2008/4/14


7     7章  TWIN〜うりふたつ〜Part1
更新日時:
H18年2月13日(月)
遠くで話し声が聞こえる。
これは・・・誰の声?
ヒビキさんと、タカさんと、ランさんと、あとは・・・。
そうだ!サンガとトーワくんの声も聞こえる。
他は・・・あれ?
彼の声は?
私が一番聞きたい彼の声が・・・ない。
なんで?
蒼輝はどこ?
また、どこかへ行っちゃったの?
胸騒ぎがする。
蒼輝・・・蒼輝・・・。
 
「蒼輝っ!!」
 
私はそう叫んで起き上がる。
 
「翠さん?大丈夫ですか!」
 
と声をかけてくれたのはランさん。
周りを見る。
みんな、ビックリして私を見てる。
そりゃ、そうだよね。
目を覚ますなり、いきなり大きな声で叫ばれたら、驚くって!
 
「恐い夢でも見たのか?」
 
といいながら、サンガは私の側に来ると、私の髪を優しくなでる。
少しホッとした私は、周りをグルっと見渡す。
確か私は、月の光が完全に消えるまで、体力を戻す為に、自分の部屋で眠っていたはずなのに、ここは、部屋じゃない。
 
「あの・・・ここは、一体どこ?」
 
と少し離れた所に居るヒビキさんに聞く。
 
「こんなに近くにいるんだからさ。
俺に聞いてくれよ。」
 
なんて言っているサンガの声は、すごく元気がない。
悪い事したかな〜。なんて思うけど、やっぱり・・・。
不思議を解明してくれるのは、ヒビキさんって頭があるのよ!
そして、やっぱり、ヒビキさんが期待に答えてくれちゃうから・・・ごめんサンガ。
と心の中で謝る私。
 
「ここは、さっき話した井戸がある地下室。
蒼輝がさ、ギリギリまで、翠ちゃんを寝かせておきたいから。って言うから、寝かせたまま、ここまで、連れてきたんだよ。」
 
って言われて納得だけど、それで、重大な事を思い出した。
 
「そうだっ!ねぇー、その蒼輝はどこ?
どこにいるの?」
 
とすごい剣幕で聞く私に、ヒビキさんは、「実は・・・。」と暗い顔で口にして、そこで口を閉じる。
さらに、下まで向いちゃうヒビキさんに、もちろん私の心は、また波風がたつ。
 
「何?・・・何なの?」
 
と口にした声が震える。
その時・・・。
 
「何にもねぇーよ。」
 
って、後ろで声がして私は勢いよく振り返る。
そこには、「よっ!起きたか?」と言いながら手を振っている蒼輝の姿が。
もちろん、蒼輝を指さして、
 
「えっ?・・・えぇー!!」
 
と絶叫する。
そして、もちろん今度はヒビキさんの方を見て、口をパクパクしちゃう。
それには、ヒビキさんは、「ごめん。」と両手を合わせて私に拝(オガ)んでるし。
 
「ちょっと、からかうつもりだったんだけど・・・。
まさか、そんなに驚くなんて。」
 
とヒビキさん。
からかうって・・・。
ヒビキさんって、そういうキャラじゃないでしょ!
そういう人がするなんて、反則だよ。
 
「もう、何なのよぉ〜。」
 
と力なく怒る私を、後ろから蒼輝が抱きしめる。
 
「まっ、そう怒るなって。」
 
なんて言われて・・・素直にそうだな。って思えた。
蒼輝がこうやって、元気だったんだし、それにヒビキさんがそうやって、私に冗談というか、からかったりするって事は、仲間だと認めてくれたのかな?って。
そう考えたら、腹が立つ事でも、嬉しくなっちゃう。
 
「蒼輝が無事だったから、いいよ。」
 
と言って私は、蒼輝の腕から強引に出ると振り向いて、蒼輝の胸に自分から飛び込んじゃう。
それには、蒼輝も何も言わずに、強く抱きしめてくれた。
 
「さてと・・・そろそろじゃな。」
 
タカさんのその言葉に、ヒビキさんが、「そうですね。」と答えると、トーワくんを呼ぶ。
 
「じゃ、トーワ、行ってきて。」
 
なんて言われたトーワくんは、豹の姿になると、側にあった井戸の中に勢いよく飛び込んで行った。
 
「わっ!」
 
と驚く私に、「まずは、偵察。」と耳元で囁く蒼輝。
それには、サッパリ状況がつかめていない私は、「てい・・・さつ?」と聞き返しちゃう。
すると、蒼輝は、「そう。」と答えると、
 
「今、丁度零時。
そして、もう井戸の水はなくなってるんだ。
だけど、井戸がどれくらい深いか。とか、本当に中に敵はいないか。とか、全く未知の世界だからな。
まずは、この中で一番強くて、少々の高さからでも、落ちても平気なトーワに下調べしてもらおう。ってヒビキがな。」
 
蒼輝がそう説明をし終えた時、トーワくんが井戸から戻って来た。
 
「トーワ、どうだった?」
 
というヒビキさんに、
 
「ヒビキの言った通りだったよぉ〜。」
 
と息を切らせながら答えるトーワくん。
 
「やっぱり・・・。」
 
とヒビキさんもタカさんも口にするけど・・・私だけまたしても、おいてけぼり。
 
「ねぇー、どういう事?」
 
と小声で蒼輝に聞くと・・・。
 
「ここの井戸と、WONDER LANDの水路とは、つながってる。
という事は、言い替えれば、WONDER LANDの水路があるのは、街がある『地面に面した下の世界』だろ?
で、今俺たちがいるここは、絶壁の上にある城の井戸。
つまり、まず、街がある『地面に面している下の世界』まで、いつも翠は玉のエレベーターで降りていたけど、それをこの井戸を通って、絶壁ぶんの長さを落下しないといけないんだ。」
 
そこまで言われて、もちろん、絶叫だよ!
 
「らっかぁ〜??」
 
って。
目を真ん丸にして驚く私に、「驚くのはまだ早い。」と蒼輝はいうと、さらなる『現実』を口にする。
 
「落下するのは、絶壁分だけじゃないんだよ。
WONDER LANDの地下水路につながっているという事は、下の街の地表よりも、さらに下って事だろ?
つまり、絶壁よりもさらに地底まで、落下しないといけないという事になる。
何千メートル・・・いや、何万メートルの世界じゃないかな・・・きっと。」
 
蒼輝にしては、とても丁寧に説明してくれたけど・・・ごめん。
最後の方は全然耳に届かなかったよ。
初めの絶壁を、落下するって時点で、私はもう・・・半泣き状態で、何も考えられなくなっていた。
だって、絶対に滑らかじゃないよねー。
大きな穴に、ストーンって落ちる状態でしょ?
そんなの・・・無理無理。
私は、蒼輝の腕をつかんで、「そんなの、無理。」と速攻リタイア。
だけど、蒼輝は、「大丈夫だって。」となぜか笑顔。
蒼輝には悪いけど、蒼輝の『大丈夫』は・・・あてにできない。
私は、蒼輝を無視して、ヒビキさんを見て助けを求める。
それには、ヒビキさんは笑いながら、「対策は練ってるから。」と優しい微笑みをしてくれる。
 
「さっき、話した通りで行こう。
蒼輝は、トーワの背中に乗って、そのまま下まで落下する。
お前は、そういうの平気だよな?」
 
「もちろん。」と余裕の笑顔で答える蒼輝。
もちろんって・・・ありえない。
こんな事にもちろんなんて、使わないで。と嘆く私。
 
「それで、翠ちゃんは、サンガと降りてくれ。」
 
それには、「えっ?」と言っちゃう私。
 
「どうして・・・サンガと?」
 
なんて聞く私に答えたのは、意外にも蒼輝。
 
「サンガは、『ハンター』として訓練してきてるから、どんなに長い山も登り降りを平気で出来る。
だから、この長い筒のような道も、ロープ1本であっと言う間に、下まで降りれるだろう。
で、翠はというと、そのサンガに抱きかかえられて下まで、降りるんだ。
トーワの背中よりは、安全だし、悪いけど俺にはサンガの真似はできない。
サンガに任せるのは、本当は嫌なんだけど、翠の身の安全を考えたら、コレが一番だからな。
我慢するよ。
だから、翠も我慢してくれ。」
 
蒼輝の最後の言葉にもちろん、この人が黙っちゃいない!
 
「おい!『翠も我慢してくれ。』ってなんだよ!
言っとくけどなー、翠は俺に少し心が揺れてんだよ。
お前から、翠を奪い取るのも、時間の問題だからな。
余裕でいられるのも今のうちだ!バーカ!」
 
なんてサンガは言ってるし、「バカはどっちだ!」と蒼輝も言い返すし。
たまらず、「はぁー。」といっちゃう私に、ヒビキさんは私たちの前にくると、「翠ちゃん。」と私を呼ぶ。
さらに、「そこのバカ2人も聞け。」と付け加え、自分の後方にいるトーワくんにも目を向け、彼もこちらへと呼ぶ。
 
「たぶん、BLUE LANDまでは、敵やトラップとかはないとは思う。
だけど、全くわからない未知なる世界だ。
くれぐれも気をつけて。
限界や危険を感じたら、すぐに戻ってくる事。
何か、わからない事が出てきたら、すぐに俺に話しかけてくれ。
いいな。」
 
それには、4人ともがうなずく。
それを見届けたヒビキさんは、今度は蒼輝だけを見る。
「何?」と聞く蒼輝。
 
「BLUE LANDイコール青鳥国(セイチョウコク)なんだとしたら、辿り着いたそこは、鳥と人間の混血がいる世界だという事になる。
同じ混血だからといって、味方であるとは限らない。
くれぐれも、暴走はするなよ。
あと、翠ちゃんを悲しませるな。
絶対に、彼女を元の世界に返さないように、注意してくれよ。」
 
「わかってるよ。」
 
と余裕で笑って答える蒼輝。
それを見たヒビキさんは、「その笑いが、不安なんだよ。」と少しため息まじりでいう。
そして、最後に、「あと、忘れる所だった。」というと、今度は私とサンガと蒼輝を交互に見ながらヒビキさんは話した。
 
「翠ちゃんがこっちに来たのが、夜の7時くらいだった。
そこから、計算したら翠ちゃんがここへ来て、2日と4時間が過ぎた。
つまり、翠ちゃんに残された時間はあと、5日と20時間って事だ。
そして、この水路が使えるのは3日間だけ。
今が丁度零時だから、あと72時間って事になる。
BLUE LANDに着くまでに何日かかるかわからないけど、この3日間で向こうについて、謎を解き明かして、そしてここへ戻ってこないといけない。
時間を無駄にはできない。
とにかく急ぐんだ。」
 
ヒビキさんの言葉に、私たちはそれぞれ返事をした。
 
「じゃっ、いくか。」
 
蒼輝はそういうと、私から腕を離し、「翠、向こうで待ってるからな。」というと、また私の頬に軽いキスをする。
 
「テメー、ぶん殴るぞ!」
 
と怒るサンガに、
 
「無事を祈ってやったんだよ。
なんなら、お前にもしてやろうか?」
 
と蒼輝はいって、サンガにせまる。
 
「気持ち悪い事いうなよ!
うわぁ〜!!あっちいけっ!!」
 
とサンガは叫びながら・・・逃げる。
その様子を見て大笑いしながらも、蒼輝はトーワくんの背中に乗る。
 
「じゃ、行ってくるわ。
緑豹国は頼んだぞ。」
 
と蒼輝は、ヒビキさんに言う。
 
「ああ。しっかりな。」
 
というヒビキさんの答えを聞いて、蒼輝は井戸の奥に続く、はるか長い空間に姿を消した。
 
「じゃ、俺たちもいこうか。」
 
とサンガは言うと、ぶ厚い手袋を右手にする。
そして、これまた太くて丈夫なロープがでてきた。
 
「これ・・・足りるの?」
 
と不安になる私に、
 
「大丈夫!ヒビキが、事前に計算して長さは充分すぎるくらいあるはずだから。」
 
なんていいながらサンガは、慣れた手つきで、ロープの先端を自分の腰に巻きつけ始めた。
 
「悪い、ヒビキ!手伝って!」
 
と声をかけるサンガに、「ああ。」と答えるとヒビキさんもサンガの手助けをして、サンガの腰に巻きついているロープを、キツク結ぶ。
そして、私の体とサンガの体をこれまた、ロープで結び、サンガは私を左手1本で、抱きかかえる。
 
「大丈夫なの?」
 
と心配する私に、「30分くらいなら、耐えられるから。」とサンガはいうと、
 
「じゃ、いくわ。」
 
とヒビキさんに言って、井戸の中に入っていった。
周りに囲まれている壁をうまく蹴って、ドンドン下に降りていくサンガ。
ホントに・・・早い。
だけど、しばらくして、「翠。」とサンガが口を開く。
「何?」と聞く私に、「だいぶ慣れてきたか?」なんて聞いてくる。
「う・・・ん。」と気のない返事をする私に、
 
「俺から手を離しても大丈夫だから、両耳をぎゅってふさいで。
それで、目も閉じる。
で、大きな声で、数を数える。
速さはどうでもいいから、イチ・・・ニイって、数えて。」
 
「なんで?」って聞くけど、「いいから。」なんて言われる。
私は恐々サンガの体から両手を離して、両耳をふさぐ。
そして、あとは、目も閉じる。
暗闇に慣れてきて、サンガの顔も見れるようになっていたのに、また視界が暗くなった。
ここまで、サンガの言われるままにした私は、最後の注文を実行する。
ホント訳がわからないけど・・・仕方ない。
 
「イーチ・・・ニーイ・・・。」
 
と声を出して数を数え始めた。
耳をふさいでいるけど、普通なら、わずかに音が聞こえるじゃない。
でも、数を数えている自分の声で、周りの音という音が、完全にシャットアウトされてしまった。
 
「翠、聞こえる?」
 
なんて、サンガに言われても、聞こえるはずが無い私は、完全に無視して、数を数え続ける。
 
「よし、完璧だな。」
 
と言ったサンガは、いままで壁を蹴って下に降りていたのに、その足を壁から離した。
すると、もちろん私とサンガの重さで、ロープは自然とすごい勢いで下に、ビューンと落下して行った。
風を切る音は、耳が使えないので、全く聞こえない。
顔にすれる風は、サンガに抱きかかえられているので、彼の胸に顔を押し当てているせいで、全く感じない。
目だって閉じているから・・・一体、自分が今どういう状態なのかなんて・・・全然わかっていなかった。
どれだけ数を数えていたかな?
途中わからなくなって、またイチから数えたりしてたから。
結局どれくらい時間がたったかわからないけど、声を出すのも疲れてきた。
 
「ねぇー、まだ数えなきゃいけないの?」
 
私がそういった時、立っていたはずの私のお尻が、何かに触れて、私は座らされた。
 
「な・・・なに?」
 
本当は目だって開けたかったけど、サンガにダメだといわれているから、開けちゃいけないだろうし、開けて変な光景を見るのも嫌だったから・・・開けずに聞いた。
すると、耳を塞いでいる私の両手に手が触れて、私は耳から手を離される。
このぬくもり、感触・・・見なくてもわかるよ。
 
「蒼輝?」
 
と口にする私に、「目を開けていいぞ。」と大好きな人の声。
私は迷わず目を開ける。
だけど、すぐに目を閉じてしまう。
目を開けた瞬間、私の目に光が飛び込んできたから。
もちろんここは、街がある下の地面の中・・・地底だから、太陽の光なんてない。
じゃあ、この光は何かって?
トーワくんが、火の玉を使って、私たちの周りを照らしているから。
徐々に瞳を開けだした私は、光にも慣れてきた。
サンガと蒼輝は、二人がかりで、私とサンガの身についているロープを必死で取っている。
トーワくんはというと、豹の姿のまま、口に玉を加えて、私たちの周りをグルグル走りまわってる。
 
「あ〜!!もう、トーワ!
ジッとしてろよ!
ウロウロしたら、ロープの縛ってる所が、見えねぇーだろうが!
なんの為に、照らしてんだよ!!」
 
とイラつく蒼輝。
 
「お前が、不器用だからだろ?
トーワに当たんなよ!」
 
なんてサンガは言いながら、自分の腰に付いていたロープを器用に取ると、「どけよ!」と蒼輝を右ひじで押しのけ、私のロープも取ってくれる。
何も言わずに、ただ器用に私のロープをときほぐすサンガを見ている蒼輝に、サンガはちょっと気持ち悪くなったみたい。
 
「おい!つっかかってこいよ!」
 
なんて、自分から催促してるし。
だけど、蒼輝は、「えっ?」と言ってキョトン。
そして、サンガの言葉の意味がわかった蒼輝は、「悪い悪い。」というと、
 
「いやー、マジ、すげぇーなー。と思って見とれてたよ。」
 
なんて、言って笑ってる。
 
「お前に褒められるなんて・・・恐い。」
 
とサンガは身震い。
ロープから開放された私は、すぐにサンガに言っちゃう。
 
「ねぇー、何で、耳を塞いだり、数を数えたりしなきゃいけなかったの?」
 
と聞く私に、「それはね。」とサンガは言いかけるけど、サンガの口元に蒼輝の右腕が飛び出てくる。
それには、もちろんサンガはビックリして、言いかけた言葉を止める。
 
「それより、先を急ごう。
時間はどんどん過ぎていってるんだからな。」
 
そして、今度はトーワくんに、指示をする。
 
「ヒビキに、無事、降りたことを報告しとけ。」
 
ってね。
 
「なんで、そんな事、イチイチ言うんだよ。」
 
と聞くサンガに、「決まってんだろ?」と蒼輝はいうと、
 
「ロープを引き上げてもらうんだよ。」
 
なんていう。
それには、「何の為に?」と私も聞いちゃう。
 
「ヒビキも言ったように、ブルーランドの人間が俺たちの味方とは、限らない。
俺たちが、ここを通って、ブルーランドに辿り着けたとしたら、彼らもまた、ここを通って緑豹国へ来れるという事になる。
俺たちの敵だとしたら、俺たちはとらわれるかもしれないし、殺されるかもしれない。
そうなった時に、せめて、彼らの緑豹国への侵入を、止めないといけないからな。」
 
って言ったあとに、「まっ、でもロープを引き上げたところで、ブルーランドの連中の侵入を、防げられないだろうけどな。」と笑いながら言う蒼輝。
「なんでぇ〜?」と聞いたのは、さっきまで、ヒビキさんに念を送っていたトーワくん。
 
「考えてもみろよ!
ブルーランドの連中は、鳥の混血なんだぞ!
俺たちみたいに、変身が出来る人間は減ってるかもしれないけど、王である人物はたぶん変身はできるはずだからな。
鳥だったら、こんな空間、平気で飛んでいけるだろ?」
 
それには、みんなで「なるほど〜。」とうなずいちゃう。
 
「トーワ!お前は、翠を背中に乗せろ。」
 
それには、もちろん、「いいよ。」と両手を振って断る。
「なんで?」というサンガに、
 
「私もみんなと一緒に歩くよ。
私だけ、楽はできないから。」
 
なんていうけど、蒼輝が私の頭を優しくなでる。
 
「お前、まだ少し熱があるだろ?」
 
そういわれたら・・・まだ、ボーっとするかな?
でも、あの時と比べたら全然平気だよ。
 
「大丈夫だよ。」
 
っていうけど、「ダメ。」と蒼輝はきつい口調でいうと、優しく笑う。
 
「ブルーランドについたら、また色々と大変かもしれない。
翠の緑の力を借りる事になるかもしれないしな。
だから、今は、自分の体力を回復させる事だけを考えてろ。」
 
蒼輝はそういうと、私をトーワくんの背中に強引に乗せた。
そして、自分が羽織っていた、緑豹国の王の象徴であるマントを、私の背中にかける。
 
「俺は、ここにいるから・・・おやすみ。」
 
なんていって、蒼輝は私の左頬に自分の右手を、ピタっとくっつける。
彼のあったかいぬくもりを感じていると、心がなごんで、自然とまぶたがおりた。
 
 
 
 
「なー、蒼輝?」
 
少し歩きだした頃、急にサンガが話しかけてきた。
「あ〜?」という俺に、「さっきの事なんだけど。」とアイツは言い出す。
 
「さっきの・・・事?」
 
サッパリ意味がわかんねぇー俺は、おもいっきりバカ面でサンガに聞いてしまう。
 
「翠が『なんで、目を閉じたりしなきゃいけなかったのか?』って聞いただろ。
あの時、なんで、俺の言葉をさえぎったんだ?」
 
それには、もちろん呆れて言っちまう。
 
「お前・・・ホントにわかんねぇーのかよ!」
 
すると、意外な奴が答えた。
 
「僕わかるよぉー!
翠ちゃんが、恐がっちゃうから、言っちゃいけないんだよねぇー!」
 
なんていって、俺をチラっと見るトーワ。
それには、素直に、「お前、やるじゃん。」と言っちゃう俺。
トーワに正解を言われてサンガもわかったのか、「あっ!そうか。」と言う。
 
「そういわれたら・・・そうだな。」
 
といって、肩を落とすサンガに、俺は付け加える。
 
「たぶん、もうここに降りてくることはないだろうから、別に話してもよかったんだけど。
翠に余暇な恐さは与えなくてもいいだろう?
せっかく、お前が、アイツの恐怖を消して、降りてきたのにさ。」
 
それには、「お前って・・・すごい奴だな。」なんて言う。
最初、耳を疑ったのかと思った俺は、「何?」と聞き返す。
すると、サンガのやつ、こんな事を言いやがった。
 
「すごいな!って言ったんだよ。
やっぱ、お前、王だけの事はあるよ。
瞬時にパッパと頭が動く機転の良さというか、考えてすぐに行動に移せるその瞬発力が・・・すごい!
ヒビキは策士だけど、お前はなんだろう?
行動派って所か?」
 
なんて・・・褒め過ぎだって。
もちろん、ブルっと身震いしちまった。
 
「なんだよ・・・気持ち悪い!」
 
と言って、にらむ俺にサンガは、「さっきの仕返しだよ。」なんていって、さらに、
 
「な?似合わない事言われると、気持ち悪いだろ?」
 
なんて、言ってる。
確かに・・・背中がかゆくなるよな。
身を持って体験した俺はたまらず言った。
 
「お互い・・・ガラにもない事は、やめよーぜ。」
 
ってな。
それには、サンガも「ホントだな。」なんて言って笑う。
俺も、つられて笑ってしまった。
その時、「ねぇー、ねぇー、見て!!」とトーワが前方を見て叫ぶ。
俺たちは、笑いを止めて、トーワがいう前方に目を向けた。
 
「なんだ・・・あれ!」
 
サンガはそういうと、『それ』に向かって走り出す。
俺は、「トーワ、ストップ。」と横を歩いていたトーワをまず止めた。
俺の言葉に敏感に反応したトーワは、すぐに足を止める。
 
「たぶん、大丈夫だろうけど、念の為だ。
お前は、翠とここにいろ。」
 
俺はそういって翠の頬から、手を離す。
「う・・・ん。」と眉をひそめる翠に、俺は耳元で囁く。
 
「ちょっと、待ってろ。」
 
そして、トーワの頭をガシガシと乱暴になでると、
 
「危険だと判断したら、向こうから指示を出す。
そしたら、迷わず緑豹国へ戻れよ。
いつでも、走り出せるように、準備はしておけ。」
 
と告げ、俺もサンガの元へと走った。
 
ずっと、俺たちは左右壁で守られた筒状の道を歩いていたんだ。
歩いた時間を計算すると、今は緑豹国を出て、『光のない国』の森の真下を歩いていたはず。
そして、今トーワが見つけた『ある物』とは・・・。
ずっと壁だった左側から光が差し込んでる。
そして、それは壁じゃなくて、向こうには普通に景色が見えた。
その真ん前に立って、向こう側を見ているサンガ。
 
「おい、向こうに何がある?」
 
なんていう俺に、「これだ。」とサンガはうわ言のようにいう。
 
「これって?」
 
とさらにきく俺に、サンガは俺の方に振り返る。
 
「ジギルが言っていただろ?
見えない壁があるって。
きっとこれの事だ。」
 
「けど、これ壁じゃねぇーだろ?
向こうにいけるじゃねぇーか。」
 
と言って俺は勢いよく、向こうに続く世界に足を踏み入れる。
 
「おいっ!待てっ!」
 
ってサンガ・・・止めるの遅いって!
思いっきり、力強い1歩を出した俺は、目が覚めるような衝撃と、耳が裂けそうなデッカイ音を聞く。
 
「おい・・・大丈夫かよ!」
 
たまらず、その場でしゃがみこんで、頭を抱(カカ)える俺をサンガは心配そうに、のぞいてくる。
それには、痛みに耐えながらもちろん、文句をいう俺。
 
「サンガ・・・お前・・・。
大丈夫なわけ・・・ないだろ。
さっさと・・・言え!」
 
まさか、透明の壁があるなんて、誰が気付くかよ!
ホント、目から火花が散ったよ!
あ〜・・・痛かった。
頭を少し振ってみる。
う〜ん・・・なんか、クラクラするぞ。
首を動かしてみる。
なんか・・・首も心なしか痛いような。
軽いムチ打ちか?
おいおい。
・・・なんて突っ込んでる場合じゃなかった。
頭の痛みなんて、そのうち治るさ。
それより、この透明な壁って・・・。
 
「なー、これ、どうなってるんだ?」
 
俺の事を心配しながらも、その透明の壁を隅々まで見ているサンガに俺は聞いてみた。
こういうものを解決するのは、たぶんサンガの方が知識があるだろうからな。
コイツの使い方をちょっとは、わかりだしてきた俺。
すると、座り込んで何かを見ていたサンガは、立ち上がると、透明な壁に向かって指をさす。
 
「あの奥に見える階段あるだろ?
あれを、登れば、WONDER LANDに出る。
つまり、ここが、ジキルが来たWONDER LANDの地下水路。」
 
そこまでいうと今度は、俺たちが元々歩いていた道の正面を指差す。
 
「この道をこのまま進んでいったとする。
そして、透明な壁の向こうにある、WONDER LANDの地下水路もそのまま、俺たちと同じ進行方向に向かって歩いたとしたら・・・。
たぶんどこかで、交わっているはずだ。
この壁は、水がWONDER LANDと緑豹国に分かれる為の『壁』なんだろうからね。」
 
それを聞いたら、もちろん「おい!」と突っ込んでしまう俺。
 
「だったら、ジギルたちと逢っちまうだろ!」
 
って。
だけど、サンガは、「ヒビキも言ってただろ?」と笑う。
 
「この道は、どんどん南に向かっているんだ。
純血の人間には、南の寒さには耐えられない。
100%断言してもいい。
絶対に、2つの道が交わる場所に、ジギルを含め純血の人間はいやしない。
お前たちには、わかんねぇーから、不安になるかもしれねぇーけどな。
マジ、あの寒さは、耐えられねぇーんだよ。
純血で、森の寒さを体験している俺が言ってるんだ。
信じろよ!」
 
そこまで言われて、信じない奴はいねぇーだろ。
なんて俺は思いながら、「わかった。」と答えた。
そして、サンガが言った言葉で、2つ頭に浮かんだ事があった。
 
「って、事はさ・・・ここは、すでにWONDER LANDの敷地内って事だよな?」
 
それには、「うん・・・たぶん。」と答えるサンガ。
 
「『光のない国』の真下を歩いていた時点でもいえば、おかしかったのかもしれないけど・・・お前、平気なのか?」
 
俺の言葉に、「平気って・・・。」と口にしたサンガは、自分の体内に入っている『ある物』を思い出す。
 
「あっ!そうだ!黄色の玉!!」
 
って言って、サンガは自分の体が、どこも痛くないかを確認するが、しばらくして、「平気だ。」と答えた。
 
どういう事だ?
いえば、緑豹国からコイツは出た事になるんだよな。
でも、玉は暴れない・・・どうして?
 
首をかしげながら、必死で考える俺の頬を、冷たい風が通り過ぎていく。
 
「か・・・ぜ?」
 
俺は、不思議に思って、その風が吹いてきた方を見る。
それは、俺たちが来た方角からだった。
 
緑豹国・・・風・・・透明な壁・・・。
 
そのパズルをくっつけた時、俺の中で一つの答えが出た。
 
「わかった!!」
 
大声を上げて、手を打つ俺にサンガは、「うるせぇーよ!」と俺にも負けないくらいの大声で返してくるけど、気になったのかな?
すぐに、「で、何がだよ。」と聞いてくる。
 
「お前が、緑豹国を出ても、平気で居られる理由だよ。」
 
それには、サンガだってくいついてくる。
 
「えっ?マジ?何で、何で?」
 
って。
「それは、この透明な壁だ。」と俺は言って、その壁に手をつける。
 
「この・・・壁?」
 
なんて言ってバカ面のサンガに、俺が解明した事を聞かせてやる。
 
「俺たちは、緑豹国の井戸からここへ入ってきた。
つまり、今まで歩いてきたこの道は、井戸を通して、緑豹国とつながってる。
ここに流れている空気は、緑豹国に流れている物と同じ物だ。
だから、お前はここまで、平気だったんだ。」
 
「なるほど〜。」とサンガはいうものの、
 
「それは、わかるよ。
だけど、それと、透明な壁とは、どういう関係があるんだ?」
 
ホント、せっかちなヤローだなー。
もうちょっと、待てよ!って思うけど・・・仕方ない。
俺は、何も言わずに答えてやる。
 
「そこで、問題なのは、ここ。
WONDER LANDと緑豹国とが交わるこの空間だ。
ここに、こんな強力な壁を作ったのは、緑豹国の空気とWONDER LANDもしくは、外部の空気が交わらないようにする為だ。
交わっちまったら、玉は暴れだしてしまうからな。
お前もさっき、下の方に手をあてて、調べていただろ?
あれは、隙間風が入ってきているか見てたんじゃないのか?
何も、入ってこなかっただろう?」
 
それには、「ああ。」と答えたサンガ。
俺の解説を聞いていたサンガは、ある事に気付く。
 
「けど、今の蒼輝の話だったら・・・俺以外にも、昔は玉を飲んだ奴がいたって事か?」
 
それには、「だろうな。」と答える俺。
 
「ヒビキも言っていただろ。
昔は能力のある者は、純血でも緑豹国に取り込んだって。
もしかしたら、WONDER LANDと緑豹国が二分した時、何人かは、緑豹国に入ってきた奴がいたのかもしれないな。」
 
それには、俺も思っていることをサンガはいう。
 
「なんか・・・謎だらけだな。」
 
って。
ホントだよ。
自分の国のことなのに、わかんねぇー事が多すぎる。
そんな俺たちに、向こうで待たせていたトーワが、「ねぇー、ねぇー。」と叫ぶ。
その声に、俺が振り返り、「何だ?」と聞く。
 
「そっち、行ってもいいのぉ〜?」
 
あっ・・・忘れてた。
 
「ああ、いいよ。」
 
と言いながら、手招きする俺。
「わ〜い。」と喜んで、トーワは、猛スピードで俺たちの元へとやってくる。
それには、もちろん、「おい!」とトーワを叱る。
 
「お前っ!翠がいるんだから、気をつけろよ!」
 
それには、舌を出して、「ごめんなさぁ〜い。」と素直に謝るトーワ。
 
「じゃ、このまま進むか!」
 
なんてしきって、サンガが前を歩き出すが、俺は慌ててサンガを止める。
 
「なんだよ!」
 
と振り向きざまに怒るサンガに、俺は事前にヒビキに渡されていた火の玉をサンガに向かって投げた。
小さな玉で、さらに俺が急に投げたにもかかわらず、アイツは持ち前の抜群の反射神経で、それを器用にキャッチした。
 
「これは?」
 
というサンガに、「火の玉だ。」と答える俺。
 
「これから先、寒くなる。
それは、お前の分だ。
寒くなったら、その寒さに応じて念じろ。
使いたくなったら言え。
念じ方を教えてやるから。」
 
それには、「玉の使い方は、ヒビキと練習したから大丈夫。」と笑顔で答えるサンガ。
「そっか。」と俺は答え、隣にいるトーワの首にネックレスタイプになっている火の玉をかけてやった。
そして、俺は、翠の分の玉を少しだけ念じて暖めてやり、翠の手に握らせる。
あと俺の手に残った火の玉は、1つ。
もちろん、俺の玉だ。
ここに着いた時に、トーワにくわえさせていた、火の玉だけど、その使い道はもちろん決まってる。
俺は、それを少しだけ暖めて、今度は翠の背中にかけている俺のマントのポケットに忍ばせた。
これで、翠は上も下も暖かい。
もっと寒くなれば、トーワ自身も玉を使う。
そしたら、さらに暖かくて、寝てても凍死の心配はないだろうからな。
準備が整った俺は、また翠の左頬に俺の右手を当てると、
 
「よし!いくか。」
 
と前にいるサンガに声をかける。
 
「お前・・・玉いいのか?」
 
と聞いてくるサンガに、「俺は、少々の寒さには堪えられる。」と答えた。
俺が強がっているのが、わかったのか・・・それは、わからないけど、
 
「まっ、寒くなったら一緒に使えばいいさ。」
 
なんてガラにもない事を言って、サンガはトーワの右隣を歩き出した。
俺とサンガでトーワをはさむ。
ここは、地下だから、空を見て時間を割り出す事は出来ない。
俺は、ヒビキに持たされた時計を見る。
今、午前4時。
緑豹国からWONDER LANDの地下水路まで、3時間弱で来たのは、早いといえば早い。
だけど、俺たちには時間がないんだ。
ヒビキが予想した通りの道のりだと、洞窟まで行って、折り返してこないといけない。
いえば、まだ4分の1だって進んでない。
ヒビキに、どんなに遠くても1日で着けと言われてる。
あと20時間しかないんだ。
 
「おいっ!飛ばすぞ!」
 
という俺に、サンガもトーワも「うん。」とうなずくと、俺たちはさっきよりもかなり速いスピードを出して、先を急いだ。
 
 
 
「・・・い。」
 
何かが聞こえた??
なんだろう?
とても懐かしい声のような気がする。
私は、ちょっと注意深く聞いてみた。
 
「翠っ!」
 
蒼輝が私を呼ぶ声!
私は、「はっ!」として目を開け、飛び起きる。
 
「悪い・・・驚かせたか?」
 
なんていって、申し訳なさそうな顔をしている蒼輝の顔を、私は起きて一番に目にした。
その横で、少し呆れながら、「蒼輝の声には、ホントすぐに反応するよなぁ〜。」って言って、「バカバカしい。」と文句を言って少し膨れているサンガ。
 
「ねぇー、ねぇー。僕も、翠ちゃんのお顔が見たいよぉ〜。」
 
私の下でそう言いながら、必死で顔を回転させようとするけど、それにはもちろん限度があって・・・無理な話。
 
「僕だけ、い〜っつも、仲間はずれだぁ〜。」
 
と悲しい声をあげるトーワくん。
てっきり、みんな歩いているのかと思ったのに・・・みんな止まってる。
という事は・・・。
 
「もう、着いたの?」
 
それには、「いや。」と蒼輝が軽く答える。
って事は・・・。
 
「何か、問題があったとか?」
 
それにも、「いや。」と答える。
ちょっと・・・じゃあ、なんなの!!
だんだん腹が立ってきた私はトーワくんの背中に抱きついていた体を起こして、トーワくんの背中に座る。
そして、もちろん蒼輝に叫んじゃう。
 
「じゃあ、なんなのよっ!」
 
って。
熱くなってる私にサンガが驚いて、
 
「また、熱があがったら、どうするんだよ!
そんなに、騒ぐなって!」
 
とアタフタする。
だけど、蒼輝は・・・ぜ〜んぜん、すました顔してる。
さらには・・・笑ってるし。
 
「あのねぇ〜。」
 
と文句を言おうとした私の口に、蒼輝は自分の人差し指を当てる。
もちろん、驚いちゃうよ!
だって、蒼輝の指が唇に触れてるんだよ。
 
キャー!!
 
が頭の中をかけめぐるに決まってんじゃない!
文句なんて・・・跡形もなく消えちゃったよ。
ドキドキしている私。
それを見て、「テメー!!」と怒っているサンガ。
サンガの態度に、「えっ?何々、なぁ〜に??」と気になって仕方がないトーワくん。
そんな3人を置いて、1人冷静な蒼輝はこう言った。
 
「耳をすましてみろ!」
 
それには、3人が同時に「へっ?」と言っちゃう。
そういったきりボヘーっとしている3人に、「いいから。」とさらに勧める蒼輝。
仕方なく、私たちは彼のいう通り、耳に全神経を集中させた。
3人の中で、一番に気付いたのは、トーワくん。
 
「あぁー!!」
 
って叫ぶものだから、たまらず、私もサンガも、「うるさいっ!」と突っ込む。
もうっ!集中がとけちゃったじゃない!
ブツブツ言いながら、私とサンガはもう一度集中してみる。
次に、それを感じたのは、能力にサンガよりも慣れている私。
トーワくんの反応は大げさよ!と思っていた私なのに・・・。
 
「あぁー!!」
 
って、同じ事を言っちゃった!
それには、もちろん残ったサンガが、「うるさいって!」と突っ込む。
そして、サンガも必死に聞き取ろうとするけど・・・無理みたい。
 
「ダメだ。俺には何も聞こえない。」
 
ため息混じりにいうサンガに、意外な人がアドバイス。
 
「耳だけに頼って、耳だけで聞こうとしてちゃダメだ。
きっと何かがあるはずだ。と心で思って、心の耳で聞こうとするんだ。
そしたら、聞こえる。
余計な事は考えるな。
気持ちごと、のめりこんでみろ。」
 
サンガもまさか、蒼輝がそんな事を言うとは思っていなかったから、もちろん一瞬戸惑う。
返事をしないサンガに、「わかったのかよ!」といつもの強気な蒼輝が返事をせかす。
それには、もちろんいつものサンガで答える。
 
「うるさいなっ!わかったよ!」
 
そして、蒼輝の言ったようにやってみると・・・。
 
「あっ!聞こえた!!」
 
嬉しそうにそう答えるサンガに、「やれば、できるじゃん!」と笑顔で答える蒼輝。
私たちが、耳にしたものとは・・・。
 
「今の聞こえた『音』って・・・『水』の音だよね?」
 
たまらず蒼輝に聞く私に、サンガの方を向いていた蒼輝は、私に目を向ける。
 
「そう。音の大きさから推測すると、約2キロ先から聞こえてるってとこだろうな。
BLUE LANDが、射程距離(シャテイキョリ)に入ったって事だ。」
 
そこまでいうと蒼輝は、急にポケットから小さな玉を出した。
 
「翠を起こしたのは、これを飲ませておこうと思ってな。」
 
「えっ?何?」
 
なんて言っている私の顔を蒼輝は、上に向けると、その玉を私の口の上に持ってくる。
そして、「開け・・・3滴出ろ。」とつぶやき、その小さな玉から、液体が3滴出た。
もちろん、それは私の口の中に入る。
 
「飲み込め。」
 
と蒼輝は言いながら、私の顔から手を離す。
上を向かされていた顔を下ろした私は、「一体、何なの?」なんて、蒼輝に文句を言っちゃったものだから、不本意ながら・・・ゴクってそれを、飲み込んじゃった。
 
「ギャー!!飲み込んじゃったよ!!」
 
と絶叫する私に蒼輝は知らん顔で、自分も顔を上に上げて、その玉から3滴の液体を出し、飲み込んだ。
 
「ち、ちょっと・・・蒼輝!!」
 
とトーワくんの背中から降りて、突っかかる私にサンガが、「まーまー。」と間に入って止める。
そして、自分の後ろにいる蒼輝に目を向け、
 
「お前さー、その傲慢というか、勝手というか・・・。
そういう態度どうにか、なんないのかよ!」
 
とため息混じりにいうけど、「えっ?」と蒼輝は、全然わかってないみたいで、キョトンとしてる。
そんな蒼輝を見たら・・・怒る気も失せたよ。
 
「ねぇー、サンガ、教えてよ。
あれは、一体何だったの?」
 
なぜ、サンガに聞いたかって?
だって、蒼輝ったら、
 
「翠も元気になった事だし、『音』に向かっていくぞー!」
 
なんていって、さっさと前を歩き出しちゃったんだもん。
ホント、マイペースというか、自己中心というか・・・。
だから、仕方なく、サンガに聞いたんだ。
蒼輝のそんな姿を見ていたサンガは、しまいには声を出して笑い出す。
 
「なんで、そんなに笑ってるのよ!」
 
と呆れる私に、
 
「いや・・・なんか、本来の蒼輝を見た気がしてさ。
ムカツクやつだけど、あーやって見てると、やっぱ21歳のガキなんだなーって。」
 
っていうサンガも、21歳って言ってたよね?
 
「サンガも同じ年でしょ?」
 
もちろん突っ込むけど、
 
「そうだけど、俺の方が、子供っぽいだろ?
俺なんて、常にあんな感じでいるし。」
 
なんていうけど、私は「そうかな〜?」といっちゃう。
「ん?」と聞いてくるサンガに、
 
「だって、蒼輝もいつも、あんな感じだよ。
意地悪だったり、わけわかんない事言ったり、自分勝手で決めた事は、こっちが何言っても聞いてくれなかったり・・・。
ホントわがままなんだから。」
 
なんて言っちゃう私にサンガは、「それは、翠にだけだよ。」と笑いながらいうと、言葉を続ける。
 
「蒼輝はさ、やっぱ小さいころから、『王』として生きてきたからかもしれないけど、ヒビキたちにも、『わがまま』というかな。
『自分』をあまり見せない奴だったんだって。
納得が行かない事。理不尽な事。
そういう事でも、アイツは平気な顔をして、全て受け入れてたって。
だから、ヒビキとも喧嘩したり、意見のくい違いがあったりしても、殴り合いの喧嘩とか、感情的にお互いがなってしまうような言い合いには、ならなかったといっていた。
蒼輝は、常に一歩引いて、自分の感情を抑えて、何事にも取り組んでいたんだろうな。
俺たちのハンターの仲間うちでも、よく話していたんだ。
蒼輝は冷徹で冷静沈着で、さらに頭がキレる。
だから、アイツの気持ちを乱す事がなかなかできないから、攻めるのに苦労するな・・・なんて。
俺からしたら、俺の方が感情的にもなるし、年相応だと思ってたよ。
実際、何度か戦った事がある蒼輝は、俺からしたら、感情を持たない完璧な大人。
というか・・・完璧な機械というべきかな。
だから、あのジギルともやりあえてたんだと思うからさ。
それは、ヒビキや緑豹国の連中も思っていた事だったみたいで、誰にも感情を表さない、自分以外興味を持たない蒼輝が、俺を受け入れた事が、ヒビキは信じられない。って言ってたよ。」
 
サンガの言葉に、私は何も言えなくて、ただ彼の言葉を真剣に聞いていた。
そんな私に、サンガは歩く事を促(ウナガ)しながら続ける。
 
「蒼輝は、人に心を許すことなんてなかったって。
まして、敵である俺を、仲間にするなんて、ありえないって。
だけど、もっと信じられなくてありえないのは、人前でも平気で、翠を抱きしめたりしている蒼輝だって、ヒビキが笑ってたな。
人前で感情的になる蒼輝も、年相応に振舞う蒼輝も、全部翠が作り出したんだって。
蒼輝が変わったのは、翠の存在が大きいって言ってたよ。」
 
「そんな事・・・。」
 
といって、首を振る私にサンガは、「俺さ・・・。」というと、歩いていた足を止めて私を見る。
私もつられて、足を止めてサンガを見る。
 
「初め、ヒビキにそれを言われた時、翠の存在が、蒼輝にとって、そんなに大きな物であるはずがない!って正直思ったんだ。
翠の素性も聞かされたら、なお更な。
住んでる世界が違う翠に、そこまで心を開いて接する事なんてできないだろう。って。
だけど、BLUE LANDに向けて、こうして蒼輝と一緒にいてさ。
いろんなアイツを、この数十時間で見てきた。
俺の中での蒼輝のイメージが変わったし、それに、何より翠に接する蒼輝の瞳も態度も言葉遣いも、全てが違う。
暖かくて、蒼輝が翠を本当に大切に思っているのが、わかるくらいなんだ。
だから、余計に不安でさ。」
 
「何?不安って・・・。」
 
「翠を失った時の蒼輝を見るのが恐いんだよ。
ヒビキも言っていた。
ちゃんと、お互いが別れを理解して別れたら、まだマシかもしれないけど、前回・・・。
ヒビキに聞いたけど、前回は突然翠は戻っちまったんだよな?
もし、今回、また翠がそうなって、別れも言わないまま翠が元の世界に戻っちまったら、蒼輝はきっと、狂ってしまう。」
 
それにはもちろん、ちょっと笑っちゃった。
 
「狂うって・・・そんなの大げさだよ!」
 
だけど、サンガは、「真剣に言ってるんだ。」と強い口調で言うと、「だから、翠約束してくれ。」といいながら、私の手を握る。
 
「BLUE LANDで、何かが起こりそうな気がするんだよ。
だから、俺は正直、行くのが恐い。
翠を連れて行くのが・・・恐いんだ。
だけど、翠が行かないわけにもいかないからさ・・・。
だから、翠!
どんな事があっても、自分の存在を否定しないでくれよ。
この世界から、自分から去るような事だけはしないでくれ。
頼むから・・・約束してくれ。」
 
あまりに真剣にいうサンガに、私もちょっと事の重大さがわかった気がした。
確かに、蒼輝は、ヒビキさんたちと接している時と、私と接している時とは違う気がする。
ほら!蒼輝が実家に戻った最初の時も、誰とも会話をしなかった蒼輝が、私には普通に話してくれたし、心の闇も語ってくれたもんね。
今、蒼輝が自分を見失ったら、緑豹国が危険になる。
私は、大きく深呼吸をする。
そして、サンガをしっかりと見て返事をした。
 
「絶対に、戻らない。約束するから。」
 
それを聞いたサンガは、「よしっ!」というと、つかんでいた手を離して、また歩き出す。
私も急いで彼に付いて歩いた。
 
「それでさー、さっきの飲んだ水滴だけどな、あれ、飲んでから体が楽(ラク)じゃないか?」
 
そういわれたら・・・そうかも?
体が軽い感じ。
って事は・・・。
 
「あれは、虹の雫?」
 
それには、「正解!」と笑顔で答えるサンガ。
だけど、どうして?
トーワくんと取りに行ったのは、蒼輝と私が飲んじゃって、もう無いはず。
もちろん、今は満月じゃないもん!
月だって、ないんだから。
 
「ねぇー、どういう事なの?」
 
とたまらず、サンガに聞いてしまう。
すると、サンガは、「全部話してあげるよ。」というと、私が眠っていた間の事を話してくれた。
 
「俺たちは、あのまま真っ直ぐに歩いた。
そしたら、丁度、上が、原石の洞窟に位置するあたりで、行き止まりになってさ。
先に進む道の代わりにあったのは、地面に穴。」
 
それには、たまらず「あな?」と聞いちゃう。
「そう。穴!」とサンガはうなずくと、その『穴』の正体を説明する。
 
「それは、そんなに深くなくて、3メートルくらいだったかな?」
 
なんていうけど・・・どこが、そんなに深くないわけ?
3メートルって・・・結構深いよね?
半ば呆れながら聞いている私に、サンガは「それで。」と続ける。
 
「その穴を落ちると、今度は北・・・つまり、緑豹国に向かって道があったんだ。
だけど、ただの道じゃなくて、今みたいにちょっと坂になってたんだけどね。」
 
そうなんだよねぇー。
実は、私もさっきから気になってたんだよ。
私たちが歩いている道は、最初の道と違って、緩い坂になってる。
 
「って事は、WONDER LANDとかがある地表より、どんどん下に向かって歩いてるって事?」
 
と確認する私にサンガは、「そう。かなり深くまで、降りてきてるはずだ。」という。
「あっ!それで・・・。」とサンガは言うと、「穴を降りる前にある物を発見したんだ!」と急に笑顔になって言い出す。
あるもの・・・ってまさか!
 
「それが、私がさっき飲んだ『虹の雫』?」
 
力が入ってしまって、ちょっと大きな声で言っちゃう私にサンガは、「うん。」というと、不思議な話をした。
 
「行き止まりになってさ、俺たちが穴を見つける前に、あたりをくまなく調べていたんだよ。
そしたら、急にトーワが、天井にくっついている『光るツララ』を指さして、『虹の雫』のツララに似てる。ってきかなくて。
で、蒼輝がジャンプして、それを採って飲んだってわけ。
そしたら、トーワの言った通り、『虹の雫』だったから、全てのツララをぶんどって、雫を手に入れた。
念のためにと、ランさんから俺、小さい空(カラ)の玉をいくつか持たされてたからさ。
それに、回収した雫は入れた。
一応、俺と蒼輝とトーワと翠の分で、4つの玉に20滴ずつくらいは入れた。」
 
なんていいながら、サンガは「これは、翠の分。」と私に雫が入った玉を渡してくれる。
それを受け取りながら、唖然として言っちゃう。
 
「なんで、そんなに採れたの?」
 
って。
だって、満月なんてないのにさ。
私なんて、満月の夜に行っても、わずかしか採れなかったのに!!
納得がいかない私は、どんどんムカムカが押し寄せてきて、
 
「ねぇー!何で、こんな所で、雫が採れるのよ!!」
 
とサンガにやつあたりしちゃう。
それにはもちろん、「俺にやつあたりするなよ!」なんて言われて、私も反省。
大きくて深い深呼吸をして、ちょっと気持ちを落ち着かせる私。
そして、改めて聞いてみる。
 
「月明かりもなくて、さらにこんな地底で・・・なんでツララが出来たの?」
 
それには、「俺たちも不思議でさ。ヒビキに聞いたんだ。」っていって、物知りヒビキさんの回答を教えてくれる。
 
「この水路は、ジギルが言ったように、WONDER LANDを通り過ぎたあたりから、信じられないくらい温度が下がった。
混血になった俺でも、あの強気だった蒼輝ですらも、すぐにガタガタと震えだしてさ。
火の玉を使わないと、凍死しちまうくらいに、温度が一気に下がったんだ。
もちろんもっともっと南に位置した、そのツララが出来ていた天井があった空間なんて、それはすごかったよ。
そのツララは、きっとこの水路にあった水滴が、幾つも重なって出来たものなんじゃないか。って言っていた。
そして、それがなぜ月明かりを浴びないのに、七色に光るか。ってのは、たぶん、洞窟にある虹のかけらが原因じゃないか。って。」
 
「虹のかけら?」
 
「そう。この間、翠とトーワが洞窟を開けた事によって、満月の夜に、光をあび、原石の露(ツユ)の結晶が虹のかけらになっただろう?
今回は、翠は採っては来なかったけどね。
そして、その月明かりを含んだ虹のかけらが採られなかった事により、その結晶から、月の光が今度は土に吸収されてしまった。
そして、どんどんそれは、土を通して、この地下にまで浸透してきたんだ。
それが、丁度、この地下水路に残っていた水滴と重なり、『虹の雫』を生み出した。
まさに・・・奇跡だよ。
翠が、もし虹のかけらを、一つ残らず採っていたら、これは生まれなかったんだからね。
反対に、今回は全く虹のかけらを採らなかったから、あたり一面にあったツララが、全て『虹の雫』が取れる『七色のツララ』に変わっていた。
虹の雫の量でわかると思うけど、ツララの数はそれはもう、すごい数だったよ。
全て、玉に移すのに、3人で30分くらいはかかったからね。
でも、例え時間をロスしても、ヒビキが全てを採れって。
これは、絶対に強い味方になる。って、ヒビキも喜んでいたよ。」
 
なんて、サンガが言った時だった。
 
「おーい!早く来いよ!!」
 
蒼輝の叫ぶ声。
 
「何か、あったのかな?急ごうか。」
 
サンガはそういうと、私の手を取って、蒼輝たちのもとへ走り出した。
 
 
 
「何かあったのか?」
 
と着くなり蒼輝に聞くサンガ。
 
「これ、見ろよ。」
 
と蒼輝は目の前にある閉ざされた扉に、書かれている石版を指さす。
 
「『青い瞳を持つ緑の王のみ、扉が開かれよう』」
 
サンガはその石版を声を出して読んだ。
 
「って事はさー、蒼輝にしか開けれないって事だろ?
さっさと、開けろよ!」
 
だけど、「いや、俺じゃ無理だ。」と蒼輝は首を振る。
「なんで?」とサンガは言ってすぐに、「あっ!」と気付く。
 
「ねぇー、どうするのぉ〜?」
 
と心配そうに蒼輝を見るトーワくんには答えずに、蒼輝は私を見る。
私は、蒼輝が口を開く前に、「わかってる。」とうなずくと、ネックレスを引き上げて、緑の玉を服から出した。
そして、それを両手で握り締める。
その時、「待て!」と蒼輝は、私を止める。
目をつぶって念じろうとしていた私は、ビックリして蒼輝を見る。
 
「な・・・んで?」
 
と聞く私に、「ヒビキに聞いてからにしよう。」と答えると、
 
「トーワ、事情をヒビキに伝えて、指示をあおいでくれ。」
 
と言った。
「うん。わかったぁ〜。」とトーワくんは、早速ブツブツと念を送り出した。
 
「どう・・して?」
 
と口にする私に蒼輝は、「えっ?」と私に聞き返す。
すると、サンガもこういう。
 
「お前にしては、珍しく、慎重じゃないか!」
 
って。
ホント、そうだよ!
いつもの蒼輝なら、自分の考えで突き進むのに。
ヒビキさんの指示をあおぐなんて事、自ら求めるなんてなかったのに!
すると、蒼輝は、「正直、ヒビキには参ってさ。」っていうと、自分の思いを口にした。
 
「この地下水路さ、まさかヒビキが言ったみたいに、洞窟まで行って、また緑豹国のある北へ向かって引き返すなんて・・・正直思ってなかったんだよ。
わずかな情報で、ほとんどあってる推理をしたヒビキに、ホント『参った』の一言しかない。
だから、アイツのいう事を今回は、聞いてみようと思ってさ。
いつも、俺は自分本位にして、翠を危険な目にあわせ、そして翠を追い詰めてる。
向こうに返してしまいそうに、何度もなってるしな。
でも、今回は絶対に返しちゃいけない。とヒビキに言われてる。
なのに、自分本位にしたら、危険だろ?
だから、ヒビキに頼ろうと思ってさ。
安全策だと思わない?」
 
そういって笑う蒼輝にサンガは、「確かにな。お前にしては、いい選択だ。」と偉そうに言ってる。
その時、トーワくんが、ヒビキさんからの指示を蒼輝に伝える。
 
「翠ちゃんの玉を使って・・・。
う〜んと・・・なんだっけ??
あっ!そうだぁー!緑の力と青の力を蒼輝の中に入れろってぇー。
あとねぇー。・・・豹には変身しちゃダメだってぇー。
変身しなくても、緑の髪に青い目になっただけでも、体力は消耗しちゃうから、必要な時以外は変身しちゃいけないってぇー。」
 
それには、「わかってる。」と蒼輝は答えると、
 
「虹の雫の話は、サンガから聞いたんだろ?
あれを、手に入れた時にさ、俺が豹に変身して、翠なりサンガを乗せて走れば、ここまで1時間もかからずに着いたからさ、ヒビキに言ったんだよ。
だけど、ヒビキがダメだって。
体力が消耗してしまい、それを補う為に雫を飲むにしても、かなり飲まないといけなくなるから、変身はするなと言われたんだ。」
 
そして、さらに、「おかげで、トータル14時間も歩かされたよ。」と、うんざりって顔で答える。
 
「おいっ!そんな事はいいから、早く力を吸収しろよ!
もう、午後4時半回ってんだぞ!!」
 
サンガの言葉に、「はいはい。」と答える蒼輝。
14時間も歩いてた?
今・・・午後4時?
って事は・・・。
 
「えっ?私、メチャクチャ寝てたんじゃない!」
 
と叫ぶ私に蒼輝は、「それだけ疲れてたんだろ?」なんて平然と答えながら、自分も玉を出し、両手で握る。
 
「よし、念じるぞ。」
 
蒼輝がそういったかと思えば、あっという間に蒼輝の手に包まれている青い玉が輝き始めた。
 
「うそ!もう?」
 
蒼輝の玉の早い反応に正直驚く私。
だけど、サンガは意外に落ち着いていた。
 
「それだけ、翠を想う気持ちが大きいって事なんじゃないのか?
光が発動し始めると、そこから力がどんどん消耗するとヒビキが言ってた。
翠も早く、発動させるんだ。」
 
そういわれて、私も急いで念じる。
私の方もすぐに輝き始め無事緑の力も発動した。
前と同じように2つの光は、玉から飛び出し1つになって、蒼輝に直撃した。
目を開けた私の目の前には、緑の髪に、青い瞳を持つ蒼輝の姿があった。
 
「翠・・・何ともないか?」
 
私の体を心配してくれる蒼輝が、とても愛おしくて、私は答える代わりに彼に抱きついてしまう。
私の行動に驚いた蒼輝は、「す・・・い?」と私に声をかけるけど、私は何も答えずに蒼輝の背中に手を回して彼を抱きしめた。
そんな私の髪を蒼輝は優しくなでながら、
 
「心配しなくていい。俺の体は、大丈夫だから。」
 
と、ささやきながら、私を一瞬ギュって強く抱きしめると、私を自分の体から離す。
離れた私に優しく微笑むと、今度は石版が貼り付けてある扉の前に行く。
 
「よし。開けるぞ。」
 
蒼輝はそういって、扉を押す。
扉は、何十年・・・いや何百年、ずっと閉ざされたままだったのかもしれない。
錆びついた扉が、重い音をたてて、ゆっくりと開いた。
蒼輝が開けた扉を通って、私たちは扉の奥の世界へと足を踏み入れた。
 
 
 
 
「な・・・なんだ、これ!」
 
そういったのはサンガ。
 
「すごぉーい!!お水がこぉ〜んなにあるよぉ〜!!」
 
って、はしゃいでいるのは、もちろんトーワくん。
私は、たまらず恐くなって、側にいる蒼輝の腕をつかんでしまう。
だって・・・目の前に広がる景色を見れば一目瞭然なんだもん!
ここが、『BLUE LAND』だって。
とうとう来てしまった。
夢に見た国。鳥の混血人間が住む国・・・BLUE LANDに。
 
「翠?どうかしたか?」
 
腕をつかまれた蒼輝は、驚いて私を見る。
そして、すごく不安そうな瞳をしている私をみて、蒼輝は私がつかんでいる手を振り払うと、私を強引に抱きしめる。
蒼輝の胸が、私の顔にくっつく。
 
「そんなに不安そうな顔をするなよ。
大丈夫。ここが敵地でも、ジギルより強い奴がいても、俺が絶対に守ってやるから。」
 
蒼輝のその強い言葉と、蒼輝の暖かい腕を感じると、不安は不思議だけど、徐々に薄れていくようだった。
 
「なー、蒼輝。
お前、その姿・・・治らないのか?」
 
そういったサンガに蒼輝も、「ああ。」と答えると、
 
「元に戻らないという事は、この姿がまだ『必要』って事なんだろうな。」
 
と言う。
 
「ねぇー、それ・・・どういう意味?」
 
たまらず聞く私に蒼輝は、「あっ、翠は知らなかったんだっけ。」というと、
 
「俺が、豹の姿になってさ、元の姿・・・う〜んと、黒髪の姿な。
あれに、戻るのには訳があったんだよ。」
 
それには、「えぇー!!」って言っちゃう。
 
「もしかして、時間制限とか・・・体力の限界とか?」
 
だけど、蒼輝は首を振って、「もっとわかりやすいことだったんだ。」という。
 
「わかり・・・やすい・・・事?」
 
ダメだ。わかんない。
首をかしげて、そう口にする私に蒼輝は、「実はな。」というと続ける。
 
「俺が青い力を発動させるには、『翠を守りたい』と念じる。
つまり、俺が変身する目的は、『翠を守る事』なわけだから、『翠が守れれば役割は終わる。』って事になるんだ。
だから、1度目の変身の時は、緑豹国の敷地である森に入った途端、誰も攻めて来れないから、翠の安全が確保され、俺は気を失って元の黒髪の姿に戻ってしまった。
そして、2度目のバリアーの時も、バリアーが張れた途端、翠の安全は確保されたから、俺は気を失って黒髪に戻ったんだ。」
 
もちろん・・・言い返す言葉も感想も何も浮かんでこない。
ただ、蒼輝の言葉を聞いているだけ。
そんな私に蒼輝は、「だから、わかりやすいんだよ。」と笑いながらいうと、さらにこういう。
 
「今、あの扉を開けて、ここが翠の安全な場所であるなら、俺は黒髪に戻っていたはずなんだ。
だけど、俺はまだ戻らない。
つまり、ここは翠にとって、安全な場所じゃないという事だ。
俺がこの姿で翠を守るのか、豹に変身しなきゃいけないくらい窮地に立たされるかは、まだわからないけど、俺が翠を守る必要があるという事には変わらない。
まっ、こんな言い方したら、また翠を不安がらせてしまうかな?」
 
なんていって蒼輝は優しく笑う。
でも、蒼輝が言った事が本当だとしたら・・・。
 
「ここに居る人たちは、『敵』なの?」
 
すごく深刻な顔をして彼に聞いたのに、蒼輝ったら、「う〜ん・・・どうだろうな。」なんてノンキに答えるんだもん。
張り詰めていた糸が、少し緩んじゃったよ。
 
「ねぇー、ねぇー。ヒビキに、扉が開けれた事って、僕が念じる方がいいのぉ〜?
それとも、そぉーきが、念じるぅ〜?」
 
完璧、連絡係になってしまったトーワくんは、体を揺らしながら蒼輝に聞く。
それには、蒼輝は、「トーワが、伝えて。」とそれだけ口にした。
「はぁーい!!」と笑顔で答えたトーワくんは、またブツブツと言い始めた。
 
「お前、豹になれるんだろ?
だったら、今のトーワと変わんねぇーじゃんか。
自分で、ヒビキに話してやればいいだろ?
お前ら、そんなに仲が悪いのかよ。」
 
と、なかば呆れるサンガだけど、「それは、無理だよ。」と私が答える。
「えっ?何で?」と私に聞くサンガに、
 
「だって、蒼輝は豹の姿になっていないから。」
 
と答えた。
ヒビキさんと心での会話が出来るのは、豹の姿にならないとできない。
私も本来なら、豹の姿にならないといけないんだろうけど・・・私は、このままでも大丈夫なんだ。
なぜかは、わからないけどね。
でも、今は、私はヒビキさんと心での会話はできない。
なぜなら、豹の命である『緑の力』を蒼輝に与えたから。
今の私は、ランさんや、サンガと一緒の、ただの混血人間に過ぎない。
ヒビキさんの、心での会話の特性を思い出したサンガは、「あっ!そうか。」と納得する。
 
「ねぇー、そおーきぃー!!
ヒビキが、秘密にしろだってぇ〜。」
 
それにはもちろん、「何を?」と声を合わせて私とサンガは言っちゃう。
だけど、言われた蒼輝は、「わかった。」と答える。
 
「おいっ!何を秘密なんだよ。」
 
とサンガがたまらず蒼輝にそう聞いた。
その時、蒼輝が、「トーワもこっちこい。」と呼ぶと、全員の顔を順番にみつめながら言った。
 
「とりあえず、今からこの国を歩き回るぞ。
それで、もしはぐれたら、ここに戻ってこよう。いいな。」
 
私もサンガもトーワくんも、うなずく。
それを見た蒼輝はさらに続ける。
 
「それでだ、絶対に守ってほしいのが、俺が豹の姿を失ってしまい、この姿が一時的だって事は絶対に言わない事。
それから、翠の素性も絶対に明かすな。
コイツは、緑豹国の王である俺の婚約者。
何を聞かれても、それ以外は絶対に答えるな。
翠・・・お前もいいな。」
 
私は、「うん。」と言ってうなずいた。
 
「それと・・・サンガ。」
 
蒼輝はそういうとサンガを見る。
「ん?」と返事をするサンガに、「お前に頼みがある。」と口にすると、いつになく真剣な口調で蒼輝は話した。
 
「翠の側に俺が居てやれればいいんだけど、ここの王と逢う事になったりして、翠から離れなきゃいけなくなる時が出てくると思う。
翠は、今はただの混血人間だ。
強く念じて願いが叶う力も今は使えないし、ヒビキとも心で話ができないから、翠の気持ちをヒビキがなだめてくれる事も不可能だ。
だから、サンガ・・・お前だけが頼りだ。
翠を、精神的にも守ってやってくれな。」
 
「お前に言われなくてもわかってる。」
 
と偉そうにいうサンガに、「それから・・・。」と口にすると、
 
「トーワもうまくお前がコントロールしてくれ。
ヒビキの指示が居る時は、トーワが通信機になってくれるから。」
 
なんて言って・・・最後は笑ってたし。
あまり、素直に蒼輝がお願いをするものだから、サンガも照れちゃったみたいで、
 
「わかったわかった。
ほら、さっさといくぞ!」
 
なんて言って、さっさと先を歩き始めた。
 
「ちょっと、サンガ!」
 
と叫んでみるけど、「なー、翠。」という蒼輝の言葉に私は、サンガから蒼輝に目を移す。
 
「さっき、サンガに言った通りだ。
俺から離れても、サンガがお前を全力で守ってくれるから。
やむおえず、俺から離れても・・・。」
 
そこまで聞いて私も「わかってる。」と答える。
 
「弱気にならないから。
向こうに帰ろうなんて思わないから。
今度こそ、絶対にチームワークを乱さないようにする!
私だって、この世界で今生きてるんだから。」
 
力強くいう私に蒼輝は、私の頭をポンポンと優しく叩く。
 
「ホント・・・強くなったな。」
 
なんて言って、優しく笑う。その時、
 
「緑豹国の王・・・蒼輝さまでいらっしゃいますか?」
 
と声がした。
私も蒼輝もその声の方に振り返る。
私は、その人の姿を見て、「あっ!」って言っちゃった。
私の叫びに、先を歩いていたサンガとトーワくんが、こっちに振り返り、見知らぬ人が私たちの前にいる事を知って、慌てて引き返してきた。
 
「もしかして、翠が夢に見た『城の前に立っていた男と女』ってやつの・・・コイツは、その男の方か?」
 
私の反応で、ピンと来た蒼輝は、私の耳元でそうささやいた。
私は、黙ってうなずいた。
でも・・・何か、感じが違うような・・・。
その違いは、その人が目の前まで近付いてきて気付いた。
この人・・・。
 
「あんた・・・何者だ。」
 
蒼輝は、少し乱暴な口調でそういった。
 
「申し遅れました。
私は、この青鳥国(セイチョウコク)を抑えておられる、藍瑠(アイル)王女の側近の、雅(ミヤビ)と申します。
藍瑠(アイル)さまが、王座でお待ちしております。
どうか、私についてきて下さい。」
 
彼はそう言って一礼すると、振り返る。
そして、こっちに戻ってきたサンガとぶつかりそうになったけど、サンガをうまくよけて、少し歩き出した。
そんな雅(ミヤビ)さんに向かって、蒼輝は「ちょっと、待てよ!」と声をかける。
蒼輝の声に、足を止めた雅(ミヤビ)さんは、こちらに振り返る。
 
「どうか・・・されましたか?」
 
すると、蒼輝は「なんで、サンガとぶつからなかった?」と口にした。
「はい?」と答える雅(ミヤビ)さんに、さらにこういう。
 
「あんた、目が見えないんだろ?
なのに、どうして、あんなに接近していたサンガを、簡単によけれたんだ。」
 
そうなんだよねぇー。
私が夢に見た時の彼は、確かに目を開けていた。
そして、髪もヒビキさんほどは長髪ではなかったけど、少し長めの髪をしていたの。
だけど、目の前にいる彼は、頭にはターバンを巻いていて髪が全く見えないし、目も閉じたまま。
背格好や目鼻立ちも、夢に見た人と一緒だから、同一人物だと思うのよ。
だけど・・・違う。
サンガが仲間になり、BLUE LANDにも無事来れた。
そして、このBLUE LANDの景色も・・・夢と全く一緒なんだよ。
ここは、地底も地底で、奥深い土の中だというのに、まるで太陽の光を浴びているように、明るくて、地上かと思ってしまうくらい。
そして、水もたっぷりあるし、とても綺麗な街だ。
人々が田畑で食物を作っていて、わきあいあいとしてる。
町並みは、緑豹国と似てる。
今まで、夢に忠実だったのに、ここにきて、少し違ってる。
これは・・・たまたまなの?
それとも、何か訳があるのかな?
 
すると、雅(ミヤビ)さんは、「お話するのを、忘れておりました。」と軽い口ぶりでいうと、蒼輝の方に向き直る。
 
「私の目が悪いのは生まれつきです。
この18年間、光を見た事がありません。
ですから、目が見えない不自由は、他の神経がそれを補ってくれる。
物にぶつからずに、歩く事など私には、普通の事です。
そして、周りの空気のちょっとした流れの変化で、そこに誰がいるかというのもわかります。
あなたたちを取り巻く空気は、今までBLUE LANDで感じる事が無かった空気。
だから、わかったのです。
『外部から来た人物』だと。
そして、この扉を開けて、こちらに入ってこられるのは、初代王『蒼(アオイ)さま』と同じ瞳を持つ『蒼輝さま』だと、これに記されておりましたから。」
 
そういって雅さんは、手に持っていた1冊の書物を私たちに向けて見せた。
 
「それっ!」
 
と言葉を失う私に、
 
「俺たちも、それと同じ物を持ってる。」
 
と蒼輝が冷静な口調で答えた。
雅さんが持っていた書物は、私の世界にもあり、緑豹国にもあった『あの書物』とおんなじものだった。
という事は・・・。
あの本でみんなつながってるという事?
そしたら、このBLUE LANDの人たちも味方?
私が少しほっとした時、蒼輝が雅さんに、さらなる指摘をする。
 
「目の事はわかったよ。
じゃあ、その髪に巻いてるターバンは?
普通、初対面の人に逢う時は、帽子なども取るのが礼儀だ。
まして、俺が緑豹国の王だと知っていて敬(ウヤマ)ってくれているなら、取るのが礼儀じゃないのか?」
 
丁寧な口調だけど、言ってる事は、鋭くて・・・キツイよね。
初対面で、はっきり言って敵かも味方かもわからない人に向かって、そこまで言い切れる蒼輝が、心底すごい。というか、恐いもの知らずだなぁ〜。と見とれてしまった私。
一方、言われた雅さんは、「申し訳ありません。」と言って頭を下げる。
 
「本来なら、蒼輝さまの言われるように、取るべきだと思いますが、幼い頃に生死をさまようほどの大怪我をして、その時の傷があまりに生々しいので、これを身につけております。
人前では、取った事がないので、なにとぞ、お許し下さいませ。」
 
さらに、頭をさげる雅さんが、とてもかわいそうに思えた私。
 
「それでも、いいから、取ってくれないか?」
 
と迫る蒼輝の腕を、私はつかんで、「もういいじゃない。」と言ってしまう。
「翠は、黙ってろ。」という蒼輝に、「いい加減にしろよ!」と怒ったのはサンガ。
 
「俺たちには、時間がないんだ。
こんな所で、立ち止まっている暇はないんだよ。」
 
って言って、サンガは雅さんを見る。
 
「気分を悪くさせてしまって、申し訳ない。
コイツ・・・わりと、礼儀にはうるさくてね。
気にしないで下さい。」
 
とサンガはうまく空気をなごませ、
 
「その・・・王女さまでしたか?
その方に、逢わせてもらえますか?」
 
と話を進める。
それには、雅さんもニッコリ笑うと、「ええ。こちらへ。」とまた歩き出した。
その後ろを、トーワくんがトテトテとついていく。
さらに、サンガも歩き出そうとしたけど、「おい。」という蒼輝の言葉で足を止める。
 
「なんだよ。まだ、からんでくるのか?」
 
と呆れながら振り返るサンガに、蒼輝は深刻な顔をする。
てっきり、いつのも蒼輝で、くだらない文句をタラタラというのかと思っていたサンガは、もちろん拍子抜け。
さらには、「おいっ!どうしたんだよ。」なんて自ら聞いちゃう始末。
 
「ちょっと・・・あの男・・・。
雅(ミヤビ)っていったよな?アイツが気になる。」
 
蒼輝のその言葉に、「どこが?いいやつそうじゃん。」なんて答えて、「蒼輝は、気にし過ぎなんだよ。」と言って明るく笑うサンガ。
それでも、蒼輝は・・・深刻な顔が解けない。
私も、そんな蒼輝が気になって彼の顔をのぞく。
 
「何が、気になるの?」
 
すると、蒼輝は、「夢と違うだろ?」と口にして私を見る。
それには、もちろん驚いてしまう。
 
「なんで・・・違うってわかったの?」
 
だって、私1言もそんな事、口にしてないんだから。
だけど、蒼輝は、平然と答える。
 
「夢の話をした時、翠はアイツが目が見えないことや、ターバンをまいてる事なんて、1言も言わなかった。
そんなすぐに目につくというか、特徴である事柄を口にしないなんて、おかしいだろ?
つまり、夢のアイツは、目を開け、ターバンなんて、まいてなかったって事だ。」
 
そういいきる蒼輝に、「そうなのか?」とサンガが私に聞いてくる。
私の「うん。」という返事を聞いたサンガは、「じゃあ、これはどういう事なんだ?」と蒼輝に聞く。
蒼輝は、「わかんねぇー。」と首を振りながら答える。
 
「とりあえず、アイツのいう通りについていこう。
ただ、油断だけは、するな。
それから、落ち着いたら、この事を全てヒビキに伝えろ。
きっと、アイツも不審に思うはずだからな。
ヒビキの指示通りに、お前たちは動け。」
 
蒼輝はそういうと、立ち止まっている私の背中に、優しくポンと触れる。
「ん?」と聞く私に、蒼輝は優しく微笑むと、
 
「翠が見た、もう一人の人物。
藍瑠(アイル)王女って人に逢いに行こう!」
 
私は、笑って答え、蒼輝とサンガとともに、かなり先を歩いているトーワくんと雅さんに追いつくため、少し早足で先を急いだ。
 
 
15分くらい歩いたら、目の前に小さな橋があった。
それを渡ると、見渡す限り・・・壁、壁・・・壁・・・。
城というよりは、遺跡みたいな感じ。
見上げるだけでも、首が痛くなるくらいの大きな建物が、幾つも幾つも重なって組み込まれて建っている感じ。
建物と建物との、わずかな隙間からは、行き場を失った風が物凄い勢いで通り抜けているので、吹き飛ばされそうになる。
真っ白い建物が、年月を越し、少し茶色がかっている。
それがまた、心を和ませてしまう心地よさをかもし出していた。
雅さんは、どんどん建物の中に入っていく。
中に入れば入るほど・・・私たちは言葉を失う。
だって・・・。
 
「まるで、迷路だな。」
 
と言ったのは、蒼輝。
ホントそうなのよ。
緑豹国の城とは、雲泥の差。
もうすでに私なんて・・・どっから、この城に入ってきたかすらも、さっぱりわかんないんだから。
 
「私・・・みんなとはぐれたら、この城から一生出れない気がするよ。」
 
と弱気になるけど、蒼輝は「大丈夫だって。」と笑いながら、私の手をつないでくれる。
 
「サンガが、道を覚えているはずだから。」
 
そういって、「なっ!」とサンガを見る。
それには、もちろんサンガは、ため息を吐く。
 
「翠には、かっこいい事言って・・・俺に頼るなよ。」
 
なんて言ってるけど、否定しないところを見ると、本当に覚えているみたい。
素直にすごいと思ってしまった私。
その時、前方を歩いていた雅さんが、大きな扉の前で立ち止まり、こちらに振り返った。
 
「この奥が、王座となります。どうぞ。」
 
そういって、雅さんは扉を開けた。
大きな部屋に、とても綺麗な家具が置かれている。
下に敷かれているじゅうたんだって、とても高価なものだと見ればわかった。
そこを、蒼輝は私の手を引きながら、進んでいく。
そして、中央にある20段はありそうな階段の前で蒼輝は立ち止まると、片膝をついてしゃがむ。
それに、みならって、サンガも同じようにした。
トーワくんは、豹の姿のまま。
なぜ、人間の姿に戻らないかって?
だって、トーワくんの姿を通して、ヒビキさんが、玉で私たちの様子を見てて、必要な時は、ヒビキさんからトーワくんに声がくるはずだから、トーワくんは豹の姿でないといけないの。
3人がしゃがむ中、私は、どうしていいかわからずに、とりあえず蒼輝の側で、しゃがんでみた。
それを見ていた、階段の奥に座っていた人が、席から立つと、階段をユックリと降りてくる。
足音が、だんだんと近付いてきたから。
蒼輝の目の前まできた彼女は、声をかける。
 
「蒼輝王に、緑豹国の人たちよ。
顔をお上げ下さい。」
 
その声に、私たちは顔を上げる。
そこには、私の夢で見た通りの美しい女性が立っていた。
着ている服もとても綺麗。
パーティーで着れそうなくらい華やかでいて、品がある衣装。
顔もすごく綺麗で、まるで女優さんなみ。
そして、声も透き通るように優しくて綺麗な声。
物言いも、すごく優しくて、包み込むような心地よさを感じさせる口調。
そんな彼女の中でも、一番目に止まるのが、胸まである髪。
緩いウエーブがかかってて、それが、余計に彼女に、いいようもないくらいの品を与えていた。
そして、もちろんその髪の色は・・・。
 
「やっぱり、『青鳥国(セイチョウコク)』ってだけあって、王女は青い髪だな。」
 
とサンガが私の耳元でささやく。
そうなんだー。
目の前にいる王女の髪は、青い髪。
つまり、彼女がここの王であるのには、間違いなさそう。
さっきの雅さんがもしかしたら、王なのかも!って一瞬思ったけど・・・やっぱり、それは単なる思い過ごしで、この目の前にいる女性が、青鳥国(セイチョウコク)の王なんだと、知らされた。
 
「申し遅れましたが、わたくしは、青鳥国(セイチョウコク)の王女、藍瑠(アイル)と申します。
蒼輝王よ。来られてすぐで、申し訳ありませんが、あなたに大事なお話があります。
こちらへ、来ていただけますか?」
 
藍瑠(アイル)さんはそういうと、蒼輝に奥の部屋を指差し、自分はさっさと奥へと進んでいく。
それを感じた雅さんは、
 
「他の方々は、休んでいただく、お部屋へ案内させていただきます。
この国の事も、お話しなければ、いけませんし。」
 
といって、藍瑠(アイル)さんが行った方向とは、全く違う方角に歩き出す。
 
「蒼輝・・・どうするの?」
 
って、隣に居る蒼輝に聞いてみるけど・・・。
 
「そう・・・き?」
 
彼の顔をのぞきこんで聞いてみる。
でも・・・蒼輝は真正面を向いたまま、まるで放心状態になってる。
 
「どうしたの?」
 
って、彼の腕を握って聞いてみるけど・・・全く反応を見せない。
それには、サンガも驚いて、「おい!」と蒼輝を思いっきり自分の方に引っ張る。
その力強さに、蒼輝は気付き、「あ・・・ごめん。」と口にする。
だけど、蒼輝の顔を見ればわかる。
すっごい・・・動揺してる。
一体、どうしたっていうの?
 
「何か・・・あった?」
 
と少し優しい口調で蒼輝に語りかけた私を、蒼輝は力強く抱きしめる。
私の背中に触れている両腕に力を入れて、顔も私の頭部にくっつける蒼輝。
私たちはこれ以上ないくらいに密着した。
本当は、どうしたのか聞きたかった。
だけど、くっついている蒼輝の胸から、信じられないくらい速い鼓動が聞こえたり。
背中から聞こえる彼の息遣いが、まるで驚きと戸惑いを、抑えるために自分をコントロールしているような、葛藤が見え隠れるするのを感じたり。
私を抱きしめている手が、小刻みに震えているのを感じていると・・・何もいえなくなってしまった。
私を抱きしめる事で、彼の気持ちが落ちつくなら・・・今は、彼がしたいようにさせてあげようと思った。
私も彼の背中に腕を回し、彼を抱きしめる。
どれくらいそうしていただろう。
藍瑠(アイル)さんは、とっくに消えてしまったけど、雅さんはその場で待っててくれた。
しばらくして、蒼輝の呼吸の乱れがおさまりだした頃、蒼輝はゆっくりと私から体を離した。
私を見つめた蒼輝の顔は、いつもの蒼輝に戻っていた。
 
「もう・・・平気?」
 
と聞く私に蒼輝は、「心配かけたな。」っていうと、私の頬にまた軽いキスをくれる。
 
「それじゃあ、俺は姫さんの所に行って話を聞いてくる。
翠たちは、雅についていけ。
俺も、後で、お前たちのいる部屋に行くから。」
 
蒼輝はそういうとサンガに「頼んだぞ。」と告げ、藍瑠(アイル)さんが消えていった方へと走っていった。
 
「それでは、私たちも行きましょうか。」
 
雅さんはそういい、また歩き始めた。
雅さんが前を歩き、トーワくんと私とサンガの3人は、すこし雅さんから離れて固まって歩いていた。
 
「翠。さっきの蒼輝・・・変じゃなかったか?」
 
サンガに言われて私は、「うん。」と答えるけど、結局理由がわからないだけに、それ以上は何もいえなかった。
 
「一体・・・どうしたんだろうな。」
 
とさらにいうサンガに、今まで黙っていたトーワくんが口を開く。
 
「そぉーきが、驚くのも無理ないよぉー。」
 
それには、私もサンガも「えっ?」といって、トーワくんを見る。
 
「驚くって・・・何に?」
 
と私とサンガの声が重なる。
すると、トーワくんは歩いていた足を止めて、すごく言いにくそうに言った。
 
「あのお姫さまねぇー・・・。そっくりなんだよ。」
 
って。
そっくりって・・・。
私の胸が、ズキーンと痛んだ。
まさか・・・。
聞きたいけど、ある人物の名前を口にする事を躊躇してしまう私。
その横で、何もわからないサンガは、暴走しちゃう。
 
「そっくりって、誰に?」
 
って。
それには、もちろんトーワくんは答えちゃった。
 
「チナリィー!」
 
やっぱり・・・。
それが、最初にでた私の心の声だった。
その事実は、なぜか私の胸にズドーンと来た。
どうして、こんなにショックを受けているのか。
私にはわからなかった。
だけど、胸の奥で、何かがひっかかって、それがザワザワとうごめくの。
それが、一体なんなのか?
意外にもそれをわからせてくれたのは・・・サンガだった。
 
「でもさー、トーワ!
死んだ妹とそっくりな人を見ただけで、あんなに驚くか普通。
そのチナリと、蒼輝って、実は恋人同士だったんじゃないのか?」
 
きっとサンガは、冗談のつもりでいったのかもしれない。
深刻になっている私を笑わせるために。
だけど、それは裏目にでちゃった。
 
 



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