2008/4/14


15    14章  INVASION〜侵入〜Part1
更新日時:
H18年9月10日(日)
翠との連絡が途絶えてから、ヒビキは俺たちに必要な事だけを簡潔に言った。
トーワは、途中でゴロンと横になり、「わかんなぁーい。」と泣くし、サンガは今からやろうとしている無謀な事に、言葉が出ない様子だった。
そして、さっき、雅の声を聞いた藍瑠(アイル)さんは、スッカリ元気になったのか、一応はヒビキの話を聞いているようだったけど・・・何も言わないところを見ると、驚きで思考回路が停止したか?と疑いを向けた俺。
俺はというと・・・意外に冷静に聞けてた。
いつもの俺なら、こうはなっていなかったはず。
翠が今、俺の居ないところで、危険な目に逢っているって聞かされたら、冷静さを失って俺は俺でいなかったと思うんだ。
だけど、さっきの翠との会話というか、翠の態度で、目が覚めた。
翠は、必死で今、向こうで自分がやれる事をやってる。
俺の愛に縛られる事なく、必死に親友を救おうとしてる。
だから、俺も、翠への愛を、今は忘れようと思った。
ここにいない翠の事を心配して、ムチャをしても、翠を守れないのは変わらないし、彼女のしたいことの足をひっぱる事にもなるから。
俺は、ここで、やるべきことをやる。
そうする事が、結果的に翠を守る事に、つながる事だと思うから。
それに、この予想外でいて、絶体絶命の状況で、意外と翠は冷静だったしな。
なんて思ったら、知らない間に俺は、笑っていたようで・・・。
 
「この状況で、笑うとは・・・すごい落ち着きようだな。」
 
ヒビキに言われて、俺は急に我に返る。
 
「あっ・・・いや。これは・・・。」
 
と訂正しようとした俺に、ヒビキは「わかってるって。」と言って優しく笑う。
 
「翠ちゃんが、思ったより落ち着いてたから、安心したんだろ?」
 
それに対して、今度は俺が、ヒビキに笑い返した。
 
「それよりさー。ヒビキ。」
 
サンガの言葉に、俺もヒビキもサンガを見た。
 
「ん?」
 
と聞いたヒビキに、あいつはこう言った。
 
「今からWONDER LANDに乗り込むんだよな?
けど、まずは、ここからどうやって降りるんだよ。」
 
確かに・・・この台は元に戻らない。
雅の剣を抜いたから、元に戻り、下の階に降りれるのかと思ったけど・・・無理みたいだ。
深刻な顔で悩むサンガに、ヒビキは「心配ない。」と余裕の笑顔。
 
「藍瑠(アイル)さんの瞬間移動でおろしてもらうよ。」
 
ヒビキはそう言ったあと、藍瑠(アイル)さんの元へと向かった。
 
「これから、藍瑠(アイル)さんの力を借ります。
かなり、体力を消耗すると思いますが、どうか力を貸して下さい。」
 
「私は、何をすれば・・・・。」
 
と戸惑いながら言った彼女にヒビキは、これからの行動を説明した。
 
「まず、俺たちはあと10分以内にWONDER LANDに潜入しなきゃいけない。」
 
「10分??」
 
と裏返った声をあげたのは、床に転がっていたトーワだった。
 
「お前、バカか?そんなの無理に決まってるだろ?」
 
とサンガもヒビキに反論するけど、俺はわかってた。
どうして、10分以内なのか・・・。
 
「さっき、向こうの世界の真音(マナト)ってやつと、1時間後に解除を開始しようとヒビキ言ってたよな?
向こうでの1時間は、ここでは、5分の1だから、12分。
そして、あれから、ヒビキに話を聞いていたから、ロスした時間を引いて、正確には10分弱って所か・・・。」
 
俺の言葉に、ヒビキは、「よく気付いたな。」と言って、うれしそうに笑った。
 
「だから、時間がない。
とにかく、今から、藍瑠(アイル)さんの瞬間移動で、青鳥国(セイチョウコク)と地下水路とをつなぐ、扉の所まで、俺たちを運んで下さい。」
 
ヒビキの言葉に、藍瑠(アイル)さんは「はい。」と返事すると、俺たちを一人ずつ瞬間移動で運んだ。
俺たちは、アッと言う間に全員が扉の前まで、運んでもらった。
そして、全員で、扉をすりぬけ、地下水路へと降り立つ。
 
「トーワ。」
 
ヒビキはまずトーワを、自分の元へと来させた。
 
「今からお前には、藍瑠(アイル)さんを乗せて、行ってもらい場所がある。」
 
「行ってもらいたい場所ぉ?」
 
すっとんきょうな声をあげて、首をかしげるトーワに、ヒビキは、「そうだ。」と答えると、さらに詳しく語った。
 
「来る道中にWONDER LANDの地下水路と、ここの地下水路が透明の壁で仕切られていたところがあっただろ?
あそこに行ってほしいんだ。
その場所を、藍瑠(アイル)さんの脳裏にインプットしたら、彼女の瞬間移動を使って、また青鳥国(セイチョウコク)に戻ってくるんだ。」
 
もちろんトーワには、そうする目的がわかっていない。
さらに首をかしげ、目をシバシバするトーワに、さらにわかりやすくヒビキは説明をするのかと思いきや・・・。
なんと、ヒビキが説明をした人物は、トーワではなかった。
 
「なぜ、こんな事をするかというと・・・。」
 
といいながら、目線を向けた相手は、トーワと共に向かう事になる、藍瑠(アイル)さんだった。
けどまー、それは・・・ある意味、正解だと俺は思ったんだ。
だって、絶対にトーワに語った所で、アイツには理解できるわけがない。
それよりか、余計に時間を使って大変だ!
ヒビキの機転のよさに、俺は今更ながらに、『さすがだな。』と感心させられていた。
その一方で、戸惑いの瞳で見ている藍瑠(アイル)さんに、ヒビキは、「そんなに緊張しないで・・・。」と優しく声をかけると、今からするべき事の説明を彼女に始めた。
 
「ロックを解除し、翠ちゃんが鍵と共に、こちらに戻ってくる予定が、1時間後だから、夕方の3時。
それから、ミューラを復活させて、俺たちが緑豹国へ帰るまでのタイムリミットは、地下水路に水が戻る明日の零時まで。
つまり、33時間しかない。
余裕なようにも思えますが、何が起こるかわからないだけに、時間は1分1秒無駄にはできません。
だから、ロックを解除し、WONDER LANDから戻った俺たちを、藍瑠(アイル)さんの力で、さっきの塔の上まで、一気に戻してほしいんです。
だから、俺たちが、WONDER LANDに行っている間トーワと、例の『透明の壁』がある場所まで、一度来ておいて下さい。
地下水路には、ジギルたちはもちろん、敵は入っては来れないでしょうが、念のために、インプットが終われば、速やかに青鳥国(セイチョウコク)に戻ってもらって、俺がトーワに迎えにきてくれるように念を送るまで、待っていてほしいのです。
わかりましたか?」
 
「はい。」
 
と答えた藍瑠(アイル)さんに、「では。」とヒビキはいうと、今度は俺たちを見た。
 
「俺が、サンガを乗せるから、蒼輝は全続力で走れ。」
 
ヒビキの言葉に、俺は言葉で答える代わりに、翠の置いて行ってくれた力をつかって、豹に変身した。
そして、俺とサンガとヒビキは、藍瑠(アイル)さんとトーワを置いて、緑豹国方面に向かって、全速力で走った。
豹が全速力で走れば、目指してた壁なんて、あっ!という間だった。
 
「必死にしがみついてたから、指先がしびれて、さらに固まった。
曲がったまま、戻らねぇー。」
 
といいながら、俺に手を見せるサンガ。
 
「早く、元に戻せよ。今から、機械さわるんだからな。」
 
と冷たく対応した俺は、目の前にあるサンガの固まっている指を右手で払いのけると、ヒビキに目を向けた。
 
「それで?この壁をすり抜けれたら、WONDER LANDだけど・・・。
これ、壊れねぇーぞ。どうすんだ。」
 
すると、ヒビキは俺の胸元で揺れている、透明になっているカラの玉を指さした。
 
「その玉の中に翠ちゃんの緑の力が入っていると、それは翠ちゃん自身が持っていた能力と同じ役割を果たす。
つまり、翠ちゃんが念じた事が、叶ったように、今はお前が念じれば叶う。
そうなるように、たぶん翠ちゃんが、その玉に念じたんだ。
だから、一旦、お前の体の中から、翠ちゃんの緑の力を抜いて、玉に戻すんだ。
それから、その玉に頼んでくれ。
『この壁を、ヒビキ、サンガ、蒼輝の3人だけが抜けれるように。』ってな。」
 
「そんな事が・・・?」
 
と言ったのは、サンガだった。
もちろん、俺だってそう思ったさ。
そんなうまく、こっちの思う通り行くわけねぇーだろう!って。
でも、そう言えなかったのは、俺自身も『そうなんだ』と思いたかったからなのかもしれない。
そうであってほしい理由は、今から俺たちが戦いを挑もうとしているラウオに対して、有利になるから・・・・。
って、普通は思うだろうけど、俺は違う。
ヒビキじゃないからね。
じゃ、俺はなんで、そうあってほしいと思ったのか・・・。
わかるか?
それは・・・翠とつながっていたいから。
翠が自分の想いを託した緑の玉が、俺の想いに答えてくれたら。
それは、翠が俺の想いに答えてくれた事だと思えるから。
側にいない翠を、身近に感じれる・・・そう思ったから、俺は緑の玉が俺の声に答えてくれたらいいと・・・心から思っていたんだ。
 
「蒼輝・・・やってみてくれ。」
 
俺をうながしたヒビキ。
俺は、「ああ。」と答えると、まずは豹の姿から人間の姿に戻った。
それから、両手でカラの玉を握る。
みるみるうちに、俺の緑の髪は、黒髪に戻り、瞳の青も黒に戻った。
なんでわかったか。って?
目の前にある透明のガラスの壁が、近くで見ると、俺を映してくれたからね。
だから、わかったんだ。
そうして、一旦緑の力を玉に戻した俺。
さっきまで、俺の胸元で、カラになった玉がぶつかりあっていたのに、今は、青と緑に光る玉が、仲よさそうにコツーンとぶつかりあっていた。
今の俺は、豹に変身出来る能力を失った、『ただの混血人間』だ。
豹に変身した上に、これだけ全速力で走れば、今までの俺だったら、体はヘトヘトで倒れるか、意識を失うはずなのに・・・。
不思議な事に、体は全く疲れてなかった。
というより、どちらかといえば、軽い感じ。
変身が出来ていた、昔の状態に体が戻っているかのようだった。
ちょっと、不思議に思った俺は、人間に戻った最初の目的を忘れて、ヒビキを不思議な顔で見た。
いつのまにか人間の姿に戻っていたヒビキ。
俺は豹から人間の姿に戻っていたヒビキに、ちょっと驚いたんだ。
ヒビキは、すぐに人間の姿に戻る。
豹でいるアイツは、使う能力が多い。
豹になれば、変身した俺とトーワ。
あとは翠か。
俺たちの姿を玉で見ることが出来る。
でも、これはきっとかなりの力を消耗するんだと思う。
だからなのか、ヒビキは用がすめば、すぐに豹から人間に戻る癖がある。
けどさ、今はまだ豹でいてもいいはずなのに。
まだ先に進まなきゃいけないんだからさ。
だから、豹だと思っていただけに、マジで・・・驚いた。
だけど、驚いたのは俺だけでなくて、ヒビキもだったみたい。
てっきり、人間の姿に戻った途端、わき目もふらず、透明の壁へと向かうと思っていたヒビキは、振り向かれて見られたもんだから、そりゃ驚くよな。
 
「えっ?」
 
と言いながら、キョトンした顔で俺を見る。
さらに、「なんだ?」とまで言われたら、さすがにちょっと言いにくくなった俺。
「あの・・・・さ。」と、弱々しく口にして・・・黙ってしまった。
その様子がおかしかったのか、
 
「どうした?何か、気になる事があるのか?」
 
とちょっと笑いながら言ってきたヒビキ。
きまずくて、一旦ヒビキから目をそらしていた俺も、さすがにこのヒビキの言葉と声に、また目を戻してた。
だって、さっきのヒビキの声は、いつになく穏やかで頼りになる声で、それでいて表情も優しかったから・・・。
頼れる兄貴に戻っていたヒビキに、俺は心からホッとしていた。
安堵のため息をついた俺は、「実は・・・。」と口にすると、ゆっくりだったけど、言ったんだ。
俺自身が、今思っている不思議な事をさ・・・。
 
「豹になっていたのに、全然疲れてないんだ。
それよか、昔と変わらないくらい元気で。
体が軽くて、どこも痛くないんだ。」
 
そう言った俺に、喜びの声をあげたのは、もちろんヒビキじゃない。
 
「よかったじゃないか!
元気にこした事はないんだから!
っていうか・・・深刻な顔をするから、心配しただろ?」
 
なんて明るい声を上げながら、サンガは俺の背中を、軽くバシーと叩いた。
だけど、俺は笑えなかったんだ。
ただ、黙って苦笑いをする俺の姿に、「ん?」とサンガは聞いてきた。
それに、答えようとした俺の言葉を、口にしたのは、さっきまで、黙って俺たちの会話を聞いていたヒビキだった。
 
「豹になったあとの蒼輝の疲労は、並大抵のものじゃない。
なのに、これだけダメージがないとなると、不安になるよな。
いつ、ダメージがくるのか・・・。
まとめてきてしまうのか・・・。」
 
そうなんだ。
ヒビキのいう通り・・・俺はそれが恐いんだ。
だけど、その深刻さを全く理解していない、この幸せヤローは、やっぱりさっきと変わらず、ハイテンションで明るい口調で言ってくる。
 
「だけど、そん時は、そん時じゃないか。
まとめてきたら、俺が蒼輝をおぶってやるし、虹の雫を飲ませてやるよ。」
 
と言って、「なっ!」とウインクまでしてるが・・・。
そういう問題じゃなくて・・・と言いかけた俺の気持ちに、ストップをかけたのは、ヒビキの言葉だった。
さすがは、ヒビキ。
なんでも理解してわかっているコイツは、今の俺の心配もちゃんとわかっていた。
だから、俺の今の気持ちもわかってくれてて、それを俺がわざわざ言わなくても、サンガに言ってくれたんだ。
しかも、俺がいうよりも、わかりやすく簡単にね。
 
「コイツが心配しているのは、自分の事じゃないよ。」
 
そう言って、軽く笑ったヒビキ。
もちろん、さっぱり意味のわからないサンガは、すっとんきょうな声で、
 
「自分の事じゃないって?」
 
というと、首を思いっきり傾けてるし・・・。
そんなサンガの姿に、「クス。」と軽く笑ったヒビキは、サンガから今度は、俺に目線を変えた。
そして、さらに少し離れていた俺の元へ歩んできたヒビキは、歩きながら説明を始めた。
 
「蒼輝が心配しているのは、翠ちゃんの事だ。」
 
「す・・・い?」
 
サンガの言葉に、うなずいたヒビキは俺に向かって続けた。
 
「いっきにダメージが自分を襲い、それが、結果的に命の危険にまで、及んだとしよう。
それに対して、お前は立ち向かう覚悟もできてるし、絶対に死なない!っていうプライドも信念もあるだろう。
今まで、王としてお前は、それなりに苦痛を体験してきた。
幼い頃から、さまざまな死を体験してきたんだからな。
この間みたいに、日がのぼるまでの命だと宣告されても、お前は信じられない精神力と生命力で、翠ちゃんが戻ってくるまで、絶対に生きていただろう。
お前は、自分の命の強さに自信はあるはずだ。
だけど、恐いのは、翠ちゃん。
お前の命が危険になった時、自分の命を捨ててまでお前を救おうとする。
いや、実際彼女は、救おうとした。
だからお前は、自分に襲ってくる『死』よりも、翠ちゃんのその『想い』が脅威なんだよな?
お前は、自分の命が尽きる事よりも、翠ちゃんの命が尽きる方が何よりも恐い。
・・・違うか?」
 
俺は、何も言い返せなかった。
だって、ヒビキの言っている事は、何一つ間違っていないから。
っていうより、パーフェクト。
だから、何も言う必要がなかった俺は、ただ軽く笑ったんだ。
それに対して、サンガも何も言えないみたいで、ただ黙ってた。
そんな俺たちを見ていたヒビキだけど、「心配はいらないさ。」と明るい声で言った。
かと思ったら、今度は俺の肩をポンと叩いた。
それには、俺だって、普通にヒビキの方に振り返ったよ。
俺と、ヒビキとの目が重なった。
ヒビキの行動と言葉に興味を持った俺は、食い入るようにヒビキを見ていた。
そんな俺の必死な姿に、ヒビキは、目だけ笑わせながら、とても穏やかな口調で口を開いたんだ。
 
「ハッキリ言って確信はないんだ。
証拠だってない。
だけど、蒼輝が今回ダメージを受けなかったのは、たぶん・・・。」
 
そう言って言葉を濁したヒビキに、「たぶん、なんだよ!」って俺は自分が意識する前に、ヒビキにそんな言葉で襲い掛かってた。
そんな俺に、ヒビキはたじろくようすも、焦るようすもなく、相変わらず落ち着いた様子で話す・・・。
 
「理由として二通りあると思うんだ。」
 
「ふた・・・とおり?」
 
もちろん、俺とサンガとの声がダブった。
その息の合った行動に、さすがにクールのヒビキも、「プッ。」と噴出し笑いをしてたくらい、俺たちは気持ち悪いくらいピッタリだった。
 
「1つは、蒼輝のいうように、たまたま今回は疲れがでなかっただけで、あとから来るのかもしれないって事。
でもな、俺が思うに、そうじゃなくて、もう一つの理由だと思うんだ。
それは、蒼輝の力が戻りつつあるという事。」
 
「俺の・・・力が??」
 
もちろん、声は裏返ってた。
だって、俺の力は、封印されたんだ。
それも、神とのやりとりで、決して戻らないはず。
なのに・・・なぜ?
あっけにとられている俺だけど、でも、興味はあった。
きっと目が訴えていたんだろうな。
俺の目を見た、ヒビキは、「あくまで俺の推理だからな。」と念を押したうえで、推理を語り出した。
 
「蒼さまが造った緑豹国にある『神との制約』というのは、結局天上界にいる翠怜(スイレン)さんの力があっての事と思うんだ。」
 
「それ・・・どういう事?」
 
「蒼さまは、王が元々備え持っている3つの力のうちの、『念じる力』で、『望んだ想いを叶える』という行為を可能にしたんだ。
そして、念じたものの思いや願いは、一旦は、天上界に運ばれる。
例えば、蒼輝のやった、『豹の命を移行する』っていう行為を説明すると。
まず、蒼輝の願いで、蒼輝の豹としての命は、蒼輝の体から抜けて、天上界に運ばれた。
そして、その命を、翠怜(スイレン)さんがチナリに与えた。
つまり、制約を造る役目が、蒼さま。
そして、その制約を使って、願いを叶える役目が、翠怜(スイレン)さんだったんじゃないかと思うんだ。
いえば、緑豹国を支配していたのは、2人の力だった・・・てね。」
 
「なる・・・ほど。」
 
と答えたサンガだけど、俺はさらにヒビキにせまる。
 
「それと、俺の能力の戻りと・・・何の関係があるんだよ。」
 
とくってかかる俺にヒビキは、「まだ、わかんない?」とちょっと意地悪な笑いをしたもんだから、
 
「もったいぶらずに、さっさと言え!」
 
と喧嘩ごし。
それには、「仕方ないなー。」とヒビキはおかしそうに笑う。
何が、仕方ないだ。
俺が、わかるかけねぇーだろ?
初めからわかってたくせに、もったいぶりやがって!と腹ん中では相当、怒っていた俺だけど、なんとか・・・口には出さずに抑えた大人な俺。
 
「つまり、蒼輝の豹である力を封印しているのは、翠怜(スイレン)さんの力なんだ。
たぶん、それは、WONDER LANDの王であるラウオが翠ちゃんの豹の力を封印している方法と一緒だろう。
それが、赤龍国(セキリュウコク)で、代々使われている方法であり、力だと思うから。
俺たちが、玉に物を保存できるのと、同じような力だろう。」
 
「って事は、翠怜(スイレン)さんが、意図的に蒼輝の豹の力を解いてくれたって・・・事?」
 
サンガの正解っぽい回答にも、ヒビキは首を振る。
 
「たぶん、一度封印をしてしまうと、簡単には解けないんじゃないかな?
もし、できるなら、ラウオが女力(ジョリョク)の鍵を奪おうと、し始めた時点で、翠怜(スイレン)さんは蒼輝の豹の力を解放したはずだからね。
そうしなかったという事は、できないと考えた方がいいだろう。」
 
「なら・・・なんで?」
 
「忘れたのか?翠ちゃんが、前回に比べて今回ここへきてから、数段能力を上げた事・・・。
彼女の緑の力が、急速に威力を増してる事をさ。」
 
「そういえば・・・。」
 
「翠ちゃんの念じる力は、ラウオが封印した翠ちゃんの豹の力と共鳴しあって、少しずつ封印が解かれ始めているんじゃないかな。
そして、蒼輝の力・・・。
翠怜(スイレン)さんが封印した蒼輝の緑の力は、さっきの翠ちゃんが、お前に与えた緑の力が引き金となっていると思う。」
 
「翠の・・・力が?」
 
「そう。さっき、翠ちゃんが、お前に信じられないくらいの強い緑の力を与えただろう。
あの力が、お前の体の中入っていた間、翠怜(スイレン)さんが封印している力とが、引き合ったはずだ。
そして、封印されているはずのお前の緑の力が、少し引き寄せられるかのようにして、お前の体の中に戻って来た。
つまり、今のお前は、緑の髪に青い目はないにしても、能力を持っていた時の半分ぐらいの豹の力は、回復したんじゃないかな?
だから、ダメージが出なかった。」
 
ヒビキのもっともらしい説明に俺も、サンガも言葉はもちろん、目を動かす事も出来なかった。
ただ、ボーゼン。
なるほどなー。とも思える。
納得してしまう。
でも、それよりも、あっけにとられているのは、ヒビキの頭だよ。
 
「よくもまー、そんな事に、気付いて、理解できるよなー。」
 
とまるで、うわ言のようにつぶやいたのは、サンガ。
俺は、サンガのように思っていたけど、口にもできないくらい驚いていた。
感心の眼差しで見られてヒビキはというと、すごい解説をした人とは思えないくらいの、軽い表情をしてた。
 
「とはいえ、全部、俺の推測だぞ。
どこまであってるかは、わからない。
真実は、翠怜(スイレン)さんと蒼さまだけが知っている・・・ってね。」
 
そう言って笑ったヒビキだったけど、「さてと。」と口にすると同時に真剣なまなざしになった。
 
「蒼輝、そろそろやってくれ!時間がない。」
 
「そうだよ、蒼輝っ!!」
 
確かに、時間はない。
せかされるのも、仕方ない。
だけどな・・・やっぱり、ムカつくんだよ。
何が?って。
『アイツ』にいわれるのだけは・・・どうしても我慢できなかった。
 
「うるせぇー、わかってるよ!」
 
と口にしながら、俺の右足は、『アイツ』のお尻にヒットした。
 
「いってぇーな。なんで、俺だけ蹴りいれんだよ!
ヒビキにも入れろよ!」
 
とお尻をなでながら叫ぶサンガ。
 
「ヒビキはいいんだけど、お前の指図は受けたくねぇーんだよ。」
 
とぶつくさ文句を言いながら、透明の壁に歩み寄り、両手をピタリとくっつけた。
 
「ホント、わがままな王子だ。」
 
とため息混じりにいったサンガの声も・・・もう聞こえなくなった。
それくらい、俺は両手に神経を集中させてた。
その時だった。
目をつぶっててもわかった。
俺の胸元辺りから、何かが俺を照らしているのが。
ただの光じゃない。
月明かりや太陽の光なら、黄色っぽいだろ?
でも、違う。
これは、どっちかといえば・・・。
俺が、そう思った時だった。
 
「おいっ!翠の玉が・・・おわっ!!」
 
そんなサンガの叫び声が聞こえた気がした。
実際は、大声で叫んでいたんだろうな。
サンガの事だから・・・。
驚いていた表情や、体の動きまで眼に浮かぶようだ。
だけど、今は神経を集中しているせいか、意識が遠い。
俺だけが、すごく遠くにいるようで、サンガとヒビキの気配がとても遠くに感じた。
 
「んー、んー!!」
 
そんなうなり声が聞こえた。
どうやら、ヒビキに口を抑えられたサンガ。
そんなサンガに、「静かにしろ。」とヒビキは耳元で囁くと、俺に向かって大声で叫んだ。
 
「蒼輝!あの時と同じだ。
緑の玉がお前の声を待ってる。今だっ!」
 
まるで、ヒビキの声が飛び込んできたようだった。
今まで、もやがかかったみたいに、遠くから聞こえていたサンガと、ヒビキの声が、今はハッキリと聞こえた。
俺は、ただうなずいた。
ヒビキが言った『あの時』ってのは、雅の剣を抜いた時だ。
あの剣を抜くためには、緑の力が必要だった。
だけど、あの時、翠はこの世界にはいなかった。
でも、いないのに、翠の玉は強い光を放ち、俺の声を今か今かと待っていた。
今、目を閉じている俺の暗闇の視界に、光を放っているものは、胸で踊っている翠の緑の玉だ。
その緑の光が、俺の暗闇の視界を煌々(コウコウ)と照らしていた。
俺は、心の中で唱えたんだ。
 
『緑の力よ、頼む。
俺とヒビキとサンガの3人だけを、この壁の向こうのWONDER LANDに行かせてくれ。
頼む・・・。』
 
って。
そう願った時だった。
 
「う・・・わっ!!」
 
いきなりの展開に俺はそう叫んだ。と同時に、あまりの驚きに、慌てて目を開いたけど・・・遅かった。
気付けば、目の前は土。
そして、俺の口の中には、信じられない物体が大量に侵入してるし・・・。
 
「口の中が、砂だらけだ・・・。」
 
と文句を言いながら、ペッペッと唾を吐く俺。
そんな俺の情けない姿を見ていたサンガは、俺を指さして大笑い。
 
「ワハハッー!バカ蒼輝!
すり抜けるように頼んでおいて、体重を壁にかけてるからそんな事になるんだ。
ざまーみろっ!!」
 
と人をバカにしているサンガに、もちろんカチーン。
 
「テメーな!!」
 
と座り込んでいた腰をあげかけた俺だけど、俺をバカにしているサンガの頭に、ヒビキの平手がとんだ。
 
「いってぇー!!」
 
笑い声から一変して、今度は叫び声が広がった。
そんなサンガに、ヒビキは、冷静に答えた。
 
「バカな事言ってないで、俺たちも行くぞ。
どれだけ時間をロスしてると思ってんだ。
ノンビリしてる暇はないんだぞ。」
 
ヒビキの説教は、やっぱり堪(コタ)えるのか、「わかってるよ。」と弱々しい声を上げたサンガは、壁に向かって歩いているヒビキの背中を追いかけた。
ヒビキは右手を壁に当てた。
すると、そのまま手は壁に吸収されて、ヒビキは壁を飛び越えて、俺のいるWONDER LANDの地下水路へと辿り着いた。
そして、続いてサンガも、ヒビキ同様、吸い込まれるかのようにして、この地へと降り立った。
こっちに、渡ってきたサンガに、すぐにヒビキはこう言った。
 
「サンガ!体、おかしくないか?」
 
「えっ?」とバカ面のサンガだけど、いくらなんでも俺にだってわかったぞ!
ヒビキが何を心配してるのか。
なので、じれったくて、俺からも質問をした。
 
「トーワの玉が暴れてないのかよ!」
 
それには、「あー!」と叫んだサンガ。
しばらく、体をチェックして・・・。
 
「なんともない。なんで??」
 
と首をかしげる。
そんなバカはほっておいて・・・。
俺は、ヒビキを見た。
 
「翠怜(スイレン)さんの言った通り、体内にあるトーワの力を封印してくれたって事か?」
 
俺の言葉に、「そうだろうな。」と言ったヒビキは、今度はサンガを見た。
 
「サンガ。トーワの玉で、お前は混血人間になってた。
豹に変身はできないにしても、身につけた能力はこの数日でも多かったはずだ。
玉が使える事。
目や耳がやたらと良い事。
だけど、その能力は、今のお前には何一つない。
元の、ただの人間に戻ったんだからな。」
 
いつになく真剣なヒビキに、
 
「そんな事、わかってるよ。」
 
と軽く笑って答えたサンガ。
俺も、そんなに真剣になることじゃないと思ったんだ。
だけど、ヒビキは、「お前は、ことの重大性を何もわかっていない。」と怒り出した。
 
「どういう・・・事?」
 
少し不安になったサンガは、笑いをやめてヒビキを見た。
ヒビキはというと、今度は俺を見る。
 
「きっと、お前もわかっていないだろうから・・・お前も聞け。」
 
ドキッとした。
ばれてるよぉー!なんて思いながら、「ああ。」とちょっと強がって・・・ヒビキを見た俺。
 
「頭ではわかっていても、無意識に『力』を使ってしまうはずだ。
敵が近付いてきていないだろうか?と耳をすませて、探ってしまう。
混血の時は、どんなに遠くでも、気配を感じれたわけだから、感じなければ、近付いてきていないと錯覚を起こしてしまう。
だけど、今のサンガには、遠くにいる気配を感じる能力はないんだ。
敵が近付いてきていても感じれない。
安心していると、すぐ側に敵がいて命を奪われる危険がある。
それに、玉もそうだ。
体力の限界まで達しても、玉に入っている虹の雫を飲めば、体力が復活する。と、今のお前は無意識のうちに、そう考えてしまうだろう。
実際、さっきの蒼輝との会話でも、お前は言ったんだからな。
『虹の雫を飲ませてやる』って。
無意識のうちに、死にそうイコール虹の雫と思ってしまってる。
だけど、今のお前には、玉を使うことはできない。
虹の雫を飲むことができないんだ。」
 
ヒビキの言葉に、俺もサンガも改めて気付いた。
もちろん、その思いは素直に声になってた。
 
「あっ・・・・。」
 
って。二人してそんな声を上げてた。
やっと、サンガに向けられている現実を理解した俺たちに、ヒビキはさらなる事実を容赦なく突きつけた。
 
「サンガ・・・。
常に思っていてほしいんだ。
自分の目も耳も、近くしか感知しない事。
体力の回復方法はない事。
この二つの事を、常に意識するんだ。
そして、いつも以上に、周りに注意を払っていてくれ。
でないとサンガ。お前・・・。」
 
ヒビキはそういったあと、急にサンガを見る目が変わった。
というよりも・・・とても真剣なまなざしに変わった。
そして、ハッキリと重い一言を放ったんだ。
 
「この戦いで、間違いなく死ぬぞ。」
 
って。俺はゾッとした。
サンガが・・・死ぬ?
もちろん、ゾッとしたのは、俺だけじゃなかった。
サンガも、驚いたんだろう。
だって、あのカチキなサンガが、「えっ?」と言ったきり、目を大きく見開いて、ただヒビキを見つめてたんだからな。
だから、俺がサンガの分も、ヒビキに反発したんだ。
 
「ふざけんなっ!そんな事、させるわけねぇーだろ!
俺が、守ってやる。絶対に、サンガを死なせない。」
 
そんなに大声で叫ぶつもりはなかったんだ。
頭の中では何となくわかってた。
サンガが死ぬなんて、ヒビキが大げさに言ってるだけだって。
サンガに用心深さを意識してもらう為に、わざとこんな事を言ったんだって。
WONDER LANDの事を、俺たちよりもよく知っているサンガだけに、サンガが気を許してしまって、そこをジギルたちに突かれないとも限らないからな。
そういう事を考えて、サンガにあんな事を言ったんだろうって・・・。
頭の片隅で、そんな冷静な論理が、顔をのぞかしてはいたんだ。
だけど、なんでかな?
冷静では、いられなかったんだ。
正直、恋敵のサンガがいなくなれば、俺にとって万々歳なのかもしれない。
というより・・・万々歳だよな。
好都合と言う物だ。
だけど・・・俺は、そうは思わなかったんだ。
サンガが死ぬ・・・。
俺たちの前からいなくなる。
そう思った時、俺はとっさに重ねたんだ。
何を?って・・・チナリの死とさ。
アイツが死んだ、あの日の事を。
身近な人が死ぬ辛さというか、むごい現実。
まさに、青天の霹靂と言う言葉がピッタリくる・・・そんな予期せぬ残酷な瞬間。
あれを思い出した時、俺は思ったんだ。
『二度とごめんだ。』って。
大事な人を、亡くしてたまるかって。
もとは、敵だったやつなのに・・・俺は、心からサンガに死んでほしくない。
死なせるか!!って・・・そう思ったんだ。
俺の中で、サンガの存在がどれだけ大きくなっているか。
俺自身が、自覚した瞬間だった。
熱くなっている俺と違って、叫ばれたヒビキはというと・・・。
俺の熱くなっている思いが、スーッとひいていくくらい、落ち着いた瞳をしていた。
本当に信じられないくらい冷たくて、そして何も迷いがなく、揺ぎ無い静かな瞳をしていた。
俺は叫びながら、力任せにヒビキの肩に手を置き、ヒビキを俺の方に強引に振り向かせていたんだ。
振り向いたヒビキに、もっともっと言うつもりでいた。
サンガをビビらすような事を、わざわざ言わなくてもいいだろう。って・・・。
いっぱいいっぱい言うつもりでいたのに・・・。
こんな気持ちが固まった強い瞳を見せられたら、何もいえなくなってしまうだろ?
っていうより、こんな事をしている俺の行為すらも、バカバカしいというか、幼稚(ヨウチ)く思えてきた俺は、ヒビキの肩をつかんでいる手の力を緩めた。
次の瞬間、俺の手を、すかさずつかんだヒビキは、俺の手を投げ捨てるように、乱暴に離した。
 
「熱くなってるお前には申し訳ないけど・・・。」
 
ヒビキはそういうと、俺に苦笑いをした。
 
「俺の計画通りに事が運ぶなら、サンガとペアーを組むのは、間違いなく俺だ。」
 
「俺が・・・ヒビキと?」
 
やっと気持ちが落ち着いたのか、そう言ってサンガは俺たちの会話に入ってきた。
サンガの声に、ヒビキは顔だけを向けてサンガに答えた。
そしてまた、俺を見る。
 
「お前には、強化された体がある。
その体で、俺やサンガが進む道を、切り開いてもらわないといけない。
お前は、俺たちと違って、単独行動になるはずだ。
だから、お前がサンガを守る事は、悪いが出来ない。」
 
そう言いきったヒビキは、俺が何かを言おうとしたのに気付いていたはずなのに、顔を俺から背(ソム)けると、サンガを見る。
いきなりヒビキに見られたサンガの目つきが少し、鋭くなった。
まるでそれは、ヒビキが今から言おうとしている事を、心を引き締めて聞こうとしている・・・。
そんな姿勢に、俺には見えた。
 
「俺と一緒に行動する事になっても・・・悪いが、俺はサンガを守る事はできない。
俺は、自分の身を守る事と、翠ちゃんとの連絡で、ハッキリ言って、サンガにまで気が回らない。
だから、サンガには、自分で自分の身を守ってもらうしかないんだ。」
 
そう言って、一旦口を閉じたヒビキは、一瞬目をつむった。
そして、瞳を開けたヒビキは、さっきとは違う、とても優しく穏やかな瞳で、「覚えておいてほしいんだ。」と口にすると語りかけるように、サンガに向けて続けた。
 
「二人でよりそって守りあってって・・・そんな甘っちょろい事をやっている時間は俺たちにはない。
自分の命は、自分で守るしかないんだ。
お前も、ハンターだったんならわかるだろ?
戦場は自分の力で、自分の命を守り、生き抜く場だ。
もし、それが、できないというのなら、お前はここに置いて行く。
足手まといはいらない。」
 
その言葉に、サンガはすぐに何かを言おうとした。
答えようとしてたんだ。
してたのに・・・ごめん。
ついまた、熱くなった俺は、サンガの言いかけた言葉を飲み込んで、ヒビキに向かって暴走してた。
 
「おい、待てよ!サンガを、置いていったら、装置の解除は誰がするんだよ。
俺や、お前じゃできねぇーんだぞ。」
 
俺の熱い言葉に、ヒビキは驚く風もなく、平然とした顔でこちらを見ると、これまた普通のテンションで、「俺が何とかする。」と、言ってのけた。
 
「何とかするって・・・。」
 
とアタフタする俺の横を、サンガに背を向けて歩き出していたヒビキは、通り過ぎていく。
俺はもちろん、サンガにも、一度も振り返る事無く・・・ヒビキは前へと進んだ。
ヒビキの足は止まる事無く、さらに進み、スタスタとWONDER LANDへとつながる階段を上がっていく。
ヒビキの足が、4段程、階段に登った時だった。
 
「待てよ!」
 
今までずっと黙っていたサンガの声が、周りを凍りつかせた。
もちろん、ヒビキの動きも止まる。
その凍りついた空間で、サンガはただ一人動き、俺たちの元へと歩んできた。
 
「あいにくだが、ラウオが作った装置の解除は、いくら頭のいいヒビキでも、できないよ。」
 
そう言って笑ったサンガは、階段に登っているヒビキの目の前に立った。
元々サンガの方が、ヒビキよりも背が高いけど、段に登っているので、今はヒビキの方が、サンガを見下ろすという、なんとも不思議な光景だった。
 
「ヒビキのいう通りだ。
自分の命は自分で守る。
俺はそうやって今まで生きてきた。
だから、ここでも、そうするよ。
そして、絶対に生きて帰るさ。
俺が死んだら、翠が悲しむからね。
彼女の涙は見たくない。」
 
そう言ったサンガの頭にヒビキは、ポンと右手を乗せた。
 
「その想いの強さは、何よりも強い武器だ。
その気持ちを、絶対に忘れるなよ。
自分の命を投げ捨ててまで、何かを守ろうとするな。
俺や蒼輝が危険になってもだ。
お前の命を捨ててまで、守る価値のあるものは、この世にはない。
いいな。絶対に忘れるなよ。」
 
そう言ったあと、ヒビキはすっごく優しい笑いをした。
それは、俺たちに向ける兄貴の笑顔だった。
それをみて思ったんだ。
ヒビキにとっても、サンガは、俺たちと同じくらい必要で大切な仲間なんだって。
 
「よし、行くぞ!」
 
ヒビキはそういうと、くるっと振り返り、階段を駆け上がった。
それを追って数段上がりかけたサンガだったけど、いきなり後ろに振り返った。
俺と目が合う。
もちろん、「なんだよ。」と突っ込んだ俺。
その言葉に、「なんだよって・・・こっちのセリフだ。」と言われたものだから、「はぁ?」とマヌケに答えた俺。
 
「どうして何も言わない。」
 
真面目な顔をして何を言うかと思えば・・・何??
俺は、眉間にしわをよせて、少しイライラした口調で言ってた。
 
「何が?」
 
って。だって、そうだろ?
『何も言わない?』って・・・何をどう言うんだよ。
だいたい、今の会話はお前とヒビキの会話だろ?
俺は、全く関係ないんだからさ。
何も言わなかったからって、俺にコメントを求めてくるなよ。
っていうか・・・俺に、ダメだしするなよ。
そんな思いを込めて、サンガを見た俺。
意味が全然わかっていない俺に、余計にご立腹なサンガは、「あのなー。」と少し声を荒げる。
 
「いつものお前なら言うだろうが!」
 
「だから、何を!」
 
サンガの喧嘩腰の言葉に、俺も喧嘩腰で答えちゃったものだから、こんな時なのに、ゴングが鳴っちゃったよ・・・。
例え鳴っても、普通なら冷静に思うよな。
今はこんな事してる場合じゃない。
早く、ヒビキを追いかけなきゃ!って。
だけど、単細胞で負けず嫌いの俺とサンガが、そんな冷静でいられるわけないだろ?
現実よりも、意地の張り合い・・・。
ゴングが鳴れば、『負けるか精神』が目覚めるわけで・・・。
ヒビキがいない事をいい事に、俺とサンガとのバカげた意地の張り合いが、今開幕しちまった。
 
「『俺が死んだら、翠が悲しむ。』って・・・。
いつものお前なら、『そんな事、あるわけねぇーだろ、バーカ。』って言うだろ?
何で、何も言わない?
気持ち悪いだろ?何を企んでる?」
 
「失礼な!何も企んでねぇーよ。」
 
と腹が立ったから、軽くサンガの足に蹴りを入れた俺。
そんな俺の足に、サンガも蹴り返してくる。
 
「だったら、何で言わねぇーんだよ。気持ち悪ぃーだろ?」
 
「何でって、その通りだと思ったから。」
 
「えっ?」
 
俺の言葉にサンガは、二発目のケリを入れようと右足を振りかぶっていたのに、その足を力なく地に戻した。
その足を、俺の左足が容赦なく襲いかかった。
アイツの足をケリながら、俺は言葉を続けた。
 
「お前がこの戦いで死んだと聞いたら、翠はすっげぇー落ち込むだろうな。って思ったんだよ。
いや、落ち込むだけじゃねぇーな。
たぶん、自分を責めて、向こうの世界に帰っちまうかもしれねぇー。
ミューラも復活できないどころか、もう二度と翠はこの世界には来ないだろう。
それくらい、お前の死は、翠にダメージを与えると思うから。
だから、お前の言ってる事は、あってる。
そう思ったんだよ。
そんな事言われなくても、理解しろよ!!」
 
そして、さらに俺はサンガの足にケリを食らわすけど、そのケリはサンガの信じられないジャンプ力で逃げられた。
俺の左足が、宙を舞った。
空気を切る音が、耳に飛び込んできた。
 
「よけんなよ!」
 
と文句をいう俺に、サンガは別の回答をしてきた。
 
「なんか・・・調子くるう。」
 
調子がくるったのは、よけられた俺の体勢だって!
と突っ込みそうになって、サンガを見てさ。
そういいかけたんだけど・・・思わず言葉を飲み込んだよ。
だって、笑い・・・とも違うな。
かといって、悲しい・・・とも違う。
しいていうなら・・・『複雑』な笑いというのかな?
なんとも不思議な、変な笑いをしているサンガに俺は、言いかけた言葉をやめた。
そして、すりかえた言葉を口にした。
 
「何が?」
 
そんな俺の言葉にサンガは、まだ複雑な顔をしていた。
そして、その顔のままで、俺に言ってきたんだ。
 
「すげぇー、うれしい。」
 
意味がわからない俺は、首をかしげながら即聞いた。
 
「何が?」
 
って、するとサンガのヤローなんて答えたと思う?
信じられない回答をしやがって!!
 
「翠が、そんなに俺を必要としてくれてるなんて・・・嬉しいよな。」
 
って。それには・・・笑い飛ばせなかった。
ムッカー!!って思いが、ドンドン溢れてきて・・・。
大爆発っ!!
 
「バカか!」
 
そう叫んだ瞬間、ムカムカは最高潮に達し、俺の口は止まらなくなっていた。
 
「勘違いするな。
お前が死んで悲しむのは、お前に特別な感情を持っているからじゃない。
翠は優しいんだよ。
だから、お前の死に対して、翠は自分を責める。
アイツはそういうやつなんだよ。
だから、バカな期待はするな!
翠がお前を好きで、悲しむわけないだろ!
いい加減、ありもしない妄想をするのはよせ。
翠は、俺に惚れてんだよ。
うっとうしいから、とっとと、報われない愛は捨てろ!
お前の女々しさに、見てるこっちが情けなくなる。
わかったか・・・くっ・・・。」
 
最後は・・・俺の悲鳴だった。
だって、あのヤロー、いきなり人の腹を思いっきり蹴りやがって!!
何とかしりもちはつかなかったけど、あまりの痛さにしゃがみこんで腹を抱えた俺。
 
「いってぇーな・・・。」
 
と苦しみながら叫ぶ俺にサンガは、「何なんだよ、お前は!!」と叫ぶ。
頭の上から聞こえたから余計に・・・ムカついた。
見下げられている感じがして。
俺は、腹を抱えながら、顔だけをサンガに向けた。
俺を見下ろしているサンガの目が・・・さらに俺にイライラを募らせた。
だけど、募ったのは、俺だけじゃなかった。
鋭い目つきで、下からにらみつける俺の目が、許せなかったのか、サンガも俺をにらみつけてきた。
 
「負傷しても、その挑戦的な瞳に、その傲慢な態度。
ホント、お前・・・ムカつく。
言っとくけどな、お前みたいな自己中な男を、翠がいつまでも好きでいるわけないだろ?
翠は俺に傾きかけてんだよ。
悪いがな、最後には翠は俺のもんだ。
こんな所でおちおち死んでられるか!
最後まで俺は生き延びてやる。
翠と幸せになるためにな。」
 
サンガはそう言ったあと、階段を降りて、俺の目の前に立った。
そして、俺の胸ぐらをつかむと、俺を強引に立たせた。
俺の顔と、サンガの顔が、急接近した。
かなり近い状態で、サンガは鋭い目つきのまま言った。
 
「覚えとけ!最後には、翠は俺の物だ。
お前なんか、捨てられる。
せいぜい、『今』を楽しんでおくんだな。」
 
その言葉に、腹の痛みなんて、すっ飛んだ。
怒りが頂点に達した俺は、右手でサンガの胸ぐらをつかんだ。
お互いが、お互いの胸ぐらをつかむという、なんとも滑稽な姿。
はたからみたら、何をやっているんだ?と思われるかもしれないが、やってる本人たちは、真剣そのものだった。
 
「『今』を楽しむのは、お前の方だ。
せいぜい、翠が自分の物になるっていう、叶わぬ夢を見て、ほざいてるんだな。」
 
そして、鼻で笑ってバカにする俺。
俺のしぐさに、完全に頭に血が上ったサンガは、さらに俺の胸をしめてくる。
 
「もう一回、言ってみろ!」
 
「何度でも言ってやるさ。
お前の言ってるのは、叶わぬ夢だ。
青臭い夢。」
 
「なんだとー!」
 
「なんだよ。」
 
「今わかったよ・・・俺、お前の事やっぱ、大っ嫌いだ!」
 
「そりゃよかった。
俺も、お前が大嫌いだよ。
珍しく気があったな。」
 
「お前なんか・・・・。」
 
「なんだよ。」
 
「お前なんか、ジギルにやられろ!」
 
「へっ、俺がジギルなんかにやらるわけ、ねぇーだろ?
お前こそ、ジギルにやられるんじゃねぇーか。
帰る頃には、マジでお前この世にいなかったりしてな。」
 
と言いながら、大笑いする俺に、サンガも「ケッ。」と笑うと・・・。
 
「お前を殺すのに、ジギルの手をわずらわす事もねぇー。
今、ここで、俺が殺してやりてぇーよ。」
 
そういいながら、俺の胸ぐらをつかんでいる手に力を入れたサンガ。
そのサンガの胸ぐらをつかんでいる俺も、手を強めた。
 
「そっ?なら、俺も今ここで、お前の息の根をとめてやるよ。
勝った方が、生きて翠をもらう。
そうした方が、白黒はっきりしていいかもな。」
 
そう言って余裕の笑いをした俺に、サンガは、「上等だ!」とこれまた余裕の笑いをした。
 
「ここで死ね。」
 
と言って力を入れてきたサンガ。
 
「死ぬのは・・・お前だ。」
 
少し苦しくなってきた俺は、途切れながらそういいつつも、手に力を入れた。
お互いの首が絞まりつつある。
マジで・・・ヤバイかも・・・。
って、思った時だった。
 
「いい加減にしろっ!」
 
って声が聞こえたかと思ったら、いきなり体が吹っ飛ばされた。
かなり吹っ飛ばされた俺の体は、強く壁に背中を打ちつけられた。
 
「いってぇー。」
 
と叫んだ俺の声。
思ったよりもデカかった。
そのデカさに、ん?って思って、横を見ると・・・。
 
「サ・・・ンガ?」
 
俺は、背中をさすりながら、真横にいる物体を、戸惑いながら見ていた。
だって、俺を吹っ飛ばしたのは、てっきりサンガだと思っていたから。
だけど、俺を吹っ飛ばしたはずのサンガが、俺と同じように壁に背中を打ち付けられて、そして、背中をさすってる。
どうやら、さっきの俺の声がデカかったのは、サンガも叫んでいたから。
二人の声が重なっていたから、デカかったみたい。
って事はさ・・・。
普通に考えて、俺を吹っ飛ばしたのはサンガじゃない。
という事は、この状況で、俺たちを吹っ飛ばす事ができた人物は、一人しかいないよな・・・。
俺は、ユックリと前方を見た。
サンガも、俺の目を追って、前方へと目を向けた。
そこには、両腕を組んで、何ともいいがたいくらい、情けない顔をしてため息をついているヒビキの姿があった。
 
「お前らさ・・・何やってんだよ。
今の状況、わかってんのか?」
 
情けない声でそう言ったヒビキは、さらに俺たちの方に歩んでくると、俺とサンガの頭に両手を乗せ、その手で髪をガシガシとわしづかみにした。
 
「このガキどもがっ!
低レベルな争いしてる場合か!
情けなくて、俺が、お前らを、まとめて殺したいよ。」
 
そう言ったヒビキは、俺たちを順番に見た。
その顔を見て思ったよ。
マジで・・・殺されるかも・・・って。
それくらい、ヒビキの顔は恐かった。
 
「悪い・・・。」
 
と素直に謝ったサンガ。
そのサンガに、大きなため息をついて答えたヒビキ。
そして、俺の方を見る。
黙っている俺に、
 
「お前は?俺にいう事ないのか?」
 
だから・・・その声が恐いんだって!と心で突っ込むだけ。
声には出せない。
本当は、謝りたくないんだよ。
だって、もとはといえば、いつまでも翠に淡い恋心を抱いているサンガが悪い。
俺たちの事を応援する。みたいな事を言いながら、翠を想う気持ちをやめないサンガが、脅威なんだよ。
認めたくないけど、翠にとって、サンガは俺の次に大きな存在なんだからな。
情けないけど、いつ翠がサンガに傾いてもおかしくないんだから。
だから、余計にサンガが翠を想っているのは、嫌なんだよ。
相思相愛になっちまうだろ?
だから・・・今の争いは、俺が悪いんじゃない。
って思ったよ。
思ったけど、何も言わない俺に、ヒビキの顔がさらに恐くなるから・・・仕方ない。
 
「ごめん・・・。」
 
と口にした俺。
俺の言葉に、「悪いと思ってないだろ。」と言ったヒビキは・・・いつものヒビキに戻ってた。
 
「あ・・・いや。」
 
とごまかそうとした俺の髪を、さらにヒビキはガシガシと乱暴に乱した。
 
「まー、いいや。
お前が、それだけ喧嘩と言うか、言いたい事が言えるのは、サンガだけだからな。」
 
ヒビキはそういうと、俺たちから手を離した。
さっき、一瞬穏やかな笑いをしたヒビキも、今はまた深刻な顔に戻ってた。
 
「思いをぶつけて、少しはリラックスしたか?」
 
黙る俺たちにヒビキは、
 
「翠ちゃんの事での争いは、一時休戦だ。
お前たちの敵は・・・。」
 
と言ったあと、右手で階段の上を指差した。
ここからは見えないけど、たぶん進んでいけば、WONDER LANDにつながる扉があるはずだよな。
ヒビキはそこを指さしてる?
って事は・・・。
 
「表が・・・どうにかなってるのか?」
 
俺もさっきまでとは違う。
少し緊張しながらそう言ってた。
さっきまで、サンガとしょうもないことで、いがみ合っていた事なんて、もうスッカリ飛んでいた。
 
「もしかして、ジギルが待ち伏せしてるとか?」
 
と言ったサンガに、「それだけなら、まだよかったよ。」と苦笑いをしたヒビキは、階段を上がるどころか、俺たちの目の前に座った。
 
「おいっ!なんで、座るんだよ。
時間がねぇーんだろ?早くいけねぇーと!」
 
そう言って立ち上がる俺を、冷静な瞳で見上げたヒビキは、
 
「さっきまで、くだらない言い争いをして時間を無駄に使っていたヤツには、言われたくないな。」
 
なんて言いやがって・・・。
 
「うっ・・・。」
 
と言葉に詰まる俺に、「まー、いいから、座れ。」と、少し笑いながらヒビキは言う物だから、俺も仕方なく、またしゃがんで腰をおろした。
座った俺も、座り込んでいるサンガも、真剣な眼差しでヒビキを見てた。
そんな俺たちの顔を、交互に見ながらヒビキは、話し始めた。
 
「まず、表は、完全にふさがってる。
WONDER LANDの精鋭部隊がお出ましだ。
ねずみも通れないくらい、ギッシリ表を塞いでる。」
 
「精鋭部隊が・・・。」
 
そう言って下を向いたサンガを見たら、これ以上言われなくてもわかったよ。
相当、腕のたつものが、表を陣取ってるんだって。
相手が、いえば部隊のつわものたちって事は、こっちも一番強いやつを出すしかないだろ?
 
「わかった。俺が豹になって、その精鋭部隊とやらを、一気に蹴散らしてやるよ。
突破口は俺が、開いてやる。」
 
と俄然やる気の俺だけど、「いや。お前一人では無理だ。」と、アッサリ、キッパリ否定された俺。
ずっこけそうになるくらい、見事にあしらわれた俺は、もちろんヒビキに抗議する。
 
「無理なわけないだろ!
俺は、無敵なんだぜ。まかせろ!」
 
だけど、今度は首を振られた。
さらに言い返そうと思った。
でも、俺が言い返すよりも早く、サンガがヒビキに言ってくれた。
 
「確かに、俺やヒビキみたいに、生身の人間なら、束でかかって来られたら、ヤバイよ。
マジで、命がいくつあっても足りないくらいだと思う。
けど、豹になった蒼輝は無敵なんだ。
無理って事はないと思うけど。」
 
サンガの言葉に、「だろ?」と俺は同意し、さらに俺の考えは間違ってない。と肯定するけど、「くどい。」と冷たく却下された。
 
「あー!!イライラする!!
一体、何なんだよ!
お前の意見を言えよ!
時間がないんだ。小出しにするなよ!」
 
ヒビキのこういう所が嫌いなんだよ。
悪気はないのはわかってる。
色々考えながら、構造を練ってるから、だから説明をするのが遅くなるのもわかってる。
こいつとは付き合いが長いんだ。
あーだ、こうだと最善の方法を考える為に、ヒビキはすぐに俺たちに指示をしないし、案も口にしない。
色んな方法を、可能な限り考えるんだ。
その中で、一番俺たちの命が安全な方法を選ぶ。
それが、ヒビキのスタイルだ。
そんな事、わかってるよ。
わかってるんだけど・・・さっさと言え!って思っちまうんだよ。
今は時間がないんだ。
ないだけに、早く話してほしい。
そして、一人で悩まずに、俺たち3人で考えよう。と・・・俺は言いたかった。
言いたかったけど、さすがにそこまでは言えなかった。
だって、言ってもし、相談されても・・・いい案を言う自信は情けないがないからね。
やっぱり、俺とサンガが加わった所で、ヒビキの頭のすごさにはかなわないから。
無謀な案しかでないのは、わかってるから・・・。
俺のせかす態度に、「ちょっと、待てよ。」とヒビキは、少し声を荒げた。
そして、俺から目をそらすと、サンガを見た。
急に見られたサンガは、ビックリ。
 
「ん?」
 
と聞くサンガに、「ちょっと、いくつか聞いていいか?」といきなり質問開始のヒビキ。
「うん。」と即答したサンガに、ヒビキの質問が襲う。
 
「表に陣取っている連中の数は、半端じゃない。
蒼輝一人で、相手にしてたら、タイムリミットが来てしまう。
時間オーバーで、翠ちゃんがこっちに、女力(ジョリョク)の鍵を持ってこられないようにする事が、ラウオの狙いだからね。
もっともっと、敵は入り口に押し寄せてくるだろう。
ハッキリ言って、ここから出るのは無理だ。」
 
ヒビキはそこまでいうと、「そこで、サンガに聞きたいんだけどさ。」というと、いきなり近くにあった小さな木で、土に丸をかいた。
 
「ここが俺たちがいる場所としよう。
そして、位置的に言ったら、ここがラウオのいる城だよな?」
 
そういいながら、俺たちの場所から、北の方角に三角をかいた。
「ああ。」というサンガの返事を聞いた上で、ヒビキは続けた。
 
「ここから、城へ向かう通路は絶たれた。
それでだ。他に行く方法はないかな?
例えば、他に地下水路と地表をつなぐ場所があるとか・・・。」
 
口にしたものの、ヒビキはあまり期待をしていなかったんだろうな。
だって、そういったヒビキの口調が、いつもと違ったから。
まるで、サンガにさぐるみたいな、自信なさ気な声だったから。
だけど、そのわずかな可能性にかけたみたいなヒビキの質問に、「あるよ。」と簡単に答えたサンガ。
もちろん、
 
「えっ?あるの?」
 
と俺とヒビキの声が重なった事は言うまでもない。
 
「マジかよ。」
 
とさらに付け加えた俺に、「うん。」と頷いたサンガは、ヒビキに右手を差し出した。
その手に、ヒビキは手に持っていた木を、ポンと乗せた。
木を受け取ったサンガは、俺たちのいる丸印から、南に向かって線を引く。
そして、そこから東に向かって、線を引くと、丁度、俺たちのいる丸の位置の正面に位置する場所で止まった。
そこにバツ印をつけた。
 
「ここにも、ここと同じ地下水路が存在する。
そこから城までの距離と、ここから城までの距離は、全く一緒だ。」
 
それを聞いたヒビキは、「なるほどな・・・。」と言いながら、サンガが描いた図を見ながら、少し考えてた。
だけど、考えがまとまったのか、数秒後、いきなり顔を上げたかと思ったら、「作戦をいう。」と言い出した。
 
「ジギルを始め、WONDER LANDの連中は、探知機を持ってる。
翠怜(スイレン)さんも言っていたけど、俺たちがWONDER LANDに侵入しようとするなら、前に侵入した方法と同じで、森を抜けて侵入する方法しかない。
普通なら、そう考えるはずだ。
だけど、ジギルたちは、迷わず全員をここに集結させてる。
この透明な壁を、俺たちがすり抜けれるなんてわからなかったはずなのに、俺たちがまるで、ここから来ると、最初からわかっていたみたいにさ・・・。
それは、なぜか?
答えは、探知機だ。
豹に変身できる俺がここにいるから、迷わずジギルたちは、ここへ寄ってきた。
それは、俺たちにとってはピンチかもしれない。
でも、それを、逆手に取るって手もある。」
 
「逆手?」
 
サンガの言葉に、「そうだ。」と笑ったヒビキ。
そして、今度は図に目をやる。
 
「作戦はこうだ。
ここには、俺が残る。
そして、蒼輝。
お前は豹になり、サンガを乗せて、一気に反対側の地下水路にまで走れ。
全速力で走れば、1分もかからないだろ。」
 
ヒビキはそう言ったあと、サンガを見上げた。
 
「探知機で蒼輝の存在を知ったジギルが、部下の半分を反対側に移動させる。
1分以内に、可能だと思う?」
 
そう言って笑ったヒビキに、
 
「精鋭部隊と言っても、しょせんは人間。
いくら早く移動しても、端っこと端っこなんだ。
乗り物に乗っても、30分はかかるだろう。
1分なんて・・・まずありえないね。
豹には勝てないって。」
 
と呆れた笑い。
それには、ヒビキも満足したのか、ニッコリ笑いながら、また目線は地面へと移した。
 
「とはいえ、向こう側の地下水路にも、数名はいるかもしれない。
でも、こちらよりは少ないはずだ。
そんな数、蒼輝にかかれば、簡単に蹴散らせるだろ?
そのわずかな隙間を一気に走れば、城まで辿り着けるだろう。
行く場所は、ラウオのコンピューターがある操作室・・・だろ?」
 
その言葉に、サンガは、「それなんだけど・・・。」というと、少し困った顔をした。
 
「ん?何か、気になることでもあるのか?」
 
顔を上げてそう聞いたヒビキに、「実はさ・・・。」とサンガは語りだした。
 
「確かに、装置をロックしているラウオのコンピューターを、直接操作できたら早いとは思う。
だけど、すごく危険な気がするんだ。」
 
「危険って?」
 
「まず、今と同じ状況が待ってると思う。
ラウオのコンピューターを狙うのは、わかってるはずだからね。
そこに敵かもしくは、罠が仕掛けられているに違いないと思う。
今の時点でこうなんだ。
絶対に何かが、あるに決まってる。」
 
「けど、行かなきゃいけないんだから、仕方ないだろ?」
 
と弱気なサンガを勇気付けたつもりだったのに、俺の顔をヒビキは左手で押しのけると、
 
「別に方法があるんだろ?
教えてくれ。」
 
とサンガに迫った。
別に俺を押しのけなくてもいいだろ?
まるで、黙ってろ!と言わんばかりに・・・。
失礼しちゃうなー。と思いながら・・・俺は、黙って二人の会話を聞いていた。
 
「城の中に、コントロール室っていうのがあるんだ。
全ての電力をつかさどっている部屋がね。
そこに侵入して、まず国中の電力を切断する。
今は水が全く出ない。
その水を保っているのは、冷蔵庫といって、腐らないようにするための保存場所があってね。
でも、それは電力を必要とするんだ。
それを絶てば、今の時期、水はもちろん食物も、半日も持たない。
コントロール室の電力を切断したら、復旧するまで物凄く時間はかかるしね。
その間、ジギルたちも戦いには来れないだろう。
そうなれば、ミューラの復活に邪魔が入る確率が、ぐんと減るはずだ。
だから、町の人たちには悪いが・・・切断はしといた方がいいと思う。」
 
それを聞いて、一つ疑問に思った事が・・・。
 
「けどさー、そうしたら、ラウオのコンピューターも使えなくなるんじゃないのか?
そうなったら、向こうの世界の装置に支障をきたさないか?」
 
俺の言葉に、答えたのは以外にもヒビキだった。
 
「たぶん、向こうの装置はそのまま何も変わらないだろう。
向こうの世界にいるのなら、向こうの物になるから。」
 
そう言ったヒビキは、「という事は・・・。」と言うと、サンガを見る。
 
「切断したら、こっちの操作は、俺たちしかできなくなる。
という事は、俺たちが解除する寸前になって、ラウオが邪魔をしてくる。っていう可能性はなくなるという事か。」
 
サンガは大きく頷いた。
 
「なら、切断はしておくべきだな。」
 
と言ったヒビキは、さらにサンガに迫る。
 
「だけど、できるのか?
装置を作ったラウオのコンピューターでなくても、装置を解除する事が・・・。
それに、電力ってのを使わないとコンピューターは動かないんだろ?
切断してしまったら、俺たちが使うものも使えなくなるんじゃないのか?」
 
すると、サンガはいきなりポケットから、ある物を出した。
 
「これは、蘭さんに持たされた空(カラ)の玉だ。
青鳥国(セイチョウコク)へ行く道中に、虹の雫を得るのに使ったから、もうこれしかないけどな。
これに、電力を切断する前に、街中の電力を入れる。
そして切断後、俺たちが使うパソコンと、この電力の玉とをつなぐと、パソコンは動く。
これで、誰にも邪魔されずに、解除を行う事ができる。」
 
それを聞いた俺は、素直に言ってた。
 
「すげぇー。」
 
って。こんなにサンガが頭がいいなんて・・・正直思ってもみなかったからね。
絶望的な状況から、いきなり勝利の光が見えた俺は、大喜びだったけど、ヒビキの顔はまだ、曇ったままだった。
 
「それで?ラウオ以外のコンピューターでも、操作は可能なのか?」
 
ヒビキの言葉にサンガは、「ああ。」と返事をした。
 
「ただ、時間はかかると思う。
ラウオのコンピューターを使えば、すぐに装置の解除から始められるけど、違うコンピューターを使うから、装置の種類から、しぼりこんでいかないといけないから・・・。
手間はかかる。
だけど、俺たちの安全性を考えれば、この策が一番いいと思うんだ。
装置の事は、俺に任せてくれ。
何が何でも、絶対に時間内にやってみせる。
俺の腕を信じてほしい。」
 
そう言って頭を下げたサンガに、俺も頭を下げた。
 
「俺からも頼むよ。
コイツの腕は、データーチップを探った時に立証済みだ。
コイツならできる。」
 
俺の態度に、「らしくない事するなよ。」と悪態を付きながら、俺の左肩に自分の右肩を、ドーンとぶつけてきたサンガ。
照れ隠しなんだとすぐにわかった。
 
「勘違いするな。
すべては、翠を無事にこっちへ戻す為。
そして、女力(ジョリョク)の鍵を手に入れる為だ。」
 
素直になれない俺に、「はいはい。」とまたバカにしたような返事をしたサンガ。
 
「お前なぁー!!」
 
と叫んでさらに文句を言おうとした俺の行動を止めたのは、ヒビキの声だった。
 
「わかった。サンガの腕を信じるよ。」
 
ヒビキはそう言ったあと、また俺を見た。
 
「蒼輝。サンガを乗せて、サンガの案内のままコントロール室へ向かへ。
それから、地下水路から、地表へ出る時は、『あの能力』を使えよ。いいな。」
 
「ああ。わかってる。」
 
と答えた俺は、立ち上がると、軽くストレッチを始めた。
 
「サンガ。虹の雫は、あとどれくらい残ってる?」
 
ヒビキの質問に、サンガはポケットから玉を出した。
 
「俺のは、あと10滴。
蒼輝が、えっと・・・どれくらいだっけ?」
 
と聞いてきたサンガに、
 
「確かあと8滴じゃねぇーかな?」
 
と答えた俺。
それを聞いたヒビキは、「しまったな・・・。」と舌打ちをする。
 
「どうか、したのか?」
 
と腕を動かしながら聞いた俺に、悔しい顔をしたヒビキは、
 
「トーワの雫も、もらっておくんだった。」
 
と後悔してた。
確かに・・・アイツは持ってても、今回はいらねぇーもんな。
俺とサンガを合わせて、18滴・・・。
ヒビキのいう通り・・・ちょっと心細いか。
けど、後悔しても仕方ない。
 
「何とかなるだろう・・・。」
 
と言った俺に、「あっ、そうだ、蒼輝っ!」と急にヒビキが、俺を呼んだ。
さっきまで、後悔していたくせに、なぜかもう次の事を考えているような目のヒビキ。
相変わらず、頭の回転が早いヤツだと思う俺。
俺は、そのまま体を動かしながら、「ああ?」と答えて顔だけを向けた。
 
「コントロール室に着いたら、すぐに玉を飲んで体力を完全に回復しておけ。
なぜなら、俺がついたら、コントロール室全体に、バリアを張るからな。」
 
「は・・・い?」
 
体の動きが止まった。
ピキィーって・・・固まったよ。
今、ヒビキのヤロー、何て言った?
俺の・・・聞き間違いか?
上げていた手も、力なくぶらんと落ちた。
そして、俺は戸惑いながら聞いたよ。
 
「今・・・バリアって言った?」
 
って。聞き間違いだと思っていたのに、「ああ。」と平然として肯定されてしまった。
たまらず、声がでかくなる俺。
 
「ふざけんな!
体から離れた所にバリアを張るのは、3人じゃなきゃできないのは知ってるだろ?
トーワがいないんだ。
できるわけないだろ?」
 
だけど、ヒビキは、「大丈夫。」となぜか自信満々。
 
「その根拠は?」
 
と疑いの眼差しで見ながら聞いた俺に、ちょっとヒビキは笑った。
 
「実際、お前の力がなくなっても、緑豹国のバリアは張れていたんだ。
つまり、短い時間かもしれないが、張れる事は張れるはずだ。
しかも、緑豹国みたいに大きな場所じゃないから、可能だろう。
ただ、2人だから、力はいるだろうけど。
サンガを守るんだろ?
サンガがコンピューターを触る部屋ごと、バリアを張る。
そして、攻めてくる外の敵は、お前の無敵の体でやりあってもらう。
城に着いてからが、蒼輝の過酷な戦いが始まる。
しっかり、雫で復活させて、俺が着くのを待っててくれよ。」
 
そして、ヒビキも「よっ。」と言って立ち上がった。
それを見ていたサンガも立ち上がるが、そうしながら、ヒビキに言葉を投げかけた。
 
「ヒビキは?ヒビキはどうやって、城までくるんだ?」
 
確かに、それは・・・聞いてなかったよな?
俺も気になって、ヒビキを見る。
注目を浴びたヒビキは、「俺?」と軽い声を上げると、階段の上を指差した。
 
「あっこから行くよ。」
 
って。それには、俺とサンガの声がダブった。
 
「正気・・・かよ。」
 
今、あっこは袋のねずみ状態だって、自分で言ってたじゃないか!
何を考えてるんだ?
 
「おい、ヒビキ。」
 
と言った俺に、「心配するな。策はあるって。」と笑ったヒビキは、数回首を回すと、力を入れる。
見る見るうちに、豹の姿になった。
 
「たぶん、ラウオの指示で、ジギルはサンガがコンピューターを触ると知っているはずだ。
つまり、俺たちの中で、城に近づけたくないのは、サンガだ。
探知機から、俺たちが二手に別れた事を知ったジギルは、最初にどうするか?
どっちにサンガがいるのかを確認しようとする。
迷わずこの中に入ってくるだろう。
探知機で、俺たちが二手に別れた事を察知して、扉を開けて階段を降りてここへ来る。
そこまで、いくら頑張っても、30秒はかかる。
ここへきても、俺は壁の向こうの緑豹国の敷地内に移動しておけば、攻撃は受けないからね。
サンガがこっちにいない事を知ったジギルが、残っている部下を東の地下水路に向かへと連絡をする。
だけど、連絡を受け、向かった頃には、すでに蒼輝とサンガは、地下水路を脱出し、城へと向かっているだろう。
そして、次にジギルはどうするか。
俺なんかの為に、ここには残らないだろう。
部下を連れて、城へと急ぐはずだ。
数名の部下を置いてね。
少数の人数なら、俺一人でも平気だ。
いくら弱い俺でも、それくらいは、突破できる。
心配しなくていい。」
 
「だけど、城はもちろん、コントロール室の場所なんてわからないだろ?」
 
と心配するサンガに、俺は自信満々に答えてやったよ。
 
「それは、心配ないだろう。」
 
って。「えっ?」と言いながら俺を見るサンガに、俺は教えてやったんだ。
ヒビキの悪趣味をね。
 
「こいつは、覗きが趣味だから。
走りながら玉でチェックするだろう。」
 
と言いながら、俺も豹の姿になった。
 
「覗き見??」
 
と首をかしげたサンガに、ヒビキと俺は笑って答えた。
 
「よし、それじゃ、決行しよう!
ラウオの先手と、お前らの痴話喧嘩のせいで、約束の時間は過ぎてしまってるけど・・・。
翠ちゃんたちは、待っててくれるだろう。
今は、時間よりも、やるべき事をやろう。
まずは、無事にコントロール室へ着く事。
蒼輝、サンガを頼んだぞ。」
 
ヒビキの言葉に俺は、何も言わなかった。
ただ、口元を少しだけ緩ませた。
 
「おい。さっさと乗れ!」
 
顎を使ってサンガに合図する俺に、「わかってるよ。」と文句を言いながら俺の背中に乗ったサンガ。
 
「じゃ、おとりくん。あとは、任せた。」
 
俺はヒビキにそう言って、大きくしっぽを振った。
そして、両手両足に力を入れ、神経を集中させた。
 
「1分以内に向こう側に着くからな。
吹っ飛ばされないように、しがみついとけ。」
 
「偉そうに。1分越えたら、翠はもらうぞ。」
 
と切りかえしてきたサンガに、「脅迫かよ。」と睨み返した俺。
 
「その話は、今は休戦って言っただろ?
ホントに、ガキなんだから・・・。
心配になってきた・・・。」
 
というヒビキの声を聞きながら、俺は正面を見据える。
 
「レディー・・・。」
 
と言った俺の言葉のあとに、サンガはこう言った。
 
「ゴー!!」
 
サンガの言葉と同時に俺の体は、暗闇をすごい勢いで駆け抜けた。
俺は、本当に持てる力をフルに使って走った。
最悪、ヘトヘトになって東の地下水路に着いた時点で、雫を飲んでもいいと思うくらい。
それくらい、全速力で走ったんだ。
それは、作戦の為でもない。
時間が押してるからでもない。
それは、・・・誰でもないサンガの為だ。
俺たちがいた地下水路から南に少し進んだだけで、ジギルは寒さに耐え切れなかったと、前にサンガは言っていた。
つまり、ただの人間には、さっきの場所から南下する事は不可能。
でも、今俺たちは南下してる。
そして、サンガは今は、ただの人間だ。
だから、1分を越えたら、サンガは間違いなく凍死する。
それで、ヒビキは、1分で行けと俺に、何気なく意識させたんだ。
あえて、俺もヒビキも、その事には触れなかった。
俺が火の玉を念じて暖めてさ、サンガに火の玉を持たせてもよかったんだ。
だけど、その事に触れたら、サンガは間違いなく強がるだろうから。
 
「俺は平気だ。ユックリ行けよ。
玉もいらない。余計な力を使うな。」
 
ってな。アイツはそういうやつだから。
俺は、走りながら思ってた。
ヒビキのいう通り、今回のWONDER LANDへの侵入は、きっとサンガの命が危険になる事が多いかもしれない。
ヒビキは、サンガ自身に自分の命は自分で守れといっていたけど、俺は思ってたよ。
俺の能力で守ってやるって。
いや、俺だけじゃないな。
俺と翠の力で・・・。
何が何でも、守ってやるから。
俺は強くそう思いながら、地下水路を高速で走った。
 
 
東の地下水路に辿り着いた俺たち。
 
「すげぇー。あの距離を50秒で来たよ・・・。」
 
と呆れるサンガに、「残念だったな。翠はやらねぇー。」と笑った俺。
 
「まだ、言ってるよ。」
 
と笑うサンガに、「お前から言い出したんだろ?」と言いつつも、俺は念じた。
 
『ヒビキ、聞こえるか?
無事、こっちに着いた。
そっちは、どうだ?』
 
すると、すぐに返ってきた。
 
『今、ジギルがここにいない部下に連絡してる所だ。
いいから、さっさと城を目指せ!』
 
『はいよ。』
 
と答えた俺は、「いくぞ。」とサンガに言って、階段を一気に駆け上がる。
そして、扉を開けようとして・・・。
 
「やべぇー、忘れるところだった。」
 
ヒビキの言いつけを思い出した俺は、扉を開けようとしてくっつけていた顔を離した。
 
「どうかしたのか?」
 
というサンガに、「ん?忘れ物。」と答えた俺。
 
「忘れ・・・物?」
 
「そう。お前のお守りだ。」
 
と笑った俺は、サンガを乗せたまま、気を集中させた。
俺の体が、ジワジワと緑に光っていく。
 
「おい・・・なんだよ。」
 
と言ったサンガには答えずに俺は、そのまま気を集中させた。
最高潮まで達した時、俺は唱えた。
 
「緑豹国の守護神、赤き龍(アカキリュウ)よ。
我らに、宿(ヤド)りし力を、高めたまえ。」
 
俺がそう言った途端、光っていた俺の体から光だけが飛び出した。
俺とサンガの頭上に、緑の輝く光の玉(タマ)が出来た。
 
「な・・・なんだ?」
 
とサンガが言った時だった。
急にその玉(タマ)が弾けて、俺とサンガの上に光が降り注いだ。
 
「あれは、なんだったんだ?」
 
と聞いてきたサンガに俺は顔を、後ろに向けて言った。
 
「自分の体を見てみろよ。」
 
そういわれたサンガは、「えっ?」と言って体を見て・・・。
 
「なんだこれっ!」
 
と大声で叫んだ。
俺もサンガも、今はキラキラと光る緑の光に包まれていた。
腕を動かしても消えない光にサンガは、「何これ?」と素直に俺に聞いてきた。
 
「これは、一種のバリアだ。」
 
「バリア・・・。」
 
そう言ったサンガは一瞬考えて、急にハッとした顔で俺を見た。
 
「もしかして、これか?」
 
って・・・急に言われてもわからないって。
 
「何がだよ。」
 
と面倒くさそうに聞いた俺に、サンガはさらに目を輝かせていった。
 
「お前の王として持っている4つ目の能力だよ。
ヒビキとトーワしか知らない謎の能力。
これなんだろ?」
 
とウキウキで言っているけど・・・。
悪いなサンガ。
盛り上がっているところ悪いけど・・・。
俺は、首を振った。
 
「えっ?違うのか?」
 
とガッカリな声を上げるサンガに、俺は、「時間がない。走りながらでいいか。」と答えると、扉を開けて、WONDER LANDの地表へと赴いた。
ヒビキの狙い通り、ここには、少数の兵士しかいなかった。
 
「弾はもちろん、攻撃は一切受けない。
だから、よける必要もないからな。
お前はただ、俺の動きに合わせてくれたらいい。
振り落とされないようにだけしてくれ。いいな。」
 
俺はそういうと、兵士を蹴散らして、一気に城を目指した。
 
「それで?これが、4つ目の力じゃないとしたら、どういう事なんだ?」
 
兵士の中を無事突破し、城に向かってひたすら北を目指している俺に、サンガはそう言ってきた。
これだけスピードを出しているのに、話しかけてきているコイツを、素直にすげぇーと思った俺。
 
「おい。」
 
と催促してくるサンガに、「ああ・・・。」と慌てて答えた俺は、真実を教えてやった。
 
「この能力は、俺の緑の力に含まれているんだ。
つまり、『強化された力』を強く念じれば、自分の体に乗せている人物を無敵にする事が出来るって事だ。
だけど、これをするには、かなりの能力と体力がいる。
丁度、この距離くらいが限度だな。