白いフワフワの雲のトンネルを、幾(イク)つ越えただろう。
耳がつまったような感覚になったあと、今度は耳がキーンと痛くなった。
まるで、飛行機に乗った時みたいな感覚。
かなり上空に居る事がわかる。
だけど、先は一向に見えない。
やがて、呼吸も苦しくなってきた。
「なんか・・・苦しくない?」
と言った私に、
「酸素が薄くなったせいだよ。
豹になれる俺やトーワは変身すれば平気だろうけど、人間の姿では、これは辛いな。」
とヒビキさんは言う。
その彼の言葉に、トーワくんは限界にきたのか、
「みんなぁー、ごめんねぇー!!」
と急に謝ると、黄色い豹の姿に変身した。
「あぁー、ホントぉー!らぁーくちぃーん!!」
普段はノンビリな行動をとるトーワくんなのに、ここに来て信じられないくらいのスピーディーな行動に出たものだから、みんなはあぜん。
ヒビキさんまでもが、呆れてタメ息をつきながら、軽く首を振ってた。
そんな中、この人が鋭く突っ込む。
「お前、喧嘩売ってんのか?」
その声に、みんなの目は素早く移動する。
私は、その声の主の姿を見て、誰よりも早く声を上げた。
「蒼輝、起きて平気なの?」
今までグッスリ眠っていた蒼輝だったのに、いつの間にか、上半身を起こして座り、右手で髪をかきあげていた。
大きくて黒い瞳が私の姿を映すと、とっても穏やかな瞳に代わった。
平気だという変わりに彼は、私に向かって両手を広げると、「おいで。」と一言口にした。
私は、その言葉と同時くらいに体が動いて、自分でも驚くくらいのスピードで、彼の胸に飛び込んでた。
ぎゅーっと彼にしがみつく私に、
「なんだよ。さては、サンガが言い寄ってきたのか?」
といたずらっ子みたいな笑みを浮かべながら、私の顔をのぞきこんでそう言った蒼輝。
さっきまでの辛そうな顔でも、切羽詰った険しい顔でもなくて・・・。
それは、緑豹国の王ではなく、私をただ愛してくれている一人の男の顔だった。
心も頭も、私の事だけを考えてくれてる恋人の笑顔。
それが、たまらなく嬉しいのと、あとは・・・心からホッとできた。
「フフフ・・・。」
満足過ぎて幸せな私は、そんな変な笑いをしたまま、蒼輝の胸に顔を押し付けてさらにくっついた。
「へんなヤツだな・・・。」
と首をかしげながら苦笑いをしてた蒼輝だったけど、それでも感じれたんだ。
蒼輝も私と同じ気持ちでいてくれてるって。
今、この瞬間は、お互いがただの愛し合う恋人同士として接してられてる時間だって。
だって、私の髪をなでてくれてる彼の手が、本当に優しくて暖かい手だったから。
「蒼輝、お前なぁー!!」
とさっきの蒼輝の冗談に黙ってられないサンガは、蒼輝に逆襲をしようと体を乗り出してきたけど、
「今は、邪魔しちゃダメ!!」
とランさんの止めてくれる声と、「チェッ。」というサンガの舌打ちが、遠くで聞こえた気がした。
一方の私たちはというと、それっきり、お互い何も言わなかった。
ただ、蒼輝の鼓動とぬくもりを感じて、抱き合っていた私たち。
だけど、それも長くは続かなくて、しばらくして、蒼輝の咳き込みで、穏やかな時間は終わりを告げた。
「蒼輝・・・どうかした?」
伏せていた顔を上げて、蒼輝を見上げて心配そうに聞いた私。
だって、急に咳き込んだりするから・・・やっぱり、心配でしょ。
さっきの戦いで、怪我でもしたんじゃないかって・・・。
そう思って蒼輝を見ていた私の眼は、相当すごい顔だったのかもしれない。
私の前髪に触れた蒼輝は、私の髪を上に上げると、私のオデコに軽くて優しいキスをチュッとした。
「な・・・何??」
そんな予想外の行動にビックリしちゃった私は、今度は驚きの目で彼を見る。
蒼輝にも負けないくらいの大きな瞳で彼を見る私に、蒼輝は声を出して笑う。
「目が落ちるぞ!!」
なんて言いながらも、さらに笑ってる蒼輝に、私が今度は突っ込んじゃう。
「だって、蒼輝が変な事するから・・・。」
そう口にしちゃったら、変に蒼輝のキスを意識しちゃった私は、いったあとで赤面しちゃって。
また、蒼輝の胸に顔をうずめて、照れ隠し。
こんな感じで私はいっぱいいっぱいなのに、蒼輝はというと・・・。
「ホント、翠って、純粋だよな。」
と余裕の言葉。
確かに、蒼輝は女嫌いだったけど、モテてはいただろうし、私よりは女なれしてるだろうけど・・・。
でも、なんか、この余裕振りがちょっと・・・おもしろくないかも。
「蒼輝もドキドキしてよ。」
ボソっと催促する私に、「気付けよ・・・。」と、蒼輝もボソっと返してきた。
「えっ?」と声をあげながら、少し顔を彼の胸から離した私の手を彼は素早く取ると、自分の心臓がある辺りの胸に当てた。
「鼓動、速いだろ?」
そう言われたら・・・そうかも。
でもこれって・・・。
と思った私は手は、そのままで、彼を見る。
「さっきむせたのが原因?
体調悪いの?」
と真剣に聞いたのに、「だから、そうじゃないだろ。」と・・・なぜか、タメ息アーンド怒られた。
「へっ?」
とバカ面で彼を見るけど、蒼輝は呆れて物が言えないといった感じの表情をして、答えはくれそうにない。
そして、周りもみんな・・・大爆笑だし。
「えっ?えっ?」
とみんなをみながらキョトンとした私に、優しい救世主は訪れる。
「蒼輝は、翠ちゃんが思っている程、女に慣れてないから。
純粋さ・・・いや、ウブさは、いい勝負だと思うよ。」
と言いながら、「アハハ。」と楽しそうに笑ったヒビキさんに、もちろん、彼は素早く文句を言う。
「おいっ!余計なことまでいうな。」
って。ヒビキさんの言葉でなんとなく・・・理解できたかも。
つまり、蒼輝も私と同じくらい、ドキドキしてるって・・・そういう事?
私は蒼輝を見つめて、彼に目で訴えた。
「そうなの?」って・・・。
そんな私の念がこもった瞳に見られたら、蒼輝も降参したのか、「なんだよ。」と文句は言いつつも、「わかったよ・・・。」と早々に降参の言葉をくれる。
「俺も、翠と同じ気持ちだよ。
同じようにドキドキしてるし、同じように大切に思ってる。
特に、心配そうに俺を見つめるお前の目は・・・。」
そこまでいった蒼輝は、なぜか急に口を閉じて黙ってしまって。
それって・・・すっごい気になるでしょ。
って事で、もちろん、私は彼の首に両腕をからませて、抱きついて迫る。
「そんな所で止めないでよ!
気になるでしょ!ねぇー、言ってよ!
“目は・・・”の続きは何?ねぇー。」
すごい剣幕で追求する私に、「あー、うるせぇー。」と片目を閉じて耳も両手で押さえて、面倒くさいを、体全体でアピールの蒼輝。
そんなに嫌がらなくても、いいじゃない!!
と、私はヘコむ所か、余計に元気が出ちゃって、彼に迫る手を緩めなかった。
「もぉー、教えてってばっ!!」
って言ってさらに抱きついた私なんだけど・・・。
「うわっ!!」
と叫び声を上げちゃった。
だって、彼に抱きついていた私の体は、なぜか今は、彼の腕にお姫さま抱っこされてる・・・。
蒼輝は座ったまま。
そして、私は彼の右腕に背中を支えられて、彼の左腕に両足の膝がひっかかってる。
目の前には・・・彼の顔がこの上なく近くにあった。
「な・・・なんで??」
さっぱり、起った事がわからない私は、この恥ずかしいスタイルにドキドキってよりも、目の前にある蒼輝の顔の近さにドキドキが止まらなかった。
目のやり場に困った私は、たまらず目を蒼輝からそらしたんだけど、顔に「フゥー。」と息をかけられて、ついつい・・・蒼輝の方に顔を向けちゃった私。
目が合った途端にやっぱり、私は何も言えなくなっちゃって・・・。
ただ彼を凝視している私の姿を見た蒼輝は、大きな瞳が半分の細さになっちゃうくらい、笑った。
「教えてやるよ・・・さっきの続き。」
そう言った蒼輝は、私の耳に唇を近づけた。
彼の言葉を聞くよりも・・・。
彼の唇がこの上なく近い事。
そして、耳にかかる彼の息に、全神経が集中しちゃって、言葉が出るよりも先に、赤面してしまった。
「お前の目は、俺の気持ちを焚(タ)きたてるんだ・・・。
翠が、愛おしくてたまらなくなる・・・・。」
そう言ったあと、蒼輝は私の耳から唇を離すと、
「なんてな・・・。」
と言ったかと思えば、今度は私から目をそらすと、ちょっとバツが悪そうにこう言った。
「俺、何言ってんだ・・・。」
って。そして、蒼輝には珍しく照れた笑いをしたから、ビックリ。
こんなに照れた蒼輝の顔・・・いや。
素直な蒼輝の顔は、初めて見た。
なんか、とぉーっても、かわいかった。
でも、突っ込む余裕も、「嬉しい。」と言う余裕も私にはなかった。
だって、“あの”の蒼輝がこんな告白・・・ありえないでしょ。
想像もしてなかっただけに、とんでもない不意打ちで・・・私はノックアウトで。
鼻血が出ちゃうくらい・・・幸せでうれしくて・・・のぼせ上がっちゃって。
なぁーにも言えなかった。
ただ、蒼輝をじぃーっと見つめてる私。
そして、そんな私を見ながら、さらに照れ笑いをしてる蒼輝。
みんなには、今の言葉は聞こえてないだろうけど、なぁーんとなくは、わかってるはず。
サンガですら、茶々入れてこないから。
でも・・・彼は別だよね。
こんな空気読めるわけがなくて・・・やっぱり、登場!!
「ねぇー、ねぇー。
何を、こそこそ言ってるのぉー!!
僕にも聞かせてぇー!!」
そして、蒼輝の服を牙で、クイクイと引っ張る。
さっきまで、とぉーっても穏やかで優しい顔つきだった蒼輝の顔が・・・。
いやぁーん!って思っちゃうくらい、見る見る豹変していく・・・。
「お前・・・うっとぉーしぃー!!」
ボソっと言った蒼輝なんだけど・・・トーワくんには、そんな攻撃はかすりもしなくて。
「えぇー?なぁーに?聞こえなぁーい!!」
と耳元で叫ばれ、反対に蒼輝が・・・撃沈。
「うるせぇー!!」
と怒鳴りながら、トーワくんの頭をはたいて、彼をサンガの元へと吹っ飛ばした。
「お前に、やるよ。」
飛んできたトーワくんのしっぽをつかんで彼をブラブラと揺らすサンガは・・・・。
「俺もいらねぇーよ。」
と冷たい一言。
「えぇー!!ひどぉーい!!
僕が居たからみんな助かったんだよぉー!!
僕、大活躍だったのにぃー!!」
と手足をジタバタして暴れるトーワくんに、
「わかった、わかった。
いいから、暴れるな!しっぽが切れるぞ!!」
と言いつつ笑ってるサンガ。
そんな穏やかな光景を見ていると・・・なんだか、心がジワジワと温かくなるのを感じた。
こうやって、蒼輝が側に居て、みんながいて・・・。
私が夢にまで見た光景の中に私はいるんだと思っただけで・・・とても幸せに感じた。
「それより、蒼輝!
お前、呼吸は平気か?」
突然そう言ったのは、もちろんヒビキさん!
こんな冷静な言葉をいうのは、彼しかいないでしょ。
彼の言葉に、「えっ?」と言いながら、蒼輝を見た私に蒼輝は、
「たいした事じゃないから、心配するな。」
と私の髪を優しく触れながら、先に小声でそう言ってくれて、私の不安を取り除いてくれた。
そのあとで、私から、ヒビキさんへと目線を移動させた。
「ああ。眠っている時は、さすがに苦しかったけどな・・・。
起きてこうやって、自然に話していると、この空気の薄さにも慣れたよ。」
それを聞いて・・・気付いた。
さっき、むせてたのは、それでだったの?って。
そりゃそうだよね。
眠ってて状況がわからないのに、空気は薄くなっていってたんだもん。
眠っている蒼輝の事をスッカリ忘れていた私は、自分に自己嫌悪。
「ごめんね。」
と謝る私に、
「お前が気にすることないよ。」
と言ってくれた蒼輝なんだけど、ヒビキさんのこの質問にこう答えた。
「眠ってて苦しくなるって、どんな感じ?」
と半分笑いながら言ったヒビキさんに、
「そうだな。首を絞められる夢を見たよ。」
だって。リアル過ぎるし・・・それって、遠巻きに私を責めてない??
「もう!意地悪なんだから!!」
とプクゥーと口を膨らませながら、蒼輝の胸に右ストレートをプレゼントした私に、蒼輝はただ声を出して笑ってた。
その声は本当に・・・嬉しそうだった。
そんな無邪気な蒼輝を見てて、彼も入りたくなったのかもしれない。
蒼輝が大好きな彼も、参加してきちゃったんだよね。
「けどさー、夢に出てきた人って、本気でお前の首を絞めたいのかもよ?
お前って、恨みかいそうだもんなー。」
って・・・また余計な事を!!
そんな事言っちゃったら、また、ゴングなっちゃうじゃない!!
と思った矢先・・・、雲行きはすこぉーし・・・怪しくなってきたのよね・・・。
とぉーっても嬉しそうに言ったサンガとは違って、一方の蒼輝は、「はぁ?」と冷たい目を向けると、思いっきりサンガの頭をはたいた。
「いってぇー!!」
と叫んだ彼に、
「お前じゃあるまいし、俺が恨まれるわけねぇーだろ!
それくらい苦しかったっていう比喩だろが!!
わかれよ、バカ!」
普段ならそこまで言われたら、「なにー!!」とサンガも突っかかりゴングがなるんだけど、なぜかサンガは頭をなでながらニコニコ顔。
「お前・・・狂(クル)ったか?」
と心配の眼差しで見た蒼輝に、サンガはただ嬉しそうに笑ってた。
私も、蒼輝と同様、「へんなのー。」って思ったの。
いつものサンガなら、とっくに言い合いになってるはずなのに。
この嬉しそうな顔・・・なんで??って。
その答えを知るキッカケは、この人のこんな言葉だった。
「ホント・・・素直なやつだな。」
背後から、そんな声が聞こえた。
今私は、蒼輝の腕の中から離れて、ミューラの背中の上に座ってる。
そして、背後には、ヒビキさんがいてね。
さっきの彼の声に、私は振り返ると、ヒビキさんを見てもちろん、さっきの言葉の意味を早速聞いたの。
「素直って・・・誰が?」
って。すると、ヒビキさんは、たまにする兄貴みたいな優しい瞳で彼らを見ながら口を開いた。
「サンガは口には出さなくても、ずっと蒼輝を心配していたんだ。
ラウオの城に向かう前からね。
蒼輝は命がけで自分を守るって、サンガはちゃんとわかっていた。
だから、自分は、決して無理をしないように。
蒼輝の足を引っ張らないように。
サンガはそれだけを、ずっと心に刻んでラウオの城へと挑んだはずだ。
だけど、事態は悪いほうへ進み、一番の負担をこうむったのは蒼輝だった。
サンガはずっと祈っていたはずだ。
蒼輝が無事でいられるようにってな。
それは、蒼輝が好きなのもそうだけど、一番の理由は翠ちゃんにある。」
「私?」
と聞いた私の言葉に、ヒビキさんはうなずいた。
「蒼輝に何かあれば、翠ちゃんが悲しむ。
アイツは、その姿も見たくなかったはずだ。
だから、ずっと気を張っていた。
今、蒼輝が元気になって笑って、自分に冗談を言ってくれる。
それが、サンガにとって、一番の嬉しい事で、安息の時なのかもしれないな。
だから、サンガはわざと、蒼輝にかまってもらえるような発言をしたんだと思うよ。
親にかまってもらいたいから、子供がわざといたずらをする。
そんな感覚に、似ているのかもしれないな。」
って事はよ・・・。
「蒼輝の例えをわかってて、わざと?」
ビックリした声を上げた私に、
「おそらくね・・・。」
と笑ったヒビキさんに私は、呆れた声でこう言った。
「信じられない・・・。」
って。私の態度に、さらにウケちゃったヒビキさんは、お腹を抱えて笑いし出しちゃって。
「どうしたんですか?」
とランさんが心配するけど、ヒビキさんは、「なんでもない・・・。」と言ってずっと笑ってた。
ホント・・・笑い上戸なんだから!と思いながら私も・・・つられて笑っちゃった。
「頂上が見えてきました。」
ミューラの声に、私たちは前方を見るために少し体を前に出した。
「あの赤い龍は・・・なんだ??」
サンガの言葉にみんなは、何も言えなかった。
そりゃそうでしょ。
だって、目の前には大きな門があってね。
遠くから見えていた時は、本物の龍に見えたんだけど、目の前に来ると、それは作り物だとわかった。
赤い石で出来た龍が、こちら側・・・。
つまり、正面を向いて、2体が引っ付いた状態で居た。
その龍が邪魔をして、先には進めそうにない。
「どうやって入るんだ?」
蒼輝の言葉に、
「そりゃ、破壊しかないだろう。」
と即答のサンガ。
二人のそのやり取りに対して、ヒビキさんは何も言わない。
というか・・・完全に無視していたのかも・・・しれない。
その龍から、20メートルくらい離れた位置で、空に浮いていたミューラに、ヒビキさんは指示を出す。
「とりあえず・・・近付いてみてくれ。
ただの門ではなくて、“作り物の龍”って言うのが、ひっかかるが・・・。
こうして、遠くにいてもしかたがない。
俺たちには、時間がないんだからな。
とりあえず、進んでみよう。
ただ、何が起こるかわからない。
こんな言葉しか言えないが・・・充分に注意してくれ。」
その言葉に、ミューラは首を大きく振りながら、「わかりました。」と答え、ユックリと止まっていた体を前に進ませた。
ミューラと作り物の赤い龍との距離が、数メートルになった時、作り物の龍の目が緑に光った。
そして、右側の龍が口を開いた。
「雅!!」
ヒビキさんの言葉に、ミューラも防御に回る。
ラウオたちの攻撃をしのいだ時のように、両羽を目の前にかかげるとクロスにして、盾を作った。
だけど、口を開けた龍から届いたのは、炎でも攻撃でもなかった。
それは・・・“言葉”だった。
「この門をくぐり、赤龍国(セキリュウコク)の地を踏む者は、神の鳥ミューラのみ。
そなたがミューラであるならば、この門をくぐるがよい。
そうでないものは、灰になるがよい。」
龍はそういうと、正面に向いていた顔をそれぞれ横に向けると、龍同士が向い合わせになった。
そして、少し後退する。
ミューラが、通れるくらいの隙間が出来た。
盾としてかかげていた翼を下ろしたミューラは、ヒビキさんにこんな言葉を言った。
「ヒビキさん。いきますか?」
って。この慎重さに、つくづく思ったよ。
雅さんらしいって。
だって、これが、蒼輝だったら、有無も言わさずっていうか、いう事聞かずに、サッサといっちゃいそうだけど。
そして、聞かれたヒビキさんも、雅さん同様、何かを感じたようで、
「いや・・・ちょっと待ってくれ。」
と彼に待ったをかけた。
そして、ヒビキさんはというと・・・少し考え込んだ。
ヒビキさんの考え込むのを私たちは静かに待っていられるけど、“彼”はそうはいかないみたいで・・・やっぱり、ヒビキさんの考えを邪魔しちゃう。
「何を待つ必要がある!
翠には、時間がないんだ!
とっとと行くぞ!!」
行く気マンマンの蒼輝だけど、
「お前・・・おかしいと思わないのか?」
とヒビキさんは言いながら、蒼輝を少し冷たい眼差しで見た。
その目つきにムカついたようで、「なんだよ。」と蒼輝は戦闘モードになっちゃって。
私は、慌てて蒼輝の腕をつかむ。
「もう!落ち着いてよ!
ここは、ヒビキさんにまかせようよ!」
となだめるけど、私に時間がなくて焦って熱くなってる蒼輝が、こんな言葉なんて聞いてくれるわけがない。
私の腕を振りはらって、ヒビキさんに、
「行け!命令だ!!」
と言い出して。
そして、こういう時の蒼輝に対して、ヒビキさんって・・・いつもの彼じゃないんだよね。
挑戦的というか、彼の地がでちゃうというか・・・。
前に殴り合いの喧嘩をしてたじゃない?
あの時みたいに、ヒビキさんも引かなくて・・・。
「行くなら、お前一人でいけ!
焦る時こそ、時間がない時こそ、いつもよりも冷静に慎重にするのが当たり前だろ!
お前は、そういう当たり前の事がわかってない!
王として、そういう事を、いい加減学べよ!」
「ふざけんなっ!!」
と叫ぶと同時に、ヒビキさんの胸ぐらをつかんだ蒼輝。
「いつもいつも、お前は冷静で、それはそれはご立派な王だよ!
だけどな。そんな風にいつもいつも、チンタラしてっと、命取りになることだってあるんだよ。
時と場合を知れっ!」
「お前に言われたくないね。」
「なんだとぉー!!」
「なんだよ。」
「ふざけんな!!」
「それは、こっちのセリフだ・・・ボケ!」
「ボケって・・・テメェー!!」
と最後は・・・取っ組み合いになっちゃって。
「ちょっと、ヒビキさま!!」
とランさんが止めようとするけど、腕を強く振り払われて、無理。
サンガも、蒼輝を止めようとしたけど、反対になぐられちゃって、「いてぇー!!」と言いながら頬をなでる始末。
「翠さん・・・何とかして下さい。」
と藍瑠(アイル)さんに言われたけど・・・。
「たぶん・・・無理かも・・・。」
とすでに白旗の私。
だって、あの冷静なヒビキさんがこんなにヒートアップしてるんだよ。
そんなの私が、なだめられるわけないじゃない。
それに、蒼輝だってわかってるはずだから。
ヒビキさんがこうなっちゃうのは、ヒビキさん自身の心にもゆとりがないと言うか、いっぱいいっぱいで、煮詰まってるからなんだって。
だから、蒼輝は、当たって砕けろ!じゃないけど、いつもいつも考え込まずに、行ってみるのもいいじゃないか。って・・・そう提案したんじゃないかな?って思うの。
ヒビキさんの性格をイヤって程知ってる蒼輝だから、ヒビキさんが慎重になるのもわかってるはずだし、彼の性格を否定する気持ちも本当はないはずだから。
彼なりに、ヒビキさんを助けたいと。
力になりたいと思ってるんだと思うから。
素直じゃないから、けんか腰になっちゃうんだろうけど・・・。
そして、ヒビキさんもちゃんとわかってると思う。
蒼輝のそういう気持ち。
だから、余計・・・彼も素直になれないというか、いつもみたいに聞き流す事が出来ないんだと思う。
自分のいっぱいいっぱいの気持ちを、蒼輝にぶつけてしまうんだと思う。
これは、ヒビキさんが、蒼輝だけに出来る、甘えなんだと思うから。
ヒビキさんがこうやって、気持ちをぶつけられるのは、蒼輝にしかないと思う。
だけどね・・・。
お互いの気持ちもわからなくはないけど、いつまでも、こんな事されてるわけにはいかないのよ!
私には時間がないわけだし。
それに、お互いの気持ちを理解してるにしても、蒼輝もヒビキさんも頑固者じゃない?
どっちかが謝るとかは・・・ありえないでしょ。
だから、前の時みたいに、喧嘩のまま時間が過ぎるみたいな感じになっちゃうと思うの。
でも、今、それをされると困るので、ここは一つ、この喧嘩を終わらせてもらわなきゃ!
それが出来るのは、やっぱり、もう一人の王の彼に頼るしかないっしょ。
私は、一人豹になっちゃってる彼を見た。
そして、ウインクをして、「お願い。」とねだる。
「えぇー!!」
ととぉーっても、嫌がった顔をしたんだけど、、
「もぉー!!」
と口をとがらせながらも、動き出してくれた。
そして、まずは、ヒビキさんに投げ飛ばされた、蒼輝の元へと向かう。
「ねぇーねぇー。ここはさぁー、ヒビキの考えを聞こうよぉー!!
ねぇー!!」
と蒼輝の前に言って、ニッコリと笑ったトーワくん。
「うるせぇー!テメーは、ひっこんでろ!!」
とトーワくんを殴った蒼輝の手は、空を切り空振りをして、彼は前にずっこけた。
「よけんなよ・・・。」
と顔をミューラの背中にくっつけながら言った蒼輝に、
「痛いもぉーん。よけるよぉー。」
と逃げながらそう言ったトーワくんは、その足でヒビキさんの元へと向かう。
「ねぇー、ヒィービキ!
さっき、言ってた“おかしい”って、なぁーに??
教えて、教えてぇー!!」
首をかしげて、かわいい瞳でみつめるトーワくんに、冷たく冷徹な顔になっていたヒビキさんも、「プッ」と笑うと少し顔を緩めた。
「この龍が言った言葉だ。
コイツはこう言った。
『ミューラでないものは、灰になるがよい。』と・・・。」
「それが、どぉーしたのぉ?」
といいながら、さらに首をかしげるトーワくんに、サンガがこう言った。
「つまり、ミューラでなければ、死ぬって事だろ?」
って。それには、私たちも納得した。
そうとしか理解ができないよね。
それの、どこがおかしいの?
首をかしげる私たちに、蒼輝はイライラをぶつけた。
「さっさと、言えよ!
時間がねぇーんだ。」
その荒げた声に、
「わかんねぇーくせに、偉そうに言うなよ!」
とボソと横向いて突っ込んだサンガに、蒼輝はつっかかる。
「聞こえてんだよ。そこのバカ!」
って。それには、サンガもカッチーン!!
「バカにバカって言われたくねぇーよ!」
と言い返しちゃったものだから、ゴングはなってしまった・・・。
「誰がバカだよ。」
「てめぇーだろ!このバカ、王子!!」
「もういっぺん言ってみろ!!」
「何度でも言ってやるよ!」
と言い合って、近寄った2人が取っ組み合いを始めようとした時、2人の頭にほぼ同時にパンチがとび、2人はしりもちをついた。
お互いが痛がり頭を抱えている姿を、彼は冷ややかな目で見てた。
「さっきまで、俺も熱くなってたから、人の事言えないけど・・・。」
と一応先に前置きをしたヒビキさんは、その上で、2人を見ると情けない顔をしてこう言った。
「おまえらの喧嘩は、低レベル過ぎて、見てて情けなくなる・・・。
いい加減、大人になってくれ・・・。」
そして、さらに、「はぁー。」とこの上なく大きなため息をついた。
「そんなにデカイタメ息つくなよ・・・。」
と蒼輝。
「ホント・・・俺たちが、すっげぇー、バカみたいだろ。」
これは、サンガの意見。
そして、2人は顔を見合わせて、同時にこう言った。
「大人になろうな。」
って。その顔と言い方がおかしくて、私とランさんと藍瑠(アイル)さんは、大笑いしちゃった。
だけど、時間がない為、ヒビキさんは口元を少し緩ませて笑っただけで、すぐに真面目な顔に戻ると、さっきの続きを話始めた。
「サンガがいったように、きっとさっきの文面の『灰』は『死』を意味するんだと思う。
じゃあ、この龍の間を通って死ぬとしたら・・・。
『灰』と『龍』。そして、2匹の龍が向かい合わせに口を開けているところを見ると、どうやって殺されるか、わかるよな?」
「炎??」
私と藍瑠(アイル)さんとランさんの声が重なった。
その言葉に、ヒビキさんは少し笑いながら、
「さすがに、女性陣は頭がいいね。
バカ男2人組と大違いだ。」
としっかり嫌味をいったヒビキさん。
それには、ちょっと思っちゃったんだよねぇー。
ヒビキさんを怒らせると、恐ぁーい!!って・・・。
「けどぉー、その炎がなぁーに?
何が気になるのぉー??」
トーワくんの言葉に、今度はヒビキさんはミューラに話しかけた。
「青鳥国(セイチョウコク)には、鳥になれる者も昔はいたんだよな?」
それに対してミューラは、「ええ。」と答えた。
「だけど、ここに来れる者は『ミューラ』だけだと、蒼さまは制約し、さらに、そのミューラになら、この龍の間を通れるとなっている。
つまり、裏を返せばミューラにしか出来ない事が、この炎を防げる行為である可能性が強いという事になる。
なー、雅?
他の鳥のやつらと違う、お前だけの能力ってなんだ?」
「それは・・・。」
と言ったミューラの続きを、この人が答えた。
「無敵の力です。」
藍瑠(アイル)さんの言葉に、「えっ?」と言ったヒビキさんはこちらに振り返った。
「翠!お前も知ってるんだろ?
俺たちに、説明してくれ!!」
急にいつもの蒼輝に戻った彼が、今度は私にせまってきた。
彼の言葉に、ヒビキさんも藍瑠(アイル)さんから私に目を移した。
しかたなく、藍瑠(アイル)さんと雅さんの代わりに私が説明する事に。
「雅さんは、ミューラの姿になると、無敵の体を手に入れる事ができるの。
つまり、緑の豹の姿になった蒼輝と、同じなの。」
そこまでいった私の言葉の続きは、ミューラ自ら語られた。
「さっき、翼を盾に弾を防いだでしょ。
あれは、一種のバリアーです。」
「バリアーって・・・。」
そう言ったヒビキさんは、一旦口を閉じたものの、すぐにピンと来たみたいで、ミューラに聞く。
「まさか、青の力を高めたら、翼だけでなくて、他にもバリアーが張れるのか?」
「ええ。」と答えたミューラは、さらに種明かしをする。
「私の背中に乗っている人たちの上に、バリアーを張る事ができます。
さっきみたいに、盾としてバリアーを張るなら、翼をつかいます。
それが、僕の王として3つある力のうちの、1つです。」
それを聞いたヒビキさんは、蒼輝を見る。
そのヒビキさんに向かって蒼輝は、こう言った。
「俺と一緒だ。」
って。ヒビキさんもきっとそう思ったんだと思う。
蒼輝の言葉に何も言わずに、黙ってヒビキさんはミューラへと目を向けた。
「では、バリアーを張った状態で、あの龍の間を渡れば炎を受けないという事ですか?」
ミューラの言葉に、
「どうだ?出来そうか?」
と聞いたヒビキさんに、「ええ。たぶん大丈夫だと思います。」と答えたミューラは、大きく息を吐くと、体中の神経を集中させた。
彼の力がどんどん高まっていっているような気がした時、青かったミューラの体は青白い光に包まれた。
私たちの体にもその光はくっついてきて、腕を振っても何をしても取れなかった。
「これで、バリアーは張れました。
龍の間を飛びます。いいですか?」
ミューラの言葉に、「ああ。行ってくれ。」とヒビキさん。
その声に、ミューラは、大きく翼を羽ばたかせると、目の前の龍の門の中に飛び込んでいった。
少し体が入った瞬間、赤い強い炎が私たちに向かって解き放たれた。
「焼けるぅー!!」
とトーワくんの声が聞こえた。
私も、そう思ってしまって、ついつい首をすくめちゃった。
熱い光は目に飛び込んできたけど、熱さは私には届かなかった。
「大丈夫。ちゃんとバリアーが守ってくれてる。」
いつのまにか私をまた、抱きしめてくれていた蒼輝はそう言いながら、私の髪をなでてくれた。
その声と手にホッとした私は、つむっていた目を開けて、蒼輝を見上げた。
「無事、門をくぐったよ。
もうじき、翠怜(スイレン)さんとご対面だな。
そうしたら・・・。」
蒼輝はそこで言葉をやめた。
「な・・・に?」
と言った私に、「いや。なんでもない。」と笑ってごまかした蒼輝だったけど、本当は『なに?』って聞かなくてもわかってた。
蒼輝が『そしたら』の先に言いたかった言葉・・・。
私は胸が苦しくなった。
苦しくてたまらなくて、我慢できずに言っちゃった。
「そしたら、・・・お別れだ。って・・・そう言おうとした?」
突然そう言った私に、「翠?」と不思議そうな声を上げた蒼輝に、私はたまらず、彼に抱きついた。
「どうしよう・・・恐いよ。」
私の言葉に、「何が?」と優しく蒼輝は聞いてくれた。
その声は本当に優しくて・・・私は、戸惑う事無く心にある思いを口にしてた。
「私、ちゃんと蒼輝と別れられるか自信がないよ・・・。
もし、私が拒否したらどうなるの?
っていうか・・・拒否したいよ・・・。」
やっと蒼輝とこうやって、一緒にいられるんだよ。
今回の旅は、一緒に居られたような居られなかったような・・・。
心が通ったかと思ったら、離れてってしてたから、納得してない。
もっともっと、一緒にいたい。
蒼輝ともっと、色んな気持ちを語り合いたいよ。
彼の胸に頬をくっつけて、彼に抱きつく私を彼は優しく包み込んでくれた。
「翠・・・よく聞いて。」
蒼輝はそういうと、私の体を少し自分から離すと、私の瞳をじっとみつめた。
「翠がこっちの世界にいるのには、理由があるよな?
ってことは、翠が向こうの世界にいるのにも、理由があるはずなんだ。
前回戻ってから、翠がこっちに戻って来るまでに、1年の期間がかかった。
それは、きっと何か意味があったんだと思う。
だから、翠!
向こうへ戻る事を恐がるな。
向こうへ戻るのは、またここへ戻って来る為の試練だと思え。
向こうで何かを得ないと、翠はここにはいられない。
ここで俺と会うために、翠は向こうで何かを得る。
そう思ったら、頑張れるだろ?」
そう言って、私の髪を優しくなでた蒼輝に、「でも・・・。」と反発した私の声は、こんな声にかきけされた。
「蒼輝の言う通りです。」
その声に、私たちは、その声の方に目をやった。
いつのまにか、目の前には、美しい城があった。
「今の声は・・・。」
と言ったヒビキさんに、その声は答えた。
「ミューラから降りて、その門をくぐり扉をお開けなさい。
城の者が案内してくれます。
時間がありません。
早くわたくしのもとへ、来るのです。」
その言葉を最後に、声は途絶えた。
「今のは、翠怜(スイレン)さんか?」
蒼輝の質問に、「だろうな。」と答えたヒビキさんは、ミューラの首を優しくなでた。
「雅、その門の前に着陸してくれ。
ここからは、徒歩で行く。」
ヒビキさんの言葉に、「はい、わかりました。」と答えたミューラは、地に足をつけると、しゃがみ、少し体を傾けた。
私たちは、滑り落ちるように、地面へと降りた。
全員が降りた事を確認した上で、ミューラは雅さんへと姿を変えた。
「うわっ!すっげぇー、髪の色!
蒼輝の緑の髪も鮮やかで眩しかったけど、雅の髪もすっげぇー鮮やかだな。
目が痛い。」
と言いながら、わざとらしく瞬きをたくさんするサンガを見ながら、雅さんは素直に笑ってた。
「うわぁー。おめめも、オレンジなんだぁー。
ねぇー、見える?僕が見えるぅ??」
と言いながら、両手をブンブン振って、かわいいポーズをするトーワくんを目の前にした雅さんは、
「ええ。かわいい姿が見てますよ。」
と優しく答えてる。
「かわいい?わぁーい、わぁーい。」
とさらにハイテンションのトーワくんなんだけど・・・。
「ほらっ!とっとと行くぞ!」
「そうだな。」
「走るぞ。」
蒼輝。サンガ。そして最後はヒビキさん。
と順番にこんな言葉が出て・・・私たちは、トーワくんに触れる事もなく、ダッシュをするハメに。
「あぁー!!みんな、待ってよぉー!!」
と半泣きであとから走ってきていたトーワくんが居た事は・・・言うまでもないけどね・・・。
本当は、豹の姿になって、乗せてもらったほうが早かったのかもしれないけど、門をくぐって扉を開けたらそこは・・・街だったの。
城の中じゃなくて、街だった。
つまり、この街自体が、赤龍国(セキリュウコク)の王が住む城の中にあるって事。
頑丈な囲いに守られた中に、その街はあった。
普通に人々とすれ違ったりしたの。
そんな中、豹が走り回るわけにはいかないでしょ。
だから、私たちは人間の姿で、ひたすら翠怜(スイレン)さんがいる場所を目指したの。
「おい。誰か立ってるぞ。」
蒼輝の言葉に、ヒビキさんは、「ホントだな。」と答えると、
「彼が、翠怜(スイレン)さんの言っていた人かもな。」
と返してきた。
彼の推理どおり、その人は、私たちが着くや否や、すぐにこう言ってきた。
「お待ちしておりました。
翠怜(スイレン)さまの側近の『累(ルイ)』と申します。
翠怜(スイレン)さまがお待ちです。
こちらのエレベーターから、おあがり下さい。」
彼の指示に従い、私たちはエレベーターに乗り、翠怜(スイレン)さんの元へと向かった。
7階くらい上がったあたりで、エレベーターは止まった。
そして、扉が開いた。
そこは、フロアー自体が、翠怜(スイレン)さんのいる王座で、扉が開いた正面に続く階段の奥にある王座には、翠怜(スイレン)さんが座っていた。
私たちは、そのまま、ユックリと、王座へと歩いた。
階段の手前で、ヒビキさんが膝をついて座ったから、私たちも彼を真似して、しゃがんだ。
「初めてお目にかかります。」
と頭をさげて口にしたヒビキさんに、翠怜(スイレン)さんはやさしく笑った。
「ヒビキですね。時間がありません。
堅苦しい挨拶は、抜きにしましょう。」
そう言いながら、私たちの方に歩いてきた翠怜(スイレン)さんは、やがて、ヒビキさんの頭に軽くふれると、そのまま、全員の下げている頭に、ペチペチと触れていった。
私たちは、もちろん、顔を上げて翠怜(スイレン)さんを見た。
翠怜(スイレン)さんは、最後に私の目の前にくると、しゃがんだ。
私の目線と翠怜(スイレン)さんとの目線が、一緒になった。
翠怜(スイレン)さんは、本当に私に・・・似ていた。
「本当に・・・似てますね。」
たまらずそう言ってしまった私に、翠怜(スイレン)さんは上品に笑うと、
「でも、その優しい眼差しは、蒼(アオイ)さまに、似てるわよ。」
と言った。
そのあと、彼女は私の体に自分の腕をユックリと忍ばせてきて、私を自分の胸に抱きしめた。
「翠・・・大きくなりましたね。」
なんでかな?
私は、翠怜(スイレン)さんの事なんて記憶にないし、私の両親は向こうにちゃんといる。
ここでの記憶だって、もちろんない。
でも、本当に不思議なんだけど、この胸・・・なんか懐かしいの。
この暖かい居場所を私は知ってる。
遥か遠い記憶。
頭の片隅でわずかに覚えているような、ホントに小さな記憶なんだけど・・・。
私は、覚えている・・・。
翠怜(スイレン)さんに抱きしめられて、私は実感したんだ。
私は、この人の娘なんだって・・・。
「翠怜(スイレン)さん・・・教えて頂けますか?」
私の横で、そんな声がした。
ヒビキさんの言葉に、翠怜(スイレン)さんは私から手を離すと、「何をです?」とヒビキさんに聞き返した。
「知りたい事はたくさんあります。
でも、時間がありませんから。
1つだけ。これだけは、翠ちゃんがここにいる間に教えていただきたい。」
そう言ったヒビキさんに、翠怜(スイレン)さんは、「ええ。どうぞ。」と右手を差し出して、うながした。
それを見たヒビキさんは、こんな質問をしたの。
「翠怜(スイレン)さんは、なぜ、そんなにお美しいのですか?」
そのストレートな質問に、「はぁ?」と言ったサンガは、さらに付け足す。
「お前、何、ナンパしてんだよ!!」
って。もちろん、それには、ヒビキさんは怒り出す。
「バカ!そうじゃないだろ。」
そして、サンガを殴りだしたものだから、
「ちょっと、どうすんのよ。」
と思わず言っちゃった私。
すると、ここで、意外な人が、ヒビキさんの代わりをかってでた。
「俺も、ヒビキと同じ事を、思いました。」
そう言った彼は、礼儀よく座っていた足をとくと、床にあぐらをかいて座った。
「ちょっと、蒼輝!!」
頭は上げていいとは言われたけど、いくらなんでも、神(カミ)的存在の翠怜(スイレン)さんの前で、それはないんじゃないの!!と思った私は、すぐさま、彼の背中を軽く叩いて叱った。
だけど、
「かまいません。」
と翠怜(スイレン)さんは優しく微笑みながらそういうと、私から蒼輝に目を移し、蒼輝にこう言った。
「どうして、そのような事を聞かれるのですか?」
それに対して蒼輝は、まるで、ヒビキさんが乗り移ったのかも?って思うくらいに、スラスラと答えた。
「翠怜(スイレン)さんは、翠がこの世界に生まれた時代に生きていた人だ。
つまり、200年以上、前の人だよな?
同じ時代に生きていた、あの写真に写っていた男・・・。
青鳥国(セイチョウコク)の王は、すでに死んでる。
それが、当たり前なんだけど・・・。
なのに、あんたは、生きてる。
それだけじゃない。
あの写真から、それほど日が経っていないくらいの若さがある。
一体、どういう事なんだ?
それに、もう一つ気になる事がある。」
「もう一つですか?」
「ああ。」
と頷いた蒼輝は、さらに続けた。
「緑豹国の先代王である蒼(アオイ)さまの事。
彼もまた、あなたと同じ時代の人だ。
とっくに死んでいてもおかしくないのに、彼もまたラウオの元で、人質となってはいるが、生きている。
緑の豹は確かに無敵だ。
だけど、それは、攻撃を受けないというだけで、体力や寿命には勝てない。
いずれは息耐えてしまう。
なのに、蒼(アオイ)さまは、今も尚生きてる。
ありえない。一体、どんなトリックを使ってる?」
蒼輝が言い終わったあと、ヒビキさんも、「教えて下さいますか?」と添えた。
確かに、そう言われたら・・・。
私は、目の前にいる翠怜(スイレン)さんの顔をマジマジと見た。
本当に、10年くらいしか経っていないような美しさ。
本当に、不思議。
って事で、私も遅まきながら、蒼輝とヒビキさんの指摘に納得。
ウンウンと、うなずいて、翠怜(スイレン)さんを見た。
「わかりました。お教えいたしましょう。」
そう言った翠怜(スイレン)さんは、側にある階段に腰をおろした。
「この赤龍国(セキリュウコク)に住む人は、あなたたちの国と同じく、人間と動物との混血の者です。
もう、おわかりかと思いますが、私たちは、古代に存在した龍の血と人間との混血。
そして、その中でも、龍の姿に変身出来るほどの強い力を持っている者の事を、私たちは“龍族”と呼んでいます。」
「龍族・・・ですか・・・・。」
聞きなれない言葉に確認した私に、「ええ。」と笑って答えてくれた翠怜(スイレン)さんは、さらに詳しく教えてくれた。
「私たち龍族には、特殊な力があります。
それは、人よりも寿命が長い事。
つまり、普通の混血でも、龍の血が流れているせいで、通常の人よりも2倍は生きれます。
ですが、私たち龍族はさらに寿命が長く、500年は生きながらえます。
そのため、体の衰えも、通常の人に比べると、ゆっくり流れます。
なので、200年経った今でも、私はあまり外見は変わらないのです。」
ハッキリ言って、ポカーン。
龍族って呼ばれる人種がいて、さらにその人たちは、500年は生きられる??
サッパリだよ・・・。
言われた事を理解するのに必死で、頭がついていかなかった。
それは私だけじゃなくて、2人を除いた残りのものは、私と同じ状態で、ただ聞く側に徹していた。
「なるほど・・・。
つまり、こういうことですね?」
もちろん、こう言ったのは、ヒビキさん。
彼の声に翠怜(スイレン)さんの顔が、彼の方へと向く。
「翠怜(スイレン)さんは、それで今も尚生きている。
そして、蒼さまは、その力で生きている。
そういう事ですね?」
彼の言葉に、翠怜(スイレン)さんは満足そうに笑った。
だけど、私には・・・いや、私たちにはサッパリ。
という事で、思わず私はヒビキさんに聞いたの。
「あの・・・“その力で生きてる”って・・・どの力?」
「えっと、それは・・・。」
と口を開き説明をしようとしたヒビキさんの声を、さえぎったのは・・・。
「俺が教えてやるよ!」
「えっ!!」
私は思いっきり驚いた。
だって、その声の主は・・・蒼輝だったから。
しかも、驚いたのは私だけじゃなくて、ここにいるみんなだったんだよね。
みんなの声が、『えっ!』で集結したものだから、“彼”としたらおもしろくないよね。
「なんだよ・・・。」
と言いながら、ふてくされちゃって。
それでなくても、ちょっとへそ曲げちゃっている蒼輝なのに、サンガったら、とどめさしちゃったのよ。
「お前に、説明できるのかよ!」
って。もぉー、余計な事を!
また、怒るよぉー。ゴングなっちゃうよー。
時間がないのにぃー!!
と思って、私は頭を抱えたんだけど、意外な展開へと進んだ・・・。
「お前じゃあるまいし、俺の頭はやわらかいからね。」
そう言って蒼輝らしくない笑いをした彼は、そのままサンガや藍瑠(アイル)さんたちの顔を交互に見ながら、解説を始めた。
「ラウオも翠怜(スイレン)さんと同じ、龍との混血。
そして、たぶん、ただの混血でなくて、“龍族”だろう。
蒼さまが、今も生きていられるのは、やつの血を飲んでいる・・・。
いや、与えられているからだ。」
「血を??」
そう叫んだサンガに、「ああ。」と言った蒼輝は、今度は雅さんを見た。
「お前になら・・・理解できるよな?」
周りには、意味がわからなかったと思う。
だけど、私には・・・その意味わかったよ。
だって、蒼輝が言った事はつまり、雅さんの能力と重なる部分だもん。
雅さんには、血液が出ない代わりに唾液だけど・・・。
原理は一緒だもんね。
そして、雅さんも、蒼輝の意味ありげな笑いに答えるかのように、少し笑うと、
「ええ。僕も、そうやって、蒼さまは生きていらっしゃるのだと思います。」
と答えた。
その答えを聞いた蒼輝は、満足そうな目で雅さんに答えると、視線をまた彼女に変えた。
「俺の推理、合ってますか?」
って、聞くまでもないでしょ?
だって、蒼輝ったら、すっごい自信満々なんだもん。
正解だって、わかってるでしょ!って言いたくなるくらい、毅然とした態度をとっていた蒼輝。
だけど、確認するあたりは、慎重っていうよりも、自分の力を見せ付けているように見えて、ちょっと、彼らしいと思った。
「ええ。蒼輝の言う通りです。」
蒼輝の堂々とした態度に、翠怜(スイレン)さんも頼もしいと思ったのかな?
蒼輝を見る目が、とても穏やかになったような気がした。
「それから、翠怜(スイレン)さん。
今の質問は、ヒビキからだっただろ。
俺からもあんたに聞きたい事がある。いいか?」
蒼輝はそう言って、翠怜(スイレン)さんの返事を待つ。
って事は、しないで、勝手に出題しようとしてた。
それで、気付いたよ。
さっきの蒼輝がスラスラ答えたわけ。
蒼輝は自分も翠怜(スイレン)さんに聞きたい事があったでしょ。
だから、集中して聞いていたんだと思うの。
いつになくね・・・。
それで、理解できたんだと思う。
さらに、自分が答えたのは、ヒビキさんだったら、もっと私たちにわかりやすいように語ってくれるから。
そうしたら、時間がなくなっちゃうから。
だから、蒼輝は自分で簡単に解説したんじゃないかな?って・・・。
そう思った。
でも・・・さっきの、ちょっと不思議だったんだよね。
さっき、蒼輝は雅さんに、ラウオの能力の事を、彼になら理解できるだろう?と言った。
確かに、雅さんの能力に似たラウオの力を、彼が理解できるのは納得だよ。
でも、雅さんがラウオと似た能力を持ってるって、どうして蒼輝は知っていたの?
この事は、私しか知らないはずなのに・・・。
ちょっとそれが、ひっかかった。
本当は蒼輝に聞きたかったけど、もちろん、そんな時間はない。
だって、蒼輝はさっさと、自分の問題を翠怜(スイレン)さんに言い出しちゃったから。
「時間がないから、単刀直入に聞く。
ラウオが言っていた。
自分の能力を持ってくるために、自分の意志で、左手を焼いたと。
あれは、どういう意味だ?」
私には、蒼輝の言っている意味はわからなかった。
きっと、わかるのは、ラウオにあった、ヒビキさんとサンガだけ。
だけど、これはとても重要な事だったんだと、翠怜(スイレン)さんの顔を見ればわかった。
「ラウオがそんな事を・・・。
ちょうど、よかった。話が早く進みます。」
翠怜(スイレン)さんはそういいながら、ポケットから、何かを取り出し、立ち上がると、私の目の前でひざまづいた。
「翠。これを、持ってお行きなさい。」
翠怜(スイレン)さんはそう言いながら、私の右手を取ると、手のひらに何かを置いた。
彼女の手が私の手から離れる。
そこにあったものは・・・。
「か・・・ぎ?」
そう。渚が持っていたのとよく似ている大きさの鍵だった。
「一体、これは何の鍵ですか?」
キョトンとしながら翠怜(スイレン)さんを見て聞いた私に、翠怜(スイレン)さんは私の髪にソッと手で触れると、優しくなでる。
「これは、ラウオを倒す為に必要な鍵です。」
翠怜(スイレン)さんはそういうと、私から手を離し、また、階段まで戻ると、そこに腰をおろした。
「この赤龍国(セキリュウコク)に住んでいる者は、下界に降りる事は許されていません。」
翠怜(スイレン)さんはいきなりそういうと、ラウオの秘密と赤龍国(セキリュウコク)の事を語った。
「龍の血を受け継ぐものは、龍族でなくとも、力が強すぎます。
よって、下界に降りると、その力を頼るものが出てくるため、下界に降りることは制約で、禁じているのです。
もし、どうしても下界に降りたいのであれば、龍の力を捨てる事。
しかし、それを行うという事は、ただの人間になるという事。
つまりは、二度と赤龍国(セキリュウコク)へは戻って来れなくなります。」
てっきり、私は、翠怜(スイレン)さんとのやりとりは、蒼輝がするのかと思ったの。
いつにもまして、理解ができてる蒼輝かな?って。
だけど、蒼輝は、翠怜(スイレン)さんではなくヒビキさんを1度だけみて、そのあと、腰を上げると、私の側に移動し、私を抱きしめてくれた。
初めは、何?って思った。
だけど、そんな顔で見上げた私の目に映った蒼輝の瞳を見て、わかったの。
私はもう、いつこの世界から消えてもおかしくないんだって。
だから、蒼輝は、突然その時が訪れても、私が取り乱さないように。
私が嫌がって泣かないように、私を抱きしめて側に居てくれようとしてくれてるんだって・・・彼の瞳を見たらわかったの。
そして、ヒビキさんもそれをわかってて、翠怜(スイレン)さんとの会話の続きを引き受けてくれたんだ。
もちろん、翠怜(スイレン)さんもその空気を読んでくれて。
何も言わずに、視線をヒビキさんに移すと、話を続けてくれた。
「なら、どうして、私は下界に降り、蒼さまと一緒になり、翠を産んだのか?
そう、思いますよね?」
翠怜(スイレン)さんの言葉に、「ええ。」と答えたヒビキさん。
それに対して、翠怜(スイレン)さんは、何百年前に起った事実を語ってくれた。
「まだ、日本を人間が治めていた時代・・・。
混血人間を隔離しろ。という考えが、定着した頃、混血人間だらけの中でも、3つの領域に分かれていました。
その頃はまだ、『国』と呼べるものではなく、『豹エリア』『鳥エリア』『龍エリア』と区分されておりました。
全てのエリアは地表にあり、簡単に行き来が出来ました。
その時に、私と蒼さまは出会い、愛し合い結婚したのです。」
翠怜(スイレン)さんはそう言ったあと、少し笑顔になった。
あの頃の幸せな時を思い出したら、自然と笑顔が漏れた・・・。
そんな感じだった。
だけど、その笑顔は、次の言葉を口にした瞬間にスーッと消えてしまった。
「それから数年が経ったある日です。
時代が大きく変わったのは。」
「変わったって・・・。
国ができた事ですか?」
ヒビキさんの言葉に翠怜(スイレン)さんは大きくうなずいた。
「だいたいのいきさつは知ってると思いますが、人間が治める日本の経済が傾きかけ、それをふせぐのは、混血人間しかないという事になったのです。
そこで、人間も含め、混血人間たちから推薦された人物が、2人いました。」
「ふたり??」
サンガとトーワくんの声がダブった。
確かに、初めて聞くなら驚くかも。
でも、私は翠怜(スイレン)さんに、向こうに居る時に、ラウオの事を聞いたから、何となく想像はついた。
翠怜(スイレン)さんが言う2人って、きっと・・・。
私の頭の中で浮かんでいた名前は、ヒビキさんの口から飛び出した。
「蒼さまと、WONDER LANDを治めているラウオ。
この2人ですね。」
翠怜(スイレン)さんはただ、口元を少し緩ませて返事をすると、話を続けた。
「ラウオ・・・本当の名前は、龍翠(リュウスイ)と言います。
彼は私の兄で、龍エリアを治めていた人物。
翠たちには言いましたが、人間が龍翠(リュウスイ)ではなく、蒼さまを選んだ事に納得がいかなかった彼は、人間と蒼さまを恨んでしまった。
自分を否定する者は、許さないと・・・。
彼はそう言って、日本を治めていた人間を殺し、そこをWONDER LANDという国にしたのです。
それを知った蒼さまと、その時鳥エリアを治めていた朱雷(シュライ)さまは相談して、国をそれぞれ造る事にしたのです。
その理由は、ヒビキ。
あなたなら、わかりますよね?」
翠怜(スイレン)さんの言葉に、みんなの目はいっせいに、ヒビキさんに向いた。
「ええ。」と答えたヒビキさんは、普通に、スラスラととんでもない回答をしてみせた。
「WONDER LANDを治めてしまった龍翠(リュウスイ)が、行う事で一番恐いのは、龍の力を使うこと。
龍エリアを治めていたくらいの力の持ち主だ。
WONDER LANDにいる人間の心をも支配し、まるで、魂が抜けた人間が、龍翠(リュウスイ)の野望の為だけに生きながらえさせられる。
そう思ったあなたたちは、龍翠(リュウスイ)の持っている龍の力を封印する事を考えた。
それが、赤龍国(セキリュウコク)を天上界に追いやった事と、ミューラを封印した事。
そして、緑豹国だけを地表に残した事と関係している。違いますか?」
「さっぱり・・・わからん。」
とサンガは首を振るけど、翠怜(スイレン)さんは、
「やはり、あなたはさすがです。
龍翠(リュウスイ)・・・いえ、ラウオが恐れるだけの事はあります。
よく、あれだけの言葉でここまで理解できましたね。」
と満足そうに笑うと、ヒビキさんの言った言葉の続きを口にした。
「赤龍国(セキリュウコク)を設立し、天上界にあげた時、制約を作りました。
それが、さっき言った物です。
下界へ降りたものは、龍の能力を失うと・・・。」
待ってよ!でも、それって、何か変じゃない?
さっき、蒼輝が言っていたラウオってやつが言っていた話と・・・違ってない?
そう思って、私が聞こうとしたんだけど、それよりも早くに彼が翠怜(スイレン)さんに問う。
「それ、おかしいだろ?
なら、どうして、ラウオは龍の能力である“時間を操る能力”を身につけたまま、下界にいるんだ!」
「それが、あの焼けた左手に秘密があるんじゃないですか?」
蒼輝の言葉に、ヒビキさんが答えた。
その言葉に、「ええ。そうです。」と言った翠怜(スイレン)さんは、そのラウオって人の左手の秘密を言った。
「龍族にとって、左手というのは、特別なものなのです。
一番神に近いと拝められている手であるため、ラウオはそれを捧げる代わりに、自分の能力であった“時間を操る能力”をそのまま下界へと持ち込む事に成功したのです。
それだけではありません。
ラウオには、他にも念じる能力という物があります。
前にも話しましたが、その能力で、翠の瞳に宿っていた青の力を、封印しています。
その玉は、蒼さまが持っていたのですが、ラウオの時間を操る力で、蒼さまが囚われた時に、一緒に奪われてしまいました。
今は、強いラウオの力で封印されたため、翠がこの地へ戻ってきても、体に力が戻らないのです。
本来なら、体に戻るはずなのですが・・・。」
翠怜(スイレン)さんはそう言って、少し悲しそうな顔をした。
「ラウオとあなたがたの因縁は、だいたいわかりました。
それで、さっきの翠怜(スイレン)さんが、翠ちゃんに渡された鍵ですが・・・。
ラウオを倒す為に、必要なものとおっしゃいましたよね?
それが、われわれに、ミューラを復活させたことにも関係があるのですか?」
そんな難しいヒビキさんの問いかけに、翠怜(スイレン)さんは、ユックリと答えた。
「ラウオを倒す為に、まずやらなくてはいけないのは、ラウオの龍の能力を封印すること。
そうすれば、蒼さまを監禁する事も、時間を操る事もできなくなります。
そして、何より、翠の力を封印している玉も自由になります。
まずは、ラウオの龍の力を封印する事。
そうしなければ、始まりません。」
そう言った翠怜(スイレン)さんは、私の方に向きなおった。
「ラウオの龍の力を封印するには、彼が捧げた左手を彼の体に戻せば制約が優先され、ラウオの体から龍の力がなくなります。」
「左手を元に戻す??」
サンガと雅さんは、ほぼ同時にそう言っていた。
それには、ただ瞬きをして答えた翠怜(スイレン)さんは、少し急ぎ気味で続けた。
「そのためには、翠。
あなたに、行ってもらわなくてはいけない場所があります。」
「場所?」
「そうです。そこは、この天上界よりもさらに上にある“神界(シンカイ)”です。」
「しんかい??」
聞いたこともない言葉に、私は蒼輝の腕の中で首をかしげた。
だけど、さすがは知的なヒビキさん。
彼には、ピンときたようで、一人で驚いてた。
「シンカイって・・・まさか!」
そう言った彼は、翠怜(スイレン)さんに飛びつくような勢いで口を開いた。
「“オリンポス”ですか?」
って。オリンポス・・・。
それって、私も知ってる。
授業でならったもん。
確か、ギリシャ神話に出てくる言葉で、そこにはゼウスという神をひっとうに、合計12人の神々が住んでいる場所じゃなかったっけ?
そのギリシャ神話と何か関係があるの?
って、強く思っちゃったせいかな?
翠怜(スイレン)さんは、私を見るとクスと声を出して笑った。
「翠が思っているオリンポスとは違います。
神々が住んでいる地ですが、私たちはそこを神の世界と表して、神界(シンカイ)と呼んでいます。
そして、その場所の事を、人はギリシャ神話と重ねて、オリンポスと呼んでいたようです。
それを、ヒビキが、幼き頃に耳にしていたのでしょう。」
翠怜(スイレン)さんはそういうと、今度は私の手に向かって指をかかげた。
「神界(シンカイ)にいくには、その鍵がいります。
もちろん、ただの鍵では扉はあきません。
その鍵に、翠の力を、じっくり時間をかけて宿していかねばなりません。
そのただの鍵が、『緑の女力(ジョリョク)の鍵』となった時、効力を発揮します。
今度来るときまで、それを肌身離さず持っておくのです。」
翠怜(スイレン)さんはそう言って、私に向かって指していた指を下に下ろした。
「翠が戻って来るのは、今度はいつなんだ?」
私のその言葉に、ドキっとした。
早く戻ってきたい。
でも、とんでもなく先だと言われたら、どうしようという不安もあって、思わず蒼輝の腕をギューとつかんでしまった。
だけど、蒼輝は私を見てはくれなかった。
翠怜(スイレン)さんを見つめたまま、目を離さなかった。
だけど、手は私をかまってくれたの。
私の髪に触れて、優しい手つきで髪をなでてくれた。
それが、まるで、「心配するな。俺はここにいるから。」と言ってくれてるようで、それ以上取り乱す事はなかった。
「1年後です。翠が18歳にならなければ、女力(ジョリョク)の力は発揮しないのです。」
「それ、どういう意味だよ!!」
と蒼輝がつっかかるけど、
「俺たちと、原理は一緒ですよね。」
と答えたヒビキさんは、そのまま、蒼輝に言葉を投げた。
「緑豹国でもそうだけど、俺たちは、18歳になれば、立派な大人だ。
体にやどっている力も、比べ物にならないくらいの力に成長する。
それは、翠ちゃんも一緒なんだ。
だから、この時期に、翠ちゃんがこっちへくるように仕向けた。
翠ちゃんがこっちの世界に入れる時間が少ないから、翠ちゃんが16歳と17歳の時に分けてこっちにくるようにした。
全ては、18歳になる時の為に。
その時に、ラウオと決戦できるように。
この2回の翠ちゃんの訪問は、3回目の訪問の為の準備期間だった。」
そして、ヒビキさんは翠怜(スイレン)さんをみると、「そういう事ですよね?」と同意を求めた。
「ええ。その通りです。」
と答えた翠怜(スイレン)さんは、また私を見た。
「翠の向こうでの誕生日は知りませんが、こちらでの誕生日は、翠が戻って来る7月24日です。
今度翠が戻ってくるとき、翠は18歳の誕生日を迎えます。
あなたの力が、最大に高まる時です。」
翠怜(スイレン)さんはそう言ったあと、私の側に来ると私の手を握った。
その手は、とても・・・温かかった。
「神界(シンカイ)で、すべき事。
ラウオとどう戦うか。
全ては、1年後にいいます。
だから翠。こちらに帰ってくるまでは余計な事は考えず、ただ蒼輝の事を想ってこの鍵に力をためるのです。
いいですか、翠。
忘れないで下さい。
あなたの緑の女力(ジョリョク)の力は、『愛』です。
心から愛する事で、その力は、10倍にも100倍にも高まります。
蒼輝を愛するのです。
蒼輝に対する想いを、その鍵に常に送り込みなさい。
1年後、あなたの愛が勝つ事を・・・私は信じています。」
翠怜(スイレン)さんはそういうと、壁にかけてある時計を見た。
「あと、5分で翠の戻る時間です。」
翠怜(スイレン)さんの言葉に、私は条件反射で、また蒼輝に抱きついてた。
「翠・・・大丈夫か?」
心配そうに私の顔をのぞきこむ蒼輝だけど・・・私は何も言えずにただ、首を振ってた。
戻らなきゃならないのもわかってる。
蒼輝がいったように、私が向こうに戻って1年過ごすことに意味があるのはわかった。
だけど、どうしても離れたくないの。
っていうより、離れるのが恐い。
ラウオは、彼の左手を私たちが戻そうとしてる事に、気付いているはず。
だから、必死になって、ミューラの復活を妨げようとしたんだもん。
そして、何より、ラウオの左手を元に戻すには、私の鍵が必要なんでしょ?
蒼輝を愛する私の思いが・・・。
それも、きっとラウオはわかってる・・・ような気がするの。
だったら、それを阻止する為にラウオは、何をするだろう?
そう考えたら・・・恐いことしか浮かばない。
私から、蒼輝を奪う。
私が戻ってきたら、もう蒼輝はいない・・・。
そんな恐ろしい事を考えたら、私は知らないうちに震えてた。
恐くて、恐くて、たまらなくなった。
「1年も・・・離れるの恐い。」
ボソと囁いた私に、蒼輝は私を強く抱きしめながら耳元で囁いた。
「俺の愛が信じられない?」
違う・・・そうじゃなくて・・・。
って気持ちで、私は首をブンブン振った。
それに対して、蒼輝は優しく聞いてきたの。
「じゃ、何にそんなに脅えてる?」
だけど、いえなかった。
蒼輝がラウオに殺されるのが恐いなんて・・・そんなの言えなかった。
言えない代わりに、私の思いは言葉じゃなくて、水滴となって蒼輝の目に映ったの。
止めどなく流れる私の涙に蒼輝は、すぐに手を伸ばすと優しい手つきでぬぐってくれた。
「翠・・・。」
優しい言葉で、私を慰めようとしてくれる蒼輝だけど。
その想いは、彼の声と顔でいやってほどわかったけど・・・私の心は晴れなかった。
反対に不安は募っていったの。
彼を愛おしいと思えば思うほど。
彼と離れたくないくらい好きだと思えば思うほど・・・。
蒼輝と離れる事は、彼の死を意味する。
彼とこれが、一生の別れになるかもって思ってしまって、体が彼から離れなかった。
「蒼輝、時間がないぞ・・・。」
こんな状態で私が元の世界に戻っても、ダメだと翠怜(スイレン)さんもヒビキさんもわかってたんだと思う。
それよりも、もしかしたら、戻れないかもって・・・思ったのかもしれない。
だって、私は心も体も向こうに戻る事を拒否してる。
きっと、時間が来ても私は戻らないだろう。
でも、そうなれば、全てはダメになる。
たぶん、私が思うに、あの女力(ジョリョク)の鍵は、向こうの世界に居ないと力をためる事は出来ないんじゃないかな?って思うの。
現に、渚も向こうの世界で力をためていたし、何より、私が向こうの世界にいる理由が、最初から鍵に力を宿らせる為だったとしたら、納得がいくもんね。
向こうの世界も、とても重要な場所なんだと思うから。
だから、私は何が何でも戻らないといけないの。
私がここで、拒否したら、とんでもない事になる。
それはわかってるの。
向こうにいる親だって心配するだろうし、渚や真音(マナト)さんも心配すると思う。
だけど、どうしても、私にはできない。
こんな危険すぎる世界に蒼輝をおいて、私だけ安全な世界に戻るなんて・・・。
絶対にできないよぉー。
考えれば考えるほど、答えはみつからなかった。
途方に暮れる私は、ただ泣くしかなかった。
泣き止むどころか、さらに涙が増す私をしばらく黙って見ていた蒼輝だったけど、急に私を抱きしめたまま立ち上がると、翠怜(スイレン)さんに声をかけた。
「どこか部屋を貸してくれないか。
翠と2人きりになりたい。」
突然の蒼輝の申し出に私もキョトンとしてしまって、思わず涙は止まってた。
そして、私だけじゃなくて、驚いたのはこの人も!!
「おい、待てよ蒼輝。
何をするんだ。
お前、わかってるんだろな。
まだ、翠ちゃんの女力(ジョリョク)の力がいるんだ。
だから・・・。」
と言いかけたヒビキさんの言葉に、蒼輝の荒々しい声がかぶさった。
「バカかお前は!
やらねぇーよ。俺だってわかってる。
翠を抱いたりしねぇーよ。」
そう怒鳴った蒼輝は、ヒビキさんから翠怜(スイレン)さんを見る。
蒼輝の目を見た翠怜(スイレン)さんは、「わかりました。」と答えると、奥にある扉に近付くと、扉を開けた。
「どうぞ。」
奥には部屋らしき物が見えた。
「さんきゅ。」
蒼輝は笑顔でそういうと、私の腕を引っ張ると、強引にその部屋に入り、扉を閉めた。
「なんで?どうして、こんな所に・・・キャッ!!」
最後は、悲鳴。
だって、蒼輝ったら、さっさと床にあぐらをかいて座ると、立っている私の腕を自分の胸の方にひっぱって、私を強引に彼の膝の上に座らせたんだもん。
「驚かさないでよ。」
と文句を言う私に、蒼輝は答えないまま、私を強く抱きしめた。
蒼輝の鼓動が右耳から、聞こえた。
それは、大きくて強くて、なぜか暖かさを感じれた。
私は、蒼輝の背中に両腕をからませると、彼にさらに抱きついた。
「戻りたくない・・・。」
2人になった途端、私は素直な自分を蒼輝にぶつけてた。
そんな私の頭に蒼輝は自分の頭をゴツンとくっつけると、私の左耳辺りで言葉を囁いた。
「俺が、ラウオにやられそうで恐いか?」
「えっ?」
蒼輝の言葉に驚いて顔を上げて蒼輝を見た私に、蒼輝はさらにこう言ったの。
「翠の女力(ジョリョク)の鍵を無駄にする為に、ラウオはこの1年俺を集中的に狙ってくるだろう。
だから、翠は不安なんだろ?
俺が、1年、逃げ切れないと、思ってる。
それで、俺から離れるのが恐い・・・違うか?」
「わかってたの?」
私の不安、わかってくれてたんだ。
ビックリと嬉しいのとでそれ以上何も言えない私に、蒼輝は優しく微笑みながら、私のおでこにキスをした。
「初めからそうだったけど、翠の心は何となくわかるんだ。
お前が、何に対して、涙してるとか、何に対して嫌がっているとか・・・。
だから、今もちゃんとわかってる。
翠が俺をどれだけ愛してくれてるのか。
そのせいで、どれだけお前を不安にさせてるか。
でもなー、翠。お前、忘れてるよ。」
蒼輝はそう言ったあと、たくさんのキスをしていた唇を離すと、私の目線にあわすように、少し体を前かがみにした。
蒼輝の暖かくて大きな綺麗な瞳が、私の瞳と重なった。
「俺がどんな男か。
お前との約束は絶対に果たす男だろ?
それに、簡単にくたばるような、弱い俺じゃない。」
確かに、蒼輝は強い。
だけど、ムチャもするじゃない。
と言い返しそうになった私の口に、彼の長い指がソッと触れた。
まるで、シーとされてるような仕草だった。
私が言い返すのがわかっていたのかな?
のどまで出かかった言葉を私は飲み込むと、目で訴えたの。
「何よ!」って。
それが伝わったのか、蒼輝は、「フッ。」と声を出して笑うと、私の唇から指を離した。
「簡単にやられないよ。
今の俺には、たくさんの仲間だっているんだ。
それに、絶対にやられるわけにもいかないしな・・・。」
そう言った蒼輝は、突然私の唇に軽いキスをしてきた。
「蒼輝?」
驚きと戸惑いの眼差しで彼を見る私に、蒼輝は真剣な瞳を注いできた。
「俺が前より強くなった。
いや、前よりも“生きたい”と思うようになったのは、お前を愛したからだ。
翠と一緒にいられる時間は限られてる。
なのに、俺が死んで、翠との時間がもっと削られるなんて、冗談じゃねぇーよ。
誰にも邪魔はさせない。
お互い後悔がないくらい愛し合って、それで、最後には笑って別れるんだろ?
まだ、足りねぇーよ。
もっともっと、愛し合わなきゃな。」
蒼輝のその言葉は、私の心にしみてきた。
「なんだよ・・・泣くなよ。」
って、蒼輝は情けない声出すけど、私は心の中で言ってた。
これは、悲しい涙じゃないんだもん!って。
さっきまでの涙と違うから。
蒼輝の愛が感じれた。
蒼輝の愛を信じようと思った。
その涙なんだもん。
でも、蒼輝を見てて思ったの。
私は蒼輝の優しい顔や、今みたいに私の涙にアタフタしてる蒼輝の顔も好き。
だけど、やっぱり一番好きなのは、みんなを守ろうとしてる王である顔かな?
あの強さにはほっとするから。
だから、私も蒼輝にとって一番だと思ってくれる私の顔を覚えておいてほしい。
それは、どんな顔かわからないけど、こんな風に泣いてる顔じゃないのは、わかるから。
だから、泣き止もうと思ったの。
私は、流れている涙を手の甲で乱暴にぬぐうと、蒼輝を見つめた。
「ちゃんと1年、待っててよ。
そして、約束して。
戻って来た私に、誰よりも先に蒼輝が『おかえり』って言って。
誰よりも先に私を抱きしめて、誰よりも先に私にキスをしてよ。」
言ってる側から、また蒼輝がぼやけてきた。
だけど、私は必死で涙を堪えて、これ以上涙が出ないように我慢した。
なのに・・・。
蒼輝が強く私を抱きしめて、私に振動を与えたものだから、目にたまっていた涙はポロポロとこぼれてしまった。
「蒼輝・・・無事でいてね。」
そう言って彼の首辺りに顔をすり寄せる私の顔に、彼も自分の顔をくっつけてきた。
「ああ・・・俺を信じろ。」
蒼輝がそう言った時、急に左手の指先の感覚がなくなってきたような気がした。
私は顔を上げてみようとしたけど、蒼輝の唇が私の唇を塞いだせいで、顔はそれ以上動かす事ができなかった。
私は何となくわかってたの。
蒼輝は、私にわからないようにするために、キスをしてくれたんじゃないか・・・って。
私の左手はもう消えてる。
ううん。それだけじゃない。
たぶん、体の半分くらいは、もう消えてるのかもしれない。
でも、心がすごく穏やかで、私は帰ることを受け入れてるから。
だから、耳鳴りも何もしないの。
こっちの世界に来た時みたいに、きっと、自然と向こうに戻れるんじゃないかと、思った。
私は、あと数秒しか時間が残されていない事を何となく感じた。
残っている右手で蒼輝の頬に触れた。
「もっと、蒼輝を感じたい。」
キスが途切れてすぐにそう言って、蒼輝にねだった私に、「そうだな。」と笑った蒼輝は、私の顔に触れる。
「俺の愛とぬくもりが、せんべつって言うのも悪くないかもな。」
なんて言って笑いながら、私の口を少し開けて、唇を重ねる。
蒼輝の熱い舌が重なる。
甘い息がかかる。
唾液が交じり合う。
そして何より・・・愛が溶け合った。
やがて、あれだけ熱かった蒼輝の舌の感触が薄れてきて・・・。
それでも、私は、蒼輝と離れまいと、もっともっと舌をからませた。
それは、蒼輝も一緒で、お互いが信じられないくらいからみあったの。
だけど、それはやがて・・・離れてしまった。
蒼輝の感触や暖かさがなくなったと思って、私は瞳を開けた。
そこは・・・見覚えのある森だった。
私はそっと唇に手を伸ばした。
触れていた蒼輝の体を感じる事はもう出来なくなったけど、不思議。
蒼輝はいないのに、ここにはちゃんと蒼輝のぬくもりも感触もまだ残ってる。
それを指で感じて・・・私は、なぜか笑ってた。
蒼輝と離れてるのに、こんなにも蒼輝が側にいるだなんて、感じた事今までなかったかもしれない。
声を聞くことも、触れることもできないけど、だけど私はやっていけるような気がした。
この蒼輝がくれた記憶とぬくもりと愛で、1年間耐えられるような気がしたの。
「翠ぃー!!」
その声に、私は立ち上がると、声がした方を見た。
「渚っ!」
と私が言ったと同時に、渚は私に抱きついてきた。
「おかえりぃー!!」
と言ってくれた渚に、「ただいま。」と笑顔で答えた私。
そんな私の姿に、「あれ?意外だったな。」と真音(マナト)さんは言いながら私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「意外って・・・何が?」
渚はそう言いながら、私から離れると真音(マナト)さんを見た。
私も、今の真音(マナト)さん |