コピーしたデーターを、右手に持ち、それをジギルたちに見えるようにしながら、サンガはユックリとジギルたちの元へ、一歩ずつ進み出した。
私たちの所から、5歩ぐらいサンガが前に進んだ時、私の体から、蒼輝の腕が離れた。
驚いて蒼輝の方に振り返る私に、彼はジギルたちに聞こえないような小さな声でささやいた。
「サンガが、ジギルたちに話しかけたら、走り出すぞ。」
それには、「えっ?」と言って驚いてしまう。
だって、サンガが、ジギルに話しかけるタイミングが、私たちが走り出して逃げるタイミングとバッチリ重なるとは・・・限らないでしょ?
サンガとそういう打ち合わせをしていたなら、まだしも、全くそういう話はしてなかったし、それより何よりサンガが、私たちを逃がしてくれる。って、決まってるわけでもないのよ。
なのに、どうしてそんなにサンガを信じられるの?
蒼輝が、トーワくんみたいに、心が純粋で綺麗で、人を疑う事を知らないような人なら、裏切ったサンガをまだ信じようとしても、わからなくはない。
だけど、蒼輝は違うでしょ?
人を絶対に信じなくて、いつもケンカごしの戦闘モードで、さらに絶対に人の力を借りようとしない。
自分の力だけを信じている強い彼が、敵であるサンガを、どうしてこんなに信じているのか。
まして、サンガは私たちを裏切ったんだよ!
それが、明らかになった今でも、サンガを信じている蒼輝の考えがわからなくて、私は思わず蒼輝の腕を、強くつかんでしまう。
急に腕を強くつかまれた蒼輝は、「ん?」と言いながら、私を見る。
彼に聞こうとして、口を開きかけた私に、蒼輝は私の言葉よりも先に、
「信じてるからだよ。」
と優しく微笑みながら答えた。
私が答えてほしかった質問の答えを聞かせてくれた蒼輝に、ビックリして開きかけた口を閉じた私に、さらに蒼輝は言葉を続ける。
「サンガがどんなやつか、正直俺は興味はないし、アイツが敵であるのは、変わらないから『人』としてのアイツは信じてないよ。」
「それじゃぁ・・・『何』を信じてるの?」
私の言葉に、蒼輝は私をとても優しい眼差しでみつめると、右手で私の髪に触れ、優しく頭をなでる。
「『翠を好きだ』っていう、サンガの気持ちを信じてるんだ。」
それには、言葉を失う私。
確かに、サンガは私にすごく優しく接してくれる。
だけど、それが『好き』って事なのかな?
私は、死にそうだった彼を助けた。
彼は、私を命の恩人だと思ってくれている。
ただ、それだけだと思うんだけど・・・。
私への感謝の気持ちが、私を『好き』って事には、ならない気がする。
答えられずに黙っている私から、蒼輝は手を離すと、
「だから、サンガは翠をどんなリスクを背負っても、逃がしてくれる。
逃げるチャンスを作ってくれるはずだ。」
「そう・・・かな?」
と口にする私に蒼輝は、「じゃぁーさ。」というと、サンガに目を向ける。
「もし、この状況でアイツが俺たちを逃がしてくれたとしたら、『サンガは翠が好き』なんだって、信じてやれよ。」
彼のその言葉は、私の心にグサっときた。
それは、まるで、「サンガの気持ちを受け入れてやれ。」って言われているようだったから。
本当に蒼輝は私の事が嫌いになっちゃったの?
私は、命が危ないこの状況で、ここを脱出する事よりも、蒼輝の本当の気持ちが知りたくてたまらなくなった。
「ねぇー、蒼輝!蒼輝の気持ちが知りたいの。
蒼輝は、私の事、どう思って・・・。」
私がそう口にした時、サンガの声が辺りに響き渡った。
「あっ!ジギルさん!
そういえば、大陸の事なんですけど。」
サンガのその声が聞こえたと同時に、私は腕を強くひっぱられ、引きずられるようにして、北に向かって走り出した。
「あっ!兄貴っ!アイツらがっ!!」
トロイの言葉に、ジギルは、「さっさと撃て!」と落ち着いた声で命令をくだす。
その声を、必死で走りながら聞いていた私は、もう時期トロイが撃つ銃弾が私たちを襲ってくる。とドキドキしていた。
だけど、いくら構えても銃弾どころか、銃声も聞こえてこなかった。
気になって後ろを振り返ろうとして、走っている速度を落とす私を、蒼輝は「いいから、走れっ!」とさらに腕をひっぱる。
「おいっ!早く、撃てっ!」
さっきより、少し乱れた口調で指示を出すジギルの声が聞こえた。
だけど、銃声は相変わらず聞こえない。
「おいっ!」とさらに、せかすジギルに、「撃てません。」とトロイはハッキリと答えた。
「お前、何言ってるんだっ!」
そう言って、ジギルは「もう、いい。」と、怒り自分の腰から、銃を取り出し構える。
そして・・・気付いた。
「アイツ・・・。」
ジギルはそうつぶやくと、さらに叫ぶ。
「サンガっ!邪魔だ、どけっ!」
ジギルがそういったのは、トロイが撃てないように、サンガが私たちとトロイの間の盾になっていてくれたから。
私たちは、サンガの真後ろを走っていた。
遠ざかる私たちの盾にうまくなるように、サンガは微調整をしながら、ジギルたちに近付いて歩いていた。
そんな事ができたのは、ハンターである彼だからこそ。
だけど、ジギルにどけ。と指摘されて、どかないと私たちを逃がした事がバレてしまう。
サンガは、笑いながら、「いいじゃないですか。」とジギルに話しかける。
「なんだと!」
とサンガを責めるジギルに、
「アイツらのおかげで、いろいろと大陸の情報を得る事ができました。
ですが、正確な場所はまだわかりません。
そこで、アイツらをうまく利用して、大陸の場所を、発見させる。って手もあるんじゃないですか?」
サンガの言葉にジギルは少し考えると、
「確かに、お前がいうのも一理(イチリ)あるかもな。
よしっ、今回は見逃してやるか。」
と答え構えていた銃をおろした。
だけど、そんな事を知らない私たちは、必死で北を目指していた。
いつ銃弾がくるかもしれないこの状況で、私はビクビクしながら走っていた。
全速力で走っていた私は、疲れがピークにきて、足がもつれて、よろけてしまった。
それを、蒼輝が優しく抱きしめてくれたんだけど、すぐに私から手を離した。
その行動が、また私の胸をつらぬいた。
こうやって走って逃げていた今も、私の手を握ってくれていたわけじゃなくて、私の腕をつかんで走っていた蒼輝。
必要以上に私に触れようとしない蒼輝に、私は悲しみよりも、苛立ちを感じてきた。
「ハッキリ、言ってよ!」
私はそう叫んで、その場にたたずむ。
「いいから、早く、走れっ!」
蒼輝はそう言って強引に私の腕をつかもうとするけど、私はあとずさりをして、彼の手から逃れる。
「翠・・・。」ため息まじりで言う彼の言葉が、余計に私を傷つけた。
「答えてくれないなら、もういい。」
私は下を向いて、ひとり言のようにつぶやく。
あまりに小さな声だったので、聞き取れなかった蒼輝は、「何?」と少し怒りながら私に聞いてくる。
そんな彼を、今度はキッとにらんで、私はずっと彼に言いたかった自分の心の叫びを言葉にした。
「蒼輝が何を考えてるかわかんないよ。
こんなに近くにいても、一人ぼっちでいるみたいに寂しいなら、もう側にいてくれなくていい。
緑豹国には、一人で帰る!」
私はそう叫ぶと、真っ直ぐ北ではなくて、西方向に向かって走り出した。
「待て、翠っ!そっちはダメだっ!」
蒼輝は急いで私の腕をつかもうとしたけど、私はそんな彼から逃げた。
どうして、彼が私の腕をつかもうとしたのか。
どうして、逃げる私たちを、トロイの銃が襲ってこなかったのか。
私は、その意味を全く理解していなかった。
だから、西方向に飛び出した私に、叫んだ蒼輝の言葉の意味も、サッパリわからなかった。
走り出した数秒後に、私の顔を銃弾がかすむまでは。
銃弾が飛んでくる。って、全く思っていなかった私は、急に聞こえた銃声で、すくみあがってしまい、走り出していた足を止めて、その場でしゃがんだ。
そのおかげで、紙一重の所で、私は銃弾に当たらずに済んだ。
だけど、銃を撃ってこられた事に、驚いた私は何も考えられずに、その場に座り込んだままだった。
そんな放心状態の私の方に、走りながら蒼輝は叫んだ。
「トロイが撃ち込んで来る!
早く、側にある岩に隠れろ!」
私は、震える足に力を入れて、ヨタヨタしながら、必死に歩いて、側にある岩山に身を隠した。
その数秒後に、蒼輝の言った通り、トロイが次から次へと、銃弾を打ち込んできた。
なんで・・・。
さっきまで、撃ち込んでこなかったトロイが何で突然撃ってくるの?
そんな言葉だけが、私の頭の中でグルグルと回っていた。
一方、ジギルと話をつけたサンガの耳に、突然聞こえたトロイの銃声。
目を移すとトロイの銃からは、白い煙が出ていた。
サンガは、その銃が向いている先を目で追った。
そこには、私の姿があった。
トロイが狙ったのが、私だと知ったサンガは、今度はトロイに向かって叫ぶ。
「おいっ!話が違うだろっ!
なんで、撃った!」
それには、トロイは平然と答えた。
「だって、あの女が、飛び出してきたから。
標的が現れたら、撃つのは当たり前だろ。」
そして、さらに嬉しそうに、銃口を私に向け狙いをさだめるトロイ。
それには、ジギルも「仕方ないな。」と言う。
「待って下さいよ!
さっき、ジギルさんは逃がすって言ったじゃないですか!
トロイさんに、撃たせるのやめさせてください。」
頭を下げて頼むサンガにジギルは、「それは無理だ。」と冷たく言い放つ。
「標的が現れたら、トロイは撃つ事がやめられなくなる。
まっ!一種の悪い癖というかな。
そんな事、お前だって、よくわかっているだろ。」
ジギルはそういうと、
「そんな事より、さっさとそれを持って来いっ!」
とサンガをせかす。
その時、トロイの銃口から、次から次へと銃弾が発せられた。
その全てが、私のいる方角に集中している。
「蒼輝のヤツ・・・。何やってんだっ!」
サンガはそうつぶやきながらも、重い足取りをジギルの元へと動かす。
だけど、数歩、前に動かして動きを止めた。
「サンガ、どうした!」
ジギルのその言葉に、サンガはジギルをまっすぐにみつめ、手に持っていたデーターチップをジギルに向かって投げた。
「これなら、やるよ。
その代わり、俺は全力で、アンタたちから彼女を守ってみせる。」
「お前・・・何、言ってるんだ?」
サンガの言っている意味がわからないジギルは、少し首を傾けサンガを真剣にみる。
そんなジギルに向かって、サンガは最後の言葉を口にした。
「格闘、戦闘に必要な知識、射撃・・・。
ジギルさんには、いろんな事を教えてもらった。
とても感謝してるよ。
その力で、俺は愛する者を守ります。」
そして、サンガはジギルに頭をさげると、振り返りジギルたちに背を向け、北方向へと走り出した。
「兄貴・・・。」
予想外のサンガの行動に、トロイはあぜん。
だけど、ジギルの「撃てっ!」という声に我に返る。
「いいん・・・すか?」
それには、ジギルは「かまわん。」と冷たく返事をする。
「どうせ、蒼輝たちについて行った所で、アイツの居場所なんてないんだからな。
ここで、お前に殺された方がいいだろう。」
そう言われてトロイも気付く。
「そうっすね。緑豹国には、『混血人間』しか中に入れない。
サンガがアイツらの仲間になった所で、緑豹国には入れないんすからね。」
そして、トロイは「よ〜しっ!標的が2人だっ!頑張るぞ〜。」と気合いを入れると、銃の引き金をひく手にも力が入る。
その時、トロイの耳に、何かが割れる音が聞こえた。
狙いを定めていた目を、その音の方に向ける。
「兄貴っ!何してるんっすか!!」
ジギルの足元をみて、トロイは叫ぶ。
なぜなら、ジギルはさっきサンガから受け取ったデーターチップを、踏み潰していたから。
「いくら、サンガの行動に腹が立ったからと言って、こんな事しなくても・・・。
あ〜あ、せっかくのデーターが・・・。」
グチャグチャになったデーターチップを広い集めるトロイを見ながら、ジギルは「そんなもの、いらん。」とトロイを足蹴りする。
「だって、貴重な情報じゃないっすか!」
とつっかかるトロイに、「それには、何も入ってない。」とジギルは冷めた口調で答えた。
「へっ?」とバカ面のトロイに、呆れ顔で答えるジギル。
「あっさり俺たちを裏切って行くようなやつだぞ!
データーなんて、俺たちに教えるわけがないだろ。
この中は、カラだ。」
そして、ジギルは、「それより、あの二人をとりあえず狙うぞ!」というと、自分も銃を構え、私とサンガに向かって銃弾を発射し続けた。
トロイが撃ち続けてくる銃弾を、私が隠れている大きな岩が跳ね除けてくれた。
私は、その場で小さくうずくまりながら、ガタガタと震えていた。
こんな所にいても、しょうがない。
それより、彼らが近付いてこないうちに、早くこの場を去らなきゃいけない。
そんな事は、充分過ぎるほどわかっているけど、体が動かない。
遠くで、蒼輝が私を呼ぶ声が聞こえたけど、銃声が恐くて、耳を塞いで目だって開けられなかった。
すると、さっきまで明からに一人の人から発射されていた銃弾が、今は止めどなく打ち込まれてきた。
という事は・・・ジギルと2人で撃ってるって事だよね。
それに気付いた途端、さらに私は逃げられないと、もう諦めた。
その時、私を守ってくれていた大きな岩が、少しずつ銃弾で割れていった。
このままだと・・・1分ももたない。
途方に暮れたその時、岩の中心に同時に銃弾が4発打ち込まれた。
4発って事は・・・ジギルもトロイも両手で撃った。って事。
岩の中心に4発の弾をくらった岩は、そこから大きくヒビが入り、次の4発で大きく割れた。
私の姿が、完全に丸見えになった。
「もう・・・ダメだ。」
私は、そうつぶやいて目をつぶって諦めた。
その時、私に向かって打ち込まれた銃弾が、私の元へ届く数秒前に、私の体は大きく浮いた。
「あれ?」と思って目を開けた私の目には、蒼輝の姿。
彼は、私が隠れていた岩山より少し離れた岩に隠れていたはず。
どうして、蒼輝が私の側にいるの?
彼が、私を救い出してくれたの?
そう思ってすぐに、違うと気付いた。
だって、蒼輝は私の目の前に座っている。
そして、私は今、私を救ってくれた人の腕の中に抱きかかえられた状態でいたから。
私は、その人の顔に目を向ける。
そして、驚きの声で彼の名前を呼んだ。
「サ・・・ンガ?」
その時、私の居た場所に、ものすごい勢いで銃弾が打ち込まれた。
数秒前まで私は、あそこにいた。
そう思ったら、「ゾッ。」として体全体が震えた。
ガタガタと震える私を、サンガは地面に降ろすと、自分の方に抱き寄せて、私を包み込むように抱きしめてくれた。
「もう・・・大丈夫だから。」
サンガの優しい言葉と、彼の暖かな胸が私を「ホッ。」とさせてくれた。
何もいえなくて泣きじゃくる私の頭を、サンガは優しくなでてくれた。
「お前・・・翠を救って・・・大丈夫なのか?」
私の事より、サンガの事を口にした蒼輝に、頭にきたサンガは、
「お前なー!」
と叫ぶと、思いっきり蒼輝の腹部を足蹴りした。
私は、サンガの胸に顔をくっつけていたから、サンガが蹴った瞬間は見てなかったんだけど、すごい音と、蒼輝の「いてぇー!」という悲痛な叫び声で、私は顔を上げて、蒼輝を見た。
私の目に飛び込んできたのは、顔をいいようもないくらいゆがめて、さらにお腹をおさえて丸まっている蒼輝の姿。
そんな姿を見たら、サンガの攻撃をもろに受けたんだと、一目でわかった。
サンガがどうして、蒼輝にそんな事をしたのか不思議で、私は蒼輝からサンガに目を移し、サンガをジッと見てしまう。
どうして、蒼輝にそんな事したの?と、聞こうとした私に、サンガは蒼輝と同様、私に答えをくれた。
「だって、コイツが悪い。」
って。
さらに、蒼輝を顎でさしてるし。
そして、今度は私をさらに強く抱きしめた。
「翠をあんな危ない目に合わせて。
絶対に、許さねぇー。」
そう怒るサンガに私はあわてて弁解する。
「違うのよ。私が勝手に飛び出したの。
蒼輝は、悪くないの。」
必死で、蒼輝を守る私に、サンガはため息をつく。
そして、苦しんでいる蒼輝に目を向けた。
「あんな目に遭っても、蒼輝は悪くないってさ。
お前・・・こんな事、翠に言わせて、何とも思わねぇーのかよ!」
それには、蒼輝は答えない。
ただ、抑えていたお腹から手を離すと、中腰になる。
「サンガ・・・お前に頼みがある。」
蒼輝のその言葉に、「お前な〜、俺の話を聞けよ!」と呆れ果てるサンガ。
だけど、蒼輝はそれには、答えずにドンドン話を進めていく。
「俺が、ジギルたちの銃のまとになるから。
だから、そのすきに、サンガは、翠を緑豹国まで、無事に届けてくれ。」
「ち、ちょっと待ってよ!」
私は、そう叫びながら、サンガの腕から素早く出ると、振り返って蒼輝の腕をつかむ。
「イヤよっ!蒼輝が危険な目に遭うなんて、そんなの嫌っ!」
必死で訴えるけど、蒼輝は私とは目を合わさずに、私を通り越してサンガを見ていた。
「サンガ・・・頼んだぞ。」
そういって、私の腕を反対につかむと、自分の腕から離した。
「蒼輝・・・。」
止まっていた涙がまた込み上げてきた。
ポロポロと涙をこぼす私を見ていたサンガは、また私の頭を優しくポンとなでると、蒼輝に向かってキツイ口調でこう言った。
「お前、いい加減にしろよっ!」
って。
サンガのこんなに怒った姿は・・・初めてみたかもしれない。
今まで、蒼輝と何度か言い合いになった時も怒ったりしてたけど、それとは全然違う。
お腹の底に、響くような重くてずっしりとした声。
驚く私の横をサンガは通り過ぎ、蒼輝の前まで行くと、蒼輝の胸ぐらをつかんだ。
「お前の翠への気持ちは、こんなもんだったのかよ!」
それには、蒼輝は答えない。
冷めた目で、サンガをただ見ているだけ。
「答えろよっ!」
つかんでいる手に力をこめて、叫ぶサンガに、蒼輝は小さな声で言った。
「お前に、何がわかるんだよ。」
って。
その言葉に、サンガはつかんでいた胸ぐらを離し、蒼輝を後ろに突き飛ばした。
蒼輝は、少し後方でしりもちをつく。
「翠の事でお前に何があったのかは、俺は知らないし、知りたいとは思わない。
だけどなー、翠を何度も泣かせて、さらに危険な目に合わせて、それでもお前は自分で翠を守ろうとしない。
そんなお前に、これ以上、翠はまかせられない。」
サンガはそういうと、私の側まで戻ってきて、私の手を握った。
「『翠がほしかったら、強くなってこい。』」
サンガのその言葉に、下を向いていた蒼輝は勢いよく顔を上げて、サンガを見る。
私は、意味がわからなくて、サンガを見上げてしまった。
「1年前にお前が俺に言った言葉だ。
遠ざかる意識の中、お前のその言葉だけが、鮮明に聞こえ、俺の頭の中に残った。
1年前のお前には、腕っぷしも完敗だったけど、それより『かなわない』って思ったのは、お前の翠への思いだった。」
サンガの言葉に蒼輝は何も答えずに、ただ黙ってサンガを見ていた。
そんな蒼輝を真剣にみつめながら、サンガは続ける。
「あの時、お前俺に『翠は俺にとって必要だ。絶対に渡せない。』って言ったよな?
他人の事を、『必要だ』なんて、なかなか言えないだろ。
だから、俺はお前が翠を思う気持ちが半端じゃないんだって理解して、諦めようとしたんだ。
だけど、どうしても彼女の事が諦められなかった。
敵である俺を助けてくれた彼女の優しさと、俺に銃を突き付けられても、笑って撃たれようとした彼女の強さ。
そんな彼女が、笑顔でいたならよかったよ。
でも、彼女・・・ずっと、悲しい顔しかしてないだろ。
お前の優柔不断でわけわかんねぇー態度が、翠を苦しめて悲しませてる。
彼女の命が危険になった以上、俺はもう我慢しない。
今のお前が彼女を思っている・・・いや。
彼女を必要としている思いより、俺の方が絶対に上だ!
翠を誰にも渡したくないし、どんな犠牲を払っても、絶対に離さない。って思ってる。
何かにおびえて、逃げ腰になっているお前と違ってな。
そんなお前に、これ以上翠をまかせておいたら、翠だって死んでしまうかもしれない。
死ぬなら、テメェー一人で死ね。
翠は俺がもらっていく。」
サンガは蒼輝にそういうと、「翠、立てるか?」と私に優しくそういう。
私は、戸惑いながらも、ユックリと腰を上げて、中腰になる。
「緑豹国まで、俺が連れて行ってやるよ。」
サンガの言葉に、私は何も言えずに、頷いた。
今の蒼輝に何を言ってもダメなのは、充分すぎるほどわかっていた。
彼が一人でジギルたちの元へ行くという事は、彼の死を意味する。
だけど、今の彼を動かす事は私にはできない。
もう、何も考えられなくなった私は、サンガに言われるがまま、体を動かすしかなかった。
蒼輝を置いて、その場を去ろうとして、私たちが一歩北へ踏み込んだ時だった。
「翠っ!」
蒼輝の呼びかけに、いち早く反応した私の足が止まる。
私が止まった事によって、サンガは後ろにひっぱられるような形で足を止める。
「今更、なんだよ!」
と呆れるサンガを無視して、蒼輝は私の真ん前に来た。
そして、さげていた青の玉(ギョク)の紐を引き上げて青い玉を出し、それを握り締めた。
「青の力よ・・・。どうか、翠が無事緑豹国へ辿り着けるように、力を貸してくれ。」
そういって、蒼輝は青の玉(ギョク)をさらに強く握り締めると、目をつぶり念じた。
それを見ていたサンガは、「フン。」と鼻で笑うと、「くだらない。」と言い放ち、
「翠、行こう。」
と私の握っている手をさらに、ひっぱった。
だけど、私はその場で立ち止まったままだった。
「翠・・・。」と困るサンガに、「ちょっと、待って。」と私はサンガに言うと、彼から手を離す。
そして、私も自分の持っていた緑の玉(ギョク)を、両手で握り締めた。
「私の緑の力よ。どうか、蒼輝に力を与えて。
ジギルたちから、彼を守って。」
そう強く念じて、目をつぶった。
その時、「おいっ!」とサンガが叫んだ。
その声に驚いた私も蒼輝も、つぶった目を開ける。
「どうした?」
目を開けるなりサンガを見た蒼輝は、彼に聞く。
だけど、サンガは答えずにビックリした顔をして、蒼輝が両手で握っている玉を指さす。
「なんだよ。」とブツブツいいながら、蒼輝は自分の手に目を向けて・・・。
「なんだ、これっ!」
と叫ぶ。
さっきまで、ただの青色だった玉が今は、ものすごい強い青い光を放っていた。
そして、今度はその玉が何かにひっぱられるかのようにして、上へとあがっていく。
蒼輝がいくら強く握っても、青い玉は止まる事無く平然として、ドンドン上にあがっていく。
そして、ネックレスがピンと張るくらいまで、玉が上にあがりきった時、今度は『青い輝く光』だけが、玉から飛び出し、その『青い輝く光』は、さらにドンドン上にあがっていく。
光が飛び出たあとの玉は、透明のただの玉になって、ひっぱられていた力もなくなり、また蒼輝の胸のあたりに戻った。
ある一定の高さまであがった所で、その『青い輝く光』は、動きを止めた。
すると、今度はサンガが、
「おい、こっちもだ。」
と私の手を指さす。
『青い輝く光』の行動に目を奪われていた蒼輝と私は、サンガの声に今度は私の手に目を移す。
すると、さっきの蒼輝の時と同じように、私の緑の玉も、輝く緑の光を放ち、上からひっぱられるかのように、玉が持ち上げられ、ネックレスがピンとはったあたりで、今度は玉から『緑の輝く光』だけが、飛び出しその光だけが、上にあがっていく。
そして、光を失った透明の玉は、蒼輝の時と同様で、私の胸に戻って来た。
だけど、さっきと違ったのは、『緑の輝く光』の動きだった。
『青い輝く光』と同じ高さまでいった『緑の輝く光』は、『青い輝く光』に引き寄せられるかのようにして、『青い輝く光』の元へ移動した。
そして、それが交わった瞬間、あたりに、ものすごい眩しい光がたちこめた。
あまりに、強い輝きに、私も蒼輝もサンガも目をつぶる。
10秒くらい眩しい光があたりを包んだ。
「今の・・・何だったんだ?」
とつぶやきながら、サンガが目を開ける。
そして、すぐに私の心配をしてくれる。
「翠・・・何ともないか?」
サンガの声に、私もユックリと目を開ける。
周りの景色も、ちゃんと見えるし、自分自身に目を向けてみても、何も変わった様子はなかった。
「うん。平気。」
私は、サンガに笑顔でそう答えた。
「それにしても、さっきの光はなんだったんだ?
蒼輝に向かって、集中的に光が当たってたように見えたけど。」
サンガのその言葉に、私は蒼輝に目をやる。
さっきまで、立っていた蒼輝は、今はその場でしゃがんでいた。
心配になった私は蒼輝のもとへ、走った。
「蒼輝っ!大丈夫?」
彼の顔をのぞきこむ私。
「ああ。光が俺の体めがけて、飛び込んできたから、すごい風圧に耐えきれなくて、思わずしゃがんだだけ。
大丈夫だ。」
そういって目を開けた蒼輝は、私を見る。
そんな彼を見た瞬間、私は目を真ん丸にして、口はポカーンと開けて、さらに中腰だったお尻を、地面につけてしまった。
「す・・・い?」
私のおかしな反応に、不思議そうに聞いてくる蒼輝に、私は彼を指さしながら、必死で伝えた。
「目・・・目が・・・。」
って。
必死で言ったつもりだけど、ビックリし過ぎて、それしか言えなかった。
私の姿に、サンガも「どうしたんだよ。」と言って蒼輝を見る。
「うわっ!」
サンガのそのリアクションに、訳がわからない蒼輝は、「お前ら、いい加減にしろよっ!」と怒り出す。
その声に、サンガは、「待てよ。」と言うと、急いで自分のカバンからナイフを取り出す。
「これで、自分の姿を見てみろよ!」
「こんな時に、何を言ってんだ。」と、ブツブツ文句をいいながら、蒼輝はサンガが出したナイフを受け取ると、刃(ハ)の部分に自分の顔を映した。
「えっ!」
そう言って、またジックリと自分を見る。
「瞳・・・青いよね。」
蒼輝に確認する私に、しばらく黙っていた蒼輝は、急に何かを思い出したかのように、今度はかぶっていた帽子を乱暴に脱いだ。
「うわっ!」
と叫んだのは、サンガ。
思わず叫んでしまうのは・・・わかる。
だって、私も叫びそうになったんだもん。
サンガの反応に、蒼輝も気付いたのか、何も言わずに今度は自分の髪を、ナイフの刃(ハ)に映す。
毛先以外は真っ黒だった蒼輝の髪は、今は髪全体が、目が覚めるくらいの鮮やかな緑色になっていた。
「これが・・・本来の蒼輝の姿?」
私とサンガは、豹になれた時の蒼輝の人間の姿を知らない。
だから、これがそうなのか、知りたかった。
それには、蒼輝は何も答えなかった。
だけど、「これ、サンキュ。」と言ってサンガにナイフを返した蒼輝の顔が、すごく笑顔だったのを見ると、これが本来の彼の姿なんだと知った。
という事は・・・。
「豹に・・・なれるの?」
この私の問いかけには、蒼輝は答えてくれた。
「たぶんな。」
って。
そして、両腕を回し、足を回し、軽くストレッチをする。
「お前・・・頭がおかしくなったか?」
というサンガに、
「うるせぇ〜。1年ぶりの変身なんだから、チョット体操させろ。」
と悪態をつきながら、マイペースに体操をする蒼輝。
本当に・・・豹になれるか不安。
心配な顔で見ていた私に、サンガは「な〜。」と声をかける。
「なに?」と言う私にサンガは、
「俺、さっぱり意味がわからないんだけど。」
というと、
「そもそも、なんで、豹の姿を失った蒼輝が、また豹に変身できる。って展開になってるんだ?」
「それは・・・。」
私は、返事に困る。
そう簡単に説明できることじゃないんだけど。
黙る私に、
「それは、ここを無事、脱出できたら教えてやるよ。」
と蒼輝は笑顔で答えると、「よし、やるか。」といい、最後に首をコキコキと回して、準備を整えた。
目をつぶり、両手をグーにして強く握る。
そして、「んっ!」と体全体に力をこめた。
すると、彼の体はどんどん小さくなって、今度は横にどんどん大きくなっていった。
「す・・・げぇ〜。」
と感心のサンガ。
私は、彼が豹になれた事に、うれしくて思わず感動して涙ぐんでしまった。
「おいっ!自分の姿、見るか?」
とサンガは、しまったナイフを出そうするが、「いいよ。」と蒼輝は断る。
「自分の姿を見なくても、お前らを見ればわかる。」
蒼輝の言葉に、サンガは「どういう・・・こと?」と聞き返す。
「豹になったら、人間の時よりも、すべて高く見える。
目線が違うからさ。
今見えている景色は、豹になった時と同じ目線だ。
懐かしいよ。」
蒼輝はそう言って嬉しそうに笑うと、私の前まで来た。
「この姿が、いつまでもつかはわからない。
だから、今のうちに戻るぞ。」
蒼輝はそういうと、私に背中に乗るように言った。
私は、蒼輝の背中に乗った。
彼にしがみついた私は、懐かしいというよりは、ちょっと不安になった。
それは、前に乗った時より、私の体に合わない事。
ヒビキさんの背中とあまり変わらないくらい。
なんで?
夢で蒼輝に乗せてもらった時は、乗った瞬間でも違和感とかなかったのに。
私の体が、ヒビキさんの背中に慣れてしまったからなのかな?と、思うけど、そうじゃなくて、もっと重要な事のように感じてしまった私は、すごく不安になった。
「俺は、置いていっていいぞ。」
サンガのその言葉に、考え込んでいた私は、我に返る。
「何、言ってるのよ、サンガっ!」
それには、サンガは、笑顔で答える。
「どうせ、俺がお前たちに付いていっても、仲間にはなれない。」
「そんな事ないよっ!ね、蒼輝。」
私の言葉に、答えたのは蒼輝じゃなくて、サンガ。
サンガは私の側までくると、私の顔に優しく触れた。
「俺は混血人間じゃない。
だから、緑豹国には入れないんだよ。
俺が、ジギルたちのまとになるから、翠は蒼輝と一緒に戻れ。」
「そんな事・・・できるわけないじゃない。」
私は首を振って否定した。
BLUE LANDの存在がわかったのも、サンガのおかげ。
ジギルたちにみつかって危なかった時も、サンガの機転のよさで、ここまで逃げてこれた。
そして、何より私が無事なのも、こうやって蒼輝が豹に戻れたのも、結局はサンガの力があったからだもん。
そんな彼をここに置いてなんていけない。
ジギルを裏切った彼が待っているのは、死しかないんだよ。
そんな事、わかっててできるわけないじゃない。
「ねぇー、蒼輝。何とかしてよ。」
蒼輝の顔に、思いっきり自分の顔を近づけて訴えかける私。
しばらく考えていた蒼輝は、サンガの方に首を向けた。
「お前さ、もう死んでもいい。って思ってる?」
「なっ!何言ってるのよっ!!」
ひどい言葉を口にした蒼輝の頭を、私は怒りに任せてポカポカと殴る。
「いってぇーよ。」と顔をしかめる蒼輝に、さらに私は「バカバカ。」と続ける。
だけど、蒼輝の言葉に、サンガは真剣に答えた。
「元々、あの時森で翠に助けてもらわなければ、俺は間違いなく死んでいた。
この命は、翠の為に使いたい。って、ずっと思ってたからさ。
俺は、死ぬ事なんて恐くないよ。」
「サンガ・・・。」
彼の言葉に、私はそれしか言えなかった。
だけど、蒼輝は「って事は・・・。」とドンドン話を続ける。
「WONDER LANDには未練はないって事だよな。」
それには、さすがのサンガも話が見えないみたいで、
「お前、さっきから何言ってんだよ。」
とチョット、怒り出す。
だけど、そんなサンガには気にもとめないで蒼輝は、さらに続ける。
「すべてを捨てる覚悟があるか?」
あまりに真剣な眼差しで聞く蒼輝に、文句を言っていたサンガも怒りを鎮めて、1回深呼吸をする。
そして、ハッキリと答えた。
「この世界に未練はない。」
その言葉に、蒼輝は「よしっ!」と、ニッコリ笑うと、
「俺たちに、ついてこいっ!
俺の背中に乗って、翠が落ちないように、お前が上から覆いかぶされ。」
と、サンガに指示する。
だけど、サンガは両手を振る。
「いいよ。俺は、走るから。」
その言葉に、蒼輝は素早く、後ろ足でサンガの左足を軽く蹴る。
「くっ・・・。」
と顔をしかめてその場にしゃがみこむサンガを見た私は、訳がわからなくて「どうしたの?」とサンガに聞いてしまう。
「コイツ、怪我してたんだ。」
そう答えたのは蒼輝。
「えっ?いつ?」とさらに、蒼輝に聞く私。
「翠を抱いて、俺の隠れている岩山に来た時、トロイの流れ弾に足をやられたんだ。」
蒼輝が教えてくれた私の知らなかった真実。
サンガが怪我してたなんて。
そんな素振り一度も見せなかったのに。
「大丈夫なの?サンガ・・・。」
心配する私に、
「そんなかすり傷、たいした事ない。
大げさなんだよ、お前は!
そんなに、翠の気を引きたいのか!」
と暴言吐きまくりの蒼輝。
急に、サンガにケンカを吹っかけるというか・・・戦闘モードになってる蒼輝。
だけど、いくらなんでも、私を救った命の恩人に向かって、そんなひどい言い方ないよね。
「そんな言い方しないでよ!」
と思わず蒼輝に反発してしまった私を、さらに面白くないような目で私を見る蒼輝。
「なによぉ〜。」と怒る私に、サンガの笑い声が聞こえてきた。
「な・・・に?」
と彼に聞く私に、サンガは「いつもの蒼輝に戻ったか。」と笑いながら言うと、
「翠が俺を心配して、妬いてるのか?」
とニヤニヤと笑いながら言ってる。
それには、蒼輝も「うるさいっ!」と言うと、
「いいから、さっさと乗れ。」
とサンガに命令した。
「はいはい。」とサンガはおちゃらけて答えると、私の上に覆いかぶさるように、乗っかった。
「ギリギリまでスピード出すから、翠が落ちないようにシッカリ守れよ。」
蒼輝の言葉に、「はいはい。」と笑いながら答えるサンガ。
「ホントむかつくやつ。
あとで・・・蹴りいれてやる。」
蒼輝はそうブツブツいいなら、初めはユックリと走り出した。
自分も久しぶりだったから、ちょっと感覚を取り戻す為に、初めはユックリ走ってたのかもしれない。
それから、すぐに蒼輝が言った通り、かなりのスピードで、森を突っ切った。
私が、初めに感じた通り、夢の時と違って私は、蒼輝の背中にいる事が、すぐに苦痛になってしまった。
ヒビキさんの時よりもひどいかも。
だけど、上にサンガがいてくれたから、振り落とされる事もなく、何とか無事緑豹国の『狭間(ハザマ)』の森まで辿り着ける事が出来た。
でも、一体・・・どうして?
あんなに、平気だった蒼輝の背中が、こんなに耐えられなくなっちゃうなんて・・・。
不思議でたまらなかった。
『狭間(ハザマ)』に着いた私たちを、ヒビキさんとトーワくんが迎えてくれた。
「ホント〜だぁ!そぉーきが、豹になってるぅ〜。
な〜んでぇ??」
蒼輝の姿を見たトーワくんは、大騒ぎ。
私たちの周りをグルグル回りながら、蒼輝を隅から隅まで観察している。
「俺の心に話しかけてこなかったわりには、俺たちが戻って来る事、わかってたみたいだな。」
そうヒビキさんにいう蒼輝の言い方は・・・やっぱりまだ機嫌が直ってないみたい。
口調が恐いんですけどぉ〜。
でも、ヒビキさんは気にする風もなく、
「蒼輝が豹になってからは、玉で状況を見れたから、こっちに向かってるのもわかったし、ここで待ってればいいかと思って。」
と普通に答えてるし。
そして、私の上にのっている、サンガに目を向ける。
「それで・・・彼が、例のサンガ?」
それには、サンガは私の上から降りると、地面に降りたち、
「はじめまして。」
とヒビキさんに挨拶した。
「蒼輝・・・どういうつもりだ。」
蒼輝を責めるヒビキさんに、私は慌ててヒビキさんに「待ってっ!」と話かけた。
「蒼輝は悪くないの。
私が無理を言って頼んだの。
サンガは、ジギルたちから抜けて私たちを救ってくれた。
だから、彼をあそこには置いてこれなかったから、蒼輝にどうにかしてほしい。って頼んだの。
怒るなら、私を怒って。
蒼輝は悪くないから。」
必死でそう言った私に、蒼輝は何も言わないまま、体勢を崩し、私に下に降りるように促した。
私は、サンガの手を借りながら、下に降りた。
そして、蒼輝は、ヒビキさんのもとへと歩いた。
「データーチップの中身は、サンガの力で見ることが出来た。
だけど、謎だらけだ。
これからも、もっと謎が出てくるかもしれないし、それを解くのに、サンガの力がこの先必要となるかもしれない。
だから、サンガを連れてきた。
サンガなら、きっと『掟(オキテ)』にも耐えられるはずだ。
コイツにあれを飲ませてやってくれないか。」
蒼輝の言葉に、サンガは私に小声で聞いてくる。
「掟(オキテ)って・・・なんだよ。」
それには、私は「さぁ?」と首をかしげる。
一方で、蒼輝にそう頼まれたヒビキさんは、「お前がそこまでいうなら、いいだろう。」と言うと、
「トーワ、こっちこい!」
とトーワくんを呼びつけた。
「なぁ〜にぃ?」
と言いながら、ヒビキさんの元へ来たトーワくん。
「トーワ、泣いて。」
ヒビキさんの言葉に、「えぇ〜!!やぁ〜だっ!」と嫌がる。
その答えに、ヒビキさんは私を見る。
さらに、蒼輝まで、私を見るし・・・。
意味がわからないんだけど・・・仕方ないか。
私は、しぶしぶトーワくんの元へ行き、優しく彼に頼み込む。
「トーワくん!お願い。」
両手をあわせてかわいく拝んでみる。
すると・・・。
「はぁ〜い!!やるやるぅ〜。
まかせてぇ〜。」
とがぜん、やるきのトーワくん。
その姿に、サンガがボソっとつぶやく。
「アイツも翠に惚れてるのか?」
って。
「トーワくんは・・・そういうんじゃ、ないと思う。」
とうなずきながら答える私。
一方、やる気を見せたトーワくんは、急に体全体に力を入れる。
すると、トーワくんの黄色い豹の体が、光り輝いた。
そして、「えぃ!」と目をつぶったトーワくんの右の瞳から1粒の涙が出てきた。
だけど、それは黄色い玉になって、コロンと地面に落ちた。
それを、いつの間にか人間の姿に戻っていたヒビキさんが、拾うとサンガの目の前に差し出した。
「これを飲むと、サンガも混血人間になる。
だから、緑豹国に入れるんだ。」
「本当に?」
私は、ヒビキさんの言葉が信じられなくて、聞いてしまう。
ヒビキさんは、「本当。」と答えると詳しく教えてくれた。
「王になる豹には、王に必要な能力以外にもう一つ力が付いてるんだ。
それは、その豹によってさまざまだった。
俺には、翠ちゃんも知ってる通り、ランに渡した愛する者にだけ与えられる玉を作る事ができる。
そして、トーワには、自分の豹の力を普通の人間に与える事ができるんだ。
もちろん変身させたりといった強い力を与える事は、できない。
今のサンガみたいに、ただの人間をトーワの体の一部である玉を、体内に入れる事によって、混血人間になる事ができる。
その程度なんだけどね。
そうやって、昔は、WONDER LANDの人間を仲間に入れようとしたのかもしれないな。
実際、仲間になったかどうかは、俺にもわからないけどな。」
それを、聞いて1つ気になった。
それは・・・。
「じゃあ、蒼輝のも何か特別な力があるのよね?
それは、何なんですか?」
それには、ヒビキさんは首を振って「それは、いえない。」と答えた。
「蒼輝の力は、言えないんだ。
でも、いずれ翠ちゃんが、身を持ってわかる時がくる。
それまで、待っててほしい。」
ヒビキさんの言葉に、私は蒼輝を見た。
蒼輝は何も言わず、ただ優しく微笑んでいた。
すごく気になったけど・・・今は、サンガの事をどうにかしなきゃならない。
私は、蒼輝の力については、今は忘れる事にした。
「つまり、これを飲めば、俺は緑豹国に入れる。って事ですよね。」
サンガはそう言って、ヒビキさんの手から黄色い玉を取ろうとした。
「だけど、一つ『掟(オキテ)』があるんだ。」
ヒビキさんの言葉に、サンガの手が止まる。
「お・・き・・・て?」
顔をしかめて聞くサンガ。
「それは・・・。」とヒビキさんは、口にするといいにくそうにゆっくりと話だした。
「緑豹国はWONDER LANDの人間を入れないために、『念』を利用する事で、今まで守ってきたんだ。
それを、玉を飲んだら、簡単に中に入れる。ってしてしまったら、そいつが裏切りWONDER LANDに戻ってしまったら、緑豹国の秘密が明るみになってしまう。
そうさせないために、その玉には、掟がある。
それは、『緑豹国から出ないこと』。」
「えっ!」
私とサンガの驚きの声が、重なる。
「驚くのも無理はないか。」とヒビキさんはいうと、さらに続ける。
「正確には、出ることはできるけど、たぶん耐えられないと思う。
緑豹国から出たら、体内に入っている玉が暴れだすんだ。
どんなに我慢しても50メートルも進めないと思うよ。
いえば、時限爆弾みたいなもんかな。」
「もし、強行突破したとしたら、どうなるんですか?」
私の言葉にヒビキさんは、
「もちろん、無理して突き進めば、玉の痛みに耐えられず死んでしまう。」
と答えた。
それには、言葉を失ってしまう私。
って事は、サンガは二度と緑豹国から出られないって事だよね。
あんな発達した世界で生きてきたサンガが、言えば何もないような緑豹国で本当に生きていけるの?
彼が心配になる私に、ヒビキさんの最後の言葉がサンガに向けられる。
「玉は一度飲んだら絶対に体内から出て行かない。
それでも・・・飲む覚悟はあるか?」
それには、サンガはすぐに「ああ。」と答えた。
「本当に・・・いいの?」
と聞く私にサンガは、
「どうせ、このまま居ても俺の居場所はないし、ジギルたちに殺されるに決まってる。
だったら、翠の側で、翠の為に生きていきたい。」
そう答えると、ヒビキさんの手から黄色い玉をつかむと、口に運ぼうとした。
その時、「待てっ!」と蒼輝の鋭い声が辺りに響いた。
もちろん、サンガの動きだって止まった。
「なんだよ。」
というサンガに、
「それを、飲む前に、お前に言っておかないといけないことがある。」
と蒼輝は、サンガの前に歩み寄る。
「なんだよ・・・急に、真剣な顔して。」
確かに、サンガのいう通り、蒼輝の顔は・・・真剣な眼差しだった。
一体、彼は何を言おうとしてるの?
「翠の事なんだけど・・・。」
蒼輝のその言葉で、ヒビキさんは彼が言おうとした事がわかったようで、
「蒼輝っ!待て!」
と彼を止めた。
「お前、正気か?
翠ちゃんの事を話して、もしサンガがやっぱりWONDER LANDに帰るって言ったら、どうするんだ。
翠ちゃんの事を、外部の人間に知られるわけにはいかないんだよ。
わかるだろ?」
蒼輝の行動をとどまらせようと、必死で言い聞かせるヒビキさんだけど、蒼輝は「大丈夫だって。」と笑って全く聞こうとしない。
「蒼輝っ!」
と叫ぶヒビキさんに、蒼輝は「騙したくないんだ。」と口にした。
「サンガは、翠の側にいたくて、緑豹国の人間になるんだ。
だけど、緑豹国に翠が居る時間はわずかだ。
それを、教えずにサンガを緑豹国の人間にするのは、コイツを騙してるみたいでいやなんだ。
コイツとは、フェアーでいたい。
恋敵としてはね。
それに、コイツなら、例えWONDER LANDに戻る事になっても、翠の事は言わないよ。
愛する女の秘密を話すような事はしない。」
そう言ったあとで、蒼輝はサンガに目を向けると、「なっ!」と同意を求める。
だけど、もちろん意味が全くわからないサンガは、思いっきりバカ面で、
「なっ!って・・・知らねぇーよ。」
と冷たく言って蒼輝を突き放した。
そんな蒼輝とサンガの、微妙に息が合った雰囲気を見ていたヒビキさんは、一回ため息を吐くと、「お前の好きにしろ。」と言うと、蒼輝から少し離れた所にある枯れ木の上に、腰をおろした。
そんなヒビキさんに、蒼輝は「サンキュ。」とつぶやくと優しく笑った。
そして、目線をサンガに向けた。
「お前さ、不思議がってたよな?
緑豹国にもういないはずの女豹が、どうしているのか?って。」
蒼輝の言葉に、サンガは「ああ。」と答えると、
「翠の存在は、ホント突然だったから、誰もが驚いてたよ。」
と付け加える。
「実はな・・・。」と蒼輝は言い出すと、簡単に私の素性(スジョウ)を話し出した。
私は、この時代から500年前の過去の時代から来た者であり、ここにいれるのは、めいいっぱいいても8日間だけ。
さらには、何か目的があって、ここに来ているだけで、それが終われば私は二度とここへは、来れなくなるだろう。という事。
もちろん、こんな夢物語みたいな話を、サンガだって初めは、信じてなかったと思う。
だけど、チナリさんが最後の女豹だった事は事実で、それなのに女豹である私が現れた事。
そして、前にサンガと逢った以来、全く私が姿を現さなかったという事。
考えれば考えるほど、出てくる不思議な事。
それが、蒼輝の言っている夢物語と、つなげると話のつじつまがあうだけに、蒼輝が言っている夢物語は、本当であると裏付けた。
「だから、お前が緑豹国の人間になっても、翠とずっとずっと一緒に居れるわけじゃないんだよ。
翠がいないうえに、WONDER LANDの頃とは似ても似つかない生活が待ってる。
お前・・・本当にいいのか?」
最後の蒼輝の問いかけに、サンガは「けどさ〜。」とつぶやくと、蒼輝を見た。
「緑豹国にいたら、こっちに翠が居る時間は一緒にいられるんだろ?
俺は、翠がこっちにいる間だけでも、役に立てれたらそれでいいんだよ。」
そして、今度は、真面目な口調から一変して、意地悪な口調になる。
「それに、さっきから言ってるだろ。
俺には、もう居場所がないんだって!
掟も、翠が期間限定だって事も、俺にとってはたいした事ないよ。
だって、それより、もっとすごい事に耐えなきゃなんないんだからな。」
サンガの言葉に、蒼輝は首をかしげながら、「なんだよ、もっとすごい事って。」と聞く。
すると、サンガはとても嫌そうな顔をして、
「決まってんだろ!
緑豹国の王が、お前だって事だよ。」
それには、蒼輝も「はぁ?」と気の抜けた声を出す。
そんな蒼輝に、さらにサンガは言っちゃう。
「お前が支配してる国って・・・ガラが悪そう〜。」
そう言って大笑いするサンガにつられて、蒼輝も大笑い。
「そんなに俺を褒めてくれるなら、仕方ねぇーな。
俺、専属の護衛にしてやるよ!光栄だろ?」
という蒼輝に、「勘弁してくれよぉ〜。」と嘆くサンガ。
そんなサンガをみて、蒼輝は笑いながら、
「ほら!さっさと、飲めよ。」
とサンガのお尻を、しっぽで叩く。
「いてぇ〜!」といいながら、サンガは黄色の玉を飲んだ。
彼が飲んで、5秒が過ぎた頃だった。
「あれっ?胸が・・・。うわっ!」
サンガはそう言って、その場でうずくまった。
サンガの顔からは、脂汗が出ていた。
「ち、ちょっと!サンガ!大丈夫!」
心配で彼の側にかけつけた私に、蒼輝は、
「大丈夫だ。こうすれば直る。」
というと、サンガの服の襟元を牙にひっかけると、思いっきりサンガを緑豹国に続く光の入り口に向かって投げ飛ばした。
「なっ!」
と驚く私に、ヒビキさんは、「さっきも言ったけど・・・。」と言うと、蒼輝の行動にあぜんとしている私にさらに、話しかけてきた。
「緑豹国から出たら、あーいう状態になるんだ。
今彼は、緑豹国に入ったから、きっとケロっとしてるよ。
行こうか。」
そして、私たちも、光を通って、緑豹国の森へと入った。
そこには、ヒビキさんが言った通り、ピンピンしているサンガの姿があった。
彼の元気な姿を見た私も、みんなも安心したのか、何も言わないけど、周りで安堵の空気が流れた。
「よしっ!じゃ、城に戻るか。」
ヒビキさんの言葉で、私とサンガとトーワくんが、それぞれ同意の返事をした時だった。
何かが倒れる音がした。
私たちの目が、同時にその音がした方に注がれた。
「蒼輝っ!」
いち早く動いたのは、ヒビキさん。
倒れていたのは、蒼輝。
それも、いつの間にか人間の姿に戻っていて、さらに気を失っていた。
「おいっ!髪の色!!」
そう叫んだサンガの言葉に、私たちの目は蒼輝の髪に集中する。
目が覚めるくらい鮮やかな緑色をしていた彼の髪は、今は毛先だけがその色で、あとは黒髪に戻っていた。
それを見たヒビキさんは、目をつぶっている蒼輝のまぶたを、少し引っ張って瞳を確認する。
「目も、黒に戻ってる。」
ヒビキさんはそういうと、「トーワ、こっち来て!」とトーワくんを呼んだ。
こんな状況でも、マイペースなトーワくんは、「ほぉ〜い!!」と軽〜い返事をしながら、ヒビキさんの元へ行くと、
「蒼輝を乗せるから、体勢をひくくしろ。」
と言われて、その場でしゃがんだ。
ヒビキさんが、倒れている蒼輝を抱き上げ、トーワくんの背中に乗せようとしているのを、サンガも助ける。
サンガに助けられて、ヒビキさんは素直に、「助かるよ。」と笑顔で答える。
それには、「いえ。」とサンガも答え、二人で蒼輝をトーワくんの背中に乗せた。
「サンガも知っている通り、トーワは普通に走っても、かなりのスピードが出る。
これだけ、脱力状態の蒼輝を一人で乗せたら、間違いなく風圧で、落ちてしまう。
サンガが、上に乗っかって城まで行ってくれないか?」
ヒビキさんの申し出にサンガは、「ああ。」と答えると、横たわっている蒼輝を守るようにして、トーワくんの背中に乗った。
「翠ちゃんは、俺が乗せていくから。
トーワ、頼んだぞ。」
ヒビキさんの言葉に、
「い〜つも、ヒビキばぁ〜っかり、翠ちゅぁん乗せて、ずるぅ〜い。」
とブツブツ文句をいいながら、「じゃぁ〜、いくよぉ〜!」とサンガに呼びかけ、トーワくんは、走って行った。
そんなに彼自身、スピードを出している意識はないだろうに・・・ホントに速い。
あまりの速さに、見とれている私の足を、トントンと何かが触れる。
私は、それに目を向ける。
これまた、いつの間にか、豹の姿になっていたヒビキさんが、前足で私の左足を叩いていた。
「俺たちも行こうか!」
ヒビキさんの言葉に、私はうなずくと、ヒビキさんの背中に乗って、シッカリとしがみつく。
そして、思った。
やっぱり・・・さっきの蒼輝よりも、まだヒビキさんの方がしがみつきやすいというか、走っていても振動がそんなに来ない。
それにひきかえ、さっきの蒼輝の背中では、走る振動で、徐々に手が緩んできて落ちそうだったもん。
そして何より気になるのが、どうして蒼輝が元の姿に戻ってしまったのか。
一時的に戻るだけだと、タカさんから聞いてはいたけど、何が基準で元に戻ってしまったのだろう。
時間?それとも、蒼輝が気絶しているところを見ると・・・体力?
それに、そもそもどうして蒼輝は変身できたの?
引力の玉が、発動したのは、何かキッカケがいったはずだけど、それが何なのかは・・・わからない。
何か、謎だらけだ。
またしても、頭の中がいっぱいになって、知らないうちに「はー。」とため息をついていた私。
「そのへんの事は、翠ちゃんの話を聞けば、わかると思うから、またあとで話聞かせてよ。」
急に聞こえたヒビキさんの声に、「えっ?」と答えてしまう私。
だけど、私の方に顔を向けて優しく笑いながら、走っているヒビキさんを見ると、心を読まれたんだと知る。
だけど、そう思って「ん?」と変な事に気付く。
「どうして、ヒビキさんと心で話せるの?」
だって、私の緑の力は、玉から飛び出したはず。
今、私の首にかかっている玉は、何もない透明なカラの玉なんだもん。
「見てごらんよ!ネックレスの玉を。」
そういって、速度を少し落としてくれたヒビキさん。
私は、ユックリと目を胸元に向けた。
「うっそー!戻ってる。」
私の胸元にあった玉は、元の緑色の玉になっていた。
「どうして?それに・・・いつの間に?」
身を乗り出してヒビキさんに聞く私。
シッカリとヒビキさんに私がしがみついている事を、感じたヒビキさんは、またスピードを上げる。
「蒼輝が倒れた時に、サンガが髪の色が変わってる。って言っただろ?
その時に、翠ちゃんの玉を見たんだ。
そしたら、緑色に戻ってた。
そして、ついでに蒼輝のも見たら、青色に戻ってたよ。
つまり、蒼輝が変身できない姿に戻れば、それぞれの力は玉に戻るって事みたいだね。」
ヒビキさんは、そういうと、
「蒼輝が気になる。
このまま翠ちゃんを乗せたまま、蒼輝の部屋まで突っ切るよ。いい?」
ヒビキさんの言葉に私は、「はい。」と答えた。
☆☆☆3章 END☆☆☆
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