雅さんは、私と真音(マナト)さんの数メートル先を歩いていた。
私たち3人が、歩き出して10分が経った頃、急に前を歩いていた雅さんが足を止めた。
私たちに背を向けたまま足を止めて、じっとしている雅さんをみて、私と真音(マナト)さんはお互いを見合う。
「もしかして・・・?」
と口にした私に真音(マナト)さんは、ただ口元を緩ました。
そして、私には言葉をかけずに、立ち止まっている雅さんの正面へと足を運ばせた。
「どうだ?何か、感じるか?」
だけど、真音(マナト)さんの言葉には答えず、雅さんはただ神経を集中させて、何かを必死で感じ取ろうとしていた。
どれくらいそうしていたかな?
ただ、立ち尽くしていた雅さんが、急にその場でしゃがみこんだ。
そして、地面に向かって手のひらをつける。
何箇所か手のひらをペタペタとつけながら、首をひねったりしている。
何回かそれを繰り返した雅さんは、急に何回か前にくっつけた場所へと手のひらを戻し、そこを押さえたまま顔を真音(マナト)さんの方に向けた。
「ここから、わずかですが邪気を感じます。」
その言葉に、真音(マナト)さんもしゃがむと、雅さんの手のひらに自分の手を近づけた。
「ここです。」
そう言って雅さんは、自分の手をのけて真音(マナト)さんへとその場をゆずった。
さっき雅さんが置いていた地面に、真音(マナト)さんも自分の手のひらを置いた。
何も言わずに、ただ真音(マナト)さんも神経を集中させて何かを悟ろうとしていた。
しばらくして、真音(マナト)さんは真剣な顔で、私と雅さんを見た。
「真音(マナト)さんも・・・わかるの?」
という私に真音(マナト)さんったら、なんて言ったと思う?
「な〜んにも、感じないよ。」
ととぉーっても、マヌケ顔で言われちゃった。
もちろん、私は・・・ずっこけた。
「ちょっと!!こんな時に、冗談は止めてくださいよ!!」
と絶叫する私に真音(マナト)さんは、「悪い悪い。」と軽くあしらう。
「真音(マナト)さんには・・・何も感じませんか?
それじゃあ、ここではないのかもしれませんね。」
ギャーギャーと言い合っている私と真音(マナト)さんをほって、雅さんは少し力なくそう口にした。
だけど、真音(マナト)さんは、「いや。」と雅さんに否定すると、
「ここで、あってるだろう。」
となぜか自信満々。
感じないと言っていたくせに・・・。
なんで?
という事はよ??
「本当は、真音(マナト)さんにも、何か感じてるんじゃないんですか?」
と突っ込んでみるけど、「いや、何も感じない。」とやっぱり、全否定。
「それじゃあ、どうして、雅さんのいう事を信じるの?
雅さんですらも、自信なさそうなのに・・・。」
すると、真音(マナト)さんは、急に自分の目の前にある雅さんの腰についている『ある物』を指さした。
「雅くんが指摘した、この地に手を合わせた時、雅くんの腰にある青き剣が少し光ったんだ。
それも、青白き光がね。」
そういうと雅さんの手をつかみ、さっき雅さんが言った地面にその手を合わせた。
すると、確かに、真音(マナト)さんが言った通り、鞘に収まっている青き剣が青白い光を放った。
「すごい・・・。ホントに光ってる・・・。」
剣が光った事にも驚いたけど、こんな些細な事に気付いた真音(マナト)さんが、本当に心からすごいと感心してしまった。
「ねぇー、真音(マナト)さん、どうして、雅さんの剣が光ってるの?
その剣と、渚がつかまっている場所と、何か関係があるの?」
「それはね・・・。」
真音(マナト)さんはそういうと、「それは、あとで話すよ。」と答えると、今度は雅さんを見た。
「この場所って事はつまり・・・地下って事かな?」
「たぶん・・・。ですが、この下に降りる方法はありますか?」
雅さんの言葉に真音(マナト)さんは、「そうだな・・・。」と言いながら、その場に立ち上がると、周りをキョロキョロと見た。
私も、真音(マナト)さんにつられて、周りを見てみる。
ここは、渚の家から離れた、ある公園だった。
大きなアスレチックがあったり、ウォーキングコースやスポーツができる大きな広場があったり。
確かに緑も多く、自然はある。
でも、地下につながる場所なんてない。
よく地下に駐輪場とかってあるけど、ここにはそれもないし。
「ここには、地下につながる道なんてないよ。」
と答えたのは私。
だけど・・・。
「まてよ!あるよ、1つだけ地下とつながる道が!!」
真音(マナト)さんのその答えに雅さんも「ホントですか?」と反応したけど、それよりも大きな声で、
「ホント??」
と叫んだのは私。
私の声に反応した真音(マナト)さんは、私を見て笑顔を送ると、今度は雅さんを見た。
「ここから100メートルくらい西に行った場所に、貯水所がある。
そこから、地下水路に侵入すれば、この真下の地下へといけるはずだ。」
「だけど、行こうと思ったら誰でもいけるような場所に、渚がつかまってるの?」
私の問いかけに、この人も同意する。
「地下水路って事は、この地表からそんなに深くない。という事ですよね?
でも、ここから感じる邪気は、とても小さいです。
ものすごく奥深い所から、邪気が放たれているような感じで、本当に小さいんですよ。
ということは・・・その地下水路から、さらに下に降りれるんですかね?」
だけど、雅さんの提案に、真音(マナト)さんは、「それはありえないだろう。」と首を振った。
「ただの地下水路だから、それより下になんて道はないし、もちろん他の手段を使っても、それより地底には降りられないよ。
だけど、それでいいと思うよ。」
さらっと答える真音(マナト)さんに、私と雅さんの「えっ??」って声が、重なる。
キョトンとして目を真ん丸で真音(マナト)さんを見る私と雅さんの顔を見て、たまらずプッと噴出す真音(マナト)さん。
笑いながらも、自分の考えを口にする。
「たぶん、渚がつかまっているのは、この真下に位置する地下水路のはずだ。
なぜなら、渚は普通の人間。
その人間が居れる場所といえば、その地下水路が限界だろう。
だから、渚はそこにつかまっているって事になる。」
「じゃあ、僕が感じている邪気が、とても小さいのは、なぜでしょう?
いくらなんでも、この真下の地下水路なら、もっと強い邪気を感じてもおかしくないと思いますが。」
「それは、簡単だよ。」
と真音(マナト)さんはいうと、自分の持っている書物を私たちに向かって見せた。
「ここにも載っていたように、黒き龍は俺たちに渚を救い出されては困るんだ。
だから、俺たちに渚の居場所を本当は知られたくない。
邪気を感じ取られないように、何かしらの加工を行っていても、変じゃないだろ?」
真音(マナト)さんはそういうと、「とにかく、その貯水所に行こう!」と言うと、西に向かって歩き出した。
目的地である貯水所に着いた私たちは、真音(マナト)さんの顔利きで、簡単に中に入れた。
「どうして、簡単に中に入れるの?」
たまらず私は聞いた。
「実はここは、俺の大学の息がかかってる所でね。
大学名と研究室の人間だといえば、簡単に中に入れる。
そこの大学に通ってて助かったよ。」
そう言って笑いながら、真音(マナト)さんは警備員に見せた学生証を、ポケットに戻した。
私たちは、そのまま地下水路へと迷わず進み、今度は今地表で歩いてきた方角である東に向かって歩いた。
「真音(マナト)さん。」
急に、雅さんはそういって真音(マナト)さんに話しかけた。
「ん?なんだい。」
真音(マナト)さんの言葉に、
「ちょっと、聞きたい事があるんですが、いいですか?」
「いいよ。何?」
それを聞いた雅さんは、真音(マナト)さんに質問をした。
「いくつか聞きたいことがあるんですが、まず、初めに・・・。」
というと、雅さんは、自分の腰についている青き剣に右手をそえた。
「この剣が、地表で青白く光りましたよね?
なんで、あの場所でだけ、光ったのでしょう?
これが反応を見せたという事は、渚さんがつかまっている場所に、黒き龍がいるって事なんですよね?」
確かに・・・そうだよね。
真音(マナト)さんの言っている事が正しければ、今私たちは、確実につかまっている渚に近付いている。
という事は、さっきみたいに、雅さんの剣が青白く光ってもいいはず。
だけど、雅さんの剣は今は、全く反応をみせない。
これは、一体??
だけど、聞かれた当の本人は、「そんな事?」と言うと、平然として答え始めた。
「その剣は、『黒き龍』に反応するんじゃなくて、たぶん『黒き龍が解き放った闇』に反応するんじゃないかな?」
「闇・・・ですか?」
今一つ意味がわからない雅さんは、戸惑いながらそう口にした。
だけど、真音(マナト)さんは、「そう、闇。」と頷くとさらに続けた。
「書物にも出てきていた渚にかけられた呪いっていうのが、きっと『黒き龍が作り出した闇』だと思うんだ。
そして、それを斬るのは、その剣だと思う。」
「という事は、渚の場所がわかって、その剣を使えば、簡単に呪縛はとけるって事??」
なんて、目を輝かせて言う私だけど・・・。
真音(マナト)さんも、雅さんも険しい表情。
「真音(マナト)・・・さん?」
その顔が恐くて、恐る恐る聞く。
真音(マナト)さんは、「そうだな・・・。」と言うと、私に苦笑いをする。
「そうなればいいんだけど・・・たぶんそう簡単にはいかないだろうな。」
「そうなんだ・・・。」
私はそう口にしながら、気持ちが沈んだ。
今は鍵よりも何よりも、渚を早く無事に救いたかったから。
私は、緑の王女として緑豹国のある時代に関わっている。
だから、私の身に何が起こってもそれは、仕方のない事だと今なら思えるの。
でも、渚は関係ないのに。
こんな危険な目に合わせてしまって・・・。
それに、真音(マナト)さんにもこんなに心配かけさせてるし・・・。
「真音(マナト)さん・・・ごめんね。」
私の突然の言葉に、「なんで、翠ちゃんが謝るの?」と不思議そうに聞く真音(マナト)さん。
「だって、渚も真音(マナト)さんも、関係ないのに巻き込んで迷惑かけてるから・・・。」
それに対して、何かを言おうとした真音(マナト)さんに、「あの・・・。」と雅さんがわって入ってくる。
「何?どうかした?」
と雅さんの声に、敏感に反応した真音(マナト)さん。
それを感じたうえで、雅さんは真音(マナト)さんにさらなる質問を始めた。
「さっき、不思議に思ったんですけど・・・。」
そう口にしてから、雅さんはこう言った。
「どうして、渚さんが、『WONDER LANDのあるべき場所』に居ると思ったのですか?」
「えっ?」
と言った真音(マナト)さんに、さらに雅さんは指摘する。
「あの時・・・。
渚さんがつかまったと知った時、真音(マナト)さんは迷わず僕に言いましたよね?
『WONDER LANDのあるべき場所がわかるか?』って。
つかまえた張本人である黒き龍が、どういう人物が得体がわからないのに、なぜ『WONDER LAND』と言い切れたのですか?
黒き龍の名前に『龍』とついてるから、『赤龍国(セキリュウコク)』の人間とは、思わなかったのですか?」
確かに・・・そうだよね。
雅さんのいう通り、あの時の真音(マナト)さんは、迷わず「WONDER LAND」と口にしていたもん。
そう気付いた私の頭の中にも、遅まきながら、「どうして??」が飛び交った。
もちろん、口にはしなくても、顔はそういう顔をしていたのかな?
目があった真音(マナト)さんは、まるで、「はいはい。」と言わんばかりに、私にも答えをくれた。
「最初に言ったけど、黒き龍は、『緑豹国』『青鳥国』『赤龍国』と対立していた人物だ。
となれば、今の緑豹国と対立しているWONDER LANDの人間だと考えるのが妥当だろう?
それと、たぶん、今雅くんが言った『龍とついているから、赤龍国(セキリュウコク)』って話だけど。
それは、ありえると思うよ。」
「ありえるって・・・何が??」
と言ったのは私。
だけど、一方で雅さんは、真音(マナト)さんの言葉をしっかりと理解していた。
「それって・・・。
黒き龍が、『赤龍国(セキリュウコク)の人間』って事ですか?」
すごい展開に驚く雅さん。
私だって、驚いたよ!
だって、赤龍国(セキリュウコク)は仲間でしょ?
その中から、敵が生まれたって・・・事??
「つまり・・・黒き龍は、裏切り者??」
だけど、「裏切り者とは、いいきれないかな?」と笑いながら真音(マナト)さんは、言う。
「いきさつは俺にはわからないよ。
ただ、雅くんが言った通り、『龍』とつくからには、黒の龍という人物は、龍の血と人間との混血人間で、赤龍国(セキリュウコク)の出身である事は、間違いないだろうな。
現に、彼が住んでいる世界と、こっちの世界とは、いえば異世界なのに、彼は黒き闇をこちらの世界に解き放った。
異世界を飛び越えてね。
そんな技ができるのは、龍の力がある人物にしかできないだろう?
昔から、龍は、『神』とおがめられていたんだからね。
俺が思うに、蒼さまの『神に念じる力』っていうのは、結局の所、天上界にいる赤龍国(セキリュウコク)の王がそれを叶えてあげていたんだと思う。
赤龍国(セキリュウコク)の人間こそが、神だと俺は思うけどね。
そして、渚がとらわれているのが、WONDER LANDのあるべき場所。って思ったのは、黒き龍が異世界からでも強い力が放てる場所は、『つながっている場所』じゃないかと思ったんだ。」
真音(マナト)さんは、そこまでいうと、最後は、「な〜んて。」とちょっとおちゃらけた口調になる。
「これは、全部俺の想像だから、合ってるとは限らないけどね。」
とニッコリ笑う。
でも、「いや。」と雅さんはいうと、真音(マナト)さんに今度は彼が笑いかける。
「きっと、あなたの言っている事は、あっていると思いますよ。
なぜなら・・・。」
そこまで言って口を閉じた雅さんが気になったのかな?
「えっ?なんだよ!」
と雅さんに喰いつく真音(マナト)さん。
その様子を感じた雅さんは、今度は立場が逆転する。
雅さんが、真音(マナト)さんに解説をする方になった。
「きっと、あなたは、ヒビキさんの生まれ変わりだと思いますよ。
っていうか、こっちの時代の方が古いわけだから・・・。
ヒビキさんの先祖というべきですかね?」
それには、「はぁ〜?」と真音(マナト)さん。
確かに・・・そのリアクションはわかります!
だって、私も一緒になって、言っちゃったんだもん。
「はぁ?」って。
2人で、とぉーってもバカ面でそんな言葉をいうものだから、雅さんは、とてもおかしそうにクククと笑う。
「いや、笑い事じゃないって!
いきなり、何を言い出すかと思ったら。」
と呆れる真音(マナト)さん。
でも、雅さんは、否定するどころか笑いながら、さらに続ける。
「僕にもいきさつはわかりません。
でも、感じるんですよ。」
って。
「何を感じるの?」
とたまらず私が聞いちゃった。
するとね・・・。
「こうして、真音(マナト)さんの側にいると、ヒビキさんの側にいるような錯覚を起こします。
それくらい、二人の雰囲気というか、二人を取り巻いている空気が一緒なんですよ。
そんな事は、絶対にない。
人それぞれ空気は、違いますからね。
これだけ、波長も一緒ということは、生まれ変わりとしか思えません。
ちなみに、翠さん!」
急に私の名前を呼ばれたものだから、私は驚いて、「はいっ!」と背筋をピンと伸ばして大きくハッキリと返事した。
「学校かよ。」
と真音(マナト)さんに突っ込みを受けたけど、100%無視して、私は雅さんを見る。
私の視線が自分に注がれている事を感じた雅さんは、口を開く。
「あなたと、蒼輝さまも、同じ空気を持っていますよ。」
「私と・・・蒼輝が?」
「ええ。」
と雅さんは、答えると今度は真音(マナト)さんを見る。
「ここまで言えば、あとは、あなたにはわかったのではないですか?
この『カラクリ』が・・・。」
意味深な言葉を投げかけた雅さん。
私にはもちろんの事ながら、さっぱりわからない。
でも、真音(マナト)さんには、もちろんわかったみたいで・・・。
「なるほどね・・・。」
なんて言ってる。
ちょっとー!!二人で理解しあわないでよ!!
私には、さっぱりなんだからー!!
と心で愚痴るものの、あせりすぎて言葉にならない。
仕方なく、雅さんの腕をつかんだ私。
その態度に、少し雅さんは笑うと。
「説明は、真音(マナト)さんに頼みましょうか。」
と言ってる。
それに対して真音(マナト)さんは、「そうだな。」と言うと、またまた謎を解き明かしてくれた。
「翠ちゃんが、こっちの世界に来る時に、生まれながらに持っていた力は全て捨ててきた。」
「全て??」
「そう。なぜそう言い切れるかというと、蒼輝くんと同じ空気を持っているという雅くんの言葉がヒントになっている。
つまり、今の蒼輝くんは、王であったけど、その能力を失いただの混血人間になっている。
それと同じという事は、翠ちゃんも能力がないただの混血人間であるという事になる。」
「でも、私には、念じる力があるよ!
王が生まれながらに持つ3つの能力である、『強化された体』『念じる力』『高速スピード』のうちの、ヒビキさんが持っている『念じる力』が。」
だけど、真音(マナト)さんは、首を振る。
「翠ちゃんの念じる力は、それとは違うよ。
ヒビキさんも言っていたと思うけど、翠ちゃんの念じる力は、『王が持つ特別な4つ目の力』だ。
だから、とても強力な力だろ?」
そういわれたら・・・ヒビキさんも、そんな事を言っていたっけ。
「それじゃ、私の力はどこにいったの?
向こうの世界に捨ててきたなら、向こうに行けば、戻れるんじゃないの?」
「きっと、それを黒き龍が封印してるんじゃないかな?
理由や目的はわからないけどね。
だけど、翠ちゃんをこっちの世界に送り込んだ時・・・。
いや、その前に、こうなる事を母親である翠怜(スイレン)さんは見えたんじゃないかな?
だから、翠ちゃんをこっちの世界に送り込んだ。
自分たちの世界とを結ぶ、書物と一緒にね。
だけど、一つ問題があった。
その時が来たとき、翠ちゃんを導く人物が必要だった。
そこで、翠怜(スイレン)さんは、考えたんだ。」
「考えたって・・・何を??」
「ヒビキさんみたいに、導いてくれる人物を、こちらの世界に作る事をですよ。」
そう答えたのは、雅さん。
さらに彼は続ける。
「元々の王である翠さんの中にある知性を、真音(マナト)さんに送り込んだ。
真音(マナト)さんが選ばれた理由は、女力(ジョリョク)の鍵を持つ渚さんとの運命が約束されている人物である事と、無条件で翠さんが心を許し、そして、翠さんの近くにいれる人物ということでしょうね。
そう、思いませんか?」
それには、真音(マナト)さんは、「だろうね。」と笑いながら答えた。
って事はよ・・・。
「じゃあ、真音(マナト)さんも、混血人間って事?」
だけど、真音(マナト)さんは、ガクっとずっこけて・・・。
「だからぁー。そうじゃなくて・・・。」
とため息交じりにいうと、「人の話を聞けよ。」とまで言われた。
そんな事言ったって、難しすぎてわけわかんないんだもん!!
口をプクーっと膨らます私に、真音(マナト)さんは、「わかったわかった。」といいながら、私の頭を優しくなでた。
「ようは、翠ちゃんの知性のみが、俺の体に入っただけ。
混血とか、そういうのじゃないよ。
つまり、これだけ順応性があるのも、よく理解できるのも、ただの推理好きって事じゃなくて、翠ちゃんの脳をもらっての事だって事!」
「ふ〜ん・・・。」
と答えるものの・・・よくわかんない。
わかったようで、わからない私は、少し首を傾けた。
「つまりは、さっき翠ちゃんが言ったように、俺と渚が蒼輝くんたちと関係がない。っていうのは間違いだって事だよ。
俺たち二人も関係してるって事!
渚は、女力(ジョリョク)の鍵を守る番人として。
そして、俺は、翠ちゃんを正しい方向に導く誘導人として、この時代に生(セイ)を受けた。
だから、俺たちも、一緒に戦うよ!って事が言いたかったんだ。」
真音(マナト)さんはそういうと、今度は私の肩をぽんと叩く。
「さてと・・・話はここまでかな?」
そういって、今度は顎で前方をさす。
私は、真音(マナト)さんにされるがまま、目線を前方に向けた。
さっきまで、私たちと普通に話していた雅さんの、様子が違ってた。
左手で鞘を握り、右手で剣の柄を握る。
体勢を低くして、今まさに剣を抜こうとしていた。
するどい目つきで、前方を見る雅さんに、真音(マナト)さんが悟り、雅さんの元へ駆け寄る。
「何かを感じるか?」
「ええ。とてつもなく、強い邪気を感じます。
ここから先には、何かありますか?」
その答えに、「例えば?」と真音(マナト)さんは質問を返した。
「扉とか・・・。
邪気が、極力外に漏れないように何かに覆われてます。
だから、この真上の地表にいても、邪気が小さかったんだと思います。」
「覆われているねぇ〜。」
と口にしながら、真音(マナト)さんは考えこんだ。
私は、真音(マナト)さんの代わりに雅さんに答える。
「扉とかも何もないよ。
ただ、さっきよりも真っ暗な道があるだけ。
一寸先は闇って言葉が似合うくらい、真っ暗だよ。」
「何も・・・ない?
そんなはずは・・・。」
と雅さんが言うものだから、「本当だって!」と言って、
「じゃあ、前に進んでみるよ。」
なんて言って私が数歩前に進んだ時だった。
「おいっ!待てっ!!」
と急に右腕を強くつかまれた私は、次に踏み出そうとしていた足が宙ぶらりんになって、その場でヨロヨロとよろけた。
それには、たまらず、その人物をキッとにらんで文句を言っちゃう!
「もうっ!!急にひっぱらないで下さいよぉ!!」
だけど、「無謀な事をするなよ!」と逆に頭ごなしに怒鳴られ、私は首をすくめた。
そんな私にホローもいれずに、真音(マナト)さんは、私からつかんでいた手を離すと、そのまましゃがみこんだ。
そして、近くにあった少し大きめの石を拾うと、それをポーンポーンと軽く何度も上にあげる仕草をはじめた。
「たぶん、この先は、普通では見えない物があるんだろうな・・・。」
「普通では・・・見えない・・・もの??」
「そう。例えば・・・。」
真音(マナト)さんがそこまで言った時、
「もしかして、結界ですか?」
と答えたのは雅さん。
その答えに、「たぶんね。」と答えた真音(マナト)さんは、
「論より証拠だな。」
と言ったかと思えば、「よっ!」と声をあげると同時に、右手に持っていた石を、前方に向かって思いっきり投げた。
「ちょ・・・ちょっと!!もし、渚がいたら、当たっちゃうじゃない!!」
と真音(マナト)さんの腕をひっぱって、反論した時だった。
「見てみなって。」
真音(マナト)さんの言葉に、私は目を真音(マナト)さんから、前方に戻した。
さっきまで、底知れない程の真っ暗闇だったのに、今は石が突っ込んでいった所だけ、小さな小さな穴だったけど、ポッカリと空いていた。
そこからは、黄色い光が漏れていた。
でも、あっ!というまに、その穴は閉じてしまって、また目の前は底知れない程の真っ暗闇となった。
「今の・・・どういうこと??」
またもや、頭がパニックの私は、考える事もしないで、すぐさま真音(マナト)さんに聞いた。
「雅くんが感じている強い邪気は、さっきわずかに見えた、あの黄色い光がある所から感じているものなんだ。
そして、その邪気を守っているのは、この真っ暗な闇。
いえば、煙幕(エンマク)みたいなもんだな。
それを、なんとかしないと、俺たちは先には進めないって事だ。」
「なんとかって、そんな簡単にいうけど・・・。
どうするの?さっきよりも大きな石を投げて、隙間ができたら、そこに飛び込むの?」
真剣に言ったのに・・・笑われちゃった。
それも・・・雅さんにまでも。
「雅さんまで、笑うなんてひどいよ。」
とすねる私に、「申し訳ありません。」と謝ってくれる雅さんだけど・・・笑いながら謝られても、全然申し訳なささが、伝わらないんですけど!!
フンと首を反対方向に向ける私を見ていた真音(マナト)さんが、「まーまー。」なんていって、その場をなごませる。
「この煙幕は、雅くんの剣で何とかなるだろう。」
とサラっと答えをいうと、今度は雅さんに指示を出す。
「雅くん。剣を抜いて、一番邪気が強く感じる方へ剣先を向けてくれ。」
雅さんは、黙ってうなずくと、剣を鞘から抜いた。
そして、言われるがまま、自分の前方のちょっと右寄りに剣先を向けた。
「そこが、一番強いんだね。」
真音(マナト)さんの確認に、「はい。」と答えた雅さんは、さらなる指示を受ける。
「剣に気を集中させて。
邪悪な気だけを感じ取り、それを斬ると剣に念を送るんだ。」
相変わらず何も答えない雅さんだったけど、数秒後雅さんの剣が青白く光出した。
それも、さっきの光とは全然違う。
薄暗かった地下が、一気に明るくなるような、強い光を放った。
「す・・・ごい。」
思わずそう口にした私だけど、真音(マナト)さんは、「まだだ。」とうわ言のように言った。
もちろん、それには、私も真音(マナト)さんの方に振り返って、「えっ?」と聞く。
「今・・・なんて言ったの?」
さらに、聞いてみるけど、「まだ、弱いんだよ。」と言われてしまった。
さっき聞いたのは、聞き間違いじゃなかったのかー。と実感した。
「雅くん。もっとだ。
もっと、もっと強く念じてくれ。
魂ごと使うんだ。」
「魂ごとって・・・。そんなことして大丈夫なの?」
ちょっと心配になった私は、たまらず真音(マナト)さんにくいさがった。
その時だった。
雅さんの持っている剣が、さっきとは違う別の反応をみせたのは・・・。
「これって!!」
私は、雅さんの剣を見て、たまらずそう言った。
私の様子を見た真音(マナト)さんは、すぐに察知したようで、
「この青い炎に見覚えがあるんだね。」
と言われた。
私は、うなずきながら、「本・・・。」とだけ口にした。
「ほん?」
と聞いて来た真音(マナト)さんに、
「ミューラの封印の解き方を教えてくれた文字が、これと同じ青い炎だったの。」
「青い炎?」
私は、何度もうなずいた。
それを、聞いた真音(マナト)さんは、「そっか。」と口にすると、「雅くん!」と彼を呼んだ。
「そのままで、剣を思いっきり下に向かって振り落としてくれ。
この煙幕の後ろから感じる強い邪気をも、切り裂くつもりで、振り落とすんだ。」
真音(マナト)さんの声に、軽くうなずいた雅さんは、正面に向かってさしていた剣を、ユックリまずは、頭のさらに上まであげて、大きくふりかぶった。
それを見た真音(マナト)さんは、突然私の腕をつかんだ。
「なっ!なに??」
驚く私をさらに強引にひっぱりながら、前に移動させる真音(マナト)さん。
「雅くんが、剣を振り落としたら、結界に一瞬だが亀裂が生じるだろ。
その隙に、3人で一気に中に入り込む。
俺がひっぱっても、抵抗しないでくれよ。」
そういいながら、真音(マナト)さんは、素早く雅さんの背後についた。
雅さんはというと、私たちが背後についたのを感じたのか、しばらくして、あげていた剣を、大きく振り落とした。
剣が下に振り落とされたと同時に、剣から青い炎が、前方へと飛び出した。
それは、目の前にある底知れぬ暗闇をジリジリと焼き始めた。
やがて、一人が入れるくらいの穴が開いた。
「一部から、物凄く強く邪気を感じます。
ここって、結界が壊れた場所ですか?」
その場所を指差しながら言った雅さんの言葉に、「そうだ。」と答えた真音(マナト)さん。
さらには、こう言った。
「これは、一時的だ。
またすぐに結界は修復されてしまう。
だから、早い事、中に進むぞ!」
「わかりました。」
雅さんはそう答えると、私たちよりも先に、その穴へと入っていった。
「雅くんが先に行ったのなら大丈夫だろう。
次は、翠ちゃんが行け。」
真音(マナト)さんの言葉に私はうなずくと、真音(マナト)さんの手を離し、穴に向かって進んだ。
中に入った私は、まずビックリした。
だって、まるで、ここは部屋なんだもん。
黄色いというか、真っ白というかそういう清潔感があふれているような部屋。
こんな地下水路にこんな部屋や、場所があったなんて・・・。
あっけに取られている私に、先にこの部屋に入っていた雅さんが、私に声をかけた。
「翠さん!あれって、もしかして・・・。」
雅さんの声に、「えっ?」といいながら、私は雅さんを見る。
そして、彼が指さす方角に、ゆっくりと顔を移動させる。
雅さんが指した場所を見た私は、たまらず叫んだ。
「渚っ!!」
透明の箱のようなものの中に閉じ込められている渚。
薬で眠らされているのか、横たわっている。
私は、たまらず彼女の元へかけよろうとして走り出したけど、今度は雅さんに腕をつかまれて、止められた。
「放してよ!!」
って反発するけど、
「真音(マナト)さんの指示を待ちましょう。」
と落ち着いた口調で言われた。
親友が目の前でとらわれているんだよ。
そんな悠長な事、言ってられるわけないじゃない!
腹が立った私は、力まかせに雅さんの腕をはらいのけた。
「翠さん!」
と怒られたけど、私は無視して渚の元へと走り出した。
「渚っ!起きて!!渚!!」
ガラス越しに渚に声をかけた私。
私の声が聞こえたのか、渚は「ん・・・・。」といいながら、ユックリと目を開けた。
「よかったぁ〜。」
私はそういいながら、渚が閉じ込められているガラスに手を触れようとした。
「触れるな!!」
あと少しで触れそうになった私の手を、真音(マナト)さんが止める。
私は振り返ると真音(マナト)さんを見た。
「どうして?ただのガラスでしょ?」
だけど、真音(マナト)さんは、首を振る。
「忘れたのか?ここは、黒き龍の息がかかった場所なんだ。
いえば、敵地。そう簡単に、渚を逃がせれるわけがないだろ?
こうやって、簡単に渚の姿を見れた事自体が、おかしいと思うべきだ。
もしかしたら、俺たちはすでに、黒き龍のトラップにひっかかっているのかもしれないな。」
真音(マナト)さんは、少し悔しそうにそういうと、私の頭を軽くなでた。
そして、今度は渚の目の前に行くと、その場でしゃがんだ。
渚も目を覚まして、起き上がり、その場に座って真音(マナト)さんを見た。
「真音(マナト)・・・。私、一体どうしたの?」
「何も覚えていないか?」
真音(マナト)さんの言葉に、「そういえば・・・・。」と渚は口にすると、自分がここへ来たまでのいきさつをユックリと思い出し始めた。
真音(マナト)さんから、私が女力(ジョリョク)の鍵を必要とし、一時的に戻って来る事を聞いた渚は、真音(マナト)さんに言った通り、電車に乗ってすぐに戻ろうとしたんだそう。
だけど、電車から降りて、自宅に戻ろうと歩いている最中に、突然体の自由がきかなくなって、勝手にこの場所へと来たらしい。
「強くて嫌な感じの力に、動かされている気がした。
いくら抵抗しても、体も動かないし、声も出せなかった。
意志とは関係なしに、勝手に口が開いて、貯水所の人と話をして、そしてここまできたの。」
渚はそういうと、急に何かを思い出したのか、「そういえば。」というと、渚が閉じ込められているガラスの箱の前にある機械を指さした。
「ここに閉じ込められた時、丁度真音(マナト)がいるその辺りに、人が現れて、あの機械の事を言っていたわ。」
「ひ・・・と??」
真音(マナト)さんの声に、「そう。」と言った渚は、『その人』の話を続けた。
「顔はよく見えなかったんだけど、すごく背が高かった。
その人が、最後に後ろを振り返った時にわかったんだけど、マントを羽織っていたよ。」
「マント?」
今度は私が渚に確認する。
私の声に渚は私を見て、「うん。」と言うと、今度は真音(マナト)さんを見た。
「そのマントの模様が、黒い龍だった。」
「黒い龍か・・・。」
ため息混じりに出た真音(マナト)さんの言葉に、
「って事は、その人物が、黒き龍ですかね?」
と雅さんが聞いた。
それには、真音(マナト)さんも、「かもな・・・。」と軽く答えると、さらに渚に迫る。
「それで?その男は、何か言ってなかったのか?」
真音(マナト)さんの言葉に渚は、「言ってた!」というと、今度は、側にある機械に目を向けた。
「時がくれば、ロックが自動的に解除され、君はここから無傷で出られる。
君に、危害を加えるつもりはない。
ここで、おとなしく時が来るまで、ジッとしているんだな。
もし、無理にこのロックを解除しようとすれば、君の命はないし、この世界自体にも危険が及ぶ。
それから、もうじき、ここに緑の王である翠がくるだろう。
彼女に伝えてくれ。」
渚はそういうと、今度は私を見た。
「お前さえいなければ、とっくに緑豹国を潰し、俺が未来の日本を手に入れていたんだ。
なのに、お前が、俺の邪魔をした。
俺はお前を許さない。
必ずお前を殺して、未来の日本は俺が手に入れる。
その時は、大嫌いな翠怜(スイレン)も蒼(アオイ)もこの世にいない。
それを阻止したいのなら、俺に逢いに来い。
俺は、いつでもお前と戦ってやるから。」
渚はそういったあと、私をとても心配そうな瞳で見た。
「翠・・・。大丈夫?」
私は声が出せなかったけど、なんとか顔をひきつらせながらも、笑顔で答えた。
黒い龍が、私をうらんでる?
彼は、私を殺すと言った。
そして、赤龍国(セキリュウコク)の王の翠怜(スイレン)さんと、つかまっている蒼さまをうらんでいる??。
一体、どういう事なの??
「ねぇー、真音(マナト)さん。一体これは、どういう・・・。」
私がそういって、真音(マナト)さんに聞いている時だった。
『翠・・・聞こえますか?翠?』
頭の奥の方で、か細い声だったけど、女性の声が聞こえた。
私は、ピタっと動きを止めた。
「翠!どうしたの?翠!」
私の行動に不安を感じた渚が、私に必死に話しかけてくる。
「ちょっと、待って下さい。」
取り乱す渚を止めてくれたのは、雅さん。
「何かを感じるのか?」
と聞く真音(マナト)さんに、
「今、翠さんの周りに、とても暖かな空気を感じます。
誰かが、翠さんと話をしている・・・。
そんな空気です。」
それを聞いた真音(マナト)さんは、「そっか。」というと、渚に「心配はいらないよ。」と答え、渚に笑いかけた。
「心配いらないって。どういう事?
それに、誰かと話してるって!!
もしかして、その黒い龍のマントの男??」
あわてふためく渚に、「いいから、落ち着けって!!」と真音(マナト)さんは笑いながらいうと、「たぶん。」と口にしこういった。
「翠ちゃんが話しているのは、母親である翠怜(スイレン)さんだよ。」
「はは・・・おや??」
すっとんきょうな声を上げる渚に、真音(マナト)さんは、これまでのことを簡単に渚に説明し始めた。
『翠!翠!』
何度も聞こえる声に、私は心の中で答えた。
『聞こえます。あなたは・・・もしかして、翠怜(スイレン)さん?』
私の答えに、その人は、少し笑う。
『声が聞こえてよかったです。』
彼女はそういうと、『時間がないので、用件だけ伝えるわね。』と言うと、大きく深呼吸をし、一気に話し始めた。
『渚さんを閉じ込めているそのロックは、翠がこちらの世界に戻ってくる4時間後には、勝手に解除されるようになっています。
でも、それでは困ります。
翠には、何としても、女力(ジョリョク)の鍵を持って帰ってきてもらわなくては困るからです。
それで、あなたたちに、そのロックを解除してもらいます。』
『そんなの、無理だよ。』
たまらず、私は声を出してそういった。
私の声に、みんなが一斉に私を見た。
だけど、それにはおかまいなしで、私は続ける。
『無理にロックを解除すれば、渚の命が危なくなるし、この世界自体も危なくなるって、黒い龍が言っていたって、渚が・・・。
そんな事、できないよ。』
『黒き龍にあったのですか?』
私は『ううん。』と言うと、『渚があったの』と答えた。
『そうでしたか・・・。』といいながら、翠怜(スイレン)さんはあからさまにホッとした。
『でも、彼は私を殺すと言った。
私がいなければ、とっくに未来の日本は自分の物だったって。
それって・・・どういう意味なんですか?』
だけど、翠怜(スイレン)さんは、『ごめんなさい。』と謝ると、
『勝手といわれるかもしれませんが、今はその話よりも、女力(ジョリョク)の鍵を持って帰ってくる事が先決です。
すべては、ミューラを復活させてから、話しますから。』
翠怜(スイレン)さんはそういうと、『今からロックを解除する方法をいいます。』と少し鋭い口調で言った。
『翠!右手に雅。そして、左手に真音(マナト)さんと手をつなぎなさい。』
『は・・・い。』
私は、言われるがまま、真音(マナト)さんと雅さんをこちらに呼んで、右手に雅さん。
左手に真音(マナト)さんと手をつないだ。
『つなぎました・・・。』
と答えると、
『雅に、真音(マナト)さん。
私の声が聞こえますか?』
翠怜(スイレン)さんの声に、私は『えっ?』といいながら、両方を見る。
二人は、同時に、「はい。」と答えた。
「えっ!なんで?どういう事??」
と口にした私に回答をくれたのは、やっぱりこの人。
「翠ちゃんと翠怜(スイレン)さんは、心で会話ができるだろ?
それを、翠ちゃんの力を俺たちに伝道する事で、俺たちにも聞こえるってわけ。
さらに、付け加えると、人間の左手っていうのは、清められた手といわれる事がある。
つまり、より神に近いんだ。
だから、右手よりも左手の方が、翠怜(スイレン)さんとの会話をする際に使う能力が強い。
それで、ただの人間である俺には、その力が強い方の左手で、翠ちゃんから力をもらう。
そして、鳥の混血で、しかも今は封印されているにしても、鳥に変身できるくらいに動物の血を強く持つ雅くんは、少し弱めの右手でも充分声が聞こえる。
そういう、意味で、俺が左手。雅くんが、右手って事なんだと思うよ。
そうですよね?」
と言った真音(マナト)さんに、『さすがですね。』というお褒めの言葉が。
『龍の血と豹の血を受ける混血人間として生まれた翠は、それはさまざまな力にたけていました。
その中でもっとも飛びぬけてすごかった力が、知性でした。
私の手を離れる1歳の時点で翠は、いろんな事を理解していました。
私たちの時代に起こった事も、遠い未来の事も。
ですが、その知性は、今後生きる翠の世界では、余計なものでした。
それで、翠の細胞から、その能力は全て取り、翠がこちらの世界と交わる時が来たとき、それを導く人として、その時にだけ力を発揮するように加工して、真音(マナト)さんの細胞に埋め込みました。
あなたをも、巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした。』
『謝らないで下さい。
俺は別に何とも思っていませんから。
それより・・・。』
真音(マナト)さんはそういうと、『聞いていいですか?』と翠怜(スイレン)さんに言うと、彼女の返事を待たずに次の言葉を言った。
『黒き龍とあなたがたの因縁は、今はさておき・・・。
黒き龍ってのは、今、WONDER LANDを治めている王じゃないんですか?』
真音(マナト)さんの言葉に、「えっ?そうなの?」と私も、渚も聞く。
それに対して真音(マナト)さんは、何も答えないけど、変わりに翠怜(スイレン)さんが答えた。
『そうです。よくわかりましたね。』
そういったあと、彼女は続けた。
『黒き龍とは、今現在、WONDER LANDを治めている王の事です。
WONDER LANDでは、“ラウオ”と呼ばれているようですが・・・。』
翠怜(スイレン)さんはそういったあと、『では、時間がありません。ロックの話をしますね。』というと、一回口を閉じた。
そして、ゆっくりと説明を始めた。
『その機械を作ったのは、ラウオが持っているコンピュータです。
つまり、手順としては、まずラウオがどういう仕組みで、この機械を作ったかを分析する事。
そして、そのタイプがわかれば、それを解除すればいいのです。
とはいえば、口でいうのは簡単ですが、実際やるには、いくつかの問題があります。』
『問題・・・って?』
そういったのは私。
すると、翠怜(スイレン)さんは、さらに続けた。
『まず、この機械を作ったデーターが入ったラウオのコンピューターに侵入しなくてはなりません。
それは、そこの世界からはもちろんの事、無理です。
向こうの世界の者が、ラウオのコンピューターに侵入し、いえばこの機械の見取り図的な物を手に入れなければいけないのです。』
それって、何か・・・すごい事じゃない?
いえば、WONDER LANDに入るって事でしょ?
恐くなった私は、思わず唾をゴクっと飲み込んで言葉を失った。
でも、こんなすごい話を聞いても、この人はやっぱり冷静だった。
『それで?それが、できたら、今度はどんな問題があるんですか?』
真音(マナト)さんの言葉に、翠怜(スイレン)さんは少し、頼もしいと思ったのかな?
軽く息を吐くような笑いをした。
そして、答えを口にする。
『こちらの機械を見てください。
その機械は、鍵とかではなくて、何か操作が出来るようになっていませんか?』
そう言われて、真音(マナト)さんは、注意深くその機械を見た。
『操作できるボタンやキーボードはないです。
でも、パソコンをつなげるような場所はありますね。』
確かに・・・。
小さな穴というか、差込口がある。
って事はよ。
『つまり、こういう事ですよね。
向こうで蒼輝くんたちが、この機械の構造を調べる。
それを、俺たちに伝えてもらって、ここにパソコンをつないで、この機械を俺たちが解除する。』
真音(マナト)さんの言葉に私は、ウンウンとうなずいた。
そうだよ!この機械にパソコンをつないで、解除すればいいんだよ!!
と真音(マナト)さんの力で理解したくせに、まるで自分の力でわかったような錯覚を起こした私は、さらにちょっと胸まではってしまう。
だけど、すぐさま、翠怜(スイレン)さんは、いいにくそうにこう言った。
『まだ問題はあります・・・。』
と・・・。
そして、さらにこんな事を言った。
『ラウオは、そう簡単にはロックを解除させてはくれないでしょう。
絶対にできないように、細工をしているはずです。』
『それは・・・なんですか?』
そう言った真音(マナト)さんに、翠怜(スイレン)さんはすぐに答えた。
『きっと、同時に解除しなければいけない。という細工だと思います。』
『同時??』
私と雅さんの声が、重なった。
私たちはそう叫んじゃったけど、真音(マナト)さんは叫ぶ代わりに、翠怜(スイレン)さんと話を続けた。
『それは・・・どういう意味ですか?』
『その機械にあるいくつかのトラップを解除するのは、こちらと向こうの2つのコンピューターで、解除をしないといけない。という意味です。
つまり、同じ速さで、同じタイミングで、キーボードを打ち、同時に選択の決定を押す。
まるで、となりにいるような息の合った状態でないと、ロックは解除できないでしょう。
少しでもズレたら、そこで、機械にためられている念が、渚さんを襲い彼女は死んでしまう。
そして、そのあと、その世界をも、その念は飲み込んでしまい、滅んでしまう。
ハッキリいって、とても難しい解除となるでしょう。
それでも、あなたたちに、やってもらわなければ、いけません。
やって・・・くれますか?』
翠怜(スイレン)さんの言葉に、私も雅さんももちろんの事ながら答えられなかった。
だって、そんなすごいこと、私と雅さんの力じゃできないもん!
真音(マナト)さんが、やるっていわなきゃ、できないから・・・。
その思いは、雅さんも一緒だったみたいで、私たちはほぼ同じタイミングで、真音(マナト)さんに目を向けた。
真音(マナト)さんは、目をつぶると、天をあおいだ。
そして、少し考えて、目を開けた。
『普通に考えて、こんなに離れている2組が、同時にパソコンを打つなんて、できる訳がない。
だけど、それを可能にする方法が、あるんですよね?』
真音(マナト)さんの言葉に、翠怜(スイレン)さんは『もちろんです。』と自信ありげに答えた。
だけど、さらに、真音(マナト)さんは、翠怜(スイレン)さんに突っ込んだ。
『それを聞く前に、一つ確認します。
こちらは、俺が操作するとして、問題は向こうです。
向こうにコンピュータを操作できる人物がいるんですか?
緑豹国も青鳥国(セイチョウコク)も、いえば、こちらの世界よりも発展してませんよね?』
だけど、それには、私が答えた。
「サンガが、いる!
彼なら、できるはず!!」
でも、そういったあとに、「あっ。」といっちゃう。
「どうか、しましたか?」
と雅さんに言われて私は言った。
「ラウオのコンピューターに侵入するって事は、まずはWONDER LANDに侵入しなきゃならない。って事でしょ?
サンガは、WONDER LANDには、入れない。」
「どうして?」
そう聞いてきたのは、真音(マナト)さん。
私は、真音(マナト)さんを見ると、今サンガが置かれている状況を話した。
「緑豹国の人間になるために、黄色の玉を飲んだから。
だから、緑豹国の森と、WONDER LANDの森との間の狭間の森から出たら、苦しんでしまう。
絶対に、WONDER LANDには、入れないというか・・・辿りつくまでに死んじゃうよ。」
「なるほどねぇー・・・。」
と真音(マナト)さんは答えると、また天を仰いだ。
『なんとか、なりますか?』
真音(マナト)さんの呼びかけに、翠怜(スイレン)さんは、『わかりました。』と答えると、
『では、永遠(トワ)の能力を封印しましょう。』
と言い出した。
『封印・・・ですか?』
少し顔をしぶらせながら、そう言った真音(マナト)さんに、『ええ。』と答えると、翠怜(スイレン)さんはまた、不思議な話をした。
『私たち龍族には、生まれつき『封印』の力を持って生まれてきます。
ミューラの力を玉の中に封印したのも私です。
そして、翠の、龍と豹との強力な力をもつ緑の王としての力も、実は玉に封印されています。』
『やっぱりな・・・。』
真音(マナト)さんは、納得しながらそう口にする。
『それは、翠怜(スイレン)さんがされたのですか?』
と言ったのは、雅さん。
でも、翠怜(スイレン)さんは、『いえ。』と否定した。
『やったのは、黒き龍であるラウオです。
そして、その玉は、彼が持っています。』
彼女はそういうと、『翠。』と私の名前を呼んだ。
『永遠(トワ)の力は、今から封印します。
そして、その封印が解けるきっかけは、サンガが緑豹国の領域に入った時にします。
だから、WONDER LANDで、ロックを解除しても、永遠はまだ豹になれません。
なので、WONDER LANDへ向かうのは、3人に行ってもらいます。』
『3人??』
すると、今度は、真音(マナト)さんを呼んだ。
『ここから先は、真音(マナト)さんに、たくしましょうか。』
それには、素直に『うん。』 と答えた私。
そして、真音(マナト)さんを見た。
真音(マナト)さんはというと、『わかりました。』というものの、『でも、その前に・・・。』と口にし、翠怜(スイレン)さんに注文を出した。
『さん付けは、止めて下さい。
真音(マナト)でいいですから。』
突然の真音(マナト)さんの申し出に、翠怜(スイレン)さんは、クスと声を出して笑った。
そして、『そうですか?それでは・・・・。』というと、
『では、真音(マナト)。』
と彼の名前を改めて呼んだ。
『あなたには、翠を通し、ヒビキと話をしてもらいます。
事のいきさつを話し、そして、それぞれの役割をちゃんと説明してほしいのです。』
『わかりました。』
真音(マナト)さんは、そう返事をすると、翠怜(スイレン)さんの話を集中して聞いた。
「わかった・・・。また何かあったら、教えてくれ。」
ヒビキはそういうと、俺たちの方を見た。
「ラン、何て?」
俺の言葉にヒビキは、「それが・・・。」というと、少し言いにくそうに口にした。
「『我は黒き龍。
求めし、女力(ジョリョク)の鍵を持つ者は、我が手の内にて捕らえたし。
かけた呪いは、無色の光が戻る時、解かれる。
それ以前に呪いを解けば、死を意味する。』
この文章が、黒い炎として書物に、現れたそうだ。」
「黒い・・・炎?」
と口にしたのは藍瑠(アイル)さん。
だけど、俺はそれよりも、言葉の意味が気になった。
これって、つまり・・・。
「翠の友達が、捕まってるって事か?」
俺の言葉にヒビキは、「たぶんな。」とだけ答えた。
「だけど、黒き龍って、こっちの世界の者だろ?
なんで、過去である翠の世界にいけるんだよ!」
サンガの言ってる事は、確かにあってる。
なぜ行けるんだ?しかも、どうやって?
だけど、ヒビキは、当たり前のように答えた。
「出来ない事はないだろう。
翠ちゃんだって、ここで生まれたのに、過去に魂だけ送り込まれたんだからな。
俺が思うに、翠ちゃんの母親は、今の赤龍国(セキリュウコク)を治めている翠怜(スイレン)さんだ。
そして、彼女が、翠ちゃんの魂を過去に送った張本人。
さらに、そうできる不思議な力が、『龍の血』を濃く持つ者の力じゃないかと思うんだ。
だから、この黒き龍も、元は『赤龍国(セキリュウコク)』の人間じゃないかと思う。」
ヒビキがそういった時だった。
急にヒビキの顔が、「えっ?」って顔に変わった。
そして、そのまま、今度は俺のほうに目だけを向けた。
まるで、俺に何かを訴えかけているような・・・そんな顔だった。
「ヒビキ?」
だけど、ヒビキは、今度は、「ちょっと、待ってくれ。」と口にすると、俺に近付いてきた。
「そんな真面目な顔をして、どうかしたのか?」
すると、今度は俺の右手を乱暴につかむと、俺の手を握った。
「なっ!なんだよ!!」
と言いながら、気持ち悪くてヒビキの手を離そうとした時だった。
「蒼輝・・・蒼輝!」
脳のはるか奥の方で、俺を呼ぶ声が聞こえた。
それは、とても小さくて弱い声だった。
だけど、俺にはその声が誰なのか、すぐにわかった。
だって、それは、俺がいつでも、どこでも聞きたい声の人だったから。
「翠・・・だろ?」
俺は、そういいながら、ヒビキを見た。
「なんで、翠の声が聞こえる?
アイツは、玉をここにおいていったんだ。
アイツと話なんて、できるわけないだろう。」
だけど、ヒビキは、「可能性はなくはないよ。」と言うと、軽く笑った。
「現に、翠ちゃんは、今回の旅で、自分の力を高めていっている。
高めているというか・・・本来の力を取り戻しつつあるというべきか。
前に長老も言っていたが、翠ちゃんの豹の力は、どこかに閉じ込められているんだと思う。
この世界のどこかにね。
でも、翠ちゃんが、ほんの少しでも自分の体に残っている力を俺たちの為に使おうとすればするほど、どこかで閉じ込められている力が、少しずつ漏れて、翠ちゃんの体に戻ってきているんだと思う。
だから、日に日に翠ちゃんの力が強くなっているんだ。
特に、念じる力ってのがね。
今も、彼女の声が聞こえるのは、俺の力じゃない。
彼女が、俺と話がしたいと、何よりも強く念じているから聞こえるだけ。
そして、蒼輝にも彼女の声が聞こえたのも、彼女が蒼輝に自分の声を聞かせたいと念じたからだ。
言っただろ?彼女が願えば、きっとどんなことも叶うくらいの大きな力を持っているってな。」
ヒビキはそういうと、今度は念をこめながら口を開いた。
『翠ちゃん。俺たちも、書物のおかげで、だいたいの事は、察しはついている。
そっちも、大変なんだろう?』
『うん。渚がつかまったの。
今、彼女の前にいるんだけど・・・。』
翠はそういうと、『ちょっと、待ってね。』と口にした。
そして、しばらくして、聞こえた声は聞いたこともないような男の声だった。
『ヒビキさん。俺の声が聞こえますか?』
「おいっ!お前、誰だよ!!」
と俺は、速攻突っ込んだ。
でも、ヒビキは、
『もしかして、君が真音(マナト)くんかい?』
なんていってる。
真音(マナト)・・・。
誰だよそれ!!
って、思って、あることを思い出した。
そういえば、翠の世界に、俺たちの事をやたらと理解してるやつがいた。って翠が言っていたよな。
そして、そいつが、翠をうまく導いてくれているって・・・。
でも、いえば、外部の人間だよな。
なんで、そんなやつが、ヒビキと話なんか??
『おい!お前、一体何者なんだよ!』
と突っかかる俺に、ヒビキの右手が俺の頭を打つ。
「いってぇーなー。」
と絶叫する俺に、「少しは、黙れっ!」と怒りながら、
「静かにしないなら、手を離すぞ!」
とまでいわれ、俺は仕方なく、「わかったよ。」とふてくされながらヒビキに返事をした。
『それで、真音(マナト)くん。
一体、今どうなっているんだ?
それに、翠ちゃんが力をつかって、わざわざ俺に話をしてきたって事は、俺たちがしなきゃならない事があるんだよな?
何なんだ?』
ヒビキの言葉に、『翠ちゃんが言っていた通り、話がわかる人ですね。』と笑いながらいうと、
『では、翠怜(スイレン)さんより言われた事を、伝えます。』
と言うと、彼は、ヒビキに一気にいろんな事を話しだした。
俺は、もちろんの事ながら、途中で意味がわからなくなった。
でも、ヒビキは何も言わずに、彼がいう事をジッと聞いていた。
『以上が、あなたがたに伝える事です。
これから先は、俺たちとあなたたちとが、共に動かなければいけません。
どうしますか?』
という彼の問いかけに、ヒビキは、「そうだな・・・。」というと、しばらく考えこんだ。
そして、答えが出たのか、急に声のトーンが明るくなる。
『とりあえず、俺たちは、今からラウオの仕掛けた機械の種類を分析してくるよ。
そうだな・・・。
今から、色々していたら、きっとそれが出来るのは、今から1時間は先になるかもしれない。
無事、機械の種類がわかれば、翠ちゃんに念を送るから。
それまでに、そちらも、コンピューターを接続して、準備を整えておいてくれ。』
それに対して、彼は、『わかりました。』と答えると、『ちょっと、待って下さいね。』と言ったかと思えば、
『ヒビキさん!』
と翠の声が。
『翠!俺だ、蒼輝だ!』
って必死にいうけど、アイツは俺なんて無視して、
『藍瑠(アイル)さんと話をさせてもらえませんか?』
なんて、言い出した。
『おいっ!』
と翠に怒るけど、『わかった。ちょっと、待って。』とヒビキは言うと、俺の手を離した。
「お前は、もういいや。」
とまで言われて俺は、「なんなんだよ。」と悪態をつく。
でも、それすらも、完全に無視されて、ヒビキは、後ろに居る藍瑠(アイル)さんを呼んだ。
そして、彼女の手を握った。
私は、訳がわからないまま、ヒビキさんと手をつないだ。
『翠ちゃん、藍瑠(アイル)さんに声が聞こえるようにしたよ。』
ヒビキさんの言葉に私は、「えっ?」と言いながら、ヒビキさんを見た。
すると・・・。
『藍瑠(アイル)さま。聞こえますか?』
私はその声に、ハッとして、あたりを見渡した。
でも、その声の主は、いなかった。
だけど、今確かに『彼』の声がしたはず。
私は、もう一度辺りを見渡した。
「雅・・・。どこにいるのですか?雅・・・。」
でも、やっぱり、雅の姿なんてなかった。
「これは、一体?」
と隣に居るヒビキさんに助けを求めると、彼はとても優しく微笑んでいた。
「翠ちゃんの力を通して、会話ができるようにしているだけです。
残念ながら、雅は今はこの世界には居ません。
翠ちゃんと同じ、過去の世界にいます。」
その言葉に、私はたまらず、その場に座り込んだ。
雅が居ないことは、わかっていたはず。
でも、心で私はきっと思っていた。
本当は、雅はこの世界のどこかに飛ばされただけ。
もうじき、雅は戻ってきてくれるはずだと・・・。
だけど、彼がここにいないことを、目の当たりにした私は、体の力が抜けた。
「大丈夫ですか?」
とヒビキさんに言われても、私は答えることができなかった。
その時、「藍瑠(アイル)さま。」という懐かしい声が聞こえた。
私は、その声にすがるように言ってしまった。
「雅・・・。早く、戻ってきて下さい。
わたしくしを、一人にしないで・・・。」
そういいながら、私は泣いていた。
私は、今までただの一度も、雅と離れた事がなかった。
好きとか、恋人同士とか、そういうのではなくて、私たちは2人で一つなの。
離れてなんて、生きていけない。
どうやって、生きたらいいか、わからないもの。
雅の声を聞いたら、逢いたくてたまらなくなった。
私は、止まらなくなった思いと涙で、悲しみにくれた。
『藍瑠(アイル)さま、聞いてください。』
雅のその言葉に、私は涙を必死でとめながら、彼の言葉に集中した。
『翠さんが戻る4時間後、僕も必ずあなたの元に戻ります。
必ず、無事に戻ると約束します。
ですから、藍瑠(アイル)さまも、彼らに力を貸してあげて下さい。
そして、彼らに守られて、この4時間を無事に生きて下さい。』
『雅・・・。』
私はそういいながらまた、泣いていた。
私が泣いているとわかっている雅は、少し呆れながら、『そんなに泣かないで下さいよ。』というと、最後にこう言った。
『これだけは、忘れないで下さい。
僕のいるべき場所は、藍瑠(アイル)さまの側です。
僕を信じて、待っていて下さい。』
それを最後に雅の声は聞こえなくなった。
ただ、うなずいて・・・私は、雅の最後の言葉を心に刻んだ。
そんな私の頭を優しくなでてくれたヒビキさんは、私に優しく笑う。
そして、今度は、蒼輝さんたちを見て、
「これから、俺たちがすることを話す。
こっちに来てくれ!」
と声をかけた。
私も、ささっと涙をぬぐった。
これから、ヒビキさんがしようとしている事に、私の力だってきっと必要になるはず。
雅が言っていた。
私も力を彼らにかすんだと。
それが、結果的に雅が無事に帰ってくる事につながるのなら・・・私もやるべき事を、しっかりやらなきゃ!
改めて気合を入れた私は、弱い自分をその場に捨てて、気分を新たにした。
そして、ヒビキさんたちの輪の中に入って行った。
☆☆☆ 13章 END ☆☆☆
|