2008/4/14


18    16章  SAVIOUR〜救世主〜Part1
更新日時:
H19年3月7日(水)
俺たちは、どうしようもない状態に陥っていた。
まさに、大ピンチという言葉がピッタリな、この状況。
ヒビキも、蒼輝も救いたいのに、俺は情けないくらい無力だった。
 
「どうするんだ、ヒビキ!!」
 
と答えを期待した蒼輝の言葉も、
 
「どうするって・・・俺にだってわかんねぇーよ。」
 
といつになく弱い答えをしたヒビキ。
そのやり取りを、蒼輝の背中に乗って、聞いていた俺は、悟った。
もう・・・どうしようもないのか・・・って。
その時、俺の思いが決定的になった。
ラウオの「撃て!」という事が響いたかと思ったら、その声と共に、物凄い赤い光が、一斉に俺たちの方にめがけて飛んできた。
目をつぶっていても、それは、手に取るようにわかるくらい、強力だった。
俺は、思ったよ。
俺たちは、死んじまった!って。
だけど、おかしいんだ。
あの無数の光が、そろそろ俺たちの体に届いてもいい頃なのに、なぜかその光は届かなかった。
衝撃も痛みも何も、俺を襲ってはこなかった。
不思議に思った俺は、利き手である右手を動かしてみた。
指も普通に動いた。
一体・・・どういう事だ?
今、起っている事の予測がつかない俺は、ユックリと瞳を開いた。
さっきまで、ヒビキの一撃で、瞳を開けることも出来なかった俺だけど、時間が猛スピードで経過してるせいで、体の痛みもなくなってきてたから、体も動かせるようになっていた。
目を開けた俺が目撃した光景は・・・当たり前の事ながら予想外の展開になってた。
 
「蒼輝・・・お前!!」
 
そうとしか・・・言えなかった。
どうして俺たちの元に、銃弾が届かなかったのか。
それは、蒼輝の緑の力が、俺たちを守ってくれていたんだ。
蒼輝は、俺を背中に乗せたままで、全神経を集中させてバリアーを作った。
そして、それを蒼輝の体から離れているヒビキにもかかるようにしたんだ。
蒼輝の体から離れているヒビキにもバリアーがかかってるという事はつまり、この部屋にバリアーを作った時と状況は一緒だ。
規模は小さいにしても・・・状況は一緒。
そして、さっきと違うのは、今回は蒼輝のたった一人の力で作ったバリアーだという事。
普通に立っているだけでも、フラフラだった蒼輝が、こんな事をするなんて、自殺行為だとバカな俺でもわかった。
 
「お前、何やってんだよ!
死ぬ気か?いいから、さっさとバリアーを解け!」
 
蒼輝の耳元で後ろから怒鳴った俺だけど、蒼輝は、「黙れ。」と言いながらバリアーを張る事をやめなかった。
蒼輝の覚悟にヒビキも、心が動かされたのか、
 
「今、俺の力も送るから。」
 
とヒビキは口にすると、体を紫紺色に輝かせた。
だけど、ヒビキが力を蒼輝のバリアーにぶつける前に、「やめろ。」と言う声が、ヒビキの行動を止めた。
輝いていたヒビキの体が、さっきの蒼輝の時みたいに、パンと光が弾けて、もとの状態に戻った。
 
「蒼輝?」
 
と聞いたヒビキに、蒼輝は苦しそうになりながらも口を開いた。
 
「こんなバリアー・・・そう長くは持たない。
これは、つなぎだ。
そんなものに、お前の力まで注ぐ必要はない・・・。」
 
そう言ったあと、蒼輝は体を少し傾斜させると、俺を床に滑り落とした。
そして、正面に向いていた顔を、ほんの少しだけ俺たちの方に向けた。
 
「そんな暇があったら、とっとと考えろよ。
サンガは・・・ここの構造をよく知ってんだろが。
なら、この部屋から逃げられる道を・・・探し出せ。
そして・・・ヒビキ。
お前は、それを聞いて不可能を可能にしろ!
俺たちはいつだって、そうやって来たはずだろ?
それぞれの分担を・・・こういう時こそこなす。
俺は・・・こんな所でやられるわけにはいかねぇーんだ。
何が何でも、生きて帰らなきゃならないんでね。」
 
蒼輝はそう言ったあと、すごく穏やかな笑いをして、こう言った。
 
「翠に泣かれるから・・・。」
 
何を強がってんだよ。
今、俺たちの中で一番命を縮めてるの、お前だろ!
なのに、一番余裕でいて、一番落ち着いてるのがお前なんだよな・・・。
なー、蒼輝!
俺、初めてお前のすごさがわかった気がしたよ。
お前の王としての強さを、俺は見た気がしたんだ・・・。
 
「蒼輝の言う通りだな・・・。」
 
蒼輝の言葉に、いつものヒビキらしさを取り戻したヒビキは、まず大きく深呼吸をすると乱れた自分とさよならした。
 
「よし。サンガ。
蒼輝が言ってたように、ここの事をよく知っているのは、お前だ。
この部屋から出る方法はないのか?」
 
って言われてもさ・・・。
 
「そんなもの無いに決まってるだろ!
出入り口は目の前の扉しかない。
だから、ラウオがそこを固めてるんだろ?」
 
だけど、「んな事はわかってんだよ!」と怒鳴った蒼輝は、今度は俺をにらんだ。
 
「別ルートを探し出せ!
何かあんだろ?何か!!」
 
って言われてもなー。
 
「無いもんはないんだよ!
俺にばっかり要求してくんなよ!」
 
ついつい、いつもの調子で蒼輝の売り言葉を買っちゃった俺だけど、次の瞬間後悔したんだ。
だって、いつもなら、さらに俺を怒らすような事を言ってくる蒼輝だったのに、「悪かったな。」とそんな言葉を言ったかと思ったら、俺から目を離してさらにこう言った。
 
「こんな事にお前を巻き込んで・・・ホントに悪かった。」
 
って・・・。
あの強気で礼儀がない俺さまヤローの蒼輝が俺に・・・そう言ったんだ。
それを聞いて、俺気付かされた。
俺が蒼輝たちの仲間になったのは、誰でもない俺が選んだ事だって。
受け入れられるはずもない俺を、受け入れてくれた。
ヒビキやトーワじゃなくて、蒼輝が。
アイツが俺を一番に、受け入れてくれたんだよな。
そして、アイツはいつだって、俺の命を守ってくれてた。
言い方はムカつくし、挑戦的だけど、だけど俺はいつも感じてた。
蒼輝の優しさを。
だから、俺は、翠を蒼輝から奪おう何て思わなかったんだ。
蒼輝には、絶対に勝てないと思ったから。
そして、今もそうだ。
俺なんて、捨てていけば、蒼輝はもちろんの事ながら、ヒビキだって多少の怪我はするかもしれないけど、逃げられたはずなんだ。
俺がいるから、二人まで危険な目にあってるのに。
なのに、蒼輝は、俺を責めるんじゃなくて、俺に謝るのか?
俺なんかに・・・。
そう思ったらさ、目の前にいる2匹の豹を殺したくないと思ったんだ。
何としても、いかせたいって。
心を入れ替えた俺は、必死で考えたんだ。
逃げる“道”なんてあるわけがない。
ここは地下だ。
窓も無ければ、この部屋のどこにも扉なんてない。
だけど・・・俺はある事に気付いたんだ。
地下室で窓だってないこの空間なのに、ひんやりとした空気が立ち込めてるのはなんだ?ってな。
それに気付いた俺は、さっきまで使っていたパソコンに向かうと、ある物を調べる為、必死でキーを打った。
 
「サンガ・・・どうした?」
 
蒼輝の言葉にも答えられないくらい俺は必死だった。
早く調べないと、蒼輝の体がもたないから。
とにかく頭をフル回転させて、俺は必死で知りたい情報をかき集めた。
 
 
 
 
 
 
「サンガが、何かに気付いたみたいだ。
それより蒼輝、お前、自分が持ってる雫はもうないか?」
 
突然のヒビキの言葉に俺は、「ああ。ない。」と首を振る。
それに対してヒビキは、
 
「ホント・・・トーワのを貰っておくんだった。」
 
とまたもや悔しそうに言った。
ヒビキらしくない顔と言葉に俺は、思わず笑ってしまった。
 
「お前らしくない事いうなよ。
いつまでも後悔するな。」
 
と言ってはみるけど、
 
「俺がミスするなんて、珍しいからな。
悔やまれてしかたない。」
 
それは・・・嫌味か?
いっつも、ミスばっかしてる俺への嫌味か!!
って事で、腹が立った俺は、もう・・・無視した。
黙った俺の目の前に、サンガから預かっていた玉を見せたヒビキ。
意図がわからない俺は、「何?」と聞いた。
 
「俺もさっき飲んだりしたから、あと5滴しかないけど・・・。
作戦が決まれば、これを全て飲め。
少しくらいなら走る事もできるくらいに、体力は回復するだろう。
今、飲みたいだろうが・・・今は我慢してくれ。」
 
それに対して俺は、ただ笑って答えた。
正直もう、意識も失いそうだったんだよ。
体中の力が吸い取られる感じで、あと持って1分ってとこか?
予想はしてたけど、これは体にキツイ。
だけど、気のせいかもしれないけど、さっきよりは今の方がラクなんだ。
しんどさや苦しさが、何十分の一になったみたいにラクだった。
時間が急速に過ぎてるはずなのに・・・なぜ??
そう俺が思った時だった。
 
「蒼輝、ヒビキ!道がみつかったぞ!!」
 
サンガはそう言いながら、俺たちの元に戻って来た。
 
「道って、どこだ?」
 
早速聞いたヒビキに、サンガは天井付近にある壁の一角を指さした。
 
「あそこに、小さな柵があるだろ?
あの先には、小さな通路があるんだ。
あの柵をブチ破り、中を渡ろう!」
 
「通路って・・・もとは何なんだ?
また水が通ってた。とか言わないよな?」
 
と笑いながら言った俺に、「なっ、わけないだろ!」と呆れたサンガは、俺からヒビキへと視線を替えやがった!!
 
「あそこは、通気孔(ツウキコウ)。
つまり、簡単にいうと、空気を換気する道って事だ。
あの高さにあの小ささは、普通の人間には無理だけど、おまえたち猫科の豹にはチョロイだろ?
ジャンプ力はあるし、体も人間よりは小さいし。
だけど、ただ1つ問題がある。」
 
「問題?」
 
ヒビキの言葉に、サンガは「ああ。」と答えると、さっき調べていた事を報告した。
 
「先がわからないんだ。」
 
「先?」
 
「そう。予想だけど、この通気孔(ツウキコウ)が、どれくらいの長さかだいたい見当はついた。
ヒビキのスピードで計算しても、全速力で走れば、先端までは5分もかからずに辿り着けるはずだ。
だけど、問題は、“先”。
つまり、その先端は、一体どこにつながっているかが、いくら調べてもわからないんだ。
1階になのか、それとも城の最上階になのか・・・。
城の見取り図を見てもわからない。
それだけが、いくら調べてもわからないんだ。」
 
だけど、ヒビキは、「よく、気付いてくれたな。」と笑顔でいうと、サンガの髪をなでた。
 
「蒼輝、聞いてたよな?
早く雫を飲め。
あの通路から脱出するぞ。」
 
それに対して俺も、「ああ。」と答えた。
迷わず、サンガの見つけた道を歩もうとする俺たちに、止めたのはサンガだった。
 
「まっ、待てよ!
そんな簡単に決断するなよ。
どこに着くかもわかんねぇーんだぞ!
それなのに、本当に行くのかよ。」
 
と焦りながら必死で俺たちに訴えるサンガだけど、ヒビキは「行くよ。」と言った。
 
「ここにいたら、俺たちは間違いなく死ぬ。
なら、1%でも助かる道の方に賭けてみたい。
というか、賭けるしかないだろ?
どんな場所でも、今のこの状況よりはマシなはずだ。
地下にまた舞い戻って来る事は、たぶんないと思うから。
地表に出れたら、窓やドアがある。
そこから飛び降りるとか、何とでも逃げ道はあるさ。
とりあえず、今はこの土の中から出る事が、先決だ!」
 
そう言ったヒビキは、ポケットから、透明の玉を出した。
 
「玉?ヒビキも持っていたのか?」
 
と言ったサンガに、
 
「ヒビキはいつも1つは持ってる。
というか、ランに持たされてんだよな。」
 
と答えた俺は、そのあと、ヒビキを見た。
 
「それを出したってことは、“あれ”をやるのか?」
 
それに対して、ヒビキは、
 
「ああ。やらなきゃ、サンガはあの中に入れないだろ?」
 
と言う。
「だな。」と俺は、納得しながら、さっきヒビキに渡されていた雫を飲んだ。
だけど、サンガはもちろんの事ながら、まるっきり意味がわからない。
って事で、もちろんこの言葉!
 
「何の・・・話だ?」
 
きっとよからぬ事だと、鈍感なサンガでも感じたんだろうな。
だってヒビキに迫るサンガの顔!
笑えるくらい引きつってたから・・・。
だけど、ヒビキはというと、サンガに答える代わりに、サンガの目の前に行くと、玉を彼の前に見せた。
 
「お前の体をこの中に吸収させる。」
 
「えっ?吸収?えぇー!!なんだそりゃぁー!!」
 
俺だってね、思ってたよ。
突然そんな事言われて、「わかった。」って言うやつはいねぇーってさ・・・。
だけど、サンガみたいに大げさなリアクションするヤツも・・・初めて見たかも。
サンガのバカみたいな顔に、思わず笑ってしまった俺。
とはいえ、俺って、今逃げる為に雫を飲んだわけで、バリアーで体力を使っちゃ意味がない!と気付いた。
ヤバイ、ヤバイ。
って事で俺は、バリアーの領域をもっと狭くする為に、少し離れていたサンガとヒビキに近付いた。
 
「水をこの玉に閉じ込めて持ち運びする原理と一緒だ。
お前をこの中にそのまま閉じ込める。
ただ、それには、1つ条件があるんだ。
人の命を玉に入れてられるのは、5分だけ。
1秒でも過ぎてしまうと、玉が割れてしまい、その人物も蒸発してしまう。
つまり、姿形(スガタカタチ)もなくなり、死んでしまうって事。
ちょうど、さっきのサンガの話だったら、その通気孔(ツウキコウ)というやつの先端に辿り着くのが約5分なんだろ?
ギリギリ間に合うな。」
 
だけど、サンガは、「ホント・・・ギリギリじゃねぇーかよ。」と焦った声を上げるが、
 
「玉に入らないと、サンガはあの中には入れない。
どうする?玉にイチカバチカ入るか、それともここで、一人ラウオの餌食になるか・・・。」
 
あくまで冷静なヒビキに、
 
「そんな、わかりきった事いうなよ・・・。」
 
と情けない声を上げたサンガは、ヒビキに降参の笑いをした。
 
「ヒビキは俺を信じてくれた。
なら、俺もお前を信じるよ。
俺の命・・・お前らに預ける。」
 
サンガの言葉に、「よし。」と言ったヒビキは、すぐに玉に念じた。
サンガはあっというまに、ヒビキの持っている玉に吸い込まれ、消えた。
 
「サンガ!そこから話は出来るから。
何かあったら話せばいい。
お前の玉は俺が持ってるから。」
 
玉に向かってそう言ったヒビキに、
 
「助かるよ。間違っても蒼輝に持たさないでくれよ。
わざとアイツ、踏みそうだから。」
 
って・・・そりゃないだろ?
 
「テッメー!そんなに望んでんなら、踏んでやろうか!!」
 
と玉に向かって叫ぶけど、俺の頭はまたもやヒビキに叩かれた。
 
「バカな事言ってねぇーで、とっととずらかるぞ!
蒼輝、お前が先に行ったら、俺があいつらの銃弾を受けてしまう。
悪いが、先に行かせてもらうからな。
俺が通気孔(ツウキコウ)に入り込んだら、お前もすぐに登って来い。
いいな。ラウオたちとやり合おうとか、バカな事考えるなよ。」
 
いつになく心配そうな顔で言ってくれちゃうけど・・・俺は、「安心しろよ。」と笑顔で答えてた。
 
「言っただろ?
俺は、生きて帰らなきゃなんねぇーって。
翠のためにもこれ以上、命を削りたくないんでね。
ちゃんと、お前についていくよ。
ラウオとの戦いは、次回にする。
雅も翠も連れてきてやらねぇーと。
みんなで、ラウオを倒さねぇーと意味ねぇーだろ。」
 
と言った俺に、
 
「トーワを忘れたら、アイツ泣くぞ!!」
 
ってサンガの声がして。
 
「トーワ?そんなヤツいたか?」
 
ととぼけた俺に、
 
「帰ったら、トーワに報告だな。
お前、トーワに4日は泣きつかれるぞ。」
 
とヒビキは嬉しそうに笑ってた。
久しぶりにヒビキの笑顔を、見た気がした。
俺が無理しないと、信じてくれたんだろうな。
俺は今まで、命を平気で無駄にしてたから。
その度に、俺はヒビキに迷惑や心配をかけていたんだと、この時感じたんだ。
 
「ありがとな・・・。」
 
気付けば自然と俺はそう言ってた。
「ん?」と聞いてきたヒビキに、「なーんでもねぇー。」とごまかした俺は、
 
「ほら、さっさと行けよ。」
 
と言って、ヒビキを蹴った。
「じゃ、いくわ。」と笑いながらいったヒビキは、壁を器用に蹴ってどんどん高い天井に向かって登っていくと、軽々と通気孔(ツウキコウ)に前足をひっかけた。
そして、顔を使って、柵みたいなのを取り除くと、それを下に投げ落とした。
ヒビキの体が、完全に消えた。
それを見届けた俺は、相変わらず目の前が真っ赤に燃えている光を見ながら言った。
 
「またな。ラウオ。」
 
そして、俺もヒビキのあとを追い、全速力で壁を登ると、すばやく穴の中に入り込み、真っ暗な中をひたすら進んだ。
俺のバリアーで、跳ね返していた銃弾が、部屋の壁に容赦なくめり込んだ。
それは、俺のバリアーが解けた事を表していた。
だけど、そこには、ジギルたちが期待していたはずの光景はなかった。
蜂の巣状態で弾を受けているはずの俺たちの姿は、こつぜんと消えていた。
 
「し・・・しまった!!
通気孔(ツウキコウ)から逃げられた!!」
 
俺たちが逃げ出した事を悟ったトロイ。
だけど、一人アタフタしているトロイの横で、ジギルは冷静に指示をあおぐ。
 
「ラウオさま・・・いかがいたしますか?」
 
だけど、ラウオは余裕の笑みを浮かべる。
 
「ラウオ・・・さま?」
 
たくさんの兵士がそう口にする中、ラウオは「丁度良かった。」と口にすると、体をくるっと後ろに向けた。
 
「最上階に向かうぞ。」
 
ラウオの声に、「えっ?」と全員が驚いた。
 
「ラウオさま、一体?」
 
ジギルの声に、ラウオは彼の方を見る。
 
「通気孔(ツウキコウ)の先は、最上階だ。
別名・・・天国に近い場所。」
 
「天国に近い・・・場所ですか?」
 
ジギルの言葉に、ラウオは冷たく笑う。
 
「ここで、俺たちに簡単に殺されておけばよかったものを、わざわざ自ら“過酷な場所”を選ぶとは・・・。
やつらは俺たちが手を下さなくても死ぬ。
だが、見届けておくのもいいだろう。いくぞ。」
 
ラウオがそんな事を言いながら、部下を先回りさせていたなんて、もちろん俺たちは知らなかった。
ラウオが言っていた“過酷な場所”。
そして、“天国に近い場所”って意味・・・。
それは、辿り着いた俺たちに、こう思わせた場所だったんだ。
 
「これ・・・どうすんだよ。」
 
5分も経たないうちに無事到着した。
したんだけど・・・俺は、ついていきなりそういった。
そして、それ以上の言葉なんて・・・出てこなかった。
玉から無事出たサンガも、今俺たちがいる場所を見て、まず、
 
「ひょぇー!!」
 
と声を上げた。
俺たちが辿り着いた場所は、とんでもない場所だったんだ。
WONDER LANDの城の最上階。
そして、周りは・・・海。
そう。ここは、WONDER LANDの一番東に位置する場所で、見渡す限り海、海、海・・・。
逃げ道なんて・・・なかった。
 
「この高さから海に落ちても・・・どれだけ泳げばいいんだ?」
 
と言いながらサンガは、そーっと下を覗いて身震いをした。
城の最上階ともなれば、高さも半端じゃない。
それに、ここは何もない所だから、辺りには突風が吹いている。
その風に飛ばされそうになるのを堪えるだけでも、体力を消耗させてしまう。
 
「おい。これのどこが、さっきよりもマシなんだ?
こんな最果てに来ちまって、どうすんだよ!!」
 
サンガにいたい所を、つかれたヒビキはというと・・・。
 
「なら、お前は、戻れば?
今なら、あいつらももう、居ないかもしれないぞ。」
 
といつになく、冷たいコメント。
 
「怒るなよ・・・。」
 
サンガは情けない声をあげるけど、ヒビキは何も答えなかった。
俺にはわかってた。
誰よりも、ヒビキが後悔してるって事。
こんな場所に俺たちを導いてしまった事を、誰よりも後悔して、誰よりも自分を責めてるんだって。
アイツの性格は、サンガよりはよく知ってるつもりだから。
ヒビキはシッカリして見えて、弱いところがあるんだ。
なんでも自分のせいにしちまう。
結局、アイツの案に賛成したのは俺たち自身の意志なわけで、誰もヒビキ一人に責任を押し付けるつもりもないんだ。
だけど、ヒビキは、自分のせいだと責める。
その辺のヒビキのまじめさが、俺はたまに心配になる。
だから、俺はヒビキがもっともっと自分を責める前に、ヒビキを助ける事にしたんだ。
俺は、ヒビキの側にいくと、ヒビキの背中をしっぽで軽く叩いた。
 
「ヒビキ。サンガのバカは、無視しろ。
それより、どうする?
ここから、海に飛び込むしか方法はないけど、サンガをまた玉に戻す事はできねぇーぞ。」
 
背中に乗せたまま、海に飛び込むのは危険だ。
俺たちだって、泳ぐ行為に慣れてるわけじゃない。
泳ぐだけでも、大変なのに、さらに、背中に重いものをくっつけて泳ぐなんて、いえば自殺行為に近い。
それに第一、この高さを落ちるんだ。
絶対に、浮力や水に接した勢いや水圧で、サンガは俺たちの背中から離れてしまうに決まってる。
だから、一番いいのは、玉の中に閉じ込めるのがいいのかもしれない。
だけど、タイムリミットは5分だ。
どう考えても、5分以内に、大陸に辿り着く事は不可能だ。
それに何より、もう、玉はたぶんないだろう。
さっきの玉は、サンガを出した時点で、蒸発してしまったからな。
万事休すか・・・。
俺のその言葉をまるで感じたかのように、ヒビキは俺をみつめると言った。
 
「ここまでかもな・・・。」
 
って。
その時、今聞きたくない声が、俺たちの耳から入ってきた。
 
「やっと、おまえも、降参か?
ヒビキが降参すると、どうしてだろうな。
こんなにも、ホッとするのは・・・。」
 
俺たちが来た方角ではない、別の方角から声がした。
この声!!
一度聞いたら忘れない。
だって、この声は、俺たちが倒さなきゃいけないやつの声だったから。
 
「早い到着だな。
まるで、俺たちがここへ来る事がわかっていたみたいに・・・。」
 
ヒビキの言葉に、ラウオは、「ああ。わかってたさ。」と笑いながらいうと、兵士に銃を構えさせるため、右手をスッとあげた。
 
「今度こそ、お前たちに逃げ道はない。
ここで、降参するなら、ヒビキ!
お前だけは助けてやってもいいぞ。
お前は、頭がキレる。
俺の右腕となれ。」
 
ラウオの申し出に、ヒビキは、「ふん。」と鼻で笑うと、ラウオを呆れた瞳で見た。
 
「そんな申し出、俺がイエスというとでも思っているのか?
お前の仲間になるくらいなら、死んだ方がマシだ。
殺せよ。俺も、蒼輝ももう、戦う力はない。
その銃で俺たちを、ひとおもいに葬り去ればいい。」
 
そう言ったヒビキは、ジリジリと下がってくると、俺とサンガのすぐ側まで来た。
そして、顔はラウオを見たまま、俺に話しかけてきた。
 
「蒼輝。お前、気付いたか?」
 
「へっ?」
 
と言った俺に、ヒビキは、「ホント、お前は鈍感だな。」とタメ息交じりに言うと、顎で西の方角を指した。
 
「向こうの方から、しないか?」
 
「しないか。って・・・何が?」
 
俺は、意味がわからなくて、口も開けられなかった。
そして、代わりに言ったのは、サンガだった。
興味津々で聞いたサンガにヒビキは、俺たちの方に顔を向けると、ニッコリ笑ってこう言ったんだ。
 
「豹の匂いがする。」
 
って。「えっ?」と俺とサンガは驚いた。
だって、西の方角からっていっても、そこは海だぞ。
来ようにも来る手段がねぇーんだ。
 
「お前、何を血迷った事を・・・。」
 
と口にした俺だけど、その続きを言おうとした口は、止まった。
 
「えっ?」
 
俺はそう言いながら、ヒビキが言った西の方角を見た。
神経を集中させる。
 
「なんで・・・。」
 
自分が今感じている事実が信じられなくて俺は、そう口にしてた。
確かに、ヒビキのいった通り、西の方角から、とてつもないスピードで豹が近付いてきてる。
なんで、そんな事がわかるかって?
それは、俺の血が教えてくれるんだ。
俺たち、豹の血は、共鳴し合える。
だから、心での会話ができなくても、相手に会いたいと願えば、血のにおいを探り、その地へ案内してくれるんだ。
その原理を利用してWONDER LANDの連中が作ったのが、探知機ってわけ。
確かに、西の方角から、豹の血が近付いてきてる。
それも、これって・・・。
俺は、さらに神経を集中させた。
集中させて確信した。
1つじゃないって事を。
 
「2つ・・・2つ近付いてきてないか?」
 
と言った俺に、ヒビキは笑うと、
 
「トーワと翠ちゃんだろう。」
 
と言った。
 
「けど、翠が戻ってくるには、まだ時間があるんだろう?
まだ、あと10分くらいは戻ってこれないはず。
どうして?」
 
サンガの言葉に俺も、続けた。
 
「それに、だいたい、どうやって、海からこっちへ来てるんだ?
泳いでるにしては、スピードが出過ぎてるしな・・・。」
 
俺たちがヒビキに迫ったその時、ラウオのいる場所が急に騒々しくなった。
数名の部下が、もうダッシュで、ラウオの場所へ何かを報告にきたようだった。
 
「ラウオさまっ!大変、大変でございます!!」
 
息を切らせてその場で倒れこむ兵士に、「何だ?」と迷惑そうにいったラウオに、もう一人の兵士が報告した。
 
「化け物が・・・化け物が現れました!!」
 
「化け物だと?」
 
ラウオがそう言った時だった。
耳が張り裂けんばかりの巨大な声。
そして、聞いたこともないような甲高い声。
その声は、何度も何度も聞こえた。
まるで、化け物の鳴き声のように思えた。
その声で、地響きがするくらいの・・・とんでもない声だった。
 
「な、なんだ!!この声は!」
 
と取り乱すジギルに、
 
「うわっ!足元が揺れるぅー!!」
 
と騒ぎながら、側に居る兵士に抱きつくトロイ。
俺たちも、この揺れとこの声に、余計にバランスを崩す。
特に、人間であるサンガは、海に向かって落ちそうになり、俺がとっさにサンガの服をかんで、阻止した。
 
「背中に乗ってろ。」
 
俺は、強引にサンガを俺の背中に乗せる。
 
「悪い・・・。」
 
と謝ったサンガに俺は、「気にするな。」と声をかけたあと、ヒビキを見た。
ヒビキに聞きたかったんだ。
これは一体、どうなってるんだ?
あの声は、なんなんだ?
化け物ってなんの事だ?って。
だけど、ヒビキの顔を見たら、聞きたい言葉なんて、宇宙の果てまで飛んで行ってしまった。
そして、代わりに出た言葉は、これだった。
 
「お前っ!何、笑ってんだよ!!」
 
そうなんだ。ヒビキのヤロー。
このピンチの時だって言うのに、「ククク。」と楽しそうに笑ってんだよ。
その笑いが、これまた、ムカツク笑いでさ。
 
「おい、ヒビキ!!」
 
と言った俺だけど、ヒビキは俺には答えずに、ラウオを見た。
 
「どうやら、お前の思い通りにはいかなかったみたいだな。」
 
それに対して、ラウオは悔しそうに唇を噛んでた。
ラウオとヒビキで会話を成立させるなよ!
ってことで俺は、ヒビキの体を後ろ足で軽く蹴った。
 
「俺たちにも話せよ!わかわかんねぇー。」
 
俺の背中の上で、サンガもウンウンと頷いていた。
だけど、ヒビキは、「論より証拠だな。」と笑うと、西の方角を見た。
 
「見ろよ!俺たちの救世主の登場だ。」
 
「救世主?」
 
そう言いながら、俺とサンガも西の方角を見た。
現れたのは、海からじゃなかった。
空から・・・真っ青な空から現れたんだ。
何かが向かってきてると思った瞬間、その物体はもう、俺たちの真上の上空に浮かんでいた。
 
「なんだ・・・このバカデッカイ鳥は・・・。」
 
サンガは上を見上げながら、ポカーンとした口でそう言った。
俺たちの頭上には、化け物と言ってもおかしくないくらいの大きな鳥が居た。
黄土(オウド)色の大きな口ばしに、大人10人はゆうに乗れそうな体。
はばたいている翼は、この城を吹き飛ばす威力はありそうなほど、大きくて立派な羽だった。
そして、気になる鳥の色は・・・目が覚めるような鮮やかな青だった。
所々に白やグレー色がまざり、それは美しい鳥だった。
俺もその鳥にくぎづけだった。
首を上げて鳥を見上げていた俺の瞳に、その鳥の瞳が重なった。
ここからでもハッキリと見えたんだ。
その鳥の瞳の色が。
俺はそれを見た瞬間・・・ハッとした。
体は青。瞳は心が和むようなオレンジ色の瞳。
それでいて、化け物みたいな大きな鳥ときたら・・・。
俺はヒビキに目をやった。
何かを言おうとした俺の目に、ヒビキはうなずくと優しく笑った。
 
「なぜ・・・なぜ、ミューラが復活してるんだっ!!
翠がこちらの世界に戻ってくるには、まだ、10分はあるはず。
それに、緑の力がないと、ミューラの封印は解けないはず!!
翠の力は、蒼輝に与えているのになぜ・・・どうして!!」
 
そう叫び取り乱したラウオに、ヒビキは落ち着いた声でいった。
 
「人間の気持ちなんて、ものさしで測れないんだよ。
特に、翠ちゃんの想いはね・・・。
俺たちは、お前の思い通りにはならない。
これで、ミューラは復活した。
俺たちをうまく転がすつもりが、裏目に出たな。」
 
そう言ったヒビキは俺たちを見る。
 
「今、ランから連絡が来た。
ミューラに向かって高く飛べって。
そしたら、ミューラが俺たちを受け止めてくれるらしい。
ほら、いくぞ。」
 
っていきなり言われても驚くよな。
「おい、待てよ!」と止めた俺は、ヒビキに近付いた。
 
「ランってどういう事だよ??
それに、だいたい、お前、心での会話ができないって言っていただろ?
それが、どうして?」
 
「それは、翠ちゃんが向こうの世界にいる間だけだ。
彼女がこっちに戻ってきて、時間が正常に動き出したから、会話ができるになったんだろう。
つまり、もっと早くに会話は出来ていたんだろうけど、俺たちは翠ちゃんが向こうの世界にいるものとばかり思っていたし、俺も逃げる事で精一杯で気にかけてなくてさ。
今、ミューラが上に来て、集中したらランの声が聞こえた。
とはいえ、実際、ランが上にいるのかは、わからないけどな・・・。」
 
そう言って笑ったヒビキに、「ふざけんな。」と聞こえた言葉。
俺たちは、ユックリとその声がするほうに顔を向けた。
 
「神の鳥といえども、生(セイ)を受けた生身の鳥だ。
銃撃をくらえばひとたまりもないだろう。
お前らも含めて、ミューラごと葬り去ってやる。
お前たちを生かして返すわけないだろ。やれ!!」
 
ラウオの狂ったその声は、ジギルやトロイを始め、兵士たち全員のやる気をマックスにした。
俺たちに構えられた銃。
今にもそこからまた、赤い花火が打ち上げられそうな緊張感が漂った。
 
「蒼輝!高く飛べよ。」
 
と叫ばれた俺は、ヒビキに待ったをかけた。
 
「ミューラもターゲットにされてる。
俺たちの事を気にせずに、もっと高く飛ばせた方がいいんじゃないのか?
あの背中には翠も居る。
あいつらにも危険が及ぶ・・・。」
 
「うるさい!今は雅の言葉を信じるしかない。
とにかく飛べ!いくぞ!!」
 
って・・・俺の途中の会話をかき消すなよ・・・。
少しふてくされた俺だけど、
 
「ここは、みんなを信じよう。なー、蒼輝!」
 
と頭の上からサンガにも言われたら、従うしかねぇーだろ。
 
「わかった。どうなっても知らねぇーぞ。」
 
と悪態を付いた俺は、イチカバチカで、それにかけた。
ほぼ、ヒビキと同時くらいに、地を蹴った。
もちろん、物凄く空高くに飛んだよ。
だけど、ミューラにまでは全然届かない。
当たり前の事ながらミューラが俺たちの方に飛んできてくれて、俺たちを背中にうまく着地させてくれた。
着いてすぐの俺に来た、新たな衝撃。
それは、懐かしい香りと懐かしい暖かさだった。
 
「蒼輝・・・無事でよかった。」
 
俺の首に両腕をからませて抱きついてきた翠に、俺は抱きしめてやりたかったけど、豹の姿のためそれは断念して、顔を翠の頬にすりよせた。
翠は獣の俺に恐がることもなく、嬉しそうに自分からも俺の顔に頬をくっつけてきた。
 
「おいっ!まだ、安らいでる暇はねぇーぞ。」
 
俺の背中から降りたサンガは、厳しい声でそう言った。
サンガの言葉に、俺も翠から顔を離して正面を見た。
確かに。目の前にはまだ、戦場が広がっていた。
ラウオたちから放たれた赤い無数の光が、俺たちに向かってぶっ放されていた。
今更、高く飛んでも弾に追いつかれてしまう。
かといって、方角を変えようにも、かなりの範囲で放たれているため、もう・・・逃げようがなかった。
 
「雅・・・何とかなるか?」
 
いつの間にかミューラの頭の位置まで移動していたヒビキは、ミューラの耳元に向かってそう言った。
少しミューラの顔が、こちらに振り返った。
 
「ええ。任せてください。
ただ、みなさんにお願いです。
強い振動が起こります。
振り落とされないように、僕の背中にシッカリと捕まっていてください。」
 
そう言ったあと雅は、顔を正面に向けると、両方の翼を目の前にクロスさせた。
しばらくしてその翼は青白い光を放ち、数秒後その翼に何かがたくさん当たる音が止めどなく聞こえた。
バチバチと何かが、羽根にぶつかる音。
そして、今度は、バシャバシャバシャと何かが、水の中に落ちる音。
何が起こっているのかわからなかった。
俺は、ヒビキの指示で、豹の姿から、人型に姿を戻した。
そして、側で震えている翠を、包み込むように強く抱きしめていた。
翼は、俺たちを銃弾から守る為に前にある。
なら、どうやって、ミューラは空に浮いてるんだ?
不思議に思った俺は、少し顔を動かして状況を見てみた。
不思議に思ったのは俺だけじゃなくて、この男も気付いていたようで、そいつと同じ場所で俺たちの目は重なった。
 
「しっぽの動きだけで、浮いてるのか?」
 
そう。ミューラの大きなしっぽが、ゆらゆらと大きく揺らいでいた。
だけど、雅がいったように、さっきの羽で浮いていた時よりも、揺れは大きい。
つまり、かなりの負担がかかっている事は確かなようだった。
 
「ヒビキ・・・。」
 
と口にした俺に、
 
「まずいな。このままでは、雅の体がもたない。」
 
と顔をしかめたヒビキ。
確かに、ラウオたちの攻めは途切れない。
まるで、ミューラの体力を消耗させる為に、必死で途切る事無く銃弾をぶっ放してるみたいだったから。
こうなったら、情けないけど、コイツに頼るしかすべはない。
いつもいつも悪いと思いつつ、俺はまたもや、コイツに頼ってしまう。
 
「悪い・・・ヒビキ。何とかしてくれ。」
 
そう言って頭を下げた俺に、「そうだな。」と言ったヒビキは、少し考えたあと、藍瑠(アイル)さんを見た。
 
「藍瑠(アイル)さん、ミューラごと、どこかへ移動できませんか?
こんな多人数を一斉に。って言うのは、無理なのは承知です。
でも、それしか、雅を救うすべはないんです。
ほんの100メートル先でも、かまいません。
この銃の的にならない場所に、俺たちを移動させてくれませんか?
そこまでいけば、ミューラにトーワが持っている雫を飲ませて、復活させます。
そうすれば、ミューラがあとは俺たちを運んでくれますから。
今だけ。一瞬だけ、ミューラが翼をつかわないでいい安全な場所へ移動させて下さい。」
 
その言葉に、藍瑠(アイル)さんは、「ええ。わかりました。」とすぐに返事をした。
 
「藍瑠(アイル)さん・・・本当に大丈夫なの?」
 
あまりにあっさり返事をした藍瑠(アイル)さんを心配した翠は、俺の腕から離れると藍瑠(アイル)さんの側にいった。
彼女の腕に触れて聞く翠に、藍瑠(アイル)さんは優しく微笑んだ。
 
「雅が助かるためなら、不可能も可能にしてみせます。
例えこの命が削られようとも・・・。」
 
そう言った藍瑠(アイル)さんは、目を閉じると、全神経を集中させた。
それを見たヒビキは、トーワの首から玉を取りながら、翠にこう言った。
 
「翠ちゃんも雫残ってるだろ?
瞬間移動を終えたら、すぐに藍瑠(アイル)さんに雫を飲ませて。
惜しまずに全てを・・・いいね。」
 
それがどういう事を意味するか、とっさに翠には伝わったんだろうな。
 
「うん、わかった。」
 
とシッカリ頷いた翠は、藍瑠(アイル)さんから目を離さなかった。
それからホンの一瞬の出来事だった。
強い光に包まれたと思ったら、そこは何もない場所だった。
あたりは海。
そして、少し遠くに建物が見えた。
きっとあれは、WONDER LANDだろう。
 
「ここは?」
 
と言ったサンガに、
 
「さぁーな。けど、ジギルたちがいないのは確かだ。」
 
と答えたヒビキは、そう言いながらミューラに残っていた雫を全て飲ませた。
元気になったミューラは、大きな翼を悠々と羽ばたかせた。
俺たちは、ミューラに連れられるまま海を渡った。
 
「翠。藍瑠(アイル)さんは?」
 
俺の言葉に、「うん。大丈夫。」と答えた翠だったけど、見たら藍瑠(アイル)さんは横になって眠っていた。
 
「大丈夫なのか?」
 
心配した俺にサンガは、
 
「翠ちゃんがすぐに雫を飲ませたからね。
命が消える前でギリギリ間に合ったよ。
しなきゃ助からなかったとはいえ、ホントムチャするよな・・・。」
 
と呆れながらも、医師の知識があるサンガは、藍瑠(アイル)さんを看病してくれて、俺もヒビキも目を合わせてお互いがホットしたんだ。
 
「雅。今、俺たちがいる場所が、わかるか?」
 
「だいたいは・・・。
きっとここは大陸より、かなりずれてます。
緑豹国に戻るには、まだ少し時間がかかります。
すいません。俺と藍瑠(アイル)さまとが、雫を飲んでしまって。
蒼輝さんやヒビキさんも、ダメージを与えられて飲みたい所なのに・・・。」
 
と申し訳なさそうに言った雅だったけど、「気にするな。」と言いながら、人型に戻ったヒビキはミューラの首を優しくなでた。
 
「俺たちは、人型に戻れば豹でいる時の10分の1の体力の消耗でいける。
だから、気にする事はない。
緑豹国に戻れば、癒しの薬草もあるしな。
それまでにもし、敵が現れたら、お前とトーワに守ってもらうよ。」
 
と笑ったヒビキに、「もちろん。お守りします。」とまじめに答えた雅に対して頼りにならないのは、この人型の豹だ。
 
「えぇー!!僕が助けるのぉー!!
無理無理むぅーりぃー!!
だぁーって、ぼぉーく、豹になれないんだもぉーん!
まだ、封印されちゃってるんだからぁー!!」
 
って、その言葉を聞いて思い出した。
 
「なぁー、そういえばさ、お前らなんで、ミューラを復活させてんの?
どうやって、封印をといたんだよ!
っていうか、そもそも、なんで、翠と雅がここに戻ってきてるわけ?
お前らが戻ってくるまで、まだ15分以上はあったはずだろ?
なんでなんだ?どうやって戻って来た?」
 
俺は翠を見てそう言ったんだ。
 
「それは。」
 
と言った翠に、さらにヒビキが添えた。
 
「確かにそれも、気になる。
だけど、もっと気になるのは、“どうやって、ここに出てこられたのか”が聞きたい。」
 
「それ・・・どういう意味だ?」
 
と言った俺に、ヒビキは「お前、気付かなかったのか?」と少し驚かれたんだけど、「へっ?」とバカな顔をした俺に、「ホント、鈍感だ。」と少しタメ息をついたヒビキは、「いいか。」というと俺に話し始めた。
 
「青鳥国(セイチョウコク)でミューラの封印を解いた後、雅をミューラの姿に変身させるには、2つの場所しかないんだ。」
 
「2つ?」
 
「ああ。」と答えたヒビキは、その場所を口にした。
 
「1つは、緑豹国。
そして、もう1つは、狭間の森だ。」
 
「なんで?青鳥国(セイチョウコク)でも変身できるじゃないか。」
 
とサンガがすぐに突っ込むが、「それは、出来ない。」と首を振ったヒビキ。
 
「青鳥国(セイチョウコク)で変身して、俺たちを助ける為に、そこからWONDER LANDに向かおうとしても道がないんだ。」
 
「道が・・・ない?」
 
「そう。青鳥国(セイチョウコク)から出る唯一のルートは、あの地下水路しかないんだ。
俺たちが、WONDER LANDに乗り込んだ時の事を、思い出してくれ。
WONDER LANDと地下水路の間には、あのガラスの壁があるんだ。
あれをすり抜けるには、翠ちゃんの念じる力がないと無理だ。
確かに翠ちゃんは、一緒にいた。
でも、今、翠ちゃんの力は、蒼輝に与えられている。
万全な状態なら、奇跡はあるかもしれない。
会話が出来た時みたいにね。
でも、翠ちゃんも雫を飲んだりしたとしても、完全復活はできていないだろう。
俺たちと会話をしたりと、それなりに、体力にも限界が来てたはずだから。
さらに緑の女力(ジョリョク)の力をだして、ヘトヘトのはずだからね。
そして、何より蒼輝の体がもう体力がない。
翠ちゃんの力を使うには、蒼輝の体にある翠ちゃんの力が、共鳴してるんだ。
だから、今の蒼輝とは無理がある。
彼女が、壁をすり抜けるように念じて叶えられる可能性はないと思うほうが妥当だろう。
つまり、絶対に、ミューラはあそこからは、出られない。
それに、そもそも、あの狭い地下水路に、この巨大な鳥が入れると思うか?」
 
「確かに・・・。」
 
と言ったサンガだったけど、少し考えていきなり、「わかった。」と元気な声で叫ぶと、ヒビキを嬉しそうな瞳で見た。
 
「つまり、こうだ!
雅も地下水路を通って、井戸をよじのぼり、緑豹国にいったんだ。
そして、緑豹国、もしくは、狭間の森で姿をミューラに変えて、俺たちの元へ来た。」
 
確かに。それが、正解だと思う。
だけど、それだと・・・なんか、おかしくないか?
何ってわかんねぇーけど・・・なんか、おかしいだろ?
って事で、俺は首をかしげながら、ヒビキを見た。
 
「それって、なんか変だよな?
でも、何が変かわかんねぇー。」
 
俺のバカな回答に、
 
「お前は、俺の答えにケチ付けたいだけだろ!」
 
とサンガに言われるけど、「いや、そうじゃねぇーんだって。」と言いつつ・・・理由がわかんねぇー俺は、「うーん。」とうなった。
俺の姿に、「おかしいと思っただけ、成長かな?」と笑ったヒビキは俺の髪を優しくクシャとなでた。
 
「サンガが言ったことはできないんだ。
なぜなら、翠ちゃんが戻って来たときには、地下水路には水が戻ってた。
つまり、青鳥国(セイチョウコク)から出れる唯一の手段である、地下水路の道が消えてたわけで、青鳥国(セイチョウコク)から出るすべは絶対ないんだ。」
 
そう言ったヒビキは、今度は翠を見た。
 
「だから、不思議なんだ。
どうやって、君たちは青鳥国(セイチョウコク)から出てこれたんだ?
地下水路の道を使えなくする事は、ラウオの計画の中でも重大な物だったはず。
万に一つの可能性で、翠ちゃんたちが戻ってきても、青鳥国(セイチョウコク)から出さないようにすれば、ミューラは現れないからね。
なのに、君たちはミューラと共に現れた。
一体・・・どうやって??」
 
ヒビキの言葉に翠は、少し笑うと、「全部、真音(マナト)さんの指示だったの。」と言った。
 
「真音(マナト)くんの?」
 
ヒビキの言葉に、「うん。」とうなずいた翠は、あの時起きたすべての事を、俺たちに語ってくれたんだ。
 
 
 
 
居空間を越えた私たちに、強い黄色の光が襲ってきたかと思ったら、そこはある場所だった。
私が目を開けるよりも一足早く感じた雅さんは、私の肩をポンと優しく叩いた。
 
「無事、青鳥国(セイチョウコク)に着いたようです。」
 
「ホント?」
 
と言いながら、私は目を開けた。
ここは、地下水路と青鳥国(セイチョウコク)とをつなぐドアがある噴水の広場だった。
だけど、あたりを見渡しても、藍瑠(アイル)さんもトーワくんも姿はなかった。
 
「いないみたいだけど・・・どこにいるのかな?」
 
と言った私に、少し考えた雅さんは、「もしかして・・・。」と言うと、少し重い口調で言った。
 
「これじゃないですかね?
真音(マナト)さんが言っていた“起っている何か?”って。」
 
「それ・・・どういう意味?」
 
私がそう言った時、急に側の土が風に舞った。
風なんてないのに、とてつもなく強い風が!!
 
「なっ、何??」
 
と目をつぶりながら叫んだ私に、「戻って来たようですね。」と余裕の口調で言った雅さん。
戻って来たって・・・誰が?
わけがわからない私は、眉間にしわをよせながら、その竜巻に背を向けて、埃をかぶらないようにした。
やっと竜巻が治まったかと思ったら、聞こえたこんな声。
 
「うわぁー、翠ちゅぁんだぁー!!
おっかえりぃー!!」
 
「えっ?」
 
と言ったと同時に、背中から来た強い衝撃。
そして・・・ぎゅーっと抱きつかれた。
 
「トーワくん・・。」
 
と少し眉をピクピクしながら、耐えた私。
本当は思いっきり、「いやぁー。」と言って押しのけたいけど、悪気はないからね。
あまり邪険にしてすねられたら困っちゃうから、抑えて抑えてっと。
という事で、私は一呼吸すると、トーワくんのご機嫌をそこなわないように、うまく腕から抜けた。
 
「ねぇー、それより、2人はどこに行っていたの?」
 
そう聞いた私に、「ひどいよ、ひどいよぉー!!」と地面をダンダン踏みつけて怒るトーワくん。
 
「あ・・・いや・・・・そんなに怒んないでよ。」
 
となだめるけど、ダメだ。
しばらくは、すねちゃうな・・・と諦めた私は、トーワくんを放置して、藍瑠(アイル)さんを見た。
私の視線に気付いた藍瑠(アイル)さんは、口元を緩めると、教えてくれた。
 
「翠さんが、向こうへ行かれてすぐに、サンガさんとヒビキさんと蒼輝さまが、地下水路とWONDER LANDの間にあるガラスの壁から、WONDER LANDへと向かわれました。
私たちは、ヒビキさんたちが向かっている間に、その壁まで2人で向かい、場所をインプットして、私の特殊能力である瞬間移動の使える場所を増やすように命じられました。
それで、私たちも向かったんです。
でも、あともう少しの所で、サンガさんが、壁を抜けてWONDER LANDの領域に入ってしまったので、トーワさんは豹の姿を失ってしまい、あと少しを2人で歩いて向かったのです。
そして、インプットした私たちは、こちらに戻り、青い本が置いてある王座へと戻ったのです。
そしたら、翠さんからのメッセージがあったので、私たちは旅立ちました。
壁の所まで、瞬間移動でワープし、そこから必死で歩いて緑豹国へと向かいました。
あの井戸を登るのは、さすがに大変でした。
トーワさんの持ってた雫を、何度も頂いたんですよ。」
 
そう言って笑った藍瑠(アイル)さんの元に雅さんは近付くと、何も言わないまま、藍瑠(アイル)さんの両手を取った。
 
「雅?」
 
と不思議がる藍瑠(アイル)さんに、雅さんは瞳を閉じたままだけど、とても苦しいような表情をした。
 
「こんなに傷(イタ)めて・・・さぞ、辛かったでしょう。」
 
私の距離からでもわかった。
藍瑠(アイル)さんの綺麗な手のひらが、真っ赤になって、傷だらけになっているのが。
雫で体力を回復させたなら、手のひらの傷も多少は治ったはず。
それでも、これだけの傷があるという事は、相当の傷を負ったのだと想像できた。
雅さんは、藍瑠(アイル)さんの手のひらを顔に近づけると、舌でその指を丁寧に舐め始めた。
雅さんの唾液が傷にしみて痛むのか、「痛っ!」と手をブルッ!と動かす仕草を何度もした藍瑠(アイル)さん。
それでも、雅さんはやめずに、藍瑠(アイル)さんの手を何度も何度も舐めた。
藍瑠(アイル)さんの痛む顔もなくなりだしてしばらくして、雅さんは藍瑠(アイル)さんの手から顔を上げた。
 
「やはり、藍瑠(アイル)さまの手は、美しくないと。」
 
そう言って笑った雅さんに、「ありがとう。」と少し涙を流しながらいった藍瑠(アイル)さんを、雅さんは笑いながら、優しく抱きしめてた。
だけど、今の・・・ちょっと気になる。
って事で私は、失礼と思いきや、抱き合っている二人に近付くと、藍瑠(アイル)さんの手を見たの。
 
「な・・・なんで??」
 
そう絶叫しちゃうくらい、すごい事が起ってた。
だって、あれだけ傷だらけだった藍瑠(アイル)さんの手が、今はツルツルピカピカともいうべきぐらい綺麗だったの。
一体、どんなマジックを使ったの?
口を開けて、その手を見入っている私に、藍瑠(アイル)さんは笑いながら答えてくれた。
 
「雅には、“治癒能力”があるんです。」
 
「はぁ?」
 
と言った私に、雅さんが付け足す。
 
「正確には、『王がもつ4つ目の能力』ともいうのでしょうか?
ヒビキさんに聞いたのですが、緑豹国にもあるようですね。
ヒビキさんには、愛する人に玉を与える事で心での会話が出来る。
トーワさんには、緑豹国の人間にすることができる黄色の玉が作り出せる。
先代王、蒼(アオイ)さまには、自分はもちろん、人の魂を移動させる事ができると・・・。
青鳥国(セイチョウコク)にもあるのです。
身代わりの王である、女の王には、1つの力。
そして、真実の王である、影の男の王には2つの力と、王としての4つ目の力の合計3つの力が。
藍瑠(アイル)さまの力は、向こうに居る時に説明したように、瞬間移動です。
そして、私には、闇を切り裂く力と、ミューラの姿になれば、何も受け付けません。
つまり、無敵の体を手に入れることができます。
まさに、蒼輝さんと同じなんです。」
 
と言った雅さんは、さらに続けた。
 
「それで、最後の4つ目の力ですが、それが、さっきみた“治癒能力”なんですが。
これには、実は縛りがあるんです。」
 
「縛り?」
 
と言った私の元に、雅さんは藍瑠(アイル)さんから手を離すと、近付いてきて、側で少し小声で話し出した。
 
「愛する人にしか通じないのです。
愛する人に、自分の唾液を塗れば、治癒する力があります。
ただ、今の僕は、ミューラの姿がないので、これくらいのかすり傷を直すのがやっとですが。
本来なら、僕の唾液で、どんな重傷も治すことができる。
それくらい力は強いのです。
そして、その人と永遠に一緒にいたいのなら、自分の唾液を飲ませるのです。
そうすれば、その人の命は延びます。
これは、本人の口から、相手の耳に入ってしまうと効力が消えてしまうのです。
つまり、この事が、僕から出た言葉で、藍瑠(アイル)さまの耳に入ってしまうと、ダメなのですが、翠さんから、藍瑠(アイル)さんに告げられても問題はないのです。
それは、なぜか、わかりますか?」
 
私からはよくて、どうして永遠の命を与えてくれる本人からは聞けないの?
首をかしげる私に、雅さんは優しく笑う。
 
「本当は血液を飲ませたい所なのですが、傷が負えない僕には、血を出すことはできませんから。
それで、唾液なんですよ。
そして、それを飲ませるには、本来の姿。
つまり、ミューラになった状態で、藍瑠(アイル)さまに飲ませないといけない。
想像してください。
たとえ僕だとわかっていても、とてつもなくデカイ鳥相手に、人間である自分が、唾液を与えられるくらいの熱いキスができますか?」
 
「それは・・・。」
 
と言って黙った私に、雅さんは「難しいでしょ。」と笑った。
 
「これは、試されるんですよ。
それでも、相手が好きなら、愛しているなら、唾液をもらえるくらいの熱いキスが交わせる。
だけど、それを知っていたら、命欲しさに我慢してする場合がある。
だから、自分の口からは言ってはいけないのです。
人づてに聞いても、信じられないでしょ。
だけど、本人から聞かされたら、信じてしまう。
それでは、ダメなんですよ。
そうだという立証がなくても、相手を愛しているから受ける。
その愛がないと、効果はでない。
なかなか、王の4つ目の能力は、ハードルが高いんですよ。」
 
と笑った雅さんは、私の髪にポンと右手を置いた。
 
「この事を、覚えておいて下さいね。
きっと、翠さんにも、役立つ時がきます。
誰にもこの事は言わないで下さいね。
そして、決して忘れないで下さい。」
 
「うん。わかった。」
 
と頷いて答えた私。
誰にもいうまいと、途中から思ってたから。
だって、もし誰かに言って、それを雅さんにその人が確かめにいってよ。
で、偶然に雅さんがその人にそうだと認めているところを、藍瑠(アイル)さんに聞かれたら終わりだもんね。
そんな危ない事したくないし、させたくないから。
この事は、絶対誰にもいわないぞ!と心に誓った私だったんだ。
コソコソと話していた私たちに、
 
「もう、終わりましたか?」
 
とイタズラっぽくいった藍瑠(アイル)さんに、
 
「嫉妬してくださらないのですか?」
 
と笑った雅さん。
 
「これくらいなら、許します。」
 
と言いつつも、ちょっとやっぱりおもしろくなかったのかな?
側に戻って来た雅さんに、すぐに抱きついた藍瑠(アイル)さん。
そんな藍瑠(アイル)さんが、すごくかわいく見えた。
 
「それで、藍瑠(アイル)さま。
先ほどの話に戻りますが、その井戸を登ったという事は、緑豹国には無事についたという事ですか?」
 
それに対して藍瑠(アイル)さんは、「ええ。」というと、私を見た。
 
「長老と言う方と、ヒビキさんの恋人であるランさんと言う方にあってまいりました。」
 
って。だけど、ちょっと・・・変だよね?
ということで、私は即、藍瑠(アイル)さんに聞いたの。
 
「私たちが、ここを離れていた時間は、ここでの45分くらいですよね?
たったそれだけの時間で、ヒビキさんに頼まれた事もこなして、さらに、緑豹国へと向かえたんですか?
いくらなんでも時間が足りない。」
 
と言ったんだけど、「それが・・・。」と言った藍瑠(アイル)さんは、言葉を濁した。
 
「何?」
 
と藍瑠(アイル)さんに迫った私に、なぜか答えたのは、一緒に行動をしていた雅さんだった。
 
「僕たちがここを留守していた時間は、45分なんかじゃないですよ。
少なくとも、33時間は過ぎてる。」
 
「はぁ?」
 
って、そりゃなるよ。
どういうこと?33時間??
サッパリ意味がわからない私は、言葉を失った。
そんな私を見ながら、藍瑠(アイル)さんは、雅さんに目を移した。
 
「雅、よく、気付きましたね。」
 
その言葉に、雅さんは少し笑うと、噴水を見た。
 
「ここの噴水に水がない。
水がないのは、ここだけじゃない。
この街全体がひどく、乾燥している。
この状態は、水が引いて1日は経ってるんじゃないですか?」
 
その言葉に私は、噴水を見た。
 
「ホントだ・・・水がない。」
 
そして、あたりを見渡した。
日だって空にはないし、あれだけ水の国だったBLUE LANDは、まるで日照りにあったみたいに、乾燥していた。
 
「って事は、水は??」
 
「地下水路に戻りました。
水が、この街に戻ってくるには、1ケ月の歳月がいります。」
 
と藍瑠(アイル)さんに答えられた。
だけど、一体どういう事?
私たちがいなかった、わずか45分の間で、時がかなりすぎてたって事?
 
「ねぇー、雅さん。
これは、どういう事?」
 
「そうですね。」
 
と言った雅さんは、少し考えた。
 
「きっかけは、ラウオでしょうね。
どういう事でこうなったかは、私の頭ではわかりません。
真音(マナト)さんやヒビキさんなら、スラっと答えられそうですが。
ただ、真音(マナト)さんの読みは当たったというべきですね。」
 
「それ・・・どういう意味?」
 
「ヒビキさんたちが、WONDER LANDに乗り込んでいる間の時間、もったいないと、イチカバチカ、藍瑠(アイル)さまにメッセージを送った。
普通なら、40分足らずで、緑豹国まで着くには無理があった。
だけど、時間がたっぷり過ぎたせいで、藍瑠(アイル)さまとトーワさんは、向こうへ行く事ができた。
たぶん、急激に時間が過ぎたのは、関わっていた人だけ。
つまり、その空間にいなかった、藍瑠(アイル)さまとトーワさんには、時間は急速には進んでないはずです。」
 
そう言った雅さんは、藍瑠(アイル)さんに聞いた。
 
「ちゃんと、時間は正常に流れていたんですよね?」
 
「ええ。」と答えた藍瑠(アイル)さんは、さらにこう言った。
 
「翠さんが戻って来る事が書かれていた文字は、翠さんの文字が現れたときには、すでに消えていました。」
 
つまり、私は最初の予定通りには帰れないと、すでに本は言っていたという事?
それにしても、つくづく思ってしまう。
 
「真音(マナト)さんって・・・ホントに恐いくらいすごいよね。」
 
それには、「ホントに・・・恐ろしい方です。」と雅さんもうなずいてた。
 
さっき、真音(マナト)さんの読みが当たった。と言っていたでしょ?
あれは、何かと言うと・・・。
 
 
 
 
 
 
「えぇー!!ちょっと待って下さい!!
そんなの無理、無理、絶対にむぅーりぃー!!」
 
と絶叫しながら両手ブンブン振って否定するけど、
 
「まー、そう言わずに、頑張ってよ。」
 
と真音(マナト)さんは軽く言いながら、自分はセッセと自宅から持ってきたパソコンを機械へとつないでた。
平然と私に無理難題をいう真音(マナト)さんに、私はさらに泣き顔になってしまう。
 
「ねぇー、真音(マナト)。どう考えてもさー、青鳥国(セイチョウコク)にある青い本に、文字を浮かび上がらせるなんて、無理に決まってるじゃない。
っていうか、どうしてそんな事しなきゃなんないの?」
 
あまりに私が泣くものだから、見るに見かねて渚は真音(マナト)さんに言ってくれて。
私はその渚の優しさが嬉しくて、渚のもとに歩み寄ると、彼女の側でガラス越しに彼女をすがるような目で見た。
 
「どうして?さぁー、どうしてかな?」
 
と少し笑いながら言って首をかしげた真音(マナト)さん。
その姿に、「茶化さないでよ!」と怒った渚に、「まー、まー、そう熱くなるなよ。」と言って鼻で笑った真音(マナト)さんは、機械をセッティングさせていた手を止めると、私たちの方を見た。
 
「俺にもわからないんだ。
どうして、そんな事をして。って、翠ちゃんに頼んでるか・・・。
だけど、嫌な予感がするんだよ。」
 
「嫌な・・・予感ですか?」
 
と言った雅さんに、「ああ。」と答えた真音(マナト)さんは、自分の胸にある想いを言った。
 
「誰が、何をするか・・・そういう事は全くわからない。
だけど、俺の細胞が言うんだ。
時間を無駄にするな。
今動ける藍瑠(アイル)さんとトーワくんを遊ばせるな!って、そう・・・。
俺の言っている事が役に立つか。
藍瑠(アイル)さんたちが出来るのか・・・それすらもわからない。
だけど、俺の中で鳴るサイレンを俺は抑える事ができない。
こんな納得がいかない説明しか出来ない俺で・・・ごめんね。」
 
そう口にした真音(マナト)さんの笑顔は、少し元気がなかった。
きっと、真音(マナト)さんの中にある何かが、彼に訴えているんだと、ここにいる私たちは理解したの。
 
「翠・・・やって・・・みる?」
 
渚の言葉に、「そうだね。やってみるかな。」と言った私の言葉に真音(マナト)さんは私の方に顔を向けた。
 
「すい・・・ちゃん?」
 
と言った彼に、
 
「自信はないけど・・・頑張ってみるよ。」
 
と笑った私。
そして、私は神経を集中させて、青鳥国(セイチョウコク)にある青い本に向かって念じたの。
 
「うまくいきますかね?」
 
と聞いた雅さんに、「そうだな。」と言った真音(マナト)さんは、「けど。」というと、さっきよりも少し穏やかな顔になった。
 
「今、トーワくんは豹にはなれない。
つまり、翠ちゃんからヒビキさんに念じて、この事をトーワくんに伝えてくれ。と託しても、ヒビキさんの声をトーワくんは聞けないんだからね。
ということはどういう事かといえば、トーワくんと藍瑠(アイル)さんに、俺たちやヒビキさんたちから、一切の連絡はできないって事。
つまり、『不可能』なんだよ。
だけど、翠ちゃんの力は念じれば何でも叶う。
まるで、『不可能を可能にする』力・・・だよね?
ありえるんじゃないかな?
なんていったって、あの青い本は翠ちゃんの念じる声に答える性質を持つ事は立証済みなんだ。
きっと、時空を越えた翠ちゃんの思いも、青い本は聞いてくれる。
そして、俺たちのメッセージを浮き上がらせてくれるさ。」
 
「だけどさー。」
 
突然聞こえた渚の言葉に、みんなは渚を見た。
 
「その2人へのメッセージが、なんで、『緑豹国へ向かえ』なわけ?
緑豹国に行っても、何もないわけでしょ?
行くだけ無駄なんじゃないの?」
 
「確かに僕もそう思います。
それに、何よりそれは、無理だと思いますが・・・。」
 
雅さんの言葉に私も、うなずいた。
だって、今トーワくんは変身できないんだよ。
さっき、雅さんに聞いたけど、藍瑠(アイル)さんの能力は瞬間移動。
だけど、それも自分が踏んだ地へしかいけないという。
どこまで、藍瑠(アイル)さんの能力でワープできるかわからないけど、私たちが戻る60分の間に、緑豹国に行くなんて・・・無理だと思う。
私たちが、どれくらいの時間を費やして、緑豹国から地下水路を通って、青鳥国(セイチョウコク)へ辿り着いたと思ってるの?
だけど、真音(マナト)さんは、「そのうちわかるさ。」というと、少し首をコキコキと回しながら、パソコンの置かれている場所へと移動した。
 
「わかるって・・・どういう意味ですか?」
 
「よく考えてごらんよ。」
 
と言った真音(マナト)さんは、雅さんをみると、こんな指摘をしてきた。
 
「ミューラの力を手にした君が、次に行くべき場所はどこだ?」
 
「それは・・・。」
 
と言った彼に、真音(マナト)さんはすぐにこう答えた。
 
「天上界にある赤龍国(セキリュウコク)だろ?
翠怜(スイレン)さんに逢いに行くんだ。
つまり、君は緑豹国の背後にある絶壁の壁に沿って、飛んでいかなければならないんだ。
緑豹国は、君たち全員が絶対に通過する場所なんだよ。
普通に考えれば、1時間後には君たちは向こうの世界に戻れる。
そして、ミューラを復活させて、君たちは緑豹国へ向かい、雅はミューラの姿に変身し、赤龍国(セキリュウコク)へと向かう。
だけどだ。もし、もしも、青鳥国(セイチョウコク)から緑豹国へつながる唯一のルートである地下水路が閉鎖されたらどうなる?
絶対に、君たちはミューラを復活させても青鳥国(セイチョウコク)から出られなくなるんだ。
それも、地下水路の水が、再び青鳥国(セイチョウコク)に戻る日までね・・・。
そんな事ありもしない事なのかもしれない。
だけど、もし、そうなった時に、思わないか?
藍瑠(アイル)さんの瞬間移動が使えたら、地下水路がなくても、緑豹国にいけるのにって。
もし、そうならなくても、藍瑠(アイル)さんの瞬間移動が使えるようになっていたら、便利だろ?
翠ちゃんの向こうでの滞在時間は限られている。
みんなで、ぞろぞろ地下水路を通って、緑豹国へ向かうより、藍瑠(アイル)さんの瞬間移動が使えたら、時間もかなりの短縮になる。
藍瑠(アイル)さんに覚えてもらっておいて、損はないと思うけどね。」
 
真音(マナト)さんはそう言って、私たちに笑った。
 
 
 
こういう事だったの。
真音(マナト)さんの『読みが当たった』っていうのは。
本当に、唯一の手段である地下水路が使えなくなっていたなんて、誰が思う?
そして、絶対に無理だと思っていた緑豹国へのインプットが成功してたなんて、誰が思うのよ!
『よく、わからないけど。』って言いながら、ドンピシャなのが、ホントに怖くなるよ。
真音(マナト)さんって・・・ホントにただものじゃないって、これほど強く思った事なかったよ。
 
「翠さん!いつまでも、懐かしがってる暇はない。
こうしている間も、向こうにいる3人の命が危ないんだ。
早いとこ、ミューラを復活させましょう。」
 
雅さんの言葉に、ここにいた全員が、強く「はい。」と返事をしてた。
それから、藍瑠(アイル)さんの能力で、1人ずつあの塔のさらに上の階へとワープさせてもらった。
あっというまに、全員がミューラの力がうごめく大きな玉がある台座の前に集合した。
 
「さて・・・やりますか・・・。」
 
と言ってる側からタメ息をついてる雅さんに、藍瑠(アイル)さんはクスっと笑う。
 
「何がおかしいのですか?」
 
とちょっと怒った声でいった雅さんに、
 
「今から自分の力を取り戻すのに、どうしてそんなに弱気なのですか?」
 
と鋭い指摘をされた雅さん。
「それは・・・。」と言った雅さんは黙って、下を向いた。
 
「わかったぞぉー!!
ヒビキや向こうに居た“まぁーなと”ってやつがいないから、雅は寂しいんでしょぉー!!
だいじょーぶだよぉ!僕がいるからぁー!!」
 
とニッコリスマイルされてもねぇー。
今のトーワくんは、ただのかわいい男の子だから・・・。
と思いながら笑った私はそのまま、雅さんに言ったの。
 
「なんとかなりますって。ね!」
 
って。だけど、それに対して、何も答えなかった雅さんの代わりに答えたのは藍瑠(アイル)さん。
 
「そうではないですよね。」
 
藍瑠(アイル)さんの言葉に私たちの「えっ?」よりも早くに反応したのは雅さんだった。
下げていた顔を藍瑠(アイル)さんへと向けた。
すごく悲しくて不安そうな顔を向けた雅さんに、藍瑠(アイル)さんは優しく微笑むと、背伸びをして雅さんの両頬に自分の両手を伸ばした。
だけど、雅さんはすごく背が高いから、藍瑠(アイル)さんの手は届かない。
でも、次の瞬間、まるで、藍瑠(アイル)さんの手に引き寄せられるかのように、雅さんの顔が藍瑠(アイル)さんの手にすーっと吸い込まれ、藍瑠(アイル)さんの手は、雅さんの両頬にピタリとくっついた。
ホントに、この2人を見ていると、驚くことばかりなの。
だって、雅さんは目が見えないんだよ。
だけど、雅さんはまるで目が見えてるみたいな行動をとる。
私たちに対してもそうだけど、でも、藍瑠(アイル)さんに対してはホントに、おみごとっていうくらいの行動をとる。
今もそうだったでしょ?
見えていないのに、藍瑠(アイル)さんの手が近付いてきたのをまるで見えてたみたいに、自分から顔を近づけて行ったんだもん。
そして、すごいのはお互いが。
つまり、雅さんが藍瑠(アイル)さんの事がわかるように、藍瑠(アイル)さんも雅さんの事がわかるのよね。
お見事っていうくらい・・・本当に彼女は彼の気持ちがわかってた。
 
「雅・・・。」
 
彼の両頬に触れた藍瑠(アイル)さんの手を、雅さんは両手でつかむと、彼女の温度を感じる。
さっきまでの乱れた心を落ち着かせるように・・・。
彼のその姿を優しい眼差しで見つめていた藍瑠(アイル)さんは、ユックリと彼に言ったの。
 
「何も恐れる事はありません。
あなたがどんな姿になろうと、私はあなたを愛してます。」
 
それを聞いて私にもわかったの。
雅さんが恐がっていた本当の理由を。
確かに、ヒビキさんと真音(マナト)さんがいないこの現状は不安だったかもしれない。
でも、一番の不安は、自分もなった事がないミューラの能力を自分が得ること。
一体どんな自分になるのか。
そりゃ、不安にもなるよね。
それを、私はわかってあげられなかった。
私が一番彼の気持ちがわかったはずなのに。
私もいつか、この世界においてきた・・・ううん。
ラウオに封印されている豹の力を取り戻したら、私も蒼輝と同じ緑の豹になるんだ。
それは、とても、恐い。
自分が自分でいられなくなりそうで、今から本当は不安で恐くてたまらない。
今の雅さんが、そうだったのに・・・。
私は、雅さんの心をわかってあげられなかった。
反省する私の側で、雅さんはゆっくりと笑顔になった。
 
「私も、藍瑠(アイル)さまを心から愛しています。
どんな姿になろうと。
例え僕という人格がなくなろうとも、あなたへの愛は変わりません。
それだけは、決して失いませんから。」
 
雅さんはそう言って、自分の頬から藍瑠(アイル)さんの両手を取ると、彼女を自分の方に抱き寄せた。
一瞬ギュッと強く抱きしめた雅さんは、ユックリと自分の体から、藍瑠(アイル)さんを離した。
そして、封印されている玉の正面に立った。
 
「翠さん。それでは、渚さんから借りた女力(ジョリョク)の鍵を、差し込んでもらえませんか?」
 
「う・・・うん。」
 
急に話しかけられたものだから、少しビクついた私。
そう返事しながら、ポケットから女力(ジョリョク)の鍵を出した。
そして、台座の鍵穴の前に行くとしゃがみ、女力(ジョリョク)の鍵をはめ込んだ。
カチと音がした。
 
「なぁーにも起らないねぇー。」
 
とトーワくんが言った時だった。
女力(ジョリョク)の鍵をさした当たりの台座が、白い炎に包まれた。
 
「なんで?どうして、3分の1だけ??」
 
と驚いた私の耳に、雅さんの声が聞こえた。
 
「こっちを見て!!」
 
彼の声に私たちは、彼の指さす方角を見た。
ちょうど女力(ジョリョク)の鍵をさした場所から右側にある台座の先端の台が、なぜか青くなっていた。
 
「これって!!」
 
と言った私に答えたのは藍瑠(アイル)さんだった。
 
「雅。ここに、私の力を注げばよいのですか?」
 
だけど、雅さんは一つ彼女に注意をした。
 
「そうです。ただ、注意して下さい。
この白い炎である女力(ジョリョク)の力と、同じ力を注いで下さい。
多くても少なくてもダメです。」
 
「ええ・・・わかりました。」
 
藍瑠(アイル)さんは雅さんの難しい注文にも返事をすると、その台座に両手をつき、自分の中にある青の女力(ジョリョク)の力を注いだ。
藍瑠(アイル)さんの力はあっというまに、青い炎になった。
初めは力の加減がわからなくて、弱くて白い炎に消されそうだったり、白い炎を消しそうだったりで不安定だった青い炎も、少し時間が経てば使いこなせるようになったみたいで、2つの力のバランスが均等になった。
その時。さっきまで、無反応だった左側の台座の先端が、今度は緑色になった。
 
「翠ちゃんの出番だ。」
 
私はうなずくと、台座の前にたった。
私は、確かに蒼輝とは交わっていない。
でも、さっき、蒼輝に私の力を与えてしまった。
それで、私の力は消耗していないだろうか。
ちゃんと、2人と同じくらいの力が出せるのだろうか?
私の心に、信じられないくらいの不安が襲った。
台座につく手が震えた。
 
「翠ちゃん?」
 
心配そうな声を上げた雅さんにも答える余裕がないくらい私の心は荒れていた。
その時だった。
私の震えている手に、暖かい手がふれたのは!
そして、その手は、私の両手を緑の台の端に優しく乗せた。
 
「大丈夫だよ!翠ちゃんは、緑の王女さまなんだから!
みぃーんなよりも、力は強いんだから!ねっ!!」
 
と私にとっておきの笑顔をくれた緑豹国の黄色い王。
彼の笑顔を見て私は思い出した。
初めてこの世界に来た時、最初に見たのは彼の笑顔だったって。
それから、この笑顔に支えられてきたんだ。
蒼輝とダメになりそうになった時も、蒼輝の命を救う為に夜道を雫取る為に走った時も。
いつも、トーワくんは笑顔でいてくれて。
私は彼の笑顔に支えられてきたんだって。
この時、私はそう思ったの。
そして、気付けば、不安はすっかり消えていた。
 
「ありがとう。トーワくん。」
 
そう言った私は、彼に笑顔で答えると、目をつぶった。
神経を集中させた。
私はまだ、力になれていない。
藍瑠(アイル)さんみたいに目を開けて、力を注ぐことはできなかった。
でも、2つの力の均等はわからないから、目を開けなきゃ!って思うんだけど。
バランスが取れなくて、私は目が開けれないでいた。
 
「いいよ。そのままで。僕がちゃんというから。」
 
雅さんの言葉で、私は彼の方に目をつぶったまま顔だけを向けた。
 
「翠ちゃんの力が物凄く強いんだ。
だから、少しずつ気持ちを落ち着かせていって。
落ち着いて、落ち着いてって、自分に言い聞かせて。」
 
『落ち着いて』って言葉・・・懐かしいと思ったの。
夢の中でこっちに来た時、ヒビキさんのこの言葉で私は、救われたんだっけ。
あの時は、ヒビキさんの声と、目の前に現れた蒼輝が私の仲間だった。
それから、こっちの世界に来た私に、トーワくん、ランさん、タカさん。
そして、サンガに藍瑠(アイル)さんに雅さん。
私には、こんなにもたくさんの仲間が増えたんだね。
私が心から安らげる場所は、蒼輝とヒビキさんのもとでしかなかったのに。
今は、2人がいなくても、私はこうやっていられるんだよ。
心から信用できるたくさんの仲間に出会えた。
私の心は信じられないくらい穏やかになってた。
ミューラを復活させなくちゃ!とか、緑の力を注がなきゃ!っていう、気負いは消えて、私の緑の炎は必要なだけの量になった。
 
「翠ちゃん、ストップ。そのままにしてて。」
 
雅さんの言葉に私は、そのままで気持ちを落ち着かせた。
そして、数秒後なれた私は、ユックリと目を開けた。
目の前の台座は、3色の炎に包まれていた。
そして、その炎はやがて交じり合い、物凄い強い炎になったかと思ったら、炎は信じられないものへと姿を変えた。
 
「うわぁー!!」
 
と叫んで腰を抜かしたトーワくん。
私も、ビックリして手を離しそうになったけど、必死で堪えた。
 
「これって・・・もしかして、龍??」
 
藍瑠(アイル)さんの言葉に私も心の中でうなずいてた。
そう。私たちの力が、交じり合いなんとそれは、オレンジ色の龍へと姿を変えた。
藍瑠(アイル)さんも私も、その龍にくぎづけだった。
そして、その龍は、この塔の天井をすり抜け空高くへと一旦は昇った。
だけど、すぐに方向を変えて、今度はこの玉座の玉に向かって、まっすぐに顔から下りてきた。
 
「2人とも離れるんだ!!」
 
雅さんの声に、私も藍瑠(アイル)さんもお互いを見た。
そして、目で合図をし合って、ほぼ同時に、玉座から手を離すと、玉座から後方へとバックした。
龍が玉に近付いてきた風圧で、私も藍瑠(アイル)さんも、少し後ろに飛ばされた。
 
「大丈夫ぅ〜??」
 
と心配して私の元に来てくれたトーワくんに、私は「平気。」と答える。
 
「藍瑠(アイル)さまは、お怪我は?」
 
と雅さんの言葉に、「ええ。大丈夫です。」と藍瑠(アイル)さんも笑顔で返事をした。
その時、突っ込んできた龍の牙が、玉にヒビを入れた。
そして、その隙間から、龍はオレンジ色の炎を出し、その玉は大きな音を立てて割れた。
割れた瞬間、辺りに青く輝く光がもれた。
目を開けていられず、たまらず目を閉じた私。
龍の鳴くとてつもなく大きな声が聞こえたかと思ったら、あたりは、シーンとした。