彼らがどこにいるかを突き止めるには、トーワくんがいる。
変身するほどの能力はないにしても、豹の血が流れているんだから、トーワくんが、蒼輝たちがいる方角を突き止めれるはずだと。
だけど、近くにいった時に、彼らとの会話を余儀なくされた時、会話が出来る人がいない。
トーワくんは、豹の姿を失っているので出来ない。
そして、私は、本来なら、蒼輝に力を与えているので、今はただの混血人間で、トーワくんと変わらないの。
だから、心での会話はできない。
それどころか、今の私には、本来なら、緑の女力(ジョリョク)の力など、出せるわけがないの。
だって、私の中には緑の豹の力はないのだから。
だけど、出来た。
タカさんが言うには、全て私の念じる力のおかげだという。
念じる力で、ヒビキさんとの会話を可能にした。
そして、緑の女力(ジョリョク)の力は、蒼輝の方にある緑の力と、ラウオが封印している緑の力を少しずつ呼び込み可能にしたのだという。
だけど、どれも、私の体力を消耗させるものだし、これ以上は危険だといわれた。
それにね、私が緑の力を少しずつ奪ってるのは、蒼輝に与えている緑の力と、ラウオが封じている緑の力から。
ってことは、蒼輝に与えている緑の力を、私が減らしてるのと、同じだと言われた。
蒼輝が元気な姿ならともかく、今は相当なダメージも負っているだろうに、その上、私が蒼輝から緑の力を吸い取ってるとなると、それが原因で、蒼輝が豹の姿を失い、ただの混血人間に戻ってしまうかもしれないんだって!
今の状況で、人間の姿になってしまったら、蒼輝の命が危なくなるのは当たり前でしょ。
だから、タカさんは私に、
「何があっても、もう決して、緑の力は使うな。
念じてもいかんし、会話もしようとするな。
絶対に、使ってはならんぞ。」
と固く言われた。
そうなると、ヒビキさんと会話ができるのは、もうあの人しかいないでしょ?
それで、今回、ランさんを連れてきたの。
そして、私たちは、トーワくんが導くまま、森を飛び越えて、WONDER LANDへと入り込んだ。
「・・・というわけ。」
全てを話した私に、蒼輝もサンガもキョトンとして何も言ってくれなかった。
あまりに2人のバカな顔に、思わず突っ込んじゃう。
「もう!ちゃんと、聞いてたの??」
だけど、2人は、
「聞いてはいたけど・・・。」
「理解は出来た自信はねぇーな・・・。」
とセリフを仲良く分散して、そんな事を言った。
その姿に、話し方に、表情に。
何をとってもかわいくておもしろい2人に、私はまた笑ってしまった。
「なるほどねぇー。そういう事だったんだ。」
突然聞こえたその声に、私は笑い過ぎて涙目になっている瞳で、ヒビキさんを見た。
「聞けば聞くほど、その真音(マナト)くんに逢いたくなったよ。
彼の力量には、白旗だな。
彼がいなかったらと思うとゾっとするよ。」
と言いながら、引きつった笑いをして身震いをしたヒビキさん。
いつも、どんなに頭脳的な人相手でも、どんなにピンチでも、信じられないぐらいの機転のよさと頭脳で切り抜けてきたヒビキさんが、そんなに恐れる事。
そして、真音(マナト)さんをそんなに褒める行為。
それが、ちょっと気になった。
「そんなに、ピンチだったの?」
「ああ。翠ちゃんたちが助けに来てくれなかったら、俺たちはあのまま、死んでいた。」
そう言ったヒビキさんは、優しく笑うと、私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「君たちのおかげだ。ありがとう。」
その言葉に私もトーワくんも藍瑠(アイル)さんも、自然と笑顔になった。
きっと、ミューラである雅さんも・・・笑っていたはず。
「なー、1ついいか。」
和やかな雰囲気だったのに、その声は少し重かった。
何か納得がいかないような声。
その声がした真横に、顔を向けた私はすぐに聞いたの。
「どうしたの、蒼輝?」
って。すると、蒼輝は、真剣な顔で疑問をぶつけてきた。
「翠さー・・・お前、どうやって、早く戻ってきたんだ?」
なーんだ。その事だったのか!
そういえば、それについては言ってなかったっけ??
何を言われるかとドキドキしてたから、正直拍子抜けしちゃった。
少しホッとした私は、「それは・・・。」と言いかけたんだけど、私の声にサンガの声がかぶさった。
「別に早く戻って来てないんじゃないのか?
翠ちゃんがここに居られる時間が、思ったより長かった。
そういう事じゃないの?
だって、書物の通りにしか翠ちゃんは向こうには戻れないんだろ?」
そう言ったサンガに、答えたのはヒビキさん。
「確かに・・・。だけど、たぶん、翠ちゃんは自分の意志で戻って来たはずだ。」
ハッキリそう言ったヒビキさんは、サンガから蒼輝に目を移した。
「俺もサンガも、そんなに体力を使うようなことはしていない。
だから、感じなかったのかもしれないが、蒼輝にはわかったんだろ?
急に時間の流れが、正常に戻ったって。
自分の体力の消耗の速さが、遅くなったって。
だから、お前は、翠ちゃんが、早く戻って来た事に気付いた・・・違うか?」
それにはもちろん、私も聞いちゃう。
「そうなの?そんなわずかな変化で、気付いたの?」
「ああ。」と言った蒼輝は、少し笑うと私を優しく自分の胸によせた。
「お前、念じて、こっちに戻ってきたのか?」
耳元で聞こえた蒼輝の声に、恥ずかしくなった私はただ大きく頭を動かしてうなずいた。
それだけで、精一杯だったの。
私の動きを見ていたヒビキさんは、
「それも、真音(マナト)くんの指示だよね?
彼が、帰りたいと念じろと、そう言ったの?」
と聞いて来るものだから、「うん。」と答えた私。
「ホント、真音(マナト)って、すごいやつだな。」
と少し呆れた声を上げた蒼輝が、いつもの高飛車な蒼輝じゃなかったから、私は思わず顔をあげて彼を見上げた。
私の態度に、「ん?」と驚いた顔で、私を見下げた蒼輝に、そのまま言っちゃった。
「蒼輝がヒビキさん以外の人を褒めるなんて、初めて聞いたよ。」
それには、「バカ言ってんなよ。」と恥ずかしそうに笑った蒼輝は、私の顔に自分の顔をくっつけて、私に見えないようにした。
あっ、照れてるって思ったけど、もう、言わないでおいたの。
蒼輝とこんなにくっついていられる事が、すごく幸せだったから。
今はその幸せに、浸りたいと思ったの。
「ヒビキさん。緑豹国の大陸が見えてきました。
これからどうしますか?
蒼輝さんたちもお疲れでしょう。
薬草を飲む為に、一旦は長老の居る緑豹国に戻りますか?」
顔をこちらに向けてそう言ったミューラに、「いや、待て。」と言ったヒビキさんは、黙って何かを考えた。
そして、自分の頭の中で整理がついたのか、いきなりこんな事を言い出した。
「蒼輝!悪いが、いますぐ、お前の体から緑の力を抜いてくれ。
翠ちゃんに力を戻すんだ。」
「えっ?」
とみんなの声は重なった。
だけど、そういわれた蒼輝だけが、「ああ、わかった。」とすんなりヒビキさんの要求をのもうとした。
私の首に、緑の力が入っていた玉をかけた蒼輝は、さらに、ピタとくっついていた私を、自分の体から離そうとした。
だけど、素早く私は抵抗し、自分から彼の体にくっついた。
「翠?どうした?」
って、なんで、そんな事聞くの?
なんで、そんなに優しい声出すのよ!
それが、余計に私を不安にさせた。
私は、ぎゅーっと蒼輝にさらにくっついたの。
「何だよ翠。言ってみろよ。どうした?」
私の背中を優しくなでて、言い聞かせるように言った蒼輝に、私は何も言えなかった。
不安で胸がはりさけそうだったから。
だって、今の蒼輝の体から、緑の豹の力を抜くんだよ。
つまり、ランさんと変わらないただの混血人間になっちゃうって事。
今、人型の姿に戻った蒼輝は、なんともないような素振りをしてるけど、本当は久しぶりに豹に変身した時みたいに、体はガタガタのはず。
ミューラの背中に乗って時間も、それなりにたってるのに、まだ、息は少し上がってるし、汗もかいてる。
それに、私を抱きしめてはくれてるけど、あまり強く抱きしめてくれないの。
それはたぶん、体にうまく力がはいらないんじゃないかなって。
そして、私にキスをしてくれないのも、呼吸が苦しいから。
みんなに悟られないように。
私に元気なように見せる為に必死だから、できないのかもって。
だって、いつもの蒼輝なら、みんながいても、再会したらすぐにしてくれたはずだもん。
蒼輝が私の体が動かない事を昔わかってくれたみたいに、私も蒼輝の体の異変はわかるよ。
大好きな人だから、わかるの。
こんな状態の・・・ギリギリでいる彼の体から、緑の力を抜いたらどうなるか・・・。
考えただけでも恐くてたまらない。
私は必死で、蒼輝にしがみついたの。
「翠ちゃん・・・。」
私の気持ちがわかったのか、ヒビキさんは悲しい声を上げた。
わかってる。
ヒビキさんだって、蒼輝が今どれだけ無理してるのかも、緑の力を抜いたらどれだけ危険かも知ってるよね?
全部わかってるはず。
だけど、それでも、蒼輝の体から緑の力を抜いて、私に戻すには何かわけがある。
私に何かをしてほしいんだよね。
わかってる。わかってるんだけど・・・。
私の心も体も、嫌がるの。
蒼輝の命が何よりも大事だから。
どうしても、できない・・・。
ただ、首を振る私の頭に、蒼輝の頭がゴツンとぶつかった。
私の首振りはもちろん、止まった。
「心配するな。俺の体から、緑の力が抜けても俺は死なない。
確かに、今よりは弱るだろう。
だけど、大丈夫だ。俺を信じろ。」
蒼輝はそう言って笑うけど、私はそれでも、首を振った。
ききわけのない私に、「しょーがねぇーな。」と軽いタメ息をついた蒼輝は、
「ヒビキ。」
とヒビキさんを呼ぶと、こんな事を言った。
「お前の考えた案を言えよ。」
「えっ?」
いきなり振られたヒビキさんは、蒼輝の言葉に驚いた。
「だから、翠に力を戻した後、何をするんだ。」
少しイラついた声で言った蒼輝に、
「だけど、翠ちゃんは嫌がってるわけで・・・。」
とヒビキさんは言葉を濁す。
「いいから、言えよ。
その先は、何だ?」
みんなも気になったのか、私以外の瞳が、ヒビキさんに注がれた。
その熱い瞳に負けたヒビキさんは、「わかった、いうよ。」と降参すると、私を気にしながら口にした。
「今、一番俺たちが気にしないといけないのは、翠ちゃんがここに滞在できる残りの時間だと思うんだ。
ラウオのせいで、時間が狂ってしまった。
俺たちには、全く翠ちゃんの滞在時間がわからない。
だから、それを今、一番に知るべきだと思うんだけど・・・。」
「だけど・・・何?」
サンガの言葉に、答えたのはランさんだった。
「知るすべがありませんね。」
「何でですか?」
藍瑠(アイル)さんの言葉にランさんは答えた。
「翠さんの行動が出る書物・・・緑の本ですが・・・。
それは、今、緑豹国にいる長老がもってらっしゃいます。
そして、その本に文字が出ていても、それを私たちに教えるすべが長老にはないのです。
緑豹国に戻って、本を見ないと、わかりません。」
「だけど、そんな時間ないんじゃないのか?」
サンガの言葉に、今度はヒビキさんが答えた。
「ああ。最悪、戻っている間に、タイムリミットが来てしまう可能性もあるからね。」
と。その言葉に誰も答えられなかった。
ただ、黙って、考え込むみんなだったけど、1人だけ、ヒビキさんにこう言った。
「それで?」
って。もちろん、みんなは顔を上げて、その声の主を見た。
そして、ヒビキさんも・・・。
「ん?」と言いながら、蒼輝を見た。
「そうならないようにするすべが、翠の力にあるんだろ?
翠に何をさせるんだ?」
そう言われても、ヒビキさんはすんなり答えなかった。
私が嫌がってる手前、これ以上は言いにくかったのかもしれない。
だけど、「何?」と蒼輝がせまるものだから、半ばしぶしぶヒビキさんは口を開いた。
「翠怜(スイレン)さんに、聞いてもらうんだ。
そもそも、書物の文字は彼女が書いているものだとおもう。
彼女なら、翠ちゃんに残された時間が、わかるはずだから。」
「なるほどな・・・。」
そう言った蒼輝の手が、私の髪に触れた。
私は、彼の胸にくっつけていた顔をユックリと、上に向けた。
私をみつめている彼の瞳とが重なった。
お互い何も言わなかった。
だけど、蒼輝の目を見ればわかった。
なんでも、お見通しだったんだねって・・・私はそう思ったの。
私はいつの間にか、ここで出来ることを全力でやらなきゃっ!って思うようになってた。
それは、ヒビキさんや蒼輝やサンガを見ていて、自然に思って自分もそういう行動を取るようになっていたんだと思う。
だって、彼らはいつだって、自分に与えられた事を全力でやっているから。
そして、今、私にしか出来ない事が出てきた。
きっと蒼輝はわかっていたんだね。
これを聞いて、私がどう思うか。
やらなきゃ!って私が思うと、蒼輝はわかっていたんだ。
だから、内容を私に聞かせた。
「私の気性・・・把握してるの?」
そう言って笑った私に、
「当たり前だろ?
翠の事なら、何でもわかるよ。
俺よりも、自分が今すべき事を、今のお前なら選ぶってな。」
そして、彼も笑う。
自分のやるべき事がある。
蒼輝は笑顔で見送ってくれる。
それを知った所で、蒼輝が危険になることは何一つ解決していない。
だけど、なんでかな?
さっきの不安は消し飛んでた。
なんで?と思ったけど・・・。
よく考えたら、こう思ったんだよね。
きっとそれは、私もわかってるから。
蒼輝も、同じ考えの人だって。
蒼輝にはまだ、すべき事がたくさんあるし、何より今自分の命が尽きたら私が悲しむのは、目に見えてる。
自分の命に価値がある限り、彼はその命を消さない。
自分がやるべき事をやり遂げる人だから、必死で命の火を消さないでいてくれるはず。
それが、わかったから、不安はなくなった。
私は、蒼輝の腕から抜け出した。
何も言わず蒼輝を見つめる私に、「よし。」と笑った蒼輝は、自分の体から青の力と緑の力を抜き、玉に戻した。
戻した途端、蒼輝はそのまま倒れこんだ。
「蒼輝!!」
彼の体にすがりついた私に、蒼輝は、無理に笑った。
「少し眠れば楽になるから。
お前はお前のすべき事をしろ。」
彼はそれだけ言うと瞳を閉じた。
不安になる私の背中を、ポンと叩くサンガに私はすがるように言った。
「大丈夫だよね。」
って。
「ああ。ホントにただ眠ってるだけだから。
心配要らないよ。」
それを聞いて心からホッとした私。
「蒼輝の体は、緑の力と青い力を入れて、人型になっているだけでも、体力を消耗する。
本来なら、このただの混血である黒瞳に黒髪の姿でいる方が、何も奪われないからいいんだ。
体を支えていた強い力を抜いた事によってダメージは出るかもしれないけど、体にかかる負担はもうないわけだから、あとは、体力が戻るだけなんだし、心配はいらない。
昔から、蒼輝は眠れば体力が回復する単純なやつなんでね。
アイツの強さを信じてよう。」
ヒビキさんの言葉に、「はい。」と答えた私は、眠っている蒼輝の寝顔を見て、ちょっと安心の笑いをした。
よしっ!じゃ、私も自分がすべき事をしなきゃ!
気分を新たにした私は、自分の胸で揺れる緑の玉を見ながら、深呼吸をした。
そして、強く願ったの。
『翠怜(スイレン)さん、聞こえますか?』
って。すると、しばらくして、
『ええ。聞こえますよ。』
という声が返って来た。
『教えて下さい。
私に残された時間はどれくらいですか?
それから、私たちはこれからどうしたらいいのですか?』
『翠の残された時間は、あと30分です。』
「30分・・・。」
思わず声に出して言った私に、みんなももちろん、驚いたようで、
「たった、それだけ?」
「30分でどうすんだよ。」
など、不満の声が上がった。
『翠、今からそのままミューラに乗って、こちらへいらっしゃい。
あなたが、向こうへ戻る前に、どうしても伝えておかないといけない事があります。
いいですね。今から、すぐに来るのです。』
「わかりました。」
私は深くうなずきながら、そう答えた。
私が翠怜(スイレン)さんに答えた言葉で、勘のいいヒビキさんは全てを理解したようで、体を前に乗り出すと、ミューラにこう言った。
「雅、そのまま、緑豹国の絶壁にそって、上へ行ってくれ。
天上界にいる翠怜(スイレン)さんに、逢いに行くぞ。」
ヒビキさんの言葉に、ミューラは返事をする代わりに、高らかな鳴き声を上げた。
「うるせぇーな。」
と寝返りを打ちながら言った蒼輝の声に、会話を終わらせた私も含めみんなが、笑った。
みんなは、心のどこかで、思っていたのかもしれない。
こんなに楽しい時間が、もうじき終わってしまう。
その寂しくてたまらない心の隙間を、埋めてくれる物がこの笑顔だって・・・。
別れが近付いている事を、まるでごまかしてくれる。
そんな願いがみんなの胸にきっと・・・あったのかもしれない。
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