玉のエレベーターを使って、私はヒビキさんに抱きかかえられた状態で、村まで降りた。
そこには、すでに豹の姿になって、私たちを待っているトーワくんの姿があった。
「トーワ。こっちに来て、しゃがんで。」
ヒビキさんの言葉にトーワくんは素直に、「はぁーい。」とお返事すると、私たちの目の前まで来て、体勢を低くする。
そのトーワくんの背中に私を乗せると、ヒビキさんはポケットからしっかりとした紐を取り出す。
そして、私の両手をトーワくんの首にからめると、両手首を紐で結んだ。
「これで、絶対にトーワから離れる事はないから。」
ヒビキさんは私にそういうと、今度はトーワくんの顔を体勢を低くしてシッカリと見る。
「いいか、トーワ。
翠ちゃんは体に全く力が入らない。
指先だって、自分で動かす事ができないんだ。
くれぐれも、翠ちゃんを落とさないように気をつけて走れ。」
いつになく真剣なヒビキさんの言い方にトーワくんも、「うん。」と深くうなずいて、真剣に聞いていた。
「ねぇー、でも、もしジキルたちに逢っちゃったら、どーしたらいいのぉ?」
かなり不安そうに聞くトーワくんに、ヒビキさんは、「そうだな〜。」とノンキに答える。
「そんな事言わないでぇー。
ちゃんと、答えてよぉー。
ねぇー、ねぇー。」
と自分の頭で、ヒビキさんの胸を何度もつつくトーワくん。
「わかった、わかった。」と降参のヒビキさんは、笑いながら、「とにかく走れ。」と口にする。
その言葉に反応したトーワくんは、頭突きを止めてヒビキさんを、ジッと見る。
「洞窟に向かって走ってもいいし、無理なら緑豹国に戻ってきてもいい。
俺も玉を見て、気をつけておくよ。
もしもの時は、俺もそっちに行くから。」
ヒビキさんは、そういうと、「だけど、まぁー、心配はないだろうけど。」と添える。
思わず、「何で?」と聞く私にヒビキさんは、
「今の時間帯の森は、温度が低すぎて、純粋な人間には、耐え切れない。
さすがのアイツらも、命の危険をおかしてまで、俺たちを捕まえようとはしないだろう。
寒さで体が動かないアイツらと違って、俺たちはこれくらいなら普通に動けるからね。
わざわざ自分たちが不利になる時間に、攻めてはこないと思うよ。」
それを聞いて、素直に「よかった。」と口にした私。
あからさまにホッとする私に、ヒビキさんは少し笑うと、空を見上げた。
「もうじき、12時半くらいか・・・。」
ヒビキさんの言葉に私は、「えっ?もう、そんな時間?」と驚く。
そんな私を、ヒビキさんはジッと見る。
「蒼輝の事は、俺たちに任して、翠ちゃんは自分の事を考えるんだ。
くれぐれも危険な事はしないように。
いいね。」
私は、「はい。」と言いながらうなずくと、トーワくんに「いこっか。」と声をかけた。
「はぁーい!」といいお返事をしたトーワくんは、
「それじゃぁ、ヒビキー!
行ってくるねぇー!!」
と元気に答えると、ユックリと森に向かって足を走らせた。
トーワくんは、私の体を気づかってくれて、ユックリユックリ走ってくれた。
だから、洞窟に着いた頃は、すでに3時を過ぎていた。
トーワくんは、早速体勢を崩して、私を自分の背中から降ろすと、人間の姿に戻り、私の手首に巻かれていた紐を取ってくれた。
「翠ちゅぁ〜ん。動けるぅ〜?」
「うん・・・大丈夫。」
と強がって見ても、無理なもんは無理。
腕を動かして、ほふく前進でも何でもして、前に進もうとしても、指先すらも動かないんだから、腕だって動かない。
こうなったら、仕方ない。
私は出発前に、ヒビキさんに教えられた事を、ダメもとで、試してみる事にした。
「トーワくん。私の右手にこの緑の玉を握らせて、右手の上に包み込むように左手を置いて握らせてくれない?」
私のお願いにトーワくんは、「はぁ〜い!!」とお返事をすると、私の注文通りにしてくれた。
「ありがと。」とトーワくんにお礼を言って、私は目をつぶって気持ちを、玉に集中させた。
「虹の雫を採って、4時までに緑豹国に戻りたい。
だから、緑豹国に戻るまでの間だけでいいから、私の体を健康な状態に戻して。
お願いします。」
私は何度も何度もそう玉に向かってとなえた。
すると、だんだん体に流れていた血液が暖かくなってくるような感覚にみまわれた。
もしかして!と思った私は、自分の指先に力を入れてみた。
さっきまで、どれだけ頑張っても、ホンの少ししか動かなかった指先が今は、普通に動いていた。
腕を上げたり、足に力を入れたり出来た。
私は、ユックリと立ち上がった。
「翠ちゅぁ〜ん!!体・・・治ったのぉ?」
と口をぽかーんと開けて私を見ながら、トーワくんはそう口にする。
私の願いが叶ったんだ!
だけど、ヒビキさんが言ったように、これは緑の力を使っている。
つまり、姿は人間だけど、私は豹の姿に変身した状態で、王だけに与えられる『特別な能力』を使っている事になる。
体の負担は思っていたより大きかった。
体は動くけど、指先から力が吸い取られているような感じ。
胸だって何かに押しつぶされているような感じの息苦しさ。
これは、そんなに長くは持たない。と、悟った私は、さっさと済ませることにした。
「トーワくんは、そこのツララの前に居て。」
私はトーワくんにそう指示すると、自分は洞窟の入り口の前に立った。
一年前と同じように入り口の穴に、右手を入れて「開け」と念じた。
すると、固く閉ざされていた鍵が、鈍い音を立てて開いた。
私はドアノブに手をかけると、扉を開けて中に入る。
そして、また次の扉の鍵を同じように解除して、原石のある部屋まで入った。
あの時と同じように、一番小さい原石を運んで、2つの扉の前に置いた。
そして、二つの扉を開け放した状態にした時、外からの月明かりが原石の部屋へと注ぎ込んできた。
だけど、あの時と違って、注がれている月明かりは、とても細くて弱い光だった。
私は、腕時計に目をやる。
3時半を過ぎていた。
もう時期、夜が明ける。
満月の力が衰えてきた証拠だ。
果たして、虹の雫は??
私は、扉のわずかな隙間を通って、洞窟の外に飛び出た。
「トーワくん!七色に光っているツララある?」
トーワくんは、一生懸命ジャンプをして奥の方まで、ツララを見るけど・・・。
「ないよぉ〜。」
と半泣きで叫ぶ。
「うそ・・・でしょ。」
私は力なくその場にペタンと座る。
ここまで来て、虹の雫がないなんて・・・。
あれしか、蒼輝を救うすべは、なかったのに。
もう・・・私たちにはどうする事もできない。
彼の死が止められないのなら・・・せめて、彼の最後を看取りたい。
今から急げば、間に合う。
私は、力が抜けた足に必死で力を入れると、その場に立ち上がる。
「トーワくん・・・もう、諦めよ。
緑豹国に帰ろう。」
そういってトーワくんの元へ行こうとした時だった。
「あー!!あった・・・あったよ!!」
トーワくんの叫び声に私は、思わず叫んでしまう。
「うそっ!どこ?どこ?」
って。
すると、トーワくんは「えいっ!」と言って、豹の姿に変身すると、高くジャンプして、洞窟の上のさらに奥のほうまで進んで行った。
そして、しばらくして戻ってきたトーワくんの口には、七色に光っているツララが加えてあった。
私は、それをつかむ。
そして、ポケットからランさんにもらった、保存する為の玉を出すけど、玉に入れる方法を知らない私は、「トーワくん、できる?」とトーワくんにツララも玉も差し出してしまう。
「うん!わかるよぉ〜。ちょっと、待ってねぇー。」
と笑顔でトーワくんは答えると、また人間の姿に戻り、私の手からまず玉を受け取る。
そして、「大きく開〜け」と口にして念じて、玉を大きく開けた。
「そのツララも念じたら、いいのぉ〜?」
と受け取りながら、聞いてくるトーワくんに私は「うん。」と答える。
「ほぉーい!」と返事をしたトーワくんは、「雫ちゃん、出てこぉ〜い!!」とふざけた念じ方をした。
ホントに大丈夫かな?と心配したけど、ちゃんと雫は出てきた。
だけど・・・。
「あれぇ?これだけぇ〜??」
トーワくんはたまらず、持っていたツララを「えいえいっ!」と言いながら何回も振るけど、雫はそれ以上は出てこなかった。
「ねぇー、トーワくん!
他にも、七色に光るツララは・・・なかった?」
一応のために聞いてみるけど、トーワくんは首をブンブンと振る。
「奥の方もね、見てきたけど、これしかなかったんだぁ〜。
これじゃぁー、そぉーき元気にならないのぉ〜?」
なんて言って涙ぐんじゃってるし。
今出てきた雫は、たったの4滴。
これを蒼輝が言ったように私が、この場で半分の2滴を飲めば、蒼輝が飲めるのも私と一緒で2滴。
前に私が、ここで初めて飲んだのが確か3滴だった。
今の蒼輝や私の状態に比べたら、あの時の私なんて、すごく元気だった。
だけど、そんな私でも3滴で丁度いいか、少し多いかくらいだったんだよ。
瀕死の状態の蒼輝にそれよりも少ない2滴の雫で、足りるわけがない。
今、ここで私が半分・・・飲むわけにはいかない。
「思っていた通りだったな。」
ボソっと言う私に、トーワくんは玉を閉めながら、「なぁ〜に?」と聞いてくる。
私は、笑顔で「ううん。何でもないよ。」と答えると、
「4滴あれば、蒼輝は助かる。
だから、あとは4時までに戻らなきゃ。
あと、20分くらいしかないよ!
トーワくん、頑張ってね。」
とトーワくんにエールを送る。
「はぁーい!」と手を上げてお返事したトーワくんは、「これ、翠ちゃんにあげる!」と言って私に雫の入った玉を渡してくれた。
私は、それを大切にポケットの奥へとしまいこんだ。
「ねぇーねぇー、翠ちゃん!
また、手を紐でくっつけた方がいいの?」
と聞きながら、両手に紐を持っているトーワくん。
一応、してもらっていた方が楽かな?と思った私は、
「うん。お願い。」
と両手をトーワくんの前に出す。
「あ〜い。」と答えながら、トーワくんは私の両手を縛る。
そして、自分はまた豹の姿になると、その両手の間から、うまい具合に自分の頭を、ニョキって出すと、そのまま体をうまく使って私を背中の上に乗せてくれた。
「じゃー、いくねぇー。」
と言ったトーワくんに私は慌てて注文を出す。
「トーワくん、スピード思いっきり出していいから。」
それには、トーワくんは「えっ?いいのぉ〜?」と驚きながら振り返る。
「うん。振り落とされないと思うから、出してみて。
絶対に、4時までに城に戻って!
トーワくんになら、できるよね。」
「でもぉ〜・・・ホントにホントに・・・いいのぉ?」
と確認してくるトーワくんに、私は「大丈夫。」と笑顔で答えた。
「そういえばね、ヒビキが言ってたよ!
雫が手に入ったら、半分を翠ちゃんに飲ませろ!って。
絶対、絶対・・・飲ませろ!って。
翠ちゃん・・・飲んでないよねぇ〜?
飲まなくていいのぉ?
ヒビキに僕、怒られないかなぁ〜?」
また、涙ぐんじゃっているトーワくんが、なんだかかわいく思えてきた私。
とても心が優しいトーワくんに、私は心が洗われるようだった。
「見ての通り、元気なんだから、雫飲まなくても大丈夫!
もう、治ったの!
それより、蒼輝を助けなきゃ!ねっ。」
私の元気な姿と笑顔で安心したトーワくんは、私の言葉を信じた。
「うん。わかった〜!じゃぁ、いっぱいいっぱいスピード出すねっ!」
そう言ってトーワくんは、走り出すなり信じられないくらいのスピードで森を走り抜けた。
景色なんてもちろんみれないし、風が通り過ぎる音すらも耳が痛くて聞けないくらい。
何より、冷たい風が頬を切るように鋭く襲ってくる痛みに耐えるのに必死だった。
あとは・・・さっきから、襲ってくる胸を切り裂くような痛み。
時間が経つに連れて呼吸すらも辛くなってきた。
意識が、遠のく・・・。
そんな中、私は心の中でトーワくんと、ヒビキさんに謝っていた。
トーワくん・・・元気になっただなんて、嘘言ってごめんねって。
それと、ヒビキさん・・・。
あれだけヒビキさんに言われたのに、また言いつけを守らなかった。
自分の命よりも、蒼輝の命を優先にしてしまった私を、許して。
でも、きっとヒビキさんはわかっていたんだろうな。
私が、取れる雫の量で飲まないかもしれないって。
だから、トーワくんに、私に雫を飲ませるように言ってたんだ。
あの時・・・。
蒼輝に、半分飲むように言われた時、私は自分にある『条件』を出した。
蒼輝に自分が飲んだ3滴以上は飲ませたい。
だから、蒼輝が3滴以上飲めない状況の時は、私は飲まない!って。
そして、取れた雫は4滴。
それで、私は、飲まなかった。
運がいい事に、今の私は王の力のせいかはわからないけど、願いが叶って、トーワくんのこの尋常でないスピードにも、耐えられるくらいの強い体を手に入れてる。
それは、祈った通り、緑豹国につけば、解けてしまう魔法なのかもしれない。
そのあと、私の命は消えてしまうだろう。
だけど、それでいいと思った。
私がこの世界に来た理由はわからない。
ここで、死んでしまえば、私はもう元の世界にも戻れず消えてしまうかもしれない。
だけど、私は、ここで何度も命を失いかけた。
それを救ってくれたのは蒼輝だった。
だから、彼の命を救えるなら、私が尽きる事は仕方のないことなんだと、信じられないけど、本当にそう思っていた。
もう、ほとんど意識がなくなり、さっきまで熱く通っていた私の血液も今は冷たく感じた頃、トーワくんの動きが止まった。
「翠ちゅぁ〜ん、着いたよ!!」
お城の玄関で、トーワくんは私を降ろしてくれる。
私は、その場でそのまま倒れた。
「翠ちゅぁ〜ん!!どうしたの!!」
人間の姿に戻って私を、抱き上げようとしたトーワくんに、私は意識がモウロウとしている中必死で話しかけた。
「ポケット・・・雫を取って。」
もう、指先だって動かない。
言葉を言うのだって、もうこれ以上は無理。
だから、お願い、トーワくん!
これで、理解して。
その願いが通じたのかはわからない。
だけど、トーワくんは抱き上げようとしていた私から手を離すと、私のポケットに手を突っ込み玉を取り出した。
「じゃぁー、僕、そうぉーきの所に、これを持っていってくるねぇー。」
そして、豹に変身すると、階段をすごい勢いで登って行った。
これで、蒼輝は・・・助かる。
私は、自分がこんな状況のくせに、嬉しくて笑ってしまう。
だけど、体の体温がどんどん下がってきて、さっきまで高熱で熱かった体が、今はガタガタ震えるくらい寒くて仕方なかった。
その時、私の体に暖かい物が触れた。
それは、私を包み込むように抱きしめてくれていた。
だけど、体の感覚すらも、麻痺している私には、それが何なのかわからなかった。
目を開けてみているけど、もう焦点だって合わない。
一体誰なのか・・・認識ができなかった。
「翠!しっかりしろ!」
その声で、誰かわかった。
「サ・・・ガ・・・・・」
私は必死の思いで彼の名前を呼んだ。
サンガ・・・。
彼は、私が蒼輝に、あーしてほしい、こーしてほしい。って思った時にいつも代わりにしてくれる。
今も、心の中で、蒼輝に抱きしめてもらって、蒼輝の腕の中で死ねたら・・・って思ってた。
いつも、私の事を支えてくれていたサンガなのに、私はいつもあなたを蒼輝の身代わりに思っていたよね・・・。
「ご・・・・め・・んね。」
「何、謝ってんだよ。
それより、蒼輝に・・・逢いたいだろ。
アイツの所に、連れて行ってやるよ。」
そういったサンガの声が、少し涙ぐんでる気がした。
目は見えないし、意識だってモウロウとしているので、わからない。
だけど、耳だけはよく聞こえた。
これも、混血人間のせいかな?と思ってしまう。
「翠さん!お願い、死なないで下さい。」
サンガとは違う方向から、もう一つ声がした。
これは、ランさん!
私は、ランさんの方に首を向ける。
彼女の顔を見ることも出来なかったけど、そこに彼女が居る事は何となく感じる事が出来た。
「ラン・・・さん。
また・・・ヒビキさん・・・・怒られちゃう。
謝って・・・おいて。」
「翠さん・・・。」
ランさんは、そのあと声を上げて泣いた。
私は息がしずらくなって、ひどく咳き込んだ。
もう・・・そろそろかな?
私がそう諦めた時、私の耳に聞き覚えのある『音』が聞こえた。
声じゃなくて、『音』なんだけど、聞いてるだけで、冷たくなった私の体も心も温かくなるような・・・そんな音。
これは!!
「そ・・・き。」
私は目を開けて、階段を見る。
必死で焦点を合わせて何とか見ようと頑張る。
私の言葉と態度で、サンガもランさんも階段を見る。
「翠・・・蒼輝は、いないよ。」
私が蒼輝の幻をみて、彼の名前を呼んだと思ったサンガは、悲しそうな声でそういうと、私を強く抱きしめる。
だけど、私は首を振って、「ち・・・がう。」と抵抗する。
「くる・・・そ・・・き。」
「だから。」
と言いかけたサンガに、ランさんが、「待って下さい!」と声を上げる。
「ん?」と言いながら、サンガはランさんを見る。
「音が・・・聞こえます。」
ランさんの言葉に、「音?」とサンガは顔を曇らす。
彼も耳をすませて聞いてみるけど、また緑豹国の人間としての力に慣れていない彼には、わからなかった。
「一体、何なんだよ!」
とランさんに突っかかるサンガに彼女は、階段を見る。
「今、司令塔室を過ぎました。」
「えっ?」とさらに聞くサンガに、
「蒼輝さまがこちらに向かって来てます。」
それを聞いてサンガは、私に目を向ける。
音は聞こえるけど、もう階段を見る力もなくなった私は、サンガの腕に抱かれて、グッタリとしていた。
そんな私の髪を優しくなでながら、サンガは「マジかよ。」とつぶやく。
「ここから、蒼輝の部屋までどれだけ距離があると思ってんだ。
だけど、翠には蒼輝の走る足音が聞こえたって・・・事?」
それには、ランさんも、「ホント、ありえない事です。」と、首を振る。
その時、蒼輝が階段を降りてくる音が大きく聞こえた。
振り向いたサンガの目の前に、蒼輝の姿が確認できた。
「もう、翠はダメだ。
最後に何か言ってやれ。」
そう叫ぶサンガには、答えずに蒼輝はただ黙ったまま、私に向かって走ってくる。
「おいっ!蒼輝!聞いてるのか?」
だけど、蒼輝は何も答えずに、サンガから私を抱き取ると、私の顔に触れる。
何も言わない蒼輝に、怒ったサンガは「何なんだよ!」と蒼輝の腕をつかみとり、彼を自分の方に向けた。
「翠は、もう耳しか聞こえないんだよ。
だから、声を聞かせてやれっ!って言ってるんだ。
なんで、何も言わないんだよ!」
それでも、口を開かない蒼輝に、ランさんは「もしかして。」とつぶやく。
彼女の言葉に、「ああ?」と怒りを今度はランさんにぶつけるサンガだけど、そのサンガを蒼輝が思いっきり右手で押して、サンガを遠くに押しやった。
「いってぇーな。なんだよ!」
と蒼輝につっかっかるサンガを、ランさんが腕をつかんで止める。
「待って下さい。」
あまりに真剣に止めるランさんに、サンガも言い返せなくなって、その場で私たちを見守っていた。
蒼輝はというと、私の顔に触れていた手を唇に移動させると、私の口を開けた。
そして、私に口づけをした。
「なっ!!」
と叫んで、走りだしそうになるサンガを、「いいから!」と必死で抑えているランさん。
そんなランさんの苦労も、蒼輝にキスをされている事も全く知らない私は、遠ざかる意識の中、無意識に2回何かを飲み込んだ。
蒼輝の口から押し込まれた何かを飲み込んだ私。
それは、何だったのかはわからない。
だけど、さっきまで遠ざかっていた意識が戻ってきて、目の前に広がる景色も普通に認識できた。
「蒼輝・・・。」
目の前にある、蒼輝の顔に私は思わずそういってしまう。
私の姿に、「何とか間に合ったな。」とホッとしながら笑顔で口にする彼を見て、私は一体何が起ったのか、理解できなかった。
「一体・・・どうしたの?」
と蒼輝に聞く私に彼は、「体を動かしてみろ。」と私に言ってくる。
私は、言われるがまま体を動かす。
指先はもちろん、腕だって上がるし、体だって起き上がる事が出来た。
「なんで・・・。」
と間抜けな顔の私を、蒼輝は自分の体から離すと、私を自分の正面に座らせた。
そして、まず、私の左頬を叩いた。
「お、おいっ!何やってんだよ!!」
と突っかかるサンガをある人が止める。
「ヒビキ・・・放せ!」
と彼に迫るサンガに、「今は黙ってみてよう。」とサンガを諭す。
一方、いきなり蒼輝に叩かれた私は、熱くなっている左頬を抑えながら、蒼輝を見る。
彼の目を見れば、どうして叩かれたか。
どうして、彼が怒っているのか、いやっていう程わかった。
私は、彼から目をそらして下を向く。
そして、素直に「ごめんなさい。」と謝る。
私は蒼輝に言われたことを守らなかった。
彼が怒っても無理はない。
約束を守らない私を、彼はきっと嫌いになったかもしれない。
彼に嫌われる事。
それが、私にとって一番恐い事だから。
たまらず涙が出てきてしまう。
その姿に蒼輝は、深いため息を一回つくと、「翠はわかってないな。」と口にする。
「えっ?」と思わず顔を上げて、涙でいっぱいの瞳で、蒼輝を見る。
すると、蒼輝は、両手で私の顔をサンドすると、自分の顔を近づけてくる。
「約束を守らなかったから、怒ったんじゃない。
命が危険になると、ヒビキに言われていたのに、『力』を使って、ここに短時間で帰ってきただろ。
雫を飲まなかったのにも、正直怒ってるけど、飲まないならなんで、『力』を使って短時間で戻ってきた。
そんな事をしたら、死んでしまうのは、わかっていたはずだ。
そんなに、死にたいのか!」
「死にたいなんて・・・。
そんなわけないじゃない!!」
思わず言い返してしまう私に、
「だったら、命を縮めるようなことをするな!」
と蒼輝は怒鳴る。
ビックリして首をすくめる私を、蒼輝は優しく抱きしめてくれる。
「翠の命と引き換えに助かって、俺が喜ぶと思うか?」
耳元で囁いた彼の声の力のなさに、私は彼が本当に心配してくれていた事を実感した。
「ごめんなさい。」
命を粗末にした事を本当に心からいけなかったと反省した私は、泣きながらそう口にした。
その言葉に、蒼輝は私の頭を優しくなでると、「けど・・・。」と口にして、私を自分から離すと、私の顔をのぞきこむ。
「あの虹の雫の力って、ホントすごいよな。」
と笑顔でそういう。
そう言われて気付いた。
「蒼輝!体は?平気なの?」
すると、蒼輝は、「見ての通り。」と言って、
「体中、筋肉痛みたいにだるくて、少し痛かったりするけど、初めの変身の時ほどひどくないし、全然平気。」
ととても笑顔で笑ってる。
だけど・・・。
「さっき、私が飲んだのって・・・虹の雫じゃないの?
私に、何滴くれたの?」
「ハッキリとはわかんないけど、半分かな?
だから、2滴くらい。」
その言葉に、ちょっと疑問を感じてしまう。
「ハッキリわからないって・・・なんで?
玉から出すとき、『1滴分出ろ』とかって言えばわかるでしょ?」
すると、蒼輝は「お前、覚えてないんだ。」とかなり意味ありげな笑みを浮かべる。
何・・・。
一体何なの?
すっごい恐いんだけど・・・。
恐る恐る聞いてみる。
「な・・・に?」
って。
すると、蒼輝は、
「トーワのやつ、一気に全部俺の口の中に雫を入れやがってさ。
ヒビキから、事前に翠がヤバイってのは、聞いていたから2滴だけ、口に入れろって言ったのにさ。
だから、適当に半分だけ飲み込んで、残りは翠の口に入れたの。
なんで、ハッキリとはわかんねぇー。」
そこまで聞いて、「ち、ちょっと待ってよ!!」と叫んでしまう。
かなり取り乱している私とは違って、落ち着き払った様子で、「ん?」と聞いてくる蒼輝。
今の話からすると、もしかして・・・。
「私・・・その・・・・。
口移しで、雫を飲んだの?」
恥ずかしくて、すっごい小声で聞いてしまう私。
だけど、蒼輝は、「うん。」と普通に答えてるし。
「えぇ〜!!」
と絶叫!
だけど、それには、蒼輝が逆ギレ。
「死にそうだったくせに、文句をいうなっ!」
って。
「それは・・・そうだけど・・・。」とブツブツいう私。
だってさ、口移しってことは、その・・・蒼輝とキスしたって事だよね?
なのに、私ったら・・・全く覚えてないんだよぉ〜!!
こんな大事な事・・・。
されて嫌だ!っていう絶叫じゃなくて・・・覚えてない事に絶叫だよ。
「はぁー。」とたまらず、深いため息をついちゃう私。
それには、少しショックだったみたいで、
「なんだよ。そんなに嫌がらなくてもいいだろ・・・。」
とすねた口調で言う蒼輝。
「えっ?」と言って彼を見て・・・気付いた。
「違うよ!」
と両手を振って、必死で否定する私。
「そうじゃなくて、覚えてない自分にショックを受けてるの!
蒼輝の感触も、覚えてない自分が許せなくて・・・。」
と口にした私に、「感触ぅ〜?」という甲高い声が耳に入る。
見ると、蒼輝の部屋から降りてきたトーワくんが、私たちの会話にくいついてきた。
「ねぇーねぇー、感触って何の感触?
ねぇー、ねぇー。」
と私に抱きついて聞こうとするトーワくんを、蒼輝が腕をつかんで、サンガに向かって投げ飛ばす。
「いったぁ〜い!!」
と泣き顔になるトーワくんに、サンガはトーワくんを抱きかかえながら、
「聞かない方がいいぞ。
俺ですら、蒼輝にムカついて殴りたいんだからな。
お前が知ったら、きっと・・・。」
「きっと・・・なぁ〜に??」
サンガを見上げて、目をクルクルさせて聞くトーワくんに、サンガはこう言った。
「ビックリとショックで、失神してしまうぞ!」
って。
それを聞いたトーワくんは、「えぇー!!」と叫んだあと、「じゃぁー、僕聞ーかないっ!」と両耳を塞いで、自分の部屋に走って逃げて行った。
「あれで、俺より年上ってのが・・・ホント信じられないよ。」
と笑いながらトーワくんを見ているサンガに、思わず聞いてしまう私。
「サンガ・・・いくつなの?」
それには、さらっと答える。
「蒼輝と一緒で、21歳。」
うそっ!
絶対、ヒビキさんくらいいってると思ってたんだけど・・・。
この落ち着きと、知識の多さ・・・ホント見えないよ。
そして、蒼輝に目を向ける。
私の視線を感じた蒼輝は、私を見て「なんだよ。」と言う。
すぐ、喧嘩ごしで物をいう蒼輝に、サンガよりも少し子供っぽさを感じてしまう私。
だけど、言えなくて、「何もないよ。」と答える。
「嘘つけ!サンガより蒼輝は子供っぽいわ。とか思ってんだろ。」
そう言われて返事に困る私に蒼輝は、「まっ、いいや。」と笑いながらいうと、私を自分の方に引き寄せて、力強く抱きしめた。
「サンガよりも・・・ヒビキよりも、誰よりも子供でガキでいいや。」
彼に抱きしめられながら、「なんで?」と聞き返してしまう。
「だって、『大人』になるとさ、色々考えちまって、心のままに動けなかったりするだろ?
だから、俺は『ガキ』でいいの。
『大人』には出来ないやりかたで、翠を想う。」
そして、今度は私の耳元に口元を当てて、囁くようにつぶやいた。
「俺の感触なんて、これからたっぷり、感じさせてやるから、そうガッカリするなよ。」
その言葉に、私はビックリして蒼輝から、顔を思いっきり離す。
今・・・蒼輝、何言った?
すごい事・・・言わなかった?
最近、時々思うのよね。
確か蒼輝って、人嫌いで女性とも交わりがなかったって、ヒビキさん言ってなかったっけ?
なんだけど、女性にすごく慣れているような気がする。
それに、時々ビックリするような言葉を言って来たりするし・・・。
こっちが驚いちゃうよ。
かなり、頭がパニックの私を、蒼輝は笑いながらまた優しく抱きしめる。
そして、今度は私の頭を優しく何度もなでながら、
「ホント・・・無事でよかったよ。」
とつぶやいた。
その言葉は深くて重くて、彼が心から言っている言葉だとわかった。
それは、私の心を穏やかにしてくれて、暖かくしてくれた。
私は素直に、「うん。」と頷いて答えた。
「そうだ!翠、お前は体・・・どうだ?」
その言葉に私は自分の手を動かして、蒼輝の頬に触れる。
「ちゃんと、自分の力で蒼輝に触れられるよ。」
と笑顔で答える私に、蒼輝は嬉しそうに笑うと、自分の顔を私の頬にくっつけてきた。
私も蒼輝と一緒で、体全体がだるくて痛い。
ホント、体中が筋肉痛になってる感じ。
だけど、指先も動かなかった、さっきの時に比べると全然へっちゃら。
もう少し雫を飲めば、すっかり治ったのかもしれないけど、2滴でここまで治るのもすごいとホント感心してしまった。
「翠・・・お前、まだ熱あるんじゃないのか?」
そう言われて私は自分の頬に触れてみる。
確かに・・・熱い。
「そういえば・・・頭がボーっとしてるかも。」
と答えた私に蒼輝は、「ノンキなやつだな。」と呆れるものの、
「熱は、休めば治るだろう。」
と言いながら、私を抱き上げて、立ち上がる。
「なっ、なに?」と驚く私に、
「部屋まで運んでやる。
ちょっと、休め。」
と蒼輝は言って、
「じゃ、こいつ、部屋まで連れて行ってくるわ。」
とヒビキさんに言う。
「ああ、わかった。
翠ちゃん、ユックリ休むんだよ。」
ヒビキさんの言葉に私は「はい。」と答えて、そこをあとにした。
階段を登りながら、私は蒼輝に話しかけた。
「何?」と聞く蒼輝に、
「お願いがあるの。」
と口にした。
「ん?」とさらに聞いてくる蒼輝に私は、
「蒼輝の部屋に行きたい。」
とおねだりする。
「何で?」と追求してくる蒼輝に、
「あそこの窓から、緑豹国が見渡せるでしょ?
街を見ていると、ホッとするから。」
と答えてさらに、「ダメ・・・かな?」と聞いてみる。
心配そうに聞く私の姿に蒼輝は、声を出して笑うと、「いいよ、わかった。」と答えて、途中から蒼輝の部屋の方へと足を向けた。
部屋に着くと、蒼輝はそのまま寝室まで私を抱いたまま行き、私をベッドに降ろそうとする。
「窓際がいい。」
と注文を出す私に、「ホント、わがままだな。」と笑いながら蒼輝は意地悪を言う。
だけど、素直に私を窓際まで連れて行ってくれて、私を降ろした。
「何か、暖かい物でも持ってくるよ。」
蒼輝はそういいながら、ベッドから毛布を抜き取ると、私の頭の上からかぶせてくれた。
毛布に包まりながら、私は夜が明ける街を見ていた。
時計を見る。
今は5時過ぎ。
だけど、チラホラ街に明かりがつき出した。
ここから、蒼輝の実家も見える。
あそこで、私は一年前に蒼輝と再会したんだ。
悲しい再会だったけど、今はこうして一緒に居られる。
なんか、嬉しくて思わず顔がにやけてしまう。
「街を見て笑うやつなんて、初めてみたな。」
後ろで声がして私は振り返る。
すると、そこにはカップを二つ持った蒼輝がしゃがんでいた。
「はい。熱いからな。」
蒼輝は、私にカップを一つ渡すと、自分のカップはベッドの近くのテーブルに置いた。
「蒼輝は・・・飲まないの?」
それには、「気が変わった。」と笑いながらいうと、蒼輝は私を後ろから抱きしめて、座る。
突然でビックリした私は、思わずカップを落としそうになって、あせる。
「もうっ!急に何するのよ!!」
と怒る私に蒼輝は、おもしろそうに笑いながら、私の右肩に自分の顔を置いて、私の頭と自分の頭をゴツンと合わせる。
「こうしてると・・・落ち着く。」
とつぶやく蒼輝に、「私は落ち着かないよ。」とすねた口調で言い返す私。
「なんで?」と聞いてくる蒼輝に、
「だって、ドキドキして・・・お茶も飲めないよ。」
と愚痴る私に蒼輝は、「アハハ。」とバカ笑いをする。
そんなに笑わなくてもいいじゃない。っていうか・・・。
「蒼輝も、ヒビキさんと一緒で、一回笑ったら止まらないタイプ?」
と聞いてしまう。
それには、さらにウケたみたいで、蒼輝はさっきよりもさらに笑ってる。
何言ってもダメだと諦めた私は、ドキドキしながらもお茶を飲むことに。
だけど、蒼輝が笑ってるから、その振動が体を通して私の腕を揺らすから飲めない。
「もうっ!」
と怒る私に蒼輝は、笑いを堪えながら、「飲めないなら、飲ませてやろっか?」と私に顔を近づけてくる。
それには、さすがに顔が真っ赤になっちゃう私。
「からかわないでよ!」
だけど、蒼輝は「さっきもしただろ?」と笑ってる。
そういわれたら・・・そうだった。
だけど、私には記憶がない。
キスだって、まだ蒼輝としてないのに・・・なんで、いえば記念すべき事だったのに、覚えてないのよ!!
またしても、自分を責めてしまう私に、蒼輝は「な〜。」と声をかけてくる。
「何?」
と答える私に、
「バリアーを張る前に俺が言った言葉覚えてる?」
「こと・・・ば??」
初めは何の事がわからなくて、首をかしげた私だったけど、あの時のことを思い出して・・・彼の言っている『言葉』を思い出した!
ひずみが出来た時、私たちはここで、キスをする所だったんだ。
それを邪魔されて、全てが終わったら、続きをしよう。と蒼輝が言っていた。
って事は・・・。
「蒼輝・・・。」
私は彼の名前を呼んで彼を見つめる。
私が気付いた事がわかった蒼輝は、私の手からカップを取ると、近くの床に置く。
そして、私の髪に優しく触れて・・・私の顔に触れる。
「翠・・・。」
そして、あの時と同じ。
彼の顔が近付いてくる。
私はまた目をつぶる。
今度は彼の感触を覚えておかなきゃ!
ドキドキしながら待つ私の耳に、蒼輝のため息が聞こえた。
私は、驚いて目を開ける。
ひずみの時と一緒くらいの近さに蒼輝の顔はあった。
だけど、彼はそこで止まってる。
今度は、何も爆発してないよね?
「どうしたの?」
と聞く私に、
「またしても、邪魔だ。」
と言う。
「えっ?」
と私が聞き返した時だった。
「そぉ〜きぃ!ねぇー!いるぅ?」
とリビングから声が聞こえた。
「トーワ・・・くん?」
と聞く私に蒼輝は私から手を放すと、
「俺たち・・・いつになったら、キスできるんだ?」
と力なく言ってさらに、「はぁー。」とまたため息をついて立ち上がる。
その姿が、なんかおかしくて私は笑っちゃう。
「笑い事じゃ、ないだろ!」
と突っかかってくる蒼輝を、丁度寝室のドアを開けたトーワくんが発見する。
「あー!そぉーき、めっけぇー!!」
指をさされて、その指を思いっきりはたく蒼輝。
「たくっ!何なんだよ。」
と頭ごなしにつっかかるけど、トーワくんは「すごいんだぞぉー!!」と胸を張る。
「あのねぇー、本に文字が出たんだよぉー!!」
それには、蒼輝も私も言っちゃう。
「うそっ!!」って。
私も蒼輝も、大急ぎで司令塔室に向かった。
そこには、もうみんな揃っていた。
「文字が出たって・・・ホントか?」
席に着くなりヒビキさんに聞く蒼輝に、「ああ。」と答えたヒビキさんは、私たちの目に書物を置いた。
「『月が光を失えば、源(ミナモト)より道が現れる。
3度の夜を迎えれば、道は消えゆ。』」
私はそれを読んでまた、すぐにヒビキさんを見る。
それに気付いたヒビキさんは、
「解説しよっか。」
と優しく笑うと、「これはね。」と話し始めてくれた。
「『月の光を失う』つまり、満月の夜の次の夜は、ここでは月がなくなるんだ。
だから、この日から3日間だけという話になる。
そして、『源』ってのは、水のことだと思う。
つまり、『井戸』の事をしめしてると思うんだ。」
そう言われてもさっぱり意味がわからない私は、「う〜ん・・・。」といいながら首をかしげる。
「その『道』ってのは、BLUE LAND・・・つまり青鳥国(セイチョウコク)へ行く道って事だよな?」
蒼輝の言葉にヒビキさんは、「ああ。」と答える。
「行き方は、もう解読済みなんだろ?
俺や翠でもわかるように、説明してくれないか?」
さっさと白旗を上げる蒼輝にヒビキさんは、特に呆れる風でもなく、「そうだな。」と答えて解説をしてくれた。
「井戸は、緑豹国にはたくさんある。
だけど、たぶんここで言っている井戸は地下にある井戸だと思う。」
「そんな所に井戸なんてあったか?」
即切り返す蒼輝にヒビキさんは、
「蒼さまの遺留品の置いてある横に、隠すように実は井戸があるんだよ。」
と答え続ける。
「そこの水が、満月の次の日の夜になれば、なくなるんだろうな。
そして、そこを通って行けば、BLUE LAND(青鳥国)に辿り着くんだと思う。」
そう言われて、一つ思いついた事が。
「じゃあ、夢や写真でみたBLUE LANDに水が多かったのは、その井戸の水がBLUE LANDに吸い上げられたから?」
だけど、私の質問にサンガが答える。
「それはないだろう。
あれだけの水が、1つの井戸から吸い上げられたものだって・・・考えられないんじゃないのか?」
それも・・・そうか。
納得の私とは違って、ヒビキさんはサンガに目を向ける。
「サンガに聞きたい事があったんだ。」
その言葉に、「何?」と答えるサンガ。
「前から思ってたんだけど、満月の次の日から、3、4日の間って、ジギルたちがあまり森に出てこなくなるよな?
俺たちが、原石を取りに行かないのがわかっているから、森に出てこないのかと思っていたんだけど・・・ちょっと、気になってな。」
「な〜んだ、そんな事?」
サンガは笑いながらそういうと、平然として答えた。
「満月の次の日から、4日間程は、ハンターとしての活動は禁止なんだ。
それだけじゃない!
生活するうえで、必要最小限の行動しかしては、いけない事になっているんだ。」
それには、当たり前のように聞いてしまう。
「なんで?」って。
すると、サンガは信じられない事を言った。
「その間、国中の水が、全て完全にストップしてしまうんだ。」
「えっ!!」
みんなはあまりの驚きにそういって体を前に乗り出す。
「なっ!なんだよ!」
と驚くサンガに、
「どうして、水が出なくなるんだ?」
とヒビキさんがさらにサンガに聞く。
「何でかはわからない。
でも、それは、昔から決まってる事だった。
だから、俺たちも別に疑問にも思わなかったな。」
「お前らって・・・意外とバカなんじゃねぇーか?」
と冷めた目でいう蒼輝に、「あぁ?」とサンガはにらんで対抗する。
「普通、おかしいと思うだろ?
何で、疑問にも思わないんだよ。」
とさらに追い討ちをかける蒼輝にサンガは、必死で怒りを抑える。
「一人だけ居たよ!
疑問に思ったやつがね。」
「それって・・・ジギルか?」
ヒビキさんの答えにサンガは、「ああ。」と答えると、ジギルが知った事実を教えてくれた。
「ジギルは、その水が使えなくなる事に、昔から納得がいかなかったらしく、ある日水が出なくなった地下水路に侵入したんだって。
だけど、水が流れているはずの水路付近に近付いた途端、我慢できなくて、すぐに引き返してしまったって言ってた。」
「引き返した?なんで?」
蒼輝の言葉に、「それがさ・・・。」とサンガはいうと、ジギルから聞いた事を忠実に話してくれた。
「水路に入るとまず、見えない壁みたいのがあって中に入れない場所があったらしい。
そして、自分が進める場所もあったから、そこを少し進んだみたいなんだけど、一歩一歩奥に進むに連れて、ドンドン寒い空間に入ってしまったらしい。
数歩歩いてリタイアしてしまった。って言っていた。
あんなに寒かったら、水が流れたら、水も凍ってしまうだろうに。一体何なんだ!って言ってたよ。」
それを聞いたヒビキさんは、何も言わないまま、少し考えていた。
「それで、水が出なくなってジギルが地下水路に侵入した時ってさ、やっぱり水はなかったのか?」
蒼輝の言葉に、「うん。」とうなずくと、
「驚く事に、水という水が、一滴も水路に残されていなかったらしい。」
「ってことは・・・。
どこかに吸い上げられた。って事か?」
蒼輝はヒビキさんに向かってそういう。
だけど、ヒビキさんは、それには答えずに、ただ一点を見たまま何かを考えていた。
「ねぇー、その水が出ない日を過ぎたら、水路はどうなってるのかな?
ジギルは見に行ったの?」
少し疑問に思った私は、どうでもいい事かもしれないけど、サンガに聞いてみた。
「ジギルもそれが気になったらしくて、水が使えるようになってから、水路に行ったんだって。
そしたら、普通に水が流れてた。って言ってた。
それに、その寒い空間もなくなってて、水路の中は、常温だったって。」
そこまで聞いたヒビキさんは、「そういう事だったのか。」と言いながらうなずくと、書物の裏にある、この国の地図を開いた。
今のサンガの話を聞いても、さっぱり意味がわからなかった私も蒼輝も、キョトン。
だけど、タカさんもわかったみたいで、何やらヒビキさんと二人でボソボソ話し合ってる。
「おいっ!一体、どういう事なんだ?」
と二人に聞く蒼輝にヒビキさんは、
「わかった、ちゃんと説明するから。」
と私たちに向かって口を開く。
そして、さっき開いた地図を私たちが見えるところへと移動させた。
「結果から先にいうと、地下にある井戸から入って、そのまま進んでいくと、WONDER LANDの地下水路につながるはずだ。
そして、そこをどんどん進んで行くと、南の洞窟のあるあたりまで行くだろう。
そこから、折り返してくるか、もしくは何か道があるかで、また緑豹国のある北の方角へと進む事になる。
そして、緑豹国の下辺りに位置するところにあるBLUE LAND(青鳥国)に辿り着くってわけ。」
理解をするのに必死で、言葉も言えない私とサンガ。
だけど、蒼輝はさすがに王だけあって、理解が早い。
すぐに疑問や問題点を見つける。
「ヒビキが言ってる事が正しいとしたら、地下の井戸とWONDER LANDの地下水路とつながってるって事だよな?
だったら、そこを通っていくのは、はちあわせしないか?」
「それは・・・どう思う?」
ヒビキさんはサンガに答えを聞く。
「さっきも言ったけど、寒さに耐えられないし、ジギルは地下水路には何もないと言っていた。
それに、水が出ない間は、必要最小限の生活を送らなきゃいけない。
だから、その間、ジギルが地下水路をうろつく事はまずないと思う。」
「だって。」
と答えるヒビキさんに、「じゃーさ。」とさらに蒼輝は続ける。
「なんで、WONDER LANDの地下水路が、洞窟のあたりの南方向に続いているってわかったんだ?」
その問いかけには、「寒さだよ。」と即答するヒビキさん。
「さっき、サンガが言っていただろ?
『一歩一歩進むごとに寒くなる』って。
純血の人間が耐えられない寒さといえば、ここでは南の寒さしかないだろ?
そして、そこの方角に道を作ったのは、恐らく純血人間には、BLUE LAND(青鳥国)にきてもらっては困る事があったんだろうな。
だから、遠回りかもしれないけど、そっち方向に道を作った。
一体、BLUE LAND(青鳥国)には、どんな『力』が隠されているんだ?」
確かに・・・そうだよね。
BLUE LANDの行き方はわかったし、どうして水があんなにある国なのかもわかった。
だけど、一体、どんな国で、どうして今まで存在を隠していたのか。
ヒビキさんのいう通り、地下水路を通って辿り着くのなら、BLUE LANDは、地底にあるって事だよね。
そんな所に国があるなんて・・・。
それに、その国と、私たちがどう関係しているのか・・・。
それも、気になる。
「満月の次の日。て事は・・・。
今夜って事だよな?」
蒼輝の言葉に「ああ。」とヒビキさんは答え、
「行くのは翠ちゃんが夢に見た通りのメンバーで行ってくれ。
翠ちゃんと蒼輝とトーワと、そしてサンガな。」
それには、蒼輝が答える。
「コイツ・・・黄色の玉を飲んだのに、緑豹国から出ていいのかよ!」
それには、ヒビキさんもちょっと不安なのかな?
「たぶん・・・大丈夫だろう。」と曖昧な答え。
「おいっ!いい加減な答えはやめてくれよ!」
と半泣きのサンガに、みんなは大笑い。
私まで笑うものだから、サンガは完全にすねてしまった。
「確信はない。
実際、WONDER LANDの地下水路とつながっていたら、サンガは外に出た事になるから、苦しむかもしれない。
だけど、つながっているかどうかは、俺の考えであって、実際はつながってないかもしれないし・・・それはわからない。
それと、サンガの話で一つひっかかったのが、ジギルが見た『見えない壁』だ。
それが、もしかしたら、何らかの役割をしてくれて、サンガを苦しまずにBLUE LAND(青鳥国)まで、連れて行ってくれるかもしれない。
夢でサンガもBLUE LAND(青鳥国)に行っていたんだ。
夢に忠実に従いたいから、とりあえずはみんなと一緒に向かってくれ。
もし、黄色の玉が暴れだしたら、悪いが引き返してくるという事で・・・。
それでもいいか?」
ヒビキさんのその言葉にサンガは、素直に「わかった。」と答えた。
「よし。なら、出発は空に光が、全くなくなった時じゃ。
それまで、翠は体を休めるのじゃ。
そして、蒼輝は、ヒビキと今後の事を話し合え。」
タカさんの言葉に、蒼輝はうなずくと、私の方に体ごと向く。
「もう少し一緒に居たかったけど・・・仕方ないな。
翠は、体を休めろ。いいな。」
そして、私の頭を優しくなでる。
私は、「わかった。」と素直に答えると、席を立つ。
「ラン、悪いけど、翠の側にいてやってくれないか?
うっとおしい虫が2匹いるからな。」
といって、サンガとトーワくんを見る蒼輝。
「僕、虫?」
と首をかしげているトーワくん。
一方、サンガは、「うっとおしいだと?」と怒ってるし。
その様子を笑いながら見ていたランさんは、「わかりました。」と答えると、私の元へとくる。
「いきましょうか。」
と言われ私はランさんに連れられて司令塔室を出て自分の部屋へと戻った。
ベッドに横になると、体がすごく疲れていた事を知る。
急に睡魔が襲ってきた私は、そのままスゥーと寝そうになる。
私の様子を見ていたランさんは、
「どうぞ、お休み下さい。」
と言って、私にお布団をかけてくれる。
「時間がきたら、起こしてね。」
「もちろんです。安心してお休み下さい。」
ランさんは笑顔でそういうと、私のおでこにまた、冷たいタオルを当ててくれた。
まだ、少し熱がある私の体には、その冷えたタオルは気持ちよかった。
私は、あっという間に眠りについた。
疲れた体を回復するかのように、信じられないくらい深い深い眠りについていた。
☆☆☆6章 END☆☆☆
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