コントロール室に、俺たちが侵入するとは、盲点だったのか、敵は誰も居なかった。
すんなり中に入れた俺たちは、サンガだけが、準備に追われた。
まだ敵は来ないにしても、いつ来るかわからないので、部屋の入り口で、もうじき来るだろう侵入者に備えて、仁王立ちしていた俺。
そうしつつ、俺は、ヒビキに言われたように雫を飲んだ。
さすがに、これだけの労働をすると、きつかった。
気分的には俺の持っている雫の8滴を全て飲みたかったけど、先を見越して5滴に抑えた。
「なー、蒼輝。悪いけど・・・。」
そういいながら、俺の側に寄ってきたサンガ。
「ん?何だ?」
と言いつつサンガの方に振り返った俺は、近くにいたサンガの手に持っている物を見る。
手には・・・透明の玉。
首をかしげる俺に、サンガはちょっと力のない声をあげた。
「やっぱ、ヒビキの言った通り、今の俺には、玉は使えなかった。
悪いけど、開けてくれないか?」
もちろん、開ける事はするよ。
だけど、開けた所で、中に入れることも閉じる事も、今のサンガにはできない。
かといって、俺が今、部屋の中に入るわけにはいかない。
部屋に唯一侵入できる入り口の見張りを、やめるわけにはいかないからな。
そして、サンガ自身もきっと思っていたよりも、めいってるはずだ。
自分は俺たちの仲間だと思っていたのに、俺たちと同じことができないなんて・・・。
それは、ジギルたちを裏切って、俺たちの元へ来たアイツにとって、居場所を失ったと実感してしまうくらい大きな事だったんじゃないかな?と・・・。
今のサンガを見ていて思った俺。
だから、俺は、差し出された玉をサンガに返した。
「そう・・・き?」
不思議そうに俺を見るサンガに、俺は優しく笑った。
「電力は、ヒビキが来てからでいいだろう。
今抜き取ってしまうと、ラウオに狙いがばれてしまうからな。
今は、お前が自分の力で出来ることをやってろ。
俺も、自分が出来る見張りをしてるからさ。」
俺のその言葉に、「そう・・・だな。」と言ったサンガ。
見る見るうちに、サンガのこわばっていた顔が緩んでいった。
「じゃあ、使うコンピューターを決めて、ラウオの使った装置の種類を調べるよ。」
サンガはいつもの元気な声でそういうと、部屋の中に入っていった。
しばらくして、聞こえたのは一つの音だけだった。
サンガが打つ、キーボードの音だけ。
前に、データーチップを調べてもらった時と同じ、あのカチャカチャって音。
うるさいけど、なんか落ち着く・・・そういう音だった。
サンガの元気に安心した俺は、正面を見つつ、念じた。
『ヒビキ、こっちは準備オーケーだ。
今、どこだ?』
心配になった俺は、自分からヒビキに話しかけた。
『今城に入った。
地下3階だったよな。
もう少しで着くけど・・・。』
『けど、何だ?』
『後ろから、トロイが撃って来てる。』
『なんだって?怪我は?大丈夫か?』
『今の所はね。
ただ、俺が着いてから結界を張るとなると、張っている間にトロイの弾が襲ってくるよな。
どうしようか・・・。』
確かにそれはまずいな・・・。
俺は大丈夫だとしても、ヒビキとサンガの命が危ない。
ヒビキを欠いたら、バリアがはれないうえに、これからどうしたらいいか困る。
何より、翠との連絡ができない。
かといって、サンガも大事なんだ。
アイツがいないと、解除は絶対にできない。
そう思ったら、実感したよ。
一番、ようがない俺が、どうして無敵なんだと・・・。
ちょっと、情けなくなりつつも、今はそんな事を言ってられない。
俺自身が、今回の解除に用なしなら、それはそれでありがたい。
サンガとヒビキのために、迷わず捨て駒になれるんだからな。
そうと決まれば、方法はたった一つだ。
俺は、心を決めて・・・ヒビキに案を言った。
『お前走りながら気を高めろ。
そして、入り口がある直線状に来たら、俺に向かって力を解き放て。
お前になら出来るだろ。』
『けど、そうしたら、蒼輝の負担が多くなるだろ。
完全にトーワの分を蒼輝が背負う事になる。
命の危険だって・・・。』
『やるしかないだろ?
このままなら、俺をのけたお前とサンガが間違いなく、トロイに殺されるんだ。
いいから、やれ!』
俺はそういいながら、自分の気を高めた。
急に俺が緑の光に包まれたから、サンガは驚く。
「おいっ!何かあったのか?」
と言いながら、俺の方に近付いてきたサンガ。
「お前はくるな。
なるべく、入り口から死角になる場所にいろ。」
もしバリアが間に合わなかった時に、トロイの弾が届きにくい場所に、サンガを隠しておく必要があったから。
わけがわからないにしろ、何かあったのだと思ったサンガは、いじっていたコンピューターの電源を一回落とすと、死角に隠れた。
俺は自分の能力を、精一杯引き出した。
立っている事も耐え切れなくなるくらい、力を放出した。
だけど・・・。
「ダメだ・・・もっとだ・・・。」
俺はそうつぶやきながら、心の中で強く念じた。
『頼む、緑の力よ。
俺にもっともっと力をくれ。
サンガとヒビキを守れる力を・・・・。
もっと強い力を・・・。』
その時だった。
限界を迎えていた俺の体が、急に軽くなった。
そして、俺の体から、あの時と同じ、緑の炎が現れた。
「なんだ・・・これ。」
と驚くサンガだけど、俺だって驚いてるよ。
翠だっていないのに、なんでこんな強い緑の力が・・・。
だけど、助かった。
これだけ強い力があるのなら、十分にバリアは張れる。
あとは、ヒビキの力だけだ。
離れた場所にバリアを張るには、緑豹国を包み込んでいるバリア同様、3人の王の力がいる。
今回、トーワはいないけど、大丈夫だとヒビキがいうんだ。
信じるしかない。
俺は、ただ前方にヒビキが現れてくるのを待った。
数秒後、俺の前方に、紫紺の輝きを帯びた物体が現れた。
「ヒビキ、解き放てぇー!!」
俺の叫びに答えたヒビキは、その場から俺に力を投げてきた。
向かってくるヒビキの気を感じながら俺は、唱えた。
「緑豹国の守護神、赤き龍(アカキリュウ)よ。
我らに、宿(ヤド)りし力を、高めたまえ。」
そして、俺の体から飛び出した想像を絶するくらいの大きな力は、こっちに向かってきていたヒビキの力を吸い取った。
2つの力が交じり合ったその力は、やがてこの部屋の中に入り上に向かって浮上する。
そして、最後は緑豹国のバリア同様、弾けて、四方八方に光をとどろかせた。
丁度その時だった。
トロイが銃口を構えた。
ターゲットはもちろんヒビキ。
「ヒビキ、狙ってるぞ!
すべりこめ!!」
俺の叫びに、ヒビキは大きくジャンプした。
と同時に、トロイが弾を解き放つ。
「ダメだ。間に合わない。」
サンガのそんな声が聞こえた。
「くそ。」
俺は叫びながら、とっさに飛び出してた。
こっちに向かっていたヒビキを思いっきり横に、蹴り飛ばす。
俺の力で、ヒビキは床に倒された。
でも、そこは、部屋の中。
このあと、トロイがいくら撃ってもあたることはない。
安心した俺。
俺はというと、ヒビキを狙った銃を体にまともに受けてしまった。
それも、無数の数を・・・。
トロイの後ろからも、ハンターがたくさんいて、そいつらもかなりの鉛を放っていたみたい。
だけど、俺は無敵な体だから、へっちゃらだ。
床にドサっと落ちたけど、ほら、血だって一滴も出てないんだから。
だから、起き上がろうとしたんだ。
だけど・・・あれ?
俺は、体に力を入れたんだ。
起き上がろうとして。
でも・・・力が入らない。
怪我はしてない。
ということは、考えられるのはさっきのバリアか。
あれで力を使い果たした俺は、起き上がることもできないんだ。
もちろん、雫だって持ってるけど、体が動かないんだから飲むこともできない。
どうするか・・・。
「蒼輝、待ってろ!」
ヒビキのそんな声が聞こえた。
待ってろって・・・来るのか?
お前が来たら、助けた意味がないだろ?
「ふざけんな。来るな!」
俺はそう叫ぶと、サンガにも声をかけた。
「俺の事は気にするな。
その部屋は、バリアが張れたんだ。
サンガ・・・心置きなく計画を実行させろ。
俺の事は心配するな。」
「心配するなって、このままだとつかまるんだぞ。」
というサンガに俺は、「平気だ。」と笑って答えた。
「俺は殺されない。無敵なんだからな。
体が動くようになれば、雫を飲んで逃げるさ。
大丈夫だ。」
あくまで平気を装う俺。
でも、心では覚悟はしてた。
俺、殺されるだろうなって・・・。
俺が豹でいられる時間もきっと限られてる。
体力がもうないんだ。
そう長い時間、豹ではいられないだろう。
ただの混血人間に戻り、体力の限界に来ている俺が、無事でいられるわけがない。
だけど、俺が死んでも、装置は解除できるだろう。
サンガとヒビキがうまくやってくれる。
2人を守る事ができて、本当によかった。
悔いはないかな・・・・。
いや、1つあるか・・・。
翠に、もう一度逢いたかったな。
翠・・・『翠・・・。』
俺はそう強く思って、目をつぶった。
もう、目を開けている力も俺にはなかった。
トロイが俺に近付いてくる。
抵抗できない俺に、むやみに撃ちこんではこなかった。
床に耳をくっつけているからわかる。
階段から無数の足音が聞こえていた。
相当の数が、こっちに向かって来ているのがわかった。
もう・・・覚悟を決めるか。
死を覚悟した時だった。
『蒼輝・・・蒼輝っ!』
俺は思わず目を開けた。
だって、今・・・翠の声が聞こえた気がしたから。
「なんで・・・なんで翠が?」
そうつぶやいた俺の声に、信じられないけど、答えが返ってきたんだ。
『連絡がないから今ヒビキさんに、通信したの。
そしたら、蒼輝がつかまりそうだって。
嫌よ蒼輝。捕まらないで。死なないでよ。』
「バーカ、俺が死ぬわけねぇーだろ。」
かっこ悪いと思われてもいい。
翠には強い所を見せたかったんだ。
俺の情けなく死んでいく様を、知られたくなかったから。
絶体絶命のピンチを感じさせないように、俺は元気に振舞った。
だけど、翠にはバレバレだった。
『蒼輝、念じて。
私と心をつなげたいって。
そう念じて。』
「翠・・・何言ってんだよ。」
無理に笑ってごまかす俺に、『いいから。』と翠はいうと理由を早口で言い出した。
『前に、ヒビキさんが言っていたでしょ?
私の強い思いが蒼輝の中にいる私の緑の力と共鳴しあって、炎が出るくらいの強い力になったって。
だから、また共鳴させたら、力が出せるかもしれない。』
「それは、無理だ。」
即答した俺に、『なんで?』と翠は追求してくる。
「それは、さっきしたから。
俺が心から願って、炎の強い緑の力を引き出したから。
もう、あの時のような強さは出ない。」
と答えた俺に、『それは、蒼輝の力でしょ?』と翠は言った。
『蒼輝の本来の力が、心を通して叶えられて、蒼輝の体に戻ったのよ。
今からするのは、私の力よ。
だから、大丈夫。
絶対に成功するから。
ねぇー、諦めないで。
私の為に・・・生きてよ。』
反則だって。
そんな泣き声で頼まれたら・・・頑張るしかないだろ?
「わかった。念じるよ。」
俺はそう言ったあと、目をつぶった。
必死で気持ちを集中させて強く願ったんだ。
『翠と心をつなげたい』って。
まさか、本当に起るとは思ってもみなかったよ。
こんな奇跡が起るなんて!!
倒れていた俺の体が、また緑の炎に包まれた。
俺の体に見る見るうちに、パワーがみなぎってきて、俺は簡単に立ち上がる事が出来た。
「蒼輝っ!」
俺の姿に安堵のため息を吐きながらそう叫んだ、ヒビキ。
「翠のおかげで、また命拾いしたよ。」
俺はそういいながら、すぐさま残っている雫を3滴全て口にした。
翠の力で体力は戻ってはいた。
でも、やっぱり、ダメージは大きかったのか、完璧ではなかったからな。
雫を飲む事にしたんだ。
これで、完全に復活した俺。
あれだけ重症だったのに、たった3滴でここまで回復するとは、まずありえない。
それだけ、翠がくれた力が強かったって事だな。
翠に、感謝だな。
そう思った俺の視界に、このフロアーに今辿り着いた、ハンターと精鋭部隊がお出ましする。
その数ざっと・・・40はいってるか・・・。
俺は、大きく深呼吸をして・・・目の前の敵をみすえた。
「じゃ、あとは計画通り、向かってくるゴミを掃除しますかね。」
といいながら、俺は振り返る。
そして、こっちを見ていた二人に笑顔を向けた。
「装置の解除はまかせたぞ。」
俺はそう言って、二人に背を向けた。
そして、トロイの方に自ら走って向かった。
バリアは張ってある。
サンガとヒビキがいる部屋には、侵入は不可能だ。
だけど、いつまで持つかは、定かではないからな。
なるべく流れ弾が届かない程度の場所で戦うに、こしたことはないと判断した俺。
二人がいる部屋から遠ざかった。
走り出しながら俺は、翠に話しかけた。
「翠・・・ありがとな。」
俺の言葉に、翠はなんて言ったと思う。
『命を粗末にしようとしたバツ。
戻ったら、いっぱいキスしてね。』
って。思わず俺は笑ったよ。
そんなバツなら、いくらでもしてやるって。
だけど、不思議だよな。
この世界に翠が居ても。
寄り添って抱きしめあっていても。
キスをかわしても。
こんなに近くに感じた事は、なかったかもしれない。
だけど、今は、触れることはもちろん、いる『世界』が違うんだからな。
遠すぎるくらい遠くにいるのに、なんでかな・・・。
このうえなく、翠が近くに感じれる。
すぐ側に、翠がいる気がしてこんなにも穏やかな俺でいられる。
その時ちょっと思ったんだ。
もし、翠が元の世界に永遠に戻ってしまっても・・・。
翠の声がこういう風に聞こえないにしても・・・。
俺は、誰よりも翠を近くに感じて、残りの人生を生きられるんじゃないかって。
実際また逢えると思ったからかもしれないけど、この時の俺は思ったんだ。
翠と永遠に別れる事を恐いとは・・・思わないって。
☆☆☆14章END☆☆☆
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