2008/4/14


17    15章  RELEASE〜解除〜
更新日時:
H19年3月7日(水)
「蒼輝ったら・・・何考えてんのよ!」
 
私の第一声はそれだった。
そう言って、プンプン怒り出す私に、パソコンに向かっていた真音(マナト)さんの顔が向く。
 
「どうしたの?そんなに怒って。」
 
半ば呆れたような口調でそう言った真音(マナト)さんに、私は鼻息を荒くして言ったの。
 
「どうしたも、こうしたもないよ!
また、蒼輝ったら、命を粗末にしようとしたのよ!」
 
「えっ?」
 
と驚いた声を上げた真音(マナト)さんに渚。
私の怒りはおさまらず、驚き顔の二人に思いをぶつけた。
 
「誰かを助ける為に、自分の命を投げる。
蒼輝はすぐに、そういう事をするのよ!
全く!自分が王だって自覚あるのか!って言いたいよ。
私は、蒼輝の命が一番大切なの!
だから、もっと、自分の命を大事にしてほしいのにぃー!!」
 
最後は、足を地面にダンダン打ち付けながら、暴れ気味でそう言った私。
 
「翠・・・そんなに怒らないで。」
 
と呆れる渚の声は、耳に入って止まることはなく、すり抜けて行った。
 
「でも、翠さんが怒るのもわかります。」
 
入り口からそんな声がして、私は暴れながら、顔を入り口に向けた。
いつの間にか、外の見回りに出ていた雅さんが、戻って来ていた。
 
「確かに、蒼輝さんは、王って自覚がないですよね。
翠さんがいなくなった時も、青鳥国(セイチョウコク)の兵士相手に、ひるむ事無く挑んできたし。
それに、妹さんの事にしてもそうですよ。
王の力である豹の姿を捧げるなんて・・・。
王としての自覚が、なさ過ぎます。」
 
確かに・・・雅さんの言っている通りだよ。
蒼輝は、感情的になりすぎだよ。
もっと、“人より自分”って思ってもいいと思う。
っていうより、蒼輝には、そういう考えをしてほしい。
冷徹とか思いやりがないとか言われるかもしれないけど、蒼輝はそれぐらいがいいと思う。
だって、蒼輝は、自分より人って考え過ぎるから。
ヒヤヒヤしちゃうんだもん。
だから、雅さんの意見に大賛成の私は、「うん。うん。」と首をふる。
だけど、私の首振りは、後ろから聞こえた声で止まる。
 
「そうかな?俺は、今の蒼輝くんが好きだけど。
まさに、『王』らしいじゃない。」
 
その声と言葉に振り返った私の眼に映ったのは、さっきまでパソコンをいじっていた真音(マナト)さんの姿だった。
さっきまで、家から持ってきたパソコンに、あらゆるデーターを打ち込んでいた。
 
「どの見取り図でも、すぐに操作出来るように、ソフトをインストールしておく。
きっと、向こうは15分では侵入はできないだろうから。
早くて、こちらで2時間。
向こうでは、30分くらいでの侵入になるだろう。」
 
と言っていた真音(マナト)さんは、約1時間の間、パソコンとにらめっこしていて、この空間には、キーボードが軽やかに打ち込まれる音が、止めどなく流れてた。
まるで、その音は、この空間に当たり前のように存在していた・・・。
というくらい、違和感がなかった。
 
「蒼輝の無鉄砲さが・・・王らしい??なんで?」
 
首をかしげながら、真音(マナト)さんに聞いた私。
言葉を言ったのは私だけだったけど、そう思ったのは、雅さんも渚もだったと思う。
だって、3人の視線が同時に、真音(マナト)さんに注がれたから。
みんなの熱い視線を感じた真音(マナト)さんは、動かしていた指を止めた。
そして、体ごと、私の方に向いた。
 
「俺が思うに、人の上に立つ上で、一番大事なのは『その人を思いやる気持ち』だと思うんだ。」
 
「思いやる・・・気持ち??」
 
「そう。」と言って優しく笑った真音(マナト)さんは、両手を後ろについて、リラックスした状態で地面に座りなおした。
 
「でないと、誰も王について行こうとは思わないだろ?
チナリさんを救ったのも、彼女の想いに答えられなかったっていう罪悪感だけじゃなくて、ただ純粋な気持ちで救いたかったんじゃないかな?
目の前で消えそうな命を、どうにかして救ってやりたい。
さっきも、誰かの命を救おうとして、彼が危険な目にあったんだよね?
それも、自分の事や、先の事を考える前に、目の前の命を救いたいと思っただけだと思うよ。
それは、きっと彼の性格っていうよりは、本能だと思うな。」
 
「本能って、どういう事?」
 
渚の言葉に、真音(マナト)さんの瞳は渚へと変わる。
 
「彼は幼い頃から、緑豹国の緑の王として育てられた。
必然的に“王は民を守るもの”と、植え付けられたはずだ。
だから、彼は脳が考える前に、体が動いてしまうんだ。
衝動的というか、本能的というか・・・。
きっと、彼がこうしようと思う前に、とっさに体がもう、動いてるんじゃないかな?」
 
と言って笑った真音(マナト)さんは、また私を見る。
 
「彼のそういう行為は、王だからこその行為。
彼は、誰よりも立派な王だよ。
だから、こそ、民も彼についてきてるんじゃないのかな?
豹の姿を失った彼でも、今もなお、変わらず敬(ウヤマ)っているのは、彼の存在自体に、王としての魅力があるから。
俺は、そう思ったけどね。」
 
真音(マナト)さんの言葉に、私たち3人は言葉が出なかった。
それは、真音(マナト)さんの言った事に、納得させられた事もある。
だけど、それだけじゃなくて・・・。
言葉が出なかったのは、真音(マナト)さんのすごさ。
まるで、私と一緒に蒼輝に出会い、一緒に過ごしていたように、彼のこれまでの生きざまを理解している真音(マナト)さんに、正直脱帽した。
 
「真音(マナト)さん・・・ホントすごいよ。
そのすごさ・・・ヒビキさんみたい。」
 
ボソと口にした私に、
 
「ホントに、恐いくらいに似てますね・・・。」
 
と添えた雅さん。
真音(マナト)さんを見て、ボーゼンとしながらそう言った私たちを、おかしそうに笑いながら見てた真音(マナト)さんは、
 
「それは、どーも。」
 
と言って優しく笑った。
 
『翠ちゃん、聞こえる??』
 
穏やかな空気だった私たちの空間に、張り詰めた声が入り込んできた。
私の顔から笑顔が、一気に消えた。
 
『ヒビキさん?聞こえるよ。今、どうなってる?』
 
私の声に、真音(マナト)さんは私の視界に手を出してくると、それを振る。
私は自然とその動く物に、目が行った。
真音(マナト)さんを見た私に、真音(マナト)さんは言葉を発す代わりに、右手でチョイチョイと手まねきする。
こっちに、こい!って事?
私は、小走りで真音(マナト)さんの側に行く。
すると、真音(マナト)さんは、私に自分の右側に座れと、手で指示をした。
私は言われるがまま、彼の右側に回り込むと、彼の側に座り込んだ。
座った私の左手に、真音(マナト)さんの右手が触れる。
 
『ヒビキさん、俺です、真音(マナト)です。』
 
真音(マナト)さんの声に、『ああ。』と答えたヒビキさんは、『サンガに代わる。』とだけいうと、静かになった。
そして、数秒間の沈黙のあと、ここへ来て初めて聞く声が聞こえてきた。
 
『えーっと、真音(マナト)・・・さん?』
 
何て呼んでいいのか迷っているっぽい声を出すサンガ。
サンガって根が優しいから、声にすぐに出るんだよね。
だから、ホントわかりやすい。
思わず、「プッ。」と笑っちゃう私だけど、真音(マナト)さんはちゃかさずに優しく答えた。
 
『初めまして。キミがサンガだよね?
俺も“さん”は省(ハブ)かせてもらうから、キミも“真音(マナト)”でいいよ。』
 
真音(マナト)さんの言葉に、『わかった。』と答えたサンガの声は、明るくて少しホッとしたような声だった。
 
『それで?構造はわかったのか?』
 
いきなり本題に入った真音(マナト)さんに、『ああ。』と答えたサンガは、自分が得た情報を真音(マナト)さんに伝えた。
ハッキリ言って・・・サッパリ、私にはわからなかった。
なんとか型で、なんとか構造・・・ん?みたいな・・・。
頭が変になりそうだったんだけど、横を見ると、
 
『なるほどな・・・。その型は、厄介だな。』
 
とパソコンをいじりながら、そんな事を言っている真音(マナト)さん。
 
「す・・・ごい。」
 
と尊敬の目で見ていた私なんだけど、その凄腕の真音(マナト)さんですら、顔が渋っているのを見ると・・・相当難しいトラップなんだと知った。
 
『わかった。とりあえず、1つ目と2つ目の解除は、簡単にできるよな?
それを、急いでしよう。
決定を押す場面に来たら、また声をかけてくれ。』
 
真音(マナト)さんはそういうと、私から手を離した。
そして、両手で、物凄い速さでキーボードを打ち出した。
 
「真音(マナト)!そんなに・・・大変なの?」
 
さっきの会話を聞いて、ここにいる誰もが不安になった。
私は、いつヒビキさんを通してサンガから連絡がくるかわからないから、あまり話ができないから、聞きたいけど聞けなくて。
だから、渚のこの質問はナイスだったの。
 
「ああ。1つ目と2つ目のトラップは、こっちと向こうが解除寸前まで、バラバラでも問題はない。
決定する時だけ合わせてキーを押せばいいんだ。
だけど、3つ目のトラップは、全て一緒にキーを押さないといけない。
お互いが解こうとしてたらダメなんだ。
俺よりサンガに解いてもらうほうがいいだろうから、サンガが決めたボタンをこっちにコールしてもらって、せーので押さないといけない。」
 
って聞いても、私には深刻さがわかってなくて、
 
「大丈夫だよ。私とヒビキさんでちゃんと伝えるから。」
 
と笑顔で答えたんだけど、「問題はそれじゃないですよね。」と雅さんにいわれて。
 
「どういう意味?」
 
彼に聞いたんだけど、
 
「今から、この装置の中に侵入する。
雅、準備はいいか?」
 
突然張り詰めた真音(マナト)さんの声に、私たちに緊張が走った。
今から、渚が閉じ込められている装置の中に、入り込む。
黒き龍に「触るな。」と言われていた装置の中に・・・入るんだ。
って事は、もちろん、予測されるのは、黒き龍から解き放たれる黒い闇の存在。
不安とドキドキが入り混じった私は、たまらず唾をゴクっと飲み込んだ。
雅さんは、さやに納めていた剣に右手を添えて、軽くかまえた。
 
「いつでも、どうぞ。」
 
余裕の言葉に聞こえるけど、声で緊張してるのはわかった。
だって、そりゃ緊張もするよね。
どこから、襲ってくるのか。
どれだけの物が襲ってくるのか。
そして、何より何が襲ってくるのか。
黒い闇と言っても、ハッキリ言ってピンとこないもんね。
全てが雅さんの腕にかかってるんだもん。
たった一人で、3人を守るんだよ。
過酷といえば・・・過酷だよね。
申し訳ない気持ちでいっぱいの私は、そんな事を思いながら雅さんを見つめてた。
 
「渚も・・・いいな。」
 
最後に真音(マナト)さんは、渚にそう言った。
顔は動かさなかったけど、その言葉と声に、真音(マナト)さんの思いが見えた。
「俺たちを信じろ。」って・・・まるで、そう言っているように聞こえた。
 
「うん。いいよ。」
 
渚の力強いその声に、真音(マナト)さんは「フッ。」と声を出して軽く笑うと、
 
「じゃ、押すぞ。」
 
と言いながら、決定ボタンを押した。
渚に付けられている装置のランプが、今まで光らなかったのに、黄緑色に光った。
 
「よし。侵入成功だ。」
 
真音(マナト)さんがそう言った時だった。
 
「みんな、目をつぶって!!」
 
突然、雅さんのその大声に、私は恐くて首をすくめた。
でも、ちゃんと雅さんが言った通り、目をつぶったよ。
というより、恐さのあまり、自然に目をつぶってたんだけどね。
だけど、目をつぶっているはずなのに、側からはキーボードの音が絶えず聞こえてた。
 
「真音(マナト)さん・・・目を開けてるの?」
 
側にいる真音(マナト)さんに暗闇の中、聞いた私。
だけど、真音(マナト)さんは、「いや。」と普通に答えた。
でも、音は、変わらず聞こえてる。
 
「え??じゃあ、なんで音が聞こえてるの?」
 
困惑した私は、両手で頭をかかえる。
そんなしぐさは見えてないだろうけど、声とバタバタしている私の気配でわかったのかな?
 
「簡単だよ。」
 
と笑いながら言った真音(マナト)さんは、答えをくれたの。
 
「俺、目をつぶっていても、キーボード打てるから。」
 
それには、「へぇー、そうなんだ。」と普通に答えたものの・・・。
 
「えっ?うそぉー!!」
 
と我に返って考えたら、すごい事だと気付いて絶叫。
だけど、今はそんな状況じゃなくて、真音(マナト)さんは、答えずに、目をつぶり手を動かしたままで、雅さんに言葉を投げた。
 
「雅、今、何が起こったんだ?」
 
そう言われて気付いた。
今、私たちは、黒い闇に襲われているんだった。
ドキドキしながら、雅さんの返事を待った。
 
「もう、いいですよ。目を開けてください。」
 
その声に私たちは、ほぼ同時に目を開けた。
そして、見る先は、目をつぶる前に雅さんが立っていた場所。
だけど、そこには彼は・・・いなかった。
 
「あれ・・・雅さんは?どこ?」
 
キョロキョロと頭を動かしながら、雅さんの姿を探すけど、この空間にはいなかった。
 
「どういう事?確かに声は聞こえたのに。」
 
渚もそんな事を言って一緒に雅さんを探してくれるけど・・・やっぱりいなかった。
 
「真音(マナト)さん。雅さんが、いないよぉー。」
 
半泣きになりながら真音(マナト)さんの側でそう言った私に、真音(マナト)さんは手を動かしながら部屋をぐるっと見る。
さっきまでと全く状況が変わっていないと私も渚も思ったのに、真音(マナト)さんにはわずかな変化もわかるみたいで。
部屋を一周見てすぐに、彼は言ったの。
 
「雅はこの空間の外にいる。」
 
って。もちろん、「へっ?」と声を上げた私と渚。
空間の外って・・・どういう事?
ダメだ・・・意味がわからない。
忙しいのはわかっているけど・・・しかたない。
ここは真音(マナト)さんに回答を求めるしかない。
と思った私は、怒られるのを覚悟で真音(マナト)さんに聞いたの。
 
「あの・・・どういう事ですか?」
 
それに対して真音(マナト)さんは怒らなかったんだけど、反対に質問された。
 
「この部屋を見て何とも思わないか?」
 
「へ・・・や?」
 
そう言われて改めてまたグルっと部屋を見るけど・・・何?何か変わってる??
って思うくらい、変化は見られなかった。
 
「すみません・・・わかりません。」
 
と謝りつつ申し訳なさそうに答えた私に、渚が叫んだ。
 
「あぁー!!わかったかもぉー!!」
 
その声に、「えー、何、何?」と私は渚に必死になって聞いてた。
それに対して渚は、「もしかして。」と口にすると気付いた事を言ったの。
 
「部屋がさっきより、小さくなってる。」
 
「えっ?」
 
小さくって、嘘!
って思って注意深く見て・・・。
 
「ホントだ・・・。」
 
と口にしてた。
ホントに、さっきよりこの部屋の空間が小さくなってる。
これって・・・どういう事?
思わず真音(マナト)さんをみた私に、彼は私が言葉を発す前に答えてくれた。
 
「俺たちが装置に侵入したと同時に、黒い闇が襲ってきたんだ。
それは、まさに、この部屋ごと、飲み込む勢いだったんだろう。
そして、その闇はきっと、俺たちみたいな普通の人間が、少しでも浴びたり、体内に入れたりしたら危険なのかもしれない。
元はといえば、異世界の物なわけだし。
それで、まず雅は俺たちに視界を閉ざさせた。
誤って目から入ったりしないように。
そして、次に雅がしてくれたのが、俺たちがいる部屋を守る事。
アイツは外で黒い闇と戦いながらこの部屋に、闇が入ってこないように守ってくれてるんだ。
だけど、それもそう長くは持たないだろうな。」
 
真音(マナト)さんはそう言って苦笑いをした。
どうしてかな?
渚や雅さんが苦笑いをする分には、そんなに恐さは感じないのに。
真音(マナト)さんが、苦しい顔をすると、こんなにも恐い。
それはきっと、私たちよりも全てにおいて、真音(マナト)さんは理解している人だから。
そんな人が、苦しい顔や焦った顔をすると、大げさだと思えないから。
それが、真実なんだとわかるから・・・。
だから、こんなにも胸がドキとして恐い。
 
「雅さんの命が危ないって・・・事ですか?」
 
心臓が速く打つのがわかった。
初めから雅さんが危険な目にあうのはわかっていたのに。
なのに、私は、緑の王として何もできない。
なにも・・・。
そんな悔しさが込み上げてきた。
 
「きっともって、あと30分くらいだろうな。
つまり、30分以内で解除しないと雅の命が危ない。
だけど、それは残念だけど・・・無理だ。」
 
真音(マナト)さんは力なくそういうと、タメ息をついた。
 
「何言ってるのよ!
やる前から、無理だなんて真音(マナト)らしくない!
しっかりしなさいよっ!!」
 
ガラス越しで真音(マナト)さんを怒鳴る渚に、「俺だって諦めたくないよ。」と言い返した真音(マナト)さん。
こんなに乱れた声を出した真音(マナト)さんを、私は初めて見た気がした。
 
「諦めたくないけど。認めたくないけど・・・。
でも、無理だ。」
 
そういいつつも、真音(マナト)さんはキーボードを打つのをやめたわけじゃない。
ひたすが解除をしようとやってくれてる。
だけど、無理だと言ってる。
心では諦めきれないのに、どうしようもないと思うのはなぜ?
不思議に思った私は聞いてみたの。
 
「どうして、無理なんですか?」
 
それに対して、真音(マナト)さんは、現実を教えてくれたの。
その答えは、さっき、雅さんも言っていた。
3つ目のトラップ解除に関係していた。
 
「こっちでの30分ってことは、向こうでは15分だ。
スムーズにトラップの2つを解除しても、約10分たらずで、3つ目を解除しないといけない。
だけど、こっちと向こうとを合わせながらの解除だ。
そんな事するのに、10分なんかでできるわけがない。
普通に解除する時の何倍も時間はかかるはずだ。
30分でも足りないだろう。
完全にタイムオーバーだ。」
 
「そんな・・・。」
 
私と渚の声が重なった。
解除できないとなると、渚は死んでしまう。
そして、この世界も黒い闇に食われてしまう。
全てが・・・終わりだ。
力なくその場にペタンと座った私の脳裏に、声が聞こえた。
 
『真音(マナト)!そっちはどうだ。』
 
突然聞こえたその声に、「あっ。」と声を出した私に、ピンときた真音(マナト)さんは、右手をキーボードから離すと私の左手をつかんだ。
 
『サンガか?こっちは準備できた。
2つ目のトラップも別のファイルで解除してる。
一気に2つクリアーできるぞ。』
 
真音(マナト)さんのその言葉に、
 
『そっか。それは助かる。
こっちも、1つを解除するついでに、2つ目を触っていたから。
よし。じゃあ、解除しよう。』
 
とサンガは答えた。
 
「翠ちゃん、悪いけど、俺の右腕に左手を乗せてくれないか?
今から、両手使わないといけないから。」
 
その言葉に、「あ・・・はい。」と答えた私は、真音(マナト)さんの腕をつかんだ。
それから、真音(マナト)さんとサンガは、会話をはじめ、順調にトラップを解除していった。
だけど、私は会話なんて聞こえてなかった。
だって、無駄なんでしょ?
こんな事しても、もう・・・誰も助からない。
なら、どうして、こんな事しないといけないの?
どうして、雅さんが死にそうになりながら、苦しみながら私たちを守らなきゃいけないの?
全て無駄なのに・・・。
そう思ったら、むなしさでいっぱいになった。
たまらず涙ぐみかけた時だった。
 
「なんだ・・・これ・・・。」
 
真音(マナト)さんの何ともおかしな声が聞こえた。
その声に、下げていた顔を上げて私も真音(マナト)さんを見た。
もちろん、渚もガラスにへばりついて、こちらを見てた。
 
「何?どうしたの、真音(マナト)!!」
 
渚の声にも答えられないくらい、真音(マナト)さんはパソコンにくぎ付けで画面に見入ってた。
思わず、私は真音(マナト)さんの背中に触れて彼に振動を与えた。
 
「真音(マナト)さん・・・どうかしたんですか?」
 
私の声に、「ああ・・・それが・・・。」と戸惑いの眼差しで言った真音(マナト)さんは、いきなり決定ボタンを押した。
それには、もちろん、驚くよ。
 
「ちょ・・・なんで?どうして、勝手に押すの?
まだ、サンガから何も言ってきてないじゃないですか!!
向こうと同時に操作しないといけないんでしょ!
どうして!!なんで、そんな投げやりに!!」
 
とすごい剣幕で真音(マナト)さんに抗議している最中に、聞こえた音。
それは・・・。
 
「ピー!!」
 
という甲高い音。
そして、次に聞こえたのは、
 
「ロックを解除しました。」
 
さっきまで黄緑色のランプがついていた所が、今は赤になり、次の瞬間その機械は燃えて消えた。
そして、渚を閉じ込めていたガラスの箱は、スッと蒸発して消えた。
 
「何?一体なんで、解除されたの?」
 
目の前のガラスが消えて私たちの元に来た渚は、すごい剣幕で真音(マナト)さんに聞いた。
 
「それが・・・。」
 
と真音(マナト)さんが何かをいいかけた時、姿が見えなかった雅さんも戻って来た。
 
「一体これは・・・どういう事なんですか?」
 
体中から汗を流し、相当ダメージを得たのか、私たちの側に来ると膝をついて崩れた雅さん。
真音(マナト)さんの予想は、合っていたと・・・この時わかったの。
 
「大丈夫、雅さん。」
 
彼の元にかけつけ、雅さんのひたいの汗をぬぐう私の手を雅さんは、「平気です。」と言って止める。
そして、そのままズルズルとはって、真音(マナト)さんの元へ行くと、答えを迫った。
 
「教えて下さい。
どうして、こんなに早く解除ができたのですか?」
 
私も渚も真音(マナト)さんを見つめた。
それに対して真音(マナト)さんは、まず、「わからない。」と首を振りながら口にすると、私たちを見た。
 
「わからないって・・・どういう事?」
 
渚の言葉に、真音(マナト)さんは、「それが。」と口にすると、今起った不思議な事を教えてくれたの。
 
「3つ目のトラップは、勝手に解除されたんだ。」
 
真音(マナト)さんから出てきた信じられない言葉に、もちろん、私たち3人は絶叫と共に、繰り返してた。
 
「解除されたぁ??」
 
って。なんで、どうして?と思う私と違って、渚は何かを思いついたようで。
 
「あっ、もしかして、翠怜(スイレン)さんや蒼(アオイ)さまがしてくれたんじゃないの?」
 
だけど、「それはありえない。」と首を振る真音(マナト)さん。
真音(マナト)さんの意見に対して、この人も同意する。
 
「僕も、ありえないと思います。
それが出来るなら、初めから装置を解除してくれたでしょうから。」
 
なら、一体なぜ?
首をかしげる私たちに、真音(マナト)さんは急に顔をこわばらせた。
その顔が・・・恐かった。
 
「真音(マナト)、どうしたの?」
 
と聞いた渚に彼は答えずに、いきなり私の腕をつかんだ。
 
『サンガでも、ヒビキさんでも、誰でもいい。
聞こえるか!答えてくれ!!』
 
「ちょっと、いきなりどうしたの真音(マナト)!!」
 
と驚く渚だけど、真音(マナト)さんは今度は私にせまる。
 
「翠ちゃんも強く念じてくれ。
向こうと連絡が取れるように。早く!!」
 
と物凄い勢いで迫られたちゃって。
私は、おどおどしながら、必死で念じたの。
だけど・・・。
 
「なんで?どうして、返事がこないの?」
 
そう。どれだけ念じても、向こうからの声は聞こえなかった。
それは、私の心に冷たい風を送った。
 
「真音(マナト)さん、まさか・・・。」
 
そう口にしながら、ユックリと真音(マナト)さんを見た私に、真音(マナト)さんは、「ああ。」と口にして、一言こう言った。
 
「ヤバイな・・・。」
 
って。その言葉が、私の心に吹いていた風を嵐にした。
 
「ちょっと、真音(マナト)!ヤバイってどういうこと?
なんで、連絡が取れないのよ!!」
 
そう叫んで真音(マナト)さんに迫る渚に、真音(マナト)さんは、「俺の推測だけど。」と口にすると、みんなを見た。
 
「たぶん、3つ目のトラップを解除したのは、黒き龍であるラウオ本人だ。」
 
「本人が?なんで??」
 
と叫んだ渚に、「理由はわからない。」と首を振った真音(マナト)さんだったけど、さらに続けた。
 
「だけど、今、連絡が取れないのは、向こうにいるサンガとヒビキさんと蒼輝の3人に何かがあったんだ。
俺が思うに、ラウオに襲われている可能性が高い。」
 
「どうして?そんなのわからないじゃない。
もし、ラウオが解除したんだとしても、彼らを襲っているのは、ジギルだとかいうやつかもしれないじゃない。」
 
と渚はいうけど、
 
「そうだと、連絡がとれない事実が説明できなくなります。」
 
とさっきまで黙っていた雅さんが答えた。
 
「それ・・・どういう意味?」
 
渚の瞳は、真音(マナト)さんから雅さんに代わった。
 
「彼らにとって、WONDER LANDの連中との戦いには慣れてる。
特に、平常心を失わないヒビキさんが、こちらとの連絡っていう大切な行為を忘れるとは思えない。
常に、翠ちゃんの声を、気にかけていたと思います。
だけど、その声を聞こえないほど、今取り乱しているという事です。
心も精神的にも。そして、その場も・・・。
僕も、ラウオ本人が、彼らの前に現れ、彼らをピンチに追いやっていると・・・。
思いたくはありませんが、そう・・・思います。」
 
雅さんはそう言ったあと、力なく肩を落とした。
渚も、それを聞いて言葉がでないようだった。
だけど、私は、そんなしょげてる場合じゃないと思ったの。
今、間違いなく蒼輝たちの命が危ないって事でしょ。
だったら、助けにいかなきゃ!って。
これで、私たちは、渚の持っている女力(ジョリョク)の鍵を手に入れることができたんだもん!
向こうの世界に戻らなきゃ!
そう思ったら、私は急に元気が出てきた。
 
「真音(マナト)さん。教えて!」
 
いきなりそう言った私に、「えっ?」と答えた真音(マナト)さん。
そんな彼の腕をつかんで、私は彼に迫った。
 
「真音(マナト)さんになら、わかるでしょ?
私はどうしたらいいの?
どうしたら、蒼輝たちを救える?
今は、ヒビキさんはいない。
なら、真音(マナト)さんの指示をあおぐしかないの。
私と雅さんがこれから取る行動を教えて。
お願い。」
 
すごい剣幕でそう言った私に、「僕からもお願いします。」と雅さんも頭を下げて言ってくれて。
それを聞いた真音(マナト)さんは、
 
「翠ちゃん・・・すっかり、向こうの人間になっちゃったね。」
 
と笑われちゃって。
 
「へっ?」
 
と拍子抜けした声を上げた私の頭を、真音(マナト)さんは優しくなでてくれた。
 
「わかった。それじゃ、いうよ。」
 
真音(マナト)さんはそう言ったあと、私たちに彼の考えを教えてくれた。
 
「ラウオがなぜ、トラップを解除したか、その目的はわからない。
だけど、たぶん、何かを狙ってるに違いないんだ。」
 
「狙ってる?」
 
「そう。渚の持っている女力(ジョリョク)の鍵とミューラの復活の二つを天秤にかけても、まさってしまうくらいの物。
ラウオはそれを手に入れる為に、トラップを解除した。
それが、なんなのか、わからないだけ不気味なんだけど、でも、向こうの3人の命が危険なのは間違いないだろう。
だから、翠ちゃんたちが助けにいくべきなのかもしれないけど、1つ問題がある。」
 
「問題って、何ですか?」
 
そう言ったのは、雅さん。
彼もいつのまにか、やる気マンマンになってくれてて、私は少しホッとしたの。
強い味方がいてくれて。
心からホッとした。
 
「翠ちゃんと雅くんが書物の力で、向こうに戻れるのはこちらの時間でいうと、あと1時間半後。
つまり向こうでは、18分後だ。
ラウオは、ちゃんとわかってるはずだ。
翠ちゃんや雅が戻ってくれば、間違いなく助けに来るって。
そうすれば、彼の目的にも支障をきたすって。
だから、彼は、こうするはずなんだ。
あいつらが戻ってくるまでになんとしても、けりをつけようって。」
 
「つまり、私たちが戻った頃にはもう・・・。」
 
「そう。何かが起こってるはずだ。
そして、ラウオは狙ったものを手に入れてる。」
 
「そんな・・・。」
 
と弱い声を上げた私に、「だけど、1つだけ方法がある。」と真音(マナト)さんの言葉が。
もちろん、それに飛びついた私。
 
「何?教えてっ!!」
 
また、真音(マナト)さんの腕にしがみついていた私。
そんな私に真音(マナト)さんは、視線をあわせると、私が理解しやすいようにユックリと話してくれた。
 
「それは、翠ちゃんが念じて、今すぐ向こうの世界に戻る事だ。」
 
「念じて?」
 
「そう。」と頷いた真音(マナト)さんは、持ってきていた書物を私たちの目の前に開いた。
 
「見ての通り、文字は全く出ていない。
消えたんだ。
おかしいと思わない?
いつもなら、翠ちゃんが戻るまで消えないし、消えても、何時に翠ちゃんは向こうに戻るとそろそろ出てきてもいい頃だ。
だけど、全くでていない。
つまり、願えば叶う・・・そんな気がするんだ。
現に向こうとの会話ができるくらい、翠ちゃんの念じる力は強くなっている。
強く向こうに帰りたいと願えば、戻れるんじゃないかと思うんだけど・・・。
確証はないけどね。」
 
真音(マナト)さんはそう言ったあと、渚の足からアンクレットを取った。
そして、私の右手を取ると、その手のひらにポンと置いた。
 
「今すぐ念じて向こうへ戻るんだ。
そして、2人で、3人の命を救っておいで。」
 
真音(マナト)さんの言葉に、私も雅さんも、「はい。」と言いながら深くうなずいていた。
「よし。」と答えた真音(マナト)さんは、
 
「1つ注意しておく。」
 
と言ったあと、私の肩をポンと叩いた。
 
「念じる時だけど、決して、『彼らの元へ行きたい』と念じない事。いいね。」
 
そう言われて、もちろん、
 
「なんで?」
 
と言った私。
だって、助けに行くのに、直接行った方が時間短縮になるじゃない!
だけど、真音(マナト)さんは、「わからない?」と言って優しく笑った。
 
「今、2人が行っても何もできないだろ?
命を粗末にしてどうする?
それよりも、2人には、やってもらいたいことがある。
いい?俺が今からいう事を、向こうへ戻ったらしてほしい。」
 
真音(マナト)さんはそう言ったあと、すごい事を言った。
それを聞いた私はもちろん、「えっ?」と驚いて口を両手でふさいじゃって。
雅さんも、「俺たちでするんですか?」と弱気発言。
だけど、真音(マナト)さんは、
 
「そうしなきゃ、3人はたぶん救えない。
いいね。雅くんと翠ちゃんとあと、青鳥国(セイチョウコク)にいるトーワくんと藍瑠(アイル)さん。
この4人でやるんだ。
俺は、こちらで健闘を祈ってるから。
きっとうまくいく。
自分たちの力を信じて。
そして、ヒビキさんたち3人の力も信じて・・・ね。」
 
そして、私と雅さんの頭をワシャワシャとなでた。
その感触が、子供に戻ったみたいで。
お母さんにしてもらったみたいで、なんか、ホッとした。
 
「じゃ・・・いきましょうか。」
 
雅さんの言葉に、「うん。」と頷いた私は、渚の元へ行くと、渚と抱き合う。
 
「鍵・・・借りるね。」
 
と言った私に、
 
「頼むから、無事に戻ってきてよ!」
 
と渚は言ってくれて。
それで、私は渚から離れて、真音(マナト)さんに、「いってきます。」と挨拶をして本の前に、雅さんと手をつないで立った。
そして、念じたの。
『本よお願い。
ここから、私と雅さんを向こうの世界に戻して。
青鳥国(セイチョウコク)にいる藍瑠(アイル)さんとトーワくんがいる場所に。お願い。』
強く強く・・・そう念じた。
 
「ねぇー、やっぱり、ダメなんじゃないの?」
 
反応を見せない本に、そう渚が言った時だった。
目をつぶっている私でもわかるくらいのまばゆい光が、本からはなたれた。
 
「この光っ!!」
 
「ああ。あの樹木と同じ光を放ってる。」
 
真音(マナト)さんはそう言ったあと、私にこう言った。
 
「そのまま本に飛び込め。」
 
本に?って思ったよ。
そんなのあるはずないって。
だけど、躊躇してる暇はなかった。
流石に頭からは恐いので、足から入ることにした。
 
「えいっ!」
 
半ばやけくそで私は、本がありそうな場所にめがけて飛んだ。
次の瞬間、明るい光は消え、真っ暗闇になった。
 
「く・・・らい・・・。」
 
そうつぶやいた私の側で、こんな声がした。
 
「異空間に入りましたよ。」
 
「えっ?」
 
その声に、パチと目を開けた私の目の前には、手をつないでいる雅さんがいた。
 
「異空間ってことはつまり・・・。」
 
そう言って黙った私に、彼は優しく笑った。
 
「もう時期、青鳥国(セイチョウコク)に着くでしょう。」
 
願えば叶うとよく言ったもの。
それにしても、ホントに・・・よく叶う。
って、感心してる場合じゃないのよ!
これから、また私の戦いは始まる。
蒼輝たちを救いに行くのも戦いだけど、その前に・・・。
私には・・・いや。
私たちにはやらなきゃいけないことがあるの。
そう、真音(マナト)さんに言われた、私たち4人でやるべき事!
ヒビキさんも真音(マナト)さんもいない状況で、これをするのは、正直恐い。
でも、やらなきゃ!
そうしなきゃ、蒼輝たちを救えないんだもん!
恐いけど・・・頑張らなきゃ!
そう思って体に力が入ったせいか、私は知らず知らずのうちに、雅さんとつないでいた手を、ギュッと握ってしまった。
 
「あっ・・・ごめんなさい。」
 
と言って手を緩めた私に、「いえ。」と言った雅さんは笑うと私に言ったの。
 
「僕も正直、恐いです。
うまくできるんですかね・・・。」
 
って。それを聞いて、思わず「プッ。」と笑っちゃった。
 
「なんで、笑うんですか!」
 
なんて怒られたけど、だって、私はさておき雅さんが、恐がるなんておかしいよ。
って事で思わず言っちゃった。
 
「雅さんがビビっちゃったら、誰がしきるのよ。
期待してるんだから、しっかり!!」
 
そして、彼の背中をバシと叩く私。
 
「そんなぁ〜。」
 
と情けない声を上げた雅さんにまた、笑っちゃった私。
不安はある。恐さもある。
だけど、やらなきゃいけない。
私と雅さんと、あとは藍瑠(アイル)さんとトーワくん。
この4人でやるしかないんだから!!
私は、そう強く思いながら自然と握り締めてた。
手の中にある、女力(ジョリョク)の鍵を・・・。
 
 
 
 
何人、兵士を倒したか、わかんねぇー。
わんさか出てくる兵士。
そして、容赦なく打ち込んでくるトロイ。
本来なら、こんな数相手にしても、息だって上がらず余裕の俺のはず。
そして、何より、当たってもダメージを与えないトロイの弾をよける必要だってない。
だけど、今の俺には、よけなきゃなんねぇーんだ。
そして、もっと気をつけなきゃいけないことがあって。
そのせいで、俺はヘトヘトだった。
精神的にも体力的にも、もう・・・ダメ。
軽快に飛び跳ねていた俺は、とうとう、体全体で息をしながら、地面に着地した。
荒れた呼吸を繰り返す俺の前に、両手を組んで余裕の顔で光景を眺めていたジギルがトロイに銃を下ろせと命令をし、俺に近付いてきた。
 
「どうだ?無敵の体を復活させても、このざまだ。
自分が情けなくないか、蒼輝?」
 
俺はそれには答えずに、首をブンブンと振った。
体中の水滴を、飛び散らせた。
重くてべっとりとしてた体が、少し軽くなりスッキリした感覚になった。
 
「兵士はそのざまだ。
あとは、もう少し残っている兵士に、お前とトロイだけだろ?
余裕だよ。」
 
と強がって見せるが、それだけ言うのも情けないけど、息が切れてんだよな。
少し咳き込んで呼吸を急いで整えるものの、ジギルは「話にならない。」と呆れた顔をするだけ。
 
「お前、いつからそんな甘い男になったんだ?」
 
ジギルはそういうと、自分の腰から銃を抜き取った。
そして、やつの銃口は俺の体に向けられた。
 
「いくら、ぶっぱなしても無駄だ。
俺の体は、弾は効かない。いい加減、無駄な事はやめたらどうだ。」
 
と言って見るがジギルは、
 
「それはどうかな?」
 
と余裕の笑いをして、容赦なくぶっ放してきた。
確かに当たっても、俺にダメージを与える事はない。
でも、それは昔の俺の体での話だ。
今は、正直どうかは不安なんだ。
今は翠の力を借りて、緑の豹になってる。
だから、あまり弾を受けてしまうと、効力がとけてしまうんじゃないか?という不安もあった。
今、ここで、俺が豹の姿を失うわけにはいかない。
サンガとヒビキが、ロックを解除するまでは、俺はこの姿でいないと。
そして、アイツラを守らなきゃいけないんだ。
だけど・・・。
俺は、飛び跳ねながら、ジギルの弾を交わしていたけど、さすがに動きが衰え、足を撃たれた。
もちろん、ダメージは受けなかったが、衝撃は受けた。
風圧で、少し予期せぬ方角に飛ばされ、そこに容赦なく、ジギルやトロイ。
そして、他の兵士の弾が集中した。
俺の目の前が、煙で充満した。
30や40発は、撃たれた気がする。
衝撃だけでも、こんだけの数を打ち込まれると、さすがに体力のダメージは受ける。
俺の疲労はピークだった。
 
「俺の狙いを、教えてやろうか?」
 
煙が消えた頃、俺のすぐ目の前には、ジギルが立ってた。
煙でむせる俺の姿を、ジギルは完璧見下した瞳で見てた。
 
「お前の疲労だよ。」
 
と言ったジギルは、俺の目の前にしゃがんだ。
俺が反撃する力も、もうない事をやつは、わかっていたんだ。
それでも俺は、ジギルが何かを仕掛けてきたら、最後の力を振り絞って、攻撃を起こそうと、隙を狙ってた。
 
「確かにお前の体に傷をつける事は、俺たちには出来ない。
だけど、お前の体力を消耗させる事はできる。」
 
だけど、俺は、「ふざけんなよ。」と強がった笑いをした。
 
「だったら、昔からもそうしてきたはずだろ?
だけど、お前らは、そんな事をしてこなかった。
俺の体力は不死身だ。」
 
でも、ジギルは、「それはどうかな?」とムカつく笑いをすると、俺の目の前に右ストレートを繰り出してきた。
そのあまりにも速すぎるスピードに俺は、情けないけど、身動き取れなかったんだ。
瞳を動かす事もできないぐらい、ただその場に立ち尽くしてた。
ジギルが、俺の目の前ですん止めしなければ、間違いなく、拳は俺の顔面にジャストミートして、俺をぶっ飛ばしてた。
ピクリとも動かない俺に、「これが、今のお前だ。」と言ったジギルは、俺から拳を下ろした。
 
「今までの前は、冷徹で、敵である俺たちの命なんて、何とも思ってなかった。
なのに、なぜか、お前はここへきて、急に命にこだわりを持ち始めた。
俺は、それに気付いて、たまらず笑ったよ。
やっと、無敵の豹であるお前を倒す事が出来るってな。
あまりの嬉しさに、体が震えた。」
 
ジギルはそういうと、また、俺に銃口を向けた。
それは、俺の顔面にだった。
鼻の先に、冷たい鉄の感触と、火薬の匂いがした。
 
「サンガを救った事で、お前の心に異変が起きてることに気付いた。
お前を変えたのは、あの翠っていう女豹(メヒョウ)だろ。
お前は、アイツのせいで、冷徹な機械の心しか持たない戦士だったのに、優しさを持ってしまった。
だから、お前は、トロイの銃弾をよけるのに、“無駄な体力”を使ってしまったんだ。」
 
ジギルの言っている事は、悔しいけどあってる。
俺は、トロイが撃ち込んできた弾をよけながら、他の兵士ともやりあっていたんだ。
だけど、その時に気をつけたのが、トロイの弾が兵士に当たらないようにする事。
トロイは、味方に当たってもいいような撃ち方をしていたから。
俺は、それを計算に入れながら、弾をよけていたんだ。
それが、俺の体力をすごい速さで奪った事は、もちろん気付いてた。
昔の俺なら、気にも留めなかっただろうな。
目の前の敵であるトロイをここで倒す。
ただそれだけを目標にかかげて、トロイに攻撃をしかけていただろう。
だけど、今の俺にはそれはできない。
甘いといわれてもいいんだ。
俺は誰の命も奪いたくないし、失いたくもない。
たとえ、自分の命を失っても、もう、誰も失いたくないんだ。
でも・・・。
俺は、実はさっきから、引っかかっている事があったんだ。
確かに、俺にだって体力の限界はある。
だけど、いくら、気を使って戦っていたにしても。
翠の力をもらって豹になっているからといっても。
まだ、わずかな時間しか経っていないんだ。
それなのに、こんなに、体力が消耗するもんなのか?
何か、俺たちが知らない間に、とんでもない事が起ってそうで、俺は恐くてたまらなかった。
その時だった。
 
「蒼輝っ!戻って来い!!」
 
サンガとヒビキがいるバリアーの部屋から、ヒビキの叫び声が聞こえた。
俺を呼ぶなら、心の声で呼ぶはずのヒビキが、なぜ大声を張り上げる必要がある?
その事実が、また、俺の胸をザワザワと揺らした。
さっきまでの不安に拍車をかけて、俺に襲ってきたいいようもない不安。
俺は、最後の力を振り絞って、素早く目の前のジギルの銃口から逃れると、必死に走って、バリアーの中に入った。
てっきり、トロイやジギルが撃ち込んでくるかと思ったけど、なぜか、1発もアイツらは、撃ってこなかった。
それが、またちょっと・・・ひっかかったんだ。
 
「ヒビキ、どうしたんだ?
っていうか、心で呼べばいい物を・・・。」
 
とブツブツ愚痴りながら、サンガとヒビキの元に歩いて近付いた俺。
だけど、状況は深刻みたいで、サンガは、
 
「一体・・・なんなんだ?」
 
と焦った顔で困惑してるし、普段落ち着いているヒビキも、
 
「これは、どういう事だ?」
 
と眉間にしわを寄せてる。
サッパリ意味がわからない俺は、「おいっ!」と二人に声をかけた。
俺の声に2人はやっと気付いてくれて、同時に、「あっ・・・。」と声を上げた。
 
「あっ!じゃねぇーだろ?
なんだよ。そっちが呼んだんだろーが!!
っていうか、解除はどうなった。時間がないんじゃないのか?」
 
完全に手が止まっているサンガを心配して俺は、サンガの方に向かうと、両手前足をテーブルに向かって伸ばし、立ち上がった。
そして、画面を見る。
俺が見てもわかんねぇーけど、でもこれはさすがにわかったぞ!
だって、俺でも読める字ででっかく書いてたから。
 
「解除完了??」
 
そう言った俺は、すぐにサンガを見た。
 
「もう、出来たのか?すげぇーな。」
 
と俺はサンガの頭に自分の頭を飛びながらゴンとくっつけるけど、サンガはちっとも嬉しそうじゃない。
それは、側に居るヒビキも一緒だった。
その空気が・・・俺の中にあった不安を復活させた。
 
「お前が・・・やったんじゃないのか?」
 
さっきの盛り上がった声なんて、一瞬にして消えたよ。
ここからは、考えたくもない事だ。
そうであってほしくないと願いながら、俺はサンガとヒビキに言った。
 
「なぁー、一体何があったんだ!」
 
と叫んだ俺に答えてくれた言葉は、こんな言葉だった。
 
「俺が答えてやろうか?
少なくとも、そこの2人よりは、わかりやすい回答がしてやれると思うがな・・・。」
 
初めて聞く声だった。
低く通る声。
そして、何より、俺と同じにおいがする声だった。
つまり、一番偉いって事だ。
そう感じた俺は、素早く、部屋の入り口へと移動した。
俺について、サンガもヒビキも入り口へと出てきた。
部屋の出入り口から少し離れた場所に、トロイとジギル。
そして、さっきまで居なかった、見るからに強そうな兵士がたくさん。
たぶん、こいつらが、最初にヒビキがみた精鋭部隊の連中だろう。
そして、そいつらの中央に立っている男。
短く切られた黒髪。
俺たちを吸い込みそうなくらいの、眼力のある大きく黒い瞳。
背もヒビキよりもデカく、何より隙(スキ)がない。
ジギルたちみたいに銃を持っているわけでも、雅みたいに剣を持っているわけでもない。
武器なんて持ってないのに・・・手が出せない。
ジギルの方が筋肉もあるし、体は鍛えてそうに見える。
だけど、それは、見た目だけだ。
コイツ・・・意外に出来るぞ。
俺は、あまりの威圧感に思わず、ゴクと唾を飲み込んだ。
ビビッている俺の姿に、そいつは、クスと笑った。
 
「そうビビるなよ。緑豹国の王よ。
お前にずっと逢いたかったよ。蒼輝。」
 
そいつは俺にそういうと、すごくムカつく笑いをした。
人を馬鹿にしたような・・・そんな笑いだった。
 
「お前、一体誰だ!」
 
と叫びながら、部屋から出てアイツらに近付こうとした俺の腕を、ヒビキがつかんだ。
 
「ヒビキ、離せ。」
 
と暴れる俺の腕を、ヒビキは強く握って離さなかった。
 
「よせ。出て行くのは危険だ。」
 
冷静にそう言ったヒビキは、俺から今度はその得体の知れないやつを見た。
 
「あんたが、ここの王である、ラウオか?
またの名を、黒き龍・・・違うか?」
 
ヒビキの言葉に、「えっ?」と俺もサンガも言ってた。
俺たちの驚き顔に、得体の知れない男は、
 
「やはり、キミは優秀だね。」
 
と笑いながらいうと、ヒビキの目の前に移動してきた。
 
「そう。俺がここをおさめている王だ。
お前たちと逢う事はないだろうと思っていたが、世の中わからないものだな。」
 
と笑ったラウオだけど、ヒビキはそんなラウオにいきなり質問した。
 
「さっき、あんたが言っていた事を説明してくれ。
どうして、装置が勝手に解けたんだ?
あんたが、解いたのか?」
 
それには、「ああ。そうだ。」と答えたラウオ。
だけど、それに対しての反論は、サンガがしてきた。
 
「嘘だ。俺たちは、全ての電力を奪った。
絶対に、WONDER LANDの機械は動かないんだ。」
 
と全否定のサンガだけど、「甘いよ。」と笑ったラウオは、俺たちに左手を見せた。
ラウオの左手は・・・黒く焼けていた。
 
「同情はしないでくれ。
この手は俺が自分の意志で焼いたんだ。
龍の力を持ってくるためにね。」
 
ラウオはそう言ったあと、急にジギルの腰についている時計を取ると、それをヒビキに向かって投げた。
 
「正直、街中の電力を奪うっていう発想は、予想外で驚いたよ。
だけど、そんなもの装置を操作するのに関係ないんだ。
なぜなら、俺には、龍の力がある。
龍の力で、装置なんてなんとでもなるんだからな。」
 
「だったら、どうして、解除を阻止しなかった。
どうして、自ら解除するなんて事したんだ。」
 
サンガの言葉に、「理由は一つさ。」と答えたラウオは、今度は俺を見た。
 
「お前たちの腕では、装置の解除なんて無理だとわかっていたさ。
だから、おもしろくないって思ったんだよ。」
 
「おもしろくない・・・だと?」
 
完全に怒りモードで突っかかる俺に、ラウオは気にも止めずに続ける。
 
「そうだ。
こっちは、街中の電力までも止められたんだ。
もっと、楽しませてくれるのかと思ったのに、解除は無理そう。
翠が居る世界が滅んでも、俺はちっとも楽しめないし、おもしろくないからね。
だから、俺が助けてやったんだよ。
ゲームはこれからだ。
翠は俺の目の前で死んでもらう。
翠怜(スイレン)と、蒼の目の前で、八つ裂きにしないとな。
自分の娘が、目の前で殺されるのを、悔しい顔でみるアイツらの顔を見ないと、気がすまないんだよ。」
 
そう言って、薄気味悪い笑いをしたラウオに、俺は心底ムカついた。
翠を殺すだと?
ゲームだと?
俺の怒りは最高潮に達した。
 
「てめぇー。ふざけたこと、言ってんじゃねぇーぞ!!」
 
俺はそう叫びながら、ラウオに向かって飛びつきそうになる。
だけど、飛び出した俺のしっぽを素早くつかんだヒビキは、俺をまたバリアーの中に投げ戻した。
 
「いってぇーな!!行かせろよ!」
 
と暴れる俺の頭を、ヒビキは強いパンチで殴ってきた。
その衝撃に、俺は動きも叫び声も止まった。
静かになった俺の耳元で、ヒビキは早口で言った。
 
「アイツがお前をおびき出そうとしてるのが、わからないのか!
今、アイツがいくら言っても、翠ちゃんを今すぐ殺す事はできない。
それくらいわかるだろ?
今は、怒りを抑えるんだ。
少し気になることがある。
もう少し、アイツから話を聞く。
ここから脱出するのも、アイツらにムカつくのも、その後だ。
今は、我慢しろ!!」
 
そう言ったヒビキは、「このガキが!」と言って、俺の頭をわしゃわしゃと軽くいじると、また、ラウオの方を見た。
 
「アンタに聞きたい事がある。」
 
ラウオはヒビキが好きなのか、「なんだ。」とすごく楽しそうな顔をして、ヒビキに返事をした。
 
「さっき、アンタ言ってたよな?
装置の解除は、龍の力で何とでもなるって。
龍の力って、何だ?」
 
教えないと思った。
だって当たり前だろ?
自分の力を相手に教えるなんて、必殺技を教えるようなもんだからな。
だけど、ラウオはなぜか、ヒビキに正直に答えたんだ。
 
「俺の力は、時空を自由に操れる事だ。」
 
「時空を?」
 
「そうだ。」と言ったラウオはいきなり、ニヤと笑うと、ヒビキを指さした。
 
「それを、みてみろよ。
何か、気付かないか?」
 
そう言われたヒビキは、さっきラウオから受け取ったジキルの時計を見た。
 
「何か変わった事でもあるのか?」
 
と言いながら俺もサンガも覗くけど、何も変わってない・・・よな。
 
「なんだ?」
 
と言った俺に、
 
「わからん。時間もあってるよな。」
 
とサンガ。
 
「でも、何かあるんだろう。」
 
と言いながら、ヒビキも注意深く時計を見る。
そして、いきなり、「えっ?」と言ったあと、一気に、驚きの表情になった。
 
「ヒビキ?」
 
俺とサンガが、どうしたのかを聞こうとした時、ヒビキはすごい剣幕で、ラウオを見た。
 
「お前の狙いって、まさか!!」
 
ヒビキのその声に、ラウオは、「やっと、わかったか?」と余裕の笑いをした。
もちろん、俺とサンガはサッパリだ。
驚いているヒビキにもちろん、2人して聞いた。
 
「一体、何なんだ?」
 
俺の言葉にヒビキは、俺たちの目の前に、さっきの時計を差し出してきた。
 
「ここを、よく見て見ろ。」
 
そう言われて指をさされたのは・・・日付?
時間じゃなくて、日付を見るのか?
そう思いながら俺は、日付を見た。
その時、「うわぁー!!」とものすごい声を上げたサンガ。
それには、俺の目は時計から離れて、サンガを見るって!
 
「んだよ!脅かすなよ!!」
 
と怒る俺だけど、サンガの目はもう、あさってを見てる。
 
「何をそんなに驚いてんだ?」
 
とブツブツ言いながら俺も、改めて日付を見た。
 
「7日・・・。別に変じゃねぇーよ・・・。」
 
って言って、「えっ?」と俺はもう一回時計を見た。
変じゃねぇーこと・・・ねぇーよ。
思いっきり変だ。
だって、俺たちが、BLUE LANDを出たのって、5日じゃなかったか?
なのに、今は・・・7日?って、おいっ!!
 
「まさか!!」
 
と口にしながら俺はヒビキを見た。
それに対して、「そのまさかだよ。」と言ったヒビキに、サンガがすぐに言った。
 
「待てよ。だったら、どういう事なんだ?
俺たちが、こっちに来て数分の間で、2日経ってるってことだろ?
って事は、・・・どういう事なんだ?」
 
バカか、お前は!と突っ込みたいが・・・俺もよくわかんねぇー。
頭がついていかねぇーんだよ。
って事で、俺も便乗して、ヒビキの解説をせがんだ。
 
「正確には、3日は経ってる。
つまり、地下水路に水が戻る時まで、33時間しかなかったのに、3日経ってるわけだから、今は、もう地下水路に水が戻ってるはずだ。
そして、俺たちが戻れる場所は、“緑豹国”しかないって事。」
 
「それ・・・どういう意味だ?」
 
と聞いた俺にヒビキは、力なく答えた。
 
「青鳥国(セイチョウコク)へいける唯一の手段である地下水路には、もう水が戻ってる。
あの水が、青鳥国(セイチョウコク)に吸収されるのは、次の月が消える時。
つまり、1ケ月先だ。
そこで、問題がたくさんある。」
 
「問題?」
 
と言ったサンガに、ヒビキは「ああ。」と言うと、その場に座り込み、まるでラウオに降参をしたような態度をとった。
 
「まずは、俺たち緑豹国の事だ。
今、青鳥国(セイチョウコク)にトーワが閉じ込められた状態でいる。
緑豹国のバリアーが、蒼輝の力が薄れても、しばらく保っていたのは、力が弱くなった蒼輝でも、緑豹国内にいたからなんだ。
蒼輝のわずかな力をバリアーが吸い取っていたから、あそこまで持った。
なのに、バリアーの力にも含まれている黄色の力のトーワが、緑豹国に1ケ月もいないとなると、バリアーの継続は絶望的だ。
きっと、10日と持たないだろう。
現に、俺たちが緑豹国を出てかなり日が経ってる。
現実問題、今もバリアーがどうなってるか、心配だけどな・・・。」
 
「そんな・・・。」
 
と声を上げたサンガだったけど、俺たちを襲っていたものは、それだけじゃなかったんだ。
 
「それとあとは、ミューラの復活だ。
時間が急速に進んだせいで、翠ちゃんがこっちにいられる期間が、あと1日もないはずだ。
きっと、数時間かと・・・。」
 
だけど、俺は、即否定した。
 
「充分だよ!例え数時間でも、復活は可能だ。」
 
って。だけど、ヒビキは首を振った。
そして、ヒビキは俺たちじゃなくて、ラウオを見た。
 
「その数時間も、“今すぐ、翠ちゃんが戻ってきたら”って話だ。
だけど、翠ちゃんが本に導かれて、こっちに戻ってくるまでは、普通であと15分以上はある。
だけど、きっとそれは“ただの15分”じゃないはずだ。
翠ちゃんが戻って来る時間と同時に、翠ちゃんは向こうに引き戻される。」
 
「それって、つまり、翠が向こうの世界に戻る時間って事なのか?」
 
サンガの言葉にヒビキはただ頷いて返事をし、変わらずラウオを見てた。
 
「翠ちゃんは元の世界に戻ってしまう。
そして、きっとミューラを復活させる為の女力(ジョリョク)の鍵も、翠ちゃんがささないと効果はないだろう。
それにそもそも、ミューラを復活させる為には、3つの力がいる。
女力(ジョリョク)の鍵の力。
藍瑠(アイル)さんの女力(ジョリョク)の力。
そして、最後に翠ちゃんの女力(ジョリョク)の力だ。
だから、翠ちゃんが元の世界に戻ってしまったら、ミューラは復活できない。
俺たちは、すべての希望を失ってしまうんだ。」
 
そう言ったヒビキは、今度はラウオに話かけた。
 
「お前の狙いは、初めからこれだったんだろ?
ミューラの復活を阻止する事が一番の目的とみせかけたのは、カモフラージュで、お前の最初からの目的は、翠ちゃんを元の世界に戻す事だったんだ。
翠ちゃんがいなければ、蒼輝は緑の豹になることも出来ないし、何より俺たちがお前にとって目障りな動きをしないしな。
まさか、お前が時空を操る能力を持っていたとは・・・。
いや、“時空”っていうのは嘘だろ?
本当は、“時間”じゃないのか?
ロックの解除も、解除をしたわけじゃない。
“元々、装置を動かしてないよう”にしたんじゃないのか?」
 
「それ・・・どういう意味だよ。」
 
とサンガはヒビキに迫るが、ヒビキの回答に、大笑いをしたのはラウオだった。
その笑いに、俺たちも含めて、ジギルやトロイも驚き顔でヤツを見てた。
 
「よく、『カラクリ』がわかったな。
やはり、おまえは、予想通りの男だな。
いや・・・予想以上だ。」
 
と言ったラウオは、とても嬉しそうな顔をしてヒビキを見てた。
 
「お前の言う通り、俺は機械を止めたんじゃない。
機械を動かした時(トキ)に、時間を戻しただけだ。
そして、機械を動かしたという事実を消した。」
 
「なんだよ・・・それ。」
 
わけわかんねぇー。
戻った?消した?
頭がこんがらがってきた。
そんな夢みたいな話が信じられるか!
 
「アイツ、いかれてんじゃねぇーか。」
 
と俺はヒビキに言って見るけど、
 
「確かに理解しづらい事だ。
だけど、ヤツが言っている事は、嘘でもデマでもない。
なぜなら、現実に時間が異様に経っているじゃないか。
それに、そもそも、向こうでの翠ちゃんと会話が出来る事自体がおかしかったんだ。
向こうとの時間は5分の1の差がある。
なのに、通信し合えるなんておかしいだろ。
それは、ヤツがコントロールしていたんだ。
そして、そうした事で、ツケが回ってきたんだ。
アイツが時間を進ませたわけじゃない。
翠ちゃんたちと交じり合ったがために、空間にゆがみが出来てしまった。
だから、過ごした時間の数倍の早さで、時間が過ぎてしまった。
現に今も、空間のゆがみは続いてる。
なぜなら、心での会話が出来なくなってるからな。
空気の流れが正常じゃない証拠だ。
そうだろ?」
 
「ホントに、お前は、恐い存在だな。
蒼輝よりも翠よりも、お前が一番、俺の存在を揺るがす人物みたいだな。」
 
ラウオはそういうと、ジギルの手から銃をとった。
そして、それを俺に向かって構え、引き金を引いた。
 
「バリアーがあるんだよ。」
 
と余裕の顔をした俺だけど、
 
「よけろ!」
 
とヒビキに叫ばれた俺は、一応瞬間的によけた。
よけて・・・驚いた。
銃弾は、入るはずもない部屋の中の壁に打ち込まれ、白い煙をたてていたから。
 
「なっ、なんで!!
バリアーは?」
 
サンガの声に、ヒビキは、「タイムオーバーだ。」と言いながら首を振った。
 
「バリアーを張ってから、もう何日も経ってる事になってるんだ。
2人で作ったバリアーが、そんなに持つはずがない。」
 
そして、ヒビキは、俺と自分の後ろに、サンガを隠した。
 
「ヒビキ、どうするんだ。
ここから、どうやって逃げる?」
 
小声で聞いた俺。
サンガを俺たちの後ろに隠した所で、何の解決にもならねぇーだろ?
第一、 ヒビキは、いえば、サンガとなんら変わらないんだから。
銃弾を受けたら、間違いなく傷を負うんだ。
そう考えたら、こいつらを守るのは俺の腕次第ってことだよな。
そう思った俺は、ある案をヒビキに提案した。
 
「俺が、アイツらをひきつけるから、ヒビキはサンガを乗せて、あいつらの上を飛び越えて逃げろ。」
 
だけど、ヒビキは、「それは、無理だ。」と首を振った。
 
「無理って?」
 
サンガの声に、ヒビキは少し悲しい顔をした。
 
「俺がサンガを乗せたところで、銃弾はうけるんだ。
俺もサンガも怪我を負う。
それだったら、蒼輝!
お前が、サンガを乗せて、ここを脱出しろ。
ここへ来た時みたいに、バリアーを張れば、サンガはしばらくなら銃弾を受けない。
お前の速さなら、緑豹国の狭間の森までなら、いっきにいける。
それでいこう。」
 
「待てよ。じゃ、お前はどうすんだよ。」
 
それに対して、ヒビキはただ笑うだけ。
 
「ヒビキ?」
 
と悲しい声を上げたサンガだったけど、俺はわかったから。
ヒビキの決めた決断を。
だから、ハッキリいったんだ。
 
「お前、死ぬ気か?」
 
って。それに、対して、ヒビキは、「ハッキリ言うねぇー。」と言いながら少し笑った。
 
「バカな事考えるなよ!
お前が死んだら、緑豹国はどうなるんだ?
王は、3人なんだぞ!
誰か1人でもかけたら、意味がないんだろ?
簡単に死を選ぶなよ!」
 
サンガはアタフタと落ち着きがなくなって、そう叫んでた。
だけど、俺は意外と冷静だった。
もちろん、納得なんてしてないさ。
ヒビキが死ぬなんて、ふざけんな!って思ってる。
だけど、正直なところ、絶体絶命なんだよ。
このままだと3人共死んでしまう。
なら、2人が生き残れる方法を選ぶ方が、妥当だろう。
俺たちは、ここで息絶えるわけにはいかないんだ。
例えヒビキが死んでも、俺とサンガはラウオを倒す為に、生きなきゃいけないんだ。
 
「わかった。お前の言う通りにするよ。」
 
俺はそう言ったあと、俺の背中に強引にサンガを乗せた。
 
「おい、待てよ!
蒼輝、正気か?
ヒビキを死なせるのか?
ふざけんなよ!
だったら、俺を置いていけ!
俺を置いていけば、ヒビキも助かるんだろ?
だったら、俺が死ぬ。
ヒビキが死ぬくらいなら、俺が!!」
 
と暴れるサンガの腹に、ヒビキが鉄拳をぶち込んだ。
急所ははずしてるみたいで、ただ体に力が入らないようにしただけだった。
 
「ヒビキ・・・。」
 
と苦しい声を上げたサンガに、「悪いな。」と言ったヒビキは、俺の背中に顔をこすりつけて寝そべるサンガの髪を優しくなでた。
 
「お前の気持ちは嬉しい。
だけど、お前を殺すわけにはいかないんだ。
この先、WONDER LANDへの侵入も、まだまだ出てくるだろう。
その時に、お前の力が必要になってくる。
だから、お前には生きてもらわないと困るんだ。
これからも、翠ちゃんと蒼輝の為に、生きてくれ。
お前が俺の代わりに、蒼輝を支えてやってくれ。
緑豹国の3人目の王は、お前だ。
力がなくても、俺はお前を認めてる。頼んだぞ。」
 
サンガは何も答えなかった。
聞こえたのは、アイツの泣いている声だけだった。
俺は、ヒビキと最後だというのに、何も言う気になれなかった。
心のどこかで思っていたのかもしれない。
これが最後なわけないって。
ヒビキは、死なないって。
そう・・・思いたかったのかもしれない・・・。
 
「よし、蒼輝、いってくれ。」
 
そう言ったヒビキの声に、俺は体全体にバリアーを張った。
俺の体が緑色に光り始めた。
 
「あの光は!!」
 
ジギルの声に、
 
「ほー、あれが、蒼輝の力のバリアーか。
って事は、ヒビキを捨てていくという事か。
それは、丁度いい。
思惑通りだな。」
 
ラウオの声はとても小さかった。
普通なら絶対に聞こえなかったはずだ。
だけど、俺は今、全神経を集中させていたから、聞こえたんだ。
今の・・・どういう意味だ?
ヒビキを置いていく事が丁度いい?思惑通りだと?
一体・・・どういう事だ??
俺は、必死で考えたんだ。
なんだ?このモヤモヤはなんだ?って。
俺の中で、何かのサイレンが鳴ってるんだ。
気付け!気付け!!と俺に何かを訴えてる。
なんだ?なんなんだ??
俺は必死で考えた。
考えて・・・考えて・・・考え抜いた。
 
「あっ!」
 
それに気付いた俺は、体から力を抜いた。
緑に光っていた光は、パンと小さな粒子になって消えた。
俺の行動に、もちろん、ヒビキも声をかける。
 
「どうした?力がでないのか?」
 
だけど、俺は、「ダメだ。」と言うと、ヒビキに言ったんだ。
 
「お前を置いていけない。」
 
って。その言葉に、「何を言ってるんだ。」とタメ息をついて言ったヒビキは、俺を呆れた目で見てた。
 
「決めた事だろ?
今更、弱音を吐くな。」
 
といわれるけど、「そうじゃないんだ。」と俺は否定して、気付いた事を言ったんだ。
 
「お前を置いていく事までが、ラウオの狙いなんだ。」
 
それには、「えっ?」と驚くヒビキ。
そりゃそうだよな。誰もここまで計算してると気付かないって。
だけど、俺は気付いたよ。
地獄耳のおかげでね。
 
「思い出せよ。
さっきの会話でも言ってたけど、ラウオは、お前を煙たく思っていた。
俺たちが、アイツの思惑通りに動かないのは、お前がいるからだ。
だから、アイツはお前をまず、消す事を考えた。
現に、お前が居なければ、最初の侵入の時点で、俺たちはやられていただろうし、正直、青鳥国(セイチョウコク)すらにも辿り着いてなかっただろう。
雅の事だって、お前が解き明かしたんだからな。
だから、ラウオはお前を消す事。
俺たちのアキレス腱を切る事を狙ってんだよ。
だから、お前を置いていくわけにはいかない。
アイツの思い通りに、これ以上なってたまるか!」
 
「だけど、実際どうするんだ。
もし、そうだとしても、このままだと、3人共殺される。
どうする?」
 
って、俺に聞くなよ。
そんなのわかるはずないだろ?
 
「わかんねぇーよ。」
 
とふてくされたように言った俺たちに、ラウオが話しかけてきた。
 
「気が変わったのか?
まっ、それでもいいだろう。
蒼輝にヒビキ。
お前たちを失った翠なんて、チョロイからな。
ここで、お前たちを葬(ホウム)り去り、これからの戦いを楽にさせてもらうよ。」
 
そう言ったあと、ラウオはジギルたちに指示をした。
その合図で、全員が俺たちに銃口を向けた。
 
「蒼輝。お前も、体力は限界だろ?
そりゃそうだよな?お前、何時間コイツらと戦っていたと思ってるんだ?
慣れない豹の姿で。
体が悲鳴あげてるぞ。」
 
確かに、ラウオの言う通りだ。
これで納得したよ。
俺の体力がこんなにも弱ってる理由が。
時間が速まったせいで、俺の体力も減っていったんだ。
確かに変身した状態で、何日もいたんだ。
そりゃ、へこたれるよ。
だけど、そうも言ってられない。
何とかして、このピンチを脱出しなきゃ。
何か、方法はないのか?何か!!
俺は、必死で頭をめぐらせた。
だけど、時間は待ってはくれなかった。
 
「どうするんだ、ヒビキ!!」
 
「どうするって・・・俺にだってわかんねぇーよ。」
 
そんなヒビキの弱い声が聞こえた時、ラウオの静かな声が聞こえた。
 
「撃て!」
 
その声とは対照的というべきくらいの爆音が、一斉に聞こえた。
物凄い火花と、煙が俺たちに向かって襲ってきたんだ。
全く隙間がないくらい撃ち込まれた銃弾。
俺たちに逃げ道は・・・なかった。
 



前のページ 目次 次のページ


HOME