2008/4/14


10     9章  DECISION〜決断〜 
更新日時:
H18年2月9日(木)
俺は、ベッドに横付けされている壁に、背中をもたれさせた。
俺の膝には、横たわる翠の姿。
俺の手を握り、スヤスヤと寝息をたてて眠る彼女を見ていると、自然と顔が緩んだ。
 
「ここは、敵地なんだぞ!
そんな穏やかな顔、すんなよ!」
 
その声に、俺は翠から目を離し、入り口に向ける。
そこには、なぜか怒っているある男の姿が。
 
「サンガ・・・お前、何怒ってんの?」
 
と普通に聞く俺に、「何じゃねぇーだろ!」とサンガは声を上げるが、翠が「う〜ん。」と言って顔をしかめたので、口を両手でふさいで、その場で固まる。
そのしぐさが、まるで、鬼ごっこをしている子供みたいで、思わず「プッ!」と噴出してしまう俺。
 
「蒼輝・・・お前なぁ〜。」
 
とさらに、怒り出すサンガに、「静かにしないなら、あっちいけっ!」と笑いながらいう。
それには、「わかってるよ。」とブツブツいいながら、サンガはベッドのすぐ側にくると、床に腰をおろした。
そのサンガの様子をみて、俺はちょっと・・・おもしろくない。
たまらず、自分から催促してしまう。
 
「おいっ、サンガ。
お前さ〜、俺がここにいて、驚かないのかよ!」
 
だってそうだろ?
俺は、窓から侵入したんだからさ。
もっと、「あれっ?」とか、「なんで、お前がっ!」って・・・言うだろ普通。
っていうか・・・俺は、サンガが驚く様を、すっげぇー期待してたんだよ!
だけど、そう言われた本人は・・・。
 
「はぁ?」
 
とバカ面で言ったかと思えば、「お前、ふざけんなよ!」と文句を言い出す。
 
「あれだけ、でっけぇー声出しといて、気付かない奴を見てみてぇーよ!!」
 
まっ・・・確かにな。
翠が、騒ぎすぎだったからな。
気付いているだろうとは、思っていたけど・・・。
 
「知ってたんなら、お前よく我慢できたな。」
 
「あぁ?」
 
とサンガは聞いてきたので、言ってみた。
 
「俺が、翠を抱いてるの、外で聞いてたんだろ?」
 
って。
それには、「カマかけんなよ!お前、抱けないって言ってたじゃねぇーかよ!」なんて返してきた。
って事は・・・。
 
「お前・・・話、全部聞いてたのかよ!!」
 
と怒ってみせるが、またしても逆ギレされる。
 
「聞くも何も、声がでけぇーんだって!
翠が、絶叫してたじゃねぇーかよ!!」
 
そういわれたら・・・そうか。
 
「翠が・・・悪いな。」
 
なんていいながら、俺は眠っている翠の鼻を軽く、指ではさんだ。
 
「おいっ!」
 
と突っ込むサンガに、俺はたまらず笑う。
笑いながら、俺はサンガに、気になっていた『ある事』を言った。
 
「けど、サンガ・・・。
お前、俺たちの声が聞こえる前に、俺がここに侵入した事には、気付いてたんだろ?
なんで、すぐに入ってこなかった?」
 
って聞いてみるけど、
 
「なんで、俺がすぐに気付いたって、思うんだ?」
 
と聞き返されてしまった。
仕方なく俺が答えるハメに。
 
「お前は、訓練を受けたハンターだ。
五感は俺たちみたいに、動物並み利くだろう。
だから、俺が侵入した時点で、すぐに感じたはずだ。
でも、お前は入ってこなかった。
俺が、翠にひどい事を言って、翠を元の世界に戻してしまう。って思わなかったのか?」
 
それには、「カケかな?」と言うと、サンガは足を伸ばして、リラックスする。
 
「なんだよ・・・カケって!」
 
「傷ついた翠を救うのと、向こうへ戻ってしまうのとは、紙一重だと思った。
翠がお前を想う気持ちと、お前が翠を想う気持ち。
その想いは、きっと『翠をここへとどまらせる』だろうと思ってさ。
俺は、そっちにカケたから、乱入してこなかったんだよ。」
 
なんていってすぐに、
 
「と、かっこいい事を言ってはみたけど、本当は・・・俺にはどうする事もできなかったからさ。」
 
とちょっと寂しい顔で笑うサンガ。
「ん?」と聞く俺に、サンガは眠っている翠の寝顔を、とても優しい眼差しで見た。
 
「翠を救ってやる事ができなかったから。
俺さ・・・蒼輝の身代わりでもいいって・・・本気で思ったんだ。
心の奥でお前を想ってても、翠が俺の側にいてくれるなら、それでいいって。
蒼輝に抱きしめられてると思って、俺に抱きしめられて。
蒼輝にキスされてると思って、俺にキスされて・・・て。
本気で、それでいいと思ってた。」
 
そんなアイツの真剣な顔を見てたら、思わず言っちまった。
 
「そうまで、思ったんなら、なんで、翠にキスしなかった?」
 
俺の言葉にサンガは、勢いよく俺を見る。
その目は、「お前、何言ってんだよ。」と言ってるようだったけど、俺はそのまま続けた。
 
「翠は、俺の腕と俺のキスを求めてた。
だったら、お前が代わりにしてやればよかったんだ。
その腕で抱きしめてやったんなら、唇に熱いキスをしてやれば、よかったんじゃないのか?
そしたら、翠は、迷わずお前に傾いたはずだ。
そうだろ?」
 
だけど、サンガは、「俺に、そんな勇気あるわけないだろ?」と苦笑いをする。
でも、俺は、「そうじゃないだろ?」とサンガに言う。
俺の言葉の意味がわからないサンガは、「えっ?」と俺を見る。
 
「お前がそうしなかったのは、翠を本気で愛してるから。
お前の腕に抱かれながら、翠はたぶん苦しんでたはずだ。
心の奥では、俺を求めてる。
でも、側で優しく抱きしめてくれるサンガの場所も、居心地がいい。
だけど、こんな事、したらいけない。
サンガを蒼輝の身代わりに思っちゃいけない・・・ってな。
お前の腕の中で苦しんでいる翠を、お前が感じないはずがない。
そんな翠をみて、お前は辛くなったんだろ?
だから、すんなり、俺のいう通り、部屋から出て行った。
このまま一緒にいても、翠を苦しめると思ったから。
そして、アイツに手が出せなかった。
どうだ?違うか?」
 
それには、サンガは一言「参った。」と口にして、そのまま床に仰向けになって寝転がった。
アイツは、天井を見つめながら口を開いた。
 
「俺さ、翠を想う気持ちは、絶対にお前には負けないって思ってたよ。
けど、お前って、どんどん強くなるよな。
翠を好きになればなる程、どんどん強くなる。
人間的にも、男としても・・・。
お前がどんどん遠くになっていく気がするよ。」
 
「そうか?」
 
と笑う俺。
そして、俺も正直に気持ちを伝える。
 
「俺は、その逆だ。
お前という男を知れば知るほど、お前が恐くなる。」
 
その言葉に、サンガは体を起こす。
俺をみるサンガの瞳を見て、俺は続きを言った。
 
「翠がいつ、お前に心が揺らぐか・・・恐くてしかたないよ。
お前が、どれだけ翠を想ってるか、翠はまだわかっていない。」
 
俺は、そこまでいうと、翠の髪に優しく触れる。
 
「翠がそれを知った時、俺とお前・・・どっちを選ぶんだろうって・・・。
内心は、すっげぇー、びびってるよ。」
 
心から、素直な気持ちで言ったのに、サンガは、「ふん。」と鼻で返すと、
 
「今の言葉、お前の心の5%くらいだと思っておくよ!」
 
と言われてしまった。
って事は・・・95%も嘘だと思ってんのかよ!と、腹が立つ俺。
せっかく、正直に、なれない言葉を口にしたっていうのにさ。
けどまぁー、いっかと思う俺。
 
「なー、蒼輝?」
 
急にサンガはそういうと、ベッドに顎を乗せて、少し俺との距離を縮めてきた。
ちょっと、深刻さが伝わるこの距離。
 
「ん?どうかしたか?」
 
と俺も、いつになく真剣にサンガに答えてしまう。
 
「おまえさー、何で翠に『本当の事』話さなかったんだ?」
 
それには、もちろん、「何の事だ?」ととぼける俺。
 
まさか・・・『あれ』に気付いたのか?
 
と内心焦る俺にサンガは、即切り出してくる。
 
「チナリとの事だよ。」
 
やっぱり・・・コイツ、気付いていたのか。
 
俺は、そう思ったものの、何も言えなくて、ただ笑いかける。
それを見てサンガも、「やっぱ、そうか。」と苦笑い。
 
「なんで、気付いたんだ?
俺がチナリと、『結婚する気でいた』事に。」
 
そう。俺は、さっき、翠に、チナリとは結婚する気はなかったと答えた。
婚約の話も、俺とチナリとの結婚を決めたのも、全て周りで、俺は、その気は全くなかったと。
俺のその言葉に、翠は納得した。
何も疑わずに。
でも、外で聞いていたサンガは、嘘だと見抜いた。
一体・・・どこで?
 
「お前、言ったよな?
チナリに『好きだった』って言われて、苦しくなって、豹の命を移行したって。
チナリがお前を好きだった事なんて、もっと前からお前知っていたんだろ?
豹の命を移行するほど、彼女に申し訳ないと思った事は・・・。
『一度は彼女を受け入れようとしたのに、拒否した』からじゃないのか?
そして、お前は、彼女が重傷を負ってしまったのは、少なからずそれが原因だと思った。
自分が、あのまま受け入れてやれば、彼女はムチャしなかったかもしれなかったのにって。
それに、俺もわかんねぇーけど、お前たちが言ってる、『王の力』。
それを、使えなかったのも、彼女を拒否した事が原因なんだろ?
あのまま、彼女の事を愛そうとしていたら・・・それは、使えたんじゃないのか?
それに、何より、あの藍瑠(アイル)姫を見た時のお前の態度がおかしかったから。
死んだ妹を見た。っていうよりも、逢いたくない相手に逢ったって顔してた。
まるで、翠との間を邪魔しに来た、敵をみるようなめで、お前見てたもんな。」
 
「お前って・・・ホントすごいよな。」
 
俺は、呆れながらそういった。
 
「お前が、チナリを拒否したのは・・・翠か?」
 
さらに核心を突いてくるサンガに、俺は、たまらず言ってしまう。
 
「お前には、かなわないな。」
 
って。
そして、俺は、『本当』の話をサンガに語った。
 
「俺は、誰も愛さなかったし、女に興味はなかったんだよ。
ただ、王として、緑豹国を守るって・・・ただ、それだけに生きてきた。
そんな俺に、チナリとの結婚話が持ち上がった。
翠に言ったように、俺はチナリを妹としてしか見れなかったから、最初は本気にもしてなかった。
でも、豹が生まれにくい現実。
それから、敵であるジギルの強さ。
いくら強化された体と言っても、100%無事でいられる保障はなかったし、俺とトーワとヒビキのうち、1人でも殺されたら、王はいなくなる。
そう思ったら、ノンビリしてられない。と思ったんだ。
俺が、チナリをどう思ってるなんて、関係ない。
俺は、次の緑豹国を守る『緑の王』を作る義務がある。
少しでも可能性があるのなら、俺がやらなきゃって!
それで、俺は、覚悟を決めた。
チナリと結婚して、アイツとの間に子供を作る。
緑の王ができなければ、出来るまで何度でも、何人でもトライするって。
それが、王として、俺がするべき事だって思ってた。
チナリにも結婚する事を伝え、民にも伝えた。
その次の日だった。
あの書物に、文字が現れたのは。
俺は、まさか、本当に異世界から人が来るなんて、思ってもみなかった。
半信半疑で、あの日、森に向かったんだ。
そこには、本当に異世界から来た女の子がいた。」
 
俺の言葉を、サンガは何も言わずに、聞いていた。
俺は、翠に目を向ける。
彼女の寝顔を見ていると、出逢った時の彼女と、ダブって見えた。
自然と俺の顔が緩む。
 
「実際、翠と一緒にいた時間は、30分もなかったんだ。
でも、俺にとって翠の存在は大きかったよ。
ジギルとトロイに狙われて絶体絶命の場面で、俺と出逢った翠はさ、俺に助けてくれって、すがるんじゃなくて、俺の心配までしてた。
自分が助かる事よりも、俺と一緒に助かる事をアイツは、必死で考えようとしてさ。
そんな翠が、すごく、眩しく見えたんだ。
そして、思った。
愛してもないチナリと結婚する事が、本当に緑豹国の為になるのか・・・・って。
結局俺は、緑豹国の為といって、逃げてるだけ。
チナリが俺を想っている気持ちに、ずいぶん前から気付いていたのに、それをどうしていいかわからなくて、それだったら、緑豹国の為とこじつけて、結婚すればいい。
そうすれば、チナリも傷つかなくて済む。
そんなずるい事を俺は、心のどこかで考えていたと、気付かされた。」
 
そして、俺は膝の上で眠る翠の頬に、そっと触れた。
翠は、「う・・・ん。」と声をあげるものの、そのまま変わらず眠り続ける。
 
「翠と過ごした時間は、ホント楽しかったんだ。
コイツを背中に乗せて、森を走ってる間も、ジギルやトロイが追いかけてくるかもしれない。っていう危険な時だったのに、俺はそんな事も忘れてただ、翠との時間を楽しんでた気がする。
コイツが俺の背中に乗っているのも、全然違和感がなくてさ、まるで、俺の体の一部みたいな不思議な感覚だった。
すっげぇースピード出してるのに、コイツ普通に話かけてきたんだよ。
冗談言って笑って・・・。
ホント、夢見たいな時間だった・・・。」
 
俺は、あの時の事を思い出してた。
翠を背中に乗せて、森を走り抜けた時の事。
そして、緑豹国の森で翠と話をして、俺の名前を教えてあげた事。
もう、ずいぶん前の話なのに、つい最近の事のように思える。
あの時、すごく眩しく感じた翠が、今はこうして俺の手の届くところにいる。
そう思っただけで、俺は心が満たされるようだった。
いつになく、穏やかな気持ちになっている自分に戸惑うほど・・・。
 
「お前・・・ホント、すっげぇー、いい顔するよな。」
 
ずっと黙っていたサンガが、急に口を開いたかと思えば・・・。
 
「ん?何?」
 
と俺は、サンガに聞く。
だって、コイツ、わけわかんねぇーこと、言ってないか?
一体誰の事を言ってるかもわからない俺は、そうサンガに聞く。
すると、サンガは笑いながら、
 
「翠の事を話してるお前さー。
こっちが、恥ずかしくなるくらい、いい顔してる。
っていうか・・・すっげぇー、かっこいいよ。」
 
それには、もちろん、
 
「何、言ってんだよ。」
 
と鼻で笑い飛ばす。
ちょっと、照れる俺にサンガは、ただ笑うだけ。
俺たちの笑い声で、翠の体が少し動く。
でも、俺と握り合っている手に、力を入れて握り返してやると、俺が側にいる事を感じたのか、少し口元を緩ませると、また眠る。
 
「翠・・・相当、疲れてんだな。」
 
これだけ騒いでいても、眠り続ける翠を見て、サンガはそういった。
 
「この世界にいるだけでも、翠にとっては負担だろうに、さらに『緑の王女』として、俺に力を与えてる。
あれは・・・相当体力を消耗してるはずだ。
それにさらに、さっきは、たくさん泣かせたしな・・・。
今は、ゆっくり休ませてやりたい。」
 
「そうだな・・・。」
 
とサンガも同意する。
俺とサンガの視線は、翠の寝顔へと注がれる。
 
「なー、サンガ?」
 
視線は翠を見たまま、俺はそういった。
「ん?」と答えるサンガに、俺はそのまま告げる。
 
「俺がさ、豹の姿を失って、初めに何を思ったと思う?」
 
「う〜ん・・・そうだな。」
 
とサンガは少し考えて、
 
「やっぱ、バリアーの事か?
解けてしまうんじゃないか?とか・・・。」
 
やっぱりな。
普通はそう思うよなー。
軽く笑う俺に、「違うのか?」とサンガは翠から俺に視線を変える。
でも、俺は、翠から目が離せなかった。
 
「翠を、もう背中に乗せてやれないって。」
 
それには、もちろん、「はぁ〜?」とデッカイ声を上げるサンガ。
たまらず、俺は、
 
「お前は、翠かっ!」
 
とにらんで小声で叫ぶ。
慌てて口をふさいだサンガ。
また、動きが止まる。
だから・・・動いても関係ないって!って、言いたくなるがほっておく。
翠はというと、大丈夫みたいで、そのまま何も変わらず眠ってた。
 
「はぁー。」
 
と口から手を離して、深いため息をついたサンガ。
 
「お前と、翠って・・・似た者同士だな。」
 
と呆れながらいう俺に、サンガは、「お前なぁー。」と言うと、
 
「言っとくけど、今のはお前が悪い!」
 
なんていう。
それには、俺だって反撃する!
 
「な、なんで俺が悪いんだよ!お前だろ!!」
 
「蒼輝が、変な事言い出すからだろ!」
 
「どこが、変なんだよ!」
 
「普通、豹の姿を失って、最初に思うことが、何で翠を乗せれないってなるんだよ。
あれだけ、緑豹国の為に生きてきたとか言っておいて!!」
 
とブツブツいうサンガ。
確かにな・・・そうだよな。
でも・・・。
 
「翠と出逢って、俺は『緑豹国のためだけに生きる』って考えが、だんだんと薄れていったんだ。
だから、翠と出逢っって、しばらくして・・・俺は、チナリに結婚話を白紙に戻したいと言ったんだからな。」
 
ちょっと、深刻な口調でいう俺に、「それで?」とサンガは言ってくる。
「えっ?」と聞く俺に、
 
「豹の姿を失って、翠をもう背中に乗せてやれない。って思って・・・。
それから、どうしたんよ。」
 
なんてサンガは聞いてくる。
アイツのその言葉を聞いたら、俺はまるで導かれるように、心にしまっていた思いを口にした。
 
「翠と過ごしたあの幸せな時間を、もう味わう事ができないのかと思ったら、すごく悲しくなった。
と同時に、チナリを死なせてしまった俺は・・・ずっと叫んでたよ。」
 
そこで、言葉を止めた俺にサンガは、翠を見る。
 
「翠に助けてくれって・・・そう叫んでたってわけか。」
 
俺は、ただ笑って答えた。
 
「ヒビキに、だいたいの事は聞いてる。
お前がさっき話した、翠が最初に来た森の話や、チナリを失った時の蒼輝の状況や、翠がお前に逢いに行った時の事とか、色々な。
それで、ヒビキに言われたよ。」
 
翠を見て、サンガの言葉を聞いていた俺だけど、最後の言葉はひっかかった。
俺は、サンガに目を向けると、「何を?」と聞く。
 
「『蒼輝と翠ちゃんの間を壊す事はできない。
サンガにとっては、報われない恋だな。』
って。ハッキリそう言われた。」
 
そして、さらに続ける。
 
「俺は、ずっと、翠が先にお前の事を好きになったのかと思ってたよ。
ジギルやトロイから、自分を救ってくれた蒼輝に、惚れたんだって。
でも、今の話聞いてて気付いた。
お前の方が、先に翠に惚れたんだな。」
 
それには、もちろん、「そう・・・かな?」と首をかしげる俺。
同時じゃねぇーのか?と思うけど・・・。
 
「だって、お前、翠と過ごしてる時点で、気になってたんだろ?
翠は、たぶん、あの時は実感してないはずだぜ。
なんせー、『夢』だと思ってたわけなんだし・・・。」
 
確かに・・・。
夢の相手に恋は・・・しねぇーよな。
って事は・・・俺が先に翠に惚れたって事か。
 
「なるほど・・・。」
 
と納得する俺に、「変なやつだなー。」と笑うサンガだけど・・・。
 
「けどさー、蒼輝。」
 
今度はさっきと違うトーンで、俺を呼ぶサンガに、俺もちょっと真剣モードの顔つきで、「ん?」と聞く。
 
「さっき、俺に話した全てを、翠に話してやればよかったんじゃないのか?
結婚を考えたチナリよりも、翠を選んだって翠が知ったら、もう不安になる事なんて、ないだろ?
すっごい、喜ぶと思うけどな。」
 
それには、もちろん、「本気で言ってんのか?」と俺は、呆れる。
「へっ?」というサンガに、俺はちょっと笑いながら、
 
「お前って・・・翠の事、わかってねぇーよ。」
 
とバカにしてみせる。
それに対して突っかかってくるのかと思えば意外に、
 
「どーいう事だよ。」
 
と真剣に聞かれたものだから、俺も冗談口調で言わずに、普通に答えた。
 
「俺が、チナリとの結婚を考えてた。
でも、翠と出逢って惚れて、チナリとの結婚を止めた。
そんな事知って、翠が喜ぶわけないだろ!
反対に、自分を責めるよ。
異世界からきた自分が、チナリの幸せを奪ってしまったんだって。
俺が、チナリを愛せなかった事が原因だけど、いくらそう言っても、翠はそうは思わずに、絶対に自分を責める。
責めて、傷ついて、また苦しむ。」
 
俺は、また翠に目を向ける。
たまらなく翠が愛おしくなった俺は、眠っている翠の唇に、ホントに軽いキスをした。
 
「翠をもう、これ以上泣かせたくないんだよ。」
 
黙って聞いていたサンガは、一言、「そうだな。」と言った。
そのあとで、
 
「けど、お前って、一人でなんでも、かぶる性格だよな。」
 
なんて言って、
 
「抱えきれなくなったら言えよ!
俺は、お前の『部下』だからな。
ご主人様の愚痴ぐらい、聞いてやるさ。」
 
とガラにもない事を言ってる。
けど・・・ホント、心から嬉しかった。
嬉しかったけど・・・悪いな。
素直になれない俺で・・・。
 
「心の片隅に覚えておくよ。」
 
とあくまで偉そうに、答える俺。
「はいはい。そうして下さい。」とサンガは、おちゃらけてそういうと、また床にころがる。
 
「けど・・・。
何でも一人でかぶるのは、お前も一緒だろ?」
 
という俺にサンガは、「なんだよ・・・それ。」とちょっと、間を置いて答える。
その間の置き方は・・・さては、俺が考えていた事は、図星か?
って事は・・・形勢逆転か?
なんて、思いながら俺は、ずっとサンガに言いたかった事を口にした。
 
「俺たちが、WONDER LANDに行って、データーチップの解析をした時さー。
あのあと、WONDER LANDを出た途端、ジギルが待ち伏せしてただろ?」
 
それには、「それが、どうかしたのか?」とサンガは、俺の見えない所から言葉だけを返してくる。
 
「あの時お前、まるで、『俺たちをジギルたちがいる所に、導いた』ように振舞っていたけど、本当は違ってたんじゃないのか?」
 
サンガは、答えない。
どうやら・・・図星みたいだな。
それを、感じた俺は、自分の考えをそのまま続けた。
 
「お前は、翠と1年前から知り合いだった事は、誰にも言っていなかったはずだ。
だけど、ジギルは勘付いていた。
1年前、森でお前が、遭難した時、お前はあの寒い森から無事生還してきた。
それも、信じられないくらい元気な姿でな。
ジギルは、不思議に思ったはずだ。
そんな事、ありえないって。
でも、その直後、翠を森で発見する。
女で、女豹だったチナリと同じ匂いがする。
さらには、探知機が反応するし、背中には原石のかけらが入っていると思われるリュックがある。
という事は、翠は、洞窟からの帰りと推測できた。
となれば、瀕死のサンガを助けたのは、目の前の翠。
翠とサンガが面識があると・・・ジギルは、勘付いたんだと思う。」
 
そこまでいうと、サンガは寝転がったまま手を叩く。
 
「ホント、お前って、すごいよ!」
 
というと、
 
「お前の言った通り、ジギルは俺と翠との事に気付いた・・・はずだ。
でも、何も言ってこなかった。
だけど、あの日から、俺の周りに、兵士が常にうろつくよになった。
俺が、お前らと接触する事を、ずっとずっと待っていたんだろうな。」
 
サンガはそういうと、体を起こして、またベッドに顔を乗せると、俺を見る。
 
「お前たちが、森で俺を待ってた時、トロイさんと一緒だったから、俺を見張っている兵士はいなかったんだ。
だから、見張られていないと安心してたんだけど、ジギルが勘付いたのかもな。
たぶん、アイツは、翠と蒼輝が、木の陰で潜んでいる事は、わかってたはずだから。」
 
それには、俺も、「ああ。ジギルなら・・・気付いていただろうと俺も思うよ。」とあいづちを打つ。
 
「データーチップの解析をして、WONDER LANDを出ただろ?
あの時、お前の言った通り、ジギルが待ち伏せしてたなんて・・・予想外だったよ。
全て、こっちの動きをお見通しだったって事で、俺あの時、ジギルが恐ろしくなったんだよ。
でも、あの時の、お前見て、俺もとっさにジギルの作戦に乗ることに頭が切り替わった。」
 
「俺?」
 
俺・・・あの時なんか、したっけ??
 
でも、サンガは、ニッコリ笑ってる。
 
「お前、全然動じなかっただろ?
それに、俺が、とりあえずジギルをうまく使おうと、ジギルを裏切ってないという演技をしたら、お前、それに当たり前のように乗ってくれただろ?
俺の目だけを見て、俺を信じてくれた。
翠を逃がしたい。っていう俺の思いを、お前は読んでくれた。
それで、俺は、ジギルの仲間だという立場を利用したんだ。」
 
そこまで言ったサンガは、「けど・・・。」と言うと、ちょっと首をかしげる。
 
「このことが、どうして『一人で背負う』って事になるんだ?」
 
「だって、翠はお前のこと、まだ、最初は裏切った人だと思ってるぞ。
途中、心が痛んで、助けてくれて仲間になったと思ってる。」
 
それには、サンガはどうしたと思う?
笑いやがった。
 
「おい!何がおかしいんだよ!!」
 
だけど、アイツは笑いを止めない。
笑いながら、俺に言う。
 
「そんなのどっちでもいいよ。」
 
って。でも・・・。
 
「よくねぇーだろ!
初めから裏切ろうとしてた。のと、裏切るつもりが全くなかった。のとでは、話が違う。
お前を見る翠の見方も、変わるかもしれねぇーんだぞ!」
 
って、必死でいうけど・・・それが、余計にアイツのツボに、ハマったようで・・・。
さらに、笑われた。
 
「もうー!!うるせぇーよ!」
 
と腹が立った俺は、側にあったクッションを、サンガに向かって投げた。
それを顔面に受けたサンガは、そのまま床にバタンと倒れるけど・・・まだ、笑ってる。
 
「お前なんて、もう知らねぇー!」
 
とすねる俺にサンガは、クッションを握って起き上がると、俺にクッションを投げ返してきた。
 
「ライバルの心配して、どうすんだよ!
お人よしか?それとも、余裕か?」
 
なんて、笑いながら言ってるサンガの言葉で、俺は気付いた!
 
そうだっ!俺・・・何言ってんだ?
 
そして・・・。
 
「今のは、なしで。」
 
と即訂正した。
俺の態度に、まだサンガの笑いは収まらない。
俺から、クッションを奪い返すと、それを口に当てて、笑い声を抑えつつ・・・まだ、笑っているし。
コイツは、笑い上戸なのか?
と思いながら、少し冷めた目で見る俺。
でも・・・。
 
「お前が、翠に言わないのは、翠を苦しめたくないからだろ?」
 
「それ・・・どういう意味?」
 
といいながら、さっき笑い過ぎたサンガは、「あー、腹がいてぇー。」と言いながら、少しずつ笑いを消していく。
そして、少し落ちついたサンガは、「ん?」と俺に聞いてくる。
そんなサンガに、俺は少し笑いを浮かべて話す。
 
「お前が裏切ってなかった。
お前が純粋な気持ちで、初めから翠に惚れてた。
そう知ったら、翠はお前の気持ちの重さを知る。
辛い時、さっきみたいに、軽い気持ちでお前に頼れなくなる。
翠の負担になりたくなかったから、お前言わなかったんじゃなかったのか?」
 
サンガは、「さぁ?どうかな?」なんて言って、意地悪な笑いをする。
「お前ってやつは・・・。」と俺は、少しため息混じりに言うと、「ホントにいいのか?」とサンガに問う。
あまりにしつこい俺に、
 
「いいって言ってるだろ!」
 
とサンガも呆れるけど、「いや・・・そのことじゃなくて。」と俺は首を振る。
 
「じゃあ・・・何だよ。」
 
そして、サンガは、「さっさと言えよ。」なんていいながら、俺の近くに体を乗り出してくる。
俺はずっとずっと、サンガに聞きたかった事を、口にした。
 
「翠をもらって、いいんだよな。」
 
って。
もちろん、「はぁ?」とすっげぇーバカな顔をされた俺。
 
おいっ!そんなに、顔を崩さなくてもいいだろうがっ!!
 
と殴りたくなるが・・・我慢我慢。
今は、真面目な話をしてるんだ。
ここは、大人になれ!蒼輝!
 
と気持ちを必死で抑えて・・・・。
何とか俺は、踏みとどまった。
「フゥー。」と息を吐いて、俺は完全に冷静さを取り戻すと、サンガを見た。
 
「俺さ・・・お前の事、一人の男として、すっげぇー好きだよ。
俺の事も、翠の事もすごく理解してくれてるし、何より一番に翠の事を考えてくれてる。
俺が何かで、手がいっぱいでも、お前はいつも翠を支えてくれるから、ホントに助かってる。
でも、思うんだよ。
俺が翠の側にいるんじゃなくて、お前が翠の側にずっといたなら・・・翠はもっと幸せになれるんじゃないかって。
俺、翠をいっつもいっつも泣かしてるからさ。
これからも、俺は翠を泣かすかもしれない。
今回みたいに、俺の知らない所でさ。
そして、またそんな翠をまず初めに支えるのが、お前なんだろうと思う。
で、最後は俺が翠をさらう。
なんか・・・サンガはずっと、『影』の存在みたいになっちまって・・・。
それでいいのか?って。
俺だったら、やっぱ、耐えられねぇーからさ。」
 
真剣に言ったのに、サンガのやつ、「何を言い出すかと思えば・・・。」とため息なんてつきやがって・・・。
その態度が・・・すっげぇームカついた。
 
「お前なぁー!」
 
と声を上げた俺に、「うるせぇー!」とサンガは、速攻俺の顔面にクッションを投げてきた。
 
「ブハッ!」と声を出す俺に、「お前は、翠以上にうるせぇー。」とサンガは言いながら・・・笑ってる。
俺は、顔面から落ちたクッションを手に取ると、それをまたサンガに軽く投げた。
サンガはそれを受け取りながら、「そんな事、初めっからわかってるよ。」とアイツはつぶやいた。
突然聞こえたアイツの言葉に、俺は翠を見ていた瞳を、またサンガに戻した。
 
「俺が、翠をなぐさめても、いいところでお前が持っていく事ぐらい、そんなの初めからわかってる。
お前は、『いいとこ取り』だから。」
 
そして、ニッコリ笑われた。
その笑いが・・・ムカつく。
 
「笑うな!」
 
だけど、俺の冷たい言葉なんて、サンガは完全に無視して続ける。
 
「俺は、翠が幸せなら、それでいいんだよ。
あとは・・・蒼輝!
お前も、幸せならそれでいい。」
 
「お前・・・。」
 
「それが、俺の幸せだから。
って・・・俺、いい事いうよなぁ〜。」
 
なんて言ってるサンガに俺は・・・言った。
 
「お前・・・俺に惚れたのか?」
 
もちろん、それに対して、サンガが返してきた言葉は・・・。
 
「お前は、変態っ!」
 
と言いながら、クッションを投げてきた。
 
 
俺たちは、お互いの心を話し合って、スッキリしたのか、それからしばらくは、お互い笑ってた。
だけど、しばらくして、先に口を開いたのはサンガ。
 
「そういえば、チナリの事でゴタゴタしてて、忘れていたけど、BLUE LANDの謎と、俺たちがここに来た理由(ワケ)・・・わかったのかよ。」
 
それには、俺の笑いも止まる。
 
そうだった。
重大な事を・・・忘れてた。
 
「それなんだけどさ・・・。」
 
俺は、サンガに藍瑠(アイル)姫に言われた事を言おうとして、口を閉じた。
そして、翠に目を向ける。
 
どうする・・・。
今は、眠っているけど、もし俺の声が聞こえていたら・・・。
 
そんな事を考える俺に、サンガは察しがつく。
 
「隣の部屋で、話すか?」
 
その言葉に俺は、即サンガを見るが、サンガも目で合図を送る。
俺は、何も言わずにただ、うなずいた。
俺は、翠の体に触れた。
「ん・・・。」と声を上げる翠の耳元で、「大丈夫、俺はここにいるから。」と囁いた。
その声に安心したのか、翠はそのまま、また眠りにつく。
ホッとした俺は、そのまま翠をベッドに寝かせると、布団をかけた。
 
「目を覚ましたら、隣に来るように、手紙書いとけよ。」
 
とサンガはいいながら、自分のポケットから紙とペンを出してくる。
 
「お前・・・そんなの持ち歩いてるのか?」
 
と呆れる俺に、
 
「ハンターの七つ道具ってのがあってな。
未だに、肌身離さず持ってる。
癖でな・・・無いと落ち着かないんだよ。」
 
と苦笑い。
 
「でも、便利だな。」
 
と返しながら俺は、サンガに出された紙とペンを受け取ると、翠に手紙を書いた。
それを、翠の眠っているベッドの横に置いた。
 
「じゃ・・・行くか。」
 
サンガの言葉に、俺は「ああ。」と答えると、最後に眠っている翠の頬にキスをして、俺は部屋を出た。
 
 
 
 
 
「ん・・・・。」
 
私は目を覚ます。
私の肌に、真っ白で少し固いものが触れてる。
 
これ・・・ベッド?
 
そう思いながら、私はまだ半分眠っていた脳を、ゆっくりと動かす。
私、確か、蒼輝の膝の上で眠っていたはず・・・。
 
「蒼輝?」
 
私はそう叫んで、体を起こす。
辺りをぐるっと見渡すけど・・・誰もいない。
 
嘘・・・なんで?
蒼輝は??
もしかして、さっきのは全部・・・夢?
 
私は急に恐くなって、勢いよくベッドから降りる。
外にいるはずのサンガに、聞こうとして、走り出した私の目の前を、一枚の紙がハラハラと落ちる。
もう、日が昇っていて、カーテンを閉めていても、朝日が差し込んでいて、充分すぎるほど明るかった。
私は、目の前に落ちた紙を手に取る。
 
―おはよう
 サンガとトーワの部屋にいる。
 目が覚めたら、おいで。蒼輝―
 
と書かれてあった。
 
「夢じゃなかったんだ・・・・。」
 
私はそう言って、蒼輝が書いてくれたメモを握り締めた。
 
よしっ!隣に行こうっと。
 
私は、早速部屋から出ようと、ドアを開けた。
その時、丁度、私の部屋をノックしようとしていたある人と、はちあわせする。
そんな所に人がいるなんて、思ってもみなかっただけに、ビックリする私。
 
「うわっ!」
 
って言いかけて・・・それは、途中で終わっちゃう。
だって、その人が私の口をふさいだから。
そして、私の耳元で、
 
「ちょっと・・・中に入って下さい。」
 
と囁くと、私を押して、部屋の中に入る。
そして、完全にドアを閉めると、私の口に当てていた手を離した。
 
「な・・・なんなの?」
 
と驚く私に、「大変失礼な事をしました。お許し下さい。」と彼はまず頭を深々と下げて謝った。
 
そんなに、謝らなくてもいいけど・・・。
でも、一体、こんな朝早くから・・・何?
 
私はたまらず聞いてしまう。
 
「雅(ミヤビ)さん。
こんな朝早くからどうしたんですか?
それに、なんで、声を出しちゃいけないの?」
 
そうなんだよねー。
目の前にいるこの人は、藍瑠(アイル)さまの側近である、雅(ミヤビ)さんなんだよ。
すると、彼は下げていた頭を起こして、私の方を向く。
 
「藍瑠(アイル)さまが、どうしても、翠さまと2人きりで話がしたいとおっしゃってます。
ですが、サンガさまも蒼輝さまも、とても敏感な方です。
翠さまがたてる、わずかな音でも異変を感じて、外に出てくるでしょう。
それで、無礼とは思いましたが、声を漏れないようにさせてもらいました。
本当に申し訳ありませんでした。」
 
藍瑠(アイル)さんが、私と話を?
なんで?話は、蒼輝としたはずじゃ・・・。
そういえば、蒼輝に、藍瑠(アイル)さんとの話の内容とか聞かなかったよね。
っていうか・・・それどころじゃなかったんだけど・・・。
 
なんて、余計な事を考え込んでいる私に、「翠さま?」と雅(ミヤビ)さんが私を呼ぶ。
その声に、我に返った私。
藍瑠(アイル)さんが、私と話したい。と言っているなら・・・よし、行ってみよう!
 
「わかりました。行きます。」
 
と答えた私に、「ありがとうございます。」と雅(ミヤビ)さんは笑顔で答えると、そーっと部屋から私を出して、廊下を歩きはじめた。
でも・・・。
 
「す・・・い?」
 
と後ろから声が!
 
やっばー、みつかったよ!!
 
そーっと後ろを振り返って・・・。
私は、「はぁー。」と息を吐く。
 
「サンガか・・・驚かさないでよ。」
 
という私に、サンガはダッシュで私の元にくる。
 
「廊下で人の気配がしたから、気になって覗いてみたら、翠がいるから、ビックリしたよ。
お前、こんな朝早くにどこに行くんだよ。
蒼輝なら、俺たちの部屋に・・・。」
 
と言ってサンガは止まる。
私の後ろにいる人物に気付いたの。
 
「あんた・・・なんで、こんなとこにいるんだ?」
 
それには、私が答える。
 
「藍瑠(アイル)さんが、私に逢いたがってる。
それを、言いに来てくれたの。
蒼輝は、このことに気付いてるの?」
 
それには、サンガは首を振る。
 
「ついさっきまで、蒼輝と話をしてたから、アイツは今熟睡中で気付いてない。」
 
それを聞いて安心した。
 
「この事は、黙っておいて。
話を聞いたら、すぐに戻ってくるから。」
 
でも、サンガは「やめとけ。」と私を止める。
その真剣な顔・・・やっぱりね。と思ってしまう。
 
「藍瑠(アイル)さんが、蒼輝に話した事・・・サンガは知ってるんでしょ?」
 
それには、サンガは答えない。
私は彼の返事を待たずに続けた。
 
「その話って、何か、条件を出されたんじゃないの?
私にとってよくない条件を・・・。
そして、蒼輝は、それを断った。
だから、藍瑠(アイル)さんは、私に直接話をしたがってる。
違う?」
 
「なんで・・・。」
 
サンガはそういうと、私を真剣な眼差しで見た。
 
「そこまで、わかってるなら、どうして行くんだ。
また、悲しい思いをするかもしれないんだぞ。
何の為に、蒼輝が自分の胸に、しまいこんでると思ってんだよ。
どうして・・・自分から、わざわざ『そっち』に飛び込もうとするんだよ。」
 
「サンガ・・・ありがとうね。」
 
私の事を、本当に心配してくれてるサンガに、私は心からそういった。
 
「でもね・・・わかってても行かなきゃ。
そのために、私は過去からこの時代に来たんだと思うから。
ちゃんと・・・逃げないで聞いてくる。
それで、また落ち込んじゃったら・・・悪いけど、またなぐさめて。」
 
そう言って笑う私にサンガは、「ホント、翠も強情だよ。」とため息を吐く。
そして、「わかった。」と半ば嫌々にそう口にすると、私を雅(ミヤビ)さんのいる方にクルっと向け、背中をトンと押した。
私の体が、一歩前に出た。
 
「行ってこい!俺は、ここで、翠が帰ってくるのを待っててやるから。」
 
その言葉とその一押しは、私の力強い味方となった。
私はサンガの方に振り返って、笑顔で答えた。
 
「いってきます。」
 
って。
 
 
 
 
雅(ミヤビ)さんに案内されたのは、蒼輝が藍瑠(アイル)さんを追って入っていった、玉座から奥にある藍瑠(アイル)さんの部屋だった。
 
「では、私はこれで。」
 
と雅さんは藍瑠(アイル)さんに挨拶をすると、部屋から出て行く。
 
「朝早くから、申し訳ありません。」
 
と藍瑠(アイル)さんは、私に謝ると、「どうぞ。」と側にあるイスを私に勧める。
私は、「失礼します。」と一礼をして、席についた。
藍瑠(アイル)さんは、席にはつかずに、側にある大きな窓から見える景色を見ていた。
朝日に照らされて、とても綺麗な彼女を見ていると、チナリさんとダブって見えた。
蒼輝を愛したチナリさんて・・・彼女に似ていたんだよね。
こんなに綺麗な人が、蒼輝を愛していたなんて・・・。
そんな事を考えて、藍瑠(アイル)さんを見ていた私。
振り返った藍瑠(アイル)さんに、ビックリしてしまう。
 
「どうか・・・されましたか?」
 
という藍瑠(アイル)さんに、私は慌てて「いいえ。すみません。」と謝った。
藍瑠(アイル)さんは、「そう?」と優しく微笑むと、今度は急に真剣な顔つきに変わった。
 
「蒼輝さまから、BLUE LANDの事や、あなた方がここへ来た理由については、お聞きになりましたか?」
 
私は首を振る。
それには、「そうですか・・・。」と藍瑠(アイル)さんは、力のない声を出す。
 
「すみません。ちょっと、別の問題があって、そこまで話が出来なくて・・・。」
 
と謝る私に、藍瑠(アイル)さんは「気になさらないでください。」というと、
 
「ここに翠さまをお呼びしたのは、あなたにおりいって、頼みたい事があったからなんです。」
 
と口にする。
 
「たのみ・・・ごと?」
 
「ええ。」
 
と彼女は言うと、
 
「その前に、BLUE LANDの話などをしなくては、いけません。
わたくしが話してもよろしいですか?」
 
それには、「もちろんです。お願いします。」と私は軽く頭を下げてお願いした。
藍瑠(アイル)さんは、「それでは・・・。」と言うと、外の景色を見ながら口を開いた。
 
「ここから見えるんですが・・・。
あの、高い塔・・・わかりますか?」
 
遠くを指さす藍瑠(アイル)さんに、私は席を立って、藍瑠(アイル)さんの側に近付いて、その指の先を見る。
 
「ええ・・・。すごい高いですね。」
 
だって・・・先が見えない。
雲に覆われてる。
どれだけ高いの?
ここは、地底なのに・・・なんでこんなに高いの?
 
「あの塔にはある力が、封印されています。」
 
「ある・・・力ですか?」
 
彼女は、「ええ。」と答え、
 
「それは・・・鳥の力です。」
 
と言った。
そのあとで、藍瑠(アイル)さんは、右手を差し出しながら、「どうぞ。」と立っている私に、もう一度、座ることを勧めた。
私が座った事を見届けた藍瑠(アイル)さんは、落ち着いた口調で、ゆっくりとBLUE LANDの話を話し始めた。
 
「WONDER LANDとGREEN LANDに日本が分裂する前の話です。
科学者は、豹と人間との混血人間を作った時、あと2種類の混血人間をこの世に誕生させました。
1つは、鳥と人間との混血。
そして、もう1つは、幻と呼ばれている龍と人間との混血。」
 
「龍・・・・ですか?」
 
私はたまらず確認してしまう。
龍って・・・童話だけの話かと思っていただけに、なんかしっくりこない。
私の反応に、「不思議なのはわかります。」と藍瑠(アイル)さんはいって、とても上品に笑った。
 
「何でも可能となっていたこの世の中で、『古代の生物』をこの世に復活される事など、容易な事でした。
そして、科学者は全精力を費やし、とうとう龍の遺伝子を復活させました。
その龍と人間との混血は、それはとても優秀な人間で・・・。
純血のただの人間が支配している日本を、のっとろうと企む者もいたそうです。
自分の方が、なんにでもたけているのに、純血というだけで、ただの人間に支配されるのは、おかしいと・・・そう思ったのでしょう。
そして、現に、日本は、その龍との混血である混血人間に乗っとられてしまったのです。」
 
って事はよ・・・。
 
「それじゃぁ、今WONDER LANDを治めている人物ってのは、もしかして龍との混血人間って事ですか?」
 
と、たまらず口にしたんだけど・・・。
 
「それは・・・ないか・・・。」
 
と自分で答えた。
だって、WONDER LANDと緑豹国に分裂したのって、200年以上も前の話だよね。
その人が、生きてるわけないもん!
あっ、でも、蒼さまは生きてるんだっけ?
わぁ〜!!もう、すでにわからなくなってきた。
 
「う〜ん・・・。」
 
とうなる私に、藍瑠(アイル)さんは、「大丈夫ですか?」と心配そうに私をみる。
 
とにかく・・・。
今、WONDER LANDを支配している人が、200年前の人物かどうかという事と、もしそうじゃなくても、今の王が、龍の血をひいているかと言う事は、さておき・・・。
ようは、200年前は、WONDER LANDは、龍の混血人間が支配してた。って事なんだよね。
って事はよ・・・。
緑豹国の蒼さまたちも、混血なわけで、いえば混血人間同士じゃない!
なんで、戦ってるわけ?
いえば、仲間でしょ?
 
「なぜ、WONDER LANDは、緑豹国を滅ぼそうとしてるのですか?」
 
すると、藍瑠(アイル)さんは、「それは・・・。」と言って、今度は私の前にあるイスに腰をかける。
 
「さっきも言ったように、WONDER LANDを治めている人は、自分が一番になりたかったの。
この日本を自分が治めたかった。
そもそも、彼が日本を滅ぼし、自分の好きなようにした最大の理由は、蒼さまにあるの。」
 
「あおい・・・さま?」
 
もちろん聞き返してしまう。
だって・・・緑豹国の初代王の蒼さまが、原因って・・どういうこと?
 
「あの・・・。」
 
と自ら聞こうとした私に、藍瑠(アイル)さんは、笑いながら答える。
 
「日本を治めていた純血の日本人はね、手広くしすぎて、国がどんどん滅んで行っている事に、気付いたの。
そこで、それをふみとどまらせるために、排除していた混血人間の力を借りようとしたの。
そして、その混血人間で、一番の力を持っていた蒼さまに頼った。
彼の的確な判断と知識で、少し日本経済は上に向き始めた。
それで、純血人間のその偉い人はね、蒼さまを日本のトップにしようとしたのよ。
これからの日本は、混血も純血も関係ない。
力のあるものが、トップに立つ。
そして、みんなで、力を合わせて、素晴らしい国にするべきだと思ったのね。
でも、それに納得しなかったのが、その龍との混血の彼。
龍の血を引く自分こそが、トップになるはずなのに、たかが豹との混血の人間に治められてたまるか。って・・・。
そして、龍の彼は、日本をのっとった。
力のないものは排除し、力のある者だけを残し、WONDER LANDを作った。
それを知った蒼さまは、彼と戦うために、緑豹国を立ち上げた。
ほおりだされた国民を全て引き取ろうとしたけど、いえば、混血人間に裏切られてほおりだされた人間が、混血人間に助けられるわけないでしょ?
ほとんどが、拒否し、そして息絶えたといいます。
ですが、一部、蒼さまの素晴らしさを知っていた純血人間は、蒼さまの好意をありがたく受け取り、黄色の玉を飲んで、緑豹国の民となったそうです。」
 
あっけに取られている私に、藍瑠(アイル)さんは、心配そうに私をみると、
 
「大丈夫ですか?少し、緑豹国の民が知っている話と、違っているので、驚いたでしょう。」
 
と私を心配する。
そういうって事は・・・。
 
「蒼輝も、驚いてたって、事ですか?」
 
彼女はただ笑うだけ。
 
「私たちは、この話を幼い頃から、聞かされていました。
今の日本がどうなっているのか。
そして、私たちが、どうしてこんな地底に埋まっているのか。」
 
藍瑠(アイル)さんはそういうと、「BLUE LANDの話をしましょうか。」と言って、また席を立つと、そびえる塔を見る。
 
「元々、BLUE LANDは地表にありました。
GREEN LANDのすぐ横の大陸です。
その時は、簡単にBLUE LANDとGREEN LANDとは、行き来ができました。
仲間うちでは、WONDER LANDが出来る前。
純血の人間達に、排除されて、混血人間だけを隔離されたその時に、呼び合っていたそうです。
豹の混血が住む大陸を、GREEN LAND。
鳥の混血が住む大陸を、BLUE LAND。
そして、龍の混血が住む大陸を、RED LANDと。」
 
「れっど・・・らんど・・・。」
 
また、新たな大陸が出てきたよ。
ドキドキする私に藍瑠(アイル)さんは、続ける。
 
「そして、そのRED LANDは、天上界にあります。」
 
ちょ、ちょっと待ってよ。
またしても・・・ギブアップ。
もう・・・ついていけない。
頭がこんがらがってきた。
えーっと・・・なんだっけ?
龍との混血がいて、その人たちが住む世界が、RED LANDで・・・。
その国があるのが、地表でも、地底でもなくて・・天上界?
それって・・・。
 
私は、指を上に向ける。
 
「空・・・ですか?」
 
藍瑠(アイル)さんは、「ええ。」とうなずく。
 
「緑豹国の真後ろに、そびえるように高い高い岩が、あるでしょう?
あれをずっと登っていけば、あるそうです。」
 
登るって簡単にいうけど・・・あれは、登れないって。
 
「それは・・・無理だと思いますけど・・・。」
 
という私に、「だから、私たちがいるんです。」と藍瑠(アイル)さんはいうと・・・。
 
「一度地上に降りたなら、天上界に戻るには、1つしか方法はありません。
それは、鳥の混血である私たち。
BLUE LANDの人間に乗せてもらうこと。
ですが、ただ鳥に変身が出来る者に、乗せてもらったのでは、ダメなんです。
天上界の入り口で、跳ね返されますからね。
たった一羽だけ、天上界への侵入を許されている鳥がいます。
その鳥しか、天上界には入れません。」
 
「それって・・・。」
 
「青い髪を持ち、オレンジの穏やかな瞳を持つBLUE LANDを治める青き王女。
彼女が変身した鳥こそが、BLUE LANDを治める強い力を持つ神の鳥です。
私たちは、その神の鳥の事を、『ミューラ』と呼んでいますが、そのミューラでないと、天上界の中には入れません。
だから、蒼さまは、ミューラの力を、あの塔に封印したのです。」
 
「どういう・・・事ですか?」
 
わかるようで・・・やっぱり、わからないや。
なんで、蒼さまが、そんな事を?
 
「WONDER LANDを治めている龍の混血である彼が、二度と天上界へ戻れないようにする為です。
地上を支配したなら、きっと天上界をも彼は思い通りにするでしょう。
それを、止めるために、蒼さまは、念じる力を使って封印したのです。
まず、天上界へ唯一戻る事ができる、ミューラの力をあの塔に封印しました。
国を治める青い王女は、生まれながらに青い髪とミューラに変身する能力を持っている。
でも、この世に誕生した途端、その能力はあの塔に吸い取られるようになっているのです。
だから、私の目の色は、生まれた時から黒。
きっと、あの塔の封印を解き、ミューラの力を、この体にあたえたなら、瞳も元のオレンジの輝きを取り戻すと思います。
だけど、蒼さまは、念には念をという事で、このBLUE LANDを、龍の混血の彼には、これないように、地底に埋めた。
それも念じる力をつかったといわれています。
あなた方が、通ってきた地下水路は、地上で生まれた混血人間にしか通れないように、制約が交わされています。
ですので、天上界で生まれた龍の混血の彼には、あそこは通れません。
ここへも、来る事ができないのです。」
 
なんか・・・頭がこんがらがったまま・・・。
何も言えない私に、藍瑠(アイル)さんは、どんどん続ける。
 
「お気づきかと思いますが、このBLUE LANDにある水は、地下水路にある水が流れてきたもの。
緑豹国に月が戻ると同時に、この水は、あの扉を通り抜けて、戻っていきます。
そして、BLUE LANDにある月や太陽も、水が戻れば、同時に『もとの場所』に戻ってしまいます。
そしたらまた、ここは日の当たらない暗い国となってしまいます。」
 
それを聞いて、少し納得した。
どうして、地底であるここに、太陽や月があるのかって思っていたから。
地上で消えたら、こっちにくるんだ。
つまり、表と裏。
交代に回ってるって事。
もしかして、これも・・・。
 
「蒼さまの制約ですか?」
 
藍瑠(アイル)さんは、「もちろんです。」と笑う。
だよねー。こんなおかしな事、蒼さまが、しむけてるとしか思えないよ。
でも、あの蒼輝が開けた扉を、水が通り抜けるって・・・。
 
「入り口の蒼輝が開けたあの扉は、誰にも開けれないのですか?」
 
「こちらからは、水と同様、すり抜ける事ができるんですよ。
でも、向こう側からは、鳥との混血人間以外で開けれるのは、緑の髪に青い瞳を持つ、緑豹国の緑の王でないと、開けれません。
ですから、翠さんが、ここを出られても、蒼輝さまが外に出ない限り、二度とこちらに入る事はできない。という事になります。」
 
なるほど〜。と納得する私。
そんな私に、「それで、本題なんですが・・・。」と藍瑠(アイル)さんはいうと、また私の前に座った。
 
「あなた方がここへ来たのは、雅(ミヤビ)が持っていた書物にも書いてありましたが、ミューラの封印を解くためです。」
 
「えっ?」
 
という私に藍瑠(アイル)さんは続ける。
 
「ミューラの封印を解き、神の鳥を復活させて、あなた方は、天上界へと行かねばなりません。
きっとそこで、RED LAND・・・。
書物には、『赤龍人(セキリュウジン)』と書かれてありましたが、彼らが待っているでしょう。」
 
赤龍人(セキリュウジン)・・・。
その時、私はある言葉を思い出した。
私の夢に出てきたあの綺麗な女性。
彼女が、私に言った。
『逢えるのを楽しみにしてる』って。
彼女は、ここにはいなかった。
つまり、彼女は、赤龍人(セキリュウジン)で、RED LANDの人って事?
だったら・・・私たちは、なんとしても天上界へ行かないといけない。
となれば・・・。
 
「それで?封印はどうやって解くんですか?」
 
と聞く私に、藍瑠(アイル)さんは、「その事ですけど・・・。」とちょっといい聞くそうに口にする。
 
「なん・・ですか?」
 
なんか、ちょっと・・・恐いんだけど。
嫌な予感がしてきた。
恐くて自ら言っちゃう。
 
「もしかして、それを、蒼輝が拒んだんですか?」
 
それには、反対に藍瑠(アイル)さんが驚く。
その驚き顔で、間違ってないと知った私。
 
「蒼輝からは、さっきも言ったように、全く何も聞いてないんです。
でも、だから余計にわかるんです。
私が嫌がること・・・。
私が傷ついて、泣いてしまうような事が、封印を説く方法なんじゃないかな?って・・・。
私・・・、藍瑠(アイル)さんが、私に話したがってる。って聞いた時点で、覚悟はしてました。
だから、封印の解き方を・・・教えていただけませんか?」
 
私の言葉に、「そうですか・・・。」というと、藍瑠(アイル)さんは私を真剣な瞳で見た。
 
「封印を解く方法は、代々言い伝えられていて。
それは・・・。
緑の王と結ばれる事なんです。」
 
「へっ?」
 
って、いうしかないでしょ。
すごい事を言われるんだろうなって・・・覚悟はしてたよ。
してたけど・・・まさかっ!!
こんな事いわれるなんて!!
な・・・なに、そのわけがわかんない封印の解き方は!!
そんな事・・・信じられるわけないじゃない。
 
「それ・・・ホントなんですか?」
 
ちょっと、疑いの眼差しで見るけど・・・藍瑠(アイル)さんは、完全に真剣。
その顔を見て思う。
 
嘘でしょ〜。
 
って。
 
「封印を解くには、その封印をした蒼さまと同じように、緑の髪に青い瞳を持つ緑の王。
そして、ミューラの力を受け取る青い王女。
この2人が、一緒になり、力を1つにした時に、封印は解けるといわれてます。
BLUE LANDの王が、初代の朱雷(シュライ)さま以外は、ずっと王女で女性だったのも、そういう制約を交わしたからだといわれています。」
 
朱雷(シュライ)って・・・あの、写真に載っていた青鳥国(セイチョウコク)の王の名前かな?
そうだよね、彼は男だもん。
 
「蒼輝は・・・それを、聞いてなんて。」
 
「もちろん、出来ないって断られました。
自分は、愛している女性がいるから、彼女以外を抱かなければいけないのなら、もういい。
そういわれました。」
 
それを聞いて、嬉しかった。
っていうより・・・やっぱりね。って思った。
蒼輝なら、そう答えるって。
でも、それじゃダメなんだって、わかってる。
私は何の為に、ここの時代に来たの?
蒼輝を愛する為だけに来たんじゃない。
天上界へいかなきゃいけない。
なら、封印をとかなきゃ・・・。
どうせ、私と蒼輝は・・・結ばれない運命なんだから。
 
「藍瑠(アイル)さん。」
 
私は彼女の名を呼ぶ。
私から目を離していた藍瑠(アイル)さんは、「はい。」と私を見る。
 
「藍瑠(アイル)さんは、蒼輝に抱かれる事は・・・その抵抗はないんですか?
いくら、封印を解く為とはいえ、好きでもない人と・・・。」
 
だけど、藍瑠(アイル)さんは、ニッコリ笑う。
 
「私は、ミューラを復活させてくれる緑の王が来てくれる日を、ずっとずっと待ってたんです。
それに、蒼輝さまは、私の理想の方でした。
お話しても優しくて暖かくて。
それでいて、翠さんを心から愛してる。
『異世界』の翠さんを、こんなにも愛せる・・・とても優しい人だと、私は気に入りました。」
 
その言葉には、もちろん、
 
「ちょっと、待って!!」
 
とストップをかける。
今、藍瑠(アイル)さん、変な事いったよね。
だって・・・。
 
「どうして、私が異世界から来たって知ってるんですか?」
 
これは、誰にも言っちゃいけないって蒼輝が言ってて。
まさか、蒼輝がいうはずないし・・・。
すると、意外な答えが。
 
「雅が持っていた書物に書いてありました。
翠さんが異世界からくる事。
この世界にいられる時間が少ない事も。」
 
そういうと、藍瑠(アイル)さんは、立ち上がると、私の目の前に来た。
 
「あなたは、いずれ元の世界に帰ってしまう。
いくら、蒼輝さまを想っていても、それは変えられない。
蒼輝さまを、縛り付けることが、愛じゃないと、あなたも本当は気付いているはずです。
そして、自分は、わざわざ時空を越えて、なぜここへ来たのか。
蒼輝さまを、愛するためだけにきたのではない。という事にも、本当は気付いているんですよね?
私たちは、もう、引き返せない所まで、きてしまってるんです。
時代が、流れ始めてしまった。
もう、引き返す事も、立ち止まる事もできない。
ミューラを復活させなければ・・・この世界そのものが、滅びるのも時間の問題でしょう。
蒼輝さまが生きるこの世界を守れるのは、あなたの気持ち次第です。
守って・・・くれますよね?」
 
選択を迫られて、私は頭で出ている回答と、心で出ている回答が、ちぐはぐで、口に出すことができなかった。
 
「わたし・・・。」
 
とだけ言って黙る私に、藍瑠(アイル)さんは、「翠さん!」と言って私の手をつかんだ。
思ったより、彼女の手はあたたかくて、私は少し驚いてしまった。
 
「無礼を承知でいいます。
蒼輝さまを・・・諦めてくれませんか?」
 
「なに・・・言ってるの?」
 
もう、理解不能。
わけわかんないよ。
ただの儀式でお互いが一緒になる。っていうんじゃなくて・・・。
それって・・・どういう・・・事?
 
胸が高鳴って、息がしづらくなる。
頭は、真っ白になって、何も考えられなくなった。
ただ、藍瑠(アイル)さんの声だけが、頭に入り込んできた。
 
「私は、ずっとずっと緑の王に、恋してました。
見たこともない王にです。
バカバカしいと言われたら、それまでですが・・・。
でも、私は、実際に蒼輝さまと逢えて、うれしかった。
いいえ。蒼輝さまでよかったと思いました。
私の理想の人で・・・。
彼と、ずっと一緒にいたいと思いました。
翠さんの分も、私は蒼輝さまを、愛していきます。
ですから、私に蒼輝さまを、譲ってくれませんか?」
 
途中から、私の頭には、「待ってよ!!」って言葉が連呼してた。
どんどん大きくなって、最後には、「ちょっと、待って!!」と・・・叫んでた。
それっきり・・・何も言わない私に、藍瑠(アイル)さんは、「ごめんなさい・・・。」と力のない声でそう謝った。
そんな彼女の声がとても弱々しくて・・・私は、たまらず、
 
「ごめんなさい・・・大きな声出しちゃって。」
 
と謝った。
 
「いえ・・・私の方こそ、失礼な事を言って、ごめんなさい。」
 
藍瑠(アイル)さんは、そういうと握っていた私の手を離し、立ち上がる。
 
「今言った事は・・・忘れて下さい。」
 
彼女はそういうと、「蒼輝さまが言ってました。」と口にした。
私は、蒼輝という言葉で反応して、藍瑠(アイル)さんを見る。
彼女はとても優しく笑ってた。
 
「ミューラの事は諦める。
でも、もし、本当にミューラを復活させなければいけない状況になったら、封印を解く別の方法を、絶対にみつけてやるって。
その時に、またここを訪れるよ。
ってそうおっしゃってました。」
 
藍瑠(アイル)さんは、そういうと、「まだ、早いです。もう少し、おやすみになって下さい。」というと、また窓の方へと歩きかけた。
彼女の後ろ姿を見ていて、私はつい口にしてしまった。
 
「封印が解けても、本当にずっとずっと、蒼輝の側にいてくれますか?」
 
私の言葉に、動き出した藍瑠(アイル)さんの足が止まる。
彼女がゆっくりと振り返る。
 
「すい・・・さん?」
 
と聞いてくる彼女に私は、自分の願いをぶつけた。
 
「私は、いくら願っても、蒼輝の側には、あと少ししかいられない。
彼は、あー見えて、心はたくさんの傷と不安を抱えてて、すごく弱いんです。
私が、この世界を去ったあと・・・彼がどうなるか、正直不安なんです。
だから、今の時点で、蒼輝が私を想う以上に、誰かを愛したら・・・私は、思い残す事がなく、自分の世界に戻れます。
やっぱり、『同じ世界に生きる』者同士が、愛し合わないといけないと思うから。
蒼輝の生きる世界で、存在している藍瑠(アイル)さんが、蒼輝を愛してくれるなら・・・蒼輝の事を頼みたい。
私は、私で、自分の世界で生きている人を、愛して生きていかなきゃいけないから。
お願い・・・できますか?」
 
私の言った言葉に、藍瑠(アイル)さんは驚いて言葉も出ないようだった。
でもね・・・。
一番驚いてるのも私。
そして、一番納得してないのも・・・私なんだよ。
こんな、花丸がつきそうなくらい、完璧な正当な答えが、出せるわけないじゃない。
心を全否定して、頭だけで考えた・・・そんな答えでしょ!
心が、こんな割り切った答え出せるわけないよ。
私だって、わかってる。
今の幸せは偽りの幸せなんだって。
いずれ、終わっちゃう幻なんだって事ぐらい。
でも、それでも、好きなんだもん。
しょうがないでしょ?
一緒に居たいって・・・思ってしまう。
藍瑠(アイル)さんに、蒼輝をあげるなんて。
まして、蒼輝を愛したチナリさんにうりふたつの人だなんて・・・。
私が今緑豹国に戻ったら、きっと蒼輝は傷つくと思う。
私が、藍瑠(アイル)さんと抱き合う事を、承諾したって・・・。
そんな蒼輝を、藍瑠(アイル)さんがなぐさめるの。
それも、蒼輝が『救えなかった。』と後悔しているチナリさんに、うりふたつの彼女がだよ。そんなの・・・蒼輝が藍瑠(アイル)さんに、傾いちゃうのは当たり前だよ。
私の事なんて、あっと言う間に頭の片隅にもなくなっちゃうはず。
そうなる事は、わかってるから、私の心が必死で止める。
 
ダメ。緑豹国に帰っちゃダメ。
藍瑠(アイル)さんに、蒼輝を渡しちゃダメ。
二度と蒼輝の心は、戻ってこない。
彼に抱きしめられる事も、キスをされる事もなくなっちゃうんだよ!
 
って・・・。
でも・・・こうする事が、絶対にあってるから・・・。
そして・・・私は、決心した。
 
「藍瑠(アイル)さん。
私は、今すぐ、サンガと共に、緑豹国に戻ります。
私を探す蒼輝に言って下さい。
『封印が解けるのを、緑豹国で祈ってるから』って。
それから、蒼輝の事・・・よろしくお願いします。」
 
私は、溢れそうになる涙を必死で耐えて、藍瑠(アイル)さんに頭を下げた。
下を向いたせいで、瞳に溢れていた涙が、床に数滴落ちた。
それを、見た藍瑠(アイル)さんは、
 
「翠・・・さん。」
 
と戸惑った様子で口にすると、言葉をつまらせる。
でも、私は気付かないふりをして、顔をあげると、「失礼します。」と涙声になりながら小さな声でそういって、猛ダッシュでその場を去る。
息があがるけど、それでも私は走り続けた。
私の帰りが遅いのに心配したサンガが、途中の廊下で待っててくれた。
 
「翠、あまりに遅いから心配して・・・。」
 
サンガは、そこで止まる。
私が、サンガに抱きついて、泣き出しちゃったから。
声を出して、大泣きする私をサンガは、戸惑う事無く、「よしよし。」と言って優しく抱きしめながら、頭をなでてくれる。
 
「サンガ・・・私・・・。」
 
『蒼輝を藍瑠(アイル)さんに、あげてきちゃった。』って言おうとしたけど、その先が言えなくて、言葉をつまらす。
だけど、サンガは、
 
「わかってる。翠はよくやった。
偉かったな。」
 
といって、今度は私を強く抱きしめてくれる。
だけど、すぐに腕を緩めて、私を自分から少し離して、私の顔を見ると、涙をぬぐってくれながら、とても優しく笑い・・・。
 
「翠・・・緑豹国に帰ろうか。」
 
サンガのその言葉に、私は、素直に、「うん。」と答えた。
声に出したら、また・・・涙が溢れた。
 
私の選択は間違ってない。
これでよかったんだ。って思ってる。
でも、やっぱり、心は納得してないよ。
蒼輝が他の人を抱くなんて・・・。
私のことを、忘れちゃうなんて・・・。
そんなの、嫌。
絶対嫌だよ。
せめて、この場から離れたい。
私以外の人を、愛する蒼輝の姿なんて・・・見たくなかった。
 
 
☆☆☆9章END☆☆☆
 
 



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