
私には、ほんの少しのかけらだって、してくれない。
こんな辛い事って・・・ないよ。
私は、さらに涙が流れてきたけど、ぬぐわずに、そのまま彼の体を後方に押しのけた。
 
「なっ、なんだよ!」
 
と文句をいう彼をにらんで、私はいったの。
 
「嫉妬したのよ。
春来(ハルキ)に、そんなに想われている女性に・・・。
私だって、春来(ハルキ)が好きなのに、あんな眼差しも、想いすぎて涙してもらうこともないのに・・・。
そんな春来(ハルキ)を見たかったわけじゃないのに。
誰かを想う春来(ハルキ)の姿なんてみたくなかったのに、私は一体何してんだろうって・・・。
自分が情けなくて・・・。
見たこともない人に、嫉妬してる自分が惨めで・・・。
嫌になったの!!」
 
こんな事を言った私を春来(ハルキ)は、呆れるか絶対にバカにすると思った。
でも、春来(ハルキ)は軽いため息を吐くと、
 
「お前・・・バカじゃねぇーの?」
 
と言って・・・私を抱きしめた。
ビックリしたのはしたよ。
なんで、そんな事するの?って。
愛する人がいるのに、どうして?って。
でも、そんな事よりも、春来(ハルキ)に抱きしめられている喜びの方が勝った。
私は、自分から彼にしがみついた。
彼の背中に両腕を回して、ギューって彼に抱きついた。
そんな私の頭を彼は優しくなでてくれた。
 
「自分に嫉妬して泣くなんて、前代見門だな。」
 
そう言って、クククと笑う彼の言葉に私は、「えっ?」と言いながら顔を上げた。
泣き過ぎて、鼻水まで出てきそうな私は、鼻をすすりながら、彼を見つめた。
そんな私の顔に、彼は自分の額を、ゴンとくっつけた。
今までないくらい、彼との距離が縮まった。
 
「正直、未来の事どう思ってるのか、俺にもわかんねぇーんだ。
でも、あの時・・・。
撮影に入る前に、お前に言われただろ?
愛おしい人を鶴に見立ててくれって。
その時、浮かんだのは、絢ちゃんでも、昔の女でもなかった。」
 
春来(ハルキ)はそういうと、額を離し、私を見つめた。
 
「お前だったんだよ。
あの撮影での眼差しは、全てお前に向けた。
あの涙も・・・。
お前が監督と話してただろ?
すっげぇー楽しそうに話してて。
そしたら、急に胸が熱くなってさ。
お前がいなくなった時の事を考えたら・・・。
自然と涙が出てた。
フリーショットの俺は、間違いなくお前が作り出した俺だ。
未来だけを想って、俺の心のまま撮られた、今までにない俺。」
 
春来(ハルキ)はそういうと、力の抜けた彼らしい笑いをした。
 
「未来。俺をもっと、惚れさせろよ!
俺が自分で、お前が好きだと自覚するくらい、俺を未来でいっぱいにしてみろ!
じゃねぇーと、ホントに、他の女の所に俺、行っちゃうかもしんねぇーぞ!!」
 
そう言った春来(ハルキ)は、私の体から腕を離した。
 
「監督に、写真は明日見せてもらうと言っといて。
昼間、休んだ分の患者を、把握しないといけねぇーから、俺もう病院戻るわ。」
 
春来(ハルキ)はそう言ったあと、私の左頬に触れた。
 
「今日は、マジ楽しかった。
明日も、楽しみにしてる。」
 
そう言った春来(ハルキ)は、私の頬に軽いキスをした。
撮影の時に、あの鶴にしたキスのように、軽いキスを・・・。
 
「春来(ハルキ)??」
 
完全に頭が混乱してた。
あの撮影は、私を想って撮った?
でも、私を好きじゃない?
だって、もっと仕掛けてこい!って言ってたよね?
だけど・・・今キスをした??
 
「ちょっと、春来(ハルキ)!一体なんなのよぉー!!」
 
と彼の後ろ姿に向かって叫ぶけど、春来(ハルキ)は大笑いしたままスタスタと歩いて行っちゃった。
 
「ねぇー、髪は?
そのまま帰ってどうすんのよ!!」
 
って突っ込むけど、
 
「洗えば取れるってさ!」
 
なんていいながら、角を曲がって行っちゃった。
確かに、真琴さんがしてくれた春来(ハルキ)の髪を青にするマジックは、シャンプーで簡単に取れるもの。
でもね・・・。
ここに取れないマジックにハマっていた人がいたの。
それは、私。
曖昧な態度を見せた春来(ハルキ)に、完全にハマってしまった私。
でもね、私だけじゃないんだよ。
もう一人、いたんだ。
マジックにかかった人が!
ねぇー、春来(ハルキ)!
気付いてた?
春来(ハルキ)もかかってたのよ!
私を愛するというマジックにね・・・。
 
 
    ☆☆☆3章 END☆☆☆


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