2008/4/14


5     5章  SELECTION〜選択〜
更新日時:
H18年1月3日(火)
蒼輝が死ぬとわかっているのに、彼に緑の力を与える事なんて私には出来ない。
だけど、このまま何もしなければ、間違いなく緑豹国は滅びてしまう。
 
「私は・・・どうしたらいいの?」
 
誰かに聞くわけでもなく、私はただそう口にした。
ここにいた人、みんな聞こえていたはず。
だけど、誰も答えてはくれなかった。
いつも、どんな難問でも答えてくれた、ヒビキさんもタカさんでさえも、答えてくれなかった。
まるで、凍りついたように時間が止まってしまったこの部屋。
ただ時間だけが過ぎていく。
その時、ある声がこの凍りついた空気を切り裂いた。
 
「何悩んでんだよ。
翠のする事は、決まってるだろ?」
 
そういって、私を見て笑いかけている蒼輝。
決まってるって・・・。
私だって本当はわかってるよ。
危険を覚悟してバリアーを張ろうとしている蒼輝の決心は固い。
今更それを、私が拒否した所でどうしようもない事だって、私だってちゃんとわかってる。
だけど、本当にこれでいいの?って、悩んじゃうし、他に何か方法があるんじゃないか?ってジタバタだってしちゃって、諦め悪い事だってしたくなる。
だって、蒼輝の命がかかってるんだから・・・。
 
「私のすべき事は、蒼輝に緑の力を与える事。」
 
そう口にした私に蒼輝は、「ちゃんとわかってんじゃん。」と笑って、痛みに耐えながら立ち上がる。
 
「おい、ヒビキ!お前も、さっさと青い力を返せよ。」
 
とヒビキさんに向かって右手を出す。
ヒビキさんも、蒼輝の覚悟に根負けして、しぶしぶ玉を蒼輝に渡そうとする。
それを、今度は私がヒビキさんから、取り上げた。
 
「翠・・・お前、何やって・・・。」
 
という蒼輝の言葉を私がさえぎる。
 
「私はこの緑豹国も大切だけど、蒼輝も大切なの。
絶対に、蒼輝を死なせたくない。
だから・・・。」
 
私はそこまで一気に口にすると、今度は蒼輝のすぐ側まで近付く。
本当は彼の胸に抱きついて、彼を感じて、そして言いたかった言葉。
だけど、今の彼の体は私が触れたら、もっと苦しめてしまう。
だから、抱きつくのはやめて、言葉だけを口にした。
 
「絶対に、死なない。って約束して。
お願い。」
 
そう訴える私に蒼輝は、「大丈夫。俺を信じろ。」と笑顔で答えた。
だけど、そんな言葉・・・なんのあてにもならない事は、彼の言葉を聞いて身を持って知ってしまう。
だって、彼がこんなに自信満々に口にしてくれても、私の心は不安のまま。
彼がいくら『死なない。』と言っても、意志とは関係なしに、死は襲って来るものなんだから。
彼の言葉を聞いて、私の心が満たされるなんて・・・そんな事考えた私がバカだった。
余計に彼を死なせたくない。って思ってしまった。
 
「無理・・・。」
 
私はボソっと口にする。
「ん?」と蒼輝は私に聞き返す。
今度は蒼輝の顔をみつめて私は言った。
 
「やっぱり、出来ないよ。
私には・・・出来ない!」
 
そう口にしたと同時に私は泣いてしまった。
その場にしゃがんで、泣きじゃくった。
私の姿に、たまらずサンガが近付き、私をなぐさめてくれる。
 
「おい、蒼輝!なんとかしろよ!」
 
いくらなぐさめても泣き止まない私に、サンガは目の前にいる蒼輝に助けを求める。
すると、蒼輝は、なぜかサンガに、「お前、立って後ろ向け。」と命令する。
「はぁ?」と聞き返すサンガに、「いいから、さっさとしろ!」とサンガのお尻を蹴り倒す。
「いってぇーな。」とブツブツいいながらも、サンガは蒼輝に言われるがまま、私の前に立ち上がると、後ろを向いた。
 
「翠。見てみろ。」
 
私は両手で涙をぬぐうと、まだ少し涙で濡れている顔を上げて、立っているサンガを見る。
 
「この姿に、見覚えないか?」
 
最初はわからなかった。
だけど、蒼輝の言葉に、サンガをジックリ見た私は、この後ろ姿を一度見た事がある。って事に気付いた。
思わず、「あっ!」と口にする私に、蒼輝は、「やっと気付いたか。」と笑う。
 
「一体・・・何なんだ?」
 
と振り返って蒼輝に聞くサンガ。
 
「お前にも前に話したけど、翠が見た夢でさ。
青鳥国(セイチョウコク)・・・別名BLUE LANDにある城の前で、翠と俺とトーワと、そしてもう一人立っていた。
そいつは、後ろ姿だったから、顔がわからなかったんだけど、そいつはお前だ。」
 
そして蒼輝は今度は私の方に向くと、
 
「そうだよな?」
 
と確認する。
私は、「うん。」とうなずいた。
 
「それが・・・なんなんだ?」
 
とさらに首をかしげて聞いてくるサンガに、「そうか!」とヒビキさんは、手を打つ。
 
「な・・・に?」
 
と今度は私までも聞いてしまう。
一体、それが・・・なんだっていうの?
今はそういう事を解明している時じゃないでしょ?
蒼輝の命をどうやって守るかを考えたいのに!
そう思った私の心を、ヒビキさんは読んだのかもしれない。
急に、私の方を見ると、私にヒビキさんは語りだす。
 
「つまり、夢の通りにサンガは仲間になり着実と夢の通りに事が運んでる。
裏を返せば、夢のように進む。って事なんだ。」
 
ヒビキさんはそういうと、今度は蒼輝を見る。
 
「だから、蒼輝はたぶん死なない。
だって、BLUE LANDにコイツだって行ってるんだからな。
そういう事だろ?」
 
それに対して蒼輝はただ、「相変わらずパーフェクトな回答だな。」と答えると笑う。
そして、私の元へ近付いてくると、私の手から青い玉を取る。
 
「俺は生きて、お前と・・・あとコイツらと、BLUE LANDへ行くんだ。
だから、絶対に死なないから。」
 
そういうと蒼輝は私の背中に腕を回すと、私を力強く自分の胸に引き寄せた。
驚く私に蒼輝は、さらに力を入れて私を抱きしめる。
 
「大丈夫・・・なの?」
 
と彼の体を心配する私に蒼輝は、「こうしてると、不思議と痛みがやわらぐんだ。」と言って、さらに「翠も抱きしめて。」と催促してくる。
 
「いいの?」
 
と聞く私に蒼輝は、「ああ。」と笑って答える。
私は、ユックリ彼の背中に向かって手を伸ばす。
そして、躊躇しながらも、彼の背中に触れ、優しく抱きしめた。
 
「さっきの続き・・・これが済んだらしような。」
 
耳元でそう囁いた蒼輝の言葉の意味がわからなくて、私は「何?」と聞き返してしまう。
すると、蒼輝はニッコリ笑うと、
 
「決まってるだろ。」
 
と言って、私の唇に人差し指を、ソッとあてる。
そのしぐさで、私は思い出した。
さっき、ひずみが現れる前、私たちがしようとしていた事!
すっかり忘れていたけど・・・思い出した途端急に恥ずかしくなって赤面してしまう私。
それを見て、意外な人が突っ込んできた。
 
「なんじゃ?一体!」
 
そう、タカさんが興味深々で聞いてきた。
ここに、トーワくんがいたら、絶対に彼が喰いついてきたんだろうけど、今は街の偵察に行っていて、ここにはいなかったから。
タカさんの突っ込みに蒼輝は、「ジジイには、教えない。」と笑いながら答えると、手に取ったネックレスを自分の首にかける。
 
「よしっ!じゃ、翠、やるか!」
 
そう言った蒼輝に、「待てよ!」とヒビキさんが止める。
それには、ハァーと思いっきりため息をつく蒼輝。
そして、ヒビキさんをキッ!とにらみつける。
 
「まだ、何かあるのかよ!」
 
となかば、うんざり状態でそう口にする蒼輝にヒビキさんは、「もう、反対はしないって!」と笑いながらいうと、
 
「少しでも体の負担が少ない方がいい。
上に上がってから、変身しろ。」
 
そういって、指で天井をさす。
それには、蒼輝も納得。
 
「確かに・・・それの方が、効率はいいな。」
 
とうなずくと、「よし、走るぞ。」と私の手をつかみ、部屋を出て行く。
途中、サンガとすれ違う時、蒼輝はまたもやサンガのお尻を軽く蹴った。
 
「お前は、タイムキーパーをやれ。」
 
それには、「はいはい。」と笑いながら答え、蒼輝と私のあとに、サンガとヒビキさんが付いてくる。
 
「あっ、そうだ!ヒビキ!あのバカも呼べよ!」
 
蒼輝のその声に、ヒビキさんは「バカって・・・。」と言いながら笑うと、
 
「もう、心の声で呼んだよ。
たぶん、俺たちよりも早く着いてるんじゃないか?」
 
それに対して蒼輝は、「かもな。」と言いながら笑い返した。
何も言わなくても、先々を見越して行動を起こしてくれるヒビキさん。
そして、蒼輝が豹として、動けない分、頑張って動いてくれているトーワくん。
で、今は蒼輝が言った事を、理解してくれて、さらに力になってくれるサンガ。
 
「蒼輝は、いい仲間に囲まれてるね。」
 
側にいる蒼輝に、たまらずそういう私。
一瞬、意味がわからなかったのか、キョトンとしていた蒼輝だったけど、私の言いたかった意味がわかったみたいで、しばらくすると、「そうだな。」と言うと、さらに、「翠のおかげだな。」と加える。
「ん?」と聞く私に蒼輝は、とても優しくて穏やかな瞳で私を見た。
 
「俺には、最高の女神がついてるからな。」
 
そういって私の髪を優しくなでた。
その時、
 
「みんな〜、遅いよぉー!」
 
と叫ぶ声が。
見ると目の前にトーワくんの姿があった。
 
「待たせたな。」
 
とヒビキさんはトーワくんの怒りを鎮めると、「よし、やるか。」と声をかけて、目の前の扉を開けて外に出た。
その扉の奥に続く景色を見て私は、言葉を失った。
知らない間に、こんなに『高い所』に居たなんて!!
今私がいる場所は、蒼輝の部屋のさらに上にいる。
つまり、司令塔室から私たちは秘密の通路を通って、蒼輝の部屋へ行き、さらに蒼輝のリビングの横にある扉から、上へと昇った。
そして、そこに現れた扉を開けると、目の前には、バルコニーがあって、そこから上を見上げると、さっき見えていたバリアーがわりと近くに見えた。
 
「蒼輝・・・10分切ったぞ!」
 
サンガの声に蒼輝は、「ああ。」と答えると青い玉を両手で握り締めた。
それを見ていたヒビキさんが、私に目を移し、「翠ちゃん。」と促す。
私は何も言わずに頷いて、私も緑の玉を強く握り念じる。
しばらくして、「あっ!」というサンガの声が耳に入った。
蒼輝のいる方向から、青くて強く輝く光が発せられているのが、目をつぶっている私にも感じれた。
私も、一生懸命念じた。
蒼輝に緑の力を与えて!彼を守って!って。
だけど・・・。
 
「おいっ!翠の玉から、光が出ねぇーぞ!!」
 
サンガはそう叫びながら、たまらずヒビキさんに、「どうしてなんだ?」とつっかかる。
 
「たぶん・・・翠ちゃんの中で、まだ迷いがあるんだろう。
蒼輝に緑の力を与えていいのか。って・・・。」
 
「迷いって・・・。だったら、どうしたらいいんだよっ!」
 
さらに、つっかかるサンガに、「やめろ!」と蒼輝が彼を止める。
 
「サンガ、今だけ許してやる。
翠を抱きしめろ!」
 
蒼輝の言葉にサンガは、耳を疑う。
 
「なん・・・だって?」
 
困惑しているサンガと違って、すごく落ち着いている蒼輝は、目を開けると顔だけをサンガに向ける。
 
「俺は今、この体勢から動けない。
体から力が抜けていくみたいで、手を動かす事もできない。
だから、俺の代わりに翠を抱きしめろ。
そのかわり、抱きしめても一言も話すな。
あとは、俺にまかせて、お前は抱きしめているだけでいいから。」
 
余計に意味がわからないサンガは、さらに首をかしげ、「あとはまかせろ。って・・・何が?」と愚痴ってる。
だけど、時間がないだけに、ヒビキさんがサンガの手をひっぱり、強引に私の側に彼を連れてくる。
 
「俺にもサッパリわからないけど、今は蒼輝の言う通りにしよう。
早く、翠ちゃんを抱きしめろ!」
 
ヒビキさんにまでそう言われてサンガも、「ほんっと、わけわかんねぇーな。」とブツブツいいながらも、私を後ろから優しく抱きしめた。
目をつぶっていた私は、突然感じた感触に、驚いて目を開けそうになる。
その時、「そのままでいろ。」という蒼輝の声が聞こえた。
 
「蒼輝?・・・なんで?」
 
だって、今蒼輝は私の横にいるはずでしょ?
さっきと変わらず、青い光は輝いているのがわかるんだもん。
だけど、私を抱きしめているのも・・・蒼輝?
さっぱりわからない私は、私を抱きしめている人の感触を体の神経を使って感じてみた。
だけど、確かに・・・腕の力の入れ方も、蒼輝っぽかった。
一体、今何が起っているのかわからない私は、「どういう事なの?」と彼に聞く。
すると、蒼輝は私にこう言った。
 
「俺たちの永遠の別れは、何もかも終わってから、翠が元の世界に帰る時だけだ。
俺の言葉も、俺の生命力も、全て信じてほしい。」
 
その言葉は、私の心に直接触れたようだった。
耳から聞こえたんじゃない。
心から聞こえたような・・・そんな感じにも思えた。
さっきまで、私の心の奥にあった、わずかな迷いが消えた。
 
「わかった。」
 
私は深くうなずきながら、そういうと、改めて玉に念じる。
すると、すぐに私の目の前が緑の光で明るくなった。
それが、発動した途端、私の体から蒼輝の感触はなくなり、私は目を開ける。
まずは、光のゆくへを見守る私。
あの時と同じように、緑の光は吸い込まれるように青い光の元へ移動し、交わった二つの力は、蒼輝へと直撃する。
強い光が消えた時、みんなの目が蒼輝へと注がれた。
あの時と同じように、光を直撃した蒼輝は、風圧でその場にしゃがみこんでいた。
だけど、彼の髪色を見れば、すぐにわかった。
彼の体に、力が入ったんだと・・・。
 
「蒼輝・・・立てるか?」
 
ヒビキさんの言葉に蒼輝は、「う・・・・ん。」と答えると、ふらつきながら立ち上がる。
立ってすぐに倒れそうになる蒼輝を、素早くヒビキさんが支える。
 
「大丈夫かよ。お前、こんなんで・・・。」
 
ヒビキさんはそこで、言葉を止めた。
だけど、ここにいた誰もが、その先の推測はついていた。
きっと、ヒビキさんはこう言いたかったに違いない。
『お前、こんなんで、豹になれるのか。』って。
だけど、蒼輝はヒビキさんの腕を、ユックリと放すと、自分の力でその場に立つ。
 
「さっき、翠を説得するのに、余計な力を使っちまったからな・・・。
まっ、なんとかなるよ。」
 
と苦笑いを浮かべると、両手を握り、目をつぶる。
そして、「んっ!」と体に力をこめた。
蒼輝の体が、ドンドン小さくなり、それが横に広がっていく。
それを見た、ヒビキさんもすぐに豹へと変身する。
すでに、豹の姿に変わっているトーワくんに、
 
「蒼輝の右後ろに移動しろ。」
 
と指示を出すと、自分は蒼輝の左後ろへと移動する。
まるで、トライアングルの形になった三人。
準備が整っている事を感じた蒼輝は、変身してすぐの自分の体に、全神経を集中させる。
すると、彼の体が緑色に輝(カガヤ)いた。
つぎに、トーワくんが体を輝かせ、最後はヒビキさんが体を輝かせる。
 
「緑豹国の守護神、赤き龍(アカキリュウ)よ。
我らに、宿(ヤド)りし力を、高めたまえ。」
 
蒼輝がそう口にした後、すぐに蒼輝とトーワくんとヒビキさんの体の光が、真上に向かって帯状に続いて上っていった。
その時、時計を見ていたサンガが、上空から聞こえるヘリの音で、顔を上に向ける。
 
「ジギルが、ひずみに近付いてくる。
あと1分もないぞ!」
 
サンガのその声があたりに響いた頃、それぞれバラバラに帯状に伸びていた光が、遥か上空で重なった。
すると今度はそこから、四方八方に青白い光が飛び散った。
その輝きに、気付いたジギル。
 
「しまった!バリアーを張りなおされた!」
 
だけど、すぐにトロイが突っ込む。
 
「なんで?蒼輝は豹にはなれないはずっすよね。」
 
それには答えずにジギルは全隊員に命令した。
 
「撃てっ!」
 
と。
上空にヘリが10機以上飛んでいて、その全てのヘリから、ものすごい砲撃を受けた。
私は、そのまぶしさと恐さでその場でしゃがんでしまう。
そんな私をまるで、守るかのように側にいてくれたサンガが抱きしめてくれた。
もし、さっきのでバリアーが張りなおされていなければ・・・これで、緑豹国はいっきに滅びてしまう。
私は、必死で祈った。
 
「大丈夫だよ、翠ちゃん。」
 
サンガの胸の中で、縮こまっている私の肩をポンと叩いて、そういってくれたのは、ヒビキさん。
 
「ヒビキさん・・・人間に戻ってる・・・。」
 
そう口にした私に、ヒビキさんは優しく笑う。
 
「バリアーは無事、張りなおされた。
ほらっ!諦めてジギルも引き返してる。」
 
そう言って上空に指を向ける。
さっきまでたくさんのヘリがいたのに、今はその姿はなく、それが去る音だけが耳に聞こえていた。
 
「あっ!蒼輝は!?」
 
と私がヒビキさんに聞いた時、丁度トーワくんの声が聞こえた。
 
「そぉーきぃ!!」
 
いつも能天気なトーワくんが、そんな声を出すから、私もヒビキさんも蒼輝を見てしまう。
 
「おいっ!蒼輝!しっかりしろ。」
 
ヒビキさんが倒れている蒼輝を抱きかかえる。
いつのまにか、蒼輝も人間の姿に戻っていて、さらに元の黒髪に戻っていた。
私は、不安にかられながらも、サンガの胸から離れて、蒼輝の元へと急ぐ。
 
「ねぇ・・・蒼輝は?」
 
とヒビキさんに聞くけど、ヒビキさんは答えずに、サンガを見る。
 
「診てくれないか?」
 
サンガはうなずいて、蒼輝の状態を診る。
 
「どう・・・なの?」
 
サンガにそう聞くけど、またしてもそれは答えてもらえなかった。
サンガは、ヒビキさんを見て、
 
「ここじゃ、ゆっくり診れない。
とりあえず、部屋に連れて行こう。」
 
と告げ、蒼輝を抱きかかえる手助けをするよう、ヒビキさんに声をかけた。
 
「待って、サンガ!
そんなに蒼輝の具合、悪いの?
ねぇー・・・。」
 
そう口にして、彼らの元へ一歩踏み出した私に、突然めまいが襲ってきた。
頭がグラグラして、目の前の景色がグニャグニャにゆがむ。
頭も痛くなって目も焦点が合わなくなって、どんどん意識が遠ざかっていく。
最後は、目の前も頭の中も真っ白になった。
 
「翠さんっ!!」
 
と叫んだランさんの声を聞いたあと、私は意識を失った。
 
 
「・・っい。・・・すいっ!」
 
私を呼ぶ声がどこからともなく聞こえた。
私は、目を開ける。
真っ白な世界に私はいた。
目の前には、女性が立っている。
顔は光が当たっていて見えないけど、口元がとても優しく笑っているのを見ると、私の・・・味方?
 
「あなた・・・誰?」
 
そう聞く私に、その女性は「こんな所で何をしているの?」と反対に私に質問を投げかけてきた。
「えっ?」と答える私に彼女は、「早く、戻りなさい。」とハッキリと口にすると、「いい?」と語り出した。
 
「今回みたいに翠にとって、辛い選択はこれからたくさん出てくるでしょう。
その度に、蒼輝やあなたの仲間が、あなたを助けてくれるわ。
だから、翠。あなたも、彼らを助けるのです。」
 
それには、「無理だよ。」と即答する私。
普通なら、「やる気がないの?!」と怒られそうだけど、彼女は、「どうして?」と優しく私に聞いてくれた。
 
「私だって、彼らを救いたい。
だけど、私にはそんな力ないよ。
今回だって、蒼輝を危険な目に合わせた。」
 
すると、彼女は私の側まで歩み寄ってくると、私の両手を握り締めた。
私は、驚いて彼女を見る。
だって、これは夢だよね。
だけど、手に触れている彼女の手からは、温もりや肌の感触がハッキリと感じれたんだもん。
ビックリして言葉が出ない私に彼女は、「よく、聞きなさい。」と言うと優しい口調で話した。
 
「彼らを救う為の『力』は、自分でみつけなさい。
その時々に、『必要な事』や『必要な方法』は、翠がいままでここで経験してきた事をフルに使って、生み出しなさい。
そして、私の元へちゃんと来るのです。
あなたをこの腕に抱きしめる日を、私は待っていますよ。
翠、頑張りなさい。」
 
彼女はそう言い切ると、私の頭を優しくなでた。
それは、まるで母親に触れられたような感触に似ていた。
 
「ねぇー、あなた一体・・・誰なの?」
 
だけど、気付けばもう彼女はいなかった。
 
「待って・・・待ってよっ!」
 
私は大声で叫んで、上半身を起こす。
そして、おかしいという事に気付いた。
だって、私はさっきまで、『立って』いたはず。
だけど、今はベッドに寝てて、勢いよく起き上がった状態。
って事は・・・。
私は周りに目を向けた。
ここは、さっきの真っ白な世界じゃなくて・・・。
そう思った時、
 
「気付かれましたか?」
 
というランさんの声が、側で聞こえた。
私はランさんに目を向けた。
私が勢いよく、上半身を起こしたせいで、額に乗せていたタオルが下に落ちてしまった。
それを、拾いながらランさんは、私に優しく微笑みかける。
 
「具合は、いかがですか?」
 
そう言われて、私はバリアーを張った後、気を失って倒れた事を思い出した。
 
「ごめんなさい。心配かけてしまって。
もう、大丈夫です。」
 
私はそういって、ベットから立ち上がろうと体を動かした瞬間、体が思うように動かないのと、目の前がクラクラして、そのまままたベッドに倒れこんでしまった。
 
「大丈夫ですか?」
 
と叫んでランさんは、私に触れる。
そして、すぐにその手を私の額に移動させる。
 
「熱が・・・全然下がってない・・・。」
 
とつぶやくランさんに私は、あくまで「平気よ。」と笑って答えた。
私は、なんとなくわかっていた。
高熱が出ているのも、まるで血が通ってないみたいに、体に力が入らないのも、頭がクラクラしたりするのも、全て緑の力を蒼輝に与えた『後遺症』だって事。
1度目は、私も万全な状態で望んだから、体は元気で何も感じなかったけど、2度目の時。
緑の光を玉から出した時点で、体中の力が吸い取られる感覚に陥った。
私の体の中にある力が、抜け出て他の人に与えられるって事は、たぶん蒼輝がチナリさんにしたように、『豹に変身出来る能力の命』を一時的に、蒼輝に与えるような物なんだと思う。
豹の力に慣れていない私が、力を出したり入れたりして、体に負担がかからないわけがない。
確かに辛くてしんどい。
でも、こんな辛さ・・・蒼輝と比べたら、たいした事ないよ。
私は、ベットに横になった状態で、ランさんの腕を握って聞いてみる。
 
「蒼輝は、どうなったの?」
 
って。
すると、ランさんの顔が、急に曇る。
それを、見た瞬間・・・私の胸がズキーンと痛んだ。
 
「まさか・・・。」
 
そういって、言葉を失う私にランさんは、「まだ、生きていらっしゃいますよ。」と苦笑いを浮かべながら答えた。
 
「まだって・・・どういう事?」
 
自分でも気付かないうちに、ランさんの方に向かって身を乗り出して聞いていた私。
それを、ランさんは、「落ち着いて聞いてくださいね。」といいながら、また私の体をベッドに戻すと、私の手を優しく握り締めてくれた。
 
「あれから、2時間くらいして蒼輝さまは、意識を取り戻しました。
でも、首から下の感覚を失ってしまい、全く動きません。」
 
「どういう・・・事?」
 
ドキドキしながら、私はランさんに必死で聞き返す。
 
「指先を少しでも上に上げる事も、もうできません。
サンガさまのお話では、2度目で体がついてこれず、人間の姿に戻る時に、骨が正常にくっつかなかったんだろう。と言ってました。」
 
「そんな・・・。」
 
と力なくつぶやく私にランさんは、さらに過酷な『現実』を突きつけた。
 
「蒼輝さまの脈がどんどん弱まっています。
薬草を飲ませても、それは止める事はできませんでした。
『私たちに出来る事はもうない。』とサンガさまがおっしゃり・・・。
明け方の頃には、もう・・・。」
 
嘘よ!
蒼輝が死ぬなんて。
そんな事あるわけないじゃない!
明け方までって・・・。
 
「ランさん!今、何時?」
 
私は、自分の体に必死で力を入れて、上半身を起こす。
そんな私を慌ててランさんは支えながら、窓から月を見た。
 
「10時くらいでしょうか・・・。」
 
だいたい明け方っていったら・・・4時くらいだよね。
って、事はまだ、6時間はある。
 
「私が何とかするわ!」
 
私はランさんにそういい切ると、足を何とか動かして、ベッドの下に降ろす。
こんな体で蒼輝の部屋に行く事だって、無理に決まってる。
だけど、とにかく彼が今、生きているんだ。って事が知りたかった私は、彼の元へ行こうと、感覚を失った足に、必死に力を入れて、立ち上がろうとした。
 
「悪いけど・・・蒼輝には、逢わせられない。」
 
急に入り口付近で声がして、私もランさんも驚いてドアに目をやる。
そこには、ヒビキさんが立っていた。
 
「ヒビキ・・・さん。」
 
私がそう口にしたと同時くらいに、ヒビキさんは、私の目の前に到着する。
そして、床に腰を降ろして座った。
 
「今は、蒼輝に逢わないでくれ。」
 
それには、ランさんが「どうしてですか!」とくいさがる。
 
「翠さんに逢えば、蒼輝さまだって状態が良くなるかもしれないじゃないですか!」
 
さらにそう言ってくれたけど、ヒビキさんは冷めた口調で、「そんな事、本気で思っているのか?」とランさんに言う。
その言葉の冷たさにランさんは、「それは・・・。」と言って、口を閉じる。
そんなランさんにヒビキさんは、「悪い。ちょっと気が立ってるから・・・。」といって、ランさんの頭を優しくなでると、
 
「翠ちゃんと二人で話がしたい。
ランは、部屋から出といてくれないか。」
 
と今度は少し優しい口調で彼女に言う。
ランさんは、「はい。」と返事をすると、私に軽く会釈(エシャク)をして、部屋から出て行った。
扉が閉まるのを確認してから、ヒビキさんは私を見た。
 
「蒼輝がこれほどまで、重症になったのは、なぜかわかるかい?」
 
ヒビキさんの問いかけに私は、その『意味』がわからなくて、首を振る。
だって、蒼輝の命が危険かも。って事はわかっていた事だよね。
だけど・・・なんか、そういう意味じゃない気がして、とりあえず首を振ってみた。
きっと、私の心を読んだのだろう。
 
「意味がわからないみたいだから、順番に話そうか。」
 
とヒビキさんは、少し笑いながらいうと、「理解しながら聞いてくれ。」と最初にそうお願いした。
 
「蒼輝があの体で、2度目の変身をするのは、危険だと思った。
だけど、夢でBLUE LANDへ行っていた事から、蒼輝が死なない。って事は立証されていたんだ。
アイツが無事でいられるという事を、事前に知らせる為に、翠ちゃんは『あの夢』を見たんだろうからね。
だから、俺たちは間違った選択をしないで、蒼輝が2度目の変身をする事を選んだ。
ここまでは、理解できた?」
 
それには、私は「はい。」と口にして深く頷いた。
だけど、それじゃあ・・・。
と言いかけた私に、ヒビキさんが、
 
「『どうして、蒼輝は瀕死の状態になってるか?』って事だろ?」
 
と核心をついてくる。
私は、さらに深く頷くと、「なんで・・・ですか?」と聞いてみた。
それには、ヒビキさんはとても言いにくそうに、私に向かって口を開いた。
 
「翠ちゃんが原因だ。」
 
って。
「私?」と自分で自分を指さして、ヒビキさんに確認してしまう。
だけど、ヒビキさんは「そう。」というと、さらに続けた。
 
「緑の力を発動させる時、翠ちゃん躊躇しただろ?」
 
いたい所をつかれて、私は何も弁解できなくて、ただ「ごめんなさい。」と謝った。
それには答えずに、ヒビキさんは続ける。
 
「あのあと、翠ちゃんの中で迷いが消えたよね。
一体・・・何があったんだ?」
 
それには、私がビックリしてしまう。
 
「何?って・・・。
あの時、みんなあの場所に居たじゃない!
蒼輝が私を抱きしめながら、言ってくれた言葉とか・・・。
一部始終を、見てたでしょ。」
 
だけど、ヒビキさんは「知らないよ。」と答える。
「えっ?」とかなりすっとぼけた声で答える私にヒビキさんは、「そういう事だったのか。」と一人理解する。
さっぱりわからない私は、「なんなんですか?」とヒビキさんの腕をつかんで、聞いてしまう。
私の手が触れた事で、私が高熱でうなされている事を知ったヒビキさんは、ビックリした顔で私を見る。
そして、私の額に手を合わせる。
 
「こんな高熱・・・一体、いつから!」
 
と取り乱していうヒビキさんに、「いいから。」と私は答えた。
 
「何言ってるんだ!
いいわけないだろ!
他は?どこかおかしい所とかはない?」
 
すごく心配するヒビキさんに私は、「大丈夫だから。」と答え、
 
「お願い・・・。
蒼輝の事・・・、あの時の事を教えて。」
 
とヒビキさんに懇願した。
必死の私の姿勢に根負けしたヒビキさんは、「わかったよ。」とため息混じりに答えるものの、
 
「だけど、翠ちゃんの体も心配だから、せめて横になって・・・ねっ。」
 
と言って、私をベットに寝かせた。
私は、ヒビキさんの方に向き、目で訴える。
 
「わかった。ちゃんと話すから。」
 
とヒビキさんは優しく笑うと、ベットの端っこに左腕を乗せて、私がよく聞こえるように少し近付いてくれた。
 
「翠ちゃんも知ってると思うけど、緑の光が発動しなかった時、蒼輝の青い光の方は、すでに発動していた。
元気な体なら、体を動かしたり、翠ちゃんに話しかける事も出来たかもしれない。
でも、あの時の、アイツの体力では、光を発動させて、それを維持するだけで、必死だったんだ。
体を動かす事も、翠ちゃんに話しかける事もできなかった。」
 
「でも・・・蒼輝が話してくれたよ。
それに、私を抱きしめてくれたし・・・・。」
 
そう告げる私にヒビキさんは、「驚かないで聞いてくれ。」と言うと、真実を話してくれた。
蒼輝は一言も話してない事。
そして、私を抱きしめてくれていたのは、サンガだった。って事。
確かに・・・。
私だって、不思議だったんだよ。
真横で、青い力を発動させている蒼輝がどうして、私を抱きしめれたんだろうって。
でも、あの感触は間違いなく蒼輝だった。
どうして??
ヒビキさんに聞こうとした時、ヒビキさんはすごい事を言い出した。
 
「アイツは、『蒼さまの力』を利用したんだ。」
 
って。
蒼さまって・・・。
 
「先代王の?」
 
と聞く私にヒビキさんは、「うん。」と答えると、「翠ちゃんには黙っていたけどね。」と言うと、蒼さまの力を話してくれた。
 
「蒼さまにも、俺やトーワのように、『王として優れた力』ってのがあってね。
蒼さまのそれは、『自分の魂はもちろんの事、人の魂をも遠く離れた地に、移動させる事が出来る』っていう力だったんだ。」
 
「魂を・・・移動??」
 
と首をかしげる私にヒビキさんは、「洞窟での事を思い出してくれ。」と私に言った。
 
「翠ちゃん、言ってたよね?
洞窟で眠ってしまって、夢に蒼さまが出てきたって。
蒼さまに触れられて、感触があったって。
蒼さまが魂を移動させて洞窟に来たんだ。
体は移動できないけど、夢の中の自分の体に、魂だけを入れ込めば、まるで生きてそこに居るように振舞える。
そう言った所だろうな。」
 
そして、さらに続ける。
 
「それで、蒼輝は、とっさに蒼さまの『魂の移動』の力を、使わせてもらう事を思いついた。
サンガの体に自分の魂を移動させて、まるでそこに蒼輝が居るようにした。
だけど、蒼輝の場合は、完全に魂を移動させてしまったら、本来の自分に誰もいなくなってしまって、青の力の発動が止まってしまう。
そこで、魂を半分ずつに分散したんだ。
だから、蒼輝の体への負担が大きくなった。」
 
そこまで、聞いて私は、「ちょっと、待って。」とヒビキさんを止める。
 
「さっぱり、意味がわからないよ。
理屈はわかるよ。
蒼さまに、念か何かで頼んで、自分の魂を半分にして、半分をサンガの中に入れ込んでほしい。とか言ったんだ。って。
でも、そもそも、蒼さまは、もうこの世に生きていないんだよ。
生きていない人の力なんて・・・借りれる訳ないよ。」
 
と答える私にヒビキさんは、私が知らなかった『ある事』を教えてくれた。
 
「サンガに、WONDER LANDであった事を全て聞いたあとに、『例』の事も聞いたんだ。
そして、その事は、蒼輝には、ひずみの発見後に司令塔室に降りて来た時に話した。
だから、結果的にこの事を知らないのは、翠ちゃんだけなんだけど・・・。」
 
と言う。
 
「『例』の事・・・って何ですか?」
 
するとヒビキさんは、「探知機」と口にする。
そうだっ!豹の血を使っていると考えていたあの探知機。
一体、どこから豹の血を得ているのか?ってのが、謎だったんだよね?
 
「それで・・・わかったんですか?」
 
と聞く私にヒビキさんは、「サンガが教えてくれた。」というと、「すごい事だから、驚かないでくれよ。」と添えると、本当にすごい事を口にした。
 
「あの血は『蒼さまの血』だ。」
 
って。
だけど、まだ驚けなかった。
だって、あの血が蒼さまのだとすると、もう一つ解くべき謎があるよね。
 
「蒼さまの血だったら、200年以上は経ってるって事ですよね?
それを、どうやって保存してるんですか?」
 
だけど、ヒビキさんは「保存はしてないよ。」と答えると、普通に口にした。
 
「蒼さまは、生きてるんだ。」
 
って。
 
「えーーーー!!」
 
もちろん絶叫だよ。
これには・・・うん。驚いた。
だって、200年以上も前の人が・・・今も生きてる?
だけど、血を提供してるって事は・・・。
 
「蒼さまは・・・敵なの?」
 
真剣に聞いたのに、ヒビキさんは「プッ。」と笑う。
 
「そんなわけないだろ?」
 
と答えると、
 
「とらわれているんだよ。
WONDER LANDを治めている男にね。」
 
と言って、少しため息をついた。
 
「でも、どうしてすでに亡くなったと思っていた蒼さまが、とらわれているってわかったんですか?
それに、そもそもどうしてそんなに長生きなの?
豹・・・だから?」
 
それには、ヒビキさんは即否定する。
 
「俺たちの寿命は普通だよ。
きっと、何かの手段を使って、蒼さまの命を延ばしているんだ。
それは・・・わからない。
だけど、蒼さまが生きているのは確かだ。
サンガが、顔を覚えていたからね。」
 
それで、ピンと来た。
そういえば、データーチップに入っていた写真を見た時、サンガは蒼さまを見たことがある。って言ったもんね。
そうだったんだー。
一人で頷いている私に、ヒビキさんが声をかけてくる。
 
「ついでだから、言っておくけど、緑豹国の歴史には、蒼さまはすでに亡くなっていて、結婚だってされいない。
あの写真に載っていた女性の存在も、抱かれていた『翠』って名前の子供の存在も、全く残されていない。
そして、さらに、BLUE LANDなんて国の事もね。」
 
そこまでいうと、ヒビキさんは私をジッと見る。
 
「な・・・に?」
 
と聞く私にヒビキさんは、
 
「気付いていると思うけど、翠ちゃんは、あの写真の『翠』だと思う。
あの時代に生まれた子供が、どうやって過去に行き、今の翠ちゃんの姿になったのかは、謎だけどね。
だけど、それは蒼さまと、翠ちゃんの母親であるあの翠ちゃんに、そっくりな女性。
それから、BLUE LAND・・・青鳥国(セイチョウコク)の王が、やった事だと思う。
その理由や、いきさつは、このまま先に進んでいけば、時期に解明されると思う。
だから、俺たちは、ここで立ち止まるわけにはいかないんだ。」
 
ヒビキさんは、そこまで言うと、今度は何かを決心したような瞳で私を見る。
 
「だけど・・・これ以上、蒼輝を危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ。
蒼輝は、俺たちが考えもつかないような事に気付き、そして、すぐにそれを自己判断でやってしまう。
チナリの時も、自分の『豹の命』を勝手に与えてしまうし、今回だってそうだ。
アイツは、蒼さまの能力を知っていたし、あのデーターチップにあった写真をみて、なぜそうなったかは、わからないにしても、翠ちゃんが蒼さまの子供であると薄々気付いていたんだ。
だから、蒼さまに念を送った。
翠ちゃんが・・・自分の子供が苦しんでいて、それを救える人物である蒼輝が、『力を貸してほしい。』と頼めば絶対に蒼さまは、力を貸してくれると思ったんだろうな。
だから、迷わずアイツは瞬時に決断したんだ。
自分の命が危険になる事も、かえりみずにね。」
 
そういってヒビキさんは、一回大きなため息をつく。
そして、「恐いんだよ。」とヒビキさんは私に言った。
 
「こ・・・わい?」
 
すると、ヒビキさんは頷いて、私に言った。
 
「翠ちゃんと違って、俺たちはこの世界で・・・この世界だけで生きてるんだ。
歯車が動き出した以上、俺たちは進まなきゃいけないし、逃げ出す事だって出来ないんだよ。
過酷なこの世界で、それでも、俺はいつも思ってる。
誰も死なせたくないってね。」
 
そして、ヒビキさんはさらに続ける。
 
「だけど、翠ちゃんはこの世界の住人じゃないから、いえば、この世界の事にはあまり興味がないはずだ。
この世界の行く末よりも、蒼輝の事の方が気になって仕方ない。」
 
そう言われて私は、「そんな事ない。」と言い切る。
 
「この世界の事だって、大切に思ってるよ。」
 
そういう私にヒビキさんは、
 
「じゃあ、どうしてさっき、緑の力を発動させる事を、ためらったんだ?」
 
と答えを求めてくる。
 
「それは・・・。」
 
と言って黙る私に、
 
「蒼輝の命の事を考えたからだろ?
この世界の事よりも、蒼輝の事を一番に考えたから、躊躇してしまった。
違う?」
 
と言うヒビキさんの言葉に私は返す言葉がなかった。
何も言わない私にヒビキさんは、さらに責める。
 
「翠ちゃんが、蒼輝を守ろうとした事によって、今回みたいにペースが乱れたりしたら、仲間の命が危険になる事だってあるんだ。
それも、一番命を失う確率が高くなるのが、皮肉にも翠ちゃんが守ろうとしている蒼輝なんだよね。」
 
その言葉に、ただヒビキさんを見るだけ。
言葉なんて・・・出てこなかった。
だって、一番守りたい人が、私が危険な目に遭わせてるって・・・。
ヒビキさんがそういう理由を聞きたい自分と、恐くて聞きたくない自分がいた。
私はその二つの気持ちと葛藤するのに必死だった。
だけど、私の心の気持ちが固まるのを待つ事なく、ヒビキさんは続ける。
 
「それは、翠ちゃんが危険になる回数が多くなるからだよ。」
 
と言ったヒビキさんの言葉・・・。
さっぱり意味がわからないよ。
頭の中で、もう一度繰り返してみるけど・・・やっぱりわからない。
 
「どういう・・・事ですか?」
 
とたまらず聞いてしまう私。
だけど、ヒビキさんは、「つまり・・・。」というとちゃんと詳しく教えてくれた。
 
「答えが出ないでその場で立ち止まって考え込んでしまったり、躊躇したり、自分一人で何とかしよう。と意気込んでみたり。
そんな行動はね、絶対と言っていいほど、危険が伴ってくる。
実際、さっきは躊躇してしまったし、前にここへ来た時も、虹のかけらをトーワの力を借りずに、一人で行った事によって危険は伴ってきただろ?
そして、それに必ずくっついてくるのが、蒼輝の命の危険だ。」
 
そう言われて、私は改めて実感した。
今回も前回も・・・蒼輝は命を落としても、おかしくないくらいに、危険な目にあってる。
それも、全て私のせい。
私がそう思った時、「言っとくけど、それについて翠ちゃんを責めてるわけじゃないからね。」とすぐにくぎを刺すヒビキさん。
きっと、私がまたもとの世界に戻るくらい自分を責めないように、ホローを入れたんだと思う。
黙る私に、
 
「何で、蒼輝が、翠ちゃんが危険になるとアイツも危険になるか・・・わかる?」
 
首を振る私に、
 
「アイツは、翠ちゃんを守るためなら命を捨ててもいい。って本気で思ってるからなんだよ。」
 
それには、たまらず「そんな・・・。」とつぶやいてしまう私。
すると、ヒビキさんは、「ついでに言っておくとね・・・。」と付け加えると、今度はさっきと違ってすごく優しい瞳で私を見た。
 
「翠ちゃんの為に、命を捨ててもいい。って思っているのは、蒼輝だけじゃない。
俺たちだってそう思ってる。
それは、翠ちゃんに対してだけじゃなくて、蒼輝が危険になって自分が助けられるなら、俺は命を投げうってでもアイツを助けたいと思ってる。」
 
黙って聞いていた私にヒビキさんは、「きっと翠ちゃんには理解出来ない事かもしれないけどね・・・。」と口にすると、さらに続けた。
 
「俺たちは、生まれた時から命が危険にさらされていた。
だから、どうやって自分の命を守るか。
どうやって、自分の大切な仲間を守るか。
そればっかりを、前提に生きてきたんだ。
だから、俺たちは常に、力を合わせて、誰も死なないような方法を考えて、前に進んできたんだ。
つまり、さっきみたいに、みんなで決めて『豹になってバリアーを張って緑豹国を守る。』って決めたのなら、どんな過酷な状態になっても、もし・・・誰かが命を落とす状況に直面したとしても、絶対に遂行しないといけない。
でなかったら、他の仲間が巻き添えをくって、命を落とす事になるかもしれないからね。
一度決めた事を、心の揺れるまま簡単に変える事は、ここでは許されない。
それは、死を意味する。」
 
確かに・・・ヒビキさんの言っている事は正しい。
実際、指摘された事は、何一つ間違っていないし、さっきだって、蒼輝が蒼さまの力にイチカバチカ頼らなかったら、間違いなく緑豹国は砲撃を受けて、多くの人が亡くなっていたんだから。
だけど・・・。
私は、自分の心の中にある、気持ちをヒビキさんに伝えた。
 
「ヒビキさんが言っている意味もわかる。
迷いがみんなを危険な目に合わせてしまうっていうのは・・・今回の事でわかったし、私だって納得したはずなのに、あの時躊躇していけなかった。って本当に反省してる。
だけど、誰かの死が直面した状況になっても、遂行するっていうのは・・・私には出来ないよ。」
 
と泣き顔になる私にヒビキさんは、私の頭に手を乗せて、「ポンポン。」と優しく叩く。
 
「そうならない為に、俺たちは充分話し合って、その都度『選択』をしてるだろ?
これからも、もちろん『選択』するよ。
みんなが無事でいられる方法を前提にね。
だから、翠ちゃんには蒼輝だけじゃなくて、俺たちも信じてほしい。
一緒に生きる仲間としてね。」
 
ヒビキさんの言葉に私は、「うん。」と深くうなずいて、ヒビキさんを真剣に見た。
 
「私、もう迷わない。
ここに居る間は、ここを生きる心得で、ちゃんと生きるよ。
何かに直面したら、その都度、私に出来る事を出来る範囲でする。
やるべき事が、わからなかったら、ヒビキさんとかみんなに教えてもらって、導いてもらう。
みんなで決めた事は、どんな事があっても逃げ出さない。
しっかりやり遂げる。
私も・・・みんなと一緒に前に進みたい。
そして、知りたい。
自分が本当は、何者で誰なのか。
さらに、私がここにいる理由も知りたいし・・・。
だから、ここに居させて下さい。」
 
ハッキリそう言った私にヒビキさんは、とても優しく笑うと、「ありがとう。」と口にする。
そして、さらに、「蒼輝の代わり・・・。」と言って、横になっている私の体を起こして強引に座らせると、自分はベッドに腰を降ろして、私を優しく抱きしめた。
 
「えっ??」
 
とかなり驚いてキョロキョロしている私に、ヒビキさんは「アハハハハ。」と笑う。
そして、とても優しい声で、
 
「よく、決断してくれたね。
本当にありがとう。」
 
って言った。
それを聞いて・・・全てがわかった。
 
「もしかして・・・。
私の決意を確かな物にする為に、わざと意地悪な事とか言ったの?」
 
それには、ヒビキさんはただ笑っているだけ。
 
「ホント・・・ヒビキさんには、参ったよ。」
 
と言いながら心の中で頭を下げる私。
だけど、思ってしまう。
 
「ヒビキさんって・・・損な役回りだね。」
 
って。
それには、ヒビキさんは「えっ?」と言って不思議そうに、私を見ていた。
自分では気付いていないのかもしれないけど、ヒビキさんの存在は、緑豹国では大きい。
彼がいるから、この国は平和なんだと思う。
だって、彼は敏感に、不調和音を瞬時に聞き取れる神経の細やかさがある。
そして、それをすぐに解決しようとする前向きな姿勢。
それが、自分に取って例えマイナスな事でも、自ら悪役をかって出ても、解決しようとする。
ヒビキさんは、前に私に、『蒼輝の勇気と決断力に脱帽する。』と言っていたけど、私は、ヒビキさんの『行動力』に脱帽するよ。
普段は、冷静な判断をするから、冷たそうに見えるけど、本当は誰よりも人の心を大切に思っている熱い人なんだな〜と思った。
でも、それはたぶん、蒼輝だって思ってるはず。
反発して大喧嘩したりしてるけど、心の奥底では、ちゃんと認めてる。
だから、今もヒビキさんが私の元へ来る事を止めなかったんだ。
私を傷つけるだけじゃなくて、私が今ここで生きるべき『道』というか『姿勢』をヒビキさんが導いてくれると、蒼輝はわかってたんだ。
だけど・・・。
 
「ヒビキさんが、私を抱きしめるなんて、蒼輝は思いもしてないと思うなぁ〜。」
 
そう口にした私にヒビキさんは、「確かにな〜。」と笑うと、顔を近づけてくる。
 
「どうせなら、もう少し先まで進んじゃおっか!」
 
それには、思わず「はぁ?」と言ってしまうけど・・・気付けばヒビキさんの顔が近付いてくる。
扉を開けたすぐ横のリビングには、ランさんだっているんだよ〜。
やだっ!!
私は、強く思って、ヒビキさんの胸を押して、外に出ようとしたけど、体に全く力が入らない私は、こんな短時間で手のひらに力を移動させて、彼の体を押しのけるなんて、できなかった。
心では泣き叫んでいるのに、体では全く抵抗しない私に、ヒビキさんは不審に思う。
 
「翠ちゃん・・・まさか、体が動かないのか?」
 
さっきのおちゃらけた顔から、一変して真剣な眼差しで私を見るヒビキさん。
何も答えない私の手を、ヒビキさんは取ると、
 
「握ってみて。」
 
と私の手のひらに自分の手のひらを乗せて、握手みたいにした。
だけど、私の手は開いたまま動かない。
かろうじて、指先がホンの少し動いただけ。
さっきは、ベッドから降りれたのに・・・さっきより状況はひどくなってる。
私の状態を見て、ヒビキさんは「マジかよ・・・。」と言いながら、深いため息を付いた。
 
「蒼輝と同じ状態になってる。」
 
そして、ヒビキさんは、私をベットに寝かせると、ベッドの側の床に力なく座り込み、頭をかかえて困り果てる。
だけど、私は自分の体よりも今は蒼輝の体が気になっていた。
 
「ヒビキさん、お願い。
蒼輝の元に連れて行って。」
 
必死で頼む私にヒビキさんは、「えっ?」と下げていた顔を上げて私を見る。
 
「蒼輝の命が尽きる夜明けまでに、私が蒼輝を救うすべを見つけて、絶対に彼を助けてみせる。」
 
私の力強い言葉に、あのヒビキさんも何も言い返せなかった。
 
「それを、見つける前に、蒼輝に逢いたいの。
彼に逢ったら、何かがわかるかもしれないから。
お願い、連れて行って。」
 
すると、ヒビキさんは「わかった。」と優しく笑うと、私の上にかぶっていた布団をめくり、私を抱き上げてくれた。
そして、その上から、毛布をかけて私をくるんでくれる。
 
「これだけ、熱があると、寒くてしかたないだろ?」
 
というヒビキさんに、「平気。でも、うれしい。ありがとう。」とお礼を言って私は毛布に包まる。
だけど、抑えることもできなくて、毛布も支えてもらってる私は、心からヒビキさんにごめんなさいと謝っていた。
 
 
蒼輝の部屋に入ると、ヒビキさんはそのまま蒼輝の寝ている寝室に連れて行ってくれた。
中に入ると、蒼輝はベットに横になった状態で、サンガと話していた。
とはいっても、話しているのはサンガだけで、蒼輝はたまにあいづちを打つくらいだった。
ヒビキさんに抱かれた状態で、中に入ってきた私に、サンガは予想以上に驚いていた。
 
「なっ!なんで、ヒビキが!!」
 
って。
私の健康状態より、気になったのはそっちかい!と心で強く突っ込んじゃったものだから、ヒビキさんに聞こえたみたいで、ヒビキさんったら「ククク。」と横を向いて笑っているし。
その笑いに、私までつられて笑ってしまう。
その二人の雰囲気に、サンガは余計怪しく思ったみたいで、
 
「おいっ!蒼輝。
コイツら・・・怪しいぞ!」
 
と蒼輝に告げ口してるし。
一番、この状況を見て怒りそうなのが蒼輝だったのに、意外に彼は冷静だった。
 
「翠・・・お前・・・体調・・・悪いのか?」
 
かなり途切れ途切れになりながらも、心配そうな目を向け私にそういう蒼輝を見たら、体が動かないなんて、言えなかった。
私は、ヒビキさんに蒼輝の側に降ろしてくれるよう頼んで、ベットのすぐ側に降ろしてもらった。
 
「熱がね、ちょっとあって、フラフラするから、ヒビキさんに甘えただけなの。
早く、蒼輝に逢いたかったから。」
 
私はそういって、顔を彼の頬にすりよせる。
彼も顔を動かして、私のぬくもりを肌で感じる。
 
「ホント・・・お前、すげぇー、熱あるんじゃないのか?
大丈夫かよ!」
 
とあまりの熱さに驚いて一旦、私から顔を離す蒼輝。
 
「平気平気。」
 
私は笑顔でそういうと、また蒼輝と顔をくっつける。
だけど、蒼輝は勘がいい。
私が手を使わなければ、疑いを持つだろう。
私は心の中で、ヒビキさんに助けを求めた。
どうしても、蒼輝に知られたくないから、私に力を貸してほしい。って。
すると、ヒビキさんは、私の後ろにしゃがむと、蒼輝の目線の丁度死角になっている部分から、私の左腕を持ち上げてくれて、私の手のひらが蒼輝の右頬に当たるところまで、運んでくれた。
私の手が触れた事によって、蒼輝も安心したのか、
 
「他は・・・何ともないんだな?」
 
と聞いてくる。
私は、「うん。」と答えると、「蒼輝、もう少し眠ったら?」と彼に体を休める事を勧めた。
 
「そう・・・だな。
翠も・・・部屋に・・・戻って寝ろ。」
 
というけど、私は首を振る。
 
「私はここにいる。
蒼輝の側にいるから。安心して。」
 
私の言葉に蒼輝は、「うん。」と素直に返事をすると、目をつぶる。
その時、窓から差し込む月明かりが、まだ夜も明けていないのに、異常に明るい事に違和感を感じて、私は窓に目を向ける。
いえば、暗い部屋に電気を1つつけたくらいの明るさがある外。
たまらず、ヒビキさんに聞いてしまった。
 
「なんで、こんなに明るいの?」
 
って。
すると、ヒビキさんは「ああ。」というと普通に答えた。
 
「今夜は満月だから。」
 
「あ〜、満月かぁ〜。」
 
って、返事をして・・・「ん?」と止まる。
ちょっと、待って!
満月って事は・・・。
 
「あー!!」
 
と思いっきりバカでっかい声で、叫んだ私。
眠っていた蒼輝ももちろん起きちゃうし、リビングにいたタカさんや、トーワくんも部屋に飛び込んでくる。
さらには、さっきやってきたランさんまでもが、部屋をのぞく。
 
「どう・・・したの?」
 
といつも冷静なヒビキさんも、かなり驚いたようで、目を真ん丸にして私に聞いてくる。
 
「わかった・・・。」
 
とつぶやく私に、「何?」と眉間にしわをよせて聞いてくるヒビキさんに、私はハッキリ答えた。
 
「蒼輝を直す方法がわかった!!」
 
それには、みんなが同時にこう口にした。
 
「ホント?」
 
って。
 
「前に、洞窟に行った時に、蒼さまに『虹の雫(シズク)』の存在を教えてもらった。って話したでしょ?
あれは、『命さえ絶えなければ、どんな病でもどんな怪我でも治せる万能薬』って蒼さまが言ってた。
たぶん、あれなら、蒼輝のボロボロの体を、元に戻してくれるはずだよ。」
 
私の言葉にみんなは、「確かに、それなら治せるかも。」と希望を持ち始めた。
でも、いつも一人冷静に判断するヒビキさんは、「俺は、反対だ。」と盛り上がっている空気を、その一言で切り裂いた。
だけど、さらに、今回は彼に味方する人がいた。
 
「わしも、反対じゃ。」
 
タカさんは、そういうと私に近付いてくる。
そして、私の額に手を乱暴にあてる。
 
「いったいなぁ〜。」
 
と文句をいう私にタカさんは、「この、バカ者がっ!」とまずは怒る。
たまらず、「まだ、何もしてないよ!」と反発するけど、タカさんは「うるさいっ!」とさらに怒る。
 
「お前さんも、蒼輝も、もうちっと自分の命を大切にしたらどうじゃ?
ホントに、若いもんは、恐いもの知らずというか、考えが甘いというか・・・ホントに。」
 
とブツブツ言ってる。
別に、命を粗末にしてるわけじゃないもん!
 
「命を大切にしたいから、採りにいくんですっ!」
 
とタカさんに文句を言って、アッカンベーまでつける。
それには、タカさんは呆れてその場に座り込む。
 
「ヒビキ。お前さんが、『現実』とやらを教えてやれ。」
 
「げん・・・じつ?」
 
と言いながら私は、タカさんからヒビキさんに目を向ける。
すると、ヒビキさんは座ったままで、私を見る。
 
「洞窟に行った事のある翠ちゃんには、あそこの過酷さは身を持って知っているはずだ。
『光のない国』を走るだけでも、12時を過ぎそうな今の時間なら、かなり冷え込んでる。
今の翠ちゃんの体では、耐えられないだろう。
さらに、洞窟付近は異常な寒さだ。
どれだけ火の玉を握り締めても、限度がある。
凍え死にする恐れもあるんだ。
それに、月の光がなくなるのは、夜明けの4時。
それまでに、洞窟に着いて、雫を手に入れないといけない。
それだけでも、間に合うか微妙な所なのに、さらに蒼輝の命だって、その時間が怪しいんだ。
絶対にその『虹の雫』が効くという保障もないくせに、これを採りにいくには、かかえるリスクが大き過ぎる。
他に方法があるはずだ。
考えよう。」
 
だけど、私は、「嫌。」と答えた。
 
「翠ちゃん。」
 
困り果てた声でいうヒビキさんに、「ごめんなさい。」と一応謝った。
そして、自分の気持ちを言葉にした。
 
「保障はなくても、リスクが大きくても、私はこれにかけてみたいの。
蒼輝がこういう体になったのが、満月の夜で、その雫が採れるタイムリミットの4時が、蒼輝の命の尽きる時かもしれないってサンガが診断した。
それが、全てただの偶然だとは、思えないの。
それに、私は私の生きてきた道の中で、みんなを守る手段を見つける。
私にしか出来ない事なら、それでみんなを助けたい。
それが、私がここにいる理由だと思うから。
私がここに来たことによって、虹の雫の存在を知り、それが採れるのは私しかいないのなら、それで蒼輝が治ると信じて採りに行きたい。
誰が何と言おうと私は行きます。
だから、ヒビキさんの力を貸してくれますか?」
 
それには、ヒビキさんもキョトンとして、「俺の?」と聞いてくる。
 
「そう。私が無事に虹の雫を採って戻ってこれるように。
蒼輝の命が尽きるまでに間に合うように。
この二つが可能になる手段を、考えてくれませんか?
それは・・・ヒビキさんにしか、できないから。」
 
強い口調でそう言った私に、ヒビキさんは、何も言い返さないまま黙ってた。
すると、さっきまで、ずっと話を聞いていた蒼輝が、少し咳き込みながらも、笑ってる。
驚く私たちとは違って、ヒビキさんは自分が笑われているとわかったみたいで、「なんだよ。」とちょっと、すねたような感じで蒼輝に話かける。
 
「お前・・・翠に・・・やられてんじゃん。」
 
それには、「仕方ないよ。」というと、
 
「彼女だって、緑の王女なんだよ。
気の強さはお前と一緒で、手におえないな。」
 
なんて、言って笑ってるし。
なんかそれって、前もどっかで言われたような・・・。
ブツブツいう私に蒼輝は、「翠。」と私の名前を呼ぶと、
 
「ちょと見ないうちに・・・芯が強い女に・・・なったな。」
 
と笑ってる。
 
「そう仕向けたのは、蒼輝じゃないの?」
 
と疑いの目で見る私に蒼輝は、「さ〜?どう・・・かな?」ととぼける。
「もう!」と怒る私に、「ちょっと・・・耳かせ。」と言ってくる蒼輝。
 
「みみ?」
 
と言いながら、私は蒼輝の口元に耳を当てた。
耳元で囁いた彼の言葉。
 
「えっ!!」
 
と驚いて、蒼輝の口元から耳を離して、彼を思いっきり見てしまう。
すると、蒼輝はニッコリ笑う。
 
「もしかして・・・蒼輝、気付いて・・・。」
 
と口にした私に蒼輝は答えずに、今度はトーワくんを呼ぶ。
 
「なぁ〜に?」
 
と言いながら、蒼輝の側に来たトーワくんに蒼輝は、「お願いが・・・あるんだ。」と優しい口調で話しかける。
「お願い〜?」と言いながら首をかしげるトーワくん。
すると、蒼輝は大きく深呼吸をして、荒れていた呼吸を一時的に整えて、一気に話した。
 
「トーワが、翠を洞窟まで連れていくんだ。
それと、虹の雫は4時まで採れる。
その時間いっぱいいっぱい使っていいから、翠が降り落とされないように、充分スピードには気を付けてやってくれ。
トーワ!頼りにしてるぞ!」
 
それには、もちろんトーワくんはジャンプして大喜び。
 
「僕頑張るよぉ〜!!」
 
って、言ってるし。
そんなトーワくんをほって、今度はヒビキさんを見る。
 
「翠が落っこちないように、縛ってやってくれな。」
 
その言葉にヒビキさんも、気付いた。
 
「お前・・・。」
 
続きを言おうとしたけど、蒼輝の目と笑いで悟ったヒビキさんは、そこで言うのを止めた。
その言葉の変わりに、出た一言は、「お前は、ホントすごいよ。」と、ため息混じりに、つぶやくように出た言葉だった。
 
「おっ!そうじゃ。
その虹の雫を入れる玉がいるな。
ラン、一番小さい玉を用意するのじゃ。」
 
というタカさんの言葉に、ランさんは返事をして一旦部屋から出て行った。
 
「それじゃあ翠ちゃん!
行く、準備をしようか。」
 
ヒビキさんのその言葉に、みんなは外へ出て行く。
そして、寝室は蒼輝と私とヒビキさんとサンガの4人だけになった。
 
「翠ちゃん、部屋まで連れて行ってあげるよ。」
 
ヒビキさんはそういうと、私を抱き上げた。
 
「じゃ、蒼輝、いってくるから。」
 
という私に蒼輝はとても優しく笑った。
 
「夜が明けるまでに戻ってこようとしなくていいからな。
昼になっても夜になってもかまわない。
俺は、翠が戻ってくるまで、何としても生きて待ってるから。
俺を信じて帰ってこい。」
 
そして、「なー、サンガ。」とサンガを呼ぶ。
 
「翠が命がけで採ってくる雫のため、蒼輝の命は、何が何でも持たせておくから。
安心して、いっといで。」
 
サンガの言葉に私は、素直に「うん。」と答えて、「お願いね。」と念を押すと、部屋を出た。
 
「服装も整えた方がいいから、一回、翠ちゃんの部屋に戻ろうか。」
 
とヒビキさんはいうと、私を部屋まで送ってくれる。
その道中で、ヒビキさんが、「な〜。」と話かけてきた。
 
「は・・・い?」
 
と聞く私にヒビキさんは、
 
「蒼輝のやつ、翠ちゃんの体に気付いてたんじゃないのか?」
 
と聞いてきた。
「たぶん。」と答える私に、
 
「アイツに何言われたの?」
 
とヒビキさんは聞いてくる。
蒼輝が私の耳元で言った言葉は・・・。
 
「『雫を手に入れたら、その場で、半分は翠が飲め。
そして、戻ってきたら、今度は翠の力で、俺に触れて、俺を抱きしめて、雫を飲ましてくれな。』って。」
 
私がヒビキさんの力を借りて、蒼輝に触れた事も、私の体が蒼輝と同じで動かない事も、蒼輝はきっと気付いてる。
 
「そう・・・だよね?」
 
とヒビキさんに聞く私に、「俺もそう思うよ。」とヒビキさんも答えてくれた。
 
「じゃなきゃ、翠ちゃんを『縛れ』なんて言わないだろ?
きっと、アイツには翠ちゃんのわずかな変化もわかるんだろうな。
ホント、二人は不思議だね。」
 
そういってヒビキさんは、笑う。
そして、部屋に着いた私を、待っていてくれたのは、ランさん。
 
「忘れないうちに、これを渡しておきます。」
 
と小さな玉を、袋に入れて持たせてくれた。
 
「それじゃあ、俺は司令塔室にいるから、準備ができたら、俺を呼んで。
トーワと迎えにくるから。」
 
ヒビキさんは、ランさんにそういうと、部屋から出て行こうとして、何かを思い出したのか、振り返って私を見る。
 
「原石の洞窟の鍵を開けれるのも、中に入れるのも、女豹だけなんだ。
つまり、翠ちゃんがその体で、洞窟にある扉を2つ開けて・・・ってしないといけない。
その動かない体じゃ、大変だろう。
ハッキリとはいえないんだけど、ダメもとで試してほしい事があるんだ。」
 
というヒビキさんに、私は「何?」と聞いてみた。
 
「翠ちゃんにも、王としての特殊な能力があるはずなんだ。
確信はないけど、もしかしたら『強く念じれば、思い通りになる力』じゃないかと思ってね。」
 
首をかしげる私に、ヒビキさんは答える。
 
「いくらここが念じる世界だといっても、元の世界に戻ってしまった時といい、こっちに戻って来た時に場所を指定したりって・・・。
念じる力が、普通より強い気がするんだ。
俺の聞こえる翠ちゃんの心の声も、翠ちゃんが強く思ったら、物凄く鮮明に聞こえるからね。
だから、洞窟に着いて、体が思うように動かなければ、動くように念じてみて。
だけど、一つ注意ね。
それをするって事は、能力を使う事だから、あとで、体に負担がかかってくる可能性が高い。
今の状況でこれ以上負担がかかれば、本当に命が危ない。
だから、それを念じて、本当に体が動いて雫を手に入れたら、少しでも早く雫を飲むんだ。
わかったね。」
 
ヒビキさんの言葉に、私は深くうなずいた。
それを見届けたヒビキさんは、私の行動を信じて、扉を閉めた。
私は、必死で隠した。
本当は心の中で思っている『ある事』がばれないように。
雫を手に入れたら、飲むか・・・飲まないか。
それは、雫次第。
私が決めた条件を満たしていたら飲むけど、満たしていない時は・・・。
その時、私はランさんに呼ばれる。
ランさんに手伝ってもらいながら、私は洞窟へいくために、暖かな格好をする。
この服を着ると、気分がシャキっとなる。
よしっ!頑張るぞ!
改めて、自分の気持ちに気合いが入った瞬間だった。
 
      ☆☆☆ 5章 END ☆☆☆



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