蒼輝たちが、塔を登って、30分が過ぎた頃、先頭を登っていたトーワくんの姿が消えた。
そして、次にヒビキさんの姿も消えて、最後に、私たちも塔の最上階へと辿り着いた。
そこは、円形のフロアーみたいになっていて、広さは20畳くらいはあるかな?
結構、広かった。
そこには、何もなかった。
てっきり、女力(ジョリョク)の鍵をはめ込む扉とか、何かがあるのかと思っていたのに。
「何にも、ないぞ!」
フロアーの隅々まで、じっくりとみながら、一周してきたサンガは、私たちにそう報告した。
「塔のどこに、封印されているか、わかりませんか?」
と藍瑠(アイル)さんにヒビキさんは聞くけど、「ごめんなさい。」と藍瑠(アイル)さんは申し訳なさそうな顔をして謝る。
「なんだよ!王女とか言って、何も知らないのかよ!」
というサンガに、「それは、しかたないですよ。」と雅さんはいう。
「それ、どういう意味だ?」
と蒼輝が聞くと・・・。
「俺たちは、この塔にすら、登った事がない。
今が初めてなんだ。
それに、よくよく考えたら、ミューラの事も、封印の説き方も、封印自体がどういう風にされているかも・・・何も知らない。
全く、何も知らされていないんだ。」
それを聞いたヒビキさんは、「そういう事なら・・・。」というと、青鳥国(セイチョウコク)の書物を出す。
「確証はないが、これに、書いてる可能もある。
なら、片っ端から、翠ちゃんに念じてもらって、文字が隠れていないかを調べるしかないな。」
それには、「おい、待てよ!」と蒼輝が止める。
「お前、正気かよ!
翠の念じる力は、いえば王の4つ目の力なんだぞ!
そう、やみくもに使ったら、翠にも負担がかかるんだ。
わかってんのかよ!」
だけど、「だったら、どうするんだ!」と、ヒビキさんにしては、珍しく声を荒げて言い返してくる。
その声に、私もサンガもトーワくんも、驚いてしまって言葉が出なかった。
でも、蒼輝は、そんなヒビキさんにも、普通に答えた。
「お前らしくない。
もっと、冷静に考えてくれよ。
お前になら、俺たちには考え付かないような事が浮かぶだろ?
頼むよ。」
なだめるように言った蒼輝の言葉に、煮詰まっていたヒビキさんの心が少し落ち着きを取り戻した。
「・・・悪かった。」
ヒビキさんは、そういうと、新たな案を考える為、何気にその書物をパラパラとめくり出した。
だけど、しばらくして、ヒビキさんの動きが止まった。
めくられていたページは勝手に、パラパラと進み、最後は、パタンと音を立てて閉じられた。
「ひ・・・びき?」
明らかにおかしいヒビキさんの様子に、サンガはヒビキさんを心配する。
でも、ヒビキさんは、一点を集中して、全く動かない。
「おいっ!どうしたんだよ!ヒビキ!」
そう叫んで、サンガがヒビキさんの元に駆け寄ろうとしたけど、その腕を素早く蒼輝がつかみ、サンガは勢いよくその場に座らされた。
「いってぇーな。なんだよ!」
と怒るサンガに、側に近寄ってきたトーワくんが口を開く。
「ランちゃんと、話してるんだから、邪魔しないのぉー!!」
って。
それには、私までもが騒いじゃう。
「えっ?そうなの?」
と蒼輝に聞くと、彼は、「たぶんな。」と言って笑った。
「でも・・・なんで?
緑豹国で、何かあったのかな?
まさか、ジギルがしかけてきたとか?」
心配する私と違って蒼輝は、ノンキに雫を3滴飲んでる。
豹の姿になって、辛かったみたいで、それを飲んだら、少し元気になった蒼輝は、やっと私の心配にも答えてくれた。
「それは、ないだろう。
たぶん、ランがヒビキを呼んだのは、あれだ。」
といって、ヒビキさんの持っている青鳥国(セイチョウコク)の書物を指さした。
「書物??」
首をかしげる私に、「お前、気付かなかったのか?」と蒼輝はいう。
「何が?」って聞くと・・・。
「ヒビキが、緑豹国にあった書物を持ってきていないだろう。
アイツの性格上、いつ文字が出てくるかわからない書物を、自分から離すなんて、ありえないんだよ。
きっと、アイツなら、肌身離さず持ってきたはずだ。
でも、そうじゃないって事は・・・。」
「何なの?」
とたまらず、すぐに聞いてしまう。
腕をつかんで聞く私に蒼輝は、その手に優しく触れると、
「持って来れなかった。って事だ。」
と言った。
持って来れなかった・・・。
って、それって、つまり・・・。
「それ、ホントなのか!ラン!!」
急にヒビキさんの大きな声が、フロアー全体に響き渡る。
もちろん、私は、「うわっ!」と言って飛び上がった。
ただならぬヒビキさんの驚きに、蒼輝は私の手を自分の体から離すと、「ここにいろ。」と言って、腰を上げる。
そして、歩き出す前に、チラっと横に居たサンガを見た蒼輝。
蒼輝はそのまま、ヒビキさんの元へと歩いていった。
「よいしょ!」
横でそんな声がして、私はさっき蒼輝が居た場所に目を向ける。
そこには、ある人の姿が。
「サンガ・・・どうしたの?」
そりゃ、聞くよ!
だって、さっきまで、私、蒼輝、サンガ、トーワくんの順番で横並びしていたのに、蒼輝が居なくなった途端、サンガが私のすぐ側に来たんだもん。
別にいいんだけど、どうしてサンガが私の側にわざわざ移動してきたのか、ちょっと不思議だったの。
別に、敵がいるってわけじゃないし・・・。
不思議顔で聞く私に、サンガは、「だってさ。」というと理由を言った。
「ご主人様に、『翠を守れ』って言われたからさ。
俺は、蒼輝の家来だから。」
と笑顔で答える。
それを、聞いてホント思うよ。
この2人には、叶わないって。
蒼輝とサンガ。
もともとは、敵同士だったのに、こんなに心が通い合うなんて・・・。
人の心って、ホント不思議だよ。と心から思った。
「ヒビキ、一体何を言われたんだ?」
と話しかける蒼輝に、ヒビキさんは、彼の目の前に左手を出すと、「ストップ」という素振りを見せる。
まだ、ランさんと話している感じだった。
そして、今度はその状態のまま、蒼輝を「チラ。」と見た。
その仕草に、蒼輝はサンガの方に振り返った。
「サンガ!七つ道具貸して!」
蒼輝にそう言われて、サンガは迷わず、ペンとメモ帳を取ると、蒼輝に向かって投げた。
それを、受け取ると、開けて、ヒビキさんに渡す蒼輝。
これを見て私は思わずため息をついちゃう。
「どうかしたか?」
というサンガに、
「いつの間に、こんなにコンビネーションがよくなってるわけ?」
と呆れる私。
だって、蒼輝は、ヒビキさんが文字を書きたがってる。って、目だけでわかっちゃったわけでしょ?
で、サンガも、蒼輝が七つ道具としかいってないのに、迷わずペンとメモ帳を渡した。
どれだけ、心がつながってるのよ。
私の入る隙間は、なさそうだな〜。て思ったら、ちょっと寂しくなっちゃう私。
「よし!わかったぞ!」
ランさんとの交信が終わったヒビキさんは、メモを取り終わると同時に私たちの方を見た。
「封印の鍵を入れる場所へは・・・。」
と言いかけたヒビキさんに、「待った。」と蒼輝がたんまをかける。
「ん?どうした?」
と聞くヒビキさんに、「その前に聞きたい事がある。」と蒼輝はいうと、
「どうして、緑豹国の書物を持ってこなかった?
というか・・・持って来れなかったんだよな?
どういう事か、教えてくれないか?」
蒼輝の言葉に、「さすが、察しがいいな。」とヒビキさんは笑うと、持ってこれなかった理由を語った。
「俺は、書物を持ったまま、井戸の中に少し入ったんだ。
そしたら、書物の表にあるブルーキングの花の刺繍が、消えたんだよ。
それで、中を見たら、さっきまで書いてあった文字すらも消えていた。
俺は、すぐに井戸から出た。
すると、ブルーキングの刺繍が戻り、書物の文字も、戻ってた。
つまり、あの書物は、『緑豹国の城』からでたら、効力が消えてしまうんだ。
だから、持ってくる事ができなかった。
幸い、俺とランは交信が可能だ。
だから、ランに本に何かが現れたら、すぐに知らせるように言っておいたんだ。」
ヒビキさんはそういうと、「これで、納得したか?」と蒼輝に念を押す。
それには、蒼輝も「ああ。」と答えた。
「じゃ、本題に入るぞ。」
ヒビキさんは、そういうと、さっき書いたメモに目を通した。
「緑豹国の書物には、
『真(シン)に青き剣(ツルギ)が立つ時、時は訪れる。』
と出たんだ。」
それには、みんなが一斉にいう、「どういう意味?」って。
でも、ただ一人。
雅さんだけが、「もしかして・・・。」という反応をして、自分の腰に付いている剣(ツルギ)を鞘(サヤ)ごと、自分の腰から抜き取り、私たちの前に置いた。
「『青き剣(ツルギ)』って・・・これじゃないですか?」
そういってヒビキさんを見る雅さんに、「たぶんね。」と笑って答えると、
「まだ、書物には続きがあってね。」
というと、メモを読む。
「『青き剣(ツルギ)に、緑の力を注いだなら、新たな道が現れる。』」
それには、今度は蒼輝が答える。
「緑の力って・・・俺か?」
ヒビキさんは頷いた。
でも・・・。
「どういう事?
その剣(ツルギ)に、蒼輝の力を注ぐって・・・。」
さっぱり意味がわからない私だけど、蒼輝は雅さんが出した青い剣(ツルギ)を手に取ると、ヒビキさんの元へと行く。
「お前は、全てわかってるんだろ?
時間がない。
俺たちを、導いてくれ。」
蒼輝の言葉に、「ああ。」とヒビキさんは答えると、メモをポケットに入れ、メモ帳とペンをサンガに向かって投げた。
「真(シン)というのは、このフロアーの丁度真ん中って事。
だから・・・。」
とヒビキさんは言うと、スタスタとフロアーの真ん中めがけて歩いていく。
私たちもゾロゾロと、ヒビキさんに付いていく。
「ここが、真ん中のはずなんだが・・・。」
というと、ヒビキさんは床をジックリと見る。
「ここに、わずかな刺し傷みたいなのがある。
剣を刺した傷だろうな。
ここに、剣を鞘(サヤ)からだして、突き刺すんだ。」
ヒビキさんの言葉に、蒼輝は青い剣(ツルギ)を鞘から出すと、言われた通り、わずかについている傷に、剣の先端を合わせた。
鉄がこすれるような、冷たい冷(サ)めた音が聞こえた。
「この状態で、蒼輝の緑の力を入れる。
蒼輝、強く念じろ。
『俺の力よ。剣の中へと入れ。』ってな。
たぶん、体のギリギリまで、力を与えないと、反応は見せないだろう。
最悪、死のギリギリまで吸い取られるかもしれない。
それでも、絶対にやめるな。
俺たちが、雫で救ってやるから・・・。
俺たちを、信じられるか?」
ヒビキさんの言葉に蒼輝は、ニッコリ笑うと、
「答えるまでもねぇーだろ?」
と言って、
「それじゃー、やりますか!」
と明るい声で叫ぶと、目をつぶり気を剣へと集中させた。
まず、蒼輝の体が、緑色に光(ヒカリ)輝いた。
気を集中させたら、彼らの体は光るんだ。
だけど、さらに、もっと気を集中したため、蒼輝は豹の姿に変わってしまった。
手から剣が離れる。
「おい!いいのかよ!」
と驚くサンガだけど、やってる蒼輝本人は、全くひるむことなく、そのまま剣の数センチ後ろにいる状態だけど、念じ続けた。
「強く念じ続ければ、豹の姿に変わってしまうのは、当たり前。
たぶん、剣がほしがっている『緑の力』ってのは、豹に変身した時の蒼輝の強い緑の力の事を言っていたんだと思う。
だから、これでいいはずだ。
もう少し、様子を見てみよう。」
ヒビキさんは落ち着いてそういうけど、私は気が気じゃなかった。
だって、豹に変身した蒼輝は、体に受けるダメージが尋常じゃないんだよ。
なのに、さらに、死んでしまうギリギリの力が抜かれるなんて・・・。
そんなの、今の蒼輝だったら、ギリギリどころか死んじゃうよ!
嫌よ!絶対に、蒼輝をしなせない!!
私が、そう心から強く思った時だった。
「おい!あれ!なんだよ!!」
蒼輝の体が、異常なまでに光(ヒカリ)輝いた。
と思ったら、今度は蒼輝の少し後ろから、緑の火柱が立った。
蒼輝を包み込むように、緑の強い炎が彼はもちろん、青い剣ごと、包みこんだ。
その緑の炎は、さらに上空を切り裂くくらい、高く高く燃え盛る。
「な・・・んで?」
炎が蒼輝を包んでる。
そんなに燃えないでよ。
蒼輝が、死んじゃうじゃない!
私は、ショックのあまり、その場に崩れた。
「翠っ!」
とサンガは心配して私を見るけど、私は「どうしよう。」とつぶやいた。
蒼輝を助けるつもりが・・・蒼輝を焼き殺してしまった。
高らかに燃える炎を、ただ呆然と見ている私に、ヒビキさんは近付いてくる。
そして、私の肩をポンと叩きながら言った。
「大丈夫。心配はいらないよ。」
ヒビキさんの言葉に、「えっ?」と言いながら私はユックリとヒビキさんに、顔を向けた。
「反対に、翠ちゃんのおかげで、蒼輝は無事だ。」
そういった、ヒビキさんは、「もうじき、あの剣が反応をしめすはずだ。」と言って蒼輝に目を向けた。
その時、蒼輝がいた場所の半径2メートルくらいの円形部分が、ガタガタと音を立てて、少しずつ上に上がっていく。
蒼輝は、まだ緑の炎で包まれていて、彼がどうなっているかはわからない。
でも、ヒビキさんは蒼輝の事は気にしないで、すぐに私たちに叫んだ。
「台に乗れ!」
その声に、雅さんは側にいた藍瑠(アイル)さんを抱きかかえて、台に飛び乗った。
そして、私はサンガに抱えられて、台に飛び乗り、ヒビキさんとトーワくんは、自ら飛び乗って、全員が無事台へと乗った状態で、その台は、どんどん上へと上がっていった。
天井も飛び越えて、さらにどんどん上へと上がっていく。
やがて、はるか上空に、浮かんでいる部屋みたいな物が見えた。
その部屋に開いている穴みたいな部分に、うまい具合に、その台はあてはまり、そして、動きは止まった。
「さっきと、造りは一緒だな。」
と言ったサンガ。
確かに・・・と思ってしまう。
そこには、さっきと全く同じフロアーがあった。
たださっきと違うのは、このフロアーには、奥に『台座』があって、その上には、大きな玉が置かれてあった事。
そして、さっきまで、緑の炎に包まれていた蒼輝だけど、台が止まったら、その炎も、徐々に弱まり出し、やがて消えた。
蒼輝は、いつの間にか、豹の姿から、人間の姿に戻っていた。
「ふぅー。」
と声を出した蒼輝に私はかけより、たまらず彼に抱きついた。
「蒼輝!体は、大丈夫?」
けど、蒼輝はさっきと全然変わらないくらい、元気だった。
「うん、全然なんともない。」
そう言って、すぐにヒビキさんを見る。
「一体、これはどういう事なんだ?」
それには、ヒビキさんも、「えっ?何が?」とちょっと意味がわからないみたいで、聞き返す。
「何がって・・・。」
と蒼輝は一言突っ込むと、疑問に思っていたことを言った。
「さっき、豹の姿に変身したあと、体からどんどん力が吸い取られたんだ。
正直、もうダメだって思ったよ。
今の俺じゃ、耐えられないって。
そしたら、急に緑の火柱がたって、俺と剣を包んだ。
それに、包まれた途端、俺の体にどんどん緑の力が戻ってきたんだ。
まるで、変身が出来た時の俺に戻ったみたいだった。
気付けば、人間の姿に戻ってて、その状態で、俺は剣に力を注いでた。
あの火柱から俺に力が注がれて、その力を俺が、剣に注いでる。
そんな感覚だったんだ。
一体、あの緑の火柱はなんだったんだ?」
それには、ヒビキさんは、「翠ちゃんに感謝するんだな。」と言って優しく笑った。
もちろん、その言葉に、蒼輝は「えっ?」と言って、腕の中にいる私を見た。
「す・・・い?」
首をかしげる蒼輝に、
「翠ちゃんは、お前が耐えられない事に気付いたんだ。
このままでは、お前が死んじまうってな。
それで、自分が助けたいってたぶん、心から念じたんだろう。
お前には、言ってなかったけど、緑の力を失っても、翠ちゃんの『念じる力』は、弱くはなるが、生きてるんだ。」
それにはもちろん、蒼輝は、「おい、待てよ!」と話を止める。
「だって、最初に翠の力を、引力の玉に入れた時、ネックレスを取ったら、お前の声が聞こえなかっただろ?」
だけど、ヒビキさんは、「たぶん、特殊なんじゃないかな?」と返すと・・・。
「翠ちゃんが、本当に心から思ったら、すごく強い念になる。
たぶん、それが、遠く離れた緑の力と共鳴しあって、発動したんだ。
さっきの強い力は、2つの事が原因だったと思う。」
ヒビキさんは、そういうと、続けた。
「1つは、救いたいと思ったのが、蒼輝だった事。
翠ちゃんが、蒼輝を救いたい。って思う気持は、そりゃ強いと思うからね。
そして、救いたいと思っている本人が、遠くならパワーが落ちるかもしれないけど、すぐ目の前にいた。
気持が強いまま、蒼輝に届いた。
それから、もう1つ。
これは、一番重要だと思うんだけど。
さっきも、言ったように、翠ちゃんの体から離れた緑の力と、翠ちゃんの思いが共鳴して、力を発揮する。
つまり、今緑の力は蒼輝の体にあるわけだから、『蒼輝の体』と共鳴する事になる。
裏をかえせば、蒼輝との距離が近ければ近いほど、共鳴しやすいんだよ。
さっきの翠ちゃんと蒼輝の距離は、この上なく近かった。
翠ちゃんの深い思いの念と、蒼輝の体内に入っている緑の力とが、引き寄せ合って共鳴しあった。
それで、あんな強い力が出たんだと思う。
現に、俺と心での会話も多少はできるが、そばにいても聞き落としてしまうくらい、小さな声なんだよ。
それは、心の深い深い奥底から念じていないからだと思う。
そんな事、簡単にできないから、仕方ないけど。
蒼輝の命となれば、そりゃ深くもなるよ。」
ヒビキさんはそういうと、一人ごとみたいに言った。
「それにしても、自分の中に力がないくせに、あれほどの力が出せるとは。
翠ちゃんの念じる力には、もっともっとすごいパワーが隠されているのかもしれないな。」
そして、今度は蒼輝を見て、ニッコリ笑うと、
「蒼輝!命拾いしたな。」
と明るい声で言った。
そして、私たちに背を向けると、台座に向かって歩いていく。
みんなも、ヒビキさんについて歩いていった。
「私たちも行こうか。」
と言った私を、蒼輝はさらに強く抱きしめた。
「な・・・に?」
とビックリして蒼輝を見るけど、蒼輝はすごく優しい目で私を見てた。
「どうしたの?」
それには、答えずに蒼輝は、私に口づけをした。
そして、唇を離すとすぐに言った。
「ありがとう。」
って。
私は、やっと蒼輝の役に立てたんだ。と思って、心から笑顔になった。
台座に着いたヒビキさんは、置かれている大きな玉を見た。
「その中に、ミューラの力が封印されてるのか?」
と聞くサンガに、「おそらく。」とヒビキさんは答えると、今度は台座を隅々まで見た。
「これだ!」
ヒビキさんの言葉に、みんなが一斉にヒビキさんの見ている先を目で追う。
そこには、例の穴があった。
まるで、鍵の部分を抜き取られたような感じ。
だって、その台座には、鍵の形がくっきりと残ってるんだもん。
とても、小さな小さな鍵みたいで、その鍵の形は、とても小さかった。
「ここに、その鍵をはめ込めばいいって事か。」
蒼輝はそういうと、「で、その鍵は?」とヒビキさんに聞くけど、それには答えずに、ヒビキさんはそのまま藍瑠(アイル)さんと雅さんに聞いた。
「やっぱり、わかりませんか?」
って。2人は、黙って頷いた。
「鍵のありかは、緑豹国の書物には載ってなかったのかよ!」
蒼輝の言葉に、「ああ。」と力なく答えるヒビキさん。
ここまで、来たのに、煮詰まってしまった。
みんなは、力なくそこに座り込んだ。
でも、私は、その玉が気になって、ひとり歩いて玉に近付いた。
大きな玉の中には、青い光がうごめいていた。
それを見ていたら、何としてもミューラを復活させたくなった。
私たちは、こんな所で足踏みしているわけにはいかない。
何とかして、糸口をみつけなきゃ!
なんて、気合いを入れてみるけど、大きな玉を見ても何も得られなかった。
「翠!こっちこいよ!」
蒼輝に呼ばれて、「うん。」と答えた私は、蒼輝の方に行こうとして、何気なく台座を見た。
遠くにいた時はわからなかったけど、近くで見て初めて気付いた。
台座には、綺麗な宝石が、散りばめられていた。
そして、蒼輝の方に、1歩踏み出して・・・私は足を止めた。
ん?・・・あの宝石・・・。
私はそのまま立ち尽くす。
「翠?どうかしたか?」
蒼輝にそう言われていることも聞こえないくらい・・・私は考え込んでた。
あの宝石・・・どっかで見たような。
そして、私は、もう一度台座に戻った。
しゃがんで、しっかりと台座を見る。
宝石をじっとみるけど・・・思い出せなかった。
ぐるっと一周台座の周りを回って、最後に鍵をはめ込む所に辿りついた。
近くで見て思った。
ホントに、これって、鍵の形なんだー。
って。
そう思って、気付いた。
って事は、この大きさの鍵を探せばいいって事なんだって!!
意外に小さいなー。
と思って・・・。
私はまた考え込んでしまう。
この小さい鍵。
どっかで見たことあるような・・・。
えー!!どこだっけー!!
「う・・・・ん。」
と座り込んで考えた私。
心配した蒼輝とサンガが、私の方へと来た。
「おいっ!翠、どうした?」
その時、私は重大な事を思い出したの!
「あー!!」
立ち上がって大声で叫んだ。
私の声にみんなは、驚いて口をポカーン。
でも、私は振り返って、ヒビキさんを見る。
「この鍵の場所がわかったよ!!」
って。
「ホントか?」
と蒼輝が聞いてくるけど、ヒビキさんは冷静に、「それは、どこ?」と聞いてくる。
私は、自信満々に答えた。
「渚が持ってる!」
そう。彼女が、いつも肌身離さず持っていたアンクレットに付いている小さな小さな鍵。
あの形にソックリだった。
それに、あの鍵に何個かついている宝石が、この台座に付いている宝石と一緒。
間違いなく、渚の持っている鍵だ。
それに・・・。
私は、もう一つの根拠をヒビキさんに言った。
「渚が持っている鍵は、代々その家の長女が生まれたら、ずっと左足につけるならわしになってる。
つまり、ずっとずっと何十年も昔から、女性の体に密着してるって事。
『女力(ジョリョク)の鍵』にピッタリでしょ!」
その言葉にヒビキさんも、「間違いなさそうだな。」と笑顔で答える。
話が進んでいる私たちと違って、『ある2人』は違う話で盛り上がっていた。
「おい、蒼輝!『渚』って誰だよ!」
「知らねぇーよ!」
「知らねぇーって・・・まさか、お前の女じゃねぇーだろうな!」
「だから、知らねぇーって言ってんだろ?うっとうしいなー!
からんでくるなよ!」
「うっとうしいってなんだよ!!
お前喧嘩売ってんのかよ!」
「あー!!もう、うるせーよ!」
なんて・・・まだまだ実は続いてたりする。
しまいには、ギャーギャー言い出して、殴り合いになっちゃったから、ヒビキさんに怒鳴られた2人。
「お前ら、いい加減しろ!」
なんて、怒られて、
「渚ちゃんは、翠ちゃんの世界での親友だ。
それくらい、覚えてろよ!」
と叱られた2人。
ホントだよ!
サンガはさておき、蒼輝は知っててよ!!
と心で訴えた私だった。
「って事は、これで、鍵のありかはわかった。
あとは・・・。」
というヒビキさんに、
「どうやって、元の世界に戻るかだろ?」
と蒼輝が口を開く。
「ねぇーねぇー。
翠ちゃんが戻りたい!って思ったら、戻れるんでしょぉー?
じゃぁーさぁー、戻りたいって思ったらいいんじゃないのぉー?」
トーワくんの発言に、「そうだ、そうすればいいんだよ!」とサンガも同意する。
でも、蒼輝は、「いや、ダメだろう。」と否定した。
「なんで?」
とトーワくんとサンガの声がダブル。
私も・・・なんで?って思った。
「どうしてなの?」
とさらに私が聞くと、「だよな?」と蒼輝は、今度はヒビキさんに同意を求めた。
蒼輝の望み通り、ヒビキさんは、「ああ。」と答えてその理由を言う。
「翠ちゃんが、戻りたいって思うことは、ここにいること自体を否定する事なんだ。
つまり、それをしてしまったら、こっちに戻って来る事ができない。
今回みたいに、最悪1年は戻ってこれない。
もしくは・・・二度と。」
「二度と・・・。」
ヒビキさんに言われた言葉を自分で口にして、恐ろしくなった。
私はたまらず側にいた蒼輝の手を握った。
私の不安を感じた蒼輝は、私を自分の胸に抱き寄せて、抱きしめてくれる。
「大丈夫。まだ、離さないから。」
耳元でそうささやいた、蒼輝の声は、不安だった私の心を、落ち着かせてくれた。
落ち着いた私を感じた蒼輝は、そのままで、ヒビキさんに声をかける。
「それで・・・翠をどうやって、元の世界に戻すんだ?
そして、鍵をその渚って子から、借りてまた戻ってこないといけない。
方法は?」
蒼輝がそういった時、ヒビキさんは、また蒼輝に「待った」のポーズをした。
それを見た蒼輝は、「サンガ!」と声をかけ、
「ヒビキに・・・。」
とまだ、途中だったけど、サンガは理解して、すぐにメモ帳とペンを出した。
って、事は・・・。
「また、ランさんから、交信が来たって事?」
蒼輝を見上げていう私に、「たぶんな。」と蒼輝は答える。
ちょうど、その答えを私が聞いていた頃、サンガがヒビキさんの元へと辿り着く。
「ホント・・・こっちの行動を見ているかのようなタイミングで、文字が出てきてくれるよ。」
とヒビキさんは言うと、私たちの方に近付いてくる。
みんなが、私と蒼輝の元へと集まった。
「これ、サンキュ。」
ヒビキさんはサンガにメモ帳を返した。
「それで・・・どうすればいい?」
と聞く蒼輝に、ヒビキさんは今書いた事を読み上げた。
「『長針が半周すれば、緑の光は元へと戻る。
長針が1周すれば、再び道が開けて、緑の光は再来する。』
と書かれていたらしい。」
ヒビキさんはそういうと、そのまま解読を始めた。
「つまり、今から30分後に、翠ちゃんは元の世界に戻る。
そして、この世界でいえば、1時間後に、翠ちゃんは戻って来るって事になるんだけど・・・。」
それには、「何か、ひっかかるのか?」と蒼輝は即聞いてくる。
「ひっかかるというか・・・。
たぶん、翠ちゃんが向こうに戻っても、こっちの世界と今はつながってるわけだから、ここでの1時間は、向こうの世界では5時間になるはず。
つまり、翠ちゃんが向こうに戻って、5時間以内に渚ちゃんから鍵をもらって、こっちへ戻ってくるという話になるんだけど・・・。」
「それの、どこがひっかかるんだ?」
とこれは、サンガ。
すると・・・。
「時間がありすぎるだろ?
向こうだって、書物があるんだ。
こっちが、鍵がほしくて戻る事なんて、たぶんわかっているはずなんだ。
それなのに、5時間ある。
向こうで、何かが起こりそうな気がするんだ。」
ヒビキさんはそういうと、私を呼んだ。
「彼女がすぐにみつからないか、もしくは、その鍵が、翠ちゃんが持つ事ができないとか・・・。
何かしらのトラブルがあると、思っていてくれ。
でも、絶対に5時間後に空間が現れたとき、そこを通って戻ってくるんだ。
チャンスは、1回。
それを、逃したら、もう二度と戻って来れないか、もしくは、また本が翠ちゃんを呼ぶ、1年後まで、ミューラは復活できない。
それまで、緑豹国と青鳥国があるかは・・・自信がない。
だから、必ず帰って来てくれ。
女力(ジョリョク)の鍵を持ってね。」
ヒビキさんの思いが詰まった言葉を私は聞きながら、深く頷いた。
「それで、どうするんだ?
翠は、ここからでも、向こうの世界に戻れるのか?」
蒼輝の心配は、「大丈夫だろう。」というヒビキさんの確信めいた言葉で、蒸発した。
「なぜなら、俺たちはここから下には降りられない。
きっと、降りれるのは、ミューラだけ。
ミューラに変身した雅が俺たちを乗せて、下に降ろしてくれる。
その方法しかないだろうからな。」
ヒビキさんの言葉に私も納得した。
確かに、今いるこの位置から、さっきの下のフロアーには降りられない。
だって、道が塞がってるんだもん。
「それじゃ、翠ちゃんが出発する30分の間は、ここで過ごそう。」
ヒビキさんの言葉に、みんなは頷き、それぞれが、隅っこに座る。
私も蒼輝に連れられて、隅に移動しようとした時だった。
「そうだ!」
と叫んだヒビキさんは、
「翠ちゃんと藍瑠(アイル)さんに、確認しておきたい事があるんです。」
と言い出した。
「なんですか?」
私と藍瑠(アイル)さんとの声がダブル。
すると、ヒビキさんは、信じられない言葉を言った。
「2人とも、処女だよね?」
「はあ?」
って、そりゃ、いうよ!
な・・・なに、言ってるのよ!ヒビキさん!!
目をまん丸にして口をパクパクする私に対して藍瑠(アイル)さんは、戸惑いながらも、
「掟ですから・・・。」
と答えた。
それには、私が反応する。
「藍瑠(アイル)さん!『掟』って・・・何?」
すると、それに答えたのは雅さん。
「封印を解く為に、王女は、清き体でないといけないと、決まっています。
緑の力と青の力が、同じ強さでないといけないと。
男とまじわってしまったら、自分の力が弱まってしまう。
だから、藍瑠(アイル)さまは、それを守られてきた。」
「そうなんだー。」
と答えた私に、「で?」とヒビキさんは私に聞いてくる。
「えっ?何?」
という私に、
「翠ちゃんは、大丈夫?」
って。
アタフタする私に、蒼輝が答えた。
「お前が言った通り、やってねぇーよ。」
それも、大きな声で。
恥ずかしくて真っ赤になる私に、ヒビキさんは、「よかった。」と深いため息をついた。
「それ・・・どういう意味だ?」
と蒼輝が聞くと、ヒビキさんはポケットから、最初に出た書物の文面が書かれたメモを出した。
「実は、さっき、俺が、ランと話してて、驚いた時があっただろ?
あの文面が、これだ。」
ヒビキさんはそういうと、読み上げた。
「『封印を解くべき力は3つの力。
鍵(カギ)に宿(ヤド)りし、女力(ジョリョク)の力。
清(キヨ)き青(アオ)の、女力(ジョリョク)の力。
清(キヨ)き緑(ミドリ)の、女力(ジョリョク)の力。』」
そして、ヒビキさんは言った。
「たぶん、翠ちゃんの話から考えて、女力(ジョリョク)の鍵は、何代にも渡って今持っている渚ちゃんまで、来た。
だから、女性の力が年数を重ねるごとに、強くなっているはずなんだ。
そこで、問題なのが、その力と合わさる、残り2つの力だ。
女力(ジョリョク)の鍵に宿っている力と、同等の力がないと、封印はとけない。
飲み込まれたらダメなんだ。
それくらいの力を、一代の王が発するとなれば、さっきも藍瑠(アイル)さんが言ったように、余計な物が混じってない状態でないとつりあわない。
混じり合っていない状態の力の強さは、さっきの翠ちゃんが放った緑の炎を見ればわかるだろうけど・・・。」
それを聞いた蒼輝はもちろん、反発する。
「って事は、お前!
わざわざ聞かなくても、翠が俺とやってない。ってわかっただろ!」
そう言われたら・・・そうだよね。
だけど、ヒビキさんは、「念のため聞いただけだ。」と、しらーっと答えた・・・。
絶対、面白いから、聞いたんだ!と、心でアッカンベーをしちゃった私。
「で、話は戻るけど・・・。
青の女力(ジョリョク)の力が、藍瑠(アイル)さんだっていうのは、雅と2人で1つだからね。
きっと、藍瑠(アイル)さんが、青の女力(ジョリョク)だと思う。
それに、封印の解き方を、『緑の王と交わる事』だと言ったのも、そもそも、青の女力(ジョリョク)の力を守る為だったんだ。
封印の解き方が、そういう関係の事であれば、雅が言った掟があっても、誰も不思議には思わないからね。」
そこまでいったヒビキさんは、今度は私を見た。
「そして、最後の緑の女力(ジョリョク)の力は、翠ちゃん、君だ。
俺は、ずっと謎だったんだよ。
200年前に、蒼さまの子供として生まれた君が、どうしてさらに前の年代にまで飛ばされたのか。
そして、今、なぜ、ここに舞い戻ってきたのか。
でも、全てはこの、ミューラを復活させる為だと考えれば納得がいく。」
「ミューラを?私が??」
ヒビキさんは頷いた。
「どうやって、翠ちゃんを、今翠ちゃんが生きている時代に送り込んだかはわからないけど、そうした理由は、ミューラの封印を誰にも解かせない為だったんだ。
現に、今まで、緑豹国には、『緑の女豹』はいないから。
封印を解こうとするものが、例えここまで来たとしても、翠ちゃんがいなければ、絶対にここから先へは進めない。
封印は解けないんだ。」
だけど、そのあとでヒビキさんは、言った。
「でも、わからないことがある。」
「何だ?」
と聞く蒼輝にヒビキさんは、彼を見る。
「そうまでして封印したミューラを、なんで、今頃復活させようとしているのか。
いくら、WONDER LANDの連中が、狙っていたとしても、絶対に封印は解けないだろ?
俺は、ずっと『WONDER LANDの王が、ミューラを復活させたがっていて、それを阻止する為に俺たちが、先に復活させないと行けない』のかと思っていたんだ。
でも、これを知ったら・・・。」
「知ったら、なんだよ!」
とせかす蒼輝にヒビキさんは、言いにくそうに言った。
「違う気がしてきた。
復活させたがっているのは、とらわれている『蒼さま』と天上界にいる『翠怜(スイレン)』って人じゃないかって。
彼らが、何らかの理由で、ミューラを復活させたがってる。
それが、何なのか、わからないけど・・・。
まだまだ、先は長そうだな。」
と苦笑いをしたヒビキさんに、蒼輝は、「まっ!今は、目の前にあることを片付けよう。」と前向きな答えを出した。
彼の答えに、さっきまで深刻な顔をしていたヒビキさんも笑顔になり、
「そうだな。今は、余計な事は考えずに、やるべき事をやるしかないな。」
と言った。
「それにしても・・・。」
サンガのその言葉に、蒼輝もヒビキさんも、同時に彼を見る。
「どうかしたか?」
というヒビキさん。
「なんだよ!今度は、お前が深刻な顔しやがって!」
と面倒くさそうに言う蒼輝。
でも、サンガは、蒼輝じゃなくてヒビキさんを見た。
「ヒビキの言った通りになってるよな。」
って。
それには、「ん?」とヒビキさんも首をかしげながら、サンガに聞く。
「蒼輝に、翠ちゃんを抱くな!って言ってただろ?
そういう注文が出されたら困るからって・・・。
それが、見事に当たってるよな。」
そういわれたら・・・そうだ。
サンガの言葉に、私は思わずうなずいた。
そして、蒼輝も・・・。
「ホントだ!」
と叫び、
「お前って・・・すごすぎる。」
と深く息を吐きながら、彼を褒めた。
それには、ヒビキさんも、「確かにな・・・。」というと、
「俺も、自分で自分が恐くなるよ。
冗談のつもりで、何気なく思った事なのにな・・・。」
と苦笑い。
でも、私は心から思った。
いや、私だけじゃなかったと思う。
ここにいた誰も思ったに違いない。
ヒビキさんが、いてくれてよかった!って。
だって、彼がいなければ、私はあの夜に、絶対に蒼輝に抱かれてた。
それに、今、こうして、ここにいれるのは、ヒビキさんの力以外の何物でもない。
私たちじゃ、雅さんの事を見抜けなかったんだから。
ヒビキさんのすごさを、身を持って知らされた瞬間だった。
「よし・・・そろそろだな。」
遠くにいたヒビキさんがそう言い、台座に向かって歩きだした。
それを見たみんなも、座っていた腰を上げて、台座へと向かう。
「よし、翠。行くか!」
蒼輝の言葉に、私も立ち上がり、蒼輝と手をつないだまま、台座へと向かった。
緑豹国の書物に出た通り、長針がもうすぐ半周する。
つまり、あれからもうじき、30分が経とうとしていた。
私たちがみんなの元に近付くと、すぐにサンガが叫ぶ。
「おい!蒼輝!
お前、いつの間に黒髪に戻ったんだ?」
って。
それには、蒼輝は少し呆れながら、「気付くのおせぇーよ。」といいながら、髪を触ってくるサンガの額を思いっきり人差し指で押した。
「みんな気付いてたのか?」
と疑いの眼差しで聞くサンガだけど、藍瑠(アイル)さんまでもが、「はい。」というものだから、さすがのサンガも、「チェッ。」とすねる。
「無理に、力を入れなくてもいいだろ?」
と言う蒼輝にヒビキさんは、
「ああ。また必要な時に、力はつかえばいい。」
と答えてくれた。
「それはそうと・・・。
翠はどこの位置に、立たせたらいいんだ?」
思い出した蒼輝は、急いでヒビキさんにそう聞いてくれるけど、「どこでもいいよ。」と適当に答えられてしまった。
もちろん、「はい?」という私と蒼輝から出たマヌケな声が、フロアー全体に響き渡った。
それには、「プッ。」と笑うヒビキさん。
「もしもし?」
とたまらず聞いちゃう私にヒビキさんは、「あまりにも、二人の息がピッタリだから、つい・・・。」と言って、まだ笑ってるし。
時間がなくてちょっと、イライラしてきた蒼輝は、「おい!」とヒビキさんに声をかける。
「悪い、悪い。」と言って笑いをやめたヒビキさんは、
「たぶん、時期がくれば、どこにいても翠ちゃんは、元の世界に戻ろうとするだろう。
だから、心配はいらない。」
そういって、今度は私をみた。
その目は、さっきまでの笑ってるヒビキさんじゃなかった。
「な・・・に?」
と恐くなって聞く私にヒビキさんは、言った。
「ただ1つ。
翠ちゃんが向こうへ、連れていかれなくなる場合がある。
それは、『ここに居たい』と思ってしまう事。
蒼輝と離れたくない。と一瞬でも、ホンの少しでも思ってしまったら、向こうから翠ちゃんを連れ去ろうとする力が負けてしまって、ここにとどまってしまう。
それくらい、翠ちゃんの念じる力は強いからね。
それが、実は・・・恐いんだ。
心の底から、向こうへ行きたいと思ってくれ。
蒼輝の事は、今は忘れてほしい。」
それを聞いて私はなるほど。と納得した。
だって、1年前、ここを去る時、私はここに居てはいけない。って、思いでいっぱいになったんだもん。
何も考えるゆとりがなくなるくらいにね。
でも、今は・・・ここにいたいと思ってる。
蒼輝から離れたくないって。
ヒビキさんのいう通り、こんな思いじゃ、向こうにはきっと戻れないだろう。
だからといって、蒼輝を忘れるなんて・・・。
戸惑う私に、蒼輝は近付いてきて、いきなり私を抱きしめた。
「どう・・・したの?」
と驚き戸惑う私に蒼輝は、強く私を抱きしめた。
そして、耳元で、すごく優しい声でこう言った。
「気をつけて、いってこいよ。」
って。
「じゃーな。」でも、「またな。」でも、「さようなら。」でもない。
「いってこい」・・・。
それは、また戻って来る事、前提の言葉。
だって、そう言われて、私が言う言葉は、「いってきます。」。
そして、それをいえば、絶対に「ただいま。」と言って帰ってくるのが普通じゃない?
だから、蒼輝の言葉を聞いて、私は心からホッとしたの。
蒼輝は、私が帰ってくると信じてくれてる。
その思いがうれしかったの。
でもね、それよりもっと嬉しかったのが、私がまた戻ってきていい。って思ってくれていること。
戻ってきたら、私たちはまたドンドン求め合ってしまう。
ドンドン、最後の別れが辛くなるのはわかってる。
それでも、蒼輝は戻って来い。と言ってくれた。
私の思いを、とことん受け入れてくれるって・・・そういわれた気がして、本当にうれしかったんだ。
私は、蒼輝の胸に自分の顔をめいいっぱい、ひっつける。
彼の鼓動を聞いて、心から安心する。
そして、そのままの状態で答えた。
「蒼輝も・・・無事でいてね。」
彼の、「ああ。」という言葉を聞いて、私は顔を上げる。
彼を見つめて、私は心の中でこう強く思った。
『元の世界にある書物よ。
女力(ジョリョク)の鍵を渚からもらう為に、私を元の世界に戻して。』
その時、長針が完全に半周した。
私の体がまだ弱い力だけど、光出した。
その瞬間、私は蒼輝の体から離れた。
「翠さんの体から光(ヒカリ)が!!」
という藍瑠(アイル)さんの声が聞こえた。
まだ、意識はあるし、声も聞こえるし、目の前にいる蒼輝の顔だってしっかりと見えた。
「蒼輝、こっちにこい!
お前が、そこに居たら、翠ちゃんの気持が、揺らいでしまうかもしれない。」
そう言って、蒼輝の腕をつかんで、私の居る場所から彼を、遠ざけようとするヒビキさんだけど、蒼輝はそこから離れようとしない。
それには、ヒビキさんが怒り出す。
「お前が、未練がましい態度を取ると、翠ちゃんに影響を及ぼす。
見送ると決めたなら、最後まで突き通せ!!」
熱く怒鳴るヒビキさんとは、反対に蒼輝は冷静に、「わかってるよ。」と答えると、つかまれた腕を思いっきり引っ張り、強引にヒビキさんの手から離れた。
そして、だんだん強い光に包まれた私の頬に、蒼輝は右手で触れてくる。
「蒼輝・・・。」
そう口にした私に、蒼輝はニッコリ笑うと、
「俺のぬくもりを、忘れるな。」
そういって、私にキスをした。
蒼輝の暖かい温度。
蒼輝の感触。
私は、脳裏に全てを鮮明に焼き付けた。
蒼輝の態度に、「おい!」と突っかかるヒビキさんにせかされた蒼輝は、私から唇を離すと、私に触れていた手も離し、私から離れた位置へと移動した。
まるで、蒼輝の行動を見ていたかのように、蒼輝が私から離れた瞬間、私の体を覆う金色の光(ヒカリ)が、強く強く光(ヒカリ)出した。
と同時に、私の意識も少しずつ薄れていった。
1年前みたいに、耳鳴りや頭痛はなかった。
あの時と違って、強引にもとの世界に戻ろうとしていないからだと思う。
今回は、こっちの世界に来た時のように、とても穏やかだった。
私は、心から、この導きに身をゆだねていた。
その時だった。
もう、かすかにしか聞こえなくなっていた私の耳に、聞こえた最後の声。
それは、ヒビキさんの叫び声だった・・・。
「え?それ・・・ホントか!!」
彼の叫び声に、誰もが驚き、そして、振り向いた。
だって、彼が取り乱すくらい驚いた内容を告げたのは、またしてもランさん!
というか、正確には・・・緑豹国の書物なんだもん!
「おい!どうしたんだ!」
とヒビキさんに聞いた蒼輝だけど、ヒビキさんは、「無理だ!」と叫ぶ。
「もう、翠ちゃんは時空を越えかけてる。
今更、無理だ!!」
相当すごい事を言われたのか、ヒビキさんは、心で念じるだけではすまなくて、口にしてランさんに答える。
それでも、ランさんは、緑豹国の書物に書かれた事を訴えたのだろう。
心を決めたヒビキさんは、イチカバチカのカケに出る決意をした。
まずは、「蒼輝っ!」と叫びこう言った。
「翠ちゃんの『緑の玉』を、こっちへ渡してもらえ!」
それには、もちろん、「はぁ?」と蒼輝は答え、首を振る。
「無理に決まってるだろ!
もう、翠はあんなに光ってんだよ!
近くにも寄れねぇーよ!!」
「そんなのわかってる!!
でも、緑の玉がいるんだよ!
いいから、何とかしろ!」
いつになく取り乱しがちで、叫ぶヒビキさんの様子に、蒼輝もただならぬものを感じたのか、光輝く私の元へと近付いてきた。
でも、案の定、私に触れることも出来ないくらい光(ヒカリ)が私を守っていた。
まるで、バリアーみたいだった。
「翠!聞こえるか?翠っ!!」
目の前に蒼輝がいるのはわかる。
でも、もう耳が全く聞こえなくなってる。
ヒビキさんのあの叫んだ声が、最後だっただけに、何があったのかすっごい気になってるんだけどね・・・。
なんて、思っていたら、目の前に蒼輝が近付いてきて、何かを言ってる?
口が動いてるのと、顔の表情からすると、叫んでる?
何かあったのかな?
もしかして、ヒビキさんが、さっき叫んでた事と関係してる?
私は、胸騒ぎがして、耳を澄ましてみるけど、やっぱり聞こえなかった。
私は、「聞こえない!!」と叫びながら、首を振ってジャスチャーした。
「くっそぉー!!やっぱ、聞こえないか。
けど・・・こっちの姿は、まだ見えてるんだよな。
って事は・・・。」
蒼輝が何かを言ったかと思えば、急に蒼輝は変な動きを始めた。
私を指さして、そして、自分の青の玉を首からはずして、投げるマネ。
そして、それを自分がチャッチする??
なに・・・やってるの??
って、最初は思った。
けど・・・それを見て、ピンと来た。
「もしかして!!」
私は、自分の玉を首からはずした。
そして、蒼輝にそれを見せて、「これ?」と聞いてみる。
私の声も聞こえてないはずだけど、蒼輝は何度も頷いた。
きっとこれをほしがっているのは、ヒビキさんだ!
よし、投げよう!
そう思った時、目の前の景色も薄れてきた。
嘘でしょー!ヤバイよぉー!!
ってあせりながら、私は心の中で強く願った。
『お願い。どうか、蒼輝の元へ、届いて!!
そして、彼を助けて!
彼の声に、答えるんだよ!!』
そして、力いっぱい緑の玉を向こうに向かって投げた。
「うわっ!!」
俺は、そう叫びながらも、なんとかキャッチした。
つかんだ右手を広げてみる。
翠が持っていた緑の玉が、俺の手の中にあった。
翠の姿は、もう半分くらい見えなくなってしまってる。
でも、俺の手に握られている玉は、緑色のまま生きていた。
「サンガ!トーワ!まだ、抜けないのか!!」
ヒビキのその声に、俺はヒビキの方に振り返った。
俺は翠との事で必死で、こっちの事に全く気付かなかったけど、なぜかサンガとトーワが2人がかりで、中央に突き刺している雅の『青の剣』を引っこ抜こうとしていた。
「俺も手伝います。」
と側に行きかけた雅を、ヒビキが腕をつかんで止めた。
「お前はダメだ。
お前は・・・ここにいるんだ!」
「けど・・・。」
と口にする雅を無視してヒビキは、俺の存在に気付く。
「蒼輝!玉は?」
「ああ、受け取れた。」
それを聞いたヒビキは、
「頼む、剣を抜いてくれ。
俺は、ランとの交信で、気を集中してるから動けないんだ。
頼む。早く・・・早く剣を、雅に・・・。」
と俺に必死で訴えた。
俺は、翠から受け取った玉を首にかけながら、中央へと猛ダッシュした。
「おいっ!早く抜けよ!」
と弱い2人に叫ぶが、「硬いんだって!!」と2人はいいわけをする。
「力を使ったほうがいいのか?」
とヒビキに聞きながら俺は、剣を両手で握る。
「まかせるよ。」
と答えたヒビキに俺は、自分流でやる事に。
理屈的に言えば、緑の俺の力を注いで封印を解いた剣なら、緑の俺の力で念じれば、抜けるだろう。
でも、今の俺には緑の力はない。
玉から俺の体に注ぐにしても、翠がいなけりゃそれも無理だ。
でも・・・。
俺は、胸に光る緑の玉を見た。
さっきから気になっていたんだけど、この緑の玉・・・なんか光ってないか?
翠の胸にいた時はこんなに、光ってなかったのに。
どういう事だ?
もしかしたら、翠のヤツ、自分がいなくても、俺に力が注がれるように、この玉に念をこめたのか?
俺が、そんな事を考えていた時だった。
「おいっ!蒼輝、早くしろ!!」
ヒビキの声に、俺は我に返った。
考えてる暇なんてない。
俺は、翠を信じて・・・やってみる事にした。
剣から手を離し、両方の玉を握り念じた。
『俺に、力を与えてくれ。』
すると・・・。
「蒼輝!お前、何で?
翠がいないのに何で!!」
サンガの声に、俺はわかった。
力を自分の中に入れられたって。
俺がまさかそうできるとは思っていなかったヒビキも、サンガの声に「えっ?」と言って振り向いていたようだったけど・・・。
今の俺には、そんな時間はない。
力が、体に入ったのなら、やるべき事は1つ。
俺は、心の中で翠に感謝した。
アイツの機転のおかげで、緑の力を体に入れられたんだからな。
そして、俺は、剣を両手で握り、目をつぶり強く念じた。
『剣よ・・・どうか、抜けてくれ。
俺の手元に、戻って来い。』
そして、俺はユックリと剣を握った手を上へとあげた。
鉄同士がこすれあう冷(ヒ)ややかな音が、耳に入ってきた。
それでも、俺はそのまま手を上へと上げる。
「すっげぇー!!」
というバカ2人の声を聞きながら、俺は完全に剣を抜いた事を感じて、目を開けた。
俺が、剣を抜いた事を知ったヒビキは俺に叫ぶ。
「雅に投げろ!!」
俺は、言われるがまま、雅に投げた。
それをつかんだ雅は、鞘(サヤ)におさめながら、ある所へと向かって行った。
もちろん、意味がわからない俺も、サンガも、トーワも一緒になって叫んだ。
「えー!!」
って。
意識が遠のいて、そして気付けば私は、倒れていた。
鳥のさえずり。
木々が風にゆらされる音に、緑の香り。
私は、ゆっくりと目を開けた。
周りを見渡した。
見覚えがある場所。
私の目の前には、時空の木があった。
「なんとか、無事、戻って来たみたい。」
急に玉を渡したりと、バタバタしちゃったけど、無事、ここへ戻ってこれた。
ホッとした私だったけど、実は気になってた。
ちゃんと、緑の玉は、蒼輝の手に渡ったのかな?って。
どこか、別の空間にとばされてたりしたら、蒼輝は二度と変身できない。って事なんだもんね。
気にして考えれば考えるほど、不安になった。
でも、戻って来た私に、それはどうしようもない事。
私は、首を振って、自分の頭を支配している思いを振り落とした。
そして、気分を新たにする。
私は、今から、渚に鍵を借りなきゃならないんだから!
今は、それが先!!
なんてったって、タイムリミットは5時間なんだから!
私は、自分にそう言い聞かせる。
そして、気合いを入れて、「よいしょ!」と立ち上がった時だった。
「いってぇー。」
と背後で声がした。
「へっ?」と思って後ろを振り返って・・・。
「えぇー!!なんでっ!!なんでっ!!」
それ以上何も言えないよ。
ただ、目の前にいる人を、思いっきり指差して、目をすごく大きく見開いて、そして・・・絶叫!!
息することも忘れて、私は目の前の人をただただ見てた。
私の驚いているさまを、『感じた』彼は、
「そんなに、驚かないで下さいよ。」
と言いながら、お尻をパンパンとはらって、起き上がる。
頭と言葉が追いつかない。
完全にパニックの私。
そんな私が、やっとの思いで口にした言葉は、もちろん、
「なんで、雅さんが、ここにいるのぉー!!」
だった。
☆☆☆11章 END☆☆☆
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