最終更新日:2008/6/6



 6    5章  和解上陸
更新日時:
2007/03/14 
俺は、3階建てのマンションの階段を力なく、トントンと降りた。
そして、重いため息をついた。
俺は、そのまま、下を向いた状態で、夕崎(ユウキ)の元へと歩いた。
 
「先生は?」
 
俺は、夕崎(ユウキ)に目を合わせないまま首を振った。
夕崎(ユウキ)に説教を受けてから、俺たちはその足で、さとりのマンションに向かった。
今、夜中の2時過ぎだぞ。
なのに、さとりは、いなかった。
 
「眠ってるって事は?」
 
「インターホンも鳴らしたし、声もかけた。
それでも、さとりは出てこなかったし、扉の向こうに気配を感じなかったんだ。
明らかに、不在・・・だと思う。」
 
と答えた俺。
人の気配っていうのに、敏感な俺だけに、さとりがいない事は、ちょっと自信があった。
 
「もし、かりにそうだとしたら・・・。
こんな深夜に、一体どこにいってられてるんでしょうか?」
 
すっかり、いつものセキュリティーに戻ってる夕崎(ユウキ)を見ながら俺は、「知るか。」と逆ギレ。
キレたくもなるよ。
だって、さとりのやつ、相変わらず携帯は、呼び出しはなるけど、出ねぇーしさ。
俺を避けてるのかもしれないけど、逢ってくれてもいいだろ?
このまま、俺との事終わらすつもりかよ!!
夕崎(ユウキ)じゃねぇーが、マジで、破局寸前かも・・・。
なんて、思って、すっげぇー、落ち込んだ俺は、夕崎(ユウキ)が開けてくれている車に力なく入り込みタメ息と共に、座席にお尻をつけた。
 
「まだ、落ち込むのは早いですよ。」
 
そういって、シートベルトをつけた夕崎(ユウキ)は、近所迷惑の為、切っていたエンジンを一気につけた。
 
「今の、どういう意味だよ。」
 
どこが、早いんだよ。
完全にノックアウトじゃねぇーかよ。
と言いたかったが、そこまでいう気力もねぇーよ。
もう、正直どうにでもなれ!!って感じで、俺の心は、ヤケになってた。
そして、イライラを、側にあったクッションにぶつけた。
 
「頼みますから、破壊はやめていただけませんか?
ホント、旦那さまと違って、気性が荒いんですから。」
 
って、タメ息つくなよ、タ・メ・イ・キ!!
俺がメッチャ、ガキに思えてくんだろ!!
っていうかなー、オヤジの方がもっと気性荒いんだよ!!
知らねぇーだけだろ!と言いたいが、言っても信じてもらえないのはわかってるから。
だって、オヤジがそういう一面を見せるのは、家族とか身内だけだから。
夕崎(ユウキ)とかとも心を開いてるけど、でも全てはどうやら見せていないらしい。
だから、いつもこういう展開になったら、「うるせぇー。」とか言って、悪態ついて終わるんだけど、なんか今日はそういう気分にはならなかった。
笑って終われる事でも、今は笑えないんだよ。
そして、俺のイライラはクッションから、夕崎(ユウキ)へと向けられた。
 
「悪かったなー。オヤジと違って、出来が悪くて!」
 
嫌味タラタラ言った俺だったけど、夕崎(ユウキ)はプッと噴出す。
 
「そんな態度取られても、怒る気おきませんよ。
天(タカシ)さまのは、嫌味に聞こえませんから。
なんか、とてもかわいいですよ。」
 
とあしらわれた。
 
「ガキ扱いすんな!」
 
と言った俺に、
 
「わたくしより、年下なのですから、ガキでいてくださいよ。」
 
と笑いつきで言われたら、怒っている俺がバカみたいに思えて。
 
「おまえには、かなわねぇーな。」
 
なんていってる側から俺は、笑ってた。
いつのまにか、さとりに拒否られて、イライラしていた俺の気持ちは浄化され、すごく穏やかな気持ちになっていた。
さっきまで、握っていたクッションも、もう用なしになって、横にほおりなげた。
その音で、夕崎(ユウキ)はミラーを見て、クッションの居場所を確認した上で口を開く。
 
「気持ち、落ち着きましたか?」
 
いきなりそう言われて、「ん?」と聞いた俺に、夕崎(ユウキ)は、いきなり前方を指差した。
 
「見えますか?」
 
って、真っ暗なんだぞ。
見えるわけねぇーだろ。
 
「真っ暗。」
 
もちろん俺のテンションは下げ下げ。
面倒くさそうに、ボソっとつぶやいた。
そんな俺の答えに、「はいはい。」と笑いながらいった夕崎(ユウキ)は、ライトをオープンライトに替えた。
上向きにされた灯(アカリ)が、俺の目の前に広がる道を照らした。
いつの間にか、屋敷の門まできていた。
意外と、さとりの家から俺の家は、近かったんだと知った。
っていうか、そんな事、ノンキに思ってる場合じゃねぇーよ。
だって、俺の家の門の前に、ありえねぇーヤツが居たから。
 
「・・・何・・・してんだ?」
 
身を乗り出してフロントガラスを見入っていた俺は、そう口にしてた。
硬直している俺の顔を、見ながら夕崎(ユウキ)は、優しく笑った。
 
「わたしくが思うに、携帯に出なかったわけではなくて、出れなかったのではないですか?」
 
「出れなかった??」
 
「そうです。こんな時間まで、ここにいたという事は、天(タカシ)さまに逢いたかったという事。
なら、天(タカシ)さまの連絡を、拒否する必要はないわけです。
でも、彼女は出なかった。
となれば、理由は、『出たくても出れなかった。』となりませんか?」
 
確かに・・・。
夕崎(ユウキ)の言う通り、そういう解釈をすれば、つじつまが合うわけだけど・・・。
俺には、自信がなかった。
さとりが俺を求めてくれてるんだと・・・自信がまだ、持てなかったんだ。
恋が初めてな俺には、何もかもが不安だらけだったから。
俺は、何も言えず黙ってた。
そんな俺の方に、振り返った夕崎(ユウキ)は、固まったままの俺のオデコを、トーンと後方についた。
もちろん、俺の目は、夕崎(ユウキ)に焦点が合った。
 
「なんだよ。」
 
第一声はこれだった。
手で、デコを抑えながらいった俺に、夕崎(ユウキ)はさっきの素の笑顔を見せた。
 
「今度は間違えんなよ。
素のお前で、先生にぶつかって来い!」
 
その夕崎(ユウキ)の言葉は、俺の体を動かしてくれた。
さっきまで固まっていたのが嘘みたいに、俺の体はスッと動いた。
そして、ドアを開けて、俺は門の片隅で座り込んでいるさとりの元へと、向かったんだ。
 
 
 
私は、すごく幸せな夢を、見ていた気がする。
どんな夢を見ていたかは、全く覚えていない。
でも、凍り付いていた心が、温かくなっていっているのを感じるから。
すごく心地よい感覚になったから・・・。
私は、閉じていた瞳を、ユックリと開けた。
 
「おいっ、さとり!起きろ!さとり!!」
 
「な・・・んで?」
 
私は目の前にいる人に向かってそういった。
だってね、さっきまで何度か見ていた顔がね、夢が覚めて目を開けたのに、まだあるんだもん。
私はまだ、夢を見てるのかな?
夢のまた・・・夢??
彼に逢いたいと願い過ぎて、私は永遠に醒(サ)めない夢を見ているのかな?
でも、なんでだろう。
それでもいいと、思ってる自分がいた。
このまま、彼が側にいてくれるなら。
たとえ夢でも、たとえ一生目が醒(サ)めなくても、それでもいいって・・・。
どんな彼でも、つなぎとめていられるなら、私はそれで充分だと・・・そう思ったの。
だけど、目の前の彼は、夢じゃ・・・なかったみたい。
だって、容赦なく、私をしかりつけるんだもん!
しかも、ただ怒るじゃなくてね・・・。
 
「『なんで?』じゃねぇーだろ!
なんでは、こっちのセリフだ!
お前、こんな時間に、何やってんだよ!
なんで、家にいねぇー!!
っていうか、なんで、電話に出ねぇーんだよ!
どうして、こんな所に居る?
俺を避けてたんなら、家にいろよ!
俺を避けてないなら、電話に出ろ!!」
 
とまー・・・こんな感じで、いきなり、頭ごなしに銃撃のように、バババババーとぶっ放された梅澤くんの言葉。
寝起きの私には、もちろん、理解できず。
目をぱちくりさせて、ただ目の前の彼を、ビックリ目で見ていただけ。
こんなにたくさんの疑問をふっかけられたにもかかわらず、私は何一つ答えられなかった。
でもね、こんな彼を見ていて私、すごく嬉しくて。
叱られてるのに、すっごく怒られてるのに・・・嬉しくて嬉しくて・・・。
だって、2週間前の私たちに、タイムスリップしたみたいで、嬉しかったんだもん。
私は、嬉しさのあまり、両手で顔を覆いながら、クスと笑っちゃって。
もちろん、その笑いは、彼の怒りに拍車をかけてしまう結果となり・・・。
 
「さー、とー、りぃー!!」
 
と思いっきり念が込められた呪いの言葉として、彼の口から発せられた。
その声と言い方と、そして彼の顔が本当に恐くて、私は、「ヒャー。」と言いながら首をすくめた。
 
「『ヒャー』、じゃねぇーだろ・・・。
ホントにお前は・・・。」
 
と言いながら呆れたタメ息をついた梅澤くんは、私の左頬に自分の右手を添えてきた。
彼の温かくて大きな手の感触が、私の頬から伝わってきた。
 
「うめ・・・ざわくん?」
 
どうしてそんな態度をとったのか、彼に聞こうと彼を見ながらそう言った私。
だけど、彼は、少し悲しい顔をする。
 
「こんなに冷えて・・・お前、一体何時間いたんだ?」
 
そう言われたら、今・・・何時なの?
諸星春菜さんと話して、ショックを受けた私だったけど、自分の気持ちと向き合ったら、どうしても梅澤くんに、言いたい事があって。
それで私、すぐに学校を出てここへ来たの。
だから、夕方の6時過ぎには、ここにいたと思うけど・・・。
 
「ねぇー、今何時?」
 
そう聞いた私の目の前に、彼は自分の腕時計を出した。
それは、何十万もしそうな、ブランドの時計だった。
見るのにお金を支払わなきゃいけないと思えてしまうほどの、高価な時計で私は、パッとしか時計が見れなくて、すぐに目をそらした。
 
「ん?」
 
私の態度に、梅澤くんは少し不思議そうな顔で私を見た。
なので、私は素直に答えたの。
 
「見るだけでも、料金かかりそうだから、一瞬しか見ない。」
 
って。それには、もちろん、噴出し笑いをした梅澤くん。
 
「バカな事言ってんじゃねぇーよ。」
 
そして、私の髪を優しい手つきで、ワシャワシャと乱した。
彼の長くて男らしさを感じさせる指が、私の髪にからむ。
私の髪の1本1本が、私の脳に、彼の感触を伝えてくれた。
その感触を感じれば感じるほど、私は幸せに思うどころか、どんどん気持ちが高ぶっていった。
彼に伝えてたくて、ここまで来たんだもん。
彼への思いがあふれ出し、私は、彼の手を握ると彼に訴えた。
 
「梅澤くん!お願いがあるの。」
 
いきなり真剣な顔で言った私に、「お願い?」と険しい顔をした梅澤くん。
明らかに戸惑っていた彼の顔。
でも、私はおかまいなしで、彼に気持ちを伝えたの。
 
「私に、もう一度チャンスをくれないかな?」
 
「チャンスって・・・どういう事?」
 
梅澤くんの顔を見ると、迷惑がっているんじゃないかとか、そういう弱気の気持ちが現れてきた。
でも、私は、それを必死で、心の奥へと追いやる。
諸星春菜という恋人がいる梅澤くんにとって、私が今から言おうとしているお願いは、迷惑の何物でもない事は、言う前からわかってる。
そして、その願いは、きっと梅澤くんは、承諾してくれないだろう。
そんな事、充分すぎるくらいわかってる。
わかってるけど、私は言うんだ。
だって、そう決めて、ここまで来たんだもん。
私は、お母さんみたいに、後悔の恋愛をしたくないから。
どんな結果になっても、私は自分の気持ちに正直でいたいし、それを突き通したいと・・・そう思ったの。
そう思えた人は、今まで生きてきて梅澤くんだけだったし、私思うんだ・・・。
きっと、これからの人生の中で、そう思えるのは、彼だけなんじゃないかって。
そう・・・思えたから。
だから、私は後悔しない道を進もうと、決めたの。
私は、梅澤くんを真剣な瞳でみつめる。
 
「梅澤くんと私じゃ、つりあわないのもわかってるし、梅澤くんには諸星さんという恋人がいるのも知ってる。
彼女の方が、年齢にしても、家柄にしてもあってるのもわかってる。
でも、私も諦めたくないの。
どうしても、梅澤くんを失いたくない。」
 
そう言った私は、そのまま、ユックリと彼の肩に両腕をからませると、体を彼の方にくっつけ、抱きついた。
彼は、私を抱きしめず、両手をブランとおろしたまま私の言葉を黙って聞いていた。
 
「うっとうしいって、思われるかもしれない。
往生際(オウジョウギワ)が悪いと、言われるかもしれないけど・・・。
でも、私はどうしても、あなたが諦められないの。
本気で好きになった人だから。
初めて・・・全てがほしいって思えた人だから・・・。」
 
そして、私は彼の頬に軽いキスをする。
唇を離した私の瞳と、彼の瞳が重なる。
彼は何も言ってはくれない。
そして、抱きしめてもくれない。
呆れられてるのかもしれないけど・・・それでも、私の思いは止まらなかった。
 
「私は、お母さんみたいになりたくないから。
この人だ!って思った人を、簡単に諦めたくないの。
手放したくないの。
何でもする。
梅澤くんのいう事、何でも聞くから。
だから、お願い。
もう1度、私にチャンスを頂戴。
あなたの側に居られるなら、私なんだってするから。
諸星さんの次でも、かまわないから。」
 
こんな事を言われて、一体梅澤くんはどう返してくるのかな?って、少し思ったの。
でも、梅澤くんは、全然顔色一つ変えずに、落ち着いた表情で私をただジッと見てて。
その目に私は、たじろいてしまうくらい、彼の目はとても強かった。
何もいえず、私はたまらず下を向きかけたんだけど、私の顔は彼の右手で強引に上に上げられて・・・。
また、お互いの瞳がからみあった。
 
「なんでもするか・・・。それに、嘘はない?」
 
最後は、彼の意地悪なスマイルが付く。
そう改めて聞かれると、正直恐かった。
何を言われるかと思うと、そりゃビクビクものだった。
でも、私は自分の心に聞いてみた。
するよね?って。
もちろん、心はすぐに答えてくれた。
 
「うん。なんだってする。」
 
彼の瞳をみつめたまま、シッカリ頷いてそう答えた私に彼は、「そっか。」といったかと思ったら、私の背中に両手を回すと強く抱きしめた。
もちろん、ビックリだって!!
 
「なんで?・・・えっ??」
 
完全に混乱して、キョロキョロと頭を動かす私の姿に少し笑いながらも、梅澤くんは抱きしめている腕を緩めないまま、私に注文を出してきた。
 
「俺の願いは1つだ。さとり・・・。」
 
そう言った彼は、少し腕を緩めると私の顔を覗いてきた。
そして、私の瞳を優しい眼差しでみると、こう言ったの。
 
「俺の側にずっといろ。
俺だけを愛して、一生、俺に溺れてろ。」
 
「へっ?」
 
ってなるよね。
そんな甘い言葉もらえるなんて、思ってなかったんだもん。
驚くよ!
そして、さらに、疑う・・・。
 
「じょう・・・だん??」
 
でも、「なわけないだろ!」と笑われた。
 
「ホントに・・・ホント?側にいていいの?
愛して・・・いいの?」
 
言ってる側から、涙が溢れてきた。
嬉しい事なのに、まるで悲しくてどうしよもないくらいの涙の量が溢れてきて。
そんな私の涙は、彼の指がぬぐってくれた。
 
「いいよ。何も恐れず、俺を愛せよ。
俺が、お前を守ってやるから。
何に対しても気兼ねなく、さとりが俺を愛せるように・・・。
だから、安心して俺だけを見てろ。」
 
嬉しかった。
側に居られる事が。
梅澤くんを、愛していいことが。
でも、今の言葉が少し気になった。
 
「今の・・・どういう意味?
私を守るとか、気兼ねなく愛せるようにするとか・・・。
誰に気兼ねするの?
守るって、何から守ってくれるの?」
 
なぜか、無性にそれが気になった。
それを知る事が、梅澤くんが、諸星春菜と関係を持った事と、つながる気がしたから。
もちろん、1度聞いたくらいでは、梅澤くんは教えてくれなくて。
だけど、「ねぇー。」ともう1度聞いてみたら、彼も渋々だったけど、教えてくれた。
 
「春菜からだよ。
アイツに、俺たちの事がバレた。」
 
「やっぱり・・・。」
 
「ん?お前気付いてたのか?」
 
諸星さんに、ばれていると知って私が驚くと思っていた梅澤くんは、平然とした私の態度に、くいつきを見せた。
 
「うん。だって、彼女に言われたもん。
『今度は、身分をわきまえた恋愛をした方がいいですよ。』って。
それって、私が梅澤くんを好きだって事、バレてる発言だよね。」
 
もちろん、「そうだな。」と答えられると思ったのに、梅澤くんったら・・・。
私は、彼の顔を見て、思わず言っちゃったよ。
 
「そんなに、怒らないでよ。」
 
って。そりゃ、言っちゃうよ。
この顔を見たら。
目なんてつりあがっちゃって、眉間にはしわよってるし、ホントに・・・怖い顔なんだから。
一応、怒らないでと、言っては見たものの、やっぱり・・・意味なかったよ。
すごい剣幕で、反論されちゃった。
 
「怒らないでよ、じゃねぇーだろ。
普通、怒るだろ!!
何が、『身分をわきまえた恋愛』だ!!
あのヤロー、ふざけた事言いやがって。」
 
そして、彼はさらに、右手を握り締めて、拳を作る。
そんな彼の手に私は、そっと触れた。
 
「ん?」
 
私の態度にそう聞いてきた彼に、私は飾らない自分の気持ちを伝えた。
 
「もういいから。」
 
って。
 
「いいって・・・何が?」
 
少し首を傾けて聞いてきた彼に私は答えずに、まず彼の体にしがみつく。
私の耳が彼の胸に押し付けられた。
 
「さとり・・・何がいいんだ?」
 
ふせていない方の耳が、彼の優しくて穏やかな声を、キャッチする。
彼のこの声・・・私は、すごく好きだった。
だって、心が、ホッと息をついて、穏やかになるから。
私は、目を閉じると、ゆっくりと口を開いた。
 
「彼女への怒りや、不満はもういい。
それより今は、私と梅澤くんの未来の話がしたいの。
だから・・・。」
 
私は、そう言ったあと、顔を上げると彼を見つめていった。
 
「教えてほしいの。彼女になんて言われたの?
私とのこと、学校にバラすとか言われたんでしょ?
そうしないために、彼女が要求してきたのが、私と梅澤くんとの別れだったんじゃないの?
なのに、一緒にいて大丈夫なの?
梅澤くんに迷惑かからない?」
 
だけど、梅澤くんは、優しく微笑むと、私の頭を自分の胸にコテンと倒し、私の髪を指にからませて、遊ぶ。
その手つきがとても優しく、感じた。
と同時に、わかっちゃったんだよね。
私が考えた通り、諸星春菜に要求されていたこと。
そして、彼がそれに従ったのは、きっと私たちの関係が、一目でわかってしまう何かを握られているんだって。
そして、もう一つ。
私が心配してる通り、この恋を貫くという事は、彼に迷惑をかけることだと・・・。
彼の優しさから、それが伝わってきた。
一言も、話さない彼の顔を見上げる。
彼はただ、私を優しい眼差しで見てた。
 
「ホントに・・・大丈夫なの?」
 
そんな言葉しか言えない自分が、情けないけど・・・。
でも、やっぱり心配だから。
一緒にいたいけど、でも・・・心配。
戸惑う私の頬に彼は温かい手を添えると、私の唇に軽くふれた。
 
「気にしなくていい。
夕崎(ユウキ)がうまくやってくれるって。
アイツにまかしておけば、きっと大丈夫だから。」
 
彼はそれだけいうと、また口を閉じて私の顔を自分の胸におしつけた。
具体的に諸星春菜との事を、話してくれない彼に、私はじれったさと、戸惑いを感じ・・・なかったんだよね。
なんで?って・・・。
それは、予測はしてたから。
梅澤くんと出逢って、そんなに日は経ってないけど、何でかな?
梅澤くんの気性というか、性分っていうのかな。
なんとなくわかるんだよね。
だから、今も、言わないだろうなって、思ってた。
私を守ると言い切ったからには、具体的には言わないだろうな・・・って。
気にはなる。
諸星さんにいったい、どこまで知られたの?
本当に、大丈夫なの?って・・・。
でも、それは、言わないでおこうと思った。
梅澤くんが・・・。
大好きな人が、俺に任せろといってくれてるんだもん。
私は、それを信じる。
そして、私は、彼に言われたように、彼への愛に正直に生きる。
それが、彼がくれた私への、ラストチャンスだもんね!
そう決めた私は、彼の背中に回している腕に力をこめて、彼にぎゅーっとしがみついた。
そのしぐさに、もちろん、彼は、「さとり?」と疑問系で聞いて来る。
私は、彼の胸に顔をうずめたまま、少し明るい口調で言ったの。
 
「大好き。ずっとずっと、側にいるから。」
 
自分でも驚いてしまうくらい、私はドラマで聞くようなセリフをスラスラと吐いていた。
絶対、こんな言葉、恥ずかしくて言えないと思っていたのに。
なぜか、私はスラスラと口にしてた。
きっと、それは、私の心の声だから。
だから、恥ずかしさや、戸惑いや、抵抗がないのかもしれないね。
それくらい、私はいつのまにか、梅澤くんに溺れていたんだ・・・。
私の愛の深さは、梅澤くんに伝わってくれたみたいで、梅澤くんは、そんな私の髪にまた触れると、優しくなでた。
 
「開放してくれ。って言っても、離さねぇーからな。
覚悟しとけ!」
 
これも・・・予想通り。
ホント意地悪で、強気な言葉しかくれないんだから!
わかってはいたけど・・・でも、コレは、ちょっと、ヤダ!
意地悪で強気な彼も好きだけど、時折見せてくれる優しい彼が今はみたいから。
だから、私はねだってみた。
 
「意地悪言わないで。」
 
だけど、「別に意地悪じゃねぇーだろ。」と即答。
 
「うっ・・・まー・・・そうだけど・・・。」
 
私は、自分の心の中にある想いを、うまく言葉にできなくて。
でも、諦め切れなくて、ふてくされた口調で言った私。
私のその態度に、梅澤くんは、やっと優しい彼を出してくれて。
 
「わかった、わかった。」
 
と、口調は、とても面倒くさそうだったんだけど、言っている顔は、すごく優しい顔だった。
私は期待に胸を膨らました顔で彼を見上げると、彼は少しプッと笑って・・・。
もちろん、そのあとは、何か言ってくれるんだろうと、予測してたんだけど・・・。
 
「!!」
 
そう。ビックリマークが出ちゃうほど、ビックリした。
だって、いきなり、笑いながら私の唇に、軽いキスをしてきたんだもん。
驚くよね?
予告ナシのいきなりのキスに、私はビックリし過ぎてボーゼン!!
きょっとーん。とした顔で彼を見ていた私に、唇を離した彼はとても優しい笑顔を向けてきた。
 
「そんな顔すんなよ。」
 
そう言いながら彼は、私の顔に手で触れると、私の顎を少し上に向けた。
 
「さとり・・・愛してる。
俺も、お前だけが、ほしいよ・・・。」
 
そんな夢みたいな言葉、言われるなんて思ってもみなくて、うっとりよりも、
 
「どうしちゃったの?らしくない。」
 
と余計な言葉を言っちゃって。
それには、ガクと首を下げちゃう彼だったけど、
 
「『らしくない』とかいうなよ。
俺も、精一杯正直に気持ち伝えてるんだから。」
 
と口にして、少し照れた笑いをした。
でも、また、すぐに私の瞳を見つめる。
 
「お前には、俺が余裕の姿に見えるかもしれねぇーけど、実際の俺は全然余裕がねぇーんだよ。
だから、あまり、俺を買いかぶるな。
俺にとって、お前は初めての恋愛の相手で、初めての恋人なんだ。
戸惑う事も、間違うこともある。
現に、今日だって、夕崎(ユウキ)の助言がなければ、俺はお前からも現実からも逃げて、ここへは戻ってこなかったかもしれない。
そしたら、さとりに逢う事もなく、今の俺たちもなかった。
俺は、お前が思ってるほど、完璧な男でも、出来る男でもないんだよ。
オヤジに甘えて、夕崎(ユウキ)に導いてもらって・・・。
どうしようもない甘ったれのガキだ。」
 
そう言った彼は、私に軽いキスをしてきたあと、私をジッと見つめた。
 
「そんな俺でもいいのか?
大人の男みたいに、俺は安心を与えてやる事はできないかもしれない。
それでも、さとりは俺を愛して・・・。」
 
その先を、私は彼に言わせなかった。
だって、聞く必要なかったから。
どんな彼でも、私の気持ちは変わらない。
だって、彼女がいても、失いたくなかった人だよ。
今更、どんな人だって、関係ないに決まってるじゃない。
梅澤くんが、たとえ、甘ったれでも、関係ないよ。
私を強く抱きしめてくれるその腕があれば、それだけで私は充分だもん。
彼と触れ合っている唇に力がこもる。
だけど、その力はすぐに彼に飲み込まれた。
彼が動くとおりに、私は、彼に舌を絡まされて、唾液も交じり合わされて。
舌から感じる彼の温度に、体の奥がジワジワと熱く燃えたぎってくるような感覚になり、私は彼からのキスだけで、いっちゃいそうになる。
体の感覚がしびれて、力が入らなくなっていった。
彼に抱きかかえられて、私は何とか立っていた。
 
「天(タカシ)さま。
夏とはいえ、この時間は大変冷え込みます。
どうぞ、中へ、お入り下さい。」
 
そんな夕崎(ユウキ)さんの声に、梅澤くんは私からユックリと唇を離した。
 
「あっ・・・・。」
 
と甘い声を出した私。
離れちゃった・・・・って思いが詰まった『あっ。』だった。
それに、気付いた梅澤くんは、クスと笑うと、私の耳たぶにキスをしながら囁いた。
 
「あとで、たっぷりしてやるから。」
 
彼の言葉と彼の触れた感触で、耳が一気に沸騰しちゃうくらいの熱を持った。
そして、私の顔はゆでタコみたいにボッ!と真っ赤になる。
そんな私に、また笑いながら、彼は夕崎(ユウキ)さんを見る。
 
「そうだな。屋敷まで、乗っけていってくれ。」
 
「はい。かしこまりました。」
 
車の後部座席の扉を開けながら、そう言った夕崎(ユウキ)さんに、梅澤くんは答えずに、いきなり私をお姫さま抱っこした。
 
「ちょ・・・ちょっと、待ってぇー!!」
 
足をばたつかせて暴れる私に、
 
「落とすぞ!」
 
と乱暴に言った彼は、そのまま、私を抱いたまま、車へと乗り込んだ。
 
 
 
 
屋敷に着くと、私は梅澤くんに抱っこされたまま、彼の部屋がある階へとエレベーターで上がった。
でも、降り立った階は・・・。
私は、思わず、梅澤くんの顔を見上げた。
 
「ねぇー、ここ、3階でしょ?
梅澤くんの部屋って最上階って言ってなかった?
ここ、4階建てでしょ?」
 
すると、「んー・・・まー、そうなんだけど・・・。」と曖昧な答え。
 
「何よ!その答え方!」
 
気になる私は彼に喰ってかかるけど、「行けばわかるって。」と笑ってごまかされた。
 
「気になるぅー。今教えて!」
 
足をばたつかせてダダをこねたその時、梅澤くんは足を止めた。
私は気になって、彼から目を離し、目の前に顔を向けた。
そこには、普通の家でよくみる門とポーチがあった。
 
「何・・・これ・・・。」
 
そりゃ、いいたくもなるよ。
だって、ここ、3階だよ。
普通、1階にあるでしょ。
意味がわかんない私は、またもやボーゼン。
そんな私に、彼は軽く笑うと、側に合った装置に右手をズッポリ差し込んだ。
すると、「ピー。」という甲高い音が流れたかと思ったら、門の鍵が解除される音が静かなフロアーに響いた。
 
「今の音・・・門の鍵の音?」
 
「そう。」
 
と答えた彼は、門を開けると、中に入り、さらに持っている鍵で玄関の鍵を開けると、扉を開けて中に入った。
そこは、玄関だけど・・・玄関じゃなかった。
だって、彼、靴を脱がないままツカツカと中に入っていくから。
 
「ちょっと、靴は?」
 
「ん?あー、いいのいいの。」
 
軽くあしらうと、彼はそのまま、横にある豪華な階段をスタスタ上がると、上の階へと辿り着いた。
この屋敷・・・ホントに理解不能なんだけど。
 
「ねぇー、この迷路みたいな家・・・何?」
 
たまらずそう言った私に、彼は、「迷路か。」と言いながら笑ってさ。
こっちは、『笑い事じゃない!』って思うけど、彼の笑い声を聞いていると、今はどうでもいいかと思った。
今は、とにかく、梅澤くんとくっついて居られる場所に行きたい。
ただ、それだけだった。
彼の家の事も、彼自身の事も、ユックリでいいやと・・・今の私はそう思ったの。
彼は、私を抱いたまま、この最上階である4階のフロアーを歩くと、突然、廊下の片隅にある白くて綺麗な扉を開けた。
そして、そこに、なんと、自分の着ていた上着を乱暴に脱ぐと、ポンと置いて、扉が閉まらないようにしたの。
なぜ、扉を開けっ放しにしたのか。
すごく気になった。
でも、一番気になった・・・。
いや、『信じられなかった』のは、こんな見るからに高そうな上着をドアストッパー代わりにしてる彼の無神経さだった。
 
「どういう感覚?」
 
ボソと言った私に、「ん?何か言ったか?」と聞いてきた彼だったけど、いえば、金持ちと庶民との感覚の違いだと思ったから、私は言うのをやめた。
 
「ううん。なんでもない。」
 
そう言って、彼にしがみついてごまかした私。
 
「へんなやつ。」
 
と笑いながら彼はいうと、そのまままた足を動かし、廊下を歩いた。
そして、このフロアーの一番端っこの扉の前で止まると、ドアノブを回して、扉を開けた。
開けた瞬間、とても心がやわらぐような華の香りがした。
 
「何の香り?」
 
たまらず聞いた私に、
 
「なんだっけな・・・。ローズ・・・だったかな?」
 
といい加減な答え。
 
「ホント、梅澤くんは、『アバウト』人間なんだから。」
 
呆れた目で彼を見て言った私に、
 
「覚えるの苦手なんだよ。」
 
と返答した彼。
よくいうよ。
医者になった人が、苦手なわけないでしょ!って言いたいけど・・・。
また、言って、意地悪されちゃうのは嫌だから、私はグッと堪えた。
彼はというと、ベッドに私を降ろすと、そのまま部屋の中にあるクローゼットの前に行き、その扉を豪快に開けた。
そして、中からバスタオルを乱暴に抜き取ると、それを私の方に軽くポーンと投げた。
 
「ちゃんと、髪拭いとけ!」
 
「か・・・み?」
 
そういわれた私は自分の髪を触って・・・気付いた。
 
「あっ・・・濡れてる・・・。」
 
思わずそう言った私の声に、彼は、「はい?」と言いながら私を見て、呆れ口調で言った。
 
「お前、自分が濡れてることに気付かなかったのか?」
 
そう言われたら、彼を待ってる間、何回か雨が降ったりやんだりしてたっけ。
 
「あまり、気にならなかった。」
 
と笑う私に、「風引いたらどうすんだよ。」とタメ息交じりにいった彼は、私の元に近付いてくると、私がにぎっているタオルをうばいとり広げると、私の頭にバサと豪快にかけた。
そして、乱暴アンド雑に、ガシガシと髪を拭きだした。
 
「い・・・いたい!!」
 
乱暴すぎる彼に文句を言うものの、「黙れ。」と冷たく言い返された私は、「もうー!!」とぶーたれる。
でも、実はちょっと嬉しかったりした。
だって、大好きな彼の手を感じていられたから。
確かに乱暴だけど、でも・・・。
すごく安心する手だから、とっても・・・嬉しかった。
彼の手を堪能していた私に、急に彼が何かを思い出したのか話かけてきた。
 
「そういえば、さとり。
お前、何で電話に出なかったんだ?」
 
「電話?」
 
首をかしげた私に、彼もおかしいと思ったのかな?
動かしていた手を止めると、私の頭からタオルをはぎ、私の方にぐいと顔をのぞかせてきた。
彼の顔が私の真横に出現した。
ちょっと・・・顔が熱くなる。
だけど、そんな私におかまいなしに、彼は続ける。
 
「ああ。昼間も夕方も、それにさっきも。
何度もお前の携帯鳴らしたけど、ずっとコールしっぱなしで出ないぞ。
お前、留守電設定してねぇーのか?」
 
私は首をブンブンふる。
 
「してるよ。15秒くらいコールしたら、留守電になるようにしてるもん。
留守電にならなかった?」
 
と答えて、私はある事に気付いて彼につけたす。
 
「あっ、でも、私今音にしてるから。
だから、梅澤くんのコールがあれば、私絶対出たよ。
でもね、コールはなかったよ。」
 
「んなわけ、ねぇーだろ!
俺、鳴らしたもん。」
 
「でも、鳴らなかったもん。」
 
その言い合いは何回か続いて最後には、「うぅー。」と二人でにらめっこして、うなりあい。
それも少しの間続いたけど、「ならさ・・・。」と先に口を開いたのは梅澤くん。
軽く私を指さすと、こう命令した。
 
「携帯見てみろよ!」
 
そしてそのあと、冷たく添える。
 
「不在着信って、表示になってたら、おしおきだからな。」
 
って、その声のトーン・・・マジで恐いんですけどっ!!
たまらず、ブルっと身震いした私は、「びびらさないでよ。」と文句を言いつつ、手に握っていたカバンを開ける。
 
「えぇーっと、携帯どこにやったっけ・・・。」
 
だけど・・・。
 
「あ・・・れ?ない。」
 
今度は、スカートのポケットを見る。
だけど、携帯は・・・なかった。
 
「お探しものは、これですか?」
 
その声は、さっき私たちが入ってきた扉からだった。
私も、梅澤くんも、まるでその声に引き寄せられるかのように、グルンと頭をそちらに向けた。
私たちの方を向いて立っていた夕崎(ユウキ)さんの手のひらに置かれていた物体を見て、私はたまらず指をさして叫んだ。
 
「あー!!私の携帯!!」
 
って。そして、その続きは、梅澤くんが言ってくれる。
 
「おい、なんで、夕崎(ユウキ)が持ってんだよ!」
 
すると、彼は私たちの方へ近付きながら、口を開く。
 
「落ちてたんですよ。」
 
「落ちてたって・・・どこだ?車か?」
 
だけど、夕崎(ユウキ)さんは優しく笑うと、信じられない場所を言った。
 
「いいえ。水たまりにです。」
 
って。
 
「みず・・・たまりぃ??」
 
私と梅澤くんの声が重なった。
ビックリして何も言えない私の代わりに、彼が夕崎(ユウキ)さんに詳しく聞いてくれる。
 
「水たまりって、つまり・・・水没って事か?」
 
「そのようですね。」
 
って、そんなに簡単に言わないでよ。
 
「うそでしょー!!信じらんない!!
いつの間に落ちたのよぉー!!」
 
大興奮アーンド大絶叫の私の目の前に、夕崎(ユウキ)さんは携帯を持ってくると、さらに私の手のひらに置いた。
 
「門の前に座り込んだ時、携帯を地面に置かれたでしょ?
その後に、雨が降り、水たまりが出来た。
携帯の存在を忘れるくらい、何かにうちひしがれて、あの場にいたのですね。
ご愁傷様というべきか・・・。」
 
夕崎(ユウキ)さんの言葉を聞きながら私は、差し出された携帯を受け取ると電源を入れてみる。
でも、うんともすんとも動かない。
 
「嘘でしょー。どうすんのよぉー!!」
 
と泣く私の髪に、梅澤くんの手が優しく触れた。
 
「心配するな。新しいのを買ってやる。」
 
そして、今度は夕崎(ユウキ)さんを見た。
 
「夕崎(ユウキ)、お前の事だ。
すでにもう、手配済みなんだろ?」
 
すると、夕崎(ユウキ)さんはニッコリと笑うと、手荷物からある紙を取り出すと、私の前に置いた。
 
「先ほど、届きました。
これが、機種変更の用紙です。
必要事項を明記していただけますか?
手続きは、7時以降でないと出来ないという事でしたので、手続きは後ほどしておきます。
とりあえず、こちらの用紙だけでも書いておいていただけますか?」
 
そして、ボールペンを私に差し出してきた。
それを、素直に受け取った私は、夕崎(ユウキ)さんをポッケーと見た。
 
「ホント、素早いですね。」
 
それに対して、夕崎(ユウキ)さんは、「ありがとうございます。」とだけ言って頭を下げた。
 
「ほら、さっさと書けよ。」
 
梅澤くんにせかされながら私は記入をして、それを夕崎(ユウキ)さんに渡した。
 
「新しいものが出来次第、お届けに参りますので。
それと、天(タカシ)さま。
上着はお預かりして、クリーニングに出しておきます。
何かございましたら、携帯にご連絡下さい。」
 
そういうと、夕崎(ユウキ)さんは早々に部屋を出て行った。
 
「ねぇー。」
 
さっきの内容で気になった私は、早速彼に聞いてみたんだ。
 
「さっき、ドアストッパー代わりにしてた上着って、クリーニングに出すためにあそこに投げ捨ててたの?」
 
真剣に聞いたのに、「なわけ、ねぇーだろ。」と笑われて。
 
「じゃ、どうして・・・。」
 
と言いかけた私は、慌てて叫ぶ。
 
「ちょっ!なんで、脱ぐのよ!!」
 
そう叫びながら、私は手に持っていたタオルを、彼に向かって投げた。
だって、彼ったら、なぜか上半身裸なんだもん!
別にそんなに暑いわけでもないのに・・・なんで?
っていうか、そんな色っぽい体を今、見せないでくれる?
この部屋の甘い香りだけでも、気持ちよくて、正直変な気持ちになってるっていうのに、それでいて、その体はないでしょ。
顔は真っ赤になるし、心臓はバクバクいうし・・・。
もう、私の頭の中は、携帯が壊れちゃった事も、諸星春菜にバレちゃった事も、ぶっ飛んでた。
もう・・・目の前にいる梅澤くんの事しか、考えられなくなっていた。
彼の背中にぶつかって、床に叩き落されたタオルを、彼は体をかがめて取ると、それを、側にあるソファーに乱暴に投げ捨てた。
そして、私の方に、体ごと向く。
 
「決まってんだろ?
さとりと、交じり合いたいから。
とっとと、やりたいからに決まってんじゃん。」
 
って・・・そんなストレートに言わないでよ。
 
「そんな事・・・言わないでよ。」
 
だって、私は初めてなんだから。
興味はあるけど。
したいって思うけど・・・恐いんだから。
変な知識を入れ込まれているせいで、恐くて恐くてしかたないの。
現に今だって・・・。
私は、両手をシッカリと握り合って、自分に言い聞かせる。
落ち着け落ち着けって・・・。
そう。さっきから、手の震えがおさまらないの。
梅澤くんにバレないように、両手を後ろに隠してるけど・・・恐い。
思わず下を向いた私の目の前に、彼はベッドをよじ登ってくると座った。
そして、私の顔を右手で強引に上げる。
 
「なーに、ビビッてんだよ。」
 
そう言って笑う彼に、もちろん、反論しちゃう。
 
「ビビるよ!だって、初めてなんだから。」
 
だけど、彼は、「バーカ。」と言って私のオデコを軽く叩く。
 
「何よ!」
 
とすねる私に、彼は優しく微笑む。
 
「何回も言ってんだろが。
俺もそうだって。」
 
確かにそうだけど・・・どうみても、そうには見えないもん。
 
「梅澤くんは余裕じゃない。
キスも余裕で、うまいし・・・。」
 
すると、彼はフッと声を出して笑うと、「俺、キスうまい?」となんか、嬉しそう。
 
「いや・・・そういう意味じゃなくて・・・。」
 
「じゃ、下手?」
 
「下手じゃないけど・・・って、もう、そういう意味じゃないって言ってるでしょ!!」
 
たまらず大声を上げる私の姿に、彼は「アハハ。」と大笑い。
どうして、こういう状況で、こんなに笑えるかなー。
 
「だから、その姿が余裕って言ってんの。」
 
タメ息まじりでそう言った私に、彼はユックリと笑いを止めながら口を開く。
 
「俺だって余裕ねぇーよ。
けど、なんか、不安っていうより、楽しいんだよ。」
 
「何よ・・・楽しいって。」
 
「だって、俺、こんなに女に興味持った事初めてなんだよ。
で、その女とセックスできるってさ・・・。
すっげぇー、楽しみなんだ。」
 
って目を輝かされて言われたら、びびってるこっちがなんかバカみたいに思えてきた。
ハァーとタメ息をついた私は、今度は彼の頬に私から触れる。
 
「参った、梅澤くんには。」
 
そう言った私に彼は、「そう?」と軽く言うと、チュと優しいキスをする。
そして、そのまま唇を耳の方にずらすと、耳元で囁く。
 
「痛いのも、辛いのも、人生の中で、一度だけなんだ。
今日の感触は、どれだけ長生きしても二度と味わえない。
そう思ったら・・・ほら。
すっげぇー、嬉しく思わないか?
恐いなんて、どこかにいくだろ?」
 
そう言われたら、思わず「プッ。」と噴出しちゃった私。
 
「ねぇー、梅澤くんって、ホントに初めてなの?」
 
「ん?」
 
「だって、女心理解しすぎなんだもん!
そんな事言われたら、恐いのなんてどこかに消えちゃうよ。
恐怖よりも、ほしくてたまらなくなっちゃうじゃない。」
 
なんて言ってる側から、自分からキスしちゃってるし。
それに対して彼は何も答えなかった。
ただ、私が触れた唇に、さらに熱いキスをしてくれただけ。
そして、ユックリと唇を離した彼との目が重なって・・・・。
その甘い瞳を見たらわかった。
梅澤くんも、私をほしがってくれてるって。
だから、もう、恐怖も戸惑いもなかった。
梅澤くんと一つになりたい。
私の想いもただ、それだけだった。
 
「あまり・・・見ないで・・・。」
 
そう囁いた私に、「なら、灯(アカリ)消すか?」と即答してきた彼に、私はただ、うなずいた。
だって、すでにもう思考回路が停止寸前。
えっ?なんで?って。
だって、話ながら、梅澤くんったら、私をベッドに倒して、さらに服をはだけさせて、首や胸にキスの嵐を始めちゃって。
血が逆流してるみたいに物凄く体が熱いし、心臓はバックバクで、失神しそうなんだもん。
恥ずかしさのあまり、側にあったクッションを顔に当てて、耐えてた私に、梅澤くんは容赦なく私の顔からクッションを剥ぎ取った。
 
「やーだー・・・。」
 
と叫んで、今度は手で顔を隠すけど、その手も彼の力強い手で握られ自由を失う。
 
「隠すな。お前の感じてる顔も見てぇーんだから。」
 
って言いながらキスを顔中にしてくるけど、私は首をふる。
 
「恥ずかしくて死にそう。」
 
そう言った私に、「こんなんで恥ずかしがるなよ。」と鼻で笑った彼は、私の手を左手でつかみかえると、右手をとんでもない所に突っ込んできた。
もちろん、私の腰は、敏感に、そして正直にビクンと上に上がる。
そして、戸惑う事無く、2本の長い指を私の中に入れてくる彼に私は思いっきり抵抗する。
 
「ちょ・・・・待って・・・待ってよぉー!!」
 
半分涙目で叫ぶけど、彼は私の涙を唇でペロっとなめながら、
 
「待つわけねぇーだろ。」
 
なんて言って、手を止めてくれない。
ユックリと優しく動く彼の指が、初めは気持ち悪いのと恥ずかしいのと痛いのとで、どうしようもなかった。
ホント正直、「梅澤くんのバカ。」と心の中で、叫んでたんだけど。
でも、なぜか時間が経つにつれて、梅澤くんの行為が気持ちよくなってる自分がいた。
 
「ふっ・・・んっ・・・。」
 
そんな鼻にかかったような声が、自然と出てた。
意識して出るような声じゃない。
こんな声出るなんて・・・自分でもビックリしちゃったくらいなんだから。
でも、声を出さないようにしようとしても、無理。
自然と出ちゃう声なの。
何度かそんな声を出した時、梅澤くんはまた私の元に顔を戻してくると、私の口を開ける。
そして、自分も口を開けた状態で私にキスをし、お互いの舌を奥の奥までからませて、溶け合うようなキスをする。
交じり合った口から、熱くて激しい吐息が飛び交う。
それでも、やめることが出来なくて、お互い譲る事無く、何かの引力に操られるかのように、お互いの唇はいつまでも深く絡み合った。
そのキスに、私は気を取られすぎで、彼がしようとしていた本当の目的を逃してたの。
彼の本当の目的に気付いたのは、キスでいっちゃいそうになって、頭の芯が痺れを起こした時だった。
私の中に居た彼の指が、するっと抜ける。
少し涼しい空気が入ってきているような感覚になったその入り口に、今度は別のものが触れた。
指とは違う硬さ。
それが、入り口の唇を強くなぞった。
その感触と肌触りは、今まで体験した事のない物体だった。
私のしびれていた頭の神経が、一気に正気を取り戻した。
唇を強引に離した私は彼をみつめ、もちろん、叫ぶ。
 
「無理!」
 
って。その答えに、梅澤くんは半ば呆れながら、
 
「何が無理なんだよ。」
 
と言ってるし。
そんなのわかってるでしょ。
指でもいっぱいいっぱいだったのに、今触れているのは、彼の体のホンの一部だけど、すでに、指と比べ物にならないくらいの大きさなんだよ。
無理に決まってるでしょ。
といいたいけど、さすがにそこまでは言えなくて、私はただ首をブンブンとふった。
止まっていた涙がまた流れ出す。
そんな私の姿に、梅澤くんは、「ホントお前って、年上に見えねぇーなー。」と笑いながらいうと、また唇で私の涙をぬぐってくれる。
 
「だってぇ・・・。」
 
とホント情けない声を出して、彼に訴える私に、「わかったわかった。」と言った彼は、私の唇に優しいキスをユックリとすると、突然私の腰に両手を添える。
そして、私の腰を少し浮かして、傾斜させた。
戸惑う私に、
 
「さとりは、ただ力を抜いてろ。
俺がお前の体に振動を与えて、その勢いに乗って、うまく入れてやるから。
だから、お前は、ただ力を抜いて、俺を感じてればいい。」
 
そう言って優しく笑った彼は、信じられないくらいの優しいキスをくれた。
私の心が、熱く沸騰しそうになる。
彼が愛おしくてたまらなくなった。
 
「梅澤・・・くん。」
 
うっとりした目で彼の名前を呼ぶ。
私の中で、こういう展開の次は、眼差しに負けないくらいの甘い甘いキスがもらえるって思ったんだけど・・・。
忘れてたよ。
梅澤くんは、小悪魔だって事を。
だって、彼ったら、私の頬に軽いキスをすると、とても意地悪な笑いを浮かべて、ボソってこういうのよ。
 
「リキんだら、痛いからな。」
 
って・・・・。
さっきまで、私を助けてくれようとしてたんじゃないの?
こんな事言われたら、反対にリキんでしまうよ!
どうしてくれんのよー!!
って事で、もちろん彼の腕を右手でバシバシ叩いて、文句を言う。
 
「もぉー!梅澤くんの意地悪!
優しいのか、脅すかどっちかにしてよ!!」
 
泣きが入った叫びをした私に、彼は顔を横に向けて、おかしそうに笑う。
 
「何言ってんだよ。
俺って、すっげぇー優しいだろ!」
 
そう自信満々に言われたら・・・否定できない。
それに、今変に機嫌をそこねて、ハードにされると恐いなー。ともチラっと思った私は、今は波風は立てないでおこうと思ったの。
「うっ・・・。」とうなりながら、必死で耐えた私。
その姿を見て、彼は「フッ。」と声を出して笑うと、突然私の頬に顔をすり寄せてきた。
 
「な・・・なに?」
 
驚いた私は、顔を少しずらして、くっついていた彼を見た。
彼との瞳が、ものすごく近い位置で交じり合う。
私を見つめる彼の瞳は、真っ直ぐで本当に吸い込まれそうなくらい魅力的で美しかった。
 
「どうしたの?そんな瞳でみつめられたら、恥ずかしいよ・・・。」
 
本気で照れちゃった私は、たまらず彼の瞳から目をそらしてしまいそうになった。
でも、私の目が数ミリ彼から離れた時、その瞳を引き戻すかのように彼は、ある言葉を言った。
 
「さとり、愛してる。」
 
「えっ?」
 
私の瞳は、物凄い速さで彼の瞳へと舞い戻る。
いきなりそんな事言われて、嬉しいよりも、ビックリ。
聞き間違い?と思いながら彼を見つめて・・・そうじゃないと理解する。
だって、私を見つめている彼の瞳が、訴えてるから。
『愛してるよ。』って・・・。
彼がさっき、甘い声で囁いてくれたみたいな声が、その瞳から飛び出してきているみたいだった。
私は自然と、彼の顔に手を伸ばす。
そして、彼の顔を私の唇に近づけさせる。
あとホンのちょっとで唇が重なるっていうくらいの距離になった時、まるで磁石のプラスとマイナスが、互いに求め合って、どっちからともなくピタとくっつきあうように、私たちも吸い付いた。
どっちから、くっついたのか、わからない。
でも、気持ちは一緒。
お互いが、求め合って、口づけをした。
やがて、そのキスはまた、同じ作用をほどこす。
徐々に、さっきみたいに、頭の芯が熱くなりだした。
私の気持ちが、キスに集中した頃、私の浮いている腰が、一回上下に揺れた。
その時、一緒にグイと何かが押し付けられた。
 
「んんっ!!」
 
舌を絡ませたままで、そう声を出した私。
たまらず、体に力を入れちゃったけど、彼に言われた言葉を思い出して、必死で体の力を抜いた。
体がリラックスした頃、また同じ衝動が来る。
そして、私は力を入れちゃって、また緩めて・・・そして、また衝動が来る。
それを、4回くらい繰り返した時、絡めていた舌を彼が離した。
キスのせいで息が上がっている私の髪を、優しくかきあげて、オデコに軽くキスをした彼は私をすごく優しい瞳で見つめる。
 
「何が無理だよ。
意外と、すんなり入ったじゃんか。」
 
「・・・えっ・・・・。」
 
途切れる呼吸をしながらいった私に、彼はまたキスの嵐をしてくる。
 
「さとりの中・・・。
すっげぇー、あったかい。」
 
「ちょ・・・やめてよ。
そういう事言うの・・・。
リアル過ぎて、恥ずかしいよ・・・。」
 
ホント、なんて事言い出すのよ!
っていうか、ホントにコレが童貞の男の言う言葉?
いや・・・言葉じゃなくて・・・。
そう、梅澤くんの“態度”そのものが、変だよね?
なんで、こんなに余裕なの?
なんで、こんなにセックスが楽しめてるの?
私は、こんなにもいっぱいいっぱいなのに・・・。
だから・・・余裕がない私だから、優しくしてほしいの。
いっぱいいっぱい優しい言葉をかけてほしい。
とろけちゃうようなキスをしてほしい。
愛してると、いっぱい囁いてほしいの。
そうやって、“初めての情事”に緊張して、ガチガチの私を潤してほしいの。
溶かしてほしいの。
でも、無理だよね・・・。
そういう普通の感情というか、普通の童貞の男の人がやるような事を、目の前の余裕の彼に求めてもしかないと・・・思った。
だってさー、彼余裕のあまりと言うか、この状況を楽しんでるあまり、豹変しちゃったんだもん。
ほら、見てよ!
さっきは、なかったけど、とうとう出ちゃったよ!
彼のお尻から悪魔のしっぽが、ニョキニョキニョキって・・・。
見たくないけど・・・見えちゃった。
そして、やっぱり、彼は意地悪を開始しちゃう。
何をしたかというと、意地悪な言葉をかけた。
じゃなくて・・・動き出した。
触っていた私の腰をベッドに戻すと、自分の腰をグイと上に動かした。
もちろん、私の体も彼の動きにひっぱられる。
 
「いっ・・・いたぁーい!!」
 
大声で叫んだ私に、彼は、腹立つくらい大笑い。
ホントに、意地悪なんだから。
嬉しかったよ。
彼が動いたら、私も動くって、交じり合ってる証拠なんだから。
でも、コレはないでしょ。
 
「ひどい・・・。」
 
と苦しみながらいった私に、
 
「初めは痛いもんなんだよ。
言っただろ?
その痛みも、初めだけだって。
この瞬間しか感じなくて、俺しか、その痛みを与えてやれない言えば、貴重な痛みなんだよ。
だから、惜(オ)しみながらその痛みに耐えてろよ。
ちょっとくらい、耐えられるだろ?」
 
って、そんな冷たく言わなくてもいいでしょ。
だいたいねー、自分は痛くないから、そんな事いえるのよ。
この痛みが惜しいなんて、思うわけないでしょ!
ホント、意地悪っていうか、正論派なんだから。
そこが、好きなんだけど、この時くらいは、もうちょっと不正論じゃないけど、横道それた回答をくれてもいいのに!って思う。
そういう思い、黙ってたほうがいいのかもしれないけど、なぜか、梅澤くんが意地悪な小悪魔モードになっちゃうと、私もつられて、言いたい放題の悪女モードになっちゃうんだよねぇー!!
ってことで、スイッチオン!!
 
「ちょっとじゃないもん。
っていうか、痛みよりも、まず動かないでよ!
今、梅澤くんが私の中に、入ってる事自体が、すでに信じられないんだから!
もう、いっぱいいっぱいで、溢れそうなんだよ。
こんなんで、動けるわけないじゃない。
今でも、キチキチで、痛いんだから。
お願い。絶対に動かないで!!」
 
そうなんだよね。
入れられる時は、キスごまかし作戦で、そんなに痛みとかもなかったし、たぶん梅澤くんが腰を使ったうまい入れ方をしてくれたから、大丈夫だったと思うんだけど。
でも、こうして入ってしまうと・・・実感する。
痛さをね・・・。
彼の入っている場所から、ミシミシって音が出そうなくらい、ホントにキッチキチなんだよ。
こんなの動かしたら、私絶対に痛さの余り死んじゃうって!
でも、彼は平然としていう。
 
「動かさなきゃ、気持ちよくなんねぇーだろ。」
 
しかも・・・笑いながら。
 
「お願い・・・笑わないで・・・。」
 
顔をしかめて必死で懇願する私。
彼が笑って、小刻みに来る振動も今はキツイんだから。
本気で痛がる私の顔に、彼もちょっとは深刻に考えてくれたみたいで。
優しい手つきで私の顔に触れる。
 
「そんなに痛いの?」
 
頷く私に彼は、「なら、待つよ。」とつぶやくと、私の顔にまたキスをする。
 
「待つって・・・コレ、治るの?」
 
思わず聞いちゃった私に、「ああ。」と言った彼は、またちょっと意地悪な笑いをする。
 
「人間って、この世に生きてる生物の中で、一番順応性があるって、知ってる?」
 
首を振る私に彼は続ける。
 
「だから、セックスも一緒。
時期に、さとりの中は、俺の“物”に“慣れる”よ。
ちゃんと、浸透していくから。
もう少し、こうしてよう。」
 
彼の言葉に、たまらず私は、投げ出されていたクッションを顔に押し付けた。
私のしぐさに、「なんだよ。」と言った彼に私は、クッションで顔を覆ったまま言ったの。
 
「なんか、すっごくやらしい・・・。」
 
それに対して彼はというと・・・。
 
「当たり前だろ。
やらしいことしてんだから。」
 
とあっけらかんと言われた。
 
「そりゃ、そうだけど・・・。」
 
と言いながらも、私は彼がくれるキスを素直にもらって、彼の言う言葉を信じて、私は“浸透”を待った。
だけど、彼が動かさなくても、私が動かなくても、痛みは襲ってくる。
それは、私の中に彼がいるだけで、私自身が敏感になってるから。
中が、ビクンビクンとまるで心臓があるみたいに、動いている・・・感じがする。
そして、私がそういった振動を彼に与えちゃうから、彼の体も私の中で大きさを変えたりする。
そのせいで、私はまたさらなる痛みを与えられる。
正直、『待った!抜いて!!』と叫びたかった。
いや・・・心の中で何回叫んだ事か。
でも、それは言えない・・・言いたくないの。
だって、大好きな梅澤くんの体を、私の中から抜くのは嫌だから。
出来るだけいてほしいと思うから・・・。
だから、私は必死で耐えたの。
両手で、シーツを強く握り締めて、必死で・・・。
目をつぶってしかめっ面の私の頬に、優しくて温かいものが触れた。
その温度は、私の痛みを少しやわらげてくれた。
目が開けられる余裕が出来た。
瞳を開けた私のすぐ側に、彼の顔があった。
 
「大丈夫か?」
 
さっきの意地悪の彼の顔じゃなかった。
すごく心配そうに私を見つめてる彼に、私は自然と強がってた。
 
「うん・・・大丈・・・。」
 
途中で言葉を切って、痛みに耐える私に彼は優しく私を抱きしめてくれた。
 
「なー・・・さとり。」
 
耳元でそう囁いた彼の声が、すごく元気のないような気がして、私の心はドキと飛び跳ねた。
嫌な予感が・・・した。
何も答えず、彼を見た私に彼は、私を見ずにそのまま小声でいう。
 
「人との関わりに相性があるように、セックスにも相性ってあるんだよ。
もしかしたら、俺とさとりの相性は悪いのかもしれない。
だから・・・。」
 
「イヤ!!」
 
彼の言葉を最後まで聞けなかった。
知らない間に、そう・・・叫んでた。
そして、私は彼の顔に自分の顔をくっつける。
 
「そんな事・・・言わないでよ。
この人だって、思えたの。
本当に本当に梅澤くんが好きなの。
だから、梅澤くんが言った『気持ちがいいセックス』を、梅澤くんとしたいの。
人間は順応性があるんでしょ。
私だって人間だもん。浸透してくれる・・・。」
 
必死でそう言ってる自分が、むなしくなってきた。
たまらず、涙ぐんだ私に彼は、いつになく優しい声で聞いて来る。
 
「どうした、さとり?」
 
一度目では何も言えなくてただ黙って泣いていた私だったけど、もう一度彼が「どうした?」と言ってくれた時、私は自分の想いを彼に言ったの。
 
「ごめんね。」
 
って。そう言ってまた泣いてる私の髪を、彼はなでる。
 
「何に謝ってる?」
 
彼のその優しい声と言葉に、私はたまらず自分から彼に抱きついた。
体を動かしたから、もちろん激痛が走ったけど、それでも、彼の胸に顔をくっつけたかった。
 
「私、梅澤くんを困らせてばっかり。
抱いてって言ったり、痛がったり。
なのに、また抱いてって言って、梅澤くんに無理ばっかり言ってる。
私が、我慢すれば済む事なのに・・・。
なんで、こんなに弱いのかな。
なんで、こんなにガキなんだろう・・・。」
 
「何言ってんだよ。
俺は、困らされてるなんて思ってねぇーよ。」
 
そう言った彼は、私を抱きしめたまま口を開く。
 
「反対にさとりに悪いなーって思ってる。
俺がもっと経験豊富だったら、今のさとりを助けてやる事もできたのにって。
自分がもどかしくてたまらない。
ただ、お前をこうやって抱きしめて、お前の痛みが治まるのを待つしかない。
本当は、一旦抜いた方がいいのかもしれないけど、俺もお前と同じ気持ちだから。
さとりの中から出たくない・・・。
俺の方こそ、わがままだな。」
 
そう言って苦笑いした彼の顔は、等身大に見えた。
かっこいいというより、かわいかった。
私は彼の胸にさらに、ぎゅーっと顔をおしつけた。
 
「さとり?」
 
私の行動に、疑問を感じた彼は私を不思議な瞳で見ていたみたいだけど、私はおかまいなく彼にしがみつく手を緩めなかった。
実は、さっきから気になっていたんだけど・・・。
彼にしがみついてから、痛みがやわらいできたの。
彼のぬくもりを感じ、鼓動を聞いていると安心したのか、痛みがユックリと消えてきてた。
 
「もしかして、浸透が始まったか?」
 
半分笑いながら言った彼に、
 
「それもあるけど、梅澤くんが癒してくれたからだよ。」
 
「癒し?俺が?」
 
首を傾げた彼に、私は笑う。
そう。笑えるまで余裕が出てきたの。
 
「梅澤くんの体にくっついたら、安心して体の力が抜けたというか、気持ちも和んで。」
 
私はそう言ったあと、彼の胸から顔を離すと彼をみつめる。
何か言いたそうな私の目に、「ん?」と聞いた彼に私は、恥ずかしがりながら頑張っていったの。
 
「して・・・みて。」
 
すっごい勇気出して言ったのに、彼は「は?」とかいうのよ。
ホントに・・・バカ!
 
「わかってよ!!」
 
と怒り出す私に、
 
「怒るなよ。一体なんなんだ。」
 
とブツブツ言いながらちょっと考えた彼は、急にハッとした顔をして私を見た。
 
「してって・・・お前、動かして平気なのか?」
 
やっとわかったか。
なんて思いながら、私は軽く首を振る。
 
「平気かわかんない。
でも、さっきみたいな痛みはないから。
ユックリ・・・してみてよ。」
 
彼の言う通り、浸透が成功したのか、それとも、ただの一時的なもので、動かしたらまた痛むのかもしれない。
でも、じっとしてたくなかったの。
彼の体の強さも熱さも、感じたかった。
でも、何より、彼自身の激しさも・・・感じたかったから。
必死で訴える私に彼は、優しい言葉をなげる・・・わけがない。
またしても、悪魔化・・・。
ニヒルな笑いをすると、私の腰に手を移動させて、唇は私の唇に触れる。
 
「俺がユックリなんてすると思う?
だんだん暴れるからな。
頑張って耐えろよ。」
 
そう言ってネットリとした優しいキスをする。
私は首を振って彼の唇から逃れた。
キスが嫌なわけじゃなくて。
1言言っておきたかったから。
ほら、小悪魔化した彼には、悪女化の私で答えなきゃ、何かを忘れたみたいで、気持ち悪いから。
というわけで、悪女化した私は・・・何を言ったかって?
私は彼にこう言ったの。
 
「その代わり、約束して。
“気持ちよく”させてくれるって。
痛みの先には、快感があるって・・・。
約束してくれる?」
 
そう言った私に、彼はニッコリ笑うと、私の唇のすぐ前で唇を止めると、息を吹きかけながら言った。
 
「そんな約束たやすいな。
っていうか、俺が、快感どまりで満足させたと思うと思うか?
快感を飛び越えて、“快楽”を味わわせてやるよ。」
 
その笑いにその強気な発言。
私はたまらず言っちゃった。
 
「童貞がよく言うよ。」
 
って。すると、彼は笑いながらこう言った。
 
「確かに経験はない。
けど、知識は、その辺のやりまくってるガキよりあるから安心しろ。」
 
その言葉の意味が・・・気になる。
 
「ねぇー、どういう意味?
経験はないけど、知識って。
それは、医者として。
それとも、別で?
何か意味あるなら、教えて・・・っ!」
 
私は強引に言葉を止められた。
私の口に彼の指が押し当てられた。
シーのポーズ。
つい黙ってしまう私に彼は優しく笑う。
 
「お前は、ただ、俺を感じてたらいいんだよ。
さっさと、俺に抱かれろ。」
 
そして、指を離し、今度は彼の唇が私の口をふさぐ。
熱くて、気持ちよくて、心が大波のように揺れる。
でも、その揺れが、たまらなくくせになる。
そして、もう一箇所気持ちよくなったのは、下の口だった。
ユックリと動き出した彼の体。
すぐに濡れた私の中で、少しみだらに動き出した彼の体のせいで、やらしい音が当たりに響き渡る。
そのBGMが私の気持ちを高めてくれる。
 
「もっと、強く動いて・・・。」
 
気持ちにせかされた私は、たまらず自分から催促してしまって。
その言葉に彼は、少しうれしそうに笑う。
 
「さとり・・・。」
 
そう言ったかと思ったら、私の目に視線を合わせて彼が私を見つめた。
甘いあえぎ声を上げながら、ただ彼を見る私に彼は飛びっきりのキスをする。
 
「お前を抱けて、俺は幸せだよ・・・。」
 
自然と私・・・笑ってた。
彼が突き上げてくる衝動にも、襲ってきた激痛にも、涙を流しながらも耐えた。
もう、彼にやめても、弱い声をあげなかった。
だって、痛みが気持ちよく思えたから。
彼が与えてくる痛みを感じながら私思ったの。
彼が言ったように、この痛みは、今しか味わえない。
彼が、惜しむって言った理由・・・今ならわかったよ。
愛する人に抱かれている証である痛み。
大切にとっておきたい、何よりのもの。
でも、とっておいておけない唯一のもの。
だから、今、体いっぱいで堪能するんだね。
この痛みを一生忘れないように。
心から愛した人に、生涯のうちで、1度しか味わえない痛みを与えてもらえた喜びを心に刻むために・・・。
私は、体と心で感じてたの。
梅澤くんと一つになれたって。
もう、私たちは離れることはないんだって。
そう・・・本気で思ってた。
私も梅澤くんも、全く気付いていなかった・・・。
掛け違えたボタンの存在に・・・。
狂いだした私たちの運命に・・・気付かずに、ただ幸せに溺れてたの。
 


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