お城に戻った私とヒビキさんは、いつもだったらすぐに司令塔室に戻るんだけど、今日は最初にヒビキさんが言ったように、そのまま蒼輝の部屋へ直行した。
部屋の前で、ヒビキさんは私を背中から降ろし、自分も人間の姿に戻った。
そして、軽く蒼輝の部屋の扉をノックすると、扉を開けて中に入った。
部屋に入ると、リビングにタカさんと、人間の姿になっているトーワくんと、そしてランさんがいた。
こういう時は、いつもランさんが手当てをしているだけに、彼女がリビングでノンキにお茶を入れている姿を見て、私は何もいえずにしばらくボーっとしてしまった。
もちろん、私と同じように、あの人だって変だと気付いた。
「おい、ラン!お前・・・こんな所で、何してるんだ?」
ヒビキさんのその言葉に、ランさんは笑顔で、「お茶を入れてるんです。」と答える。
そんなの、見たらわかるよ!
と私は心の中で突っ込んでしまった。
その時、どこからともなく、
「翠ちゅぁ〜ん!」
とおっきい声が聞こえた。
私は、思わず「えっ!何!」とキョロキョロしてしまう。
その時、私に向かってすっごいスピードで走ってくるトーワくんの姿を発見した。
うわっ!また・・・抱きつかれるよ!
と思って体に力を入れたけど、あと少しの所で、私の側にいたヒビキさんが、トーワくんの首根っこをつかんで、つかまえてくれたので、抱きつかれずにすんだ。
ホッとする私とは違って、ジタバタするトーワくんをつかまえたまま、ヒビキさんは今度はタカさんに話かける。
「長老。蒼輝は、どうなんですか?」
ヒビキさんの言葉に、私はホッとしている場合じゃない。と自分を叱る。
そうよ!意識を失って倒れた蒼輝が、どうしてるか聞かなきゃ!
私もヒビキさんと一緒になって、タカさんを見る。
するとタカさんは、ランさんが入れてくれたお茶をズルズルと、おいしそうな音をたてて飲んでいたのを中断する。
そして、ちょっとご機嫌ななめになっちゃったタカさん。
「二人とも来るなりなんじゃ!
ちーとは、落ち着かんか!
ランが暖かいお茶を入れてくれたから、座って飲んだらどうじゃ?」
と言って、近くのソファーをトントンと叩き、私たちに座る事をすすめた。
タカさんの言葉に私はヒビキさんを見る。
ヒビキさんも私の視線に気付いて、
「確かに。あせっても仕方ないか。
翠ちゃん、座ろうか。」
そう言ってヒビキさんは、タカさんの横に腰をかけた。
私は、フロアーに座っているランさんの横に座った。
「いいんですか?こんな所で。」
と聞くランさんに、
「今の私には、ランさんの側が一番落ち着くから。」
私はそう言って彼女に微笑みかけた。
蒼輝が私を避け、彼の側にいられなくなった私の今の居場所なんて・・・ここにはない。
だから、せめてこの世界で何でも話せたランさんの隣に居たかった。
私と蒼輝が、そういう事になっていると知らないランさんは、
「あっ、今、蒼輝さまはいらっしゃらないですものね。」
と言って「では、これを。」と、側にあった座布団みたいな物を私に差し出した。
私はそれを下に敷いて座った。
「それは、そうと・・・サンガの姿が見えないようですが。」
ヒビキさんはそう言いながら、リビングを見渡すけど、確かにサンガはいない。
「そういえば・・・サンガは?」
とトーワくんに聞くけど・・・。
トーワくんは、疲れたのか転がって寝ている。
「ちょっと!」
と叫んでトーワくんを起こそうとするけど、「そのままでいいよ。」とヒビキさんは私を止める。
「だってぇ〜。」と言い返す私に、
「トーワが起きてると何かとうるさいからな。
ちょっと、今から色々話をしたいから、寝かしといて。」
そういってヒビキさんは、優しく笑った。
「サンガは今、蒼輝の所におる。」
タカさんの言葉に私もヒビキさんも一緒に同じ言葉を言う。
「なんで?」
って。
それを見ていたランさんは、
「お二人は、気が合うんですね。」
と言いながら「フフフ。」と上品に笑った。
「蒼輝は、外傷はないし、どうして倒れたかも、意識が戻らないかもわからん。
だから、薬草を飲ませるわけにもいかなくてな。
それで、サンガに診てもらっているんじゃ。」
タカさんの言葉に、私の胸にズキーンと何かが突き刺さった。
今・・・タカさん・・・何て言った?
確か・・・。
「意識が戻らないって、どういう事ですか!」
私が言いたい言葉を、代わりにヒビキさんが言ってくれた。
私の心を読んだのか、彼自身もそれを知りたかったのか、それはわからない。
だけど、私の思いは言葉となった。
それには、タカさんは「なんでじゃろうな。」といって首を振る。
「ワシにもわからん。
ただ、サンガが言うには、玉を使って豹に戻った際の後遺症ではないか。と言っておるがな。」
タカさんの言葉に、「そういえば・・・。」とヒビキさんは口を開くと、
「蒼輝を、サンガが診てるって、どうしてですか?
彼は、ハンターで医者ではないはずですが。」
それには、ランさんが答える。
「彼は、幼い頃からハンターになる為に、教育を受けていたそうです。
そして、数多い人材の中から、ハンターという狭(セマ)き門に、みごと入った優秀な人。
ありとあらゆる分野の知識を幼い頃から受けていたそうで、医者と同じくらいの知識もあるようです。
ですから、蒼輝さまの事はサンガさまに、お願いする事にしたのです。」
ランさんの説明に、「なるほどねぇ〜。」と納得をしたヒビキさん。
そして、また本題に戻る。
「長老、蒼輝が意識を失ってるのが、後遺症っていうのは・・・どう考えますか?」
それには、タカさんは少し考え、急に私を呼ぶ。
「なんですか?」
と答える私に、
「お前さんは、蒼輝の背中に乗ったんじゃろ?
何か、気が付いた事はなかったか?
どんな些細な事でもかまわん。」
なんて言われても・・・。
気が付いた事?
そんな事あったっけ??
私は、あの時の事を必死で思い出した。
そして、あの事を思い出した。
思わず、「あっ!」と声に出した私に、
「何か、思い出したか?」
とタカさんが身を乗り出して聞いてくるけど、『あの事』は・・・関係ないよね。
私は、「いや・・・なんでもないです。」と濁した。
でも、ヒビキさんは、
「関係ないかは、俺たちが決める。
言ってくれないか?」
と言われて・・・言わないわけにもいかなくて、私はバカにされて笑われるのを覚悟して、しぶしぶ『あの事』を口にした。
私の話を聞いたあと、一番最初に口を開いたのは、意外にもランさんだった。
「前に蒼輝さまの背中に乗った時と、今回とはそんなに違ったんですか?」
それには、私は「うん。」と言って深く頷く。
「まるで、別人みたいだった。」
と添える私の言葉に、「なるほどな〜。」とヒビキさんは言いながらうなずく。
「な・・・に?」
と聞く私を無視して、ヒビキさんはタカさんを見る。
「原因は、それですかね。」
ヒビキさんの問いかけに、タカさんは「間違いないじゃろうな。」と答えた。
「一体、何なんですか!」
とヒビキさんにくってかかる私に、ヒビキさんは「後遺症がわかったよ。」というと、ランさんが用意してくれたお茶を飲むと、ソファーに深く腰を降ろし座りなおす。
「蒼輝は、1年以上、豹に変身していなかった。
俺たちはね、人間である体を一回バラバラにして、それをつなぎ合わせて豹の姿になってるんだよ。
見えないけど、体の中でそうなってる。
細胞だけで動いてるんじゃなくて、骨も筋肉も全てが人間の姿と、比例してる。
つまり、極端な話をすると、人間の姿ですっごい太るとするだろ?
いえば、デブね。そうすると、豹になった時に、デブの姿になる。」
う・・・・ん。
ヒビキさんの言っている意味がわからない。
デブって!
思いっきり首をかしげる私に、「ようするに。」とヒビキさんはいうと、さらに簡単に話してくれた。
「人間の姿ではわからなかったけど、豹の姿にならなかった蒼輝は筋肉が落ちてしまったんだ。
だから、豹になった時に、昔みたいに筋肉のしまった体にならなかった。
翠ちゃんの体に合わなかったのは、そのせいだろうな。」
そう言われて、納得する私。
今思い返せば、昔の蒼輝の体は、確かにひきしまっていたもんね。
でも、それと意識が戻らない事と関係があるの?
思わず、心でヒビキさんに聞いてしまう私。
「もちろん。関係がある。」
心の声が届いたみたいで、ヒビキさんはそう答えると、もう一つの話を始めた。
「さっきも言ったけど、豹になる為に、骨がバラバラになってくっつく。
つまり、その行為が1年以上、蒼輝の体では行われていなかったんだ。
急にそんな事を起こせば、体がついていけずに、意識を失う事だってあるだろう。
蒼輝が一時的でも豹に戻れたのは、うれしい事だけど、蒼輝の変身はアイツの命を縮める事になる。
もう、させない方がいいですね。」
そう言ってタカさんを見るヒビキさん。
タカさんも、ヒビキさんの考えに同意したようで、「そうじゃな。これ以上は、危険じゃ。」と首を振った。
ちょっと待って!
という事は・・・。
ヒビキさんの言葉を落ち着いて理解した時、私はまた自分がしたことの重大さに気付いた。
「う・・・そ。」
私は小さな声でそうつぶやき、ショックで自分の口元に両手を当てて、今度は「どうしよう。」と何度も口にした。
「翠さん?」
私の異変に気付いたランさんは、私に目を向ける。
だけど、私にはもうランさんの姿も、誰の姿も目に入らなかった。
わかっているのは、蒼輝を重症にしたのは私だって事。
私が、彼を豹に戻そうと、虹のかけらを採りにいかなければ、引力の玉はできなかった。
そしたら、蒼輝は豹に戻らずにすんだし、こんな危険な目に合わなくてすんだのに。
彼に拒まれて、そして私は彼を苦しめる存在でしかない。
このまま私がいたら、また彼は絶対に、誰が何と言おうと、必要な時になれば、豹に変身するというだろう。
それが、自分の寿命を縮める事になったとしても。
私さえいなければ、緑の力がないから、彼は豹にはなれない。
私が、ここにいるからいけないんだ。
私は・・・ここに居たらいけないんだ。
私がそう強く思った時、私はまた右側頭部に激痛を感じた。
「い・・・たっ!」
痛みが走ったところを、右手で抑えてうずくまる私を見た、ヒビキさんもタカさんも取り乱す。
「翠ちゃん!ダメだ。戻ったらダメだ!」
ヒビキさんは叫びながら、私の元に駆け寄って、私の腕をつかんで叫んでくれる。
「翠、聞こえるか?翠!」
タカさんも私の側に来て、そう叫んでくれる。
まだ、二人の声は聞こえた。
目だって開けれたし、彼らの姿を私は痛みに耐えながら見ていた。
そして、頭の中で私は、出発前に真音(マナト)さんに、言われた言葉を思い出していた。
『何があっても、水の世界に行くまでは戻ってきちゃダメだ。』
私だって、そのつもりだったよ。
絶対に、あの水の世界・・・いや、BLUE LANDに行くんだ!って思ってた。
だけど・・・もう、耐えられないよ。
大好きな蒼輝に、嫌われて、私にはここでの居場所がない。
さらに、大好きな彼の命を危険な目にばっかり遭わせている私の存在。
私がここにいる『意味』は、他にあるの?
そんなの、絶対にないよ。
私は、この世界に必要ないんだ。
私がそう強く思った時、さらに頭全体が痛くなった。
このまま、今度は耳鳴りがして、誰の声も聞こえなくなって・・・私は元の世界に戻ってしまうんだ。
その時だった。
「翠っ!」
私の名前を呼んで、私を強く抱きしめてくれた人がいた。
頭の痛さで、目をつぶっていた私は、そっと目を開ける。
目の前には男の人の胸。
私は、ゆっくりと顔を上げる。
「サンガ。」
痛みに苦しみながらサンガを見上げる私に、サンガは顔をすりよせてくる。
「蒼輝がうわ言で言ってたよ。
翠、行くな!って。」
それには、私じゃなくて、ヒビキさんが「どういう事だ?」とサンガに聞く。
「意識が戻ったのか?」
さらに、タカさんも言葉を続ける。
だけど、「いえ。」と首を振るサンガ。
「意識は戻りません。
でも、たぶん翠の心を、アイツは眠りながら感じてるんだと思う。
蒼輝は、翠の心がわかるみたいだったから。」
サンガはタカさんとヒビキさんに、そう答えると、今度は私をみつめた。
「翠も、蒼輝と心が通じ合ってるって、今まで何度も感じた事あるだろ?
蒼輝が、『行くな!』と言ってる。
だから、ここにいろ。」
そして、サンガは強く私を抱きしめた。
だけど、完全に凍りついてしまった私の心は、もう誰にも溶かすことなんて出来なかった。
走り出した私の気持ちだって、もう自分では止める事も出来なくなっていたんだから。
案の定、頭痛から今度は耳鳴りが私を襲ってきた。
「耳が・・・・痛い。」
私の言葉にタカさんは、「こうなっては、もう・・・無理じゃ。」と諦め、腰を降ろす。
ヒビキさんも、もう諦めた。
だけど、サンガは諦めなかった。
「蒼輝っ!聞こえてるかっ!
翠を連れ戻せ!お前にしか出来ない!
蒼輝っ!!」
サンガは、私を抱きしめながら、蒼輝が眠っている寝室に向かって叫んだ。
もちろん、私にはそんな声は聞こえてなかった。
ゆるい耳鳴りが私の耳を襲う。
これが、激しくなれば、私は元の世界に戻ってしまう。
その時、私の中で迷いが生まれた。
本当にこのまま、戻ってしまっていいの?
蒼輝は、「行くな。」と私に言った。
それは、どういう事?
私、蒼輝の側にいていいの?
あなたを苦しめるだけの私だけど・・・。
いいなら、私は居たいよ。
彼の側に・・・居たいよ。
「翠・・・。」
私の凍りついた心に、その言葉がガツンと打ち込まれた。
そこから、ヒビが入ったみたいに徐々に私の凍りついた心を暖めてくれた。
そして、いつの間にか私の走り出した気持ちも、そこで止まっていた。
と同時に、私を襲っていた緩い耳鳴りも、頭の激痛もなくなっていた。
私は、目を開けてサンガを見上げる。
諦めていたタカさんもヒビキさんも、ケロっとしている私を、言葉も出ないくらい驚いて見ていた。
「よかった〜。」
と安堵のため息を吐きながら、サンガは私を抱きしめる。
抱きしめられながら、私はサンガに聞いてみる。
「ねぇー、さっき、蒼輝が私の名前呼んでくれたんだけど。」
でも、サンガは「そんなはずはないよ。」と答えると、
「アイツは眠ったままだ。
俺たちだって、アイツの声を聞いてないし。
きっと、翠の心に話しかけたんじゃないか?」
サンガの言葉に納得がいかないけど、彼の言葉を、みんなが否定しない所を見ると、みんなには蒼輝の声が聞こえなかったみたい。
という事は、やっぱり心に話しかけてくれたの?
でも、緩い耳鳴りの上から聞こえたような気がしたんだけどな〜。
サンガの腕の中で、首をかしげた時だった。
私は、勢いよく頭を上げる。
「翠?どうした?」
私の行動に驚いて、サンガは私を心配そうにみつめて聞いてくる。
「今っ!蒼輝が私を呼んだ!」
真剣にそういう私にサンガは、
「聞こえたか?」
とヒビキさんたちに聞くけど、みんなは「いいや。」と口にする。
それでも、私は確信する。
絶対、蒼輝が私を呼んだ!って。
私は、サンガの腕の中から出ると、蒼輝の寝ている寝室に向かって行き、扉を開ける。
「だから、蒼輝は寝てるって。」
と言いながら、私を追ってきたサンガは、私が見ている光景を彼も目にする。
そして、絶叫する。
「蒼輝っ!お前っ!いつ、目覚めたんだよ!」
その声に、ヒビキさんもタカさんもランさんも、蒼輝の部屋の入り口へと走ってくる。
蒼輝はベットに座って、私にユックリと左手を出した。
「翠・・・、おいで。」
蒼輝のその言葉と、私を避ける前のとても優しい眼差しをみたら、私は素直に、彼の腕の中に飛び込んでいた。
彼に抱きつく私を、彼はユックリと抱きしめる。
「ごめんな。」
蒼輝の言葉に、私は「何が?」と言いながら、彼の顔を見る。
彼は、とても優しい眼差しで私をみつめる。
「俺の心が揺れたばっかりに、お前を危険な目に合わせて、それでまたお前が自分を責めてしまうような辛い思いをさせてしまった。
本当にごめんな。」
そして、蒼輝は私の頭を自分の胸に押し当てる。
私の顔が彼の胸に思いっきり近付いた。
彼の鼓動を感じて、私は心からホッとした。
「ヒビキ。」
蒼輝は私を抱きしめながら、ヒビキさんに目を向ける。
「なんだ?」
と答えるヒビキさんに蒼輝は、「俺には無理だ。」と口にした。
「なんの・・・事?」
と私は彼の胸の中で、彼を見上げて聞いてみる。
きっと、ここにいる誰もがそう思ったに決まってる。
だけど、言われたヒビキさんは、わかっているみたいで、何も聞き返さない。
さらに、蒼輝は続ける。
「お前の忠告を、素直に聞こうと思ったよ。
だけど、俺にはやっぱり無理だ。
まだまだ、『子供』だな。」
と言って笑う蒼輝にヒビキさんは、「好きにすればいいさ。」と少し口元を緩ませて言う。
「お前たちが納得した上で、出した結論なら、俺は心から祝福するよ。」
そういうと、「俺たちは、司令塔室に戻るよ。」といい、今度はサンガを見る。
「データーチップに入っていた情報と、他に起った事とか、サンガが教えてくれるか?」
それには、蒼輝が「待てよ。」と反発する。
「俺たちも、話しに入るよ。
ここで話せないなら、司令塔室に行くよ。」
そして、かけていた布団を取ろうとした蒼輝を、「お前らはいい。」というサンガの言葉が動きを止める。
「なんで?」
と聞く蒼輝に、
「結果報告なら、俺一人で充分だ。
それより、今はお前たち二人の気持ちをぶつけあって、誤解をとけよ。
二人でユックリできる時間なんて、そうそうないかもしれないんだぞ!
今回だけ、目をつぶってやる。
翠を、引き戻したお前の気持ちの強さに免じてさ。」
そういうとサンガは、「さっ、司令塔室って所に案内してくれよ!」と言いながら、みんなを連れて、寝室から出て行こうとした。
最後にサンガが、出て行き扉を閉めようとした時だった。
「サンガ。」
蒼輝の呼びかけに、「ん?」と言ってサンガは顔を覗かせる。
「ありがとな。」
蒼輝の言葉に、「ああ。」と答えると、
「翠、あとでな〜。」
と手を振って扉を閉めた。
みんながいなくなって、蒼輝と二人になると、急に彼に抱きしめられている事が、恥ずかしくなって私は赤面してしまう。
ドキドキが高鳴って、彼に聞こえてしまう気がして、彼の腕の中から出ようとするけど、さらに蒼輝が私を強く抱きしめた。
そして、私の髪を優しくなでて、私の耳元に唇を近づけてこう囁いた。
「大好きだよ。」
って。
そのしぐさと、その言葉。
あまりに、夢に見た蒼輝とダブっていたものだから、私は思わず「クス。」と笑ってしまう。
「なんだよ。」
とちょっと、おもしろくないみたいでスネた口調でいう蒼輝に、「一緒だったから。」と私は答えた。
「一緒?」と不思議そうに聞き返してくる蒼輝に私は、うなずくと、
「WONDER LANDの光の入り口の前で、蒼輝と一緒に眠って過ごしたでしょ?
あの時ね、私は蒼輝に抱きついて眠ったんだけど、その夢で蒼輝がこうして私を優しく抱きしめてくれて、頭を優しくなでてくれて、耳元でそう囁いてくれたんだ。
その夢がとても嬉しくて、私をすごく幸せな気分にしてくれたの。
まるで、正夢みたいで・・・つい笑っちゃった。」
「正夢・・・ねぇ〜。」
蒼輝がそう言って、優しく笑う。
だけど、その笑いがなんか・・・ちょっとひっかかる。
「な・・・によ!」
と聞く私に蒼輝は、「私を嫌いにならないで。」とつぶやいた。
「えっ!」
私は目を見開いてしまうくらい驚いて彼を見る。
そんな私を彼は、変わらず優しく笑いながら見ている。
「今の言葉って・・・。」
そうよ!私が蒼輝に言った言葉だよ。
あの時、蒼輝は寝てたはず。
なのに、どうして知ってるの?
まさかっ!
「蒼輝、もしかして!?」
と口にする私に蒼輝は、「起きてたよ。」と平然と答える。
そして、さらに驚く事実を口にした。
「翠への気持ちにブレーキかけてたんだ。
だから、二人っきりになるのは、耐えられなくて寝たふりをした。
翠に触れちゃいけないって思っていたけど、あんなに傷ついてさらに、俺を求めている翠を見たら、我慢できなくてさ。
ついつい、翠の言葉の答えを言っちまったんだ。」
って事は・・・。
私は、気付いた。
「あれは・・・夢じゃなかったの!」
だけど、蒼輝は答えずただ優しく笑って私を抱きしめた。
「ねぇー。」
彼に抱きしめられた状態で、声をかける私に蒼輝は、「なに?」と優しく聞いてくる。
「今、『私への気持ちにブレーキかけてた』って、言ったよね?
それって、もしかして、WONDER LANDに行く前に、ヒビキさんとしてた喧嘩が原因?」
私の言葉に彼は、「ああ。」と答えると、私を抱きしめたまま、壁にもたれかかると、あの時の事をユックリと話始めた。
「じゃー、翠、あとでな。」
俺は、部屋に戻る翠を見送ると、司令塔室の扉を閉める。
そして、アイツが居る方へと、振り返る。
「それで?『大事な話』ってなんだよ!
何か言い忘れた事でも、あったのか?」
だけど、ヒビキは俺に背を向けたまま、窓から緑豹国の景色を、黙って眺めていた。
イラつきながらも、俺は側にあったイスを引っ張り出し、イスの背もたれに向かってまたがる。
そして、背もたれの先端に顎を乗せて、黙ってヒビキが口を開くのを待っていた。
しばらくすると、ヒビキは俺に背を向けたままで、「お前さ〜。」と口を開く。
「なんだよ。」
と返事をする俺にヒビキは、
「翠ちゃんの事、好きなのか?」
と聞いてきた。
俺は、その言葉にもちろん絶句してしまう。
だって、そうだろ。
ヒビキが俺をここに呼び止めたのは、今から出かけるWONDER LANDへの旅に関しての話をする為だとばかり思っていたんだからな。
なのに、翠の事好きかだなんて・・・。
そんな事、ありえねぇーだろ?
俺は、心底驚いてしまって、答えどころから、反対にヒビキに聞いてしまう。
「お前・・・今、何言った?」
ちょっと、冗談ぽくいう俺とは違って、俺の方に振り返ったヒビキの顔は、いつになく真剣な顔をしていた。
「真剣に聞いてるんだ。
真面目に答えろ!」
笑顔一つ見せずにそういうヒビキに、俺までも真剣なまなざしで、
「一体、どうしたんだよ!」
とアイツに聞いてしまう。
だけど、それには答えずに、ヒビキは俺の返事を聞かないまま、次の言葉を口にする。
「翠ちゃんを好きになるな。」
って。
今度は驚きよりも、俺は自分の耳を疑った。
俺・・・聞き間違えてないよな?って、何度も自分自身に確認をする。
アイツは確かに、『翠を好きになるな。』と言った・・・よな?
さっきから、アイツ・・・何を言ってるんだ?
訳が分からない俺は、
「ちょっと、待ってくれ。」
とヒビキの前に、右手を出して、ストップとジェスチャーする。
「お前の言ってる『意味』がさっぱりわからねぇー。
一体、さっきから何がいいたいんだ?
ハッキリ言えよ!」
するとヒビキは、俺の元へ一歩一歩近付いてきながら、話してくる。
「翠ちゃんに、本気になるな。」
それには、意味のわからない俺でも思わず笑ってしまう。
「何が、おかしいんだ!」
真面目に話しているだけに、俺に笑われて少しムッときたヒビキは、アイツには珍しく、ホンの少しだけ声質が鋭くなる。
それを、耳で器用に聞き分けた俺は、ヒビキに喧嘩口調で言ってしまう。
「さっきから、『好きになるな』とか『本気になるな』とか、言いたい放題だけどさ。
言っとくけど、翠と俺をくっつけようと最初にしたのは、お前だろ?
心を閉ざした俺の元に、翠を送り込んできたのもお前。
そして、ハンターのいる森に行った翠を、救い出すようにしむけたのも、お前。
そのお前が、今頃になって、そんな事言い出すなんておかしいだろ。
もしかして、お前翠に惚れたか?」
それを聞いたヒビキは、さっきの俺と逆転!
今度は、ヒビキが「ふん。」と鼻で笑い飛ばし、俺をバカにしたような口調になる。
「ホント、お前はガキだな。
事の重大さを、全くわかっていない。」
それには、さすがにカチンと来た俺は、気が付けば、「なんだと!」と叫んで勢いよくイスから立ち上がっていた。
そんな俺を冷ややかな目で見ながらヒビキは、「座れよ。」と俺に冷たくいう。
もちろん、そんな言葉聞くわけもなく、俺は怒りで頭がいっぱいになり、さらにヒビキに突っかかりそうになる。
だけど、その前にヒビキが俺の両肩を両手で押さえ込み、「いいから、座れっ!」と重くドスのきいた声でそういうと、俺を強引にまたイスに座らせた。
「お前だってもう、ガキじゃないんだ。
ちょっとは、冷静になって、俺の話を聞いてくれ。」
ヒビキはまるで、小さい子にいいきかせるような口調で俺にそういうと、自分はテーブルにもたれて、俺のすぐ側で立った。
「確かに、最初は翠ちゃんとお前が、お互いを好きになればいいな。って思ったよ。
人を信じられないせいで、人を好きになる事なんてなかったお前が、翠ちゃんを好きになって、王としてもそうだし、男としても大きくなれたらいいな。って考えた。
でも、一番に期待したのは、生きる事を拒否したお前が、翠ちゃんの存在をきっかけに、また生きる希望を見出してくれたら。って・・・。
そう思って実家に戻っていたお前の元へ、翠ちゃんを連れていった。」
ヒビキはそう言ったあと、「だけど、それが間違いだった。」と苦笑いをしながらそう付け足す。
「どういう意味だよ。」
さっきのヒビキの迫力のある「座れ。」の叫び声で、俺の気持ちは少し落ち着きを取り戻していた。
だから、さっきよりも素直にヒビキの声が心に入ってきていた。
「この世界では、常に命が危険にさらされている。
そんな状況で、少しでも気持ちが通い合えば、それはどんどん拍車をかけて、強くなり止らなくなってお互いを求めてしまうのは、当たり前の事。
そして、お前たちも例外ではなく、そうなっていった。
だけど、お前たちは、住んでる世界が違う。
だから、1年前に翠ちゃんが戻ったのは、予想外だったけど、俺は内心「ホッ」としたんだ。
1年、時間を空ければ、お前も翠ちゃんもお互いの想いが、少しは冷めているんじゃないかってな。
だけど、甘かったよ。
お前も翠ちゃんも、1年なんて短い時間では、全く気持ちなんて、変わってなかった。
いや、どっちかといえば、離れていた分、余計にお互いを求める気持ちが強くなってしまっていた。
だから、お前は翠ちゃんにキスをし、翠ちゃんもそれを当たり前のように受け入れた。」
ヒビキの話を黙って聞いていた俺は、「な〜。」と口を開く。
ヒビキは何も言わないけど、顔を俺に向け、目が「なんだよ。」と訴えてる。
「俺と翠が、お互いを求め合ったらダメなのか?
住んでる世界が違っても、お互いを必要とし好きなら、別にいいだろ!」
真剣に答えた俺なのに、ヒビキは思いっきり深いため息を吐く。
『まるで、話にならない。』と言われているような、呆れ果てた感じと、俺をバカにしたような、聞くからに胸がムカムカしてくるような、そんなため息だった。
それには、またしても俺は怒りでいっぱいになる。
「いいたい事があるなら、言葉でいえよ!」
イライラをヒビキにぶつける俺。
そんな俺を、いつものヒビキなら適当に冷たくあしらうのに、今のヒビキは俺と変わらないくらいイライラしていた。
鈍感で、子供そのものの俺に心底ムカついているのが、ヒビキの声と顔で伝わってくるようだった。
「お前と翠ちゃんは、いくら好き合っても、愛し合っても、永遠を誓い合っても、住んでる世界が違うんだ。
絶対に最後は別れなきゃならないんだぞ。」
「そんな事、わかってる!」
と即座に叫びながら反発する俺に、その声よりもさらに大きく怒鳴ってヒビキは返してくる。
「お前は全然、わかってないっ!」
って。
ヒビキの言い切った言葉の強さに、俺は反論ができなくなった。
黙る俺を見てヒビキは、さっきとは比べ物にならないくらい、今度は優しく俺に言い聞かせるように、「いいか。」と話しかけてきた。
「お前と翠ちゃんはこれからも、お互いをもっともっと好きになり、愛し合うだろう。
そして、その想いが最高潮に達した頃に、丁度別れの時が訪れるはずだ。
一時的に別れるんじゃなくて、お前たちは『永遠(エイエン)』に二度と逢う事ができなくなるんだ。
いくら最後は別れなきゃならないんだ。って理屈ではわかっていても、気持ちはそんな簡単な物じゃないだろう?
愛する人を失う気持ち。
その辛さは、誰よりもお前が一番よくわかっているはずだ。
その辛さを、まだ17歳の彼女に味合わせるつもりか?
一生、背負わなきゃいけない傷を彼女に背負わせて、お前は平気なのかよ!」
ヒビキの言葉に、俺は何も言い返せなかった。
愛する者と妹を失うとでは、襲ってくる感情は違うかもしれない。
だけど、『大切な人を永遠に失う。』って事に関しては、一緒のはずだ。
俺が味わった悲しみを、翠にも味あわせるって事なんだよな・・・。
そう考えて、俺は正直どうしていいかわからなくなった。
一人では抱えきれないような悲しみを翠に背負わすのか?
アイツが耐え切れずに泣いていても、俺には抱きしめてやる事も、俺の記憶を消してやって楽にしてやる事もできない。
俺は一体どうすればいいんだ。
だけど、いくら考えても、俺みたいな単細胞に答えなんて出てくるわけがなかった。
「なー・・・ヒビキ。」
力なくヒビキを呼ぶ俺に、「ん?」と優しく答えてくれたヒビキ。
俺はユックリと目をあわす。
「俺は、どうしたらいいんだ?」
「自分の気持ちを、封印しろ。」
一瞬ヒビキの言っている意味が理解できなかった俺は、眉間にしわをよせる。
理解してない事を知ったヒビキは、もう一度わかりやすいようにハッキリと言った。
「お前が翠ちゃんへの気持ちを凍らせて彼女と接するんだ。
彼女の想いを、絶対に受け入れたらダメだ。」
それには、すぐに「待てよっ!」と俺は突っかかる。
「俺に、翠に対して冷たく接しろ。って言ってんのか?」
取り乱す俺とは正反対で、ヒビキは冷静な口調で、「極端に言えばそうだな。」と答えると、
「だけど、あからさまにはするなよ。
彼女が傷つかない程度で、うまくやれ。」
というと、ヒビキは俺の右肩に左手をポンと置く。
「うまくって・・・。
そんな事にうまくも下手もないだろ!
アイツの気持ちを受け入れないって事は、アイツを傷つけてる事と同じ事だろ!」
俺はヒビキの意見に、猛反対した。
だけど、熱くなっている俺とは違って、いつもの冷めた落ち着きのある態度でヒビキは答えた。
「それでも、今彼女を突き放した方が、傷は浅くて済むんだ。」
俺はヒビキがわからなくなった。
どうしてこんな冷酷な事が言えるのか。
どうしていつも、冷静沈着に判断ができるのか。
こんなにも割り切れた答えが出せるのか。
コイツのこういう所を、ジジイや村の民は、『さすがだ!』とか『すごい!』とかいって褒めるが、俺はヒビキのこういう所が大嫌いなんだ。
いつも一歩先を見越して行動するコイツが俺は大嫌いだった。
心底ムカついた俺は、ヒビキの手を右手で払いのけた。
「ふざけんなっ!」
俺はそう叫ぶと、ヒビキをにらみつけた。
「俺は翠が好きなんだ。
アイツが不安がってたり、恐がっていたら抱きしめてやりたい。
アイツの泣いてる姿なんて、見たくないんだよ。
泣かせたくないから。
悲しませたくないから今手放すっていうなら、わかるよ。
だけど、結局はアイツを泣かせて、アイツを傷つける。
そんな事、わかってて出来るわけないだろ!」
ハッキリと言い切る俺にヒビキは、
「『出来ない』じゃないんだよ。」
とひとり言のようにつぶやくと、俺にも負けないくらい鋭い眼差しで俺をにらみつけて、腹に響くくらい力強い声で、
「お前の気持ちなんて、どうでもいいんだよ。
いいから、黙ってやれ!」
と俺に向かって叫んだ。
その声が合図だったかのように、イスに座っていた俺は、勢いよく立ち上がった。
そして、座っていたイスを右手でつかむと、真後ろに投げた。
大きな音を立てて、イスは床に転がった。
「いい加減にしろよっ!
人事だと思って、好き放題言ってんじゃねぇーよ!」
だけど、俺にも負けないくらいに、ヒビキだって返してくる。
「俺は、正当な意見を言っただけだ。」
その偉そうな言葉と、上から人を見くだしているようなその態度に、俺は腹が立った。
「だったら、答えろっ!」
俺はそう叫ぶと、ヒビキにある問いかけをした。
「お前が俺で、ランが翠だったとしたら。
それでも、お前はランにそんな態度が取れるのかよ!」
だけど、ヒビキは全く考えずに、「当たり前だろ。」と即答した。
「うそつけ。」
と言い返す俺に、「俺はお前とは違う!」とヒビキも言い返すと、俺を真剣な眼差しで見た。
「お前の薄っぺらな『想い』と一緒にすんな。
俺はランに、一生背負わないといけないような傷を付けてしまうくらいなら、自分の気持ちなんて、喜んで封印するよ。
お前の翠ちゃんへの想いなんてな、『本気』とはいわねぇーんだよ。
ただの、子供の『恋愛ごっこ』みたいなもんだ。」
その言葉に、俺は我慢できず、ヒビキのむなぐらをつかんだ。
そして、右手にコブシを作って、後ろに引く。
それを見たヒビキは、声を出して笑う。
「図星だったから、今度は力で反発か?」
そんな事言われたら、殴るわけにもいかなくて、俺は右腕を下に降ろす。
「だから、お前は子供だ。って言うんだよ。」
ヒビキはそういいながら、胸ぐらをつかんでいる俺の左手を強引にひっぱって取ると、自分の乱れた服を手で、「パッパ。」と直した。
「好きな女の為に、自分の気持ちを抑えることもできない。
そして、さらに、いたい所をつかれたら、そいつを殴ろうとする。
でも、殴ることも出来ない。
お前はいつだって、中途半端なんだよ!」
ヒビキはそこまでいうと、今度はヒビキが俺のむなぐらをつかみ、自分の方にひっぱった。
すると、俺の顔が自然とヒビキの方に向く。
「大事な人を守るために、時には自分の気持ちを抑えないといけない時だってあるんだよ。
それが、『大人』ってもんで、『思いやり』っていうんだ。
お前みたいな『ガキ』に好かれた翠ちゃんは、不幸だな。
同情するよ。」
ヒビキの最後の言葉を聞いて、俺は「ふざけんな!」と叫んだ。
そして、気付けば俺はヒビキを殴っていた。
俺は、力いっぱいヒビキを殴ってしまったから、ヒビキはかなり後ろの窓際の方までぶっ飛んでしまった。
俺が殴った時、ヒビキはテーブルに左手を置いて立っていたから、ぶっ飛ぶ瞬間左手にカップがひっかかって、それも一緒に床に飛び散った。
あたりには、ヒビキが床に倒れこむ音と、カップが割れる音が響き渡っていた。
「あの喧嘩は、そういう事だったんだ・・・。」
蒼輝の話を聞いて、開口一番私はそう口にした。
私の言葉に、蒼輝はまた私を強く抱きしめた。
「ヒビキとやりあったあと、トーワの背中に乗って『狭間の森』に向かいながら、俺も考えてさ。
ヒビキの言っている事は、間違ってないってホントに思ったんだ。
だから、翠から身を引こうと思った。」
そういうと、蒼輝は右手を私の髪に伸ばしてきて、私の頭を優しくなでながら、私の顔に自分の顔をくっつけてくる。
彼の息が私の顔に何度も触れた。
ドキドキよりも、うれしさと心地よさで私は、心が満たされ安心しきっていた。
「身を引くと決めたのはいいけど、ヒビキに『傷つかないようにうまくやれ』って言われていたのに・・・俺には、無理だったな。」
そういうと、「ホントに悪かった。」と数々の事を思い出したのか、本当に申し訳ないような声を出して私に謝る。
その姿が、ちょっとかわいくて私は笑ってしまう。
「でも、ヒビキさんに言われて、私と距離を置こうとしたんだよね。
そしたら、どうして今こうやって、私を抱きしめてくれてるの?
それに、私を引き戻してくれたのも・・・蒼輝の『声』よね?なんで?」
すると、蒼輝はくっつけていた顔を私から離すと、今度は私の額と自分の額をソッとくっつける。
「この選択は間違ってるって気付いたから。」
「えっ?」と聞く私に蒼輝は、「サンガが教えてくれた。」と言って「フッ。」と笑う。
「サンガ・・・って?」
気になった私は、さらに蒼輝に聞いてみた。
「サンガに『翠をもらっていく。』って言われた時、目が覚めたんだ。」
蒼輝はそういうと、私を抱きしめている手に力を込めて、さらに私を強く抱きしめた。
「サンガは、ジギルたちから出て、翠を救いに来た。
アイツは、翠への気持ちに正直に向き合って、正直に生きようとした。
それにひきかえ、俺は何してるんだろうってな。
翠と俺の目の前にある現実から、俺は逃げ出そうとした。
向き合おうともせずにさ。
しかも、恋愛は一人でするもんじゃない。
お互いの気持ちがあってこそ成り立つ。
なのに、俺は自分で勝手に『終わらせよう』と決めた。
それは、間違ってるって思ったんだ。
俺の中にある翠への気持ちに、俺自身がちゃんと向き合わなきゃって思った。
俺が本当にしたい事は何なのかって。
俺も翠も、気持ちはもう走り出してる。
今更、お互いの気持ちを押し殺した所で、悲しみは一緒じゃないかってな。
今、翠を手放した所で、結局翠を泣かせて悲しませてしまうなら、別れの時でもいいんじゃないか?って、あの時の翠をみて思ったんだ。
だから、俺は賭けたんだ。
あの状況で、翠が無事に緑豹国に戻れて、さらにジギルとトロイの的になった俺が、助かるはずもないけど、奇跡的に助かって緑豹国に戻れたら。
そしたら、翠への気持ちを伝えて、正直になろうって。
だから、翠には何としても緑豹国に無事に帰ってほしかった。
それで、俺の持っている青い力で、お前を守ってもらおうと、念じたんだ。
そして、そのあと、豹になって俺は無事緑豹国に帰ってこれた。
賭けに勝ったんだ。
だから、自分の気持ちに正直になろうと思った。
そしたら、深い眠りの中で、翠の悲しい心の声が聞こえたんだ。
翠が自分を責めて、元の世界に戻ろうとしているんだ。って気付いた。
それで、必死でお前に行くなと訴えた。」
「でも・・・私は、サンガにそれ聞いても、蒼輝を信じれなかった。」
と申し訳なさそうにいう私に、蒼輝は優しく笑う。
「だけど、俺のすっごい小さな囁きを、翠はちゃんと聞こえたじゃないか!」
それには、「えっ?」と言って蒼輝を思いっきり見上げる。
「どういう・・・こと?」
と彼に聞く私に蒼輝は、「サンガが起こしてくれたんだ。」と言った。
「サンガ・・・が?」
それには、蒼輝は黙って頷くとあの時の真実を話してくれた。
「翠が、戻りそうになった時、サンガが俺に向かって叫んだんだよ。
『翠を連れ戻せ。お前にしか出来ない。』ってな。
その言葉は、俺の心に突き刺さって、俺は目覚めた。
そして、俺の声なら翠の心を動かせるんじゃないかと思って、翠の名前を呼んだんだ。
翠を呼び戻せて本当によかった。」
蒼輝はそこまでいうと、重ねていた額を離し、私を今までの中でも一番っていいたくなるくらいの、優しい眼差しでみつめた。
「ヒビキが言っていたように、最後に俺たちに待っているのは永遠の別れだ。
どんなに拒んでも、それは変えられない運命だ。
そして、ヒビキの言ったように、今の時点で、気持ちを抑えるのがベストなのかもしれない。
でも、俺はそうじゃなくて、翠と本気で向き合いたいんだ。」
蒼輝はそういうと、今度は私の左頬に右手で触れた。
「想いのままにお互いを愛して求めあおう。
そして、別れる時に、満足して笑って別れられるように。
後悔がないように、愛し合わないか?
俺は、翠とそうしたい。」
私は、まるで夢を見ているようだった。
だって、ついさっきまで、私は蒼輝に嫌われたんだと思っていたんだもん。
それが、こんなにうれしい告白をしてもらえるなんて!
確かに、ヒビキさんや蒼輝がいうように、私たちの恋の結末はもう決まっている。
どんなに愛し合っていても、お互いを必要としていても、待っているのは永遠の別れだけ。
だけど、その悲しさは、蒼輝を後悔がないくらい愛せば乗り越えるかもしれない。
そして、彼が私を愛してくれた。という大切な時間があれば、私は生きていける気がする。
本当にそんな簡単な事かは、正直不安だけど・・・。
このまま彼との事を終わらせてしまうのだけは、いやだった。
彼を永遠に失っても、強い自分であると信じたかった。
「私も後悔しないように、いっぱいいっぱい蒼輝を好きになるよ。」
本当はもっともっと彼に思いをぶつけたかった。
私が彼をどれだけ想っているか、今まで言えなかった分、たくさん伝えたかった。
そのはずだったんだけど・・・。
蒼輝が言ってくれた言葉が、あまりに嬉し過ぎて言葉が詰まってしまって、私はそれ以上、何も言えなくなってしまった。
言葉の変わりに出たのは、笑い声と涙。
それには、蒼輝はちょっと呆れる。
「おい!泣くか笑うか、どっちかにしてくれ。」
その言葉に、さらに「フフフ。」と笑っちゃう私。
蒼輝も、「ホントよく泣くやつだ。」と笑いながらそういうと、触れていた右手と、さらに左手も出してきて、私の頬に伝う涙を拭ってくれた。
やがて、私の瞳から涙が止まった頃、蒼輝の両手が私の頬から移動する。
彼の左手は私の右肩に置かれ、彼の右手はまた私の左のこめかみ辺りにスタンバイする。
そして、蒼輝は私に優しく笑いかけると、ちょっと恥ずかしそうにこう言った。
「翠・・・大好きだ。」
彼のその言葉に、今度は素直に私も返せた。
「私も蒼輝が大好きだよ。」
って。
私の言葉に、蒼輝はさらにニッコリ嬉しそうに笑うと、私の顔に自分の顔を近づけてくる。
かなり近付いてきた時、私はソッと目を閉じた。
彼の吐息がだんだんと近付いてきた。
もう時期、彼の唇が重なる。
って思って、ドキドキ胸が最高潮に高鳴った時だった。
私の胸のドキドキよりも、何百倍もありそうな、耳が裂けるような大爆発の音。
そして、目をつぶっていてもわかるくらいの、すさまじく強い明るい光が差し込んできた。
蒼輝の寝室には、大きな窓がある。
そこから見える景色は、司令塔室から見える緑豹国の街並みの景色と全く同じ。
なぜかというと、蒼輝の寝室は丁度司令塔室の真上にあるから。
だから、景色が同じなの。
さらに、司令塔室よりも少し高いため、蒼輝の寝室からはさらによく、街並みを確認する事ができた。
窓からその光が差し込んで来たという事は、緑豹国の街に何かがあったって事?
私は、胸騒ぎがして目を開ける。
そして、窓に目をやろうとしたけど、目の前に、唇が重なるくらい近くに蒼輝の顔があって、私はドキドキと嬉しさで、目が離せなくなった。
だけど、蒼輝は私を見てはいなかった。
顔を横に向けて、窓にくぎづけだった。
その横顔は、ゾクっと身震いしてしまうほど、真剣でただならぬ雰囲気をかもしだしていた。
「そう・・・き?」
と彼の名前を、オドオドしながら口にする私。
だけど、彼はその言葉と同時くらいに、私から手を離すと、窓際に急いでおもむく。
そして、光が差し込んでいた村の西側をジッと見ていた。
もちろん、私だって光と爆発音があった場所が気になるよ。
だけど、それよりも気になるのは、蒼輝の体だった。
さっきまで、気を失って意識が戻らなかった彼が、起き上がっていいものか心配になるのは当たり前。
私はたまらなくなって、彼の側へと歩み寄る。
「蒼輝・・・立ち上がって平気なの?」
それに対して彼は顔は動かさないものの、「ああ。もう平気だ。」と答える。
じっと西方向を見ている彼の眼差しが、今まで見たことないくらい鋭くて、私は彼の視線を追って、彼の目に映っている物と同じものを私も目にした。
「ち・・・ちょっと!あれって!!」
そう叫びながら、たまらず側にいる蒼輝の腕をつかんでしまった。
だって、そこにはありえない光景が広がっていたんだもん。
音がした方向から、差し込んだ強い光は、あたりの森を焼き尽くしている真っ赤な炎。
次から次へと森に移りあっという間に、西の森は半分以上が焼け野原になってしまった。
「なんで?まだ、バリアーは使えてるってヒビキさんが言ってたのに!」
すると、蒼輝は私がつかんでない方の手を上げると、燃えている西の空を、人差し指でさした。
私は、わけがわからないなりにも、彼が指さす方向に目を移す。
だけど、変わった所は何もなかった。
あるのは、真っ青な空だけ。
「何?」
と聞く私に蒼輝は、
「あそこを、集中してみてみろ。」
と口にする。
私は言われるがまま、蒼輝が指す空を集中して、じっと見据えた。
すると、さっきまでただの空だったのに、そのあたりが赤くビリビリと光っていた。
「何?あの赤い光。」
すると、「他は青白い光があるだろ?」と言う蒼輝に私はすぐ横に目を移す。
確かに、赤くビリビリと光っている光の横は、青白い光があった。
緑豹国全体をバーっと見渡してみると、その青白い光が緑豹国をまるで包み込んでいるようだった。
「青白い光が、まるで緑豹国を守っているみたいだね。」
と答えた私に蒼輝は、「その通り。」というと、
「その青白い光が、緑豹国を守っているバリアーだ。
一点に集中すれば、その光を目で見ることもできる。
それを見て、ヒビキはまだバリアーが張れていると判断したんだ。
そして、あの赤いビリビリと光っているのは、バリアーが解けた証拠だ。
つまり、バリアーに『ひずみ』が出来てしまった。」
「ひ・・・ずみ?」
聞きなれない言葉に、首をかしげる私に蒼輝は、
「つまり、そこはバリアーが解けてしまったから、そこから外部の攻撃は受けてしまうって事!」
と簡潔に答えた。
「それじゃあ、そこ以外はまだバリアーが張られてるって事?」
それには、「ああ。」と答えるものの、蒼輝の顔はこわばったままだった。
「何?まだ、何かあるの?」
彼の心の中にある想いが気になって、私は彼の顔をのぞきこんで聞いてしまう。
私の顔を見た彼は、
「今までも、ジギルがバリアーが解けるのを知るために、定期的にダメもとで攻撃をしてきていたんだ。
だから、今日の攻撃も、四方八方に散らばって、攻撃を受けたはずなんだ。
そして、たまたま『ひずみ』の存在がバレてしまった。
その場所がジギルに特定されていなければいいんだが、もし特定されたとしたら、次の攻撃に全勢力をかけてくるはずだ。
そうしたら、緑豹国は火の海になる恐れがある。」
「だけど、目をこらしたら、バリアーが見えるんだから、『ひずみ』の場所もわかるんじゃないの?」
心配する私に、蒼輝は「それは大丈夫だ。」と笑って答える。
「目で見えるのは、混血人間にしか見えない。
だから、ジギルたちには見えないから、心配はいらない。」
彼がそういった時だった。
蒼輝の部屋の扉が、乱暴に開けられ、サンガが蒼輝の名前を大声で呼んでいる声が聞こえた。
蒼輝は、私から手を離すと、寝室から出て行く。
「サンガ、どうした?」
寝室から出た蒼輝は、部屋に勢いよく入ってきたサンガと対面する。
それには、サンガもちょっと驚く。
「お前、起きて平気なのか?」
それには、「ああ。」と蒼輝は答え、「それで?」とサンガに聞き返す。
「ああ、そうだった。」とサンガは答えると、
「お前も気付いたと思うが、ジギルたちの攻撃を受けた。
ヒビキがすぐに司令塔室に来るように言ってる。
来れるか?」
サンガの言葉を聞きながら、蒼輝はリビングのイスにかけてあった、王の象徴であるマントを手に取ると、それを身に付ける。
そして、「翠。」と私を呼ぶと、私の側に近寄ってきた。
「ヒビキに聞いたと思うが、ここは例え緑豹国が火の海なったとしても、絶対に燃えなくて安全な場所だ。
だから、お前はここにいろ。
絶対に、ここを出てくるな。いいな。」
蒼輝は一方的にそういうと、今度はサンガを見た。
「お前は、翠と一緒にここにいろ。
翠を絶対にここから出すな。
お前の初仕事は、翠の護衛だ。
いいな、決して翠をここから出すなよ。」
そういった蒼輝の言葉。
そして、彼の眼差しと声と口調。
それは、今まで見た蒼輝とは別人だった。
誰よりも気高くて、誰よりも強く、威厳があった。
彼の存在そのものに、ひれ伏してしまうくらい圧倒的な強さを感じた。
そう思ったのは、私だけではなかった。
サンガも蒼輝のその存在感の偉大さに、思わず彼の前にひざまずく。
そして、頭を下げ、
「おおせのままに。」
と答えた。
「頼んだぞ。」
蒼輝はそういって、部屋を出て行った。
私は、慌てて蒼輝を追いかけようと走り出すけど、その腕をサンガにつかまれる。
私は振り向きざまにサンガを鋭い眼差しで見ると、「離してよ!」と叫んで、彼の腕を振り払おうとする。
だけど、サンガはさらにつかんでいる手に力を入れ、私の手が離れないようにした。
「やめとけ。」
サンガはそういうと、さらに「本当は翠だって気付いてんだろ?」と続けてくる。
本当はサンガが言いたい事はわかっていた。
だけど、私は認めたくなかったの。
私が今感じている事。
思っていることは、私の思い過ごしだと思いたかったから。
だから、私は、
「何の事よ。」
ととぼけた。
だけど、さっきまで、サンガを見ていた私は、後ろめたさから、たまらず彼から目をそらしてしまう。
その態度に、サンガは「はあー。」と一回ため息をつくと、つかんでいた私の手を離した。
そして、近くにあったイスに腰を降ろす。
「今の蒼輝は、俺たちの知っている蒼輝じゃない・・・だろ?」
サンガの言葉に、私は何も答えなかった。
だけど・・・そう。
彼のいう通り、今の蒼輝はいつもの蒼輝じゃない。
マントを羽織って、サンガに私の事を頼み、この部屋を出て行った彼は、私の知っている彼ではなかった。
自分の命を顧みず、好きな人をただ夢中で必死に守ろうとした蒼輝も、サンガと些細な事で言い合って喧嘩して笑っていた蒼輝でも、なかった。
今の彼は、紛れもなく『王』。
WONDER LANDを治めている人と、敵対する地位にいる緑豹国の強き王。
その彼が今考えている事はただ一つ。
緑豹国を、民を。
どうやって守るか。
彼の頭の中には、それしかない。
それしか、考えていない。
私の事まで、今は考えられない。
それくらい、彼は今必死になって、この国を守ろうとしているんだと思う。
それは、彼が緑の王だから。
そう思った時、どこからともなく声が聞こえた。
『あなたは、こんな所でこうしてていいの?』って。
その声は、今まで聞いたこともない声だったけど、優しくて暖かい女性の声だった。
一体、今の声は??
そう思いながらも、言ってもらったその言葉で、私は思った。
そうよ!私だって、緑の王女なんだから!
こんな所にいる場合じゃないのよ!
豹の姿を失った蒼輝が、必死になって守ろうとしているんだもん。
私だって、豹の姿がないけど、戦うべきよね。
「ねぇー、サンガ!」
目をそらしていた私は、今度はサンガの目をジッとみつめる。
それには、サンガも少し驚き、「なんだよ。」とたどたどしく答える。
「蒼輝は、王としてここを出て行った。
だったら、私も王女として、彼の力になりたい!
私も司令塔室へ行くわ。」
そうたんかを切って見るけど、アッサリ、「待てって!」とサンガに止められてしまう。
「今、行っても蒼輝が困るだけだ。
アイツは今、緑豹国の事で頭がいっぱいなんだぞ。
もう、時間だって・・・残りわずかしかない。」
サンガはそういうと、自分の腕時計をみた。
「ねぇー、『時間が残りわずか』って・・・どういう事?」
それには、サンガは答えない。
変わりに、私に質問をしてくる。
「それでも、行くっていうのか?」
って。
私は、深くうなずく。
「いくらサンガが反対しても、私は行く。
出入り口を塞ぐなら、私はあの窓から飛び降りてでも、司令塔室へ行くわ!」
私の言葉に、「ここを何階だと思ってんだよ。」と頭を抱えながら呆れ果てるサンガ。
だけど、私の本気を理解してくれたサンガは、「翠には、まいったよ。」と小声で言って降参する。
「蒼輝も強情だけど、翠もかなり強情だよな。
『緑の豹』は、そういう性格なのか?」
サンガはさらに笑いながらそういうと、座っていた腰をあげる。
「そうと、決まったら、すぐに司令塔室へ行こう。
俺も、蒼輝に伝えたい事があるんだ。
急ぐぞ!」
サンガはそういうと、扉を開けて、私を先に部屋から出そうとする。
「いいの?私をこんなにあっさり出しちゃって・・・。」
あれだけ蒼輝に、『出すな』といわれていたのに、こんなにあっさり出しちゃっていいのかな?と不安になってしまう。
だけど、出した本人は、
「しょうがない。また、蒼輝に怒られるよ。」
と全面的に諦めてるし。
私は、「ふふふ。」と笑いながら、部屋から出る。
「笑い事じゃないって。
ちゃんと、蒼輝にホローしてくれよ。」
とサンガは笑いながらそういうと、部屋の扉を閉めた。
司令塔室に着いた。
扉を開ける手を躊躇している私の右肩をポンと優しく叩いたサンガは、今度はその手を、扉のノブに伸ばし、扉を開ける。
開くはずもない扉が開いて、いっせいに視線がこちらへと、注がれた。
「サンガ!お前、どうした?
翠は??」
と聞いてくる蒼輝に、
「わりぃー。」
と両手を合わせて謝ると、右手を私の方に伸ばして、私の腕をつかんで、私を扉の裏から引きずりだしてくる。
私の姿を見て、驚くタカさんやヒビキさんと違って蒼輝は、対して驚いていないみたい。
「なんで?」
そう口にした私に蒼輝は、「なに?」と聞いてくる。
「どうして、怒らないの?
来るな!って言われたのに、来ちゃったんだよ。
もっと・・・怒ってよ!」
と訴えかける私に蒼輝は、「予想はしてたから。」といいながら、私の方に体ごと向き直る。
そして、私の方に右手を出してきた。
「翠の事はちゃんとわかってるよ。
翠があんな所で、おとなしく居るような女じゃないって事くらいね。」
そういって優しく笑った蒼輝の笑顔に引き寄せられるように、私は一歩一歩彼の元へ足を進める。
そして、最後は彼の腕の中に辿り着く。
私を右腕でシッカリと抱きしめて、右手で私の頭を優しくなでてくれる。
そうされて、私はダメだ。と思ってしまう。
こんな事されるために、私は蒼輝の言いつけを破って、ここへ来たわけじゃない。
私だって、みんなを助けたくてきたんだ。
「蒼輝・・・。」
私の声に、蒼輝の腕がちょっと緩む。
その隙に私は、彼から離れる。
「なんだよ・・・。
もしかして、部屋に置き去りにした事、怒ってるのか?」
と困ったような口調で言う蒼輝に私は、「そうじゃなくて。」と首を振る。
「私も、緑豹国を守りたくてここにきたの。
蒼輝の力になれるんじゃないかって。
緑の力をもっているのは私だし。」
そういって私は、自分の胸に光っている緑の玉を握り締めた。
その姿に蒼輝は、「な〜んだ。」と言いながらイタズラっ子みたいな笑いをする。
「サンガじゃ不安で、俺が恋しくてきたのかと思ったよ。」
それには、サンガが反論する。
「なんだよ!不安って!」
だけど、蒼輝はアハハと楽しそうに笑い返すだけ。
その笑いにサンガは呆れる。
「お前さ・・・。
今の状況わかってるのか?
もう、時間がないんだぞ!」
この深刻な状況で、信じられないくらい余裕の蒼輝に、たまらずサンガは聞いてしまう。
そういえば、さっきからサンガは何度もいってるよね。
『時間がない。』って。
一体、それはどういう事なの?
「ねぇー、サンガ!
さっきから言ってる、『時間がない』ってどういう事?」
「ジギルからの猛攻撃までの時間がもうないって言ってるんだろ?」
そう口にした蒼輝の言葉に、私は蒼輝の方に振り返った。
「猛攻撃って・・・。」
ボソッと口にして、私はさらに事の重大さに気付く。
「それって、ひずみに攻撃されるって事でしょ!
いいの?こんな所でノンビリしてて!!」
たまらず蒼輝の腕をつかんで、すごい形相で聞いてしまう私だけど、蒼輝は「そうだな。」と言い、さらに「翠・・・。」と私を呼ぶ。
「なに?」
と聞く私に、「お願いがあるんだけど。」と
いつになく真剣な顔でそういう彼。
「おね・・・がい?」
聞き返す私に蒼輝は、「その前に。」というと、私からサンガの方に視線をズラす。
「なー、さっきの攻撃でジギルは、ひずみの場所を特定できたと思うか?」
蒼輝の言葉にサンガは、「ああ。」と答えると、そう思った理由を話し出す。
「いつも自分が攻撃するポイントは前もって決めて、その通りに攻撃しているんだ。
ひずみが現れた時に、特定できるようにな。
そして、さらに今日は運が悪い事に風がきつい。
そのせいで、西の森が半分は焼けてしまった。
風の向きや自分の撃った方角から計算すれば、正確な位置が割り出せるだろう。
きっと、ジギルはわかっているはずだ。」
サンガの答えに私は、またしてもジギルの抜かりのない行動に、恐ろしさを感じた。
だけど、日ごろ戦っている蒼輝からすれば、そんな事はお見通しだったようで、「だよな〜。」と口にするだけで、平然としていた。
「それで?次の攻撃まで、あと何分だと思う?」
蒼輝のさらなる質問に、サンガは腕時計を見る。
「さっきの攻撃から、城に戻ってもっと大きな攻撃が出来る武器を用意して、今度はヘリでひずみの真上から撃ってくるだろう。
そういう準備も考えて、上空にジギルが来るのが、最初の攻撃からたぶん40分後。
そして、今がもう20分経過してる。」
そこまでいうとサンガは、時計から目を離すと、蒼輝を真剣な眼差しでみた。
「あと20分しかないぞ。どうするんだ。」
その問いかけに蒼輝の口元が少し緩む。
「どうしたの?」と彼に聞いたと同時に、彼の顔が私の目の前にくる。
驚いて何も言えない私に蒼輝は、私の胸元で揺れている緑の玉に、手をのばす。
「この力を、貸してくれないか?」
「えっ?」
と驚いて聞き返す私に、今まで黙っていたヒビキさんが口を開く。
「お前、また豹に変身するつもりか?」
って。
「ああ。それで、もう一度バリアーを張り直す。」
淡々と答える蒼輝に、私たちの前では、いつも冷静なヒビキさんが、「ふざけるな!」と言って蒼輝を怒鳴り散らす。
その声に、私はビックリしてつかんでいた蒼輝の腕を、さらに強くつかんでしまった。
チラッと私の手を見た蒼輝は、
「あまり、大声を出さないでくれ。
翠が恐がる。」
そういうと、「お前らしくないな。」と笑ってヒビキさんの怒りの声を浄化させる。
だけど、そんな事でごまかせないのはヒビキさんの思い。
「俺は・・・反対だ。」
そうハッキリいうヒビキさんに、蒼輝は「じゃあ、教えてくれよ。」と言いながら、左手をヒビキさんの真ん前にドンと音を鳴らして置く。
「緑豹国を、猛攻撃から守れる方法を。」
それには、さすがのヒビキさんも黙り込んでしまう。
だけど・・・この二人のやり取りを聞いていて、一つひっかかった事が。
「ねぇー。そもそも蒼輝を豹に戻す為には『キッカケ』が必要だったよね?
それって・・・結局なんだったの?
あれよあれよ。という間に蒼輝が豹の姿に戻っちゃったから・・・私、わかんなくて。」
てっきり蒼輝はわかっているものだと思ったんだけど、蒼輝は「さあな。」と首をかしげる。
「さあな。って!だったら、変身できないじゃない!!」
と大きな声をあげて叫ぶ私に、
「ヒビキとジジイなら、わかったはずだ。」
と言い切る蒼輝。
「本当に?」と蒼輝に再確認する私に彼は、
「だろ?」
とヒビキさんに同意を求める。
ヒビキさんは何も答えなかった。
「でも、なんでわかったの?」
と聞く私に、
「サンガの話を聞けば、誰でもわかる。」
とタカさんが答える。
誰でもって・・・私も蒼輝もわからなかったんだよ。
それって・・・どういう事よ!
ちょっと、悲しくなってしまうけど、そんな所でしょげている場合じゃない。
今は、『キッカケ』を知らなきゃ。
「ヒビキさん!教えてよ!」
タカさんの口から聞いてもよかったんだけど、やっぱりこれだけはヒビキさんの口から聞きたかった。
だって、蒼輝の変身を快く思っていないヒビキさんだけに、彼の口から真実を聞けば、ヒビキさんがかたくなに変身を反対する理由がわかる気がしたから。
それでも、黙っているヒビキさんに、タカさんが「教えてやるんじゃ。」と諭(サト)してくれる。
「わかりました。」と渋々答えるヒビキさんは、私と蒼輝に向かって下げていた顔を上げた。
「緑の豹の力が、いえば『緑の力』と『青い力』に分散している状態だ。
それを合わせるには、それぞれが『豹の姿になりたい。』と強く思う事。
蒼輝は森で、翠ちゃんを守ってほしいと『青い力』に頼んだ。
お前は自分に力がほしいと、願ったわけじゃない。
だけど、翠ちゃんを守る事イコールお前自身に力が付く事だった。
なぜなら、翠ちゃん自身が『蒼輝に守ってほしい』と願っていたからだ。
そして、翠ちゃんの方は、蒼輝に力を与えてほしいと『緑の力』に頼んだ。
そう思った二人の思いは、『蒼輝を豹に戻してほしい。』っていう一つの気持ちになったんだ。
だから、もし、また蒼輝を豹にしたいのなら、あの時と同じように、蒼輝は翠ちゃんを守りたいと強く思うこと。
そして、翠ちゃんは蒼輝に力を与え彼を守りたいと思うこと。
そうすれば、その二つの力が、また一つになって、蒼輝に豹の力を与えてくれるはずだ。」
ヒビキさんの話が終わるとすぐに、蒼輝はヒビキさんにこう言った。
「ありがとう。」
って。
それには、司令塔室にいた全員が驚く。
「何で・・・ありがとうなんだよ。」
と突っ込むヒビキさんに、蒼輝はとても嬉しそうに笑った。
「お前が居てくれたおかげで、俺はまた豹に変身できるし、緑豹国も守る事が出来る。
感謝してるよ。」
そういうと、私の腕をつかむ。
「翠!時間がない。
早速、俺に力を与えてくれ。」
蒼輝の言葉に私は、「あ・・・うん。」と言って玉を手に取る。
そして、蒼輝も自分の青い玉をつかもうと自分の胸元に手を伸ばす。
だけど、ちょっとの差で、蒼輝の青い玉は、ネックレスごと、ヒビキさんにとりあげられてしまった。
いつの間にか真後ろに居たヒビキさん。
彼の予想外の行動に、もちろん蒼輝は叫ぶ。
「お前っ!何やってんだよ!」
と怒る蒼輝に、今度は冷静な口調でいうヒビキさん。
「言っただろう。お前を豹の姿にはさせないって。」
それには、蒼輝は切れる。
「わけわかんねぇー事、言ってんじゃねぇーよ!
もう、時間がないんだよ。
いいから、とっとと貸せ!」
強引に奪おうとした蒼輝の腕を、ヒビキさんはつかむ。
本当に軽くつかんだだけなのに、蒼輝は「うわぁー!!」と大きな悲鳴を上げると、その場にしゃがみこんでしまった。
「な・・に?どうしたのっ!」
ビックリして私は、座り込んでいる蒼輝の前に、しゃがんで彼の顔をのぞきこむ。
顔からはあぶら汗が出ていて、すごい激痛に耐えている感じだった。
「一体・・・どうしたの?」
とさらに聞く私に、
「これが、今の蒼輝の体だ。」
とヒビキさんは答える。
「どういう事ですか?」
訳がわからない私は、ヒビキさんにさらに答えを求める。
「前にも話したけど、豹への変身は人間の体を粉々にして、それを組み合わせて変身する。
1年以上もそれをしなかった蒼輝の体は、今は体中がボロボロだ。
いえば、ひどい筋肉痛って所かな?
ちょっとでも、触れられたら飛び上がるくらい痛いだろうし、ただ座っているだけでも体全体が脈打つくらいズキズキ痛んで、普通の人なら気を失ってしまうくらいの激痛だと思うよ。
よく、翠ちゃんを抱きしめたりできたよな。」
そういって笑うヒビキさんだけど、私は笑えなかった。
蒼輝は私を何度も抱きしめてくれたし、私だって彼に何度も触れた。
さっきだって、彼の腕をつかんでしまったし。
その度に、私は蒼輝に気を失ってしまうくらいの激痛を与えていたんだ。
そう思ったら、また胸が苦しくなった。
思わず、涙ぐみかけた私の耳に、
「翠を責めるのはやめてくれ。」
という蒼輝の声が届いた。
込み上げてきていた涙が、ピタっと止まる。
「翠を抱きしめている時も、翠に触れられている時も、さっきのお前に与えられた痛みよりは、全然マシだったよ。
痛みよりも、翠を感じれるってだけで、俺の心は満たされた。」
蒼輝はそういうと、ヒビキさんから私に目を移す。
「だから、自分を責めなくていい。
俺の言葉、信じられるよな?」
息を切らしながら、そう必死でいう蒼輝の言葉が信じられないわけないじゃない。
私は、「うん。わかった。」と答えて笑顔を作る。
私の心の迷いを晴らした蒼輝は、「よし。」と言って心からホッとした笑いをする。
そんな私たちを見ていたヒビキさんは、急に蒼輝の前に座り込む。
「その体で、ここまで歩いて来たのには、脱帽するよ。
だけど、歩くのと変身するのとでは、背負う負担が違い過ぎる。
万全の状態で、お前はこれほどのダメージを受けたんだぞ。
今回は、体がボロボロの上に、バリアーを張るんだ。
俺やトーワでも、バリアーを張った直後は、倒れこんでしまうほど、体力的にも精神的にもキツイ。
お前だって、以前バリアーを張ったんだ。
体への負担の大きさや、大変さは身を持ってわかっているだろ?
今のお前が、バリアーを張れば、どうなるかぐらい、想像はつくはずだ。」
ヒビキさんの言葉に蒼輝は、「ああ。わかってる。」とハッキリと答えた。
その答えが、私をとても不安にさせる。
たまらず私は、ヒビキさんに聞いてしまう。
「今、この状態で、蒼輝が変身してバリアーを張ったら。
そしたら、蒼輝は、どうなるんですか?」
私の問いかけに、ヒビキさんは私をみつめる。
その目は悲しげで、見ているこっちが切なくなりそうな目だった。
私の心が不安で曇る。
まさか・・・。
その次に続く言葉は、皮肉にもヒビキさんが口にした言葉と同じだった。
「蒼輝は、間違いなく死ぬ。」
ヒビキさんの言葉に、私は体全体から力が抜けた。
蒼輝が死ぬ?
だけど、バリアーを張らなければ、緑豹国の民も、緑豹国そのものも、なくなってしまう。
蒼輝の命を犠牲にしてみんなを守るの?
一体・・・私は、どうしたらいいの?
こんな時でも、私は蒼輝の命を守るために何もできない。
自分の無力さだけを、思い知らされただけだった。
☆☆☆ 4章 END ☆☆☆
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